JP2007085523A - 流体封入式防振装置 - Google Patents

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達也 鈴木
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Abstract

【課題】 防振対象の振動振幅が変化する場合にも、オリフィス通路を通じて流動する流体共振に基づく所期の防振効果が安定して得られる、新規な構造の流体封入式防振装置を提供する。
【解決手段】 第一のオリフィス通路66がチューニングされた防振すべき振動の振幅領域での可撓性ゴム膜28の膨出変形量の範囲内で、可撓性ゴム膜28のばね特性が非線形に変化せしめられる非線形ばね付与手段78,80を設けて、かかる防振すべき振動の振幅領域における小振幅域よりも大振幅域において可撓性ゴム膜28のばね特性が硬くなるようにした。
【選択図】 図1

Description

本発明は、内部に封入された流体の流動作用に基づいて防振効果を得るようにした流体封入式防振装置に係り、特に、複数の流体室を互いに連通させるオリフィス通路を通じての流体の共振作用等の流動作用に基づいて防振効果を発揮し得る、新規な構造の流体封入式防振装置に関するものである。
従来から、振動伝達系を構成する部材間に介装される防振連結体または防振支持体の一種として、振動入力時に生ぜしめられる流体の共振作用等の流動作用を利用して防振効果を得るようにした流体封入式防振装置が知られている。かかる防振装置は、防振連結される一方の部材に取り付けられる第一の取付金具と防振連結される他方の部材に取り付けられる第二の取付金具を本体ゴム弾性体で連結すると共に、壁部の一部が本体ゴム弾性体で構成された受圧室と壁部の一部が可撓性膜で構成された平衡室を形成して、受圧室と平衡室に非圧縮性流体を封入すると共に、それら両室を相互に連通させるオリフィス通路を設けた構造とされている。例えば、特許文献1(特開2004−190757号公報)や特許文献2(特開2004−204964号公報)等に示されるものが、それであり、自動車用エンジンマウントやボデーマウント等への適用が検討されている。
このような流体封入式防振装置では、一般に、防振特性が要求される振動の入力条件を調査し、その結果得られた振動周波数域において高減衰特性乃至は低動ばね特性が発揮されるように、オリフィス通路がチューニングされている。かかるチューニングは、一般に、オリフィス通路の通路断面積や通路長さを適当に変更して、防振すべき振動周波数に対応する周波数域で、オリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用が発揮されるように調節することによって行われている。
ところが、本発明者が検討したところ、従来構造の流体封入式防振装置では、オリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用が発揮される振動周波数域が、入力振動の振幅の大きさによって変化してしまうことが明らかとなった。このような振幅依存性があるために、防振すべき振動の振幅が変化してしまうような場合には、防振すべき振動に対して安定した防振性能を得ることが難しくなり、必ずしも満足できる防振性能が実現され難いという問題があったのである。
より具体的には、例えば自動車用のエンジンマウントでは、エンジンシェイクに対して有効な防振効果が要求されるが、エンジンシェイクの振幅は、自動車の走行条件が舗装路から悪路,波状路,スピードブレーカ上などで変化することに伴って多様に変化する。そのために、かかるエンジンマウントに流体封入式防振装置を適用して、一般舗装路でのエンジンシェイクを対象としてオリフィス通路をチューニングした場合には、悪路等においてより大きな振幅となったエンジンシェイクに対しては殆ど防振効果が発揮されなくなってしまうおそれもあったのである。
特開2004−190757号公報 特開2004−204964号公報
本発明は上述の如き事情を背景として為されたものであり、その解決課題とするところは、防振対象の振動振幅が変化した場合でも、オリフィス通路を通じて流動せしめられる流体の共振作用に基づく所期の防振効果が安定して発揮され得る、新規な構造の流体封入式防振装置を提供することにある。
前述の如きオリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用に基づいて発揮される防振性能の振幅依存性について、本発明者が多くの実験を行って検討を加えたが、原因は、未だ充分には明らかでない。しかしながら、本発明者によるこれまでの研究の結果、現象としては、入力される振動振幅が大きくなると、それに伴って、オリフィス通路を流動せしめられる流体の共振周波数が低周波数側に移行することが確認されている。なお、このような現象の原因は、例えば、入力振動の振幅が大きくなるとオリフィス通路を流動せしめられる流体流動量が大きくなることに伴って流体の流動マス成分が大きくなることなどに起因するのであろうと考えられる。
ここにおいて、本発明は、かくの如く、本発明者により現象として明白とされたオリフィス通路の振幅依存性に関する新たな知見に基づいて為されたものである。以下、本発明の態様を記載するが、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体および図面に記載されたもの、或いはそれらの記載から当業者が把握することの出来る発明思想に基づいて認識されるものであることが理解されるべきである。
(流体封入式防振装置に関する本発明の態様1)
流体封入式防振装置に関する本発明の態様1の特徴とするところは、防振連結される一方の部材に取り付けられる第一の取付部材と防振連結される他方の部材に取り付けられる第二の取付部材を互いに離隔配置せしめて本体ゴム弾性体で連結すると共に、壁部の一部が該本体ゴム弾性体で構成された受圧室と壁部の一部が可撓性ゴム膜で構成された平衡室を形成して、それら受圧室と平衡室に非圧縮性流体を封入すると共に、該受圧室と該平衡室を相互に連通せしめる第一のオリフィス通路を形成した流体封入式防振装置において、前記第一のオリフィス通路がチューニングされた防振すべき振動の振幅領域での前記可撓性ゴム膜の膨出変形量の範囲内で、該可撓性ゴム膜のばね特性が非線形に変化せしめられる非線形ばね付与手段を設けて、かかる防振すべき振動の振幅領域における小振幅域よりも大振幅域において該可撓性ゴム膜のばね特性が硬くなるようにした流体封入式防振装置にある。
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、第一のオリフィス通路の共振周波数域の振動が入力されると、従来構造のものと同様に、本体ゴム弾性体の弾性変形に基づいて圧力変動が生ぜしめられる受圧室と可撓性ゴム膜の変形に基づいて容積変化が許容される平衡室との間に相対的な圧力変動が惹起されることとなり、この相対的な圧力変動に基づいて、受圧室と平衡室の間で第一のオリフィス通路を通じての流体流動が生ぜしめられる。これにより、第一のオリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用等の流動作用に基づいて、防振効果が発揮されるのである。
