以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
図1には、本発明に係る流体封入式防振装置の一実施形態としての自動車用のエンジンマウント10が示されている。このエンジンマウント10は、第一の取付部材としての第一の取付金具12と第二の取付部材としての第二の取付金具14が本体ゴム弾性体16で連結された構造を有している。そして、第一の取付金具12が振動伝達系を構成する一方の部材である自動車のパワーユニットに取り付けられると共に、第二の取付金具14が振動伝達系を構成する他方の部材である自動車のボデーに取り付けられることにより、パワーユニットが車両ボデーに対して防振連結されるようになっている。なお、以下の説明において、上下方向とは、エンジンマウント10の軸方向であって、主たる振動の入力方向である図1中の上下方向をいうものとする。また、図1には、エンジンマウント10の車両装着前の状態が示されており、車両への装着によって、パワーユニットの分担支持荷重がエンジンマウント10の軸方向に及ぼされるようになっている。
より詳細には、第一の取付金具12は、鉄やアルミニウム合金等で形成されており、略円形ブロック形状を呈している。また、第一の取付金具12には、上方に向かって突出する取付ボルト18が一体形成されている。そして、取付ボルト18がパワーユニット側の取付部材(図示せず)に螺着されることにより、第一の取付金具12がパワーユニットに取り付けられるようになっている。
また、第二の取付金具14は、第一の取付金具12と同様な材料で形成されており、全体として薄肉大径の円筒形状を呈している。そして、第二の取付金具14は、例えば、外嵌固定されるブラケット金具(図示せず)等を介して車両ボデーに取り付けられるようになっている。
上述の如き構造とされた第一の取付金具12と第二の取付金具14は、第一の取付金具12が第二の取付金具14の上方に離隔配置されて、同一中心軸線上に位置せしめられている。そして、これら第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に本体ゴム弾性体16が介装されている。
本体ゴム弾性体16は、略円錐台形状を呈しており、その大径側端面には、下方に開口する略逆すり鉢形状の大径凹所20が形成されている。そして、本体ゴム弾性体16の小径側端部に対して、第一の取付金具12が上方から差し込まれて加硫接着されると共に、本体ゴム弾性体16の大径側端部の外周面に対して、第二の取付金具14の内周面が加硫接着されることにより、第一の取付金具12と第二の取付金具14が本体ゴム弾性体16で弾性連結されている。即ち、本実施形態では、本体ゴム弾性体16は、第一の取付金具12と第二の取付金具14を備えた一体加硫成形品として形成されている。
また、本体ゴム弾性体16には、シールゴム22が一体形成されている。シールゴム22は、本体ゴム弾性体16の下端から下方に向かって延びるように形成されており、全体として厚肉の円筒形状を呈している。そして、シールゴム22は、第二の取付金具14の内周面に対して加硫接着されている。
なお、シールゴム22は、本体ゴム弾性体16の下端部よりも内径が大きくされている。これにより、本体ゴム弾性体16とシールゴム22の境界部分において周方向に連続する円環状の段差面が形成されている。また、本実施形態において、シールゴム22は、軸方向中間部分の内周面に円環状の段差面が形成されており、段差面よりも上側の部分が、段差面よりも下側の部分に比して、厚肉とされている。
また、第二の取付金具14の下端部には、可撓性膜としてのダイヤフラム24が配設されている。ダイヤフラム24は、変形容易な薄肉のゴム膜で形成されており、全体としてドーム形状を呈している。また、ダイヤフラム24の外周縁部には、大径円筒形状の固定リング26が加硫接着されている。即ち、ダイヤフラム24は、固定リング26を備えた一体加硫成形品として形成されている。
そして、固定リング26が第二の取付金具14の軸方向他方の開口部に嵌め込まれて、第二の取付金具14に対して八方絞り等の縮径加工が施されることにより、固定リング26がシールゴム22を介して第二の取付金具14に嵌着固定されている。なお、本実施形態では、第二の取付金具14の下端部が内周側に屈曲せしめられることにより、第二の取付金具14の下端部が固定リング26の下端面に当接せしめられている。これにより、固定リング26が第二の取付金具14から抜けることを防止している。
