以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1に示されるように、本発明の第1実施形態に係る磁気記録再生装置2は、磁気記録媒体10と、磁気記録媒体10に対して磁気信号の記録/再生を行うために磁気記録媒体10の表面に近接して浮上可能であるように設置された磁気ヘッド4と、を備えている。
尚、磁気記録媒体10は中心孔10Aを有し、中心孔10Aにおいてチャック6に固定され、該チャック6と共に回転自在とされている。又、磁気ヘッド4は、アーム8の先端近傍に装着され、アーム8はベース9に回動自在に取付けられている。これにより、磁気ヘッド4は磁気記録媒体10の表面に近接して磁気記録媒体10の径方向に沿う円弧軌道で可動とされている。
磁気記録媒体10は垂直記録型のディスクリートトラックメディアであり、図2及び3に示されるように、基板12と、基板12の上に所定の凹凸パターンで形成され該凹凸パターンの凸部が記録要素14を構成する記録層16と、を有し、記録要素14の側壁部14Aの核形成磁界Hns、記録要素14の中央部14Bの核形成磁界Hnc、側壁部14Aの保磁力Hcs及び中央部14Bの保磁力Hccが次の式(I)及び式(II)の関係を満たしている。
Hnc<Hns (I)
Hnc/Hcc<Hns/Hcs (II)
他の構成については本第1実施形態の理解のために重要とは思われないため説明を適宜省略する。
磁気記録媒体10は、軟磁性層24、配向層26、記録層16、保護層28、潤滑層30を備え、これらの層がこの順で前記基板12の上に形成されている。
基板12は、中心孔を有する略円板形状である。基板12の材料としてはガラス、Al、Al2O3等を用いることができる。
記録層16は、厚さが5〜30nmである。記録層16の凸部である記録要素14は、データ領域において径方向に微細な間隔で分離された多数の同心の円弧形状で形成されており、図2及び3はこれらの記録要素14の断面を示している。データ領域における記録要素14の上面の径方向の幅は10〜100nmである。又、記録要素14の上面のレベルにおける記録層16の凹凸パターンの凹部18の径方向の幅は10〜100nmである。尚、記録要素14はサーボ領域において、所定のサーボパターンで形成されている(図示省略)。
記録要素14の側壁部14Aの保磁力Hcsは例えば3〜15kOeである。Hcsは3〜6kOeであることが好ましい。又、熱アシスト型の場合、Hcsは6〜15kOeであることが好ましい。
記録要素14の側壁部14Aの核形成磁界Hnsは例えば1.6〜13kOeである。Hnsは1.6〜5kOeであることが好ましい。又、熱アシスト型の場合、Hnsは3.3〜13kOeであることが好ましい。
記録要素14の中央部14Bの保磁力Hccは例えば3〜15kOeである。Hccは3〜6kOeであることが好ましい。又、熱アシスト型の場合、Hccは6〜15kOeであることが好ましい。
記録要素14の中央部14Bの核形成磁界Hncは例えば1.5〜9kOeである。Hncは1.5〜3.5kOeであることが好ましい。又、熱アシスト型の場合、Hncは3〜9kOeであることが好ましい。
Hns/Hcsは例えば0.5〜0.8である。又、Hnc/Hccは例えば0.4〜0.6である。
記録要素14の側壁部14Aの保磁力Hcs及び中央部14Bの保磁力Hccは、上記式(II)に加え、次の式(III)又は式(IV)の関係も満たしていることが好ましい。
Hcc=Hcs (III)
Hcc>Hcs (IV)
図4は、式(I)、(II)及び(III)の関係を満たす、側壁部14A及び中央部14Bの磁気特性の一例を模式的に示すグラフである。又、図5は、式(I)、(II)及び(IV)の関係を満たす、側壁部14A及び中央部14Bの磁気特性の他の例を模式的に示すグラフである。
尚、図4、5において横軸は外部磁界を示し、縦軸は磁化を示す。図4、5における符号Sが付されたヒステリシスループは側壁部14Aの磁気特性であり、符号Cが付されたヒステリシスループは中央部14Bの磁気特性である。図4、5において符号Sが付されたヒステリシスループの磁化(縦軸)の最大値又は最小値や、符号Cが付されたヒステリシスループの磁化(縦軸)の最大値又は最小値は、グラフが見易いように大きさを少しかえて図示している。後述する図6についても同様である。
図4、5に示されるように側壁部14Aの核形成磁界Hns、保磁力Hcsは次の関係を満たしている。
Hns<Hcs
又、中央部14Bの核形成磁界Hnc、保磁力Hccも次の関係を満たしている。
Hnc<Hcc
側壁部14Aは、記録要素14における側面から例えば1〜10nmの部分である。本第1実施形態では中央部14Bは記録要素14における側壁部14A以外の部分である。
記録要素14の側壁部14Aの核形成磁界Hns及び記録要素14の中央部14Bの核形成磁界Hncは、次の式(V)の関係を満たすことが好ましく、式(VI)〜(IX)のいずれかの関係を満たすことが更に好ましい。
1.1×Hnc<Hns (V)
1.2×Hnc<Hns (VI)
1.3×Hnc<Hns (VII)
1.4×Hnc<Hns (VIII)
1.5×Hnc<Hns (IX)
又、Hnc/Hcc及びHns/Hcsは次の式(X)の関係を満たすことが好ましく、式(XI)〜(XIV)のいずれかの関係を満たすことが更に好ましい。