特に、本態様の流体封入式防振装置では、非線形ばね付与手段を備えた可撓性ゴム膜を備えていることから、防振すべき振動の振幅領域で、平衡室の壁ばね剛性が異ならせられる。これにより、小振幅の振動入力時は、平衡室の壁ばね剛性が小さくされているが、一方、大振幅の振動入力時には、平衡室の壁ばね剛性が大きくされる。
すなわち、受圧室と平衡室の間における第一のオリフィス通路を通じての流体の共振現象は、第一のオリフィス通路を流動せしめられる流体質量をマス成分とし、受圧室および平衡室の壁ばねをバネ成分とする、マス−バネの振動系として把握することが出来る。また、受圧室や平衡室の壁ばねの大きさは、受圧室や平衡室に対して単位容積の変化を生ぜしめるために必要とされる、受圧室や平衡室の圧力変化量の大きさに相当するものと考えることが出来る。
それ故、本態様の流体封入式防振装置では、入力される振幅が大きくなると、平衡室の壁部を構成する可撓性ゴム膜の膨出変形量が大きくなることに伴って、平衡室に壁ばねを与える可撓性ゴム膜のばね特性が変化せしめられて、壁ばね定数が大きくなる。その結果、上述のようにマス−バネの共振系として把握できる第一のオリフィス通路を通じての流体の共振現象において、そのばね成分が大きく(ばね定数が大きく)されることとなり、以て、その分だけ、第一のオリフィス通路を通じて流動せしめられる流体の共振周波数が高周波数域に調節され得ることとなる。
これにより、前述のように、従来構造の流体封入式防振装置において問題となっていた、入力される振動振幅が大きくなるのに伴って第一のオリフィス通路のチューニング周波数が低周波数域に移行するという現象が、抑えられることとなる。そして、前述の如き第一のオリフィス通路の防振性能の振幅依存性が軽減乃至は解消されることにより、たとえ振幅が変化しても、目的とする周波数域の振動に対して、第一のオリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用に基づく防振効果が有効に安定して発揮され得るのである。
なお、可撓性ゴム膜の非線形なばね特性は、好適には、圧力−撓み特性(ばね特性)のグラフが有する略2つの異なる傾きの直線領域にあって、圧力と撓みの関係が直線または略直線である線形領域(小撓み領域)で生ずる低ばね特性と、圧力と撓みの関係が直線でない非線形領域(大撓み領域)で生ずる高ばね特性を備えるようにされる。
(流体封入式防振装置に関する本発明の態様2)
流体封入式防振装置に関する本発明の態様2の特徴とするところは、本発明の態様1に係る流体封入式防振装置において、前記可撓性ゴム膜に互いに厚さ寸法の異なる厚肉部と薄肉部を設けて、これら厚肉部と薄肉部を含んで前記非線形ばね付与手段を構成したことにある。
本態様においては、小振幅振動の入力により平衡室に比較的に小さな圧力変動が惹起されて、可撓性ゴム膜の膨出変形量が小さい状態でのばね特性として、可撓性ゴム膜における薄肉部の弾性変形によるばね特性が支配的となって、可撓性ゴム膜の変形が低ばね特性の領域で生ぜしめられる。一方、大振幅振動の入力により平衡室に比較的に大きな圧力変動が惹起されて、可撓性ゴム膜の膨出変形量が大きい状態では、可撓性ゴム膜における厚肉部の弾性変形によるばね特性が支配的となって、可撓性ゴム膜の変形が高ばね特性の領域まで至る。それ故、可撓性ゴム膜に対して非線形なばね特性が有利に与えられる。
また、本態様において、好適には、可撓性ゴム膜の外周部分を周方向の全周に亘って連続して広がるように薄肉の低ばね領域を形成すると共に、該低ばね領域の内周側の中央部分において厚肉の高ばね領域を形成した構成が採用される。このような可撓性ゴム膜を採用することにより、可撓性ゴム膜をそれ程に大きくすることなく、低ばね領域および高ばね領域において何れも容積変化量を有利に確保することが出来る。また、膨出変形量の変化に伴う低ばね特性から高ばね特性への移行を滑らかに実現することも可能となる。
(流体封入式防振装置に関する本発明の態様3)
流体封入式防振装置に関する本発明の態様3の特徴とするところは、本発明の態様1又は2に係る流体封入式防振装置において、前記可撓性ゴム膜にストッパ部を設けると共に、該ストッパ部と対向位置するように当接部材を配設し、該ストッパ部が該当接部材に当接することによって、これらストッパ部と当接部材を含んで前記非線形ばね付与手段を構成したことにある。
本態様においては、可撓性ゴム膜の変形に際してストッパ部が当接部材に当接することによって、可撓性ゴム膜の変形量が制限されることとなり、該制限に基づいて高ばね特性が得られる。その結果、可撓性ゴム膜の形状や大きさ、構造等の形態を大幅に設計変更することなく、ストッパ部を設けるだけで、非線形なばね特性が容易に実現可能となる。また、ストッパ部が当接するまでの可撓性ゴム膜の膨出変形量を適当に設計設定することで、可撓性ゴム膜のばね剛性の変化を、極めて顕著に且つ確実に生ぜしめることが出来るのであり、大きな非線形特性を実現することが可能となるのである。
(流体封入式防振装置に関する本発明の態様4)
流体封入式防振装置に関する本発明の態様4の特徴とするところは、本発明の態様1乃至3の何れか一つに係る流体封入式防振装置において、前記第二の取付部材によって固定的に支持せしめた硬質の仕切部材を、前記受圧室と前記平衡室の間に配設すると共に、該仕切部材の中央部分において該受圧室と該平衡室の何れか一方の側に向かって開口する凹所を形成して該凹所の開口部をゴム弾性板で流体密に覆蓋することにより中間室を形成する一方、該仕切部材の外周部分を利用して前記第一のオリフィス通路と該第一のオリフィス通路よりも高周波数域にチューニングされた第二のオリフィス通路を形成して、それら第一のオリフィス通路と第二のオリフィス通路を通じて該受圧室、該平衡室および該中間室を相互に連通せしめたことにある。
本態様においては、第一のオリフィス通路と第二のオリフィス通路を通じて流動せしめられる各流体共振に基づき、複数の乃至は広い周波数域の振動に対して防振効果が有利に発揮され得る。また、中間室や第一及び第二のオリフィス通路等が少ない部品点数と優れたスペース効率をもって形成されることから、防振装置のコンパクト化が有利に図られ得る。従って、本態様の構造に従えば、例えば走行状況等に応じて防振すべき入力振動の振幅が変化するような自動車用エンジンマウント等に対して好適に採用され得る。
なお、第二のオリフィス通路は、受圧室と中間室を連通せしめる態様であっても良いし、中間室と平衡室を連通せしめる態様であっても良い。即ち、ゴム弾性板が受圧室と中間室の間に、それら両室の隔壁として配設される場合には、第二のオリフィス通路が中間室を平衡室に連通せしめる態様となる。一方、ゴム弾性板が中間室と平衡室の間に、それら両室の隔壁として配設される場合には、第二のオリフィス通路が中間室を受圧室に連通せしめる態様となる。
