特許文献1及び特許文献2に開示された揺動型減速機においては、ニードル軸受とスラスト軸受とを備えるクランク軸軸受によってクランク軸がキャリアに対して回転自在に保持されている。しかしながら、本願発明者が、特許文献1及び特許文献2に開示された構成と同様のクランク軸軸受を備える揺動型減速機について、クランク軸軸受の潤滑性能を検証したところ、とくに、クランク軸において入力軸からの駆動力が伝達される一端側に配置されたクランク軸軸受において、潤滑不良を発生して破損を招き易いことが確認された。そして、特許文献1に開示の揺動減速機ではクランク軸軸受におけるスラスト軸受において潤滑不良が発生し易く、特許文献2に開示の揺動型減速機ではクランク軸軸受におけるニードル軸受において潤滑不良が発生し易いことが確認された。
本発明は、上記実情に鑑みることにより、クランク軸がキャリアに対してクランク軸軸受を介して回転自在に保持される揺動型減速機において、クランク軸軸受における潤滑不良の発生を抑制することができる揺動型減速機を提供することを目的とする。
上記目的を達成するための本発明に係る揺動型減速機は、モータからの出力が入力される入力軸と、ケースと、前記ケースの内周に配置された複数の内歯と、前記ケースに収納されるとともに前記内歯に噛み合う外歯が外周に設けられた外歯歯車と、前記外歯歯車に形成されたクランク用孔を貫通し、一端側に配置された前記入力軸からの駆動力が伝達されて回転することで前記外歯歯車を偏心させて揺動回転させるクランク軸と、前記クランク軸の一端側及び他端側を回転自在に保持するとともに、他端側に出力軸が固定されたキャリアと、前記クランク軸の一端側を前記キャリアに対して回転自在に保持する第1クランク軸軸受と、前記クランク軸の他端側を前記キャリアに対して回転自在に保持する第2クランク軸軸受と、前記クランク軸に形成され、前記クランク用孔に配置されるとともに当該クランク軸の回転中心線に対して偏心するよう設けられた偏心部と、を備えている。そして、本発明に係る揺動型減速機は、前記第1クランク軸軸受は、前記キャリアと前記クランク軸の一端側との間に配置されて前記クランク軸の軸方向と垂直な径方向の荷重を支持する第1円筒ころ軸受と、前記第1円筒ころ軸受と前記偏心部との間に配置されて前記クランク軸の軸方向と平行な方向の荷重を支持する第1スラスト軸受と、を備え、前記第1スラスト軸受は、鉄鋼材料によりリング状のプレート部材として形成されて前記第1円筒ころ軸受側に配置された第1軸受側スラストプレートと、鉄鋼材料によりリング状のプレート部材として形成されて前記偏心部側に配置された第1偏心部側スラストプレートと、鉄鋼材料よりも焼付き限界の高いリング状のプレート部材として形成されて前記第1軸受側スラストプレートと前記第1偏心部側スラストプレートとの間に配置された第1中間プレートと、を備えていることを特徴とする。
この発明によると、クランク軸における入力側である一端側に配置されるクランク軸軸受が、径方向の荷重を支持する第1円筒ころ軸受と軸方向と平行な方向の荷重を支持する第1スラスト軸受とで構成される。そして、第1スラスト軸受には、鉄鋼材料で形成された第1軸受側スラストプレート及び第1偏心部側スラストプレートと、これらのスラストプレート間に配置された第1中間プレートとが備えられる。このため、第1スラスト軸受は、キャリアの内周に接する第1円筒ころ軸受とクランク軸に形成された偏心部との間で少なくとも3枚のプレート部材が重ねられて構成されることになる。これにより、第1スラスト軸受においては、クランク軸側とキャリア側との間で生じる周速差が、クランク軸側からキャリア側にかけて各プレート部材の間で段階的に変化するように(段階的に周速が落とされるように)分散されることになる。よって、第1スラスト軸受において荷重(スラスト)が作用する潤滑面にて速度差が大きくなることで生じやすくなる潤滑不良を抑制することができる。また、第1スラスト軸受は、鉄鋼材料で形成されたスラストプレート間に鉄鋼材料よりも焼付き限界の高いプレートが挟まれて構成されるため、鉄鋼材料とこれよりも焼付き限界の高い材料との接触面で更に良好な潤滑性能を確保することができる。このように、本願発明者は、鋭意研究を重ねた結果、第1スラスト軸受について、鉄鋼材料で形成されたスラストプレート間に鉄鋼材料よりも焼付き限界の高いプレートが挟まれて少なくとも3枚のプレート部材が重ねられた構成とすることで、第1円筒ころ軸受における潤滑不良の発生を抑制しつつ第1スラスト軸受における潤滑不良の発生も抑制できることを確認できた。
従って、本発明によると、クランク軸がキャリアに対してクランク軸軸受を介して回転自在に保持される揺動型減速機において、潤滑不良が発生し易い入力側である一端側のクランク軸軸受における潤滑不良の発生を抑制することができる。尚、本発明においては、「円筒ころ軸受」の概念には、ニードル軸受(又はニードルころ軸受)と称されることもある円筒ころ軸受も含まれるものである。
本発明に係る揺動型減速機は、前記第2クランク軸軸受は、前記キャリアと前記クランク軸の他端側との間に配置されて前記クランク軸の軸方向と垂直な径方向の荷重を支持する第2円筒ころ軸受と、前記第2円筒ころ軸受と前記偏心部との間に配置されて前記クランク軸の軸方向と平行な方向の荷重を支持する第2スラスト軸受と、を備え、前記第2スラスト軸受は、鉄鋼材料によりリング状のプレート部材として形成されて前記第2円筒ころ軸受側に配置された第2軸受側スラストプレートと、鉄鋼材料によりリング状のプレート部材として形成されて前記偏心部側に配置された第2偏心部側スラストプレートと、鉄鋼材料よりも焼付き限界の高いリング状のプレート部材として形成されて前記第2軸受側スラストプレートと前記第2偏心部側スラストプレートとの間に配置された第2中間プレートと、を備えていることが好ましい。
この発明によると、クランク軸の他端側に配置される第2クランク軸軸受についても、第1クランク軸軸受と同様に、径方向の荷重を支持する第2円筒ころ軸受と軸方向と平行な方向の荷重を支持する第2スラスト軸受とで構成される。そして、第2スラスト軸受についても、第1スラスト軸受と同様に、鉄鋼材料で形成されたスラストプレート間に鉄鋼材料よりも焼付き限界の高いプレートが挟まれて少なくとも3枚のプレート部材が重ねられることで構成される。このため、第2円筒ころ軸受における潤滑不良の発生を抑制しつつ第2スラスト軸受における潤滑不良の発生も抑制することができる。これにより、第1及び第2クランク軸軸受の両方において潤滑不良の発生を抑制することができる。
本発明に係る揺動型減速機は、前記第1スラスト軸受には、前記第1軸受側スラストプレートと前記第1中間プレートと前記第1偏心部側スラストプレートとを連通して潤滑油が通過する第1潤滑油用連通孔が形成され、前記第2スラスト軸受には、前記第2偏心部側スラストプレートと前記第2中間プレートと前記第2軸受側スラストプレートとを連通して潤滑油が通過する第2潤滑油用連通孔が形成されていることが好ましい。
