以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1には、本発明に従う構造の流体封入式防振装置の第一の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、第一の取付部材12と第二の取付部材14を本体ゴム弾性体16で弾性的に連結した構造を含んで構成されている。そして、第一の取付部材12が図示しないパワーユニットに取り付けられると共に、第二の取付部材14が図示しない車両ボデーに取り付けられることにより、パワーユニットが車両ボデーに対して防振支持されるようになっている。なお、以下の説明においては、原則として、図1中の上下方向を上下方向として説明する。
より詳細には、第一の取付部材12は、金属等で形成された高剛性の部材であって、逆向きの略円錐台形状を有する固着部18と、固着部18の上端から上方に向かって延び出す略円柱形状の取付部20とを一体的に備えている。また、それら固着部18と取付部20との境界部分には、外周側に向かって突出するフランジ部22が設けられている。更に、取付部20には、中心軸上を上下方向に直線的に延びるボルト孔24が形成されており、ボルト孔24の内周面にねじ山が刻設されて雌ねじとされている。そして、第一の取付部材12のボルト孔24に螺着される図示しないブラケットを介して、第一の取付部材12が図示しないパワーユニットに取り付けられるようになっている。
一方、第二の取付部材14は、金属等で形成された高剛性の部材であって、薄肉大径の略円筒形状を有している。また、第二の取付部材14には、ブラケット26が取り付けられている。ブラケット26は、大径の略有底円筒形状を有しており、その周壁部の外周面下端部に複数の取付用脚部28が固着されている。このブラケット26は、第二の取付部材14に対して下方から外挿装着されて、第二の取付部材14に固定されている。そして、ブラケット26の取付用脚部28が図示しない車両ボデーに取り付けられることにより、第二の取付部材14がブラケット26を介して車両ボデーに取り付けられるようになっている。
これら第一の取付部材12と第二の取付部材14は、同一中心軸上で、軸方向に離隔して配置されて、本体ゴム弾性体16によって相互に連結されている。本体ゴム弾性体16は、厚肉大径の略円錐台形状を有しており、その小径側端部に対して、第一の取付部材12が固着部18を埋設した状態で加硫接着されていると共に、大径側端部の外周面に対して、第二の取付部材14の内周面が重ね合わされて加硫接着されている。このことからも明らかなように、本体ゴム弾性体16は、第一の取付部材12と第二の取付部材14を備えた一体加硫成形品として形成されている。
また、本体ゴム弾性体16の小径側端面は、第一の取付部材12におけるフランジ部22の下面に重ね合わされて加硫接着されており、フランジ部22の上面には、本体ゴム弾性体16と一体形成された環状のストッパゴム30が加硫接着されて、上方に突出している。
また、本体ゴム弾性体16には、その大径側端面に開口する中央凹所32が設けられている。更に、本体ゴム弾性体16の大径側端面から下方に向かって突出するシールゴム層34が一体形成されている。シールゴム層34は、大径の円筒形状を有するゴム弾性体であって、中央凹所32よりも外周側において本体ゴム弾性体16と一体形成されており、その外周面が第二の取付部材14の内周面に加硫接着されている。これにより、第二の取付部材14の内周面は、本体ゴム弾性体16とシールゴム層34によって、略全面が被覆されている。また、シールゴム層34の内周面には、軸方向の中間に段差が設けられており、該段差を挟んだ上側が、内径を小さくされた厚肉の挟持部36とされていると共に、下側が、内径を大きくされた薄肉の嵌着部38とされている。
