JP5378685B2 - グラム陰性菌におけるlpsの脱アシル化 - Google Patents

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Description

本件発明は、微生物学分野、特にグラム陰性LPSの合成及び修飾という生物学分野に関するものである。本発明はまた、医学分野、特に細菌性病原体に対するワクチン接種の分野にも関する。本発明はさらに、薬学的及び/又は獣医学的な目的、特に、百日咳菌(Bordetella pertussis)、パラ百日咳菌(Bordetella parapertussis)及び気管支敗血症菌(Bordetella bronchiseptica)などのグラム陰性菌に対するワクチンの調製に使用が可能な、グラム陰性菌、グラム陰性菌リポ多糖類(LPS)及びLPSを含む組成物にも関する。本発明はさらに、脱アシル化LPSを含有するワクチンを提供し、全細胞ワクチン及び無細胞ワクチンの調製における修飾及び解毒を施されたLPSの使用を提供するものである。
百日咳菌感染症は百日咳の病原因子であって、毎年の推定症例数は6000万件とされ、全世界で年間約355,000人が命を落としており(WHO)、特に小児と免疫力の弱い人々がその犠牲者となっている。抗生物質による治療が利用可能ではあるが(エリスロマイシン)、この疾患であると診断される頃には、細菌性毒素によって重篤な障害が発生してしまっている場合が多い。したがって、この疾患の予防が非常に重要となる。主なコントロール手段は、依然としてワクチン接種である。従来から、百日咳(pertussis)(「百日咳(whooping-cough)」)感染症に対するワクチンは、百日咳菌の全細胞をベースとするものであった。加熱処理、ホルマリン又はその他の手段により殺菌した全菌体を含む全細胞百日咳ワクチンは、一般的なワクチン接種プログラムに1950年代初頭から含まれている。
幼児における百日咳の予防には効果的である一方で、全細胞百日咳ワクチンを用いた予防接種は、小児においては、発熱、けいれん及び脳障害を含む、局所性、全身性及び神経性の反応を伴うものであった。小児における百日咳の予防接種後の副作用の大部分に、LPSが関与している。動物が細菌に感染している間、LPS又はそのリピドA部分は、Toll様受容体、主としてTLR−4との相互作用を通じて、先天性免疫系を活性化する。リピドAに対する宿主反応には、陽イオン性抗菌ペプチド、サイトカイン、ケモカイン及び付加的な免疫活性化分子の産生が含まれる。限定的な感染においては、リピドAに対する反応が細菌を除去する一助となるが、全身性敗血症においては、高いレベルの血中サイトカイン及び凝固促進活性により微小血管系が損傷する場合や、播種性血管内凝固症候群を伴うグラム陰性敗血症ショック症候群を促進する場合がある。
LPSに対する抗体によってある程度の防御が可能であることがマウスでの受動免疫実験で示されているものの、百日咳ワクチンにおけるLPSの防御的役割についての決定的証拠は何も得られていない。しかし、これに加えて、及びより重要なことに、ワクチン中のLPSの存在は、他の抗原に対する免疫応答を増大させることで、実際にアジュバント活性を提供するのである(K. Mills: Immunity to Bordetella pertussis. Microbes and Infection 3: 655-677 (2001))。
安全性への懸念は、ワクチンの摂取(uptake)に悪影響を及ぼし、百日咳菌由来の高度精製抗原で調製された無細胞百日咳ワクチンを開発する動機となった。近年では、いわゆる「全細胞ワクチン」すなわち「WCV」以外に、無細胞ワクチンすなわち「ACV」も数カ国で導入されてきている。
無細胞ワクチンには、1〜3又はそれ以上の病原体の抗原が含まれているのが普通である。百日咳菌抗原の場合は、以下のものが通常使用される:百日咳毒素(PT、通常は、免疫原性を保持したままでその毒性を破壊するための処理がされている)、線維状赤血球凝集素(FHA)、線毛及び69kDのタンパク質又はペルタクチン(Prn)。一般に、無細胞ワクチンの反応発生率は、全細胞ワクチンの反応発生率よりもかなり低い。無細胞ワクチンに付随する全身反応(発熱、嘔吐、不機嫌、食欲不振)及び局所反応(腫脹、発赤、熱感、圧痛、硬直、疼痛)の頻度は、かなり低いものである。しかし、無細胞ワクチンの防御免疫が全細胞ワクチンの防御作用に匹敵するものであるかどうかについては、臨床データに鑑みて、いまだに意見が分かれるところである。多くの研究においては全細胞ワクチンの防御作用のほうが大きいとされ、このことが、幼児における全細胞ワクチンの、まれではあるが重篤な副作用の危険性に勝るものであるかどうかに関しては、議論が継続中である。現在、無細胞ワクチンを最多で6回接種する、各種の予防接種案が試行されている。全細胞ワクチンは当初、最後の追加免疫が4〜6歳の間に行われる定期予防接種スケジュールに組み込まれて、5回接種されていた。無細胞百日咳ワクチンは、現在、10代での最終接種(ジフテリア・破傷風ワクチンと組み合わせたもの)を含めて6回接種することが推奨されている。無細胞ワクチンは、全細胞をベースにしたワクチンよりも安全だと思われるが、以前百日咳ワクチンに対してアレルギー反応を示したことのある小児には、どちらのワクチンも接種すべきではない。
百日咳全細胞ワクチンの副作用は、当該技術分野において、十分に立証されている(論評:S.H. Yeh: Pertussis: persistent pathogen, imperfect vaccines. Expert Rev. Vaccines 2: 113-127 (2003))。現在使用されている無細胞ワクチンは、こうした副作用を部分的には克服しているものの、これらのワクチンによりもたらされる防御免疫には依然として異論もあり、かなり改善の余地がある。重要なことに、モデルマウスにおいて、全細胞ワクチンは無細胞ワクチンよりも優れた長期防御作用を示しているのである(K. Mills: Immunity to Bordetella pertussis. Microbes and Infection 3: 655-677 (2001))。また、無細胞ワクチンのほうが製造コストが高く製造も困難であり、各種抗原の単離、高レベルの精製及び品質管理、並びにそうした抗原の、最適量・所望量での混合及び製剤が必要となってくる。百日咳菌、パラ百日咳菌、気管支敗血症菌及びその他のグラム陰性菌のより優れたワクチンが長年にわたって求められているのは、明らかである。
K. Mills: Immunity to Bordetella pertussis. Microbes and Infection 3: 655-677 (2001) S.H. Yeh: Pertussis: persistent pathogen, imperfect vaccines. Expert Rev. Vaccines 2: 113-127 (2003)
本件発明は、改良された百日咳ワクチンの調製方法及び手段を提供する。本発明は、新規ボルデテラタンパク質を開示している。これらの新規百日咳菌タンパク質、パラ百日咳菌タンパク質、及び気管支敗血症菌タンパク質、並びにこれらのタンパク質をコードするDNA分子を本発明にしたがって使用してリピドAを修飾し、それによって、少なくとも部分的に3−O−脱アシル化され、解毒されたLPSを含む、新規百日咳菌株、パラ百日咳菌株及び気管支敗血症菌株、並びにその他のグラム陰性菌細胞を提供する。本件発明は、部分的に3−O−脱アシル化されたLPSを含むボルデテラ菌種細菌細胞を含む、改良されたワクチン接種用組成物、及び、単離され、少なくとも部分的に3−O−脱アシル化されたLPS又はインビトロで3−O−脱アシル化されたLPSを含む医薬組成物をも提供する。本発明はさらに、3−O−脱アシル化されたリピドA及び/又はLPS分子に対して作製された特異抗体も提供する。
グラム陰性菌外膜の主要な成分であるリポ多糖(LPS)は、透過障壁としての外膜の機能及び補体媒介性細胞溶解への耐性に重要であることが知られており(Raetz, C. R. H., and Whitfield, C. (2002) Annu. Rev. Biochem. 71, 635-700にて論評されている)、共有結合した3つのドメインである、リピドA、コア部分、及びO−抗原からなっている。リピドAは、疎水性膜アンカーを形成し、LPSの内毒素活性に関与している。大腸菌においてリピドAは、2位、3位、2’位及び3’位で、エステル結合又はアミド結合を介してR−3−ヒドロキシミリスチン酸残基で置換されている、1,4’−ビスリン酸化β−1,6−結合グルコサミン二糖類からなっている。二次ラウロイル基及びミリストイル基は、2’位及び3’位で、R−3−ヒドロキシミリストイルのヒドロキシル基をそれぞれ置換している(図1A)。リン酸基、グルコサミン二糖類、並びに正しい数及び長さのアシル鎖がリピドAの生物学的活性に重要であることが、以前の研究により示されている(Raetz, C. R. H., and Whitfield, C. (2002) Annu. Rev. Biochem. 71, 635-700;Loppnow, H., Brade, H., Durrbaum, I., Dinarello, C. A., Kusumoto, S., Rietschel, E. T., and Flad, H. D. (1989) J. Immunol. 142, 3229-3238;Steeghs, L., Berns, M., ten Hove, J., de Jong, A., Roholl, P., van Alphen, L., Tommassen, J., and van der Ley, P. (2002) Cell. Microbiol. 4, 599-611)。
2つのリン酸の置換パターン並びにアシル鎖の数及び長さにわずかな変異が認められるものの、リピドAの基本構造がグラム陰性菌間でよく保存されているのは、理にかなったことである(Nikaido, H., and Vaara, M. (1987) in Escherichia coli and Salmonella: Cellular and Molecular Biology (Neidhardt, F. C., ed) Vol. 1, pp. 7-22, American Society for Microbiology, Washington, D. C.;Caroff, M., Karibian, D., Cavaillon, J-M., and Haeffner-Cavaillon, N. (2002) Microbes Infect. 4, 915-926)。リピドAの別の修飾(図1B)は、サルモネラ属菌のネズミチフス菌(Salmonella enterica serovar Typhimurium (S. Typhimurium))において、二成分制御系PhoP/PhoQによって制御されている(Guo, L., Lim, K. B., Gunn, J. S., Bainbridge, B., Darveau, R. P., Hackett, M., and Miller, S. I. (1997) Science 276, 250-253;Guo, L., Lim, K. B., Poduje, C. M., Daniel, M., Gunn, J. S., Hackett, M., and Miller, S. I. (1998) Cell 95, 189-198)。Mg2+の低いレベルに反応して、センサーキザーゼPhoQがリン酸化し、それによって転写活性因子のPhoPを活性化し、これが40の異なる遺伝子の活性化又は抑制へとつながっていく(Guo, L., Lim, K. B., Gunn, J. S., Bainbridge, B., Darveau, R. P., Hackett, M., and Miller, S. I. (1997) Science 276, 250-253;Gunn, J. S., Belden, W. J., Miller, S. I. (1998) Microb. Pathog. 25, 77-90)。リピドAの修飾に関与する第二の制御系はPmrA/PmrB二成分系であり、これはそれ自体がPhoP/PhoQによって制御されている(Gunn, J. S., Lim, K. B., Krueger, J., Kim, K., Guo, L., Hackett, M., and Miller, S. I. (1998) Mol. Microbiol. 27, 1171-1182;Gunn, J. S., Ryan, S. S., Van Velkinburgh, J. C., Ernst, R. K., and Miller, S. I. (2000) Infect. Immun. 68, 6139-6146)。PhoP/PhoQ系に変異を有する変異体は、毒性の低下及び抗菌ペプチドに対する感受性の増大を示す(Miller, S. I., Kukral, A. M., and Mekalanos, J. J. (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 86, 5054-5058;Gunn, J. S., and Miller, S. I. (1996) J. Bacteriol. 178, 6857-6864)。PhoP/PhoQ及びPmrA/PmrB系の相同体が、大腸菌、ペスト菌(Yersinia pestis)、及び緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)を含む他のグラム陰性菌で同定されている(Ernst, R. K., Guina, T., and Miller, S. I. (1999) J. Infect. Dis. 179, Suppl. 2, 326-330;Ernst, R. K., Yi, E. C., Guo, L., Lim, K. B., Burns, J. L., Hackett, M., and Miller, S. I. (1999) Science 286, 1561-1565)。
