次に図面を参照してこの発明の実施の形態を説明する。図1は、この発明の実施形態に従う、内燃機関(以下、エンジンと呼ぶ)およびその制御装置の全体的な構成図である。
電子制御ユニット(以下、「ECU」)という)10は、入出力インターフェース、中央演算処理装置(CPU)、およびメモリを備えるコンピュータである。メモリには、車両の様々な制御を実現するためのコンピュータ・プログラムおよび該プログラムの実施に必要なデータを格納することができる。本発明に従う様々な制御のためのプログラム、および該プログラムの実行の際に用いるデータおよびマップは、メモリに格納されている。ECU10は、車両の各部から送られてくるデータを入出力インターフェースを介して受け取って演算を行い、制御信号を生成し、これを、該入出力インターフェースを介してエンジンの各部を制御するために送る。
エンジン12は、この実施形態では6気筒を備えており、図には、そのうちの一つの気筒が概略的に示されている。エンジン12は、吸気バルブ14を介して吸気管16に連結され、排気バルブ18を介して排気管20に連結されている。ECU10からの制御信号に従って燃料を噴射する燃料噴射弁22が、吸気管16に設けられている。代替的に、燃料噴射弁22を、燃焼室24に設けてもよい。
エンジン12は、吸気管16から吸入される空気と、燃料噴射弁22から噴射される燃料との混合気を、燃焼室24に吸入する。燃料室24には、ECU10からの点火時期信号に従って火花を飛ばす点火プラグ26が設けられている。点火プラグ26による火花により、混合気は燃焼する。この燃焼により混合気の体積は増大し、ピストン28を下方に押し下げる。ピストン28の往復運動は、クランク軸30の回転運動に変換される。4サイクルエンジンでは、エンジンのサイクルは、吸入、圧縮、燃焼、および排気行程からなる。ピストン28は、1サイクルにつき2往復する。
連続可変動弁機構31は、この実施形態では、可変リフト機構32および可変位相機構33から構成される。可変リフト機構32は、ECU10からの制御信号に従って、吸気バルブ14のリフト量を連続的に変更することができる機構である。可変リフト機構32は、任意の既知の手法により実現することができる。例えば、カム、リフト可変リンク、アッパーリンク、ロアリンクから構成され、ロアリンクの角度をアクチュエータなどで変更して、バルブの最大リフト量を制御する手法が提案されている(たとえば、特開2004−036560号を参照)。
可変位相機構33は、ECU10からの制御信号に従って、吸気バルブ14の位相を連続的に変更する。可変位相機構は、任意の既知の手法により実現することができる。たとえば、電磁的に吸気バルブの位相を進角または遅角に制御する手法が提案されている(たとえば、特開2000―227033号を参照)。
なお、代替的に、可変リフト機構32および可変位相機構33を一体的に構成してもよい。また、本願発明は、リフト量および位相を連続的に変更可能なこれら機構に限定されるわけではなく、リフト量および位相を段階状に変更可能な機構にも適用可能である。
ECU10には、エンジン12のクランク軸30の回転角度を検出するクランク角センサ33およびエンジン12の吸気バルブ14を駆動するカムが連結されたカム軸の回転角度を検出するカム角センサ34が接続されており、これらのセンサの検出値はECU10に供給される。クランク角センサ33は、所定のクランク角度毎に1パルス(CRKパルス)を発生し、該パルスにより、クランク軸30の回転角度位置を特定することができる。また、カム角センサ34は、エンジン12の特定の気筒の所定クランク角度位置でパルス(CYLパルス)と、各気筒の吸入行程開始時の上死点(TDC)でパルス(TDCパルス)を発生する。これらのパルスは、燃料噴射時期、点火時期等の各種の制御タイミングおよびエンジン回転数の検出に使用される。
なお、カム角センサ34により出力されるTDCパルスと、クランク角センサ33により出力されるCRKパルスとの相対関係から、吸気バルブ14のカム軸の実際の位相CAINが検出される。この実施例では、位相CAINは、最遅角をゼロとし、進角になるほど大きい値を持つ。
また、連続可変動弁機構31には、吸気バルブ14のリフト量LFTを検出するためのリフト量センサ35が設けられ、該センサは、ECU10に接続されている。リフト量センサ35は、任意の適切な手法により構成されることができる。たとえば、ポテンショメータにより、これらのセンサを構成することができる。該センサの検出値は、ECU10に送られる。
吸気管16内にはスロットル弁46が配置されている。スロットル弁46は、ECU10からの制御信号に応じてアクチュエータ(図示せず)によって駆動されるドライブバイワイヤ(drive by wire:DBW)式のスロットル弁である。
スロットル弁開度センサ48がスロットル弁46に設けられており、スロットル開度THに応じた信号をECU10に出力する。
吸気管16のスロットル弁46の上流側に、エアフローメータ50が設置されている。エアフローメータ50は、吸入空気量を示す電気信号をECU10に出力する。
吸気管16のスロットル弁46の下流には吸気管内圧力センサ52および吸気温センサ54が備えられ、それぞれ、吸気管内絶対圧PBおよび吸気温度TAを示す電気信号をECU10に出力する。また、大気圧センサ55がエンジン外部の任意の位置に設置されており、大気圧PAを示す電気信号をECU10に出力する。さらに、エンジン12の水温TWを検出するエンジン水温センサ56が備えられ、エンジンの水温を示す電気信号をECU10に出力する。
排気管20の触媒58の上流側にはLAF(linear air-fuel)センサ60が設置されている。LAFセンサ60は、リーンからリッチにわたる広範囲において排ガス中の酸素濃度に比例する信号をECU10に出力する。