この発明によると、第1スラスト軸受には、その全てのプレート部材を連通して潤滑油が通過する第1潤滑油用連通孔が形成され、第2スラスト軸受にも、その全てのプレート部材を連通して潤滑油が通過する第2潤滑油用連通孔が形成される。このため、クランク軸に沿ってその一端側から他端側に亘って、第1スラスト軸受及び第2スラスト軸受を通過させて潤滑油を流動させる経路を構成することができる。これにより、潤滑油の流動性を高めて潤滑性能を向上させることができ、クランク軸軸受における潤滑不良の発生を更に抑制することができる。
本発明に係る揺動型減速機は、前記第1潤滑油用連通孔は、前記第1軸受側スラストプレートの内周に凹み形成された第1軸受側凹み部と、前記第1中間プレートに形成された複数の第1貫通孔と、前記第1中間プレートの両面において周方向に延びるように形成されて複数の前記第1貫通孔を連通する第1連通溝と、前記第1偏心部側スラストプレートの内周に凹み形成された第1偏心部側凹み部と、を有するように形成され、前記第2潤滑油用連通孔は、前記第2軸受側スラストプレートの内周に凹み形成された第2軸受側凹み部と、前記第2中間プレートに形成された複数の第2貫通孔と、前記第2中間プレートの両面において周方向に延びるように形成されて複数の前記第2貫通孔を連通する第2連通溝と、前記第2偏心部側スラストプレートの内周に凹み形成された第2偏心部側凹み部と、を有するように形成されていることが好ましい。
この発明によると、第1及び第2スラスト軸受のそれぞれにおいて、軸受側及び偏心部側スラストプレートの内周に凹み部を形成するとともに、中間プレートに貫通孔及び連通溝を形成することで、全てのプレート部材を連通して潤滑油が通過する潤滑油用連通孔を簡素な構成で容易に形成することができる。
本発明に係る揺動型減速機は、前記第1中間プレートの両面のうちの少なくとも一方には、径方向に延びる第1径方向溝が形成され、前記第2中間プレートの両面のうちの少なくとも一方には、径方向に延びる第2径方向溝が形成されていることが好ましい。
この発明によると、第1及び第2中間プレートのそれぞれにおいて、径方向に延びる径方向溝が形成されている。このため、第1及び第2スラスト軸受がクランク軸の回転に伴って回転すると、潤滑油が中間プレートにおける径方向溝に沿って径方向の外側に向かって遠心力の作用により流動して供給されることになる。これにより、潤滑油の流動性を高めて潤滑性能を向上させることができ、クランク軸軸受における潤滑不良の発生を更に抑制することができる。
前述の目的を達成するための本発明の他の局面に係る揺動型減速機は、モータからの出力が入力される入力軸と、ケースと、前記ケースの内周に配置された複数の内歯と、前記ケースに収納されるとともに前記内歯に噛み合う外歯が外周に設けられた外歯歯車と、前記外歯歯車に形成されたクランク用孔を貫通し、一端側に配置された前記入力軸からの駆動力が伝達されて回転することで前記外歯歯車を偏心させて揺動回転させるクランク軸と、前記クランク軸の一端側及び他端側を回転自在に保持するとともに、他端側に出力軸が固定されたキャリアと、前記クランクの一端側を前記キャリアに対して回転自在に保持する第1クランク軸軸受と、前記クランクの他端側を前記キャリアに対して回転自在に保持する第2クランク軸軸受と、前記クランク軸に形成され、前記クランク用孔に配置されるとともに当該クランク軸の回転中心線に対して偏心するよう設けられた偏心部と、を備えている。そして、本発明の他の局面に係る揺動型減速機は、前記クランク軸の一端側が貫通するよう配置されるとともにリング状のプレート部材として形成された第1位置決めプレートを更に備え、前記第1クランク軸軸受は、前記キャリアと前記クランク軸の一端側との間に配置されて前記クランク軸の軸方向と垂直な径方向の荷重を支持する第1円筒ころ軸受を備え、前記第1位置決めプレートは、前記キャリアに対する前記第1円筒ころ軸受の一端側の位置を規定するよう位置決めするとともに、前記第1円筒ころ軸受に設けられた円筒ころ部材に対向する部分を開放するように開口形成された第1窓部が設けられていることを特徴とする。
この発明によると、クランク軸における入力側である一端側において、クランク軸の径方向の荷重を支持する第1円筒ころ軸受を有する第1クランク軸軸受と、キャリアに対する第1円筒ころ軸受の一端側の位置を規定する第1位置決めプレートと、が配置されている。そして、第1位置決めプレートには、第1円筒ころ軸受における円筒ころ部材に対向する部分を開放するよう開口形成された第1窓部が設けられている。このため、潤滑不良が発生し易い入力側に配置された第1クランク軸軸受の第1円筒ころ軸受における円筒ころ部材に対して、第1窓部を介して潤滑油を効率よく供給することができる。これにより、第1クランク軸軸受における潤滑性能を向上させることができる。
従って、本発明の他の局面によると、クランク軸がキャリアに対してクランク軸軸受を介して回転自在に保持される揺動型減速機において、潤滑不良が発生し易い入力側である一端側のクランク軸軸受における潤滑不良の発生を抑制することができる揺動型減速機を提供することができる。尚、本発明の他の局面においては、「円筒ころ軸受」の概念には、ニードル軸受(又はニードルころ軸受)と称されることもある円筒ころ軸受も含まれるものである。
本発明の他の局面に係る揺動型減速機は、前記クランク軸の他端側に対向するよう配置されるとともにリング状のプレート部材として形成された第2位置決めプレートを更に備え、前記第2クランク軸軸受は、前記キャリアと前記クランク軸の他端側との間に配置されて前記クランク軸の軸方向と垂直な径方向の荷重を支持する第2円筒ころ軸受を備え、前記第2位置決めプレートは、前記キャリアに対する前記第2円筒ころ軸受の他端側の位置を規定するよう位置決めするとともに、前記第2円筒ころ軸受に設けられた円筒ころ部材に対向する部分を開放するように開口形成された第2窓部が設けられ、前記第1クランク軸軸受は、前記第1円筒ころ軸受と前記偏心部との間に配置されて前記クランク軸の軸方向と平行な方向の荷重を支持する第1スラスト軸受を更に備え、前記第2クランク軸軸受は、前記第2円筒ころ軸受と前記偏心部との間に配置されて前記クランク軸の軸方向と平行な方向の荷重を支持する第2スラスト軸受を更に備え、前記第1スラスト軸受には、リング状に形成されて重ねられた状態で配置された3枚の第1プレート部材がそれぞれ備えられるとともに、3枚の前記第1プレート部材を連通して潤滑油が通過する第1潤滑油用連通孔が形成され、前記第2スラスト軸受には、リング状に形成されて重ねられた状態で配置された3枚の第2プレート部材がそれぞれ備えられるとともに、3枚の前記第2プレート部材を連通して潤滑油が通過する第2潤滑油用連通孔が形成されていることが好ましい。
この発明によると、第1及び第2クランク軸軸受において円筒ころ軸受とスラスト軸受とがそれぞれ備えられ、クランク軸における他端側においてもキャリアに対する第2円筒ころ軸受の他端側の位置を規定する第2位置決めプレートが配置されている。そして、第2位置決めプレートには、第1位置決めプレートと同様に、第2円筒ころ軸受における円筒ころ部材に対向する部分を開放するよう開口形成された第2窓部が設けられている。また、第1スラスト軸受には、その3枚の第1プレート部材を連通して潤滑油が通過する第1潤滑油用連通孔が形成され、第2スラスト軸受にも、その3枚の第2プレート部材を連通して潤滑油が通過する第2潤滑油用連通孔が形成される。このため、第1窓部から流入した潤滑油が、クランク軸に沿ってその一端側から他端側に亘って、第1スラスト軸受及び第2スラスト軸受を通過し、第2窓部から流出するように流動する経路を構成することができる。これにより、潤滑油の流動性を高めて潤滑性能を向上させることができ、クランク軸軸受における潤滑不良の発生を更に抑制することができる。
