JP2012193073A - 酸化物成形体、酸化物焼結体、および透明導電膜形成材料 - Google Patents

酸化物成形体、酸化物焼結体、および透明導電膜形成材料 Download PDF

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Abstract

【課題】優れた導電性を有する透明導電膜の製造を可能にし、大型酸化物焼結体の作製が可能な、低温分解性バインダー樹脂を含有する酸化物成形体、酸化物焼結体、および透明導電膜形成材料を提供する。
【解決手段】酸化物成形体は、酸化亜鉛を主成分とし、低原子価金属酸化物を含有した原料粉末に対して、ポリエチレンカーボネート樹脂またはポリプロピレンカーボネート樹脂をバインダー樹脂として添加した混合粉を用いて作製されたものである。
【選択図】なし

Description

本発明は、酸化物成形体、酸化物焼結体、および透明導電膜形成材料に関し、詳しくは低原子価金属酸化物を添加した酸化亜鉛焼結体を作製する際に、低温にて低原子価金属酸化物を酸化させることなく、脱脂できるバインダー樹脂を含有する酸化物成形体、それを用いた酸化物焼結体、および透明導電膜形成材料に関する。
導電性と光透過性とを兼ね備えた透明導電膜は、これまで、太陽電池、液晶表示素子、その他各種受光素子用電極、自動車窓や建築用の熱線反射膜、帯電防止膜、冷凍ショーケースなどの防曇用透明発熱体など、幅広い用途に利用されている。特に、低抵抗で導電性に優れた透明導電膜は、太陽電池や、液晶、有機エレクトロルミネッセンス、無機エレクトロルミネッセンスなどの液晶表示素子や、タッチパネルなどに好適であることが知られている。
従来、透明導電膜としては、例えば、酸化スズ(SnO2)系の薄膜、酸化亜鉛(ZnO)系の薄膜、そして酸化インジウム(In23)系の薄膜が知られている。
具体的には、酸化スズ系の透明導電膜としては、アンチモンをドーパントとしたアンチモンドープ酸化スズ(ATO)膜や、フッ素をドーパントとしたフッ素ドープ酸化スズ(FTO)膜が知られている。
酸化亜鉛系の透明導電膜としては、アルミニウムをドーパントとしたアルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)膜や、ガリウムをドーパントとしたガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)膜が知られている。
酸化インジウム系の透明導電膜としては、スズをドーパントとしたスズドープ酸化インジウム(ITO;Indium Tin Oxide)膜が知られている。中でも、最も工業的に利用されているのは酸化インジウム系の透明導電膜であり、とりわけITO膜は、低抵抗で導電性に優れることから、幅広く実用化されている。
このような透明導電膜を形成する際には、従来から、スパッタリング法、イオンプレーティング法、パルスレーザー堆積(PLD)法、エレクトロンビーム(EB)蒸着法などが工業的に汎用されている。
これらの成膜方法において膜原料として用いられるターゲットは、成膜しようとする膜を構成する金属元素を含む固体からなり、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物などの焼結体や、場合によっては単結晶で形成される。工業的に用いるターゲットとしては、酸化物ターゲット(すなわち酸化物焼結体)が汎用されてきた。
ところで、ITO膜の如き酸化インジウム系の透明導電膜は、その必須原料であるIn(インジウム)が、希少金属であるため高価で且つ資源枯渇のおそれがあり、しかも毒性を有し環境や人体に対して悪影響を及ぼす可能性がある。そのため、近年、ITO膜に代替し得る工業的に汎用可能な透明導電膜が要望されている。そのような中、スパッタリング法による工業的製造も可能である酸化亜鉛系透明導電膜が注目されており、その導電性能を高めるべく研究が進められている。
非特許文献1には、導電性を高めるべくZnOに種々のドーパントをドープさせる試みがなされており、種々のドーパントごとに最適ドープ量と最低抵抗率が報告されている。この報告の中には、Al23、Ga23をドープさせた酸化亜鉛系透明導電膜は、ITO膜と遜色がない低抵抗を示すことが知られている。しかし、Al23をドープしたAZO膜、Ga23をドープしたGZO膜は、低抵抗であるが、化学的耐久性に劣り、近赤外領域の透過性に劣る。
また、この報告によれば、例えば、化学的耐久性に優れるTiO2をドープさせた酸化亜鉛系透明導電膜は、ドープ量は2重量%が最適であり、その時の最低抵抗率は5.6×10-4Ω・cmであることが示されているが、安定に低抵抗な物性を得ることができておらず、抵抗がAZO膜,GZO膜に劣る。
月刊ディスプレイ、1999年9月号、p10〜「ZnO系透明導電膜の動向」
また、低原子価酸化チタンであるTiO(II)、Ti23(III)を原料として利用した酸化亜鉛系透明導電膜は、TiO2(IV)をドープさせた酸化亜鉛系透明導電膜よりも、さらに低抵抗化することができることを本発明者は既に見出している。
さらに、これまではまったく酸化亜鉛のドーパントとして適していないと考えられた酸化ニオブ、酸化モリブデン、酸化タンタルの低原子価金属酸化物であるNbO(II)、NbO(III)、NbO2(IV)、Ta23、TaO2、Mo23、MoO2を原料として利用した酸化亜鉛系透明導電膜が低抵抗化することを本発明者は既に見出している。
しかしながら、これらの低原子価金属酸化物そのものは各々の主原子価である金属酸化物と較べて、酸化雰囲気による耐性は劣る。すなわち、チタン、ニオブ、タンタル、モリブデンのいずれの低原子価金属酸化物も400℃以上に酸素が存在する雰囲気にて加熱すると、酸化され主原子価金属酸化物に変性してしまうという問題点があった。
また、太陽電池や液晶などに用いられる透明導電膜は、例えば1m×1mという大型基板に成膜されるのが通常となってきている。そのため、それを成膜するのに必要なターゲットのサイズも大きくする必要がある。
大きなサイズのターゲットを作製する際、加圧焼結では、バッチ生産になってしまい、生産効率が低いのに対し、常圧焼結は、連続生産プロセスを容易に適用可能であるため常圧焼結が望ましい。
常圧焼結にて大型ターゲットに好適な大型酸化物焼結体を作製するには、原料粉末を成形し、焼結するのに、原料粉末にバインダー樹脂を共存させた混合粉で成形体を作製しないと、機械的強度が弱く、取り扱うことが不可能である。そのため、バインダー樹脂は必須である。
これまで知られているバインダー樹脂としては、例えば、ブチラール樹脂、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、ポリα-メチルスチレン、エチルセルロース、ポリ乳酸メチル、(ポリ)ビニルブチラール、(ポリ)ビニルアセテート、(ポリ)ビニルアルコール、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、(ポリ)ビニルピロリドン、ポリアミド、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリアクリルアミド、ポリメタクリレートおよび種々のアクリルポリマーとそれらのコポリマーやターポリマー、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロースなどのセルロースとその誘導体である樹脂などが挙げられる。
しかし、これらのバインダー樹脂を成形体から完全に除去するには、かなりの時間とそれに伴う電気代が必要であり、大型ターゲットを製造するのに大幅なコストアップに繋がっていた。これらのバインダー樹脂は、酸素雰囲気下においても、通常少なくとも450℃以上、通常は500〜600℃程度の加熱でないと、脱脂できない。なお、還元雰囲気下では、酸素が存在しないので、主に熱分解プロセスによりバインダー樹脂を脱脂するのに対して、酸素雰囲気下では、主に酸素による酸化分解プロセスによりバインダー樹脂を脱脂するので、還元雰囲気下よりも低温で脱脂することができる。
また、大型ターゲットを製造するのに、酸化雰囲気にて脱バインダー処理および低温で分解できれば、エネルギー消費量も少なくコスト的に有利である。
従って、本発明の課題は、優れた導電性を有する透明導電膜の製造を可能にし、大型酸化物焼結体の作製が可能な、低温分解性バインダー樹脂を含有する酸化物成形体、酸化物焼結体、および透明導電膜形成材料を提供することにある。