エンジン12には、エンジンの回転を車輪に伝達するための動力伝達装置(図示せず)が接続されており、該装置は、変速動作を行う変速機と、該回転を伝達する各種のシャフト、および左右輪の回転速度を調整する作動歯車装置など(いずれも図示せず)を備えている。変速機は、任意の種類のものでよく、たとえば、手動変速機(MT)、自動MT、自動変速機(AT)、および無断連続変速機(CVT)のいずれかであることができる。
変速機は、シフトレバーのポジションが、P(パーキング)およびN(ニュートラル)にシフトされたときには、クラッチを解放することにより、エンジン12の回転の車輪への伝達を遮断する。シフトレバーのポジションがR(後退)およびD(ドライブ)にシフトされたときには、所望の変速比を実現するようクラッチを締結して、エンジンの回転を車輪に伝達する。たとえば、手動変速機や自動MTの場合には、変速機とエンジンの間に該クラッチが設けられており、該クラッチの締結および解放を介して、エンジンの回転の車輪への伝達を制御することができる。自動変速機で典型的に採用されるトルクコンバータ方式の場合には、副変速機内のクラッチの締結および解放を介して、エンジンの回転の車輪への伝達を制御することができる。これらのクラッチの締結および解放を検出するためのセンサすなわちクラッチスイッチ61が設けられており、該クラッチスイッチ61の出力信号は、ECU10に供給される。また、変速機には、変速機によって現在選択されている変速比を検出するための変速比センサ63が設けられており、該変速比センサ63の出力信号は、ECU10に供給される。
図2を参照すると、この発明の一実施形態に従う、吸排気バルブの開閉特性が示されている。縦軸はリフト量を示し、横軸はクランク角度を表す。連続可変動弁機構31により、吸気バルブ14の位相を連続的に変化させることができると共に、リフト量(吸気バルブが開かれる最大リフト量)を連続的に変化させることができる。
排気バルブ18のクランク角度に対するリフト量(以下、作動特性と呼ぶ)が、符合EX1によって示されている。実線で示されるIN11〜IN15は、吸気バルブ14の基準位相における作動特性を示している。この実施例では、該基準位相は、TDC(圧縮上死点)に対して最遅角の所に設定されており、該基準位相をゼロ度とする。IN15からIN11に向けて、リフト量は増大しており、エンジンの運転状態に応じて、IN11〜IN15の間で作動特性が切り換えられる。点線で示されるIN21〜IN25は、作動特性IN11〜IN15がそれぞれTDCに対して最進角された状態の作動特性を示している。
図に示されるように、この可変動弁機構においては、位相を進角にするほど、吸気バルブの閉タイミングが早くなるので、ポンピングロスを低減することができ、よって燃費向上を図ることができる。他方、位相を進角にするほど、吸気バルブと排気バルブが共に開いているオーバーラップ期間が長くなる。そのため、排気の吹き返し等が生じやすくなり、サージングを誘起するおそれがある。
したがって、本願発明では、サージングを防止することが可能な最適な進角量に、位相を制御する手法を提案する。まず、本願発明の当該手法に至った技術的根拠を、図3〜図6を参照して説明する。
図3は、車両の商品性を考察した実験結果の一例を示す。図の横軸は、可変動弁機構31の前述した吸気バルブ14の位相を示し、ゼロ度(最遅角)を基準として、右に行くほど進角量が大きいことを表している。符号71は、該位相に対する、後述する気筒毎の出力トルクを表す気筒別トルクパラメータの標準偏差の推移を示す。標準偏差の値が小さいほど、該気筒の出力トルクの変動量(ばらつき)が小さいことを示す。符号73は、該位相に対する体感ポイントの推移を示す。体感ポイントは、車両の商品性を表すポイント(点数)であり、専門の評価者が車両を運転した際に、体感によって、サージングをどの程度感じるかを表したものである。体感ポイントの値が高いほど、サージングが抑制されており、よって商品性が高いことを示す。
図に示すように、位相が遅角側にあるときには、体感ポイントは、ほぼ一定の値で推移しており、標準偏差も、安定した挙動を示している。しかしながら、位相の進角量が大きくなると、領域75で示されるように、体感ポイントが減少し始める。それに伴い、標準偏差の値が急激に上昇し始める。
すなわち、位相の進角量が大きくなりすぎると、体感によって認識可能なサージングが発生することがわかる。また、体感ポイントの減少に伴い、気筒別トルクパラメータの標準偏差の値が急激に上昇し始めることがわかる。
また、図4を参照すると、所定の気筒について、(a)は、位相が基準位相(前述したように、ゼロ度)にあるときの気筒別トルクパラメータの値の時間的推移を示し、(b)は、位相が、基準位相に対して所定量だけ進角したときの、気筒別トルクパラメータの値の時間的推移を示す。位相が進角するほど、気筒別トルクパラメータの変動量が大きくなっているのがわかる。
このように、サージングの観点からの商品性と、気筒別トルクパラメータの標準偏差との間には相関があり、位相の進角量が大きすぎると、該標準偏差が増大され、それに伴い、サージングの体感が増すことが判明した。したがって、気筒別トルクパラメータの標準偏差に基づいて、所定の商品性を実現するのに必要な体感ポイント値を維持することが困難なサージングの発生のおそれがある状態かどうかを判断することができる。このようなサージングの発生のおそれがある状態と判断された場合には、吸気バルブの位相を遅角させることにより、すなわちオーバーラップ期間が小さくなるように可変動弁機構を制御することにより、サージングを防止することができる。
