以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態に係る振動抑制装置100は、例えば、機械から発生した振動を地面に伝えないようにする防振台や、地面からの微細な振動を精密機械などに伝えないようにする除振台として用いられるものである。
振動抑制装置100は、図1及び図2に示されるように、基礎Bと、その基礎Bから所定距離離間して配置される振動抑制対象部Sとの間に配置されるものであって、図面視で上下方向に当たる鉛直方向(第1方向)に伸縮可能で、自然状態において前記基礎Bと前記振動抑制対象部Sとを所定距離離間させて保つとともに、前記基礎Bから前記振動抑制対象部Sへの振動を主として絶縁する振動絶縁機構SPと、前記基礎Bから前記振動抑制対象部Sへの振動を主として減衰する振動減衰機構と、前記振動絶縁機構SPとともに、前記振動抑制対象部Sを前記基礎Bに対して支持する弾性リンク機構7と、を備えたものである。ここで説明の便宜上、図面視で下側の平板を基礎B、上側の平板を振動抑制対象部Sとしている。
前記振動絶縁機構SPは、前記基礎B及び前記振動抑制対象部Sの中央部に設けてあり、後述する弾性リンク機構7に組み込んで取り付けられている単一の第1コイルスプリングSPである。この第1コイルスプリングSPが、主として前記基礎Bに対して前記振動抑制対象部Sを支持するようにばね定数やコイルの線径などを選定してある。
前記振動減衰機構8は、後述する弾性リンク機構7の回転動作が生じるヒンジに設けてある回転ダンパ8である。
前記弾性リンク機構7は、第2方向の対角線上の頂点を弾性体72によって接続してある四辺形リンクSQと、前記四辺形リンクSQの弾性体72が接続されていない各頂点をそれぞれ前記基礎Bと前記振動抑制対象部Sに別々に連結するスライド機構73A、73Bとから構成してある。
前記四辺形リンクSQは、一対の弾性リンク要素71からなり、各弾性リンク要素71は各々が対向するように設けてある。本実施形態では特に、弾性リンク要素71は、対称になるように配置してある。前記弾性リンク要素71は、前記基礎B及び前記弾性体72とに両端部を回転可能に接続される第1弾性リンク部材711と、前記振動抑制対象部Sと前期弾性体72とに両端部を回転可能に接続される第2弾性リンク部材722とによって構成してある。
前記弾性体72は、2本の第2方向を伸縮方向とする第2コイルスプリング721からなり、前記四辺形リンクSQに設けてあるガイド機構722に取り付けてある。これらの第2コイルスプリング721は、予め伸ばして取り付けてあり、自然状態において四辺形リンクSQを内側へ引っ張ることによって、弾性リンク機構7が前記基礎Bと、前記振動抑制対象部Sとを離間させるように鉛直方向に力を作用させるよう構成してある。
前記ガイド機構722は、前記四辺形リンクSQの第2方向の各頂点に取り付けてある2つの貫通穴を有した1対の保持部材7221と、各保持部の貫通穴に挿入され、第2方向に延びる2本の円柱部材7222とから構成してある。このような案内機構722に、前記第2コイルスプリング721は、前記円柱部材を中心に挿入されて、外側を這わせるようにしてあり、両端部が前記保持部材に固定されて、四辺形リンクSQの変形に伴って、伸縮するように構成してある。従って、前記第2コイルスプリング721は前記第2方向にのみ伸縮するように案内されることになる。
前記スライド機構73は、前記四辺形リンクSQを前記基礎B及び前記振動抑制対象部Sに対して連結して、前記基礎B及び前記振動抑制対象部Sがせん断方向に自由に移動できるようにするためのものである。具体的には、スライド機構73A、73Bは、図に示すように前記基礎Bに紙面左手前側から右奥側へ斜めに取り付けてある第1リニアガイド731Aと、前記振動対象部に紙面右手前側から左奥側へ斜めに取り付けてある第2リニアガイド731Bとによって構成してある。従って、図3に示すように振動抑制対象部Sから見ると、第1リニアガイド731Aと第2リニアガイド731Bはねじれの位置で直角に交差するように設けてある。第1リニアガイド731Aと第2リニアガイド732Bには、それぞれ第1スライダ732Aと第2スライダ732Bが設けてあり、それらのスライダ732A、732Bに前記四辺形リンクSQを取り付けてある。
また、それぞれのスライダ732A、732Bの間には前述した第1コイルスプリングSPが取り付けられており、その第1コイルスプリングSPの内側には鉛直方向に延びるボールスプラインBSPが設けてあり、スライダ732A、732B同士を鉛直方向に接離できるように連結してある。
従って、前記弾性リンク機構7は、鉛直方向に変位するとともに、他の方向へは自由に移動できる。つまり、鉛直方向にのみ力を作用させつつ、他の方向にはほとんど抵抗がないので、振動抑制に関する特性にはほとんど影響を与えないようにすることができる。
次に、前記弾性リンク機構7の動作について説明する。図4には、前記振動抑制対象部Sが載置されて自然状態にあるときの弾性リンク機構7の模式図を示してある。
図4の模式図に示されるように、前記弾性体72は、予め伸ばした状態で取り付けてあるので、四辺形リンクSQを内側へ引っ張り込むように四辺形リンクSQの接続点に第2方向へ力Fを作用させる。この接続点への力Fは、弾性リンク部材と、前記弾性体72とが鋭角θをなしているので、弾性リンク部材が延びる方向へ分解される力の大きさはF/cosθとなる。そして、基礎B及び振動抑制対象部Sとの接続点において、斜めに作用している力F/cosθのうち、鉛直方向に作用する力の大きさは、Ftanθとなる。ここで、弾性リンク要素71は線対称に配置されているので、各弾性リンク要素71から基礎B及び振動抑制対象部Sに対して第2方向に作用する力は打ち消しあうことになり、鉛直方向にだけ力を作用させることができる。
図5に基礎Bと振動抑制対象部Sとの離間距離が大きくなった場合の弾性リンク機構7の模式図を示す。基礎Bと振動抑制対象部Sとの離間距離が大きくなると、四辺形リンクSQは鉛直方向に細長く変形するので、前記弾性リンク要素71と前記弾性体72とがなす鋭角θは自然状態のものと比べて大きくなる。それに応じて、前記弾性体72の伸びは小さくなるため、接続点に作用する力Fは小さくなるが、鉛直方向に作用する力Ftanθのうち、tanθの成分のほうが大きく働くため、鉛直方向に作用する力Ftanθは大きくなる。つまり、基礎Bと振動抑制対象部Sとの離間距離が大きくなると、前記第1コイルスプリングSPが鉛直方向に作用させる力は、元の自然状態に戻すように小さくなるのに対して、弾性リンク機構7が鉛直方向に作用させる力は、逆により離間させるように大きくなる。
