以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1には、本発明に従う構造の流体封入式防振装置の一実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、第一の取付部材12と第二の取付部材14を本体ゴム弾性体16で弾性的に連結した構造を含んで構成されている。そして、第一の取付部材12が図示しないパワーユニットに取り付けられると共に、第二の取付部材14が図示しない車両ボデーに取り付けられることにより、パワーユニットが車両ボデーに対して防振支持されるようになっている。なお、以下の説明においては、原則として、図1中の上下方向を上下方向として説明する。
より詳細には、第一の取付部材12は、金属等で形成された高剛性の部材であって、逆向きの略円錐台形状を有する固着部18と、固着部18の上端から上方に向かって延び出す略円柱形状の取付部20とを一体的に備えている。また、それら固着部18と取付部20との境界部分には、外周側に向かって突出するフランジ部22が設けられている。更に、取付部20には、中心軸上を上下方向に直線的に延びるボルト孔24が形成されており、ボルト孔24の内周面にねじ山が刻設されて雌ねじとされている。そして、第一の取付部材12のボルト孔24に螺着される図示しないブラケットを介して、第一の取付部材12が図示しないパワーユニットに取り付けられるようになっている。
一方、第二の取付部材14は、金属等で形成された高剛性の部材であって、薄肉大径の略円筒形状を有している。また、第二の取付部材14には、ブラケット26が取り付けられている。ブラケット26は、大径の略有底円筒形状を有しており、その周壁部の外周面下端部に複数の取付用脚部28が固着されている。このブラケット26は、第二の取付部材14に対して下方から外挿装着されて、第二の取付部材14に固定されている。そして、ブラケット26の取付用脚部28が図示しない車両ボデーに取り付けられることにより、第二の取付部材14がブラケット26を介して車両ボデーに取り付けられるようになっている。
これら第一の取付部材12と第二の取付部材14は、同一中心軸上で、軸方向に離隔して配置されて、本体ゴム弾性体16によって相互に連結されている。本体ゴム弾性体16は、厚肉大径の略円錐台形状を有しており、その小径側端部に対して、第一の取付部材12が固着部18を埋設した状態で加硫接着されていると共に、大径側端部の外周面に対して、第二の取付部材14の内周面が重ね合わされて加硫接着されている。このことからも明らかなように、本体ゴム弾性体16は、第一の取付部材12と第二の取付部材14を備えた一体加硫成形品として形成されている。
また、本体ゴム弾性体16の小径側端面は、第一の取付部材12におけるフランジ部22の下面に重ね合わされて加硫接着されており、フランジ部22の上面には、本体ゴム弾性体16と一体形成された環状のストッパゴム30が加硫接着されて、上方に突出している。
また、本体ゴム弾性体16には、その大径側端面に開口する中央凹所32が設けられている。更に、本体ゴム弾性体16の大径側端面から下方に向かって突出するシールゴム層34が一体形成されている。シールゴム層34は、大径の円筒形状を有するゴム弾性体であって、中央凹所32よりも外周側において本体ゴム弾性体16と一体形成されており、その外周面が第二の取付部材14の内周面に加硫接着されている。これにより、第二の取付部材14の内周面は、本体ゴム弾性体16とシールゴム層34によって、略全面が被覆されている。また、シールゴム層34の内周面には、軸方向の中間に段差が設けられており、該段差を挟んだ上側が、内径を小さくされた厚肉の挟持部36とされていると共に、下側が、内径を大きくされた薄肉の嵌着部38とされている。
また、本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品を構成する第二の取付部材14には、可撓性膜40が取り付けられている。可撓性膜40は、薄肉の略円板形状乃至は逆向きドーム形状であって、軸方向に充分な弛みを有している。また、可撓性膜40の外周縁部に環状の固定金具42が加硫接着されている一方、可撓性膜40の中央部に逆向き有底円筒形状の連結金具44が加硫接着されている。そして、固定金具42が、第二の取付部材14の下側開口部に差し入れられた後、第二の取付部材14に八方絞り等の縮径加工が施されることにより、固定金具42が第二の取付部材14に対して嵌着されて、可撓性膜40が第二の取付部材14の下側開口部に取り付けられている。