1.1×Hnc/Hcc<Hns/Hcs (X)
1.2×Hnc/Hcc<Hns/Hcs (XI)
1.3×Hnc/Hcc<Hns/Hcs (XII)
1.4×Hnc/Hcc<Hns/Hcs (XIII)
1.5×Hnc/Hcc<Hns/Hcs (XIV)
側壁部14A及び中央部14Bの材料の組合せとしては、上記の式(I)及び式(II)を満たすものであれば特に限定されない。側壁部14A及び中央部14Bの具体的な材料としては例えばCoCrPt合金等のCoPt系合金、FePt系合金、これらの積層体、CoCrPt等の強磁性粒子の間にSiO2、TiO2等の酸化物系材料を存在させた材料等を用いることができる。又、FePtCu、FePtZr、FePtB、FePtIr等のFePt系合金の強磁性粒子の間にMgO、Al2O3、AlN、SiO2、Ag、Au等を存在させた材料等を用いることもできる。
又、側壁部14Aの結晶構造と中央部14Bの結晶構造は同じであってもよい。このような材料の例としては、例えばCoCrPt等の強磁性粒子の間に非磁性材料を存在させたCoPt系の材料を挙げることができる。より詳細には、側壁部14A及び中央部14Bの材料がいずれもCo、Cr及びPtを含む強磁性粒子の間にCrを含む非磁性材料を存在させた材料である例を挙げることができる。磁性粒子間に存在する非磁性材料にはSiO2又はTiO2等の酸化物系材料が含まれる。側壁部14Aの材料はCrの含有比率が相対的に低く、中央部14Bの材料は相対的にCrの含有比率が相対的に高い場合、上記式(I)及び式(II)を満たすことが可能である。
このように、側壁部14Aの材料はCrの含有比率が相対的に低く、中央部14Bの材料はCrの含有比率が相対的に高い場合に上記式(I)及び式(II)を満たすことが可能である理由は必ずしも明らかではないが概ね次のように推測される。
記録密度の向上のためには1ビットの記録に用いられる磁区を小さくする必要がある。磁区を小さくするためには磁性粒子を小さくすることに加え、磁性粒子同士の結合を抑制する必要がある。磁性粒子同士の結合が強いと磁化反転させたい磁性粒子の磁化反転に従属して磁化反転させたくない周囲の磁性粒子も磁化反転しやすくなるためである。磁性粒子同士の結合が無視しうる程弱い場合は各磁性粒子は固有の保磁力に従って磁化反転し、磁性粒子同士の結合が強くなる程、いずれかの磁性粒子の磁化反転につられて他の磁性粒子が磁化反転しやすくなる。磁性粒子は粒子間に存在する材料により相互に分離されて結合力が抑制され独立して磁化反転しやすくなっている。
核形成磁界Hnは磁性粒子の磁気異方性に支配され、磁気異方性が高い(磁気異方性定数Kuが大きい)程、核形成磁界Hnは大きい。一方、保磁力Hcは磁性粒子の磁気異方性及び磁性粒子間の交換結合の強さに支配され、磁気異方性が高い(磁気異方性定数Kuが大きい)程、保磁力Hcは大きく、又、磁性粒子間の交換結合が強い程、保磁力Hcは小さい。
CrはCoPtと共に磁性粒子中に存在すると共に、磁性粒子間にもCrがSiO2又はTiO2と共に存在する。
Crは磁性粒子間においてSiO2又はTiO2と共に磁性粒子の分離に寄与している。磁性粒子間のCrの含有比率が低い程、磁性粒子同士の結合が強くなり、ある磁性粒子の磁化反転に従属して周囲の磁性粒子が磁化反転しやすくなる。即ち、磁性粒子間のCrの含有比率が低い程、記録層の保磁力(絶対値)が減少する傾向がある。但し、磁性粒子間のCrの含有比率は、磁化反転の引き金となる磁性粒子の核形成磁界(絶対値)には殆ど影響しない。模式的には図6に示されるように、磁性粒子間のCrの含有比率が減少すると磁気特性は符号Cが付されたヒステリシスループから符号S1が付されたヒステリシスループに変化する。
一方、Crは磁性粒子中においてCoPtと共に磁性粒子の磁気異方性に影響を与え、磁性粒子中のCrの含有比率が低い程、磁性粒子の磁気異方性が高くなり(磁気異方性定数Kuが大きくなり)個々の磁性粒子が磁化反転しにくくなる。即ち、磁性粒子中のCrの含有比率が低い程、核形成磁界(絶対値)が増大すると共に保磁力(絶対値)も増大する傾向がある。模式的には図6に示されるように、磁性粒子中のCrの含有比率が減少すると磁気特性は符号S1が付されたヒステリシスループから符号S2が付されたヒステリシスループに変化する。
尚、図6では前記図4と同様に符号Cが付されたヒステリシスループの保磁力(横軸との交点)と符号S2が付されたヒステリシスループの保磁力とが一致している例が示されているが、成膜条件等により符号S2が付されたヒステリシスループの保磁力は符号Cが付されたヒステリシスループの保磁力よりも前記図5のように若干低くなることもある。又、成膜条件等により符号S2が付されたヒステリシスループの保磁力は符号Cが付されたヒステリシスループの保磁力よりも若干高くなることもある。
側壁部14Aの材料のCrの含有比率(側壁部14Aを構成するCo、Cr、Ptの原子数の合計値に対する側壁部14Aを構成するCrの原子数)は、例えば12%以下であるとよい。
一方、中央部14BにおけるCrの含有比率(中央部14Bを構成するCo、Cr、Ptの原子数の合計値に対する中央部14Bを構成するCrの原子数)は、例えば15〜25%の範囲であるとよい。
