JP2021134389A - 高強度鋼板およびその製造方法ならびに部材およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
[1] 成分組成として、質量%で、C:0.030%以上0.250%以下、
Si:0.01%以上3.00%以下、
Al:0.01%以上2.00%以下、
Mn:3.50%以上10.00%以下、
P:0.001%以上0.100%以下、
S:0.0001%以上0.0200%以下および
N:0.0005%以上0.0100%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
鋼組織が、面積率で、未再結晶フェライトが25%以上75%以下、マルテンサイトが5%以上35%以下であり、体積率で、残留オーステナイトが12%以上50%以下であり、鋼板中の転位密度が4.0×1014m−2以上1.0×1016m−2以下であり、さらに、前記残留オーステナイト中のMn量(質量%)を前記未再結晶フェライト中のMn量(質量%)で除した値が2.0以上であることを特徴とする高強度鋼板。
[2]前記成分組成としてさらに、質量%で、
Cr:1.00%以下、
V:1.00%以下、
Mo:1.00%以下、
Ni:1.00%以下および
Cu:1.00%以下
のうちから選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする[1]に記載の高強度鋼板。
[3]前記成分組成としてさらに、質量%で、
Ti:0.20%以下および
Nb:0.20%以下
のうちから選んだ1種または2種を含有することを特徴とする[1]または[2]に記載の高強度鋼板。
[4]前記成分組成としてさらに、質量%で、
B:0.0050%以下
を含有することを特徴とする[1]から[3]のいずれかに記載の高強度鋼板。
[5]前記成分組成としてさらに、質量%で、
Ca:0.005%以下および
REM:0.005%以下
のうちから選んだ1種または2種を含有することを特徴とする[1]から[4]のいずれかに記載の高強度鋼板。
[6]前記成分組成としてさらに、質量%で、
Sb:0.05%以下および
Sn:0.05%以下
のうちから選んだ1種または2種を含有することを特徴とする[1]から[5]のいずれかに記載の高強度鋼板。
[7][1]〜[6]のいずれかに記載の高強度鋼板であって、さらに、溶融亜鉛めっき層、合金化溶融亜鉛めっき層、溶融アルミニウムめっき層および電気亜鉛めっき層のうちから選ばれる1種を備える高強度鋼板。
[8][1]〜[7]のいずれかに記載の高強度鋼板を製造する方法であって、前記成分組成を有する鋼スラブを1100℃以上1300℃以下に加熱して、仕上げ圧延出側温度を750℃以上1000℃以下で熱間圧延し、巻取り温度を300℃以上750℃以下で巻き取り、熱延板とする熱間圧延工程と、熱間圧延工程後に、酸洗を施しスケールを除去する酸洗工程と、
前記酸洗工程後、(Ac1変態点+20℃)以上(Ac1変態点+120℃)以下の温度域で600s以上21600s以下保持する熱延板焼鈍工程と、
前記熱延板焼鈍工程後、圧下率:15%以上90%未満で冷間圧延して冷延板とする冷間圧延工程と、
前記冷間圧延工程後、(Ac1変態点+20℃)以上(Ac1変態点+100℃)以下の温度域まで5℃/s以上で昇温し、2s以上100s以下保持したのち、5℃/s以上の平均冷却速度で450℃まで冷却した後、室温まで冷却する冷延板焼鈍工程とを備える高強度鋼板の製造方法。
[9][8]に記載の高強度鋼板の製造方法であって、前記冷延板焼鈍工程において、前記5℃/s以上の平均冷却速度で450℃まで冷却した後、350℃以上450℃以下の温度域で10s以上600s以下保持したのち、室温まで冷却することを特徴とする高強度鋼板の製造方法。
[10][8]または[9]に記載の高強度鋼板の製造方法であって、前記冷延板焼鈍工程後に、溶融亜鉛めっき浴に浸漬し、溶融亜鉛めっきを施すことを特徴とする高強度鋼板の製造方法。
