以下、本発明を詳細に説明する。本発明では、予め延伸処理が施されたオレフィン系樹脂フィルムの片面又は両面に、所定の収縮率を有する収縮性フィルムを貼り合わせて、加熱収縮及び延伸を施す。
[オレフィン系樹脂]
本発明に用いられるオレフィン系樹脂とは、エチレンやプロピレンの如き脂肪族オレフィン、又はノルボルネン系モノマーをはじめとする脂環式オレフィンから導かれる単量体単位を主体とする重合体である。この樹脂は、2種以上のモノマーを用いた共重合体であってもよい。
なかでも、脂環式オレフィンから導かれる単量体単位を含有する樹脂、とりわけ、重合後も環状構造が主鎖中に残っている環状オレフィン系樹脂が好ましく用いられる。環状オレフィン系樹脂を構成する環状オレフィンの典型的な例として、ノルボルネンやその置換体(以下、まとめてノルボルネン系モノマーと呼ぶことがある)などを挙げることができる。ノルボルネンは、ノルボルナンの一個所が二重結合となった化合物であって、IUPAC 命名法によれば、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エンと命名されるものである。その置換体の例としては、ノルボルネンの二重結合位置を1,2−位として、3−置換体、4−置換体、4,5−ジ置換体など、さらにはジシクロペンタジエンやジメタノオクタヒドロナフタレンなどを挙げることができる。このようなノルボルネン系モノマーから導かれる単位を主体とする樹脂は、一般にノルボルネン系樹脂と呼ばれている。
ノルボルネン系樹脂においては、出発原料にノルボルネン系モノマーが用いられるが、重合された状態では、構成単位にノルボルナン環を有していても有していなくてもよい。前記構成単位にノルボルナン環を有さないノルボルネン系樹脂には、例えば、開環により5員環となるもの、代表的には、ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1−又は4−メチルノルボルネン、4−フェニルノルボルネンなどが挙げられる。ノルボルネン系樹脂が共重合体である場合、その分子の配列状態は特に制限されず、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよいし、グラフト共重合体であってもよい。
ノルボルネン系樹脂としては、例えば、ノルボルネン系モノマーの開環重合体、ノルボルネン系モノマーと他のモノマーとの開環共重合体、それらにマレイン酸付加やシクロペンタジエン付加等がなされたポリマー変性物、さらにはこれらを水素添加した樹脂;ノルボルネン系モノマーの付加重合体、ノルボルネン系モノマーと他のモノマーとの付加共重合体などが挙げられる。共重合体とする場合、他のモノマーには、α−オレフィン類、シクロアルケン類、非共役ジエン類などが包含される。また、脂環式オレフィンを2種以上用いた共重合体であってもよい。
なかでも、ノルボルネン系モノマーを用いた開環重合体に水素添加した樹脂が好ましく用いられる。このノルボルネン系樹脂は成形加工性に優れており、特に本発明に従って、予め延伸処理が施された状態で、所定の収縮率を有する収縮性フィルムを貼り合わせて加熱収縮させることにより、均一性が高く、大きな位相差値を有する位相差フィルムを与えることができる。このようなノルボルネン系モノマーを用いた開環(共)重合体の水素添加物として市販されている樹脂には、日本ゼオン(株)から販売されている“ゼオネックス”及び“ゼオノア”、JSR(株)から販売されている“アートン”などがある。これらのノルボルネン系樹脂のフィルムや、さらに延伸が施されたフィルムも、例えば、日本ゼオン(株)から“ゼオノアフィルム”の商品名で、JSR(株)から“アートンフィルム”の商品名で、また積水化学工業(株)から“エスシーナ”の商品名で、それぞれ販売されている。
また、オレフィン系樹脂を2種類以上含む混合樹脂からなるフィルムや、オレフィン系樹脂と他の熱可塑性樹脂との混合樹脂からなるフィルムを用いることもできる。例えば、オレフィン系樹脂を2種類以上含む混合樹脂の例としては、前記したような環状オレフィン系樹脂と脂肪族オレフィン系樹脂との混合物を挙げることができる。オレフィン系樹脂と他の熱可塑性樹脂との混合樹脂を用いる場合、他の熱可塑性樹脂は、目的に応じて、適宜、適切なものが選択される。具体例としては、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル/スチレン共重合樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、及びポリ塩化ビニリデン系樹脂のような汎用プラスチック;ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂及びポリエチレンテレフタレート系樹脂のような汎用エンジニアリングプラスチック;ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、液晶性樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリイミド系樹脂及びポリテトラフルオロエチレン系樹脂のようなスーパーエンジニアリングプラスチックなどが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、それぞれ単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。また、前記の熱可塑性樹脂は、任意の適切なポリマー変性を行ってから用いることもできる。ポリマー変性の例としては、共重合、架橋、分子末端変性、立体規則性付与などが挙げられる。
オレフィン系樹脂と他の熱可塑性樹脂との混合樹脂を用いる場合、他の熱可塑性樹脂の含有量は、樹脂全体に対して、一般には0〜50重量%程度であり、好ましくは0〜40重量%程度である。このような範囲とすることによって、得られる位相差フィルムは、光弾性係数の絶対値が小さく、良好な波長分散特性を示し、かつ、耐久性や機械的強度、透明性に優れるものとすることができる。
以上説明したようなオレフィン系樹脂は、一般に用いられる溶液からのキャスティング法や溶融押出法などにより、フィルムに製膜することができる。2種以上の混合樹脂からフィルムを製膜する場合、その混合方法については特に限定されず、例えば、キャスティング法によりフィルムを作製する場合は、混合成分を所定の割合で溶媒とともに撹拌混合し、均一溶液として用いることができる。また、溶融押出法によりフィルムを作製する場合は、混合成分を所定の割合で溶融混合して用いることができる。混合樹脂からフィルムを製膜する場合は、得られる位相差フィルムの平滑性を高め、良好な光学均一性を得るために、溶液からのキャスティング法が好ましく用いられる。一方、ノルボルネン系樹脂などを単独でフィルムに製膜する場合は、コストの点で溶融押出法が好ましく用いられる。
そして本発明においては、このようなオレフィン系樹脂からなるフィルムに対し、予め延伸処理を施す。延伸は、一軸で行ってもよいし、二軸で行ってもよいが、本発明では、最終的な収縮処理によってnx>nz>ny の関係を満たす位相差フィルムの製造を目的としていることから、予め施す延伸は、一軸延伸、それも縦一軸延伸であるのが好ましい。ただし、一軸性を損なわない程度に延伸軸と直交する方向への延伸が加えられていてもよい。一軸延伸の例として、フィルムを一定の温度に保持しながら、周速の異なるロール間にて縦一軸延伸する方法を挙げることができる。
オレフィン系樹脂フィルムは、本発明の目的を損なわない範囲で、残存溶媒、安定剤、可塑剤、老化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤など、その他の成分を必要に応じて含有していてもよい。また、表面粗さを小さくするため、レベリング剤を含有することもできる。
延伸によって得られるフィルムの厚みは、設計する位相差値や収縮性、位相差値の生じやすさなどに応じて選択できるが、10〜200μm の範囲とするのが好ましく、さらには20〜200μm の範囲とするのがより好ましい。この範囲であれば、フィルムの十分な自己支持性が得られ、広範囲の位相差値を得ることができる。延伸されたオレフィン系樹脂フィルムの厚みは、上記範囲内で、後の加熱収縮及び延伸によって得られる位相差フィルムに必要とされる位相差値に応じて適宜選択される。例えば、加熱収縮及び延伸により得られる位相差フィルムがλ/2板として用いられる場合、収縮性フィルムに貼合される延伸されたオレフィン系樹脂フィルムは、70〜150μm の厚みを有することが好ましく、さらには70〜130μm の厚みを有することがより好ましい。
また、延伸されたオレフィン系樹脂フィルムは、その面内位相差値が200〜400nmとされた状態で、後述する収縮性フィルムと貼合し、加熱収縮工程に供することが好ましい。
オレフィン系樹脂フィルムは、延伸前及び延伸後のいずれも、波長590nmにおける光透過率が80%以上の値を示すことが好ましい。この光透過率は、より好ましくは85%以上であり、とりわけ90%以上であることが一層好ましい。この後加熱収縮及び延伸して得られる位相差フィルムも、同様の光透過率を示すことが好ましい。
また、オレフィン系樹脂フィルムのガラス転移温度(Tg)は特に制限されないが、一般には、110〜185℃の範囲にあることが好ましい。ガラス転移温度が110℃以上であれば、耐久性の高い位相差フィルムが得られやすくなり、185℃以下のガラス転移温度であれば、延伸及びその後の加熱収縮によって、フィルム面内及び厚み方向の位相差値を制御しやすい。より好ましいガラス転移温度は、120〜170℃である。樹脂のガラス転移温度は、JIS K 7121-1987 に準じた示差走査熱量測定(DSC)により求めることができる。
[収縮性フィルム]
以上のようなオレフィン系樹脂の延伸フィルムに対し、本発明では、その片面又は両面に収縮性フィルムを貼り合わせ、この積層状態で加熱収縮及び延伸を施す。この際、収縮性フィルムとしては、160℃における長手方向の収縮率 S160(MD)が0〜35%であり、かつ幅方向の収縮率 S160(TD)が10〜45%であるものを用いる。
収縮性フィルムは、加熱収縮時に、先の延伸されたオレフィン系樹脂フィルムの長手方向と直交する方向(幅方向)に収縮力を付与するために用いられる。この収縮性フィルムに用いられる材料としては、例えば、ポリエステル、ポリスチレン、環状オレフィン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどを挙げることができるが、これらに限定されない。収縮力の均一性に優れ、耐熱性に優れるなどの点から、環状オレフィン系樹脂(特にノルボルネン系樹脂)やプロピレン系樹脂のフィルム、それも横方向が主延伸軸となる延伸フィルム、とりわけプロピレン系樹脂フィルムが好ましく用いられる。
この収縮性フィルムは、二軸延伸フィルムや一軸延伸フィルムなどの延伸フィルムであることが好ましい。このような収縮性フィルムは、例えば、押出法によりシート状に成形された原反フィルムを、縦又は横方向に所定の倍率で一軸延伸することにより、あるいは縦及び横方向に所定の倍率で同時若しくは逐次二軸延伸することにより、得ることができる。なお、成形及び延伸条件は、用いる樹脂の組成や種類、目的などに応じて、適宜選択され得る。収縮力の均一性に優れ、耐熱性に優れるなどの点から、二軸延伸されたフィルム、とりわけ二軸延伸されたプロピレン系樹脂フィルムが好ましく用いられる。
