本発明の目的は、溶銑の脱燐処理を高能率で行うに際し、蛍石等のハロゲン化物を実質的に用いず、スピッティングやスロッピングによる操業上の困難を発生させることなく、脱燐処理時間が5〜8分間で脱燐率80%以上を安定して達成することができる溶銑脱燐精錬技術を提供することである。
さらに、その溶銑脱燐処理の高能率化を中心に、脱燐溶銑の脱燐脱炭処理と溶鋼の取鍋精錬処理の高能率化とも関連させて、製鋼精錬全体を高能率かつ高効率にする技術を提供することである。
従来は、スピッティングやスロッピングによる操業上の困難を発生させることなく、脱燐処理時間が5〜8分間で脱燐率80%以上を安定して達成できる溶銑脱燐処理技術は、開示されたことが無い。転炉内で粉状脱燐剤を酸素と共に溶銑に吹き付ける脱燐法が脱燐剤の溶融高速化に有利と分かっていても、その脱燐法を高能率化するためにはスピッティング増加抑制の課題を解決する必要があった。その課題を解決するための手段として、取鍋スラグ等を利用してカバースラグを早期に生成させる方法は知られていても、その方法は脱燐処理の高能率化を直接目指したものでなく、むしろそれを阻害する難点もあった。
また、脱燐剤の溶融(滓化)を一層促進する手段として、粉状脱燐剤にAl2O3を配合したり、そのAl2O3源に取鍋スラグを用いたりする方法は公知であったが、それらの知見は脱燐剤の滓化促進にのみ関わっており、それらの知見をスピッティングやスロッピングの防止に役立てる着想は未だ開示されたことが無かった。
本発明は、後述するように、次の特徴を有している。
(1)溶銑脱燐処理では、転炉内で粉状脱燐剤を酸素と共に溶銑へ吹き付ける方法を採用し、その処理の開始から終了まで、炉内スラグの組成と生成量とを終始コントロールする。
(2)その粉状脱燐剤には、先に脱燐処理した溶銑を脱燐脱炭処理した際の転炉脱燐脱炭スラグと、その脱燐脱炭処理された溶鋼を取鍋精錬処理した際の取鍋スラグとを混合したものを用いる。
(3)但し、その脱燐脱炭処理は転炉における脱燐脱炭処理の高能率化に適した条件で行い、その取鍋処理もRH処理やバブリング処理等の取鍋精錬の高能率化に適した条件で行う。
(4)しかも、それらのスラグは、混合して、溶銑脱燐処理を高能率化するに適した脱燐剤となる条件を満たすことができるように生成させる。
(5)このようにして製造した脱燐剤を前記した転炉内での溶銑脱燐処理に用い、溶銑条件や酸素供給条件等も適正化することと合わせて、高能率かつ高効率な溶銑予備処理精錬を実現する。
上記した特徴を有する本発明を実施するためには、次の課題を解決しなければならない。
(1)転炉を用いる溶銑の脱燐処理を、高能率かつ高効率で行う条件の確立
具体的には、上吹き酸素の供給時間が5〜8分間であっても脱燐処理後[P]濃度を0.020%以下(本明細書では特に断りがない限り「%」は「質量%」を意味する)、すなわち脱燐率80%以上であり、かつ、スピッティングやスロッピングの発生を実際上問題ないレベルに安定して抑制できる溶銑の脱燐条件を確立する必要がある。
経験上、上底吹き転炉を用いた溶銑脱燐処理に使われる酸素の必要量は、対象溶銑1トン当たり9〜12Nm3である。そこで、上吹き酸素供給時間を従来の8〜12分間から5〜8分間に短縮するためには、上吹き酸素の供給流量を従来の0.7〜2.0Nm3/min/tonなどから、終始1.5〜2.5Nm3/min/tonなどの範囲内に高める必要がある。この酸素の単位時間当たりの流量は、処理開始から終了まで終始一定である必要は無い。しかし、処理時間の短縮を重視する場合には、酸素流量の大幅変化は実際的でない。酸素流量を減らした期間を作ると、そこで減らした酸素量を挽回する増量期間が必要になってしまい、その増量期間でのスピッティング・スロッピングの抑制が難しくなるからである。この上吹き酸素流量は、終始1.5〜1.8Nm3/min/tonの範囲内に保つことが望ましい。
また、このように短時間の処理で脱燐率80%以上とするためには、脱燐剤の供給速度も合わせて高めなければならず、その上で、その脱燐剤の溶融滓化を従来以上に促進しなければならない。このような促進には、特許文献1に記載されたCaO含有粉体を酸素と共に溶銑に吹き付ける方法が適している。その方法では、脱燐剤を酸素と溶銑とが直接反応している高温領域(火点)に供給できるため、脱燐剤を一旦溶融させることは比較的容易と考えられるからである。但し、その方法には前述したようにスピッティング防止の課題が元々あるところ、その課題は短時間処理ではますます対処が難しくなる性質を有している。
また、その方法を採用して脱燐剤を火点で溶融させても、その火点だけで脱燐反応が終結するわけではないことに注意を要する。脱燐剤が一旦溶融しても、溶融直後に火点領域からその周辺領域に移動してしまうため、その周辺領域の1300〜1400℃という温度でも流動性と脱燐能力とを維持していないと、80%以上という高い脱燐率の達成は困難となる。溶融した脱燐剤が固化してしまうと、5〜8分間という短い時間で再度溶融滓化することが難しいからである。
そのためには、火点で一旦溶融した際に、その溶融生成物自体が1300〜1400℃でも固化しない組成としておくことが有効と考えられるが、同時に脱燐能力とフォーミング特性に配慮しておかなくてはならない。溶融生成物が1300〜1400℃でも固化しないようにするためには、塩基度の低下やAl2O3およびFeO濃度の上昇が考えられる。しかし、塩基度を低下させると脱燐能力が低下してしまうので、その補償としてスラグ量を増加させなければならなくなる。また、Al2O3やFeO濃度を上昇させると、スラグがフォーミングし易くなる。これらのスラグ量増加やフォーミング増加は、スロッピング発生の増加要因であるところ、短時間処理では単位時間当たりの酸素供給量も多いので、スロッピングの発生を抑えることができなくなる。
(2)高能率な溶銑脱燐処理用脱燐剤を製造するための脱燐脱炭精錬と取鍋精錬の条件
前記したように、溶銑脱燐処理を高能率かつ高効率で行うためには、脱燐剤の組成やその溶銑への供給方法が重要である。そのような脱燐剤としてカルシウムフェライト等の合成フラックスを適宜利用することも有効と考えられるが、そのような合成フラックスは一般に高価である。溶銑脱燐処理は、一製鉄所あたりで年間に百万トン以上の溶銑を処理する大量製造プロセスであるから、それに用いる脱燐剤は安価でなくてはならない。
安価であって、しかも合成フラックスに類する滓化特性を有するものには、特許文献3や特許文献4等に記載されている取鍋スラグや転炉スラグが知られている。しかし、前記したようにそれらの文献には取鍋スラグ等を利用することによる滓化促進効果しか記載されておらず、それらのスラグを用いて溶銑脱燐処理をスピッティング・スロッピングなく高能率化するに適した脱燐剤とする着想は無かった。したがって、そのような目的に適した脱燐脱炭精錬と取鍋精錬の条件を、新たに把握しなければならない。