[11][10]に記載の高強度鋼板の製造方法であって、前記溶融亜鉛めっきを施した後、合金化処理を施すことを特徴とする高強度鋼板の製造方法。
[12][8]または[9]に記載の高強度鋼板の製造方法であって、前記冷延板焼鈍工程後に、溶融アルミニウムめっき浴に浸漬し、溶融アルミニウムめっきを施すことを特徴とする高強度鋼板の製造方法。
[13][8]または[9]に記載の高強度鋼板の製造方法であって、前記冷延板焼鈍工程後に、電気亜鉛めっきを施すことを特徴とする高強度鋼板の製造方法。
[14][1]から[7]のいずれかに記載の高強度鋼板に対して、成形加工及び溶接の少なくとも一方を施してなることを特徴とする部材。
[15][8]から[13]のいずれかに記載の高強度鋼板の製造方法によって製造された高強度鋼板に対して、成形加工及び溶接の少なくとも一方を施すことを特徴とする部材の製造方法。
Cはオーステナイトを安定化する元素であり、残留オーステナイトの生成に有効に働く。また、マルテンサイトなどの低温変態組織を生成させることで強度上昇にも必要な元素である。C量が0.030%未満では所望のマルテンサイト量や残留オーステナイト量を確保することが難しくなり、高い強度や伸びが得られない。一方、C量が0.250%を超えると、溶接部および熱影響部の硬化が著しくなり、溶接部の機械的特性が劣化する。したがって、C量は0.030〜0.250%の範囲とする。好ましくは、0.08〜0.20%の範囲である。より好ましくは0.10〜0.17%の範囲である。
Siはフェライトを固溶強化によって高強度化するため、強度と延性のバランスを高めるために有効な元素である。しかしながら、Si量が0.01%未満ではその効果は乏しくなるため、下限は0.01%とする。一方、3.00%を超えるSiの過剰な添加は、赤スケールなどの発生による表面清浄の劣化を引き起こす。そのため、Si量は0.01%以上3.00%以下の範囲とする。
Alは、脱酸材として作用し、鋼の清浄化に有効な元素である。しかしながら、Al量が0.01%に満たないとその含有効果に乏しくなるため、下限は0.01%とする。一方で、2.00%を超えると連続鋳造時の鋼片割れのリスクが高くなるため製造性が悪化する。そのため、Al量は0.01%以上2.00%以下の範囲とする。
Mnは本発明において極めて重要な元素である。Mnは残留オーステナイトを安定化させる元素で、良好な延性の確保に有効である。さらに固溶強化によって鋼の高強度化にも有効な元素である。オーステナイト中にMnが十分濃化することで、冷間圧延後の急速加熱と短時間保持でも十分な量の残留オーステナイトが生成する。このような効果は、Mn量が3.50%以上で認められる。一方、Mn量が10.00%を超える過剰な含有は、コストアップの要因となる。よって、Mn量は3.50%以上10.00%以下とする。好ましくは、4.00%以上8.00%以下であり、より好ましくは、4.60%以上6.00%以下である。
Pは固溶強化によって鋼の強化に有効な元素であるため、所望の強度に応じて添加できる元素である。このような効果はP量が0.001%以上で認められる。一方、0.100%を超えて過剰に含有すると、スポット溶接性の著しい劣化を招く。したがって、Pは0.001%以上0.100%以下とする。
SはMnSなどの介在物となって、耐衝撃特性の劣化や溶接部のメタルフローに沿った割れの原因になるので0.0200%以下とする。しかしながら、生産コストの観点から0.0001%以上とする。したがって、Sは0.0001%以上0.0200%以下とする。好ましくは0.0001以上0.0100%以下とする。
Nは、鋼の耐時効性を劣化させる元素である。特に、N量が0.0100%を超えると、耐時効性の劣化が顕著となる。N量は少ないほど好ましいが、生産技術上の制約から、N量は0.0005%以上にする。したがって、N量は0.0005%以上0.0100%以下の範囲とする。好ましくは0.0010%以上0.0070%以下の範囲である。