又、側壁部14Aの材料のCrの含有比率は、中央部14Bの材料のCrの含有比率の90%以下であるとよい。又、側壁部14Aの材料のCrの含有比率は、中央部14Bの材料のCrの含有比率の80%以下であってもよい。又、側壁部14Aの材料のCrの含有比率は、中央部14Bの材料のCrの含有比率の70%以下であってもよい。又、側壁部14Aの材料のCrの含有比率は、中央部14Bの材料のCrの含有比率の60%以下であってもよい。又、側壁部14Aの材料のCrの含有比率は、中央部14Bの材料のCrの含有比率の50%以下であってもよい。
又、側壁部14Aの結晶構造と中央部14Bの結晶構造とが同じである他の材料の例として、例えばFePtCu等のFePt系の強磁性粒子の間にMgO等を存在させた材料を挙げることができる。
記録層16の凹部18は、充填部20で充填されている。充填部20の材料としては、SiO2、Al2O3、TiO2、MgO、ZrO2、フェライト等の酸化物、AlN等の窒化物、SiC等の炭化物、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)、Cu、CrやTiのような非磁性の金属、樹脂材料等を用いることができる。記録要素14及び充填部20の上面は略平坦である。
軟磁性層24は、厚さが20〜300nmである。軟磁性層24の材料としてはFe合金、Co合金等を用いることができる。
配向層26は、厚さが2〜40nmである。配向層26の材料としては非磁性のCoCr合金、Ti、Ru、RuとTaの積層体、MgO等を用いることができる。
保護層28は、厚さが1〜5nmである。保護層28の材料としてはDLC(ダイヤモンドライクカーボン)を用いることができる。
潤滑層30は、厚さが1〜2nmである。潤滑層30の材料としてはPFPE(パーフロロポリエーテル)を用いることができる。
次に、磁気記録媒体10の作用について説明する。
磁気記録媒体10は、磁化反転が始まる磁界である核形成磁界が式(I)の関係を満たすので、記録対象の記録要素14の隣りの他の記録要素14の側壁部14Aに印加される記録磁界による当該側壁部14Aの磁化反転が起こりにくい。従って、記録対象の記録要素14の隣りの他の記録要素14への誤った磁気信号の記録を抑制できる。
又、磁気記録媒体10は、式(II)の関係を満たし側壁部14Aの核形成磁界が大きくても側壁部14Aの保磁力の過度の増大が抑制されているので記録対象の記録要素14に対する記録を確実に行うことができる。
又、記録層16の材料がCoCrPt等の強磁性粒子の間にCrを含む非磁性材料を存在させた材料である場合、Crの含有比率を側壁部14Aにおいて相対的に低くし中央部14Bにおいて相対的に高くすることで、記録要素14の側壁部14Aの保磁力Hcsを記録要素14の中央部14Bの保磁力Hccよりも大きくすることなく、記録要素14の側壁部14Aの核形成磁界Hnsを記録要素14の中央部14Bの核形成磁界Hncよりも大きくすることが可能である。
尚、例えば記録要素14全体において一様に磁性粒子の磁気異方性定数Kuを大きくして一様に核形成磁界Hnを大きくしたと仮定した場合、記録要素14全体において保磁力Hcも大きくなり記録要素14全体に磁気信号が記録されにくくなる。
又、記録要素14全体において一様に磁性粒子の磁気異方性定数Kuを大きくすると共に磁性粒子間の交換結合を強くして一様に保磁力Hcの増大を抑制しつつ一様に核形成磁界Hnを大きくした(一様にHn/Hcを大きくした)と仮定した場合は、各磁性粒子が相互に従属して磁化反転しやすくなるのでトラック周方向の記録密度の向上が困難である。
側壁部14Aの磁化方向は中央部14Bの磁化方向に追従しやすいので、仮に側壁部14Aの磁性粒子間の交換結合を強くしても、トラック周方向の記録密度の低下は抑制される。
次に、磁気記録媒体10の製造方法について図7に示されるフローチャートに沿って説明する。
まず、図8に示されるような被加工体40の出発体を用意する(S102:被加工体の出発体用意工程)。被加工体40の出発体は基板12の上に、軟磁性層24、配向層26、(凹凸パターンに加工される前の連続膜の)記録層16、マスク層42をこの順でスパッタリング法等により成膜することにより得られる。ここで記録層16の材料はCo、Cr及びPtを含む強磁性粒子と、Cr及びSiO2又はTiO2を含み磁性粒子の間に存在する非磁性材料と、を含む材料である。
マスク層42は、厚さが2〜50nmである。マスク層42の材料としては、DLCのようなC(炭素)が主成分である材料を用いることができる。
次に、被加工体40のマスク層42の上にスピンコート法により樹脂材料を塗布し、更に図示しないスタンパを用いてインプリント法により樹脂材料に記録層16の凹凸パターンに相当する凹凸パターンを転写し、図9に示されるように、凹凸パターンの樹脂層44を形成する(S104:樹脂層形成工程)。インプリント法としては、紫外線等による光インプリント、熱インプリント等を用いることができる。光インプリントの場合、樹脂層44の材料としては紫外線硬化性樹脂等を用いることができる。又、熱インプリントの場合、樹脂層44の材料としては熱可塑性樹脂等を用いることができる。樹脂層44の厚さ(凸部の厚さ)は、例えば、10〜300nmである。尚、凹部底部の樹脂層44はアッシング等により除去する。又、樹脂材料として感光性レジスト又は電子線レジストを用い、光リソグラフィ又は電子線リソグラフィの手法で記録層16の凹凸パターンに相当する凹凸パターンの樹脂層44を形成してもよい。