図6に基礎Bと振動抑制対象部Sとの離間距離が小さくなった場合の弾性リンク機構7の模式図を示す。基礎Bと振動抑制対象部Sとの離間距離が大きくなると、四辺形リンクSQは第2方向に細長く変形するので、前記弾性リンク要素71と前記弾性体72とがなす鋭角θは自然状態のものと比べて小さくなる。従って、鉛直方向に作用する力Ftanθはtanθの値が小さくなるので、Ftanθも小さくなる。つまり、基礎Bと振動抑制対象部Sとの離間距離が小さくなると、前記第1コイルスプリングSPが鉛直方向に作用させる力は、元の自然状態に戻すように大きくなるのに対して、弾性リンク機構7が鉛直方向に作用させる力は、逆により離間させるように小さくなる。
上述したような前記弾性リンク機構7の鉛直方向への挙動を直感的に説明すると、弾性リンク要素71が基礎B及び振動抑制対象部Sに作用させる斜め方向の力F/cosθの向きは、基礎Bと振動抑制対象部Sの離間距離が大きくなるほど、鉛直方向と一致する。従って、基礎Bと振動抑制対象部Sの離間距離が大きくなるのに伴って、前記弾性リンク機構7が基礎Bと振動抑制対象部Sとを離間させるように鉛直方向に作用させる力が大きくなることになる。
言い換えると、図7に示すように前記第1コイルスプリングSPが正のばね定数を有しているのに対して、前記弾性リンク機構7の鉛直方向のばね定数は、負のばね定数を有しているため、それらを足し合わせた系全体のばね定数を小さくすることができる。なお、本明細書におけるばね定数とは、定常的に振動している状態でのばね特性を示す動ばね定数を含んだ概念である。すなわち、静的なつりあい状態だけでなく、動的に変化している状態においても前記弾性リンク機構7から上述したような効果を得ることができる。
ところで、図7に示される弾性リンク機構7の鉛直方向のばね定数は略線形となっているが、弾性リンク機構7から鉛直方向に働く力はFtanθで表されるので、基礎Bと振動抑制対象部Sとの間の離間距離に対して通常は非線形性を有したばね特性になる。
弾性リンク機構7の鉛直方向のばね特性を線形性を有したものにするには、弾性体72の自然状態における初期変位を以下のように設定すればよい。
弾性リンク要素71の交差点から弾性体72との接続点までの長さ、つまり、本実施形態では弾性リンク部材の長さをL/2、弾性体72の自然長をl0とすると、弾性体72のたわみδは式(1)のようになる。
従って、弾性リンク機構7が鉛直方向に作用させる力の大きさは式(2)のように表される。
このとき、弾性リンク機構7のばね定数はθで微分して式(3)のように表される
このばね定数が常に一定値を取れば、ばね特性は線形性を有することになるので、θ1=θ+α、θ2=θ―αとなる角度について式(4)を満たせばよい。
式(4)を具体的に記述すると式(5)のようになる。
この式(5)に式(1)を代入してLによって規格化すると式(6)のような無次元の係数を得ることができる。
この式(6)に基づいて計算を行うと、弾性リンク機構7の鉛直方向のばね特性が線形性を有する場合には、自然状態でのたわみδを用いたδ/Lが0.58となる。本実施形態でもδ/Lが0.58の近傍になるように、リンクの長さL、弾性体72の自然長l0、初期のたわみ量δを設定してあり、容易にばね特性の設計や設定が行えるようにしてある。
このように、本実施形態の振動抑制装置100によれば、弾性リンク機構7は前記第1コイルスプリングSPが変位に対して自然状態に戻ろうとするのとは逆向きに力の大きさを変化させるので、第1コイルスプリングSPが正のばね定数を有しているのに対して、前記弾性リンク機構7は鉛直方向に負のばね定数を有していることになる。従って、系全体のばね定数としては、正のばね定数と負のばね定数が足し合わされるので、第1コイルスプリングSP単体の場合に比べてばね定数を小さくすることができる。さらに、ばね定数が小さくなるということは、系の固有振動数を低下させることになるので、振動をカットオフできる周波数の帯域をより広くすることができ、振動抑制に関する特性をより向上させることができる。
また、第1コイルスプリングSP単体でばね定数を小さくしようとすると、線径が小さくなりすぎるために応力が過大になって耐久性の面で問題が生じたり、荷重に対する変位量が大きくなりすぎ、振動抑制装置100としての使用に問題が生じたりするが、前記弾性リンク機構7を用いることによって、第1コイルスプリングSPにそのような問題を生じさせずに系全体の固有振動数を下げることが可能となる。
加えて、前記弾性リンク機構7は、鉛直方向に対称性を有して構成してあるので、鉛直方向のみに力が作用させることができる。さらに、スライド機構73によって前記弾性リンク機構7は基礎Bと振動抑制対象部Sに取り付けられているので、基礎Bと振動抑制対象部Sはせん断方向に自由に移動することができる。これらのことから、前記弾性リンク機構7は鉛直方向の振動抑制に関する特性にのみ影響を与えることができ、他の方向にはほとんど影響を与えない。よって、それぞれの方向の振動抑制に関する特性を独立に設定することが可能となる。
次に別の実施形態の振動抑制装置100について説明する。この実施形態では図8に示すように弾性リンク要素71をそれぞれ第2方向に離間させて設けて弾性リンク機構7としたものである。このようなものであれば、弾性体72の初期のたわみδを十分に大きく取ることができるようになり、弾性体72や弾性リンク機構7の調整を行いやすくなる。
また、図9の弾性リンク機構7の模式図に示すように、弾性リンク要素71がXリンク機構を構成するものであっても構わない。より具体的には、弾性リンク機構7は、一方の弾性リンク要素71が、前記基礎Bと前記振動抑制対象部Sとに両端部を前記鋭角θ画形成される面内において回転可能かつ前記第2方向にスライド可能に連結され、もう一方の弾性リンク要素71が、前記基礎Bと前記振動抑制対象部Sとに両端部を回転可能に連結され、一端又は両端を前記第2方向にスライド可能に連結されており、それぞれの弾性リンク要素71は、その交差部において回転可能に連結されている。このようなものであっても、鉛直方向にのみFtanθだけ力を作用させることができ、負のばね定数を持つように構成することができる。
さらに、図10に示すように弾性リンク機構7が概略3角形リンクを構成するものであっても構わない。具体的には、前記弾性リンク要素71が、前記基礎Bと前記振動抑制対象部Sとに両端部を前記鋭角θが形成される面内において回転可能に連結され、前記基礎B側の端部あるいは前記振動抑制対象部S側の端部が前記第2方向にスライド可能に連結されるものである。このようなものでも、鉛直方向にFtanθの大きさの力を作用させることができ、負のばね定数を有することになる。