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行なった結果、低原子価金属酸化物粉と、主成分である酸化亜鉛粉との原料粉末に対して、ポリプロピレンカーボネート樹脂またはポリエチレンカーボネート樹脂をバインダー樹脂として含有させた混合粉を成形し、大気雰囲気350℃以下にて脱脂を行い、その後、不活性雰囲気にて焼結を行うことによって、大型焼結体、ひいては、大型ターゲットを作製することができることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
(1)酸化亜鉛を主成分とし、低原子価金属酸化物を含有した原料粉末に対して、ポリアルキレンカーボネート樹脂をバインダー樹脂として添加した混合粉を用いて作製したことを特徴とする酸化物成形体。
(2)前記ポリアルキレンカーボネート樹脂が、ポリエチレンカーボネート樹脂またはポリプロピレンカーボネート樹脂であることを特徴する前記(1)に記載の酸化物成形体。
(3)前記低原子価金属酸化物が、低原子化酸化チタン、低原子価酸化ニオブ、低原子価酸化タンタル、および低原子価酸化モリブデンから選ばれることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の酸化物成形体。
(4)前記低原子価酸化チタンが、TiO2-X(X=0.1〜1)であることを特徴とする前記(3)に記載の酸化物成形体。
(5)前記低原子価酸化チタンが、TiO(II)、Ti23(III)、Ti35、Ti47、Ti611、Ti59、およびTi815から選ばれることを特徴とする前記(3)または(4)に記載の酸化物成形体。
(6)前記低原子価酸化ニオブが、NbO(II)、Nb23(III)、およびNbO2(IV)から選ばれることを特徴とする前記(3)〜(5)のいずれかに記載の酸化物成形体。
(7)前記低原子価酸化タンタルが、TaO2(IV)およびTa23(III)から選ばれることを特徴とする前記(3)〜(6)のいずれかに記載の酸化物成形体。
(8)前記低原子価酸化モリブデンが、MoO2(IV)およびMo23(III)から選ばれることを特徴とする前記(3)〜(7)のいずれかに記載の酸化物成形体。
(9)前記(1)〜(8)のいずれかに記載の酸化物成形体を酸素が存在する雰囲気中で350℃以下にてバインダー樹脂を脱脂する工程、その後不活性雰囲気または還元雰囲気中で焼結する工程を経由して作製された酸化物焼結体。
(10)前記(9)に記載の酸化物焼結体が加工された透明導電膜形成材料。
本発明によれば、ポリアルキレンカーボネート樹脂をバインダー樹脂として用いることにより、低原子価金属酸化物ドープ酸化亜鉛焼結体を大型化することが可能となる。
本発明の酸化物成形体について以下に詳細に説明する。
(酸化物成形体)
本発明の酸化物成形体は、酸化亜鉛を主成分とし、低原子価金属酸化物を含有した原料粉末に、所定のバインダー樹脂を添加した混合粉を用いて作製されたものである。
酸化亜鉛としては、例えば、酸化亜鉛粉、水酸化亜鉛粉、金属亜鉛粉などが挙げられる。
酸化亜鉛粉としては、通常、ウルツ鉱構造のZnOなどの粉末が用いられ、さらにこのZnOを予め還元雰囲気で焼成して酸素欠損を含有させたものを用いてもよい。
水酸化亜鉛粉としては、アモルファスもしくは結晶構造のいずれであってもよい。
低原子価金属酸化物としては、例えば、低原子価酸化チタン、低原子価酸化ニオブ、低原子価酸化タンタル、低原子価酸化モリブデン、低原子価金属酸化物化合物などが挙げられ、なかでも低原子価酸化チタン、低原子価酸化ニオブ、低原子価酸化タンタルおよび低原子価酸化モリブデンから選ばれるのが好ましい。
低原子価酸化チタンとは、TiO(II)、Ti23(III)のように、原子価が2価または3価の整数であるチタン元素の酸化物だけでなく、Ti35、Ti47、Ti611、Ti59、Ti815などをも含む一般式:TiO2-X(X=0.1〜1)で表される新規な低原子価酸化チタンの粉末をいう。この低原子価酸化チタンの粉末は、前記一般式で表される酸化チタンの1種を単独で用いてもよく、あるいは2種以上の混合物を用いてもよい。なかでも、特にTi23(III)の粉末を用いるのが好ましい。これは、Ti23のイオン半径が0.67Åであり、亜鉛のイオン半径が0.74Åであるため、亜鉛のイオン半径と極めて近く固相焼結する際に置換固溶しやすいからである。
前記一般式:TiO2-X(X=0.1〜1)は単成分を作製するのは難しく、混合物として得られる。通常、酸化チタン(TiO2)を水素雰囲気などの還元雰囲気にて、還元剤としてカーボンなどを用いて、加熱することにより作製することができる。水素濃度、還元剤としてカーボン量、加熱温度を調製することにより、低原子価酸化チタンの混合物の割合を制御することができる。
低原子価酸化モリブデンとしては、例えば、酸化モリブデン(III)、酸化モリブデン(IV)などの粉末が挙げられ、特に、Mo23の粉末を用いるのが好ましい。なぜなら、Mo23のイオン半径が0.69Åであり、亜鉛のイオン半径が0.74Åである。亜鉛のイオン半径と極めて近く固相焼結する際に置換固溶しやすいからである。これら粉末はそれぞれ単独で用いてよいし、2種以上を併用してもよい。
低原子価酸化ニオブとしては、例えば、酸化ニオブ(II)、酸化ニオブ(III)、酸化ニオブ(IV)などの粉末が挙げられ、特に、Nb23の粉末を用いるのが好ましい。なぜなら、Nb23のイオン半径は0.72Åであり、亜鉛のイオン半径は0.74Åであるので、亜鉛のイオン半径と極めて近く固相焼結する際に置換固溶しやすいからである。これら粉末はそれぞれ単独で用いてよいし、2種以上を併用してもよい。
低原子価タンタルとしては、例えば、酸化タンタル(II)、酸化タンタル(III)、酸化タンタル(IV)などの粉末が挙げられ、特に、Ta23の粉末を用いるのが好ましい。なぜなら、Ta23のイオン半径が0.72Åであり、亜鉛のイオン半径が0.74Åであり、亜鉛のイオン半径と極めて近く固相焼結する際に置換固溶しやすいからである。これら粉末はそれぞれ単独で用いてよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、前記低原子価酸化金属の構造は、X線回折装置(X−Ray Diffraction、XRD)、X線光電子分光装置(X−ray Photoelectron Spectroscopy、XPS)などの機器分析によって確認することができる。
低原子価金属酸化物化合物(低原子価金属酸化物と酸化亜鉛が固相反応によって生成する複合酸化物)の具体例としては、ニオブ酸亜鉛化合物、タンタル酸亜鉛化合物、モリブデン酸亜鉛化合物などが挙げられる。
前記ニオブ酸亜鉛化合物としては、例えば、Zn3Nb28、ZnNb26、Zn4Nb29などの粉末を用いることができ、特に、Zn3Nb28の粉末を用いるのが好ましい。
前記タンタル酸亜鉛化合物としては、例えば、ZnTa26、Zn3Ta28、Zn4Ta29などの粉末を用いることができ、特に、Zn3Ta28の粉末を用いるのが好ましい。
前記モリブデン酸亜鉛化合物(酸化亜鉛と低原子価酸化モリブデンとの固相反応による複合酸化物)としては、例えば、ZnMoO4、Zn2Mo38、Zn3Mo29、ZnMo27、ZnMoO3、ZnMoO4、Zn3Mo38、ZnMo810、ZnMoO3などの粉末を用いることができ、特に、ZnMoO3の粉末を用いるのが好ましい。
(原料粉末)
前記原料粉末の具体例としては、低原子価金属酸化物と、酸化亜鉛粉または水酸化亜鉛粉とからなる粉末か、または金属亜鉛粉と低原子価金属酸化物化合物を含む粉末であればよい。
原料粉末において、低原子価金属の原子数が酸化亜鉛の原子数に対して2%以上10%以下の割合で含有されることが好ましく、さらに好ましくは、低原子価金属の原子数が酸化亜鉛の原子数に対して3%以上9%以下となる割合、より好ましくは3%以上6%以下となる割合で含有される。この低原子価金属の原子数の割合が2%未満となると、得られる酸化物焼結体もしくはこれを加工した透明導電膜形成材料(以下、単にターゲットという場合がある)を用いて形成された膜の耐薬品性などの化学的耐久性が不充分となるおそれがある。一方、低原子価金属の原子数の割合が10%を超えると、低原子価金属が亜鉛サイトに十分置換固溶できなくなり、得られる酸化物焼結体またはターゲットを用いて形成された膜の導電性や透明性が不充分となるおそれがある。
原料粉末に含まれる全金属原子数の約90〜98%を亜鉛が占めるため、原料粉末において酸化亜鉛が主成分となる。低原子価金属は単成分である必要はなく、低原子価金属の複数成分であっても構わない。