本発明の他の局面に係る揺動型減速機は、3枚の前記第1プレート部材として、鉄鋼材料により形成されて前記第1円筒ころ軸受側に配置された第1軸受側スラストプレートと、鉄鋼材料により形成されて前記偏心部側に配置された第1偏心部側スラストプレートと、前記第1軸受側スラストプレートと前記第1偏心部側スラストプレートとの間に配置されて鉄鋼材料よりも焼付き限界の高い第1中間プレートと、が備えられ、3枚の前記第2プレート部材として、鉄鋼材料により形成されて前記第2円筒ころ軸受側に配置された第2軸受側スラストプレートと、鉄鋼材料により形成されて前記偏心部側に配置された第2偏心部側スラストプレートと、前記第2軸受側スラストプレートと前記第2偏心部側スラストプレートとの間に配置されて鉄鋼材料よりも焼付き限界の高い第2中間プレートと、が備えられていることが好ましい。
この発明によると、第1及び第2クランク軸軸受における各スラスト軸受には、鉄鋼材料で形成された軸受側スラストプレート及び偏心部側スラストプレートと、これらのスラストプレート間に配置された中間プレートとが備えられる。このため、各スラスト軸受は、キャリアの内周に接する各円筒ころ軸受とクランク軸に形成された偏心部との間で3枚のプレート部材が重ねられて構成されることになる。これにより、各スラスト軸受においては、クランク軸側とキャリア側との間で生じる周速差が、クランク軸側からキャリア側にかけて各プレート部材の間で段階的に変化するように(段階的に周速が落とされるように)分散されることになる。よって、各スラスト軸受において荷重(スラスト)が作用する潤滑面にて速度差が大きくなることで生じやすくなる潤滑不良を抑制することができる。また、各スラスト軸受は、鉄鋼材料で形成されたスラストプレート間に鉄鋼材料よりも焼付き限界の高いプレートが挟まれて構成されるため、鉄鋼材料とこれよりも焼付き限界の高い材料との接触面で更に良好な潤滑性能を確保することができる。このように、本発明によると、第1及び第2スラスト軸受について、鉄鋼材料で形成されたスラストプレート間に鉄鋼材料よりも焼付き限界の高いプレートが挟まれて3枚のプレート部材が重ねら
れることで構成される。このため、第1及び第2円筒ころ軸受における潤滑不良の発生を抑制しつつ第1及び第2スラスト軸受における潤滑不良の発生も抑制することができる。これにより、第1及び第2クランク軸軸受の両方において更に潤滑不良の発生を抑制することができる。
本発明によると、クランク軸がキャリアに対してクランク軸軸受を介して回転自在に保持される揺動型減速機において、クランク軸軸受における潤滑不良の発生を抑制することができる揺動型減速機を提供することができる。
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。本発明の実施形態に係る揺動型減速機は、建設機械、風車、産業用ロボット、種々の工作機械等の各種産業用機械、各種車両、等において広く適用することができる。即ち、本実施形態に係る揺動型減速機は、内歯に噛み合う外歯歯車がクランク軸の回転に伴い偏心して揺動回転するとともに、クランク軸がキャリアに対してクランク軸軸受を介して回転自在に保持される揺動型減速機に関して、広く適用することができるものである。
図1は、本発明の一実施の形態に係る揺動型減速機1を正面から見た断面図である。図1に示す揺動型減速機1は、例えば、クローラ車両として構成された建設機械においてクローラが設けられる下位体の上部に配置される上位体を旋回させる旋回機構に設けられる減速機として用いられる。そして、揺動型減速機1は、ケース11、入力軸12、減速部13、出力軸14、ピン内歯15、一対の主軸受16、ピニオン17等を備え、上側に配置されるモータ(図示せず)から入力された回転を減速して伝達して出力するよう構成されている。
図1に示すように、揺動型減速機1は、入力側である一端側(図中の上側)においてケース11に対して図示しないモータが取り付けられ、出力側である他端側(図中の下側)においてケース11から突出するように位置する出力軸14に出力用のピニオン17が取り付けられる。そして、この揺動型減速機1においては、モータから入力された回転駆動力をケース11内に配置された減速部13を介して減速して伝達して出力軸14に取り付けられたピニオン17に出力する。例えば、揺動型減速機1が建設機械における旋回機構の減速機として用いられる場合には、揺動型減速機1は、建設機械の上位体側に配置され
て、ピニオン17が建設機械の下位体側に固定された歯車と噛み合うように設置される。そして、モータからの駆動力に伴って揺動型減速機1が作動してピニオン17が回転することで、建設機械における上位体が下位体に対して旋回する。尚、以下の説明においては、揺動型減速機1において、モータが配置される入力側を一端側として、出力軸14が配置される出力側を他端側として説明する。
図1に示すように、揺動型減速機1のケース11は、筒状の第1ケース部11aと第1ケース部11aの一端側に配置される第2ケース部11bとで構成され、これらの縁部同士がボルト(図示せず)で連結されている。ケース11の内部には、減速部13等が収納され、入力軸12、減速部13、及び出力軸14は、揺動型減速機1の回転中心線P(図1において一点鎖線で図示)の方向である軸方向に沿って直列に配置されている。ケース11は、一端側(第2ケース部11bの端部側)には前述のように図示しないモータが固定され、他端側(第1ケース部11aの端部側)が開口形成されている。尚、ケース11の内部は外部に対してシール部材によって密封されており、この密封されたケース11の内部には潤滑油が充填されている。
図2は、図1における減速部13及びその近傍を拡大して示す断面図である。図1及び図2に示すように、本実施形態における内歯を構成するピン内歯15(図1及び図2では断面でなく外形を図示)は、ピン状の部材(丸棒状の部材)として形成され、その長手方向が回転中心線Pと平行に位置するように配置されるとともに、ケース11の内周において周方向に沿って等間隔で配列され、後述する外歯歯車22の外歯57と噛み合うように構成されている。
図1に示すように、入力軸12は、モータからの出力がその一端側に入力される軸状の部材として設けられ、回転中心線P上に配置されている。また、入力軸12の他端側には、減速部13における入力ギア18が連結されている。