現在までに、数種類のリピドA修飾酵素が同定されている。ネズミチフス菌における、1つ又は2つの4−アミノ−4−デオキシ−L−アラビノース(L-Ara4N)部分による1及び4’リン酸基の置換は、酵素ArnTに依存することがわかっている(Trent, M. S., Ribeiro, A. A., Lin, S., Cotter, R. J., and Raetz, C. R. H. (2001) J. Biol. Chem. 276, 43122-43131)。最近、Pmrcタンパク質が、サルモネラ菌において、リピドAへのホスホエタノールアミン(pEtN)の付加を仲介していることがわかった(Lee, H., Hsu, F. F., Turk, J., and Groisman, E. A. (2004) J. Bacteriol. 186, 4124-4133)。LpxOと命名された他の酵素は、リピドAのO依存性ヒドロキシル化に触媒作用を及ぼし(Gibbons, H. S., Lin, S., Cotter, R. J., and Raetz C. R. H. (2000) J. Biol. Chem. 275, 32940-32949)、リピドA1−ホスホターゼは、リゾビウム レグミノサルム(Rhizobium leguminosarum)中で同定されている(Karbarz, M. J., Kalb, S. R., Cotter, R. J., and Raetz, C. R. H. (2003) J. Biol. Chem. 278, 39269-39279)。これらの酵素はすべて内膜又はペリプラズム空間内部に存在すると考えられている(Trent, M. S., Ribeiro, A. A., Lin, S., Cotter, R. J., and Raetz, C. R. H. (2001) J. Biol. Chem. 276, 43122-43131;Lee, H., Hsu, F. F., Turk, J., and Groisman, E. A. (2004) J. Bacteriol. 186, 4124-4133;Gibbons, H. S., Lin, S., Cotter, R. J., and Raetz C. R. H. (2000) J. Biol. Chem. 275, 32940-32949;Karbarz, M. J., Kalb, S. R., Cotter, R. J., and Raetz, C. R. H. (2003) J. Biol. Chem. 278, 39269-39279)。最近、新種の外膜局在リピドA修飾酵素が発見された。その1つがパルミトイルトランスフェラーゼPagPである(Bishop, R. E., Gibbons, H. S., Guina, T., Trent, M. S., Miller, S. I., and Raetz, C. R. H. (2000) EMBO J. 19, 5071-5080)。リピドAのパルミトイル化は、陽イオン性抗菌ペプチドに対する耐性の増大につながる(Guo, L., Lim, K. B., Poduje, C. M., Daniel, M., Gunn, J. S., Hackett, M., and Miller, S. I. (1998) Cell 95, 189-198)。さらに、パルミトイル化リピドAは、LPSによるヒト細胞の活性化に拮抗する(Tanamoto, K., and Azumi, S. (2000) J. Immunol. 164, 3149-3156)。PagPの相同体は、ネズミチフス菌、百日咳菌、気管支敗血症、パラ百日咳菌、在郷軍人病菌(Legionella pneumophila)、大腸菌、及びペスト菌など、他のものにおいても発見されている(Bishop, R. E., Gibbons, H. S., Guina, T., Trent, M. S., Miller, S. I., and Raetz, C. R. H. (2000) EMBO J. 19, 5071-5080;Robey, M., O'Connell, W., and Cianciotto, N. P. (2001) Infect. Immun. 69, 4276-4286)。
他の外膜局在リピドA修飾酵素に、3−O−脱アシル化酵素のPagLがある(Trent, M. S., Pabich, W., Raetz, C. R. H., and Miller, S. I.(2001) J. Biol. Chem. 276, 9083-9092)。この酵素はネズミチフス菌で発見され、リピドAの3位でエステル結合を加水分解し、それによって一次(primary)3−ヒドロキシミリストイル部分を放出することが示されている(Trent, M. S., Pabich, W., Raetz, C. R. H., and Miller, S. I. (2001) J. Biol. Chem. 276, 9083-9092)。これまで、近縁種であるチフス菌(Salmonella typhi)及びパラチフス菌(Salmonella paratyphi)以外には、pagLの明らかな相同体を非冗長又は未完成の微生物データベースで見つけることができなかった(Trent, M. S., Pabich, W., Raetz, C. R. H., and Miller, S. I. (2001) J. Biol. Chem. 276, 9083-9092)。しかし、緑膿菌(Ernst, R. K., Yi, E. C., Guo, L., Lim, K. B., Burns, J. L., Hackett, M., and Miller, S. I. (1999) Science 286, 1561-1565)、R.レグミノサルム菌(R. leguminosarum)(Bhat, U. R., Forsberg, L. S., and Carlson, R. W. (1994) J. Biol. Chem. 269, 14402-14410)、ヘリコバクター ピロリ菌(Helicobacter pylori)(Moran, A. P., Lindner, B., and Walsh, E. J. (1997) J. Bacteriol. 179, 6453-6463)、及びポルヒロモナス ジンジバリス菌(Porhyromonas gingivalis)(Kumada, H., Haishima, Y., Umemoto, T., and Tanamoto, K. (1995) J. Bacteriol. 177, 2098-2106)などの他のグラム陰性菌のなかには、3−O−脱アシル化リピドA種を含有するものもあり、このことは、これらの生物がPagLと類似した活性を有する酵素を含有していることを示唆している。
本件発明は、様々なグラム陰性菌におけるpagL相同体の同定について開示している。各種タンパク質と進歩したバイオインフォマティクスツールとの間の限定的な配列類似性を用いて、これらの相同体及びその活性部位残基を同定した。本明細書において本発明者らは、様々なグラム陰性菌における異種発現のためのpagL相同体の存在及び使用について記載している。サルモネラ菌種由来の既知のpagL遺伝子との全体的な配列類似性はやや低いものの、C末端領域において、保存されたPagLドメインを識別することができた。
先行技術に記載されているのはサルモネラ菌種由来のPagLタンパク質のみである。また、開示されているのは大腸菌のみにおけるpagLの異種発現であり(Trent, M. S., Pabich, W., Raetz, C. R. H., and Miller, S. I.(2001) J. Biol. Chem. 276, 9083-9092)、その結果として脱アシル化LPSが生じている。他のグラム陰性菌におけるpagL相同体の存在に関するデータは、当該技術分野においてまったく入手できない。他のグラム陰性菌におけるpagLの相同的発現、他のグラム陰性菌においてPagLが機能しているかどうか、他のグラム陰性菌におけるリピドA/LPS組成物、細菌生存率、毒性及び免疫原性に対するPagLの作用などは、すべて未知の因子である。大腸菌におけるサルモネラpagLの異種発現に関する限られたデータのみが入手可能であって、そうしたデータにおいては、グラム陰性菌感染の自然な状態を反映することのない、組換えヒトTLR4を発現する細胞中で、TLR応答が測定されている(Kawasaki et al., J Biol Chem. 2004)。
本件発明の明細書は、緑膿菌及び気管支敗血症菌のpagL相同体の活性を開示している。かかる活性は大腸菌及びボルデテラ菌種での異種発現により確認されており、活性の結果としてリピドAからR−3−ヒドロキシミリストイル基が除去されている。LPSの生物学的活性に対する作用を、ヒトマクロファージ細胞で分析した。PagLによる脱アシル化の際に、大腸菌リピドA(百日咳菌リピドAではなく)には別の修飾が施されたが、これは内在性パルミトイルトランスフェラーゼPagPの活性の結果として生じたことだった。さらに、活性部位残基として、保存された一組のヒスチジン−セリンを同定した。このことは、セリン加水分解酵素に似た触媒機構を示唆するものである。最後に、LPS基質上でのPagLのインビトロ活性が示されている。PagLの生物学的機能を本発明にしたがって応用して、グラム陰性菌の病原性、毒性、及び免疫原性を修飾してもよい。こうした修飾は、細菌の全菌体、又はそれから誘導可能な部分、断片又は化合物上で発生する場合がある。本発明は、最終的に、本発明に記載のグラム陰性菌の全細胞、又はこうした細菌から入手可能な及び/又は単離した、修飾したリピドA/LPS、若しくはインビトロで修飾したLPS/リピドA分子を含む、グラム陰性菌感染症に対する新規ワクチンを提供する。
定義:
「配列同一性」は、本明細書において、2以上のアミノ酸(ポリペプチド又はタンパク質)配列又は2以上の核酸(ポリヌクレオチド)配列の間の、かかる配列を比較することによって決定される関係として定義されている。当該技術において「同一性」は、アミノ酸配列間又は核酸配列間の配列関連性の程度も意味し、配列関連性の程度は、場合によってはそうした配列間のマッチによって決定される。2つのアミノ酸配列間の「類似性」は、あるポリペプチドのアミノ酸配列及びその保存されたアミノ酸置換と、第二のポリペプチドの配列とを比較することによって、決定される。「同一性」及び「類似性」は、公知の方法によって容易に計算可能である。そうした方法としては、Computational Molecular Biology, Lesk, A. M., ed., Oxford University Press, New York, 1988; Biocomputing: Informatics and Genome Projects, Smith, D. W., ed., Academic Press, New York, 1993; Computer Analysis of Sequence Data, Part I, Griffin, A. M., and Griffin, H. G., eds., Humana Press, New Jersey, 1994; Sequence Analysis in Molecular Biology, von Heine, G., Academic Press, 1987; and Sequence Analysis Primer, Gribskov, M. and Devereux, J., eds., M Stockton Press, New York, 1991; 及び Carillo, H., and Lipman, D., SIAM J. Applied Math., 48:1073 (1988)に記載の方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
同一性を決定する好ましい方法は、テストする配列間の一致が最大となるように設計されている。同一性及び類似性を決定する方法は、公的に入手可能なコンピュータプログラム中で体系化されている。2つの配列間の同一性及び類似性を決定する好ましいコンピュータプログラムの方法には、例えば、GCGプログラムパッケージ(Devereux, J., et al., Nucleic Acids Research 12 (1): 387 (1984))、BestFit、BLASTP、BLASTN及びFASTA(Altschul, S. F. et al., J. Mol. Biol. 215:403-410 (1990))などがある。BLASTXプログラムは、NCBI及びその他の情報源から公的に入手可能である(BLAST Manual, Altschul, S., et al., NCBI NLM NIH Bethesda, MD 20894; Altschul, S., et al., J. Mol. Biol. 215:403-410 (1990))。周知のSmith Watermanアルゴリズムも、同一性の決定に用いてもよい。