次に、ハロゲン系ガスやO2ガスを用いたRIE(Reactive Ion Etching)により、凹部底部のマスク層42を除去する(S106:マスク層加工工程)。これにより、図10に示されるように、記録層16の上面のうちの凹部18に相当する部分が露出する。
次に、図11に示されるように、Arガス等の希ガスを用いたIBE(Ion Beam Etching)により、凹部底部の記録層16を下面(配向層26と接する面)まで除去する(S108:第1記録層加工工程)。これにより、記録層16は多数の記録要素14に相当する形状に形成される。この工程では、例えば、IBEのビーム電圧(グリッド電圧)を500〜1000Vに設定する。
次に、Arガス等の希ガスを用いたIBEにより、記録層16の凹部の側面に希ガスを照射する(S110:第2記録層加工工程)。この工程では、第1記録層加工工程(S108)におけるよりもIBEのビーム電圧を低く設定する。例えば、IBEのビーム電圧を100〜300Vに設定する。この工程(S110)において凹部底部の配向層26の一部又は全部が除去されてもよい(図示省略)。これにより、図12に示されるように、多数の記録要素14(側壁部14A及び中央部14B)に分割された前記凹凸パターンの記録層16が形成される。第2記録層加工工程(S110)において第1記録層加工工程(S108)におけるよりもIBEのビーム電圧を低く設定することにより、記録層16を構成する元素のうち軽い元素が優先的にエッチングされる。CrはCo、Ptよりも軽いので、Co、Ptよりも優先的に除去される。これにより、記録要素14の側面及びその近傍の部分ではこれ以外の部分よりもCrの含有比率が小さくなる。この結果、Crの含有比率が相対的に低い側壁部14Aと相対的に高い中央部14Bとが形成される。記録要素14の上面に残存するマスク層42はO2ガス又は、N2ガス、NH3ガスやH2ガスのような窒素又は水素を含むガスを用いたIBE又はRIEにより除去する。
尚、本出願において「IBE」という用語は、例えばイオンミリング等の、イオン化したガスを被加工体に照射して加工対象物を除去する加工方法の総称という意義で用いることとする。又、本出願では、希ガスのように加工対象物と化学的に反応しないガスを用いる場合でも、RIE装置を用いてエッチングを行う場合には「RIE」という用語を用いることとする。
次に、図13に示されるように、スパッタリング法又はバイアススパッタリング法により、凹凸パターンの記録層16を有する被加工体40の上に充填部20の材料を成膜し、記録要素14の間の凹部18に充填部20を形成する(S112:充填材料成膜工程)。尚、充填部20の材料は、記録層16を覆うように記録要素14の上にも成膜される。
次に、図14に示されるように、Arガス等の希ガスを用いたIBE又はRIEにより、充填部20の材料の余剰の部分を除去し、被加工体40の表面を平坦化する(S114:平坦化工程)。尚、充填部20の材料の余剰の部分とは、成膜された充填部20の材料のうちの記録要素14の上面のレベルよりも上側(基板12と反対側)に存在する部分という意義で用いることとする。尚、図14中の矢印は加工用ガスの照射方向を模式的に示したものである。
次に、CVD法により記録要素14及び充填部20の上に保護層28を形成する(S116:保護層形成工程)。更に、ディッピング法により保護層28の上に潤滑層30を形成する(S118:潤滑層形成工程)。これにより、前記図2及び3に示される磁気記録媒体10が完成する。
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図15に示されるように、本第2実施形態に係る磁気記録媒体50は、側壁部14Aの材料が凹部18の底面の上にも形成されている。前記第1実施形態では、第1記録層加工工程(S108)及び第2記録層加工工程(S110)の2つのステップで記録層16を加工し、第2記録層加工工程(S110)において第1記録層加工工程(S108)におけるよりもIBEのビーム電圧を低く設定することにより、Crの含有比率が相対的に低い側壁部14Aと相対的に高い中央部14Bとが形成される。一方、本第2実施形態では、図16のフローチャートに示されるように、第1記録層加工工程(S108)のみで記録層16を加工してまず中央部14Bのみを形成し、その後側壁部14Aの材料を成膜(S202:側壁部材料成膜工程)して側壁部14Aを形成する。尚、樹脂層形成工程(S104)では、側壁部14Aを含まず中央部14Bのみが凸部である凹凸パターンに相当する凹凸パターンで樹脂層44を形成する。これら以外の点については前記第1実施形態と同じであるので同じ点については前記図1〜14と同一符号を用いることとし説明を省略する。
第1記録層加工工程(S108)では図17に示されるように、被加工体60の記録層16を下面までエッチングする。これによりまず中央部14Bが形成される。尚、記録要素14の上面に残存するマスク層42はO2ガス又は、N2ガス、NH3ガスやH2ガスのような窒素又は水素を含むガスを用いたIBE又はRIEにより除去する。
