JP5394702B2 - フラーレン誘導体並びにその溶液及び膜 - Google Patents

フラーレン誘導体並びにその溶液及び膜 Download PDF

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Description

本発明は、新規のフラーレン誘導体並びにその溶液及びその膜に関する。
1990年にC60の大量合成法が確立されて以来、フラーレンに関する研究が精力的に展開されている。その結果、数多くのフラーレン誘導体が合成され、その多様な機能が明らかにされてきた。それに伴い、フラーレンの各種用途開発が進められている。
フラーレン誘導体の中でも、特にフラーレン骨格に極性官能基である水酸基(OH基)が直接結合したフラーレン誘導体(以下、適宜「水酸化フラーレン」という。)が種々合成され、その製造方法が開示されている(特許文献1,2,3参照)。また、これらの製造方法で合成される水酸化フラーレンは、他のフラーレン誘導体合成と比較して一般的に低コストで製造できるという特徴がある。
また、水酸化フラーレンは、水酸基の数によってその性質が大きく異なる。たとえば溶解性や電子受容性、熱安定性など付加数の設計によって様々な物性を有する水酸化フラーレンを合成することが可能で、それぞれのフラーレン誘導体は新たな電子材料、半導体材料等として期待されている。
ところで、水酸化フラーレンを例えば電子材料、半導体材料、金属錯体の配位子等に利用したり、他のフラーレン誘導体の中間体として使用したりするためには、水酸化フラーレンが有機溶媒に対して高溶解性を示すことが好ましい。
そこで、水酸化フラーレンに特定の保護基を導入することで、テトラヒドロフラン等のエーテル溶媒に対して高溶解性を示すフラーレン誘導体が開示されている(特許文献4参照)。
特開平7−48302号公報 特開2002−80414号公報 特開2004−168752号公報 特開2004−210773号公報
特許文献1〜3に記載の水酸化フラーレンは、アルカリ溶媒への溶解性は高いものの、一般的な有機溶媒への溶解性は著しく低く、また、安全面及び揮発性等の観点から、取扱が容易で、通常の工業用途で使用されている、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート(以下、適宜「PGMEA」と言う。)等に代表されるエステル溶媒には不溶だった。
特許文献4においては、各種の溶媒への溶解性を向上させる目的で、水酸化フラーレンの水酸基に対して、テトラヒドロピラニル基やエトキシエチル基などの保護基が導入され、エーテル溶媒への溶解性は改善されたが、PGMEAに代表されるエステル溶媒に対しては溶解性が十分ではなかった。
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、低コストで製造でき、PGMEA等のエステル溶媒への高溶解性を示す水酸化フラーレン誘導体並びにその溶液及びその膜を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、特定の構造を有する基を水酸化フラーレンの水酸基上に導入することにより、テトラヒドロフラン等のエーテル溶媒への高溶解性だけではなく、水酸化フラーレン誘導体が溶解困難なPGMEA等のエステル溶媒への高溶解性を示す水酸化フラーレン誘導体並びにその溶液及びその膜を提供することができることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明の要旨は、下記1.〜10.に存する。
1.下記式(1)で表わされることを特徴とする、フラーレン誘導体。
(上記式(1)中、Ciはフラーレン骨格を表し、mは以上6以下の整数を表し、nはを表し、pは1以上46以下の数字を表し、qは0以上45以下の数字を表し、p+qが2以上46以下の整数を表す。また、Rは炭素数1以上30以下の有機基を表す。(−CH−)を構成するメチレン鎖は、有機基で置換されていてもよい。)
2.上記式(1)で表わされるmが1であることを特徴とする上記1.に記載のフラーレン誘導体。
3.上記式(1)で表わされる有機基Rが、第3級炭素原子で酸素原子もしくはカルボニル基と結合していることを特徴とする上記1.又は2.に記載のフラーレン誘導体。
4.上記式(1)で表わされる有機基Rがtert-ブチル基であることを特徴とする上記1〜3のフラーレン誘導体。
5.上記フラーレン骨格がフラーレンC60であることを特徴とする上記1.〜4.のフラーレン誘導体。
6.上記フラーレン骨格がフラーレンC70であることを特徴とする上記1.〜4.のフラーレン誘導体。
7.上記フラーレン骨格がフラーレンC60及び/又はフラーレンC70であるフラーレン誘導体と、上記フラーレン骨格が、フラーレンC60及びフラーレンC70以外であるフラーレン誘導体とを含むことを特徴とする上記1.〜.のフラーレン誘導体。
8.上記1.〜7.の何れかのフラーレン誘導体が溶媒に溶解してなることを特徴とする、フラーレン誘導体溶液。
9.上記溶媒が、エステル溶媒であることを特徴とする上記8.のフラーレン誘導体溶液。
10.上記1〜7の何れかのフラーレン誘導体を含むことを特徴とする、フラーレン誘導体膜。
本発明によれば、低コストで製造可能で、PGMEA等のエステル溶媒への高溶解性を示す水酸化フラーレン誘導体並びにその溶液及びその膜を提供することができる。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の内容に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。
[1.フラーレン誘導体]
[1−1.フラーレン誘導体の構造]
〔フラーレン骨格〕
本発明のフラーレン誘導体は、式(1)で表される。
(上記式(1)中、Ciはフラーレン骨格を表し、mは0以上6以下の整数を表し、nは0又は1の整数の表し、pは1以上46以下の数字を表し、qは0以上45以下の数字を表し、p+qが2以上46以下の整数を表す。また、Rは炭素数1以上30以下の有機基を表す。)
ここで、「フラーレン」とは、閉殻構造を有する炭素クラスターである。フラーレンの炭素数は、通常60以上130以下の偶数である。
フラーレンの具体例としては、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C94、C96及びこれらよりも多くの炭素を有する高次の炭素クラスター等が挙げられる。
なお、本明細書では、炭素数i(ここでiは任意の自然数を表わす。)のフラーレン骨格を適宜、一般式「C」で表わす。
ここで、フラーレン骨格とは、上記フラーレンの閉殻構造を構成する骨格を指し、通常炭素原子のみから構成される閉殻炭素骨格をいう。
また、「フラーレン誘導体」とは、その構造中にフラーレン骨格を有する化合物又は組成物の総称である。即ち、「フラーレン誘導体」には、フラーレン骨格上に、付加基、置換基等を有したもののほか、フラーレン骨格の内部に、例えば金属、化合物等を内包するもの、及び他の金属原子、化合物等と錯体を形成したもの等も含まれる。組成物としては、炭素数が同一で、付加基、置換基等の異なるフラーレン化合物の混合物、炭素数が異なり、且つ付加基、置換基等の異なるフラ−レン化合物の混合物等が挙げられる。
本発明のフラーレン誘導体が有するフラーレン骨格は制限されないが、中でもフラーレンC60又はフラーレンC70が好ましく、フラーレンC60がより好ましい。フラーレンC60及びフラーレンC70はフラーレンの製造時に主生成物として得られるので、入手が容易であるという利点がある。即ち、本発明のフラーレン誘導体は、フラーレンC60又はフラーレンC70の誘導体であることが好ましく、フラーレンC60の誘導体であることがより好ましい。