Cr、V、Mo、Ni、Cuは、鋼の高強度化に有効な元素である。しかし、Cr、V、Mo、Ni、Cuのそれぞれの成分が1.0%以上を超えるとその効果は飽和し、コストアップの要因となる。このため、含有させる場合のそれぞれの成分の上限は1.00%とする。Cr、V、Mo、Ni、Cuによる高強度化の効果を十分に得るためには、少なくとも1種を0.005%以上含有させることが好ましい。より好ましくは、0.02%以上含有させることが好ましい。
Ti、Nbは炭窒化物を形成し、鋼を粒子分散強化により高強度化する作用を有する。しかし、Ti、Nbをそれぞれ0.20%超えて含有しても、過度に高強度化し延性が低下する。このため、含有させる場合のそれぞれの元素の上限は0.20%とする。TiやNbによる粒子分散強化を十分に得るには少なくとも1種を0.01%以上含有させることが好ましい。
Bは粒界偏析しオーステナイト粒界からのフェライトの生成を抑制し強度を上昇させる作用を有する。しかし、Bを0.0050%超えて含有させてもボライドとして析出し、十分な強度を上昇させる効果が得られない。このため、含有させる場合のBの上限は0.0050%とする。Bによる強度上昇作用を十分に得るには少なくとも0.0003%以上含有させることが好ましい。
Ca、REMはいずれも硫化物の形態制御により加工性を改善する効果を有する。しかしながら、過剰な含有は清浄度に悪影響を及ぼす恐れがあるため、含有させる場合のそれぞれの上限は0.005%とする。CaやREMによる加工性を改善させる効果を十分に得るためには少なくとも1種を0.0001%以上含有させることが望ましい。
Sb、Snは脱炭、脱窒、脱硼等を抑制して、鋼の強度低下を抑制する作用を有する。しかしながら、過剰な含有は伸びフランジ性が悪化する可能性があるので、含有させる場合のそれぞれの上限は0.05%とする。SbやSnによる強度低下を抑制する効果を十分に得るためには、少なくとも0.002%以上含有することが好ましい。
本発明の高強度鋼板では、穴広げ率(伸びフランジ性)上昇と降伏応力(YS)上昇のためにフェライトの加工硬化を利用するため、未再結晶フェライトの面積率が非常に重要である。本発明における未再結晶フェライトとは、冷間圧延によって多量に導入された転位が存在するフェライトであり、一般的な焼鈍後の組織で観察される再結晶して転位密度が低いポリゴナルフェライトではない。加工硬化したフェライトによってYSを上昇させるためには未再結晶フェライトの面積率が25%以上必要である。一方で、加工性に乏しい転位硬化した未再結晶フェライトが多すぎると伸びが低下する。十分な延性を確保するためには未再結晶フェライトの面積率は75%以下にする必要がある。したがって、未再結晶フェライトの面積率は25%以上75%以下とする。好ましくは30%以上70%以下である。
マルテンサイトは鋼の高強度化に必要な構成組織である。マルテンサイトによって鋼を高強度化するためにはマルテンサイトの面積率は5%以上必要である。一方で、マルテンサイトの面積率が35%を超えると、伸びが低下する。よって、マルテンサイトの面積率は5%以上35%以下にする必要がある。好ましくは8%以上30%以下である。
ここで、未再結晶フェライトとマルテンサイトの面積率は、以下のようにして求めることができる。鋼板を例えばオイルバスで200℃、2時間熱処理をしてマルテンサイト中に炭化物を析出させる。その鋼板の圧延方向に平行な板厚断面を研磨後、1vol.%ナイタールで腐食し、板厚1/4位置(鋼板表面から深さ方向で板厚の1/4に相当する位置)について、SEM(走査電子顕微鏡)を用いて5000倍の倍率で、25.5μm×19μmの範囲の視野を5視野観察し、組織画像を得る。この得られた画像を用いて、メッシュを描き、各視野240点のポイントカウンティングを行う。未再結晶フェライトは圧延によって伸長したアスペクト比が高い結晶粒であり暗いコントラストを呈し、マルテンサイトは上記の熱処理で焼き戻され、白いコントラストを呈する炭化物が存在する組織として判別される。なお、ポリゴナルフェライトはアスペクト比が小さい暗いコントラストを呈し、セメンタイトおよびパーライトについては、比較的粗大な層状の白いコントラストを呈することから判別される。