次に、さらに別の実施形態について説明する。この実施形態の振動抑制装置100は、図11に示すように前記振動抑制対象部Sを前記基礎Bに対して並行移動のみ可能に支持する一対のリンク機構2A、2Bを備えたものである。リンク機構2A、2Bの蝶番211A、221A、211B、221Bには、前記振動抑制対象部Sが前記基礎Bに対して水平方向に移動した場合に、前記振動抑制対象部Sが元の初期位置(静止状態における位置)に戻るように、ねじりばね(図示しない)が設けてある。より具体的には、ねじりばねは前記蝶番211A、221A、211B、221Bの開いている角度が初期状態を保つように、すなわち、その角度が図11のように略直角になるように取り付けてある。さらに、水平方向の振動をより減衰することができるように、回転ダンパ(図示しない)も、ねじりばねと同様に設けてある。
このようなものであれば、前記振動抑制対象部Sを傾かせる(ロッキングする)ことなく並行移動のみを可能にし、3次元方向に自由に運動させているので、例えば、振動抑制対象部Sに載置されているだけのものであっても、転倒することをなくし、より振動抑制に関する特性を向上させることができる。特に前記スライド機構の剛性を大きくすることが困難な場合には、リニアガイド73A、73Bがあったとしても振動抑制対象部Sの傾きを防ぐことが難しいので、特に効果がある。
また、前記リニアガイド73A、73Bのストロークの分だけ振動抑制対象部Sは水平方向に移動できるとともに、前記リンク機構2A、2Bの蝶番211A、221A、211B、221Bに取り付けられたねじりばねによって、元の初期状態の位置に戻ることができる。言い換えると、コイルスプリングSPはリニアガイド73A、73Bに取り付けられおり、水平方向にはほとんどたわむことがないので、コイルスプリングSPの水平方向の剛性や、変形限界量に関わりなく、振動抑制対象部Sを水平方向に移動させるストロークを大きく設定し、ねじりばねの剛性を調節することによって元の初期位置に振動抑制対象部Sが戻るようにすることができる。
ここで、振動絶縁機構SPや弾性リンク機構7をこのリンク機構に取り付けて、リンク機構の変形を介して機能を発揮するように構成しても構わない。このようなものであれば、振動抑制装置100をユニット化することができるので、取り付けの手間を省くことができたり、コストを削減したりすることができるようになる。
以下の説明ではこのリンク機構について詳述する。
<リンク機構を設けることについての技術背景>
振動抑制装置の一種として、例えば、家屋や文化財などを地震の被害から守るために様々な免震装置が考案されている。多くの免震装置は、地震の振動成分は統計的には鉛直方向よりも水平方向のほうが大きく、また、物体の転倒に寄与する成分としても水平方向のほうが大きいため、水平二次元の振動成分にだけ対応したものとなっている。例えば、特開2005−127063号公報に示される免震装置は、基礎と免震構造物との間に複数の積層ゴムと、免震構造物のロッキングを抑制するロッキング抑制装置とを設けている。積層ゴムは、鉛直方向に薄い鉄板とゴムシートとを交互に積層して密着させることによって、鉛直方向には硬く、あまり変形しないようにし、水平方向には柔らかく、大きく変形するように構成されている。このような構造のため、積層ゴムは大きな引っ張り荷重がかかると破断あるいは剥離が起こってしまう。このため、ロッキング抑制装置は、各積層ゴムの鉛直方向の変形量を平準化し、免震構造物のロッキングによって積層ゴムに大きな引張り荷重がかかるのを防ぐように設けられている。このように、特許文献1に示される免震装置は、水平二次元の振動は免震構造物に伝えないようにすることができるが、鉛直方向にはあまり変形しないので、鉛直方向の振動を免震構造物に直接伝えてしまう。
しかしながら、新潟県中越地震などに代表されるように、鉛直方向の振動成分が無視できないほど大きい地震も発生しており、特許文献1に示されるような水平二次元の振動だけに対応した免震装置では、十分な振動抑制を行うことができない虞がある
<リンク機構を用いた振動抑制装置が解決しようとする課題>
本発明は上述したような問題点を解決するためになされたものであり、省スペースで三次元の振動に対応しつつ、外部から力やエネルギーを必要とすることがない、あるいはほとんど必要とすることなく振動に応じた制振することができ、振動抑制対象部の傾きを生じさせないことによって、例えば、振動抑制対象部の上に載置される物体の転倒を防ぐことができる振動抑制装置を提供することを目的とする。
<課題を解決するための手段>
すなわち本願発明に係る振動抑制装置は、基礎と、その基礎から所定距離離間して配置される振動抑制対象部との間に設けられて、三次元の振動を絶縁又は減衰する振動抑制装置であって、自然状態において前記基礎と前記振動抑制対象部とを所定距離離間させて保つとともに、前記振動抑制対象部への振動を主として絶縁する前記振動絶縁機構と、前記振動抑制対象部への振動を主として減衰する振動減衰機構と、振動抑制対象部を基礎に対して並行移動のみ可能に支持する一対のリンク機構と、を備えており、前記リンク機構が、前記基礎に別体あるいは一体に設けられた第1リンクと、前記振動抑制対象部に別体あるいは一体に設けられた第2リンクと、前記第1リンク及び前記第2リンクを平行移動可能に接続する中間リンク構造体と、を具備したものであり、各リンク機構における前記第1リンクと前記第2リンクとで形成される仮想面が、前記基礎及び前記振動抑制対象部に対し傾動可能に設けられているとともに、各リンク機構の仮想面が交差するように構成されていることを特徴とする。
このようなものであれば、リンク機構によって振動抑制対象部が基礎に対して三次元の並進運動を行うのを許容しつつ、振動抑制対象部の傾きを生じさせないようにすることができ、水平二次元の振動のみならず、鉛直方向の振動をも抑制できるように振動絶縁機構を設けることができる。その結果、三次元の振動に対応した振動抑制を行うことができ、例えば、振動抑制対象部の上に載置されただけの物体であっても、転倒することを好適に防ぐことができる。
ここで、基礎とは振動の発生源となっているもののことをいい、例えば、本発明によって、地震による建物の振動を抑制する場合には、地面あるいは地面に直接設けられた部材が基礎に相当し、機械によって起こる振動を地面に伝えないようにする場合には、その機械あるいは機械が載置されている部材が基礎に相当する。
振動抑制対象部が基礎に対して三次元の並進運動を行うのを許容しつつ、振動抑制対象部に傾きを生じさせないようにすることができる前記リンク機構の具体的な態様としては、前記中間リンク構造体が、前記第1リンクと前記第2リンクとの間に平行に設けられる第3リンクと、前記第1リンクと前記第3リンクとに両端部を回転可能に連結される1対の平行な第1連結リンクと、前記第2リンクと前記第3リンクとに両端部を回転可能に連結される1対の平行な第2連結リンクと、によって構成されるものであればよい。