原料粉末は、ガリウム、アルミニウム、錫、シリコン、ゲルマニウム、ジルコニウム、およびハフニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素(以下、これらを「添加元素」と称することもある)を含有してもよい。これによって、得られる酸化物焼結体またはターゲットを用いて形成される膜の比抵抗に加え、得られる酸化物焼結体またはターゲット自体の比抵抗も低下させることができる。添加元素の全含有量は、原子比で、原料粉末に含まれる全金属元素の総量に対して0.05%以下であることが好ましい。添加元素の含有量が前記範囲よりも多いと、得られる酸化物焼結体またはターゲットを用いて形成される膜の比抵抗が増大するおそれがある。
さらに、原料粉末は、例えば、インジウム、イリジウム、ルテニウム、レニウムなどの他の元素を、不純物として含有していてもよい。不純物として含有される元素の合計含有量は、原子比で、原料粉末に含まれる全金属元素の総量に対して0.1%以下であることが好ましい。
原料粉末として各々用いる化合物(粉)の平均粒径は、それぞれ1μm以下であることが好ましい。
前記原料粉末はバインダー樹脂と混合する前に、粉砕処理が施されてもよい。粉砕処理が施されることで、原料粉末は幅の狭い粒度分布に整えられ、後述する焼結において、均一に固相焼結させることができ、密度の高い酸化物焼結体を得ることができる。
粉砕処理する方法としては、特に限定されず、例えば、メディアを使用する場合、ビーズミル、ボールミル、遊星ミル、サンドグラインダー、振動ミルまたはアトライターなどの装置を備えた粉砕機による方法、メディアを使用しないジェットミル、ナノマイザー、スターバーストなどの湿式超高圧微粒化装置による方法などが挙げられる。
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂として、ポリアルキレンカーボネート樹脂を用いる。
ポリアルキレンカーボネート樹脂は、アルキレン基およびカーボネート基からなるアルキレンカーボネート構造を有する重合体であり、その具体例としては、ポリエチレンカーボネート樹脂、ポリプロピレンカーボネート樹脂、ポリ(1,2−ジメチルエチレンカーボネート)樹脂、ポリブテンカーボネート樹脂、ポリイソブテンカーボネート樹脂、ポリペンテンカーボネート樹脂、ポリヘキセンカーボネート樹脂、ポリシクロペンテンカーボネート樹脂、ポリシクロヘキセンカーボネート樹脂、ポリシクロヘプテンカーボネート樹脂、ポリシクロオクテンカーボネート樹脂、ポリリモネンカーボネート樹脂などが挙げられ、なかでも、ポリエチレンカーボネート樹脂、ポリプロピレンカーボネート樹脂を用いるのが好ましい。
ポリアルキレンカーボネート樹脂からなるバインダー樹脂の重量平均分子量(Mw)は、10万以上50万以下の範囲とし、かつ低原子価金属酸化物と酸化亜鉛を含有した原料粉末とポリアルキレンカーボネート樹脂から成るバインダー樹脂との混合割合は、原料粉末100質量部に対してバインダー樹脂を1質量部以上20質量部以下とすることが重要である。
これにより、酸化物成形体の形状安定性、保形性、ある程度の機械的強度を維持することができる。
また、ポリアルキレンカーボネート樹脂からなるバインダー樹脂における主鎖の分子構成は炭素と酸素であるため、燃焼時の自己酸化力が強く、酸化物成形体の脱脂後、酸化物成形体の残留炭素量が少なくなる。その結果、焼成後に緻密な焼結体が得られ、焼結体中にボイドなどの欠陥が生じなくなる。
(混合粉)
本発明における混合粉は、原料粉末とポリアルキレンカーボン樹脂とを混合したものである。
原料粉末とバインダー樹脂を混合する方法は、特に制限されるものではないが、例えば、原料粉末と、バインダー樹脂と、バインダー樹脂を溶解可能な溶媒と、水系溶媒とを混合し、得られたスラリーを充分に湿式混合により混合した後、固液分離・乾燥・造粒し、造粒物を得る方法などが挙げられる。
本発明におけるバインダー樹脂を溶解可能な溶媒としては、例えば、ジオキサン;塩化メチル、クロロフォルム、1,2ジクロロエタン、トリクロロエチレンなどのハロゲン化炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、炭酸プロピレン、酢酸プロピルなどのエステル類;プロピオントリル、N−メチルピロリドンなどの窒素化合物;ジメチルスルホキシドなどの硫黄化合物;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、プロピレンオキシド、2−エトキシエチルアセタートなどのエーテル類;ベンゼン、スチレンなどの炭化水素類などが挙げられる。
湿式混合は、例えば、硬質ZrO2ボールなどを用いた湿式ボールミルや振動ミルにより行なえばよく、湿式ボールミルや振動ミルを用いた場合の混合時間は、12〜78時間程度が好ましい。なお、原料粉末をそのまま乾式混合してもよいが、湿式混合の方がより好ましい。
固液分離・乾燥・造粒については、それぞれ公知の方法を採用すればよい。
(酸化物成形体)
本発明の酸化物成形体は、例えば、上記のようにして得られた造粒物を型枠に入れ、冷間プレスや冷間静水圧プレスなどの冷間成形機を用いて1ton/cm2以上の圧力をかけて成形することで得られてもよい。このとき、ホットプレスなどを用いて熱間で成形を行うと、製造コストの面で不利となるとともに、大型焼結体が得にくくなる。このようにして得られた酸化物成形体は、機械的強度が強いので、大型化しても、冷間成形機から取り出しなどの取り扱い中に亀裂等が発生しにくい。そのため、該酸化物成形体を焼結すれば、例えば、1m×1mという大型基板を成膜するのに用いられる大型ターゲットなどとして好適に用いることができる。
酸化物成形体の形状としては、特に限定されず、例えば、300〜2000mmφ程度の円形、(300〜2000mm)×(300〜2000mm)程度の方形などが挙げられる。
酸化物成形体の厚さは、5〜20mm程度である。
(酸化物焼結体)
本発明の酸化物焼結体は、上記のように得られた酸化物成形体から所定条件下でバインダー樹脂を脱脂する工程、その後所定条件で焼結する工程を経由して作製されたものであるのが好ましい。
酸化物焼結体の形状としては、特に限定されず、例えば、200〜1500mmφ程度の円形、(200〜1500mm)×(200〜1500mm)程度の方形などが挙げられる。
酸化物焼結体の厚さは、3〜15mm程度である。
酸化物成形体からバインダー樹脂を脱脂するには、酸化雰囲気下にて350℃以下で加熱を行う。この際、バインダー樹脂は完全に脱脂されるのが好ましい。
なお、バインダー樹脂が完全に脱脂されたとは、バインダーが分解して生成した炭素分が0%まで酸化物成形体に存在しないことを意味する。測定方法は、酸化物成形体の脱脂前の重量と、脱脂後の重量を測定し、その重量差がバインダー樹脂の含有量である。予め、混合したバインダー樹脂の含有量と一致すれば、完全に脱脂したとする。
ポリアルキレンカーボネート樹脂は、空気中にて300℃までに完全に分解してしまい、低原子価金属酸化物は400℃以上で酸化されて主原子価金属酸化物(例えば、チタンは4価、ニオブは5価、タンタルは5価、モリブデンは6価である)に変性してしまうため、350℃以下の加熱で、低原子価金属酸化物が変性することなく、酸化物成形体からバインダー樹脂を脱脂することが可能となる。また、加熱を酸化雰囲気下で行うと、還元雰囲気下での加熱にように、主に熱分解プロセスによる脱脂ではなく、主に酸化分解プロセスによる脱脂であるので、酸化物成形体にバインダー樹脂由来の炭素の残分が生じにくく、還元雰囲気下よりも低温で脱脂することができるので、コスト的に有利である。
脱脂した成形体の焼結は、不活性雰囲気または還元雰囲気(例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素、真空、水素など)の雰囲気中、600〜1500℃で行なう。
不活性雰囲気または還元雰囲気の雰囲気中で焼結する際の焼結温度は、600〜1500℃、好ましくは1000〜1300℃とする。焼結温度が600℃未満であると、焼結が充分に進行しないので、ターゲット密度が低くなり、一方、1500℃を超えると、酸化亜鉛自体が分解して消失してしまうこととなる。なお、成形体を前記焼結温度まで昇温する際には、昇温速度を、1000℃までは5〜10℃/分とし、1000℃を超え1500℃までは1〜4℃/分とすることが、焼結密度を均一にするうえで好ましい。
不活性雰囲気または還元雰囲気の雰囲気中で焼結する際の焼結時間(すなわち、焼結温度での保持時間)は、3〜15時間とすることが好ましい。焼結時間が3時間未満であると、焼結密度が不充分となりやすく、得られる酸化物焼結体の強度が低下する傾向があり、一方、15時間を超えると、焼結体の結晶粒成長が著しくなるとともに、空孔の粗大化、ひいては最大空孔径の増大化を招く傾向があり、その結果、焼結密度が低下するおそれがある。
焼結を行なう際の方法は、例えば、常圧焼結法、マイクロ波焼結法、ミリ波焼結法などの常圧雰囲気での焼結を採用することができる。
