JP5320541B2 - 電気・電子部品用銅合金材 - Google Patents
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また、特に車載用電子部品においては、より高温環境での使用に、長期に亘って確実に耐えることが必要とされていることから、耐応力緩和性のさらなる高度化が要請されている。
コネクタ、リレー、スイッチなどの電気・電子部品用の金属材料としては、一般に、黄銅や燐青銅などが使用されてきたが、それらの既存の材料では、上記のようなさらなる高導電性や耐応力緩和性の向上の要請を満たすことは、実際上、極めて困難ないしは不可能である。
中でもCu−Zr系の合金は、80%IACSを超える高い導電率を確保することが可能であり、また耐熱性も高く、耐応力緩和性についても優れた特性を備えている。しかし、その一方で、同様の析出型合金であるCu−Ni−Si系(銅−ニッケル−シリコン系)などに比べると、析出硬化による強度の上昇が小さいため、冷間圧延を行って加工硬化させ、析出硬化と加工硬化とを併せて施すことによって、十分な強度を確保する必要がある。
しかしながら、従来のCu−Zr系合金材において、十分な強度を確保するためには、
冷間圧延を行って加工硬化させる際の加工度の増加は、その材料の延性低下を伴うこととなり、その結果として、出来上がった製品としての電気・電子部品用銅合金材の曲げ加工性を悪化させてしまうという問題があった。このため、従来のCu−Zr系合金材では、曲げ加工性を維持しつつ加工硬化を進めることは、実際上困難ないしは不可能であった。
この電気・電子部品用銅合金材は、0.01質量%以上0.5質量%以下のジルコニウム(Zr)を含有し、残部が銅(Cu)および不可避的不純物からなる銅合金を圧延加工してなる電気・電子部品用銅合金材であって、この電気・電子部品用銅合金材自体の集合組織における、Brass方位の方位分布密度が20以下であり、かつBrass方位とS方位とCopper方位との方位分布密度の合計が10以上50以下であるように設定されている。
そして、上記のように設定されていることにより、この電気・電子部品用銅合金材は、引張強さ500N/mm2以上という高い機械的強度と、最小曲げ半径をR、板厚をtとして、0≦R/t<1.0という極めて良好な曲げ加工性と、85%IACS以上という高い導電率とを、併せ備えたものとなっている。
、高強度と曲げ加工性とを両立することができることを、種々の実験およびその結果に関する検討・考察により確認した。その結果を踏まえて、本発明者達は、下記のような観点に基づいた手法によって、良好な曲げ加工性と高強度を併せ持つと共に高い導電性を備えたCu−Zr系の銅合金に圧延加工を施してなる電気・電子部品用銅合金材を得ることができるという新知見に至ったのであった。
0.01質量%以上0.5質量%以下のジルコニウム(Zr)を含有し、残部が銅(Cu)および不可避的不純物からなる銅合金を素材として用いる。
ジルコニウム(Zr)は、銅(Cu)との化合物を形成して母相中に析出し、その全体的な材料強度を向上させると共に耐熱性を向上させる効果を持つ合金元素である。ジルコニウム(Zr)の含有量は、形成される析出粒子の量や大きさに影響を与えて、導電率と強度とのバランスを変化させるが、上記の範囲内の濃度で含有させることによって、導電率と強度とをともに高い次元でバランスさせた、良好な特性が実現されることとなる。
ジルコニウム(Zr)の含有量が、上記の規定範囲の下限値0.01質量%よりも少ない場合には、Cu−Zrの析出物が不足することに起因して、時効硬化が不十分になると共に耐応力緩和性も十分な特性を得ることが困難になる。また逆に、上記の規定範囲の上限値0.5質量%よりも多い場合には、Cu−Zr析出物の形状が粗大になりやすくなる。斯様に粗大な析出物は、強度向上の効果が得られないと共に、曲げ加工時の割れ(金属の結晶粒径レベルでの亀裂)の起点となる虞の極めて高いものであるため、曲げ加工性低下の重大な原因となる。よって、ジルコニウム(Zr)の含有量は、0.01質量%以上0.5質量%以下とすることが望ましいのである。
ここで、さらに望ましくは、ジルコニウム(Zr)含有量を0.05以上0.2質量%以下の範囲内の値とすることにより、上記の特性をさらに確実に得ることが可能となる。
