以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、本実施の形態では、4気筒の内燃機関に供給される燃料の性状を推定する場合を例に説明する。
図1に示すように、本実施の形態に係る燃料性状推定装置の内燃機関(エンジン)10には、吸気通路12および排気通路14が連通している。吸気通路12は、上流側の端部にエアフィルタ16を備えている。エアフィルタ16には、吸気温THA(すなわち外気温)を検出する吸気温センサ18が組みつけられている。また、排気通路14には排気浄化触媒32が配置されている。
エアフィルタ16の下流には、エアフロメータ20が配置されている。エアフロメータ20の下流には、スロットルバルブ22が設けられている。スロットルバルブ22の近傍には、スロットル開度TAを検出するスロットルセンサ24と、スロットルバルブ22が全閉となることでオンとなるアイドルスイッチ26とが配置されている。
スロットルバルブ22の下流には、サージタンク28が設けられている。サージタンク28の近傍には、吸気通路12の圧力(吸気管圧力)を検出する吸気管圧センサ29が設けられている。また、サージタンク28の更に下流には、内燃機関10の吸気ポートに燃料を噴射するための燃料噴射弁30が配置されている。
内燃機関10の各気筒はピストン34を備えている。ピストン34には、その往復運動によって回転駆動されるクランク軸36が連結されている。車両駆動系と補機類(エアコンのコンプレッサ、オルタネータ、トルクコンバータ、パワーステアリングのポンプ等)は、このクランク軸36の回転トルクによって駆動される。クランク軸36の近傍には、クランク軸36の回転角を検出するためのクランク角センサ38が取り付けられている。また、内燃機関10のシリンダブロックには、冷却水温を検出する水温センサ42が取り付けられている。また、内燃機関10が有する4気筒のうちの所定の気筒には、筒内の圧力(筒内圧)を検出するための筒内圧センサ44が設けられている。
本実施形態の燃料性状推定装置は、ECU(Electronic Control Unit)40を備えている。ECU40には、上述した各種センサおよび燃料噴射弁30などが接続されている。
上記のように構成された本実施形態の燃料性状推定装置において、ECU40を、ハードウエアとソフトウエアとに基づいて定まる機能実現手段毎に分割した機能ブロックで説明すると、図2に示すように、吸気管圧センサ29によって検出された吸気管圧力に基づいて、各吸気行程で筒内に流入した筒内空気量を算出する筒内空気量算出部52と、筒内空気量及び仮定される基準の燃料性状に基づいて、各爆発行程における基準トルクを算出する基準トルク算出部54と、クランク角センサ38から検出したクランク角加速度に基づいて、爆発行程が行われる毎に、燃焼により発生した筒内トルクの大きさを推定する筒内トルク推定部56と、エンジンの運転条件に基づいて、トルク変動を推定するトルク変動推定部58と、基準トルク及びトルク変動に基づいて、発生するトルクの大きさの確率分布を算出し、トルクの大きさの確率分布における、推定された筒内トルクの大きさに対する確率を算出する筒内トルク確率算出部60と、算出された筒内トルクの大きさに対する確率に基づいて、燃料の性状を推定する燃料性状推定部62とを備えている。
また、ECU40は、推定された燃料の性状を記憶する燃料性状記憶部64と、推定された燃料性状に基づいて、燃焼制御パラメータとしての燃料噴射量及び点火時期の各々を補正する補正部66とをさらに備えている。
ここで、図3に示すように、燃料の性状が重質の場合、内燃機関10の始動後、最初の爆発行程(初爆)からN回の爆発行程が行われるまでの間において、基準トルクと筒内トルクとが変化する。
初爆時の際の吸気行程では、サージタンク28内に多くの空気が溜まっているため、十分な量の空気が筒内へ送られる。従って、初爆時の筒内空気量は多く、基準トルク及び筒内トルクの各々は、比較的大きな値となる。
エンジン始動時には通常スロットルバルブ22を閉じているため、初爆後の吸気行程で筒内へ空気が送られる度にサージタンク28内の空気は減少していく。従って、初爆後、吸気行程が行われる毎に筒内へ送られる空気量は減少していき、上記図3に示すように、爆発行程毎に、基準トルク及び筒内トルクの各々は次第に減少していく。
基準トルクは、燃料噴射弁30から噴射した燃料と筒内へ流入した空気との混合気が、理論空燃比で燃焼した場合に発生する理論上のトルクである。内燃機関の始動時における燃料噴射量は所定の値に予め定められているため、基準トルクは筒内空気量に応じて変化し、筒内空気量が少なくなると基準トルクが減少する。
また、筒内トルクは、爆発行程で実際に発生したトルクを、クランク角加速度に基づいて算出した値である。爆発行程で実際に発生するトルクは、筒内空気量が少なくなるほど減少するが、筒内の燃焼状態に応じて変動する。
また、重質燃料の場合は、上記図3に示すように、燃料が蒸発しにくく、混合気が形成されにくいため、初爆以降の筒内トルクのバラツキが大きくなる。一方、軽質燃料の場合には、燃料噴射弁30から噴射された燃料が霧化し易いため、重質燃料に比べて筒内の燃焼状態が良好となり、初爆時およびその後の各サイクルにおける筒内トルクが重質燃料に比べて大きくなる。また、軽質燃料の場合、重質燃料に比べて、初爆以降の筒内トルクのバラツキが小さくなる。
