JP6048382B2 - 高強度冷延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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即ち、特許文献1に開示された技術は、マルテンサイトが面積率で35%以下の鋼では効果が得られるものの、マルテンサイトが面積率で35%を超える鋼では、オ−ステナイト(γ)単相域焼鈍時に粗大化し、焼鈍後に粗大なマルテンサイトを形成するので十分な微細化効果が得られなかった。このため、微細粒組織でTS980MPa級以上、とりわけTS1180MPa級以上の強度と延性および伸びフランジ性を高いレベルで両立することは困難であった。また、複合組織鋼の延性向上にはSiの添加が有効であるが、Siを1%以上添加すると変態点が高くなりすぎるため、細粒化が困難になるという問題があった。このため、Si添加による延性向上という効果を十分に発揮することが困難であった。また、TS980MPa級以上の鋼板、とりわけTS1180MPa級以上で強度と延性のバランスおよび伸びフランジ性に優れる高強度鋼板を安定的に量産することは困難であった。
本発明者らは、引張強度が980MPa以上の高い強度と高い延性を有する高強度冷延鋼板を得るために鋭意検討を重ねた。その結果、以下の知見を得た。
Tiを0.07%以上と多量に添加し、焼鈍工程では1.5℃/s以上の加熱速度で昇温後、2相温度域のうち比較的低い温度域で均熱することにより、細粒組織が得られ、優れた強度と延性のバランスを有する高強度鋼板が得られることがわかった。また、2相温度域での焼鈍で結晶粒の細粒化が可能なため、Siを1%以上添加した、変態点の高い鋼においても細粒組織が得られることもわかった。本発明では、マルテンサイトの面積率が高い場合でも細粒組織が得られるので、軟質な焼もどしマルテンサイトを活用してTS≧980MPaを得ることが可能であり、高い強度と高い延性に加えて高い伸びフランジ性も付与することが可能になった。
[1]成分組成は、質量%で、C: 0.08〜0.20%、Si: 0.5〜2.5%、Mn: 1.6〜3.0%、P: 0.05%以下、S: 0.005%以下、Al: 0.01〜0.10%、N: 0.006%以下、Ti: 0.07〜0.20%を含有し、さらにC、Ti添加量が下記式(1)および式(2)を満たし、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、鋼組織は、面積率で25〜90%の焼もどしマルテンサイトと10〜75%のフェライトと5%未満のマルテンサイト(ただし0%も含む)からなり、さらに、フェライトの平均結晶粒径が3.5μm以下であり、焼もどしマルテンサイトの平均結晶粒径が3.0μm以下であることを特徴とする高強度冷延鋼板。
[Ti*] = [Ti] − 48/14[N]≧ 0.07 …(1)
[C*] = [C] − 12/48×[Ti]≧ 0.06 …(2)
ただし、[M]は合金元素の含有量(質量%)
[2]質量%で、さらに、Nbを0.02〜0.10%含み、前記式(2)に変えて、下記式(3)を満たすことを特徴とする前記[1]に記載の高強度冷延鋼板。
[C*] = [C]−12/48×[Ti]−12/93×[Nb]≧ 0.06 …(3)
[3]質量%で、さらに、Bを0.0002〜0.0020%含むことを特徴とする前記[1]または[2]に記載の高強度冷延鋼板。
[4]質量%で、さらに、V:0.01〜0.30%、Mo:0.01〜0.30%、Cr:0.01〜0.30%のいずれか1種以上を含むことを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれかに記載の高強度冷延鋼板。
[5]質量%で、さらに、Cu:0.01〜0.30%、Ni:0.01〜0.30%のいずれか1種以上を含むことを特徴とする前記[1]〜[4]のいずれかに記載の高強度冷延鋼板。