この具体的な方法を説明すると、サージングの大きさと体感ポイントとの間の相関は予め決まっており、これが、図5に示されている。該相関は、変速比に応じて変化し、図には、一例として、変速比が3速、4速および5速のそれぞれに対応する場合についての相関が示されている。
この実施形態では、サージングによる振動の大きさを、該振動の加速度で表している。当然ながら、サージングの振動加速度が小さいほど、体感ポイント値は大きくなり、よって商品性が高くなる。所定の商品性を実現するのに必要な体感ポイントの下限値は予め決まっている。したがって、図に示すように、現在の変速比に基づき、該所望の体感ポイントの下限値P1に対して許容されるサージングの振動加速度の上限値A1が決定される。図の例では、変速比が3速に対応する場合の該上限値A1が決定されている。
該許容される振動加速度A1は、変速比が小さくなるほど(すなわち、高速用の変速比になるほど)、高くなる。変速比が小さくなるほど、車速が高くなるので、体感するサージングの振動の許容幅が大きくなるためである。
また、図6は、車両の等価慣性重量ごとに、気筒別トルクパラメータの標準偏差と、サージングの振動加速度との相関を、実験やシミュレーション等によって調べた結果を示す。ここで、等価慣性重量(kg)は、エンジンや駆動系などの回転部分の回転慣性力を、車両が加速するときの抵抗として見かけの車両重量増加分として加える重量をいう。等価慣性重量は、車両毎に予め決まっている。
標準偏差値が大きいほど、すなわち気筒の出力トルクのばらつきが大きいほど、サージングの振動加速度は大きくなる。また、等価慣性重量が大きいほど、標準偏差に対応する振動加速度は小さくなるが、これは、慣性力が高いほど、振動が起こりにくくなるためである。
図6の相関関係を参照することにより、図5により決定された許容される振動加速度の上限値A1に対応する標準偏差を、車両の等価慣性重量に基づいて求め、こうして求めた標準偏差をしきい値に設定する。図には、符号77で示される等価慣性重量に基づいて求めたしきい値が示されている。該しきい値を超えるような値の標準偏差が実際に算出されたならば、商品性の観点から許容されない大きさのサージングが発生するおそれのある状態と判定することができる。
このように、本願発明によれば、変速比および等価慣性重量を考慮して、商品性の観点から許容されないサージングが発生するおそれのある状態かどうかを判定するので、該判定の精度を向上させることができる。
サージングが発生するおそれのある状態と判定されたならば、位相を遅角化し、オーバーラップ期間を小さくする。図3および図4を参照して述べたように、位相の進角量を減らすことにより、オーバーラップ期間が短くなり、標準偏差の上昇を抑制することができる。よって、サージングの振動加速度を、許容される振動加速度の上限値以下に制限することができる。結果として、所望の体感ポイント値を維持することができ、よって所望の商品性を確保することができる。
図7は、上述した技術的根拠に基づく、本願発明の一実施例に従うエンジンの制御装置100の機能ブロック図である。これらの機能ブロックは、ECU10において実現される。なお、該制御装置100は、気筒毎に、サージング防止のための位相制御を行う。
気筒別トルクパラメータ算出部111は、気筒毎に、クランク角センサ33の出力から得られるエンジンの回転速度に基づいて、該気筒の出力トルクを表すトルクパラメータMFJUDを算出する。この詳細なプロセスは、後述される。
標準偏差算出部113は、気筒毎に、気筒別トルクパラメータMFJUDの標準偏差σ_TRQを算出する。所定数(たとえば、100個)の制御周期にわたって、気筒別トルクパラメータ値MFJUDi(i=1〜100)を算出し、これらの気筒別トルクパラメータ値MFJUDiに基づいて、以下の式(1)により、標準偏差σ_TRQを算出することができる。ここで、nは、上記の所定数に対応する。また、MFJUDバーは、該所定数の制御周期におけるトルクパラメータMFJUDの平均値を表す。
しきい値設定部115は、サージングが発生する可能性がある状態かどうかを判定するためのしきい値σ_TUR_SURを設定する。しきい値σ_TUR_SURは、図5および図6を参照して説明したように、変速比センサ63によって検出された現在の変速比と、車両の等価慣性重量とに基づいて設定される。しきい値設定部115の詳細なブロック図は、さらに後述される。
サージ判定部117は、気筒別トルクパラメータの標準偏差σと、設定されたしきい値σ_TUR_SURとを比較する。標準偏差σが、しきい値σ_TUR_SURより大きければ、許容されない大きさのサージング(前述したように、より正確には、商品性についての所定のレベルを超えたサージング)が発生する可能性のある状態と判定し、サージ判定フラグF_SURGEに値1を設定する。標準偏差σが、しきい値σ_TUR_SUR以下であれば、該許容されないサージングが発生する可能性はない状態と判定し、サージ判定フラグF_SURGEにゼロを設定する。
最適位相決定部121は、現在のエンジンの運転状態に基づいて、所定のマップを参照することにより、現在のエンジンの運転状態に最適な位相CAINCMDMを決定する。エンジンの運転状態として、任意の適切なパラメータを用いることができる。たとえば、現在のエンジン回転数および吸気バルブのリフト量に基づいて所定のマップを参照することにより、対応する位相を求めることで、最適位相CAINCMDMを決定することができる。なお、該マップ上で、最適位相CAINCMDMは、対応するエンジンの運転状態下でポンピングロスをなるべく低減させることができる進角量を持つように設定されている。