また、本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品を構成する第二の取付部材14には、可撓性膜40が取り付けられている。可撓性膜40は、薄肉の略円板形状乃至は逆向きドーム形状であって、軸方向に充分な弛みを有している。また、可撓性膜40の外周縁部に環状の固定金具42が加硫接着されている一方、可撓性膜40の中央部に逆向き有底円筒形状の連結金具44が加硫接着されている。そして、固定金具42が、第二の取付部材14の下側開口部に差し入れられた後、第二の取付部材14に八方絞り等の縮径加工が施されることにより、固定金具42が第二の取付部材14に対して嵌着されて、可撓性膜40が第二の取付部材14の下側開口部に取り付けられている。
このように可撓性膜40が本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品に組み付けられることにより、第二の取付部材14の上側開口が本体ゴム弾性体16によって閉塞されていると共に、第二の取付部材14の下側開口が可撓性膜40によって閉塞されている。これにより、第二の取付部材14の内周側において、本体ゴム弾性体16と可撓性膜40の軸方向対向面間には、外部に対して密閉されて非圧縮性流体を封入された流体封入領域46が形成されている。なお、流体封入領域46に封入される非圧縮性流体は、特に限定されるものではないが、例えば、水やアルキレングリコール,ポリアルキレングリコール,シリコーン油、或いはそれらの混合液等が好適に採用される。更に、後述する流体の流動作用に基づく防振効果を効率的に発揮させるためには、0.1Pa・s以下の低粘性流体であることが望ましい。
また、流体封入領域46には、仕切部材48が配設されている。仕切部材48は、第二の取付部材14によって支持されており、仕切部材本体50に対して、蓋金具51と流体流量制御手段としての可動ゴム板52を取り付けた構造とされている。
より詳細には、仕切部材本体50は、大径の逆向き略有底円筒形状とされており、径方向の中央部分において下方に向かって開口する略円柱状の凹所54を有している。また、凹所54の周壁部には、軸方向中間部分において内周面に段部56が設けられており、段部56を挟んで底壁部側(図1の上側)が開口部側(図1の下側)よりも小径とされている。そして、凹所54の内周面における段部56よりも下側の大径部分が、円筒形状の筒形内周面58とされている。
さらに、仕切部材本体50は、凹所54の周壁部から下方に向かって突出する環状の延出筒部60を備えており、延出筒部60の下端には、外周側に向かって突出する円環板形状の挟持片62が一体形成されている。この延出筒部60は、凹所54の開口端部から突出しており、凹所54の周壁部に対して、外径寸法が同じで、且つ内径寸法が大きくされている。これにより、凹所54の周壁部の下端面の内周部分で構成された段差64が、凹所54の周壁部と延出筒部60との境界部分に設けられている。要するに、仕切部材本体50の周壁部の内周面は、軸方向中間部分に形成された段部56と段差64によって、上底壁部側から開口側に向かって段階的に大径となる段付筒状面とされており、段部56と段差64の軸方向間が筒形内周面58とされている。
また、仕切部材本体50の周壁部には、第一の周溝66が形成されている。第一の周溝66は、仕切部材本体50の周壁部に対して、2周弱の所定長さで周方向に延びるように形成されて、外周面に開口しており、周方向一方の端部が上連通部68を通じて仕切部材本体50の上面に開口していると共に、周方向他方の端部が下連通部70を通じて仕切部材本体50の下面に開口している。
また、仕切部材本体50の上底壁部には、上方に開口する円柱状の収容凹所72が、凹所54と対応する径方向の中央部分に形成されている。更に、仕切部材本体50の上面には、薄肉円板形状の蓋金具51が重ね合わされてねじ留めされており、収容凹所72の開口部が蓋金具51によって覆蓋されている。これにより、仕切部材48の上底壁部には、仕切部材本体50と蓋金具51の間に、収容凹所72を利用して円柱状の収容空所74が形成されている。
この収容空所74には、略円板形状の可動ゴム板52が配設されている。また、可動ゴム板52の厚さ方向両面には、周方向環状に延びる複数の凹溝76が同心的に形成されており、可動ゴム板52の厚さ方向両面が波打ち形状とされて、厚さ寸法が径方向で変化している。更に、可動ゴム板52の径方向中央には、厚さ方向両側に突出する軸部78が一体形成されており、仕切部材48と蓋金具51の各中央に形成された挿通孔80に対して挿通されることによって、可動ゴム板52が収容空所74内で径方向に位置決めされている。更にまた、可動ゴム板52は、収容空所74の形状に比べて軸方向寸法が小さくされており、可動ゴム板52が収容空所74内で厚さ方向への微小変位を許容されている。
