JP5402537B2 - 劣化触媒の再生方法 - Google Patents

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Description

本発明は、分解能が低下した劣化触媒の再利用を可能にする触媒の再生方法であり、詳細には、被処理油中の有機塩素化合物の分解に用いられた分解能が低下した貴金属担持触媒の再利用を可能にすることができる、触媒の再生方法に関する。
各種有機塩素化合物のなかでも、ポリ塩化ビフェニル(以下PCBと略称することがある。)は人体を含む生体に極めて有害であることから、1973年に特定化学物質に指定され、その製造、輸入、使用が禁止されている。しかし、その後適切な廃棄方法が決まらないまま数万トンのPCBが未処理の状態で放置されている。PCBは、高温分解では強毒性のダイオキシン類である塩素化ジベンゾ−p−ダイオキシン(PCDD)とジベンゾフラン(PCDF)が副生するため、PCBを安全に分解することは難しいことに鑑み、PCBの安全かつ効率的な分解処理方法が望まれている。
このような背景から、PCB等の有機塩素化合物を、比較的低温の穏やかな条件下で脱塩素化して分解する方法が、数多く提案されている。その中でも、低温かつ短時間でPCB等を分解できる方法として、PCB又は低濃度のPCBを含有する絶縁油に、水素供与体とアルカリ化合物を添加し、パラジウムを活性炭に担持させた触媒存在下にマイクロ波を照射することにより、PCBを効率的に分解する方法が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
こうした方法によりPCBの分解を実施した場合、PCBの分解反応を重ねるにつれ触媒は劣化し活性が低下してくる。貴金属担持触媒は高価なため、PCBの分解処理コストを下げるためには、活性が低下した触媒を再生して再利用することが不可欠であるが、特に絶縁油に含まれているPCBの分解処理に用いられた触媒の場合は、表面に劣化油や酸化防止剤等の絶縁油添加物及びそれらの分解物等が付着して触媒の活性サイトを塞いでしまうため、再生が容易ではない。そのため、触媒を再生するための各種の方法が提案されている。
特許文献3では、絶縁油中のPCBの脱塩素化処理に用いられ活性が低下した触媒を、水または有機溶剤で洗浄し、脱離した塩素と反応に用いたアルカリから生成する塩を除去することにより、触媒を再生する方法が開示されている。洗浄に用いられる有機溶剤としてはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール、アセトン等のケトン、酢酸エチル等のエステル、ヘキサンやトルエン等の炭化水素が例示されている。
特許文献4では、絶縁油中のPCBの脱塩素化処理に用いられ活性が低下した触媒を、有機溶剤で洗浄し、次いで、水で洗浄した後、還元剤で処理することで、触媒を再生する方法が開示されている。洗浄に用いられる有機溶剤としてはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール、アセトン等のケトン、酢酸エチル等のエステル、ヘキサンやトルエン等の炭化水素が例示され、還元剤としては水素、ヒドラジン、水素化アルミニウムリチウム、水素化ホウ素ナトリウム等が例示されている。実施例では、アセトンで洗浄した後、水で洗浄して風乾した後、アセトンを添加して200℃で抽出処理、更に亜臨界水で200℃で抽出処理を行ってから乾燥し、水素/窒素の混合ガスあるいはヒドラジンを添加して還元処理する方法が記載されている。
また、PCBのみを絶縁油として使用した、高濃度PCBの分解処理に用いられた活性低下触媒を再生する方法として、特許文献5では、イソプロピルアルコールで洗浄し、次いで炭化水素系溶剤で洗浄し、更に親水性有機溶剤で洗浄、水で洗浄した後、乾燥する方法が開示されている。
特許文献3〜5において、触媒の再生処理における洗浄工程では、触媒を取り出すことなく触媒を充填した触媒槽(触媒カラム)に洗浄剤を流通させる方法も採り得ることが記載されている。しかし、特許文献3に記載されている方法では、水素を発生させることができないため、還元雰囲気下で洗浄できないという課題や、洗浄操作のみによる再生であるため多量の溶剤を必要とするといった課題がある。