本発明では、160℃において、フィルム長手方向の収縮率 S160(MD)が0〜35%であり、かつ幅方向の収縮率 S160(TD)が10〜45%であるフィルムを、収縮性フィルムとして用いる。好ましくは、S160(MD)が0〜30%であり、S160(TD)が20〜40%であるフィルムが用いられる。160℃における長手方向及び幅方向の収縮率がこの範囲にある収縮性フィルムを用いることにより、オレフィン系樹脂フィルムの収縮を効率よく行うことができる。S160(MD)とS160(TD)とは、前記の範囲で、S160(MD)<S160(TD)の関係を満たすことがさらに好ましい。
この収縮性フィルムは、140℃において、フィルム長手方向の収縮率 S140(MD)が0〜15%の範囲にあり、幅方向の収縮率 S140(TD)が0〜30%の範囲にあることが好ましい。より好ましくは、S140(MD)が0〜10%であり、S140(TD)が0〜25%である。140℃における長手方向及び幅方向の収縮率がこの範囲にある収縮性フィルムを用いることにより、オレフィン系樹脂フィルムの収縮を効率よく行うことができる。 S140(TD)は前記のとおり、0であってもよいが、オレフィン系樹脂フィルムを効率よく収縮させる観点からは、3%以上であるのが好ましい。なお、160℃における収縮率及び140℃における収縮率は、後記する実施例に示す如く、JIS K 7133:1999 の加熱寸法変化測定方法に準じた方法で求めることができる。
また、この収縮性フィルムは、160℃における幅方向の収縮力 T160(TD)が、0〜1.3N/2mmの範囲、とりわけ0〜1.1N/2mmの範囲にあることが好ましい。このT160(TD) が前記の範囲にあれば、目的とする位相差値が得られ、かつ、均一な収縮を行うことができる。
この収縮性フィルムは、さらに、140℃における幅方向の収縮力 T140(TD)が、0.2〜1.2N/2mmの範囲、とりわけ0.25〜1N/2mm の範囲にあることが好ましい。このT140(TD) が上記の範囲にあれば、オレフィン系樹脂フィルムを効率よく収縮させることができる。幅方向の収縮力は、熱分析装置(TMA)を用いて測定することができる。
収縮性フィルムは、上記した収縮率や収縮力、また目的とする位相差フィルムの位相差値などに応じて、その厚みを選択できるが、例えば、10〜500μm 程度であるのが好ましく、とりわけ20〜300μm であるのが一層好ましい。収縮性フィルムの厚みがこの範囲内であれば、十分な収縮率が得られ、良好な光学均一性を有する位相差フィルムを作製することができる。
収縮性フィルムは、本発明の目的を満足するものであれば、一般包装用、食品包装用、パレット包装用、収縮ラベル用、キャップシール用、電気絶縁用などの用途に使用される市販の収縮性フィルムも適宜、選択して用いることができる。これら市販の収縮性フィルムは、そのまま用いてもよく、延伸処理や収縮処理などの2次加工を施してから用いてもよい。市販品の中で、本発明における収縮性フィルムに用いることができる二軸延伸ポリプロピレン樹脂の具体例としては、王子製紙(株)から販売されている商品名“アルファン”シリーズ、グンゼ(株)から販売されている商品名“ファンシートップ”シリーズ、東レ(株)から販売されている商品名“トレファン”シリーズ、サン・トックス(株)から販売されている商品名“サントックス−OP”シリーズ、東セロ(株)から販売されている商品名“トーセロOP”シリーズなどを挙げることができる。
[貼合工程]
以上のような収縮性フィルムを、前記の延伸されたオレフィン系樹脂フィルムに貼り合わせる。この際、収縮性フィルムの収縮方向が、少なくともオレフィン系樹脂フィルムの主延伸軸方向と直交する方向の成分を含むように貼り合わされる。すなわち、収縮性フィルムの収縮力の全部又は一部が、オレフィン系樹脂フィルムの主延伸軸方向と直交する方向に作用するように行われる。したがって、収縮性フィルムの収縮方向がオレフィン系樹脂フィルムの主延伸軸方向と斜めに交わっていてもよいが、一般には、収縮性フィルムの収縮方向をオレフィン系樹脂フィルムの主延伸軸方向と直交させるのが好ましい。ここで主延伸軸方向とは、前記延伸フィルムにおいて、延伸倍率が最大の方向をいう。
収縮性フィルムをオレフィン系樹脂フィルムに貼り合わせる方法は、特に制限されないが、オレフィン系樹脂フィルムと収縮性フィルムとの間に粘着剤層を設けて接着する方法が、生産性に優れることから好ましく用いられる。ここで粘着剤層は、オレフィン系樹脂フィルムの貼合面又は収縮性フィルムの貼合面に形成することができる。通常、収縮性フィルムは、位相差フィルムを作製した後に剥離除去されるので、粘着剤層は、加熱収縮工程では接着性と耐熱性を兼ね備え、その後の剥離工程では、位相差フィルムの表面から収縮性フィルムとともに容易に剥離できて、収縮処理が施された位相差フィルムの表面に粘着剤が残存しないものが好ましい。そこで、良好な剥離性を示すことから、粘着剤層は、収縮性フィルムの貼合面に設けるほうが好ましい。
粘着剤層を形成する粘着剤としては、アクリル系、合成ゴム系、ゴム系、シリコーン系などのポリマーを主成分とするものが用いられる。なかでも、接着性、耐熱性及び剥離性に優れることから、アクリル系ポリマーをベースポリマーとするアクリル系粘着剤が好ましい。アクリル系の粘着剤においては、メチル基やエチル基、ブチル基等の炭素数が20以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸のアルキルエステルと、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルなどからなる官能基含有アクリル系モノマーとを、ガラス転移温度が好ましくは25℃以下、さらに好ましくは0℃以下となるように配合した、重量平均分子量が10万以上、好適には250万以下のアクリル系共重合体が、ベースポリマーとして有用である。ここで重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で測定される値である。通常は、このようなベースポリマーに架橋剤を配合し、有機溶剤溶液の形で粘着剤組成物とされる。
粘着剤層を形成する方法は特に制限されず、例えば、離型フィルムに粘着剤組成物を塗布し、乾燥後、収縮性フィルムの表面に転写する方法(転写法)、収縮性フィルムの表面に直接、粘着剤組成物を塗布し、乾燥する方法(塗工法)などを採用することができる。
粘着剤層の厚みは特に制限されるものでなく、粘着力や、収縮性フィルム及びオレフィン系樹脂フィルムの表面状態に応じて適宜決定される。例えば、1〜100μm 程度が好ましく、さらには5〜50μm 程度とするのが一層好ましい。この範囲内であれば、収縮性フィルムの収縮を十分に延伸フィルムに伝播することができ、良好な光学的均一性を有する位相差フィルムを作製することができる。粘着剤層は、異なる組成のもの又は種類の異なるものを積層して用いることもできる。また粘着剤層は、必要に応じて接着力の制御などを目的に、粘着性付与樹脂のような天然物や合成物からなる樹脂類、さらには酸化防止剤などの適宜な添加剤が配合されていてもよい。
上述のとおり、粘着剤層は収縮性フィルム又はオレフィン系樹脂フィルムの表面に設けられるが、その露出面には、実用に供するまでの間、その汚染防止等を目的に剥離紙又は離型フィルム(セパレータともいう)が仮着されてカバーされる。これにより、通常の取扱い状態で粘着剤層に接触することを防止できる。前記セパレータとしては、例えば、プラスチックフィルム、ゴムシート、紙、布、不織布、ネット、発泡シートや金属箔、それらのラミネート体のような、適宜な薄葉体を、必要に応じて、シリコーン系や長鎖アルキル系、フッ素系、硫化モリブデンのような離型剤でコート処理したものなど、従来に準じた適宜なものを用いることができる。一般には、ポリエチレンテレフタレートフィルムのようなプラスチックフィルムに、離型処理を施したものが好適に用いられる。
オレフィン系樹脂フィルムと粘着剤層との界面における接着力は、特に制限されるものでないが、23℃において、0.1〜5N/25mm であることが好ましい。より好ましくは、0.1〜0.25N/25mmである。この接着力は、粘着剤層を介して収縮性フィルムをオレフィン系樹脂フィルムに貼り、JIS Z 0237:2000 に準じた手動ローラを3往復させて圧着したものを接着力測定用サンプルとし、このサンプルを、温度50℃、圧力5kg/cm2 で15分間オートクレーブ処理した後、前記JISに準じ、90度引きはなし法(引き上げ速度:300mm/分)で測定することができる。このような適度の接着力とするためには、例えば、オレフィン系樹脂フィルムの粘着剤層が設けられる側の表面に、コロナ処理やプラズマ処理のような易接着化表面処理を施したり、粘着剤層を介してオレフィン系樹脂フィルムと収縮性フィルムを接着した状態で、加熱処理やオートクレーブ処理のような接着力強化処理を施したりする方式を採用することができる。
収縮性フィルムは、設計する収縮力などに応じて、オレフィン系樹脂フィルムの片面又は両面に1枚又は2枚以上の適宜な数を接着することができる。オレフィン系樹脂フィルムの両面に収縮性フィルムを接着する場合や、片面に収縮性フィルムを複数枚接着する場合には、その表裏や上下における収縮性フィルムの収縮率は、同じものであってもよいし異なるものであってもよい。
前記のオレフィン系樹脂の延伸フィルムと収縮性フィルムは、オレフィン系樹脂フィルムの長手方向(ロールフィルムの機械方向(MD))と収縮性フィルムの長手方向(同じくロールフィルムの機械方向(MD))とが一致するように、通常はロール・ツー・ロールで貼り合わされる。
[加熱収縮工程]
こうして、延伸されたオレフィン系樹脂フィルムの片面又は両面に収縮性フィルムが貼り合わされた状態で、加熱収縮処理が施される。この加熱収縮工程では、延伸されたオレフィン系樹脂フィルムに収縮性フィルムが積層された状態で、幅方向の収縮倍率が 0.6〜0.9倍となるように収縮させる。
この際、収縮性フィルムには幅方向の大きい収縮力が作用し、延伸されたオレフィン系樹脂フィルムには長手方向の大きな収縮力が作用するので、これらの収縮力を受け入れることができる範囲で、従来公知の収縮処理方法を採用すればよい。そのような収縮処理としては、例えば、幅方向が収縮させる方向に設定された加熱装置を備えるテンター延伸機を用いる方法が挙げられるが、これに限るものではない。
積層フィルムを加熱して収縮させるときの温度は、オレフィン系樹脂フィルムのガラス転移温度(Tg)以上で行うことが、得られる位相差フィルムの位相差値を均一にしやすく、またフィルムが結晶化(白濁)しにくいなどの点で好ましい。この温度は、好ましくは、オレフィン系樹脂フィルムのガラス転移温度より1〜50℃高い温度(つまり、Tg+1℃〜Tg+50℃)である。より好ましくは、オレフィン系樹脂フィルムのガラス転移温度より2〜40℃高い温度が採用される。加熱収縮させるときの温度が前記の範囲であれば、均一な加熱収縮を行うことができる。また、このときの温度は、フィルム幅方向で一定であることが、位相差値のバラツキが小さく、良好な光学的均一性を有する位相差フィルムを作製するうえで好ましい。
