JP5402543B2 - すぐれた耐欠損性および耐摩耗性を発揮するダイヤモンド被覆工具 - Google Patents

すぐれた耐欠損性および耐摩耗性を発揮するダイヤモンド被覆工具 Download PDF

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Description

この発明は、炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットからなる工具基体にダイヤモンド皮膜を被覆したダイヤモンド被覆工具に関し、特に、金属材料よりも比強度、比剛性の高いCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics。炭素繊維強化プラスチック)あるいは溶着性の高いAl合金等の高送り、高切込みの切削加工に際し、長期の使用に亘って、すぐれた耐欠損性および耐摩耗性を発揮するダイヤモンド被覆工具に関するものである。
従来、炭化タングステン基(WC基)超硬合金または炭窒化チタン基(TiCN基)サーメットなどの工具基体に、ダイヤモンド皮膜を被覆したダイヤモンド被覆工具が知られており、
例えば、工具基体表面に、ダイヤモンドの結晶成長の起点となる核付着工程およびダイヤモンドを結晶成長させる結晶成長工程とを繰り返し行うことにより、結晶粒径が微細なダイヤモンド皮膜を被覆したダイヤモンド被覆工具が知られており、この被覆工具を用いたAl合金の切削加工で、すぐれた面精度を得られることが知られている。
特開2002−79406号公報
近年の切削加工装置のFA化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴って、切削条件はますます厳しいものとなってきている。上記の従来被覆工具は、これを通常条件での切削加工に用いた場合には特段の問題は生じないが、これを、一般の金属材料に比して、比強度、比剛性にすぐれるCFRPの切削加工、軟質で溶着性の高いAl合金等の切削加工に用いた場合には、CFRPは炭素繊維とエポキシ系樹脂の複合材であるため工具摩耗が激しく、また、Al合金等は、切削時の切刃への溶着、欠損を生じやすく、工具寿命が短命となるという問題点があった。
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、特に難削材であるCFRPあるいは溶着性の高いAl合金等の切削加工において、長期の使用に亘って、すぐれた耐欠損性、耐摩耗性を発揮するダイヤモンド被覆工具を開発すべく鋭意研究を行った結果、以下の知見を得た。
即ち、図1は、本発明のダイヤモンド被覆工具の側断面の概略図を示すが、図1において、WC基超硬合金またはTiCN基サーメットで構成された工具基体表面に、粗粒結晶層と非晶質層の交互積層からなる下部ダイヤモンド皮膜と、細粒結晶層と非晶質層の交互積層からなる上部ダイヤモンド皮膜とを構成し、該下部ダイヤモンド皮膜上方側(上部ダイヤモンド皮膜側)の粗粒結晶層の膜厚を、下部ダイヤモンド皮膜下方側(工具基体側)の粗粒結晶層の膜厚より薄膜に形成し、また、上部ダイヤモンド皮膜表面側の細粒結晶層の膜厚を、上部ダイヤモンド皮膜下方側(下部ダイヤモンド皮膜側)の細粒結晶層の膜厚より薄膜に形成すると、このようなダイヤモンド皮膜を被覆したダイヤモンド被覆工具は、すぐれた耐欠損性、耐摩耗性を備え、長期の使用に亘って、すぐれた切削性能を示すことを見出したのである。
この発明は、上記知見に基づいてなされたものであって、
「 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体表面に、膜厚1.5〜30μmの下部ダイヤモンド皮膜と、膜厚1.5〜10μmの上部ダイヤモンド皮膜が被覆されたダイヤモンド被覆工具であって、
(a)上記の下部ダイヤモンド皮膜は、500〜3000nmの一層平均膜厚を有し100nm以上800nm以下の平均粒径の粗粒結晶で構成された粗粒結晶層と、50〜300nmの一層平均膜厚を有する含非晶質炭素で構成された非晶質層との交互積層構造からなり、