また、特許文献4、5に記載されている方法は、有機溶剤による洗浄と水による洗浄を組み合わせるものであり、複数回の洗浄工程を実施する必要があり、かつ水による洗浄を行った場合には、再生した触媒を再利用するために、触媒に付着した水を取り除くことが必要となるため、触媒再生工程が多段階で煩雑になるという課題がある。加えて、特許文献4に記載されている方法は、高温での抽出処理が必要なため、触媒充填装置に充填した状態で処理することは困難である。
さらに、実際にPCB処理装置において触媒が劣化した際は、一旦反応を中断し、劣化触媒を触媒充填装置から取り出して再生処理を行わなければならないため、作業効率が悪い、劣化触媒にはPCBが付着しているため触媒充填装置からの取り出しは管理レベルの作業になる、触媒充填装置からの出し入れの際に触媒の粒が崩れ触媒寿命を縮める恐れがあるといった課題もある。
特許第3678740号公報 特許第3678738号公報 特開2005−270837号公報 特開2007−111661号公報 特開2008−272584号公報
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、被処理油中の有機塩素化合物の分解に用いられ分解能が低下した貴金属担持触媒を、触媒充填装置から取り出すことなく、また触媒を処理するために特別な装置を用いる必要もなく、かつ簡単な操作により再利用可能にする、触媒の再生方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した。その結果、分解能が低下した触媒に、アルカリ金属水酸化物とイソプロピルアルコールの混合液を流通させながら、加温することにより、イソプロピルアルコールを洗浄剤として使用するとともに、水素供与体として作用させることで、触媒を効果的に再生できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
(1)有機塩素化合物を含む絶縁油、アルカリ金属水酸化物及びイソプロピルアルコールの混合液を、貴金属を担体に担持させた触媒を充填した触媒充填装置に流通し、当該触媒に接触させて有機塩素化合物を分解する分解処理において、
分解能が低下した触媒を再利用可能にする触媒の再生方法であって、
分解能が低下した触媒を取り出すことなく触媒充填装置に充填した状態で、該触媒充填装置にアルカリ金属水酸化物とイソプロピルアルコールを流通させながら加熱し、イソプロピルアルコールを水素供与体として触媒を還元処理することを特徴とする触媒の再生方法。
(2)イソプロピルアルコールの使用量が、触媒1kg当たり1〜10Lである、前記(1)に記載の触媒の再生方法。
(3)アルカリ金属水酸化物の使用量が、イソプロピルアルコールに対して0.1〜0.3w/v%である、前記(1)または(2)に記載の触媒の再生方法。
(4) 加熱温度が30〜60℃である、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の触媒の再生方法。
(5)加熱がマイクロ波加熱である、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の触媒の再生方法。
(6)貴金属がパラジウムである、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の触媒の再生方法。
(7)担体が、炭素、樹脂及びそれらの組合せからなる群より選択されるものである、前記(1)〜(6)のいずれかに記載の触媒の再生方法。
(8)有機塩素化合物が、PCB、ダイオキシン類、芳香族塩素化合物及びそれらの2種以上の混合物からなる群から選択される有機塩素化合物である、前記(1)〜(7)のいずれかに記載の触媒の再生方法。
本発明に係る触媒の再生方法によれば、有機塩素化合物分解反応中に触媒に蓄積あるいは吸着していると思われる、絶縁油中の微量成分由来の疎水性不純物を除去することができ、かつ、触媒を充填したままで処理できるため、最も不純物が存在していると思われる触媒層表面部の触媒をその他の触媒と混ぜてしまうことなく、集中してマイクロ波を照射することができるため、効率よく触媒を再生することができる。