ポリペプチド配列比較用の好ましいパラメータとして、以下のものがある:アルゴリズム:Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol. 48:443-453 (1970);比較行列:BLOSSUM62 from Hentikoff and Hentikoff, Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 89:10915-10919 (1992);ギャップペナルティー:12;及びギャップ長ペナルティー:4。これらのパラメータに有用なプログラムは、ウィスコンシン州マディソンに所在のGenetics Computer Group社から「Oギャップ」プログラムとして公的に入手可能である。前述のパラメータは、アミノ酸比較用のデフォルトパラメータである(エンドギャップについてはペナルティーなし)。核酸比較用の好ましいパラメータとして、以下のものがある:アルゴリズム:Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol. 48:443-453 (1970);比較行列:マッチ=+10、ミスマッチ=0;ギャップペナルティー:50;及びギャップ長ペナルティー:3。ウィスコンシン州マディソンに所在のGenetics Computer Group社からギャッププログラムとして入手可能である。上記のものは、核酸比較用のデフォルトパラメータである。
当業者には明らかなように、アミノ酸類似性の程度を決定する際に、当業者が任意でいわゆる「同類(conservative)」アミノ酸置換も考慮に入れる場合がある。同類アミノ酸置換とは、類似した側鎖を有する残基の互換性を指す。例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸のグループとしては、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、及びイソロイシンがあり、脂肪族−ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸のグループとしては、セリン及びスレオニンがあり、アミド含有側鎖を有するアミノ酸のグループとしては、アスパラギン及びグルタミンがあり、芳香族側鎖を有するアミノ酸のグループとしては、フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファンがあり、塩基性側鎖を有するアミノ酸のグループとしては、リジン、アルギニン、及びヒスチジンがあり、酸性側鎖を有するアミノ酸のグループとしては、アスパラギン酸及びグルタミン酸があり、硫黄含有側鎖を有するアミノ酸のグループとしては、システイン及びメチオニンがある。好ましい同類アミノ酸置換基としては、バリン−ロイシン−イソロイシン、フェニルアラニン−チロシン、リジン−アルギニン、アラニン−バリン、及びアスパラギン−グルタミンがある。本明細書で開示するアミノ酸配列の置換変異型は、開示された配列中の少なくとも1つの残基が除去され、別の残基がその場所に挿入されたものである。かかるアミノ酸の変更が同類であることが好ましい。天然アミノ酸それぞれについて好ましい同類置換は以下の通りである:Ala→ser;Arg→lys;Asn→gln又はhis;Asp→glu;Cys→ser又はala;Gln→asn;Glu→asp;Gly→pro;His→asn又はgln;Ile→leu又はval;Leu→ile又はval;Lys→arg;gln又はglu;Met→leu又はile;Phe→met、leu又はtyr;Ser→thr;Thr→ser;Trp→tyr;Tyr→trp又はphe;及びVal→ile又はleu。
本発明のDNA断片が別のDNA断片に対して機能的な関係に置かれている場合、前記断片は「作用可能な状態で結合している」。例えば、プロモーター又はエンハンサーが、あるコード配列の転写を刺激する場合、かかるプロモーター又はエンハンサーは前記コード配列に作用可能な状態で結合している。シグナル配列用のDNAが、あるポリペプチドの分泌に関与するタンパク質前駆体として発現する場合、前記DNAはそのポリペプチドをコードするDNAに作用可能な状態で結合している。一般に、作用可能な状態で結合しているDNA配列は隣接しており、シグナル配列の場合は、隣接し、かつ読取相(reading phase)内にある。しかし、エンハンサーは、そのエンハンサーが転写を制御しているコード配列に隣接している必要はない。結合は、都合のよい制限部位、又はその代わりに挿入されたアダブター若しくはリンカーでのライゲーションにより完成する。
適切なプロモーター配列の選択は、一般に、そのDNA断片を発現させるために選択された宿主細胞によって異なる。好適なプロモーター配列としては、当該技術分野で周知の原核細胞プロモーター及び真核細胞プロモーターが例示できる(例えば、上記Sambrook and Russell, 2001参照)。転写調節配列は一般的に、宿主によって認識される異種エンハンサー又はプロモーターを含んでいる。適切なプロモーターの選択は宿主によって異なるが、trp、lac及びファージプロモーター、tRNAプロモーター、並びに糖分解酵素プロモーターのようなプロモーターが周知であり、利用可能である(例えば、上記Sambrook and Russell, 2001参照)。発現ベクターは複製システムを含んでおり、また、ポリペプチドコード断片用の挿入部位を備えた転写及び翻訳調節配列を用いることができる。細胞株及び発現ベクターの効果的な組み合わせの例は、Sambrook and Russell(2001、上記)、及びMetzger et al. (1988) Nature 334: 31-36に記載されている。例えば、好適な発現ベクターを、S.セレビシエ(S.cerevisiae)などの酵母、Sf9細胞などの昆虫細胞、CHO細胞などの哺乳動物細胞、及び大腸菌又はボルデテラ菌種などの細菌細胞中で発現させることができる。
第一の実施形態において、本件発明は、リピドA3−O−脱アシル化酵素活性を有し、そのため、配列番号1に対して少なくとも25、30、40、50、60、70、80、90、95、98又は99%のアミノ酸同一性を示す新規ポリペプチドを提供する。前記ポリペプチドは、インビボについては実施例3に例示され、インビトロについては実施例9に記されている、本明細書に記載の検定により測定されたリピドA3−O−脱アシル化酵素活性を示す。リピドA3−O−脱アシル化酵素活性を有するポリペプチドは、配列番号1に記載のポリペプチド、気管支敗血症菌及びパラ百日咳菌のPagLタンパク質、又はその一部やその変異体、又はリピドA3−O−脱アシル化酵素活性を有する配列番号1の一部を少なくとも含む融合タンパク質であることが好ましい。
別の実施形態において本件発明は、配列番号1に対して少なくとも25、30、40、50、60、70、80、90、95、98又は99%のアミノ酸同一性を示すポリペプチドをコードする核酸配列を含む。本発明の核酸配列は、それぞれ気管支敗血症菌及びパラ百日咳菌に由来のpagL遺伝子である配列番号2又は配列番号3に記載の核酸配列に対して50、60、70、80、90、95、98又は99%の同一性を示すことが好ましい。かかる核酸配列は、完全長コード配列であってもよく、又はそれに由来するコード若しくは非コード(若しくは相補)部分、断片、若しくはオリゴヌクレオチドであってもよい。
本発明はさらに、本発明に記載の核酸配列を含む、及び/又は配列番号1に対して少なくとも25、30、40、50、60、70、80、90、95、98又は99%のアミノ酸同一性を示すポリペプチドをコードする、DNAベクターを含むものである。本発明のDNAベクターは当該技術分野で周知のいかなるベクターであってもよく、例えば、プラスミド、ファージ、ファージミド、コスミド、人工染色体、(相同)ゲノム組み込み用ベクターなどが例示されるが、これらに限定されるものではない。かかるベクターは、抗生物質への耐性、蛍光標識、分子タグなどをもたらす、選択可能なマーカーなどのマーカーを含んでいてもよい。本発明に記載の核酸のクローニング方法及びコードされたタンパク質の発現方法は、当業者には周知であり、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning, Cold Spring Harbor Laboratory Press, NY 1989や、Ausubel F. et al., ed., Current Protocols in Molecular Biology, Wiley Interscience, 2004に記されている。本件発明のベクターは、プロモーター、エンハンサー及びターミネーターなどの調節配列に核酸配列が作用可能な状態で結合しており、そのため、遺伝子が発現し、メッセンジャーがリピドA3−O−脱アシル化酵素タンパク質へと翻訳されているベクターであることが好ましい。かかるベクターは、任意により誘導可能な方法で、例えば、プラスミドpMMB67上の誘導可能なtacプロモーターによって、グラム陰性菌宿主細胞に発現を起こさせ、かつリピドA3−O−脱アシル化酵素活性を与えることができることが最も好ましい。
本発明は、配列番号1のポリペプチドに結合可能な抗体も提供する。本発明の抗体は、実施例に示すように、本発明のポリペプチドを注入することにより宿主中で作製したモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体であってもよい。診断目的で、例えば、グラム陰性菌におけるPagLタンパク質及びその変異体又はその相同体の発現を分析するために、抗体を用いてもよい。また、リピドA3−O−脱アシル化酵素活性を示すタンパク質の単離及び/又は精製のために、抗体を用いてもよい。
本発明は、別の態様において、本発明の核酸分子を含む、及び/又は本発明のポリペプチド分子をコードする、グラム陰性菌に関している。かかる核酸分子は、本発明のDNAベクター内部に含まれ、コードされたタンパク質のグラム陰性菌中での発現をもたらし、リピドA3−O−脱アシル化酵素活性のソース(source)を細胞に提供することが好ましい。前記グラム陰性菌は、配列番号1においてPagLタンパク質に対してかなりの(>40%)同一性を有するタンパク質のようなリピドA3−O−脱アシル化酵素活性を示す機能タンパク質をコードする遺伝子を、そのゲノムに含まない細菌であることが好ましい。リピドA3−O−脱アシル化酵素活性のソースを提供することにより、グラム陰性菌細胞の細胞壁外膜におけるLPSの組成が変化することが最も好ましい。リピドA3−O−脱アシル化酵素活性のソースを提供されるグラム陰性菌は、配列番号2又は3にて提供されている核酸配列に対してかなりの相同性を有している、百日咳菌のように、例えば、変異、フレームシフト、又は欠損により、非機能的遺伝子を含む細菌であってもよい。
しかし、リピドA3−O−脱アシル化酵素活性を有するタンパク質をコードする(部分的)機能遺伝子をそのゲノムに含むグラム陰性菌にも、本発明の範囲内で、この活性の別のソースが提供されてもよい。グラム陰性菌は、ある程度のリピドA3−O−脱アシル化酵素活性を有していてもよいが、本発明のポリペプチドをさらに発現させること及び/又はその発現を増大させることによって、かかる活性を増大させてもよい。この結果、細菌中のリピドA3−O−脱アシル化酵素活性が、かかる細菌のリピドA及び/又はLPS組成が野生型細菌と比較して一次的又は永久的に変化する又は改変される程度に、一次的又は永久的に増加することが好ましい。そうしたグラム陰性菌は、例えば、パラ百日咳菌や気管支敗血症菌であってもよいが、他のどのようなグラム陰性菌、好ましくは病原性グラム陰性菌を選択してもよく、例としては、髄膜炎菌(N.meningitidis)、淋菌(N.gonorrhoeae)、N.ラクタミミカ菌(N.lactamica)などのナイセリア菌種が挙げられる。
リピドA3−O−脱アシル化酵素活性又は高レベルのリピドA3−O−脱アシル化酵素活性を有する本発明のグラム陰性菌は、少なくとも部分的に3−O−脱アシル化されたリピドA及び/又はLPS種を、細菌細胞壁の外膜に含んでいることが好ましい。あるいは、本発明のグラム陰性菌は、例えばリピドAの3−O−脱アシル化後のパルミトイル化、脱リン酸化又はその他の二次修飾などの、リピドAの3−O−脱アシル化後の二次修飾を有するLPS又はリピドA種を含んでいてもよい。本発明の細菌細胞は、その全LPS/リピドAの少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80又は90%を、3−O−脱アシル化された形態で含んでいてもよく、又は、代替的に、そのリピドA/LPSの少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80又は90%を、二次修飾を有する形態で含んでいてもよい。かかる二次修飾の例としてはパルミトイル化や脱リン酸化が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本件発明は、別の態様において、部分的に3−O−脱アシル化されたLPSの製造方法を提供する。第一の実施形態において、かかる方法は、脱アシル化LPSの合成及び任意で脱アシル化LPSの回収を促進する条件下で、本発明のグラム陰性菌を培養するステップを含む。各種グラム陰性菌を培養する方法は当該技術で周知であり、例えば、Methods for General and Molecular Bacteriology. P. Gerhardt et al., Eds. American Society for Microbiology, Washington DC, 1994に掲載されている。LPSの回収、単離、及び/又は精製の方法も当該技術で周知であり(Meningococcal Vaccines, Methods and Protocols. A.J. Pollard and M.C.J. Maiden, Eds. Chapter 12: Construction of LPS mutants, pp.155-165. Humana Press, Totowa, New Jersey, 2001)、例えば、本明細書にて提供されている実施例にしたがって実施することができる。