遅角量切り換え部123は、サージ判定フラグF_SURGEの値に従って、出力を切り換える。サージ判定フラグF_SURGEに値1が設定されているときには、遅角量ΔCAIN_SURに所定値CAIN_PREを設定して出力する。サージ判定フラグF_SURGEにゼロが設定されているときには、遅角量ΔCAIN_SURに、該所定値CAIN_PREから所定量ΔCAINを減算した値を設定する。ここで、ΔCAINの大きさは、CAIN_PREの大きさより小さい。
位相補正部125は、最適位相CAINCMDMから、遅角量ΔCAIN_SURを減算することにより、補正済み位相CAINCMDXを算出する(CAINCMDX=CAINCMDM−ΔCAIN_SUR)。
目標位相算出部127は、補正済み位相CAINCMDXを、最適位相CAINCMDMで上限リミット処理し、目標位相CAINCMDを算出する。すなわち、補正済み位相CAINCMDXが最適位相CAINCMDMを超えたならば、該最適位相CAINCMDMを目標位相CAINCMDに設定し、補正済み位相CAINCMDXが最適位相CAINCMDM以下ならば、該補正済み位相CAINCMDXを目標位相CAINCMDに設定する。こうして、目標位相CAINCMDは、最適位相CAINCMDMを超えないよう制御される。吸気バルブ14の位相は、該目標位相CAINCMDに達するように、可変位相機構33を介して制御される。
ここで図8を参照すると、目標位相CAICMDの推移の一例が概略的に示されている。横軸は、基準位相(ゼロ度)に対する位相値を示す。この例では、最適位相CAINCMDMは一定であると仮定する。
制御周期nにおいて、サージングが発生するおそれのある状態が発生したために、サージ判定フラグF_SURGEに値1が設定され、それに応じて、最適位相CAINCMDMから、所定値CAIN_PREだけ遅角された位相が、目標位相となる。この遅角動作により、次の制御周期(n+1)では、サージングの発生のおそれがなくなり、サージ判定フラグF_SURGEにゼロが設定される。その結果、遅角量切り換え部123により、ΔCAINだけ、目標位相は進角される。
ΔCAINずつの進角動作は、サージング発生のおそれがないと判断される限り行われる。これは、サージング発生のおそれがない限り、現在の位相をなるべく最適位相に近づけるためである。したがって、制御周期(n+2)においてもサージング発生のおそれがないと判断されれば、さらにΔCAINだけ、目標位相は進角されることとなる。この進角動作の結果、最適位相CAINCMDMに達したならば、サージ判定フラグF_SURGEに値1が設定されない限り、目標位相算出部127による上限リミット処理により、目標位相は該最適位相CAINCMDMに維持される。
このようにすることにより、サージングの発生を防止しつつ、できる限り最適位相に近づくように、位相を制御することができる。したがって、サージングの発生を防止しつつ、ポンピングロスを低減して、燃費向上を図ることができる。
図9は、図7のしきい値設定部115のより詳細なブロック図を示す。変速比取得部131は、変速比センサ63によって検出された現在の変速比を取得する。許容加速度算出部133は、図10の(a)に示すようなマップを、該取得した変速比に基づいて参照し、サージングの振動について許容される加速度(より正確には、許容加速度の上限値)を求める。当該マップは、図5に基づいて作成されており、予めメモリ等の記憶装置に記憶されている。なお、図の横軸の変速比は、右側へ向かうほど小さくなり、これは、右側に向かうほど高速用の変速比であることを表している。
切り換え部135は、クラッチスイッチ61によって出力される、クラッチが締結されているか否か、すなわちエンジンの回転が車輪に伝達される状態か遮断されている状態かを示す信号を取得する。該信号が、クラッチが締結されていることを示すならば、許容加速度算出部133によって求めた、現在の変速比に対応する許容加速度を出力する。該信号が、クラッチが締結されていないことを示すならば、所定値を出力する。該所定値は、エンジンの回転が車輪に伝達されていない場合における、サージングの振動についての許容加速度であり、これは、予め決められることができる。
しきい値算出部137は、図10の(b)のようなマップから、該制御装置100が搭載される車両の等価慣性重量に対応するマップを選択し(図の例では、3個の等価慣性重量値に対するマップが示されている)、切り換え部135から受け取った許容加速度の値に基づいて該選択したマップを参照し、対応する標準偏差値をしきい値σ_TRQ_SURとして求める。ここで、該車両についての等価慣性重量は、所定値として予め算出されて、メモリ等の記憶装置に記憶されている。また、当該マップは、図6に基づいて作成されており、予めメモリ等の記憶装置に記憶されている。
こうして、現在の変速比および車両の等価慣性重量を考慮したしきい値が設定されるので、サージ判定の精度を向上させることができる。すなわち、所定の変速比用のサージング振動の許容加速度を、すべての変速比について採用すると、商品性を満たすことが困難であったり、サージングの判定が過剰に行われることになりうる。たとえば、変速比が4速のものを一律に用いると、実際の変速比が3速の場合には、3速の許容加速度の方が4速の許容加速度より低いため、サージング振動が体感されて商品性が低下するおそれがある。また、実際の変速比が5速の場合には、より厳しいしきい値となってしまい、サージングが発生する可能性があるとの判定が過剰に行われ、よって、位相を進角することができないおそれがある。現在の変速比に応じた許容加速度を算出することで、所望の商品性を維持しつつ、過剰なサージ判定を抑制して、位相を進角させることができる。