[6]質量%で、さらに、Sn: 0.001〜0.100%、Sb: 0.001〜0.100%、Ca: 0.0002〜0.0100%、W: 0.01〜0.10%、Co: 0.01〜0.10%、REM: 0.0002〜0.0050%のいずれか一種以上を含むことを特徴とする前記[1]〜[5]のいずれかに記載の高強度冷延鋼板。
[7]前記[1]〜[6]のいずれかに記載の高強度冷延鋼板を製造する方法であって、溶鋼を連続鋳造することにより得られたスラブを1200℃以上に加熱し、熱延圧延および冷間圧延を行い作製した冷間圧延板を、連続焼鈍炉にて680〜AC3 − 50℃の温度域を1.5℃/s以上の平均昇温速度で加熱後、T1℃で1〜10分間均熱保持したのち、T1〜550℃の温度域を平均冷却速度2〜100℃/sで冷却し、次いで550〜50℃の温度域を平均冷却速度10〜2000℃/sで冷却した後に、T2℃まで再加熱し、1〜15分間均熱保持することを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
ただし、
AC3(℃) = 910 − 203 ([C] − 12/48[Ti] − 12/93[Nb])0.5+ 44.7[Si] − 30[Mn] + 700[P] + 400[Al] − 11[Cr] + 31.5[Mo]
[M]は合金元素の含有量(質量%)
T1: 750℃からAC3 − 20℃の範囲の温度、T2: 100℃から500℃の範囲の温度
なお、本明細書において、鋼の成分を示す%はすべて質量%である。
その結果、自動車骨格部材用途として要求されている、強度と延性のバランスおよび伸びフランジ性に優れた高強度鋼板の供給が可能となり、本発明の自動車、鉄鋼産業界における利用価値は極めて大きい。
本発明の高強度冷延鋼板は、成分組成として、質量%で、C: 0.08〜0.20%、Si: 0.5〜2.5%、Mn: 1.6〜3.0%、P: 0.05%以下、S: 0.005%以下、Al: 0.01〜0.10%、N: 0.006%以下、Ti: 0.07〜0.20%を含有し、さらにC、Ti添加量が下記(1)式および(2)式を満たし、残部はFeおよび不可避的不純物からなる。鋼組織は、面積率で25〜90%の焼もどしマルテンサイトと10〜75%のフェライトと5%未満のマルテンサイト(ただし0%も含む)からなり、さらに、フェライトの平均結晶粒径が3.5μm以下であり、焼もどしマルテンサイトの平均結晶粒径が3.0μm以下である。
[Ti*] = [Ti] − 48/14[N]≧ 0.07 …(1)
[C*] = [C] − 12/48×[Ti]≧ 0.06 …(2)
ただし、[M]は合金元素の含有量(質量%)
鋼の成分組成のうち、特に、C量、Ti添加量は重要な要件である。また、焼鈍条件を適正に制御することにより、焼もどしマルテンサイトが面積率で25〜90%の範囲となる微細組織を有することも重要な要件である。
C: 0.08〜0.20%
Cはマルテンサイトの強化に有効である。しかしながら、添加量が0.08%未満ではTS≧980MPaの優れた強度と延性の両立が困難となる。一方、添加量が0.20%を超えると、フェライトと焼もどしマルテンサイトの硬度差が過度に大きくなって伸びフランジ性を劣化させる。さらに、細粒化に寄与するTiCが粗大化して細粒化効果を低下させ、延性、伸びフランジ性を著しく劣化させる。このため、C量は0.08%以上0.20%以下の範囲とする。好ましくは0.10%以上0.18%以下とする。
Siはフェライトの強化と加工硬化率そのものの向上による強度と延性のバランスの向上に有効である。さらに、Siは炭化物の生成および成長抑制効果を通して炭化物を微細に分散させ、組織の細粒化を促進する。しかしながら、980MPa以上の引張強度を有する高強度鋼板においては、添加量が0.5%未満では十分な効果は得られない。一方、2.5%を超えると、組織微細化に寄与するTi炭化物の生成を過度に遅延させて組織微細化の効果が小さくなり、さらに鋼組織にフェライトが過剰に生成したりフェライト粒径が粗大化したりするため強度および強度と延性のバランスが劣化する。さらに、鋼板表層にSi酸化物が生成することにより化成処理性も劣化する。よって、Si量は0.5%以上2.5%以下の範囲とする。好ましくは0.8%以上2.0%以下とする。
