JP5353592B2 - 蒸着材料 - Google Patents

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本発明は、ケイ素、一酸化ケイ素、二酸化ケイ素からなる蒸着材料に係り、より詳しくは、プラスチックフィルムシートの面上に真空蒸着するのに好適な真空蒸着材料、特に生鮮食品、加工食品、医療品、医療機器、電子部品等の包装用フィルムの少なくとも片面にセラミック薄膜を形成し、バリアフィルムを製造するために使用するのが好適な蒸着材料に関する。
食品、医療・医薬品などの包装材料分野や液晶、有機ELなどのフラットパネルディスプレイ用樹脂基板等のエレクトロニクス分野においては、高度のガスバリア性をもつことが求められている。この観点からアルミニウムなどの金属、あるいは酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムなどの金属酸化物を高分子フィルム基材上に蒸着させたガスバリア性フィルムが使用されている。中でも酸化ケイ素系の蒸着膜は、透明であり、ガスバリア性が高く、電気絶縁性および機械的強度にも優れている。
ケイ素系の物質のうち、金属ケイ素、一酸化ケイ素、二酸化ケイ素、炭化ケイ素等が蒸着材料として頻繁に用いられるが、中でも金属ケイ素、二酸化ケイ素がコストの安い点で望ましく、金属ケイ素と二酸化ケイ素を混合した材料を蒸着材料として用いる既存の技術も多い(例えば特許文献1〜3を参照)。
一方、ケイ素系材料の中で、一酸化ケイ素は比較的蒸発速度が速い点で優れている。これは、一酸化ケイ素が昇華性の物質のためである。一酸化ケイ素膜の形成に使用される蒸着材料は、一般的に、原料室内でSiとSiO2 とを混合して加熱し、原料室の上に連結された管状の凝集室の内面にSiOを気相析出させることにより、作られる。蒸着材料として使用される場合、析出されたSiOを所定のタブレット形状に切り出して使用する場合もあれば、析出体を一旦破砕して粉末にし、これをタブレット、キュービック等の形状に成形して使用する場合もある。
但し、一酸化ケイ素を直接蒸着材料として用いる場合でも、他の物質と混ぜる場合でも、スプラッシュの発生を抑えること、蒸発速度を出すことが課題となっている。昇華性の物質であるために、材料からの蒸発を制御することが難しいためである。ここでスプラッシュとは、蒸着材料が高温の微細な粒のまま飛散する現象を言う。また必要に応じて、Zr、Mg、Cなどの金属、あるいは添加物を混ぜることもできる。
これらの解決を図るため、例えば特許文献4〜8に開示されたような技術が提案されている。
特許第3230370号公報 特許第3747498号公報 特開昭63−166965号公報 特開2006−348348号公報 特開2008−133157号公報 特開2004−76120号公報 特開 2001−348656号公報 特開平7−310177号公報
本発明は、昇華性ではない、すなわち溶融した後に蒸発する金属ケイ素と二酸化ケイ素と一酸化ケイ素とを添加した蒸着材料であって、蒸発速度が上昇し、スプラッシュが抑制され、バリア性の良好なバリアフィルムを製造できる蒸着材料を提供することを目的とする。
請求項1に記載の発明は、金属ケイ素と一酸化ケイ素と二酸化ケイ素とを含有し、ケイ素と酸素との原子比(O/Si)が1.05〜1.6であり、かさ密度が1.2〜1.5 g/cmであることを特徴とするEB加熱方式用の蒸着材料である。
請求項2に記載の発明は、前記蒸着材料をフィルム上に蒸着した膜の成分のケイ素と酸素との原子比(O/Si)が1.9以下であることを特徴とする請求項1記載の蒸着材料である。
請求項3に記載の発明は、前記蒸着材料の二酸化ケイ素がX線的に石英型の結晶構造を有していることを特徴とする請求項1記載の蒸着材料である。