次に、図18に示されるように、スパッタリング法又はバイアススパッタリング法により、中央部14Bのみが形成された凹凸パターンの被加工体60に側壁部14Aの材料を凹凸パターンに倣って成膜し、中央部14Bの側面に側壁部14Aを形成する。(S202)。成膜する側壁部14Aの材料の厚さは例えば1〜10nmである。尚、側壁部14Aの材料は、中央部14Bの上にも成膜される。又、側壁部14Aの材料は、凹部18の底面の上にも成膜される。側壁部14Aの材料として中央部14Bの材料と同じ結晶構造の材料を用いると、成膜される側壁部14Aの材料の結晶性が良好となり好ましい。
次に、図19に示されるように、スパッタリング法又はバイアススパッタリング法により、側壁部14Aの材料の上に充填部20の材料を成膜し、記録要素14の間の凹部18に充填部20を形成する(S112)。尚、充填部20の材料は、記録層16を覆うように側壁部14A及び中央部14Bの上にも成膜される。
次に、図20に示されるように、Arガス等の希ガスを用いたIBE又はRIEにより、側壁部14Aの材料及び充填部20の材料の余剰の部分を除去し、被加工体60の表面を平坦化する(S114)。尚、側壁部14Aの材料及び充填部20の材料の余剰の部分とは、成膜された側壁部14Aの材料及び充填部20の材料のうちの中央部14Bの上面のレベルよりも上側(基板12と反対側)に存在する部分という意義で用いることとする。
以後、前記第1実施形態と同様に、保護層形成工程(S116)、潤滑層形成工程(S118)を実行することにより、前記図15に示される磁気記録媒体50が完成する。
尚、前記第1及び第2実施形態において、記録層16の下に軟磁性層24、配向層26が形成されているが、記録層16の下の層の構成は、磁気記録媒体の種類に応じて適宜変更すればよい。例えば、軟磁性層24と基板12との間に下地層や反強磁性層を形成してもよい。又、軟磁性層24、配向層26の一方又は両方を省略してもよい。又、基板上に記録層を直接形成してもよい。
又、前記第1及び第2実施形態において、マスク層42、樹脂層44を連続膜の記録層16の上に形成しているが、記録層16を高精度で加工できれば、マスク層、樹脂層の材料、積層数、厚さ、ドライエッチングの種類等は特に限定されない。
又、前記第1及び第2実施形態において、Arガス等の希ガスを用いたIBE又はRIEにより、充填部20の材料や側壁部14Aの材料の余剰の部分を除去し、被加工体40(60)の表面を平坦化しているが、例えばCMP等の他の手法を用いて被加工体40(60)の表面を平坦化してもよい。
又、前記第1及び第2実施形態において、磁気記録媒体10(50)は記録層16がトラックの径方向に微細な間隔で分割された垂直記録型のディスクリートトラックメディアであるが、トラックの径方向及び周方向の両方向に微細な間隔で分割されたパターンドメディア、渦巻き形状の記録層を有する磁気ディスク、凹部が厚さ方向の途中まで形成されて底部において連続した記録層を有する磁気ディスクにも本発明は適用可能である。又、面内記録型の磁気ディスクにも本発明は適用可能である。又、基板の両面に記録層等が形成された両面記録式の磁気記録媒体にも本発明は適用可能である。又、MO等の光磁気ディスク、磁気と熱を併用する熱アシスト型の磁気ディスク、磁気とマイクロ波を併用するマイクロ波アシスト型の磁気ディスク、更に、磁気テープ等のディスク形状以外の他の凹凸パターンの記録層を有する磁気記録媒体にも本発明を適用可能である。
前記第1実施形態で説明した磁気記録媒体の製造方法のとおり磁気記録媒体10を作製した。具体的には、被加工体40の出発体用意工程(S102)において、記録層16を20nmの厚さに成膜した。成膜された記録層は磁性粒子間にSiO2を存在させたCoCrPt膜であった。以下、このような膜をCoCrPt−SiO2のように表記する。より詳細には、組成式がCo240Cr72Pt88SiO2((Co60Cr18Pt22)80(SiO2)20)の材料を成膜した。又、マスク層42も20nmの厚さに成膜した。尚、基板12の直径は65mmだった。
樹脂層形成工程(S104)では、樹脂材料として紫外線硬化性樹脂を用い、光インプリントの手法で記録層16の凹凸パターンに相当する凹凸パターンの樹脂層44を形成した。
マスク層加工工程(S106)では、フッ素ガスを用いたRIEによりマスク層42をエッチングした。
第1記録層加工工程(S108)では、Arガスを用いたIBEにより記録層16をエッチングし記録層16を上面から20nmの位置(記録層16の下面の位置)まで除去した。尚、データ領域において記録要素14の上面の径方向の幅は50nmだった。又、記録要素14の上面のレベルにおける凹部18の径方向の幅は20nmだった。エッチング条件は以下のとおりであった。尚、照射角は、被加工体40の表面の照射されるArガスの主たる進行方向と被加工体40の表面とがなす角度である。
Arガスの流量:10sccm
チャンバー内圧力:0.01Pa
Arガスの照射角:90°
ビーム電圧:750V
ビーム電流:500mA
サプレッサー電圧:−400V
第2記録層加工工程(S110)でもArガスを用いたIBEにより、記録層16の凹部にArガスを照射した。尚、凹部底部の配向層26も微少量除去された。加工条件は以下のとおりであった。尚、加工後、マスク層42はO2ガスを用いたアッシングで除去した。
Arガスの流量:10sccm
チャンバー内圧力:0.01Pa