酸化物焼結体は、実質的に亜鉛と、低原子価金属と、酸素とからなる酸化物焼結体である。
ここで、「実質的」とは、酸化物焼結体を構成する全原子の99%以上が亜鉛、低原子価金属および酸素からなることを意味する。
本発明の酸化物焼結体においては、低原子価金属の原子数が全金属原子数に対して2%以上10%以下の割合で含有されることが好ましく、より好ましくは、低原子価金属の原子数が全金属原子数に対して3%以上9%以下となる割合、特に好ましくは3%以上6%以下となる割合で含有される。この低原子価金属の原子数の割合が2%未満となると、この酸化物焼結体をターゲットとして形成された膜の耐薬品性などの化学的耐久性が不充分となるおそれがある。一方、低原子価金属の原子数の割合が10%を超えると、低原子価金属が亜鉛サイトに十分置換固溶できなくなり、この酸化物焼結体をターゲットとして形成された膜の導電性や透明性が不充分となるおそれがある。
本発明の酸化物焼結体の相対密度は、93%以上、好ましくは95〜100%であるのがよい。ここで、相対密度とは、酸化物焼結体の密度を理論密度で除し、100を掛けたものと定義する。相対密度が93%未満であると、焼結体の特徴である、成膜速度が速い、安定な成膜が可能という特徴を損なわれるおそれがある。
本発明における実質的に亜鉛、低原子価金属、および酸素からなる酸化物焼結体は、原子数比でX/(Zn+X)の値が0.02以上0.1以下(式中、Xは、チタン、ニオブ、タンタルおよびモリブデンからなる群より選ばれる少なくとも1種を示す)である、すなわち実質的に低原子価金属酸化物の結晶相を含有しない。原子数比でX/(Zn+X)の値が0.02未満である酸化物焼結体では、通常、低原子価金属が酸化亜鉛に完全に反応するため、酸化物焼結体中に低原子価金属酸化物の結晶相は生成されず、原子数比でX/(Zn+X)の値が0.1を超える酸化物焼結体では、一般に、低原子価金属が酸化亜鉛へ反応しきれないため、酸化物焼結体中に低原子価金属酸化物が生じやすくなる。しかし、酸化物焼結体に低原子価金属酸化物の結晶相が含まれていると、得られる膜が、比抵抗などの物性にムラがあり均一性に欠けるものとなるおそれがあるため、本発明の酸化物焼結体では、X/(Zn+X)の値を上記範囲内とするのが好ましく、実質的に低原子価金属酸化物の結晶相を含有しない。
酸化チタンの結晶相とは、具体的には、Ti23、TiOのほか、これらの結晶にZnなど他の元素が固溶された物質も含むものとする。
酸化ニオブの結晶相とは、具体的には、Nb25、NbO2、Nb23,NbOのほか、これらの結晶にZnなど他の元素が固溶された物質も含むものとする。
酸化タンタルの結晶相とは、具体的には、Ta25、TaO2、Ta23、TaOのほか、これらの結晶にZnなど他の元素が固溶された物質も含むものとする。
酸化モリブデンの結晶相とは、具体的には、MoO3、MoO2、Mo23のほか、これらの結晶にZnなど他の元素が固溶された物質も含むものとする。
酸化物焼結体が酸化亜鉛と酸化モリブデンとを含む場合、すなわち前記原料粉末として低原子価酸化モリブデンと酸化亜鉛との原料粉末を用いる場合、または低原子価酸化モリブデンと酸化亜鉛とモリブデン酸亜鉛化合物との原料粉末を用いる場合の各粉の混合割合は、各々用いる化合物(粉)の種類に応じて、最終的に得られる酸化物焼結体において原子数比で上記X/(Zn+X)、すなわちMo/(Zn+Mo)の値が上述した範囲となるように適宜設定すればよい。その際、亜鉛はモリブデンに比べて蒸気圧が高く焼結した際に揮散しやすいことを考慮して、所望する酸化物焼結体の目的組成(ZnとMoとの原子数比)よりも、予め亜鉛の量が多くなるように混合割合を設定しておくことが好ましい。
酸化物焼結体が酸化亜鉛と酸化ニオブと酸化タンタルとを含む場合、すなわち前記原料粉末が、低原子価酸化ニオブと低原子価酸化タンタルと酸化亜鉛とからなる原料粉末である場合、もしくは低原子価酸化ニオブおよび/または低原子価酸化タンタル粉と、酸化亜鉛と、ニオブ酸亜鉛化合物および/またはタンタル酸亜鉛化合物とからなる原料粉末である場合(低原子価酸化ニオブと酸化亜鉛とニオブ酸亜鉛化合物とからなる原料粉末である場合、および低原子価酸化タンタルと酸化亜鉛とタンタル酸亜鉛化合物とからなる原料粉末である場合を除く)の各原料粉末の混合割合は、各々用いる化合物(粉)の種類に応じて、最終的に得られる酸化物焼結体において原子数比で上記X/(Zn+X)の値、すなわち(Nb+Ta)/(Zn+Nb+Ta)の値が上述した範囲となるように適宜設定すればよい。その際、亜鉛はニオブに比べて蒸気圧が高く焼結した際に揮散しやすいことを考慮して、所望する酸化物焼結体の目的組成(ZnとNbおよびTaとの原子数比)よりも、予め亜鉛の量が多くなるように混合割合を設定しておくことが好ましい。
前記原料粉末として低原子価酸化チタンと酸化亜鉛との原料粉末を用いる場合、または低原子価酸化チタンと酸化亜鉛とチタン酸亜鉛化合物との原料粉末を用いる場合の各粉の混合割合は、各々用いる化合物(粉)の種類に応じて、最終的に得られる酸化物焼結体において原子数比で上記X/(Zn+X)の値、すなわちTi/(Zn+Ti)の値が上述した範囲となるように適宜設定すればよい。その際、亜鉛はチタンに比べて蒸気圧が高く焼結した際に揮散しやすいことを考慮して、所望する酸化物焼結体の目的組成(ZnとTiとの原子数比)よりも、予め亜鉛の量が多くなるように混合割合を設定しておくことが好ましい。
本発明では、低原子価金属酸化物を用いることを特徴としており、大気雰囲気中でのアニール処理を施すと、いずれも酸化されて主原子価(例えば、ニオブは5価、タンタルは5価、チタンは4価、モリブデンは6価)になってしまう。そのため、不活性雰囲気または還元雰囲気で焼結されるのが好ましい(大気雰囲気焼結その後、還元アニールも含める)。具体的には、亜鉛の揮散のしやすさは、焼結する際の雰囲気によって異なり、例えば、酸化亜鉛粉を用いた場合、大気雰囲気や酸化雰囲気では酸化亜鉛粉自体の揮散しか起こらないが、不活性雰囲気または還元雰囲気で焼結すると、酸化亜鉛が還元されて、酸化亜鉛よりもさらに揮散しやすい金属亜鉛となるので、亜鉛の消失量が増すことになる(ただし、後述のように、一旦焼結した後、還元雰囲気中でアニール処理を施す場合には、アニール処理を施す時点で既に複合酸化物となっているので、亜鉛が揮散しにくい)。したがって、目的組成に対してどの程度亜鉛の量を増やしておくかについては、焼結の雰囲気などを考慮して設定すればよく、例えば、大気雰囲気や酸化雰囲気で焼結する場合には所望する原子数比となる量の1.0〜1.05倍程度、不活性雰囲気または還元雰囲気で焼結する場合には所望する原子数比となる量の1.1〜1.3倍程度とすればよい。なお、原料粉末として各々用いる化合物(粉)は、それぞれ1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
(透明導電膜形成材料)
本発明の透明導電膜形成材料は、上述した本発明の酸化物焼結体を所定の形状および所定の寸法に加工したものであり、スパッタリング法、イオンプレーティング法、PLD法またはEB蒸着法による成膜に用いられるターゲットである。なお、このような成膜の際に用いる透明導電膜形成材料のことを「タブレット」と称する場合もあるが、本発明の透明導電膜形成材料はこれらを含むものである。
加工方法は、特に制限されず、適宜公知の方法を採用すればよい。例えば、酸化物焼結体に平面研削などを施した後、所定の寸法に切断してから、支持台に貼着することにより、本発明の透明導電膜形成材料を得ることができる。また、必要に応じて、複数枚の酸化物焼結体を分割形状にならべて、大面積のターゲット(複合ターゲット)としてもよい。
透明導電膜形成材料の形状としては、特に限定されず、例えば、200〜1500mmφ程度の円形、(200〜1000mm)×(200〜1000mm)程度の方形などが挙げられる。
透明導電膜形成材料の厚さは、3〜15mm程度である。
本発明の酸化物焼結体または本発明の透明導電膜形成材料を用いて形成された透明導電膜は、優れた導電性と化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐薬品性(耐アルカリ性、耐酸性)など)とを兼ね備えたものであるので、例えば、液晶ディスプレイ・プラズマディスプレイ・無機EL(エレクトロルミネセンス)ディスプレイ・有機ELディスプレイ・電子ペーパーなどの透明電極、太陽電池の光電変換素子の窓電極、透明タッチパネルなどの入力装置の電極、電磁シールドの電磁遮蔽膜などの用途に好適に用いられる。さらに、本発明の酸化物焼結体または本発明の透明導電膜形成材料を用いて形成された透明導電膜は、透明電波吸収体、紫外線吸収体、さらには透明半導体デバイスとして、他の金属膜や金属酸化膜と組み合わせて活用することもできる。