また、自動車用エンジンマウントに適用する場合には、例えば第一のオリフィス通路がエンジンシェイクにチューニングされる一方、第二のオリフィス通路がアイドリング振動または走行こもり音にチューニングされることが望ましい。
(流体封入式防振装置に関する本発明の態様5)
流体封入式防振装置に関する本発明の態様5の特徴とするところは、本発明の態様4に係る流体封入式防振装置において、前記第二の取付部材を円筒形状として、該第二の取付部材の一方の開口部側に前記第一の取付部材を離隔配置すると共に、該第一の取付部材と該第二の取付部材を前記本体ゴム弾性体で連結することによって該第二の取付部材の一方の開口部を流体密に閉塞する一方、該第二の取付部材の他方の開口部を前記可撓性ゴム膜で覆蓋すると共に、該第二の取付部材に前記仕切部材を嵌め込んで該本体ゴム弾性体と該可撓性ゴム膜の対向面間に配設したことにある。
本態様においては、仕切部材の第二の取付部材に対する固定構造が簡略とされると共に、受圧室や平衡室が少ない部品点数と優れたスペース効率をもって形成されて、コンパクト化が一層有利に図られ得る。
(流体封入式エンジンマウントに関する本発明)
流体封入式エンジンマウントに関する本発明の特徴とするところは、本発明の態様4又は5に係る流体封入式防振装置を用いて、パワーユニットとボデーの各一方に前記第一の取付部材と前記第二の取付部材を取り付けることにより、該パワーユニットと該ボデーの間に介装されて、該パワーユニットを該ボデーに対して防振支持せしめた流体封入式エンジンマウントにおいて、エンジンシェイクの入力時に前記第一のオリフィス通路を通じて流動する流体共振に基づく高減衰特性が発揮される一方、アイドリング振動の入力時に前記第二のオリフィス通路を通じて流動する流体共振に基づく低動ばね特性が発揮されるように、該第一のオリフィス通路と該第二のオリフィス通路をチューニングした流体封入式エンジンマウントにある。
本態様に従う構造とされた流体封入式エンジンマウントにおいては、車両の走行状況や環境等に応じてシェイク振動やアイドリング振動の振幅が変化する場合に、可撓性ゴム膜の非線形なばね特性を利用することで、平衡室の壁ばね剛性、延いては受圧室や平衡室、中間室を備えた流体室の壁ばね剛性が調節される。それ故、第一のオリフィス通路や第二のオリフィス通路におけるチューニング周波数の振幅依存性を低減することが可能となり、目的とする防振効果を安定して得ることが可能となるのである。
上述の説明からも明らかなように、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、第一のオリフィス通路がチューニングされた防振すべき振動の振幅が変化した場合でも、第一のオリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用に基づく防振効果を安定して有利に享受することが可能となるのである。
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について説明する。先ず、図1には、本発明の第一の実施形態としての自動車用エンジンマウント10が示されている。このエンジンマウント10は、第一の取付部材としての第一の取付金具12と第二の取付部材としての第二の取付金具14が離隔配置されていると共に、それら第一の取付金具12と第二の取付金具14が本体ゴム弾性体16で相互に弾性的に連結した構造とされている。マウント10は、第一の取付金具12が防振連結される一方の部材としての自動車のパワーユニットに取り付けられると共に、第二の取付金具14が防振連結される他方の取付部材としての車両ボデーに取り付けられることによって自動車に装着されて、パワーユニットを車両ボデーに対して防振支持せしめるようになっている(図4参照。)。かかる装着状態下、マウント10にパワーユニットの分担支持荷重が及ぼされて、第一の取付金具12と第二の取付金具14が互いに接近する方向に変位して本体ゴム弾性体16が弾性変形すると共に、防振すべき主たる振動が、マウント軸方向となる図1,4中の上下方向に入力されるようになっている。なお、以下の説明中、特に断りのない限り、上下方向は、図1,4中の上下方向をいう。
より詳細には、第一の取付金具12は、下方に向かって凸となる略円錐台形状を呈していると共に、その中央部分に螺子穴18が設けられている。
一方、第二の取付金具14は、大径の略円筒形状を有している。第二の取付金具14が取付ブラケット20に圧入等で固定されている。ブラケット20には、ボルト用固定孔が貫設された脚部22の複数が固設されている。
第一の取付金具12が第二の取付金具14の一方(図1中、上)の開口部側に離隔配置されて、第一の取付金具12と第二の取付金具14の中心軸が略同一線上に位置せしめられている。また、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間には、本体ゴム弾性体16が配されている。
本体ゴム弾性体16は、大径の略裁頭円錐台形状を有している。本体ゴム弾性体16の小径側端面には、第一の取付金具12が軸方向に差し込まれた状態で加硫接着されている。本体ゴム弾性体16の大径側端部外周面には、第二の取付金具14の軸方向上端部分から軸方向中間部分にかけての内周面が重ね合わせられて加硫接着されている。要するに、本体ゴム弾性体16は、第一の取付金具12と第二の取付金具14を備えた一体加硫成形品として形成されており、それによって、第一の取付金具12と第二の取付金具14が本体ゴム弾性体16で互いに弾性連結されていると共に、第二の取付金具14の一方(図1中、上)の開口部が、本体ゴム弾性体16で流体密に覆蓋されている。また、第二の取付金具14の軸方向中間部分から軸方向下端部分にかけての内周面には、本体ゴム弾性体16と一体形成された薄肉のシールゴム層24が被着されている。更に、本体ゴム弾性体16の大径側端面には、略逆すり鉢形状の円形凹所26が形成されていることによって、パワーユニットの分担支持荷重による本体ゴム弾性体16の引張応力が軽減されている。
また、第二の取付金具14の他方(図1中、下)の開口部には、可撓性ゴム膜としてのダイヤフラム28が配設されている。ダイヤフラム28は、薄肉のゴム膜からなり、弛みを持たせた略円板形状を呈している。ダイヤフラム28は、中心軸回りの回転体形状とされており、全周に亘って一定断面形状とされている。また、ダイヤフラム28の外周縁部には、大径リング状の固定金具30が加硫接着されている。固定金具30が第二の取付金具14に内挿されて、第二の取付金具14に絞り加工等の縮径加工が施されていることにより、ダイヤフラム28が第二の取付金具14に固着されていると共に、第二の取付金具14の他方の開口部がダイヤフラム28で流体密に覆蓋されている。