本発明の高強度鋼板では、良好な延性を確保するために、残留オーステナイト相のTRIP効果を利用する。TRIP効果によって十分な伸びを得るには残留オーステナイトの体積率が12%以上必要である。一方で、残留オーステナイトの体積率が50%を超えると、残留オーステナイト中のCやMnの濃度が希薄になり不安定化して延性が低下するのみならずYSも低下する。したがって、残留オーステナイトの体積率は12%以上50%以下とする。好ましくは、20%以上40%以下である。
なお、残留オーステナイト相の体積率は、鋼板を板厚方向の1/4面まで研磨し、この板厚1/4面に対してX線回折強度を測定することで求めることができる。入射X線にはMoKα線を使用し、残留オーステナイト相の{111}、{200}、{220}、{311}面とフェライト相の{110}、{200}、{211}面のピークの積分強度の全ての組み合わせについて強度比を求め、これらの平均値を残留オーステナイト相の体積率とする。
本発明の高強度鋼板では、YSとYPElの上昇および穴広げ率の上昇のため、本来軟質相であるフェライトを転位強化によって高降伏応力化している。転位強化量はベイリーハーシュの式から転位密度の1/2乗に比例するため、転位密度の制御は非常に重要である。鋼板中の転位密度が4.0×1014m−2未満では転位強化量が不足し、YRと穴広げ率が低下する。一方で、転位密度が1.0×1016m−2超えでは延性が低下する。よって、鋼板中の転位密度は4.0×1014m−2以上1.0×1016m−2以下とする。好ましくは7.0×1014m−2以上1.0×1016m−2以下である。
なお、鋼板中の転位密度は、X線回折法によって求める。鋼板を板厚方向の1/4面まで化学研磨し、この板厚1/4面に対してX線回折強度を測定する。得られたプロファイルにおいてDF−mWH法(Direct fitting− modified Williamson Hall法)やWA/mWH法(Warren−Averbach method modified Williamson Hall法)といった既知の方法で解析して転位密度を求める。なお、解析には体心立方構造の回折ピークを用いる。この手法を用いると、本発明における鋼板中の転位密度は、未再結晶フェライトとマルテンサイトの両方の転位密度の混合となるが、本発明の転位密度の上下限内にあれば、YSとYPElの上昇および穴広げ率の上昇が達成されることを見出した。
残留オーステナイト中のMn量(質量%)を未再結晶フェライト中のMn量(質量%)で除した値が高いことは、Mnが濃化した安定な残留オーステナイトであることを意味する。残留オーステナイトをMnで安定化するためには、残留オーステナイト中のMn量(質量%)を未再結晶フェライト中のMn量(質量%)で除した値が2.0以上とする必要がある。残留オーステナイト中のMn量(質量%)を未再結晶フェライト中のMn量(質量%)で除した値が2.0未満である場合、引張試験時に早期にマルテンサイト変態してしまうため、降伏応力や伸びを低下させる。なお、残留オーステナイト中のMn量(質量%)を未再結晶フェライト中のMn量(質量%)で除した値の上限値は特に限定されるものではないが、伸びフランジ性の観点から、16.0とすることが好ましい。