Mnは鋼板の強化に有効な元素である。しかしながら、添加量が1.6%未満では980MPa以上の引張強度が安定して得られない。一方、Mn量が3.0%を超えると、鋳造時の偏析によりフェライトとマルテンサイトが帯状に分布した鋼組織を呈するため、強度と延性のバランスや曲げ性、伸びフランジ性が劣化する。このため、Mn量は1.6%以上3.0%以下の範囲とする。好ましくは1.8%以上2.5%以下とする。
Pはフェライトの強化に有効な元素であり、適量添加することにより強度と延性のバランスが向上する。しかしながら、0.05%を超えると、鋳造時のオ−ステナイト粒界へのP偏析に伴う粒界脆化により、局部延性の劣化を通じて強度と延性のバランスが劣化する。このため、P量は0.05%以下とする。好ましくは0.02%以下とする。
S量が0.005%を超えると、Mn硫化物が過剰に生成するため伸びフランジ性が劣化する。このため、S量は0.005%以下とする。また、スケ−ル剥離性の向上による表面品質向上の観点からSは0.001%以上が好ましく、さらに好ましくは0.001%以上0.003%以下とする。
Alは自身が酸化物を形成することによってSiなどの酸化物を低減するため、延性を改善する効果がある。しかしながら、0.01%未満では有意な効果は得られない。一方、0.10%を超えてAlを過度に添加すると、AlとNとが結合して窒化物が形成され鋳造時にオ−ステナイト粒界上に析出して粒界脆化させるため、伸びフランジ性を劣化させる。よって、Al量は0.01%以上0.10%以下とする。好ましくは0.01%以上0.05%以下とする。
NはAlおよびTiと窒化物を形成し、上記のように伸びフランジ性を劣化させる。N量が0.006%を超えるとTi窒化物、Al窒化物により伸びフランジ性が顕著に劣化する。また、固溶Nの増加による伸びの低下も著しい。よって、N量は0.006%以下とする。好ましくは0.004%以下とする。
Tiは焼鈍加熱中にTiCとして析出し、鋼板の再結晶温度を上昇させて、焼鈍中に未再結晶の加工フェライトからオ−ステナイトが生成することにより、鋼組織を顕著に微細化する。しかし、0.07%未満ではこの効果が小さいばかりか、組織の不均一化を招いて強度と延性のバランスおよび伸びフランジ性が劣化する。一方、0.20%を超えると微細化の効果が飽和するばかりか、微細化にも強度上昇にも寄与しない粗大な炭化物がスラブ加熱後も残存するため、強度、強度と延性のバランスおよび伸びフランジ性が劣化する。よって、Ti量は0.07%以上0.20%以下とする。
[Ti*] = [Ti] − 48/14[N]≧ 0.07 …(1)
[C*] = [C] − 12/48×[Ti]≧ 0.06 …(2)
ただし、[M]は合金元素の含有量(質量%)
以下に、この理由について説明する。
Ti*は、TiCとして析出し、鋼組織の微細化に寄与する実効的なTi量を表し、組織の細粒化を通じて強度と延性のバランスを向上させる。
C*はマルテンサイトの強化に寄与する実効的なC量を表し、C*が0.06未満ではマルテンサイト強度が不足して鋼板の加工硬化能が低下するため、所定の強度および強度と延性のバランスを得られない。よって、C*は0.06以上とする。一方、0.15を超えるとフェライトとマルテンサイトの硬度差が大きくなって伸びフランジ性が劣化する場合があるので、0.15以下が好ましい。さらに好ましくは0.08以上0.15以下とする。
また、Nbを添加する場合は、Nbで析出固定されるC量を考慮し、[C*]は、上記(2)式に変えて、下記の式(3)とする。
[C*] = [C]−12/48×[Ti]−12/93×[Nb]≧ 0.06 …(3)
上記以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。
