JP5394709B2 - 耐水素脆化特性および加工性に優れた超高強度鋼板 - Google Patents
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Description
Cは焼入れ性を向上させ鋼の高強度化に有効な元素である。そこでC量を0.05%以上と定めた。C量は好ましくは0.07%以上、より好ましくは0.09%以上である。一方、C量が過剰になると耐水素脆化特性が劣化する。そこでC量を0.25%以下と定めた。C量は好ましくは0.2%以下であり、より好ましくは0.17%以下である。
Siは固溶強化元素として鋼の強化に寄与し、延性を高めるのに有効な元素である。さらに水素脆化による割れの起点となるセメンタイトの生成を抑制する作用を有する。そこでSi量を1.00%以上と定めた。Si量は好ましくは1.2%以上であり、より好ましくは1.4%以上である。一方、Si量が過剰になるとめっき性が劣化する。そこでSi量を2.5%以下と定めた。Si量は好ましくは2.3%以下、より好ましくは2.1%以下である。
Mnは焼入れ性を向上させ鋼の高強度化に有効な元素である。このような作用を有効に発揮させるためMn量を2.0%以上と定めた。Mn量は好ましくは2.2%以上であり、より好ましくは2.4%以上である。一方、Mn量が過剰になるとめっき性が劣化し、偏析が著しくなる。そこでMn量を4.0%以下と定めた。Mn量は好ましくは3.5%以下であり、より好ましくは3%以下である。
Pは粒界に偏析することにより粒界脆化を助長する元素であるため、できるだけ抑制することが望ましい元素である。そこでP量を0.1%以下と定めた。P量は少ない程よく、好ましくは0.05%以下であり、より好ましくは0.03%以下である。
Sは、腐食環境下で鋼の水素吸収を助長し、さらにMnS等の硫化物を形成して水素脆化による割れの起点となるため、できるだけ抑制することが望ましい元素である。そこでS量を0.05%以下と定めた。S量は少ない程よく、好ましくは0.01%以下であり、より好ましくは0.005%以下である。
Alは脱酸作用を有する元素である。さらに耐食性を向上させる作用や耐水素脆化特性を向上させる作用を有する。そこでAl量を0.01%以上と定めた。Al量は好ましくは0.02%以上であり、より好ましくは0.03%以上である。一方、Al量が過剰になると靭性の劣化やアルミナ等の介在物による加工性の劣化が問題となる。そこでAl量を0.15%以下と定めた。Al量は好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.07%以下である。
Tiは組織を微細化し、炭化物形成によって耐水素脆化特性の向上に寄与する元素である。そこでTi量を0.003%以上と定めた。Ti量は好ましくは0.005%以上であり、より好ましくは0.01%以上である。一方、Ti量が過剰になるとフェライト粒のアスペクト比が高くなり耐水素脆化特性および加工性の劣化を招く。そこでTi量を0.10%以下と定めた。Ti量は好ましくは0.09%以下、より好ましくは0.08%以下である。
Nは製造上不可避的に混入する元素であるが、N量が過剰になると加工性が劣化する他、Bと結合してBNを形成し、Bの焼入れ向上作用を阻害するためできるだけ抑制することが望まれる元素である。そこでN量を0.01%以下と定めた。N量は少ない程よく、好ましくは0.008%以下であり、より好ましくは0.006%以下である。
NbおよびVは前述したTiと同様に、組織の微細化と炭化物の形成によって耐水素脆化特性の向上に寄与する元素である。そこでNb量は好ましくは0.003%以上、V量は好ましくは0.003%以上である。Nb量はより好ましくは0.005%以上であり、さらに好ましくは0.01%以上である。V量はより好ましくは0.005%以上であり、さらに好ましくは0.01%以上である。一方、Nb量、V量が過剰になるとフェライト粒のアスペクト比が高くなり耐水素脆化特性および曲げ加工性の劣化を招く。そこでNb量は好ましくは0.20%以下、V量は好ましくは0.20%以下である。Nb量はより好ましくは0.18%以下であり、さらに好ましくは0.15%以下である。V量はより好ましくは0.18%以下、さらに好ましくは0.15%以下である。さらにTi、Nb、およびVの各元素の含有量を個別に制御するだけでは、フェライト粒のアスペクト比が高くなって耐水素脆化特性および曲げ加工性が劣化する場合があり、Ti、NbおよびVの合計含有量は0.25%以下とすることが好ましい。Ti、NbおよびVの合計含有量はより好ましくは0.2%以下であり、さらに好ましくは0.16%以下である。