上述したように、筒内トルクは、全体的に右下がりの傾向を示すものの、各サイクルの値が、あるバラツキを伴って変化する。このバラツキは、本質的にエンジンが変動を伴ったトルクを発生させていることに起因し、また、バラツキは燃料性状に依存している。
筒内空気量は、吸気管圧力(筒内圧力)と線形の関係にあるため、筒内空気量算出部52は、以下の(1)式を用いて、筒内空気量mc(k)を算出する。
mc(k)=A・pm(k)+B ・・・(1)
ただし、pm(k)は、初爆からk回目の吸気行程における吸気管圧力であって、吸気弁が閉じるタイミングにおける吸気管圧センサ29の検出値から得られる。また、A、Bは適合定数である。
また、基準トルクは、筒内空気量に応じて変動し、筒内トルクの関数として表すことができ、筒内空気量と基準トルクとは線形の関係にあるため、基準トルク算出部54は、以下の(2)式を用いて、上記(1)式で算出された筒内空気量mc(k)に基づいて、基準トルクTia(k)を算出することができる。
Tia(k)=C・mc(k)+D ・・・(2)
ただし、C、Dは、基準トルクTia(k)と筒内空気量mc(k)との関係を表す所定の定数である。なお、C、Dを、運転条件等に応じた変数としても良い。上記(2)式に示すように、基準トルクTia(k)は、初爆からk回目の爆発行程における筒内空気量mc(k)、すなわち、初爆からk回目の爆発行程に対応した吸気行程で筒内へ流入した筒内空気量から算出することができる。
このように、上記(1)式、(2)式によれば、吸気管圧センサ29から検出した吸気管圧力pm(k)に基づいて、基準トルクTia(k)を算出することができる。なお、吸気管圧力pm(k)と筒内空気量mc(k)との関係をマップで記憶させておき、吸気管圧力pm(k)に応じた筒内空気量mc(k)の値をマップから取得しても良い。
また、基準トルクは筒内空気量の関数であるため、筒内空気量に応じて変動する所定の特性値から直接的に基準トルクを求めるようにしても良い。例えば、筒内空気量は上述のように吸気管圧力に応じて変動し、また、機関回転数に応じて変動するため、吸気管圧力又は機関回転数と基準トルクとの関係を予め取得しておき、吸気管圧力又は機関回転数から直接的に基準トルクを求めてもよい。
筒内トルク推定部56は、実際の燃焼により発生した筒内トルクとして以下に説明する推定図示トルクTiを算出する。推定図示トルクTiは、以下の(3)式を用いて、算出される。
上記(3)式において、推定図示トルクTiは、エンジンの燃焼によってクランク軸36に発生するトルクである。ここで、上記(3)式の右辺は、推定図示トルクTiを消費するトルクを示している。
上記(3)式の右辺において、Jは混合気の燃焼等によって駆動される駆動部材の慣性モーメント、dω/dtはクランク軸36の角加速度、Tfは駆動部のフリクショントルク、Tlは走行時に路面から受ける負荷トルクを示している。ここで、J×(dω/dt)は、クランク軸36の角加速度に起因する動的な損失トルク(=Tac)である。フリクショントルクTfは、ピストン34とシリンダ内壁との摩擦など、各嵌合部の機械的な摩擦によるトルクであって、補機類の機械的な摩擦によるトルクを含むものである。負荷トルクTlは、走行時の路面状態などの外乱によるトルクである。本実施形態では、シフトギヤをニュートラルの状態にして燃料性状を推定するため、以下の説明ではTl=0とする。
上記(3)式に示されるように、推定図示トルクTiは、角加速度に起因する動的な損失トルクTac(=J×(dω/dt))、フリクショントルクTf、及び負荷トルクTlの和として求められる。
また、推定図示トルクTiは、以下の(4)式を用いて表される。
上記(4)式の右辺は図示トルクTiを発生させるトルクを示しており、Tgasはシリンダ内の筒内ガス圧によるトルク、Tinertiaはピストン34などの往復慣性質量による慣性トルクを示している。筒内ガス圧によるトルクTgasは、シリンダ内の混合気の燃焼によって発生するトルクである。
また、4気筒のうちの1気筒のピストン34が上死点(TDC)の位置にあるときから、下死点(BDC)の位置にあるときまでの間で、筒内ガス圧によるトルクTgasは、急激に増加し、減少する。ここで、Tgasの急激な増加は、爆発工程で燃焼室内の混合気が爆発するためである。爆発後、Tgasは減少し、他の圧縮行程あるいは排気行程にある気筒の影響により、負の値を取る。また、クランク角がBDCに達するとシリンダの容積変化が0となり、これによってTgasは0の値を取る。
往復慣性質量による慣性トルクTinertiaは、筒内ガス圧によるトルクTgasとはほとんどあるいは無視できるほど無関係に、ピストン34など往復運動する部材の慣性質量によって発生する慣性トルクである。往復運動する部材は加減速を繰り返しており、Tinertiaはクランク軸36が回転していれば角速度一定の場合であっても常に発生する。
4気筒のうちの1気筒のピストン34が上死点(TDC)の位置にある場合のクランク角を0°とし、下死点(BDC)の位置にある場合のクランク角を180°とすると、クランク角が0°となる位置では往復運動する部材は停止しており、Tinertia=0である。クランク角が0°となる位置から180°となる位置に向かって進むと、往復運動する部材が停止状態から運動し始める。この際、これらの部材の慣性によってTinertiaは負の方向に増加する。クランク角が90°近傍に達した時点では、往復運動する部材が所定の速度で運動しているため、これらの部材の慣性によってクランク軸36が回転する。従って、TinertiaはTDCとBDCの間で負の値から正の値へ変わる。その後、クランク角が180°まで到達すると往復運動する部材は停止し、Tinertia=0となる。