その際に、この溶銑脱燐処理の高能率化を溶銑の脱燐脱炭処理および溶鋼の取鍋精錬処理の高能率化とも関連付けて、それらを含む製鋼方法全体として高能率かつ高効率化することを目指すと、溶銑脱燐処理を高能率化する効果を一層高めることができる。
上底吹き転炉での酸素供給時間を5〜8分間に短縮するためには、上吹き酸素の供給流量を1.5〜2.5Nm3/min/tonなどに高める必要があり、そのような高速送酸条件下でも供給脱燐剤を溶融滓化して脱燐率80%以上を維持でき、かつ、スピッティングやスロッピングの発生状況を従来並みに抑えることができる溶銑脱燐精錬方法を確立する必要がある。
この課題には、脱燐剤の溶融滓化の促進や、それを利用した脱燐反応の促進、並びにスピッティングおよびスロッピング防止という、転炉吹錬における技術的要素の多くが複合的に絡んでいる。したがって、例えば特許文献1〜4に記載された技術を単に組み合わせて適用しても、総合的に解決することが難しい。それらの公知技術は、いずれも近年の溶銑脱燐処理時間短縮の要求に対処したものではないため、高能率処理に伴う滓化促進とスピッティングやスロッピング防止との関係に関する検討が含まれていないからである。
本発明に係る溶銑脱燐処理は、公知文献では想定されていない高能率な溶銑脱燐処理であって、前記した溶銑脱燐処理に纏わる諸々の課題を総合的に解決するものである。前記した溶銑脱燐処理に纏わる課題は、転炉内の物理的・化学的現象に伴うものであるところ、それらの現象に関しては従来から詳しく調べられている。そこで、それらの知見に基づきそれらの現象を望み通りに逐一コントロールすることができれば、前記した課題を個々には解決することができると考えられる。しかし、従来は、そのような知見に基づいて望ましい現象が得られるように、実操業において炉内現象を逐一コントロールしようとする着想が無かったし、また、そのような着想を実施できるような具体的手段も存在しなかった。したがって、それらの課題を総合的に解決した例は、公開されていない。
そこで、本発明では、そのようなコントロールを行う基本的な手段として、特許文献1に記載された類のCaO含有粉体を酸素と共に溶銑に吹き付ける方法に着目し、その吹錬機能を利用することを考えた。その方法において溶銑に供給する酸素は、従来から上吹きランスを通じて連続的に供給されているし、供給する脱燐剤などの副原料も上吹きランスを通じて連続的に供給されているので、転炉内の物理的・化学的現象を連続的にコントロールするための基礎的機能が備わっているからである。
本発明に係る溶銑脱燐処理では、溶銑脱燐率80%以上の安定達成を基本命題として、その基本命題を5〜8分間の上吹き酸素供給時間でスピッティング・スロッピング無く達成することを課題としている。その課題を解決するためには、溶銑脱燐処理の全期間を通じてスラグ成分を連続的に所定範囲にコントロールしつつ生成させることが基本であって、そのために次のように脱燐処理を進めると良いと考える。
(1)脱燐処理後のスラグ組成
本発明の基本命題である溶銑脱燐率80%以上の安定達成には、脱燐処理終了時のスラグ組成が大きく影響することが知られている。本発明では、脱燐処理後に好適組成を有するスラグを生成させるが、その生成を迅速に、かつ、スピッティングおよびスロッピングのトラブル発生なく行うためにその生成途中の経過をコントロールすることを課題にしている。
i)塩基度:2.2〜3.2
塩基度は高い方が脱燐能力が高く、目標脱燐率達成のためのスラグ量が少なくて済む。しかし、塩基度が高くなるとスラグの融点が上昇するので、Al2O3やT.Fe濃度を適度に高めたとしても、スラグの流動性が低下してしまい、その脱燐能力を発揮することができない。そこで、塩基度の範囲を2.2〜3.2とする。
ii)Al2O3:4.5〜7.5%
Al2O3濃度は、高塩基度のスラグでは或る程度高くするとスラグの融点低下効果を発揮し、添加CaO源の溶融滓化を促進する。しかし、Al2O3濃度が高くなるとスラグフォーミングが激しくなるほか、Al2O3自身には脱燐能力が無いためにスラグ生成量が増大してしまい、スロッピング発生の危険度が高まる弊害が目立つようになる。そこで、Al2O3濃度の範囲を4.5〜7.5%とする。
iii)T.Fe:7〜13%
T.Fe濃度は、スラグ全量に対するスラグ中酸化鉄の含有濃度を、そのスラグ中に含まれるFe濃度に換算した濃度であって、スラグ全体の酸化力を表す指標として慣用されている。その濃度が高いほど溶銑中Pを酸化する能力が高いため、溶銑脱燐の促進に有利となる一方、T.Feが増加すると溶銑中Cとの反応も激しくなってスラグフォーミングを助長するほか、スラグ生成量が増加してしまいスロッピング発生の危険度が高まる弊害が目立つようになる。そこで、T.Fe濃度の範囲を7〜13%とする。
(2)供給脱燐剤の溶融滓化促進
溶銑脱燐処理では、脱燐吹錬中の溶銑温度が1300〜1400℃と比較的低温であるため、処理時間(酸素供給時間)5〜8分間という短時間で一般的脱燐剤である生石灰を十分に溶融滓化させることが通常容易でない。特に、本発明では比較的に高塩基度のスラグを生成させようとしているため、供給する脱燐剤自体およびその脱燐剤の供給方法に工夫を凝らす。
i)酸素を溶銑に吹き付けている高温火点を利用し、火点にある内に着実に溶融滓化させる。
ii)供給脱燐剤の全部が火点で十分な滞留時間があるわけでは無いので、脱燐剤自身に溶融滓化し易い特性を持たせる。その粒径は最大粒径が0.15mm以下など細かい方が良いし、その原料は安価な方が良い。そのような原料としては、製鋼精錬の副産物である脱炭スラグや取鍋スラグが適している。
iii)但し、脱炭スラグや取鍋スラグはそれぞれ製鋼精錬において重要な役割を担うものなので、その組成範囲や生成量には制約がある。それらの役割を果たしつつ、本発明に係る溶銑脱燐処理に適した原料となるよう調整できれば、製鋼精錬全体としての高能率・高効率化を推進することができる。
(3)脱燐促進
i)脱燐剤と溶銑中Pとの高温火点での直接反応は、高温では脱燐平衡的に不利なことを考えてあまり期待せず、脱燐剤が溶融滓化した後の炉内スラグと溶銑との脱燐反応に期待する。
ii)そのために、脱燐剤が火点で溶融滓化した後、火点から離れても、その溶融滓化物が炉内で終始流動性を保ち、脱燐能力を有しているように脱燐剤の組成を調整しておく。
iii)処理後の溶銑中P濃度は、処理終了時のスラグの脱燐能力(成分、温度)とスラグ量に依存するので、スロッピング防止に配慮しつつ、それらを適正範囲に調整する。
(4)スピッティング防止