このように可撓性膜40が本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品に組み付けられることにより、第二の取付部材14の上側開口が本体ゴム弾性体16によって閉塞されていると共に、第二の取付部材14の下側開口が可撓性膜40によって閉塞されている。これにより、第二の取付部材14の内周側において、本体ゴム弾性体16と可撓性膜40の軸方向対向面間には、外部に対して密閉されて非圧縮性流体を封入された流体封入領域46が形成されている。なお、流体封入領域46に封入される非圧縮性流体は、特に限定されるものではないが、例えば、水やアルキレングリコール,ポリアルキレングリコール,シリコーン油、或いはそれらの混合液等が好適に採用される。更に、後述する流体の流動作用に基づく防振効果を効率的に発揮させるためには、0.1Pa・s以下の低粘性流体であることが望ましい。
また、流体封入領域46には、仕切部材48が配設されている。仕切部材48は、仕切部材本体50に対して、蓋金具51と流体流量制御手段としての可動ゴム板52を取り付けた構造とされている。
より詳細には、仕切部材本体50は、大径の逆向き略有底円筒形状とされており、径方向の中央部分において下方に向かって開口する略円柱状の凹所54を有している。また、凹所54の周壁部には、軸方向中間部分において内周面に段部56が設けられており、段部56を挟んで底壁部側(図1の上側)が開口部側(図1の下側)よりも小径とされている。そして、凹所54の内周面における段部56よりも下側の大径部分が、円筒形状の筒形内周面58とされている。
さらに、仕切部材本体50は、凹所54の周壁部から下方に向かって突出する環状の延出筒部60を備えており、延出筒部60の下端には、外周側に向かって突出する円環板形状の挟持片62が一体形成されている。この延出筒部60は、凹所54の開口端部から突出しており、凹所54の周壁部に対して、外径寸法が同じで、且つ内径寸法が大きくされている。これにより、凹所54の周壁部の下端面の内周部分で構成された段差64が、凹所54の周壁部と延出筒部60との境界部分に設けられている。要するに、仕切部材本体50の周壁部の内周面は、軸方向中間部分に形成された段部56と段差64によって、上底壁部側から開口側に向かって段階的に大径となる段付筒状面とされており、段部56と段差64の軸方向間が筒形内周面58とされている。
また、仕切部材本体50の周壁部には、第一の周溝66が形成されている。第一の周溝66は、仕切部材本体50の周壁部に対して、2周弱の所定長さで周方向に延びるように形成されて、外周面に開口しており、周方向一方の端部が上連通部68を通じて仕切部材本体50の上面に開口していると共に、周方向他方の端部が下連通部70を通じて仕切部材本体50の下面に開口している。
また、仕切部材本体50の上底壁部には、上方に開口する円柱状の収容凹所72が、凹所54と対応する径方向の中央部分に形成されている。更に、仕切部材本体50の上面には、薄肉円板形状の蓋金具51が重ね合わされてねじ留めされており、収容凹所72の開口部が蓋金具51によって覆蓋されている。これにより、仕切部材48の上底壁部には、仕切部材本体50と蓋金具51の間に、収容凹所72を利用して円柱状の収容空所74が形成されている。
この収容空所74には、略円板形状の可動ゴム板52が配設されている。また、可動ゴム板52の厚さ方向両面には、周方向環状に延びる複数の凹溝76が同心的に形成されており、可動ゴム板52の厚さ方向両面が波打ち形状とされて、厚さ寸法が径方向で変化している。更に、可動ゴム板52の径方向中央には、厚さ方向両側に突出する軸部78が一体形成されており、仕切部材48と蓋金具51の各中央に形成された挿通孔80に対して挿通されることによって、可動ゴム板52が収容空所74内で径方向に位置決めされている。更にまた、可動ゴム板52は、収容空所74の形状に比べて軸方向寸法が小さくされており、可動ゴム板52が収容空所74内で厚さ方向への微小変位を許容されている。