振動抑制対象部が基礎に対して三次元の並進運動を行うのを許容しつつ、振動抑制対象部に傾きを生じさせないようにすることができるリンク機構の別の態様としては、前記中間リンク構造体が、前記第1リンクと前記第2リンクとに両端部を回転可能に連結される一対の平行な第3連結リンクであり、前記第1リンクあるいは前記第2リンクが、第1リンクが延伸する方向に前記基礎あるいは前記振動抑制対象部に対してスライド可能に取り付けられているものであっても構わない。
リンク機構のさらに別の態様としては、前記中間リンク構造体は、前記第1リンクと前記第2リンクとに両端部を回転可能かつ前記第2リンクが延伸する方向にスライド可能に連結される第4連結リンクと、前記第1リンクと前記第2リンクとに回転可能に両端部を連結され、一端あるいは両端を前記第2リンクが延伸する方向にスライド可能に連結される第5連結リンクと、によって構成され、前記第4連結リンクと前記第5連結リンクは、同じ長さを有し、その交差部にて各々を回転可能に連結しているものでも構わない。
前記振動減衰機構を構成する部材の設置数を減らし、三次元の減衰を行うには、前記リンク機構に前記振動減衰機構が取り付けられているものであればよい。
また、リンク機構にさらに振動絶縁機構を取り付けたものであれば、振動抑制装置をユニット化することができ、複数の部材を基礎と振動抑制対象部との間に取り付ける手間を省くことができる。
簡単な構成でコストを抑えつつ、三次元の振動絶縁を行えるようにするには前記振動絶縁機構が、1つのコイルスプリングであり、その1つのコイルスプリングによって自然状態において前記基礎と前記振動抑制対象部とを所定距離離間させて保つとともに、前記振動抑制対象部への振動を絶縁するものであればよい。このとき、三次元各方向の固有振動数が1Hz以下になるように構成されていれば、特に地震動を有効に絶縁することができる。
リンク機構に省スペースで取り付けることができ、振動抑制装置に十分な減衰力を持たせて、好適に振動を減衰させるためには、前記減衰要素が前記リンク機構に取り付けられるロータリーダンパを備えたものであればよい。また、通常、3方向の減衰係数を独立に設定するには、ダンパの軸方向以外の変位によって減衰が発生しないようにスライド機構などを設ける必要があるが、3つのロータリーダンパをリンク機構の回転が生じる箇所に取り付けるだけで、3方向の減衰係数を独立に設定することができる。
前記第1リンクと前記第2リンクとで形成される仮想面を、前記基礎と前記振動抑制対象部とに対し傾動可能にする具体的な態様としては、前記第1リンクが前記基礎に回転可能に設けられているとともに、前記第2リンクが前記振動抑制対象部に回転可能に設けられているものであればよい。
前記第1リンクと前記第2リンクとで形成される仮想面を、前記基礎と前記振動抑制対象部とに対し傾動可能にする別の態様としては、前記第1リンク又は第2リンクが前記基礎に回転可能に設けられているとともに、前記第1リンクと前記第3リンクが形成する面と、前記第2リンクと前記第3リンクが形成する面との交わる角度が変化するものであっても構わない。
一度、振動抑制装置を設置してからでも容易に振動抑制装置全体の減衰係数や弾性や系の固有振動数を変化させることができ、セミアクティブ制御による振動の制振が行えるようにするには、振動抑制装置が、減衰係数が可変の減衰要素又は前記減衰要素に直列に接続された弾性要素を具備するセミアクティブ制御機構を備えたものであることが好ましい。
振動抑制装置を、例えば、免震装置として用いる場合などには地震によって停電が起こったとしても振動制御を行えるほうが好ましい。前記減衰要素がMRダンパであれば、乾電池や蓄電池程度の電力で、その減衰係数を変化させることができ、停電時でもセミアクティブ制御による制振を容易に行うことができる。
振動抑制対象部の上に載置される物体の重量が変化しても、常に一定の高さに支持しつつ、振動抑制を行うためには、前記振動絶縁機構が空気ばねによって構成されるものであればよい。
<リンク機構を用いた振動抑制装置の効果>
このように、リンク機構を用いた振動抑制装置によれば、振動抑制対象部の傾きを防止し省スペースで三次元の振動抑制を行うことができ、振動抑制を好適に行うことができるので、例えば、振動抑制対象部に載置されただけの物体であっても転倒しないようにすることができる。
<リンク機構を用いた振動抑制装置を実施するための最良の形態>
以下、リンク機構の第1実施形態を図面を参照して説明する。
本実施形態に係る振動抑制装置100は、例えば、文化財や美術品が地震などによって転倒するのを防ぎ、破損することを防ぐ展示台や、機械から発生した振動を地面に伝えないようにする防振台や、地面からの微細な振動を精密機械などに伝えないようにする除振台などとして用いられるものである。図12に示すように、基礎Bと、その基礎Bから所定距離離間して配置される振動抑制対象部Sとの間に設けられるものであって、2つのリンク機構2A、2Bと、自然状態において、前記振動抑制対象部Sを前記基礎Bから所定距離離間した状態に保ち、前記振動抑制対象部Sへの振動を絶縁する振動絶縁機構SPと、前記振動抑制対象部Sへの振動を減衰する振動減衰機構Dと、系の減衰係数や弾性や固有振動数を変化させるセミアクティブ制御機構3A、3Bとを備えている。さらに、本実施形態では、前記基礎B及び前記振動抑制対象部Sの振動を検出する振動検出手段(図示しない)と、前記セミアクティブ制御機構3A、3Bの減衰係数を制御する制御部Cとが設けてある。ここで説明の便宜上、図面視で下側の平板及びその平板から突出した平板を基礎B、上側の平板を振動抑制対象部Sとする。
前記振動絶縁機構SPは、基礎Bと振動抑制対象部Bの中央部に設けてある1つのコイルスプリングSPのみで構成してある。前記コイルスプリングSPは、鉛直方向及び水平方向の固有振動数が1Hzよりも小さく、かつ、前記振動抑制対象部Sと自重を支えられるようにその弾性を決めている。また、コイルスプリングSPは鉛直方向だけでなく、水平方向にも変形し、その復元力によって元の自然状態の位置に戻るようにしてある。このコイルスプリングSPの両端の座巻部は、溶接によって基礎B及び振動抑制対象部Sに固定してある。このようにコイルスプリングSPを固定しておくことによって、前記振動抑制対象部Sが大きく移動した場合などに、前記コイルスプリングSPが倒れてしまい、自然状態の位置に戻ることができなくなるのを防ぐことができる。すなわち、コイルスプリングSPの座巻部はリンク機構2A、2Bによって平行を維持された基礎B及び振動抑制対象部Sに対して常に垂直に固定されているので、コイルスプリングSPは振動抑制対象部Sの水平方向の動きに対して水平方向に変形し、自然状態に戻る方向へ復元力を生じさせることができる。また、溶接以外にも、クランプによって座巻部を固定するものであっても構わない。
前記振動減衰機構Dは、各リンク機構2A、2Bに取り付けられたロータリーダンパ26A、26Bによって構成してある。ロータリーダンパ26A、26Bは後述するリンク機構2A、2Bにおいて、各リンクの回転運動が生じる節に設けてあり、前記振動抑制対象部Sの水平方向及び鉛直方向の振動を減衰する。