また、フラーレン誘導体の製造コストの観点から、本発明のフラーレン誘導体は、フラーレンC60誘導体及び/又はフラーレンC70誘導体と、フラーレンC60及びフラーレンC70以外のフラーレン骨格を有する誘導体との組成物であることが好ましい。この場合、フラーレンC60誘導体、フラーレンC70誘導体、及びフラーレンC60及びフラーレンC70以外のフラーレン骨格を有する誘導体の混合比は任意であり、フラーレン誘導体の用途に応じて決定すれば良い。
フラーレン誘導体が上記組成物である場合のフラーレンC60及びフラーレンC70以外のフラーレン骨格としては、例えばC76、C78、C82、C84、C90、C94、C96等が挙げられる。フラーレンC60及びフラーレンC70以外のフラーレン骨格を有する誘導体は、本発明のフラーレン誘導体中に、1種のみ含有されていてもよく、また2種以上が任意の比率及び組み合わせで含有されていてもよい。
〔水酸化フラーレンの保護基及びその数〕
本発明の水酸化フラーレン誘導体は、水酸化フラーレンの水酸基(OH基)の水素が特定の有機基(以下、本明細書では「保護基」と表す)で置換された構造を有している。水酸化フラーレン誘導体の保護基は式(2)の構造で表され、少なくてもカルボニル基及び炭素数1以上30以下の有機基であるRを有しており、原料となる水酸化フラーレン誘導体由来の酸素原子と結合している。
(上記式(2)中のメチレン鎖もしくは、カルボニル基の炭素原子は、水酸化フラーレンの水酸基の酸素原子と結合している)
上記式(2)のカルボニル基と、フラーレンと結合している酸素原子との間には、メチレン鎖(-CH2-)があってもよい。メチレン鎖の数mは通常0以上、好ましくは1以上であれば良く、また通常6以下、好ましくは4以下である。中でも、PGMEA等のエステル溶媒へ高溶解させるためには、メチレン鎖を有していた方がよく、また原料調達の観点からメチレン鎖の数mは1であることが好ましい。
また、上記メチレン鎖には、本発明に係るフラーレン誘導体の優れた物性を大幅に損なうものでなければ、他の有機基が置換されていてもよい。
上記式(2)中のカルボニル基と有機基の間には、酸素原子があってもよい。酸素原子の数nは0又は1を表す。中でも、PGMEA等のエステル溶媒へ溶解度を向上させる観点から、酸素原子の数nは1であることが好ましい。即ち、上記式(2)のうち、溶解性の観点では、mとnの数がそれぞれ1である組み合わせが好ましい(下記式(3))。
(上記式(3)中のメチレン基は、水酸化フラーレンの水酸基の酸素原子と結合している)
上記式(1)、(2)及び(3)においてRは炭素数1以上30以下の有機基を表す。Rの具体的例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、イソプロピル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、tert−アミル基、ネオペンチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基等の直鎖又は分岐状の鎖状アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、ノルボニル基、トリシクロデカニル基、アダマンチル基等の環状アルキル基;アリル基、クロチル基、シンナミル基等のアルケニル基;フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等のアリール基が挙げられ、好ましい炭素数は1以上15以下である。これらの中でも、原料調達の観点から、炭素数1以上10以下の直鎖状又は分岐上のアルキル基が好ましい。
更に、酸解離性、熱分解性挙動の観点から、酸素原子もしくはカルボニル基が結合している炭素原子が、第三級炭素原子であるアルキル基が好ましい。具体的には、tert−ブチル基、tert−アミル基、1,1-ジエチルプロピル基、1−メチルシクロペンチル基、1−メチルシクロヘキシル基、1−エチルシクロペンチル基、1−エチルシクロヘキシル基、
1−ブチルシクロペンチル基、1−ブチルシクロヘキシル基、2−メチル−2−アダマンチル基等が挙げられる。これらの中でも、原料調達の観点からtert−ブチル基が最も好ましい。
また、これら有機基Rには、本発明に係るフラーレン誘導体の優れた物性を大幅に損なうものでなければ、他の置換基に置換されていてもよい。置換基は上記の有機基でも、ハロゲン原子でも、水酸基等のそれ以外の置換基でも構わないが、置換基を有する場合は、置換基を含んだ炭素数の合計が上記条件を満たすことが好ましい。また、これらの置換基が更に1以上の置換基によって多重に置換されていてもよい。
(式(1)におけるp及びq)
式(1)において、pは、フラーレン骨格に結合している水酸基保護基の数を表す。また、qはフラーレン骨格に結合している未保護の水酸基の数を表す。p+qは2以上46以下の整数であるが、通常2以上、好ましくは6以上、更に好ましくは8以上であり、通常46以下、好ましくは20以下、更に好ましくは12以下である。p+qの数は原料となる水酸化フラーレンの水酸基数に相当するが、本発明のフラーレン誘導体の用途によって適切なものを選択すればよい。
p+qが小さすぎると有機溶媒への溶解性が低くなる傾向があり、大きすぎるとフラーレンの性質が損なわれる傾向がある。
また式(1)において、pは1以上46以下であるが、通常1以上、好ましくは2以上、更に好ましくは3以上であり、通常46以下、好ましくは20以下、更に好ましくは10以下である。原料として用いる水酸化フラーレンの水酸基数(p+q)並びに、本発明のフラーレン誘導体の用途によって決定すればよい。
さらに式(1)において、qは0以上45以下であるが、通常0以上であれば特に制限はなく、また通常45以下、好ましくは20以下、さらに好ましくは10以下である。原料として用いる水酸化フラーレンの水酸基数(p+q)並びに、本発明のフラーレン誘導体の用途によって決定すればよい。
(式(1)における保護基の種類)
式(1)において、保護基の種類は1種類でもよく、2種類以上の複数種類でも良い。2種類以上の場合は、その組み合わせ及び比率は任意である。
[1−2.フラーレン誘導体の性質]
本発明のフラーレン誘導体は、エステル溶媒に可溶、即ち、エステル溶媒に対する溶解性が高い。
なお、本明細書において、フラーレン誘導体が「エステル溶媒に可溶」であるとは、フラーレン誘導体をエステル溶媒に混合し、超音波照射を10分かけた後、目視で沈殿物や不溶分が検出されないことを意味する。具体的には、25℃、常圧(通常は1気圧)下において、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート(即ち、PGMEA)又は乳酸エチルの何れかのエステル溶媒に対して、エステル溶媒の単位体積(1mL)あたり、フラーレン誘導体が通常10mg以上、好ましくは50mg以上、より好ましくは100mg以上溶解する場合には、そのフラーレン誘導体はエステル溶媒に対して可溶、即ち、エステル溶媒に対する溶解性が高いと判断する。
本発明のフラーレン誘導体をエステル溶媒に溶解させて用いる場合、エステル溶媒の種類は、本発明のフラーレン誘導体が溶解するものであれば制限されない。エステル溶媒の例としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸フェニル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸フェニル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、乳酸メチル、乳酸エチル等の直鎖状のエステル類;γ―ブチロラクトン、カプロラクトン等の環状エステル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコール−1−モノエチルエーテルアセテート等のエーテルエステル類等が挙げられる。