図1及び図2に示すように、減速部13は、入力ギア18、スパーギア19、クランク軸20、キャリア21、外歯歯車22、第1クランク軸軸受26、第2クランク軸受27、第1位置決めプレート28、第2位置決めプレート29等を備えて構成されている。入力ギア18は、軸状の歯車部材として設けられ、入力軸12と同心上の回転中心線P上に配置されている。入力ギア18には、その他端側において、スパーギア19に噛み合う歯車部分がスプライン結合により取り付けられている。これにより、入力ギア18は、入力軸12を介して伝達されたモータからの回転駆動力をスパーギア19に入力するように構成されている。スパーギア19は、入力ギア18の歯車部分と噛み合うように入力ギア18の周囲に複数(本実施形態では3つ)配置されており、入力ギア18に対して揺動型減速機1の径方向(回転中心線Pに対して垂直な方向)に位置している。スパーギア19は、中央部分に貫通孔が形成され、この貫通孔においてクランク軸20の一端側に対してスプライン結合により固定されている。
図1及び図2に示すクランク軸20は、回転中心線Pを中心とした周方向に沿った均等角度の位置に複数(本実施形態では3つ)配置されており、その軸方向が回転中心線Pと平行になるように配置されている。各クランク軸20(図1及び図2では、断面でなく外形を図示)は、外歯歯車22に形成されたクランク用孔30をそれぞれ貫通するように配置されており、一端側に配置された入力軸12からの駆動力が入力ギア18及びスパーギア19を介して伝達されて回転することで外歯歯車22を偏心させて揺動回転させる軸部材として設けられている。そして、クランク軸20は、自らの回転(自転)に伴う外歯歯車22の回転とともに、公転動作を行うことになる。
また、クランク軸20には、第1偏心部20a、第2偏心部20b、第1軸部20c、
第2軸部20dが形成され、一端側から、第1軸部20c、第1偏心部20a、第2偏心部20b、第2軸部20dの順番で設けられている。第1偏心部20a及び第2偏心部20bは、軸方向と垂直な断面が円形断面となるように形成され、それぞれの中心位置がクランク軸20の回転中心線Q(図2において一点鎖線で図示)に対して偏心するように設けられている。第1偏心部20a及び第2偏心部20bは、外歯歯車22のクランク用孔30に配置されている。
クランク軸20の一端側に設けられた第1軸部20cは、後述する第1クランク軸軸受26の第1円筒ころ軸受31を介してキャリア21に対して回転自在に保持されている。クランク軸20の他端側に設けられた第2軸部20dは、後述する第2クランク軸軸受27の第2円筒ころ軸受33を介してキャリア21に対して回転自在に保持されている。また、第1軸部20cには、第1クランク軸軸受26の第1円筒ころ軸受31から一端側に突出するように位置するその端部側において、前述したように、スパーギア19が固定されている。尚、第1軸部20cの一端側の端部には、クランク軸20の回転動作を停止させる際に用いられるブレーキ機構35が配置されている。このブレーキ機構35は、第2ケース11bの内側で支持された保持部材50とキャリア21の一端側に取り付けられた保持部材51とを備える一対の保持部材(50、51)によって保持されている。
図1及び図2に示すキャリア21は、基部キャリア23と、端部キャリア24と、支柱25とを備えて構成されている。基部キャリア23は、その他端側において出力軸14が一体に形成されてケース11内に配置されている(出力軸14は一体に形成されることで基部キャリア23に固定されている)。基部キャリア23は、その一端側にクランク保持穴48が形成され、このクランク保持穴48によって各クランク軸20の他端側をその第2軸部20dにて後述の第2クランク軸軸受27を介して回転自在に保持している。クランク保持穴48は、回転中心線Pを中心とした周方向に沿った均等角度の位置に形成されている。
端部キャリア24は、支柱25を介して基部キャリア23と連結され、円板状の部材として設けられている。端部キャリア24には、回転中心線Pを中心とした周方向に沿った均等角度の位置にクランク軸20の一端側の第1軸部20cが配置される貫通孔としてクランク貫通孔49が形成されている。このクランク貫通孔49において、クランク軸20の一端側がその第1軸部20cにて後述の第1クランク軸軸受26の第1円筒ころ軸受31を介して回転自在に保持されている。
支柱25は、基部キャリア23と端部キャリア24との間に配置され、基部キャリア23と端部キャリア24とを連結する柱状部分として設けられている。支柱25は、回転中心線Pを中心とした周方向に沿った均等角度の位置に複数(本実施形態では3つ)配置され、その軸方向が回転中心線Pと平行となるように配置されている。尚、支柱25とクランク軸20とは、回転中心線Pを中心とした周方向に沿って交互に配置されている。各支柱25は、基部キャリア23に一体に形成され、基部キャリア23の一端側において突出するように設けられている。そして、各支柱25には、端部キャリア24に形成された貫通孔に向かって開口するとともに軸方向に沿って延び、支柱ピン52が圧入される支柱ピン穴53が形成されている。支柱ピン52が端部キャリア24の一端側から支柱ピン穴53に亘って圧入されることで、基部キャリア23及び端部キャリア24の周方向の位置が合わされる。また、各支柱25には、端部キャリア24に形成された貫通孔に向かって開口するとともに軸方向に沿って延び、支柱ボルト54が挿入される支柱ボルト穴55が形成されている。支柱ボルト穴55の内周には、雌ネジ部分が形成され、支柱ボルト54の他端側には、雄ネジ部分として形成されたネジ部が設けられている。支柱ボルト54は、端部キャリア24を貫通するよう配置されるとともにそのネジ部が支柱ボルト穴55の雌ネジ部分と螺合することで、端部キャリア24と基部キャリア23とを支柱25を介して
結合するように構成されている。
図1及び図2に示す一対の主軸受16は、主軸受16aと主軸受16bとを備え、キャリア21及び出力軸14をケース11に対して回転自在に保持するように構成されている。主軸受16aは、端部キャリア24をその外周側においてケース11の内周側に対して回転自在に保持する玉軸受として構成されている。一方、主軸受16bは、基部キャリア23及び出力軸14をその外周側においてケース11の内周側に対して回転自在に保持する自動調心ころ軸受として構成されている。
図1及び図2に示す外歯歯車22は、平行に配置された状態でケース11内に収納される第1外歯歯車22aと第2外歯歯車22bとで構成されている。第1外歯歯車22a及び第2外歯歯車22bにはそれぞれ、クランク軸20が貫通するクランク用孔30、及び、支柱25が貫通する支柱貫通孔56が形成されている。第1外歯歯車22a及び第2外歯歯車22bは、回転中心線Pと平行な方向において、クランク用孔30及び支柱貫通孔56の位置がそれぞれ対応するように配置されている。外歯歯車22(22a、22b)のクランク用孔30は、円形孔として形成され、クランク軸20に対応して外歯歯車22の周方向に沿って均等角度の位置に複数(本実施形態では3つ)配置されている。また、支柱貫通孔56は、支柱25の断面形状に対応した孔として形成され、支柱25に対応して外歯歯車22の周方向に沿った均等角度の位置に複数(本実施形態では3つ)配置されている。また、支柱貫通孔56は、外歯歯車22の周方向において、クランク用孔30と交互に形成されている。尚、支柱貫通孔56には、支柱25が遊嵌状態で貫通している。