NbはTiと同様に組織を微細化する効果を有するため、必要に応じて添加してもよい。Nb量が0.02%未満ではこの効果は小さい。また、0.10%を超えて添加しても組織微細化の効果が飽和するばかりか、粗大なTi、Nb複合炭化物を形成して強度と延性のバランスおよび伸びフランジ性を劣化させる。さらに製造コストも増大する。よって、Nbを添加する場合は、0.02%以上0.10%以下とする。好ましくは0.04%以上0.08%以下とする。
Bは、連続焼鈍における加熱時にオ−ステナイト粒界に偏析し、冷却時のオ−ステナイトからのフェライト変態およびベイナイト変態を抑制して、焼もどしマルテンサイトの形成を容易化する。このようにBの添加は鋼板の強化に有効であり、必要に応じて添加してもよい。B量が0.0002%未満では、この効果は小さい。一方、B量が0.0020%を超えると、この効果は飽和する。よって、Bを添加する場合は、0.0002%以上0.0020%以下とする。
V:0.01〜0.30%、Mo:0.01〜0.30%、Cr:0.01〜0.30%のいずれか1種以上
V: 0.01〜0.30%
VとCとが結合して形成される微細炭化物は鋼板の析出強化に有効であり、Vを必要に応じて添加してもよい。V量が0.01%未満では効果が小さい。一方、V量が0.30%を超えると、炭化物が過剰に析出して強度と延性のバランスが劣化する場合がある。よって、Vを添加する場合は、0.01%以上0.30%以下とする。
Mo: 0.01〜0.30%
Moは鋼板の焼入強化に有効であり、鋼組織の微細化効果も有するので必要に応じて添加してもよい。Mo量が0.01%未満では効果は小さい。一方、Mo量が0.30%を超えると、効果が飽和するばかりか、連続焼鈍時に鋼板表面にMo酸化物の形成が促進され、鋼板の化成処理性が低下する場合がある。よって、Moを添加する場合は、0.01%以上0.30%以下とする。
Crは鋼板の焼入強化に有効であり、必要に応じて添加してもよい。Cr量が0.01%未満では強化能が小さい。一方、添加量が0.30%を超えると、連続焼鈍時に鋼板表面にCr酸化物の生成が促進されるため、鋼板の化成処理性が低下する場合がある。よって、Crを添加する場合は、0.01%以上0.30%以下とする。
Cu: 0.01〜0.30%
Cuは連続焼鈍の冷却時にオ−ステナイトからのフェライト変態およびベイナイト変態を抑制して、焼もどしマルテンサイトの形成を容易化する。このようにCuは鋼板の強化に有効であり、必要に応じて添加してもよい。Cu量が0.01%未満では、この効果は小さい。一方、Cu量が0.30%を超えると、フェライト変態が過度に抑制されて延性が低下する。よって、Cuを添加する場合は、0.01%以上0.30%以下とする。
Ni: 0.01〜0.30%
Niは連続焼鈍の冷却時のオ−ステナイトからのフェライト変態およびベイナイト変態を抑制して、焼もどしマルテンサイトの形成を容易化する。このように、Niは鋼板の強化に有効であり、必要に応じて添加してもよい。Ni量が0.01%未満では、この効果は小さい。一方、Ni量が0.30%を超えると、フェライト変態が過度に抑制されて延性が低下する。よって、Niを添加する場合は、0.01%以上0.30%以下とする。
Sn: 0.001〜0.100%、Sb: 0.001〜0.100%
Sn、Sbはいずれも表面酸化や脱炭、窒化を抑制する効果を有するため、必要に応じて含有することができる。しかしながら、添加量がそれぞれ0.001%未満ではその効果は小さい。一方、添加量がそれぞれ0.100%を超えてもその効果は飽和する。よって、Sn、Sbを添加する場合は、各々0.001%以上0.100%以下とする。好ましくは0.005%以上0.010%以下とする。
Ca: 0.0002〜0.0100%
Caは、硫化物の形態制御や粒界強化、固溶強化を通じて延性を向上する効果を有するため、必要に応じて含有させることができる。しかしながら、0.0002%未満ではその効果は小さい。一方、過度に添加すると粒界偏析などにより延性が劣化する場合がある。よって、Caを添加する場合は、0.0002%以上0.0100%以下とする。