加熱収縮工程における温度のバラツキが大きいと、収縮ムラが大きくなり、最終的に得られる位相差フィルムの位相差値のバラツキを招く。したがって、フィルムの幅方向における温度のバラツキは小さければ小さいほど好ましく、例えば、幅方向面内の温度バラツキを±1℃以下とすることが望ましい。
加熱収縮工程における温度を保持する具体的な方法は、特に制限されるものでないが、例えば、温度コントロールされた空気を吹きあてる方法、マイクロ波や遠赤外線などを利用したヒーターを用いる方法、温度調節されたロール、ヒートパイプロール又は金属ベルトを用いる方法など、公知の温度制御方法を採用することができる。
加熱収縮工程においては、幅方向の収縮倍率が0.6〜0.9倍(収縮率で表せば10〜40%)となるように収縮させる。ここで、収縮倍率とは、加熱収縮処理前のフィルムにおける基準部分の寸法に対する加熱収縮処理後のフィルムにおける当該基準部分の寸法の比である。具体的には、長手方向の収縮倍率S(MD)は、加熱収縮処理前のフィルムの長手方向基準長さをL0 とし、その長さが加熱収縮処理によりL1 になったとして、下式(3)で求められる。また、幅方向の収縮倍率S(TD)は、加熱収縮処理前のフィルムの幅方向基準長さ(例えばフィルム幅)をW0 とし、その長さが加熱収縮処理によりW1 になったとして、下式(4)で求められる。
S(MD)=L1/L0 (3)
S(TD)=W1/W0 (4)
収縮倍率は、オレフィン系樹脂フィルムや収縮性フィルムの種類などに影響されるが、設計する位相差値等に合わせて前記範囲から適宜選択すればよい。幅方向の収縮倍率は、0.65〜0.85倍とするのがより好ましい。加熱収縮工程における積層フィルムの送り速度は、装置の機械精度や安定性などから、 0.5m/分以上、さらには1m/分以上とするのが好ましく、また30m/分以下、さらには20m/分以下とするのが好ましい。
加熱収縮処理は、2回又は3回以上の段階に分けて行うこともできる。例えば、前記した範囲内の比較的高い温度で1段目の加熱収縮処理を行い、次いで前記した範囲内の比較的低い温度で2段目の加熱収縮処理を行うことも、有用な技術である。
さらに、加熱収縮工程の前に予熱工程を設けることが好ましい。予熱工程を設けることで、加熱収縮工程における積層フィルムのゆるみを防止することができ、光学特性が均一な位相差フィルムを得ることができる。予熱温度は、オレフィン系樹脂のガラス転移温度(Tg)より1〜50℃高い温度(つまり、Tg+1℃〜Tg+50℃)であることが好ましい。より好ましくは、オレフィン系樹脂フィルムのガラス転移温度より2〜40℃高い温度が採用される。予熱温度が前記の範囲であれば、均一な加熱収縮を行うことができる。またこのときの温度は、フィルム幅方向において一定であることが、位相差値のバラツキが小さく、良好な光学的均一性を有する位相差フィルムを作製するうえで好ましい。
予熱工程における温度にバラツキが大きいと、最終的に得られる位相差フィルムの位相差値のバラツキを招く。したがって、フィルムの幅方向における温度のバラツキは小さければ小さいほど好ましく、例えば、幅方向面内の温度バラツキを±1℃以下とすることが望ましい。
予熱工程における温度を保持する具体的な方法は、特に制限されるものでないが、例えば、温度コントロールされた空気を吹きあてる方法、マイクロ波や遠赤外線などを利用したヒーターを用いる方法、温度調節されたロール、ヒートパイプロール又は金属ベルトを用いる方法など、公知の温度制御方法を採用することができる。
なお、加熱収縮工程で急激な収縮を行った場合には、フィルムに割れを生じることがあるが、これを防止するため、予熱工程でも若干の収縮を起こさせ、加熱収縮工程における収縮率を緩和することも有用な方法である。予熱工程での収縮は、幅方向の収縮率が10%以下(予熱前の幅方向基準長さに対して 0.9倍以上)となるようにすることが望ましい。さらには、5%以下の幅方向収縮率となるようにするのが一層好ましい。予熱工程でこれ以上の収縮を行うと、予熱工程内でフィルムのたるみやしわが生じ、位相差値の均一性を低下させる可能性がある。予熱工程で若干の収縮を起こさせる場合は、それを加熱収縮工程の一部とみることもできる。
[延伸工程]
本発明の製造方法における延伸工程では、延伸されたオレフィン系樹脂フィルムに収縮性フィルムが積層された状態で、幅方向の延伸倍率が1.001〜1.1倍となるように延伸する。上で説明した加熱収縮処理に加えて、このような低倍率での延伸処理を施すことにより、位相差値や配向角のバラツキが小さく、一層均質化された位相差フィルムを得ることができる。延伸工程は、加熱収縮工程の前に行っても後に行ってもよく、また、2回又は3回以上の段階に分けて行うこともできるが、加熱収縮工程の後に少なくとも1回の延伸工程を設けるのが好ましい。例えば、加熱収縮工程の前に1段目の延伸処理を行い、加熱収縮処理を行った後に2段目の延伸処理を行うことも、有用な技術である。延伸工程を複数の段階に分ける場合、それらトータルでの延伸倍率が、上述の1.001〜1.1倍となるようにする。
積層フィルムを延伸するときの温度は、オレフィン系樹脂のガラス転移温度(Tg)付近であることが、得られる位相差値を均一に保ったまま、光軸を均一な状態に補正することができるため好ましい。そこでこの温度は、フィルムの表面温度でTg−50℃〜Tg+10℃の範囲とするが、好ましくはTg−30℃〜Tgの範囲である。延伸するときのフィルム表面の温度が前記の範囲であれば、延伸によりフィルムが割れるなどの不具合が起こることなく延伸することができる。
加熱収縮工程と同様、このときの温度にバラツキが大きいと、延伸ムラが大きくなり、最終的に得られる位相差フィルムの位相差値のバラツキを招く。したがって、フィルムの幅方向における温度のバラツキは小さければ小さいほど好ましく、例えば、幅方向面内の温度バラツキを±1℃以下とすることが望ましい。
延伸工程における温度を保持する具体的な方法は、特に制限されるものでないが、例えば、温度コントロールされた空気を吹きあてる方法、マイクロ波や遠赤外線などを利用したヒーターを用いる方法、温度調節されたロール、ヒートパイプロール又は金属ベルトを用いる方法など、公知の温度制御方法を採用することができる。
延伸工程においては、幅方向の延伸倍率が1.001〜1.1倍となるように延伸する。ここで、延伸倍率とは、延伸処理前のフィルムにおける基準部分の寸法に対する延伸処理後のフィルムにおける当該基準部分の寸法の比である。具体的には、延伸処理前のフィルムの幅方向基準長さ(例えばフィルム幅)をW0 とし、その長さが延伸処理によりW2 になったとして、幅方向の延伸倍率E(TD)は、下式(5)で求められる。
E(TD)=W2/W0 (5)
延伸倍率は、加熱収縮工程でのボーイング現象によって発生する光軸バラツキの大きさに影響されるが、求められる位相差値や光軸の精度に合わせて、上記範囲から適宜選択すればよい。幅方向の延伸倍率は、1.005〜1.08倍とするのがより好ましい。延伸工程における積層フィルムの送り速度は、特に制限されないが、装置の機械精度や安定性などから、 0.5m/分以上、さらには1m/分以上とするのが好ましく、また30m/分以下、さらには20m/分以下とするのが好ましい。
[剥離工程]
以上のように、予め延伸処理が施されたオレフィン系樹脂フィルムに収縮性フィルムを貼り合わせ、それに加熱収縮処理及び延伸処理を施すことにより、オレフィン系樹脂フィルムに適切な位相差が付与される。加熱収縮工程及び延伸工程を経た後の収縮性フィルムは、そのまま位相差フィルムに貼り合わされた状態で、使用時までプロテクトフィルムとして機能させてもよいが、一般には、加熱収縮工程及び延伸工程を経た後に位相差フィルムから剥離除去される。オレフィン系樹脂フィルムと収縮性フィルムの接着に粘着剤を用いた場合は、粘着剤層も、この剥離工程で収縮性フィルムとともに剥離除去される。
[位相差フィルム]
本発明によって得られる位相差フィルムは、前記のようなオレフィン系樹脂からなり、その屈折率特性が、前記式(1)及び(2)を満たすようにすることができる。
この位相差フィルムの厚みは、20〜500μm 程度の範囲にあればよい。好ましくは20〜300μm である。厚みがこの範囲であれば、フィルムの十分な自己支持性が得られ、広範囲の位相差値を得ることができる。
位相差フィルムをλ/2板として用いる場合、面内位相差値は200〜300nm程度の範囲にあればよい。好ましくは240〜300nmである。位相差値は、波長590nmの光に対する値で代表させることができる。この面内位相差値を、測定波長の約1/2とすることによって、液晶表示装置の表示特性をより一層改善することができる。λ/2板として用いる場合、その厚みは80〜160μm の範囲にあることが好ましい。より好ましくは85〜145μm である。
この位相差フィルムはまた、厚み方向の位相差値Rthが、−20nm〜+20nmの範囲にあることが好ましい。厚み方向の位相差値も、波長590nmの光に対する値で代表させることができる。厚み方向の位相差値Rthは、次式(6)によって定義される。
Rth=〔(nx+ny)/2−nz〕×d (6)
(式中、nx、ny、nz 及びdは、先に定義したとおりである。)
厚み方向の位相差値Rthは、面内の遅相軸を傾斜軸として40度傾斜させて測定される位相差値R40と面内の位相差値Ro とから算出できる。すなわち、前記式(6)による厚み方向の位相差値Rthは、面内の位相差値Ro 、遅相軸を傾斜軸として40度傾斜させて測定した位相差値R40、フィルムの厚みd、及びフィルムの平均屈折率n0 を用い、以下の式(7)〜(9)から数値計算によりnx、ny及びnz を求め、これらを前記式(6)に代入して、算出することができる。
Ro =(nx−ny)×d (7)
R40=(nx−ny')×d/cos(φ) (8)
(nx+ny+nz)/3=n0 (9)
ここで、
φ=sin-1〔sin(40°)/n0〕
ny'=ny×nz/〔ny 2×sin2(φ)+nz 2×cos2(φ)〕1/2
またこの位相差フィルムは、前記式(2)に示すように、(nx−nz)/(nx−ny)に相当するNz係数が0.1〜0.7のものとすることができる。Nz係数は、より好ましくは0.3〜0.6の範囲である。位相差フィルムのNz係数の値が 0.5付近であれば、角度によらず位相差値がほぼ一定の特性を達成することができ、液晶表示装置の表示特性をより一層改善することができる。
本発明の方法によれば、面内の位相差値のバラツキが小さい位相差フィルムを得ることができる。具体的には、フィルム幅方向で等間隔に設けた5点の測定個所における面内位相差値のバラツキを、±5nm以内、さらには±3nm以内とすることができる。ここでいう面内位相差値のバラツキとは、前記5点の測定個所における平均値から、最も大きく隔たっている値でも前記範囲内にあることを意味する。