Arガスの照射角:90°
ビーム電圧:200V
ビーム電流:500mA
サプレッサー電圧:−300V
充填材料成膜工程(S112)では、バイアススパッタリング法により、SiO2を100nmの厚さで成膜した。
平坦化工程(S114)では、Arガスを用いたIBEにより充填部20の材料の余剰の部分を除去した。
保護層形成工程(S116)では、CVD法により記録要素14及び充填部20の上にDLCの保護層28を3nmの厚さで成膜した。
潤滑層形成工程(S118)では、ディッピング法により保護層28の上にPFPEを1〜2nmの厚さで塗布した。尚、PFPEの塗布後、テープバーニッシュ処理を行った。
このようにして得られた磁気記録媒体10のサンプルの磁気特性を以下のように評価した。
まず、サンプルの表面に対して垂直な第1の方向に15kOeの外部磁界を印加してサンプルの記録層16を第1の方向に飽和磁化させた。その後、外部磁界の印加を停止し、MFM(Magnetic Force Microscopy)によりサンプルの磁化状態を観察した。
次に、第1の方向とは逆の、サンプルの表面に対して垂直な第2の方向に20Oeの外部磁界を印加した。その後、第2の方向の外部磁界の印加を停止し、MFMによりサンプルの磁化状態を観察した。
第2の方向の外部磁界を20Oe刻みで増加させながら同様にサンプルへの第2の方向の外部磁界の印加、外部磁界の印加の停止及びMFMによる磁化状態の観察を繰り返し行った。
最初に側壁部14A又は中央部14Bの一部の部位の磁化反転が生じ始めた時の外部磁界をその部位の核形成磁界Hnとみなし、記録要素14の側壁部14Aの核形成磁界Hns及び中央部14Bの核形成磁界Hncを測定した。又、側壁部14A又は中央部14Bの約半分が磁化反転した時の外部磁界をその部位の保磁力Hcとみなし、記録要素14の側壁部14Aの保磁力Hcs及び中央部14Bの保磁力Hccを測定した。
次に、サンプルの記録再生特性を測定した。具体的には、まず回転中心から約15mmの半径位置にある1つのトラック(記録要素14)だけに91MHzの記録周波数で記録磁界を印加して磁気信号を記録した。その後、このトラックの磁気信号を再生してS/N比を測定した。尚、記録時及び再生時のサンプルの回転数は4200rpmだった。
次に上記のトラックの両側の隣の2つのトラック(記録要素14)に26MHzの記録周波数で磁気信号を記録した。その後、上記のトラック(91MHzの記録周波数で磁気信号が記録されたトラック)の磁気信号を上記と同じ条件で再度再生してS/N比を再度測定した。
このようにして測定された、26MHzの記録周波数の磁気信号が記録される前の91MHzの記録周波数の磁気信号のS/N比と26MHzの記録周波数の磁気信号が記録された後の91MHzの記録周波数の磁気信号のS/N比との差を算出した。このS/N比の差は、両隣のトラックに26MHzの記録周波数の磁気信号が記録される際の記録磁界により、91MHzの記録周波数で磁気信号が記録されたトラックに生じた不適切な磁化反転の度合いを示すと考えられる。
最後に記録要素14の側壁部14AにおけるCrの含有比率及び中央部14BのCrの含有比率を測定した。尚、Crの含有比率は、Crを含む側壁部14A又は中央部14Bを構成するCo、Cr、Ptの原子数の合計値に対するCrの原子数の比率である。以上の測定結果を表1に示す。尚、構成元素の構成比率の具体的な測定方法については後述する。
前記第2実施形態のとおり磁気記録媒体50を作製した。
具体的には、第1記録層加工工程(S108)において、記録層16を下面までエッチングし記録要素14の中央部14Bのみを形成した。尚、データ領域において記録要素14の中央部14Bの上面の径方向の幅は40nmだった。又、記録要素14の上面のレベルにおける中央部14Bの間の凹部の径方向の幅は30nmだった。エッチング条件は実施例1の第1記録層加工工程(S108)のエッチング条件と同じだった。
側壁部材料成膜工程(S202)では、スパッタリング法により、Crを含まないCoPt−SiO2膜を側壁部における厚さが5nmの厚さになるように成膜した。より詳細には、組成式がCo300Pt100SiO2((Co75Pt25)80(SiO2)20)の材料を成膜した。成膜条件は以下のとおりであった。
チャンバー内圧力:0.5Pa
Arガス流量:50sccm
ソースパワー:500W
又、記録要素14の上面のレベルにおける凹部18の径方向の幅は20nmだった。
他の条件は実施例1と同じ条件で磁気記録媒体50のサンプルを作成した。このようにして得られた磁気記録媒体50のサンプルの磁気特性、記録再生特性及びCrの含有比率を実施例1と同じように測定した。測定結果を表1に併記する。
実施例2に対し条件を変更して磁気記録媒体50を作製した。具体的には、側壁部材料成膜工程(S202)においてチャンバー内圧力を2.0Paに設定した。他の条件は実施例2と同じ条件で磁気記録媒体50のサンプルを作成した。このようにして得られた磁気記録媒体50のサンプルの磁気特性、記録再生特性及びCrの含有比率を実施例1等と同じように測定した。測定結果を表1に併記する。