また、可動ゴム板52が収容配置された収容空所74には、複数の連通孔82,84が形成されている。連通孔82,84は、図1,図2に示されているように、小径の円形孔であって、収容空所74の上側の壁部を構成する蓋金具51に対して、複数の上連通孔82が貫通形成されていると共に、収容空所74の下側の壁部を構成する仕切部材本体50の上底壁部に対して、複数の下連通孔84が貫通形成されている。
このような、可動ゴム板52を備えた仕切部材48は、流体封入領域46内に配設されている。即ち、仕切部材48の周壁部がシールゴム層34における挟持部36の内周側に挿入されて、その上端が本体ゴム弾性体16の大径側端面(中央凹所32の開口周縁端面)に重ね合わされていると共に、挟持片62がシールゴム層34の挟持部36と固定金具42との間で軸方向に挟持されている。これにより、仕切部材48が第二の取付部材14によって支持されて、流体封入領域46内で軸直角方向に広がるように配設されている。なお、本実施形態では、仕切部材48が本体ゴム弾性体16及びシールゴム層34の変形によって上方への変位を許容されており、仕切部材48の変位による液圧補償作用を利用して、キャビテーションの低減効果も期待できる。
そして、仕切部材48が流体封入領域46に配設されることにより、流体封入領域46は仕切部材48を挟んで上下に二分されている。即ち、仕切部材48を挟んで上方には、壁部の一部を本体ゴム弾性体16で構成されて、振動入力時に内圧変動が生ぜしめられる、受圧室86が形成されている。一方、仕切部材48を挟んで下方には、壁部の一部を可撓性膜40で構成されて、容積変化が容易に許容される、平衡室88が形成されている。
また、仕切部材48の周壁部に形成された第一の周溝66の外周開口が、シールゴム層34を介して第二の取付部材14で覆蓋されることにより、周方向に延びるトンネル状の通路が形成されている。そして、該トンネル状通路の一方の端部が上連通部68を通じて受圧室86に連通されていると共に、他方の端部が下連通部70を通じて平衡室88に連通されている。これにより、受圧室86と平衡室88を相互に連通する第一のオリフィス通路90が、第一の周溝66を利用して形成されている。この第一のオリフィス通路90は、エンジンシェイク等に相当する10Hz程度の低周波数にチューニングされている。なお、後述する第二,第三のオリフィス通路116,118を含めた各オリフィス通路のチューニング周波数は、オリフィス通路の通路断面積(A)とオリフィス通路の流路長(L)との比(A/L)を調節することで、適当に設定可能である。
また、可動ゴム板52の上面に対して、上連通孔82を通じて受圧室86の圧力が及ぼされていると共に、可動ゴム板52の下面に対して、下連通孔84を通じて平衡室88の圧力が及ぼされている。そして、可動ゴム板52は、受圧室86と平衡室88の相対的な圧力変動によって、上下に微小変位するようになっている。
また、仕切部材48の凹所54には、オリフィス部材92が配設されている。オリフィス部材92は、略有底円筒形状を有しており、外周面の大部分が円筒形状の筒形外周面94とされていると共に、外周面の上端部が上方に向かって次第に内周側に傾斜するテーパ外周面96とされている。これにより、オリフィス部材92の上端部は、上方に向かって次第に小径となっている。
また、オリフィス部材92の周壁部には、周方向螺旋状に延びる第二の周溝98が、外周面に開口して所定の長さで形成されている。なお、第二の周溝98は、一方の端部がオリフィス部材92の上面に開口していると共に、他方の端部がオリフィス部材92の下面に開口している。
そして、オリフィス部材92が、テーパ外周面96の小径側端部を入方向の先端として、凹所54の大径部分(開口部分)に対して下方から挿入されることにより、オリフィス部材92の筒形外周面94が凹所54の筒形内周面58に重ね合わされる。これにより、凹所54の開口部がオリフィス部材92によって閉塞されて、凹所54の底壁部とオリフィス部材92の間に、受圧室86及び平衡室88と同じ非圧縮性流体を封入された中間室100が画成される。
なお、オリフィス部材92が凹所54に挿入された状態において、オリフィス部材92の筒形外周面94と、凹所54の筒形内周面58は、小さな隙間をもって重ね合わされている。この隙間が設けられていることで、後述するオリフィス部材92の仕切部材48に対する挿脱方向への駆動変位が、かじり等を生じることなくスムーズに実現される。更に、隙間は、中間室100と平衡室88の短絡が流動抵抗によって阻止され得る大きさとされて、防振性能に悪影響を及ぼすことがないようになっている。