位相差フィルムにおいて、配向角(遅相軸のなす方向)のバラツキが大きいと、偏光フィルム又は偏光板に積層した場合に、偏光度が低下するため、その配向角のバラツキが小さいほど好ましい。本発明により得られる位相差フィルムは、フィルム幅方向で等間隔に設けた5点の測定個所における配向角のバラツキが、±0.5°以内、さらには±0.3°以内とすることができる。ここでいう配向角のバラツキとは、前記5点の測定個所における平均値から、最も大きく隔たっている値でも前記範囲内にあることを意味する。
本発明により得られる位相差フィルムは、面内の位相差値Ro が所定の値となるように設計されたものである。この位相差フィルムは、1枚で用いてもよく、また2枚以上を任意の角度で積層して用いてもよい。さらに、本発明によって得られる位相差フィルムを、他の位相差フィルムと組み合わせて用いることもできる。他の位相差フィルムと組み合わせる場合においても、本発明により得られる位相差フィルムは1枚又は2枚以上を用いることができる。他の位相差フィルムも1枚又は2枚以上を用いることができる。位相差フィルムの積層には、粘着剤や接着剤を用いることができる。
前記他の位相差フィルムの材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートのようなポリエステル系樹脂、ジアセチルセルロースやトリアセチルセルロースのようなセルロース系樹脂、ポリメチルメタクリレートのような(メタ)アクリル系樹脂、ポリスチレンやアクリロニトリル/スチレン共重合体、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体、アクリロニトリル/エチレン/スチレン共重合体、スチレン/マレイミド共重合体、スチレン/無水マレイン酸共重合体のようなスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂などが挙げられる。また、塩化ビニル系樹脂、ナイロンや芳香族ポリアミドのようなアミド系樹脂、芳香族ポリイミドやポリイミドアミドのようなイミド系樹脂、スルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、ビニルブチラール系樹脂、アリレート系樹脂、ポリオキシメチレン系樹脂、エポキシ系樹脂、又はこれら樹脂のブレンド物からなる高分子フィルムに複屈折特性を付与したフィルムや、基材上に液晶性化合物を含む溶液を塗工し、硬化させて配向を固定したフィルムなども用いることができる。さらには、環状オレフィン系樹脂、ノルボルネン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン/プロピレン共重合体のようなオレフィン系樹脂からなり、本発明とは異なる方法で得られる位相差フィルムも、用いることができる。これらの複屈折特性は、高分子フィルムの製膜時に自発的に発生する場合はそれをそのまま用いることができるし、高分子フィルムを一軸又は二軸に延伸することによって付与することもできる。
他の位相差フィルムの複屈折特性は特に制限されないが、例えば、IPSモード、VAモード又はOCBモードの液晶表示装置に用いる場合は、面内の位相差値が80〜140nmで、Nz係数が0.9〜1.3である一軸性位相差フィルム、面内の位相差値が0〜5nmで、厚み方向の位相差値が90〜400nmであり、光学軸がほぼフィルム法線方向にある負の一軸性位相差フィルム、基板法線から光学軸が10〜80°に傾斜した一軸性傾斜配向位相差フィルム、面内の位相差値が30〜60nmで、Nz係数が2〜6である二軸性位相差フィルム、面内の位相差値が100〜300nmで、Nz係数が0.2〜0.8である二軸性位相差フィルム、ディスコチック液晶分子又は棒状液晶分子が基板法線に対して徐々に傾きを変えて傾斜配向しているハイブリッド配向位相差フィルムなどが好ましく用いられる。これらのうち、一軸性位相差フィルムや二軸性位相差フィルムは、本発明により得られる光学フィルムと併用することで、液晶表示装置のより一層の視野角特性向上が期待できる。
[複合偏光板]
本発明により得られる位相差フィルムは、偏光板の少なくとも片側に積層し、複合偏光板として用いることができる。偏光板は、通常、偏光フィルムの片面又は両面に透明保護フィルムを有するものである。偏光フィルムの両面に透明保護フィルムを設ける場合、表裏の透明保護フィルムは、同じ材料で構成されてもよいし、異なる材料で構成されてもよい。偏光板は、通常、液晶セルの両側に配置され、2枚の偏光板は吸収軸が互いに直交するように配置される。本発明により得られる位相差フィルムは、接着剤や粘着剤などを用いて偏光フィルム又は偏光板と積層することができる。偏光フィルムの一方の面に透明保護フィルムを積層し、偏光フィルムの他方の面に本発明により得られる位相差フィルムを積層するのも有効である。
この複合偏光板において、位相差フィルムの遅相軸が偏光フィルムの吸収軸と平行又は直交するように積層したものが好ましく用いられる。位相差フィルムの遅相軸を偏光フィルムの吸収軸と平行にして配置する場合、位相差フィルムの遅相軸と偏光フィルムの吸収軸のなす角度は0°±2°以内であることが好ましく、さらには 0°±0.5°以内であることが一層好ましい。また、位相差フィルムの遅相軸を偏光フィルムの吸収軸と直交させて配置する場合、位相差フィルムの遅相軸と偏光フィルムの吸収軸のなす角度は90°±2°以内であることが好ましく、さらには 90°±0.5°以内であることが一層好ましい。これらの角度範囲から外れる程度が大きくなるほど、偏光板の偏光度が低下し、液晶表示装置に用いたときにコントラストが低下しやすい。なお、複合偏光板においては、特に制限されるものでないが、位相差フィルムはλ/2板であることが好ましい。2枚のλ/4板を遅相軸が平行になるように積層し、λ/2板として用いることもできる。
偏光フィルムには各種公知のものが使用できる。例えば、ポリビニルアルコール系樹脂フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系樹脂フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体の完全又は部分ケン化樹脂からなるフィルムなどの親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料からなる二色性物質を吸着させて一軸延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物のようなポリエン系配向フィルムなどが挙げられる。これらの中でも、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムにヨウ素などの二色性物質を吸着配向させてなる偏光フィルムは、偏光二色比が高いことから、好ましく用いられる。偏光フィルムの厚みは特に制限されないが、一般的に5〜80μm 程度である。
[透明保護フィルム]
偏光フィルムの一方の面に積層される透明保護フィルムは、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮蔽性、位相差値の安定性などに優れる材料からなることが好ましい。かかる透明保護フィルム用材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートのようなポリエステル系樹脂、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロースのようなセルロース系樹脂、ポリメチルメタクリレートのような(メタ)アクリル系樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル/スチレン共重合体、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体、アクリロニトリル/エチレン/スチレン共重合体、スチレン/マレイミド共重合体、スチレン/無水マレイン酸共重合体のようなスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂などが挙げられる。また、ノルボルネン系樹脂をはじめとする環状オレフィン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン/エチレン共重合体のような非環状オレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ナイロンや芳香族ポリアミドのようなアミド系樹脂、芳香族ポリイミドやポリイミドアミドのようなイミド系樹脂、スルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、ビニルブチラール系樹脂、ポリオキシメチレン系樹脂、エポキシ系樹脂、さらにはこれら樹脂のブレンド物なども、透明保護フィルム用材料として用いることができる。これらの中でも、偏光フィルムとの接着の容易さなどを考慮すると、セルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、又は環状若しくは非環状オレフィン系樹脂であることが好ましい。透明保護フィルムは、偏光フィルムとの貼合に先立って、ケン化処理、コロナ処理、プラズマ処理などの易接着処理を施しておくことが望ましい。
透明保護フィルムの厚みは、適宜に決定し得るが、一般的には、強度や取扱い性等の作業性などの点から、1〜500μm 程度とされる。より好ましくは、10〜200μm 、さらに好ましくは20〜100μm である。かかる範囲内の厚みであれば、偏光フィルムを機械的に保護し、高温高湿下に曝されても偏光フィルムが収縮せず、安定した光学特性を保つことができる。
本発明により得られる位相差フィルムは、光弾性係数の絶対値が従来の芳香族系高分子フィルムよりも小さいので、偏光フィルムに接着剤又は粘着剤を介して直接積層しても、液晶表示装置に適用したときに、偏光フィルムの収縮力やバックライトの熱による位相差値のズレやムラを生じにくく、良好な表示特性を得ることができる。複屈折や光弾性係数の絶対値が小さい透明保護フィルムの表面にこの位相差フィルムを積層すれば、この位相差フィルムに伝播する偏光フィルムの収縮力や、バックライトの熱による影響をさらに低減できるので、位相差値のズレやムラをより一層低減することができる。
[位相差フィルムと偏光フィルムの接着]
位相差フィルムと偏光フィルムとの接着には、例えば、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、シアノアクリレート系樹脂、アクリルアミド系樹脂などを成分とする接着剤を用いることができ、これらいずれを用いても、良好な接着力が得られる。接着剤層を薄くする観点から好ましい接着剤として、水系の接着剤、すなわち、接着剤成分を水に溶解したもの又は水に分散させたものを挙げることができる。また、別の好ましい接着剤として、無溶剤型の接着剤、具体的には、加熱や活性エネルギー線の照射によりモノマー又はオリゴマーを反応硬化させて接着剤層を形成するものを挙げることができる。さらに別の好ましい接着剤として、高弾性率の粘着剤を挙げることもできる。
まず、水系の接着剤について説明する。水系の接着剤となりうる接着剤成分としては、例えば、水溶性の架橋性エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂などを挙げることができる。
水溶性の架橋性エポキシ系樹脂としては、例えば、ジエチレントリアミンやトリエチレンテトラミンのようなポリアルキレンポリアミンとアジピン酸のようなジカルボン酸との反応で得られるポリアミドポリアミンに、エピクロロヒドリンを反応させて得られるポリアミドエポキシ樹脂を挙げることができる。このようなポリアミドエポキシ樹脂の市販品としては、住化ケムテックス(株)から販売されている“スミレーズレジン 650”や“スミレーズレジン 675”などがある。
接着剤成分として水溶性のエポキシ樹脂を用いる場合は、さらに塗工性と接着性を向上させるために、ポリビニルアルコール系樹脂などの他の水溶性樹脂を混合するのが好ましい。ポリビニルアルコール系樹脂は、部分ケン化ポリビニルアルコールや完全ケン化ポリビニルアルコールのほか、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、メチロール基変性ポリビニルアルコール、アミノ基変性ポリビニルアルコールのような、変性されたポリビニルアルコール系樹脂であってもよい。適当なポリビニルアルコール系樹脂の市販品として、(株)クラレから販売されているアニオン性基含有ポリビニルアルコールである“KL-318”(商品名)などがある。
水溶性のエポキシ系樹脂を含む接着剤とする場合、そのエポキシ系樹脂及び必要に応じて加えられるポリビニルアルコール系樹脂などの他の水溶性樹脂を水に溶解して、接着剤溶液を構成する。この場合、水溶性のエポキシ系樹脂は、水100重量部あたり 0.2〜2重量部程度の範囲の濃度とするのが好ましい。また、ポリビニルアルコール系樹脂を配合する場合、その量は、水100重量部あたり1〜10重量部程度、さらには1〜5重量部程度とするのが好ましい。
一方、ウレタン系樹脂を含む水系の接着剤を用いる場合、適当なウレタン樹脂の例として、アイオノマー型のウレタン樹脂、特にポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂を挙げることができる。ここで、アイオノマー型ウレタン樹脂とは、骨格を構成するウレタン樹脂中に、少量のイオン性成分(親水成分)が導入されたものである。また、ポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂とは、ポリエステル骨格を有するウレタン樹脂であって、その中に少量のイオン性成分(親水成分)が導入されたものである。このようなアイオノマー型ウレタン樹脂は、乳化剤を使用せずに直接、水中で乳化してエマルジョンとなるため、水系の接着剤として好適である。ポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂の市販品として、例えば、DIC(株)から販売されている“ハイドラン AP-20”、“ハイドラン APX-101H” などがあり、いずれもエマルジョンの形で入手できる。
アイオノマー型のウレタン樹脂を接着剤成分とする場合は、さらにイソシアネート系などの架橋剤を配合するのが好ましい。イソシアネート系架橋剤は、分子内にイソシアナト基(−NCO)を少なくとも2個有する化合物であり、その例としては、2,4−トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の単量体あるいはオリゴマーや、これらの化合物をポリオールに反応させたアダクト体などを挙げることができる。好適に使用しうる市販のイソシアネート系架橋剤として、例えば、DIC(株)から販売されている“ハイドランアシスター C-1”などが挙げられる。
アイオノマー型のウレタン樹脂を含む水系接着剤を用いる場合は、粘度と接着性の観点から、そのウレタン樹脂の濃度が10〜70重量%程度、さらには20重量%以上、また50重量%以下となるように、水中に分散させたものが好ましい。イソシアネート系架橋剤を配合する場合は、ウレタン樹脂100重量部に対してイソシアネート系架橋剤が5〜100重量部程度となるように、その配合量を適宜選択すればよい。
以上のような接着剤を、位相差フィルム又は偏光フィルムの接着面に塗布し、両者を貼り合わせて、複合偏光板を得ることができる。接着に先立って、オレフィン系樹脂からなる位相差フィルムの表面には、コロナ放電処理などの易接着処理を施し、濡れ性を高めておくのも有効である。また積層後は、例えば60〜100℃程度の温度で乾燥処理が施される。さらにその後、室温よりもやや高い温度、例えば、30〜50℃程度の温度で1〜10日間程度養生させることが、接着力を一層高めるうえで好ましい。
次に、無溶剤型の接着剤について説明する。無溶剤型の接着剤とは、有意量の溶剤を含まず、一般には、加熱や活性エネルギー線の照射により重合する硬化性の化合物と、重合開始剤とを含んで構成される。反応性の観点からは、カチオン重合で硬化するものが好ましく、特にエポキシ系の接着剤が好ましく用いられる。
そこで、複合偏光板における一つの好ましい形態では、オレフィン系樹脂からなる位相差フィルムと偏光フィルムとが、無溶剤型のエポキシ系接着剤で接着されている。この接着剤は、加熱又は活性エネルギー線の照射によるカチオン重合で硬化するものであることがより好ましい。特に、耐候性や屈折率などの観点から、分子内に芳香環を含まないエポキシ化合物が、硬化性化合物として好適に用いられる。分子内に芳香環を含まないエポキシ化合物を用いた接着剤は、例えば、特開 2004-245925号公報に記載されている。このような芳香環を含まないエポキシ化合物として、脂環式環を有するポリオールのグリシジルエーテル、脂環式エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物などが例示できる。接着剤に用いる硬化性のエポキシ化合物は、通常、分子中にエポキシ基を2個以上有している。
脂環式環を有するポリオールのグリシジルエーテルについて説明すると、脂環式環を有するポリオールは、芳香族ポリオールを触媒の存在下、加圧下で芳香環に選択的に水素化反応を行うことにより得られるものであることができる。芳香族ポリオールしては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェールF、ビスフェノールSのようなビスフェノール型化合物;フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ヒドロキシベンズアルデヒドフェノールノボラック樹脂のようなノボラック型樹脂;テトラヒドロキシジフェニルメタン、テトラヒドロキシベンゾフェノン、ポリビニルフェノールのような多官能型の化合物などが挙げられる。これら芳香族ポリオールの芳香環に水素化反応を行って得られる脂環式ポリオールに、エピクロロヒドリンを反応させることにより、グリシジルエーテルとすることができる。このような脂環式環を有するポリオールのグリシジルエーテルの中でも好ましいものとして、水素化されたビスフェノールAのジグリシジルエーテルが挙げられる。
次に脂環式エポキシ化合物について説明すると、これは、次式に示すように、脂環式環に結合したエポキシ基を分子内に少なくとも1個有する化合物であり、式中、mは2〜5の整数を表す。
この式における (CH2)m 中の水素原子を1個又は複数個取り除いた形の基が他の化学構造に結合した化合物が、脂環式エポキシ化合物となりうる。また、脂環式環を形成する水素がメチル基やエチル基のような直鎖状アルキル基で適宜置換されていてもよい。中でも、エポキシシクロペンタン環(上式においてm=3のもの)や、エポキシシクロヘキサン環(上式においてm=4のもの)を有する化合物を用いることが好ましい。脂環式エポキシ化合物の具体例として、次のようなものを挙げることができる。
3,4−エポキシシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、
3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、
エチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、
ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル) アジペート、
ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル) アジペート、
ジエチレングリコールビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチルエーテル)、
エチレングリコールビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチルエーテル)、
2,3,14,15−ジエポキシ−7,11,18,21−テトラオキサトリスピロ−[5.2.2.5.2.2]ヘンイコサン(また、3,4−エポキシシクロヘキサンスピロ−2',6'−ジオキサンスピロ−3'',5''−ジオキサンスピロ−3''',4'''−エポキシシクロヘキサンとも命名できる化合物)、
4−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−2,6−ジオキサ−8,9−エポキシスピロ[5.5]ウンデカン、
4−ビニルシクロヘキセンジオキサイド、
ビス−2,3−エポキシシクロペンチルエーテル、
ジシクロペンタジエンジオキサイドなど。
次に脂肪族エポキシ化合物について説明すると、脂肪族多価アルコール又はそのアルキレンオキサイド付加物のポリグリシジルエーテルが、これに該当する。その例としては、1,4−ブタンジオールのジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル、グリセリンのトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールのジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールのジグリシジルエーテル、エチレングリコールやポリプロピレングリコール、グリセリンのような脂肪族多価アルコールに1種又は2種以上のアルキレンオキサイド(エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド)を付加することにより得られるポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。
ここに例示したエポキシ化合物は、それぞれ単独で使用してもよいし、また複数のエポキシ化合物を混合して使用してもよい。
無溶剤型の接着剤に使用するエポキシ化合物のエポキシ当量は、通常 30〜3,000g/当量、好ましくは 50〜1,500g/当量の範囲である。エポキシ当量が30g/当量を下回ると、硬化後の保護フィルムの可撓性が低下したり、接着強度が低下したりする可能性がある。一方、 3,000g/当量を超えると、他の成分との相溶性が低下する可能性がある。
