JP5382580B2 - 表面被覆切削工具 - Google Patents

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Description

本発明は、表面被覆切削工具に関し、特に、高速加工およびドライ加工でさらなる長寿命化を達成することができる表面被覆切削工具に関する。
最近の表面被覆切削工具の動向として、地球環境保全の観点から、切削油剤を用いないドライ加工が求められていること、被削材が多様化していること、および加工能率を一層向上させるため切削速度がより高速になってきていることなどの理由から、表面被覆切削工具の刃先温度はますます高温になる傾向にある。その結果、表面被覆切削工具の寿命が短くなるため、表面被覆切削工具を構成する材料に要求される特性は厳しくなる一方である。表面被覆切削工具の長寿命化のために表面被覆切削工具を構成する材料に要求される特性としては、基材上に形成される被覆膜の安定性(被覆膜の耐酸化特性や密着性)は勿論のこと、被覆膜の耐摩耗性や潤滑性も重要となってくる。
表面被覆切削工具の耐摩耗性の改善のため、WC基超硬合金、サーメット、高速度鋼などの基材上に、TiAlNを単層または複数層積層して、被覆膜を形成することはよく知られている。しかしながら、最近の高速加工およびドライ加工においては、TiAlNのみからなる被覆膜では長寿命の表面被覆切削工具を得ることができないのが現状である。
このような問題を解決するため、特許文献1および特許文献2では、Tiを主成分としてSiを適量含有した窒化物、炭窒化物、窒酸化物、または炭窒酸化物からなるA層と、TiおよびAlを主成分とする窒化物、炭窒化物、窒酸化物、または炭窒酸化物からなるB層とを交互に積層させた被覆膜を有する表面被覆切削工具が提案されている。特許文献1および特許文献2に記載されている表面被覆切削工具は、A層に含まれるSiに起因して、最表面にSiを含有する緻密な酸化保護膜を形成し、当該酸化保護膜により被覆膜の酸化を防止することができ、耐熱性を有するB層の作用と相俟って、優れた耐摩耗性を有する被覆膜を形成することができる。
しかしながら、上記のA層の組成は、酸化防止の作用を奏する反面、被覆膜自体の圧縮残留応力を高くする組成でもあるため、被覆膜自体が自己破壊しやすく、基材または下層と被覆膜との密着性を十分に確保することができないという問題があった。
そこで、このような組成の異なる2層を交互に積層する方法以外の高速加工に対応する被覆膜の構成として、特許文献3には、AlTiSiCr(CN)を多層積層された構造の被覆膜が提案されている。しかしながら、このような元素の組成としても結晶制御の点で十分なものではなく、長寿命の表面被覆切削工具を得られていないのが現状である。
特開2000−334606号公報 特開2000−334607号公報 特開2008−162009号公報
上記の事情に鑑みて、本発明の目的は、高速加工およびドライ加工でさらなる長寿命化を達成することができる表面被覆切削工具を提供することにある。
本発明は、基材と、該基材上に形成された被覆膜とを備え、被覆膜は、AlaTibSicN(ただし、0.3≦b≦0.65、0.02≦c≦0.15、a+b+c=1)からなるA層と、AldCreN(ただし、0.2≦e≦0.5、d+e=1)からなるB層とがそれぞれ交互に積層されて構成されており、A層の厚みをλaとし、B層の厚みをλbとすると、互いに接しているA層およびB層の厚みの比であるλa/λbの値は、基材に最も近い位置においては1.0≦λa/λb≦1.7であり、基材側から被覆膜の表面側に向かって連続的および/または段階的に減少し、被覆膜の表面に最も近い位置においては0.6≦λa/λb≦1.0となる表面被覆切削工具である。
また、本発明の表面被覆切削工具において、被覆膜は、X線回析における回析強度が、被覆膜の基材側では(200)面で最大ピークを示し、被覆膜の表面側では(111)面で最大ピークを示すことが好ましい。
また、本発明の表面被覆切削工具において、A層の厚みλaおよびB層の厚みλbはそれぞれ、0.5nm以上50nm以下であることが好ましい。
また、本発明の表面被覆切削工具において、A層の組成は、AlaTibSicN(ただし、0.35≦b≦0.5、0.04≦c≦0.1、a+b+c=1)であることが好ましい。
また、本発明の表面被覆切削工具において、B層の組成は、AldCreN(ただし、0.25≦e≦0.4、d+e=1)であることが好ましい。
また、本発明の表面被覆切削工具において、被覆膜上には、表面保護膜が形成されており、当該表面保護膜の組成は、AlxTiySizCN(ただし、0.35≦y≦0.65、0.02≦z≦0.15、x+y+z=1)からなることが好ましい。
また、本発明の表面被覆切削工具において、被覆膜は、物理蒸着法により形成されることが好ましい。
また、本発明の表面被覆切削工具において、基材は、超硬合金、サーメット、高速度鋼、セラミックス、立方晶型窒化硼素焼結体、またはダイヤモンド焼結体からなる基材のいずれかであることが好ましい。
本発明によれば、高速加工およびドライ加工でさらなる長寿命化を達成することができる表面被覆切削工具を提供することができる。