さらに、第二の取付金具14の内側における本体ゴム弾性体16とダイヤフラム28の間には、仕切部材32が収容配置されている。仕切部材32は、図2,3にも示されているように、全体として厚肉の略円板形状を有しており、硬質の合成樹脂材や金属材等を用いて形成されている。仕切部材32は、ダイヤフラム28と共に第二の取付金具14の他方(図1中、下)の開口部から内挿されて第二の取付金具14に縮径加工が施されていることにより、本体ゴム弾性体16とダイヤフラム28の対向面間における第二の取付金具14の軸方向中央部分において、軸直角方向に広がった形態で固定されている。
第二の取付金具14の内側の仕切部材32を挟んだ一方(図1中、上)の側には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成されて本体ゴム弾性体16の弾性変形に基づいて圧力変動が惹起される、受圧室34が形成されている。また、第二の取付金具14の内側の仕切部材32を挟んだ他方(図1中、下)の側には、壁部の一部がダイヤフラム28で構成されてダイヤフラム28の弾性変形に基づいて容積変化が容易に許容される、平衡室36が形成されている。これら受圧室34や平衡室36には、非圧縮性流体が封入されている。封入流体としては、例えば水やアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油等が採用され、特に流体の共振作用等に基づく防振効果を有効に得るために、0.1Pa・s以下の低粘性流体が好適に採用される。このことからも明らかなように、第二の取付金具14によって固定的に支持された硬質の仕切部材32が、受圧室34と平衡室36の間、換言すると本体ゴム弾性体16とダイヤフラム28の対向面間に配設されている。
また、仕切部材32の中央部分には、軸方向一方(図1中、上、即ち本実施形態では受圧室34側)に開口する凹所38が形成されている。凹所38の軸方向中間部分には段差部40が形成されており、この段差部40を挟んで凹所38の開口部42が底壁部44よりも大径とされている。段差部40の外周部分には、環状の嵌着溝46が形成されている。更に、凹所38の開口部42には、かかる開口部42よりも大径とされて、仕切部材32の軸方向一方の端面に開口する嵌着口48が形成されている。
さらに、仕切部材32には、ゴム弾性板50が配設されている。ゴム弾性板50は、薄肉の略円板形状を有しており、ゴム弾性体を用いて形成されている。また、ゴム弾性板50のばね剛性が、本体ゴム弾性体16のばね剛性よりも小さくされていると共に、ダイヤフラム28のばね剛性よりも大きくされている。更に、ゴム弾性板50の外周縁部には、軸方向両側に突出する環状の弾性突部52,52が一体形成されている。なお、ゴム弾性板50は、全体に亘って厚さ寸法が略一定とされているが、例えば外周部分から中央部分に向かって次第に厚さ寸法が小さくされていても良い。かかるゴム弾性板50が仕切部材32の凹所38の開口部42に嵌め込まれて、ゴム弾性板50の外周縁部が凹所38の開口部42に密着状に重ね合わせられていると共に、ゴム弾性板50の軸方向一方(図1中、下)の弾性突部52が、凹所38の段差部40の嵌着溝46に弾性変形して嵌め込まれている。
更にまた、仕切部材32の嵌着口48には、リング状の嵌着部材54が嵌着固定されている。嵌着部材54の下端部には、軸直角方向内方に広がる鍔部が一体形成されており、鍔部には軸方向一方(図1中、下)に開口する環状の嵌着溝56が形成されている。嵌着部材54が仕切部材32に固定されると、ゴム弾性板50の軸方向他方(図1中、上)の弾性突部52が、嵌着溝56に弾性変形して嵌め込まれている。
これにより、ゴム弾性板50の外周縁部が仕切部材32の凹所38の開口部42に固着されて、ゴム弾性板50の外周縁部を除いた部分が弾性変形可能に仕切部材32に配設されていると共に、ゴム弾性板50が凹所38の開口部42を流体密に覆蓋せしめている。かかるゴム弾性板50で覆蓋された凹所38には、受圧室34や平衡室36と同様に、非圧縮性流体が封入されており、凹所38の底壁部44や周壁部、ゴム弾性板50を含んで壁部が構成された中間室58が形成されている。
要するに、中間室58を挟んだ一方(図1中、上)の側に受圧室34が形成されていると共に、中間室58を挟んだ他方(図1中、下)の側に平衡室36が形成されている。また、ゴム弾性板50の主たる変位乃至は変形方向が、マウント軸方向となる図1中の上下方向とされている。
また、仕切部材32における軸方向中間部の外周部分と軸方向一方(図1,3中、上)の外周部分には、それぞれ軸直角方向外方に開口して、例えば周方向に一周弱の長さで延びる周溝が設けられており、それら周溝の各一方の端部を互いに接続することによって、全体として仕切部材32の外周部分を周方向に二周弱の長さで延びる第一の周溝60が形成されている。更に、仕切部材32における軸方向他方(図1,3中、下)の外周部分には、軸直角方向外方に開口して、例えば周方向に一周弱の長さで延びる第二の周溝62が形成されている。また、第一の周溝60と第二の周溝62は、両溝60,62における各一方の端部が障壁部64を挟んで仕切られていることによって、仕切部材32に対して、それぞれ独立して形成されて、互いに並列的に配設されている。更に、仕切部材32が第二の取付金具14に固定されて仕切部材32の外周面がシールゴム層24を介して第二の取付金具14の内周面に密着状に重ね合わせられていることによって、第一の周溝60と第二の周溝62の軸直角方向外方に開口する各開口部が、第二の取付金具14に流体密に覆蓋されている。
第二の取付金具14により覆蓋された第一の周溝60によって、第一のオリフィス通路66が構成されている。第一のオリフィス通路66の一方の端部が、仕切部材32の軸方向一方(図1中、上)の端部に形成された切欠状の連通口68を通じて受圧室34に接続されていると共に、第一のオリフィス通路66の他方の端部が、仕切部材32の軸方向他方(図1中、下)の端部に形成された切欠状の第一の連通窓70を通じて平衡室36に接続されている。これにより、受圧室34と平衡室36が、第一のオリフィス通路66を通じて相互に連通されている。また、第二の取付金具14により覆蓋された第二の周溝62によって、第二のオリフィス通路72が構成されている。第二のオリフィス通路72の一方の端部が、仕切部材32の凹所38の周壁部を貫通した連通孔74を通じて中間室58に接続されていると共に、第二のオリフィス通路72の他方の端部が、仕切部材32の軸方向他方の端部において第一の連通窓70と異なる部位に形成された、切欠状の第二の連通窓76を通じて平衡室36に接続されている。これにより、中間室58と平衡室36が、第二のオリフィス通路72を通じて相互に連通されている。要するに、本実施形態では、第一のオリフィス通路66と第二のオリフィス通路72が、仕切部材32の外周部分を利用して形成されている。