しかし、クランク角が0°〜180°となる区間に着目すると、この区間での往復慣性質量による慣性トルクTinertiaの平均値は0となる。これは、往復慣性質量を有する部材が、クランク角0°〜90°近傍とクランク角90°近傍〜180°で反対の動きをするためである。
従って、上記(3)式及び(4)式の各トルクをTDCからBDCまでの区間の平均値として算出すると、往復慣性質量による慣性トルクTinertia=0として計算することができる。これにより、往復慣性質量による慣性トルクTinertiaが図示トルクTiに与える影響を排除することができ、図示トルクTiを正確に推定することが可能となる。
また、TDCからBDCまでの区間における各トルクの平均値を求めると、Tinertiaの平均値が0となるため、上記(4)式から、図示トルクTiの平均値と筒内ガス圧によるトルクTgasの平均値とが等しくなる。
更に、TDCからBDCまでの区間でクランク軸36の角加速度の平均値を求めると、この区間でのTinertiaの平均値は0であるため、往復慣性質量が角加速度に与える影響を排除して角加速度を求めることができる。
次に、上記(3)式の右辺の各トルクを算出して、左辺の推定図示トルクTiを求める方法を説明する。最初に、角加速度に起因する動的な損失トルクTac(=J×(dω/dt))を算出する方法について説明する。なお、本実施形態では、クランク軸36の回転の10°毎にクランク角センサ38からクランク角信号が検出される場合を例に説明する。
まず、本実施形態の燃料性状推定装置は、角加速度に起因する動的な損失トルクTacを、TDCの位置からBDCの位置までのクランク角0°〜180°の区間の平均値として算出する。このために、本実施形態の装置は、TDCとBDCの2ヶ所のクランク角位置で角速度ω0(k),ω0(k+1)をそれぞれ求め、同時にクランク軸36がTDCからBDCまで回転する時間Δt(k)を求める。
角速度ω0(k)を求める際には、例えば、クランク角がTDCの位置から前後10°ずつ回転している間の時間Δt0(k),Δt10(k)をクランク角センサ38から検出する。そして、時間Δt0(k)+Δt10(k)の間にクランク軸36が20°回転しているため、以下の(5)式を演算することによって角速度ω0(k)[rad/s]を算出できる。
ω0(k)=(20/(Δt0(k)+Δt10(k)))×(π/180)・・・(5)
同様に、角速度ω0(k+1)を算出する際は、クランク角がBDCの位置から前後10°ずつ回転している間の時間Δt0(k+1),Δt10(k+1)を検出する。そして、以下の(6)式を演算することによって角速度ω0(k+1)[rad/s]を算出することができる。
ω0(k+1)=(20/(Δt0(k+1)+Δt10(k+1)))×(π/180)
・・・(6)
角速度ω0(k),ω0(k+1)を求めた後は、以下の(7)式を演算し、TDCの位置からBDCの位置までクランク軸36が回転する間の角加速度の平均値を算出する。
角加速度の平均値=(ω0(k+1)−ω0(k))/Δt(k) ・・・(7)
そして、角加速度の平均値を求めた後は、上記(3)式の右辺に従って、角加速度の平均値と慣性モーメントJとを乗算する。これにより、クランク軸36がTDCからBDCまで回転する間の動的な損失トルクTac(=J×(dω/dt))の平均値を算出できる。なお、駆動部の慣性モーメントJは、駆動部品の慣性質量から予め求めておく。
次に、フリクショントルクTfの算出方法を説明する。まず、TDCからBDCまでクランク軸36が180°回転した場合のフリクショントルクTf、機関回転数Ne、及び冷却水温thwの各々の平均値を用いる。また、フリクショントルクTfは機関回転数Neが増えると増加し、また冷却水温thwが低くなると増加する傾向にある。機関回転数Ne及び冷却水温thwを可変パラメータとして、TDCからBDCまでクランク軸36を回転させた際に発生するフリクショントルクTfを測定し、その平均値を算出することで、フリクショントルクTfと内燃機関10の機関回転数Ne及び冷却水温thwとの関係を表したマップを予め作成しておく。そして、燃料性状を推定する際には、TDCからBDCまでの区間における冷却水温の平均値及び機関回転数の平均値を、予め作成したマップに当てはめて、フリクショントルクTfの平均値を求める。この際、冷却水温は水温センサ42から、機関回転数はクランク角センサ38からそれぞれ検出する。
クランク角の変動に伴うフリクショントルクTfの挙動は非常に複雑であり、バラツキも大きい。しかし、フリクショントルクTfの挙動は主としてピストン34の速度に依存しているため、往復慣性質量による慣性トルクTinertiaの平均値が0となる区間毎のフリクショントルクTfの平均値はほぼ一定している。従って、往復慣性質量による慣性トルクTinertiaの平均値が0となるクランク角0°〜180°の区間(TDC→BDC)毎にフリクショントルクTfの平均値を求めることで、複雑な瞬時挙動を示すフリクショントルクTfを精度良く求めることができる。また、フリクショントルクTfをこの区間毎の平均値とすることで、フリクショントルクTfと内燃機関10の機関回転数Ne及び冷却水温thwとの関係を表したマップを正確に作成することができる。