また、第1外歯歯車22a及び第2外歯歯車22bのそれぞれの外周には、ピン内歯15に噛み合う外歯57が設けられている。尚、第1外歯歯車22a及び第2外歯歯車22bの外歯57の歯数は、ピン内歯15の歯数よりも1個又は複数個少なくなるように設けられている。このため、クランク軸20が回転するごとに、噛み合う外歯57とピン内歯15との噛み合いがずれ、外歯歯車22(22a、22b)が偏心して揺動回転するように構成されている。
また、外歯歯車22は、クランク用孔30において外歯用軸受(58、59)を介してクランク軸20を回転自在に保持している。外歯用軸受58は第1偏心部20aを第1外歯歯車22aに対して、外歯用軸受59は第2偏心部20bを第2外歯歯車22bに対して、それぞれ回転自在に保持している。尚、外歯用軸受(58、59)は、円筒ころ部材(ニードルころ部材と称されることもあるころ部材も含む)として構成される複数のころ部材をそれぞれ備えて構成されている。
次に、クランク軸軸受(26、27)及び位置決めプレート(28、29)について詳しく説明する。図3は、図2の断面における第1クランク軸軸受26及びその近傍を拡大して示す断面図である。図2及び図3に示すように、第1クランク軸軸受26は、第1円筒ころ軸受31と第1スラスト軸受32とを備えて構成され、クランク軸20の一端側をキャリア21の端部キャリア24に対して回転自在に保持する軸受機構として設けられている。
第1円筒ころ軸受31は、外輪36と、円筒ころ部材(ニードルころ部材と称されることもあるころ部材も含む)37と、保持器38とを備えている。外輪36は、端部キャリア24のクランク貫通孔49に嵌め込まれるように配置されている。そして、外輪36の内側において、保持器38によって転動自在な状態で保持された複数の円筒ころ部材37が第1軸部20cの周囲に平行に配列されている。このように、第1円筒ころ軸受31は、端部キャリア24とクランク軸20の一端側の第1軸部20cとの間に配置され、クランク軸20の軸方向と垂直な径方向の荷重(ラジアル荷重)を支持するように構成されて
いる。
第1スラスト軸受32には、リング状に形成されて重ねられた状態で配置された3枚の第1プレート部材として、第1軸受側スラストプレート39と、第1偏心部側スラストプレート40と、第1中間プレート41とが備えられている。そして、この第1スラスト軸受32は、第1円筒ころ軸受31と第1偏心部20aとの間に配置され、クランク軸20の軸方向と平行な方向の荷重(スラスト)を支持するように構成されている。
図5は、第1軸受側スラストプレート39及び後述の第2軸受側スラストプレート45を示す平面図(図5(a))、及びそのA−A線矢視断面図(図5(b))である。図3及び図5に示す第1軸受側スラストプレート39は、鉄鋼材料によりリング状のプレート部材として形成され、第1円筒ころ軸受31側において一端側の面が外輪36に当接した状態で配置されている。そして、第1軸受側スラストプレート39には、その内周において周方向に沿った均等角度の位置の複数個所に(本実施形態では6箇所に)、円弧状に凹み形成された第1軸受側凹み部60が形成されている。尚、第1軸受側スラストプレート39を形成するための材料としては、工業用純鉄、鋼、鋳鉄等の鉄鋼材料を広く用いることができ、例えば、ステンレス鋼により第1軸受側スラストプレート39を形成することができる。
図6は、第1偏心部側スラストプレート40及び後述の第2偏心部側スラストプレート46を示す平面図(図6(a))、及びそのB−B線矢視断面図(図6(b))である。図3及び図6に示す第1偏心部側スラストプレート40は、鉄鋼材料によりリング状のプレート部材として形成され、第1偏心部20a側に配置されている。尚、第1偏心部側スラストプレート40は、クランク軸20において段状に形成された第1偏心部20aの一端側の段部に対して、その他端側の面が当接するように、配置されている。そして、第1偏心部側スラストプレート40には、その内周において周方向に沿った均等角度の位置の複数個所に(本実施形態では6箇所に)、円弧状に凹み形成された第1偏心部側凹み部61が形成されている。尚、第1偏心部側スラストプレート40を形成するための材料としては、工業用純鉄、鋼、鋳鉄等の鉄鋼材料を広く用いることができ、例えば、ステンレス鋼により第1偏心部側スラストプレート40を形成することができる。
図7は、第1中間プレート41及び後述の第2中間プレート47を示す平面図(図7(a))、及びそのC−C線矢視断面図(図7(b))である。図3及び図7に示す第1中間プレート41は、鉄鋼材料よりも焼付き限界の高いリング状のプレート部材として形成され、第1軸受側スラストプレート39と第1偏心部側スラストプレート40との間に配置されている。このため、第1中間プレート41の一端側の面が第1軸受側スラストプレート39の他端側の面に摺接し、第1中間プレート41の他端側の面が第1偏心部側スラストプレート40の一端側の面に摺接する状態で、第1中間プレート41が配置されている。尚、鉄鋼材料よりも焼付き限界が高い第1中間プレート41を形成するための材料としては、銅合金、焼結合金、バイメタル、表面処理が施された鉄鋼材料、等を広く用いることができ、例えば、黄銅により第1中間プレート41を形成することができる。
また、第1中間プレート41には、第1貫通孔62と、第1連通溝63と、第1径方向溝64とが形成されている。第1貫通孔62は、第1中間プレート41を厚み方向に貫通する孔として複数形成されている。この複数の第1貫通孔62は、第1中間プレート41の周方向に沿って配置されるとともに均等角度の位置に設けられている。第1連通溝63は、第1中間プレート41の両面(リング形状の軸心方向に垂直な表裏面)において周方向に沿って円形に延びるように配置された溝として形成されている。そして、複数の第1貫通孔62がこの第1連通溝63を介して第1中間プレート41の両面においてそれぞれ連通されている。第1径方向溝64は、第1中間プレート41の両面において径方向に放
射状に延びる溝として形成され、複数設けられている。各第1径方向溝64は、第1中間プレート41の両面において、一方の溝端部がそれぞれ第1連通溝63に開口して連通するとともに、他方の溝端部が径方向外側に開口するように形成されている。また、本実施形態の第1中間プレート41では、第1中間プレート41の一方の面に形成された第1径方向溝64と他方の面に形成された第1径方向溝64とは、周方向における角度がずれた位置に配置されている。そして、各第1径方向溝64の一方の溝端部が第1貫通孔62に対応する位置で第1連通溝63に開口している。また、一方の面の第1径方向溝64と他方の面の第1径方向溝64とは、それぞれ第1貫通孔62の数に対して半数ずつ設けられており、隣り合う第1貫通孔62に対して交互に対応するように配置されている。