中でも、直鎖状のエステル類やエーテルエステル類が好ましく、具体的にはプロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート(即ち、PGMEA)、乳酸エチルが好ましい。
なお、エステル溶媒は、何れか1種のみを用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても構わない。
これらのエステル溶媒は、DVD、CD等の光ディスク材料の製造、半導体集積回路の作製、半導体集積回路作製用マスクの製造、液晶用集積回路の作製、液晶画面製造用レジスト材料用等の溶媒として一般的に使用されているエステル溶媒である。また、前記のエステル溶媒は、特に、従来開発されているKrFエキシマレーザー、ArFエキシマレーザーに加えて、EUV(極端紫外光)やEB(電子ビーム)などの光源短波長化に適応したフォトレジスト、反射防止膜の機能を有した下層膜材料としてのフォトレジスト、ナノインプリント及び層間絶縁膜用として好適に用いられる溶媒である。
したがって、前記のエステル溶媒に可溶であること、即ち、前記のエステル溶媒に対する溶解性が高いことは、本発明のフラーレン誘導体を、上記のような産業上広く使用されている溶媒に溶解することが可能であることを示している。また、フラーレン誘導体が前記のエステル溶媒に溶解する場合、そのフラーレン誘導体は同様に他の有機溶媒に可溶である場合が多い。
従って、本発明のフラーレン誘導体のエステル溶媒に対する溶解性が高いことは、本発明のフラーレン誘導体を、例えば、色素増感太陽電池、有機薄膜太陽電池等の有機太陽電池、有機トランジスタ・ダイオード、有機電界発光素子(有機EL素子)、非線形光学材等の有機デバイス全般;樹脂添加剤;潤滑剤;絶縁膜、Li2次電池・燃料電池・キャパシター等の電池における電池基材及びその添加剤・表面修飾等のコーティング材、その他セパレータ等の部材を構成する材料及び添加剤;金属・セラミクス添加剤;固体潤滑剤及び潤滑油添加剤等摺動用途への添加剤、触媒用、更には塗料・インク・医薬・化粧品・診断薬など、多方面での産業分野に適用可能であることを示している。
また、上述のエステル溶媒に対するフラーレン誘導体の好ましい溶解度の値は、フラーレン誘導体の用途によって異なる。例えば、半導体集積回路作製、半導体集積回路作製用マスクの製造、液晶用集積回路作製及び液晶画面製造用レジスト材料用途の塗膜を本発明のフラーレン誘導体を用いて形成するためには、本発明のフラーレン誘導体はエステル溶媒に対して、通常10mg/mL以上、好ましくは50mg/mL以上、より好ましくは100mg/mL以上の溶解度を有することが望ましい。
本発明のフラーレン誘導体がエステル溶媒に対する高い溶解性を有する理由は定かでは無いが、本発明者が推察するところによると、本発明の水酸化フラーレン誘導体がエステル骨格の一部であるカルボニル基を有し、エステル系溶媒との親和性が向上する効果と、フラーレン骨格にランダムに結合している水酸基と水酸基保護基によって、フラーレン誘導体同士の分子相互作用を低下させる効果との相乗効果により、どちらか一方の効果のみの場合から予想されるのを上回るエステル系溶媒への高い溶解性を発現しているものと考えられる。
また、本発明のフラーレン誘導体は、保護基の種類によって特有の熱分解挙動を有する。即ち、ある温度によって保護基の分解及び/又は原料となる水酸化フラーレンの水酸基が分解脱離することにより、炭素濃度が高い化合物へと変換することができる。また、本発明のフラーレン誘導体膜を加熱分解することによって、炭素濃度が高い膜を作成することがきる。これらの炭素濃度が高い化合物並びに膜は、熱安定性が非常に高いうえ、通常の有機物では分解して用いることができない種々の用途に関しても本発明のフラーレン誘導体を好適に用いることができる。特に、高温を要する炭素蒸着膜作成方法よりも製造コストの低い炭素膜生成方法として好適に用いることができる。なお、分解する温度は、誘導体の種類によって大きく異なるが、通常100℃以上、好ましくは150℃以上、更に好ましくは200℃以上、また通常400℃以下、好ましくは350℃以下、更に好ましくは300℃以下である。
なお、本発明のフラーレン誘導体の熱安定性に関する評価は、高温による耐熱性試験を行ってもよいし、迅速に測定できるTG−DTA(示差熱熱重量同時測定)を用いて評価してもかまわない。なお、TG−DTAで評価する場合、流通させるガスの種類や量、パンの種類、昇温速度や測定上限温度、サンプル量などは測定したい物性に併せて、任意に選択することができる。
[2.フラーレン誘導体の製造方法]
本発明のフラーレン誘導体を製造する方法に制限は無く、任意の方法により製造することができる。以下、本発明のフラーレン誘導体の製造方法を、具体例を挙げて説明するが、本発明のフラーレンの製造方法は以下の内容に限定されるものではない。
本発明のフラーレン誘導体として前記のようなフラーレン誘導体を合成する際には、例えば、原料として水酸化フラーレン(C60(OH)a)を、以下の(1)〜(3)の方法などで反応剤と反応させることにより合成することができる。
(1)原料フラーレン誘導体を、エーテル化剤と反応させて、エーテル化する。
(2)原料フラーレン誘導体を、エステル化剤と反応させて、エステル化する。
(3)原料フラーレン誘導体を、カーボネート化剤と反応させて、カーボネート化する。
原料となる水酸化フラーレン(C60(OH)a)は、本発明の目的に応じて、適切な水酸基数を用いることができるが、水酸基数aは通常2以上、好ましくは4以上、更に好ましくは6以上であり、通常46以下、好ましくは20以下、更に好ましくは14以下である。
なお、原料となる水酸化フラーレン(C60(OH)a)の具体的な合成条件は、特許文献1,2,3等に記載されている方法を用いることができる。
さらに、上記(1)〜(3)などの方法で製造を行なう場合は、通常、塩基存在下、有機溶媒に溶解もしくは懸濁させた状態で反応を行なう。
反応系内に存在する塩基の種類は任意であり、本発明のフラーレン誘導体の合成時には、反応の種類によって適当なものを選択すればよい。塩基の具体例としては、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、水酸化テトラブチルアンモニウム、ジアザビシクロウンデセン、イミダゾール等の有機塩基、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の金属炭酸塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物などが挙げられる。なお、上記の塩基は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
また、使用する塩基の量としては、反応を阻害しなければ任意の量を用いることができる。
さらに、反応に使用する有機溶媒も任意であり、本発明のフラーレン誘導体の合成時には、反応の種類によって適当なものを選択すればよい。有機溶媒の具体例としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、1,4−ジオキサンなどのエーテル類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類などが挙げられる。また、有機溶媒も、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