W: 0.01〜0.10%、Co: 0.01〜0.10%
W、Coはいずれも硫化物の形態制御や粒界強化、固溶強化を通じて延性を向上する効果を有するため、必要に応じて含有させることができる。しかしながら、0.01%未満ではその効果は小さい。一方、過度に添加すると粒界偏析などにより延性が劣化する場合がある。よって、W、Coを添加する場合は、各々0.01%以上0.10%以下とする。
REM: 0.0002〜0.0050%
REMは、硫化物の形態制御や粒界強化、固溶強化を通じて延性を向上する効果を有するため、必要に応じて含有させることができる。しかしながら、0.0002%未満ではその効果は小さい。一方、過度に添加すると粒界偏析などにより延性が劣化する場合がある。よって、REMを添加する場合は、0.0002%以上0.0050%以下とする。
本発明の目的とするTS≧980MPaで強度と延性のバランスおよび伸びフランジ性に優れる高強度冷延鋼板を得るには、鋼組織が、面積率で25〜90%の焼もどしマルテンサイトと10〜75%のフェライトと5%未満のマルテンサイト(ただし0%も含む)からなり、さらにフェライトの平均結晶粒径が3.5μm以下であり、焼もどしマルテンサイトの平均結晶粒径が3.0μm以下を満足する必要がある。
鋼組織として焼もどしマルテンサイトを含むことにより、鋼板強度が増加する。しかしながら、焼もどしマルテンサイトが面積率で25%未満ではTS≧980MPaを安定して得られないばかりか、焼鈍均熱後の冷却中に粗大なフェライトと焼もどしマルテンサイトが生成するため、強度と延性のバランスが劣化する。一方、90%を超えると、延性の低い焼もどしマルテンサイトが過度に増加するため、良好な強度と延性のバランスが得られない。よって、焼もどしマルテンサイトは面積率で25%以上90%以下とする。強度確保および冷却時の粗大なフェライトと焼もどしマルテンサイトの生成を抑制する観点から、面積率で35%超が好ましく、さらに好ましくは面積率で45%超とする。
鋼組織としてフェライトを含むことにより、鋼板の延性が向上する。しかしながら、フェライトが面積率で10%未満では、延性を担うフェライトが不足するため良好な強度と延性のバランスが得られない。また、75%超えでは、TS≧980MPaを安定して得られないばかりか、焼鈍均熱後の冷却中に粗大なフェライトが生成するため、強度と延性のバランスが劣化する。よって、フェライトは面積率で10%以上75%以下とする。
鋼組織としてマルテンサイトを含むと、硬度差が大きいフェライト−マルテンサイト界面で割れが生じて伸びフランジ性が劣化するため、できるだけ少ない方が好ましい。マルテンサイトが面積率で5%以上では、穴広げ性が顕著に劣化して本発明において目標とする伸びフランジ性が得られない。このため、マルテンサイトは面積率で5%未満とする。好ましくは2%未満とする。
フェライトの微細化により鋼板の加工硬化能が向上しより強度と延性のバランスが向上する。しかしながら、平均結晶粒径が3.5μmを超えるとその効果は著しく低下する。このため、フェライトの平均結晶粒径は3.5μm以下とする。また、過度に微細化すると強度と延性のバランスが劣化するため、0.5μm以上が好ましい。さらに好ましくは0.5μm以上2.0μm以下とする。
焼もどしマルテンサイトの微細化により鋼板の強度と延性のバランスが向上する。しかしながら、平均結晶粒径が3.0μmを超えるとその効果は著しく低下する。このため、焼もどしマルテンサイトの平均結晶粒径は3.0μm以下とする。また、過度に微細化すると強度と延性のバランスが劣化するため、0.5μm以上が好ましい。さらに好ましくは0.5μm以上2.0μm以下とする。
なお、上記鋼組織は、鋼成分、熱間圧延時のスラブ加熱温度および焼鈍条件を適正に制御することにより、得ることができる。