上記に加えて、錫(Sn)、銀(Ag)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、燐(P)、シリコン(Si)のうちの少なくとも1種類以上の成分を合計0.01質量%以上1質量%以下含有したものとすることにより、さらに好ましい特性を実現することが可能となる。これらの成分は、材料の全体的な機械的強度を向上させる機能を発揮するものであり、ジルコニウム(Zr)と併せて添加することによって、この電気・電子部品用銅合金材の機械的強度のさらなる向上が期待できるからである。
上記の錫(Sn)、銀(Ag)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、燐(P)、シリコン(Si)のうちの1種類以上の成分の合計量を、0.01質量%以上1質量%以下の範囲内の添加量(濃度)に設定する理由は、添加量が上記の規定範囲よりも少ない場合には、添加する効果が十分に得られなくなり、また逆に、上記の規定範囲よりも多い場合には、導電性の低下や曲げ加工性の悪化等の弊害が大きくなる虞が高くなるからである。
ここで、錫(Sn)、銀(Ag)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)の各添加元素は、銅(Cu)の母相中に固溶して、材料強度(機械的強度)を高める機能を発揮する。
また、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)の各添加元素も、母相中に固溶して材料強度を高めるが、それと共にさらに燐(P)やシリコン(Si)を併せて添加すると、それらの化合物として析出するので、析出硬化による材料強度のさらなる向上も期待することができる。
また、クロム(Cr)およびチタン(Ti)は、その一部が析出物として存在するため、固溶硬化と析出硬化の両面で、材料強度のさらなる向上を期待することができる。
燐(P)およびシリコン(Si)は、前述のように特に鉄(Fe)等の成分と併せて添加することにより、析出硬化による材料強度のさらなる向上に寄与することができる添加元素である。
上記のような成分構成の銅合金に圧延加工を施して、その集合組織における、Brass方位の方位分布密度を20以下とし、かつBrass方位とS方位とCopper方位との方位分布密度の合計を10以上50以下の範囲内となるようにする。
Cu−Zr系合金に圧延加工を施してなる電気・電子部品用銅合金材における集合組織は、圧延加工や熱処理の各種プロセス条件設定によって異なったものとなるが、多くの方位因子の構成比率が変わることによって塑性変形に異方性が生じ、曲げ加工性が変化する。
Brass方位:{110}<112>、S方位:{123}<634>、Copper方位:{112}<111>は、それぞれ冷間圧延によって発達する集合組織であり、これらが発達するほど高い材料強度が得られるが、それと同時に延性が低下して曲げ加工性の悪化につながる。曲げ加工性の悪化を抑えつつ高い強度を得るためには、これらの集合組織が過度に発達しないように、方位分布密度を上記の規定範囲内に制御することが有効である。
すなわち、本発明の実施の形態に係る電気・電子部品用銅合金材では、特にBrass方位の発達が曲げ加工性に大きく影響し、その方位分布密度が20を超えると、曲げ加工性の悪化する虞が顕著になる。また、高強度と曲げ加工性とをどちらも高い領域でバランス良く両立させるためには、Brass方位、S方位、Copper方位の方位分布密度の合計を10以上50以下の範囲内にすることが有効であるが、これは、合計が50を超えると、曲げ加工性の悪化する虞が顕著になり、また逆に、10未満になると、材料強度が不足する虞が高くなるからである。
本発明の実施の形態に係る電気・電子部品用銅合金材における方位分布密度の測定は、例えば、X線回折法により(100)、(110)、(111)の完全極点図を作成し、その結果から、結晶方位分布関数を用いて各方位の強度ピーク値の合計に対する特定方位(Brass方位、S方位、Copper方位)の強度ピーク値の割合を計算することによって求められる。なお、このような測定方法は、長島晋一編著「集合組織」(1984年、丸善株式会社刊、P8〜44)、金属学会セミナー「集合組織」(1981年、日本金属学会編、P3~7)等にて紹介されており、このような測定方法それ自体については、前記の資料に紹介されている手法を好適に用いることが可能である。また、このような方位分布密度は、その他にも、例えばSEM(Scanning Electron Microscopy)EBSD(Electron Backscatter Diffraction)を用いて測定したデータからも求めることが可能である。