ただし、反応の種類によっては、有機溶媒は脱水操作をしたものを用いた方が効率的に合成することが可能な場合がある。
また、原料となる水酸化フラーレンに対して使用する有機溶媒の量は任意であるが、原料フラーレン誘導体の濃度が通常0.1mg/mL以上、好ましくは1mg/mL以上、より好ましくは5mg/mL以上、また、通常1000mg/mL以下、好ましくは100mg/mL以下、より好ましくは50mg/mL以下となる量の有機溶媒を用いることが望ましい。
以下、例示した前記の合成方法(1)〜(3)についてそれぞれ説明する。
(1)エーテル化による合成方法
この合成方法では、原料となる水酸化フラーレンに対して、X−(CH2m−C(=O)−(O)n−R等のハロゲン化物などのエーテル化剤を用いて、エーテル化を行なう。ここで、上記のエーテル化剤を表わす式におけるXはCl、Br、I等のハロゲン原子を表わし、mは1〜6の自然数を表わし、nは0又は1を表わす。また、Rは上記式(1)のRと同様の基を挙げることができる。また、上述したハロゲン化物のハロゲン原子に代えて、求核置換反応の脱離基となりうる官能基を有するものをエーテル化剤として用いても構わない。求核置換反応の脱離基となりうる官能基としては、アセトキシ基、トリフロロアセトキシ基等のアシロキシ基;メタンスルホニルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基、トルエンスルホニルオキシ基等のスルホニルオキシ基などが挙げられる。なお、エーテル化剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。これにより、水酸化フラーレンの水酸基部分がエーテル化され、本発明の水酸化フラーレン誘導体を合成することができる。
エーテル化による合成方法では、エーテル化剤は、反応を行なう水酸基に対して通常1倍モル以上、好ましくは1.2倍モル以上、より好ましくは1.4倍モル以上、また、通常30倍モル以下、好ましくは20倍モル以下、より好ましくは10倍モル以下用いる。これらの量が多すぎると、製造コストの観点から好ましくなく、少な過ぎると十分な反応速度が得られない虞がある。
また、エーテル化反応が進行すれば、原料、塩基、有機溶媒等の混合順序は問わないが、通常、原料となる水酸化フラーレンと塩基とを上述の適当な溶媒中で混合してから、エーテル化剤を加えることにより反応を行なう。
さらに、エーテル化による合成方法では、原料フラーレン誘導体のエーテル化が起これば、その反応条件は任意である。ただし、その温度条件は通常0℃以上、好ましくは15℃以上、また、通常80℃以下、好ましくは50℃以下で反応を行なうことが望ましい。また、反応時間は通常数時間以上、好ましくは5時間以上、また、通常数十時間以下、好ましくは30時間以下反応させることが望ましい。
(2)エステル化による合成方法
この合成方法では、原料となる水酸化フラーレンに対して、RC(=O)Xで表わされる酸ハライド、RC(=O)OC(=O)Rで表わされる酸無水物などのエステル化剤を用いて、エステル化を行なう。ここで、上記のエステル化剤を表わす式におけるRは、原料の水酸化フラーレンとエステル化剤とが反応することにより本発明のフラーレン誘導体を生成しうる任意の基を表わし、その具体例としては上記式(1)のRと同様の基が挙げられる。また、XはCl、Br、I等のハロゲン原子を表わす。なお、エステル化剤は1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。これにより、水酸化フラーレンの水酸基部分がエステル化され、本発明の水酸化フラーレン誘導体を合成することができる。
エステル化による合成方法では、エステル化剤は、反応を行なう水酸基に対して通常1倍モル以上、好ましくは1.2倍モル以上、より好ましくは1.4倍モル以上、また、通常30倍モル以下、好ましくは20倍モル以下、より好ましくは10倍モル以下用いる。これらの量が多すぎると、製造コストの観点から好ましくなく、少な過ぎると十分な反応速度が得られない虞がある。
また、エステル化反応が進行すれば、原料、塩基、有機溶媒等の混合順序は問わないが、通常、原料となる水酸化フラーレンと塩基とを上述の適当な溶媒中で混合してから、エステル化剤を加えることにより反応を行なう。
さらに、エステル化による合成方法では、原料フラーレン誘導体のエステル化が起これば、その反応条件は任意である。ただし、その温度条件は通常0℃以上、好ましくは15℃以上、また、通常50℃以下、好ましくは30℃以下で反応を行なうことが望ましい。また、反応時間は通常数分以上、好ましくは30分以上、また、通常数十時間以下、好ましくは5時間以下反応させることが望ましい。
(3)カーボネート化による合成方法
この合成方法では、原料フラーレン誘導体に対して、ROC(=O)OC(=O)O
Rで表わされる二炭酸エステル、Cl−C(=O)ORなどのクロロ蟻酸エステル等のカーボネート化剤を用いて、カーボネート化を行なう。ここで、上記のカーボーネート化剤を表わす式におけるRは、原料の水酸化フラーレンとカーボネート化剤とが反応することにより本発明のフラーレン誘導体を生成しうる任意の基を表わし、その具体例としては、上記式(1)のRと同様の基を挙げることができる。なお、カーボネート化剤は1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。これにより、原料の水酸化フラーレン誘導体の水酸基部分がカーボネート化され、本発明の水酸化フラーレン誘導体を合成することができる。
カーボネート化による合成方法では、カーボネート化剤は、反応を行なう水酸基に対して通常1倍モル以上、好ましくは1.2倍モル以上、より好ましくは1.4倍モル以上、また、通常30倍モル以下、好ましくは20倍モル以下、より好ましくは10倍モル以下用いる。これらの量が多すぎると、製造コストの観点から好ましくなく、少な過ぎると十分な反応速度が得られない虞がある。
また、カーボネート化反応が進行すれば、原料、塩基、有機溶媒等の混合順序は問わないが、通常、原料となるフラーレン誘導体と塩基とを上述の適当な溶媒中で混合してから、カーボネート化剤を加えることにより反応を行なう。
さらに、カーボネート化による合成方法では、原料フラーレン誘導体のカーボネート化が起これば、その反応条件は任意である。ただし、その温度条件は通常−20℃以上、好ましくは0℃以上、また、通常50℃以下、好ましくは30℃以下で反応を行なうことが望ましい。また、反応時間は通常数分以上、好ましくは30分以上、また、通常数時間以下、好ましくは2時間以下反応させることが望ましい。
また、上述した反応剤、即ち、エーテル化剤、エステル化剤及びカーボネート化剤は、それぞれ単独で使用する他、任意の組み合わせ及び比率で併用して、上記の(1)〜(3)の各方法をともに行なうようにしてもよい。さらに、上記の(1)〜(3)の方法に示した各反応(即ち、エーテル化、エステル化及びカーボネート化)などを妨げなければ、原料フラーレン誘導体、エーテル化剤、エステル化剤、カーボネート化剤等の反応剤、塩基、溶媒以外の物質が存在していても構わない。
反応終了後、通常は、生成した本発明の水酸化フラーレン誘導体を反応液から常法により単離する。単離操作は、各反応の種類によって異なるが、例えば、反応液を濾過した後、ヘキサン等の貧溶媒で晶析したり、反応液に例えばイオン交換水等を加えて反応を停止させ、そのまま適当な溶媒で抽出した後、分液し溶媒を留去したりすることにより、生成物を単離することができる。