上記の成分組成に調整した鋼を転炉などで溶製し、連続鋳造法等でスラブとする。このスラブを高温状態のまま、あるいは冷却した後、1200℃以上に加熱してから、熱間圧延を施し、次いで熱延鋼板表面の酸化スケ−ルを酸洗により除去し、冷間圧延後、連続焼鈍炉にて680〜AC3 −50℃の温度域を平均昇温速度1.5℃/s以上で加熱する。次いで、750〜AC3 −20℃の範囲の温度T1で1〜10分均熱保持した後、T1〜550℃の温度域を平均冷却速度1〜100℃/sで冷却し、次いで、550〜50℃の温度域を平均冷却速度10〜2000℃/sで冷却した後に、100〜500℃の範囲の温度T2まで再加熱し1〜15分間均熱保持する。
ただし、上記において、
AC3(℃) = 910 − 203 ([C] − 12/48[Ti] − 12/93[Nb])0.5+ 44.7[Si] − 30[Mn] + 700[P] + 400[Al] − 11[Cr] + 31.5[Mo]
[M]は合金元素の含有量(質量%)
T1: 750℃〜AC3 − 20℃の範囲の温度、T2: 100℃〜500℃の範囲の温度
である。
上記の工程において、スラブの加熱温度が1200℃未満ではTiが十分に固溶せず、Ti炭化物が粗大なまま残存するため、後の焼鈍工程での組織微細化効果が不十分となる。よって、スラブ加熱温度は1200℃以上とする。なお、好ましくは1250℃以上である。
熱間圧延の仕上圧延温度は特に限定されるものではないが、Ar3変態点未満では圧延中にオ−ステナイト、フェライトの二相組織となり、鋼板にバンド状組織が生成しやすくなり、かかるバンド状組織は冷間圧延後や焼鈍後にも残留し、強度と延性のバランスを劣化させたり材料特性の異方性を助長させたりする原因となる場合がある。よって、仕上圧延温度はAr3変態点以上とすることが好ましい。
熱間圧延終了後の巻取温度も特に限定されるものではないが、巻取後の冷却中にTi炭化物が粗大かつ過剰に生成し、組織微細化の効果を低下させる場合があるので、650℃以下が好ましい。一方、巻取温度が500℃未満では後の冷間圧延の荷重が顕著に増加して生産性を阻害するため、500℃以上が好ましい。また、組織微細化促進の観点から、さらに好ましくは500℃以上580℃以下である。
酸洗条件は特に制限されるものではなく、常法に従えばよい。
冷間圧延条件は特に限定されるものではなく、常法に従えばよいが、焼鈍加熱時のオ−ステナイト核生成サイトを増やし、組織微細化を促進するという観点から、圧下率は40%以上とするのが好ましい。一方、圧下率を上げすぎると圧延が困難になり生産性を阻害する場合があるため、90%以下とすることが好ましい。
680〜AC3 −50℃の温度域の平均加熱速度を1.5℃/s以上とすることにより、組織の微細化が促進される。これは、ひずみが付与されたフェライトからオ−ステナイト核生成が微細に起こるためである。1.5℃/s未満ではその効果は小さい。一方、過度に急速加熱すると、オ−ステナイトがバンド組織状に成長して曲げ性や伸びフランジ性が劣化するので、50.0℃/s以下とすることが好ましい。さらに好ましくは3.0℃/s以上30.0℃/s以下とする。ただし、焼鈍温度T1がAC3 − 50℃未満となる場合の上記平均昇温速度は680〜T1の温度域の平均昇温速度とする。
適正な昇温速度で加熱後、750℃〜AC3 − 20℃の2相温度域で1〜10分間均熱保持することで、未再結晶のフェライトからオ−ステナイトが均一微細に核生成し、次いでフェライトが再結晶するため、焼もどしマルテンサイト面積率が35%超でも細粒組織が得られ、高い強度と延性を付与することができる。
焼鈍温度T1が750℃未満では、均熱時のオ−ステナイト相が少ないため強度確保に必要なマルテンサイト分率が得られず、さらに延性が低い未再結晶フェライトが過剰に残留して延性が顕著に劣化する。一方、AC3 − 20℃を超えると均熱中にオ−ステナイトが粗大化し、とりわけ、焼もどしマルテンサイト面積率が高い場合にフェライトと焼もどしマルテンサイトが粗大化して細粒組織が得られないため、強度と延性のバランスが劣化する。このため、焼鈍温度は750℃以上AC3 − 20℃以下する。好ましくは780℃以上とする。