i)酸素吹き付けの最初期からスピッティングを抑制するため、極力早期に溶融スラグを炉内に生成させる。そのために、最初期は溶銑中Siと上吹き酸素との反応に伴って生成するSiO2を、脱燐剤の滓化促進に利用する。前記した「粒径の細かい脱炭スラグや取鍋スラグ」は、この早期溶融スラグ生成に関しても有効である。
ii)酸素吹き付けの中期以降には、それまでに生成させた溶融スラグが炉内に存在するため、溶銑中Siの酸化によるSiO2生成は無用である。溶銑中Siが多く存在すると、その酸化によって生成スラグの塩基度上昇が妨げられてしまうので、溶銑中Siは適度に少なくしておく方が良い。
iii)酸素吹付けの初期には炉内スラグ量が少ない上に低温なので、スピッティング防止を優先し、比較的低塩基度で高Al2O3濃度の低融点スラグを生成させる。このためには、供給する脱燐剤は高Al2O3濃度である必要がある。このような低塩基度で高Al2O3濃度のスラグはフォーミングし易いが、スラグ生成量がまだ少ない段階ではスロッピング発生に至らない。
(5)スロッピング防止
i)酸素吹き付けの中期以降は、炉内スラグ量が或る程度増加し、かつ、温度も上昇してくるので、スロッピング防止対策と処理後の溶銑P濃度低下を考えて、スラグが流動性を保てる範囲で塩基度を上昇させ、かつ、Al2O3濃度を抑制する。このスラグ塩基度上昇のためには、溶銑中Siは低めで、かつ、供給脱燐剤は高塩基度である必要がある。
これらの溶銑成分、スラグ成分の変化や、スラグ温度、スラグ生成量の推移は、生成スラグの流動性やフォーミング特性に直接関係しており、ひいてはスピッティング・スロッピングの発生や脱燐反応の進行に密接に結びついている。転炉を用いる粉体上吹き脱燐法では、酸素及び脱燐剤を連続的に供給できるので、処理前の溶銑成分を適切に規制した上で、供給脱燐剤の成分構成を適切に調整しておけば、溶銑成分、スラグ成分の変化や、スラグ温度、スラグ生成量の推移を連続的に望み通りにコントロールすることができる。
(6)溶銑の脱燐脱炭処理の高能率化
本発明の基本的な実施態様では、上記した溶銑脱燐処理の後、その脱燐処理した溶銑を上底吹き型の転炉で脱燐および脱炭処理を行う。この脱燐溶銑を脱炭処理した際に生成する、いわゆる転炉脱炭スラグを溶銑脱燐剤として利用することは、従来から行われていた。その脱炭スラグの特徴は、脱燐処理された溶銑中のSi及びPの濃度が低いことに起因して、スラグの塩基度が比較的高く、かつ、P濃度が低いことである。
但し、このような脱炭スラグを粉砕して、上吹きランスから酸素と共に吹き付けて溶銑脱燐処理する方法には、それを脱燐剤として利用するために好適な条件を具体的に検討して開示した例が無い。近年では製品中のP濃度を低減する要求が強く、しかも高能率で製鋼精錬を終えることを要請されているので、溶銑中のPの除去は溶銑脱燐処理だけでなく、その脱燐処理した溶銑を脱炭処理する際にも行うことが普通である。また、脱燐処理した溶銑を脱炭処理するために転炉へ注銑する際、脱燐スラグの混入を完全に防止することは容易でないので、脱炭処理する際のスラグにも脱燐能力を持たせる必要もある。したがって、そのような脱燐脱炭処理では、処理後スラグが一応溶融していることを前提として、高塩基度かつ高T.Fe濃度であることが好ましい。但し、高塩基度にするとCaOの溶融滓化が難しくなるため、処理後スラグ中に未滓化のCaO(f.CaO)が多く存在するようになる。本発明では、脱燐処理した溶銑を転炉で脱炭処理する際に、そのように脱燐能力を持たせた転炉脱炭スラグを転炉脱燐脱炭スラグと称する。
この未滓化のCaOは溶銑中成分とは反応してないため、このときの脱燐脱炭処理では無用の存在であるが、脱燐も必須とする脱炭処理を高能率で行うためには、従来よりも高塩基度で高T.Fe%のスラグを生成させる必要があるので、或る程度までf.CaO%の上昇を甘受しなければならなくなっている。本発明では、そのような近年の状況変化を踏まえて、その脱燐脱炭処理の高能率化と、それに伴って生成するスラグを脱燐剤として有効利用するための条件との両立を図る。
(7)取鍋精錬の高能率化
本発明の基本的な実施態様では、上記した溶銑脱燐処理とその処理後溶銑の脱燐脱炭処理をいずれも高能率で施した溶鋼に、さらに取鍋精錬処理を高能率で施す。このとき生成される取鍋スラグは、転炉での前記脱燐脱炭処理後に溶鋼と共に取鍋へ流出した転炉スラグがベースであって、それに溶鋼脱酸時に生成されるAl2O3等が混入したものであるから、高塩基度であってP濃度が低い上に、Al2O3濃度が高いという特徴がある。
但し、取鍋精錬の内容は様々で、一般に製品成分規格からの要求に応じて定められている。例えば、単に溶鋼へAlを添加して脱酸し、その溶鋼をバブリング処理やRH脱ガス処理するだけのものから、取鍋内へCaO源やAl2O3源を投入して積極的にスラグを生成させ、さらにバブリング処理やRH脱ガス処理して溶鋼を清浄化するものなどがある。
いずれの処理でも、塩基度は転炉脱炭スラグと同程度であるか、それよりも高いことが多いので、その生成スラグは脱燐剤の原料とするのに適している。その上、Al2O3を数%以上含有するスラグが多く、特に溶鋼清浄化処理等で生成させたスラグではAl2O3を30%超含むものもあるので、転炉脱炭スラグよりも再溶融させ易い特徴がある。したがって、このような特徴を有している取鍋スラグを、溶銑脱燐処理時の脱燐剤の原料として、または脱燐剤の滓化促進剤として利用する発明が多数公開されている。
しかし、そのように多様な取鍋スラグを粉砕して酸素と共に溶銑へ上吹きする脱燐に用いる例は、特許文献3や特許文献4など数少ない。CaO源を酸素と共に上吹きすれば、その溶融滓化は一般に容易なので、取鍋スラグを敢えて脱燐剤に混合して吹き付ける必要性が無かったためと解される。
しかし、本発明に係る溶銑脱燐処理では、前例のない短時間でCaO源を溶融滓化させ、かつ、その状態を維持しなければならないので、その一助としてAl2O3濃度の高い取鍋スラグを利用する。このような目的では、単に取鍋スラグというだけでは短時間でCaO源を滓化溶融させる使命を果たすことが出来ず、取鍋スラグの中でも本発明に係る脱燐剤の原料とするに適したスラグを選別して利用しなければならない。その選別は、必要なスラグ組成の範囲を定めておけば特に困難は無い。前記したように、取鍋精錬の内容に応じて、生成するスラグ組成がほぼ定まっているからである。
このようなコントロールを実現するための溶銑条件や脱燐剤供給条件を検討した結果、本発明に係る技術的範囲として次のように規定する。
(1)上底吹き転炉型の反応容器に収容されたSi:0.15〜0.30質量%、P:0.095〜0.120質量%の溶銑を対象として、上吹き酸素ガス流量を1.5〜2.5Nm3/min/ton、底吹きガス流量を0.15〜0.8Nm3/min/tonとしつつ、脱燐剤として供給する全CaO質量を粉状として前記上吹き酸素ガスと共に溶銑へ吹き付けて脱燐処理する溶銑の脱燐処理方法であって、