また、サージングの大きさは、前述したように、車両の等価慣性重量に依存して決まる。したがって、等価慣性重量に適したしきい値を設定することにより、サージ判定の精度を向上させることができる。また、等価慣性重量は、車両によって予め決まっているため、許容加速度に対するしきい値を、等価慣性重量毎に予め算出してマップ上に規定することができる。これにより、各種の車両に対して同じマップを使用することが可能となり、車両毎にマップを異ならせる必要がない。したがって、しきい値を設定するのに、工数を低減することができる。
次に、図11〜図19を参照して、本願発明の一実施形態に従う、ECU1のCPUにより実行されるプロセスを説明する。
図11は、気筒別トルクパラメータの算出プロセスを示し、具体的には、気筒別トルクパラメータ算出部111(図7)により実行される。該プロセスは、TDCパルスの発生に同期して実行される。
この実施例では、クランク角センサ33からのCRKパルスは、クランク角度6度毎に取得される。CRKパルスの発生時間間隔を示す時間パラメータCRME(i)については、クランク角度720度分のデータ(i=0〜ND−1,データ数NDは120個)がECU1のメモリに格納される。また、点火順の気筒識別番号をk(=1〜6)とし、1TDC期間(ここでは、クランク角度120度の期間)内のデータ数をNTDC(この例では、20)とすると、このプロセスの1回の実行で、パラメータiが(k−1)NTDCから(kNTDC−1)までの演算が行われる。たとえば今回の処理が1番目の気筒(k=1)に対応する演算を行うときは、パラメータiは0から(NTDC−1)までの値をとり、5番目の気筒(k=5)に対応する演算を行うときは、パラメータiは4NTDCから(5NTDC−1)までの値をとる。
ステップS11において、回転速度OMG(i)(rad/s)を、式(2)に従って算出する。回転速度OMGは、CRKパルスの発生時間間隔を角速度に変換したものであり、クランク軸30の回転する速度を表している。ここで、Dθは、時間パラメータCRMEを計測する角度間隔4π/NDであり、この実施例では、π/30(rad)である。
OMG(i)=Dθ/CRME(i) (2)
図12(a)には、エンジン回転数NEが上昇していく時の時間パラメータCRMEの推移の一例が示されており、図12(b)には、それに対応する回転速度OMGが示されている。
ステップS12において、式(3)に従って720度フィルタ処理を実行し、フィルタ処理後回転速度OMGR(i)を算出する。
OMGR(i)=OMG(i)−(OMG(ND)−OMG(0))×Dθ×i/4π (3)
720度フィルタ処理は、1サイクル期間(クランク角度720度)における線形変化分をキャンセルし、比較的周期の短い変動を抽出する。この処理は、エンジンの負荷側からエンジンに加わるトルク(エンジンにより駆動される車両のタイヤや補機から加わるトルク、エンジンの摺動部品の摩擦によるトルク等)に起因する回転変動成分を除くために行われる。図12(c)には、図12(b)に基づいて算出されたOMGRの推移が示されている。
ステップS13において、式(4)に従って、相対回転速度OMGREFを算出する。
OMGREF(i)=OMGR(i)−OMGR((k-1)NTDC) (4)
ここで、OMGR((k−1)NTDC)は基準回転速度であり、対象となる気筒の圧縮上死点(TDC)におけるフィルタ処理後回転速度に相当する。
図13を参照すると、クランク角度が0〜720度の間の相対回転速度OMGREFの挙動の一例が示されている。#1〜#6は、点火順に6つの気筒を識別するのに付された気筒識別番号である。相対回転速度OMGREFは、圧縮上死点後、燃料と空気の混合気の燃焼により一旦上昇した後、減少する。なお、失火が発生すると、相対回転速度は、圧縮上死点後、上昇することなく下降することとなる。
相対回転速度OMGREFで囲まれた面積S(網掛けされた部分)は、燃焼によって発生するトルクを表している。したがって、気筒ごとに、相対回転速度OMGREFを1TDC期間(前述したように、この実施例では、クランク角度120度の期間)にわたって積算することにより得られる積算値を、その気筒で発生するトルクを表すトルクパラメータとして用いることができる。
好ましくは、上記の積算値を算出する前に、ステップS14およびS15を実施して、慣性トルクの影響を相対回転速度から除去する。慣性トルクは、エンジン12の往復運動部品(ピストンおよびコンロッド)の質量、コンロッドの長さ、クランク半径、クランクプーリ等のエンジンの負荷側の回転部品の慣性力に基づくトルクである。相対回転速度には、慣性力に基づく成分が含まれているが、慣性トルクは、燃焼により生成される出力トルクに寄与するものではないので、これを除去するのが好ましい。
ステップS14において、式(5)に従い、各気筒の圧縮上死点における慣性力回転速度OMGI(k)を算出する。
OMGI(k)=K・OMG((k−1)NTDC)/3I (5)
ここで、Kは比例定数であり、Iは、クランクプーリ等の回転部品の慣性モーメントを示す。式(5)の根拠については、後述される。なお、変速機として自動変速機を搭載している場合には、該自動変速機のロックアップクラッチが係合しているか否かに応じて、慣性モーメントIの値を変更することが好ましい。これにより、ロックアップクラッチの係合/非係合にかかわらず、より正確なトルクパラメータの算出を行うことができる。
図14(a)は、各気筒の圧縮上死点近傍において、基準回転速度の算出と同じタイミングで算出される慣性力回転速度OMGIの推移の一例を示す。
ステップS15において、式(6)に従い、修正相対回転速度OMGREFM(i)を算出する。修正相対回転速度は、慣性トルクの影響が除去された相対回転速度である。
OMGREFM(i)=OMGREF(i)+OMGI(k) (6)
図14(b)は、各気筒の修正相対回転速度の推移の一例を示す。
ステップS16において、式(7)に従い、修正相対回転速度OMGREFMを積算して、トルクパラメータMFJUD(k)を算出する。