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例により限定されるものではない。
なお、得られた透明導電性基板の評価は以下の方法で行なった。
<比抵抗>
比抵抗は、抵抗率計(三菱化学(株)製「LORESTA−GP、MCP−T610」)を用いて、四端子四探針法により測定した。詳しくは、サンプルに4本の針状の電極を直線上に置き、外側の二探針間に一定の電流を流し、内側の二探針間に一定電流を流し、内側の二探針間に生じる電位差を測定し、抵抗を求めた。
<表面抵抗>
表面抵抗は、比抵抗(Ω・cm)を膜厚(cm)で除することにより算出した。
<透過率>
透過率は、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光(株)製「V−670」)を用いて測定した。
(実施例1)
酸化亜鉛粉(ZnO粉末;純度99.9%、平均粒径1μm以下、和光純薬工業(株)製)、酸化チタン粉(Ti23粉末;純度99.9%、平均粒径1μm以下、(株)高純度化学研究所製)、およびポリプロピレンカーボネート(分子量:20万)を混合粉とし、湿式混合するために、エタノール、およびポリプロピレンカーボネートを溶解させるためのアセトンを混合粉に加え、全体の組成としてZn:Tiの原子数比が94:6となる割合、原料粉末(酸化亜鉛粉と酸化チタン粉の合計):バインダー樹脂(ポリプロピレンカーボネート)=90:10(重量比)となるようにした。このように調整したスラリーを樹脂製ポットに入れ、湿式ボールミル混合法により湿式混合した。湿式混合は、ボールとして硬質ZrO2ボールを用い、混合時間を18時間として行った。
次いで、混合後の混合粉スラリーを取り出し、乾燥、造粒した後、冷間静水圧プレスにて1ton/cm2の圧力をかけて成形し、直径500mm、厚さ8mmの円盤状の大型成形体を得た。バインダー樹脂を添加しているため、亀裂など入ることなく強度的にも優れた成形体を得ることができた。
次に、得られた成形体を、大気雰囲気中、350℃にて5時間保持することによりポリプロピレンカーボネートを完全に除去した酸化物成形体を得た。バインダー樹脂除去後、クラックなど入ることがない成形体であった。なお、バインダー樹脂除去前後の酸化物成形体の重量を秤にて測定した。脱脂後の酸化物焼結体が脱脂前の酸化物成形体の90%であった。予め10wt%バインダーを添加していたので、バインダー樹脂(ポリプロピレンカーボネート)が完全に除去されたのを確認した。
脱脂した円盤状の酸化物成形体を、不活性雰囲気(Ar)中、1000℃までを5℃/分で、1000℃を超え1400℃までを1℃/分で昇温し、焼結温度である1400℃で5時間保持することにより焼結し、酸化物焼結体を得た。
得られた酸化物焼結体をエネルギー分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「EDX−700L」)にて分析したところ、ZnとTiの原子数比はZn:Ti=94:6であった(Ti/(Zn+Ti)=0.06)。この酸化物焼結体の結晶構造をX線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)により調べたところ、酸化亜鉛(ZnO)とチタン酸亜鉛(Zn2TiO4)の結晶相の混合物であり、酸化チタンの結晶相は全く存在していなかった。
次に、得られた酸化物焼結体を350mmφ、厚さ3mmの円盤状に加工し、無酸素銅のバッキングプレートにボンディングしてスパッタリング用ターゲットを得た。これを用いてスパッタリング法により透明導電膜を成膜し、透明導電性基板を作製した。すなわち、スパッタリング装置(キャノンアネルバエンジニアリング(株)製「E−200」)内に、上記スパッタリング用ターゲットおよび膜形成用基板(石英ガラス基板)を設置し、Arガス(純度99.9995%以上、Ar純ガス=5N)を12sccmで導入して、圧力0.5Pa、電力75W、基板温度250℃の条件下でスパッタリングを行い、基板上に膜厚500nmの透明導電膜を形成した。
形成した透明導電膜中の組成(Zn:Ti)について、波長分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「XRF−1700WS」)を用い蛍光X線法により検量線を用いて定量分析を行ったところ、Zn:Ti(原子数比)=94:6であった。また、この透明導電膜について、X線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)を用い薄膜測定用のアタッチメントを使用したX線回折を行うとともに、エネルギー分散型X線マイクロアナライザー(TEM−EDX)を用いて亜鉛へのチタンのドープ状態を調べ、さらに電界放射型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて結晶構造を調べたところ、C軸配向したウルツ鉱型の単相であり、チタンが亜鉛に置換固溶していることがわかった。
得られた透明導電性基板上の透明導電膜の比抵抗は5.8×10-4Ω・cmであり、表面抵抗は11.6Ω/□であった。なお、透明導電性基板上の比抵抗の分布は面内均一であった。
得られた透明導電性基板の透過率は、可視領域(380nm〜780nm)で平均89%、赤外領域(780nm〜2700nm)で平均89%であった。なお、成膜前の石英ガラス基板の可視領域(380nm〜780nm)における透過率は平均94%であり、赤外領域(780nm〜2700nm)における透過率は平均94%であった。
以上のことから、大型ターゲットを得ることができ、得られた透明導電性基板上の膜も、透明かつ低抵抗であることが明らかである。
(実施例2)
酸化亜鉛粉(ZnO粉末;純度99.9%、平均粒径1μm以下、和光純薬工業(株)製)、酸化チタン粉(TiO(II)粉末;純度99.9%、平均粒径1μm以下、(株)高純度化学研究所製)、およびポリプロピレンカーボネート(分子量:20万)を混合粉とし、湿式混合するために、エタノール、およびポリプロピレンカーボネートを溶解させるためのアセトンを混合粉に加え、全体の組成としてZn:Tiの原子数比が97:3となる割合、原料粉末(酸化亜鉛粉と酸化チタン粉の合計):バインダー樹脂(ポリプロピレンカーボネート)=95:5(重量比)となるようにした。このように調整したスラリーを樹脂製ポットに入れ、湿式ボールミル混合法により湿式混合した。湿式混合は、ボールとして硬質ZrO2ボールを用い、混合時間を18時間として行った。
次いで、混合後の混合粉スラリーを取り出し、乾燥、造粒した後、冷間静水圧プレスにて1ton/cm2の圧力をかけて成形し、直径500mm、厚さ8mmの円盤状の大型成形体を得た。バインダー樹脂を添加しているため、亀裂など入ることなく強度的にも優れた成形体を得ることができた。
次に、得られた成形体を、大気雰囲気中、350℃にて5時間保持することによりポリプロピレンカーボネートを完全に除去した酸化物成形体を得た。該酸化物成形体は、バインダー樹脂除去後、クラックなど入ることがない成形体であった。なお、バインダー樹脂除去前後の酸化物成形体の重量を秤にて測定した。脱脂後の酸化物焼結体が脱脂前の酸化物成形体の95%であった。予め5wt%バインダーを添加していたので、バインダー樹脂(ポリプロピレンカーボネート)が完全に除去されたのを確認した。
脱脂した円盤状の酸化物成形体を、不活性雰囲気(Ar)中、1000℃までを5℃/分で、1000℃を超え1400℃までを1℃/分で昇温し、焼結温度である1400℃で5時間保持することにより焼結し、酸化物焼結体を得た。
得られた酸化物焼結体をエネルギー分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「EDX−700L」)にて分析したところ、ZnとTiの原子数比はZn:Ti=97:3であった(Ti/(Zn+Ti)=0.03)。この酸化物焼結体の結晶構造をX線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)により調べたところ、酸化亜鉛(ZnO)とチタン酸亜鉛(Zn2TiO4)の結晶相の混合物であり、酸化チタンの結晶相は全く存在していなかった。