前記脱燐剤中に含有されるCaO質量と前記酸素ガスのO質量との比(CaO/O)を終始1.0〜1.9に保ちつつ、前記脱燐剤として、転炉脱燐脱炭スラグと取鍋スラグとの混合物であって、その塩基度(CaO質量/SiO2質量)を4.5〜7.5、Al2O3濃度を5〜9質量%、かつ、その最大粒径を0.15mm以下に調整した粉体を前記対象溶銑トンあたり30〜50kg使用することによって、
前記脱燐処理終了時のスラグ組成を、塩基度:2.2〜3.2、Al2O3:4.5〜7.5質量%、T.Fe:7〜13質量%に調整して脱燐することを特徴とする溶銑の脱燐処理方法
(2)前記脱燐剤としての混合物が、質量%で、CaO:45〜55%、SiO2:7〜15%、Al2O3:2〜5%、P2O5:1.5〜2.5%、T.Fe:15〜25%、塩基度:4.5〜7.0になるように調整して脱燐脱炭処理した後の転炉脱燐脱炭スラグ70〜85%と、質量%で、CaO:40〜50%、SiO2:5〜10%、Al2O3:10〜30%、P2O5:1.0〜3.0%、T.Fe:8〜16%、塩基度:4.5〜10.0になるように調整した後の取鍋スラグ15〜30%とを混合したものであることを特徴とする、(1)に記載した溶銑の脱燐処理方法
本発明の実施により、蛍石等のハロゲン化物を実質的に用いず、スピッティングやスロッピングによる操業上の困難を発生させることなく、溶銑の脱燐処理時間が5〜8分間で脱燐率80%以上の高能率溶銑脱燐処理を安定して行うことができる。さらに、その溶銑脱燐処理の高能率化を中心に、脱燐溶銑の脱燐脱炭処理と溶鋼の取鍋精錬処理の高能率化とも関連させて、製鋼精錬全体を高能率かつ高効率にすることもできる。
(1)脱燐剤の必要特性と必要供給量
本発明では、上吹き酸素の供給時間を5〜8分間とするため、上吹き酸素ガスの流量を1.5〜2.5Nm3/min/tonの範囲で調整して、粉状化した転炉脱燐脱炭スラグ及び取鍋スラグと共に溶銑表面へ、上吹きランスを通じて吹き付ける。
そこで、先ず、供給する脱燐剤を溶融滓化させなければならないが、この溶融滓化自体は、脱燐剤がCaO粉体であっても、それを十分な量の酸素と共に溶銑を吹き付けることで達成可能である。但し、本発明ではスピッティングを防止しなければならないため、上吹き酸素が溶銑に当たる面積を広く採って、その広く拡がって行く酸素ガスに粉体脱燐剤を巻き込ませる必要がある。
そうすると、酸素ガス噴流の外側近くに巻き込まれた脱燐剤は火点での溶融が不十分になり易いので、そのような溶融不十分を防止するために、脱燐剤自身が溶融滓化し易い性状に整えておく必要がある。また、火点で溶融滓化後にも直ぐに火点から外れた溶銑浴面へ移動するので、そこでの一般的な温度である1300〜1400℃でも、溶融状態を続けられる成分になるように脱燐剤の組成を整えておく必要がある。
そこで、具体的には、SiO2,Al2O3,T.Feなどを適度に含む取鍋スラグや転炉脱燐脱炭スラグを用意して、その粉体を脱燐剤として用いることにする。
スピッティングの発生を抑制するためには、大量の上吹き酸素の供給開始前に、とりわけその酸素とともに粉状生石灰等の脱燐剤の吹付けを開始する前に、溶銑上に早期に溶融スラグを生成させておくことが有効と特許文献3の記載から分かっている。このことは、上吹きされた酸素及び脱燐剤の溶銑浴面での運動量の大きさと、その反発による溶銑及びスラグ粒の発生状況、並びにそれらの生成スラグへの吸収状況が影響していると考えられる。
これらのうち、上吹きする酸素ガスの運動量は、単位時間当たりの酸素供給速度を高めなければならない本発明法においては、吹錬操作要因としてあまり期待できない。上吹き酸素が溶銑に衝突する面積を広げれば、いわゆるソフトブローとなって溶銑浴面における単位面積当たりの衝突運動量は低下させることができるが、この上吹き酸素は遅くとも上吹きランスから出た後には粉状脱燐剤のキャリアーガスとなっているので、それをソフトブローにすると粉状脱燐剤の溶銑への供給歩留まりが低下してしまうからである。
しかし、粉状脱燐剤の運動量の方は、色々な減少対策を採ることが可能である。先ずは、粉状脱燐剤として供給しなければならない脱燐剤の質量であるが、この全体量は脱燐剤としての本質的成分であるCaOと、その脱燐剤の滓化促進成分であるAl2O3及びFeOなどや、その脱燐反応を推進するための酸化剤の一部としてのFeOなどの合計量となる。
このうち、CaO質量は、脱燐処理の対象とする溶銑のSi含有量を予め低減しておくことにより、減少させることができる。生石灰などの高純度なCaOを滓化させるには、溶銑中のSiは非常に効果的だが、その滓化促進効果は、脱燐剤自体がSiO2やAl2O3などの滓化促進成分を含んでいて、溶銑浴面に衝突したら直ちに溶融可能なものである場合には不要になる。このような脱燐剤にはカルシウムフェライトなどの合成物が代表的であるが、取鍋スラグもCaOと共にSiO2やAl2O3などを多く含んでいるので利用することができる。但し、SiO2やAl2O3などの滓化促進成分は脱燐反応自体には関係ないので、滓化促進に必要な少量に抑制しておかないと脱燐剤吹付け量が増大してしまい、スピッティング抑制に不利になる。
この取鍋スラグは、転炉での溶鋼精錬後に溶鋼と共に取鍋へ流出した転炉スラグがベースであって、それに溶鋼脱酸時に生成されるAl2O3等が混入したものであるから、生石灰よりは勿論のこと、転炉スラグよりもさらに再溶融させ易い特性がある。但し、取鍋スラグは転炉での溶鋼精錬後に行う取鍋精錬の高能率・高効率処理を第一優先として考えなくてはならないので、その副産物としての性格上、スラグの組成範囲には制約がある。また、取鍋スラグをそのまま溶銑脱燐剤の主たる原料として用いることは、一般的にAl2O3濃度が高過ぎる上にそのスラグの生成量が限られているので適切ではない。
ほかに、取鍋スラグに類する特徴を有するものに、転炉での溶鋼精錬時の脱炭スラグがある。この脱炭スラグもCaOを多く含むほか、SiO2やFeOを適度に含んでいて、しかも一回溶融滓化したものであってその生成量も多いので、溶銑脱燐時における脱燐剤の原料とするに適している。取鍋スラグとの違いは、転炉での溶鋼精錬は1650℃程度と高温であって、脱炭スラグにはその後Al2O3等が混入する機会は無いので、脱炭スラグを再度溶融滓化するためには1650℃以上の高温とするか、或いはAl2O3などの滓化促進剤の助けを必要とする点である。
この脱炭スラグも転炉での溶鋼精錬の高能率・高効率処理に適する必要があるので、その組成範囲には制約がある。特に、本発明による溶銑脱燐処理を施した後の脱燐溶銑を脱炭精錬するのであれば、その脱燐溶銑にはSiが殆ど含有されていないので、その脱炭精錬後のスラグ組成は基本的に高塩基度になる特徴がある。