本発明の表面被覆切削工具の一例の模式的な拡大断面図である。 本発明において被覆膜を構成するA層とB層の厚みの比(λa/λb)の値が、基材から被覆膜の表面に向かって連続的に減少する場合の一例を示すグラフである。 本発明において被覆膜を構成するA層とB層の厚みの比(λa/λb)の値が、基材から被覆膜の表面に向かって段階的に減少する場合の一例を示すグラフである。 本発明に用いられるカソードアークイオンプレーティング装置の概略を示す図である。 本発明の表面被覆切削工具の他の一例の模式的な拡大断面図である。 本発明の表面被覆切削工具の図4と図5とは異なる態様の模式的な拡大断面図である。 本発明の表面被覆切削工具の図4〜図6とは異なる態様の模式的な拡大断面図である。
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
図1に、本発明の表面被覆切削工具の一例の模式的な拡大断面図を示す。ここで、本発明の表面被覆切削工具は、基材1と基材1上に形成された被覆膜2とを備え、被覆膜2は、AlaTibSicN(ただし、0.3≦b≦0.65、0.02≦c≦0.15、a+b+c=1)からなるA層3と、AldCreN(ただし、0.2≦e≦0.5、d+e=1)からなるB層4とがそれぞれ交互に積層されて構成されている。A層3の厚みをλaとし、B層4の厚みをλbとすると、互いに接しているA層3とB層4との厚みの比であるλa/λbの値が、基材1に最も近い位置においては1.0≦λa/λb≦1.7であり、基材1側から被覆膜2の表面側に向かって連続的および/または段階的に減少し、被覆膜2の表面に最も近い位置においては0.6≦λa/λb≦1.0となっている。なお、A層3およびB層4はそれぞれ1層以上形成される。
A層3は、AlaTibSicN(ただし、0.3≦b≦0.65、0.02≦c≦0.15、a+b+c=1)からなることを特徴とする。ここで、AlTiに対してSiを添加することにより、被覆膜の硬度および耐熱性を大幅に向上させることができる。そして特に、A層3を構成するAlaTibSicNのSiの組成比を示すcを0.02≦c≦0.15とすることにより、被覆膜の圧縮応力の増加を抑制することができ、もって基材と被覆膜との密着性を向上させることができる。
ここで、本発明の表面被覆切削工具の被覆膜2を構成するA層3の厚み(A層3の1層当たりの厚み)λaおよびB層4の厚み(B層4の1層当たりの厚み)λbはそれぞれ0.5nm以上50nm以下の範囲内の厚みとすることが好ましい。A層3およびB層4の厚みをこの範囲内とすることにより、被覆膜2の結晶粒が粗大化することなく、被覆膜を構成する結晶粒を微粒にし、高硬度なものとすることができる。A層3の1層当たりの厚みλaおよびB層4の1層当たりの厚みλbがそれぞれ0.5nm未満である場合には、A層3およびB層4の形成がそれぞれ困難となる傾向にある。また、A層3の1層当たりの厚みλaおよびB層4の1層当たりの厚みλbがそれぞれ50nmを超える場合には、A層3およびB層4のそれぞれの層の1層当たりの厚みが大きくなりすぎてA層3およびB層4を構成する結晶粒が粗大化し、高硬度な被覆膜2を得ることができない。
このようなA層3の組成は、AlaTibSicN(ただし、0.35≦b≦0.5、0.04≦c≦0.1、a+b+c=1)からなることがより好ましい。このような組成にすることにより、基材1と被覆膜2との密着がより強固なものとなり、高速加工およびドライ加工でさらなる長寿命化を達成することが可能な表面被覆切削工具を得ることができる。
なお、A層3を構成するAlaTibSicNのAlの組成比aは、A層3におけるAl(アルミニウム)とTi(チタン)とSi(ケイ素)との総原子数(以下、単に「総原子数」とも称する)に対するAlの原子数の比を意味し、Tiの組成比bは、総原子数に対するTiの原子数の比を意味し、Siの組成比cは、総原子数に対するSiの原子数の比を意味する。
また、AlaTibSicNにおいて、Al、Ti、およびSiの総原子数(すなわちa+b+cの和)とNの原子数との比は1:1の場合を含むとともにこれのみに限られるものではなく、化学量論比から外れた比率のものであってもよいし、酸素等の不純物元素をさらに含むものであってもよく、従来公知の原子比を全て含むものであり、両者の原子比は特に限定されない。
また、B層4は、AldCreN(ただし、0.2≦e≦0.5、d+e=1)からなることを特徴とする。ここで、B層4を構成するAldCreNのAlおよびCrはいずれも、耐熱性を向上させる元素であることから、従来のTiAlからなる被覆膜と対比して大幅に耐熱性を向上させることができ、これにより高速加工およびドライ加工でさらなる長寿命化を達成することが可能な表面被覆切削工具を得ることができる。
しかも、Alの原子半径とCrの原子半径とは互いに近い値を有するため、上述のAlの組成比dの範囲内で可能な限りAlの含有量を増やしても、被覆膜中に立方晶のAlNを形成することができるため、被覆膜の硬度が低下しにくい。
また、B層4を構成するAldCreNのCrの組成比eを、0.25≦e≦0.4の範囲内の値とした場合には、B層4の耐熱性を顕著に向上させることができ、本発明の表面被覆切削工具の高速加工およびドライ加工における長寿命化を大幅に向上させることができる傾向が大きくなる点で好ましい。
なお、B層4を構成するAldCreNのAlの組成比dは、B層4におけるAl(アルミニウム)とCr(クロム)の総原子数に対するAlの原子数の比を意味し、Crの組成比eは、B層4におけるAl(アルミニウム)とCr(クロム)の総原子数に対するCrの原子数の比を意味する。また、AldCreNにおいて、Al、およびCrの総原子数(すなわちd+eの和)とNの原子数との比は1:1の場合を含むとともにこれのみに限られるものではなく、化学量論比から外れた比率のものであってもよいし、酸素等の不純物元素をさらに含むものであってもよく、従来公知の原子比を全て含むものであり、両者の原子比は特に限定されない。