上述の如く固定リング26が第二の取付金具14に嵌着固定されることにより、第二の取付金具14の軸方向下方の開口部がダイヤフラム24によって流体密に覆蓋される。これにより、第二の取付金具14の内側における本体ゴム弾性体16とダイヤフラム24の対向面間において、外部空間から隔てられて非圧縮性流体が封入された流体室28が形成されている。なお、流体室28に封入される非圧縮性流体としては、例えば、水やアルキレングリコール,ポリアルキレングリコール,シリコーン油及びそれらの混合液等が好適に採用される。そして、後述する流体の共振作用等に基づく防振効果を有効に得るためには、粘度が0.1Pa・s以下の低粘性流体が望ましい。
また、流体室28には、仕切部材30が収容配置されている。本実施形態の仕切部材30は、制限板としての上側仕切金具32と当接板としての下側仕切金具34を含んで構成されている。
上側仕切金具32は、アルミニウム合金等の金属材や硬質の合成樹脂材料等で形成されており、全体として円板ブロック形状を呈している。また、上側仕切金具32の径方向中間部分には、上方に向かって開口する中央凹所36が形成されている。
さらに、上側仕切金具32の中央凹所36の底壁には、上側連通窓38,38が形成されている。なお、図面では明示されていないが、本実施形態では、上側仕切金具32を軸方向から見ると、略半円形状を呈する上側連通窓38,38が径方向で所定距離を隔てて対向位置するように二つ形成されている。
更にまた、上側仕切金具32の中央凹所36の底壁中央には、下方に向かって開口する対向凹所40が形成されている。そこにおいて、本実施形態では、対向凹所40は円形断面で開口するように形成されている。また、本実施形態では、対向凹所40の内周面は、対向凹所40の上底側へ行くに従って次第に縮径する傾斜面とされている。更に、対向凹所40の上底には、その中央部分に貫通孔42が形成されている。
また、上側仕切金具32の外周縁部には、上側周溝44が形成されている。上側周溝44は、上側仕切金具32の外周面に開口する凹溝であって、周方向に所定の長さで延びている。因みに、本実施形態では、上側周溝44は、周方向に一周弱の長さで延びている。
一方、下側仕切金具34は、上側仕切金具32と同様に、アルミニウム合金等の金属材や硬質の合成樹脂材料等で形成されており、全体として円形ブロック形状を呈している。また、下側仕切金具34の径方向中央部分には、上方に向かって開口する収容凹所46が形成されている。
また、下側仕切金具34の収容凹所46の底壁には、下側連通窓48,48が形成されている。なお、図面では明示されていないが、本実施形態では、下側仕切金具34を軸方向から見ると、略半円形状を呈する下側連通窓48,48が径方向で所定距離を隔てて対向位置するように二つ形成されている。
さらに、下側仕切金具34の収容凹所46の底壁中央には、上方に向かって突出する閉塞用突部50が形成されている。そこにおいて、閉塞用突部50は、軸直角方向の断面が円形とされており、かかる円形断面が基端側から突出端側へ行くに従って次第に小さくなる先細形状とされている。特に本実施形態では、閉塞用突部50は、軸直角方向の円形断面が基端側から突出端側へ行くに従って略一定の割合で小さくなっており、全体として円錐台形状を呈している。即ち、閉塞用突部50の外周面は、基端側から突出端側へ行くに従って次第に縮径される先細の傾斜外周面52とされているのである。
更にまた、下側仕切金具34の外周縁部には、下側切欠部54が形成されている。下側切欠部54は、下側仕切金具34の外周面及び上面に開口して周方向に所定の長さで延びている。因みに、本実施形態では、下側切欠部54は、周方向に一周弱の長さで延びている。
上述の如き構造とされた上側仕切金具32と下側仕切金具34は、同一中心軸線上で上下に重ね合わせられる。そこにおいて、上側仕切金具32と下側仕切金具34は、周方向で相互に位置決めされており、上側連通窓38,38と下側連通窓48,48が軸方向の投影で重なっていると共に、上側周溝44の端部と下側切欠部54の端部が軸方向の投影において重なっている。
