以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の1実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、所謂吊下げ型のものであって、第1の取付部材12と第2の取付部材14が本体ゴム弾性体16によって弾性連結された構造を有している。なお、以下の説明において、上下方向とは、原則として図1中の上下方向を言う。
より詳細には、第1の取付部材12は、小径の略円柱形状を有しており、鉄やアルミニウム合金等で形成された高剛性の部材とされている。また、第1の取付部材12の下部には、中心軸上を延びて下面に開口するねじ孔18が形成されており、内周面にねじ山が刻設されている。更に、第1の取付部材12の上部には、上面に開口する肉抜凹所20が形成されており、第1の取付部材12の軽量化や後述する受圧室90の容積確保が実現されている。なお、第1の取付部材12の上端部には、外周面に突出するフランジ状部22が一体形成されている。
第2の取付部材14は、薄肉大径の略円筒形状を有しており、第1の取付部材12と同様に高剛性の部材とされている。また、第2の取付部材14の下端部は、下方に行くに従って次第に縮径するテーパ形状を有する固着部24とされている。更に、第2の取付部材14の上端部には、フランジ状の段差部26が設けられており、段差部26の外周端部に筒状のかしめ片28が一体形成されて上方に向って突出している。
そして、第1の取付部材12が第2の取付部材14の下側開口部に挿入されて、第1の取付部材12と第2の取付部材14が本体ゴム弾性体16によって弾性連結されている。本体ゴム弾性体16は、略円錐台形状を呈するゴム弾性体であって、下面が下方に凹となる湾曲面とされていることによって、縦断面でハの字形状とされている。かかる形状とされた本体ゴム弾性体16は、内周面が第1の取付部材12の上部外周面に重ね合わされて固着されていると共に、外周面が第2の取付部材14の固着部24の内周面に重ね合わされて固着されている。なお、本実施形態では、本体ゴム弾性体16は、第1の取付部材12と第2の取付部材14に対してそれぞれ加硫接着されており、本体ゴム弾性体16が第1の取付部材12および第2の取付部材14を備えた一体加硫成形品として形成されている。
さらに、第2の取付部材14の内周面上には、シールゴム層30が被着形成されている。シールゴム層30は、本体ゴム弾性体16と一体形成された薄肉のゴム層であって、本体ゴム弾性体16の外周端部から上方に延び出して第2の取付部材14の上部の内周面を被覆している。
また、第2の取付部材14には、可撓性膜32が取り付けられている。可撓性膜32は、上方に凸の略ドーム形状を呈する薄肉のゴム膜であって、外周部分が固定部材36に加硫接着されている。固定部材36は、上方に向って次第に小径となる薄肉大径の略円筒形状を有しており、上端部分から内周側に突出する内フランジ部38を一体的に備えていると共に、下端部から外周側に突出するフランジ状のかしめ部40を一体的に備えている。なお、本実施形態では、可撓性膜32が固定部材36を備えた一体加硫成形品として形成されている。また、可撓性膜32の外周部分が固定部材36のかしめ部40を除く略全体に対して固着されており、固定部材36がゴム弾性体で覆われている。
そして、固定部材36のかしめ部40が第2の取付部材14のかしめ片28でかしめ固定されることによって、可撓性膜32の一体加硫成形品が本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品に取り付けられている。
これにより、第2の取付部材14の下側開口部が第1の取付部材12および第2の取付部材14で閉塞されていると共に、第2の取付部材14の上側開口部が可撓性膜32で閉塞されており、本体ゴム弾性体16と可撓性膜32の軸方向間には外部から密閉されて非圧縮性流体が封入された流体封入領域42が形成されている。なお、流体封入領域42に封入される非圧縮性流体は、特に限定されるものではないが、例えば、水やアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油、或いはそれらの混合液等が採用される。また、後述する流体の流動作用に基づいた防振効果を有利に得るためには、0.1Pa・s以下の低粘性流体であることが望ましい。
また、流体封入領域42には、仕切部材44が配設されている。仕切部材44は、図2〜図4に示されているような厚肉大径の略円板形状を呈しており、仕切部材本体46と底部材48とを組み合わせた構造を有している。