上述したように、B層4はAldCreNから構成されるため、硬度、耐熱性および強度に優れるが、基材1上に形成される被覆膜2を硬度、耐熱性および強度に優れるB層4のみから形成した場合には、本発明の表面被覆切削工具の高速加工およびドライ加工における長寿命化に限界があった。
本発明者は、硬度、耐熱性、および応力バランスに優れるAlaTibSicN(ただし、0.3≦b≦0.65、0.02≦c≦0.15、a+b+c=1)からなるA層3と、硬度、耐熱性、および強度に優れるAldCreN(ただし、0.2≦e≦0.5、d+e=1)からなるB層4とをそれぞれ交互に積層してこれらの膜の特性を組み合わせることによって、耐摩耗性、強度、硬度および応力バランスのすべてを兼ね備えた被覆膜2の形成を試みたが、単純に積層しただけでは十分な耐摩耗性が得られず、本発明の表面被覆切削工具の高速加工およびドライ加工における長寿命化を図ることができなかった。
そこで、本発明者が鋭意検討した結果、被覆膜2を構成するA層3とB層4の厚みをそれぞれ被覆膜の厚み方向に沿って変化させることによって、耐摩耗性、強度、硬度および応力バランスのすべてを兼ね備えた被覆膜2を得ることができることが明らかとなった。
すなわち、被覆膜2を構成するA層3の厚みλaおよびB層4の厚みλbにおいて、互いに接しているA層3とB層4との厚みの比であるλa/λbの値を基材1に最も近い位置においては1.0≦λa/λb≦1.7の範囲内の値とし、基材側から被覆膜2の表面側に向かって連続的および/または段階的に減少させ、被覆膜2の表面に最も近い位置においては0.6≦λa/λb≦1.0の範囲内の値とすることによって、耐摩耗性、強度、硬度および応力バランスのすべてを兼ね備えた被覆膜2を得ることができる。このような構成の被覆膜2を基材1上に備えることによって、高速加工およびドライ加工でさらなる長寿命化を達成した表面被覆切削工具を得ることができる。
このように本発明の表面被覆切削工具の被覆膜2の基材側においては、基材1との密着性に優れたA層3の厚みをB層4の厚みよりも厚くされることが好ましい。これは、被覆膜2の基材側では基材1との密着性に優れたA層3の厚みを厚くすることによって、耐欠損性の向上などの高速加工時およびドライ加工時における長寿命化に関する効果を向上させるためである。より具体的には、互いに接しているA層3の厚みλaとB層4の厚みλbとの厚みの比であるλa/λbの値は、基材1に最も近い位置においては1.0≦λa/λb≦1.7の範囲内の値とすることを要し、本発明の表面被覆切削工具の長寿命化を図る観点からは、1.2≦λa/λb≦1.5の範囲内の値とされることがより好ましい。なお、基材1と被覆膜2との密着性を良好に保つという観点から、基材1の直上にまずA層3を形成してからB層4、A層3というように順次被覆膜2を形成することが好ましい。
一方、本発明の表面被覆切削工具の被覆膜2の表面側においては、耐熱性に優れたB層4の厚みがA層3の厚みよりも厚くされることが好ましい。これは、被覆膜2の表面側では酸化防止に優れたB層4の厚みを厚くすることによって、B層4の酸化防止に起因する被覆膜2の表面からの酸化摩耗の低減などの高速加工時およびドライ加工時における長寿命化に関する効果を向上させるためである。さらに、被覆膜2の表面側においてB層4の厚みを厚くすることによって、被削材の加工品位を向上させることも可能である。ここで、被覆膜2の表面側におけるA層3の厚みおよびB層4の厚みについて、より具体的に説明すると、互いに接しているA層3の厚みλaとB層4の厚みλbとの厚みの比であるλa/λbの値は、被覆膜2の表面側においては0.6≦λa/λb≦1.0の範囲内の値とすることを要し、本発明の表面被覆切削工具の長寿命化を図る観点からは、0.7≦λa/λb≦0.9の範囲内の値とされることがより好ましい。なお、被覆膜2の表面の酸化摩耗を防止するという観点から、被覆膜2の最表面はB層4であることが好ましい。
ここで、本発明において、「基材に最も近い位置」とは、基材と被覆膜との界面の直上のA層およびB層(A層およびB層の積層順序は限定されない)の2層が占める部分のことを意味し、「被覆膜の表面に最も近い位置」とは、基材と被覆膜とが接する面とは反対側の被覆膜の表面に位置するA層およびB層(A層およびB層の積層順序は限定されない)の2層が占める部分を意味することは言うまでもない。
なお、本発明において、「連続的に減少」とは、たとえば図2に示すように、基材から被覆膜の表面に向かってλa/λbの値が比例的に減少する場合が挙げられるが、比例的に減少する場合のみに限定されず、指数関数的に減少する場合や反比例的に減少する場合も含まれる。また、かかる「連続的に減少」とは、基材から被覆膜の表面に向かってλa/λbの値が常に減少する場合だけではなく、基材から被覆膜の表面に向かって全体として減少する傾向を示す限り、部分的に一定または増加する箇所を有していても、本発明の範囲を逸脱するものではない。