本発明によれば、金属ケイ素と一酸化ケイ素と二酸化ケイ素とを添加した蒸着材料において、ケイ素と酸素との原子比(O/Si)を特定範囲とし、かつかさ密度も特定範囲に設定したので、昇華性ではない、すなわち溶融した後に蒸発する材料であるとともに、蒸発速度が上昇し、スプラッシュが抑制され、バリア性の良好なバリアフィルムを製造できる蒸着材料が提供される。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の蒸着材料は、金属ケイ素と一酸化ケイ素と二酸化ケイ素とを含有し、ケイ素と酸素との原子比(O/Si)が1.05〜1.6であり、かさ密度が1.2〜1.5g/cmである。
従って本発明の蒸着材料は真空蒸着において、蒸着材料からのスプラッシュを抑え、かつ蒸発速度を上げることができる。すなわち、金属ケイ素と一酸化ケイ素と二酸化ケイ素とを含有する蒸着材料のケイ素と酸素との原子比(O/Si)を1.05〜1.6とし、かさ密度を1.2〜1.5 g/cmとしたためEBの照射に対して安定して溶解、昇華するため、スプラッシュが出にくく、かつ蒸着速度が調整されて蒸発速度を出し、バリアフィルムを製造することができる。
ここでスプラッシュとは、蒸着の際の加熱による熱衝撃や内部から発生するガスの圧力などにより、気化していない蒸着材料が、高温の微細な粒のまま飛散する現象である。スプラッシュの発生により、形成された蒸着膜にピンホールが生じてバリアフィルムとしての性能が出なかったり、微細な粒が異物として蒸着原反に混入することも有り得る。
また、蒸着方式には抵抗加熱方式、誘導過熱方式、電子ビーム方式などある。特に電子ビーム(EB)方式では蒸着材料を局部的に急速に加熱でき、しかも蒸着材料の堆積速度をはやめ、そのため巻取蒸着加工速度を向上させて包装材料の生産性を高めることができる特徴があり、頻繁に用いられている。しかし電子ビームを直接材料に当てるため、材料が受ける熱衝撃が大きく、スプラッシュが一層発生しやすくなる問題がある。
本発明では、金属ケイ素と一酸化ケイ素と二酸化ケイ素とを含有し、ケイ素と酸素との原子比(O/Si)を1.05〜1.6とし、かさ密度を1.2〜1.5g/cmとすることでスプラッシュの発生を抑えることができる。
ケイ素系材料を3種類混合するのは、各々単独で蒸着材料の成形体とするとスプラッシュ、蒸発速度等を制御する点で使用が困難のためである。
金属ケイ素単体では、EBの熱によって溶融した層ができ、蒸発しないまま温度が高くなり、層がはじけてスプラッシュが多発する。一酸化ケイ素単体では、昇華性物質であるため蒸発速度は速いが、均一に昇華しにくいため、コントロールが難しい。二酸化ケイ素単体では、金属ケイ素と同じく溶融し、ガラス層ができる。また、成膜した膜がSiO2に非常に近く、ガスバリア性に乏しい。そこで、特徴の異なる3種を合わせることで、スプラッシュが出ず、蒸着速度を出せる蒸着材料とした。
ケイ素と酸素との原子比(O/Si)は混合する粉末の配合量、添加剤等によって調整が可能である。蒸着中においては、比が高いほど溶融してガラス化して蒸発量が減る傾向があり、比が低いほど不安定に昇華し、スプラッシュが出やすい傾向がある。そこで、蒸着材料のO/Si比は1.05〜1.6の範囲であることが望ましい。
蒸着材料のかさ密度は、選択する粉末の粒径のほか、粉末を成形体とする際の製造方法によって調整することができる。水等と混合してスラリー状とする場合は、水分との混合比により調整される。また、プレス法などで押し固める場合は、その圧力により調整される。また、バインダーとして添加剤を用いる場合には、添加剤が空隙に充填される分、密度が高くなる可能性が高い。しかし密度が高すぎると、電子ビームの熱衝撃に対して砕けやすく、また熱伝導性が高い為に材料が暖まりやすく、蒸発の制御がしにくい。逆に密度が低いと、電子ビームの熱衝撃に対して細かく飛び散りやすく、特に脆い場合は、それに加えて壊れやすい為に扱いが難しい。そのため、蒸着材料のかさ密度は1.2〜1.5g/cmであることが望ましい。