再生に使用するアルカリ金属水酸化物とイソプロピルアルコールは、絶縁油中に含まれる有機塩素化合物を分解するために添加するアルカリ金属水酸化物とイソプロピルアルコールと同じである。したがって、再生処理が終了した触媒ならびに再生処理に使用したアルカリ金属水酸化物およびイソプロピルアルコールは、再生処理が終了した状態から、引き続いて有機塩素化合物を含有する絶縁油等の分解処理に供することができる。
すなわち、本発明による触媒の再生方法は、アルカリ金属水酸化物とイソプロピルアルコールを添加して循環し加熱するという1段階の工程で触媒を再生することができるので、再生処理のために触媒を装置から取り出す必要がなく、また再生処理のために特別な装置も必要とせず、さらに触媒再生にイソプロピルアルコールとは異なる溶剤を使用した場合に生じる溶剤の回収や精製も必要としない、極めて簡便で経済的な触媒の再生方法ならびに絶縁油等に含まれる有機塩素化合物の分解方法を提供するものである。
本発明の実施例で使用した有機塩素化合物の分解装置を示す概略図である。 本発明の実施例の分解試験におけるPCB濃度変化を示すグラフである。
本発明の触媒の再生方法は、有機塩素化合物を含む絶縁油、アルカリ金属水酸化物及びイソプロピルアルコールの混合液を、貴金属を担体に担持させた触媒を充填した触媒充填装置に流通し、当該触媒に接触させて有機塩素化合物を分解する分解処理において、
分解能が低下した触媒を再利用可能にする触媒の再生方法であって、
分解能が低下した触媒を取り出すことなく触媒充填装置に充填した状態で、該触媒充填装置にアルカリ金属水酸化物とイソプロピルアルコールを流通させながら加熱し、イソプロピルアルコールを水素供与体として触媒を還元処理することを特徴とするものである。
本発明による触媒再生方法において、効果的に触媒が再生される理由の詳細は不明であるが、次のように推定している。
多種のPCBを分解処理した経験上、PCBそのものを絶縁油として使用した高濃度PCBに比べ、絶縁油中にPCBが含有されている低濃度PCBの方が、分解し難いことが判っている。このことから、絶縁油中の添加剤(酸化防止剤など)や経時による絶縁油の酸化劣化物が触媒反応を強く阻害することが示唆される。
本発明においては、触媒の再生にイソプロピルアルコールを用いるので、触媒表面に付着した絶縁油等がイソプロピルアルコールに溶解して除去されると同時に、アルカリ金属水酸化物を併用することでイソプロピルアルコールが水素供与体として効果的に作用するため、絶縁油の酸化劣化物等を還元分解して触媒表面から脱着し易くするものと推定される。そのため、本発明においては、有機溶剤等で単に洗浄する場合に比べて、少ない量のイソプロピルアルコールで、効果的に触媒を再生することができるものと考えられる。
本発明の触媒再生方法が適用できるPCB等の分解反応装置は、触媒充填装置を備えた装置であって、PCB等の有機塩素化合物を含有する絶縁油とアルカリ金属水酸化物、イソプロピルアルコールの混合液を触媒の中に流通して循環させる機能、当該混合液が触媒の中を流通する際に触媒を加熱できる機能、および混合液を所定の温度に維持できる機能を備えた装置であれば良い。本発明で用いられる装置の具体例を図1に示す。
図1の装置は、触媒充填装置1、その上部に触媒充填装置1を収容し、その下部が液溜りとなっている触媒槽4、液溜りの液を取り出し触媒充填装置1に供給した後、再び液溜りに戻すための循環系統(ライン11、ライン12およびポンプ13)、触媒充填装置1にマイクロ波を照射するためのマイクロ波装置8、液溜りの液を冷却するための冷却コイル10を有している。16はマイクロ波照射量をコントロールしうる温度コントローラーである。触媒3は触媒カートリッジ2に充填され触媒充填装置1中に設置されている。触媒カートリッジ2中には、セラミックやテフロン(登録商標)等のマイクロ波を透過する耐熱性材料で形成された棒状の構造体5が配置されており、この構造体はマイクロ波を触媒層の奥まで伝達する役割を果たしている。
触媒層の中を流通した液は、触媒カートリッジ2の底部に開けられた流通孔(図示していない)を通じて流出し、触媒充填装置1に設けられた溢流口6より溢れ出て、触媒槽4の液溜りに戻ることで循環する。触媒層の中を流通する際にマイクロ波照射により加熱された液は、液溜りで冷却コイル10により冷却されてから触媒充填装置1に循環されるので、マイクロ波の照射時間や強度を電気的に制御することで触媒層を流通する液温を所定の温度に制御することができる。