また、本発明において、「段階的に減少」とは、たとえば図3に示すように、基材から被覆膜の表面に向かってλa/λbの値が階段状に減少する場合が挙げられるが、図3に示す態様には限定されず、その段差(すなわち層厚比λa/λbの差)は図3に示したように一定でなくても良いし、部分的に増加する箇所を有していても本発明の範囲を逸脱するものではない。以上要するに、基材から被覆膜の表面に向かって全体として減少し、基材側と表面側の層厚比λa/λbが上述のように異なっていることが重要である。また、本発明においては、基材から被覆膜の表面に向かって、λa/λbの値が連続的に減少する箇所と段階的に減少する箇所とが入り混じっていてもよいし、A層の組成とB層の組成とが入り混じっている変調層が形成されていてもよい。
本発明において、被覆膜2の全体の厚みは0.5μm以上20μm以下であることが好ましい。被覆膜2の全体の厚みが0.5μm未満である場合には被覆膜2の耐摩耗性が低下するおそれがある。また、被覆膜2の全体の厚みが20μmを超える場合には、被覆膜2中に残存する圧縮応力に耐え切れずに、被覆膜2が自己破壊するおそれがある。なお、被覆膜2の耐摩耗性の低下および自己破壊を有効に防止する観点からは、被覆膜2の全体の厚みは2μm以上15μm以下であることが好ましい。
基材1の表面に設けられる被覆膜2の結晶配向性としては、X線回折における回折強度が被覆膜2の基材側では(200)面で最大ピークを示し、被覆膜2の表面側では(111)面で最大ピークを示すことが好ましい。被覆膜2の基材側で(200)面が最大ピークを示す場合、被覆膜2の基材側は圧縮応力が低くなり、基材1と被覆膜2との密着性を向上させることができる。一方、被覆膜2の表面側で(111)面が最大ピークを示す場合、被覆膜2の表面側は圧縮応力が高くなり、被覆膜2の表面の靭性を向上させるのに効果的である。
また、被覆膜2上には、AlxTiySizCN(ただし、0.35≦y≦0.65、0.02≦z≦0.15、x+y+z=1)からなる表面保護膜(図示せず)を設けることが好ましい。このように被覆膜2上にAlTiSiの炭窒化物からなる表面保護膜を設けることにより、被覆膜中に炭素が分散することとなり、AlxTiySizの窒化物からなる表面保護膜に比べて被覆膜2の摩擦係数を低くすることができる。
なお、本発明において、A層3、B層4、被覆膜2、表面保護膜(図示せず)などの厚みはそれぞれ、透過型電子顕微鏡観察により測定することが可能である。
本発明の表面被覆切削工具の基材としては、このような切削工具の基材として知られる従来公知のものを特に限定なく使用することができる。たとえば、超硬合金(たとえばWC基超硬合金、WCの他、Coを含み、あるいはさらにTi、Ta、Nb等の炭窒化物等を添加したものも含む)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの)、高速度鋼、セラミックス(炭化チタン、炭化硅素、窒化硅素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、およびこれらの混合体など)、立方晶型窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体等をこのような基材の例として挙げることができる。
本発明の表面被覆切削工具は、たとえば、ドリル、エンドミル、フライス加工用スローアウェイチップ、旋削加工用スローアウェイチップ、メタルソー、歯切工具、リーマまたはタップなどとして好適に用いることができる。
本発明の表面被覆切削工具を作製する方法としては、結晶性の高い化合物を形成することができる成膜プロセスを用いて基材1上に被覆膜2を形成することが好ましい。そこで、種々の成膜プロセスを検討した結果、物理蒸着法を用いて被覆膜2を形成することが好ましいことが判明した。物理蒸着法としては、たとえば、スパッタリング法またはイオンプレーティング法などが挙げられるが、特に、原料となる元素のイオン化率が高いカソードアークイオンプレーティング法が最も好ましい。基材1の表面上に直接被覆膜2を形成するための成膜プロセスとしてカソードアークイオンプレーティング法を用いた場合には、被覆膜2の形成前に基材1の表面に対して金属イオンおよび/またはガスイオンによるイオンボンバードメント処理が可能となるため、基材1と被覆膜2との密着性が格段に向上する傾向にある。
ここで、アークイオンプレーティング法を用いて被覆膜2を成膜する場合、成膜中に基材1のバイアス電圧を連続的または段階的に変化させることにより、被覆膜2の結晶配向性および応力を制御することができる。基材付近の結晶配向性の測定は、被覆膜の表面から機械的研磨により部分的に被覆膜を除去することにより、所望の部位で測定することができる。また、被覆膜の断面を電子後方散乱回折像法(EBSD:Electron Back Scatter Diffraction Patterns)により結晶方位を測定し、基材近傍と表面近傍の結晶配向を同定する方法を用いることもできる。
以下に、本発明において、基材1上に被覆膜2を形成する方法の一例について説明する。この例は、カソードアークイオンプレーティング法により被覆膜2を形成する方法の一例である。
まず、図4にその概略を示したカソードアークイオンプレーティング装置10を用意する。
ここで、カソードアークイオンプレーティング装置10は、第1アーク蒸発源13、第2アーク蒸発源14および第3アーク蒸発源15という3つのアーク蒸発源とともに、回転テーブル11、ヒータ12およびガス導入口16を有している。
まず、回転テーブル11に基材1をセットするとともに、第1アーク蒸発源13としてAlTiSiターゲットを、第2アーク蒸発源14としてAlCrターゲットをセットする。