特に本実施形態では、振動入力時に受圧室34と平衡室36の間に生ぜしめられる相対的な圧力変動に基づいて、第一のオリフィス通路66を通じて流動せしめられる流体の共振周波数が、例えば10Hz程度の低周波大振幅のエンジンシェイクに対して流体の共振作用等に基づく防振効果(高減衰特性)が有利に発揮されるようにチューニングされている。また、振動入力時に中間室58と平衡室36の間に生ぜしめられる相対的な圧力変動に基づいて、第二のオリフィス通路72を通じて流動せしめられる流体の共振周波数が、例えば15〜30Hz程度の高周波小振幅のアイドリング振動に対して流体の共振作用等に基づく防振効果(低動ばね特性)が有利に発揮されるようにチューニングされている。第一のオリフィス通路66や第二のオリフィス通路72の各共振周波数は、受圧室34や平衡室36、中間室58の各壁ばね剛性を考慮しつつ、各オリフィス通路66,72における通路長さと通路断面積を調節することによってチューニングされている。かかるチューニングに際しては、一般に、オリフィス通路66,72を通じて伝達される圧力変動の位相が変化して略共振状態となる周波数を、当該オリフィス通路66,72のチューニング周波数として把握することが出来る。
そこにおいて、ダイヤフラム28の厚さ寸法が、外周部分と中央部分で互いに異ならされている。ダイヤフラム28の固定金具30に固着された外周縁部から径方向内方に所定の長さで延びる円環状の外周部分が、厚さ寸法の小さな薄肉部78とされている。薄肉部78は、下方に向かって膨らむように湾曲した略一定の断面形状で周方向の全周に亘って延びている。
また、ダイヤフラム28の薄肉部78の内側における円形状の中央部分が、薄肉部78よりも厚さ寸法が大きな厚肉部80とされている。薄肉部78の厚さ寸法:t1 と厚肉部80の厚さ寸法:t2 の比:t1 /t2 は、ダイヤフラム28の要求されるばね特性や耐久性等に応じて適宜に設定変更されるものであって、特に限定されるものでないが、例えば1/5≦t1 /t2 ≦9/10とされる。
さらに、厚肉部80の中央部分が、略円板形状を呈する円板状部82とされていると共に、厚肉部80の外周部分が、平衡室36の軸方向外方(図1中、下)から内方(図1中、上)に向かって次第に径寸法が小さくなる略テーパ形状のテーパ状部84とされている。これにより、ダイヤフラム28の中央の厚肉部80が、平衡室36の内方に向かって膨らむ略円形ドーム状を呈している。厚肉部80の中央の円板状部82は、図1に示される如きマウント10が自動車に装着されていない状態で、仕切部材32の底壁部44に当接されている。
更にまた、厚肉部80におけるテーパ状部84の外周縁部には、厚さ寸法が漸次小さくなる漸変部86が一体形成されている。漸変部86は、テーパ状部84の外周縁部から上方に向かって弧を描くように湾曲していると共に、厚さ寸法が最も小さな先端部分が薄肉部78の内周縁部と滑らかに接続されている。
これら薄肉部78、厚肉部80および漸変部86が協働してダイヤフラム28に軸方向の弛みを持たせている。また、ダイヤフラム28における薄肉部78の面積は、厚肉部80の面積に比して小さくされている。
このような構造とされた自動車用エンジンマウント10においては、図4にも示されているように、第一の取付金具12が、螺子穴18に螺着される固定ボルトを介してパワーユニットに固定されたパワーユニット側取付部材88に固定されると共に、第二の取付金具14に固定されたブラケット20の脚部22が、脚部22の固定用孔に挿通される固定ボルトを介して車両ボデーに固定されたボデー側取付部材90に固定されることによって、パワーユニットと車両ボデーの間に介装されて、パワーユニットを車両ボデーに対して防振支持せしめるようになっている。
かかる装着状態では、マウント10軸方向にパワーユニットの分担支持荷重が及ぼされて、第一の取付金具12と第二の取付金具14が軸方向で相互に接近する方向に変位すると共に、本体ゴム弾性体16の弾性変形によって、受圧室34の容積が減少すると共に、容積減少分だけ平衡室36の容積が増加する。その結果、ダイヤフラム28の薄肉部78が平衡室36の外方に膨らむように所定量だけ弾性変形すると共に、仕切部材32の底壁部44に当接していたダイヤフラム28の厚肉部80の円板状部82が底壁部44から離隔して、厚肉部80が平衡室36の外方に向かって所定量だけ変位することとなり、それによって、ダイヤフラム28が膨出変形して平衡状態になる。
ダイヤフラム28の平衡状態において、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に所定の大きさの振幅振動が入力されて、受圧室34に圧力変動が惹起されると共に平衡室36に圧力変動が及ぼされると、ダイヤフラム28の薄肉部78が厚さ方向(図1,4中、上下)に弾性変形して、該変形に伴いダイヤフラム28の厚肉部80が厚さ方向に変位乃至は変形する。この振幅振動が比較的に小さいと、平衡室36の圧力変動が小さくなるので、ダイヤフラム28の弾性変形に基づく容積変化許容量、即ちダイヤフラム28の膨出変形量が小さい。膨出変形量が小さい形態では、主として薄肉部78が厚さ方向に弾性変形して、ダイヤフラム28の変形が低ばね領域で生ぜしめられる。また、ダイヤフラム28の平衡状態で振幅が大きくなるにつれて、ダイヤフラム28の膨出変形量が大きくなる。この膨出変形量が大きくなることに伴い、厚肉部80における厚さ方向の弾性変形乃至は変位が支配的となって、ダイヤフラム28の変形が高ばね領域まで至る。
すなわち、ダイヤフラム28の変形が、圧力−撓み特性のグラフが有する略2つの異なる傾きの直線領域にあって、薄肉部78の変形に基づき低ばね領域である小撓み領域に生ぜしめられる一方、厚肉部80の変位乃至は変形に基づいて、高ばね領域である大撓み領域まで至る。なお、ダイヤフラム28の撓みは、平衡室36の圧力変動に基づく動的な圧力による厚さ方向(図1,4中、上下)の弾性変形乃至は変位をいう。
要するに、ダイヤフラム28には、第一のオリフィス通路66がチューニングされたエンジンシェイクと第二のオリフィス通路72がチューニングされたアイドリング振動の振幅領域でのダイヤフラム28の膨出変形量の範囲内でダイヤフラム28のばね特性が非線形に変化させられる、非線形ばね付与手段が設けられている。そして、それらシェイク振動やアイドリング振動の振幅領域における小振幅域よりも大振幅域において、ダイヤフラム28のばね特性が硬くなるようにされている。本実施形態に係る非線形ばね付与手段は、円板状部82およびテーパ状部84を備えた厚肉部80や薄肉部78を含んで構成されている。
特に本実施形態では、薄肉部78がダイヤフラム28の外周部分にだけ設けられていると共に、薄肉部78の面積が厚肉部80の面積に比して小さくされている。これにより、ダイヤフラム28の膨出変形が初めに薄肉部78の弾性変形により生ぜしめられて、比較的に小さな膨出変形領域において非線形のばね領域まで至り、硬いばね特性が急に発現することが考えられる。
しかし、ダイヤフラム28における薄肉部78の内側には、薄肉部78の厚さ寸法よりも大きな厚さ寸法で、薄肉部78の面積よりも大きな面積の厚肉部80が設けられていることから、硬いばね特性が発揮される膨出変形量の領域が大きく確保されている。これにより、ばね特性が急に硬くなることを抑えつつ、中乃至大振幅に至る十分な入力振動振幅の変化領域に対応して、硬いばね特性が発揮される。しかも、薄肉部78と厚肉部80が漸変部86を介して滑らかに接続されていることから、ダイヤフラム28における低ばね特性から高ばね特性の極端な変化が抑えられて、ばね特性の変化が滑らかに移行される。