エポキシ化合物をカチオン重合で硬化させるためには、カチオン重合開始剤が配合される。カチオン重合開始剤は、可視光線、紫外線、X線、電子線等の活性エネルギー線の照射、又は加熱により、カチオン種又はルイス酸を発生し、エポキシ基の重合反応を開始する。いずれのタイプのカチオン重合開始剤であっても、潜在性が付与されていることが、作業性の観点から好ましい。
以下、光カチオン重合開始剤について説明する。光カチオン重合開始剤を使用すると、常温での硬化が可能となり、偏光フィルムの耐熱性あるいは膨張による歪を考慮する必要が減少し、位相差フィルムと偏光フィルムとを良好に接着することができる。また、光カチオン重合開始剤は光で触媒的に作用するため、エポキシ化合物に混合しても保存安定性や作業性に優れる。活性エネルギー線の照射によりカチオン種やルイス酸を生じる化合物として、例えば、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ヨードニウム塩や芳香族スルホニウム塩のようなオニウム塩、鉄−アレン錯体などを挙げることができる。これらの中でも特に芳香族スルホニウム塩は、300nm以上の波長領域でも紫外線吸収特性を有することから、硬化性に優れ、良好な機械強度や接着強度を有する硬化物を与えることができるため、好ましく用いられる。
これらの光カチオン重合開始剤は、市販品を容易に入手することができ、例えば、以下のような商品名で販売されているものを挙げることができる。
“カヤラッド PCI-220”及び“カヤラッド PCI-620”(以上、日本化薬(株)製)、
“UVI-6990”(ユニオンカーバイド社製)、
“アデカオプトマー SP-150”及び“アデカオプトマー SP-170”(以上、(株)ADEKA製);
“CI-5102”、“CIT-1370”、“CIT-1682”、“CIP-1866S”、“CIP-2048S”、
“CIP-2064S”(以上、日本曹達(株)製);
“DPI-101”、“DPI-102”、“DPI-103”、“DPI-105”、“MPI-103”、“MPI-105”、“BBI-101”、“BBI-102”、“BBI-103”、“BBI-105”、“TPS-101”、“TPS-102”、
“TPS-103”、“TPS-105”、“MDS-103”、“MDS-105”、“DTS-102”及び“DTS-103”
(以上、みどり化学(株)製);
“PI-2074”(ローディア社製)など。
光カチオン重合開始剤の配合量は、エポキシ化合物100重量部に対して、通常 0.5〜20重量部であり、好ましくは1重量部以上、また好ましくは15重量部以下である。
さらに、必要に応じて光増感剤を併用することができる。光増感剤を使用することで、反応性が向上し、硬化物の機械強度や接着強度を向上させることができる。光増感剤としては例えば、カルボニル化合物、有機硫黄化合物、過硫化物、レドックス系化合物、アゾ及びジアゾ化合物、ハロゲン化合物、光還元性色素などが挙げられる。光増感剤を配合する場合、その量は、光カチオン重合性エポキシ化合物を含む接着剤組成物全体の固形分を100重量部として、 0.1〜20重量部程度である。
次に、熱カチオン重合開始剤について説明する。加熱によりカチオン種又はルイス酸を発生する化合物として、ベンジルスルホニウム塩、チオフェニウム塩、チオラニウム塩、ベンジルアンモニウム、ピリジニウム塩、ヒドラジニウム塩、カルボン酸エステル、スルホン酸エステル、アミンイミドなどを挙げることができる。これらの熱カチオン重合開始剤も、市販品を容易に入手することができ、例えば、以下のような商品名で販売されているものを挙げることができる。
“アデカオプトン CP77”及び“アデカオプトン CP66”(以上、(株)ADEKA製);
“CI-2639”及び“CI-2624”(以上、日本曹達(株)製);
“サンエイド SI-60L”、“サンエイド SI-80L”及び“サンエイド SI-100L”(以上、三新化学工業(株)製)など。
以上説明した光カチオン重合と熱カチオン重合を併用することも、有用な技術である。また、エポキシ系接着剤は、さらにオキセタン類やポリオール類など、カチオン重合を促進する化合物を含有してもよい。
無溶剤型の接着剤を用いる場合も、その接着剤を、位相差フィルム又は偏光フィルムの接着面に塗布し、両者を貼り合わせて、複合偏光板とすることができる。位相差フィルム又は偏光フィルムに無溶剤型接着剤を塗工する方法に特別な限定はなく、例えば、ドクターブレード、ワイヤーバー、ダイコーター、カンマコーター、グラビアコーターなど、種々の塗工方式が利用できる。また、各塗工方式には各々最適な粘度範囲があるため、少量の溶剤を用いて粘度調整を行ってもよい。このために用いる溶剤は、偏光フィルムの光学性能を低下させずに、エポキシ系接着剤を良好に溶解するものであればよく、例えば、トルエンに代表される炭化水素類、酢酸エチルに代表されるエステル類などの有機溶剤が使用できる。無溶剤型のエポキシ系接着剤を用いる場合、接着剤層の厚さは通常50μm 以下、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下であり、また通常は1μm 以上である。
以上のように、未硬化の接着剤層を介して偏光フィルムにオレフィン系位相差フィルムを貼合した後は、活性エネルギー線を照射するか、又は加熱することにより、エポキシ系接着剤層を硬化させ、位相差フィルムを偏光フィルム上に固着させる。活性エネルギー線の照射により硬化させる場合、好ましくは紫外線が用いられる。具体的な紫外線光源としては、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、ブラックライトランプ、メタルハライドランプなどを挙げることができる。活性エネルギー線の照射強度や照射量は、重合開始剤を十分に活性化させ、かつ硬化後の接着剤層や偏光フィルム、位相差フィルム及び透明保護フィルムに悪影響を与えないように、適宜選択すればよい。また加熱により硬化させる場合は、一般的に知られた方法で加熱することができ、そのときの温度や時間も、重合開始剤を十分に活性化させ、かつ硬化後の接着剤層や偏光フィルム、位相差フィルム及び透明保護フィルムに悪影響を与えないように、適宜選択すればよい。
次に高弾性率の粘着剤について説明する。粘着剤層を構成する粘着剤として、温度80℃における貯蔵弾性率が0.1MPa以上、好ましくは0.15〜10MPaである高弾性粘着剤を用いることもできる。高弾性粘着剤の温度23℃における貯蔵弾性率は、0.1MPa以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.2〜10MPaである。なお、貯蔵弾性率は一般的に、温度が上がるにつれて低くなる傾向があるため、80℃で測定した材料の貯蔵弾性率が0.1MPa以上であれば、通常は23℃で測定した同じ材料の貯蔵弾性率はそれ以上の値を示す。
ここで、貯蔵弾性率(動的弾性率)とは、一般的に用いられる粘弾性測定の用語を意味するものであるが、試料に時間によって変化(振動)する歪み又は応力を与えて、それによって発生する応力又は歪みを測定することにより、試料の力学的な性質を測定する方法(動的粘弾性測定)によって求められる値である。具体的には、歪みを、応力と同位相の波と、応力から位相が90度ずれた波との2成分に分けたとき、応力と同位相にある波の弾性率である。貯蔵弾性率は、市販の粘弾性測定装置を用いて測定することができる。粘弾性測定装置の温度制御には、循環恒温槽、電気ヒーター、ペルチェ素子等の種々公知の温度制御デバイスが用いられており、これにより測定時の温度を設定することができる。
粘着剤の貯蔵弾性率(G’)は例えば、測定対象の粘着剤からなる直径8mm×厚み1mmの円柱状の試験片を作製し、動的粘弾性測定装置(Dynamic Analyzer RDA II:REOMETRIC社製)を用いて、周波数1Hzの捻りせん断法とし、所定の温度で測定を行い、求めることができる。
具体的な高弾性粘着剤としては、例えば、アクリル系ポリマーや、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテルなどをベースポリマーとするもので構成することができる。なかでも、アクリル系ポリマーのように、光学的な透明性に優れ、適度の濡れ性や凝集力を保持し、基材との接着性にも優れ、さらには耐候性や耐熱性などを有し、加熱や加湿の条件下で浮きや剥がれ等の剥離問題を生じないものを選択して用いることが好ましい。アクリル系ポリマーにおいては、メチル基やエチル基、ブチル基等の炭素数が20以下のアルキル基を有するアクリル酸のアルキルエステルと、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルなどからなる官能基含有アクリル系モノマーとを、ガラス転移温度が好ましくは25℃以下、さらに好ましくは0℃以下となるように配合した、重量平均分子量が10万以上のアクリル系共重合体が、ベースポリマーとして有用である。
アクリル系ポリマーは特に限定されるものでないが、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸エステル系ベースポリマーや、これらの(メタ)アクリル酸エステルを2種類以上用いた共重合系ベースポリマーが好適に用いられる。これらのベースポリマーには、極性モノマーが共重合されている。極性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリルアミド、2−N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなどの、カルボキシル基、水酸基、アミド基、アミノ基、エポキシ基などの極性官能基を有するモノマーを挙げることができる。
これらのアクリル系ポリマーは、単独でも粘着剤として使用可能であるが、粘着剤には通常、架橋剤が配合される。架橋剤としては、2価又は多価金属イオンであって、カルボキシル基との間でカルボン酸金属塩を形成するもの、ポリアミン化合物であって、カルボキシル基との間でアミド結合を形成するもの、ポリエポキシ化合物やポリオール化合物であって、カルボキシル基との間でエステル結合を形成するもの、ポリイソシアネート化合物であって、カルボキシル基との間でアミド結合を形成するものなどが例示される。なかでもポリイソシアネート化合物が、有機系架橋剤として広く使用されている。
粘着剤層を形成する高弾性粘着剤の貯蔵弾性率を高い値にするための手段は特に制限されないが、例えば、前記の粘着剤成分に、オリゴマー、具体的にはウレタンアクリレート系のオリゴマーを配合する方法を好適なものとして挙げることができる。さらに、このようなウレタンアクリレート系オリゴマーを配合した粘着剤にエネルギー線を照射して硬化させたものを用いることが、高い貯蔵弾性率を示すようになる点でより好ましい。ウレタンアクリレート系オリゴマーが配合された粘着剤、あるいは、それを支持フィルム(セパレータ)上に塗工し紫外線硬化させたセパレータ付き粘着剤は、公知であり、粘着剤メーカーから入手できる。