また、上側仕切金具32と下側仕切金具34を重ね合わせて組み合わせることにより、下側仕切金具34に形成された下側切欠部54の上面開口が上側仕切金具32の外周縁部で覆われており、下側切欠部54が外周側に開口する溝形状を呈するようになっている。更にまた、相互に位置合わせされた上側周溝44と下側切欠部54の周方向一方の端部において、上側周溝44の下側面に接続路(図示せず)が形成されている。これにより、上側周溝44と下側切欠部54が直列的に連通されて、螺旋状に周方向に二周弱の長さで延びる周溝が形成されている。
さらに、上側仕切金具32と下側仕切金具34を組み合わせることにより、上側仕切金具32に設けられた中央凹所36及びかかる中央凹所36の底壁に形成された貫通孔42と、下側仕切金具34に設けられた閉塞用突部50が同一中心軸線上に位置せしめられている。
更にまた、上側仕切金具32と下側仕切金具34を組み合わせることにより、下側仕切金具34の中央部分に形成された収容凹所46の開口が、上側仕切金具32に形成された中央凹所36の底壁によって覆蓋されて、上側仕切金具32と下側仕切金具34の間に収容空所56が形成されている。そして、収容空所56には、可動ゴム膜58が配設されている。
この可動ゴム膜58は、従来から公知のゴム材料で形成されて、全体として円板形状を呈しており、その外周縁部にリング状の支持部60が一体形成された構造とされている。
そこにおいて、本実施形態では、可動ゴム膜58の中央において、上方に向かって突出する中空状突部としての当接突部62が形成されている。特に本実施形態では、当接突部62は円錐台形状とされている。
また、当接突部62には、下面に開口する嵌込凹所64が形成されている。そこにおいて、本実施形態では、嵌込凹所64の内面形状は、下側仕切金具34に設けられた閉塞用突部50の外面形状に対応している。これにより、嵌込凹所64の内面は、上底側へ行くに従って次第に縮径する筒状の傾斜内周面と、円形の上底面とを有している。
さらに、当接突部62の上底中央には、厚さ方向に略一定の断面形状で貫通する開口穴66が形成されている。そこにおいて、本実施形態では、開口穴66は、円形断面でストレートに延びるように形成されている。特に本実施形態では、開口穴66の内径寸法は、上側仕切金具32に形成された貫通孔42の内径寸法よりも小さくされている。これにより、開口穴66の開口面積は、貫通孔42の開口面積よりも小さくされている。
そして、上述の如く可動ゴム膜58の当接突部62に対して嵌込凹所64と開口穴66が形成されることにより、可動ゴム膜58には、軸方向中間部分に形成された円環状の段差面を挟んで上側が略一定の円形断面でストレートに延びる一方、段差面を挟んで下側が下方に行くに従って拡径するリリーフ用孔68が形成されている。
このような構造とされた可動ゴム膜58は、下側仕切金具34の収容凹所46に収容されて、下側仕切金具34に上側仕切金具32が重ね合わせられることにより、外周縁部に設けられた支持部60が下側仕切金具34の収容凹所46の底面と上側仕切金具32の下面によって挟圧保持されるようになっている。これにより、上側仕切金具32の中央凹所36の底壁と可動ゴム膜58が軸方向で所定の距離を隔てて対向位置せしめられた状態で、特に本実施形態では、当接突部62の先端面と上側仕切金具32の対向凹所40の上底面との間にも隙間が形成された状態で、収容空所56が可動ゴム膜58によって仕切られることとなる。その結果、収容空所56が可動ゴム膜58によって上下に流体密に二分されている。
また、このようにして可動ゴム膜58が配設された状態で、可動ゴム膜58の当接突部62に形成された嵌込凹所64に対して下側仕切金具34に設けられた閉塞用突部50が嵌め込まれている。換言すれば、可動ゴム膜58に形成されたリリーフ用孔68に対して、下側仕切金具34に設けられた閉塞用突部50が嵌め込まれているのである。これにより、上側仕切金具32に設けられた中央凹所36及び貫通孔42と、可動ゴム膜58に形成されたリリーフ用孔68及び当接突部62と、下側仕切金具34に設けられた閉塞用突部50とが、同一中心軸線上に位置せしめられている。