また、上述したようにフリクショントルクTfには補機類の摩擦によるトルクが含まれる。ここで、補機類の摩擦によるトルクは、補機類が動作しているか否かによって値が異なる。例えば、補機の1つであるエアコンのコンプレッサには、エンジンの回転がベルト等によって伝達されており、エアコンが実際に動作していない状態であっても摩擦によるトルクが発生している。
一方、補機類を動作させた場合、例えばエアコンのスイッチをオン(ON)した場合は、エアコンを動作させていない状態に比べてコンプレッサで消費されるトルクは大きくなる。このため、補機類の摩擦によるトルクが大きくなり、フリクショントルクTfの値も増大する。従って、フリクショントルクTfを正確に求めるためには、補機類の動作状態を検出し、補機類のスイッチがオン(ON)している場合には、上記のマップから求めたフリクショントルクTfの値を補正することが望ましい。
なお、極冷間始動時などにおいては、実際にフリクショントルクTfが発生している部位の温度と冷却水温との差を考慮して、フリクショントルクTfを補正することがより好適である。この場合、冷間始動後の機関始動時間、筒内流入燃料量等を考慮して補正を行うことが望ましい。
上記のように、角加速度に起因する動的な損失トルクTacとフリクショントルクTfとを求めた後、TacとTfを加算することで(3)式の左辺の図示トルクTiを算出する。ここで算出された図示トルクTiは、TDCからBDCまでのクランク角0°〜180°の区間の平均値として算出される。従って、この区間ではTinertiaの平均値が0であるため、(4)式からTi=Tgasとなる。
トルク変動推定部58は、機関回転数、筒内空気量、燃料噴射量、点火時期、エンジン水温、及びバルブタイミングから構成される内燃機関10の運転条件に基づいて、以下の(8)式に示す関数から、トルク変動を求める。
トルク変動=f(Ne,mc,A/F,SA,Tw,VT) ・・・(8)
ただし、Neは機関回転数、mcは筒内空気量、A/Fは空燃比、SAは点火時期、Twはエンジン水温、VTはバルブタイミングである。また、空燃比A/Fは、筒内空気量mcと燃料噴射量との比から求められる。なお、予め実験等により、上記の内燃機関の運転条件とトルク変動との関係を求め、求められた関係に基づいて、上記(8)式の関数fを求めておく。また、トルク変動は燃料性状にも依存するため、上記(8)式の関数fを、各燃料性状に応じて求めておく。
トルク変動推定部58では、基準の燃料性状であると仮定した場合に、始動時の設定(SA,VT,燃料噴射量)と実際に始動したときの観測値(Ne,mc,Tw,)とに基づいて、基準の燃料性状に応じた上記(8)式の関数fに従って、トルク変動を算出する。
筒内トルク確率算出部60は、基準トルク算出部54によって算出された基準トルク、及びトルク変動推定部58によって推定されたトルク変動に基づいて、発生するトルクの大きさの幅を表わす基準の燃料性状に応じたトルクの大きさの確率分布を算出する。また、筒内トルク確率算出部60は、筒内トルク推定部56によって推定された筒内トルクの大きさ、及びトルクの大きさの確率分布に基づいて、筒内トルクの大きさに対する確率を算出する。
ここで、本実施の形態の原理について説明する。内燃機関では、運転条件(筒内空気量、機関回転数、スロットル開度、燃料噴射量、点火時期、水温など)から、エンジンの発生したトルクを推定することが可能である。しかし、運転条件を一定としても、常にトルクの変動が生じているため、そのときに推定されるトルク値は、ある確率を伴った値である(通常、推定されるトルク値は、バラツキと表現される幅の中にある)。
また、トルクの大きさは、燃料性状(軽質、重質)によっても変化するので、運転条件から推定される基準トルクからのズレを調べることにより、燃料性状を推定することが可能である。しかしながら、基準トルクは、確率的な変動を伴う値であるため、燃料性状の推定値もある確率の範囲で正しい推定値となる。一方、トルクの変動は、内燃機関の運転条件及び燃料性状により変化するので、運転条件及び燃料性状とトルク変動との関係をあらかじめ実験等で求めて数式化またはマップ化することにより、ある運転条件及び燃料性状に応じて、発生するトルクの大きさに対する確率が決定される。そして、決定されたトルクの確率から、燃料性状の変化が確率的に計算される。
始動時の各サイクルにおいて、上記のようなトルク変動に基づく確率的な推定を行うことにより、数サイクルの間で燃料性状を精度よく推定することが可能となる。
そこで、本実施の形態に係る燃料性状推定装置では、燃料性状推定部62によって、筒内トルク確率算出部60によって算出された筒内トルクの大きさに対する確率に基づいて、燃料性状を推定する。例えば、図4に示すように、まず、現在想定している基準燃料性状Aに応じたトルクの大きさの確率分布で、筒内トルク(図4における観測値1を参照)の大きさに対する確率P1を計算し、次に、筒内トルクの大きさに対して同じ確率P1を与える燃料性状B(重質燃料又は軽質燃料の燃料性状)に応じたトルクの大きさに対する確率分布を求める(真の燃料性状は図4の幅Xの中にある)。そして、次のサイクルで得られた筒内トルクの大きさの観測値2に対応して、燃料性状Aに応じたトルクの大きさの確率分布から得られる確率P2A及び燃料性状Bに応じたトルクの大きさの確率分布から得られる確率P2Bを各々計算し、P2A>P1であれば、燃料性状Aを、そのまま次の基準の燃料性状とする。一方、P2B>P1であれば、次の基準の燃料性状を燃料性状Bに更新する。そして、上記の処理を繰り返す(図4では、確率P2Bを与える燃料性状Cを次に求め、燃料性状B、Cについて、観測値2、3を用いて、上記と同様な処理を行う)。このように、上記処理を繰り返し、常に確率が上がる方向に基準の燃料性状を更新し、更新された基準の燃料性状を、燃料性状の推定値とし、次の基準の燃料性状とする。