あるいは、本件発明は、少なくとも部分的に3−O−脱アシル化されたLPS又はリピドAのインビトロでの製造方法を提供し、かかる方法は、LPS又はリピドAを含む組成物を、処理前の(crude)形態又は(部分的に)精製した形態で提供するステップ、及び、酵素によるインビトロでの3−O−脱アシル化を促進する条件下で、この組成物を本発明のポリペプチド又はタンパク質と接触させるステップを含む。かかる条件は、本件明細書において、実施例9及び方法の項に掲載されている。
さらに別の実施形態において、本件発明は、少なくとも部分的に3−O−脱アシル化されたLPS及び/又はリピドAを含む組成物、好ましくは、全LPS/リピドAの少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90、95、98又は99%を、その3−O−脱アシル化された形態、又は、3−O−脱アシル化後の二次修飾を有する別の形態、例えばパルミトイル化された形態で含む組成物を提供する。
部分的に3−O−脱アシル化されたLPS及び/又はリピドAを含み、任意に二次修飾を有し、細菌細胞の細胞壁外膜に含まれるか、又は処理前の形態若しくは精製した形態である本発明の組成物を、医薬組成物の製造に用いてもよい。特に好ましい実施形態において、かかる本発明の医薬組成物は、ワクチン接種用として好適な組成物であってもよい。かかる医薬組成物は、宿主生物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトにおいて、グラム陰性菌に対する免疫応答を引き出すことができる。少なくとも部分的に3−O−脱アシル化されたLPS及び/又はリピドAの存在、又は代替的に3−O−脱アシル化後の二次修飾を有するLPSの存在により、毒性低下、対象における副作用の数の減少及び重篤度の低下、及び治療又はワクチン接種を受ける対象におけるこの組成物に対する耐量の増加など、いくつかの利点がもたらされる。かかる医薬組成物は、1以上の賦形剤及び/又はアジュバントを含んでいてもよい。薬学的に許容可能な賦形剤及びアジュバントは、当該技術分野で周知であり、当業者は、例えばCurrent protocols in Immunology, Wiley Interscience 2003又はRemmington's Pharmaceutical Sciences, 18th ed., Mack Publishing Company, 1990から自由に選択してもよい。
第一の実施形態において、かかる医薬組成物は、凍結、加熱処理、機械的破砕、化学処理、又は薬学及びワクチンの技術分野で周知の他の方法により不活性化された、生菌細胞若しくは弱毒化生菌細胞、又は生存不能菌細胞を含む全細胞ワクチンであってもよい(J.L. Pace, H.A. Rossi, V.M. Esposito, S.M. Frey, K.D. Tucker, R.I. Walker. Inactivated whole-cell bacterial vaccines: current status and novel strategies. Vaccine 16: 1563-1574 (1998))。かかる細菌細胞は、グラム陰性の病原性細菌であることが好ましく、かかる細菌細胞は、ボルデテラ属、サルモネラ属、シゲラ(Shigella)属、ナイセリア属、クレブシエラ(Klebsiella)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ヘモフィルス(Haemophilus)属、エシェリキア(Escherichia)属、プロテウス(Proteus)属であることがより好ましく、百日咳菌、パラ百日咳菌又は気管支敗血症菌であることが最も好ましい。
第二の好ましい実施形態において、本発明の医薬組成物は、グラム陰性病原性細菌の免疫原性成分を1、2、3又はそれ以上含み、少なくとも部分的に3−O−脱アシル化されたLPS又はリピドA、又は3−O−脱アシル化後の二次修飾を有する前記LPSを含む無細胞ワクチンであってもよい。部分的に3−O−脱アシル化されたリピドA及び/又はLPSは、本発明のグラム陰性病原性細菌から得られることが好ましく、かかる細菌細胞は、ボルデテラ属であることが好ましく、百日咳菌、パラ百日咳菌又は気管支敗血症菌であることが最も好ましい。脱アシル化後の二次修飾を任意に有する少なくとも部分的に3−O−脱アシル化されたリピドA及び/又はLPSを、それを産生する細菌に対する防御免疫応答を引き出すために使用してもよいが、代替案として、好適なアジュバント物質として使用するために、他の組成物と混合して使用することも可能である。LPSはワクチン接種用の好適なアジュバントとして当該技術分野で知られており、Toll様受容体を活性化し、生来の免疫応答を刺激する。本発明の部分的に3−O−脱アシル化され、少なくとも部分的に解毒されたLPS及び/又はリピドAは、この免疫刺激(アジュバント)活性をかなり保持している一方で、局所的腫脹、発赤、疼痛及び発熱などの、毒性による副作用の発生は少ない。
本発明の薬学的に許容可能な組成物及びワクチンを、病原性グラム陰性菌に感染した、又は感染の危険にさらされている対象の治療方法に使用してもよい。かかる方法は、本発明の医薬組成物、全細胞ワクチン又は無細胞ワクチンを投与するステップを含んでいる。具体的なアジュバント、組成物中の物質の相対量及び絶対量、並びに投与の用法は周知である。あるいは、当業者がそれらを決定してもよく、特定の病原体感染又は治療を受ける特定の対象の状態など、各種状況に応じて適合させてもよい。かかる用法は、単回投与を含むものでもよいが、例えば、追加抗原投与などの反復投与をも含むものであってもよく、経口、経鼻又は非経口による投与を行ってもよい。ワクチン接種用の各種用法は当該技術において周知であり、当業者は、それらを適切に適合させてもよい。
[実施例]
実験手順
菌株及び増殖条件
本研究で使用したすべての菌株を表1に記載する。概ね、改変Luria-Bertani培地寒天、指定のLB寒天(Tommassen, J., van Tol, H., and Lugtenberg, B. (1983) EMBO J. 2, 1275-1279)、又はLB培地において、200rpmで震盪しながら、大腸菌株及び緑膿菌株を37℃で増殖させた。大腸菌については、培地に0.2%のグルコースを補充した。適切とされる場合には、プラスミドの維持及び株の選択のため、100μg/mlのアンピシリン、50μg/mlのカナマイシン、50μg/mlのナリジクス酸、又は100μg/mlのストレプトマイシンの存在下で、細菌を増殖させた。LB寒天プレート上でネズミチフス菌SR11を37℃で増殖させ、15%の脱線維素ヒツジ血液を補充したBorduet-Gengou寒天(Difco社製)上で気管支敗血症菌株及び百日咳菌株を35℃で増殖させた。百日咳菌中でpagL(Bb)遺伝子の発現を誘導するため、1mMのイソプロピル−1−チオ−β−D−ガラクトピラノシド(IPTG)(最終濃度)を補充した合成Thijs培地(Thalen, M., van den IJssel, J., Jiskoot, W., Zomer, B., Roholl, P., de Gooijer, C., Beuvery, C., and Trampen, J. (1999) J.Biotechnol. 75, 147-159)において、震盪しながら(180rpm)、細菌を35℃で増殖させた。
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組換えDNA技術
Promega Wizard(登録商標)Plus SV Miniprepsシステムを用いて、プラスミドDNAを単離した。製造者(Fermentas社)の指示にしたがい、子牛の腸のアルカリホスファターゼ及び制限エンドヌクレアーゼを使用した。Qiagen社のクイックゲル抽出キットを用いて、アガロースゲルからDNA断片を単離した。ラピッドDNAライゲーションキット(Roche社製)を使用して、ライゲーションを行った。
ネズミチフス菌SR11由来のpagL遺伝子(pagL(St))、気管支敗血症菌B505由来のpagL遺伝子(pagL(Bb))、及び緑膿菌PAO25由来のpagL遺伝子でそのシグナル配列コード部分をもつもの又はもたないもの(pagL(Pa)、pagL(Pa)(-))を、pET-11a(Novagen社製)のT7プロモーターの後ろにクローニングした。染色体DNAをテンプレートとして使用し、PCRによって遺伝子を増幅した。テンプレートDNAは、以下のように調製した。10個以下の細菌を50μlの蒸留水に再懸濁し、その後、懸濁液を15分間95℃で加熱した。ついで懸濁液を16,100×gで1分間の遠心分離にかけた後、上清液をテンプレートDNAとして使用した。NdeIサイト(下線部)を含有し、ATG開始コドンを内包していたフォワードプライマーの配列は、5’-AACATATGAAGAGAATATTTATATATC-3’(pagL(St))、5’-AACATATGAAGAAACTACTTCCGCTGG-3’(pagL(Pa))、5’-AACATATGGCGGACGTCTCGGCCGCCG-3’(pagL(Pa)(-))、及び5’-AACATATGCAATTTCTCAAGAAAAACA-3’(pagL(Bb))であった。BamHIサイト(下線部)を含有し、終止コドンを内包していたリバースプライマーの配列は、5’-AAGGATCCTCAGAAATTATAACTAATT-3’(pagL(St))、5’-AAGGATCCCTAGATCGGGATCTTGTAG-3’(pagL(Pa)、pagL(Pa)(-))、及び5’-AAGGATCCTCAGAACTGGTACGTATAG-3’(pagL(Bb))であった。以下の条件下でPCRを行った:全反応量は50μl、各プライマーは25pmol、0.2mMのdNTP、3μlのテンプレートDNA溶液、1.5%のジメチルスルホキシド、製造者(Roche社)より供給された、緩衝液付きのExpand High Fidelity酵素ミックスが1.75ユニット。温度プログラムは、以下の通りである:95℃で3分間、1回が95℃で1分間、60℃で1分間、72℃で1分30秒間というサイクルを30回繰り返し、続いて72℃で10分間、その後、4℃まで冷却。アガロースゲルからPCR産物を精製し、その後、pCRII-TOPOにクローニングした。正しいクローン由来のプラスミドDNAをNdeI及びBamHIで消化し、NdeI/BamHIで消化したpET-11aに、PagLコード断片をライゲーションした。ライゲーション混合物を用いて、CaCl方法で大腸菌DH5αを形質転換した(Sambrook, J., Fritsch, E. F., and Maniatis, T. (1989) in Molecular Cloning: A Laboratory Manual. Cold Spring Harbour Laboratory Press, Cold Spring Harbour (NY))。NdeI及びBamHIでの消化による正しいPagLコードインサートの有無について、形質転換体由来のプラスミドDNAを調べた。正しい消化プロフィールをもたらすプラスミドを、pPagL(Pa)、pPagL(Pa)(-)、pPagL(Bb)、及びpPagL(St)とした(表I)。クローニングしたpagL遺伝子の正しいコード配列を、両方向のヌクレオチドシークエンシングにより確認した。宿主範囲が広範な、低コピーpMMB67EHベクターにPagL(Bb)遺伝子をサブクローニングするため、pPagL(Bb)プラスミドDNAをXbaI及びHinDIIIで消化し、XbaI/HinDIIIで消化したpMMB67EHに、PagL(Bb)コード断片をライゲーションした。ライゲーション混合物を用いて、大腸菌DH5αの形質転換を行った。XbaI及びHinDIIIでの消化による正しいPagLコードインサートの有無について、形質転換体由来のプラスミドDNAを調べた。正しい消化プロフィールをもたらすプラスミドを、pMMB67EH-PagL(Bb)とした(表I)。後者のプラスミドを使用して、大腸菌SM10の形質転換を行った。それにより、その後、Stibitz et al(Stibitz, S., Black, W., and Falkow, S. (1986) Gene 50, 133-140)に記載の固体培地への結合を行って、pMMB67EH-PagL(Bb)を百日咳菌へ移し替えることが可能となった。QuikChange(登録商標) 部位特異的突然変異誘発キット(Stratagene社製)及び表IIに列挙したプライマーを使用して、pagLに変異を導入した。変異が生じたテンプレートとして、プラスミドpPagL(Pa)を用いた。正しい変異の存在を、両方向のヌクレオチドシークエンシングにより確認した。