かさ密度とは、材料寸法および重量を測定し、g/cmへ単位換算することにより測定された値を意味する。
また、蒸着材料をフィルム上に蒸着した膜の成分のケイ素と酸素との原子比(O/Si)は1.9以下が望ましい。O/Si比が2.0に近いほど、組成比が二酸化ケイ素と近くなり、水蒸気バリア性に乏しい膜となる。
上記原子比(O/Si)を1.9以下にするには、材料作成において粉末を混合する際、O/Si比の理論値をできるだけ小さくする、焼成による材料の酸化を抑える、蒸着機の成膜室における酸素ガス発生を抑える等の手段がある。
一方、二酸化ケイ素には天然品、合成品、結晶質、非晶質などの区分がある。金属ケイ素、一酸化ケイ素、二酸化ケイ素を混合した材料を作成する場合、金属ケイ素、一酸化ケイ素は一般的に結晶質であるため、二酸化ケイ素も出来るだけ近い形状にして、蒸発に際する溶融の仕方を似たものとするべく、結晶質を用いるのが望ましい。
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されない。
金属ケイ素粉末(平均粒径10μm)、一酸化ケイ素粉末(平均粒径8μm)、X線的に石英型の結晶構造をした二酸化ケイ素粉末(平均粒径10μm)をO/Si比が理論値で1.2となるように混合し、更に水、シリカゾルを混合し、スラリーを調整し、このスラリーを型に流し込み、成形した。なお、XRD(X-ray Diffraction Spectroscopy)にて結晶構造を分析し結晶化を示すピークが検出されれば石英型とみなすことができる。この成形物を乾燥した後、大気環境800℃で1時間焼成することにより実施例1の成形体を作成した。
なお、金属ケイ素のSi原子1個に対し、一酸化ケイ素におけるSi原子が1.8個、二酸化ケイ素におけるSi原子が3.2個となるように上記材料を混合した。
一酸化ケイ素粉末の平均粒径を10μmに、二酸化ケイ素の平均粒径を6μmに変更し、アルゴン雰囲気下1200℃で焼成したこと以外は実施例1と同じ方法で成形体を作成することにより実施例2の成形体を作成した。
金属ケイ素粉末の平均粒径を8μmに、二酸化ケイ素の平均粒径を16μmに変更し、O/Si比の理論値を1.1としたこと、プレス成形したこと、大気環境800℃で焼成したこと以外は実施例1と同じ方法で成形体を作成することにより実施例3の成形体を作成した。
なお、金属ケイ素のSi原子1個に対し、一酸化ケイ素におけるSi原子が0.4個、二酸化ケイ素におけるSi原子が3.9個となるように上記材料を混合した。
シリカゾルを用いなかったこと、O/Si比の理論値を1.5としたこと、アルゴン雰囲気下1200℃で焼成したこと以外は、実施例1と同じ方法で成形体を作成することにより実施例4の成形体を作成した。
なお、金属ケイ素のSi原子1個に対し、一酸化ケイ素におけるSi原子が1.1個、二酸化ケイ素におけるSi原子が8.5個となるように上記材料を混合した。
(比較例1)
シリカゾルを用いなかったこと、O/Si比の理論値を0.90としたこと、大気環境800℃で焼成したこと以外は実施例1と同じ方法で材料の作成することにより比較例1の成形体を作成した。
(比較例2)
0/Si比の理論値を1.6としたこと、アルゴン雰囲気下1200℃で焼成したこと以外は、実施例1と同じ方法で材料の作成することにより比較例2の成形体を作成した。
(比較例3)
0/Si比の理論値を1.45としたこと、プレス成形を行ったこと以外は、実施例2と同じ方法で材料の作成することにより比較例3の成形体を作成した。
(比較例4)