本発明において、有機塩素化合物としては、PCB;ダイオキシン類;トリクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族塩素化合物及びそれらの2種以上の混合物からなる群から選択される有機塩素化合物が挙げられる。
有機塩素化合物を含む絶縁油としては、柱上変圧器、大型トランス、OFケーブル絶縁油タンク、安定器等に充填又は保存されているもの等が挙げられる。
有機塩素化合物を分解する際には、有機塩素化合物を含む絶縁油、アルカリ金属水酸化物及びイソプロピルアルコールの混合液を、貴金属を担体に担持させた触媒を充填した触媒充填装置に流通し、当該触媒に接触させて有機塩素化合物を分解するが、有機塩素化合物が分解するに連れて、前記の混合液には副生するアセトン、ビフェニル等が含まれるようになる。前記のアルカリ金属水酸化物は、有機塩素化合物から脱離した塩素を捕捉するために添加され、中でも、脱塩素化効率が高く、低コストで入手可能で、ハンドリング性が良く、イソプロピルアルコールへの溶解性に優れている点より、NaOH又はKOHが好ましく用いられる。アルカリ金属水酸化物は単独で用いても良いし2種以上を併用しても良い。また、イソプロピルアルコールは、水素供与体として添加され、安全性、コスト、有機塩素化合物の分解効率、反応制御の容易性の点で優れている。
分解処理に用いられるアルカリ金属水酸化物及びイソプロピルアルコールの使用量は限定されないが、アルカリ金属水酸化物はイソプロピルアルコールに対して0.1〜50%(wt/vol)使用するのが好ましく、より好ましくは0.1〜10%(wt/vol)である。アルカリ金属水酸化物が少なすぎると分解反応が進行しなくなり、一方、多すぎるとアルカリ金属水酸化物が溶解しきれなくなるため好ましくない。また、アルカリ金属水酸化物は、絶縁油に対して0.02〜10%(wt/vol)使用するのが好ましい。イソプロピルアルコールは、絶縁油に対して5〜200%(vol/vol)使用するのが好ましい。5%未満では絶縁油の粘度が高くなり、分解反応が進まなくなる。一方、200%を超える場合でも反応は十分進行するが、不経済となる。また、柱上変圧器等に充填された絶縁油中の微量PCBを分解する場合は、柱上変圧器等の容器の空隙部に水素供与体が入りきらなくなるおそれがあることより、絶縁油に対して50%程度を上限とすることが好ましい。
分解方法としては、公知の方法を適用することができ、マイクロ波を連続的もしくは間欠的に照射し50〜80℃で分解する方法等が挙げられる。
貴金属を担体に担持させた触媒としては、特に限定されるものではなく、有機塩素化合物の脱塩素化反応を促進し得るものであれば良い。触媒における貴金属の担持量は、触媒全量に対する割合で1〜20質量%が好ましく、5〜10質量%がより好ましい。担持させる貴金属としては、パラジウム、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、イリジウム、オスミウム及び白金が挙げられるが、脱塩素化効率の高さを考慮すると、パラジウム、ルテニウム、白金が好ましく、特にパラジウムが好ましい。
担体としては、一般的に貴金属触媒の担体として用いられるものであれば良い。具体的には、一般的に吸着剤として使用されている活性炭等の炭素;シリコーン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂等の樹脂;金属酸化物又は複合金属酸化物;等の耐アルカリ性に優れる担体が用いられる。これらの担体の中でも、マイクロ波の吸収性が高いことから炭素、樹脂が好ましく、炭素が特に好ましい。
金属を炭素担体に担持させた触媒の具体例としては、例えば、Pd/C(パラジウム担持炭素化合物)、Ru/C(ルテニウム担持炭素化合物)、Pt/C(白金担持炭素化合物)などが挙げられる。
上記の触媒は、粒状のものでもハニカム状のものでも良い。触媒粒子径は75μm〜5mmが好ましく、5mmを超える場合はハンドリングが悪くなり、75μm未満の場合はカラム等に充填させた際に詰りやすくなる。より好ましくは150μm〜3mmである。