高弾性粘着剤には、上記のベースポリマー、架橋剤及びオリゴマーのほか、必要に応じて、粘着剤の粘着力、凝集力、粘性、弾性率、ガラス転移温度などを調整するために、天然物や合成物である樹脂類、粘着性付与樹脂、酸化防止剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、消泡剤、腐食抑制剤、光重合開始剤などの適宜な添加剤を配合することもできる。紫外線吸収剤には、サリチル酸エステル系化合物やベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などがある。
また、高弾性粘着剤として、光拡散剤を配合した光拡散性粘着剤を使用することもできる。ここで用いる光拡散剤は、粘着剤層を構成するベースポリマーとは屈折率が異なる微粒子であればよく、無機化合物からなる微粒子や有機化合物(ポリマー)からなる微粒子を用いることができる。
無機化合物からなる微粒子として、例えば、酸化アルミニウム(屈折率 1.76)、酸化ケイ素(屈折率 1.45)などを挙げることができる。有機化合物(ポリマー)からなる微粒子としては、例えば、メラミンビーズ(屈折率 1.57)、ポリメタクリル酸メチルビーズ(屈折率 1.49)、メタクリル酸メチル/スチレン共重合体樹脂ビーズ(屈折率1.50〜1.59)、ポリカーボネートビーズ(屈折率 1.55)、ポリエチレンビーズ(屈折率1.53)、ポリスチレンビーズ(屈折率1.6)、ポリ塩化ビニルビーズ(屈折率1.46)、シリコーン樹脂ビーズ(屈折率1.46)などを挙げることができる。
上記したようなアクリル系ベースポリマーを含めて、粘着剤層を構成するベースポリマーは、 1.4前後の屈折率を示すことが多いので、そこに配合する光拡散剤は、その屈折率が1〜2程度のものから、適宜選択すればよい。粘着剤層を構成するベースポリマーと光拡散剤との屈折率差は、通常 0.01以上であり、また液晶表示装置の明るさと視認性の観点から、0.01以上0.5以下とするのが好適である。光拡散剤として用いる微粒子は、球形のもの、それも単分散に近いものが好ましく、例えば、平均粒径が2〜6μm 程度の範囲にある微粒子が好適に用いられる。
光拡散剤の配合量は、それが配合された光拡散性粘着剤層に必要とされるヘイズ値や、それが適用される液晶表示装置の明るさなどを考慮して、適宜決められるが、一般には、粘着剤層を構成するベースポリマー100重量部に対して、3〜30重量部程度である。
また、光拡散剤が配合された光拡散性粘着剤層は、それを用いて得られる複合偏光板が適用された液晶表示装置の明るさを確保するとともに、表示像のにじみやボケを生じにくくする観点から、そのヘイズが20〜80%の範囲となるようにするのが好ましい。ヘイズは、JIS K 7105-1981 に規定され、(拡散透過率/全光線透過率)×100(%)で表される値である。
さらに、光拡散剤が配合された光拡散性粘着剤層の厚みは、その接着力などに応じて決定されるが、通常は1〜40μm の範囲である。光拡散性粘着剤層の厚みは3〜25μm とするのが、良好な加工性を保ち、高い耐久性を示し、また液晶表示装置を正面から見た場合や斜めから見た場合の明るさを保ち、表示像のにじみやボケが生じにくくする観点から、好適である。
高弾性粘着剤を用いる場合は、その粘着剤を、位相差フィルム又は偏光フィルムの接着面に形成し、両者を貼り合わせて複合偏光板とすることができる。粘着剤層は、偏光フィルム又は位相差フィルムに前記のようなベースポリマーを主体とする粘着剤溶液を塗布し乾燥する方法によって形成できるほか、離型処理が施された支持フィルム(セパレータ)の離型処理面に粘着剤層が形成されたもの(セパレータ付き粘着剤)を用意し、それを粘着剤層側で偏光フィルム又は位相差フィルムの表面に貼り合わせる方法によっても形成できる。具体的には、例えば、トルエンや酢酸エチルなどの有機溶媒に粘着剤を溶解又は分散させて10〜40重量%の溶液を調製し、これを偏光フィルム又は位相差フィルムの表面に直接塗布して乾燥させて粘着剤層を形成する方法が挙げられる。また、別の方法としては、先に前記のセパレータ上に粘着剤層を形成しておいた後、偏光フィルム又は位相差フィルムに転写する方法などを採用することができる。このようにして形成された粘着剤層には、シリコーン系等の離型剤による処理が施された樹脂フィルムからなるセパレータを積層してもよい。
さらに、粘着剤層を偏光フィルム又は位相差フィルムの表面に形成する際に、必要に応じて、偏光フィルム又は位相差フィルムの粘着剤層形成面に密着性を向上させるための処理、例えばコロナ処理などを施してもよく、同様の処理を偏光フィルム又は位相差フィルムに貼り合わされる粘着剤層の表面に施してもよい。
偏光フィルムと位相差フィルムとの貼合は、従来から知られている技術により行うことができ、例えば、貼合ロール等を用いて偏光フィルムの偏光透過軸に対して位相差フィルムの遅相軸が直交又は平行となるように積層する方法や、偏光フィルムの偏光透過軸に対して位相差フィルムの遅相軸が所定の角度となるように貼合する方法により行われる。
なお、偏光フィルムと透明保護フィルムの接着には、前記と同様の接着剤又は粘着剤を用いてもよいし、それとは異なる接着剤又は粘着剤を用いてもよいが、偏光フィルムと位相差フィルムの間、及び偏光フィルムと透明保護フィルムの間で、同じ接着剤又は粘着剤を用いるのが、工程及び材料を少なくできることから好ましい。また、これらのフィルムの貼合工程は、ロール・ツー・ロールで行われることが好ましい。
以上説明した複合偏光板においては、その位相差フィルムの偏光フィルム側とは反対側の面に粘着剤層が設けられてもよい。この粘着剤層は、液晶セルなどの他の部材との貼合に好適に用いることができる。なお、粘着剤層表面上には、当該他の部材への貼合までの間、表面を保護するための剥離可能なセパレータを設けておくのが通例である。
[液晶表示装置]
以上説明した複合偏光板は、液晶セルの片面又は両面に配置して、液晶表示装置とすることができる。図1の(A)は、かかる液晶表示装置の一例を示す断面模式図であって、液晶セルの両面に複合偏光板が配置されている。図1に示される液晶表示装置は、液晶セル10と、その液晶セル10の下側に配置された、粘着剤層50/位相差フィルム20/接着剤層52/偏光フィルム30/接着剤層54/透明保護フィルム40を備える複合偏光板と、液晶セル10の上側に配置された、同様に、粘着剤層51/位相差フィルム20/接着剤層52/偏光フィルム30/接着剤層54/透明保護フィルム40を備える複合偏光板とを有する。両複合偏光板は、それぞれ位相差フィルム20側に配置された粘着剤層50,51を用いて液晶セル10に貼合されている。この液晶表示装置は、いずれかの透明保護フィルム40の外側に、図示しないバックライトを備える。図1の(B)は、同(A)に示す各層の軸角度を説明するための斜視図である。それぞれの複合偏光板において、位相差フィルム20の遅相軸25と偏光フィルム30の吸収軸35が平行関係になっている。また、下側の複合偏光板における偏光フィルム30は、その吸収軸35が液晶セル10の長辺方向15に直交し、上側の複合偏光板における偏光フィルム30は、その吸収軸35が液晶セル10の長辺方向15に平行になるように構成されている。図1に示される構成の液晶表示装置は、液晶セルが横電界モードである場合に特に有効である。
この液晶表示装置は、図1に示されるように、液晶セルの両面に複合偏光板を配置する構成であってもよいし、液晶セルの片面に複合偏光板を配置する構成であってもよい。後者の場合、複合偏光板が配置されない側には、別の偏光板が配置される。
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。なお、各例における物性測定方法は、次のとおりである。
(1)収縮性フィルムの収縮率の測定:
JIS K 7133:1999 の加熱寸法変化測定方法に準じて求めた。ただし、JISに規定されるカオリン床に代えて、滑石を含む粉末を敷いた床を用いた。具体的には、幅120mm×長さ120mmの試験片に、幅方向及び長さ方向でそれぞれ二つの標線をマークし、試験前の標線間距離をそれぞれ測定する。この試験片を、規定の温度に保たれた空気循環式乾燥器の滑石床の上に置き、所定の時間加熱する。冷却後、再度幅方向及び長さ方向の標線間距離を測定し、標線間の寸法変化を求める。
(2)収縮性フィルムの幅方向(TD)の収縮力の測定:
以下の装置を用い、TMA(Thermo Mechanical Analysis)法にて、140℃における幅方向(TD)の収縮力 T140(TD)、及び160℃における幅方向(TD)の収縮力T160(TD)を測定した。
・応力負荷装置:セイコーインスツル(株)製の“TMA/SS 6100”
・データ処理装置:セイコーインスツル(株)製の“EXSTAR 6000”
・測定モード:10℃/分の等速昇温
・測定雰囲気:室温の大気中
・サンプルサイズ:15mm×2mm(フィルムの幅方向(TD)が15mm)
(3)フィルム厚みの測定:
(株)ニコン製のデジタルマイクロメーター“MH-15M”を用いて測定した。
(4)加熱収縮工程及び予熱工程での収縮倍率並びに延伸工程での延伸倍率の決定:
位相差フィルム前駆体(延伸フィルム)に収縮性フィルムを貼り合わせた状態で、幅方向の収縮操作と延伸操作が行えるようになっているテンターに供給し、収縮及びケースによっては延伸を行った。テンターは、入り口のフィルム幅(以下「初期フィルム幅」ともいう)を基準に、収縮率及び伸張率を設定できるようになっているので、それにより収縮倍率又は延伸倍率を設定した。また、上記の如く位相差フィルム前駆体(延伸フィルム)に収縮性フィルムを貼り合わせた状態で、テンターに供給する前の収縮性フィルムの表面に長手方向10cm×幅方向10cmの正方形標線をマークしておき、テンター通過後のフィルムにおける標線間長さを測定し、それらの値から求められる最終的な収縮倍率が、設定値から求められる値と合っているかを確認した。伸縮操作の途中でフィルムがたるんだりした場合には、設定値からずれた収縮倍率になる可能性があるためである。収縮前の前記長手方向10cm×幅方向10cmの正方形標線が、テンターから出た後に長手方向9cm×幅方向8cmになったとすると、長手方向の収縮倍率が0.9倍、幅方向の収縮倍率が0.8倍となる。以下に示す各例では、予め付した標線間の長さとテンターから出た後の標線間の長さとから求められる最終の収縮倍率は、テンターの設定値から求められる値と一致しており、伸縮操作の途中でフィルムにたるみなどが発生していないことが確認できたので、標線間長さから求められた値は省略する。
(5)位相差値、Nz係数及び配向角の測定:
平行ニコル回転法を原理とする位相差計〔王子計測機器(株)製の“KOBRA-21ADH”〕 を用いて、波長590nmにおける値を測定した。後掲の表には、当該波長におけるNz係数、面内位相差値Ro 及び厚み方向位相差値Rthを表示した。また、波長450nmにおける面内位相差値Ro(450) も測定し、波長590nmにおける面内位相差値Ro(590) に対する比Ro(450)/Ro(590)を位相差値の波長分散の指標として求めた。面内位相差値Ro 及び配向角のバラツキは、フィルムの幅方向で等間隔に5点の面内位相差値Ro 及び配向角を測定し、その5点の位相差値の平均値及び配向角の平均値を求め、平均値と最大値及び最小値との差をバラツキとした。
(6)光透過率の測定:
スガ試験機(株)製のヘイズメーター“HGM-2DP”を用いて測定した。