そこにおいて、本実施形態では、下側仕切金具34に設けられた閉塞用突部50の傾斜外周面52は、可動ゴム膜58に設けられた当接突部62の弾性に基づいて、当接突部62に形成された嵌込凹所64の傾斜内周面に密着せしめられている。これにより、可動ゴム膜58のリリーフ用孔68が閉塞用突部50によって閉塞されている。
このような構造とされた仕切部材30は、ダイヤフラム24が組み付けられる前の第二の取付金具14に対して、軸方向下方の開口部から挿し入れられるようになっており、このようにして仕切部材30が挿し入れられた第二の取付金具14に対してダイヤフラム24が軸方向下方の開口部から挿し入れられるようになっている。なお、この状態で、上側仕切金具32は本体ゴム弾性体16側に位置せしめられている一方、下側仕切金具34はダイヤフラム24側に位置せしめられている。そして、第二の取付金具14に対して八方絞り等の縮径加工が施されることにより、仕切部材30(上側仕切金具32,下側仕切金具34)とダイヤフラム24が第二の取付金具14によって支持されている。
かかる仕切部材30の第二の取付金具14への装着状態において、仕切部材30の外周面がシールゴム22を介して第二の取付金具14に密着せしめられている。これにより、流体室28が仕切部材30を挟んで上下に仕切られている。その結果、仕切部材30を挟んだ一方の側には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成されて、非圧縮性流体が封入された受圧室70が形成されており、仕切部材30を挟んだ他方の側には、壁部の一部がダイヤフラム24で構成されて、非圧縮性流体が封入された平衡室72が形成されている。即ち、上側仕切金具32は受圧室70側に位置せしめられている一方、下側仕切金具34は平衡室72側に位置せしめられているのである。そして、受圧室70は、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成されていることにより、振動入力時における本体ゴム弾性体16の弾性変形に基づいて圧力変動が生ぜしめられるようになっており、平衡室72は、壁部の一部がダイヤフラム24で構成されていることにより、容積変化が容易に許容されるようになっている。
また、仕切部材30の外周縁部に形成された周溝は、外周側の開口がシールゴム22を介して第二の取付金具14で閉塞されている。これにより、仕切部材30の外周面に沿って延びるトンネル状の通路が形成されている。そして、このトンネル状通路の周方向一方の端部は、連通孔74を通じて受圧室70に接続されており、周方向他方の端部は、連通孔76を通じて平衡室72に接続されている。これにより、仕切部材30の外周縁部を螺旋状に延びて、受圧室70と平衡室72を相互に連通するオリフィス通路78が形成されている。
なお、本実施形態では、オリフィス通路78は、流体の流動作用に基づく防振効果が、自動車のエンジンシェイクに相当する10Hz前後の振動に対して発揮されるようにチューニングされている。
また、仕切部材30の中央部分に形成された収容空所56は、上側仕切金具32に形成された上側連通窓38,38を通じて受圧室70に接続されている一方、下側仕切金具34に形成された下側連通窓48,48を通じて平衡室72に接続されている。これにより、可動ゴム膜58の上面には、受圧室70の圧力が及ぼされる一方、可動ゴム膜58の下面には、平衡室72の圧力が及ぼされることとなる。その結果、受圧室70と平衡室72の相対的な圧力差に基づいて、可動ゴム膜58の径方向中間部分が弾性変形することにより、受圧室70の圧力変動が吸収され得るようになっている。即ち、上側仕切金具32に形成された上側連通窓38,38と可動ゴム膜58と下側仕切金具34に形成された下側連通窓48,48を含んで、液圧吸収機構が構成されているのである。
なお、本実施形態では、アイドリング振動や低速こもり音等に相当する20〜40Hz程度の中周波数域の振動に対して、可動ゴム膜58の弾性変形による受圧室70の液圧吸収効果に基づく防振効果(低動ばね特性に基づく振動絶縁効果)が有効に発揮されるように、可動ゴム膜58の固有振動数がチューニングされている。