Cu、Ni、Crはいずれも耐水素脆化特性の向上に寄与する元素である。このうちCuおよびNiは、水素脆化の原因となる水素の発生を十分に抑制するとともに、発生した水素の鋼板への侵入を抑制することができるため、耐水素脆化特性の向上に有効である。このような効果を十分に発揮させるため、Cu量は好ましくは0.01%以上、Ni量は好ましくは0.01%以上である。Cu量はより好ましくは0.05%以上、さらに好ましくは0.1%以上である。Ni量はより好ましくは0.05%以上、さらに好ましくは0.1%以上である。またCuとNiを共存させることにより、前記効果がより有効に発揮される。一方、CuおよびNi量が過剰になると曲げ加工性の劣化を招く。そこでCu量は好ましくは1.0%以下、Ni量は好ましくは1.0%以下である。Cu量はより好ましくは0.7%以下、さらに好ましくは0.5%以下であり、Ni量はより好ましくは0.7%以下、さらに好ましくは0.5%以下である。一方、残りのCrは水素の侵入を抑制し、またCrを含む析出物は水素のトラップサイトとなるため耐水素脆化特性の向上に有効である。さらにCrは鋼板の強度向上にも有効である。このような効果を十分に発揮させるため、Cr量は好ましくは0.01%以上である。Cr量はより好ましくは0.05%以上、さらに好ましくは0.1%以上である。一方Cr量が過剰になると延性や曲げ加工性の低下を招く。そこでCr量は1.0%以下であることが好ましい。Cr量はより好ましくは0.7%以下であり、さらに好ましくは0.5%以下である。
MoとWはいずれも耐水素脆化特性の向上に寄与する元素である。詳細にはMoはオーステナイトを安定化させて残留オーステナイトを確保し、水素侵入を抑制して耐水素脆化特性を向上させるために有効な元素である。また鋼板の焼入れ性を高めるために有効な元素である。このような効果を有効に発揮させるためMo量は好ましくは0.01%以上である。Mo量はより好ましくは0.03%以上であり、さらに好ましくは0.05%以上である。一方、Mo量が過剰になっても前記効果が飽和し、コスト高となる。そこでMo量は好ましくは1.0%以下である。Mo量はより好ましくは0.7%以下であり、さらに好ましくは0.5%以下である。またWは上記の他、鋼板の強度向上に有効な元素である。さらに、Wを含む析出物は水素のトラップサイトとなるため耐水素脆化特性の向上に有効である。このような効果を有効に発揮させるため、W量は好ましくは0.01%以上である。W量はより好ましくは0.1%以上であり、さらに好ましくは0.2%以上である。一方、W量が過剰になると延性や曲げ加工性の低下を招く。そこでW量は好ましくは1.0%以下である。W量はより好ましくは0.7%以下であり、さらに好ましくは0.5%以下である。
Bは焼入れ性を向上させ、鋼板の強度向上に有効な元素である。このような効果を発揮させるためB量は好ましくは0.0001%以上である。B量はより好ましくは0.0002%以上、さらに好ましくは0.0005%以上である。一方B量が過剰となると熱間加工性が低下する。そこでB量は好ましくは0.005%以下である。B量はより好ましくは0.003%以下、さらに好ましくは0.002%以下である。
Ca、MgおよびREMは鋼板表面の腐食に伴う界面の水素イオン濃度の上昇を抑制し、つまりpHの低下を抑制して鋼板の耐食性を高めるのに有効な元素である。このような効果を十分に発揮させるため、Ca量を0.0005%以上、Mg量を0.0005%以上、REM量を0.0005%以上とすることが好ましい。Ca量はより好ましくは0.0007%以上であり、さらに好ましくは0.0009%以上である。Mg量はより好ましくは0.0007%以上であり、さらに好ましくは0.001%以上である。REM量はより好ましくは0.001%以上であり、さらに好ましくは0.002%以上である。一方、Ca、MgおよびREMの各含有量が過剰になると曲げ加工性が劣化する。そこでCa量を0.005%以下、Mg量を0.005%以下、REM量を0.005%以下とすることが好ましい。Ca量はより好ましくは0.003%以下であり、さらに好ましくは0.002%以下である。Mg量はより好ましくは0.004%以下であり、さらに好ましくは0.003%以下である。REM量はより好ましくは0.0045%以下であり、さらに好ましくは0.004%以下である。なお、REMとは、原子番号57のLaから原子番号71のLuまでのランタノイドと、原子番号21のScと原子番号39のYを加えた計17個の元素のことである。
上記(1)式は、特に、フェライト粒の平均粒径の微細化に寄与するパラメータとして、本発明者らによる数多くの基礎実験によって定められたものである。詳細には、上記(1)式を構成する元素(Ti、Nb、V、Si、Mn)、および冷延率は、以下の観点からフェライトの微細化に寄与するとの視点に立ち、上記(1)式を決定した。
一方、フェライトの再結晶温度を上げるためには、冷延率CRの低減が有効である。冷延率を下げることによって蓄積される歪エネルギーが小さくなるため、再結晶の駆動力が小さくなり再結晶温度が上昇するからである。そのため、冷延率CRは、上記式(1)でマイナス(負)の係数を有すると共に、上記式(1)とは別個に、「CR<50%」を規定した。CRは好ましくは45%以下であり、より好ましくは40%以下である。
Ac1(℃)=723−10.7×[Mn]−16.9×[Ni]+29.1×[Si]+16.9×[Cr]+6.38×[W] ・・・(2)
(但し、[(元素名)]は各元素の含有量(質量%)を示す。)
(a)再結晶温度に影響を及ぼす因子であるTi、Nb、V、冷延率について、Ti、Nb、またはVを含有させ、冷延率を小さくし、且つ