このような高塩基度の脱炭スラグであっても、もしそれを粉状化して酸素ガスと共に溶銑浴面に吹き付けるのであれば、その溶融には高温の火点を利用することになるので、その滓化溶融自体には問題が無い。問題が生じ得るのは、火点で溶融滓化した後、火点から外れた溶銑浴面へ移動した後である。そこでの温度は、一般に1300〜1400℃しかないので、その温度でも溶融を続けられる成分でないと直ちに固化してしまうからである。一旦固化してしまうと、その塊りを溶解することは溶銑Siの酸化に伴う低融点のスラグとか、高濃度のAl2O3を含有する特別な滓化促進剤などの助けが無いと、短時間での溶融は困難である。
しかし、幸い、前記したように取鍋スラグには高濃度のAl2O3が含まれているので、その取鍋スラグと脱炭スラグとを混合して脱燐剤として上吹き酸素と共に溶銑に吹き付ければ、火点で生成した溶融スラグは、適度な溶銑中Siの酸化に伴うSiO2の生成と相俟って、脱燐処理の初期段階で理想的な溶解スラグを生成させることができる。このようなスラグは、1300〜1400℃の部分に移動しても、固化することがない。また、脱燐処理の中期段階以降では、溶銑Si酸化に伴うSiO2生成は無いが、既に適量の溶融スラグが溶銑浴面上に存在しているため、そこへ適度な組成に調整した脱燐剤を上吹き酸素と共に上吹きしてもスピッティングは発生せず、溶融スラグに含まれるAl2O3%を高くし過ぎることなくスラグの塩基度を徐々に高めていくことができる。
そうすると、転炉脱燐脱炭スラグと取鍋スラグとを混合して脱燐剤とすることを前提として、転炉脱燐脱炭スラグは脱燐溶銑の高能率・高効率脱炭処理を阻害しない範囲で、溶銑脱燐用脱燐剤の原料とするに適した組成に調整して脱燐脱炭精錬する必要がある。幸い、そのように調整したスラグは脱燐脱炭精錬の高能率処理にも適しているので、総合的に溶銑脱燐精錬とその溶銑の脱燐脱炭精錬とを一体として関係づけた高能率かつ高効率な処理が実現される。
溶銑脱燐精錬においては、溶銑脱燐スラグを都合良く生成させるための初期SiO2源としては溶銑脱燐処理前の溶銑中Siを利用し、Al2O3源としては取鍋スラグを選別して用い、主たるCaO源として転炉脱燐脱炭スラグを所要の組成範囲に調整したものを用いることによって、理想的なスラグ生成コントロールを実現できることになる。但し、CaO源と共にAl2O3源を上吹きランスから溶銑に吹き付けることは、上吹きされる粉体の質量を全体的に増加させ、必然的に吹き付け運動量を増加させてしまうので、そのAl2O3源の使用量は火点周囲での溶融物の固化を防止できる範囲で少ない方がスピッティング増加を抑制するために望ましい。
なお、Al2O3源配合により脱燐剤質量が増加することに伴うスピッティング増加のおそれは、吹き付ける脱燐剤が火点で直ちに溶解し、それと並行して炉内に溶融スラグを蓄積して行くならば、実際問題になるほどの影響が現われることを抑えることができる。そのためには、0.15%程度以上の処理前溶銑Siの存在が必要である。
このように溶銑Si酸化による脱燐剤滓化促進機構も利用して、処理開始後早期に脱燐剤を滓化溶融させて脱燐剤供給に伴うスピッティングを抑える場合にも、スロッピング防止を考慮して溶銑Si濃度は低くしておく方が良い。スロッピングは、スラグ生成量とスラグ組成・送酸速度(CO生成速度)が影響するところ、溶銑Si濃度の低下によりスラグ生成量が減少するため、スロッピングは大いに減少するからである。
但し、処理前溶銑中Si%は、高炉から出銑される溶銑中のSi%が一般に0.20%〜0.40%などとバラツキがあるので、それを0.15%〜0.20%などの狭い範囲に調整するには、溶銑脱珪処理の手間がかかることを考慮すると、或る程度の高濃度範囲まで許容して脱燐処理できる必要がある。このSi%の上限は、処理後スラグのAl2O3%や塩基度を調整するための脱燐剤使用量を抑え、スロッピング防止のためにスラグ生成量を少なくしたいことを考慮すると、処理前溶銑中Si%は0.30%以下とする必要がある。このSi%は、スピッティングおよびスロッピングを防止する観点から、0.25%以下がさらに好適である。
また、溶銑脱燐には、従来から知られているように、スラグ組成(スラグの脱燐能力)と共にスラグ量が影響する。スラグの脱燐能力はスラグの流動性が確保されている前提で塩基度が高く、かつ、酸化鉄濃度が高いほど高い。但し、スラグ塩基度は高くなると融点が上昇し、流動性が低下してしまうし、酸化鉄濃度は、高くなるとスラグフォーミングが激しくなり、スロッピングの危険が高まる。したがって、塩基度は(Al2O3の存在を考慮しても)3.2程度が上限であるし、そのような塩基度やAl2O3濃度では酸化鉄濃度は、T.Feで7〜13%程度が実際的である。このT.Fe濃度の調整は、上吹き酸素の供給速度が1.5〜2.5Nm3/min/tonの条件下では、底吹きガス流量を0.15〜0.8Nm3/min/tonの範囲で調整することによって行うことができる。
このスラグ条件を前提として脱燐を安定して確保できるスラグ量を検討すると、従来実績に基づき少なくとも溶銑1トン当たり35kg(以下、「溶銑1トン当たりの質量」の単位を、「kg/t」と記載する)以上が必要で、その量は40kg/t以上であることが好ましい。一方、スロッピング発生を抑制するためには、その量を56kg/t以下に抑えておく必要がある。このことから、そのスラグを形成する脱燐剤の供給量は、溶銑SiやPの酸化による増加などを考慮に入れると30〜50kg/tとなる。
また、本発明では酸素及び脱燐剤を連続的に供給できるので、処理前の溶銑成分を適切に規制した上で供給脱燐剤の成分構成を適切に調整して、溶銑成分、スラグ成分や、スラグ生成量の推移を連続的に望み通りにコントロールすることを基本的な特徴としている。本発明に係る高能率溶銑脱燐での脱燐率確保に必要なCaO質量は、溶銑のSi%および処理後スラグの塩基度目標から定まるし、溶銑脱燐処理に必要な酸素量は前記したように一般に9〜12Nm3/tであるから、その比を各質量の比(CaO/O)で表すと1.0〜1.9となる。本発明では、この各質量の比(CaO/O)を、上吹き酸素ガスの供給中には終始1.0〜1.9の範囲に保つ必要がある。
(2)脱燐剤の原料とする取鍋スラグ及び転炉脱燐脱炭スラグ
前記したような溶銑脱燐精錬時のスラグ生成経過とするために、必要な取鍋スラグ及び転炉脱燐脱炭スラグの組成を検討する。脱燐剤には取鍋スラグと脱燐脱炭スラグとを用いるが、取鍋スラグは脱燐脱炭スラグがベースであって、脱燐脱炭スラグに取鍋精錬時のCaOやAl2O3などが混入したものである。本発明では、取鍋スラグをAl2O3源に用いるのでそのAl2O3濃度が高い必要があるが、それは脱燐剤の原料でもあるので、高塩基度かつ低P濃度である必要もある。脱燐剤の塩基度が低いと所定組成のスラグを生成させるための脱燐剤供給量を多く必要とするし、脱燐剤のP濃度が高いと所定の脱燐率を達成するために脱燐剤供給量を多く必要とするので、いずれもスピッティングおよびスロッピングを抑制するには不利に働くからである。