また、可動ゴム板52が収容配置された収容空所74には、複数の連通孔82,84が形成されている。連通孔82,84は、図1,図2に示されているように、小径の円形孔であって、収容空所74の上側の壁部を構成する蓋金具51に対して、複数の上連通孔82が貫通形成されていると共に、収容空所74の下側の壁部を構成する仕切部材本体50の上底壁部に対して、複数の下連通孔84が貫通形成されている。
このような、可動ゴム板52を備えた仕切部材48は、流体封入領域46内に配設されている。即ち、仕切部材48の周壁部がシールゴム層34における挟持部36の内周側に挿入されて、その上端が本体ゴム弾性体16の大径側端面(中央凹所32の開口周縁端面)に重ね合わされていると共に、挟持片62がシールゴム層34の挟持部36と固定金具42との間で軸方向に挟持されている。これにより、仕切部材48が第二の取付部材14によって支持されて、流体封入領域46内で軸直角方向に広がるように配設されている。なお、本実施形態では、仕切部材48が本体ゴム弾性体16及びシールゴム層34の変形によって上方への変位を許容されており、仕切部材48の変位による液圧補償作用を利用して、キャビテーションの低減効果も期待できる。
そして、仕切部材48が流体封入領域46に配設されることにより、流体封入領域46は仕切部材48を挟んで上下に二分されている。即ち、仕切部材48を挟んで上方には、壁部の一部を本体ゴム弾性体16で構成されて、振動入力時に内圧変動が生ぜしめられる、受圧室86が形成されている。一方、仕切部材48を挟んで下方には、壁部の一部を可撓性膜40で構成されて、容積変化が容易に許容される、平衡室88が形成されている。
また、仕切部材48の周壁部に形成された第一の周溝66の外周開口が、シールゴム層34を介して第二の取付部材14で覆蓋されることにより、周方向に延びるトンネル状の通路が形成されている。そして、該トンネル状通路の一方の端部が上連通部68を通じて受圧室86に連通されていると共に、他方の端部が下連通部70を通じて平衡室88に連通されている。これにより、受圧室86と平衡室88を相互に連通する第一のオリフィス通路90が、第一の周溝66を利用して形成されている。この第一のオリフィス通路90は、エンジンシェイク等に相当する10Hz程度の低周波数にチューニングされている。なお、後述する第二,第三のオリフィス通路118,120を含めた各オリフィス通路のチューニング周波数は、オリフィス通路の通路断面積(A)とオリフィス通路の流路長(L)との比(A/L)を調節することで、適当に設定可能である。
また、可動ゴム板52の上面に対して、上連通孔82を通じて受圧室86の圧力が及ぼされていると共に、可動ゴム板52の下面に対して、下連通孔84を通じて平衡室88の圧力が及ぼされている。そして、可動ゴム板52は、受圧室86と平衡室88の相対的な圧力変動によって、上下に微小変位するようになっている。
また、仕切部材48の凹所54には、オリフィス部材92が配設されている。オリフィス部材92は、略円板形状を有しており、図1,図3に示されているように、外周側の端部に薄肉部94を設けられていると共に、薄肉部94の内周側に厚肉部96を設けられている。
薄肉部94は、薄肉の略円環板形状を有しており、その外径寸法が凹所54の大径部分(筒形内周面58)の内径寸法と略同じとされている。一方、厚肉部96は、薄肉部94に比べて軸方向での寸法を大きくされた略円筒形状とされており、薄肉部94の内周縁から上方に向かって突出するように一体形成されている。この厚肉部96は、外径寸法が凹所54の小径部分の内径寸法よりも小さくされていると共に、内径寸法が後述するガイド筒部112の外径寸法よりも大きくされている。換言すれば、オリフィス部材92は、略円筒形状とされた厚肉部96の下端から、薄肉フランジ状の薄肉部94が外周側に向かって突出した構造を有している。