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SDS−PAGE及びイムノブロッティング
Bio-Rad Mini-PROTEAN(登録商標)3装置を用いて、0.2%のSDSを含むランニングゲルでドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)(Laemmli, U. K. (1970) Nature 227, 680-685)を行って、タンパク質を分析した。4%のスタッキングゲルで、試料を13%のポリアクリルアミドゲルに塗布し、150Vで電気泳動にかけた。クーマシーブリリアントブルーでタンパク質を染色した。前染色した、又は無染色の、Bio-Rad社製Precision Plus Proteina Standardを使用して、相対分子量(M)を測定した。ウェスタンブロッティング用に、タンパク質をSDS−PAGEゲルからニトロセルロース膜へ転写した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(pH7.6)、0.5%の無脂肪粉乳、0.1%のTween-20中で膜を一晩ブロッキングして、PagL(Pa)に対する一次抗体とともにブロッキング緩衝液中でインキュベーションし、引き続いて、ホースラディッシュペルオキシダーゼ結合ウサギ抗モルモットIgG抗体(Sigma社製)とともにブロッキング緩衝液中でインキュベーションを行った。SuperSignal(登録商標)WestPico Chemiluminescent Substrate(Pierce社製)を用いて、ブロットを現像した。
セミネイティブ(semi-native)SDS−PAGE
Bio-Rad Mini-PROTEAN(登録商標)3装置を用いて、0.2%のSDSを含むランニングゲルでドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)(Laemmli, U. K. (1970) Nature 227, 680-685)を行って、タンパク質を分析した。セミネイティブSDS−PAGEのため、ランニング及びスタッキングゲルにSDSを添加することはなく、電気泳動に先立って試料を加熱することもなかった。4%のスタッキングゲルで、試料を13%のポリアクリルアミドゲルに塗布し、150Vで電気泳動にかけた。セミネイティブSDS−PAGEのため、電気泳動は氷上で15mAの定電流で行われた。クーマシーブリリアントブルーでタンパク質を染色した。前染色した、又は無染色の、Bio-Rad社製Precision Plus Proteina Standardを使用して、相対分子量(M)を測定した。
トリシン−SDS−PAGE
LPS含有試料に対して、0.5mg/mlのプロテイナーゼK(最終濃度)を試料緩衝液に添加した(Laemmli, U. K. (1970) Nature 227, 680-685)。55℃で60分間、続いて、95℃で10分間、試料をインキュベーションして、プロテイナーゼKを不活性化した。次いで、試料緩衝液を添加して試料を10倍に希釈し、その後、2μlの試料をトリシン−SDS−PAGEゲルに塗布した(Lesse, A. J., Campagnari, A. A., Bittner, W. E., and Apicella, M. A. (1990) J. Immunol. Methods 126, 109-117)。35Vでブロモフェノールブルーを分離ゲルに流し込み、その後、電圧を105Vに上げた。最前部がゲルの底に到達した後、さらに45分間、試料を流れるままに放置した。水/エタノール/酢酸を11:8:1(v/v/v)としたものの中でゲルを一晩固定し、その後、文献記載のように銀で染色した(Tsai, C. M., and Frasch, C. E. (1982) Anal. Biochem. 119, 115-119)。
ポリクローナル抗体
抗体の作製のため、pPagL(Pa)(-)を用いて大腸菌BL21StarTM(DE3)を形質転換し、切断されたpagL遺伝子の発現を可能にした。封入体中に蓄積しているPagL(Pa)タンパク質を単離し(Dekker, N., Merck, K., Tommassen, J., and Verheij, H. M. (1995) Eur. J. Biochem. 232, 214-219)、分取SDS−PAGEゲルから精製し、Eurogentec社でのモルモットの免疫付与に使用した。
マイクロシークエンシング
Bio-Rad Mini-PROTEAN(登録商標)2ブロッティング装置を用いて、SDS−PAGEゲルから、192mMのグリシン、25mMのTris(pH8.3)、10%のメタノール(v/v)中のImmobilona-P二フッ化ポリビニリデン膜(Millipore Corp.社製)に、タンパク質を100Vで1時間転写した。転写後、蒸留水で膜を15分間、3回洗浄した。転写したタンパク質をクーマシーブリリアントブルーで染色した。膜を風乾し、推定PagLバンドを切り取って、オランダ国ユトレヒト大学のシークエンシングセンター施設で、マイクロシークエンシングにかけた。
LPSの単離及びガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)による分析
熱フェノール/水抽出法を用いて、LPSを単離した(Steeghs, L., Berns, M., ten Hove, J., de Jong, A., Roholl, P., van Alphen, L., Tommassen, J., and van der Ley, P. (2002) Cell. Microbiol. 4, 599-611)。すなわち、プラスミドpMMB67EH-PagL(Bb)をもつ又はもたない百日咳菌株Tohamaを、1mMのIPTG(最終濃度)の存在下で、3リットルのThijs培地(Thalen, M., van den IJssel, J., Jiskoot, W., Zomer, B., Roholl, P., de Gooijer, C., Beuvery, C., and Trampen, J. (1999) J.Biotechnol. 75, 147-159)中で増殖させた。遠心分離により細胞を回収し、5mMのEDTAを含む40mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)中に再懸濁した。細胞をリゾチームで4℃にて一晩処理し、その後、等量のフェノールを添加した。懸濁液を70℃まで加熱し、震盪しながら30分間インキュベーションした。懸濁液を10℃まで冷却した後、遠心分離により相を分離した。上部相を回収し、下部相に等量の蒸留水を添加することにより、抽出を繰り返した。続いて70℃でのインキュベーション、冷却、及び遠心分離を行った後、2つの上部相を混合し、フェノール臭が消えるまで、水道水で透析した。透析した画分を凍結乾燥させた後、LPSを濃度1mg/mlでリン酸緩衝生理食塩水(pH7.2)中に溶解させた。GC/MSによる脂肪酸分析のため、単離したLPSのアリコートに5倍(v/v)を超えるアセトンを添加し、その後、溶液を窒素流下で60℃にて乾燥させた。続いて、塩化アセチル/エタノールを1:9(v/v)としたもの100μl、及び、内部標準として10μgのC12:0(2OH)(エタノール中で1mg/ml)を添加し、その後で試料を90℃で1時間誘導体化した。冷却後、1MのKHPO(pH8.0)を200μl添加することにより反応を停止させ、引き続いて、200μlの酢酸エチルでアシル−エチルエステルを抽出した。1μl量の上部相を、電子衝撃モードのFinnigan MAT SSQでのGC/MSによる分析に使用した。
LPSの生物学的活性
野生型百日咳菌TohamaLPS及びPagL修飾百日咳菌TohamaLPSによるIL−6及びIL−10の誘導について、ヒトマクロファージ細胞株MM6(Ziegler-Heitbrock, H. W., Thiel, E., Futterer, A., Herzog, V., Wirtz, A., and Riethmuller, G. (1988) J. Cancer 41, 456-461)でテストを行った。マイクロタイタープレート(2.10/ウェル)において、10%のウシ胎仔血清(Gibco BRL社製)を補充した400μlのIMDM(Gibco BRL社製)中にMM6細胞を播種し、5%のCOを含む湿潤雰囲気中で16〜18時間、37℃にて、LPS原液の連続希釈液200μlで刺激した。製造者の指示にしたがい、ヒトIL−6又はIL−10に対するELISAで、培養上清液のIL−6及びIL−10のレベルを定量した(PeliPairTM試薬セット、Sanquin Reagents社製、オランダ国、アムステルダム)。
細胞外皮の単離
1,500×gで10分間の遠心分離により細胞を回収し、0.9%の塩化ナトリウムの冷溶液50mlで1回洗浄した。細胞ペレットを−80℃で少なくとも15分間凍結した後、コンプリートプロテアーゼインヒビターカクテル(Roche社製)を含む、3mMのEDTA及び10mMのTris−HCl(pH8.0)20mlに懸濁した。超音波処理で細胞を破壊した後、破壊されなかった細胞を、1,500×gで10分間の遠心分離により除去した。150,000×gで1.5時間の遠心分離により、上清液から細胞外皮をペレット化し、2mMのTris−HCl(pH7.4)に再懸濁した。細胞外皮をアリコートの形で−80℃にて保管した。
封入体の単離
封入体の単離のため、大腸菌BL21StarTM(DE3)中でpPagL(Pa)(-)からPagL(Pa)(-)を発現させた(表1)。アンピシリンを補充したLB培地において、OD600が0.4〜0.6になるまで、2リットルの培養物を37℃で増殖させた。次いで、1mMのIPTG(最終濃度)を培養物に添加して、組換え遺伝子の発現を誘導し、その後、培養物を震盪しながら37℃でさらにインキュベーションした。約4時間後、遠心分離(4000rpmで15分間(4℃))により、細胞を回収した。回収した細胞を400mlの0.9%NaClで1回洗浄した後、80mlのTE50:40(50mMのTris−HCl(pH8.0)、40mMのEDTA)に再懸濁した。スクロース(0.25g/ml(最終濃度))及びリゾチーム(0.2mg/ml(最終濃度))を添加し、その後、懸濁液を震盪しながら室温(RT)で30分間インキュベーションした。Branson 250 Sonfierをマクロチップとともに用いて(出力9、デューティーサイクル50%)、懸濁液を氷上で3回超音波処理した(1.5分間、間に2分間の休止をはさむ)。超音波処理に続いて、0.13%(w/v)のBrij-35P(Fluka社製)を添加し、懸濁液をさらに2分間超音波処理した。4,000rpm(4℃)で2時間の遠心分離により高密度物質(封入体)を回収した後、ペレットを40mlのTE50:40で1回洗浄し、引き続いて、10mMのTris−HCl(pH8.3)を40ml用いてさらなる洗浄工程を行った。得られた封入体を、10mMのグリシン(pH8.3)を補充した8Mの尿素中で可溶化し、TCAで析出させた。最後に、得られたタンパク質を、10mMのグリシン(pH8.3)を補充した8Mの尿素中で、タンパク質濃度10mg/mlで可溶化した。この混合物を13,000rpmで2時間の遠心分離にかけ、残留する不溶性物質及び膜を除去した。
PagL(Pa)(-)のリフォールディング及び精製
10%(w/v)のラウリルジメチルアミン酸化物(LDAO)による10mg/mlのタンパク質溶液(上記参照)の2倍希釈、及びその後の10分間の超音波処理により、PagL(Pa)(-)のリフォールディングをインビトロで行った。リフォールディングされたPagL(Pa)(-)を、1mlのMonoQ(Amersham Biosiences社製)イオン交換カラムを用いた高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)により精製した。緩衝液A(20mMのTris−HCl(pH8.0)、0.08%(w/v)のC10)で、タンパク質溶液を4倍希釈した。緩衝液Aで前平衡化し、緩衝液Aで1回洗浄したカラムにかかる溶液を充填し、緩衝液A中のNaClが0〜1Mとなるように直線的濃度勾配をかけてタンパク質の溶出を行った。リフォールディングされたPagL(Pa)(-)タンパク質の有無について、画分をSDS−PAGEで分析した。かかるタンパク質を含有するものをプールし、分子量カットオフ値が3kDaのCentricon濃縮器(Amicon社製)を使用して、タンパク質濃度10mg/mlまで濃縮した。その後、分子量カットオフ値が3.5kDaの膜を使用して、10mlの、2mMのTris−HCl(pH8.0)、0.06%(w/v)のC10で、タンパク質溶液の透析を一晩3回行った。
インビトロ修飾アッセイ
リフォールディングされたPagL(Pa)(-)(10mg/ml)、又は空のベクターpET-11a若しくはpPagLプラスミドを含む大腸菌BL21StarTM(DE3)から単離した細胞外皮を、再蒸留水で10倍に希釈した。リフォールディングされたタンパク質又は細胞外皮の希釈液を、最終的な量としては10μlの、50mMのHepes(pH8.0)、0.1%のTriton X-100、0.5MのNaCl、及び0.75nmolの髄膜炎菌L3−LPS中で、37℃にて16時間インキュベーションした。反応が二価陽イオンに依存するかどうかをテストするため、リフォールディングされたPagL(Pa)(-)を用いた反応には5mMのEDTAを添加した。試料緩衝液中での煮沸により反応を終了させ(Laemmli, U. K. (1970) Nature 227, 680-685)、その後、試料を0.5mg/mlのプロテイナーゼKで1時間、55℃にて処理し、引き続いて、95℃で10分間のインキュベーションを行った。試料緩衝液を添加して試料を25倍に希釈した後、2μlの試料をトリシン−SDS−PAGEで分析した(上記参照)。