次に、カソードアークイオンプレーティング装置10内を真空引きした後にアルゴンをガス導入口16から導入し、アルゴン中でグロー放電を発生させることによってアルゴンイオンを生成する。そして、当該アルゴンイオンによって、基材1の表面をスパッタクリーンニング(ボンバード)する。
その後、カソードアークイオンプレーティング装置10からアルゴンを排気した後に回転テーブル11を回転させ、第1アーク蒸発源13としてのAlTiSiターゲットおよび第2アーク蒸発源14としてのAlCrターゲットをそれぞれイオン化させる。それと同時に、反応ガスとなる窒素をガス導入口16からカソードアークイオンプレーティング装置10内に導入し、基材1上にA層3およびB層4を交互に積層して被覆膜2を形成する。
ここで、基材1が第1アーク蒸発源13の前を通るときにはA層3が積層され、第2アーク蒸発源14の前を通るときにはB層4が積層されるため、基材1上にA層3とB層4とを交互に積層することができる。
また、基材1上への被覆膜2の形成開始直後においては、第1アーク蒸発源13のアーク電流を第2アーク蒸発源14のアーク電流よりも大きくすることによって、第1アーク蒸発源のAlTiSiターゲットがAlCrターゲットよりも高濃度にイオン化することとなり、A層3の厚みλaをB層4の厚みλbよりも厚く形成することができる。すなわちたとえば、第1アーク蒸発源13のアーク電流をたとえば200Aとし、第2アーク蒸発源14のアーク電流をたとえば120Aとして、基材1上にA層3およびB層4を交互に積層することにより、基材1に最も近い位置において互いに接しているA層3の厚みλaがB層4の厚みλbよりも厚くなり、A層3の厚みλaとB層4の厚みλbとの厚みの比であるλa/λbの値を1.0≦λa/λb≦1.7の範囲内の値とすることができる。
その後は、第1アーク蒸発源13のアーク電流を連続的または段階的に小さくしながらA層3を形成することにより、基材側から被覆膜の表面側に向かって連続的または段階的にA層3の厚みλaを薄くすることができる。他方、第2アーク蒸発源14のアーク電流を連続的または段階的に大きくしながらB層4を形成することにより、基材側から被覆膜の表面側に向かって連続的または段階的にB層の厚みλbを厚くすることができる。
このように第1アーク蒸発源13および第2アーク蒸発源14のアーク電流を調整しながらA層3およびB層4を交互に積層することにより、A層およびB層の厚みの比であるλa/λbの値を基材側から被覆膜の表面側に向かって連続的および/または段階的に減少させることができる。
そして、被覆膜2の表面に最も近い位置においては、第1アーク蒸発源13のアーク電流を第2アーク蒸発源14のアーク電流よりも小さくすることによって、被覆膜2の表面に最も近い位置において互いに接しているA層3の厚みλaがB層4の厚みλbよりも薄くなり、被覆膜2の表面に最も近い位置で互いに接しているA層3の厚みλaとB層4の厚みλbとの厚みの比であるλa/λbの値を0.6≦λa/λb≦1.0の範囲内の値とすることができる。
ここで、上記で例示した基材1上に被覆膜2を形成する方法の一例において、A層3およびB層4のそれぞれの1層当たりの厚みは、0.5nm以上50nm以下の範囲内の厚みであるため、回転テーブル11の回転数、第1アーク蒸発源13のアーク電流および第2アーク蒸発源14のアーク電流などを制御することにより、A層3の1層当たりの厚みλaおよびB層4の1層当たりの厚みλbのそれぞれの厚みを制御することが可能である。
また、被覆膜2の成膜開始直後の基材のバイアス電圧を−50V以下とすることにより、被覆膜2の基材側のX線回析における回析強度が(200)面で最大ピークを示すような結晶配向となり、圧縮応力が低く、密着性に優れた被覆膜2を形成することができる。なお、本発明においてバイアス電圧の大小は、その絶対値の大小を意味するものとする。したがって、たとえば「−50V以下」という表現は、−40Vや−30Vのような数値を意味する。
そして、被覆膜2の成膜中は連続的または段階的にバイアス電圧を増加させて、最終的に被覆膜を成膜するときのバイアス電圧を−100V以上にすることにより、被覆膜2の表面側のX線回析における回析強度が(111)面で最大ピークを示すような結晶配向とすることができ、これにより圧縮応力が高く、かつ高強度な被覆膜2を形成することができる。
このように被覆膜の基材側のX線回析における回析強度が(200)面で最大ピークを示し、かつ被覆膜の表面側のX線回析における回析強度が(111)面で最大ピークを示すように被覆膜の結晶配向性を制御することにより、基材1と被覆膜2との密着性を良好に保ちつつ、被覆膜2の表面を高強度にすることができ、もって高速加工およびドライ加工で長寿命化な表面被覆切削工具を得ることができる。
なお、上記の図1に示す構成の表面被覆切削工具においては、基材1上にまずA層3を形成した後にB層4を形成し、その後、A層3とB層4とを交互に積層していき、最後にB層4を形成することによって被覆膜2を形成しているが、この構成に限定されないことは言うまでもない。ただし、このように基材1の直上にA層3を形成することにより、基材1と被覆膜2との密着性を良好に保つことができる。
ここで、本発明の表面被覆切削工具は、図1の模式的拡大断面図に示す構成に限られるものではなく、たとえば図5の模式的拡大断面図に示す構成の表面被覆切削工具のように、基材1上にまずB層4を形成した後にA層3を形成し、その後、B層4とA層3とを交互に積層していき、最後にA層3を形成することによって被覆膜2を形成してもよい。