再生処理を施す対象となる触媒は、上記の混合溶液を触媒充填装置に流通させ、触媒に接触させることにより有機塩素化合物を分解処理する際に用いられたものである。触媒を処理するタイミングは、触媒充填装置(カラム)の詰まり発生によって把握できるほか、GC−MSなど公知の有機塩素化合物分析装置を用いて反応液中の有機塩素化合物の濃度を測定する等の方法でも把握できる。
本発明の方法において、触媒の再生は、以下のようにして行われる。すなわち、PCB等の有機塩素化合物の分解反応に供した被処理液を触媒充填装置1の中に残した状態で、触媒槽4の液溜りの被処理液を触媒槽4の底部に設置した排出口14より排出し、さらに、触媒充填装置下部に設置した排出口7から触媒充填装置1内の被処理液を触媒が気相中にむき出しにならないぎりぎりまで排出する。次いで、図示していないライン及びポンプ13を介して、触媒充填装置1に、アルカリ金属水酸化物をイソプロピルアルコールに溶解した溶液を導入する。その後、導入した溶液を触媒槽4の液溜り及びライン11,12を介して触媒充填装置1に循環させ、触媒充填装置1に残存した被処理液と均一に混合させる。循環時間は、触媒充填装置の容量によって異なるが、通常、10〜30分程度である。その後、マイクロ波を照射して加熱し、触媒を洗浄するとともに還元処理することにより実施される。
上記のアルカリ金属水酸化物としては、NaOHまたはKOHが好ましく用いられ、該アルカリ金属水酸化物を分解処理時と同種のものにすれば、アルカリ溶液の調製ならびに副生塩の回収操作が容易になる。
アルカリ金属水酸化物の量は、イソプロピルアルコールに対し、0.1〜0.3w/v%、好ましくは0.15〜0.2w/v%である。アルカリ金属水酸化物の使用量が少ないと触媒の再生効率が低下するため好ましくなく、一方使用量が多すぎても、触媒再生効率は最早向上せず不経済となるため好ましくない。
アルカリ金属水酸化物は、イソプロピルアルコールに溶解して用いられるが、アルカリ金属水酸化物を予めイソプロピルアルコールに溶解した溶液を調製しておき、それを触媒槽の液溜りに投入しても良いし、アルカリ金属水酸化物とイソプロピルアルコールを別々に投入して触媒槽の液溜り中で攪拌し溶解させても良い。
有機塩素化合物分解後に被処理液を触媒充填装置から排出する際は、分解反応に用いた触媒を露出させることにより触媒が乾燥し、触媒表面に付着した阻害物質がより強固に吸着することで、触媒の再生が困難になる恐れがあるため、被処理液の液面を触媒層の上面よりも高く保持し、触媒が常に液体に接触させるようにすることが望ましい。また、触媒表面が露出した場合には、マイクロ波加熱により発火等の危険が生じる恐れもある。
本発明においては、触媒充填装置中に被処理液を残すことで、触媒が露出することによる前記の弊害や危険を防ぐことができ、さらには、触媒が再生されるにつれ再びPCB等の有機塩素化合物の分解反応が進行するので、被処理液中に残存するPCBを、触媒の再生状況を把握するための指標に利用することができる。
触媒充填装置1中に残す被処理液の量は、触媒層が浸漬されるのに足る量であれば十分であり、多く残しすぎると触媒の再生効率が低下する恐れがある。通常、PCB等の分解反応時には、触媒層が十分被処理液中に浸漬されるように、触媒カートリッジ2中に充填される触媒の量は、触媒層の最上面が、溢流口6より下側になるように調製されるので、触媒の再生処理を行う際には、触媒充填装置1に残存させる被処理液の液面が、触媒層の最上面になる程度まで、触媒充填装置1内の被処理液の一部を系外に排出するのが良い。
触媒の再生に使用するイソプロピルアルコールの量は、触媒1kgに対して1L以上であれば十分であり、通常、触媒1kgに対して1〜10L、好ましくは2.5〜6L使用する。イソプロピルアルコールの量が少なすぎる場合には、触媒槽の液溜りから触媒充填装置に循環させるのに支障が生じることがあるとともに、触媒表面に付着した無機塩(KClなど)の洗浄効果が不十分となる。一方、多すぎても、触媒の再生効率は最早向上せず不経済となる。
触媒槽の液溜りに導入したアルカリ金属水酸化物とイソプロピルアルコールは、触媒充填装置に循環させ触媒充填装置に残存させた被処理液と均一に混合した後、有機塩素化合物の分解処理と同様の方法で、触媒充填装置に流通して循環させながら加熱することにより、触媒を再生する。循環時間は、触媒充填装置の容量や触媒の劣化度合いによって異なるが、通常、10〜30時間程度である。触媒が再生されるにつれ、当該混合液中に含まれている未分解の有機塩素化合物は、再び分解し始めるので、有機塩素化合物の濃度変化を測定することにより、触媒の再生状況を追跡することができる。