前記2つのリンク機構2A、2Bは、図13に示すように、基礎B及び振動抑制対象部Sの間に設けられ、後述する第2リンク22A、22Bがそれぞれ直交する向きになるように配置してある。ここで図13においては、振動絶縁機構及びセミアクティブ制御機構は省略してある。
前記リンク機構2A、2Bは、前記基礎Bに設けられる第1リンク21A、21Bと、その第1リンク21A、21Bと平行に前記振動抑制対象部Sに設けられる第2リンク22A、22Bと、前記第1リンク21A、21Bと前記第2リンク22A、22Bとの間に平行に設けられる第3リンク23A、23Bと、前記第1リンク21A、21Bと前記第3リンク23A、23Bとに両端を回転可能に連結される1対の平行な第1連結リンク24A、24Bと、前記第2リンク22A、22Bと前記第3リンク23A、23Bとに両端を回転可能に連結される1対の平行な第2連結リンク25A、25Bと、によって構成している。各リンクの連結部分にはベアリングとロータリーダンパ26A、26Bが設けてある。なお、第1連結リンク24A、24Bと第2連結リンク25A、25Bは一直線上に並ばないようにしている。従って、図面視で上下方向に2つの異なる形状の平行四辺形がそれぞれのリンクによって形成されることになる。
前記第1リンク21A、21B及び前記第2リンク22A、22Bについて詳述すると、前記第1リンク21A、21Bと前記第2リンク22A、22Bとが、他方向に設けられたリンク機構2B、2Aの第2リンクが延伸する方向に相対変位するように、前記第1リンク21A、21Bは前記基礎Bに、前記第2リンク22A、22Bは振動抑制対象部Sに蝶番211A、221A、211B、221Bによって回転可能に連結してある。換言すると、リンク機構2A、2Bの第1リンク21A、21Bと第2リンク22A、22Bが形成する平面が他方のリンク機構2B、2Aの第2リンク22B、22Aが延伸する方向へ傾くことができるように、前記第1リンク21A、21Bは前記基礎Bに、前記第2リンク22A、22Bは振動抑制対象部Sに蝶番211A、221A、211B、221Bによって回転可能に連結してある。
次に、セミアクティブ制御機構3A、3Bについて詳述する。
セミアクティブ制御機構3A、3Bは、振動抑制装置100全体の系の減衰係数や弾性、固有振動数を制御し、前記振動絶縁機構SP及び前記振動減衰機構Dの働きを助勢するものである。なお、図12では、2方向のみセミアクティブ制御機構3A、3Bを図示しているが、図示しない紙面奥方向にもセミアクティブ制御機構が設けてある。従って、鉛直に1方向と水平に2方向の計3方向にセミアクティブ制御機構をそれぞれ設けている。
図12に示されるように、前記セミアクティブ制御機構3A、3Bは、弾性要素であるコイルスプリング33A、33Bと、減衰要素であるMRダンパとから構成してある。第1MRダンパ31A,31Bは減衰係数を制御する。コイルスプリング33A、33Bは第2MRダンパ32A、32Bと直列に配置してあるので、このMRダンパによってばね定数を制御できる。このセミアクティブ制御機構によって、ばね定数と減衰係数をほぼ独立に設定することができる。なお、図12では、セミアクティブ制御機構3A、3Bは、説明の便宜上基礎B及び振動抑制部の周辺部に設けられている図になっているが、基礎B及び振動抑制対象部Sの中央に設けるものであっても構わない。
前記MRダンパ(Magneto-Rheological Fluid Damper)は機能性材料であるMR流体(磁性流体)を用いたオイルダンパの一種で、オイル中に強磁性体粒子が分散しており、電磁石に電流を流して磁場を与えることで強磁性体粒子が鎖状のクラスターを形成し、オイルが流れにくくなって減衰係数が大きくすることができる。なお、MRダンパの減衰力は速度比例成分と摩擦力型成分から成り立っているが、ここでは、摩擦力型成分も含めて等価な速度比例の減衰係数として考える。
前記制御部Cは、少なくとも、ハードウェア構成としては、CPU、メモリ、各種ドライバ回路などを具備したものであり、前記メモリに記憶させたプログラムに従って、前記CPUや周辺機器が協動することで種々の機能を発揮する。しかして、本実施形態においては、図16の機能ブロック図に示すように、少なくとも、基礎B及び振動抑制対象部Sの振動に関する情報を取得する振動情報取得部C1と、振動抑制装置100の振動制御に関するパラメータを記憶するパラメータ記憶部C2と、前記第1MRダンパ31A、31B及び第2MRダンパ32A、32Bの減衰係数の大きさを決定し、制御する減衰係数制御部C3としての機能を発揮するように構成してある。
前記振動情報取得部C1は、基礎B及び振動抑制対象部Sの変位量や、発生している振動の振動数を前記振動検出手段から取得あるいは算出するものである。前記パラメータ記憶部C2は、前記振動絶縁機構のばね定数、前記振動減衰機構による減衰係数、前記セミアクティブ制御機構3A、3Bのばね定数や減衰係数及び、振動抑制装置100全体の系の固有振動数を記憶している。前記減衰係数制御部C3は、前記振動情報取得部C1及び前記パラメータ記憶部C2の情報から制振を行うのに適切な減衰係数を決定し、前記第1MRダンパ31A、31B及び第2MRダンパ32A、32Bの減衰係数を制御するものである。
次に、構成された2つのリンク機構2A、2Bの動作について、図14及び図15を参照して説明する。なお、図14及び図15においてはセミアクティブ制御機構3A、3Bを省略している。
図14は、振動が起こっておらず、リンク機構2A、2Bに変形が起こっていない状態を示し、図15は振動抑制対象部Sが図面視で右下方向に移動した状態を示す。基礎Bから振動が発生し、前記振動抑制対象部Sが図面視で右下方向に移動しようとすると、それぞれのリンク機構2A、2Bでは、図面視で下方向の移動を許容するために、前記第1連結リンク24A、24B及び前記第2連結リンク25A、25Bは平行四辺形が形成される面内で倒伏する。また図面視で奥行き方向に配置されたリンク機構2Bは前記振動抑制対象部Sの移動を許容するために、蝶番211A、221A、211B、221Bによって回転し、図面視で右方向へ倒伏する。このようにして、前記振動抑制対象部Sは2つのリンク機構2A、2Bによって傾きを生じずに水平を保ったまま、三次元の並進運動のみを行うことができるようになる。
次に、前記セミアクティブ制御機構3A、3Bの制御について説明する。