仕切部材本体46は、全体として厚肉大径の略円板形状を有する高剛性の部材であって、周上の一部(後述するオリフィス通路98の受圧室90側の連通孔)を除いて外周端部が上方に突出して中央部分が凹所状とされていると共に、外周面が下方に向って拡径するテーパ状とされている。
また、仕切部材本体46の外周部分には、周溝50が形成されている。周溝50は、図2に示されているように、仕切部材本体46の外周面および下面に開口する切欠き状の断面を有しており、図3に破線で示されているように、周方向に1周弱の長さで延びている。
また、仕切部材本体46には、収容凹所52が形成されている。収容凹所52は、仕切部材本体46の径方向中間部分を周方向環状に延びる凹所であって、仕切部材本体46の下面に開口している。かかる収容凹所52の形成によって、仕切部材本体46の径方向中央部分には、小径の略円柱形状で下方に向って突出する中央支持部54が形成されている。
さらに、仕切部材本体46には、上側透孔56が形成されている。上側透孔56は、収容凹所52の上底壁部を外周部分において上下に貫通する孔であって、周方向に所定の長さで延びる複数の上側透孔56が、略同一周上で周方向に所定距離を隔てて形成されている。
更にまた、仕切部材本体46には、上側リーク孔58が形成されている。上側リーク孔58は、収容凹所52の上底壁部を内周部分において上下に貫通する孔であって、周方向に所定の長さで延びる複数の上側リーク孔58が、略同一周上で周方向に所定距離を隔てて形成されている。なお、上側リーク孔58は、上側透孔56に対して内周側に離隔した位置に形成されており、それら上側リーク孔58と上側透孔56が互いに独立して設けられている。
底部材48は、薄肉大径の略円環板形状を有する高剛性の部材であって、その外径寸法が仕切部材本体46の下端部の外径寸法よりも大きくされている。なお、底部材48の中心孔は、仕切部材本体46の中央支持部54よりも大径とされている。
また、底部材48には、下側透孔60が形成されている。下側透孔60は、後述する仕切部材本体46と底部材48との固定状態において上側透孔56と対応する位置で底部材48を上下に貫通する孔であって、周方向に所定の長さで延びる複数の下側透孔60が、略同一周上で周方向に所定距離を隔てて形成されている。なお、下側透孔60は、底部材48の中心孔に対して外周側に所定距離を隔てて形成されている。
そして、底部材48は、仕切部材本体46の下面に重ね合わされて固定されている。なお、底部材48の仕切部材本体46への固定は、接着やねじ止め等でも良いが、本実施形態では、仕切部材本体46から下方に突出するかしめ突起が底部材48を貫通するかしめ孔に挿通されてかしめ固定されることによって、実現されている。
また、周溝50は、下側開口部が底部材48によって覆蓋されることによって、断面が外周側に開口する凹溝形状とされている。
また、底部材48が仕切部材本体46に固定されることによって、仕切部材本体46に形成された収容凹所52の開口部が底部材48によって覆蓋されて、環状の収容空所62が形成されている。この収容空所62は、外周部分において、仕切部材本体46に形成された上側透孔56を通じて上方に連通されていると共に、底部材48に形成された下側透孔60を通じて下方に連通されている。
さらに、仕切部材本体46の中央支持部54が底部材48の中心孔に挿入されることによって、中央支持部54の周囲には、周方向環状の下側リーク孔64が形成される。これによって、収容空所62は、内周部分において、仕切部材本体46に形成された上側リーク孔58を通じて上方に連通されていると共に、底部材48に形成された下側リーク孔64を通じて下方に連通されている。なお、上側リーク孔58は、軸方向の投影において下側リーク孔64と重なり合う位置に形成されている。
この収容空所62には、可動部材66が収容配置されている。可動部材66は、図5,図6に示されているように、全体として略円環板形状を有するゴム弾性体で形成されており、本実施形態ではゴム単体で一体成形された部品とされている。
より詳細には、可動部材66の径方向中間部分には、挟持部68が設けられている。挟持部68は、略矩形断面を呈する環状のゴム弾性体であって、その内周端と外周端にはそれぞれ上下に突出する圧接突起70が形成されている。なお、圧接突起70は、突出先端側に向って次第に狭幅となる略半円形断面を有している。