鋼スラブの加熱段階で存在している析出物は、最終的に得られる鋼板内では粗大な析出物として存在し、強度に寄与しないため、鋳造時に析出したTi、Nb系析出物を再溶解させる必要がある。鋼スラブの加熱温度が1100℃未満では、炭化物の十分な溶解が困難であり、さらに、圧延荷重の増大による熱間圧延時のトラブル発生の危険が増大するなどの問題が生じる。そのため、鋼スラブの加熱温度は1100℃以上にする必要がある。また、スラブ表層の気泡、偏析などの欠陥をスケールオフし、鋼板表面の亀裂や凹凸を減少し、平滑な鋼板表面を達成する観点からも、鋼スラブの加熱温度は1100℃以上にする必要がある。一方、鋼スラブの加熱温度が1300℃超では、酸化量の増加に伴いスケールロスが増大してしまう。そのため、鋼スラブの加熱温度は1300℃以下にする必要がある。したがって、鋼スラブの加熱温度は1100℃以上1300℃以下の範囲とする。好ましくは1150℃以上1250℃以下の範囲である。
加熱後の鋼スラブは、粗圧延および仕上げ圧延により熱間圧延され熱延板となる。このとき、仕上げ圧延出側温度が1000℃を超えると、酸化物(スケール)の生成量が急激に増大し、地鉄と酸化物の界面が荒れ、酸洗、冷間圧延後の鋼板の表面品質が劣化する傾向にある。また、酸洗後に熱延スケールの取れ残りなどが一部に存在すると、延性や伸びフランジ性に悪影響を及ぼす。さらに、結晶粒径が過度に粗大となり、加工時にプレス
品の表面荒れを生じる場合がある。一方、仕上げ圧延出側温度が750℃未満では、圧延荷重が増大して圧延負荷が大きくなるため製造上好ましくない。したがって、熱間圧延の仕上げ圧延出側温度を750℃以上1000℃以下の範囲にする必要がある。好ましくは800℃以上950℃以下の範囲である。
熱間圧延後の巻取り温度が750℃を超えると、熱延板組織が粗大となり、所望の強度確保が困難となる。一方、熱間圧延後の巻取り温度が300℃未満では、熱延板強度が上昇して、冷間圧延における圧延負荷が増大したり、板形状の不良が発生したりするため、生産性が低下する。したがって、熱間圧延後の巻取り温度を300℃以上750℃以下の範囲にする必要がある。好ましくは400℃以上650℃以下の範囲である。
熱延板焼鈍において、(Ac1変態点+20℃)以上(Ac1変態点+120℃)以下の温度域で600s以上21600s以下保持することは、本発明において極めて重要である。フェライトとオーステナイトの二相域においてMnをオーステナイト中に分配し濃化させるためには、熱延板焼鈍の焼鈍温度(保持温度)が(Ac1変態点+20℃)以上(Ac1変態点+120℃)以下とする必要がある。熱延板焼鈍の保持温度が(Ac1変態点+20℃)未満もしくは保持時間が600s未満となる場合、オーステナイトへの逆変態およびMnの濃化が進行せず、最終焼鈍(冷延板焼鈍)後に未再結晶フェライト量が過多もしくは十分にMnが濃化した残留オーステナイトを確保することが困難となり、延性が低下する。また熱延板焼鈍の保持温度が(Ac1変態点+120℃)超となる場合、二相域においてフェライト量が少なくなるためオーステナイト中へのMnの濃化が進行せず、最終焼鈍(冷延板焼鈍)後、十分にMnが濃化した残留オーステナイトを確保することが困難となり、降伏応力や延性が低下する。一方、保持時間が21600sを超えると、オーステナイト中へのMnの濃化が飽和し、コストアップの要因になる。したがって、熱延板焼鈍では、(Ac1変態点+20℃)以上(Ac1変態点+120℃)以下、好ましくは(Ac1変態点+30℃)以上(Ac1変態点+100℃)以下の温度域で、600s以上21600s以下、好ましくは、1000s以上18000s以下の時間、保持するものとする。
本発明においては、冷間圧延時に導入される転位によってフェライトを強化するため、冷間圧延の圧下率は重要である。最終組織において十分にフェライトを転位強化するためには、圧下率が15%以上必要である。一方で、圧延率が90%以上では、加工硬化が著しくなり製造性が著しく低下する。したがって、圧下率を15%以上90%未満とする。好ましくは30%以上90%未満である。より好ましくは、45%以上90%未満とする。
