JP5499650B2 - 耐剥離性と耐摩耗性にすぐれたダイヤモンド被覆工具 - Google Patents
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Description
そこで、長期の使用に亘って、ダイヤモンド膜の剥離が生じることがなく、同時に、優れた耐摩耗性を発揮するダイヤモンド被覆工具が望まれる。
「(1) 炭化タングステン基超硬合金で構成された基体表面に、結晶性が相異なる一層平均層厚0.03〜5μmのA層と一層平均層厚0.1〜5μmのB層の2種のダイヤモンド膜が交互に積層被覆され、ダイヤモンド膜の合計被覆層厚が10〜30μmであるダイヤモンド被覆工具において、
上記A層とB層を構成するダイヤモンド膜について、測定波長514.5nmのラマン分光分析を行った場合、測定により得られる1333±5cm−1のピーク最大値I1と、1400〜1600cm−1のピーク最大値I2の比の値I2/I1は、上記A層では0.7<I2/I1<0.9であり、また、上記B層ではI2/I1<0.6であり、
さらに、基体表面から合計被覆層厚の1/3の高さ位置までの基体側に形成されたダイヤモンド膜におけるA層の合計層厚LaとB層の合計層厚Lbは、0.6≦La/(La+Lb)の関係を満足し、また、ダイヤモンド膜表面から合計被覆層厚の1/3の深さ位置までのダイヤモンド被覆表面側に形成されたダイヤモンド膜におけるA層の合計層厚LaとB層の合計層厚Lbは、0.6≦Lb/(La+Lb)の関係を満足することを特徴とするダイヤモンド被覆工具。
(2) 上記B層のうち、少なくともダイヤモンド被覆表面側に形成されたB層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、基体表面に対し垂直な皮膜断面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(110)面および(111)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフで表した場合、(110)面または(111)面の少なくともいずれかの面について、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の50%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示すことを特徴とする前記(1)に記載のダイヤモンド被覆工具。」
に特徴を有するものである。
このような結晶性が低く、微粒ダイヤモンドで構成されるA層は、例えば、
フィラメント温度 2000〜2300℃、
フィラメント−基板間隔 10〜30mm、
基板温度 750〜950℃、
反応圧力 0.9〜1.6kPa、
反応ガス(CH4/H2比) 0.025〜0.08、
という条件で成膜することができる。
そして、このA層は、WC超硬合金からなる基体との熱膨張係数差がB層に比して小さく、その界面に大きな熱応力が発生しにくいために、また、A層は、基体との界面に発生した熱応力を緩和する作用がB層に比して大であるため、難削材の高速切削加工時の高熱が発生する条件下であっても、ダイヤモンド膜の剥離が抑制されることになるが、A層の一層平均膜厚が0.03μm未満では、基体との界面の熱応力緩和作用を十分に発揮することができず、一方、A層の一層平均膜厚が5μmを超えると、ダイヤモンド被覆全体としての硬さが低下し、耐摩耗性が低下傾向を示すようになることから、A層の一層平均膜厚は0.03〜5μmと定めた。
さらに、この発明では、A層とB層の交互積層による効果をより一段と発揮させるために、図1に示すように、基体側に形成されたダイヤモンド膜におけるA層の合計層厚LaとB層の合計層厚Lbは、0.6≦La/(La+Lb)の関係を満足するよう定め(即ち、層厚方向に形成されたA層の占める層厚の割合はB層のそれより多くし)、基体に対するダイヤモンド膜の耐剥離性をより高めるようにした。
La/(La+Lb)の値が0.6未満では、ダイヤモンド被覆は優れた硬さを有するものの、難削材の高速切削においては十分な耐剥離性を発揮し得ないことから、La/(La+Lb)の値を0.6以上と定めた。
このような結晶性が高くかつ粗粒ダイヤモンドで構成されるB層は、例えば、
フィラメント温度 2000〜2400℃、
フィラメント−基板間隔 10〜30mm、
基板温度 700〜900℃、
反応圧力 2.0〜6.67kPa、
反応ガス(CH4/H2比) 0.005〜0.05、