(b)Ac1点の設定に影響を及ぼす因子であるMn、Siについて、Mnを含有させる一方、Si量は抑制することが有効である
ことから、上記(1)式を定めた次第である。
冷延後の均熱温度を(Ac1+50)℃以上に定めたのは、高強度化に有用なマルテンサイトを確保し、且つ、耐遅れ破壊特性および曲げ加工性の両立に有用なフェライト粒のアスペクト比の低減化を図るためである。均熱温度が(Ac1+50)℃未満であると、所望のマルテンサイト量を確実に確保することができない。また、フェライト粒のアスペクト比を所定以下にさせるためには再結晶を適度に進行させる必要があり、このような観点からも(Ac1+50)℃以上に定めた。なお、前述したようにAc1点を超えるとオーステナイトが生成するため、Ac1点以下の場合と比べてフェライトの再結晶が抑制されるが、Ac1点より高い温度で比較すると温度が高くなるほど再結晶が進行しやすくなるのである。好ましい均熱温度の下限は、(Ac1+60)℃であり、より好ましくは(Ac1+70)℃である。
上記のようにして得られた鋼板を、板幅方向に垂直な断面で切断し、t/4位置(t:板厚)付近の約20μm×20μmの測定領域をSEM(走査型電子顕微鏡)により倍率4000倍で観察し、画像解析を行いマルテンサイトとフェライトの分率を測定した。フェライト粒の平均粒径については、観察一視野においてフェライト粒の平均面積を求め、その円相当径をフェライト粒の平均粒径とした。アスペクト比については、観察一視野において縦方向(板厚方向)と横方向(圧延方向)にランダムにそれぞれ5本ずつ線を引き、縦線、横線のそれぞれについてフェライト粒を横切る線の長さの平均を求め、平均アスペクト比を(平均横線長さ)/(平均縦線長さ)として求めた。測定は任意の5視野について行い、組織分率、フェライトの粒径およびアスペクト比についてそれぞれ算術平均を求めた。
鋼板からJIS13号B試験片を採取し、JIS Z2241に従って引張強度(TS)および全伸び(EL)を測定した。
JIS13号B試験片に、日本自動車工業規格(JASO)のCCT試験を7サイクル実施した後、直ちにSSRT(Slow Strain Rate Technique:低歪み速度試験)を実施し(クロスヘッド速度:0.05mm/min)、前記試験片の長軸方向に引張負荷を与えて伸びを測定した。CCT試験を施す前と後での伸びの減少率を評価し、伸びの減少率が20%以下の場合を○、20%を超える場合を×とした。
サイズが20mm×70mmの試験片を用いて、曲げ稜線が板幅方向と垂直になるように90°V曲げ試験を行った。曲げ半径Rを適宜変化させて試験を実施し、試験片に割れが発生することなく曲げ加工できる最小曲げ半径Rminを求めた。最小曲げ半径RminがRmin≦2.5t(t:板厚)の場合を合格とした。
Claims (9)
- C :0.05〜0.25%(質量%の意味。化学成分組成について、以下同じ。)、
Si:1.00〜2.5%、
Mn:2.0〜4.0%、
P :0.1%以下(0%を含まない)、
S :0.05%以下(0%を含まない)、
Al:0.01〜0.15%、
Ti:0.003〜0.10%、
N :0.01%以下(0%を含まない)
を含有し、残部が鉄および不可避不純物であり、
フェライトとマルテンサイトを含有する複合組織鋼板であって、
フェライトが10〜50面積%、マルテンサイトが50面積%以上であり、
フェライト粒の平均粒径が2.0μm以下で、且つ、フェライト粒の平均アスペクト比が2.0以下であり、
引張強度が1100MPa以上であることを特徴とする耐水素脆化特性および加工性に優れた超高強度鋼板。 - 前記マルテンサイトが55面積%以上である請求項1に記載の超高強度鋼板。
- 前記マルテンサイトが60面積%以上である請求項1に記載の超高強度鋼板。
- 更に、
Nb:0.003〜0.20%および/またはV:0.003〜0.20%を含有し、
Ti、NbおよびVの含有量の合計が0.25%以下である請求項1〜3のいずれかに記載の超高強度鋼板。 - 更に、
Cu:0.01〜1.0%、
Ni:0.01〜1.0%、および
Cr:0.01〜1.0%
よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の超高強鋼板。 - 更に、
Mo:0.01〜1.0%および/またはW:0.01〜1.0%を含有する請求項1〜5のいずれかに記載の超高強度鋼板。 - 更に、
B:0.0001〜0.005%を含有する請求項1〜6のいずれかに記載の超高強度鋼板。 - 更に、
Ca:0.0005〜0.005%、
Mg:0.0005〜0.005%、および
REM:0.0005〜0.005%
よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1〜7のいずれかに記載の超高強度鋼板。 - 溶融亜鉛めっきまたは合金化溶融亜鉛めっきが施されている請求項1〜8のいずれかに記載の超高強度鋼板。
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