上述の如き構造とされたエンジンマウント10においては、走行時に問題となるエンジンシェイク等の低周波数域の振動が入力されると、受圧室70に比較的に大きな圧力変動が生ぜしめられる。低周波数域の振動入力時に受圧室70に生ぜしめられる圧力は大きいため、微振幅振動に対して防振効果が発揮されるようにチューニングされた可動ゴム膜58では、受圧室70の圧力を実質的に吸収し得ない。また、受圧室70において問題となる負圧が発生しない状態では、可動ゴム膜58のリリーフ用孔68に下側仕切金具34の閉塞用突部50が嵌まり込んだ状態が維持されている。
従って、可動ゴム膜58の弾性変形による受圧室70の圧力変動の吸収やリリーフ用孔68を通じての圧力漏れが抑えられることとなる。これにより、受圧室70と平衡室72の間に有効な圧力差が生ぜしめられて、オリフィス通路78を通じての流体の流動量が十分に確保される。その結果、オリフィス通路78を流動せしめられる流体の共振作用等の流動作用に基づく防振効果が、エンジンシェイク等の低周波数域の振動に対して有効に発揮される。
また、停車時に問題となるアイドリング振動や走行時に問題となる低速こもり音等の中周波数域の振動が入力されると、小さな振幅の圧力変動が受圧室70に生ぜしめられる。この場合、入力される振動の周波数域がオリフィス通路78のチューニング周波数よりも高いことから、オリフィス通路78が反共振的な作用による流動抵抗の増加に起因して、実質的に閉塞状態となる。そこで、中周波数域にチューニングされた可動ゴム膜58の弾性変形に基づいて、受圧室70の圧力変動が吸収されることにより、オリフィス通路78の実質的な閉塞化に起因する著しい高動ばね化が回避され得ることとなる。その結果、中周波数域の振動に対する良好な防振効果(低動ばね特性に基づく振動絶縁効果)が発揮されるのである。
なお、可動ゴム膜58の弾性変形により受圧室70の圧力変動が吸収せしめられる場合には、受圧室70に生ぜしめられる圧力は極めて微小とされていることから、閉塞用突部50が可動ゴム膜58のリリーフ用孔68から抜け出す程度の大きな負圧が、受圧室70に発生し難くなっている。これにより、可動ゴム膜58のリリーフ用孔68に閉塞用突部50が嵌め込まれた状態が維持されて、可動ゴム膜58の径方向中間部分の変形による変位に基づいて、目的とする液圧吸収効果が安定して得られる。
ところで、自動車の走行時における段差の乗越え等によって、エンジンマウント10に衝撃的な大荷重が入力されると、受圧室70に過大な負圧が生ぜしめられる場合がある。このように受圧室70の圧力が著しく低下せしめられると、可動ゴム膜58が受圧室70と平衡室72の相対的な圧力差によって受圧室70側に吸引される。かかる吸引力の作用によって、図2に示されているように、可動ゴム膜58が弾性変形せしめられて、受圧室70側に引っ張られることにより、当接突部62の突出先端面、即ち、開口穴66の周囲が対向凹所40の上底面における貫通孔42の周囲に当接せしめられる。これにより、可動ゴム膜58よりも平衡室72側に位置する下側仕切金具34に設けられた閉塞用突部50が、平衡室72側に開口する嵌込凹所64から抜け出した状態となる。即ち、閉塞用突部50が、リリーフ用孔68から抜け出した状態となる。その結果、受圧室70と平衡室72が貫通孔42とリリーフ用孔68と下側連通窓48,48を通じて連通せしめられて、非圧縮性流体の平衡室72から受圧室70への流体流動が、下側連通窓48,48とリリーフ用孔68と貫通孔42を通じて、生ぜしめられることとなり、受圧室70の過大な負圧が可及的速やかに解消乃至は低減されるようになっている。
従って、上述の如き構造とされたエンジンマウント10においては、オリフィス通路78のチューニング周波数域よりも高周波数域の振動の入力時に受圧室70に生ぜしめられる微小な圧力変動を吸収する可動ゴム膜58を巧く利用することにより、受圧室70に発生する過大な負圧を解消することが出来るようになっていることから、受圧室70に発生する過大な負圧を解消するリリーフ機構を少ない部品点数で実現することが出来るのである。
そこにおいて、上述の如き構造とされたエンジンマウント10においては、閉塞用突部50がリリーフ用孔68の平衡室72側の開口に向かって突出形成されていることから、閉塞用突部50の傾斜外周面52が非圧縮性流体をリリーフ用孔68内へ流れ込み易くしている。その結果、受圧室70の過大な負圧を一層速やかに解消することが可能となる。