得られた本発明のフラーレン誘導体は、必要に応じて適宜、例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、アルミナカラムクロマトグラフィー、再結晶等の手法で精製してもよい。
なお、本発明のフラーレン誘導体は、通常、例えばプロトン核磁気共鳴スペクトル法(以下適宜「H−NMR」と言う。)、カーボン核磁気共鳴スペクトル法(以下適宜「13C−NMR」と言う。)、赤外線吸収スペクトル法(以下適宜、「IR」という場合がある。)、質量分析法(以下適宜「MS」と言う。)、元素分析等の一般的な有機分析により、その構造を確認することができる。このほか、フラーレン誘導体の結晶性が良好な場合は、X線結晶回折法によって構造を確認できる場合もある。
[3.本発明のフラーレン誘導体の実施形態及び用途]
本発明のフラーレン誘導体は、公知の任意の実施形態で、任意の用途に用いることができる。なかでも、本発明のフラーレン誘導体は、溶媒に溶解してフラーレン誘導体溶液(以下、適宜「本発明の溶液」と言う。)として用いたり、本発明のフラーレン誘導体を含むフラーレン誘導体膜(以下、適宜「本発明の膜」と言う。)として用いたりすることが好ましい。
以下、本発明のフラーレン誘導体を、溶液及び膜として用いることを例に、本発明のフラーレン誘導体の実施形態及び用途を具体的に説明するが、本発明のフラーレン誘導体の実施形態及び用途は以下の内容に限定されるものではない。
[3−1.フラーレン誘導体溶液]
本発明のフラーレン誘導体は、適切な溶媒に溶解させて溶液とすることにより、様々な用途に用いることができる。
本発明の溶液における溶媒の種類は任意であるが、溶媒として有機溶媒を用いることが好ましい。有機溶媒として任意の有機溶媒を用いることができるが、中でも、本発明のフラーレン誘導体はエステル溶媒、アルコール溶媒等の極性有機溶媒に対して高い溶解性を示すので、極性を有する有機溶媒(極性有機溶媒)を使用することが好ましい。なお、溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
極性有機溶媒の種類は制限されないが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール(アルコール溶媒);アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソアミルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン等のケトン;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル(エステル溶媒);テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等のエーテルアルコール;PGMEA等の上記エーテルアルコール類と酢酸等の酸とのエステル化合物であるエーテルエステル(エステル溶媒);N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル;ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
中でも、工業的な用途で用いられることが多い観点から、本発明の溶液における溶媒として、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン等のケトンやエステル溶媒を用いることが好ましく、特に、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート(PGMEA)、乳酸エチル等のエステル溶媒を用いることが好ましい。
さらに、本発明の溶液における本発明のフラーレン誘導体の濃度は任意である。また、本発明の溶液中、本発明のフラーレン誘導体は溶媒に完全溶解していることが好ましいが、一部溶解できずに懸濁していてもよく、又は沈殿していても構わない。
本発明のフラーレン誘導体の優れた物性を大幅に損ねるものでなければ、本発明の溶液は、本発明のフラーレン誘導体及び溶媒に加えて、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分は1種のみを含有していてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で含有していてもよい。
本発明のフラーレン誘導体を溶媒に溶解させることができれば、本発明の溶液の調製方法に制限はないが、通常、所定の装置で攪拌しながら溶解させる手法、超音波を照射する手法等により調製することができる。また、本発明のフラーレン誘導体及び溶媒、並びに必要に応じて用いられるその他の成分の混合順序も、特に制限はない。
本発明の溶液は、安定性、操作性等の観点から通常25℃で調製されるが、溶媒の沸点以下であれば、加熱しながら溶解させ、保管することができる。また、本発明のフラーレン誘導体が析出する可能性があるが、25℃以下の低温下で調製、保管することもできる。
[3−2.フラーレン誘導体膜]
本発明のフラーレン誘導体は、エステル溶媒及びアルコール溶媒に高溶解性を示すため、通常は、本発明の溶液を塗布し、溶媒を除去(例えば加熱乾燥等)することでフラーレン誘導体膜を製造することができる。この際用いる溶液には、フラーレン誘導体、溶媒のほか、本発明のフラーレン誘導体が有する優れた物性を大幅に損ねるものでなければ、他の任意の化合物が含有されていてもよい。
塗布方法としては、例えばスプレー法、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法など任意の方法を選択することができる。複数の方法を組み合わせて行ってもよい。また、塗布する基板にも制限はなく、例えば、有機被膜、シリコン基板、ポリシリコン膜、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜などのシリコン被膜、金属配線などの無機被膜が挙げられる。この際、1種の基板を単独で用いてもよく、2種以上の基盤を任意に組み合わせて用いてもよい。
溶液の塗布後、溶媒を除去するための方法は任意であるが、通常は塗布膜の加熱乾燥処理を行って溶媒を除去する。加熱乾燥処理は、通常80℃以上300℃以下で、通常10秒以上300秒以下の範囲で加熱を行うことが好ましい。本発明のフラーレン誘導体は、通常の有機化合物に比べて熱安定性に優れるため、熱分解することなく安定な膜を形成することができる。また、加熱は、大気下、又はアルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。なお、不活性ガスは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
本発明の膜における膜厚は、用途によって大きく異なり一律に限定することはできないが、通常10nm以上であり、好ましくは30nm以上であり、また通常1000nm以下、好ましくは500nm以下であり、より好ましくは300nm以下である。
均一な膜を形成することで、例えば分光エリプソメーター等を用いて本発明の膜の屈折率(n値)及び消衰係数(k値)(以下、これらをまとめて、適宜「光学定数」と言う。)を測定することができる。また、これらの測定値を用い、本発明の膜の誘電率、反射率等を計算することができる。これらの光学定数は、そのフラーレン誘導体膜の用途によって、また同じ用途でもプロセスの種類、フラーレン誘導体膜に含有される他の成分の種類及び量等によって求められる数値が大きく異なる。従って、本発明の膜が有する優れた物性を効果的に活用できる用途に、本発明の膜を用いることが好ましい。
[3−3.用途]