すなわち、本発明の触媒再生方法においては、触媒再生の成否を判定する基準として、混合液中の有機塩素化合物の濃度を指標として用い、有機塩素化合物濃度が、分解処理での卒業基準値である0.5ppm以下まで低下した時点で、触媒の再生が終了したと判断する。
触媒の再生処理における混合液の加熱温度は、30〜60℃の範囲が好ましい。加熱温度が高い程、水素発生量が増加するため触媒の再生効率は向上するが、一方で、加熱温度高くなる程、残存するPCBの分解によりダイオキシン類が生成し易くなる。
加熱方法としては、マイクロ波照射による加熱が好ましい。マイクロ波を用いることにより、触媒を効果的に加熱することができ、また加熱装置をコンパクトにすることができる。
マイクロ波の出力は、電気的に制御しながら10W〜20kWの範囲とすることが望ましく、マイクロ波の周波数は0.5〜10GHzが望ましい。
マイクロ波の照射は、触媒槽の液溜りの混合液の冷却状況に応じて、電気的に制御しながら連続的または間欠的に行い、触媒充填装置を流通する混合液の温度を所定の範囲に制御するのが良い。
本発明の触媒再生方法は、PCB等の有機塩素化合物を含む絶縁油に、アルカリ金属水酸化物と水素供与体を添加して混合液とし、この混合液を上記の触媒を充填した触媒槽に流通させて、有機塩素化合物を分解処理する方法において、水素供与体としてイソプロピルアルコールを使用した場合に、活性が低下した触媒を再生する方法として特に好適に適用することができる。
有機塩素化合物の分解処理時の水素供与体としてイソプロピルアルコールを用いる場合には、有機塩素化合物の分解処理と触媒再生処理において、アルカリ金属水酸化物および水素供与体として同一の化合物を使用することができるので、触媒の再生が終了した時点で触媒槽や貯留槽中に残存する液を取り除く必要がなく、有機塩素化合物を含む絶縁油を貯留槽に投入して混合し、この混合液を触媒槽に流通させて循環させることで、有機塩素化合物の分解処理を直ちに再開することができる。
触媒の再生処理に引き続いて有機塩素化合物の分解処理を実施する場合には、有機塩素化合物を含む絶縁油を投入するとともに、必要に応じて、アルカリ金属水酸化物とイソプロピルアルコールを追加添加することが望ましい。
以下、本発明を実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。なお、以下の実験には、図1に示す装置を用いた。
[実施例1]
(PCB分解試験1回目)
実機で使用したPCB含有絶縁油及び副生アセトン、ビフェニル等を含む試験液9L、イソプロピルアルコール14L及びKOH150.7gを攪拌して被処理液を調製した。調製後の被処理液中のPCB濃度は、DB5MSをキャピラリーカラムとする島津製作所製GC−MS(QP2010)で分析した結果、1.6ppmであった。触媒カートリッジ2にPd/C触媒(粒径0.425〜1.7mmの活性炭にパラジウムを5%担持)2kgを充填し、調製した被処理液を800ml/minの速度で触媒充填装置1に流通させながら、マイクロ波装置8よりマイクロ波を照射し、温度センサー9で測定しながら、温度を60℃に維持した。被処理液中のPCB濃度の経時変化は、サンプリングバルブ13からサンプルを採取し、前記のGC−MSを用いて分析した。被処理液の触媒充填装置1への流通と循環を開始後、12時間でPCB濃度が0.3ppmまで低下し、卒業基準値をクリアしたので、被処理液の流通とマイクロ波の照射を停止しPCBの分解反応を終了した。分解反応終了後、被処理液を触媒が気相中にむきだしにならない程度に装置から抜き出した。このときの残液量は8Lであった。
(PCB分解試験2回目)
実機で使用したPCB含有絶縁油及び副生アセトン、ビフェニル等を含む試験液10.9L、イソプロピルアルコール1.82L及びKOH101.1gを攪拌して被処理液を調製し、調製した被処理液を上記の装置に導入した後、触媒充填装置1に流通させながら30分間循環させた。この時点でのPCB濃度を測定したところ、10.8ppmであった。触媒充填装置1へのマイクロ波の照射を開始し、温度を60℃に維持しながらPCBの分解反応を行った結果、15時間後のPCB濃度は8.2ppmであったため、触媒活性が著しく低下したと判断し、反応を停止した。