なお、本実施形態では、ダイヤフラム28の変形が低ばね領域から高ばね領域に変化しても、未だダイヤフラム28は、仕切部材32やボデー側取付部材90に当接しないように設定されている。これにより、当接に起因する急激な乃至は大きなばね特性の変化が回避される。尤も、所定の大きさの振幅振動入力により平衡室36の容積変化量が所定の大きさ以上となった場合に、例えばダイヤフラム28の厚肉部80の円板状部82やテーパ状部84を仕切部材32の底壁部44やボデー側取付部材90に当接させても良い。これにより、ダイヤフラム28のばね特性を一層大きく変化させることが可能となる。かかる具体例では、ダイヤフラム28に設けられるストッパ部が、円板状部82やテーパ状部84を含んで構成されると共に、ストッパ部と対向配置される当接部材が、仕切部材32の底壁部44やボデー側取付部材90を含んで構成される。要するに、ダイヤフラム28の弾性変形に伴う他部材への当接の可否は、要求されるダイヤフラム28のばね特性に応じて設定変更されるものであり、特に限定されるものでない。
上述の如き装着状態のエンジンマウント10においては、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に低周波大振幅のシェイク振動が入力されると、受圧室34に惹起される圧力変動がゴム弾性板50のばね特性に対して十分に大きくて、ゴム弾性板50の弾性変形では吸収しきれないことから、第二のオリフィス通路72を通じての流体流動量が制限される。受圧室34に圧力変動が惹起されて平衡室36に圧力変動が及ぼされることとなり、受圧室34と平衡室36の相対的な圧力差に基づいて、第一のオリフィス通路66を通じての流体流動が生ぜしめられる。ここにおいて、ダイヤフラム28の外周部分の薄肉部78が弾性変形することに伴い中央部分の厚肉部80の全体が厚さ方向(図1,4中、上下)に変位することとなるが、本実施形態のシェイク振動の振幅は、舗装路を走行する際の振動振幅にチューニングされて、シェイク振動の振幅領域において小振幅域にある。そのため、平衡室36の圧力変動が小さくなり、結果としてダイヤフラム28の薄肉部78が主体的に弾性変形して、該薄肉部78の変形に基づき平衡室36の容積変化が許容される。これにより、受圧室34と平衡室36の相対的な圧力変動が有効に惹起されて、第一のオリフィス通路66を通じての流体流動量が好適に確保され、第一のオリフィス通路66を通じて流動せしめられる流体共振に基づき振動減衰効果が有利に発揮され得る。
また、高周波小振幅のアイドリング振動の入力時には、第一のオリフィス通路66の流通抵抗が著しく増大して実質的に閉塞状態となるが、受圧室34に惹起される圧力変動が比較的に小さいことから、ゴム弾性板50のばね特性に基づく弾性変形により、受圧室34の圧力変動が中間室58に効率的に及ぼされて、中間室58と平衡室36の間で第二のオリフィス通路72を通じての流体の流動作用が生ぜしめられる。アイドリング振動の振幅はシェイク振動の振幅よりも小さくて、防振すべき振動の振幅領域において小振幅域にあるため、平衡室36の圧力変動が小さくなり、ダイヤフラム28の薄肉部78が主として弾性変形し、かかる変形に基づき平衡室36の容積変化が許容される。これにより、中間室58と平衡室36、延いては受圧室34と平衡室36の相対的な圧力変動が有効に惹起されて、第二のオリフィス通路72を通じての流体流動量が好適に確保され、第二のオリフィス通路72を通じて流動せしめられる流体共振に基づき振動絶縁効果が有利に発揮され得る。
すなわち、シェイク振動やアイドリング振動における小振幅域の振動入力時には、主として薄肉部78が弾性変形することに基づき、ダイヤフラム28の変形が、圧力−撓み特性の線形領域(低ばね領域)で生ぜしめられる。従って、チューニング域の入力振幅に応じて平衡室36の容積変化が安定して許容され、所期の防振効果が有利に発揮され得る。
ところで、例えば自動車が悪路や波状路、スピードブレーカ上を走行したり段差を乗り越えたりする状況下等で、シェイク振動の振幅が大きく変化して、衝撃的で過大な振幅振動が入力される場合がある。即ち、シェイク振動の振幅が、その振幅領域において小振幅域から大振幅域に移行する。このような場合に、本体ゴム弾性体16の変形により受圧室34の圧力変動が急激に乃至は過大に惹起されて、平衡室36に急激な乃至は過大な圧力変動が及ぼされることとなり、ダイヤフラム28が急激に乃至は過大に変形する。そうすると、第一のオリフィス通路66を流動せしめられる流体流動量が大きくなることに伴い該流体の流動マス成分が大きくなって、第一のオリフィス通路66の共振周波数が低周波側に移行してしまい、チューニング周波数がずれるおそれがある。
そこにおいて、ダイヤフラム28に非線形なばね特性が与えられていることにより、過大な振幅振動の入力時に、ダイヤフラム28の中央部分の厚肉部80の弾性変形乃至は変位が支配的となって、非線形領域の高ばね特性に基づきダイヤフラム28のばね定数が大きくされる。その結果、第一のオリフィス通路66を流動せしめられる流体質量をマス成分とし、受圧室34および平衡室36の壁ばねをバネ成分とするマス−バネ系において、バネ成分が大きくなる分だけ、第一のオリフィス通路66の共振周波数が高周波側にシフトする。それによって、前述の第一のオリフィス通路66の共振周波数が低周波側に移行する現象が抑えられて、舗装路を走行した際の振幅振動入力時と同様に、第一のオリフィス通路66のチューニング周波数が保持される。
従って、本実施形態のエンジンマウント10においては、オリフィス通路66,72の共振周波数域の振動に加え、かかる振動の振幅が変化する場合にも、ダイヤフラム28の非線形領域のばね特性に基づいて、オリフィス通路66,72の共振周波数のずれが抑えられる。それ故、オリフィス通路66,72の流体共振における振幅依存性が軽減乃至は回避されて、目的とする防振効果が安定して得られるのである。
特に本実施形態では、ダイヤフラム28の円環状の外周部分に薄肉部78が形成されていると共に、円形状の中央部分に厚肉部80が形成されており、更に薄肉部78と厚肉部80の断面形状が上下に湾曲している。この湾曲形状によって、ダイヤフラム28の弾性変形に基づく容積変化量が大きく確保されて、防振性能の更なる向上に加え、耐久性の向上が図られる。
しかも、本実施形態では、ダイヤフラム28における薄肉部78と厚肉部80間に位置する径方向中間部分の領域が、段差形状でなく、厚さ寸法が次第に小さくなる漸変部86とされている。それ故、厚肉部80と薄肉部78の間における応力や変形の局部的な集中が回避されて、耐久性が向上されることに加え、ダイヤフラム28のばね特性が低ばね領域から高ばね領域に滑らかに移行されて、広い振幅変化の入力振動に対する所期の防振効果が一層安定して得られるのである。