また、本実施形態では、閉塞用突部50が円錐台形状とされて、先細のテーパ筒状外周面とされた傾斜外周面52を有していることから、受圧室70の過大な負圧が解消された後のリリーフ用孔68への嵌まり込みを容易に生ぜしめることが可能となる。
さらに、本実施形態では、閉塞用突部50が円錐台形状とされていることから、受圧室70の過大な負圧が解消された後の閉塞用突部50のリリーフ用孔68への嵌まり込みに際して、閉塞用突部50とリリーフ用孔68の中心を合わせることが容易に可能となる。これにより、閉塞用突部50のリリーフ用孔68への嵌まり込みを安定して生ぜしめることが可能となる。
更にまた、本実施形態では、閉塞用突部50が円錐台形状とされていることから、受圧室70に正圧が発生した際に、閉塞用突部50がリリーフ用孔68に対して嵌まり込み方向に押し込まれることとなる。これにより、リリーフ用孔68が閉塞される際の密閉精度を向上させることが可能となる。その結果、閉塞用突部50によるリリーフ用孔68の閉鎖状態の安定化、延いては閉塞用突部50によるリリーフ用孔68の閉鎖に対する信頼性の向上を図ることが可能となる。
そこにおいて、本実施形態では、リリーフ用孔68が閉塞用突部50の傾斜外周面52に対応した形状の内周面を有する嵌込凹所64を含んで構成されていることから、閉塞用突部50がリリーフ用孔68に嵌め込まれた際の密閉精度の更なる向上を図ることが可能となる。
特に本実施形態では、可動ゴム膜58の弾性により、嵌込凹所64の内周面が閉塞用突部50の傾斜外周面52に密着せしめられていることから、閉塞用突部50がリリーフ用孔68に嵌め込まれた際の密閉精度をより一層向上させることが可能となる。
また、本実施形態では、受圧室70に過大な負圧が発生して可動ゴム膜58が受圧室70側に引っ張られるように弾性変形せしめられた場合、可動ゴム膜58が上側仕切金具32に当接するようになっていることから、可動ゴム膜58の受圧室70側への弾性変形量が制限されることとなる。これにより、可動ゴム膜58におけるリリーフ用孔68周りの歪が制限されて、可動ゴム膜58におけるリリーフ用孔68周りの応力集中が軽減される。
特に本実施形態では、可動ゴム膜58が当接突部62において上側仕切金具32に当接するようになっていることから、可動ゴム膜58の受圧室70側への弾性変形量を一層制限することが可能となる。
更にまた、本実施形態では、上側仕切金具32に形成された貫通孔42の開口面積が可動ゴム膜58に形成された開口穴66の開口面積よりも大きくされていることから、可動ゴム膜58が軸直角方向に偏倚した状態で上側仕切金具32に当接した場合であっても、開口穴66の開口が上側仕切金具32で塞がれて、開口穴66の開口面積が小さくなってしまうことを回避することが可能となる。
なお、本実施形態のエンジンマウント10において、受圧室70の負圧を解消する効果が発揮されることは、図3に示された測定結果のグラフからも明らかである。
すなわち、受圧室70の液圧を逃がす構造を有していない比較例の測定結果においては、図3において破線で示されているように、受圧室70に著しく大きな負圧が生じる場合がある。そして、著しい負圧が発生した状態で、液中から発生したキャビテーションと解される気泡によって、異音や振動が発生する。このように、比較例においては、キャビテーションによる異音や振動の発生が問題となるおそれがある。
一方、本実施形態のエンジンマウント10を用いた実施例の測定結果では、図3において実線で示されているように、受圧室70の負圧が効果的に解消されており、受圧室70の内圧が0に近い状態、即ち、著しく大きな負圧が発生した状態にはならないようになっている。それ故、実施例においては、受圧室70の内圧変化による液中からの気泡の発生が抑制されて、キャビテーションによる異音が低減乃至は回避される。
続いて、本発明の流体封入式防振装置に係る第二の実施形態としての自動車用のエンジンマウント80について、図4に基づいて説明する。なお、第二の実施形態や、後述する第三の実施形態及び第四の実施形態において、第一の実施形態と同様な構造とされた部材及び部位については、図中に、第一の実施形態と同一の符号を付すことにより、それらの詳細な説明を省略する。
本実施形態のエンジンマウント80は、第一の実施形態のエンジンマウント(10)に比して、閉塞用突部82の形状が異なっており、それに伴って、嵌込凹所84の内面形状も異なっている。