(触媒の再生処理1回目)
上記の活性が低下した触媒を用いて再生処理を実施した。まず、上記のPCBの分解試験終了後、触媒槽4の液溜りに残存する被処理液を排出口14より排出した。次いで触媒充填装置1中の被処理液を、触媒が気相中にむきだしにならない程度に抜き出した。触媒充填装置1に残った液は、8Lであった。
触媒槽4の液溜りにKOH20gをイソプロピルアルコール10.6Lに溶解した溶液を添加し、触媒充填装置1に流通させながら30分間循環させ、触媒充填装置1に残った被処理液と、新たに添加したKOHのイソプロピルアルコール溶液を均一に混合した。この混合液中のPCB濃度は1.6ppmであった。
混合液を触媒充填装置に流通させながらマイクロ波の照射を開始し、温度を60℃に維持しながら、触媒の再生処理を行った。触媒の再生状況は、混合液中のPCB濃度の変化を、前記GC−MSで分析することで追跡した。
再生開始後5時間で混合液中のPCB濃度が低下し始め、19時間で0.4ppmまで低下し、分解処理における卒業基準をクリアしたので、触媒の再生が完了したと判断し、混合液の流通及びマイクロ波の照射を停止し、触媒の再生処理を終了した。
(再生触媒によるPCB分解試験1回目)
上記の触媒の再生処理1回目が終了した後、触媒充填装置1に実機で使用したPCB含有絶縁油及び副生アセトン、ビフェニル等を含む試験液(PCB濃度6.1ppm)5.1L、イソプロピルアルコール0.5L及びKOH50.5gを添加し、触媒充填装置1に流通させながら30分間循環させ、触媒の再生処理後の装置内(触媒充填装置および触媒槽の液溜り)に残存する液と均一に混合した。この混合液中のPCB濃度は1.4ppmであった。
混合液を触媒充填装置1に流通させながらマイクロ波の照射を開始し、温度を60℃に維持してPCBの分解反応を行ったところ、44時間でPCB濃度は0.3ppmに低下し、卒業基準をクリアしたので、混合液の流通とマイクロ波の照射を停止しPCBの分解反応を終了した。
(再生触媒によるPCB分解試験2回目)
上記の再生触媒によるPCB分解試験1回目が終了後、実機で使用したPCB含有絶縁油及び副生アセトン、ビフェニル等を含む試験液(PCB濃度406ppm)0.35Lを触媒充填装置1に導入し、触媒充填装置1に流通させながら30分間循環させ、装置内(触媒充填装置および触媒層の液溜り)に残存する液と均一に混合した。この混合液中のPCB濃度は8.9ppmであった。
混合液を触媒充填装置1に流通させながらマイクロ波の照射を開始し、温度を60℃に維持してPCBの分解反応を行ったところ、40時間でPCB濃度は0.4ppmに低下し、卒業基準をクリアしたので、混合液の流通とマイクロ波の照射を停止し分解反応を終了した。
(再生触媒によるPCB分解試験3回目)
上記の再生触媒によるPCB分解試験2回目が終了後、引き続いて、実機で使用したPCB含有絶縁油及び副生アセトン、ビフェニル等を含む試験液(PCB濃度406ppm)0.25Lを触媒充填装置1に導入し、再生触媒によるPCB分解試験2回目と同様にしてPCBの分解反応を実施した。分解開始時のPCB濃度は7.8ppmであったが、42時間でPCB濃度は0.3ppmに低下し、卒業基準をクリアした。
(再生触媒によるPCB分解試験4回目)
上記の再生触媒によるPCB分解試験3回目が終了後、引き続いて、実機で使用したPCB含有絶縁油及び副生アセトン、ビフェニル等を含む試験液(PCB濃度406ppm)0.25Lを触媒充填装置1に導入し、再生触媒によるPCB分解試験2回目と同様にしてPCBの分解反応を実施した。
分解開始時のPCB濃度は6.0ppmであり、83時間でPCB濃度は0.3ppmに低下し、卒業基準をクリアした。しかしながら、再生触媒によるPCB分解試験1〜3回目に比べて、PCB濃度の低下に要する時間が約倍になっており、触媒の活性が低下したことがわかった。
上記の分解試験における、分解時間とPCB濃度変化との関係を図2に示す。図2より、本発明の方法で触媒を再生することにより、触媒を装置から取り出すことなく、短時間で分解処理可能な触媒となり得ることがわかる。
[実施例2]
(触媒の再生処理2回目)