(b)上記の上部ダイヤモンド皮膜は、650〜1000nmの一層平均膜厚を有し40nm以上100nm未満の平均粒径の細粒結晶で構成された細粒結晶層と、50〜300nmの一層平均膜厚を有する含非晶質炭素で構成された非晶質層との交互積層構造からなり、
(c)さらに、上記の下部ダイヤモンド皮膜において、下部ダイヤモンド皮膜上方側(上部ダイヤモンド皮膜側)の粗粒結晶層の膜厚は、下部ダイヤモンド皮膜下方側(工具基体側)の粗粒結晶層の膜厚より薄膜として形成され、また、上記の上部ダイヤモンド皮膜において、上部ダイヤモンド皮膜表面側の細粒結晶層の膜厚は、上部ダイヤモンド皮膜下方側(下部ダイヤモンド皮膜側)の細粒結晶層の膜厚より薄膜として形成されている、
ことを特徴とするダイヤモンド被覆工具。」
に特徴を有するものである。
つぎに、この発明のダイヤモンド被覆工具の被覆層について、詳細に説明する。
本発明の下部ダイヤモンド皮膜を構成する粗粒結晶層と非晶質層、上部ダイヤモンド皮膜を構成する細粒結晶層と非晶質層は、いずれも、例えば、通常の熱フィラメント法を用いた化学蒸着によって形成することができる。
粗粒結晶層:
例えば、工具基体表面直上に、以下の条件の熱フィラメント法により、粗粒結晶層を蒸着形成することができる。
成膜圧力 : 2×10−2〜9×10−2 Pa、
流量 : 2000〜4000 mln、
CH流量 : 20〜50 mln、
フィラメント電流値 : 150〜200 A、
成膜温度 : 600〜900 ℃、
上記条件で形成された粗粒結晶層は、柱状結晶を有し、平均粒径100nm以上800nm以下の粗粒結晶層として形成される。
なお、この発明でいう平均粒径とは、各層の層厚の中心部分における結晶粒径を透過型電子顕微鏡にて測定し、その平均値を各層の平均粒径であると定義する。
粗粒結晶層は、主として、切削加工時の耐摩耗性の確保に寄与するが、粗粒結晶層の一層膜厚が500nm未満では、上記所望の効果が得られず、一方、一層膜厚が3000nmを超えると、皮膜表面粗さの増大に伴うチッピング(微小欠け)が発生し易くなることから、粗粒結晶層の一層平均膜厚は500〜3000nmであることが必要である。
非晶質層:
工具基体表面直上に形成された粗粒結晶層のうえに、含非晶質炭素からなる非晶質層を同じく以下の条件の熱フィラメント法により形成する。
成膜圧力 : 2×10−2〜9×10−2 Pa、
流量 : 2000〜4000 mln、
CH流量 : 80〜150 mln、
フィラメント電流値 : 150〜200 A、
成膜温度 : 600〜900 ℃、
上記条件で形成された非晶質層について、透過型電子顕微鏡により観察したところ、ハローパターンを示すことから該層中には非晶質構造の炭素の存在することが確認される。
上記非晶質層は、交互積層構造を形成する粗粒結晶層の結晶粒粗大化を抑制(分断)するとともに、両層界面近傍での応力分散効率が高くなり、両層間での密着性が向上するが、この非晶質層の膜厚が50nm未満では核生成密度の向上が少なく、また、密着性向上効果を期待できず、一方、非晶質層の膜厚が300nmを超えると、ダイヤモンド皮膜の硬度低下が生じるようになるため、非晶質層の膜厚は50〜300nmとすることが必要である。
下部ダイヤモンド皮膜:
上記の粗粒結晶層と非晶質層を交互に形成することにより、交互積層構造からなる下部ダイヤモンド皮膜を形成することができる。
しかし、交互積層構造からなる下部ダイヤモンド皮膜においては、成膜が進行し積層数が増加するにつれ、粗粒結晶層の結晶粒が粗大化しやすくなり、皮膜表面の粗さが大になり、耐欠損性を低下させることになる。
そこで、この発明では、交互積層構造からなる下部ダイヤモンド皮膜の形成に際し、粗粒結晶層の膜厚を、成膜の進行による積層数の増加に対応して薄膜化するように膜厚調整をしながら成膜を行い、交互積層に伴う粗粒結晶層の結晶粒粗大化を抑制する。
粗粒結晶層の膜厚は、下部ダイヤモンド皮膜下方側の工具基体表面直上では、1000〜3000nmであり、下部ダイヤモンド皮膜下方側から上方側へ向うにしたがって、膜厚が順次に薄膜化されてゆき、下部ダイヤモンド皮膜最上方側(上部ダイヤモンド皮膜直下)では、500〜1500nmであることが望ましい。