また、可動部材66の外周部分には、可動部72が設けられている。可動部72は、挟持部68よりも外周側に一体形成された略環状乃至は環板状の部分であって、外周側に向って次第に薄肉となっていると共に、内周端と外周端にはそれぞれ上下に突出する緩衝突起74が形成されている。また、可動部72は、外周側の上下位置が周方向で変化しており、波状とされている。なお、緩衝突起74は、圧接突起70と略同一の半円形断面を有している。
さらに、可動部72と挟持部68の間には、薄肉部76が一体形成されている。薄肉部76は、薄肉環状のゴム弾性体であって、挟持部68および可動部72の厚さ方向中央部分に設けられて、挟持部68と可動部72を一体的に連結している。なお、薄肉部76は、可動部72よりも薄肉とされることによって、弾性変形し易くなっている。
また、可動部材66の内周部分には、弁部78が設けられている。弁部78は、挟持部68の内周側に一体形成された全周に亘って略一定の断面形状を有する環状体であって、挟持部68から突出する外周基端部80と、外周基端部80から内周側に突出する内周先端部82とを一体的に備えている。外周基端部80は、略軸直角方向に広がる円環板形状とされており、挟持部68よりも薄肉とされて挟持部68の上端部から内周側に突出している。内周先端部82は、内周側に行くに従って次第に下傾するテーパ形状を有しており、内周側に向って次第に薄肉となっている。かかる外周基端部80と内周先端部82で構成された弁部78は、下面が下方に凹となる滑らかな湾曲凹状面84で構成されている一方、上面が外周基端部80において略軸直角方向に広がる軸直平面86で構成されていると共に内周先端部82において先端側に向って下傾するテーパ面88で構成されている。なお、弁部78は、内周先端部82が突出先端側に向って薄肉となっていることにより、外周部分が内周部分よりも厚肉とされている。
このような挟持部68の両側に可動部72および薄肉部76と弁部78とを一体的に備えた可動部材66は、仕切部材44の収容空所62に配設されている。即ち、可動部材66が仕切部材本体46の収容凹所52に対して下方から嵌め入れられた後、底部材48が仕切部材本体46に固定されることによって、可動部材66の挟持部68が仕切部材本体46と底部材48の間で上下に挟まれて保持されており、可動部材66が収容空所62内に収容配置されている。本実施形態では、挟持部68が板厚方向に所定量だけ圧縮変形されて挟持されており、振動入力時にも可動部材66が仕切部材44によって安定して保持される。なお、挟持部68の上下両側に圧接突起70が形成されていることから、挟持部68の耐久性が維持されながら圧縮代が充分に確保されており、可動部材66が仕切部材44によって安定して保持されている。
また、弁部78は、中央支持部54の外周面(収容空所62の内周面)に対して当接されており、仕切部材本体46と底部材48の固定前に可動部材66が仕切部材本体46に対して径方向で位置決めされている。特に本実施形態では、弁部78の内径寸法が仕切部材本体46の中央支持部54の外径寸法よりも小さくされており、弁部78が中央支持部54の外周面に押し当てられて外嵌されることにより径方向で予圧縮されて、径方向での位置決め精度が高められている。かかる径方向での位置決めによって、可動部72が収容空所62の外周面に対して内周側に離隔して保持されており、可動部72の外周面と収容空所62の外周面との間には、全周に亘って所定幅の隙間89が形成されている。
また、挟持部68の上端部から延び出した弁部78の外周基端部80は、上面が仕切部材本体46に形成された収容凹所52の上底面に重ね合わされており、上方への変形が制限されている。一方、弁部78と底部材48の間にはスペースが確保されており、弁部78の下方への弾性変形が許容されている。
また、可動部72が上側透孔56および下側透孔60よりも外周側にまで延び出すように配置されていると共に、弁部78が上側リーク孔58および下側リーク孔64の間に配置されている。
そして、可動部材66が取り付けられた仕切部材44は、第2の取付部材14によって支持されて流体封入領域42に配設されている。即ち、仕切部材44は、仕切部材本体46が第2の取付部材14に固定された固定部材36に嵌合されていると共に、底部材48の外周端部が第2の取付部材14のかしめ片28によってかしめ固定されている。