また、たとえば、図6の模式的拡大断面図に示す構成の表面被覆切削工具のように、基材1上にまずB層4を形成した後にA層3を形成し、その後、B層4とA層3とを交互に積層していき、最後にB層4を形成することによって被覆膜2を形成してもよい。
また、たとえば、図7の模式的拡大断面図に示す構成の表面被覆切削工具のように、基材1上にまずA層3を形成した後にB層4を形成し、その後、A層3とB層4とを交互に積層していき、最後にA層3を形成することによって被覆膜2を形成してもよい。
上記のように被覆膜を形成した後に、当該被覆膜上に表面保護膜を形成することが好ましく、当該表面保護膜は、AlxTiySizCN(ただし、0.35≦y≦0.65、0.02≦z≦0.15、x+y+z=1)からなることが好ましい。このように被覆膜の表面に表面保護膜を設け、当該表面保護膜が潤滑機能を持つことにより、工具の刃先温度を低下させ被覆膜の酸化を防ぐことができるとともに、被削材が切れ刃に溶着することを防ぐことができ、加工品位の向上がさらに促進される傾向にある。なお、表面保護膜を構成するAlxTiySizCNにおけるAl(アルミニウム)、Ti(チタン)およびSi(ケイ素)と、C(炭素)およびN(窒素)との組成比は1:1の場合を含むとともにこれのみに限られるものではなく、化学量論比から外れた比率のものであってもよい。
このような表面保護膜を形成するためには、通常のアークイオンプレーティング法の成膜条件(バイアス電圧−30V〜−100V程度)では、反応ガスであるメタンやアセチレンガスが十分に分解されないため、緻密なAlTiSiの炭窒化物を得ることができない。これにより表面保護膜の構造は、部分的に炭素が析出した構造になり、所望の耐熱性および強度を有する表面被覆切削工具を得ることができない。
そこで、表面保護膜の成膜条件に関して種々の検討をした結果、耐熱性、潤滑性を備えた緻密な表面保護膜を成膜するためには、成膜時の基材のバイアス電圧を−200V以上といった非常に高い値にすることが好ましいことが明らかとなった。このように成膜時の基材のバイアス電圧を非常に高い値にすることにより、反応ガスであるメタンやアセチレンガスが十分に分解されることとなり、緻密なAlTiSiの炭窒化物からなる表面保護膜を形成することができる。
以下のようにして、実施例1〜実施例15および比較例1〜比較例13のそれぞれの表面被覆切削工具を作製し、それぞれの表面被覆切削工具の寿命について評価した。
また、各実施例および各比較例の表面被覆切削工具の被覆膜の構成を表1に示す。また、それぞれの表面被覆切削工具の寿命についての評価結果を表2に示す。
なお、表1の「組成」の欄は、表面被覆切削工具の被覆膜を構成するA層とB層の材料組成を示している。また、比較例12〜13の表面被覆切削工具の被覆膜は、単一組成の被覆膜を形成している。
また、表1の「基材に最も近い位置」の欄は、表面被覆切削工具の被覆膜を構成するA層およびB層のうち、基材に最も近い位置において互いに接しているA層の厚みλa、B層の厚みλbおよびその比λa/λbを示している。なお、「XRDピーク」の欄には、被覆膜の基材側のX線回析における回析強度が最大ピークを示す面を示している。
また、表1の「表面に最も近い位置」の欄は、表面被覆切削工具の被覆膜を構成するA層およびB層のうち、被覆膜の表面に最も近い位置において互いに接しているA層の厚みλa、B層の厚みλbおよびその比λa/λbを示している。
また、表1の「λa/λbの減少」の欄は、表面被覆切削工具の被覆膜を構成して互いに接しているA層の厚みλaとB層の厚みλbとの比λa/λbの値が基材側から表面側に向かって、連続的または段階的に減少していることを示している。なお、表1の「連続的」とは、たとえば図2に示すように基材側から被覆膜の表面側に向かってλa/λbの値が減少する態様のことを示し、「段階的」とは、たとえば図3に示すように基材から表面に向かってλa/λbの値が減少する態様のことを示している。
また、表1の「XRDピーク」の欄は、表面被覆切削工具の被覆膜の基材側または被覆膜の表面側を、X線回析における回析強度を測定したときの最大ピーク強度を示した面を示している。
(実施例1)
図4に示すカソードアークイオンプレーティング装置10の回転テーブル11に、基材1をセットするとともに、第1アーク蒸発源13としてAl0.55Ti0.4Si0.05ターゲットをセットし、第2アーク蒸発源14としてAl0.7Cr0.3ターゲットをセットした。
基材としては、超硬合金製エンドミル(φ10、6枚刃)、超硬合金製ドリル(φ8)、P20相当超硬合金製フライス加工用スローアウェイチップ(形状:SEMT13T3AGSN−G)の3種類を準備し、それぞれに表1の実施例1の欄に示した被覆膜を成膜した。以下に、実施例1の被覆膜を形成する過程を説明する。
まず、カソードアークイオンプレーティング装置10内を真空引きした後にアルゴンをガス導入口16から導入し、その真空度を3Paに維持しながら基材1を450℃まで加熱した。
次に、基材1にバイアス電圧を徐々に印加しながらバイアス電圧を−1000Vまで上げてアルゴン中でグロー放電を発生させることにより、アルゴンイオンによる基材1の表面のクリーニング処理を15分間行なった。そして、上記クリーニング処理後にカソードアークイオンプレーティング装置10からアルゴンを排気した。これにより、基材1の表面がスパッタクリーニングされた。