冷延板焼鈍において、加熱速度、保持温度、冷却速度を制御することは極めて重要である。(Ac1変態点+20℃)以上(Ac1変態点+100℃)以下の温度域まで5℃/s以上で昇温することは、加工誘起マルテンサイトからの炭化物析出を抑制し、続く短時間保持で多量のオーステナイト相を得るために必要である。昇温速度が5℃/s未満であると昇温中に加工誘起マルテンサイトにおいて炭化物が析出し、続く短時間保持で十分な量の残留オーステナイト相を得られない。好ましくは10℃/s以上、より好ましくは15℃/s以上である。冷間圧延によって生じたMnリッチな加工誘起マルテンサイトからオーステナイトへ十分に逆変態させるためには、(Ac1変態点+20℃)以上(Ac1変態点+100℃)以下の温度域で2s以上100s以下保持することが必要である。保持温度が(Ac1変態点+20℃)未満もしくは保持時間が2s未満では逆変態が不十分で残留オーステナイト量が不足する。また、保持温度が(Ac1変態点+100℃)超えもしくは保持時間が100s超えであると、未再結晶フェライトの回復により鋼板中の転位密度が低下したり、再結晶によりポリゴナルフェライトが生成し十分な量の未再結晶フェライトが得られなかったりする。好ましくは、(Ac1変態点+30℃)以上(Ac1変態点+70℃)以下の温度域である。また、保持時間については、好ましくは3s以上50s以下であり、より好ましくは3s以上20s以下である。また、(Ac1変態点+20℃)以上(Ac1変態点+100℃)以下の温度域から5℃/s以上の平均冷却速度で450℃まで冷却することは、冷間圧延によって導入された未再結晶フェライト中の転位密度の低下を抑制するために必要である。平均冷却速度が5℃/s未満であると未再結晶フェライト中で回復や再結晶が生じやすくなり鋼板中の転位密度が低下する。
溶融亜鉛めっき処理を施す場合には、冷延板焼鈍工程後に鋼板を通常の浴温のめっき浴中に浸入させて行い、ガスワイピングなどで付着量を調整する。めっき浴温に際しては、特にその条件を限定する必要はないが、450〜500℃の範囲が好ましい。
プレス性、スポット溶接性および塗料密着性を確保するために、めっき後に熱処理を施してめっき層中に鋼板のFeを拡散させた、合金化溶融亜鉛めっきが多く使用される。このため、本発明においても合金化処理を施すことが好ましい。なお、450℃以上600℃以下の温度域で合金化処理を施すことが好ましい。600℃を超える温度で合金化処理を行うと、未変態オーステナイトがパーライトへ変態し、所望の残留オーステナイトの体積率を確保できず、延性が低下する場合がある。一方、合金化処理の温度が450℃に満たないと、合金化が進行せず、合金層の生成が困難となる。したがって、亜鉛めっきの合金化処理を行うときは、450℃以上600℃以下の温度域で合金化処理を施すことが好ましい。
溶融アルミニウムめっき処理を施すときは、冷延板焼鈍工程後の鋼板をアルミニウムめっき浴中に浸漬して、溶融アルミニウムめっき処理を施し、その後、ガスワイピング等によって、めっき付着量を調整する。
電気亜鉛めっき処理を施すときは、冷延板焼鈍工程後の鋼板を電解溶液中に浸漬して通電することで鋼板表面に亜鉛を析出させる。その際の条件は特に限定しないが、皮膜厚が5μmから15μmの範囲になるように電気亜鉛めっき処理の条件を調整することが好ましい。
Ac1変態点(℃)=751−16×(%C)+11×(%Si)−28×(%Mn)−5.5×(%Cu)−16×(%Ni)+13×(%Cr)+3.4×(%Mo)
ここで、(%C)、(%Si)、(%Mn)、(%Ni)、(%Cu)、(%Cr)および(%Mo)は、それぞれの元素の鋼中含有量(質量%)である。
組織観察について、未再結晶フェライトとマルテンサイトの面積率は、以下のようにして求めた。
鋼板をオイルバスで200℃、2時間熱処理をしてマルテンサイト中に炭化物を析出させた。その鋼板の圧延方向に平行な板厚断面を研磨後、1vol.%ナイタールで腐食し、板厚1/4位置(鋼板表面から深さ方向で板厚の1/4に相当する位置)について、SEM(走査電子顕微鏡)を用いて5000倍の倍率で、25.5μm×19μmの範囲の視野を5視野観察し、組織画像を得た。この得られた画像を用いて、メッシュを描き、各視野240点のポイントカウンティングを行った。未再結晶フェライトは圧延によって伸長した結晶粒であり暗いコントラストを呈し、マルテンサイトは上記の熱処理で焼き戻され、白いコントラストを呈する微細な炭化物が存在する組織として判別される。なお、ポリゴナルフェライトはアスペクト比が小さい暗いコントラストを呈し、セメンタイトおよびパーライトについては、比較的粗大な層状の白いコントラストを呈することから判別される。