また、オリフィス部材92における厚肉部96よりも内周側には、薄肉円板形状の連結部98が一体形成されており、厚肉部96の中心孔が連結部98によって流体密に閉塞されている。
また、オリフィス部材92の外周縁部には、連通溝100が形成されている。連通溝100は、オリフィス部材92の周上の一部において上下方向に直線的に延びる凹溝であって、オリフィス部材92の外周面に開口していると共に、長さ方向両端の開口がオリフィス部材92の各一方の端面に開口している。また、連通溝100は、内周側の端部(底部)が厚肉部96の外周部分にまで達するように形成されており、オリフィス部材92の軸方向全長に亘って連続的に形成されている。なお、連通溝100の深さ寸法は、薄肉部94を貫通する下端部において、他の部分よりも大きくなっている。
そして、オリフィス部材92が凹所54の大径部分(開口部分)に対して下方から挿入されることにより、薄肉部94の外周面と凹所54の筒形内周面58が重ね合わされる。これにより、凹所54の開口部がオリフィス部材92によって閉塞されて、凹所54の底壁部とオリフィス部材92の間に、受圧室86及び平衡室88と同じ非圧縮性流体を封入された中間室102が画成される。この中間室102は、上下の連通孔82,84と収容空所74を通じて、受圧室86に連通されている。
なお、オリフィス部材92が凹所54に挿入された状態において、オリフィス部材92における薄肉部94の外周面と、凹所54の筒形内周面58は、小さな隙間をもって重ね合わされている。この隙間が設けられていることで、後述するオリフィス部材92の仕切部材48に対する挿脱方向への駆動変位が、かじり等を生じることなくスムーズに実現される。更に、隙間は、中間室102と平衡室88の短絡が流動抵抗によって阻止され得る大きさとされて、防振性能に悪影響を及ぼすことがないようになっている。
また、オリフィス部材92は、可撓性膜40の中央に固着された連結金具44に固定されている。即ち、オリフィス部材92は、連結金具44の上底壁部に対して上方から重ね合わされており、連結金具44の下方から螺入された連結ねじ104によって連結金具44に固定されている。
また、連結金具44の下方には、アクチュエータ106が配設されている。このアクチュエータ106は、後述する駆動軸108を上下方向に所定の距離ずつ駆動変位させる動力源であって、本実施形態では、回転駆動力を発生する電気モータ(ステッピングモータ)と、回転駆動力を往復駆動力に変換するギヤ機構やカム機構等の駆動力変換手段とを組み合わせた、電気式アクチュエータが採用されている。尤も、アクチュエータとしては、各種公知のアクチュエータを採用可能であり、例えば、電磁力を利用して往復駆動力を発生する電磁式アクチュエータや、空気の圧力を利用するダイヤフラム機構等の空気圧式アクチュエータ等も採用され得る。そして、アクチュエータ106は、可撓性膜40よりも下方に配設されて、ブラケット26の底壁部に固定されることにより第二の取付部材14に支持されている。
さらに、アクチュエータ106には、駆動軸108が取り付けられている。駆動軸108は、エンジンマウント10の中心軸上で上下に延びており、下端部がアクチュエータ106に直接的に或いは間接的に取り付けられていると共に、上端部が連結ねじ104の頭部に固定されている。そして、アクチュエータ106が発生する往復駆動力が、駆動軸108に及ぼされて、連結金具44を介してオリフィス部材92に伝達されることにより、オリフィス部材92がアクチュエータ106によって上下に駆動して、仕切部材48の凹所54に対して出入変位するようになっている。なお、オリフィス部材92は、アクチュエータ106によって、軸方向に予め設定された位置まで段階的に駆動変位されるようになっていても良いし、軸方向に連続的に任意の位置まで駆動変位されるようになっていても良い。
また、仕切部材48とオリフィス部材92の間には、ガイド手段110が設けられている。ガイド手段110は、仕切部材48に設けられたガイド筒部112に対して、オリフィス部材92に設けられたガイド軸部114が、挿入されることによって構成されている。