一方、取鍋精錬時には、溶鋼の脱酸処理に伴って必然的にAl2O3を生成させるほか、スラグを積極的に利用する溶鋼清浄化処理のためなどで、CaO源やAl2O3源などを積極的に添加して溶融滓化させる場合がある。これらの取鍋精錬時にCaO源やAl2O3源などを多く添加すると副原料使用コストが増加してしまうのであるが、本発明によりそのようにCaO源やAl2O3源などを多く添加した取鍋スラグは、溶銑脱燐剤用の原料として再度有効利用することができるので、副原料使用コストの増加は気にしなくて良くなる。したがって、本発明は取鍋精錬の高能率・高効率処理にも有用となる。
この観点から、本発明で用いる取鍋スラグは、脱燐剤の原料とすべく脱燐脱炭スラグと混合する時点までに、各取鍋精錬処理後のスラグを混合したらその混合後の取鍋スラグの構成成分の平均値が、表1に記載する範囲内に収まるように選んで用意しておくことが好ましい。取鍋スラグは上記したように転炉脱燐脱炭スラグがベースになっているので、その成分はAl2O3を10〜30%とする以外は転炉脱燐脱炭スラグの成分を反映したものになる。
また、転炉脱燐脱炭スラグは転炉における脱燐脱炭精錬時に副産物として生成されるものであるから、その組成範囲にも自ずと制約がある。その制約の中で、前述したように、本発明では脱燐脱炭スラグを脱燐剤に用いて脱燐処理後の塩基度を高めるために、なるべく高塩基度のスラグを生成させておかなくてはならない。そのようなスラグとしては、溶銑脱燐処理した溶銑を脱燐脱炭精錬した際のスラグが適している。溶銑脱燐処理した溶銑には一般的にSiが含まれておらず、しかもPが少ないため、そのスラグは一般に高塩基度かつ低P濃度だからである。
但し、そのスラグは脱燐脱炭精錬時に一旦溶融させることができる範囲のものであるから、その塩基度はCaOの内数としてスラグ全体の7〜15%程度の未滓化CaO(f.CaO)を含むT.CaO濃度を分子として、7.0程度が上限である。それを超えて塩基度を高くすると、脱燐脱炭精錬時の温度である1650℃付近でもスラグの溶融が不十分となり、脱燐が十分に進まないほかスピッティングが多発してしまうので、高能率な脱燐脱炭精錬を行うのに支障が生じるからである。一方、溶銑脱燐の対象とする溶銑のSiを0.15〜0.30%とした場合に、その溶銑を脱燐率80%以上で脱燐処理するためにはその処理後の塩基度を前述したように2.2以上にしなければならないので、使用する脱燐剤の塩基度は4.5以上とする必要がある。
この脱燐脱炭スラグの成分は、脱燐剤の原料とすべく取鍋スラグと混合する時点までに、各脱燐脱炭処理後のスラグを混合したらその混合後の脱燐脱炭スラグの構成成分の平均値が、表2に記載する範囲内に収まるようにしておくことが好ましい。
(3)取鍋スラグと転炉脱燐脱炭スラグの適正配合比
本発明では、脱燐剤の原料として取鍋スラグと転炉脱燐脱炭スラグを用いるが、取鍋スラグは脱燐脱炭スラグにAl2O3が混じったものがベースで、それに生石灰等のCaO源を積極的に添加して溶鋼清浄化処理等を行ったものが加わっている。したがって、取鍋スラグと転炉脱燐脱炭スラグとは塩基度が似通っている。
取鍋スラグと転炉脱燐脱炭スラグとの大きな違いは、Al2O3含有濃度である。本発明では取鍋スラグを脱燐剤に含ませるAl2O3源として利用するため、取鍋スラグの配合比が高いほど脱燐剤のAl2O3含有率が高くなる。但し、前述したように、脱燐剤として上吹きする量が多くなるとスピッティング防止に不利に働くし、脱燐処理終了後のスラグ中Al2O3%には適正濃度範囲があるので、脱燐剤の供給によりその濃度範囲になるように脱燐剤の組成を調整しておかなくてはならない。また、取鍋スラグの生成量は転炉脱燐脱炭スラグの生成量に比べて少ないので、その配合比を高くすると混合脱燐剤の製造量が少なくなってしまうことにも留意しなければならない。
そこで、表1および表2に記載した代表的な取鍋スラグおよび転炉脱燐脱炭スラグを用いて、それらの配合比と使用量が処理中および処理後スラグのAl2O3%および塩基度に及ぼす影響を物質バランスに基づいて検討する。
本発明が対象とする溶銑成分は、前記したようにSi:0.15〜0.30%である。但し、本発明は通常の高炉から出銑された溶銑の脱燐処理を想定しているので、その他の主な溶銑成分はC:4.3〜4.6%、Mn:0.2〜0.4%、P:0.09〜0.12%である。
また、本発明は脱燐率80%以上を管理目標としているので、処理後の溶銑成分はP:0.018〜0.024%である。このとき、前記した溶銑成分はC:3.4〜3.9%、Si≦0.02%、Mn:0.1〜0.25%となる。
ここで、以下の検討では、特記した場合を除き溶銑中のSiは全てスラグ中SiO2になり、溶銑中のPは0.115%から0.015%(脱燐率=87%)になってその減少分は全てスラグ中P2O5になり、添加する脱燐剤は取鍋スラグおよび転炉脱燐脱炭スラグを混合して粉砕した脱燐剤以外には用いず、そのスラグへの歩留まりは100%とする。
また、脱燐剤に含まれているT.Feは、脱燐処理における調査実績に基づいてその80%相当分がスラグ中に残留するものとする。脱燐剤は上吹き酸素と共に溶銑に吹き付けられるので、その脱燐剤に含まれている酸化鉄は溶銑と反応して一部はFeに還元される筈である一方、同時に吹き付けられている酸素ガスは溶銑と反応して酸化鉄を生成させる筈である。この還元と酸化のどちらが多いかは、脱燐処理条件に依存すると考える。
そこで、本発明に係る脱燐処理条件は、本発明に関する今回の調査検討条件と同じとする。
上吹き酸素流量: 1.5〜2.5(Nm3/min/ton)
上吹き酸素供給時間: 5.0〜8.0(min)
底吹き窒素: 0.15〜0.80(Nm3/min/ton)
上吹きCaO/上吹き酸素(CaO/O): 1.0〜1.9(−)
処理後溶銑温度: 1340〜1380(℃)
検討に用いた取鍋スラグの配合率と、その配合率での脱燐剤の組成を、表3に示す。この表に記載した脱燐剤の組成は、表1と表2に記載した代表的組成を有するスラグを取鍋スラグの配合率15%、20%、30%とした計算結果である。したがって、各スラグの組成範囲に幅があることを考慮すると、取鍋スラグの配合率15〜30%の範囲で、その全体としての脱燐剤の組成範囲は、塩基度(CaO質量/SiO2質量)が4.5〜7.5、Al2O3濃度が5〜9質量%程度と考えておく必要がある。
先ず、脱燐剤使用量増加に伴うスラグ塩基度の上昇推移を、処理前溶銑Si濃度別に図1に示す。ここで、脱燐剤に配合する取鍋スラグの配合比率は、検討を行った15〜30%の範囲で、脱燐剤使用量とスラグ塩基度との関係に実質的に影響を及ぼさない。