上述した3枚の第1プレート部材(39、40、41)に形成された第1軸受側凹み部60、第1偏心部側凹み部61、第1貫通孔62及び第1連通溝63は、重ねられた状態でケース11内の潤滑油が通過可能なように連通するよう形成されている(図3、図5〜7参照)。これにより、入力側から流入した潤滑油が、第1軸受側凹み部60を通過し、次に第1連通溝63及び第1貫通孔62を通過し、更に第1偏心部側凹み部61を通過することで、クランク軸20に沿って出力側に流動することになる。このように、第1スラスト軸受32では、第1軸受側凹み部60、第1偏心部側凹み部61、第1貫通孔62及び第1連通溝63によって、本実施形態における第1潤滑油用連通孔が構成されている。そして、第1スラスト軸受32では、この第1潤滑油用連通孔が形成されることで、第1軸受側スラストプレート39、第1中間プレート41及び第1偏心部側スラストプレート40の3枚の第1プレート部材を連通して潤滑油が通過するように構成されている。
図4は、図2の断面における第2クランク軸軸受27及びその近傍を拡大して示す断面図である。図2及び図4に示すように、第2クランク軸軸受27は、第2円筒ころ軸受33と第2スラスト軸受34とを備えて構成され、クランク軸20の他端側をキャリア21の基部キャリア23に対して回転自在に保持する軸受機構として設けられている。
第2円筒ころ軸受33は、外輪42と、円筒ころ部材(ニードルころ部材と称されることもあるころ部材も含む)43と、保持器44とを備えている。外輪42は、基部キャリア23のクランク保持穴48に嵌め込まれるように配置されている。そして、外輪42の内側において、保持器44によって転動自在な状態で保持された複数の円筒ころ部材43が第2軸部20dの周囲に平行に配列されている。このように、第2円筒ころ軸受33は、基部キャリア23とクランク軸20の他端側の第2軸部20dとの間に配置され、クランク軸20の軸方向と垂直な径方向の荷重(ラジアル荷重)を支持するように構成されている。
第2スラスト軸受34には、リング状に形成されて重ねられた状態で配置された3枚の第2プレート部材として、第2軸受側スラストプレート45と、第2偏心部側スラストプレート46と、第2中間プレート47とが備えられている。そして、この第2スラスト軸受34は、第2円筒ころ軸受33と第2偏心部20bとの間に配置され、クランク軸20の軸方向と平行な方向の荷重(スラスト)を支持するように構成されている。
図4及び図5に示す第2軸受側スラストプレート45は、鉄鋼材料によりリング状のプレート部材として形成され、第2円筒ころ軸受33側において他端側の面が外輪42に当接した状態で配置されている。そして、第2軸受側スラストプレート45には、その内周において周方向に沿った均等角度の位置の複数個所に(本実施形態では6箇所に)、円弧状に凹み形成された第2軸受側凹み部65が形成されている。尚、第2軸受側スラストプレート45を形成するための材料としては、工業用純鉄、鋼、鋳鉄等の鉄鋼材料を広く用いることができ、例えば、ステンレス鋼により第2軸受側スラストプレート45を形成することができる。
図4及び図6に示す第2偏心部側スラストプレート46は、鉄鋼材料によりリング状のプレート部材として形成され、第2偏心部20b側に配置されている。尚、第2偏心部側スラストプレート46は、クランク軸20において段状に形成された第2偏心部20bの他端側の段部に対して、その一端側の面が当接するように、配置されている。そして、第2偏心部側スラストプレート46には、その内周において周方向に沿った均等角度の位置の複数個所に(本実施形態では6箇所に)、円弧状に凹み形成された第2偏心部側凹み部66が形成されている。尚、第2偏心部側スラストプレート46を形成するための材料としては、工業用純鉄、鋼、鋳鉄等の鉄鋼材料を広く用いることができ、例えば、ステンレス鋼により第2偏心部側スラストプレート46を形成することができる。
図4及び図7に示す第2中間プレート47は、鉄鋼材料よりも焼付き限界の高いリング状のプレート部材として形成され、第2軸受側スラストプレート45と第2偏心部側スラストプレート46との間に配置されている。このため、第2中間プレート47の他端側の面が第2軸受側スラストプレート45の一端側の面に摺接し、第2中間プレート47の一端側の面が第2偏心部側スラストプレート46の他端側の面に摺接する状態で、第2中間プレート47が配置されている。尚、鉄鋼材料よりも焼付き限界が高い第2中間プレート47を形成するための材料としては、銅合金、焼結合金、バイメタル、表面処理が施された鉄鋼材料、等を広く用いることができ、例えば、黄銅により第2中間プレート47を形成することができる。
また、第2中間プレート47には、第2貫通孔67と、第2連通溝68と、第2径方向溝69とが形成されている。第2貫通孔67は、第2中間プレート47を厚み方向に貫通する孔として複数形成されている。この複数の第2貫通孔67は、第2中間プレート47の周方向に沿って配置されるとともに均等角度の位置に設けられている。第2連通溝68は、第2中間プレート47の両面(リング形状の軸心方向に垂直な表裏面)において周方向に沿って円形に延びるように配置された溝として形成されている。そして、複数の第2貫通孔67がこの第2連通溝68を介して第2中間プレート47の両面においてそれぞれ連通されている。第2径方向溝69は、第2中間プレート47の両面において径方向に放射状に延びる溝として形成され、複数設けられている。各第2径方向溝69は、第2中間プレート47の両面において、一方の溝端部がそれぞれ第2連通溝68に開口して連通するとともに、他方の溝端部が径方向外側に開口するように形成されている。また、本実施形態の第2中間プレート47では、第2中間プレート47の一方の面に形成された第2径方向溝69と他方の面に形成された第2径方向溝69とは、周方向における角度がずれた位置に配置されている。そして、各第2径方向溝69の一方の溝端部が第2貫通孔67に対応する位置で第2連通溝68に開口している。また、一方の面の第2径方向溝69と他方の面の第2径方向溝69とは、それぞれ第2貫通孔67の数に対して半数ずつ設けられており、隣り合う第2貫通孔67に対して交互に対応するように配置されている。
上述した3枚の第2プレート部材(45、46、47)に形成された第2軸受側凹み部65、第2偏心部側凹み部66、第2貫通孔67及び第2連通溝68は、重ねられた状態でケース11内の潤滑油が通過可能なように連通するよう形成されている(図4〜7参照)。これにより、第1スラスト軸受32と、第1及び第2外歯歯車(22a、22b)の内側又は外側とを通過して入力側から流入した潤滑油が、第2偏心部側凹み部66を通過し、次に第2連通溝68及び第2貫通孔67を通過し、更に第2軸受側凹み部65を通過することで、クランク軸20に沿って出力側に流動することになる。このように、第2スラスト軸受34では、第2軸受側凹み部65、第2偏心部側凹み部66、第2貫通孔67及び第2連通溝68によって、本実施形態における第2潤滑油用連通孔が構成されている。そして、第2スラスト軸受34では、この第2潤滑油用連通孔が形成されることで、第2偏心部側スラストプレート47、第2中間プレート46及び第2軸受側スラストプレー
ト45の3枚の第1プレート部材を連通して潤滑油が通過するように構成されている。また、基部キャリア23にはクランク保持穴48に開口するよう貫通形成された循環用孔70が形成されており、第2スラスト軸受34を通過した潤滑油は、循環用孔70から流出してケース11内で循環して流動することになる(図1、図4参照)。