また、オリフィス部材92は、可撓性膜40の中央に固着された連結金具44に固定されている。即ち、オリフィス部材92は、連結金具44の上底壁部に対して上方から重ね合わされており、連結金具44の下方から螺入された連結ねじ102によって連結金具44に固定されている。
また、連結金具44の下方には、アクチュエータ104が配設されている。このアクチュエータ104は、後述する駆動軸106を上下方向に所定の距離ずつ駆動変位させる動力源であって、本実施形態では、回転駆動力を発生する電気モータ(ステッピングモータ)と、回転駆動力を往復駆動力に変換するギヤ機構やカム機構等の駆動力変換手段とを組み合わせた、電気式アクチュエータが採用されている。尤も、アクチュエータとしては、各種公知のアクチュエータを採用可能であり、例えば、電磁力を利用して往復駆動力を発生する電磁式アクチュエータや、空気の圧力を利用するダイヤフラム機構等の空気圧式アクチュエータ等も採用され得る。そして、アクチュエータ104は、可撓性膜40よりも下方に配設されて、ブラケット26の底壁部に固定されることにより第二の取付部材14に支持されている。
さらに、アクチュエータ104には、駆動軸106が取り付けられている。駆動軸106は、エンジンマウント10の中心軸上で上下に延びており、下端部がアクチュエータ104に直接的に或いは間接的に取り付けられていると共に、上端部が連結ねじ102の頭部に固定されている。そして、アクチュエータ104が発生する往復駆動力が、駆動軸106に及ぼされて、連結金具44を介してオリフィス部材92に伝達されることにより、オリフィス部材92がアクチュエータ104によって上下に駆動して、仕切部材48の凹所54に対して出入変位するようになっている。なお、オリフィス部材92は、アクチュエータ104によって、軸方向に予め設定された位置まで段階的に駆動変位されるようになっていても良いし、軸方向に連続的に任意の位置まで駆動変位されるようになっていても良い。
また、仕切部材48とオリフィス部材92の間には、ガイド手段108が設けられている。ガイド手段108は、仕切部材48に設けられたガイド筒部110に対して、オリフィス部材92に設けられたガイド軸部112が、挿入されることによって構成されている。
ガイド筒部110は、小径の略円筒形状を有しており、仕切部材48における凹所54の底壁部の中央から下方に向かって突出している。また、ガイド筒部110の突出先端部分には、軸受部材114が固定されている。軸受部材114は、小径の略円筒形状を有すると共に、下端部にフランジ状の突起を備えている。そして、軸受部材114は、ガイド筒部110に圧入されて、下端部の突起がガイド筒部110の突出先端面に重ね合わされることにより、ガイド筒部110に対して位置決め固定されている。一方、ガイド軸部112は、小径の略円形ロッド形状を有しており、オリフィス部材92の底壁部の径方向中央から上方に向かって突出している。
そして、ガイド軸部112がガイド筒部110で支持された軸受部材114に対して下方から差し入れられて、ガイド軸部112の外周面が、軸受部材114の内周面に対して摺動可能に重ね合わされることにより、オリフィス部材92を仕切部材48に対して軸直角方向で位置決めして軸方向に案内する、ガイド手段108が構成されている。なお、軸受部材114は、例えば、自己潤滑性を備えた材料で形成されたり、内周面にコーティング加工を施されることにより、摩擦係数が小さく抑えられており、ガイド軸部112が軸受部材114に対してスムーズに摺動可能とされている。
かくの如き構造とされたエンジンマウント10では、オリフィス部材92がアクチュエータ104によって凹所54に対する出入方向に駆動変位されることにより、第二のオリフィス通路116と第三のオリフィス通路118が選択的に構成される。
すなわち、図3の(a),(b)に示されているように、オリフィス部材92の筒形外周面94が凹所54の筒形内周面58に対して重ね合わされた状態においては、仕切部材48とオリフィス部材92の間に中間室100が形成される。更に、オリフィス部材92に形成された第二の周溝98の外周開口部が、筒形内周面58で覆蓋されることによって、中間室100と平衡室88を相互に連通する第二のオリフィス通路116が、第二の周溝98を利用して構成される。