次に、図5には、本発明の第二の実施形態としての自動車用エンジンマウント92が示されている。なお、以下の説明において、前記第一の実施形態と実質的に同一の構造とされた部材および部位については、第一の実施形態と同一の符号を図中に付することにより、それらの詳細な説明を省略する。
詳細には、ダイヤフラム28の厚肉部80のテーパ状部84の外周部分に、軸方向下方に向かって突出するストッパ部94が設けられている。本実施形態のストッパ部94は、ダイヤフラム28と一体形成されていると共に、略半円状断面で周方向の全周に亘って延びているが、例えばダイヤフラム28と別体形成されていたり、適当な形状断面で周方向に所定の長さで延びていたり、周方向に分断して複数設けられていても良い。
このようなストッパ部94を備えたエンジンマウント10では、図6にも示されているように、パワーユニットと車両ボデーの間に介装されて自動車に装着されることで、パワーユニットの分担支持荷重が及ぼされて、受圧室34の容積が減少すると共に平衡室36の容積が増大することに伴い、ダイヤフラム28が平衡室36の外方に向かって膨出変形する。この膨出変形によって、ダイヤフラム28に設けられたストッパ部94が、平衡室36の軸方向外方(図5,6中、下)に向かって変位すると共に、第二の取付金具14が固定されたボデー側取付部材90に当接して平衡状態になる。当接に際して平衡室36とボデー側取付部材90の間に及ぼされるストッパ部94の弾性変形量は、要求される防振性能や製作性に応じて設定変更されるものであり、特に限定されるものでない。上述の説明からも明らかなように、ダイヤフラム28に設けられたストッパ部94と対向配置される当接部材が、ボデー側取付部材90を含んで構成されている。
かかる装着状態のエンジンマウント92において、舗装路を走行する際に、シェイク振動やアイドリング振動における小振幅域の振動が入力されると、ストッパ部94のボデー側取付部材90への当接状態で薄肉部78の弾性変形が支配的となり、ダイヤフラム28の変形が圧力−撓み特性の線形領域(低ばね領域)で生ぜしめられる。その結果、平衡室36の容積変化が許容されて、受圧室34と平衡室36の間に相対的な圧力変動が有利に惹起され、第一のオリフィス通路66や第二のオリフィス通路72を通じての各流体共振に基づく防振効果が有利に発揮され得る。
また、例えば悪路やスピードブレーカ上を走行する状況下で、シェイク振動の振幅が問題となる衝撃的で大きな振幅振動に変化する場合に、受圧室34に過大な圧力変動が及ぼされて平衡室36の圧力変動が過大となり、防振すべき振動の振幅がその振幅領域において小振幅域から大振幅域に移行する。そこにおいて、ダイヤフラム28の膨出変形量が大きくなって、ダイヤフラム28の厚肉部80の弾性変位乃至は変形が支配的となり、ダイヤフラム28のばね特性が、圧力−撓み特性の非線形領域(高ばね領域)まで至る。
特に本実施形態では、平衡室36に過大な正圧が及ぼされた際に、ストッパ部94のボデー側取付部材90への当接状態で、厚肉部80の平衡室36の外方に向かう膨出変形が生ぜしめられると共に、ストッパ部94が弾性変形する。また、平衡室36に過大な負圧が生ぜしめられた際に、ダイヤフラム28が平衡室36の内方に向かって変形して、ストッパ部94がボデー側取付部材90から離隔し、主として厚肉部80が弾性変形乃至は変位する。本実施形態では、かかる厚肉部80の変形が、ダイヤフラム28が仕切部材32およびボデー側取付部材90から離隔した状態で生ぜしめられるが、要求される防振特性に応じて、厚肉部80の少なくとも一部が仕切部材32の底壁部44等に当接されて、厚肉部80の変形量が制限されるようにしても良い。このことからも明らかなように、本実施形態では、ダイヤフラム28に非線形なばね特性を与える非線形ばね付与手段が、ダイヤフラム28の薄肉部78や厚肉部80に加えて、ストッパ部94やボデー側取付部材90を含んで構成されている。
従って、ストッパ部94のボデー側取付部材90への当接状態で厚肉部80が変形することによって、非当接状態で厚肉部80が変形する場合に比して、非線形領域のばね特性が大きくなることから、薄肉部78の変形に基づく低ばね特性と厚肉部80の変形に基づく高ばね特性の差が、一層顕著に安定して発揮され得る。それ故、オリフィス通路66,72の小振幅域の振動と振幅変化に伴い問題となる大振幅域の振動に対して要求されるばね特性が一層確実に得られて、所期の防振効果が一層安定して得られる。
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、これらはあくまでも例示であり、これら実施形態における具体的な記載によって、本発明は、何等限定されるものでなく、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様で実施可能である。また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
例えば、ダイヤフラム28に設けられる非線形ばね付与手段は、例示の如きものに限定されない。
前記第一の実施形態では、薄肉部78の変形に基づき低ばね領域である小撓み領域に生ぜしめられる一方、厚肉部80の変位乃至は変形に基づいて、高ばね領域である大撓み領域まで至るように、非線形なばね特性が設定されているが、かかる設定が要求される防振特性に応じて変更されることは勿論であり、例えば薄肉部の弾性変形や厚肉部における円板状部の弾性変形に基づきダイヤフラムの変形を低ばね領域に生ぜしめたり、厚肉部のテーパ状部の弾性変形や厚肉部の円板状部の仕切部材への当接による変形制限作用に基づいて、高ばね領域まで至るようにしても良い。
また、前記第二の実施形態では、車両への装着状態でストッパ部94がボデー側取付部材90に当接していたが、例えばストッパ部がボデー側取付部材から離隔した形態で装着されて、所定の大きさの振幅振動入力時にストッパ部をボデー側取付部材に当接させることも可能である。
また、例えば、ダイヤフラムの変位方向(図1中、上下)の少なくとも一方の側に所定距離を隔ててストッパ部材を配設し、ダイヤフラムの変形がストッパ部材への非当接状態で小ばね領域に生ぜしめられると共に、ストッパ部材への当接状態で高ばね領域まで至るようにして、ストッパ部材を含んで非線形ばね付与手段を構成することも可能である。
また、ダイヤフラムに硬質の拘束部材を部分的に設けて、ダイヤフラムの拘束部材が設けられた部位と拘束部材が設けられていない部位を含んで非線形ばね付与手段を構成しても良い。これにより、小振幅振動入力時に、ダイヤフラムにおける拘束部材が設けられていない部位の弾性変形が支配的となって、ダイヤフラムの変形が低ばね特性の領域で生ぜしめられる一方、大振幅振動入力時に、ダイヤフラムにおける拘束部材が設けられた部位の弾性変形が支配的となって、ダイヤフラムの変形が高ばね特性の領域まで至ることとなり、ダイヤフラムに非線形なばね特性が有利に与えられる。