という条件で成膜することができる。
そして、このB層は、A層に比して耐摩耗性に優れるが、B層の一層平均膜厚が0.1μm未満では、長期の使用に亘っての優れた耐摩耗性を継続的に維持することができず、一方、B層の一層平均膜厚が5μmを超えると、結晶粒が粗大化するため表面の平滑性が低下し、欠損を発生しやすくなるとともに仕上げ面精度の低下を招くことになるので、B層の一層平均膜厚は0.1〜5μmと定めた。
さらに、この発明では、B層は、A層を挟んで交互に積層されていることにより、B層の結晶粒粗大化が抑制されるばかりか、B層に発生したクラック等の進展がA層によって阻止され、耐欠損性も向上する。
さらに、この発明では、A層とB層の交互積層による効果をより一段と発揮させるために、図1に示すように、ダイヤモンド被覆表面側に形成されたダイヤモンド膜におけるA層の合計層厚LaとB層の合計層厚Lbが、0.6≦Lb/(La+Lb)の関係を満足するように成膜し(即ち、層厚方向に形成されたB層の占める層厚の割合はA層のそれより多い)、耐欠損性、仕上げ面精度の低下を招くことなく、ダイヤモンド膜の耐摩耗性をより高めるようにした。
ダイヤモンド被覆表面側のダイヤモンド膜におけるLb/(La+Lb)の値が0.6未満では、難削材の高速切削において、長期の使用に亘って優れた耐摩耗性を発揮し得ないことから、Lb/(La+Lb)の値を0.6以上と定めた。
さらに、B層は、(110)または(111)配向性を有することから、この発明のダイヤモンド被覆工具はすぐれた高硬度と耐熱性とを相兼ね備えている
したがって、この発明のダイヤモンド被覆工具を、CFRP、Al合金等の難削材の高速切削加工に用いた場合でも、すぐれた耐剥離性、耐欠損性を備えるとともに長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮するものである。
(a1)まず、
フィラメント温度 2200 ℃、
フィラメント−基板間隔 15 mm、
基板温度 850 ℃、
反応圧力 0.9 kPa、
反応ガス CH4/H2=0.05(但し、体積比)、
という条件で、工具基体の表面に、微粒ダイヤモンドからなるA層(ラマン分光分析によるピーク強度比:0.7<I2/I1<0.9)を成膜し、
(b1)次いで、上記A層の上に、
フィラメント温度 2200 ℃、
フィラメント−基板間隔 15 mm、
基板温度 800 ℃、
反応圧力 4 kPa、
反応ガス CH4/H2=0.035(但し、体積比)、
という条件で、粗粒ダイヤモンドからなるB層(ラマン分光分析によるピーク強度比:I2/I1<0.6)を成膜し、
(c1)基体側では0.6≦La/(La+Lb)を満足し、かつ、ダイヤモンド被覆表面側では0.6≦Lb/(La+Lb)を満足するように、A層、B層それぞれの一層膜厚を調整しつつ、上記(a1)、(b1)を、所要回数繰り返し、表2に示される、所望積層数、所望合計被覆層厚のダイヤモンド皮膜を成膜して本発明ダイヤモンド被覆工具としての本発明ダイヤモンド被覆エンドミル(以下、本発明エンドミルという)1〜8をそれぞれ製造した。
表3に、それぞれの皮膜の一層膜厚、積層数、合計被覆層厚を示す。
図3には、一例として、本発明エンドミル5のダイヤモンド被覆表面側に形成されたB層の(111)面についての傾斜角度数分布グラフを示すが、本発明エンドミル1〜8および比較エンドミル2〜8の粗粒ダイヤモンド皮膜の(111)面の傾斜角度数分布グラフは、いずれもほぼ同様な傾斜角度数分布グラフを示し、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の50%以上の割合を占めた。
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:5mmの、炭素繊維と熱硬化型エポキシ系樹脂が直交積層構造を持つ炭素繊維強化樹脂複合材(CFRP)の板材、
切削速度: 240 m/min.、
溝深さ(切り込み):径方向(ae)2.5mm,軸方向(ap)8mm、
テーブル送り: 1500 mm/分、
エアーブロー、
の条件(切削条件A)での上記CFRPの乾式高速側面切削加工試験、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmの、JIS・ADC12の板材、
切削速度: 420 m/min.、
溝深さ(切り込み):径方向(ae)2.5mm,軸方向(ap)8mm、
テーブル送り: 1200 mm/分、
エアーブロー、
の条件(切削条件B)での上記Al合金の乾式高速側面切削加工試験、