図8は、第1位置決めプレート28及び後述の第2位置決めプレート29を示す平面図(図8(a))、及びそのD−D線矢視断面図(図8(b))である。図2、図3及び図8に示す第1位置決めプレート28は、クランク軸20の一端側が貫通するよう配置されるとともにリング状のプレート部材として形成されている。端部キャリア24のクランク貫通孔49の内周に形成された溝には周方向の一部が切り欠かれた形状に形成された止め輪71が嵌め込まれており、第1位置決めプレート28の一端側の面が、止め輪71の他端側の面に当接している。そして、第1位置決めプレート28の他端側の面が、第1円筒ころ軸受31の外輪36の一端側に当接している。これにより、第1位置決めプレート28は、キャリア21の端部キャリア24に対する第1円筒ころ軸受31の一端側の位置を規定するよう位置決めしている。また、第1位置決めプレート28には、第1円筒ころ軸受31に設けられた円筒ころ部材37に対向する部分を開放するように開口形成された第1窓部28aが設けられている。この第1位置決めプレート28では、第1窓部28aは、リング状の第1位置決めプレート28の内側の円形孔として形成されている。第1位置決めプレート28にこのような第1窓部28aが形成されていることで、入力側から流入した潤滑油が、第1位置決めプレート28を通過して第1円筒ころ軸受31に向かって流動することになる。
図2、図4及び図8に示す第2位置決めプレート29は、クランク軸20の他端側に対向するよう配置されるとともにリング状のプレート部材として形成されている。この第2位置決めプレート29は、その他端側の面が基部キャリア23のクランク保持穴48の底部に当接し、その一端側の面が第2円筒ころ軸受33の外輪42の他端側に当接している。これにより、第2位置決めプレート29は、キャリア21の基部キャリア23に対する第2円筒ころ軸受33の他端側の位置を規定するよう位置決めしている。また、第2位置決めプレート29には、第2円筒ころ軸受33に設けられた円筒ころ部材43に対向する部分を開放するように開口形成された第2窓部29aが設けられている。この第2位置決めプレート29では、第2窓部29aは、リング状の第2位置決めプレート29の内側の円形孔として形成されている。第2位置決めプレート29にこのような第2窓部29aが形成されていることで、入力側から流入した潤滑油が、第2位置決めプレート29を通過して循環用孔70に向かって流動することになる。そして、潤滑油がケース11内で循環して流動することになる。
尚、上述の説明においては、クランク軸20の一端側から他端側に沿って潤滑油が第1位置決めプレート28、第1潤滑油用連通孔、第2潤滑油用連通孔及び第2位置決めプレート29を通過してケース11内で循環する場合を例にとって説明したが、この循環パターンに限らず、潤滑油は循環することができる。例えば、クランク軸20の他端側から一端側に沿って潤滑油が第2位置決めプレート29、第2潤滑油用連通孔、第1潤滑油用連通孔及び第1位置決めプレート28を通過してケース11内で循環することもできる。また、クランク軸20の中途から一端側又は他端側に向かって(或いは一端側又は他端側から中途に向かって)潤滑油が流動し、第1潤滑油用連通孔及び第1位置決めプレート28、又は、第2潤滑油用連通孔及び第2位置決めプレート29を通過して、ケース11内で循環することもできる。
次に、上述した揺動型減速機1の作動について説明する。揺動型減速機1は、図示しないモータの運転が行われることにより作動する。モータの運転が開始されると、入力軸12を介して駆動される入力ギア18が回転する。入力ギア18が回転すると、入力ギア1
8に噛み合う各スパーギア19が回転し、各スパーギア19が固定された各クランク軸20とともに第1及び第2偏心部(20a、20b)が回転する。この回転に伴って、第1及び第2偏心部(20a、20b)から外歯歯車22(22a、22b)に対して荷重が作用し、外歯歯車22(22a、22b)がピン内歯15と噛み合いをずらしながら揺動するように偏心して回転する。そして、外歯歯車22(22a、22b)の偏心回転に伴って、外歯歯車22(22a、22b)に対して回転保持されたクランク軸20が自転しながら回転中心線Pを中心として公転動作を行う。このクランク軸20の公転動作により、クランク軸20を第1クランク軸軸受26の第1円筒ころ軸受31及び第2クランク軸軸受27の第2円筒ころ軸受33を介して回転自在に保持するキャリア21とともに、出力軸14が回転し、大きなトルクがピニオン17から出力されることになる。また、上記の作動中においては、第1位置決めプレート28、第1スラスト軸受32、第2スラスト軸受34、第2位置決めプレート29を通過して潤滑油が循環し、第1及び第2クランク軸軸受(26、27)の潤滑性が確保されることになる。
以上説明した揺動形減速機1によると、クランク軸20における入力側である一端側に配置される第1クランク軸軸受26が、径方向の荷重を支持する第1円筒ころ軸受31と軸方向と平行な方向の荷重を支持する第1スラスト軸受32とで構成される。そして、第1スラスト軸受32には、鉄鋼材料で形成された第1軸受側スラストプレート39及び第1偏心部側スラストプレート40と、これらのスラストプレート(39、40)間に配置された第1中間プレート41とが備えられる。このため、第1スラスト軸受32は、キャリア21の内周に接する第1円筒ころ軸受31とクランク軸20に形成された第1偏心部20aとの間で3枚のプレート部材(39〜41)が重ねられて構成されることになる。これにより、第1スラスト軸受32においては、クランク軸20側とキャリア21側との間で生じる周速差が、クランク軸20側からキャリア21側にかけて各プレート部材(39〜41)の間で段階的に変化するように(段階的に周速が落とされるように)分散されることになる。よって、第1スラスト軸受32において荷重が作用する潤滑面にて速度差が大きくなることで生じやすくなる潤滑不良を抑制することができる。また、第1スラスト軸受32は、鉄鋼材料で形成されたスラストプレート(39、40)間に鉄鋼材料よりも焼付き限界の高い第1中間プレート41が挟まれて構成されるため、鉄鋼材料とこれよりも焼付き限界の高い材料との接触面で更に良好な潤滑性能を確保することができる。このように、揺動型減速機1では、第1スラスト軸受32について、鉄鋼材料で形成されたスラストプレート間に鉄鋼材料よりも焼付き限界の高いプレートが挟まれて3枚のプレート部材(39〜41)が重ねられることで構成されている。このため、第1円筒ころ軸受31における潤滑不良の発生を抑制しつつ第1スラスト軸受32における潤滑不良の発生も抑制することができる。従って、揺動型減速機1によると、潤滑不良が発生し易い入力側である一端側の第1クランク軸軸受26における潤滑不良の発生を抑制することができる。