ガイド筒部112は、小径の略円筒形状を有しており、仕切部材48における凹所54の底壁部の中央から下方に向かって突出している。また、ガイド筒部112の突出先端部分には、軸受部材116が固定されている。軸受部材116は、小径の略円筒形状を有すると共に、下端部にフランジ状の突起を備えている。そして、軸受部材116は、ガイド筒部112に圧入されて、下端部の突起がガイド筒部112の突出先端面に重ね合わされることにより、ガイド筒部112に対して位置決め固定されている。一方、ガイド軸部114は、小径の略円形ロッド形状を有しており、オリフィス部材92の連結部98の径方向中央から上方に向かって突出している。
そして、ガイド軸部114がガイド筒部112で支持された軸受部材116に対して下方から差し入れられて、ガイド軸部114の外周面が、軸受部材116の内周面に対して、摺動可能に重ね合わされることにより、オリフィス部材92を仕切部材48に対して軸直角方向で位置決めして軸方向に案内する、ガイド手段110が構成されている。なお、軸受部材116は、例えば、自己潤滑性を備えた材料で形成されたり、内周面にコーティング加工を施されることにより、摩擦係数が小さく抑えられており、ガイド軸部114が軸受部材116に対してスムーズに摺動可能とされている。
そして、エンジンマウント10では、オリフィス部材92がアクチュエータ106によって上下方向に駆動変位されることにより、第二のオリフィス通路118と第三のオリフィス通路120が選択的に構成されるようになっている。
すなわち、図4の(a)に示されているように、オリフィス部材92が凹所54の底壁面に当接する上死点に駆動変位されることにより、オリフィス部材92が凹所54に入り込んで、オリフィス部材92の薄肉部94の外周面が、凹所54の筒形内周面58の開口側端部に重ね合わされる。これにより、連通溝100の外周側の開口部が、仕切部材48の周壁部によって覆蓋されて、中間室102と平衡室88を相互に連通する第二のオリフィス通路118が、連通溝100を利用して構成される。この第二のオリフィス通路118は、第一のオリフィス通路90よりも高周波数にチューニングされており、例えば、アイドリング振動に相当する20Hz程度の中周波数にチューニングされている。また、厚肉部96を利用して壁部を構成された第二のオリフィス通路118は、その流路長:L2が、オリフィス部材92が上死点に位置した状態における仕切部材48と薄肉部94との重ね合わせ面の幅寸法:t(図4の(a)参照)よりも大きく設定されている。
一方、図4の(b)に示されているように、オリフィス部材92が下方に変位駆動されて下死点に至ることによって、薄肉部94の外周面が凹所54の筒形内周面58に対して下方に外れて位置するようになっている。そして、薄肉部94と凹所54の周壁部との間には、環状の隙間122が全周に亘って連続的に形成されて、中間室102が隙間122を通じて平衡室88に短絡することで、中間室102が平衡室88の一部を構成する。これにより、受圧室86と平衡室88(中間室102を含む)を相互に連通する第三のオリフィス通路120が、上下の連通孔82,84を利用して構成されている。この第三のオリフィス通路120は、第二のオリフィス通路118よりも高周波数にチューニングされており、例えば、ロックアップこもり音に相当する100Hz程度の高周波数にチューニングされている。なお、第三のオリフィス通路120の流体流路上には、可動ゴム板52が流路の長さ方向に対して略直交して広がるように配設されている。
このような構造とされたエンジンマウント10は、入力振動の周波数に応じて、第一〜第三のオリフィス通路90,118,120による防振効果が、選択的に発揮されるようになっている。
具体的には、先ず、エンジンシェイクに相当する低周波数振動が入力されると、受圧室86と平衡室88の相対的な圧力差に基づく流体流動が、第一のオリフィス通路90を通じて、受圧室86と平衡室88の間で生ぜしめられる。その結果、流体の共振作用等の流動作用に基づいて、低周波数振動に対する有効な防振効果(高減衰効果)が発揮される。なお、エンジンシェイク等の低周波大振幅振動の入力時には、可動ゴム板52が収容空所74の上下壁面に押し付けられて、上下の連通孔82,84が閉塞される。これにより、上下の連通孔82,84を通じた流体の流動が防止されて、液圧の逃げが抑えられることから、第一のオリフィス通路90を通じての流体流動が効率的に惹起されるようになっている。