次に、得られた酸化物焼結体を350mmφ、厚さ3mmの円盤状に加工し、無酸素銅のバッキングプレートにボンディングしてスパッタリング用ターゲットを得た。これを用いてスパッタリング法により透明導電膜を成膜し、透明導電性基板を作製した。すなわち、スパッタリング装置(キャノンアネルバエンジニアリング(株)製「E−200」)内に、上記スパッタリング用ターゲットおよび膜形成用基板(石英ガラス基板)を設置し、Arガス(純度99.9995%以上、Ar純ガス=5N)を12sccmで導入して、圧力0.5Pa、電力75W、基板温度250℃の条件下でスパッタリングを行い、基板上に膜厚500nmの透明導電膜を形成した。
形成した透明導電膜中の組成(Zn:Ti)について、波長分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「XRF−1700WS」)を用い蛍光X線法により検量線を用いて定量分析を行ったところ、Zn:Ti(原子数比)=97:3であった。また、この透明導電膜について、X線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)を用い薄膜測定用のアタッチメントを使用したX線回折を行うとともに、エネルギー分散型X線マイクロアナライザー(TEM−EDX)を用いて亜鉛へのチタンのドープ状態を調べ、さらに電界放射型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて結晶構造を調べたところ、C軸配向したウルツ鉱型の単相であり、チタンが亜鉛に置換固溶していることがわかった。
得られた透明導電性基板上の透明導電膜の比抵抗は4.2×10-4Ω・cmであり、表面抵抗は8.4Ω/□であった。なお、透明導電性基板上の比抵抗の分布は面内均一であった。
得られた透明導電性基板の透過率は、可視領域(380nm〜780nm)で平均89%、赤外領域(780nm〜1500nm)で平均90%であった。なお、成膜前の石英ガラス基板の可視領域(380nm〜780nm)における透過率は平均94%であり、赤外領域(780nm〜2700nm)における透過率は平均94%であった。
以上のことから、大型ターゲットを得ることができ、得られた透明導電性基板上の膜も、透明かつ低抵抗であることが明らかである。
(実施例3)
酸化亜鉛粉(ZnO粉末;純度99.9%、平均粒径1μm以下、和光純薬工業(株)製)、酸化ニオブ粉(NbO(II)粉末;純度99.9%、平均粒径1μm以下、(株)高純度化学研究所製)、およびポリプロピレンカーボネート(分子量:20万)を混合粉とし、湿式混合するために、エタノール、およびポリプロピレンカーボネートを溶解させるためのアセトンを混合粉に加え、全体の組成としてZn:Nbの原子数比が97:3となる割合、原料粉末(酸化亜鉛粉と酸化ニオブ粉の合計):バインダー樹脂(ポリプロピレンカーボネート)=95:5(重量比)となるようにした。このように調整したスラリーを樹脂製ポットに入れ、湿式ボールミル混合法により湿式混合した。湿式混合は、ボールとして硬質ZrO2ボールを用い、混合時間を18時間として行った。
次いで、混合後の混合粉スラリーを取り出し、乾燥、造粒した後、冷間静水圧プレスにて1ton/cm2の圧力をかけて成形し、直径500mm、厚さ8mmの円盤状の大型成形体を得た。バインダー樹脂を添加しているため、亀裂など入ることなく強度的にも優れた成形体を得ることができた。
次に、得られた成形体を、大気雰囲気中、350℃にて5時間保持することによりポリプロピレンカーボネートを完全に除去した酸化物成形体を得た。この酸化物成形体は、バインダー樹脂除去後、クラックなど入ることがない成形体であった。なお、バインダー樹脂除去前後の酸化物成形体の重量を秤にて測定した。脱脂後の酸化物焼結体が脱脂前の酸化物成形体の95%であった。予め5wt%バインダーを添加していたので、バインダー樹脂(ポリプロピレンカーボネート)が完全に除去されたのを確認した。
脱脂した円盤状の酸化物成形体を、不活性雰囲気(Ar)中、1000℃までを5℃/分で、1000℃を超え1400℃までを1℃/分で昇温し、焼結温度である1400℃で5時間保持することにより焼結し、酸化物焼結体を得た。
得られた酸化物焼結体をエネルギー分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「EDX−700L」)にて分析したところ、ZnとNbの原子数比はZn:Nb=97:3であった(Nb/(Zn+Nb)=0.03)。この酸化物焼結体の結晶構造をX線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)により調べたところ、酸化亜鉛(ZnO)とニオブ酸亜鉛の結晶相の混合物であり、酸化ニオブの結晶相は全く存在していなかった。
次に、得られた酸化物焼結体を350mmφ、厚さ3mmの円盤状に加工し、無酸素銅のバッキングプレートにボンディングしてスパッタリング用ターゲットを得た。これを用いてスパッタリング法により透明導電膜を成膜し、透明導電性基板を作製した。すなわち、スパッタリング装置(キャノンアネルバエンジニアリング(株)製「E−200」)内に、上記スパッタリング用ターゲットおよび膜形成用基板(石英ガラス基板)を設置し、Arガス(純度99.9995%以上、Ar純ガス=5N)を12sccmで導入して、圧力0.5Pa、電力75W、基板温度250℃の条件下でスパッタリングを行い、基板上に膜厚500nmの透明導電膜を形成した。
形成した透明導電膜中の組成(Zn:Nb)について、波長分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「XRF−1700WS」)を用い蛍光X線法により検量線を用いて定量分析を行ったところ、Zn:Nb(原子数比)=97:3であった。また、この透明導電膜について、X線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)を用い薄膜測定用のアタッチメントを使用したX線回折を行うとともに、エネルギー分散型X線マイクロアナライザー(TEM−EDX)を用いて亜鉛へのニオブのドープ状態を調べ、さらに電界放射型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて結晶構造を調べたところ、C軸配向したウルツ鉱型の単相であり、ニオブが亜鉛に置換固溶していることがわかった。
得られた透明導電性基板上の透明導電膜の比抵抗は6.0×10-4Ω・cmであり、表面抵抗は12.0Ω/□であった。なお、透明導電性基板上の比抵抗の分布は面内均一であった。
得られた透明導電性基板の透過率は、可視領域(380nm〜780nm)で平均89%、赤外領域(780nm〜1500nm)で平均89%であった。なお、成膜前の石英ガラス基板の可視領域(380nm〜780nm)における透過率は平均94%であり、赤外領域(780nm〜1500nm)における透過率は平均94%であった。
以上のことから、大型ターゲットを得ることができ、得られた透明導電性基板上の膜も、透明かつ低抵抗であることが明らかである。
(実施例4)
酸化亜鉛粉(ZnO粉末;純度99.9%、平均粒径1μm以下、和光純薬工業(株)製)、酸化タンタル粉(TaO2(IV)粉末;純度99.9%、平均粒径1μm以下、(株)高純度化学研究所製)、およびポリプロピレンカーボネート(分子量:20万)を混合粉とし、湿式混合するために、エタノール、およびポリプロピレンカーボネートを溶解させるためのアセトンを混合粉に加え、全体の組成としてZn:Taの原子数比が97:3となる割合、原料粉末(酸化亜鉛粉と酸化タンタル粉の合計):バインダー樹脂(ポリプロピレンカーボネート)=95:5(重量比)となるようにした。このように調整したスラリーを樹脂製ポットに入れ、湿式ボールミル混合法により湿式混合した。湿式混合は、ボールとして硬質ZrO2ボールを用い、混合時間を18時間として行った。
次いで、混合後の混合粉スラリーを取り出し、乾燥、造粒した後、冷間静水圧プレスにて1ton/cm2の圧力をかけて成形し、直径500mm、厚さ8mmの円盤状の大型成形体を得た。バインダー樹脂を添加しているため、亀裂など入ることなく強度的にも優れた成形体を得ることができた。
次に、得られた成形体を、大気雰囲気中、350℃にて5時間保持することによりポリプロピレンカーボネートを完全に除去した酸化物成形体を得た。該酸化物成形体は、バインダー樹脂除去後、クラックなど入ることがない成形体であった。なお、バインダー樹脂除去前後の酸化物成形体の重量を量りにて測定した。脱脂後の酸化物焼結体が脱脂前の酸化物成形体の95%であった。予め5wt%バインダーを添加していたので、バインダー樹脂(ポリプロピレンカーボネート)が完全に除去されたのを確認した。
脱脂した円盤状の酸化物成形体を、不活性雰囲気(Ar)中、1000℃までを5℃/分で、1000℃を超え1400℃までを1℃/分で昇温し、焼結温度である1400℃で5時間保持することにより焼結し、酸化物焼結体を得た。