また、前記実施形態では、中間室58の壁部の一部が、仕切部材32の開口部42に配設された一つのゴム弾性板50によって構成されていたが、例えば、仕切部材32の開口部42と異なる箇所に配設された一又は二以上のゴム弾性板によって中間室の壁部の一部を構成するようにしても良い。
さらに、仕切部材32や第一および第二のオリフィス通路66,72等の形態も例示の如きものに限定されない。前記実施形態では、ゴム弾性板50を配設した仕切部材32が、第二の取付金具14に対して凹所38が受圧室34に向かって開口するように組み付けられて、ゴム弾性板50を挟んだ両側に受圧室34と中間室58が形成されていると共に、中間室58と平衡室36が第二のオリフィス通路72を通じて相互に連通されていたが、例えば、仕切部材を、第二の取付金具に対して凹所が平衡室に向かって開口するように組み付けて、ゴム弾性板を挟んだ両側に中間室と平衡室を形成すると共に、受圧室と中間室を第二のオリフィス通路を通じて相互に連通しても良い。
また、前記実施形態では、第一のオリフィス通路66と第二のオリフィス通路72が、仕切部材32に対してそれぞれ独立形成された第一の周溝60と第二の周溝62で構成されることによって、互いに並列的に設けられていたが、例えば第一のの周溝と第二の周溝の各一方の端部を互いに接続して、第一のオリフィス通路を第一の周溝および第二の周溝を含んで構成すると共に、第二のオリフィス通路を第二の周溝を含んで構成することによって、第一のオリフィス通路と第二のオリフィス通路を仕切部材に対して互いに直列的に設けることも可能である。
さらに、前記実施形態では、本発明が、受圧室34と平衡室36の間に中間室58を設けると共に、受圧室34や平衡室36、中間室58が第一のオリフィス通路66や第二のオリフィス通路72を通じて相互に連通せしめられたダブルオリフィス構造のエンジンマウントに対して適用されるものの具体例を示していたが、これに限定されるものでなく、例えば、特許文献1(特開2004−190757号公報)や特許文献2(特開2004−204964号公報)にも示されているように、受圧室と平衡室をオリフィス通路を通じて相互に連通せしめたシングルオリフィス構造のマウントに対して本発明を適用することも勿論可能である。
また、本発明は、例えば特開平2−240430号公報等に記載されているように、FF型自動車用のエンジンマウントやサスペンションブッシュ等として採用されるような、第一の取付部材としての軸部材の軸直角方向外方に第二の取付部材としての大径筒状の外筒部材を離隔配置して、それら軸部材と外筒部材の軸直角方向対向面間に本体ゴム弾性体を介装して、軸部材と外筒部材を本体ゴム弾性体で連結した筒型の防振装置にも、適用可能である。
本発明の第一の実施形態としての自動車用エンジンマウントを示す縦断面説明図であって、図2のI−I断面に相当する図である。 図1における自動車用エンジンマウントの一部を構成する仕切部材を示す底面説明図である。 図2における仕切部材を示す一側面説明図である。 図1における自動車用エンジンマウントを自動車に装着した状態を示す縦断面説明図である。 本発明の第二の実施形態としての自動車用エンジンマウントを示す縦断面説明図であって、図1と同様に図2のI−I断面に相当する図である。 図5における自動車用エンジンマウントを自動車に装着した状態を示す縦断面説明図である。
符号の説明
10 自動車用エンジンマウント
12 第一の取付金具
14 第二の取付金具
16 本体ゴム弾性体
34 受圧室
36 平衡室
66 第一のオリフィス通路
78 薄肉部
80 厚肉部

Claims (6)

  1. 防振連結される一方の部材に取り付けられる第一の取付部材と防振連結される他方の部材に取り付けられる第二の取付部材を互いに離隔配置せしめて本体ゴム弾性体で連結すると共に、壁部の一部が該本体ゴム弾性体で構成された受圧室と壁部の一部が可撓性ゴム膜で構成された平衡室を形成して、それら受圧室と平衡室に非圧縮性流体を封入すると共に、該受圧室と該平衡室を相互に連通せしめる第一のオリフィス通路を形成した流体封入式防振装置において、
    前記第一のオリフィス通路がチューニングされた防振すべき振動の振幅領域での前記可撓性ゴム膜の膨出変形量の範囲内で、該可撓性ゴム膜のばね特性が非線形に変化せしめられる非線形ばね付与手段を設けて、かかる防振すべき振動の振幅領域における小振幅域よりも大振幅域において該可撓性ゴム膜のばね特性が硬くなるようにしたことを特徴とする流体封入式防振装置。
  2. 前記可撓性ゴム膜に互いに厚さ寸法の異なる厚肉部と薄肉部を設けて、これら厚肉部と薄肉部を含んで前記非線形ばね付与手段を構成した請求項1に記載の流体封入式防振装置。
  3. 前記可撓性ゴム膜にストッパ部を設けると共に、該ストッパ部と対向位置するように当接部材を配設し、該ストッパ部が該当接部材に当接することによって、これらストッパ部と当接部材を含んで前記非線形ばね付与手段を構成した請求項1又は2に記載の流体封入式防振装置。
  4. 前記第二の取付部材によって固定的に支持せしめた硬質の仕切部材を、前記受圧室と前記平衡室の間に配設すると共に、該仕切部材の中央部分において該受圧室と該平衡室の何れか一方の側に向かって開口する凹所を形成して該凹所の開口部をゴム弾性板で流体密に覆蓋することにより中間室を形成する一方、該仕切部材の外周部分を利用して前記第一のオリフィス通路と該第一のオリフィス通路よりも高周波数域にチューニングされた第二のオリフィス通路を形成して、それら第一のオリフィス通路と第二のオリフィス通路を通じて該受圧室、該平衡室および該中間室を相互に連通せしめた請求項1乃至3の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
  5. 前記第二の取付部材を円筒形状として、該第二の取付部材の一方の開口部側に前記第一の取付部材を離隔配置すると共に、該第一の取付部材と該第二の取付部材を前記本体ゴム弾性体で連結することによって該第二の取付部材の一方の開口部を流体密に閉塞する一方、該第二の取付部材の他方の開口部を前記可撓性ゴム膜で覆蓋すると共に、該第二の取付部材に前記仕切部材を嵌め込んで該本体ゴム弾性体と該可撓性ゴム膜の対向面間に配設した請求項4に記載の流体封入式防振装置。
  6. 請求項4又は5に記載の流体封入式防振装置を用いて、パワーユニットとボデーの各一方に前記第一の取付部材と前記第二の取付部材を取り付けることにより、該パワーユニットと該ボデーの間に介装されて、該パワーユニットを該ボデーに対して防振支持せしめた流体封入式エンジンマウントにおいて、
    エンジンシェイクの入力時に前記第一のオリフィス通路を通じて流動する流体共振に基づく高減衰特性が発揮される一方、アイドリング振動の入力時に前記第二のオリフィス通路を通じて流動する流体共振に基づく低動ばね特性が発揮されるように、該第一のオリフィス通路と該第二のオリフィス通路をチューニングしたことを特徴とする流体封入式エンジンマウント。
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