下部ダイヤモンド皮膜は、上記の交互積層構造及び粗粒結晶層の膜厚調整によって、結晶粒粗大化を防止しつつ所定の膜厚を確保できることから、すぐれた耐摩耗性を備えるとともに、下部ダイヤモンド皮膜の表面粗さを所望値以下に抑えることができる。
ただ、下部ダイヤモンド皮膜の膜厚が1.5μm未満では、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮することができず、一方、下部ダイヤモンド皮膜の膜厚が30μmを超えるような場合には、表面粗さが大きくなり、耐欠損性が低下することから、下部ダイヤモンド皮膜の膜厚は1.5〜30μmとする。
細粒結晶層:
下部ダイヤモンド皮膜表面に、例えば、以下の条件の熱フィラメント法により細粒結晶層を形成する。
成膜圧力 : 2×10−2〜9×10−2 Pa、
流量 : 2000〜4000 mln、
CH流量 : 70〜150 mln、
流量 : 20〜40 mln、
フィラメント電流値 : 150〜200 A、
成膜温度 : 600〜900 ℃、
即ち、この細粒結晶層は、非晶質層Aの成膜条件に比し、20〜40mlnのOを装置内に導入することによって、平均粒径40nm以上100nm未満の細粒結晶層を形成することができる。
細粒結晶層は、ダイヤモンド皮膜表面の平坦性向上に寄与し、特に切削加工時における耐欠損性を向上させる。
ただ、細流結晶層の一層膜厚が650nm未満では、皮膜耐摩耗性が維持されず上記所望の効果が得られず、一方、一層膜厚が1000nmを超えると、結晶粒が粗大化しやすくなりダイヤモンド皮膜表面の平坦性が低下するようになることから、細流結晶層の一層膜厚は、650〜1000nmとする必要がある。
非晶質層:
上記細粒結晶層のうえに、含非晶質炭素からなる非晶質層を前記と同様の以下の条件の熱フィラメント法により形成する。
成膜圧力 : 2×10−2〜9×10−2 Pa、
流量 : 2000〜4000 mln、
CH流量 : 80〜150 mln、
フィラメント電流値 : 150〜200 A、
成膜温度 : 600〜900 ℃、
上記条件で形成された非晶質層について、透過型電子顕微鏡により観察したところ、前記と同様なハローパターンを示すことから該層中には非晶質構造の炭素の存在することが確認される。
上記非晶質層は、交互積層構造を形成する細粒結晶層との密着性が高く、細粒結晶層の粗大化を防止するが、この非晶質層の膜厚が50nm未満では細粒結晶層の粗大化抑制効果が少なく、一方、非晶質層の膜厚が300nmを超えると、ダイヤモンド皮膜の硬度低下が生じるようになるため、非晶質層の膜厚は50〜300nmとすることが必要である。
上部ダイヤモンド皮膜:
上記の細粒結晶層と非晶質層を交互に形成することにより、交互積層構造からなる上部ダイヤモンド皮膜を形成する。
交互積層構造からなる上部ダイヤモンド皮膜においては、下部ダイヤモンド皮膜の場合と同様、成膜が進行し積層数が増加するにつれ、細粒結晶層の結晶粒が成長・粗大化しやすくなるため、これを防止するため、細粒結晶層の膜厚を、成膜の進行による積層数の増加に対応して薄膜化するように膜厚調整をしながら成膜を行い、交互積層に伴う細粒結晶層の成長・粗大化を防止する。
細粒結晶層の膜厚は、上部ダイヤモンド皮膜最下方側(下部ダイヤモンド皮膜直上)では、750〜1000nmであり、上部ダイヤモンド皮膜下方側から上方側へ向うにしたがって、膜厚が順次に薄膜化されてゆき、上部ダイヤモンド皮膜最上方側のダイヤモンド皮膜表面では、650〜800nmであることが望ましい。
その結果、上部ダイヤモンド皮膜は、結晶粒の成長・粗大化が抑えられ、平滑平面が得られるようになることからすぐれた耐欠損性を備えるようになる。
さらに、上部ダイヤモンド皮膜の表面近傍は、薄層の交互積層として構成されていることから、亀裂の進行・伝播が抑制され、過負荷によるチッピング発生を防止することができる
ただ、上部ダイヤモンド皮膜の膜厚が1.5μm未満では、十分な耐欠損性、耐チッピング性を長期の使用に亘って発揮することができず、一方、上部ダイヤモンド皮膜の膜厚が10μmを超えるような場合には、耐摩耗性が低下傾向を示すようになることから、上部ダイヤモンド皮膜の膜厚は1.5〜10μmとする。