より詳細には、本実施形態では、閉塞用突部82が全体として半球形状を呈している。即ち、本実施形態の閉塞用突部82は、半球面状の湾曲した傾斜外周面86を備えているのである。また、嵌込凹所84の内面は、閉塞用突部82の外面に対応して、半球面形状とされている。
このような構造とされたエンジンマウント80においても、閉塞用突部82が先細の円形の傾斜外周面86を備えていることから、第一の実施形態と同様な効果を得ることが出来る。
そこにおいて、本実施形態では、閉塞用突部82が湾曲した傾斜外周面86を有していることから、非圧縮性流体が閉塞用突部82の外周面に沿ってリリーフ用孔68内へ流れ込み易くすることが可能となる。これにより、リリーフ用孔68を通じての流体流動をより一層速やかに生ぜしめることが可能となる。
次に、本発明に係る流体封入式防振装置の第三の実施形態としてのエンジンマウント88について、図5に基づいて説明する。
本実施形態のエンジンマウント88は、第一の実施形態のエンジンマウント(10)に比して、当接突部62の先端においてリリーフ用孔68の周囲から上側仕切金具32に向かって突出する緩衝突部90が一体形成されている。
そして、受圧室70に過大な負圧が発生して、可動ゴム膜58が受圧室70側に引っ張られるように弾性変形せしめられた場合には、可動ゴム膜58の当接突部62に設けられた緩衝突部90を介して、可動ゴム膜58が上側仕切金具32に当接するようになっている。
従って、本実施形態のエンジンマウント88においては、可動ゴム膜58が上側仕切金具32に当接する際の打音を軽減乃至は防止することが可能となる。
続いて、本発明に係る流体封入式防振装置の第四の実施形態としての自動車用のエンジンマウント92について、図6に基づいて説明する。
本実施形態のエンジンマウント92は、第一の実施形態のエンジンマウント(10)に比して、可動ゴム膜58の中央部分に当接突部(62)が形成されておらず、その代わりに、可動ゴム膜58の中央部分において、略一定の円形断面で貫通するリリーフ用孔94が形成されている。そして、リリーフ用孔94に嵌め込まれた閉塞用突部50は、その傾斜外周面52に対してリリーフ用孔94の下側角部が密着状態で当接することにより、リリーフ用孔94を閉鎖するようになっている。
このような構造とされたエンジンマウント92においても、先細円形の傾斜外周面52を有する閉塞用突部50がリリーフ用孔94に嵌め込まれるようになっていることから、第一の実施形態と同様な効果を得ることが出来る。
また、本実施形態では、閉塞用突部50がテーパ筒状を呈する傾斜外周面52を有している一方、リリーフ用孔94が円形断面でストレートに延びていることから、閉塞用突部50がリリーフ用孔94から少しでも抜け出した場合には、閉塞用突部50の傾斜外周面52とリリーフ用孔94の筒状内周面との間に大きな開口が形成されることから、リリーフ用孔94を通じての流体流動量を大きく確保することが可能となる。その結果、受圧室70に発生した過大な負圧をより一層速やかに解消乃至は低減することが出来る。
以上、本発明の幾つかの実施形態について詳述してきたが、これらはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
例えば、オリフィス通路は複数設けられていても良い。具体的には、第一のオリフィス通路と、かかる第一のオリフィス通路よりも高周波数域にチューニングされた第二のオリフィス通路が設けられていても良い。
加えて、前記第一乃至第四の実施形態では、本発明を自動車用のエンジンマウントに適用したものの具体例について説明したが、本発明は、自動車用のボデーマウントやデフマウント,サスペンションメンバマウント等のほか、自動車以外の各種振動体の防振装置に対しても、勿論、適用可能である。
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
10:エンジンマウント,12:第一の取付金具,14:第二の取付金具,16:本体ゴム弾性体,24:ダイヤフラム,32:上側仕切金具,34:下側仕切金具,50:閉塞用突部,58:可動ゴム膜,68:リリーフ用孔,70:受圧室,72:平衡室,78:オリフィス通路