なお、基準の燃料性状に応じたトルクの大きさの確率分布から得られる筒内トルクの大きさに対する確率が小さい場合、すなわち推定された筒内トルクが、トルク変動幅の上下限(トルク変動を標準偏差σで表わした場合に、2σなどで規定される条件に基づく上下限)を超える場合には、筒内トルクと基準トルクとのズレは、燃料性状によるものと直ちに判断が可能であるため、ズレを燃料性状の違いと見て、次の基準の燃料性状を、観測値に対する確率が最大値となるトルクの確率分布を与える燃料性状に更新する。
補正部66は、更新された基準の燃料性状に基づいて、燃焼制御パラメータとしての燃料噴射量及び点火時期の各々を補正する。例えば、図5に示すように、初爆のときの設定では、筒内トルクの大きさが基準トルクの大きさに達せずに次のサイクルの設定値を決定するときの機関回転数が理想値より低く(図5(A)参照)、燃料性状がより重質であると推定された場合には、燃料噴射量を理想より多めに、あるいは点火時期の遅角を抑えるように補正する(図5(B)、(C)参照。機関回転数の大小は、トルクの大小と対応する)。
また、2サイクル目の設定により3サイクル目の機関回転数が理想より過大となり(上記図5(A)参照)、燃料性状を重質側に過大に見積もったとして、燃料性状がより軽質であると推定された場合には、燃料噴射量及び点火時期の各々を、燃料性状が重質であると推定された場合と逆の方向に補正する(上記図5(B)、(C)参照)。これらを数サイクル繰り返すことにより、理想値に達するように燃料噴射量及び点火時期が補正される。
以上のように構成された燃料性状推定装置において、ドライバが図示しないイグニションスイッチをオンにすると、ECU40は、図6に示す燃料性状推定処理ルーチンを実行する。
まず、ステップ100において、燃料性状記憶部64に記憶される基準の燃料性状として、予め定められた初期値(例えば、標準的な燃料性状を表わす値)をセットし、ステップ102で、燃料噴射量、点火時期SA、及びバルブタイミングVTの各々として、始動時の設定値をセットする。
そして、ステップ104において、エンジンが始動したか、つまりエンジン回転数が所定値以上になったかを判定し、エンジンが始動するまでは、ステップ104に待機する。そして、エンジンが始動したと判定すると、ステップ105に移行する。
ステップ105では、クランク角センサ38のクランク角から得られるクランク角速度に基づいて、上記(3)式に従って、筒内トルクとしての推定図示トルクTi(k)を推定する。上記ステップ105では、以下に説明するように、現在のサイクル数kの爆発行程におけるクランク角0°〜180°の区間の角加速度の平均値を求め、推定図示トルクTi(k)を算出する。
まず、トルク算出に必要なパラメータを取得する。具体的には、機関回転数(Ne(k)),冷却水温(thw(k)),角速度(ω0(k),ω0(k+1))、時間(Δt(k))などの各パラメータを取得する。そして、フリクショントルクTf(k)を算出する。上述のように、フリクショントルクTf(k)は機関回転数(Ne(k))と冷却水温(thw(k))の関数であり、上述したマップからTDCからBDCまでの区間における平均値を求める。
また、補機類のスイッチがオン(ON)している場合には、求めたフリクショントルクTf(k)を補正する。具体的には、Tf(k)に所定の補正係数を乗算したり、Tf(k)に所定の補正値を加算するなどの方法で補正を行う。
次に、角加速度に起因する動的な損失トルクTac(k)を算出する。ここでは、Tac(k)=J×((ω0(k+1)−ω0(k))/Δt(k))を演算して、TDCからBDCまでの区間における動的な損失トルクの平均値Tac(k)を算出する。
そして、推定図示トルクTi(k)を算出する。ここでは、Ti(k)=Tac(k)+Tf(k)を演算してTi(k)を算出する。なお、Tf(k)を補正している場合は、補正後のTf(k)を用いて演算を行う。ここで得られた推定図示トルクTi(k)は、TDCからBDCまでの区間の平均値である。
ステップ106では、クランク角センサ38の出力値から機関回転数Neを検出し、ステップ108において、吸気管圧センサ29から得られる、初爆からのサイクル数kにおける吸気管圧力pm(k)に基づいて、上記(1)式に従って、筒内空気量mc(k)を算出する。
そして、ステップ110では、上記ステップ108で算出された筒内空気量mc(k)に基づいて、上記(2)式に従って、基準トルクTia(k)を算出する。次のステップ112では、上記ステップ106で得られた機関回転数Ne、上記ステップ108で算出した筒内空気量mc(k)と上記ステップ102でセットされた燃料噴射量とから得られる空燃比A/F、上記ステップ102でセットされた点火時期SA、始動時に実際に観測されたエンジン水温Tw、上記ステップ102でセットされたバルブタイミングVT、及び上記ステップ100でセットされた基準の燃料性状に基づいて、上記(8)式に従って、トルク変動を算出する。