残留オーステナイト相の体積率は、鋼板を板厚方向の1/4面まで研磨し、この板厚1/4面に対してX線回折強度を測定することで求めることができる。入射X線にはMoKα線を使用し、残留オーステナイト相の{111}、{200}、{220}、{311}面とフェライト相の{110}、{200}、{211}面のピークの積分強度の全ての組み合わせについて強度比を求め、これらの平均値を残留オーステナイト相の体積率とした。
鋼板中の転位密度は、X線回折法によって求める。鋼板を板厚方向の1/4面まで化学研磨し、この板厚1/4面に対してX線回折強度を測定する。得られたプロファイルを用いてDF−mWH法(Direct fitting− modified Williamson Hall法)やWA/mWH法(Warren−Averbach method modified Williamson Hall法)といった既知の方法で解析して転位密度を求めた。なお、解析には体心立方構造の回折ピークを用いた。
残留オーステナイトおよび未再結晶フェライト中のMn量は、EPMA(電子プローブマイクロアナライザ)を用いて、板厚1/4位置における圧延方向断面の各相へのMnの分布状態を定量化する。そして、20個の残留オーステナイト粒および20個の未再結晶フェライト粒のMn量を分析し、分析結果より得られる各残留オーステナイト粒および未再結晶フェライト粒のMn量をそれぞれ平均することにより、求めた。
<引張特性>
引張特性は、引張試験で評価した。引張試験は、圧延方向に平行に加工したJIS5号試験片に対して、クロスヘッドスピードを10mm/minで行い、TS(引張強度)、YS(降伏応力)、YPEl(降伏点伸び)、El(全伸び)を測定した。本発明では、YSが980MPa以上、YPElは5%以上の時に良好と判定した。また、本発明では延性の指標としてYS×Elの値を採用し、YS×Elの値が25000MPa×%以上であるときに良好と判定した。なお、本発明における降伏応力は、応力―ひずみ曲線における下降伏点を読み取り求めた。また、YPElは、降伏点現象(不連続降伏)を示す応力―ひずみ曲線における下降伏点から加工硬化を伴う均一伸び領域に遷移するまでのひずみ量を読み取り求めた。
伸びフランジ性は穴広げ試験で評価した。穴広げ試験は、100mm×100mmの試験片を採取し、JFST 1001に準拠して60゜円錐ポンチを用いて穴広げ試験を3回行って平均の穴広げ率(%)を求めた。なお、本発明では、λ≧30(%)を良好と判定した。
Claims (15)
- 成分組成として、質量%で、C:0.030%以上0.250%以下、
Si:0.01%以上3.00%以下、
Al:0.01%以上2.00%以下、
Mn:3.50%以上10.00%以下、
P:0.001%以上0.100%以下、
S:0.0001%以上0.0200%以下および
N:0.0005%以上0.0100%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
鋼組織が、面積率で、未再結晶フェライトが25%以上75%以下、マルテンサイトが5%以上35%以下であり、体積率で、残留オーステナイトが12%以上50%以下であり、鋼板中の転位密度が4.0×1014m−2以上1.0×1016m−2以下であり、さらに、前記残留オーステナイト中のMn量(質量%)を前記未再結晶フェライト中のMn量(質量%)で除した値が2.0以上であることを特徴とする高強度鋼板。 - 前記成分組成としてさらに、質量%で、
Cr:1.00%以下、
V:1.00%以下、
Mo:1.00%以下、