均熱時間が1分間未満では、均熱時のオ−ステナイトが少なく面積率で25%以上の焼もどしマルテンサイトが得られなくなり980MPa以上の引張強度が得られない。一方、10分間を超えると、均熱中にオ−ステナイトが粗大化し、とりわけ、焼もどしマルテンサイト面積率が高い場合にフェライトと焼もどしマルテンサイトが粗大化して細粒組織が得られなくなり、強度と延性のバランスが劣化する。よって、均熱時間は1分間以上10分間以下とする。
T1〜550℃の温度域ではフェライトが生成するため、この温度域での冷却速度を適正に制御することによってフェライト分率を制御する必要がある。T1〜550℃の温度域の平均冷却速度が2℃/s未満では、面積率で25%以上の焼もどしマルテンサイトが得られないばかりか、冷却中に粗大なフェライトと焼もどしマルテンサイトが生成する。一方、100℃/sを超えると、冷却中のフェライト変態が過度に抑制され、優れた強度と延性のバランスが得られない。よって、T1〜550℃の温度域の平均冷却速度は2℃/s以上100℃/s以下とする。強度確保の観点からは5℃/s以上とすることが好ましく、強度と延性のバランスの観点から50℃/s以下とすることが好ましい。さらに好ましくは10℃/s以上30℃/s以下とする。なお、冷却は、ガス冷却、ミスト冷却、ロ−ル冷却などを用いるか、あるいはこれらを組み合わせて冷却することも可能である。
550〜50℃の温度域ではベイナイトが生成してベイナイトが生成することによって強度および強度-延性バランスが低下するため、550〜50℃の温度域の冷却速度を適正に制御する必要がある。550〜50℃の温度域の平均冷却速度が10℃/s未満では、冷却中のベイナイト変態に伴いマルテンサイトが生成して伸びフランジ性が顕著に劣化する。一方、2000℃/sを超える冷却速度を得るには、大幅な設備改造が必要となる。よって、550〜50℃の温度域の平均冷却速度は10℃/s以上2000℃/s以下とする。強度確保および伸びフランジ性の観点からは500℃/s以上とすることが好ましい。なお、冷却は水冷が好ましいが、ガス冷却、ミスト冷却、ロ−ル冷却などを用いるか、あるいはこれらを組み合わせて冷却することも可能である。
適度な温度および時間で焼もどし処理を施すことにより、組織の細粒化により高い強度と延性を確保しつつ、高い伸びフランジ性も付与することができる。再加熱温度が100℃未満では、マルテンサイトが十分に焼もどしされず伸びフランジ性が劣化する。一方、500℃を超えると、焼もどしが過度に急激に進行してマルテンサイトがフェライトと炭化物に分解して軟化するため980MPa以上の引張強度が得られないばかりか、加工硬化能の低下により強度と延性のバランスも低下する。さらに、粗大な炭化物が生成することにより穴広げ性が劣化する。このため、再加熱温度は100℃以上500℃以下とする。
均熱時間が1分間未満では、マルテンサイトの焼もどしが不十分となるため、伸びフランジ性が劣化する。また、15分間を超えると焼もどしの効果が飽和するばかりか、焼もどしが過度に進行してマルテンサイトがフェライトと炭化物に分解して軟化するため980MPa以上の引張強度が得られない。また、加工硬化能の低下により強度と延性のバランスも低下する。このため、均熱時間は1分間以上15分間以下とする。強度と延性のバランスおよび量産性の観点からは3分間以上12分間以下が好ましい。なお、再加熱後室温に戻すまでの冷却は、空冷、炉冷却、ガス冷却、ミスト冷却、ロ−ル冷却、水冷などで行うことができる。
表1に示す成分組成を有するスラブを表2に示す条件でスラブ加熱後、常法に従い熱間圧延して3.6mmの熱延板とした。ここで、仕上圧延の最終パスの圧延温度はAr3変態点以上とし、巻取温度は560℃とした。この熱延板を常法に従い酸洗後、圧下率61%で冷間圧延して冷延板とした。この冷延板を表2に示す条件で焼鈍して製品板とした。
以上により得られた製品板に対して、鋼組織、引張強度、破断伸び、穴広げ率を測定した。なお、測定方法は以下に示す通りである。
Claims (7)