次のステップ113では、上記ステップ110で算出された基準トルク及び上記ステップ112で算出されたトルク変動に基づいて、基準の燃料性状に応じたトルクの大きさの確率分布を算出する。
そして、ステップ116において、上記ステップ113または後述するステップ118で算出された基準の燃料性状に応じたトルクの大きさの確率分布から、上記ステップ105で推定された推定図示トルクの大きさに対する確率を算出する。
そして、ステップ118において、上記ステップ105で算出された推定図示トルクに対する確率と同じ確率を与える燃料性状に応じたトルクの大きさの確率分布を算出する。なお、上記ステップ118においてトルクの大きさの確率分布を算出する場合には、推定された推定図示トルクの大きさに対して、基準燃料性状に応じたトルクの大きさの確率分布と同じ確率を与えるような燃料性状に応じて、上記ステップ112と同様に、上記ステップ106で得られた機関回転数Ne、上記ステップ108で算出した筒内空気量mc(k)と上記ステップ102又は後述するステップ126でセットされた燃料噴射量とから得られる空燃比A/F、上記ステップ102又は後述するステップ126でセットされた点火時期SA、始動時に実際に観測されたエンジン水温Tw、及び上記ステップ102でセットされたバルブタイミングVTに基づいて、上記(8)式の関数に従って、トルク変動を算出する。そして、上記ステップ110の基準トルクと算出されたトルク変動とに基づいて、トルクの大きさの確率分布を算出する。
次のステップ120では、クランク角センサ38のクランク角から得られるクランク角速度に基づいて、上記(3)式に従って、推定図示トルクの大きさを推定する。
そして、ステップ122において、基準の燃料性状に応じたトルクの大きさの確率分布から得られる、上記ステップ120で推定された推定図示トルクの大きさに対する確率と、上記ステップ118で算出されたトルクの大きさの確率分布から得られる、上記ステップ120で推定された推定図示トルクの大きさに対する確率とを算出する。
そして、ステップ124において、上記ステップ116で算出された確率より高い確率を与える燃料性状を、次の基準の燃料性状として燃料性状記憶部64に記憶して更新する。次のステップ126では、上記ステップ124で更新された燃料性状に基づいて、燃焼制御パラメータとしての燃料噴射量及び点火時期の各々を補正する。
そして、ステップ128において、上記ステップ124の更新による燃料性状の変化が所定範囲内に収束したか否かを判定する。更新による燃料性状の変化が所定範囲より大きい場合には、収束していないと判断し、上記ステップ106に戻って、次のサイクルについて、上記ステップ106〜126を繰り返し実行する。一方、上記ステップ128で、更新による燃料性状の変化が所定範囲内に収まっている場合には、燃料性状が収束していると判断し、燃料性状推定処理ルーチンを終了する。
上記のように、燃料性状推定処理ルーチンを実行すると、エンジン始動から数サイクルで、燃料性状が精度よく推定される。また、燃料性状の推定を行いながら、推定された燃料性状に応じて燃料噴射量及び点火時期を補正し、繰り返し推定される燃料性状が収束していくと、理想の燃料噴射量及び点火時期となるように制御され、理想の機関回転数が実現される。
以上説明したように、第1の実施の形態に係る燃料性状推定装置によれば、基準の燃料性状に応じたトルクの変動に基づくトルクの大きさの確率分布から、実際の燃焼により発生した筒内トルクの大きさに対する確率を求め、この確率に基づいて、燃料の性状を推定することにより、トルク変動の影響によるバラツキを考慮して、燃料の性状を推定することができるため、エンジン始動直後から燃料性状を精度よく推定することができる。
また、推定される燃料性状が収束するまで、推定された燃料性状に応じたトルクの変動に基づくトルクの大きさの確率分布を用いて、繰り返し燃料性状を確率的に推定することにより、エンジン始動後における初爆から数サイクルの期間で燃料性状を精度よく推定する。
また、推定した燃料性状に基づいて、以後の燃料噴射量および点火時期を補正して、ドライバビリティの向上とエミッション低減とを両立するように最適化することができる。
なお、上記の実施の形態では、トルク変動を算出するための関数を燃料性状毎に求めておく場合を例に説明したが、内燃機関の運転条件及び燃料性状とトルク変動との関係を求め、求められた関係に基づいて、トルク変動を算出するための関数を求めておくようにしてもよい。この場合には、内燃機関の運転条件及び基準の燃料性状に基づいて、求めておいた関数に従って、基準の燃料性状に応じたトルク変動を算出すればよい。
また、トルク変動を求める際に用いる内燃機関の運転条件が、機関回転数、筒内空気量、燃料噴射量、点火時期、エンジン水温、及びバルブタイミングから構成されている場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、内燃機関の運転条件が、筒内空気量、吸気管圧力、又は機関回転数と、燃料噴射量とを含んでいればよい。