Ni:1.00%以下および
Cu:1.00%以下
のうちから選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の高強度鋼板。 - 前記成分組成としてさらに、質量%で、
Ti:0.20%以下および
Nb:0.20%以下
のうちから選んだ1種または2種を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の高強度鋼板。 - 前記成分組成としてさらに、質量%で、
B:0.0050%以下
を含有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の高強度鋼板。 - 前記成分組成としてさらに、質量%で、
Ca:0.005%以下および
REM:0.005%以下
のうちから選んだ1種または2種を含有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の高強度鋼板。 - 前記成分組成としてさらに、質量%で、
Sb:0.05%以下および
Sn:0.05%以下
のうちから選んだ1種または2種を含有することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の高強度鋼板。 - 請求項1〜6のいずれか1項に記載の高強度鋼板であって、さらに、溶融亜鉛めっき層、合金化溶融亜鉛めっき層、溶融アルミニウムめっき層および電気亜鉛めっき層のうちから選ばれる1種を備える高強度鋼板。
- 請求項1〜7のいずれか1項に記載の高強度鋼板を製造する方法であって、前記成分組成を有する鋼スラブを1100℃以上1300℃以下に加熱して、仕上げ圧延出側温度を750℃以上1000℃以下で熱間圧延し、巻取り温度を300℃以上750℃以下で巻き取り、熱延板とする熱間圧延工程と、熱間圧延工程後に、酸洗を施しスケールを除去する酸洗工程と、
前記酸洗工程後、(Ac1変態点+20℃)以上(Ac1変態点+120℃)以下の温度域で600s以上21600s以下保持する熱延板焼鈍工程と、
前記熱延板焼鈍工程後、圧下率:15%以上90%未満で冷間圧延して冷延板とする冷間圧延工程と、
前記冷間圧延工程後、(Ac1変態点+20℃)以上(Ac1変態点+100℃)以下の温度域まで5℃/s以上で昇温し、2s以上100s以下保持したのち、5℃/s以上の平均冷却速度で450℃まで冷却した後、室温まで冷却する冷延板焼鈍工程とを備える高強度鋼板の製造方法。 - 請求項8に記載の高強度鋼板の製造方法であって、前記冷延板焼鈍工程において、前記5℃/s以上の平均冷却速度で450℃まで冷却した後、350℃以上450℃以下の温度域で10s以上600s以下保持したのち、室温まで冷却することを特徴とする高強度鋼板の製造方法。
- 請求項8または9に記載の高強度鋼板の製造方法であって、前記冷延板焼鈍工程後に、溶融亜鉛めっき浴に浸漬し、溶融亜鉛めっきを施すことを特徴とする高強度鋼板の製造方法。
- 請求項10に記載の高強度鋼板の製造方法であって、前記溶融亜鉛めっきを施した後、合金化処理を施すことを特徴とする高強度鋼板の製造方法。
- 請求項8または9に記載の高強度鋼板の製造方法であって、前記冷延板焼鈍工程後に、溶融アルミニウムめっき浴に浸漬し、溶融アルミニウムめっきを施すことを特徴とする高強度鋼板の製造方法。
- 請求項8または9に記載の高強度鋼板の製造方法であって、前記冷延板焼鈍工程後に、電気亜鉛めっきを施すことを特徴とする高強度鋼板の製造方法。
- 請求項1から7のいずれか一項に記載の高強度鋼板に対して、成形加工及び溶接の少なくとも一方を施してなることを特徴とする部材。
- 請求項8から13のいずれか一項に記載の高強度鋼板の製造方法によって製造された高強度鋼板に対して、成形加工及び溶接の少なくとも一方を施すことを特徴とする部材の製造方法。
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