この発明のダイヤモンド被覆工具は、粗粒結晶層と非晶質層の交互積層からなる下部ダイヤモンド皮膜と、細粒結晶層と非晶質層の交互積層からなる上部ダイヤモンド皮膜が被覆され、下部ダイヤモンド皮膜上方側の粗粒結晶層の膜厚は、下部ダイヤモンド皮膜下方側の粗粒結晶層の膜厚より薄膜として形成され、また、上部ダイヤモンド皮膜表面側の細粒結晶層の膜厚は、上部ダイヤモンド皮膜下方側の細粒結晶層の膜厚より薄膜として形成されていることによって、下部ダイヤモンド皮膜は結晶粒の粗大化を招くことなく優れた耐摩耗性を保持し、また、上部ダイヤモンド皮膜はその表面平滑性よって優れた耐欠損性、耐チッピング性を示すため、このようなダイヤモンド皮膜を被覆したダイヤモンド被覆工具は、比強度、非剛性の高いCFRPあるいは溶着性の高いAl合金等の高送り、高切込みの切削加工において、長期の使用に亘って、すぐれた切削性能を発揮するものである。
本発明のダイヤモンド被覆工具の層構造(側断面)を示す概略説明図である。
つぎに、この発明のダイヤモンド被覆工具を実施例により具体的に説明する。
ここでは、ダイヤモンド被覆工具を、エンドミル、ドリルに適用した場合について述べるが、本発明はこれに限定されるものではなく、各種の切削工具に適用することが可能である。
原料粉末として、平均粒径:5.5μmを有する中粗粒WC粉末、同0.8μmの微粒WC粉末、同1.3μmのTaC粉末、同1.2μmのNbC粉末、同1.2μmのZrC粉末、同2.3μmのCr粉末、同1.5μmのVC粉末、および同1.8μmのCo粉末を用意し、これら原料粉末をそれぞれ表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、100MPaの圧力で所定形状の各種の圧粉体にプレス成形し、これらの圧粉体を、6Paの真空雰囲気中、7℃/分の昇温速度で1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に昇温し、この温度に1時間保持後、炉冷の条件で焼結して、直径が13mmの工具基体形成用丸棒焼結体を形成し、さらに前記の丸棒焼結体から、研削加工にて、切刃部の直径×長さが10mm×30mmの寸法、並びにねじれ角10度の4枚刃スクエア形状をもったWC基超硬合金製の工具基体(エンドミル)C−1〜C−8をそれぞれ製造した。
ついで、これらの工具基体(エンドミル)C−1〜C−8の表面をアセトン中で超音波洗浄し、乾燥した後、酸溶液によるエッチングおよび/またはアルカリ溶液によるエッチング処理を行なった後、
(a)まず、
成膜圧力: 5×10−2 Pa、
流量: 3000 mln、
CH流量: 40 mln、
フィラメント電流値: 180 A、
成膜温度: 700 ℃
の条件で、平均粒径100nm以上800nm以下の粗粒結晶層を形成し、
(b)ついで、成膜条件を変更し、上記粗粒結晶層の表面に、
成膜圧力: 5×10−2 Pa、
流量: 3000 mln、
CH流量: 100 mln、
フィラメント電流値: 180 A、
成膜温度: 680 ℃
の条件で、非晶質層を形成し、
(c)ついで、上記(a)、(b)の条件で、粗粒結晶層、非晶質層の成膜を、膜厚調整(成膜時間の調整)を行いつつ所定回数繰り返し行うことにより、粗粒結晶層と非晶質層の交互積層構造からなる下部ダイヤモンド皮膜を形成し、
(d)ついで、
成膜圧力 : 5×10−2 Pa、
流量 : 3000 mln、
CH流量 : 100 mln、
流量 : 30 mln、
フィラメント電流値 : 180 A、
成膜温度 : 650 ℃、
の条件で、平均粒径40nm以上100nm未満の細粒結晶層を形成し、
(e)ついで、上記(b)と同様の成膜条件で非晶質層を形成し、
(f)上記(d)、(e)の条件で、細粒結晶層、非晶質層の成膜を、膜厚調整(成膜時間の調整)を行いつつ所定回数繰り返し行うことにより、細粒結晶層と非晶質層の交互積層構造からなる上部ダイヤモンド皮膜を形成することにより、
表2にそれぞれ示される下部ダイヤモンド皮膜、上部ダイヤモンド皮膜からなるダイヤモンド皮膜を被覆した、本発明のダイヤモンド被覆エンドミル(以下、本発明エンドミルという)1〜8をそれぞれ製造した。
比較の目的で、上記の工具基体(エンドミル)C−1〜C−4の表面に、前記特許文献1に記載される従来方法によりダイヤモンド皮膜を形成した比較ダイヤモンド被覆エンドミル(以下、比較エンドミルという)1〜4を製造した。