さらに、第二のオリフィス通路116は、オリフィス部材92が凹所54に対して出入方向に駆動変位されることにより、チューニング周波数が変更設定されるようになっている。即ち、図3の(a)に示されているように、オリフィス部材92が凹所54に対する入方向に駆動変位されることにより、第二の周溝98における筒形内周面58で覆蓋される範囲が大きくなって、第二のオリフィス通路116の通路長が長くなる。その結果、通路長と通路断面積の比(A/L)が小さくなって、第二のオリフィス通路116のチューニング周波数が低周波数側にシフトする。一方、図3の(b)に示されているように、オリフィス部材92が凹所54に対する出方向に駆動変位されることにより、第二の周溝98における筒形内周面58で覆蓋される範囲が小さくなって、第二のオリフィス通路116の通路長が短くなる。その結果、通路長と通路断面積の比(A/L)が大きくなって、第二のオリフィス通路116のチューニング周波数が高周波数側にシフトする。なお、第二のオリフィス通路116は、常に第一のオリフィス通路90より高周波数にチューニングされるようになっており、本実施形態では、アイドリング振動等に相当する20Hz〜60Hz程度の中周波数にチューニングされるようになっている。
一方、図3の(c)に示されているように、オリフィス部材92が凹所54に対する出方向に駆動変位されて、オリフィス部材92の筒形外周面94が凹所54の筒形内周面58に対して下方に離隔した状態においては、凹所54の開口周縁部とオリフィス部材92のテーパ外周面96との間に環状の隙間120が形成される。また、オリフィス部材92の筒形外周面94は、仕切部材48における延出筒部60の内周面に対して、軸直角方向内側に所定距離を隔てて対向位置しており、筒形外周面94と延出筒部60の内周面との間に形成される環状領域の断面積が、隙間120の断面積(テーパ外周面96の上端と凹所54の開口周縁部との間に形成される領域の面積)よりも大きくなっている。これにより、中間室100は、隙間120を通じて平衡室88に開放されて、平衡室88の一部として機能するようになっており、実質的に消失する。
その結果、受圧室86と平衡室88を相互に連通する第三のオリフィス通路118が、仕切部材48の上底壁部に形成された上下の連通孔82,84によって構成される。この第三のオリフィス通路118は、第二のオリフィス通路116の最も高いチューニング周波数よりも、更に高周波数にチューニングされており、ロックアップこもり音等に相当する100Hz程度の高周波数にチューニングされている。
このような構造とされたエンジンマウント10では、車両への装着下において、第一〜第三のオリフィス通路90,116,118の連通と遮断が、入力振動の周波数に応じて切り替えられることで、広い周波数域の入力振動に対して、優れた防振効果が発揮されるようになっている。
すなわち、エンジンシェイクに相当する低周波大振幅振動の入力時には、第一のオリフィス通路90を通じて、受圧室86と平衡室88の間で流体流動が生じて、流体の流動作用に基づく防振効果(高減衰効果)が発揮される。この際、収容空所74に配設された可動ゴム板52によって上下の連通孔82,84が閉塞されることから、第二,第三のオリフィス通路116,118が遮断されて、受圧室86の液圧が逃げるのを防ぐことが出来る。その結果、第一のオリフィス通路90を通じて流動する流体の量を効率的に確保することが出来て、第一のオリフィス通路90による防振効果を有効に得ることが出来る。
また、アイドリング振動に相当する中周波小振幅振動の入力時には、オリフィス部材92が、筒形内周面58と筒形外周面94が重なり合う位置まで駆動変位されて、中間室100と第二のオリフィス通路116が構成される。更に、可動ゴム板52の微小変位によって上下の連通孔82,84が連通状態となることで、受圧室86の液圧が中間室100に伝達されて、中間室100と平衡室88の間で相対的な圧力差が生じるようになっている。これにより、中間室100と平衡室88を連通する第二のオリフィス通路116を通じて流体が流動せしめられて、流体の流動作用に基づく防振効果(低動ばね効果)が発揮されるようになっている。