実施例2に対し条件を変更して磁気記録媒体50を作製した。具体的には、側壁部材料成膜工程(S202)においてチャンバー内圧力を0.1Paに設定した。他の条件は実施例2と同じ条件で磁気記録媒体50のサンプルを作成した。このようにして得られた磁気記録媒体50のサンプルの磁気特性、記録再生特性及びCrの含有比率を実施例1等と同じように測定した。測定結果を表1に併記する。
実施例2に対し条件を変更して磁気記録媒体50を作製した。具体的には、記録層16の材料(記録要素14の中央部14Bの材料)として、CoCrPt−SiO2に代えてFePtCu−MgOを用いた。より詳細には、組成式がFe160Pt160Cu80MgO((Fe40Pt40Cu20)80(MgO)20)の材料を成膜した。又、記録要素14の側壁部14Aの材料として、CoPtに代えてCuを含まないFePt−MgOを用いた。より詳細には、組成式がFe200Pt200MgO((Fe50Pt50)80(MgO)20)の材料を成膜した。又、保護層形成工程(S116)と潤滑層形成工程(S118)との間に、サンプルを400℃の温度環境に5分間保持するアニール処理を実行した。尚、アニール処理により、側壁部14A及び中央部14BがL10構造に規則化される。他の条件は実施例2と同じ条件で磁気記録媒体50のサンプルを作成した。このようにして得られた磁気記録媒体50のサンプルの磁気特性、記録再生特性及びCuの含有比率を実施例1等と同じように測定した。測定結果を表1に併記する。
[比較例1]
上記実施例1に対し、第2記録層加工工程(S110)を省略した。他の条件は実施例1と同じ条件で磁気記録媒体のサンプルを作成した。最終的な凹凸パターン形状も実施例1と同じであった。このようにして得られた磁気記録媒体のサンプルの磁気特性、記録再生特性及びCrの含有比率を実施例1等と同じように測定した。測定結果を表1に併記する。
[比較例2]
上記実施例5に対し、側壁部材料成膜工程(S202)を省略した。他の条件は実施例5と同じ条件で磁気記録媒体のサンプルを作成した。最終的な凹凸パターン形状も実施例5と同じであった。このようにして得られた磁気記録媒体のサンプルの磁気特性、記録再生特性及びCuの含有比率を実施例5等と同じように測定した。測定結果を表1に併記する。
表1に示されるように、比較例1、2では、記録要素の側壁部(に相当する部分)の核形成磁界Hnsと中央部(に相当する部分)の核形成磁界Hncとが等しかった。これに対し、実施例1〜5では、記録要素14の側壁部14Aの核形成磁界Hnsが中央部14Bの核形成磁界Hncよりも大きかった。具体的には、HnsはHncの1.3〜1.4倍であった。
又、比較例1、2では、Hns/HcsとHnc/Hccとが等しかった。これに対し、実施例1〜5では、Hns/HcsがHnc/Hccよりも大きかった。具体的には、Hns/HcsはHnc/Hccの1.2〜1.4倍であった。
又、比較例1、2では、記録要素14の側壁部14Aの保磁力Hcsと中央部14Bの保磁力Hccとが等しかった。実施例1、2及び5でも、記録要素14の側壁部14Aの保磁力Hcsと中央部14Bの保磁力Hccとが等しかった。一方、実施例4では記録要素14の側壁部14Aの保磁力Hcsが中央部14Bの保磁力Hccよりも小さかった。又、実施例3では記録要素14の側壁部14Aの保磁力Hcsが中央部14Bの保磁力Hccよりも大きかったが、上記のようにHns/HcsはHnc/Hccよりも大きかった。実施例2〜4はいずれも側壁部14AがCrを含んでいないが、側壁部14Aが成膜された際のチャンバー内圧力が異なっていたため側壁部14Aの保磁力Hcsが相互に異なっていたと考えられる。より詳細には、チャンバー内圧力が高いほど、スパッタされる粒子の平均自由行程が短く、低いエネルギー状態で粒子が成膜される。エネルギー状態が低い程、成膜された膜面上で粒子が移動しづらくなり、成膜された膜には微細な空隙が粒子間に形成されやすい。この結果、磁性粒子間の交換結合が弱くなり、保磁力が大きくなると考えられる。実施例3では、側壁部14Aが成膜された際のチャンバー内圧力が実施例2よりも高かったため、実施例2よりも側壁部14Aの保磁力Hcsが大きかったと考えられる。又、実施例4では、側壁部14Aが成膜された際のチャンバー内圧力が実施例2よりも低かったため、実施例2よりも側壁部14Aの保磁力Hcsが小さかったと考えられる。
又、実施例1〜5、比較例1、2のいずれにおいても、両側の隣の2つのトラックに26MHzの記録周波数の磁気信号が記録された後の91MHzの記録周波数の磁気信号のS/N比は、両側の隣の2つのトラック(記録要素14)に26MHzの記録周波数の磁気信号が記録される前の91MHzの記録周波数の磁気信号のS/N比に対して低下していたが、実施例1〜5におけるS/N比の差(S/N比の低下の度合い)は、比較例1、2におけるS/N比の差よりも著しく小さかった。これは、実施例1〜5では、記録要素14の側壁部14Aの核形成磁界Hnsが中央部14Bの核形成磁界Hncよりも大きかったため、両側の隣の2つのトラック(記録要素14)に26MHzの記録周波数の磁気信号が記録された際の、91MHzの記録周波数の磁気信号への影響(不適切な磁化反転)が抑制されたためと考えられる。即ち、記録要素14の側壁部14Aの核形成磁界Hnsを中央部14Bの核形成磁界Hncよりも大きくすることにより、磁気信号の記録/再生特性が向上することが確認された。このように、各トラックに磁気信号が記録される際の隣りのトラックへの影響が相互に抑制されるので、トラックピッチを小さくして、径方向の記録密度を高めることもできる。