従来方法によるダイヤモンドの成膜条件は、次のとおりである。
即ち、反応ガスとしてのメタン(CH4 )、水素(H2 )、一酸化炭素(CO)を供給できるようにしたマイクロ波プラズマCVD装置において、
まず、
反応圧力:2.7ラ102 〜2.7ラ103 Pa、
反応ガス:10%〜30%CH4、残部H2
成膜温度:700℃〜900℃
の条件で、核付着処理を行い、
ついで、
反応圧力:1.3ラ103 〜6.7ラ103 Pa、
反応ガス:1%〜4%CH4、残部H2
成膜温度:800℃〜900℃
の条件で、結晶粒径1μm以下のダイヤモンド結晶を形成する結晶成長処理を行い、
ついで、上記核付着処理と上記結晶成長処理を繰り返し、
上記工具基体(エンドミル)の表面に、表3に示される目標膜厚のダイヤモンド皮膜を蒸着形成することにより、比較エンドミル1〜4をそれぞれ製造した。
つぎに、上記本発明エンドミル1〜8および上記比較エンドミル1〜4のダイヤモンド皮膜について、各層の膜厚を走査型電子顕微鏡により測定し、また、各層の膜厚中心部分における結晶粒径を透過型電子顕微鏡にて測定した。
表2、表3に、測定値の平均値を膜厚および平均粒径として示す。
つぎに、上記本発明エンドミル1〜8および上記比較エンドミル1〜4のそれぞれについて、
[切削条件1] 被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:5mmの、炭素繊維と熱硬化型エポキシ系樹脂が積層構造を持つ炭素繊維強化樹脂複合材(CFRP)の板材、
切削速度: 500 m/min.、
切断加工:(5 mm)、
テーブル送り: 650 mm/min.、
エアブロー、
の条件での上記CFRPの乾式高速切断加工試験、
[切削条件2] 被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmの、JIS・ADC14の板材、
切削速度: 600 m/min.、
溝深さ(切り込み):径方向(ae)2.5mm,軸方向(ap)8mm、
テーブル送り: 1000 mm/min.、
エアーブロー、
の条件での上記Al合金の乾式高速側面切削加工試験、
をそれぞれ行い、いずれの切削加工試験でも切刃部の欠損に伴う被削材のムシレが発生するまでの切削溝長(m)を求めた。
これらの測定結果を表4にそれぞれ示した。
Figure 0005402543
Figure 0005402543
Figure 0005402543
Figure 0005402543
上記の実施例1で製造した直径が13mmの丸棒焼結体を用い、この丸棒焼結体から、研削加工にて、溝形成部の直径×長さが10mm×22mmの寸法、並びにねじれ角30度の2枚刃形状をもったWC基超硬合金製の工具基体(ドリル)D−1〜D−8をそれぞれ製造した。
ついで、これらの工具基体(ドリル)D−1〜D−8の切刃に、ホーニングを施し、上記実施例1と同様のコーティング前処理を施した後、上記実施例1の(a)〜(f)と同一の条件で、工具基体(ドリル)D−1〜D−8の表面に、表5にそれぞれ示される下部ダイヤモンド皮膜、上部ダイヤモンド皮膜からなるダイヤモンド皮膜を被覆することにより、本発明のダイヤモンド被覆ドリル(以下、本発明ドリルという)11〜18をそれぞれ製造した。
比較の目的で、上記の工具基体(ドリル)D−1〜D−4の表面に、ホーニングを施し、上記実施例1の比較エンドミルの成膜条件と同一の条件で、上記工具基体(ドリル)の表面に、表6に示される目標膜厚のダイヤモンド皮膜を蒸着形成することにより、比較ダイヤモンド被覆ドリル(以下、比較ドリルという)11〜14をそれぞれ製造した。
表5、表6には、本発明ドリル11〜18および上記比較ドリル11〜14のダイヤモンド皮膜の各層について測定した膜厚および各層の層厚中心部分における結晶粒径の平均値を示す。
つぎに、上記本発明ドリル11〜18および比較ドリル11〜14のそれぞれについて、
[切削条件3]
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:20mmの、炭素繊維と熱硬化型エポキシ系樹脂が直交積層構造を持つ炭素繊維強化樹脂複合材(CFRP)の板材、