上記の(1)〜(3)に則した設定とすることにより、本発明の実施の形態に係る電気・電子部品用銅合金材では、引張強さ500N/mm2以上の機械的強度、85%IACS以上の導電率、0≦R/t<1.0(ここに、最小曲げ半径:R、板厚:t)の曲げ加工性が実現される。
すなわち、従来のCu−Zr合金では、圧延加工を施して、引張強さを500N/mm2以上の高強度なものにすると、出来上がった電気・電子部品用銅合金材は、曲げ加工性が低下してしまうという問題があったが、上記のような本発明の実施の形態に係る電気・電子部品用銅合金材では、引張強さを500N/mm2以上としてもなお、例えば0≦R/t<1.0のような極めて良好な曲げ加工性と85%IACS以上のような極めて高い導電性とを兼備することが可能となる。
本発明の実施の形態に係る電気・電子部品用銅合金材は、銅合金条の製造工程における冷間圧延と比較的低温の熱処理とを、適切な条件で組み合わせて繰り返し実施することにより、製造することが可能である。
続いて、一般的な冷間圧延と中間焼鈍とを、適切な回数に亘って行った後、加工度を10%以上50%以下に設定した冷間圧延を行い、次いで、350℃以上600℃以下の温度で、10秒以上10分以下に亘って加熱処理を行う。このとき、加工度が10%未満では、Brass方位とS方位とCopper方位との方位分布密度の合計が10未満になりやすく、また50%超では、Brass方位の方位分布密度が20を超えるか、もしくはBrass方位とS方位とCopper方位との方位分布密度の合計が50を超える虞が高くなる。
また、熱処理が上記の条件(350℃以上600℃以下・10秒以上10分以下)よりも低温または短時間である場合には、Brass方位の方位分布密度が20を超えるか、もしくはBrass方位とS方位とCopper方位の方位分布密度の合計が50を超える虞が高くなり、熱処理が上記の条件よりも高温または長時間である場合には、Brass方位とS方位とCopper方位との方位分布密度の合計が10未満になる虞が高くなる。
また、この加工度を10%以上50%以下に設定した冷間圧延と熱処理とを組み合わせた圧延プロセスは、2回または3回繰り返して実施することが望ましく、そのプロセス条件および繰り返しの回数を、加工対象の銅合金の詳細な成分設定や仕上がりの(目標の)電気・電子部品用銅合金材としての厚さや各種仕様等に対応して、適宜に設定することにより、その目標の特性に適合した特性を得ることが可能である。
これを950℃に加熱して、厚さ8mmまで熱間圧延した後、さらに厚さ1mmまで冷間圧延し、800℃で焼鈍した。
てはJIS H3100において規定されたW曲げ試験の手法を適用した。すなわち、曲げ軸を圧延平行方向(Bad way方向)に取って、試料表面に割れが発生しない最小曲げ半
径R(単位:mm)を測定し、板厚t(単位:mm)との比率R/tの値で評価するものとした。そのR/tの値が小さいほど、厳しい曲げ加工に対応可能であるということを意味しているから、曲げ加工性が良好であるものと評価することができる。
そしてさらに、この実施例1の試料について、引張強さおよび導電率をそれぞれ測定したところ、引張強さは、目標値の500N/mm2を超える512N/mm2、導電率は、目標値の85%IACSを遥かに凌駕した92%IACSであり、いずれも極めて良好な特性を実現できていることが確認された。
また、上記の実施例1で用いた銅合金に、さらに0.1質量%のニッケル(Ni)および0.05質量%の燐(P)を添加したインゴットを用い、実施例1〜10と同じ圧延加工等を施して、実施例11の試料を製造した。
また、上記の実施例1で用いた銅合金に、さらに0.1質量%のニッケル(Ni)および0.05質量%の燐シリコン(Si)を添加したインゴットを用い、実施例1〜10と同じ圧延加工等を施して、実施例12の試料を製造した。
これらの実施例1〜12および比較例1〜6の各試料の成分構成を、纏めて表1に示す。
また、特に実施例11、12の試料の場合、どちらも引張強さは550N/mm2超であり、目標値とした500N/mm2よりも10%以上も高い引張強さが実現されていることが確認された。これは、上記のような副成分の添加によるものと考えられる。
具体的には、ジルコニウム(Zr)の添加量を上記の実施の形態で説明した規定範囲の下限値よりも少なくした、比較例1の試料では、曲げ加工性および導電率は良好であったが、引張強さが442N/mm2で、目標値の500N/mm2を大幅に下回る結果となり、機械的強度が確保できていないことが確認された。