本発明のフラーレン誘導体、本発明の溶液、及び本発明の膜は、前述した用途に用いることができる。以下に、いくつかの用途の例に関してより具体的に説明するが、本発明のフラーレン誘導体の機能が発揮できる用途に関しては、以下の記載に限定されるものではない。
[3−3−1.フォトレジスト用途]
従来、フォトレジストは、被膜形成成分として(メタ)アクリル系、ポリヒドロキシスチレン系またはノボラック系の樹脂等の樹脂成分と、露光により酸を発生する酸発生剤、感光剤等とを組み合わせた組成物が広く用いられている。本発明のフラーレン誘導体は、通常、フォトレジストに使用される溶媒への溶解度が高いことにより、特殊な溶媒を用いることなく、より高濃度でフォトレジストに複合化が可能である。また、フラーレン誘導体単独でもレジスト膜を形成することが可能である。なお、フォトレジストの露光源としては、従来開発されているKrFエキシマレーザー、ArFエキシマレーザーに加えて、EUV(極端紫外光)やEB(電子ビーム)なども適応が可能である。
このように本発明のフラーレン誘導体をフォトレジストの分野に用いた場合、フラーレン骨格を有する事により、超芳香族分子としての高耐熱性、高エッチング耐性を有し、エッジラフネスの低減が可能であり、高解像度のフォトレジストの再現ができる。また、本発明のフラーレン誘導体又は本発明の溶液を用いて形成したレジスト膜は、吸収スペクトルから明らかな様に反射防止膜としての機能も有することより、多層膜の一層として、特に反射防止膜や塗布型のマスク材(ハードマスク)としても優れた機能を発揮することが期待される。なかでも、本発明の特徴のひとつである熱分解挙動を利用して、炭素濃度が高い膜を作成し、ハードマスク材料として好適に用いることができる。
[3−3−2.半導体製造用途]
半導体製造等の分野では、例えば500μm以下の微細パターンを生産効率良く形成する方法としてナノインプリント法が検討されている。ナノインプリント法とは、微細パターンを有するモールドのパターンを転写層に転写する微細パターンの形成方法である。
このようなナノインプリント法としては、例えば、熱可塑性重合体からなる転写層を加熱して軟化させる工程と、転写層とモールドとを圧着してモールドのパターンを転写層に形成する工程と、モールドを転写層から離脱させる工程とを順次行なう方法;硬化性単量体からなる転写層をモールドに接触させる工程と、硬化性単量体を硬化させる工程と、硬化性単量体の硬化物からモールドを離脱させる工程とを順次行なう方法;などが知られている。本発明のフラーレン誘導体は、通常、上記の熱可塑性重合体、硬化性物質等に使用される溶媒への溶解度が高いことにより、特殊な溶媒を用いることなく、上記熱可塑性重合体に高濃度で充填することが可能である。
このように本発明のフラーレン誘導体をナノインプリント法に用いた場合、溶媒に対する本発明のフラーレン誘導体の溶解性が高いことから、本発明のフラーレン誘導体の熱可塑性重合体中での凝集が抑制され、分子状分散となる。このため、高解像度を実現することが可能である。さらに、本発明のフラーレン誘導体又は本発明の溶液をナノインプリント法に用いることにより、転写層の機械的強度、耐熱性及びエッチング耐性を向上させることが可能であることから、従来のナノインプリント材料の特性を大幅に改善することが可能となる。
[3−3−3.低誘電率絶縁材料用途]
近年、コンピュータの中央処理装置(CPU)用回路基盤には、樹脂薄膜を層間絶縁膜とする高密度かつ微細な多層配線に適した樹脂薄膜配線が適用されるようになってきた。将来のより高速な処理能力を有するコンピュータを実現するには、高密度かつ繊細な多層配線を活かし、かつ信号の高速伝播に適した低誘電率絶縁材料の開発が求められている。本発明のフラーレン誘導体は、通常、上記用途に使用される溶媒への溶解度が高いことより、特殊な溶媒を用いることなく、より高濃度で他の材料と複合化することが可能である。また、フラーレン誘導体単独で成膜することも可能である。この際、本発明のフラーレン誘導体は、フラーレン構造が本質的に有する高抵抗、低誘電率の性質を保持しており、複合化して用いる際にはフィラーとしての機械的強度の向上効果を有することができ、これにより、従来無かった優れた性能の低誘電率の層間絶縁膜の実現が可能となる。
[3−3−4.太陽電池用途]
有機太陽電池は、シリコン系の無機太陽電池と比較して、優位な点が多数あるものの、エネルギー変換効率が低く、実用レベルに十分には達していない。この点を克服するためのものとして、最近、電子供与体である導電性高分子と、電子受容体であるフラーレン並びにフラーレン誘導体とを混合した活性層を有するバルクヘテロ接合型有機太陽電池が提案されている。このバルクヘテロ接合型有機太陽電池では、導電性高分子とフラーレン誘導体それぞれとが分子レベルで混じり合い、その結果非常に大きな界面を作り出すことに成功し、変換効率の大幅な向上が実現されている。
本発明のフラーレン誘導体は、上記用途で使用される溶媒への溶解度が高いため、p型半導体と効率的なバルクへテロ接合構造を構成することが容易である。また、本発明のフラーレン誘導体は、本質的にn型半導体としてのフラーレンの性質を有している。従って、本発明のフラーレン誘導体又は本発明の溶液を用いることで、極めて高性能な有機太陽電池の実現が可能となる。さらにこの高溶解性を利用し、導電性高分子等の電子供与体層との層分離制御や誘導体分子の整列配向性・細密充填性などのモルフォロジー制御を可能にし、これにより特性の向上が実現できる上、デバイス設計において高い柔軟性を与える。また、製造上も通常の印刷法やインクジェットによる印刷、更にはスプレー法等により、低コストで容易に大面積化を実現する事が可能である。
[3−3−5.半導体用途]
光センサー、整流素子等への応用が期待できる電界効果トランジスタの有機材料として、フラーレン及びフラーレン誘導体を使用することが研究されている。一般的に、フラーレン及びフラーレン誘導体を半導体に用いて電界効果トランジスタを作製した場合、当該電界効果トランジスタはn型のトランジスタとして機能することが知られている。
本発明のフラーレン誘導体は、上記用途で使用される溶媒への溶解度が高いことにより、塗布による成膜が容易であり、また、n型半導体としてのフラーレンの本質的な性質は保持している。これにより、本発明のフラーレン誘導体は、低コスト、高性能な有機半導体として利用されることが期待できる。
[3−3−6.原料中間体としての用途]
本発明のフラーレン誘導体を出発原料として、更なる有機基を導入し、新たな機能を有するフラーレン誘導体を製造することができる。有機基の導入方法に関しては、これまで報告されてきている方法を参照することができる。
以下、実施例を示して本発明を更に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら制限されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。なお、本明細書の記載において、THFはテトラヒドロフランを表わし、さらに、Etはエチル基、iPrはイソプロピル基を、tBuはt−ブチル基を表わす。また、THPはテトラヒドロピラニル基を表す。
[実施例1:C60(OH)5.2(O−CH2C(=O)OtBu)4.8の製造]
フロンティアカーボン社製の水酸化フラーレン(平均水酸化数10)C60(OH)10 1.0g(1.12mmol)のTHF(20mL)、アセトン(40mL)懸濁液に、炭酸カリウム8gとブロモ酢酸tert-ブチル10mL(68.2mmol)を加え、25℃で1時間攪拌した。その後、反応液を55℃まで昇温して更に12時間攪拌した。その後、反応液をセライト濾過し(展開液:酢酸エチル)溶媒を除去した後、酢酸エチルと水を加えて分液操作を行った。有機相を硫酸ナトリウムで乾燥後、濾過し溶液を濃縮した後、ヘキサン300mLで晶析を行い、50℃で真空乾燥を行うことで、C60(OH)5.2(O−CH2C(=O)OtBu)4.8を茶色固体(0.74g;収率46%)の生成物として得た。