LPSの単離及びエレクトロスプレーイオン化質量分析法(ESI−MS)による分析
熱フェノール/水抽出法(Westphal and Jann, Methods Carbohydr. Chem. 5; 83-91,1965)をわずかに改変した方法を用いて、LPSを単離した。すなわち、1mMのIPTG(最終濃度)の存在下で、細菌をTHIJS培地中で64時間増殖させた。遠心分離により細胞を回収し、5mMのEDTAを含む40mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)中に懸濁した。細胞をリゾチームで4℃にて一晩処理し、その後、等量のフェノールを添加した。懸濁液を70℃まで加熱し、震盪しながら30分間インキュベーションを行った後、懸濁液を10℃まで冷却し、その後、8,000×gで10分間の遠心分離により相を分離した。上部相を回収し、下部相に等量の蒸留水を添加することにより、抽出を繰り返した。2つの上部相を組み合わせ、フェノール臭が消えるまで水道水で透析し、凍結乾燥させ、その後、蒸留水に入れた。続いて、150,000×gで3時間の遠心分離によりLPSをペレット化し、蒸留水に溶解した後、文献(Welch, Clin. Microbiol. Rev. 1991)記載の通り、6890 Agilentガスクロマトグラフを用いて3−ヒドロキシテトラデカン酸の含有量を分析することにより、LPS濃度を測定した。ESI−MSのため、単離したLPS(50nmol/ml)のアリコート200μlを凍結乾燥させ、2%の酢酸0.1mlに入れた。混合物を95℃で2時間加熱して、LPSを加水分解し、リピドA部分を放出させた。続いて、混合物を室温まで冷却し、16,100×gで10分間の遠心分離を行った。0.1mlの再蒸留水でペレットを2回洗浄し、0.1mlの再蒸留水に入れ、0.3mlのクロロホルム/メタノール(2:1、v/v)を添加した。激しくボルテックスした後、16,100×gで10分間の遠心分離により相を分離した。その後、上部相を、陰イオンモードのFinnigan LCQでのナノエレクトロスプレータンデムMSによる精製リピドAの構造分析に使用した(Wilm and Mann, Anal. Chem. 1996)。
各種グラム陰性菌におけるPagL相同体の同定
NCBIのデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sutils/genom_table.cgi)に存在するグラム陰性菌の解読(completed)ゲノム及び未解読(unfinished)ゲノムのすべてを検索することにより、ネズミチフス菌PagL前駆タンパク質の187アミノ酸配列(GenBankアクセッション番号AAL21147、配列番号17)を手がかりとして使用し、他のグラム陰性菌における推定PagL相同体を同定した。BLAST検索(Altschul, S. F., Gish, W., Miller, W., Myers, E. W., and Lipman, D. J. (1990) J. Mol. Biol. 215, 403-410)により、ボルデテラ菌種の、百日咳菌、気管支敗血症菌、及びパラ百日咳菌における推定相同体の存在が明らかになった(図2)。気管支敗血症菌及びパラ百日咳菌のPagL相同体は、シグナルPサーバー(signalP server)により予測されていたように(Nielsen, H., Brunak, S., and von Heijne, G. (1999) Protein Eng. 12, 3-9)、25個のアミノ酸からなるN末端シグナルペプチドをもつ、178個のアミノ酸からなる、お互いに一致する2つのポリペプチドである(図2)。PagL相同体の遺伝子も百日咳菌株Tohama Iのゲノム中で発見されている(Parkhill, J., Sebaihia, M., Preston, A., Murphy, L. D., Thomson, N., Harris, D. E., Holden, M. T., Churcher, C. M., Bentley, S. D., Mungall, K. L., Cerdeno-Tarraga, A. M., Temple, L., James, K., Harris, B., Quail, M. A., Achtman, M., Atkin, R., Baker, S., Basham, D., Bason, N., Cherevach, I., Chillingworth, T., Collins, M., Cronin, A., Davis, P., Doggett, J., Feltwell, T., Goble, A., Hamlin, N., Hauser, H., Holroyd, S., Jagels, K., Leather, S., Moule, S., Norberczak, H., O'Neil, S., Ormond, D., Price, C., Rabbinowitsch, E., Rutter, S., Sanders, M., Saunders, D., Seeger, K., Sharp, S., Simmonds, M., Skelton, J., Squares, R., Squares, S., Stevens, K., Unwin, L., Whitehead, S., Barrell, B. G., and Maskell, D. J. (2003) Nat. Genet. 35, 32-40)が、このオープンリーディングフレーム(ORF)はフレームシフト(配列番号4)により破壊されており、こうした破壊を配列番号5のように修復して、配列番号1のようにタンパク質をコードすることが可能な場合もある。百日咳菌B509株及びB134株由来のPagLORFのヌクレオチドシークエンシングでも、同じフレームシフトの存在が示されており、このことは、PagLORFの破壊は百日咳菌株における共通の特徴であるという可能性を示している。新規に同定された気管支敗血症菌のPagL相同体をさらなるBLAST分析のプローブとして用いて、別の推定PagL相同体を、以下のゲノム中で同定することができた:緑膿菌(配列番号6、30%の同一性)、シュードモナスフルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)(配列番号7、29%の同一性)、シュードモナス シリンゲ(Pseudomonas syringae)(配列番号8、31%の同一性)、シュードモナスプチダ(Pseudomonas putida)、2x(配列番号9+10、32/33%)、ラルストニア メタリデュランス(Ralstonia metallidurans)(配列番号15、28%)、青枯病菌(Ralstonia solanacearum)(配列番号16、29%)、鼻疽菌(Burkholderia mallei)(配列番号12、28%)、類鼻疽菌(Burkholderia pseudomallei)(配列番号13、28%)、バークホルデリア ファンゴラム(Burkholderia fungorum)(配列番号11、29%)、及びアゾトバクター ビネランジー(Azotobacter vinelandii)(配列番号14、27%)。図2に、アラインメントを示す。総合して、ネズミチフス菌に対する同一性(24%の同一性)よりは高いとはいえ、いずれのPagL相同体も、相互間の配列同一性として全体的に低い数値を示したが、C末端付近にはっきりとした相同ドメインを含んでいた。本発明者らによるこの保存モチーフの発見によって、他の(細菌)種におけるPagL相同体の同定が可能となり、また、3−O−脱アシル化されるあらゆる宿主細菌及び/又はあらゆるLPSに対して、適切なPagL相同体の使用が可能となる。
pagLのクローニング及び大腸菌における異種発現
推定リピドA脱アシル化酵素活性を実証するため、本発明者らは、緑膿菌のPagL相同体(pagL(Pa))及び気管支敗血症菌のPagL相同体(pagL(Bb))のクローニングを行った。本発明者らにより、pagL(St)も参考用としてこれらの研究に含められた。これらのpagL遺伝子をPCRにより染色体から増幅し、最終的にはT7プロモーターの制御下でpET-11aにクローニングした結果、pPagL(Pa)プラスミド、pPagL(Bb)プラスミド、及びpPagL(St)プラスミドが得られた。
大腸菌中のPagLの発現及び膜局在について調べるため、空のベクターpET-11a又はpPagLプラスミドを含む大腸菌BL21StarTM(DE3)を一晩LB中で増殖させ、その後、細胞外皮を単離した。SDS−PAGEによる分析により、PagLを発現する細胞の細胞外皮中に、Mrが15000〜18000の、別の顕著なバンドが存在することが明らかになった(図3)。これは、予測された成熟PagLタンパク質の分子量、すなわち、PagL(Pa)が16.1kDa、PagL(Bb)が17.2kDa、PagL(St)が18.2kDaという数値と合致するものである。かかる別のタンパク質バンドを同定するために、それらをマイクロシークエンシングにかけた。PagL(Pa)、PagL(Bb)、及びPagL(St)の、最初の5つのアミノ酸残基の配列は、それぞれADVSA、QPTQG、及びNDNVFであった。このことは、リーダーペプチダーゼによるシグナルペプチドの開裂が、アミノ酸残基23と24の間(AQA−ADV)、25と26の間(AQA−QPT)、及び20と21の間(CSA−NDN)でそれぞれ発生していることを示している。特にPagL(Bb)の発現の場合は、より大きなMrを有する別のバンドがゲル上に認められた(図2)。このバンドのN末端配列であるMQFLKは、PagL(Bb)の前駆体のN末端配列と一致していた。
PagLによる大腸菌LPSのインビトロでの修飾
クローニングしたPagL相同体が大腸菌LPSに対して活性を示すかどうかを研究するため、空のベクターpET-11a又はpPagLプラスミドを含む対数増殖期の大腸菌BL21StarTM(DE3)細胞にIPTGを添加し、各種インキュベーション期間の後で、OD600が1ユニットに相当する試料を回収し、そのLPS含有量をトリシン−SDS−PAGEで分析した。リピドAの3位におけるR−ヒドロキシミリスチン酸の予測された加水分解にしたがって、3つのPagL相同体のいずれかの発現が、より電気泳動移動度の高い形態へとLPSを変換した(図4)。そうした変換は、PagL(Pa)又はPagL(Bb)が誘導されてから75分以内にほぼ完了したが、PagL(St)の場合は、それよりもやや長い時間がかかった。
PagL修飾LPSの構造分析:LPSの脂肪酸含有量を測定するため、PhoP/PhoQが制御するリピドAの修飾を抑制するために10mMのMgClの存在下で増殖させた細菌からLPSを単離し、GC/MSで分析した。PagL修飾LPS試料のC14:0/C14:0(3OH)比は、野生型LPSのものと比較して増大しており(図5)、これは、予測されていた、リピドAからのC14−3OHの除去と合致する。これらのデータを確認するため、リピドA部分を単離して、ESI−MSで陽イオンモードにて分析したところ、野生型LPSにおいて4つの主要なリピドA種の存在が明らかになった(図6A)。m/z1797のピークが、大腸菌に一般に見られる特徴的なヘキサアシル化ビスリン酸種を示す一方で、m/z1928のピークは、L-Ara4N部分で置換されたヘキサアシル化ビスリン酸種に相当する。m/z1716及びm/z1847における、残る2つのピークは、リン酸基を欠失した前記2つの種の断片イオンを示す可能性が高い。PagL(St)(図6B)、PagL(Pa)(図6C)、又はPagL(Bb)(図6D)の発現の際に、主要なリピドA種はm/z1622及びm/z1490に存在していた。これは、コントロールである空のベクターに存在する、m/z1928及びm/z1797の主要な種からの、1つのβ−ヒドロキシミリスチン酸塩残基及び1つのリン酸基の欠失にそれぞれ相当する。ここでもまた、リン酸基の欠失は、おそらくイオン化手順の人為的影響によるものと思われる。GC/MS及びESI−MSのデータに基づき、緑膿菌及び気管支敗血症菌の同定されたPagL相同体は、ネズミチフス菌のものと同様に、活性を有するリピドA脱アシル化酵素であると結論づけることができる。また、かかるデータは、両方の種が効率的に脱アシル化されることから、脱アシル化がL-Ara4N部分の有無に依存しないことを示唆している。
PagLで脱アシル化したLPSの、その後のインビトロでの修飾
これらの実験の過程において、PagLの長期発現後は、PagL修飾LPSがトリシン−SDS−PAGEゲル上で検出できなくなること、及び、PagL(Bb)発現株について図示したように、LPSが、野生型LPSの位置に再び移動することが観察された(図7A)。SDS−PAGEゲル上で明らかとなったように、PagLタンパク質は、この時点で依然として豊富に存在していた(データは図示せず)。また、GC/MSによる分析で、C14:0/C14:0(3OH)比が、5時間にわたるPagL(Bb)の誘導後に単離したLPSについては、二度と低下しなかったことが明らかになった(図7B)。このように、トリシン−SDS−PAGEゲル上で観察された二次修飾(図7A)は、PagL修飾の修復の結果ではなく、電気泳動移動度を、野生型LPSの電気泳動移動度へと修復した別の修飾の結果であった。そのため、他の脂肪酸比を比較してみた。PagLの産生を5時間にわたって誘導した細胞のLPSにおいて、C16:0/C14:0比の著しい増大が認められ、PagLで脱アシル化したLPSが、その後パルミトイル化されたことが示唆された。