図14(c)は、1TDC期間にわたって修正相対回転速度を積算することにより算出される各気筒のトルクパラメータMFJUDの推移の一例を示す。
ステップS17において、気筒識別番号kが気筒数Nと等しいか否かを判断する。その答えがNoであるときは、気筒識別番号kを1だけインクリメントし(S18)、答えがYesであるときは、気筒識別番号kを1に戻す(S19)。
こうして、TDCパルスの発生に同期して、気筒毎に、該気筒の出力トルクを表すトルクパラメータMFJUDが算出される。
ここで、慣性力回転速度OMGIを算出するより詳細な手法を説明する。1つの気筒で発生する慣性力によるトルク(単一気筒慣性トルクと呼ぶ)TI1は、図15に示すようにコンロッド長をL、クランク半径をR、オフセットをe、クランク軸30の回転角速度をω、ピストン28及びコンロッドの合計質量をmとし、角度θおよびφを図のように定義すると、式(8)で与えられる。以下の式中の角度の単位はラジアン(rad)が用いられる。
図16(a)は、式(8)により算出される単一気筒慣性トルクTI1を、クランク角度θの関数として示す。単一気筒慣性トルクTI1の位相を120度ずらして6気筒分を加算した合成慣性トルクTIは、図14(b)のように推移し、式(9)で近似することができる。
TI=−Asin3θ (9)
ここで、Aは、回転角速度ω(rad/s)の2乗に比例する係数である。
一方、前述したようにIを慣性モーメントとすると、合成慣性トルクTIは、式(10)で与えられる。
TI=I×(dω/dt) (10)
式(9)および(10)から式(11)が得られ、これを回転角速度ωについて解くと、合成トルクTIに対応する慣性力回転速度ωIは、式(12)で与えられる。
−Asin3θ=I×(dω/dt) (11)
ωI=(Acos3θ×dt/dθ)/3I (12)
図14(c)は、慣性力回転速度ωIの推移を示す。
よって、圧縮上死点での慣性力回転速度OMGIは、式(12)のθをゼロとして、式(13)により算出することができる。
OMGI=(A/3I)(1/OMG) (13)
係数Aは、回転速度OMGの2乗に比例するので、比例定数をKとすると、式(13)は、式(14)のように変形することができる。
OMGI=K・OMG/3I (14)
したがって、各気筒の圧縮上死点における慣性力回転速度OMGIは、前述した式(5)のように表されることができる。
図16(c)に示すように、圧縮上死点(θ=0、120、240、・・・)での慣性力回転速度OMGIは最大の値となるので、相対回転速度OMGREFに慣性力回転速度OMGIを加算すること(これは、基準回転速度から慣性力回転速度OMGIを減算することと等価である)により、慣性力回転速度ωIの影響を除去した修正相対回転速度OMGREFMを得ることができる。なお、図16(c)に示す慣性力回転速度ωIの周期変動成分は、修正相対回転速度OMGREFMを1TDC期間(この実施例では、120度)にわたって積算することによりキャンセルされる。
図17は、或る運転状態におけるトルクパラメータMFJUDの値を示す。(a)は、気筒間のトルクパラメータのバラツキがほとんど無い状態を示し、(b)は、気筒#1が、他の気筒に比べて、トルクパラメータの偏差が大きい状態を示す。
次に、図18は、サージ判定に基づく目標位相の算出プロセスを示し、該プロセスは、より具体的には、標準偏差算出部113、しきい値設定部115、サージ判定部117、最適位相決定部121、遅角量切り換え部123、位相補正部125、および目標位相算出部127(図7)によって実行される。このプロセスは、たとえば所定の時間間隔で実行されることができる。
ステップS101において、図11で算出された気筒別トルクパラメータMFJUDについて、直近の所定数iの制御周期で算出された気筒別トルクパラメータMFJUDiを取得する。iが100であれば、100個の気筒別トルクパラメータMFJUDi(i=1〜100)が取得される。これらの気筒別トルクパラメータMFJUDiに基づいて、前述した式(1)に示すように、該気筒別トルクパラメータの標準偏差σ_TRQを算出する。
ステップS102において、クラッチスイッチ61の検出結果を介して、クラッチが締結されているかどうか(すなわち、エンジン回転が車輪に伝達されている状態か遮断されている状態か)を判断する。クラッチが締結されていれば、変速比センサ63を介して検出された現在の変速比を取得し、該変速比に基づいて、図10(a)に示すようなマップを参照し、対応するサージングによる振動の許容加速度を求める(S103)。クラッチが締結されていなければ、予め設定された所定値を、該許容加速度に設定する(S104)。
ステップS105において、図10(b)に示すように、車両の等価慣性重量に対応するマップを選択し、該選択したマップを、ステップS103またはS104で求めた許容加速度に基づいて参照し、対応する標準偏差値を、しきい値σ_TRQ_SURとして求める。
ステップS106において、ステップS101で算出された標準偏差σ_TRQと、しきい値σ_TRQ_SURとを比較する。標準偏差σ_TRQがしきい値σ_TRQ_SURより大きければ、許容されない大きさのサージングの発生の可能性がある状態と判定し、ステップS107において、サージ判定フラグF_SURGEに値1を設定する。標準偏差σ_TRQがしきい値σ_TRQ_SUR以下であれば、許容されない大きさのサージングの発生の可能性はない状態とステップS108において、サージ判定フラグF_SURGEにゼロを設定する。