- 成分組成は、質量%で、C: 0.08〜0.20%、Si: 0.5〜2.5%、Mn: 1.6〜3.0%、P: 0.05%以下、S: 0.005%以下、Al: 0.01〜0.10%、N: 0.006%以下、Ti: 0.07〜0.20%を含有し、さらにC、Ti添加量が下記式(1)および式(2)を満たし、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、
鋼組織は、面積率で25〜90%の焼もどしマルテンサイトと10〜75%のフェライトと5%未満のマルテンサイト(ただし0%も含む)からなり、さらに、フェライトの平均結晶粒径が3.5μm以下であり、焼もどしマルテンサイトの平均結晶粒径が3.0μm以下であることを特徴とする、引張強度(TS)≧980MPaであり、 TS≧1320MPaの鋼板はTS×破断伸び(El)≧16000MPa・%かつ穴広げ率(λ)≧25%、1320MPa >TS≧1180MPaの鋼板はTS×El≧16500MPa・%かつλ≧30%、1180MPa >TS≧980MPaの鋼板はTS×El≧17000MPa・%かつλ≧35%である高強度冷延鋼板。
[Ti*] = [Ti] − 48/14[N]≧ 0.07 …(1)
[C*] = [C] − 12/48×[Ti]≧ 0.06 …(2)
ただし、[M]は合金元素の含有量(質量%) - 質量%で、さらに、Nbを0.02〜0.10%含み、前記式(2)に変えて、下記式(3)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の高強度冷延鋼板。
[C*] = [C]−12/48×[Ti]−12/93×[Nb]≧ 0.06 …(3) - 質量%で、さらに、Bを0.0002〜0.0020%含むことを特徴とする請求項1または2に記載の高強度冷延鋼板。
- 質量%で、さらに、V:0.01〜0.30%、Mo:0.01〜0.30%、Cr:0.01〜0.30%のいずれか1種以上を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の高強度冷延鋼板。
- 質量%で、さらに、Cu:0.01〜0.30%、Ni:0.01〜0.30%のいずれか1種以上を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の高強度冷延鋼板。
- 質量%で、さらに、Sn: 0.001〜0.100%、Sb: 0.001〜0.100%、Ca: 0.0002〜0.0100%、W: 0.01〜0.10%、Co: 0.01〜0.10%、REM: 0.0002〜0.0050%のいずれか一種以上を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の高強度冷延鋼板。
- 請求項1〜6のいずれか一項に記載の高強度冷延鋼板を製造する方法であって、溶鋼を連続鋳造することにより得られたスラブを1200℃以上に加熱し、熱延圧延および冷間圧延を行い作製した冷間圧延板を、連続焼鈍炉にて680〜AC3 − 50℃の温度域を1.5℃/s以上の平均昇温速度で加熱後、T1℃で1〜10分間均熱保持したのち、T1〜550℃の温度域を平均冷却速度2〜100℃/sで冷却し、次いで550〜50℃の温度域を平均冷却速度10〜2000℃/sで冷却した後に、T2℃まで再加熱し、1〜15分間均熱保持することを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
ただし、
AC3(℃) = 910 − 203 ([C] − 12/48[Ti] − 12/93[Nb])0.5 + 44.7[Si] −30[Mn] + 700[P] + 400[Al] − 11[Cr] + 31.5[Mo]
[M]は合金元素の含有量(質量%)
T1: 750℃からAC3 − 20℃の範囲の温度、T2: 100℃から500℃の範囲の温度
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