上記の再生触媒によるPCB分解試験4回目において活性が低下した触媒について、再生処理を実施した。まず、上記の再生触媒によるPCBの分解試験4回目が終了後、触媒槽4の液溜りに残存する被処理液を排出口14より排出し、次いで触媒充填装置1中の被処理液を取り出し、液面が触媒層3の最上面になるよう調整した。
触媒槽4の液溜りにKOH21.42gをイソプロピルアルコール10Lに溶解した溶液を添加し、触媒充填装置1に流通させながら30分間循環させ、触媒充填装置1に残る被処理液と、新たに添加したKOHのイソプロピルアルコール溶液を均一に混合した。この混合液中のPCB濃度は0.1pmであった。
混合液を触媒充填装置1に流通させながらマイクロ波の照射を開始し、温度を60℃に維持しながら、触媒の再生処理を行った。再生開始後、PCB濃度は徐々に増加し、4時間後0.4ppmまで上昇した後、減少し始め、再生開始後30時間でPCB濃度が0.1ppm未満まで低下した時点で、触媒の再生処理を終了した。
(再生触媒によるPCB分解試験5回目)
上記の触媒の再生処理2回目が終了後、実機で使用したPCB含有絶縁油及び副生アセトン、ビフェニル等を含む試験液(PCB濃度406ppm)0.25Lを触媒充填装置1に導入し、再生触媒によるPCB分解試験2回目と同様にしてPCBの分解反応を実施した。分解開始時のPCB濃度は7.5ppmであったが、14時間でPCB濃度は0.2ppmに低下し、卒業基準をクリアした。
以上の実施例に示すように、活性が低下した触媒を、KOH等のアルカリ金属水酸化物とイソプロピルアルコールの溶液を用いて加熱することにより、触媒が効果的に再生されることがわかる。また、実施例2より、PCBの分解処理中に触媒の活性が低下しても、同様にKOH等のアルカリ金属水酸化物とイソプロピルアルコールの溶液を用いて加熱することにより触媒活性が復活し、PCBの分解処理を継続して実施できることがわかる。
本発明の触媒の再生方法によれば、PCB等の有機塩素化合物の分解反応に用いて活性が低下した触媒を、装置から取り出すことなく再生処理することができ、また再生処理においてアルカリ金属水酸化物とイソプロピルアルコールを用いるので、触媒の再生が終了後、引き続いて絶縁油等に含まれる有機塩素化合物の分解反応を実施できるので、各種PCB及びダイオキシン類の分解処理コストを下げることができ、有機塩素化合物を含む絶縁油等を効率的かつ経済的に処理することが可能となる。
1 触媒充填装置
2 触媒カートリッジ
3 触媒
4 触媒槽
5 構造体
6 溢流口
7 排出口
8 マイクロ波装置
9 温度センサー
10 冷却コイル
11、12 ライン
13 ポンプ
14 排出口
15 サンプリングバルブ
16 温度コントローラー

Claims (8)

  1. 有機塩素化合物を含む絶縁油、アルカリ金属水酸化物及びイソプロピルアルコールの混合液を、貴金属を担体に担持させた触媒を充填した触媒充填装置に流通し、当該触媒に接触させて有機塩素化合物を分解する分解処理において、
    分解能が低下した触媒を再利用可能にする触媒の再生方法であって、
    分解能が低下した触媒を取り出すことなく触媒充填装置に充填した状態で、該触媒充填装置にアルカリ金属水酸化物とイソプロピルアルコールを流通させながら加熱し、イソプロピルアルコールを水素供与体として触媒を還元処理することを特徴とする触媒の再生方法。
  2. イソプロピルアルコールの使用量が、触媒1kg当たり1〜10Lである、請求項1に記載の触媒の再生方法。
  3. アルカリ金属水酸化物の使用量が、イソプロピルアルコールに対して0.1〜0.3w/v%である、請求項1または2に記載の触媒の再生方法。
  4. 加熱温度が30〜60℃である、請求項1〜3のいずれかに記載の触媒の再生方法。
  5. 加熱がマイクロ波加熱である、請求項1〜4のいずれかに記載の触媒の再生方法。
  6. 貴金属がパラジウムである、請求項1〜5のいずれかに記載の触媒の再生方法。
  7. 担体が、炭素、樹脂及びそれらの組合せからなる群より選択されるものである、請求項1〜6のいずれかに記載の触媒の再生方法。
  8. 有機塩素化合物が、PCB、ダイオキシン類、芳香族塩素化合物及びそれらの2種以上の混合物からなる群から選択される有機塩素化合物である、請求項1〜7のいずれかに記載の触媒の再生方法。
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