次に、アイドリング振動に相当する中周波小振幅振動の入力時には、オリフィス部材92が上死点に駆動変位されることにより、中周波数にチューニングされた第二のオリフィス通路118が構成される。また、小振幅振動であることから、可動ゴム板52の微小変位によって上下の連通孔82,84の閉塞が解除されて、受圧室86の液圧が中間室102に伝達される。これにより、中間室102と平衡室88の間に相対的な圧力差が生じて、中間室102と平衡室88の間で第二のオリフィス通路118を通じて流体の流動が生ぜしめられる。その結果、流体の流動作用に基づいて、中周波数振動に対する有効な防振効果(低動ばね効果)が発揮される。
なお、中周波数振動の入力時には、入力振動の周波数よりも低周波数にチューニングされた第一のオリフィス通路90が、反共振作用によって実質的に遮断されることから、第二のオリフィス通路118を通じての流体流動量が効率的に確保される。
また次に、ロックアップこもり音等の高周波小振幅振動の入力時には、オリフィス部材92が下死点に駆動変位されることにより、中間室102が隙間122を通じて平衡室88に短絡して、高周波数にチューニングされた第三のオリフィス通路120が構成される。これにより、受圧室86と平衡室88の相対的な圧力差に基づく流体流動が、第三のオリフィス通路120を通じて、受圧室86と平衡室88の間で生ぜしめられる。その結果、流体の共振作用等の流動作用に基づいて、高周波数振動に対する有効な防振効果(低動ばね効果)が発揮される。
なお、高周波数振動の入力時には、第一のオリフィス通路90は、中周波数振動の入力時と同様に、実質的に遮断されている。一方、第二のオリフィス通路118は、中間室102と平衡室88が短絡することによって消失しており、第三のオリフィス通路120による防振性能に何ら影響を与えない。これらによって、第三のオリフィス通路120による防振効果が有効に発揮される。
このように、エンジンマウント10において、中周波数振動と高周波数振動に対して何れも有効な防振効果が発揮されることは、図5のグラフからも理解される。なお、図5のグラフは、±0.05mmの小振幅振動が、エンジンマウント10に対して入力された場合の防振特性を示している。
すなわち、アイドリング振動に相当する中周波数振動(20Hz程度)が入力されると、オリフィス部材92が上死点に駆動変位されることによって、中間室102と第二のオリフィス通路118が構成される。これにより、エンジンマウント10の防振特性が、図5に点線で示されたアイドル特性に切り替えられて、中周波数振動に対する低動ばね効果が発揮される。
一方、ロックアップこもり音に相当する高周波数振動(100Hz程度)が入力されると、オリフィス部材92が下死点に駆動変位されることによって、中間室102が消失して、第三のオリフィス通路120が構成される。これにより、エンジンマウント10の防振特性が、図5に実線で示されたこもり特性に切り替えられて、高周波数振動に対する低動ばね効果が発揮されるのである。
また、エンジンマウント10では、第二のオリフィス通路118と第三のオリフィス通路120が直列的に設けられており、低周波数振動の入力時には、可動ゴム板52によって第二,第三のオリフィス通路118,120が何れも遮断されるようになっている。しかも、第二のオリフィス通路118と第三のオリフィス通路120の切替えは、オリフィス部材92をアクチュエータ106によって駆動する1つの機構によって実現されている。これらの結果、第二のオリフィス通路118と第三のオリフィス通路120を、各別に連通状態と遮断状態に切り替える場合に比べて、構造を簡単にすることが出来ると共に、切替えの制御も容易である。