一般的には、基礎Bの振動を振動抑制対象部Sに伝達しないためには、振動抑制対象部Sを基礎Bから浮かせばよい。すなわち、ダンパの減衰係数を小さくし、ばねを柔らかくすればよい。しかし、その場合は振動抑制対象部Sに力が働くと大きく振動し、停止するまで長い時間がかかる。そこで、力加振や残留振動の場合は、ダンパの減衰係数を大きくし、ばねを硬くすればよい。したがって、前記振動検出手段によって基礎Bと振動抑制対象部Sの振動を検出し、前記振動情報取得部C1が算出した振動の状態に応じて、前記減衰係数制御部C3は、各MRダンパの減衰係数を制御することによって、系全体の減衰係数やばね定数の大きさを調整する。また、基礎Bの振動や加振力が定常的な場合は、共振を防ぐために、ばね定数を変化させればよい。すなわち、前記パラメータ記憶部C2に記憶されている固有振動数と検出した振動の振動数が近い場合には、前記減衰係数制御部C3は、ばね定数を変化させて系の固有振動数を変化させることによって、共振を防ぐ。
このように、本実施形態に係る振動抑制装置100によれば、2つのリンク機構2A、2Bによって、前記振動抑制対象部Sを前記基礎Bに対して傾きを生じさせず、水平を保つことができ、基礎Bと振動抑制対象部Sの間に大きなスペースを生じることなく設けられた絶縁機構と減衰機構によって三次元の振動を抑制することができる。また、前記セミアクティブ制御機構3A、3Bは、減衰係数とばね定数が可変であることから、例えば、振動抑制対象部Sの振動が静定する時間を短縮することや、系の固有振動数を変化させることによって共振を防ぐことができる。このように、振動抑制対象部Sを水平に保つことができ、振動に応じて適切な振動抑制を行うことができるので、例えば、振動抑制対象部Sの上に載置されているだけの物体であっても転倒することを好適に防ぐことができる。
また、MRダンパは乾電池や蓄電池程度の小さい電力でその減衰係数を制御することができるので、停電が起こった場合でも制振を行うことが容易にできる。さらに、減衰係数を変化させるというセミアクティブ制御によって制振をおこなうので、アクティブ制振に比べて、大きなエネルギーを必要としない。
リンク機構2A、2Bの連結部分にはロータリーダンパ26A、26Bが設けてあるので、省スペースで振動抑制装置100に減衰を与えることができ、リンク機構2A、2Bの変形によって三次元の振動を好適に減衰することができる。また、図において、蝶番211Aは、前記振動抑制対象部Sの紙面奥方向への水平移動によってのみ回転が生じ、蝶番211Bは紙面左右方向への水平移動によってのみ回転が生じる。リンク機構21A、21Bの各連結部は主に前記振動抑制対象部Sの鉛直方向への移動によって回転が生じるので、これら蝶番211A、211B、連結部にロータリーダンパを1つずつ設けることにより、前記振動減衰機構の3方向の減衰係数を独立に決めることもできる。
なお、図12では直動型のMRダンパ31A、31Bを用いているが、回転型の可変ダンパを26A、26Bに用いると、31A、31Bを省略することができる。また、MRダンパ31A、31Bを用いると、ロータリーダンパ26A、26Bを省略することもできる。
次に第2実施形態について説明する。以下前記実施形態と同じ部材に対しては同一の符号を付すこととする。
図17に第2実施形態の模式的機器構成図を示す。第1実施形態とは、セミアクティブ制御機構を用いていない点が異なる。第2実施形態においては、振動絶縁機構は、基礎B及び振動抑制対象部Sの中央に両端を固定された1つのコイルスプリングSPのみであり、振動減衰機構は、各リンク機構2A、2Bに取り付けられたロータリーダンパ26A、26Bによって構成してある。
第2実施形態においては、リンク機構2A、2Bによって振動抑制対象部Sが水平を保ったまま移動することができ、基礎Bからの振動を前記コイルスプリングSPは鉛直方向及び水平方向に柔らかく変形することによって、振動抑制対象部Sに振動を伝えないようにすることができる。振動絶縁機構であるコイルスプリングSPの弾性や前記振動減衰機構であるロータリーダンパ26A、26Bの減衰係数を適切に設定することによって、振動抑制対象部Sを所定の位置に保持しつつ、三次元の振動を絶縁し減衰するパッシブ制振を行うことができる。また、セミアクティブ制御機構を省略することによって低コスト化を図ることができる。
さらに、振動抑制対象部Sがどの方向に移動しても、少なくとも前記リンク機構2A、2Bのいずれかにおいては平行四辺形の変形が生じ、リンクに回転が発生するので、ロータリーダンパ26A、26Bをそれぞれのリンク機構2A、2Bに1つずつ取り付けるだけでも三次元の減衰を得ることができる。従って、1つのコイルスプリングSPと2つのロータリーダンパ26A、26Bだけという非常に簡素な構成によっても、三次元の振動抑制を行うことができる。
なお、この第2実施形態を基本構成として、減衰係数を可変にするには、図23に示すように、基礎Bと振動抑制対象部Sの間に取り付けられる減衰係数が可変の減衰要素D1、D2を設けるものであっても構わない。
次に第3実施形態について説明する。
図18、図19に第3実施形態の模式図を示す。なお図18、図19では振動絶縁機構である1つのコイルスプリングを図示していない。2つのリンク機構4A、4Bは、直交するように2方向に設けてある。第3実施形態のリンク機構4A、4Bは、基礎Bに設けられる第1リンク41A、41Bと、その第1リンク41A、41Bと平行に前記振動抑制対象部Bに設けられる第2リンク42A、42Bと、前記第1リンク41A、41Bと前記第2リンク42A、42Bとに両端をヒンジ44A、44Bによって回転可能に連結される一対の平行な第3連結リンク43A、43Bと、によって平行リンクを形成するように構成されている。また、第1リンク41A、41B機構は第1リンク41A、41Bが延伸する方向に基礎Bに対してスライド可能に設けられている。第1リンク41A、41B及び第2リンク42A、42Bは、それぞれ第2リンク42A、42Bが延伸する方向の軸回りに回転できるように、面外回転機構5A、5Bによって基礎B及び振動抑制対象部Bに連結してある。
前記面外回転機構5A、5Bは、前記第1リンク41A、41Bをスライド可能かつ回転可能に基礎Bに連結する基礎側機構51A、51Bと前記第2リンク42A、42Bを振動抑制対象部Bに回転可能に連結する振動抑制対象部側機構52A、52Bとからなる。
前記基礎側機構51A、51Bは、基礎Bから突出させた2つの基礎側軸支持部511A、511Bと、前記基礎側軸支持部511A、511Bに両端を支持され、前記第2リンク42A、42Bと平行の向きに設けてある細円柱状の基礎側軸522A,522Bと、概略円柱状の中心に貫通孔を有し、その貫通孔に前記基礎側軸を通して取り付けられ、前記第1リンク41A、41Bと連結される2つの基礎側連結部513A、513Bと、から構成してある。また、基礎側連結部513A、513Bは、前記基礎側軸522A,522Bの軸方向にスライド可能であるとともに、周方向にも回転可能なように設けてある。