また、基準の燃料性状を更新する毎に、更新された基準の燃料性状に基づいて、燃料噴射量及び点火時期を補正する場合を例に説明したが、繰り返し推定される燃料性状が収束した後に、最後に更新された基準の燃料性状に基づいて、燃料噴射量及び点火時期を補正するようにしてもよい。
次に、第2の実施の形態に係る燃料性状推定装置について説明する。なお、第2の実施の形態に係る燃料性状推定装置の構成は、第1の実施の形態と同様であるため、同一符号を付して説明を省略する。
第2の実施の形態では、燃料性状の更新の収束性を高めるために、推定された筒内トルクの大きさに対して、基準の燃料性状に応じたトルクの大きさの確率分布と同じ確率を与える燃料性状と、基準の燃料性状との中間の燃料性状を、次の基準の燃料性状として更新している点が第1の実施の形態と異なっている。
第2の実施の形態に係る燃料性状推定装置では、燃料性状推定部62によって、筒内トルク確率算出部60によって算出された筒内トルクの大きさに対する確率に基づいて、燃料性状を推定する。例えば、図7に示すように、まず、現在想定している基準燃料性状Aに応じたトルクの大きさの確率分布で、筒内トルクの大きさ(図7における観測値1を参照)に対する確率P1を計算し、次に、筒内トルクの大きさに対して同じ確率P1を与える燃料性状B(重質燃料又は軽質燃料の燃料性状)に応じたトルクの大きさの確率分布を求める。そして、基準燃料性状Aと燃料性状Bとの中間となる燃料性状B´(幅Xの中心に応じた燃料性状)に、次の基準の燃料性状を更新する。そして、上記の処理を繰り返す(図7では、次の観測値2について、燃料性状B´と同じ確率P2を与える燃料性状Cを次に求め、燃料性状B´と燃料性状Cとの中間となる燃料性状を、次の基準の燃料性状とするように更新する)。このように、上記処理を繰り返し、燃料性状の更新を、高速に収束させる(上記図7に示すように、基準B´に対する次の観測値2の確率P2は、確率分布のほぼ最大値であり、高速に収束する)。
次に、第2の実施の形態に係る燃料性状推定処理ルーチンについて図8を用いて説明する。なお、第1の実施の形態と同様の処理については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
まず、ステップ100において、燃料性状記憶部64に記憶される基準の燃料性状として、予め定められた初期値をセットし、ステップ102で、燃料噴射量、点火時期SA、及びバルブタイミングVTの各々として、始動時の設定値をセットする。
そして、ステップ104において、エンジンが始動したかを判定し、エンジンが始動したと判定すると、ステップ105に移行し、筒内トルクとしての推定図示トルクを推定する。
そして、ステップ106において、クランク角センサ38の出力値から機関回転数Neを検出する。次のステップ108では、筒内空気量mc(k)を算出する。
そして、ステップ110では、上記ステップ108で算出された筒内空気量mc(k)に基づいて、基準トルクTia(k)を算出する。次のステップ112では、上記ステップ106で得られた機関回転数Ne、上記ステップ108で算出した筒内空気量mc(k)と上記ステップ102又は後述するステップ126でセットされた燃料噴射量とから得られる空燃比A/F、上記ステップ102又は後述するステップ120でセットされた点火時期SA、始動時に実際に観測されたエンジン水温Tw、上記ステップ102でセットされたバルブタイミングVT、及び上記ステップ100又は後述するステップ124でセットされた基準の燃料性状に基づいて、上記(8)式に従って、トルク変動を算出する。
次のステップ113では、基準の燃料性状に応じたトルクの大きさの確率分布を算出し、ステップ116において、上記ステップ113で算出された基準の燃料性状に応じたトルクの確率分布から、上記ステップ105で推定された推定図示トルクの大きさに対する確率を算出する。そして、ステップ118において、上記ステップ116で算出された推定図示トルクの大きさに対する確率と同じ確率を与える燃料性状に応じたトルクの大きさの確率分布を算出する。
次のステップ250において、燃料性状記憶部64に記憶されている基準の燃料性状と、上記ステップ118で得られた燃料性状との中間の燃料性状を、次の基準の燃料性状として燃料性状記憶部64に記憶して更新する。
次のステップ126では、上記ステップ250で更新された燃料性状に基づいて、燃焼制御パラメータとしての燃料噴射量及び点火時期の各々を補正する。
そして、ステップ128において、上記ステップ124による燃料性状の更新が収束したか否かを判定する。更新後の燃料性状が変化している場合には、収束していないと判断し、上記ステップ105に戻って、次のサイクルについて、上記ステップ105〜118、250、126を繰り返し実行する。一方、上記ステップ128で、更新後の燃料性状が、所定回数連続して同じ場合には、燃料性状が収束していると判断し、燃料性状推定処理ルーチンを終了する。
このように、基準の燃料性状の更新において、推定された筒内トルクの大きさに対して、基準の燃料性状に応じたトルクの大きさの確率分布と同じ確率を与える燃料性状と、基準の燃料性状との中間の燃料性状を、次の基準の燃料性状として更新することにより、燃料性状の更新を高速に収束させることができる。