さらに、オリフィス部材92の外周縁部が薄肉部94とされており、仕切部材48の内周面とオリフィス部材92の外周面との重なり幅が、小さくなっている。これにより、第二のオリフィス通路118と第三のオリフィス通路120を切替える際に、オリフィス部材92を上下方向に大きなストロークで駆動変位させる必要がなく、第二のオリフィス通路118と第三のオリフィス通路120の切替えが、速やかに且つ少ないエネルギー消費で効率的に実現される。
しかも、第二のオリフィス通路118の構成時に、仕切部材48とオリフィス部材92は、軸直角方向の投影で重なり合うようになっていることから、軸方向での寸法が小型化される。加えて、オリフィス部材92の変位量が抑えられていることにより、オリフィス部材92が下死点に位置した状態でも、軸方向寸法の変化が抑えられる。それ故、ブラケット26の底壁部と可撓性膜40との間のスペースを小さくすることも出来る。
また、エンジンマウント10では、3つのオリフィス通路90,118,120の切替えが、オリフィス部材92を上死点と下死点の2位置に駆動変位させることによって、実現されている。これにより、オリフィス部材92を駆動変位させるアクチュエータ106として簡単な構造のものを採用することが出来ると共に、オリフィス部材92の駆動の制御も容易に実現することが出来る。
次に、図6には、本発明の第二の実施形態として、自動車用のエンジンマウント130が示されている。このエンジンマウント130は、オリフィス部材132を含んで構成されている。なお、以下の説明において、第一の実施形態と実質的に同一の部材及び部位については、図中に同一の符号を付すことにより、説明を省略する。
より詳細には、オリフィス部材132は、外周縁部を構成する薄肉部134と、薄肉部134の内周側に一体形成された厚肉部136を有している。薄肉部134は、薄肉の略円環板形状乃至は略円環形状とされており、その外径寸法が凹所54の筒形内周面58の内径寸法と略同じとされている。一方、厚肉部136は、薄肉部134の内周側に一体形成された略環状の部分であって、上面が外周側に向かって次第に下傾するテーパ面138とされていると共に、下面が薄肉部134の下面と同一平面上で略軸直角方向に広がっており、内周側に行くに従って次第に上方への突出高さが大きくなって厚肉となっている。この厚肉部136は、その下端における外径寸法が凹所54の小径部分の内径よりも大きくなっていると共に、上端における外径寸法が凹所54の小径部分の内径よりも小さくなっている。
かかるオリフィス部材132は、厚肉部136が凹所54に差し入れられると共に、薄肉部134が、凹所54の開口端面(段差64の内周縁部)に対して、軸方向の投影において重ね合わされた状態で、仕切部材48に対して組み付けられている。また、オリフィス部材132は、連結金具44を介して駆動軸108に固定されており、アクチュエータ106によって上下に駆動変位されるようになっている。
そして、オリフィス部材132が上死点に駆動変位されることにより、図7(a)に示されているように、薄肉部134が凹所54の開口端面に当接して、凹所54の開口部がオリフィス部材132によって覆蓋される。これにより、仕切部材48の上底壁部とオリフィス部材132の間に中間室102が形成されると共に、中間室102と平衡室88を連通する第二のオリフィス通路118が、連通溝100を利用して構成される。なお、薄肉部134と凹所54の開口端面との当接部分の幅寸法:wは、第二のオリフィス通路118の流路長:L2よりも小さくなっている。
一方、オリフィス部材132が下死点に駆動変位されることにより、図7(b)に示されているように、薄肉部134が凹所54の開口端面から下方に離隔して、凹所54の開口部が平衡室88に開放されることにより、中間室102が消失し、平衡室88の一部として機能する。これにより、受圧室86と平衡室88を連通する第三のオリフィス通路120が、上下の連通孔82,84を利用して構成される。
このような構造とされたエンジンマウント130においても、前記第一の実施形態のエンジンマウント10と同様に、第一〜第三のオリフィス通路90,118,120による防振効果が、選択的に発揮されて、広い周波数域の振動に対して有効な防振性能を実現することが出来る。