そこにおいて、エンジンマウント10では、周波数の異なる複数種類の中周波小振幅振動に対して、防振効果がより効率的に発揮されるようになっている。即ち、入力振動の周波数に応じて、オリフィス部材92が仕切部材48に対して軸方向で駆動変位されることで、第二のオリフィス通路116のチューニング周波数が調節されるようになっている。これにより、アイドリング振動の周波数のばらつきを吸収することが出来ると共に、停車状態から走行状態への移行時に入力される40Hz〜60Hz程度の比較的に周波数が高い振動に対しても、有効な防振効果を得ることが出来る。
なお、中周波数の振動入力時には、入力振動の周波数よりも低周波数にチューニングされた第一のオリフィス通路90は、反共振によって実質的に遮断されることから、受圧室86の液圧が第一のオリフィス通路90を通じて平衡室88に逃げるのを防ぐことが出来る。また、第三のオリフィス通路118を構成する上下の連通孔82,84は、第二のオリフィス通路116と直列的に形成されていることから、上下の連通孔82,84を通じての流体流動によって第二のオリフィス通路116を通じての流体流動が阻害されることはない。
また、ロックアップこもり音等に相当する高周波小振幅振動の入力時には、オリフィス部材92がアクチュエータ104によって下死点まで駆動変位されて、仕切部材48の凹所54から引き抜かれることにより、オリフィス部材92と仕切部材48の間に隙間120が形成される。そして、中間室100が平衡室88の一部として機能することにより、受圧室86と平衡室88とを連通する第三のオリフィス通路118が上下の連通孔82,84によって構成されて、高周波数にチューニングされた第三のオリフィス通路118によって、流体の流動作用に基づいた防振効果(低動ばね効果)が発揮されるようになっている。
なお、高周波数域の振動入力時には、入力振動の周波数よりも低周波数にチューニングされた第一のオリフィス通路90は、反共振によって実質的に遮断されており、第三のオリフィス通路118を通じて流動する流体の量が効率的に確保される。一方、第二のオリフィス通路116は、オリフィス部材92が凹所54から引き抜かれた状態において、第二の周溝98の外周側開口部が開放されることにより消失している。
以上のように、本実施形態のエンジンマウント10によれば、入力振動の周波数に応じて、第一〜第三のオリフィス通路90,116,118が選択的に機能することで、低周波数から高周波数までの広い周波数域の入力振動に対して何れも有効な防振効果が発揮されるようになっている。
しかも、第二のオリフィス通路116は、流路長を調節することで、チューニング周波数が可変とされている。これにより、第二のオリフィス通路116による防振効果が発揮される周波数域が拡大して、中周波数の振動に対するより高度な防振性能を実現することが出来る。
このことは、図4に示された防振特性のグラフからも理解できる。即ち、第二のオリフィス通路116のチューニング可能範囲における最も低い周波数(20Hz〜25Hz程度)の振動入力時には、オリフィス部材92が上死点まで駆動変位されて、第二のオリフィス通路116の流路長が最も長く設定される。これにより、エンジンマウント10の防振特性が、図4に点線で示されたアイドル特性1に切り替えられて、入力振動に対する低動ばね効果が発揮される。なお、図4に示された防振特性のグラフは、エンジンマウント10に±0.05mmの小振幅振動が入力された場合の測定結果である。
また、中周波数域における比較的に低周波数(25Hz〜35Hz程度)の振動入力時には、オリフィス部材92が上死点よりも下方に駆動変位されて、第二のオリフィス通路116の流路長が長めに設定される。これにより、エンジンマウント10の防振特性が、図4に1点鎖線で示されたアイドル特性2に切り替えられて、入力振動に対して有効な低動ばね効果が発揮される。
また、中周波数域における比較的に高周波数(35Hz〜50Hz程度)の振動入力時には、オリフィス部材92が更に下方に駆動変位されて、第二のオリフィス通路116の流路長が短めに設定される。これにより、エンジンマウント10の防振特性が、図4に2点鎖線で示されたアイドル特性3に切り替えられて、入力振動に対して有効な低動ばね効果が発揮される。