前記振動抑制対象部側機構52A、52Bは、振動抑制対象部Bから突出させた2つの振動抑制対象部側支持部521A、521Bと、前記振動抑制対象部側支持部521A、521Bに2点支持され、前記第2リンク42A、42Bと平行に設けてある細円柱状の振動抑制対象部側軸522A、522Bと、前記振動抑制対象部側軸522A、522Bの両端に回転可能に設けられ、前記第2リンク42A、42Bと連結される振動抑制対象部側連結部523A、523Bと、から構成してある。
さらに、リンク機構4A、4Bは、その連結部分であるヒンジ44A、44Bや連結部523A、523Bに振動減衰機構としてロータリーダンパ46A、46Bを設けてあり、振動抑制対象部Bの振動を減衰するようにしてある。
このリンク機構4A、4Bの動作について簡単に説明する。
図19は、前記振動抑制対象部Bが図面視で右下方向に移動した場合、すなわち、水平方向と鉛直方向に移動した場合のリンク機構4A、4Bの変形を示す。水平方向の動きに対して、紙面正面に設けられたリンク機構4A、4Bは、水平方向にスライド移動するとともに、紙面奥方向に設けられたリンク機構4Bは、面外回転機構5Bによって前記第1リンク41Bと前記第2リンク42Bの形成する面が水平面に交わる角度が変化するように回転する。また、鉛直方向の移動に対しては、第1リンク41A、41B、第2リンク42A、42B、第3リンクによって形成される平行リンクが倒伏する。このようにして、前記振動抑制対象部Bが基礎Bに対して水平を常に保つことができる。
また、水平方向及び鉛直方向の変位に応じて、ヒンジ44A、44Bや連結部523A、523Bには回転運動が生じる。その運動をロータリーダンパ46A、46Bによって減衰するので、三次元の振動を減衰することができる。図18において、前記面外回転機構5Aは前記振動抑制対象部Sの紙面奥方向への水平移動によってのみ回転し、面外回転機構5Bは紙面左右方向への水平移動によってのみ回転し、一対の第3連結リンク43A、44Aのヒンジ部44Aは鉛直方向への移動によってのみ回転が生じる。従って、これらの3箇所にロータリーダンパを1つずつ設けることによって、3次元の減衰を得ることができ、さらに3方向の減衰係数をそれぞれ独立に設定することができる。
次に第4実施形態について説明する。
図20、図21に第4実施形態の模式図を示す。なお図20、図21では振動絶縁機構を図示していない。2つのリンク機構6A、6Bは、直交するように2方向に設けてある。第4実施形態のリンク機構6A、6Bは、前記基礎Bに設けられる第1リンク61A、61Bと、その第1リンク61A、61Bと平行に前記振動抑制対象部Sに設けられる第2リンク62A、62Bと、前記第1リンク61A、61Bと前記第2リンク62A、62Bとに両端を回転可能かつ前記第2リンク62A、62Bが延伸する方向にスライド可能に連結される第4連結リンク64A、64Bと、前記第1リンク61A、61Bと前記第2リンク62A、62Bとに回転可能に両端を連結され、一端が第2リンク62A、62Bが延伸する方向にスライド可能に連結される第5連結リンク65A、65Bと、面外回転機構5A、5Bによって構成してある。
前記第1リンク61A、61Bには2つの、前記第2リンク62A、62Bには1つのガイドローラ用の溝67A、67Bが形成してある。前記第4連結リンク64A、64Bと前記第5連結リンク65A、65Bは、同じ長さを有し、その概略中央にて各々を回転可能に連結して交差させてある。ここで、前記第4連結リンク64A、64Bと前記第5連結リンク65A、65Bとが交差する点をリンクの長さを所定の比率で分割する点にし、第1リンク61A、61Bと第2リンク62A、62Bとが平行を保つように構成しても構わない。例えば、リンクの長さが2:1などに分割される点において交差させてもよい。前記第4連結リンク64A、64Bの両端と、前記第5連結リンク65A、65Bの基礎B側の端部は前記溝67A、67Bに連結され、ガイドローラによってリンクが延伸する方向に移動することができる。
なお、面外回転機構5A、5Bについては、前記第3実施形態で説明した振動抑制対象部S側の機構の構成を、基礎Bにも同様に用いたものであるので、詳細な説明を省略する。
この実施形態では、振動減衰機構として面外回転機構5A、5Bの回転連結部523A、523Bにロータリーダンパ66A、66Bが取り付けてあり、さらに、第4連結リンク64A、64Bと第5連結リンク65A、65Bとを回転可能に連結する中央部にもロータリーダンパ661A、661Bを設けてある。
このリンク機構6A、6Bの動作について簡単に説明する。
図21は、前記振動抑制対象部Sが図面視で右下方向に移動した場合、すなわち、水平方向と鉛直方向に移動した場合のリンク機構6A、6Bの変形を示す。この実施形態においても、振動抑制対象部Sのリンク機構6A、6Bに対して垂直な水平方向の動きに対して、リンク機構6Bは倒伏することができ、鉛直方向の動きに対しては、ガイドローラによって第4連結リンク64A、64B及び第5連結リンク65A、65Bが移動し、第1リンク61A、61Bと第2リンク62A、62Bの平行を保ったまま、鉛直方向に縮むように変形する。
このようにして、振動抑制対象部Sの水平を維持し、ロータリーダンパ66A、66B、661A、661Bによって三次元の振動を減衰することができる。また、この第4実施形態でも、第3実施形態と同様の理由で、3方向の減衰係数を独立に設定することができる。
なお、リンク機構は前記実施形態に限られるものではない。
第1リンクが基礎に、第2リンクが振動抑制対象部に一体となって設けてあり、第1リンクと第2リンクによって形成される仮想面が傾動可能になっているものであっても構わない。
振動抑制装置は、三次元の振動を絶縁又は減衰することができるものであるので、基礎に対して振動抑制対象部が吊り下げられるように振動抑制装置を設けても構わないし、基礎と振動抑制対象部が水平方向に離間しているものの間に振動抑制装置が設けられていても構わない。
リンク機構の変形量を制限するストッパーを基礎と振動抑制対象部との間に設けておけば、第1連結リンクと第2連結リンクが一直線上に並ぶことによって、基礎と振動抑制対象部との間の距離が縮まらなくなるなどの不良を防ぐことができる。
前記振動絶縁機構が空気ばねによって構成されるものであっても構わない。この場合、振動抑制対象部に載置される物体の重量に応じて、空気ばねの空気量を調整するようにすることによって、振動抑制装置の高さを常に一定にすることができる。振動絶縁機構は、金属ばねやゴム系のばねであっても構わない。また振動絶縁機構が複数のコイルスプリングで構成してあるものでも構わない。減衰係数が可変の減衰要素としては、可変絞りのオイルダンパやエアーダンパであっても構わない。前記リンク機構に前記振動絶縁機構を取り付けたものであってもかまわない。このようなもので、さらに前記振動減衰機構もリンク機構に取り付けたものであれば、振動抑制装置をユニット化することができ、取付の手間を省くことができる。