また、オリフィス部材132の薄肉部134が、凹所54の開口端面に対して、オリフィス部材132の駆動方向で当接することによって、凹所54の開口部がオリフィス部材132で覆蓋されるようになっている。それ故、オリフィス部材132の外周面を仕切部材48の筒形内周面58に摺接させる必要がなく、摩擦による駆動力のロスを抑えることが出来ると共に、かじり等の問題も回避される。しかも、オリフィス部材132の上死点への移動によって、オリフィス部材132の薄肉部134が仕切部材48における凹所54の開口端面に当接することから、凹所54の開口部がより確実に密閉されて、中間室102と平衡室88の相対的な圧力変動が効率的に生ぜしめられる。それ故、第二のオリフィス通路118を通じての流体流動量を確保することが出来て、第二のオリフィス通路118による防振効果をより有利に得ることが出来る。
また、図8には、本発明の別の一実施形態としての流体封入式防振装置に採用されるオリフィス部材140が示されている。オリフィス部材140は、外周縁を構成する薄肉部142と、外周側に向かって次第に下傾するテーパ形状を有する厚肉部144とを有しており、薄肉部142が厚肉部144の外周面を構成するように設けられている。
そして、オリフィス部材140は、第一の実施形態のオリフィス部材92と同様に、凹所54に対して挿入されて、薄肉部142が凹所54の筒形内周面58に対して軸直角方向で重ね合わされるようになっている。
このように、薄肉部と厚肉部は、必ずしも第一,第二の実施形態のような境界を明瞭に認識できる態様で設けられていなくても良い。即ち、オリフィス部材の外周縁が内周側よりも薄肉となっていれば、外周縁を薄肉部とみなすことが出来ると共に、それよりも内周部分で外周縁よりも厚肉の部分を厚肉部とみなすことが出来る。
また、図9には、本発明のまた別の一実施形態としての流体封入式防振装置に採用されるオリフィス部材150が示されている。オリフィス部材150は、外周縁部に略円環板形状乃至は円環形状の薄肉部152を有していると共に、その内周側に厚肉の略円筒形状とされた厚肉部154を有している。
さらに、厚肉部154には、周上の一部に貫通孔156が形成されている。貫通孔156は、上下方向に直線的に延びる孔であって、厚肉部154を貫通して、厚肉部154の上下両端面に開口している。
そして、オリフィス部材150が上死点に位置して、中間室102が構成されている状態において、貫通孔156の上端開口部が中間室102に連通されると共に、貫通孔156の下端開口部が平衡室88に連通されるようになっている。これにより、中間室102と平衡室88を相互に連通する第二のオリフィス通路118が、貫通孔156によって構成されている。
このように、第二のオリフィス通路は、必ずしも壁部の一部を仕切部材48によって構成されている必要はなく、第二のオリフィス通路の壁部の全体がオリフィス部材によって構成されていても良い。
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、流体流量制御手段は、可動ゴム板52によるものに限定されず、可動ゴム膜を利用したものや、弁機構を用いたもの等も、流体流量制御手段として採用可能である。
また、薄肉部94の外周面は、仕切部材48(凹所54)の筒形内周面58に対して、摺接していても良く、薄肉部94の外周面と筒形内周面58の間に隙間はなくても良い。なお、筒形内周面58と薄肉部94の外周面とが摺接している場合には、それらの間で作用する摩擦抵抗が低減されるように、例えば、仕切部材48及びオリフィス部材92が潤滑性に優れた材料で形成されたり、表面に摩擦係数を低減するコーティングが施されることが望ましい。
また、前記実施形態では、本発明に従う構造の流体封入式防振装置が、自動車用のエンジンマウントに適用されている例が示されているが、本発明は、自動車以外にも適用可能であり、例えば、産業用車両や鉄道用車両等にも好適に適用される。加えて、本発明の流体封入式防振装置は、エンジンマウント以外にも適用することが可能であって、例えば、サブフレームマウントやボデーマウント、デフマウント等への適用も可能である。