リピドAにパルミチン酸を付与するタンパク質は、外膜タンパク質PagPである(Bishop, R. E., Gibbons, H. S., Guina, T., Trent, M. S., Miller, S. I., and Raetz, C. R. H. (2000) EMBO J. 19, 5071-5080)(図1)。そのため、本発明者らは、PagL修飾LPSの二次修飾は、内在性PagP活性の結果なのかもしれないとの仮説を立てた。この可能性について調べるため、本発明者らは、野生型大腸菌BL21StarTM(DE3)及びそのpagP変異誘導体JG101を、pPagL(Pa)プラスミドで形質転換した。野生型株の場合には、PagL修飾LPSの二次修飾が再び観察されたが、変異株の場合には観察されなかった(図7D)。この結果は、PagL修飾LPSの二次修飾(図7A)が、実際に内在性PagP活性の結果であることを強く示唆している。
PagL活性部位残基の同定
同定したPagL相同体相互間の配列同一性は、非常に低い(図2)。完全に保存された数個の残基のなかにヒスチジンとセリンがあり、本発明者らは、これらはセリン加水分解酵素の「古典的」Asp/Glu−His−Ser触媒3残基(catalytic triad)の一部ではないかとの仮説を立てている。これらの推定活性部位残基は、本発明者らが提案した位相モデルのβ鎖の頂点付近にある脂質露出側に位置している(図8)。外膜ホスホリパーゼAにおいて、活性部位His及び及びSerが同様の位置にあることは、興味深い(Snijder, H. J., Ubarretxena-Belandia, I., Blaauw, M., Kalk, K. H., Verheij, H. M., Egmond, M. R., Dekker, N., and Dijkstra, B. W. (1999) Nature 401, 717-721)。PagL(Pa)前駆タンパク質の149位と151位にそれぞれ位置するこれらの残基が実際に触媒活性に重要であるかどうかをテストするため、それらをアラニン又はアスパラギンで、及びアラニン又はシステインで、それぞれ置換した。コントロールとして、PagL(Pa)前駆体の81位と84位にれぞれ位置する非保存ヒスチジン及びセリン残基に対して同じ置換を行った。関連するプラスミドを有しIPTGで75分間誘導した大腸菌BL21StarTM(DE3)細胞のタンパク質及びLPSプロフィールを、イムノブロッティング(図9A)及びトリシン−SDS−PAGE(図9B)でそれぞれ分析した。非保存His81及びSer84の置換がLPSの脱アシル化に影響しなかったのに対し、保存されたHis149及びSer151が置換された場合は、これらの変異タンパク質の発現が影響を受けなかった場合でさえも(図9A)、LPSの脱アシル化は、もはや観察されなかった(図9B)。これらの結果は、前駆PagL(Pa)タンパク質の149位にある保存されたヒスチジン及び151位にあるセリンは活性部位残基であり、PagLはセリン加水分解酵素として機械的に機能するという仮説を、強く裏付けるものである。
pagL(Bb)のクローニング及び百日咳菌における異種発現
百日咳菌LPSをインビボで修飾するため、本発明者らは、気管支敗血症菌のpagL遺伝子(pagL(Bb))をクローニングした。pagL遺伝子をPCRにより染色体から増幅し、最終的にはTacプロモーターの制御下でpMMB67EHにクローニングした。その結果、pMMB67EH-PagL(Bb)プラスミドが得られ、結合によってこれを百日咳菌株Tohamaへ移し替えた。
百日咳菌LPSのインビボでの修飾に取り組むため、1mMのIPTG(最終濃度)を補充したThijs培地で野生型百日咳菌株Tohama又はpMMB67EH-PagL(Bb)プラスミドを含む百日咳菌株Tohamaを増殖させた。熱フェノール−水抽出法でLPSを単離し、トリシン−SDS−PAGE(図10A)及びGC−MS(図10B)で分析した。トリシン−SDS−PAGEゲル上での分析により、PagL(Bb)発現株から単離したLPSは、野生型百日咳菌LPSに比べて移動速度がやや速いことがわかった。注意を引いたのは、PagL(Bb)発現株から単離したLPSが、2つの区別可能なLPS群を示していたことである。1つの群は野生型TohamaLPSの高さ付近を移動し、1つの群はより速く移動していた。後者のLPS群は野生型LPS調製物においても見ることができるが、その存在度はかなり低い。PagL発現株由来のLPSが実際にその3位で脱アシル化されたことを実証するため、GC−MSでの分析を行った。PagL修飾LPS試料におけるC14:0(3OH)/C10:0(3OH)比は、野生型LPSのものと比べて増大しており(図10B)、これは、予測されていた、百日咳菌リピドAの3位からのC10−3OHの除去と合致する。
PagL修飾LPSの生物学的活性
PagL修飾百日咳菌LPS及び野生型百日咳菌LPSの内毒素活性を査定するため、それらのLPSの、ヒトマクロファージ細胞株MM6におけるIL−6及びIL−10の産生を刺激する能力を測定した。図2からわかるように、野生型LPSに関しては、MM6細胞によるIL−6(図11A)及びIL−10(図11B)の産生は、等量のPagL修飾LPSで細胞を刺激した場合と比較して、いずれも増加した。したがって、PagLによる百日咳菌LPSのインビボでの脱アシル化の結果、このLPSの内毒素活性が低下すると結論づけることができる。
PagL(Pa)のクローニング、発現、精製、及びリフォールディング
シグナル配列コード部分をもたない緑膿菌PAO25由来のPagL遺伝子をpET-11aにクローニングし、結果としてpPagL(Pa)(-)プラスミドを得た。封入体を得るため、シグナル配列をもたないPagLを大腸菌BL21StarTM(DE3)中で発現させた。封入体を単離して尿素中で可溶化し、その後、10%のラウリルジメチルアミン酸化物(LDAO)で2倍に希釈することによりタンパク質をリフォールディングし、高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)でさらに精製した。SDS−PAGE(図12)及び円偏光二色性(CD)測定(データは図示せず)で正しいリフォールディングを確認した。SDS−PAGEゲル上では、リフォールディングされたタンパク質は変性型よりも電気泳動移動度が低かったのに対し、CD測定では、リフォールディングされたタンパク質の大部分がβシート構造を有することが示された。
膜局在PagL及びリフォールディングされたPagLによるインビトロでのLPS修飾
膜局在PagL又はインビトロでリフォールディングされたPagLが外部から付加されたLPSをインビトロで修飾できるかどうかをテストするため、本発明者らは、リフォールディングされたPagL(Pa)(-)、又は空のベクターpET-11a若しくはpPagLプラスミドを含む大腸菌BL21StarTM(DE3)から単離した細胞外皮に対し、髄膜炎菌の精製LPSとともにインキュベーションを行った。LPSの修飾をトリシン−SDS−PAGEで査定した(図13)。リピドAの3位におけるR−ヒドロキシミリスチン酸の予測された加水分解にしたがって、膜局在PagL(図13A)又はリフォールディングされたPagL(Pa)(-)(図13B)の存在時は、LPSがより電気泳動移動度の高い形態へと変換された。LPSの脱アシル化が5mMのEDTAの存在下でも依然として観察されたことから、リフォールディングされたPagL(Pa)(-)を用いた反応は、二価陽イオンの存在に依存していなかったことになる(図13B)。
百日咳菌におけるPagP及びPagL発現後のリピドAの構造変化
PagP及びPagLを百日咳菌株Tohamaで発現させるため、宿主範囲が広範な低コピー数発現ベクターpMMB67EHから、気管支敗血症菌のPagL遺伝子(pagL(Bb))及び百日咳菌のPagP遺伝子(pagP(Bb))を発現させた。コントロールとして、大腸菌のPagP遺伝子(pagP(Ec))を発現する株も構築した。野生型、PagP発現又はPagL発現百日咳菌株TohamaからLPSを単離し、トリシン−SDS−PAGEで分析した。PagL(Bb)発現株から単離したLPSは、ゲル上で全く影響を受けていないように見受けられたのに対し、PagP発現株由来のLPSは、強く修飾されているように見受けられた。というのは、野生型百日咳菌LPSのものよりも電気泳動移動度が低いバンドが検出されたためである(図14)。また、PagP(Bb)発現株との比較では、PagP(Ec)発現株のほうが修飾効率が高いように見受けられた(図14)。考えられるLPS修飾をより詳しく評価するため、菌株のリピドA部分をESI−MSで陰イオンモードにて分析した。この分析により、野生型LPSにおいて、4つの主要なリピドA種の存在が明らかになった(図15A)。m/z1557のピークは、百日咳菌に一般に見られる特徴的なペンタアシル化ビスリン酸種を示す(Caroff et al., Microbes. Infect., 1994)のに対し、m/z1477のピークは、ペンタアシル化モノリン酸種に相当する。m/z1307及び1251における残りの2つのピークは、それぞれ、3位の一次3−ヒドロキシデカン酸残基又は(2位若しくは3’位のいずれかの)一次3−ヒドロキシテトラデカン酸残基が欠失している、m/z1477の分子イオンの脱アシル化リピドA種を示す。これらの結果は、野生型百日咳菌のリピドA種間における異質性の高さを示すものであり、これについては、このゲル分析ではっきりとは解明されなかった(図14)。興味深いことに、個々のリピドA種の相対量を相当するピークの高さから計算することにより、野生型百日咳菌LPSでは、大量のリピドA種(〜50%)が、テトラアシル化型からなることが明らかになった。また、リピドA種の大多数は、モノリン酸型である(〜80%)。低アシル化(under-acylated)又は次リン酸化リピドA種の存在度の高さが、リピドA種を単離する場合に用いる加水分解手順の人為的影響であるという可能性を排除するため、本発明者らは、加水分解時間の長短(1〜4時間まで様々である)がリピドA種の相対存在度に影響を及ぼすかどうかをテストしたが、そうした事実はなかった(データは図示せず)。さらに、精製した野生型百日咳菌LPSの濃度がわかっている溶液について、その全リン酸含有量を測定した。ESI−MSで検出されたモノリン酸リピドA種の高い陽性率と矛盾することなく、LPSが完全にリン酸化されていた場合は、予測されたリン酸含有量の半分をわずかに超える程度の量が検出されるにとどまった(データは図示せず)。
PagL(Bb)発現の際(図15B)、3つのリピドA種が、m/z1081、1307、及び1387にそれぞれ存在していた。m/z1307の大きなピークは、3位の3−ヒドロキシデカン酸残基が欠失しているモノリン酸脱アシル化型に相当し、一方、m/z1387のピークは、m/z1307の分子イオンのビスリン酸化型に相当する。m/z1081のピークは、3−ヒドロキシデカン酸残基と3−ヒドロキシテトラデカン酸残基の両方が欠失しているモノリン酸型に相当する。3位の3−ヒドロキシデカン酸残基が欠失しているリピドA種の相対含有量は、野生型百日咳菌LPSにおける約37%から、PagL(Bb)発現株における92%超へと増加した。このように、LPSの電気泳動移動度が影響を受けない場合でさえも(図14、2レーン)、pagL(Bb)にコードされたリピドA3−O−脱アシル化酵素は百日咳菌中で活性を有していた。
PagP(Ec)(図15C)及びPagP(Bp)(図15D)発現の際、数種の新規リピドA種が検出された(表III)。m/z1320、1490、1545、1625、1715、及び1796のピークは、m/z1081、1251、1307、1387、1477、及び1557に存在していた分子イオンの、予測されたPagP介在性パルミトイル化にそれぞれ相当する。トリシン−SDS−PAGEによる分析後に見られた(図14)、大腸菌PagPと百日咳菌PagPとの間の修飾効率における相違は、質量分析でも明らかになった。大腸菌PagPを発現する株では全リピドA群の最大で47%までがパルミトイル化されたのとは対照的に、PagP(Bp)を発現する株では、最大でわずか9%であった。興味深いことに、PagP(Bp)を発現する株では、PagP(Ec)を発現する株とは対照的に、3−ヒドロキシテトラデカン酸残基が欠失しているリピドA種のパルミトイル化は見られなかった。この矛盾に対して可能な説明としては、それら2つのPagP酵素の特異性が異なることが挙げられる。大腸菌PagPはリピドAの2位でアシル鎖を付加するのに対し、百日咳菌PagPは、3’位でパルミチン酸を付加する(Bishop et al., EMBO J., 2000; Preston et al., Mol. Microbiol., 2003)。このように、百日咳菌PagP発現株において、1個の3−ヒドロキシテトラデカン酸残基が欠失しているパルミトイル化リピドA種が全く存在しないことは、3−ヒドロキシテトラデカン酸残基が欠失しているリピドA分子は、それを3’位で特異的に欠失していることを示唆している。前記の示唆により、2つのPagP酵素間で観察された修飾効率の相違について、部分的に説明が可能となった。というのは、大腸菌PagPの基質プールは、百日咳菌PagPのものよりも大きいと考えられるためである。また、この仮説は、インビボで低アシル化(hypo-acylated)リピドA種が存在することと合致する。