次に、窒素をガス導入口16からカソードアークイオンプレーティング装置10内に導入した後、基材1に−50Vのバイアス電圧を印加した状態で、回転テーブル11を3rpmの回転速度で回転させ、第1アーク蒸発源13および第2アーク蒸発源14にそれぞれアーク電流を流してアーク放電によりイオン化させ、基材1の表面上にAl0.55Ti0.4Si0.05NからなるA層とAl0.7Cr0.3NからなるB層とを交互に積層した。
ここで、基材1が第1アーク蒸発源13の前を通るときにはA層が積層され、第2アーク蒸発源14の前を通るときにはB層が積層された。被覆膜の形成開始直後は、第1アーク蒸発源13に流れるアーク電流を200A、第2アーク蒸発源14に流れるアーク電流を150Aとして、基材1に最も近い位置において互いに接するA層およびB層の厚みの比がλa/λb=1.33を満たすようにA層およびB層を形成した。そして、A層およびB層の形成の進行に伴って、第1アーク蒸発源13に流れるアーク電流については連続的に減少させるとともに、第2アーク蒸発源14に流れるアーク電流については連続的に増加させることによって、λa/λbの値を連続的に減少させながら、A層およびB層をそれぞれ1層ずつ交互に順次積層していった。そして、被覆膜の表面に最も近い位置において互いに接するA層およびB層の形成時においては、第1アーク蒸発源13に流れるアーク電流を150A、第2アーク蒸発源14に流れるアーク電流を200Aとして、λa/λb=0.75を満たすA層およびB層を形成した。
なお、A層およびB層の形成は、基材1の表面上にまずA層を形成し、その後B層を形成することにより、A層およびB層を順次交互に形成した後、最後にB層が設置されるように行なった。そして、A層およびB層の形成後は、カソードアークイオンプレーティング装置10内のガスおよび窒素を排気した。
次に、カソードアークイオンプレーティング装置10内に窒素とメタンの混合ガスを導入し、基材1に−200Vのバイアス電圧を印加した状態で、第1アーク蒸発源13にアーク電流を流してアーク放電によりイオン化させ、被覆膜2上にAl0.55Ti0.4Si0.05CNからなる表面保護膜を形成することにより表面被覆切削工具を作製した。このようにして作製された表面被覆切削工具の被覆膜の厚みは4.5μmであり、表面保護膜の厚みは、0.3μmであった。
また、上記の方法により作製された表面被覆切削工具において、被覆膜の基材側(基材1と被覆膜2との界面からA層およびB層がそれぞれ20層積層される部分)および表面側(被覆膜2の表面からA層およびB層がそれぞれ20層積層される部分)に対し、X線回析における回析強度を測定したところ、被覆膜の基材側は(200)面で最大ピーク強度を示し、被覆膜の表面側は(111)面で最大ピーク強度を示した。なお、被覆膜の基材側に対する回析強度の測定は、被覆膜表面から被覆膜を部分的に機械的研磨により除去し、被覆膜の基材側の部分(基材1と被覆膜2との界面からA層およびB層がそれぞれ20層積層される部分)を露出させた上で、その露出部位を測定することにより行なった。
そして、上記のようにして作製したエンドミル、ドリルおよびフライス加工用スローアウェイチップのそれぞれについて、以下の切削試験を行ない、表面被覆切削工具の寿命の評価を行なった。その評価結果を表2に示す。
(i)エンドミル切削試験
被削材としてSKD11(HRC61)を用い、被削材の側面切削をダウンカットで、切削速度が200m/min、送り量が0.025mm/刃、切り込み量ap=10mm、切り込み量ae=0.6mmの条件で、エアブローをしながら切削を行なった。そして、切削長50m時点での切れ刃外周の摩耗幅(mm)を表面被覆切削工具の寿命として評価した。摩耗幅が少ない程、耐摩耗性に優れていることを示している。
(ii)ドリル切削試験
被削材としてS50Cを用い、被削材の穴加工を、切削速度が80m/min、送り量が0.25mm/rev、切削油なしの条件で、穴深さが30mmの貫通穴を形成することにより行なった。そして、切削長30m時点での先端マージン部の摩耗幅(mm)を表面被覆切削工具の寿命として評価した。摩耗幅が少ない程、耐摩耗性に優れていることを示している。
(iii)フライス加工用スローアウェイチップ切削試験
被削材としてSCM435(L300mm×W200mmのブロック材)を用い、切削速度が300m/min、送り量が0.25mm/rev、切り込み量が1.5mm、切削油なしの条件で行なった。そして、切削時間15分時点での表面被覆切削工具の逃げ面の摩耗幅(mm)を表面被覆切削工具の寿命として評価した。摩耗幅が少ない程、耐摩耗性に優れていることを示している。
(実施例2〜15、比較例1〜11)
実施例2〜15および比較例1〜11の表面被覆切削工具は、実施例1の被覆膜に対して、A層3の組成、B層4の組成、A層3の1層当たりの厚みλa、B層4の1層当たりの厚みλb、被覆膜の基材側に最も近い位置におけるXRDピークの結晶配向性、被覆膜の表面側に最も近い位置におけるXRDピークの結晶配向性、表面保護膜の形成の有無等が表1に示すように異なることを除き、実施例1と同様の方法により作製した。
たとえば、実施例2では、第1アーク蒸発源13としてAl0.57Ti0.38Si0.05ターゲットをセットするとともに、第2アーク蒸発源14としてAl0.63Cr0.37ターゲットをセットし、実施例1と同様の方法により基材1の表面のクリーニング処理を行なった。次に、窒素をガス導入口16からカソードアークイオンプレーティング装置10内に導入した後、基材1に−50Vのバイアス電圧を印加した状態で、回転テーブル11を3rpmの回転速度で回転させ、基材1の表面上にAl0.57Ti0.38Si0.05NからなるA層とAl0.63Cr0.37NからなるB層とを交互に積層した。