得られた酸化物焼結体をエネルギー分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「EDX−700L」)にて分析したところ、ZnとTaの原子数比はZn:Ta=97:3であった(Ta/(Zn+Ta)=0.03)。この酸化物焼結体の結晶構造をX線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)により調べたところ、酸化亜鉛(ZnO)とタンタル酸亜鉛の結晶相の混合物であり、酸化タンタルの結晶相は全く存在していなかった。
次に、得られた酸化物焼結体を350mmφ、厚さ3mmの円盤状に加工し、無酸素銅のバッキングプレートにボンディングしてスパッタリング用ターゲットを得た。これを用いてスパッタリング法により透明導電膜を成膜し、透明導電性基板を作製した。すなわち、スパッタリング装置(キャノンアネルバエンジニアリング(株)製「E−200」)内に、上記スパッタリング用ターゲットおよび膜形成用基板(石英ガラス基板)を設置し、Arガス(純度99.9995%以上、Ar純ガス=5N)を12sccmで導入して、圧力0.5Pa、電力75W、基板温度250℃の条件下でスパッタリングを行い、基板上に膜厚500nmの透明導電膜を形成した。
形成した透明導電膜中の組成(Zn:Ta)について、波長分散型蛍光X線装置(島津製作所製「XRF−1700WS」)を用い蛍光X線法により検量線を用いて定量分析を行ったところ、Zn:Ta(原子数比)=97:3であった。また、この透明導電膜について、X線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)を用い薄膜測定用のアタッチメントを使用したX線回折を行うとともに、エネルギー分散型X線マイクロアナライザー(TEM−EDX)を用いて亜鉛へのタンタルのドープ状態を調べ、さらに電界放射型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて結晶構造を調べたところ、C軸配向したウルツ鉱型の単相であり、タンタルが亜鉛に置換固溶していることがわかった。
得られた透明導電性基板上の透明導電膜の比抵抗は6.1×10-4Ω・cmであり、表面抵抗は12.2Ω/□であった。なお、透明導電性基板上の比抵抗の分布は面内均一であった。
得られた透明導電性基板の透過率は、可視領域(380nm〜780nm)で平均89%、赤外領域(780nm〜1500nm)で平均89%であった。なお、成膜前の石英ガラス基板の可視領域(380nm〜780nm)における透過率は平均94%であり、赤外領域(780nm〜1500nm)における透過率は平均94%であった。
以上のことから、大型ターゲットを得ることができ、得られた透明導電性基板上の膜も、透明かつ低抵抗であることが明らかである。
(実施例5)
酸化亜鉛粉(ZnO粉末;純度99.9%、平均粒径1μm以下、和光純薬工業(株)製)、酸化モリブデン粉(MoO2(IV)粉末;純度99.9%、平均粒径1μm以下、(株)高純度化学研究所製)、およびポリプロピレンカーボネート(分子量:20万)を混合粉とし、湿式混合するために、エタノール、およびポリプロピレンカーボネートを溶解させるためのアセトンを混合粉に加え、全体の組成としてZn:Moの原子数比が97:3となる割合、原料粉末(酸化亜鉛粉と酸化モリブデン粉の合計):バインダー樹脂(ポリプロピレンカーボネート)=95:5(重量比)となるようにした。このように調整したスラリーを樹脂製ポットに入れ、湿式ボールミル混合法により湿式混合した。湿式混合は、ボールとして硬質ZrO2ボールを用い、混合時間を18時間として行った。
次いで、混合後の混合粉スラリーを取り出し、乾燥、造粒した後、冷間静水圧プレスにて1ton/cm2の圧力をかけて成形し、直径500mm、厚さ8mmの円盤状の大型成形体を得た。バインダー樹脂を添加しているため、亀裂など入ることなく強度的にも優れた成形体を得ることができた。
次に、得られた成形体を、大気雰囲気中、350℃にて5時間保持することによりポリプロピレンカーボネートを完全に除去した酸化物成形体を得た。バインダー樹脂除去後、クラックなど入ることがない成形体であった。なお、バインダー樹脂除去前後の酸化物成形体の重量を量りにて測定した。脱脂後の酸化物焼結体が脱脂前の酸化物成形体の95%であった。予め5wt%バインダーを添加していたので、バインダー樹脂(ポリプロピレンカーボネート)が完全に除去されたのを確認した。
脱脂した円盤状の酸化物成形体を、不活性雰囲気(Ar)中、1000℃までを5℃/分で、1000℃を超え1400℃までを1℃/分で昇温し、焼結温度である1400℃で5時間保持することにより焼結し、酸化物焼結体を得た。
得られた酸化物焼結体をエネルギー分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「EDX−700L」)にて分析したところ、ZnとMoの原子数比はZn:Mo=97:3であった(Mo/(Zn+Mo)=0.03)。この酸化物焼結体の結晶構造をX線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)により調べたところ、酸化亜鉛(ZnO)とモリブデン酸亜鉛の結晶相の混合物であり、酸化モリブデンの結晶相は全く存在していなかった。
次に、得られた酸化物焼結体を350mmφ、厚さ3mmの円盤状に加工し、無酸素銅のバッキングプレートにボンディングしてスパッタリング用ターゲットを得た。これを用いてスパッタリング法により透明導電膜を成膜し、透明導電性基板を作製した。すなわち、スパッタリング装置(キャノンアネルバエンジニアリング(株)製「E−200」)内に、上記スパッタリング用ターゲットおよび膜形成用基板(石英ガラス基板)を設置し、Arガス(純度99.9995%以上、Ar純ガス=5N)を12sccmで導入して、圧力0.5Pa、電力75W、基板温度250℃の条件下でスパッタリングを行い、基板上に膜厚500nmの透明導電膜を形成した。
形成した透明導電膜中の組成(Zn:Mo)について、波長分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「XRF−1700WS」)を用い蛍光X線法により検量線を用いて定量分析を行ったところ、Zn:Mo(原子数比)=97:3であった。また、この透明導電膜について、X線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)を用い薄膜測定用のアタッチメントを使用したX線回折を行うとともに、エネルギー分散型X線マイクロアナライザー(TEM−EDX)を用いて亜鉛へのチタンのドープ状態を調べ、さらに電界放射型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて結晶構造を調べたところ、C軸配向したウルツ鉱型の単相であり、モリブデンが亜鉛に置換固溶していることがわかった。
得られた透明導電性基板上の透明導電膜の比抵抗は8.5×10-4Ω・cmであり、表面抵抗は17.0Ω/□であった。なお、透明導電性基板上の比抵抗の分布は面内均一であった。
得られた透明導電性基板の透過率は、可視領域(380nm〜780nm)で平均89%、赤外領域(780nm〜1500nm)で平均89%であった。なお、成膜前の石英ガラス基板の可視領域(380nm〜780nm)における透過率は平均94%であり、赤外領域(780nm〜1500nm)における透過率は平均94%であった。
以上のことから、大型ターゲットを得ることができ、得られた透明導電性基板上の膜も、透明かつ低抵抗であることが明らかである。
(比較例1)
酸化亜鉛粉(ZnO粉末;純度99.9%、平均粒径1μm以下、和光純薬工業(株)製)および酸化チタン粉(Ti23粉末;純度99.9%、平均粒径1μm以下、(株)高純度化学研究所製)を原料粉末とし、湿式混合するため、エタノールを原料粉末に加え、全体の組成としてZn:Tiの原子数比が94:6となる割合となるようにした。このように調整したスラリーを樹脂製ポットに入れ、湿式ボールミル混合法により湿式混合した。湿式混合は、ボールとして硬質ZrO2ボールを用い、混合時間を18時間として行った。
次いで、混合後の原料粉末スラリーを取り出し、乾燥、造粒した後、冷間静水圧プレスにて1ton/cm2の圧力をかけて成形し、直径500mm、厚さ8mmの円盤状の大型成形体を作製したが、冷間水圧プレス装置から取り出す時に強度が低く、バインダー樹脂を添加していないため、亀裂が入り強度的にも優れた成形体を得ることができなかった。