なお、上記の実施の形態では、基準の燃料性状を更新する際に、推定された筒内トルクの大きさに対して、同じ確率を与える2つの燃料性状の中間の燃料性状を、次の基準の燃料性状とする場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、筒内トルクの大きさに対して、同じ確率を与える2つの燃料性状の間の燃料性状を、次の基準の燃料性状とすればよい。この場合には、図9に示すように、まず、現在想定している基準燃料性状Aに応じたトルクの大きさの確率分布で、筒内トルクの大きさ(図9における観測値1を参照)に対する確率P1を計算し、次に、筒内トルクの大きさに対して同じ確率P1を与える燃料性状B(重質燃料又は軽質燃料の燃料性状)に応じたトルクの大きさの確率分布を求める。そして、次の基準の燃料性状を、基準燃料性状Aと燃料性状Bとの間の幅Xを1−α:α(1≧ α≧0)に分割する燃料性状B´´に更新する。そして、上記の処理を繰り返す(図9では、次の観測値2に対して、燃料性状B´´と同じ確率P2を与える燃料性状C´´を求め、燃料性状B´´と燃料性状C´´との間の幅Xを1−α:αに分割する燃料性状を、次の基準の燃料性状とするように更新する)。
次に、第3の実施の形態に係る燃料性状推定装置について説明する。第3の実施の形態に係る燃料性状推定装置の構成は、第1の実施の形態と同様であるため、同一符号を付して説明を省略する。
第3の実施の形態では、筒内圧から筒内トルクを推定している点が第1の実施の形態と異なっている。
第3の実施の形態に係る燃料性状推定装置では、筒内トルク推定部56によって、筒内圧センサ44から検出した筒内圧に基づいて、爆発行程が行われる毎に、燃焼による筒内トルクを推定する。筒内トルク推定部56は、筒内トルクとして以下に説明する実測図示トルクTi_cpsを算出する。例えば#1気筒が筒内圧センサ44を備えている場合、実測図示トルクTi_cpsは、以下の(9)式を用いて、算出される。
上記(9)式において、Ti_cpsは1サイクル(クランク角720°)で平均した実測図示トルク(実測平均図示トルク)を720°CA/気筒数の区間で換算したものである。また、Nは気筒数であり、P#1(θ)はクランク角θ毎に算出される#1気筒の筒内圧であって、筒内圧センサ44の検出値から得られる。V#1(θ)はクランク角θ毎に算出される#1気筒の筒内容積であって、内燃機関の諸元(ボア×ストローク、燃焼室容積など)とクランク角センサ38から検出したクランク角から求められる。
実測平均図示トルクTi_cpsは、1サイクルにおける筒内ガスの仕事(720°CA/気筒数の区間で換算したもの)として求められ、上記(9)式に示されるように、クランク角θ毎にP#1(θ)とdV#1(θ)/dθとの積を求め、1サイクルの区間でその平均値(Average)を算出し、気筒数Nを乗算することで求められる。なお、以下では、内燃機関10が#1〜#4の4気筒で構成され、クランク軸36の180°回転毎に#1、#3、#4、#2の順で爆発行程が行われる場合を例に説明する。
筒内圧センサ44を#1の気筒に取り付けた場合、初爆からkサイクル目における#1気筒の吸気、圧縮、爆発、及び排気の4行程(1サイクル)から実測図示トルクTi_cps(k)が求められる。
定常運転時においては、上記第1の実施の形態において推定図示トルクTi(k)を算出した吸気行程で発生するトルクと、実測図示トルクTi_cps(k)を算出した行程で発生するトルクとは、略同一とみなすことができる。また、上述したように実測図示トルクTi_cps(k)は1サイクルの区間で平均した値として算出しているため、最もトルクの大きい爆発行程のトルクは1サイクルの区間で平均化されている。
従って、気筒数N(#1気筒の1サイクル中に爆発行程が行われる回数)を乗算することで、kサイクル目における#1気筒の爆発行程で発生したトルクに相当する実測トルクTi_cps(k)を算出することができる。そして、運転状態が定常状態の場合、推定図示トルクTi(k)と実測図示トルクTi_cps(k)とは略等しい値となる。
同様に#2〜#4気筒に筒内圧センサ44を設けることで、実測図示トルクTi_cps(k+1)〜Ti_cps(k+3)を算出することができる。すなわち、k+1サイクル目における#3気筒の吸気、圧縮、爆発、及び排気の4行程から実測図示トルクTi_cps(k+1)を算出することができる。また、k+2サイクル目における#4気筒の吸気、圧縮、爆発、及び排気の4行程から実測図示トルクTi_cps(k+2)を、k+3サイクル目における#2気筒の吸気、圧縮、爆発、及び排気の4行程から実測図示トルクTi_cps(k+3)を、それぞれ算出できる。このように、筒内圧センサ44を全気筒に設けることで、上記第1の実施の形態で説明した推定図示トルクTi(k)〜Ti(k+3)・・・に対応した実測図示トルクTi_cps(k)〜Ti_cps(k+3)・・・を、順次算出することが可能となる。
実測図示トルクTi_cpsを算出した後は、筒内トルクとしての実測図示トルクTi_cpsと基準トルクTiaを用いて燃料の性状を判定する。始動直後の定常運転時では、第1の実施の形態で説明した推定図示トルクTi(k)〜Ti(k+3)・・・と、実測図示トルクTi_cps(k)〜Ti_cps(k+3)・・・はそれぞれ略等しい値となるため、第1の実施の形態における推定図示トルクTiの代わりに実測図示トルクTi_cpsを用いて、燃料の性状を判定することが可能である。
なお、燃料性状推定装置の上記以外の構成や処理については、第1の実施の形態と同様であるため、それらの説明を省略する。