セミアクティブ制御機構として、いくつかの弾性要素と減衰要素の組み合わせが可能である。たとえば、減衰係数が可変の減衰要素と弾性要素を並列に設けた並列部とし、並列部を直列に設けるものであっても構わない。
第1実施形態において、リンク機構が、第1リンクあるいは第2リンクが蝶番によって基礎又は振動抑制対象部に回転可能に設けられ、第3リンクが蝶番によって折りたためるように構成されており、第1リンクと第3リンクによって形成する面と第2リンクと第3リンクによって形成される面の交わる角度が変化するようなものであっても構わない。これらのようなものであっても、振動抑制対象部が基礎に対して姿勢変化するのを防ぎつつ三次元方向に並進運動させることができる。
第1実施形態において、第1リンク及び第2リンクは、蝶番によって回転可能に取り付けられていたが、第1リンクと第2リンクとが、他方向に設けられた第2リンクが延伸する方向に相対変位するのを許容できるものであれば構わない。
第1実施形態において、振動絶縁機構が第1リンクと第3リンクとの間、あるいは第2リンクと第3リンクとの間に設けられるものであっても構わない。また振動減衰機構として、鉛直方向の振動を減衰するためにダンパなどをそのまま鉛直方向に設けると、大きなスペースを必要とする場合がある。例えば、図22に示すようにリンク機構の第3リンクの端部と基礎との間を水平に連結するようにダンパDNを入れても、水平方向及び鉛直方向の振動を減衰することができる。つまり、振動抑制対象部の三次元の動きが、リンク機構の変形に現れている箇所と、基礎との間に振動減衰機構を設けても構わない。
<本発明のその他の変形実施形態について>
弾性リンク機構7は、第1方向にFtanθの力を作用させるものであれば、構わない。例えば、前述した弾性リンク機構7に、平行四辺形リンクを付加して、基礎と振動抑制対象部とを平行に移動させつつ、上下方向に移動するようにしても構わない。
より具体的には、図24に示されるように、振動抑制対象部Sを基礎Bに対して並行を保つためのリンク機構2である平行四辺形リンクにその2辺を利用して四辺形リンクSQを構成し、弾性体72を四辺形リンクSQに取り付けることによって弾性リンク機構7を組み込んで構成してもよい。すなわち、平行四辺形リンクの基礎側と振動抑制対象部側のヒンジに弾性リンク要素71の両端を仮想面内において回転可能に取り付けて、中間のヒンジ同士を弾性体によって連結することによってリンク機構2と弾性リンク機構7を一体とした機構にしてある。
このようなものであれば、リンク機構2と弾性リンク機構7を構成するためのリンクの本数を減らすことができ、構造を図11に記載した実施形態の振動抑制装置100に比べて格段に簡略化することができる。また、リンク機構2と弾性リンク機構7を組み合わせることによるユニット化の効果や、前述した構造の簡略化によって取り付けにかかる手間を小さくすることができ、また省スペースで取り付けることができるので、基礎と振動抑制対象部との間の空間が狭い場合でも好適に用いることができる。
図25にリンク機構2と弾性リンク機構7を一体にして組み合わせたリンクユニットLUを用いた振動抑制装置100を示す。この実施形態では、振動絶縁機構であるコイルスプリングSPと、振動抑制対象部Sを基礎Bに対して平行を保たせるとともにコイルスプリングSPの見かけのばね定数を小さくする1対のリンクユニットLUと、によって構成してある。前述した実施形態ではボールスプラインBSPによって基礎Bと振動抑制対象部Sは連結されていたが、この実施形態ではコイルスプリングSPが鉛直方向だけでなく、水平方向にも自在にたわむことができるように構成してある。つまり、リンクユニットLUによって振動抑制対象部Sは基礎Bに対して平行を保ちつつ、しかも3次元に自在に運動することができる。
このようなものであれば、振動抑制対象部Sを基礎Bに対して平行を保たせて載置される物体の転倒を防ぐ機能と、自重による沈み込み量を小さくしつつ、系全体のばね定数を小さくして固有振動数を小さくし、振動抑制に関する特性を向上させる機能と、を非常に簡単な構造と、少ない部品点数によって実現することができる。さらに、コイルスプリングSPが水平方向にも自在にたわむことができるようにしてあるので、水平方向に振動抑制対象部Sが移動しても、その水平方向の剛性によって振動抑制対象部Sは元の初期位置に戻る。従って、リンクユニットLUの蝶番に図11で示した実施形態のようにねじりばねを設ける必要がなく、部品点数を減らすことができる。
また、リンクユニットLUは振動抑制対象部Sの移動に伴ってその仮想面が傾動するように設けてあるので、弾性リンク機構7もその動きに合わせて力を与える方向を変化させる。つまり、弾性リンク機構7は鉛直方向のみでなく、他の水平方向にも影響を与えることができ、複数の方向に系全体のばね定数を変化させることができるようになる。したがって、通常であれば、3軸方向すべて弾性リンク機構を設けなくてはそれぞれの方向のばね定数を調節することができないところを、1つ又は2つでも調節することが可能となる。
加えて、図26に示すように、リンクユニットLUの構成の仕方としては、前述したような平行四辺形リンクのヒンジ部分に設けるのではなく、リンク自体に回転可能に取り付けるようにしてもよい。図25のように、リンクの中央部に弾性リンク要素71の両端を回転可能に取り付けることによって、リンクユニットの前述した機能を保ちながら、幅を小さくして、全体を小型化することができる。このようにすれば、よりユニット化の効果を得ることができる。
図27に、別の構成のリンクユニットLUの模式図を示す。このリンクユニットLUは、図18に示す振動抑制対象部Sと基礎Bとを並行に保つためのリンク機構4と、図10に示した三角形リンクを用いた弾性リンク機構7と、を組み合わせてユニット化したものである。より具体的には、リンク機構4の一辺を利用して、三角形リンクを形成して、弾性リンク機構7を構成してある。このようなものあっても、図24や図26に示されるリンクユニットLUと同じ効果を得ることができる。
また、図20に示されるリンク機構6に、水平方向に弾性体を設けて、図9に示される弾性リンク機構7を形成して同様にリンクユニットLUとしても構わない。このとき、弾性リンク機構としての機能を最も発揮させるには、変位が最も出る部分に弾性体を取り付けることが望ましいが、水平方向の変位が発生し、鋭角θをなすならば弾性体をXリンクのどこに取り付けても良い。他の形態の弾性リンク機構においても同様である。
振動抑制装置は、鉛直方向に設けられるものに限られない。例えば、水平に設置して水平方向の振動を抑制するようにして用いても構わない。弾性体を案内する案内機構はコイルスプリングの外側を覆う円筒であっても構わない。
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において様々な変形が可能である。