また、第二のオリフィス通路116のチューニング可能範囲における最も高い周波数(50Hz〜60Hz程度)の振動入力時には、オリフィス部材92が、筒形外周面94と筒形内周面58の重なり合いが解除されない範囲で、最下端に駆動変位される。このようにして、第二のオリフィス通路116の流路長が最も短く設定されることにより、エンジンマウント10の防振特性が、図4に3点鎖線で示されたアイドル特性4に切り替えられて、入力振動に対して有効な低動ばね効果が発揮される。
一方、第二のオリフィス通路116のチューニング可能周波数域を外れた、高周波数(100Hz程度)の振動が入力された場合には、オリフィス部材92が下死点まで駆動変位されて、筒形外周面94と筒形内周面58の重なり合いが解除されることにより、第三のオリフィス通路118が構成される。これにより、エンジンマウント10の防振特性が、図4に実線で示されたこもり特性に切り替えられて、入力振動に対して有効な低動ばね効果が発揮される。
加えて、第二,第三のオリフィス通路116,118における連通と遮断の切替えが、オリフィス部材92をアクチュエータ104で駆動変位する1つの機構によって実現されている。それ故、第二のオリフィス通路116を切り替える弁機構等が、各別に設けられているよりも、簡単な構造によって、3つのオリフィス通路90,116,118を備えたエンジンマウント10が実現される。
また、オリフィス部材92の上端部の外周面が、上方に向かって次第に内周側に傾斜するテーパ外周面96とされており、オリフィス部材92の上端部が上方に向かって小径となっている。このようなテーパ部がオリフィス部材92の上端に設けられていることにより、オリフィス部材92の軸方向寸法が充分に確保されて、第二のオリフィス通路116の流路長の設計自由度が大きくなる。しかも、オリフィス部材92の筒形外周面94と、仕切部材48の筒形内周面58との重なり合いの解除は、オリフィス部材92の上端部の外周面がテーパ外周面96とされていることから、アクチュエータ104によるオリフィス部材92の駆動変位量を著しく大きくすることなく、実現される。
また、仕切部材本体50の下端部には、凹所54の周壁部よりも下方に突出する延出筒部60が設けられており、延出筒部60の下端に一体形成された挟持片62に対して、固定金具42が重ね合わされている。これにより、固定金具42に加硫接着された可撓性膜40の外周部分が、凹所54に挿入されたオリフィス部材92よりも下方に位置せしめられて、オリフィス部材92が下方に変位することで可撓性膜40に引張応力が作用するのを回避することが出来る。その結果として、可撓性膜40の耐久性の向上を実現することが出来る。
しかも、延出筒部60の内径寸法は、凹所54の内径寸法よりも大きくされている。それ故、オリフィス部材92が凹所54から引き抜かれる際に、延出筒部60によって隙間120が狭窄されるのが防止されて、中間室100と平衡室88の短絡と、それに伴う第三のオリフィス通路118の構成が、確実に且つ速やかに実現される。
なお、延出筒部60に至る長さで第一の周溝66を形成することも可能であり、そうすることで第一のオリフィス通路90の流路長を大きく設定することも可能となる。その結果、第三のオリフィス通路118への切替えを邪魔することなく、第一のオリフィス通路90のチューニング自由度を大きく確保することも出来る。
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、流体流量制御手段は、可動ゴム板52によるものに限定されず、可動ゴム膜を利用したものや、弁機構を用いたもの等も、流体流量制御手段として採用可能である。
また、オリフィス部材92の筒形外周面94は、仕切部材48(凹所54)の筒形内周面58に対して、摺接していても良く、それら筒形外周面94と筒形内周面58の間に隙間はなくても良い。なお、筒形内周面58と筒形外周面94が摺接している場合には、それらの間で作用する摩擦抵抗が低減されるように、例えば、仕切部材48及びオリフィス部材92が潤滑性に優れた材料で形成されたり、表面に摩擦係数を低減するコーティングが施されることが望ましい。
また、前記実施形態では、本発明に従う構造の流体封入式防振装置が、自動車用のエンジンマウントに適用されている例が示されているが、本発明は、自動車以外にも適用可能であり、例えば、産業用車両や鉄道用車両等にも好適に適用される。加えて、本発明の流体封入式防振装置は、エンジンマウント以外にも適用することが可能であって、例えば、サブフレームマウントやボデーマウント、デフマウント等への適用が可能である。