O/Si比の理論値を1.0としたこと、大気環境1000℃で焼成したこと以外は、実施例1と同じ方法で材料の作成を行うことにより、比較例4の成形体を作成した。
(比較例5)
プレス成形を行ったこと以外は、実施例1と同じ方法で材料の作成を行うことにより、比較例5の成形体を作成した。
(比較例6)
二酸化ケイ素粉末が非晶質であったこと以外は、実施例1と同じ方法で材料の作成を行うことにより比較例6の成形体を作成した。
(比較例7)
混合した粉末が金属ケイ素粉末(平均粒径10μm)及び二酸化ケイ素粉末(平均粒径10μm)であったこと、O/Si比の理論値が1.3であったこと以外は、実施例1と同じ方法で材料の作成を行うことにより比較例7の成形体を作成した。
(比較例8)
混合した粉末が一酸化ケイ素粉末(平均粒径8μm)及び二酸化ケイ素粉末(平均粒径10μm)であったこと、O/Si比の理論値が1.3であったこと以外は、実施例1と同じ方法で材料の作成を行うことにより比較例8の成形体を作成した。
(比較例9)
粉末が一酸化ケイ素粉末(平均粒径8μm)のみであったこと、O/Si比の理論値が1.0であったこと以外は、実施例1と同じ方法で材料の作成を行うことにより比較例9の成形体を作成した。
(評価)
実施例1〜4及び比較例1〜7で作成した成形体について、O/Si比をエネルギー分散型X線分光分析装置(JDE-2300 JEOL社製)を用いて求めた。測定した結果を表1に示す。また、かさ密度を求めた結果を表1に示す。
作成した各成形体について、電子ビーム加熱方式の巻き取り式蒸着装置を用いて、実施例及び比較例の蒸着材料を、12μm厚のポリエステルフィルムに、巻き取り速度60m/minで真空蒸着させ、ガスバリアフィルムを得た。これらの蒸着の際におけるスプラッシュ発生の有無を目視で確認し、スプラッシュの出ない最大の電子ビームパワーで加工した。各実施例、比較例のスプラッシュの発生したレート及び電子ビームパワーを表1に示す。レートとは、得られた膜厚から算出され、蒸発の速度を表す。
次に、得られたガスバリアフィルムの水蒸気透過度(g/m・day)を水蒸気透過度測定装置(PERMATRAN 3/30、mocon社製)にて40℃90%RHの雰囲気下で測定した。得られた結果を表1に示す。また、得られたガスバリアフィルムの膜組成をXPS(日本電子製 JPS-90SXV)にて計測し、O/Si比を求めた。得られた結果を表1に示す。
Figure 0005353592
表1及び製造方法からわかるように、実施例1〜4の蒸着材料はいずれも、金属ケイ素と一酸化ケイ素と二酸化ケイ素とを含有し、ケイ素と酸素との原子比(O/Si)が1.05〜1.6であり、かさ密度が1.2〜1.5g/cmであり、フィルム上に蒸着した膜の成分のケイ素と酸素との原子比(O/Si)が1.9以下であり、二酸化ケイ素がX線的に石英型の結晶構造をしていた。これにより、実施例1〜4の蒸着材料はいずれも、昇華性ではない、すなわち溶融した後に蒸発する材料であり、蒸発速度が上昇し、スプラッシュが抑制され、バリア性の良好なバリアフィルムを製造できる蒸着材料であることが証明された。

Claims (3)

  1. 金属ケイ素と一酸化ケイ素と二酸化ケイ素とを含有し、ケイ素と酸素との原子比(O/Si)が1.05〜1.6であり、かさ密度が1.2〜1.5 g/cmであることを特徴とするEB加熱方式用の蒸着材料。
  2. 前記蒸着材料をフィルム上に蒸着した膜の成分のケイ素と酸素との原子比(O/Si)が1.9以下であることを特徴とする請求項1記載の蒸着材料。
  3. 前記蒸着材料の二酸化ケイ素がX線的に石英型の結晶構造を有していることを特徴とする請求項1記載の蒸着材料。
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