このように第2の取付部材14によって支持されることにより、仕切部材44が流体封入領域42内で軸直角方向に広がるように配置されており、流体封入領域42が仕切部材44を挟んで上下に二分されている。即ち、仕切部材44よりも下方には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成されて、振動入力時に圧力変動が惹起される受圧室90が形成されている。仕切部材44よりも上方には、壁部の一部が可撓性膜32で構成されて、容積変化が容易に許容される平衡室92が形成されている。なお、受圧室90と平衡室92に流体封入領域42に封入された非圧縮性流体が封入されていることは言うまでもない。
また、仕切部材本体46に形成された周溝50の外周側の開口部が、固定部材36によって覆われており、周方向に延びるトンネル状の流路が形成されている。このトンネル状流路の一方の端部が底部材48に形成された連通孔94を通じて受圧室90に連通されると共に、他方の端部が仕切部材本体46に形成された連通孔96を通じて平衡室92に連通されることにより、受圧室90と平衡室92を相互に連通するオリフィス通路98が、周溝50を利用して形成されている。なお、オリフィス通路98は、通路断面積(A)と通路長(L)の比(A/L)を受圧室90および平衡室92の壁ばね剛性に留意しながら調節することによって、エンジンシェイクに相当する10Hz程度の低周波数にチューニングされている。
また、可動部材66の可動部72には、下面に対して受圧室90の液圧が下側透孔60を通じて及ぼされていると共に、上面に対して平衡室92の液圧が上側透孔56を通じて及ぼされている。これにより、受圧室90と平衡室92の間で相対的な液圧差が生じた場合に、可動部72が液圧差に基づいて上下に変位するようになっている。なお、本実施形態の可動部材66では、可動部72の上下変位が薄肉部76によって充分に許容されている。
さらに、可動部材66の弁部78には、下面に対して受圧室90の液圧が下側リーク孔64を通じて及ぼされていると共に、上面に対して平衡室92の液圧が上側リーク孔58を通じて及ぼされている。そして、静置時(振動の非入力時)や通常振動の入力時には、図7の(a)に示されているように、弁部78が中央支持部54への当接状態に保持されて、上下のリーク孔58,64を遮断するように配置されている。一方、受圧室90の液圧が平衡室92の液圧に比して大きく低下した場合には、図7(b)に示されているように、弁部78が弾性変形して中央支持部54から離隔することにより、上側リーク孔58と下側リーク孔64が相互に連通されるようになっている。これにより、上側リーク孔58と下側リーク孔64の連通時に、受圧室90と平衡室92を相互に連通する短絡通路100が、上側リーク孔58と下側リーク孔64を含んで構成される。
なお、受圧室90の液圧が平衡室92の液圧に比して高い場合には、弁部78が中央支持部54の外周面(収容空所62の内周面)により強く押し当てられて、弁部78の変形が制限されることから、上側リーク孔58と下側リーク孔64が弁部78によって遮断される。
このような構造とされたエンジンマウント10は、第1の取付部材12が図示しないパワーユニットに取り付けられると共に、第2の取付部材14が図示しない車両ボデーに取り付けられることにより、パワーユニットと車両ボデーの間に介装されて、パワーユニットが車両ボデーによって弾性支持されるようになっている。
かくの如きエンジンマウント10の車両装着状態において、第1の取付部材12と第2の取付部材14の間にエンジンシェイクに相当する低周波大振幅振動が入力されると、受圧室90と平衡室92の相対的な圧力差に基づいて、それら両室90,92間でオリフィス通路98を通じた流体流動が惹起される。これにより、流体の共振作用等の流動作用に基づいて、目的とする防振効果(高減衰効果)が発揮される。
しかも、低周波大振幅振動の入力によって受圧室90と平衡室92の間で大きな圧力差が生じると、可動部材66の可動部72が上下方向で変位して、収容空所62の内面に押し当てられる。これによって、上下の透孔56,60が可動部72で遮断されて、受圧室90と平衡室92の間で上下の透孔56,60を通じての流体流動が制限される。それ故、受圧室90の平衡室92に対する相対的な内圧変動が効率的に得られて、オリフィス通路98を通じての流体流動量が増すことによる防振効果の向上が実現される。
加えて、エンジンシェイクのような通常の低周波大振幅振動が入力された場合には、中央支持部54に押し当てられて予圧縮された可動部材66の弁部78は、弾性変形量が抑えられて、図7の(a)に示されているように、中央支持部54への当接状態に保持される。これにより、上下のリーク孔58,64が弁部78によって遮断されて、受圧室90と平衡室92の間で上下のリーク孔58,64を通じての流体流動が制限される。その結果、受圧室90の平衡室92に対する相対的な内圧変動がより効率的に得られて、オリフィス通路98を通じての流体流動量が減ることによる防振効果の低下が抑制される。