得られた生成物のH−NMR及び、MS測定を行った。なお、H−NMRはCDClを溶媒とし、400MHzにて測定した。
H−NMR測定の結果により、 5.40〜4.20ppm(brs,O−CH2−),1.80−1.30ppm(brs,tBu)のピークが9:2で観測され、水酸化フラーレンの水酸基の一部が保護されたことが確認された。
また、実施例1で得られた生成物並びに、内部標準としてクマリンをそれぞれ秤量した後、その混合物をCDCl3に溶解させ、H−NMRを測定した。それぞれの積分比から実施例1で得られた生成物の平均分子量は1437.2、平均保護数は4.8と算出された。
また、実施例1で得られた生成物のMS測定では、C60(OH)(O−CH2C(=O)OtBu):分子量1084、C60(OH)(O−CH2C(=O)OtBu):分子量1198、C60(OH)(O−CH2C(=O)OtBu):分子量1312、C60(OH)(O−CH2C(=O)OtBu):分子量1346、C60(OH)(O−CH2C(=O)OtBu):分子量1460、C60(OH)(O−CH2C(=O)OtBu):分子量1574、C60(OH)(O−CH2C(=O)OtBu):分子量1608、C60(OH)(O−CH2C(=O)OtBu):分子量1722が混合物ピークとして観測された。
以上の結果から、得られた生成物が表題化合物C60(OH)5.2(O−CH2C(=O)OtBu)4.8であることが確認された。
更に、得られた生成物を、25℃、常圧(1気圧)下において、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート(PGMEA)に10重量%及び1重量%となるように添加し、超音波照射を10分間行って溶解させ、その溶解性を目視で判断した。その結果を下記表1に示す。
[実施例2:NM(OH)6.2(O−CH2C(=O)OtBu)3.8の製造]
フロンティアカーボン社製の混合フラーレン(以下NMと略す:フラーレン骨格の平均組成はC66とする)を原料に用いた水酸化フラーレン(平均水酸化数10)NM(OH)10 2.0g(2.08mmol)のTHF(40mL)、アセトン(80mL)懸濁液に、炭酸カリウム16gとブロモ酢酸tert-ブチル20mL(136mmol)を加え、25℃で1時間攪拌した。その後、反応液を55℃まで昇温して更に29時間攪拌した。その後、反応液をセライト濾過し(展開液:酢酸エチル)溶媒を除去した後、酢酸エチルと1規定の塩酸で分液操作を行った。その後、有機相に水を加えて分液操作を行った。有機相を硫酸ナトリウムで乾燥後、濾過し溶液を濃縮した後、ヘキサン500mLで晶析を行い、50℃で真空乾燥を行うことで、NM(OH)6.2(O−CH2C(=O)OtBu)3.8を茶色固体(2.31g;収率67%)の生成物として得た。
実施例1と同様に、得られた生成物のH−NMR測定を行った。
H−NMR測定の結果により、5.40〜4.20ppm(brs,O−CH2−),1.80−1.30ppm(brs,tBu)のピークが9:2で観測され、水酸化フラーレンの水酸基の一部が保護されたこと、また内部標準をいれた測定結果により、得られた生成物の平均分子量が1668.8、平均保護数が6.2であることが確認された。
以上の結果から、得られた生成物が表題化合物NM(OH)6.2(O−CH2C(=O)OtBu)3.8であることが確認された。
更に、得られた生成物について、実施例1と同様にして、溶解性を目視で判断した。結果を下記表1に示す。
[実施例3:C60(OH)3.0(O−CH2C(=O)OEt)7.0の製造]
フロンティアカーボン社製の水酸化フラーレン(平均水酸化数10)C60(OH)10 0.5g(0.56mmol)のTHF(20mL)、アセトン(20mL)懸濁液に、炭酸カリウム4gとブロモ酢酸エチル5mL(45.2mmol)を加え、25℃で1時間攪拌した。その後、反応液を55℃まで昇温して更に18時間攪拌した。その後、反応液をセライト濾過し(展開液:酢酸エチル)溶媒を除去した後、酢酸エチルと水を加えて分液操作を行った。有機相を硫酸マグネシウムで乾燥後、濾過し溶液を濃縮した後、ヘキサン300mLで晶析を行い、50℃で真空乾燥を行うことで、C60(OH)3.0(O−CH2C(=O)OEt)7.0を茶色固体(0.31g;収率37%)の生成物として得た。
得られた生成物につき、実施例1と同様にH−NMR測定を行った。
H−NMRの測定結果により、5.40〜3.80ppm(brs,O−CH2−並びにC(O)O−CH2−),1.80−1.20ppm(brs,−CH)のピークが4:3で観測され、水酸化フラーレンの水酸基の一部が保護されたこと、また内部標準をいれた測定結果により、得られた生成物の平均分子量が1492.0、平均保護数が7.0であることが確認された。
以上の結果から、得られた生成物が表題化合物C60(OH)3.0(O−CH2C(=O)OEt)7.0であることが確認された。
更に、得られた生成物について、実施例1と同様にして、溶解性を目視で判断した。結果を下記表1に示す。
[実施例4:C60(OH)6.3(O−C(=O) −CH2−tBu)3.7の製造]
フロンティアカーボン社製の水酸化フラーレン(平均水酸化数10)C60(OH)10 0.3g(0.34mmol)の無水THF(25mL)懸濁液に、トリエチルアミン(0.25mL)、tert−ブチルアセチルクロリド2.33mL(16.79mmol)、ジメチルアミノピリジン0.15g(1.23mmol)を加え、25℃で4時間攪拌した。その後、希塩酸20mLで反応をクエンチし、酢酸エチルで抽出した。希塩酸で洗浄後、イオン交換水を加えてさらに分液操作を行った。有機相を硫酸マグネシウムで乾燥後、濾過し溶液を濃縮した後、ヘキサン300mLで晶析を行い、50℃で真空乾燥を行うことで、:C60(OH)6.3(O−C(=O) −CH2−tBu)3.7を茶色固体(0.11g;収率26%)の生成物として得た。
得られた生成物のH−NMR測定を、溶媒をDMSO−d6とした以外は実施例1と同様にして行った。
H−NMR測定の結果により、2.50〜2.00ppm(brs,−CH2−),1.30−0.90ppm(brs,tBu)のピークが2:9で観測され、水酸化フラーレンの水酸基の一部が保護されたこと、また内部標準をいれた測定結果により、得られた生成物の平均分子量が1252.6、平均保護数が3.7であることが確認された。
以上の結果から、得られた生成物が表題化合物:C60(OH)6.3(O−C(=O) −CH2−tBu)3.7であることが確認された。
更に、得られた生成物について、実施例1と同様にして、溶解性を目視で判断した。結果を下記表1に示す。
[実施例5:C60(OH)8.0(O−C(=O) −O−CH2−iPr)2.0製造]
フロンティアカーボン社製の水酸化フラーレン(平均水酸化数10)C60(OH)10 0.5g(0.56mmol)の無水THF(40mL)懸濁液に、トリエチルアミン(0.4mL)、クロロ蟻酸イソブチルエステル3.69mL(28.10mmol)、ジメチルアミノピリジン0.25g(2.05mmol)を加え、25℃で8時間攪拌した。その後、希塩酸20mLで反応をクエンチし、酢酸エチルで抽出した。希塩酸で洗浄後、イオン交換水を加えてさらに分液操作を行った。有機相を硫酸マグネシウムで乾燥後、濾過し溶液を濃縮した後、ヘキサン300mLで晶析を行い、50℃で真空乾燥を行うことで、C60(OH)8.0C(=O) −O−CH2−iPr)2.0茶色固体(0.13g;収率22%)の生成物として得た。