Figure 0005378685


リピドAの構造。A:大腸菌リピドAは、4個のR−3−ヒドロキシミリストイル部分で置換されたビスリン酸化グルコサミン二糖からなり、その2’及び3’脂肪アシル鎖は、それぞれラウリン酸塩及びミリスチン酸塩でエステル化されている。B:サルモネラリピドAの制御された修飾。L-Ara4N又はpEtNによるリン酸塩部分の置換は、それぞれArnT及びPmrCにより媒介されている。LpxOによる2−ヒドロキシミリスチン酸塩で修飾したリピドAの形成、PagPによる2位の二次パルミトイル鎖の付加、及びPagLによる3位の3−ヒドロキシミリストイル部分の除去。 PagLタンパク質の多重配列アラインメント。ClustalW(http://www.ch.embnet.org/software/ClustalW.html)を用いて配列のアラインメントを行った。ハイフンは、最適アラインメントのために導入されたギャップを示す。完全に保存されている残基に、アスタリスクで印をつけてある。コロン及び点で示しているのは、それぞれ、保存度の高い残基及び保存度の低い残基である。百日咳菌のPagLORFは、フレームシフトにより破壊されており、コドン33に2つのヌクレオチドを加えることによって、このアラインメント用に修復されたものである。PagL相同体のGenBankタンパク質アクセッション番号は、次の通りである:ネズミチフス菌AAL21147、気管支敗血症菌NP_890306、パラ百日咳菌NP_885487、百日咳菌BX470248§、緑膿菌NP_253350、P.フルオレッセンスNZ_AAAT03000006§、P.プチダNC_002947§、P.シリンゲZP_00125465、B.ファンゴラムNZ_AAAJ03000003§、鼻疽菌NC_002970§、類鼻疽菌NC_002930§、R.メタリデュランスZP_00274744、青枯病菌NP_522762、及びA.ビネランジーZP_00089534。§という記号は、PagL相同体の同定を手作業で行った全(未解読)ゲノムのGenBankアクセッション番号を示すものである。 大腸菌BL21StarTM(DE3)におけるPagLの発現及び膜局在。空のpET-11aプラスミド又はpPagLプラスミドを含む大腸菌BL21StarTM(DE3)由来の膜を単離し、SDS−PAGEで分析した。クーマシーブリリアントブルーでタンパク質を染色した。アスタリスクは、マイクロシークエンシングを行って、成熟PagLタンパク質に相当することが判明したバンドを示す。2個のアスタリスクで示したバンドは、PagL(Bb)前駆タンパク質に相当する。左側にあるのは、分子量標準タンパク質である。 インビボでのLPS修飾の、トリシン−SDS−PAGEによる分析。pET-11aコンストラクト又はpPagLコンストラクトを含む、対数増殖期の大腸菌BL21StarTM(DE3)細胞を、表示された時間、IPTGで誘導した後、OD600が1ユニットの培養試料を回収し、トリシン−SDS−PAGEで分析した。 野生型大腸菌BL21StarTM(DE3)LPS及びPagL修飾大腸菌BL21StarTM(DE3)LPSの、GC/MSによる分析。精製した大腸菌BL21StarTM(DE3)の野生型LPS(WT)、PagL(St)修飾LPS(L(St))、PagL(Bb)修飾LPS(L(Bb))、及びPagL(Pa)修飾LPS(L(Pa))の、GC/MSによる分析(t=誘導後の時間)。野生型LPSを100として、それに対して基準化したC14/C14−3OH比を示している(バーの上に数値を示す)。 野生型大腸菌BL21StarTM(DE3)LPS及びPagL修飾大腸菌BL21StarTM(DE3)LPSの、ESI−MSによる構造分析。空のpET-11aを含む野生型大腸菌BL21StarTM(DE3)由来のリピドA種(A)、並びにPagL(St)で修飾したリピドA種(B)、PagL(Pa)で修飾したリピドA種(C)、及びPagL(Bb)で修飾したリピドA種(D)を、ESI−MSで分析した。m/z1797、1928、1622、及び1490における大きなピークは、それぞれ、大腸菌に一般に見られる特徴的なヘキサアシル化ビスリン酸種、L-Ara4N部分で置換されたヘキサアシル化ビスリン酸種、L-Ara4N部分で置換された3−O−脱アシル化モノリン酸種、及び3−O−脱アシル化モノリン酸種と解釈される。m/z1716及び1847における大きなピークは、おそらく、m/z1797及び1928における種の断片イオンを示すものであろう。 脱アシル化LPSのインビボでの再修飾及び内在性PagPの役割。A:空のpET-11aベクター又はPagL(Bb)プラスミドを含む、対数増殖期の大腸菌BL21StarTM(DE3)細胞を、表示された時間、IPTGで誘導した。OD600が1ユニットに相当する試料を回収し、トリシン−SDS−PAGEで分析した。B及びC:PagL発現の誘導後、表示された時間で単離した、精製した大腸菌BL21StarTM(DE3)の野生型LPS(WT)及びPagL(Bb)修飾LPS(L(Bb))の脂肪酸含有量を、GC/MSで分析した。野生型LPSを100として、それに対して基準化したC14/C14−3OH比(B)及びC16/C14比(C)を示している(バーの上に数値を示す)。D:対数増殖期の野生型大腸菌BL21StarTM(DE3)、又は大腸菌BL21StarTM(DE3)及びpPagL(Pa)を含むそのpagP変異誘導体JG101を、表示された時間、IPTGで誘導し、その後、OD600が1ユニットの培養試料を回収し、トリシン−SDS−PAGEゲル上で分析した。 緑膿菌由来PagLの位相モデル。(Tommassen, J. (1988) in Membrane Biogenesis (Op den Kamp, J.A.F., ed) NATO ASI series, Vol. H16, pp. 351-373. Springer Verlag, Berlin, Heidelberg, New York)に記載の外膜タンパク質構造の一般原則を用いて、PagL(Pa)の位相モデルを構築した。かかるモデル案は、外部環境まで延びている4つのループ(L1−4)を備えた8本鎖のβ−バレルからなる。仮想β鎖中の残基を菱形で囲んで示し、脂質二重層に露出している残基については、菱形に影をつけている。His149及びSer151(赤で印をつけている;PagL(Pa)前駆体中の位置)は、完全に保存されており(図2)、セリン加水分解酵素の「古典的」触媒3残基の一部であることが示唆されている。触媒3残基の酸性残基の潜在的候補を、黄色で示す。数字は、前駆体配列中の残基の位置を指す。 アミノ酸置換によるPagL(Pa)活性部位残基の同定。空のpET-11aベクター、pPagL(Pa)プラスミド又は変異pPagL(Pa)プラスミドを含む、対数増殖期の大腸菌BL21StarTM(DE3)細胞を、IPTGで75分間誘導した後、OD600が1ユニットの培養試料を回収してトリシン−SDS−PAGEで分析し、引きつづいて、PagL(Pa)に対する一次抗体を用いたイムノブロッテイング(A)及びLPSを視覚化するためのトリシン−SDS−PAGE(B)を行った。 百日咳菌LPSのインビボでの修飾。A:野生型百日咳菌株Tahoma由来のLPS又はpMMB67EH-PagL(Bb)プラスミドを有する百日咳菌株Tahoma由来のLPSを単離して、トリシン−SDS−PAGEで分析した。B:精製した百日咳菌株Tahomaの野生型LPS(WT)及びPagL(Bb)修飾LPS(PagL)の脂肪酸含有量を、GC/MSで分析した。野生型LPSを100として、それに対して基準化したC14−3OH/C10−3OH比を示している(バーの上に数値を示す)。 単離したLPSの生物学的活性。精製したLPSによるMM6細胞内でのIL−6(A)の誘導。横軸はmg/mlを単位とするLPS濃度を示し、縦軸は450nmでのELISAの表示値を示す。 セミネイティブSDS−PAGEにより分析した、精製されリフォールディングされたPagL(Pa)(-)の加熱修飾可能性。精製されリフォールディングされたPagL(Pa)(-)の加熱修飾可能性を示す、クーマシーブリリアントブルーで染色したセミネイティブSDS−PAGEゲル。電気泳動に先立って、0.1%のSDSを含む試料緩衝液中で室温(RT)にて、又は、2%のSDSを含む試料緩衝液中で100℃(15分間)にて、試料を処理した。左側にあるのは、分子量標準タンパク質である。 膜結合性PagL又はインビトロでリフォールディングされたPagLによる、インビトロでのLPS修飾。インビトロでのPagL活性を示す銀染色トリシン−SDS−PAGEゲル。A:精製した髄膜炎菌L3−LPSを、空のpET-11aプラスミド又はpPagLプラスミドを含む大腸菌BL21StarTM(DE3)より調製した細胞外皮を用いて又は用いずに、洗浄剤含有緩衝液中で18時間、37℃でインキュベーションした。B:精製した髄膜炎菌L3−LPSを、5mMのEDTAの存在下又は不在下で、そのシグナル配列をもたない、インビトロでリフォールディングされた4μgのPagL(Pa)(PagL(Pa)(-))を用いて又は用いずに、洗浄剤含有緩衝液中で18時間、37℃でインキュベーションした。同等量のアッセイ用混合物を、すべてのレーンにロードした。 トリシン−SDS−PAGEによる、インビトロでのLPS修飾の分析。熱フェノール/水抽出により、野生型百日咳菌株Tahoma及びPagP/PagL発現百日咳菌株TahomaからLPSを単離して、トリシン−SDS−PAGEで分析した。 野生型百日咳菌LPS及びPagL/PagP修飾百日咳菌LPSの、ESI−MSによる構造分析。野生型百日咳菌株Tahoma由来のリピドA種(A)、並びにPagL(Bb)で修飾したリピドA種(B)、PagP(Ec)で修飾したリピドA種(C)、及びPagP(Bp)で修飾したリピドA種(D)を、ESI−MSで分析した。m/z1557、1477、1387、1307、1251、及び1081における大きなピークは、それぞれ、百日咳菌に一般に見られる特徴的なペンタアシル化ビスリン酸種、相当するペンタアシル化モノリン酸種、3位の一次3−ヒドロキシデカン酸残基が欠失しているm/z1557の分子イオンの脱アシル化リピドA種、3位の一次3−ヒドロキシデカン酸残基が欠失しているm/z1477の分子イオンの脱アシル化リピドA種、一次3−ヒドロキシテトラデカン酸残基が欠失しているm/z1477の分子イオンの脱アシル化リピドA種、及び3位の一次3−ヒドロキシデカン酸残基と一次3−ヒドロキシテトラデカン酸残基の両方が欠失しているm/z1477の分子イオンの脱アシル化リピドA種と解釈される。m/z1320、1490、1545、1625、1715及び1796におけるピークは、それぞれ、m/z1081、1251、1307、1387、1477及び1557に存在する分子イオンのPagPを介したパルミトイル化に相当する。
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Claims (9)

  1. 配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドをコードする核酸配列を含むベクターを含み、前記核酸配列が、野生型細菌と比較してリピドA3−O−脱アシル化酵素活性の上昇を付与するグラム陰性菌。
  2. 百日咳菌、パラ百日咳菌、気管支敗血症菌、又はナイセリア菌種である、請求項1に記載のグラム陰性菌。
  3. 髄膜炎菌、淋菌、又はナイセリア・ラクタミカ菌である、請求項2に記載のグラム陰性菌。
  4. 配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードし、細菌にリピドA3−O−脱アシル化酵素活性を付与するDNAを含む百日咳菌。
  5. 少なくとも部分的に3−O−脱アシル化されたLPSを製造する方法であって、前記少なくとも部分的に3−O−脱アシル化されたLPSの合成、及び、任意で、前記少なくとも部分的に3−O−脱アシル化されたLPSの回収を促進する条件下で、請求項1〜4に定義した細菌を培養するステップを含み、前記少なくとも部分的に3−O−脱アシル化されたLPSが、全リピドAの少なくとも10%を3−O−脱アシル化された形態で含む、方法。
  6. 百日咳菌感染症の治療薬又は予防薬を製造するための、請求項2又は4に記載の百日咳菌の使用。
  7. 請求項1〜4のいずれか記載の細菌を含み、前記細菌が百日咳菌又はナイセリア属の菌であり、医薬的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物。
  8. さらにアジュバントを含む、請求項に記載の医薬組成物。
  9. グラム陰性LPS又はグラム陰性LPSを含む組成物を脱アシル化するためのインビトロ法であって、グラム陰性LPSの、酵素による脱アシル化を促進する条件下で、前記LPS又は前記組成物を、配列番号1と少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を示し、リピドA3−O−脱アシル化酵素活性を示すポリペプチドと接触させるステップを含む方法。
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