また、逆に、ジルコニウム(Zr)の添加量を上記の実施の形態で説明した規定範囲の上限値よりも多くした比較例2の試料では、引張強さおよび導電率は良好であったが、R
/tが2.0であり、曲げ加工性が低いものとなった。
また、ジルコニウム(Zr)の添加量は規定範囲に適合する設定とし、添加する副成分の分量を敢えて規定範囲を逸脱した多量な設定とした、比較例3〜6の試料では、引張強さ(つまり機械的強度)は確保されていたが、曲げ加工性および導電性が大幅に低下したものとなった。
また、実施例1の場合と同様の焼鈍までを行った後、引き続いて冷間圧延の加工度を40%、熱処理を500℃で1分間とし、その組み合わせを2回繰り返して、実施例13の試料を製造した。
また、実施例1の場合と同様の焼鈍までを行った後、引き続いて冷間圧延の加工度を30%、熱処理を500℃で1分間とし、その組み合わせを3回繰り返して、実施例14の試料を製造した。
また、比較例8として、冷間圧延の加工度を80%、熱処理を400℃で1分間とし、その組み合わせを1回のみ行うことで試料(No.8)を製造した。
また、比較例9として、冷間圧延の加工度を60%、熱処理を400℃で1分間とし、その組み合わせを3回繰り返すことで試料(No.9)を製造した。
また、比較例10として、冷間圧延の加工度を70%、熱処理を500℃で1分間とし、その組み合わせを3回繰り返すことで試料(No.10)を製造した。
また、比較例11として、冷間圧延の加工度を40%、熱処理を700℃で1分間とし、その組み合わせを3回繰り返すことで試料(No.11)を製造した。
また、比較例12として、冷間圧延の加工度を5%、熱処理を500℃で1分間とし、その組み合わせを3回繰り返すことで試料(No.12)を製造した。
これら実施例および比較例の各試料についての、冷間圧延と熱処理とのプロセス条件の組み合わせおよびその施行回数の設定を、纏めて表3に示す。
他方、それとは対照的に、比較例7〜12の試料では、曲げ加工性、引張強さ、導電率
のうちのいずれか1種類または2種類の特性が、目標値未満の低いものとなった。
Claims (6)
- 0.01質量%以上0.5質量%以下のジルコニウム(Zr)を含有し、残部が銅(Cu)および不可避的不純物からなる銅合金を圧延加工してなる電気・電子部品用銅合金材であって、
当該電気・電子部品用銅合金材の集合組織における、Brass方位の方位分布密度が20以下であり、かつBrass方位とS方位とCopper方位との方位分布密度の合計が10以上50以下である
ことを特徴とする電気・電子部品用銅合金材。 - 請求項1記載の電気・電子部品用銅合金材において、
前記ジルコニウム(Zr)の含有量を、0.01質量%以上0.2質量%以下としたことを特徴とする電気・電子部品用銅合金材。 - 請求項1または2記載の電気・電子部品用銅合金材において、
前記銅合金が、さらに、錫(Sn)、銀(Ag)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、シリコン(Si)のうちの少なくとも1種類の成分を合計0.01質量%以上1質量%以下含有してなる
ことを特徴とする電気・電子部品用銅合金材。 - 請求項1または2記載の電気・電子部品用銅合金材において、
前記銅合金が、さらに、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)のうちの少なくとも1種類の成分と、少なくともシリコン(Si)とを、合計0.01質量%以上1質量%以下含有してなる、又は、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)のうちの少なくとも1種類の成分と、少なくとも燐(P)とを、合計0.01質量%以上1質量%以下含有してなる
ことを特徴とする電気・電子部品用銅合金材。 - 請求項1ないし4のうちいずれか1つの項に記載の電気・電子部品用銅合金材において、
機械的強度が、引張強さ500N/mm2以上であり、かつ曲げ加工性が、最小曲げ半径をR、板厚をtとして、0≦R/t<1.0である
ことを特徴とする電気・電子部品用銅合金材。 - 請求項1ないし5のうちいずれか1つの項に記載の電気・電子部品用銅合金材において、
導電率が、85%IACS以上である
ことを特徴とする電気・電子部品用銅合金材。
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