ここで、実施例2における被覆膜の成膜条件としては、被覆膜の形成開始直後は、第1アーク蒸発源13に流れるアーク電流を180A、第2アーク蒸発源14に流れるアーク電流を120Aとし、基材1に最も近い位置において互いに接するA層およびB層の厚みの比がλa/λb=1.50を満たすようにA層およびB層を形成した。そして、A層およびB層の形成の進行に伴って、第1アーク蒸発源13に流れるアーク電流については段階的に減少させるとともに、第2アーク蒸発源14に流れるアーク電流については段階的に増加させることによって、λa/λbの値を段階的に減少させながら、A層およびB層をそれぞれ1層ずつ交互に順次積層していった。そして、被覆膜の表面に最も近い位置において互いに接するA層およびB層の形成時においては、第1アーク蒸発源13に流れるアーク電流を120A、第2アーク蒸発源14に流れるアーク電流を180Aとして、λa/λb=0.67を満たすA層およびB層を形成した。
Figure 0005382580
(比較例12)
図4に示す回転テーブル11に基材1をセットするとともに、第1アーク蒸発源13としてAl0.55Ti0.4Si0.05ターゲットをセットし、第2アーク蒸発源14および第3アーク蒸発源15としてはそれぞれ何もセットしなかった。
その後は、実施例1と同様の方法により基材上に4.0μmの厚みのAl0.55Ti0.4Si0.05Nの単層からなる被覆膜を形成し、表面被覆切削工具として、エンドミル、ドリルおよびフライス加工用スローアウェイチップをそれぞれ作製した。
(比較例13)
比較例13の表面被覆切削工具は、比較例12の被覆膜の組成をAl0.7Cr0.3Nにしたことを除き、比較例12と同様の方法により作製した。
実施例2〜15および比較例1〜13の表面被覆切削工具について、実施例1と同様にして、切削試験を行ない、表面被覆切削工具の寿命の評価を行なった。その評価結果を表2に示す。
Figure 0005382580
表2に示すように、実施例1〜実施例15の表面被覆切削工具は、比較例1〜比較例13の表面被覆切削工具と比べて、高速加工および/またはドライ加工である上記の(i)〜(iii)の切削試験においていずれも長寿命であって、高速加工およびドライ加工のいずれにも十分に対応することができることが確認された。
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 基材、2 被覆膜、3 A層、4 B層、10 カソードアークイオンプレーティング装置、11 回転テーブル、12 ヒータ、13 第1アーク蒸発源、14 第2アーク蒸発源、15 第3アーク蒸発源、16 ガス導入口。

Claims (7)

  1. 基材と、
    前記基材上に形成された被覆膜とを備え、
    前記被覆膜は、AlaTibSicN(ただし、0.3≦b≦0.65、0.02≦c≦
    0.15、a+b+c=1)からなるA層と、AldCreN(ただし、0.2≦e≦0.5、d+e=1)からなるB層とがそれぞれ交互に積層されて構成されており、
    前記A層の厚みをλaとし、前記B層の厚みをλbとすると、
    互いに接している前記A層および前記B層の厚みの比であるλa/λbの値は、前記基材に最も近い位置においては1.0λa/λb≦1.7であり、前記基材側から前記被覆膜の表面側に向かって連続的および/または段階的に減少し、前記被覆膜の表面に最も近い位置においては0.6≦λa/λb≦1.0であり、
    前記被覆膜は、X線回析における回析強度が、被覆膜の基材側では(200)面で最大ピークを示し、被覆膜の表面側では(111)面で最大ピークを示すことを特徴とする、表面被覆切削工具。
  2. 前記A層の厚みλaおよび前記B層の厚みλbはそれぞれ、0.5nm以上50nm以下であることを特徴とする、請求項に記載の表面被覆切削工具。
  3. 前記A層の組成は、AlaTibSicN(ただし、0.35≦b≦0.5、0.04≦
    c≦0.1、a+b+c=1)であることを特徴とする、請求項1または2に記載の表面被覆切削工具。
  4. 前記B層の組成は、AldCreN(ただし、0.25≦e≦0.4、d+e=1)であることを特徴とする、請求項1〜のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  5. 前記被覆膜上には、表面保護膜が形成されており、
    前記表面保護膜の組成は、AlxTiySizCN(ただし、0.35≦y≦0.65、
    0.02≦z≦0.15、x+y+z=1)であることを特徴とする、請求項1〜のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  6. 前記被覆膜は、物理蒸着法により形成されることを特徴とする、請求項1〜のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  7. 前記基材は、超硬合金、サーメット、高速度鋼、セラミックス、立方晶型窒化硼素焼結体、またはダイヤモンド焼結体からなる基材のいずれかであることを特徴とする、請求項1〜のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
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