また、アイドリング時振動や走行こもり音等の中乃至高周波数の小振幅振動が入力されると、オリフィス通路98が反共振的な作用によって実質的に閉塞される。同時に、可動部材66の可動部72が上下に微小変位することで、上下の透孔56,60が実質的な連通状態とされて、受圧室90の液圧が平衡室92に伝達される。これによって、オリフィス通路98の閉塞による受圧室90の著しい高動ばね化が回避されて、目的とする防振効果(低動ばね効果)が発揮される。以上より明らかなように、中乃至高周波数振動の入力に対して有効な防振効果を発揮する液圧吸収機構が、可動部材66の可動部72を利用して構成されている。なお、中乃至高周波数小振幅振動の入力時にも、弁部78が中央支持部54への当接状態に保持されて、上下のリーク孔58,64が弁部78によって遮断されている。
また、自動車の段差乗越え時等に衝撃的な大荷重が入力されて、受圧室90に過大な負圧が及ぼされると、弁部78が受圧室90側に強く吸引されることで弾性変形(湾曲)して中央支持部54から離隔する。これにより、図7の(b)に示されているように、弁部78と中央支持部54の間を通じて上側リーク孔58と下側リーク孔64が連通されて、受圧室90と平衡室92を連通する短絡通路100が形成される。そして、短絡通路100を通じて平衡室92から受圧室90に流体が流入することによって、受圧室90の負圧が速やかに低減されて、キャビテーション気泡とそれに伴う異音の発生が防止される。以上より明らかなように、受圧室90の負圧を低減してキャビテーション異音を防止するためのリリーフ機構が、可動部材66の弁部78を利用して構成されている。
このように、本実施形態のエンジンマウント10では、液圧吸収機構を構成する可動部72と、リリーフ機構を構成する弁部78が、ゴム弾性体によって一体形成されて1つの可動部材66に設けられており、それら液圧吸収機構とリリーフ機構が少ない部品点数で実現されている。それ故、中乃至高周波小振幅振動に対する有効な防振効果と、キャビテーション異音の防止が実現された高性能なエンジンマウント10を部品点数の少ない簡単な構造で安価に実現することができる。
また、可動部72が挟持部68に対して薄肉部76を介して一体形成されていることから、可動部材66が挟持部68において仕切部材44に固定されると共に、中乃至高周波小振幅振動の入力時には可動部72の微小変位が薄肉部76の曲げ変形によって許容されて、液圧吸収作用が有効に発揮される。
さらに、弁部78が仕切部材44の中央支持部54に対して径方向で当接されていることによって、可動部材66が仕切部材44に対して径方向で位置決めされており、可動部72の外周面と収容空所62の外周面との間に全周に亘って隙間89が形成されている。それ故、可動部72が収容空所62の外周面に接触することなくスムーズに微小変位を許容されて、液圧吸収作用が効率的に発揮される。特に本実施形態では、弁部78が径方向で予圧縮されており、中央支持部54に対して弾性的に押し当てられていることから、径方向での位置決め精度が高められている。
さらに、可動部72には先細の断面形状を有する緩衝突起74が設けられていることから、可動部72が仕切部材44に打ち当たる際の打音も低減される。加えて、可動部72が周方向で上下位置の変化する波打ち形状とされており、仕切部材44への打ち当たりに際して当接面積が徐々に大きくなることから、当接時の衝撃が緩和されて打音が低減される。
また、弁部78は、外周部分が厚肉とされており、内周側が次第に薄肉とされていることから、受圧室90と平衡室92の相対的な圧力差が比較的に小さい場合(通常の振動入力時等)には、厚肉部分の弾性によって弁部78の変形が防止されて、短絡通路100が弁部78によって遮断状態に保持される。これにより、オリフィス通路98を通じての流体流動量が充分に確保されて、目的とする防振効果が有効に発揮される。
しかも、薄肉とされた内周部分は中央支持部54に押し当てられていることから、中央支持部54との間で作用する摩擦抵抗によって弾性変形が制限されており、意図しない開作動が防止されている。加えて、中央支持部54への押し当てによる予圧縮によって弁部78のばねが調節されており、開作動に至る受圧室90の負圧の閾値(液圧の上限値)が適当に設定されている。