また、本発明では、脱燐剤中のCaOと酸素ガス中のOとの比率を終始一定範囲内にコントロールするため、処理前溶銑Siが0.15〜0.30%であれば、脱燐剤使用量が20kg/tの時点では溶銑中Siは全て酸化されてSiO2になっている。したがって、表示した範囲では、図中の曲線推移は吹錬進行に伴うスラグの塩基度推移を表している。
次に、溶銑脱燐処理開始前の溶銑Si濃度で区分して、脱燐剤供給量の増加に伴うスラグの塩基度とスラグ中Al2O3%の関係の変化を、脱燐剤への取鍋スラグ配合率別に示す。図2は、溶銑脱燐処理開始前の溶銑Si濃度が0.15%の場合であり、図3は、それが0.20%の場合であり、図4は、それが0.30%の場合である。図2〜図4の各図において、図中の各線の左端にあるマークが脱燐剤使用原単位20kg/tの時点を示し、その右側にあるマークが脱燐剤使用原単位30kg/tの時点を示している。以降、右端へ向かってそれぞれ40kg/t、50kg/t、60kg/tの時点を示している。
i)初めに、本発明で処理対象とする処理前溶銑Si%の下限としている、Si=0.15%の溶銑について検討する。
吹錬の途中である脱燐剤使用原単位20kg/tの時点で、図1に示すように、スラグの塩基度は既に1.9とかなり高くなっている。但し、図2に示す塩基度とAl2O3%との関係から、取鍋スラグの配合率が15%でAl2O3が4.5%になっていることが分かる。塩基度が1.9であってもAl2O3が4.5%あれば、そのスラグは火点で一旦溶融した後、その溶融状態を続けることができる。このとき、取鍋スラグ配合率が30%の脱燐剤を用いていれば、同じ塩基度1.9であってもAl2O3が6.6%あるため、スラグの溶融状態継続にもっと有利である。
脱燐剤使用量が30kg/tになると、図1からスラグ塩基度が2.4になっていることが分かる。このとき、スラグ中のAl2O3%は、図2から4.8〜7.1である。このように塩基度が上昇しても、それに伴ってAl2O3%が上昇するため、スラグの溶融状態は継続される。この脱燐剤30kg/t使用によりスラグ生成量は約34kg/tに達しているが、この時点で脱燐処理を止めるとスラグ中P濃度と溶銑中P濃度の比である(P)/Pは、物質バランス上の計算値で237である。従来実績からスラグ塩基度が2.4では(P)/Pの上限値は180程度なので、本発明において供給する脱燐剤の組成等を工夫しても(P)/P=237の達成は難しく、したがって脱燐率87%の達成は難しい。しかし、本発明では脱燐率80%の達成を目的としていて、そのとき必要とする(P)/Pは155であるから、この塩基度で十分に達成することができる。
さらに、脱燐剤使用量を50kg/tまで増やすと、塩基度3.1の高い脱燐能力を持つスラグが約53kg/t生成され、その時点で脱燐率87%を達成するために必要な(P)/Pは物質バランス上の計算値で173まで低下するので、従来実績に照らして十分可能な数値であり、したがって脱燐率87%は確実になると言える。
一方、塩基度3.1と高いものの、図2に示すようにAl2O3濃度が5.2〜7.6と高いのでスラグの溶融状態は維持されるが、スラグ生成量が多いことと相俟ってフォーミングが発生し易く、スロッピング防止の観点からは50kg/tが上限となる。
ii)次に、本発明で処理対象とする処理前溶銑Si%の上限としている、Si=0.30%の溶銑について検討する。
吹錬の途中である脱燐剤使用原単位20kg/tの時点では、図1に示すように、スラグの塩基度は未だ1.2と低い。また、図4に示す塩基度とAl2O3%との関係から、取鍋スラグの配合率が15%でAl2O3が4.0〜5.8%になっていることが分かる。塩基度が1.2と低くAl2O3が4.0〜5.8%のスラグは、勿論溶融状態を続けられるが、このような組成のスラグはフォーミングが発生し易い。しかし、このときは未だスラグ生成量が約28kg/tと少ないので、スロッピングの発生は抑制することができる。
脱燐剤使用量が30kg/tになると、図1からスラグ塩基度が1.6になっていることが分かる。このとき、スラグ中のAl2O3%は、図4から4.5〜6.5である。このとき、スラグ生成量は約37kg/tに増加しているが、スラグ塩基度が1.6に上昇しているためにフォーミングを抑制することができる。但し、塩基度が低いために脱燐は不十分なので、さらに脱燐剤使用量を増加しなければならない。
溶銑中Siが0.3%では、図1から、脱燐剤使用量が50kg/tにならないと、スラグ塩基度が2.2に到達しないと分かる。このとき、スラグ中のAl2O3%は、図4から4.9〜7.2でスラグ生成量が約56kg/tに達しているため、これ以上脱燐剤を使用するとスロッピングを抑えることが難しくなる。したがって、溶銑中Siが0.3%では脱燐剤を50kg/t使用する条件のみが、高能率の脱燐処理の要求を満たすことができると分かる。
以上の検討結果から、Siを0.15〜0.30%含有する溶銑を対象として、上吹き酸素の供給時間が5〜8分間で、スピッティング・スロッピング無く脱燐率80%以上を達成するためには、取鍋スラグと転炉脱燐脱炭スラグを混合して粉砕した脱燐剤であって、その塩基度(CaO質量/SiO2質量)が4.5〜7.5、Al2O3濃度が5〜9質量%に調整したものを、上吹き酸素と共に30〜50kg/t吹き付ければ良いことが分かった。また、このような脱燐剤は、所定の組成を有する取鍋スラグと転炉脱燐脱炭スラグとから製造することができることも分かった。
(4)脱燐剤の供給方法
本発明では、上吹き酸素の供給時間を5〜8分間とするため、上吹き酸素のガス流量を1.5〜2.5Nm3/min/tonの範囲で調整して、粉状化した転炉脱燐脱炭スラグ及び取鍋スラグと共に溶銑表面へ、上吹きランスを通じて吹き付ける。粉状化した転炉脱燐脱炭スラグ及び取鍋スラグは、溶銑表面に形成された高温の火点で溶融させるため、溶銑表面では上吹き酸素と一緒に吹き付けられることが必須であるが、粉状スラグの収蔵タンクから上吹きランスの先端出口までの間の配管内キャリアーガスは、酸素に限らず窒素などでも良い。酸素をキャリアーガスにすれば、脱燐反応には関係のない窒素などのキャリアーガスを使わなくてもよいので、ガスコストが余分に掛からず、かつ、溶銑へ吹き付けるガス全体の運動量も低減されるので、スピッティング防止上も有利である。
しかし、転炉脱燐脱炭スラグや取鍋スラグには鉄分が混入している場合があるので、粉状スラグの収蔵タンクから上吹きランスの先端出口までの間の配管内キャリアーガスを酸素とする際には、スラグの粉砕時に十分に鉄分を磁選して除去し、かつ、僅かな残留鉄粉を十分に酸化させておくなどの対策を講じ、配管やランスを損傷させないように注意しなければならない。これらの損傷防止対策は、窒素をキャリアーガスにした場合には不要になるので、スラグや粉砕処理方法等の実情によっては、配管内キャリアーガスを窒素にした方が有利な場合もある。