図19に進み、ステップS111において、現在の運転状態に基づいて、所定のマップを参照することにより、位相の最適値(最適位相)CAINCMDMを決定する。ステップS112において、サージ判定フラグF_SURGEに値1が設定されているか否かを判断する。値1が設定されていれば、遅角量ΔCAIN_SURに、所定値CAIN_PREを設定する(S113)。サージ判定フラグF_SURGEにゼロが設定されていれば、遅角量ΔCAIN_SURに、(所定値CAIN_PRE―ΔCAIN)を設定する(S114)。ここで、ΔCAINは所定量(<CAIN_PRE)であり、図8を参照して前述したように、サージングの発生の可能性が解消されたときに各制御周期で最適位相に向けて進角させる量である。
ステップS115において、最適位相CAINCMDMから、遅角量ΔCAIN_SURを減算することにより、補正済み位相CAINCMDXを算出する。ステップS116において、補正済み位相CAINCMDXを、最適値CAINCMDMで上限リミット処理を行うことにより、目標位相CAINCMDを算出する。こうして、吸気バルブ14の位相は、該目標位相CAINCMDに達するように、可変動弁機構31を介して制御される。
以下は、気筒別トルクパラメータ算出部111により実行されるトルクパラメータMFJUDを算出する手法の代替形態の説明である。
図20は、図11に示すプロセス(第1の形態)の変形例を示し、ステップS15およびS16を、ステップS16a、S16bおよびS16cに変更したものである。
ステップS16aでは、式(15)に従い、相対回転速度OMGREF(i)の積算値として、トルクパラメータMFJUDa(k)を算出する。
ステップS16bでは、式(16)に従い、慣性力回転速度OMGIの積算値MFTH(k)を算出する。
MFTH(k)=−NTDC×OMGI(k) (16)
ステップS16cでは、式(17)に従い、トルクパラメータMFJUDを算出する。
MFJUD(k)=MFJUDa(k)−MFTH(k) (17)
このように、この変形例では、修正相対回転速度を積算することに代えて、相対回転速度を積算した値と慣性力回転速度を積算した値とを用いてトルクパラメータMFJUDを算出する。
図21は、トルクパラメータを算出するプロセスの第2の形態のフローを示す。図11および図20を参照して説明した第1の形態では、時間パラメータCRMEを回転速度OMGに変換したが、この形態では、時間パラメータCRMEを速度パラメータとして使用する。以下のプロセス中で算出される相対時間パラメータCRMEREFの積算値は、図13に一例として示された相対回転速度OMGREFの積算値と同様の変化を呈するので、トルクを表すパラメータとして用いることができる。なお、以下に説明する点以外は、第1の形態と同じである。
ステップS32において、式(18)に従って720度フィルタ処理を実行し、フィルタ処理後時間パラメータCRMER(i)を算出する。
CRMER(i)=CRME(i)−(CRME(0)−CRME(ND))×Dθ×i/4π (18)
ステップS33において、式(19)に従い、相対時間パラメータCRMEREF(i)を算出する。ここで、CRMER((k−1)NTDC)は基準時間パラメータであり、対象となる気筒の圧縮上死点におけるフィルタ処理後時間パラメータに相当する。
CRMEREF(i)=CRMER((k−1)NTDC)−CRMER(i) (19)
ステップS34において、式(20)に従い、慣性力時間パラメータCRMEI(k)を算出する。
CRMEI(k)=3I・CRME((k−1)NTDC)/K (20)
ステップS35において、式(21)に従い、修正相対時間パラメータCRMEREFM(i)を算出する。
CRMEREFM(i)=CRMEREF(i)−CRMEI(k) (21)
ステップS36において、式(22)に従い、修正相対時間パラメータCRMEREFMの積算値を算出することにより、トルクを表すトルクパラメータMFJUD(k)を算出する。
ステップS37では、気筒識別番号kが気筒数Nと等しいか否かを判断する。答えがNoであるときは、気筒識別番号kを1だけインクリメントし(S38)、答えがYesであるときは、気筒識別番号kを1に戻す(S39)。
図22は、図21に示すプロセスの変形例を示し、ステップS36を、ステップS36a、S36bおよびS36cに変更したものである。
ステップS36aでは、式(23)により、相対時間パラメータの積算値MFJUDc(k)を算出する。
ステップS36bでは、式(24)に従い、CRMEIの積算値MFTHa(k)を算出する。
MFTHa(k)=NTDC×CRMEI(k) (24)
ステップS36cにおいて、式(25)に従い、トルクパラメータMFJUDを算出する。
MFJUD(k)=MFJUDc−MFTHa(k) (25)
この変形例では、修正相対時間パラメータCRMEREFMを積算することに代えて、相対時間パラメータCRMEREFの積算値と慣性力時間パラメータCRMEIの積算値とを用いて、トルクパラメータMFJUDを算出する。
トルクパラメータの算出は、様々な変形が可能である。たとえば、時間パラメータCRME(i)を式(2)に適用して回転速度OMGを算出したが、高回転時に算出精度が低下しないようにするため、式(26)により算出される5個の時間パラメータCRMEの積算値CRME30(i)を用いて回転速度OMGを算出するようにしてもよい。
この場合、回転速度OMG(i)は、式(27)により算出される。ただし、回転速度の算出位相がずれるので、その分の位相補正を行うのが良い。
OMG(i)=5Dθ/CRME30(i) (27)
また、上記の基準回転速度および基準時間パラメータは、圧縮上死点における回転速度および時間パラメータを用いたが、圧縮上死点近傍(例えば、±7.5度の範囲内)でもよい。ここで、7.5度は、回転速度パラメータのサンプリング周期が15度の場合に対応しており、一般的にサンプリング周期をθSPLとすると、±θSPL/2の範囲内でサンプリングされた回転速度パラメータを用いるのが良い。