又、両側の隣の2つのトラック(記録要素14)に26MHzの記録周波数の磁気信号が記録される前の91MHzの記録周波数の磁気信号のS/N比は、実施例3が最も小さく実施例4が最も大きかった。実施例3は側壁部14Aの保磁力Hcsが他の実施例よりも大きかったため、91MHzの記録周波数で磁気信号が記録されたトラック(記録要素14)の側壁部14Aの磁化反転が抑制され(磁化反転が不充分であり)、S/N比が他の実施例よりも小さかったと考えられる。一方、実施例4は側壁部14Aの保磁力Hcsが他の実施例及び比較例よりも小さかったため、91MHzの記録周波数で磁気信号が記録されたトラック(記録要素14)の側壁部14Aの磁化反転が促進され(記録要素の幅方向の全体が充分に磁化反転され)、S/N比が他の実施例よりも大きかったと考えられる。従って、記録対象の記録要素を適正に磁化反転させるためには、側壁部14Aの保磁力Hcsが中央部14Bの保磁力Hccよりも著しく大きいことは好ましくないと考えられる。以上より、磁気信号の記録/再生特性の向上のためには、上記式(I)及び式(II)に加え、更に式(III)又は式(IV)を満たすことが好ましいと考えられる。
実施例2と同様の手法で、実施例2と同じ構成のサンプルを含む6種類の磁気記録媒体50のサンプルを作成した。又、比較用の1種類のサンプルを作成した。尚、比較用のサンプルは比較例1と構成が同じであるが、製法は比較例1と異なる。これら7種類のサンプルは、側壁部14AのCrの含有比率が相互に異なる。実施例2と構成が異なる6種類のサンプルについては、側壁部材料成膜工程(S202)において、Crを含まないCoPt−SiO2のターゲットと共にCrのターゲットを真空チャンバ内に設置し、Crのターゲットに印加するパワーを調整することによりCrの含有比率を調整した。他の条件は実施例2と同じであった。(側壁部14AにおけるCoの原子数とPtの原子数との比も実施例2と同じであった。)このようにして得られた磁気記録媒体50の6種類のサンプル及び比較用の1種類のサンプルの磁気特性、記録再生特性及びCrの含有比率を実施例2と同じように測定した。測定結果を表2に示す。尚、表2における最も右側の列のデータは比較用のサンプルのデータである。
表2に示されるように、Crの含有比率が低下する程、側壁部14Aの核形成磁界Hnsが増大する傾向があることが確認された。又、Crの含有比率が12%以下である5種類のサンプルは、側壁部14Aの核形成磁界Hnsがほぼ同じであった。即ち、Crの含有比率が約12%で、核形成磁界Hnsの増大がほぼ飽和する傾向があることが確認された。
尚、表2に示されるように、比較用のサンプルでは記録要素の側壁部(に相当する部分)の核形成磁界Hnsと中央部(に相当する部分)の核形成磁界Hncとが等しかった。これに対し、6種類の実施例のサンプルでは記録要素14の側壁部14Aの核形成磁界Hnsが中央部14Bの核形成磁界Hncよりも大きかった。具体的には、HnsはHncの1.1〜1.3倍であった。
又、比較用のサンプルではHns/HcsとHnc/Hccとが等しかった。これに対し、6種類の実施例のサンプルではHns/HcsがHnc/Hccよりも大きかった。具体的には、Hns/HcsはHnc/Hccの1.1〜1.3倍であった。
上記実施例6の磁気記録媒体50の6種類のサンプルのうちの側壁部14AにおけるCrの含有比率が12%のサンプルに対し、中央部14BにおけるCrの原子数の比率が異なる1種類の磁気記録媒体50のサンプルを作成した。他の条件は実施例6と同じであった。(中央部14BにおけるCoの原子数とPtの原子数との比も実施例6と同じであった。)このようにして得られた磁気記録媒体50の1種類のサンプルの磁気特性、記録再生特性及びCrの含有比率を実施例5と同じように測定した。測定結果を表3に示す。
表3に示されるように、記録要素14の側壁部14Aの核形成磁界Hnsは中央部14Bの核形成磁界Hncよりも大きかった。具体的には、HnsはHncの1.1倍であった。又、Hns/HcsはHnc/Hccよりも大きかった。具体的には、Hns/HcsはHnc/Hccの1.1倍であった。
最後に、磁気記録媒体10(50)の記録要素14の構成元素の組成比率を確認する方法の一例を説明しておく。
まず、磁気記録媒体10(50)の潤滑層30を剥離し、保護層28の上に厚さ20nm程度のカーボンをコーティングしてから、FIB(Focused Ion Beam)法により、記録要素14及び充填部20を含む部分を、厚さが50nm程度となるように磁気記録媒体の厚さ方向及び径方向に平行な切断面に沿って切断し、断面TEM試料を作製する。この試料の作製には、例えばFB2100(日立ハイテクノロジーズ株式会社製)等を用いることができる。
このようにして得られた試料を、TEM(Transmission Electron Microscope)観察及びEDS(Energy-Dispersive x-ray Spectroscopy)分析することにより組成比率を得ることができる。この測定には、例えば、FE−TEM(JEM−2100F:日本電子株式会社製)又はFE−STEM(HD2000:日立ハイテクノロジーズ株式会社製)を用いることができる。