高炉から出銑された後、必要に応じて一部脱珪及び脱硫処理した溶銑であって、主要成分がC:4.3〜4.5%、Si:0.15〜0.30%、Mn:0.2〜0.4%、P:0.100〜0.115%、S:0.001〜0.030%のものを、溶銑脱燐処理、脱燐溶銑の脱燐脱炭処理、溶鋼の取鍋精錬処理の順に行った。
(1)溶銑脱燐処理
上底吹き転炉に、前記した成分の溶銑を約290tとスクラップを約10t装入して、上吹きランスから酸素ガスを1.5〜2.5Nm3/min/ton(一部は1.5〜1.8Nm3/min/ton)、底吹きノズルから窒素ガスを0.2〜0.6Nm3/min/tonの範囲に保ちつつ、上吹きランスから脱燐剤を前記酸素ガスと共に溶銑に吹き付けた。
脱燐剤には、転炉脱燐脱炭スラグと取鍋スラグとの混合物であって、その塩基度(CaO質量/SiO2質量)を4.5〜7.5、Al2O3濃度を5〜9質量%、かつ、その最大粒径を0.15mm以下に調整した粉体を用い、前記した上吹きランスからの酸素ガス吹付けを開始すると同時に、その脱燐剤中に含有されるCaO質量と前記酸素ガスのO質量との比(CaO/O)を終始1.0〜1.9に保ちつつ、その酸素ガスと一緒に溶銑へ吹き付けて、その吹付けを5〜8分間で終了した。
脱燐剤の原料としての転炉脱燐脱炭スラグには、脱燐溶銑を転炉で脱燐脱炭処理した際に、その濃度がCaO:45〜55%、SiO2:7〜15%、Al2O3:2〜5%、P2O5:1.5〜2.5%、T.Fe:15〜25%、塩基度:4.5〜7.0になるように生じさせた転炉脱燐脱炭スラグを用いた。
また、脱燐剤の原料としての取鍋スラグには、後述する清浄化処理を行った後の取鍋スラグと、一般材向けのRH処理を行った後の取鍋スラグとを混合して、その混合後の濃度がCaO:40〜50%、SiO2:5〜10%、Al2O3:10〜30%、P2O5:1.0〜3.0%、T.Fe:8〜16%、塩基度:4.5〜10.0になるように調整した取鍋スラグを用いた。
上記した転炉脱炭脱燐スラグを70〜85%と、上記した取鍋スラグを15〜30%とを合わせた後、粉砕機に投入して粉砕し、公称目開き90μmのふるいに掛けて、その塩基度(CaO質量/SiO2質量)を4.5〜7.5、Al2O3濃度を5〜9質量%、かつ、その最大粒径を0.15mm以下に調整することができた。
脱燐剤の供給量は、使用する前に脱燐剤の塩基度とAl2O3濃度を分析しておき、処理前溶銑中のSi%に応じて、その濃度が高くなるほど脱燐処理後のスラグ中塩基度の目標を高くして、処理後の溶銑脱燐率が80%以上になるように予め定めておいた。その供給量は、装入した溶銑のトン当たりで30〜50kgであった。
このようにして脱燐処理した結果、脱燐処理終了時のスラグ組成を、塩基度:2.2〜3.2、Al2O3:4.5〜7.5%、T.Fe:7〜13%に調整することができた。その処理後の溶銑成分は、C:3.6〜3.8%、Si≦0.02%、Mn:0.15〜0.26%、P:0.015〜0.020%であって、脱燐率は80〜87%とすることができた。
スロッピングは、処理前溶銑中のSi濃度が0.25%以上の処理で部分的に発生することがあったが、操業に支障が生じるほどでは無かった。また、スピッティングは、上吹き酸素の吹付け開始後1分間程度までは多少発生したが、転炉上部への付着地金の特別な除去作業を要する等の操業能率を低下させるような支障は生じなかった。特に、処理前溶銑中のSi濃度が0.15〜0.25%で、上吹き酸素流量を終始1.5〜1.8Nm3/min/tonに保った処理では、スロッピング・スピッティング共に少なく、安定して処理を終えることができた。
(2)脱燐溶銑の脱燐脱炭処理
上底吹き転炉に、前記した溶銑脱燐処理を施した脱燐銑を約285tとスクラップを約15t装入して、底吹きノズルからCO2ガスを0.2〜0.6Nm3/min/tonの範囲で溶銑中に吹き込みつつ、上吹きランスから酸素ガスを3.8〜4.8Nm3/min/tonの速度で、溶銑に8〜10分間吹き付けて溶鋼を製造した。
脱燐剤には、前記脱燐処理後の溶銑成分と製品に必要な溶鋼成分に応じ、塊状の生石灰のほか、取鍋スラグや珪砂などの一般的な副原料を調整して用いた。この調整の際には、脱燐脱炭処理後の炉内スラグ成分がCaO:45〜55%、SiO2:7〜15%、Al2O3:2〜5%、P2O5:1.5〜2.5%、T.Fe:15〜25%、塩基度:4.5〜7.0になるように留意した。
その結果、スロッピングやスピッティングなどの問題を生じさせずに、脱燐脱炭処理後にC:0.04〜0.08%、Si≦0.01%、Mn:0.10〜0.30%、P:0.002〜0.012%の成分とした溶鋼を製造することができた。その際に、100回の脱燐脱炭処理後において90回以上のスラグは上記の範囲を満たすことができ、その100回分のスラグを混合した後には、全体として完全に上記の範囲を満たすものとなっていた。
(3)溶鋼の取鍋精錬処理
上記した溶鋼を転炉から取鍋へ移し、取鍋精錬の一種として溶鋼循環式真空脱ガス処理(RH処理)を施した後に溶鋼を連続鋳造して、主として厚板向のスラブを製造した。
その取鍋精錬の一部では、RH処理に先立って取鍋内の溶鋼にAlを過剰に添加すると共に溶鋼上に生石灰を投入し、酸素ガスを上吹きしつつ溶鋼とスラグ及び生石灰をかき混ぜて溶鋼を脱硫・脱酸する、いわゆる溶鋼清浄化処理を行った。
これらの溶鋼を連続鋳造した後に取鍋内に残ったスラグ(取鍋スラグ)の成分は、上記した溶鋼清浄化処理を行った後のスラグでは、全てCaO:45〜60%、Al2O3:33〜46%、T.Fe:2%以下、CaO/Al2O3:1.3以上、であり、その溶鋼清浄化処理を行わずにRH処理のみを施した後のスラグでは、その70%はCaO:40〜50%、SiO2:5〜10%、Al2O3:10〜30%、P2O5:1.0〜3.0%、T.Fe:8〜16%、塩基度:4.5〜10.0の範囲に収まっていた。
この後、溶鋼清浄化処理を行なったスラグと行わなかったスラグとを適宜混ぜ合わせて、本発明に係る脱燐剤製造用の取鍋スラグとした。
上記した脱燐溶銑の脱燐脱炭処理も、その溶鋼の取鍋精錬処理も、いずれも通常行っている処理と同等ないしそれ以上の操業能率で処理を行ったものである。しかも、その処理後のスラグは本発明に係る高能率な溶銑脱燐処理の脱燐剤として利用できるように意識して生成させ、かつ、その利用を実行することができた。したがって、このような意識的な精錬操作によって、製鋼精錬全体の処理能率を高くすることができると同時に、製鋼精錬全体の副原料利用効率も高くすることができることが確認された。