得られた生成物のH−NMR測定を実施例4と同様にして行った。
H−NMRの測定結果により、4.30〜3.60ppm(brs,O−CH2−),2.00〜1.80ppm(brs,−CH−),1.20−0.80ppm(brs,Me)のピークが2:1:6で観測され、水酸化フラーレンの水酸基の一部が保護されたこと、また内部標準をいれた測定結果により得られた生成物の平均分子量が1090.0、平均保護数が2.0であることが確認された。
以上の結果から、得られた生成物が表題化合物C60(OH)8.0(O−C(=O) −O−CH2−iPr)2.0であることが確認された。
更に、得られた生成物について、実施例1と同様にして、溶解性を目視で判断した。結果を下記表1に示す。
[実施例6:C60(OH)20(O−CH2C(=O)OtBu)24の製造]
国立大学法人大阪大学製の水酸化フラーレン(平均水酸化数44)C60(OH)44 0.3g(0.20mmol)のTHF(20mL)、ピリジン(15mL)懸濁液に、炭酸カリウム4gとブロモ酢酸tert-ブチル5.26mL(35.9mmol)を加え、25℃で1時間攪拌した。その後、反応液を55℃まで昇温して更に29時間攪拌した。その後、反応液をセライト濾過し(展開液:酢酸エチル)溶媒を除去した後、酢酸エチルと水を加えて分液操作を行った。有機相を硫酸ナトリウムで乾燥後、濾過し溶液を濃縮した後、ヘキサン300mLで晶析を行い、50℃で真空乾燥を行うことで、C60(OH)20(O−CH2C(=O)OtBu)24を茶色固体(0.83g;収率97%)の生成物として得た。
実施例1と同様に、得られた生成物のH−NMR測定を行った。
H−NMR測定の結果により、5.40〜4.20ppm(brs,O−CH2−),1.80−1.30ppm(brs,tBu)のピークが9:2で観測され、水酸化フラーレンの水酸基の一部が保護されたこと、また内部標準をいれた測定結果により得られた生成物の平均分子量が4204、平均保護数が24であることが確認された。
以上の結果から、得られた生成物が表題化合物C60(OH)20(O−CH2C(=O)OtBu)24であることが確認された。
更に、得られた生成物について、実施例1と同様にして、溶解性を目視で判断した。結果を下記表1に示す。
[比較例1:C60(OH)5.8(O−THP)4.2の製造]
特開2004−210773号公報を参照して、THP保護された水酸化フラーレンを合成した。
フロンティアカーボン社製の水酸化フラーレン(平均水酸化数10)C60(OH)10 1.0g(1.12mmol)の無水THF(10mL)懸濁液を5℃まで冷却した後、パラトルエンスルホン酸・一水和物21mgを添加した。3,4−ジヒドロ−2H−ピラン4.7gを滴下した後、25℃まで昇温し、3時間攪拌した。その後、反応液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液10mLを滴下し、水層と分液して有機層を分取し、濃縮乾固した。析出した固体をイオン交換水10mLに懸濁させ30分間攪拌した後、濾過を行った。その後50℃で真空乾燥を行った化合物を更にヘキサン100mLで2回洗浄し、再度50℃で真空乾燥を行うことによって、C60(OH)5.8(O−THP)4.2を橙茶色固体(1.4g)の生成物として得た。
得られた生成物のH−NMR測定を、実施例1と同様にして行った。
H−NMRの測定結果により、6.0〜5.0ppm(brs,O−CH−O),4.3〜3.2ppm(brs,O−CH)2.2〜1.2ppm(brs,THPのメチレン鎖)のピークが1:2:6で観測され、水酸化フラーレンの水酸基の一部が保護されたことが確認された。
以上の結果から、得られた生成物が表題化合物C60(OH)5.8(O−THP)4.2であることが確認された。
更に、得られた生成物について、実施例1と同様にして、溶解性を目視で判断した。結果を下記表1に示す。
なお、上記表1において、PGMEAはプロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテートを表す。また、○は目視で完全に溶解したことを示し、×はフラーレン誘導体の溶媒への溶解性が低く、完全に溶解しなかったことを示す。
(熱挙動評価)
実施例1で得られた生成物のTG-DTAを以下に示す条件で測定した。その結果を図1に示す。
サンプル質量:3.765mg
ガス流量:窒素ガス、200mL/min
パン:Pt
昇温速度:10℃/min
測定上限温度:30℃〜900℃
実施例3で得られた生成物のTG-DTAを測定した。その結果を図2に示す。なお、サンプル量を2.486mgに変更した以外は、上記条件と同様に測定した。
実施例6で得られた生成物のTG-DTAを測定した。その結果を図3に示す。なお、サンプル量を3.2276mgに変更した以外は、上記条件と同様に測定した。
本発明の水酸化フラーレン誘導体は、約200℃で保護基に由来する分解反応が進行していると考えられ、加熱することによりフラーレンの特徴の1つである高炭素化が実現されている。
実施例1で得られた生成物のTG−DTAを測定した結果を示す図である。 実施例3で得られた生成物のTG−DTAを測定した結果を示す図である。 実施例6で得られた生成物のTG−DTAを測定した結果を示す図である。

Claims (10)

  1. 下記式(1)で表わされることを特徴とする、フラーレン誘導体。
    (上記式(1)中、Ciはフラーレン骨格を表し、mは以上6以下の整数を表し、nはを表し、pは1以上46以下の数字を表し、qは0以上45以下の数字を表し、p+qが2以上46以下の整数を表す。また、Rは炭素数1以上30以下の有機基を表す。(−CH−)を構成するメチレン鎖は、有機基で置換されていてもよい。)
  2. 上記式(1)で表わされるmが1であることを特徴とする、請求項1に記載のフラーレン誘導体。
  3. 上記式(1)で表わされる有機基Rが、第3級炭素原子で酸素原子もしくはカルボニル基と結合していることを特徴とする、請求項1又は2に記載のフラーレン誘導体。
  4. 上記式(1)で表わされる有機基Rがtert-ブチル基であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のフラーレン誘導体。
  5. 上記フラーレン骨格がフラーレンC60であることを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載のフラーレン誘導体。
  6. 上記フラーレン骨格がフラーレンC70であることを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載のフラーレン誘導体。
  7. 上記フラーレン骨格がフラーレンC60及び/又はフラーレンC70であるフラーレン誘導体と、上記フラーレン骨格がフラーレンC60及びフラーレンC70以外であるフラーレン誘導体とを含むことを特徴とする、請求項1〜の何れか一項に記載のフラーレン誘導体。
  8. 請求項1〜7の何れか一項に記載のフラーレン誘導体が溶媒に溶解してなることを特徴とする、フラーレン誘導体溶液。
  9. 該溶媒が、エステル溶媒であることを特徴とする、請求項8に記載のフラーレン誘導体溶液。
  10. 請求項1〜7の何れか一項に記載のフラーレン誘導体を含むことを特徴とする、フラーレン誘導体膜。
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