そのため、焼結工程を経て酸化物焼結体を作製することができなかった。ターゲットが作製できないので、スパッタ成膜して得られる透明導電膜の導電性を評価することができなかった。
(比較例2)
酸化亜鉛粉(ZnO粉末;純度99.9%、平均粒径1μm以下、和光純薬工業(株)製)、酸化チタン粉(Ti23粉末;純度99.9%、平均粒径1μm以下、(株)高純度化学研究所製)、およびポリビニルアルコール(分子量:30万)を混合粉とし、湿式混合するために、エタノール、およびポリビニルアルコールを溶解させるための水を混合粉に加え、全体の組成としてZn:Tiの原子数比が94:6となる割合、混合粉:バインダー樹脂(ポリビニルアルコール)=90:10(重量比)となるようにした。このように調整したスラリーを樹脂製ポットに入れ、湿式ボールミル混合法により湿式混合した。湿式混合は、ボールとして硬質ZrO2ボールを用い、混合時間を18時間として行った。
次いで、混合後の混合粉スラリーを取り出し、乾燥、造粒した後、冷間静水圧プレスにて1ton/cm2の圧力をかけて成形し、直径500mm、厚さ8mmの円盤状の大型成形体を得た。バインダー樹脂を添加しているため、亀裂など入ることなく強度的にも優れた成形体を得ることができた。
次に、得られた成形体を、大気雰囲気中、350℃にて5時間保持したが、バインダー樹脂(ポリビニルアルコール)が成形体中に残存し、茶色に着色し除去することができなかった。
完全に脱脂することができないため、焼結工程を経て酸化物焼結体を作製することができなかった。ターゲットが作製できないので、スパッタ成膜して得られる透明導電膜の導電性を評価することができなかった。
(比較例3)
酸化亜鉛粉(ZnO粉末;純度99.9%、平均粒径1μm以下、和光純薬工業(株)製)、酸化チタン粉(Ti23粉末;純度99.9%、平均粒径1μm以下、(株)高純度化学研究所製)、およびエチルセルロース(分子量:30万)を混合粉とし、湿式混合するために、エタノール、およびエチルセルロースを溶解させるためのアセトンを加え、全体の組成としてZn:Tiの原子数比が94:6となる割合、原料粉末(酸化亜鉛粉と酸化チタン粉の合計):バインダー樹脂(エチルセルロース)=90:10(重量比)となるようにした。このように調整したスラリーを樹脂製ポットに入れ、湿式ボールミル混合法により湿式混合した。湿式混合は、ボールとして硬質ZrO2ボールを用い、混合時間を18時間として行った。
次いで、混合後の混合粉スラリーを取り出し、乾燥、造粒した後、冷間静水圧プレスにて1ton/cm2の圧力をかけて成形し、直径500mm、厚さ8mmの円盤状の大型成形体を得た。バインダー樹脂を添加しているため、亀裂など入ることなく強度的にも優れた成形体を得ることができた。
次に、得られた成形体を、大気雰囲気中、550℃にて5時間保持することによりエチルセルロースを完全に除去した酸化物成形体を得た。バインダー樹脂除去後、クラックなど入ることがない成形体であった。なお、バインダー樹脂除去前後の酸化物成形体の重量を量りにて測定した。脱脂後の酸化物焼結体が脱脂前の酸化物成形体の90%であった。予め10wt%バインダーを添加していたので、バインダー樹脂(エチルセルロース)が完全に除去されたのを確認した。
脱脂した円盤状の酸化物成形体を、不活性雰囲気(Ar)中、1000℃までを5℃/分で、1000℃を超え1400℃までを1℃/分で昇温し、焼結温度である1400℃で5時間保持することにより焼結し、酸化物焼結体を得た。
得られた酸化物焼結体をエネルギー分散型蛍光X線装置(島津製作所製「EDX−700L」)にて分析したところ、ZnとTiの原子数比はZn:Ti=94:6であった(Ti/(Zn+Ti)=0.06)。この酸化物焼結体の結晶構造をX線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)により調べたところ、酸化亜鉛(ZnO)とモリブデン酸亜鉛の結晶相の混合物であり、酸化チタンの結晶相は全く存在していなかった。
次に、得られた酸化物焼結体を300mmφ、厚さ3mmの円盤状に加工し、無酸素銅のバッキングプレートにボンディングしてスパッタリング用ターゲットを得た。これを用いてスパッタリング法により透明導電膜を成膜し、透明導電性基板を作製した。すなわち、スパッタリング装置(キャノンアネルバエンジニアリング(株)製「E−200」)内に、上記スパッタリング用ターゲットおよび膜形成用基板(石英ガラス基板)を設置し、Arガス(純度99.9995%以上、Ar純ガス=5N)を12sccmで導入して、圧力0.5Pa、電力75W、基板温度250℃の条件下でスパッタリングを行い、基板上に膜厚500nmの透明導電膜を形成した。
形成した透明導電膜中の組成(Zn:Ti)について、波長分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「XRF−1700WS」)を用い蛍光X線法により検量線を用いて定量分析を行ったところ、Zn:Ti(原子数比)=97:3であった。また、この透明導電膜について、X線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)を用い薄膜測定用のアタッチメントを使用したX線回折を行うとともに、エネルギー分散型X線マイクロアナライザー(TEM−EDX)を用いて亜鉛へのチタンのドープ状態を調べ、さらに電界放射型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて結晶構造を調べたところ、C軸配向したウルツ鉱型の単相であり、チタンが亜鉛に置換固溶していることがわかった。
得られた透明導電性基板上の透明導電膜の比抵抗は6.3×10-3Ω・cmであり、表面抵抗は126Ω/□であった。なお、透明導電性基板上の比抵抗の分布は面内均一であった。
得られた透明導電性基板の透過率は、可視領域(380nm〜780nm)で平均89%、赤外領域(780nm〜1500nm)で平均89%であった。なお、成膜前の石英ガラス基板の可視領域(380nm〜780nm)における透過率は平均94%であり、赤外領域(780nm〜1500nm)における透過率は平均94%であった。
以上のことから、大型ターゲットを得ることができたが、得られた透明導電性基板上の膜は、高抵抗であることが明らかである。これは、バインダー樹脂であるエチルセルロースを完全に除去するには550℃で加熱する必要があるため、この脱脂工程にて、Ti23(III)粉がTiO2(IV)に酸化され、主原子価(4価)の酸化チタンに変化し、得られた透明導電膜が高抵抗になった。

Claims (10)

  1. 酸化亜鉛を主成分とし、低原子価金属酸化物を含有した原料粉末に対して、ポリアルキレンカーボネート樹脂をバインダー樹脂として添加した混合粉を用いて作製されたことを特徴とする酸化物成形体。
  2. 前記ポリアルキレンカーボネート樹脂が、ポリエチレンカーボネート樹脂またはポリプロピレンカーボネート樹脂であることを特徴する請求項1に記載の酸化物成形体。
  3. 前記低原子価金属酸化物が、低原子化酸化チタン、低原子価酸化ニオブ、低原子価酸化タンタル、および低原子価酸化モリブデンから選ばれることを特徴とする請求項1または2に記載の酸化物成形体。
  4. 前記低原子価酸化チタンが、TiO2-X(X=0.1〜1)であることを特徴とする請求項3に記載の酸化物成形体。
  5. 前記低原子価酸化チタンが、TiO(II)、Ti23(III)、Ti35、Ti47、Ti611、Ti59、およびTi815から選ばれることを特徴とする請求項3または4に記載の酸化物成形体。
  6. 前記低原子価酸化ニオブが、NbO(II)、Nb23(III)、およびNbO2(IV)から選ばれることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の酸化物成形体。
  7. 前記低原子価酸化タンタルが、TaO2(IV)およびTa23(III)から選ばれることを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載の酸化物成形体。
  8. 前記低原子価酸化モリブデンが、MoO2(IV)およびMo23(III)から選ばれることを特徴とする請求項3〜7のいずれかに記載の酸化物成形体。
  9. 請求項1〜8のいずれかに記載の酸化物成形体を酸素が存在する雰囲気中で350℃以下にてバインダー樹脂を脱脂する工程、その後不活性雰囲気または還元雰囲気中で焼結する工程を経由して作製された酸化物焼結体。
  10. 請求項9に記載の酸化物焼結体が加工された透明導電膜形成材料。
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