また、720度フィルタ処理は、上記の式(3)に代えて、下記の式(28)により行ってもよい。この式は、クランク角720度の期間の回転速度OMGの移動平均値OMGAVE(m)を用いて線形変化分をキャンセルするものである。ここで、mは、クランク角度720度の周期に対応する離散化時刻である。
OMGR(i)=OMG(i)
―(OMGAVE(m)−OMGAVE(m-1))×Dθ×i/4π (28)
次に、気筒別トルクパラメータ算出部111により実行される、トルクパラメータを算出する手法の第3の形態について説明する。この形態では、クランク軸の捩れやクランク角センサによる時間パラメータCRMEの検出誤差等に起因する外乱の影響を排除することができる。
図23(a)は、修正相対回転速度OMGREFMの実測値の一例を示しており、点線で囲んだ部分が、このような外乱の影響を受けた部分である。このような外乱の影響があると、トルクパラメータの算出に誤差が生じるおそれがある。
そこで、この実施形態では、正常燃焼が行われ、かつクランク角センサの検出に影響を与える外乱がない場合の回転速度変化を近似する燃焼相関関数FCRを修正相対回転速度OMGREFMに乗算することにより、外乱の影響を排除する。図23(b)は、(a)に示す修正相対回転速度OMGREFMに関数FCRを乗算することにより算出したOMGREFMbを示しており、外乱が抑制されていることがわかる。
図24は、相関関数FCRの一例を示し、式(29)で定義される。ここで、Nは気筒数であり、θは、特定気筒のピストンが上死点に位置する角度を基準としたクランク角度である(図15を参照)。なお、図24は、6気筒エンジンに対応する相関関数FCRを示している。
FCR={1−2cos(N・θ/2)}/2 (29)
相関関数FCRは、例えばエンジンの暖機後の定常運転状態において、正常燃焼時の各気筒の筒内圧を計測し、計測した気筒毎の筒内圧を加算することにより合成の筒内圧変化を算出し、その合成筒内圧変化を回転速度の変化に換算することにより、求めてもよい。図25は、そのようにして求めた関数FCRを示す。この関数FCRは、正常燃焼状態における回転速度変化波形を、最小値が0で最大値が1となるように正規化されている。
図26(a)は、燃焼相関関数FCRによる相対回転速度の補正を行わない場合のトルクパラメータMFJUDのばらつきの範囲の例を示し、図26(b)は、この第3の実施形態におけるトルクパラメータMFJUDのばらつき範囲の例を示す。これらの図から明らかなように、相関関数FCRを用いた補正を行うことにより、トルクパラメータの算出精度が高まり、ばらつき範囲を減少させることができる(図の例では、約40%減少)。
図27は、この第3の形態に従う、トルクパラメータを算出するプロセスのフローを示す。
ステップS51〜53は、第1の形態に従う図11のステップS11〜S13と同じであるので、説明を省略する。
ステップS54において、式(5)により算出される慣性力回転速度OMGI(k)を下記の式(30)に適用し、慣性力回転速度OMGIa(I)を算出する。第1の形態では、圧縮上死点での慣性力回転速度OMGI(k)をそのまま式(5)に適用して修正相対回転速度OMGREFMを算出したが、この形態では、各サンプリングタイミングにおける慣性力回転速度OMGIa(i)を算出して、相対回転速度OMGREFの修正を行う。
OMGIa(i)=OMGI(k)×{cos(N・Dθ・i/2)−1} (30)
ステップS55では、式(31)に、ステップS54で算出した慣性力回転速度OMGIa(i)を適用し、第1修正相対回転速度OMGREFMa(i)を算出する。
OMGREFMa(i)=OMGREF(i)−OMGIa(i) (31)
ステップS56では、ステップS55で算出した第1修正相対回転速度OMGREFMa(i)および式(32)により算出される相関関数FCR(i)を式(33)に適用し、第2修正相対回転速度OMGREFMb(i)を算出する。式(32)は、式(29)のθを、(Dθ・i)に置換したものである。
FCR(i)={1−2cos(N・Dθ・i/2)}/2 (32)
OMGREFMb(i)=OMGREFMa(i)×FCR(i) (33)
ステップS57では、式(34)に従ってトルクパラメータMFJUDを算出する。
こうして、燃焼関数を用いることにより、クランク角センサの検出値に影響を与えうる外乱の影響を排除しつつトルクパラメータを算出することができる。また、式(32)に示す燃焼相関関数を用いることにより、燃焼相関関数値算出用のテーブル設定のための実験が不要となり、比較的簡単な演算でトルクパラメータの算出補正を行うことができる。
代替的に、図25に示す実測データに基づく相関関数を用いる場合には、図25に示す1周期分の関数値FCR(i)をパラメータiに応じて検索するFCRテーブルを予めメモリに格納しておき、ステップS56において、式(32)による演算に代えて、FCRテーブル検索を行う。実測データに基づく燃焼相関関数を用いることにより、燃焼相関関数に内燃機関の特性を反映するようトルクパラメータの算出を補正することができる。
また、式(32)の演算も、コサイン関数を予めテーブルとしてメモリに記憶しておき、そのテーブルを検索することにより、相関関数値FCR(i)を算出するようにしてもよい。FCRを用いた補正は、第2の形態にも適用可能である。
上述した実施形態では、6気筒エンジンを例に説明したが、本願発明は、任意の数の気筒を有するエンジンに適用可能である。また、本願発明は、直接噴射式のエンジン、ディーゼルエンジン等のエンジンにも適用可能である。
さらに、本発明は、汎用の(例えば、船外機等の)内燃機関に適用可能である。