切削速度: 200 m/min.、
送り: 0.1 mm/rev、
貫通穴:(20 mm)、
の条件での上記CFRPの乾式穴あけ切削加工試験、
[切削条件4]
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:25mmの、JIS・AC9Aの板材
切削速度: 300 m/min.、
送り: 0.15 mm/rev、
貫通穴:(25 mm)、
の条件での上記Al合金の湿式穴あけ切削加工試験、
をそれぞれ行い、いずれの切削加工試験でも穴あけ加工数(穴)を求めた。
この測定結果を表7にそれぞれ示した。
Figure 0005402543
Figure 0005402543
Figure 0005402543
表2〜7に示される結果から、本発明ダイヤモンド被覆工具(本発明エンドミル1〜8、本発明ドリル11〜18)は、 粗粒結晶層と非晶質層の交互積層からなる下部ダイヤモンド皮膜と、細粒結晶層と非晶質層の交互積層からなる上部ダイヤモンド皮膜が被覆され、下部ダイヤモンド皮膜上方側の粗粒結晶層の膜厚は、下部ダイヤモンド皮膜下方側の粗粒結晶層の膜厚より薄膜として形成され、また、上部ダイヤモンド皮膜表面側の細粒結晶層の膜厚は、上部ダイヤモンド皮膜下方側の細粒結晶層の膜厚より薄膜として形成されていることによって、下部ダイヤモンド皮膜は結晶粒の粗大化を招くことなく優れた耐摩耗性を保持し、また、上部ダイヤモンド皮膜はその表面平滑性よって優れた耐欠損性、耐チッピング性を示すため、このようなダイヤモンド皮膜を被覆したダイヤモンド被覆工具は、比強度、非剛性の高いCFRPあるいは溶着性の高いAl合金等の高送り、高切込みの切削加工において、シャープな切刃を維持したまま、バリ等の発生を抑え、長期の使用に亘ってすぐれた耐欠損性、耐摩耗性を発揮するものであるのに対して、核付着処理と粒径1μm以下のダイヤモンド結晶を形成する結晶成長処理の繰り返しにより形成されたダイヤモンド皮膜を備えた比較エンドミル1〜4、比較ドリル11〜14においては、耐欠損性、耐摩耗性、表面平坦性が劣るため、工具寿命が短命であると同時に仕上げ面精度の劣るものであった。
上述のように、この発明のダイヤモンド被覆工具は、通常条件での切削加工は勿論のこと、金属材料よりも比強度、比剛性の高いCFRPあるいは溶着性の高いAl合金等の切削加工においても、長期の使用に亘ってすぐれた耐欠損性、耐摩耗性を発揮し、ダイヤモンド皮膜の厚膜化も可能となるものであるから、切削加工装置のFA化、並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。

Claims (1)

  1. 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体表面に、膜厚1.5〜30μmの下部ダイヤモンド皮膜と、膜厚1.5〜10μmの上部ダイヤモンド皮膜が被覆されたダイヤモンド被覆工具であって、
    (a)上記の下部ダイヤモンド皮膜は、500〜3000nmの一層平均膜厚を有し100nm以上800nm以下の平均粒径の粗粒結晶で構成された粗粒結晶層と、50〜300nmの一層平均膜厚を有する含非晶質炭素で構成された非晶質層との交互積層構造からなり、
    (b)上記の上部ダイヤモンド皮膜は、650〜1000nmの一層平均膜厚を有し40nm以上100nm未満の平均粒径の細粒結晶で構成された細粒結晶層と、50〜300nmの一層平均膜厚を有する含非晶質炭素で構成された非晶質層との交互積層構造からなり、
    (c)さらに、上記の下部ダイヤモンド皮膜において、下部ダイヤモンド皮膜上方側(上部ダイヤモンド皮膜側)の粗粒結晶層の膜厚は、下部ダイヤモンド皮膜下方側(工具基体側)の粗粒結晶層の膜厚より薄膜として形成され、また、上記の上部ダイヤモンド皮膜において、上部ダイヤモンド皮膜表面側の細粒結晶層の膜厚は、上部ダイヤモンド皮膜下方側(下部ダイヤモンド皮膜側)の細粒結晶層の膜厚より薄膜として形成されている、
    ことを特徴とするダイヤモンド被覆工具。
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