さらに、弁部78の内周先端部82が内周側に行くに従って次第に受圧室90側に傾斜するテーパ形状とされていることから、受圧室90に正圧が及ぼされた場合に、中央支持部54への当接によって内周先端部82の弾性変形が制限されると共に、受圧室90に負圧が生じた場合に、中央支持部54から離隔して内周先端部82の弾性変形が生じ易くなっている
更にまた、弁部78が挟持部68よりも薄肉とされていると共に、弁部78が挟持部68の平衡室92側の端部から延び出している。これにより、受圧室90に正圧が作用する場合には、弁部78の弾性変形が収容空所62の上底壁部への当接によって制限されて、短絡通路100が遮断状態に保持される。一方、受圧室90に負圧が作用する場合には、弁部78の弾性変形が収容空所62の下底壁部との間のスペースによって許容されて、短絡通路100が連通状態に切り替えられる。従って、キャビテーション異音が問題とならない受圧室90に正圧が及ぼされた状態では、受圧室90の圧力が平衡室92に逃げることなく保持されて、オリフィス通路98を通じての流体流動による防振効果が発揮される。一方、キャビテーション異音が問題となる程の負圧が受圧室90に及ぼされた状態では、短絡通路100を通じての流体流動によって受圧室90の負圧が速やかに緩和されて、キャビテーション異音の発生が防止される。
また、弁部78と可動部72が挟持部68を挟んで径方向各一方の側に配置されており、挟持部68が仕切部材44で圧縮されて保持されていることによって、可動部72の変位が弁部78の形状やばねに影響するのを防ぐことができると共に、弁部78の弾性変形が可動部72および薄肉部76の形状やばねに影響するのを防ぐことができる。要するに、弁部78と可動部72の間にある挟持部68が仕切部材44によって充分に拘束されていることで、弁部78の弾性変形と可動部72の変位が独立して生じるようになっており、弁部78の開作動や可動部72の微小変位が入力振動の振幅等に応じて高精度に生じるようになっている。
また、弁部78が挟持部68の内周側に設けられていることによって、弁部78が収容空所62の内周面に対して略均一に当接されている。それ故、弁部78と収容空所62の内周面との間で流体の短絡が防止されて、オリフィス通路98を通じて流動する流体の量が効率的に確保される。その結果、オリフィス通路98による流体の流動作用に基づいた防振効果が、効果的に発揮される。特に本実施形態では、内周側に設けられた弁部78が中央支持部54に対して径方向で押し当てられており、全周に亘って略均一に予圧縮されている。これにより、弁部78に対して全周に亘って適当な予圧縮が施されて、可動部材66が仕切部材44に対して径方向で高精度に位置決めされると共に、意図しない短絡通路100の部分的な開放等が防止される。
加えて、弁部78が挟持部68の内周側に設けられていることによって、弁部78の撓み変形が、弁部78を外周側に設けた場合に比して抑制されて、意図しない開作動が効果的に防止される。
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、可動部材66には挟持部68と可動部72の間に薄肉部76が形成されているが、薄肉部76は必須ではなく、挟持部68よりも薄肉の可動部が挟持部68と連続して設けられていても良い。
また、挟持部68や可動部72には、必要に応じて硬質の補強部材が埋設或いは重ね合わされて固着されていても良く、これによって挟持部68や可動部72の形状安定性を高めることもできる。
また、弁部の断面形状は前記実施形態の具体的な説明によって限定的に解釈されるべきではなく、短絡通路100の開閉を実現し得るものであれば、各種の形状が採用され得る。
さらに、弁部78の予圧縮は必須ではなく、収容空所62の内周面に対して弁部78が圧縮されない程度に接触していても良い。この場合にも、例えば弁部78の内周先端部82がテーパ形状とされることで、受圧室90に正圧が作用した際に誤って開作動するのを防ぐことができる。
また、可動部や弁部、薄肉部は周上で部分的に設けられていても良く、その場合には、周上の一部にだけ設けられていても良いし、複数個所に設けられていても良い。
また、本発明は、前記実施形態に示された吊下げ型(倒立型)の流体封入式防振装置だけでなく、特開2009−243511号公報に示されているような、正立型の流体封入式防振装置にも適用され得る。
さらに、本発明の適用範囲はエンジンマウントに限定されるものではなく、ボデーマウントやサブフレームマウント、デフマウント等にも適用され得る。更にまた、本発明に係る流体封入式防振装置は、自動車用だけではなく、自動二輪車や鉄道用車両、産業用車両等にも好適に採用され得る。