をそれぞれ行い、いずれの切削加工試験でも切刃部に欠損が発生するまでの切削溝長、あるいは、被削材にバリが発生するまでの切削溝長を測定した。
これらの測定結果を表4にそれぞれ示した。
表6に、それぞれの皮膜の一層膜厚、積層数、合計被覆層厚を示す。
また、本発明ドリル1〜8および比較ドリル2〜8の粗粒ダイヤモンド皮膜の(111)面の傾斜角度数分布グラフは、いずれもほぼ同様な傾斜角度数分布グラフを示し、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の50%以上の割合を占めた。
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:8mmの、炭素繊維と熱硬化型エポキシ系樹脂が直交積層構造を持つ炭素繊維強化樹脂複合材(CFRP)の板材、
切削速度: 180 m/min.、
送り: 0.06 mm/rev、
貫通穴:(8 mm)、
エアーブロー、
の条件(切削条件C)での上記CFRPの乾式高速穴あけ切削加工試験、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:15mmの、JIS・ADC12の板材
切削速度: 220 m/min.、
送り: 0.09 mm/rev、
貫通穴:(15 mm)、
エアーブロー、
の条件(切削条件D)での上記Al合金の乾式高速穴あけ切削加工試験、
をそれぞれ行い、いずれの乾式高速穴あけ切削加工試験でも、切屑つまりにより切削不能になるまでの穴あけ加工数を測定した。
この測定結果を表7にそれぞれ示した。
これに対して、微粒ダイヤモンド皮膜のみ、粗粒ダイヤモンド皮膜のみからなる比較ダイヤモンド被覆工具、あるいは、微粒ダイヤモンドと粗粒ダイヤモンドの交互積層構造であっても、La/(La+Lb),Lb/(La+Lb)の値が膜厚方向にほぼ一定である比較ダイヤモンド被覆工具においては、ダイヤモンド皮膜の剥離、欠損が発生し、被削材仕上げ面精度も不十分であって、CFRP、Al合金等の難削材の高速切削加工に用いた場合、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮することはできず、工具寿命も短命であった。
Claims (2)
- 炭化タングステン基超硬合金で構成された基体表面に、結晶性が相異なる一層平均層厚0.03〜5μmのA層と一層平均層厚0.1〜5μmのB層の2種のダイヤモンド膜が交互に積層被覆され、ダイヤモンド膜の合計被覆層厚が10〜30μmであるダイヤモンド被覆工具において、
上記A層とB層を構成するダイヤモンド膜について、測定波長514.5nmのラマン分光分析を行った場合、測定により得られる1333±5cm−1のピーク最大値I1と、1400〜1600cm−1のピーク最大値I2の比の値I2/I1は、上記A層では0.7<I2/I1<0.9であり、また、上記B層ではI2/I1<0.6であり、
さらに、基体表面から合計被覆層厚の1/3の高さ位置までの基体側に形成されたダイヤモンド膜におけるA層の合計層厚LaとB層の合計層厚Lbは、0.6≦La/(La+Lb)の関係を満足し、また、ダイヤモンド膜表面から合計被覆層厚の1/3の深さ位置までのダイヤモンド被覆表面側に形成されたダイヤモンド膜におけるA層の合計層厚LaとB層の合計層厚Lbは、0.6≦Lb/(La+Lb)の関係を満足する、
ことを特徴とするダイヤモンド被覆工具。 - 上記B層のうち、少なくともダイヤモンド被覆表面側に形成されたB層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、基体表面に対し垂直な皮膜断面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(110)面および(111)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフで表した場合、(110)面または(111)面の少なくともいずれかの面について、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の50%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示すことを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンド被覆工具。
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