また、揺動型減速機1によると、クランク軸20の他端側に配置される第2クランク軸軸受27についても、第1クランク軸軸受26と同様に、径方向の荷重を支持する第2円筒ころ軸受33と軸方向と平行な方向の荷重を支持する第2スラスト軸受34とで構成される。そして、第2スラスト軸受34についても、第1スラスト軸受32と同様に、鉄鋼材料で形成されたスラストプレート(45、46)間に鉄鋼材料よりも焼付き限界の高い第2中間プレート47が挟まれて3枚のプレート部材が重ねられることで構成される。このため、第2円筒ころ軸受33における潤滑不良の発生を抑制しつつ第2スラスト軸受34における潤滑不良の発生も抑制することができる。これにより、第1及び第2クランク軸軸受(26、27)の両方において潤滑不良の発生を抑制することができる。
また、揺動型減速機1によると、第1スラスト軸受32には、その全てのプレート部材(39〜41)を連通して潤滑油が通過する第1潤滑油用連通孔が形成され、第2スラス
ト軸受34にも、その全てのプレート部材(45〜47)を連通して潤滑油が通過する第2潤滑油用連通孔が形成される。このため、クランク軸20に沿ってその一端側から他端側に亘って(或いは他端側から一端側に亘って)、第1スラスト軸受32及び第2スラスト軸受34を通過させて潤滑油を流動させる経路を構成することができる。これにより、潤滑油の流動性を高めて潤滑性能を向上させることができ、クランク軸軸受(26、27)における潤滑不良の発生を更に抑制することができる。
また、揺動型減速機1によると、第1及び第2スラスト軸受(32、34)のそれぞれにおいて、軸受側及び偏心部側スラストプレート(39、45)の内周に凹み部(60、61、65、66)を形成するとともに、中間プレート(41、47)に貫通孔(62、67)及び連通溝(63、68)を形成することで、全てのプレート部材(39〜41、45〜47)を連通して潤滑油が通過する潤滑油用連通孔を簡素な構成で容易に形成することができる。
また、揺動型減速機1によると、第1及び第2中間プレート(41、47)のそれぞれにおいて、径方向に延びる径方向溝(64、69)が形成されている。このため、第1及び第2スラスト軸受(32、34)がクランク軸20の回転に伴って回転すると、潤滑油が中間プレート(41、47)における径方向溝(64、69)に沿って径方向の外側に向かって遠心力の作用により流動して供給されることになる。これにより、潤滑油の流動性を高めて潤滑性能を向上させることができ、クランク軸軸受(26、27)における潤滑不良の発生を更に抑制することができる。
また、揺動型減速機1によると、クランク軸20における入力側である一端側において、キャリア21に対する第1円筒ころ軸受31の一端側の位置を規定する第1位置決めプレート28が配置されている。そして、第1位置決めプレート28には、第1円筒ころ軸受31における円筒ころ部材37に対向する部分を開放するよう開口形成された第1窓部28aが設けられている。このため、潤滑不良が発生し易い入力側に配置された第1クランク軸軸受26の第1円筒ころ軸受31における円筒ころ部材37に対して、第1窓部28aを介して潤滑油を効率よく供給することができる。これにより、第1クランク軸軸受26における潤滑性能を向上させることができる。従って、揺動型減速機1によると、潤滑不良が発生し易い入力側である一端側の第1クランク軸軸受26における潤滑不良の発生を抑制することができる。
また、揺動型減速機1によると、クランク軸20における他端側においてもキャリア21に対する第2円筒ころ軸受27の他端側の位置を規定する第2位置決めプレート29が配置されている。そして、第2位置決めプレート29には、第1位置決めプレート28と同様に、第2円筒ころ軸受33における円筒ころ部材43に対向する部分を開放するよう開口形成された第2窓部29aが設けられている。また、前述のように、第1スラスト軸受32には、その3枚の第1プレート部材(39〜41)を連通して潤滑油が通過する第1潤滑油用連通孔が形成され、第2スラスト軸受34にも、その3枚の第2プレート部材(45〜47)を連通して潤滑油が通過する第2潤滑油用連通孔が形成される。このため、第1窓部28aから流入した潤滑油が、クランク軸20に沿ってその一端側から他端側に亘って、第1スラスト軸受32及び第2スラスト軸受34を通過し、第2窓部29aから流出するように流動する経路(或いはその逆方向に潤滑油が流動する経路)を構成することができる。これにより、潤滑油の流動性を高めて潤滑性能を向上させることができ、クランク軸軸受(26、27)における潤滑不良の発生を更に抑制することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することができる。例えば、次のように変更して実施することができる。
(1)本実施形態では、第1及び第2スラスト軸受の両方ともに、鉄鋼材料で形成されたスラストプレート間に鉄鋼材料よりも焼付き限界の高いプレートが挟まれて構成されている場合を例にとって説明したが、この通りでなくてもよい。即ち、少なくとも第1スラスト軸受において、鉄鋼材料で形成されたスラストプレート間に鉄鋼材料よりも焼付き限界の高いプレートが挟まれて構成されているものであってもよい。
(2)本実施形態では、第1及び第2スラスト軸受が、3枚のプレート部材で構成されている場合を例にとって説明したが、この通りでなくてもよく、4枚以上のプレート部材で構成されているものであってもよい。この場合、鉄鋼材料で形成されたスラストプレート間に鉄鋼材料よりも焼付き限界の高いプレートが挟まれた構成としては、種々の形態を選択することができる。例えば、鉄鋼材料で形成されたスラストプレートと鉄鋼材料よりも焼付き限界の高いプレートとが交互に合計で4枚以上重ねられた状態で配置されることで、鉄鋼材料で形成されたスラストプレート間に鉄鋼材料よりも焼付き限界の高いプレートが挟まれた構成が1つ又は複数設けられるものであってもよい。
(3)本実施形態では、スラスト軸受に形成される潤滑油用連通孔として、軸受側凹み部と貫通孔と連通溝と偏心部側凹み部とを有するものを例にとって説明したが、この通りでなくてもよく、種々形状を変更して実施してもよい。
(4)本実施形態では、クランク軸の一端側及び他端側の両方ともに、クランク軸軸受の円筒ころ軸受の円筒ころ部材に対向する部分が開口形成された窓部が設けられた位置決めプレートが配置される場合を例にとって説明したが、この通りでなくてもよい。即ち、少なくともクランク軸の一端側において、円筒ころ部材に対向する部分が開口形成された窓部が設けられた位置決めプレートが配置されているものであってもよい。
(5)また、クランク軸やキャリア等については、種々形態を変更して実施することができる。例えば、クランク軸が回転中心線上に配置されたセンタクランクタイプの揺動型減速機に本発明が適用されてもよい。また、出力軸については、キャリアと一体でなくキャリアとは別部材として設けられてもよい。また、基部キャリアと端部キャリアとを連結する支柱は、基部キャリアに一体に形成されていなくてもよく、基部キャリアとは別部材として形成されていてもよい。また、クランク軸及び支柱の数は、本実施形態とは異なっていてもよい。また、クランク軸の偏心部の個数や外歯歯車の枚数については、2つでなくてもよい。また、第1及び第2クランク軸軸受の円筒ころ軸受において、内輪が備えられていてもよい。また、第1及び第2クランク軸軸受の円筒ころ軸受において、外輪が備えられておらず、円筒ころ部材がキャリアに対して摺動するように接して配置されているものであってもよい。