(7)フィルム表面温度の測定:
(株)キーエンス製の赤外線放射温度計“IT2-50”を用いて測定した。積層フィルムの空気循環式オーブン出口付近における表面温度を測定した結果、積層フィルムの表面温度は、空気循環式恒温オーブンの設定温度±1℃であった。そのため、以下の実施例及び比較例では、空気循環式恒温オーブンの設定温度で表示する。
(8)液晶表示装置のコントラスト比の測定:
23℃の暗室内で液晶表示装置のバックライトを点灯させて白画像及び黒画像を表示させ、バックライトの点灯から30分後に、ELDIM社製の液晶視野角・色度特性測定装置“EZ Contrast 160D”により、表示画面上で最も光漏れが大きい方向の一つである、表示画面の方位角45°、極角60°の方向におけるXYZ表色系のY値を測定した。そして、白画像におけるY値(YW)と、黒画像におけるY値(YB)とから、斜め方向のコントラスト比(YW/YB)を算出した。なお、方位角45°とは、パネルの長辺方向を0°としたときに反時計周りに45°回転させた方位を意味し、極角60°とは、表示画面の正面方向を0°としたときに角度60°に傾斜させた方向を意味する。
また以下の例では、収縮性フィルムとして以下の2種類を用いた。これらの物性は表1に示すとおりである。
収縮性フィルムA:ポリプロピレン系樹脂からなり、横延伸倍率のほうが大きい二軸延伸フィルム(厚み60μm )。
収縮性フィルムB:ノルボルネン系樹脂の横一軸延伸フィルム(厚み60μm )。
[実施例1]
(A)貼合工程
ノルボルネン系モノマーの開環重合体に水素添加された樹脂が縦一軸延伸されている厚み81μm の長尺フィルム〔積水化学工業(株)製の“エスシーナ”〕を、貼合工程に用いる一軸延伸フィルムとした。このフィルムのガラス転移温度は138℃であり、光弾性係数は3.5×10-12m2/N、面内の位相差値は300nm、厚み方向の位相差値は145nmであった。この一軸延伸フィルムの両面に、それぞれ厚み25μm のアクリル系粘着剤層を介して長尺状の収縮性フィルムAをロール・ツー・ロールで貼り合わせた。これを積層フィルムAとする。
(B)加熱収縮工程
積層フィルムAをテンターにてフィルムの幅方向を保持しながら、空気循環式恒温オーブンで150℃±1℃に保たれた予熱ゾーンを通過させ、次に空気循環式恒温オーブンで170℃±1℃に保たれた収縮ゾーンを通過させ、その収縮ゾーンにおいて初期フィルム幅基準で幅方向に26.7%収縮させた(収縮倍率で表すと0.733倍)。
(C)延伸工程
収縮ゾーンを通過したフィルムは、引続き、空気循環式恒温オーブンで120℃±1℃に保たれた延伸ゾーンにて、初期フィルム幅基準で幅方向に 1.7%延伸した(このときの延伸倍率で表すと、0.75/0.733= 1.02倍)。最終的に得られたフィルムの収縮率は、初期フィルム幅に対して26.7−1.7=25%であり、初期フィルム幅に対する収縮倍率で表すと 0.75倍になる。
(D)剥離工程
上記の延伸後、両面に貼った収縮性フィルムを粘着剤ごと剥がして、ノルボルネン系樹脂からなる位相差フィルムを得た。この位相差フィルムの特性を表2に示す。
[実施例2]
予熱ゾーンの温度を140℃±1℃、収縮ゾーンの温度を160℃±1℃、そこでの収縮率を27.7%(収縮倍率で表せば0.723倍)とし、そして延伸ゾーンでの伸張率を初期フィルム幅基準で 2.7%とし、その他は実施例1と同様にして実験を行った。延伸ゾーンでの延伸を延伸倍率で表すと、0.75/0.723= 1.04倍となる。最終的に得られたフィルムの収縮率は、初期フィルム幅に対して27.7−2.7=25%であり、初期フィルム幅に対する収縮倍率で表すと 0.75倍になる。得られた位相差フィルムの特性を表2に示す。
[実施例3]
(A)貼合工程
ノルボルネン系モノマーの開環重合体に水素添加された樹脂フィルム〔(株)オプテス製の“ゼオノアフィルム”〕を縦一軸延伸した厚み80μm の長尺フィルムを、貼合工程に用いる一軸延伸フィルムとした。このフィルムのガラス転移温度は136℃であり、光弾性係数は 3.1×10-12m2/N、面内の位相差値は 300nm、厚み方向の位相差値は145nmであった。この一軸延伸フィルムの両面に、それぞれ厚み25μm のアクリル系粘着剤層を介して長尺状の収縮性フィルムBをロール・ツー・ロールで貼り合わせた。これを積層フィルムBとする。
(B)加熱収縮工程
積層フィルムBをテンターにてフィルムの幅方向を保持しながら、空気循環式恒温オーブンで175℃±1℃に保たれた予熱ゾーンを通過させ、次に空気循環式恒温オーブンで160℃±1℃に保たれた収縮ゾーンを通過させ、その収縮ゾーンにおいて初期フィルム幅基準で幅方向に32.7%収縮させた(収縮倍率で表すと0.673倍)。
(C)延伸工程
収縮ゾーンを通過したフィルムは、引続き、空気循環式恒温オーブンで120℃±1℃に保たれた延伸ゾーンにて、初期フィルム幅基準で幅方向に 2.7%延伸した(このときの延伸倍率で表すと、0.70/0.673= 1.04倍)。最終的に得られたフィルムの収縮率は、初期フィルム幅に対して32.7−2.7=30%であり、初期フィルム幅に対する収縮倍率で表すと 0.70倍になる。
(D)剥離工程
上記の延伸後、両面に貼った収縮性フィルムを粘着剤ごと剥がして、ノルボルネン系樹脂からなる位相差フィルムを得た。この位相差フィルムの特性を表2に示す。
[実施例4]
(A)貼合工程
ノルボルネン系モノマーの開環重合体に水素添加された樹脂が縦一軸延伸されている厚み81μm の長尺フィルム〔積水化学工業(株)製の“エスシーナ”〕を、貼合工程に用いる一軸延伸フィルムとした。このフィルムは、実施例1の(A)に示したものと同じである。この一軸延伸フィルムの片面に、厚み25μm のアクリル系粘着剤層を介して長尺状の収縮性フィルムAをロール・ツー・ロールで貼り合わせた。これを積層フィルムCとする。
(B)加熱収縮工程
積層フィルムCをテンターにてフィルムの幅方向を保持しながら、空気循環式恒温オーブンで150℃±1℃に保たれた予熱ゾーン、次に空気循環式恒温オーブンで175℃±1℃に保たれた収縮ゾーンを順次通過させ、予熱ゾーンにおいて初期フィルム幅基準で幅方向に5%、収縮ゾーンにおいて初期フィルム幅基準で幅方向に20%それぞれ収縮させた。予熱ゾーンにおける収縮を収縮倍率で表すと 0.95倍であり、また収縮ゾーンにおける収縮を加えた合計収縮率は25%で、最終的な幅方向の収縮倍率で表すと 0.75倍になる。
(C)延伸工程
収縮ゾーンを通過したフィルムは、引続き、空気循環式恒温オーブンで110℃±1℃に保たれた延伸ゾーンにて、初期フィルム幅基準で幅方向に1%延伸した(このときの延伸倍率で表すと、0.76/0.75= 1.01倍)。最終的に得られたフィルムの収縮率は、初期フィルム幅に対して25−1=24%であり、初期フィルム幅に対する収縮倍率で表すと 0.76倍になる。
(D)剥離工程
上記の延伸後、片面に貼った収縮性フィルムを粘着剤ごと剥がして、ノルボルネン系樹脂からなる位相差フィルムを得た。この位相差フィルムの特性を表2に示す。
[実施例5]
(A)貼合工程
実施例4の(A)と同様に、ノルボルネン系一軸延伸フィルムの片面に粘着剤層を介して収縮性フィルムAを貼り合わせた積層フィルムCを作製した。
(B)加熱収縮工程
この積層フィルムCをテンターにてフィルムの幅方向を保持しながら、空気循環式恒温オーブンで150℃±1℃に保たれた予熱ゾーン、次に空気循環式恒温オーブンで175℃±1℃に保たれた収縮ゾーンを順次通過させ、予熱ゾーンにおいて初期フィルム幅基準で幅方向に8%、収縮ゾーンにおいて初期フィルム幅基準で幅方向に17%それぞれ収縮させた。予熱ゾーンにおける収縮を収縮倍率で表すと 0.92倍であり、収縮ゾーンにおける収縮を加えた合計収縮率は25%で、最終的な幅方向の収縮倍率で表すと 0.75倍になる。
(C)延伸工程
収縮ゾーンを通過したフィルムは、引続き、空気循環式恒温オーブンで110℃±1℃に保たれた延伸ゾーンにて、初期フィルム幅基準で幅方向に1%延伸した(このときの延伸倍率で表すと、0.76/0.75= 1.01倍)。最終的に得られたフィルムの収縮率は、初期フィルム幅に対して25−1=24%であり、初期フィルム幅に対する収縮倍率で表すと 0.76倍になる。
(D)剥離工程
上記の延伸後、片面に貼った収縮性フィルムを粘着剤ごと剥がして、ノルボルネン系樹脂からなる位相差フィルムを得た。この位相差フィルムの特性を表2に示す。
[比較例1]
収縮ゾーンの温度を160℃±1℃、そこでの収縮率を25%(収縮倍率では 0.75倍)とし、収縮後の延伸を行わず、その他は実施例1と同様にして実験を行った。得られた位相差フィルムの特性を表2に示す。
[比較例2]
収縮ゾーンの温度を170℃±1℃、そこでの収縮率を25%(収縮倍率では 0.75倍)とし、収縮後の延伸を行わず、その他は実施例1と同様にして実験を行った。得られた位相差フィルムの特性を表2に示す。
[実施例6]
(A)複合偏光板の作製
ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素が吸着配向している偏光フィルムの片面に40μm 厚のトリアセチルセルロースフィルムが貼合されている偏光板を用意した。その偏光フィルム面に、実施例1で得られた位相差フィルムをその遅相軸が偏光フィルムの吸収軸と平行になるように接着し、複合偏光板を得た。偏光フィルムと位相差フィルムの接着には、ポリビニルアルコール系樹脂〔(株)クラレから入手した“クラレKポリマー”〕と水溶性ポリアミドエポキシ樹脂〔住化ケムテックス(株)から入手した“Sumirez Resin 650 ”〕を含む水溶液からなる接着剤を用いた。
(B)液晶表示装置の作製と評価
IPSモードの液晶セルを含む液晶表示装置〔(株)日立製作所製の“W32L-H9000”〕からバックライトを取り外し、さらに液晶セルのバックライト側に配置されていた偏光板を取り外して、そのガラス面を洗浄した。次に、この液晶セルのバックライト側に、上記(A)で得られた複合偏光板を、その吸収軸がオリジナルの偏光板の吸収軸と同じになるように、かつ位相差フィルムが液晶セル側となるように、アクリル系粘着剤を介して接着し、液晶パネルを作製した。最後に、一旦取り外しておいたバックライトを再び組み込んで液晶表示装置を作製した。この液晶表示装置について、バックライトを点灯させて30分後に、方位角45°、極角60°のコントラスト比を測定した。その結果、286のコントラスト比を示した。
[実施例7]
実施例6において、実施例1で得られた位相差フィルムの代わりに、実施例2で得られた位相差フィルムを用いたこと以外は、実施例6と同様にして液晶表示装置を作製した。この液晶表示装置について、バックライトを点灯させて30分後に、方位角45°、極角60°のコントラスト比を測定した。その結果、251のコントラスト比を示した。
[実施例8]
実施例6において、実施例1で得られた位相差フィルムの代わりに、実施例3で得られた位相差フィルムを用いたこと以外は、実施例6と同様にして液晶表示装置を作製した。この液晶表示装置について、バックライトを点灯させて30分後に、方位角45°、極角60°のコントラスト比を測定した。その結果、241のコントラスト比を示した。