JP5060625B2 - Cu−Zr系銅合金板及びその製造方法 - Google Patents

Cu−Zr系銅合金板及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、Cu−Zr系銅合金板及びその製造方法に関し、特に詳しくは、曲げ加工性とばね限界値とが高レベルでバランスの取れた電気及び電子部品用Cu−Zr系銅合金板及びその製造方法に関する。
近年、コネクタ、リレー、スイッチなどの電気・電子部品の更なる小型化に伴って、その内部に組み込まれている接点部材や擦動部材等に流される電流密度がますます高くなってきており、従来よりも更に導電性の良好な材料への要求が高まっている。特に、車載用電子部品においては、より高温及び振動の環境下にて長期間にわたり確実に耐えることが要求されており、優れた耐応力緩和性も望まれている。
この様な要求に対応可能な材料として、Cu−Zr系の合金は、80%IACSを超える高い導電率を有することができ、耐熱性も良く、耐応力緩和性にも優れているが、十分な強度を確保しながら、曲げ加工性を保つことが課題であり、優れたばね限界特性も要求される。
これらの課題を解決するCu−Zr系銅合金として、特許文献1では、重量比率でZrを0.005%〜0.5%、Bを0.2ppm〜400ppmの範囲で含有する銅合金であって、複数の扁平な結晶粒が面方向に連続してなる結晶粒層が板厚方向に積み重なって構成された層状組織を有し、結晶粒層の厚さが20nm〜550nmの範囲であり、層状組織中の結晶粒層の厚さのヒストグラムにおけるピーク値Pが50nm〜300nmの範囲内で、かつ、総度数の22%以上の頻度で存在し、その半値幅Lが200nm以下とする強度と伸びを高いレベルでバランスさせた銅合金を開示している。
特許文献2では、重量比率でZrを0.005%〜0.5%、Coを0.001%〜0.3%の範囲で含有する銅合金であって、複数の扁平な結晶粒が面方向に連続してなる結晶粒層が板厚方向に積み重なって構成された層状組織を有し、結晶粒層の厚さが5nm〜550nmの範囲であり、層状組織中の結晶粒層の厚さのヒストグラムにおけるピーク値Pが50nm〜300nmの範囲内で、かつ、総度数の28%以上の頻度で存在し、その半値幅Lが180nm以下とする強度と伸びを高いレベルでバランスさせた銅合金を開示している。
特許文献3では、0.01質量%以上0.5質量%以下のジルコニウム(Zr)を含有し、残部が銅(Cu)および不可避的不純物からなる銅合金を圧延加工してなる電気・電子部品用銅合金材であって、当該電気・電子部品用銅合金材の集合組織における、Brass方位の方位分布密度が20以下であり、かつBrass方位とS方位とCopper方位との方位分布密度の合計が10以上50以下とする機械的強度と良好な曲げ加工性とを併せ持った電気・電子部品用銅合金材を開示している。
特開2010−215935号公報 特開2010−222624号公報 特開2010−242177号公報
従来の電気及び電子部品用Cu−Zr系銅合金は、十分な機械的強度と良好な曲げ加工性(伸び性)とを併せ持っているが、ばね限界特性は十分とは言えなかった。
本発明では、十分な機械的強度を保持しながら、曲げ加工性とばね限界値とが高レベルでバランスのとれた電気及び電子部品用Cu−Zr系銅合金板及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、鋭意検討の結果、質量%でZrを0.05〜0.2%含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる銅合金において、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて測定した隣接測定点間のミスオリエンテーションであるKAM(Kernel Average Misorientation)の平均値が1.5〜1.8°であると、曲げ加工性とばね限界値とが高レベルでバランスが保てることを見出した。
また、本発明者らは、同一出願人の特開2010−215935号公報、特開2010−22264号公報の製造方法を更に検討し、所定成分に溶解・鋳造されたCu−Zr系銅合金母材に対して、930〜1030℃で熱間圧延を開始し、600℃以上の温度域から水冷による急冷処理にて溶体化処理を施した後に冷間圧延を施し、次に320〜460℃にて2〜8時間の時効処理を施し、次に500〜750℃にて10〜40秒間の熱処理を施すことにより、熱処理後の表面のビッカース硬さを時効処理後の表面のビッカース硬さより3〜20Hv低下させると、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて測定したKAMの平均値が1.5〜1.8°となり、曲げ加工性とばね限界値とが高レベルでバランスが取れ、更に、十分な機械的強度も保持できることを見出した。
即ち、本発明の銅合金板は、質量%でZrを0.05〜0.2%を含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる銅合金であって、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて測定したKAMの平均値が1.5〜1.8°であり、W曲げ試験で、割れが発生しない最小曲げ半径をR、板厚をtとすると、R/tが0.1〜0.6であり、ばね限界値が420〜520N/mmであることを特徴とする。
KAMの平均値が1.5°未満では、ばね限界値が低下し、引張強度の低下をきたし、平均値が1.8°を超えると、曲げ加工性が低下し、ばね限界値も低下する。
更に、本発明の銅合金板は、質量%でBを0.2〜400ppm、或いは、Coを0.001%〜0.3%含有してもよい。
これらの元素の添加により、結晶組織が均一で緻密になって安定する効果があり、適切な伸び(延性)を付与する。各元素の添加量が下限値未満では安定効果に欠しく、上限値を超えると、延性が著しく大きくなって引張強さの低下をきたす。
更に、本発明の銅合金板の製造方法は、本発明の銅合金母材に対して、930〜1030℃で熱間圧延を開始し、600℃以上の温度域から水冷による急冷処理にて溶体化処理を施した後に、冷間圧延を施し、次に320〜460℃にて2〜8時間の時効処理を施し、次に500〜750℃にて10〜40秒間の熱処理を施すことにより、前記熱処理後の銅合金板の表面のビッカース硬さを、前記時効処理後の銅合金板の表面のビッカース硬さより3〜20Hv低下させることを特徴とする。
本発明の銅合金母材に対して、930〜1030℃で熱間圧延を開始し、600℃以上の温度域から水冷による急冷処理による溶体化処理を施し、好ましくは、製品板厚まで冷間圧延を施すことにより、Zrが過飽和状態に固溶し、各結晶粒層の厚さが均一化された銅合金板が製造される。
この冷間圧延後の銅合金板に、320〜460℃にて2〜8時間の時効処理を施し、過飽和状態で固溶していたZrを時効処理により徐々に析出させ、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて測定したKAMの平均値を1.5〜1.8°の範囲内に収める素地を作製する。
処理温度が320℃未満では、引張り強度に悪影響を及ぼし、460℃を超えると、曲げ加工性に悪影響を及ぼす。処理時間が2時間未満では効果はなく、8時間を超えると、再結晶化が起きるので好ましくない。
次に、この時効処理後の銅合金板に、500〜750℃にて10〜40秒間の熱処理を施すことにより、熱処理後の表面のビッカース硬さを、時効処理後の表面のビッカース硬さより3〜20Hv低下させ、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて測定したKAMの平均値を1.5〜1.8°の範囲内に収める。
これにより、曲げ加工性とばね限界値とが高レベルでバランスを取れ、十分な機械的強度を保つことが可能となる。
処理温度と処理時間が50℃未満、或いは、10秒未満では、ビッカース硬さの低下が3Hv未満となり、処理温度と処理時間が750℃超える、或いは、40秒を超えると、ビッカース硬さの低下が20Hvを超える。
また、熱処理後は、Zrを過飽和状態に固溶し、緻密な結晶組織を得るためにも、水冷により急冷することが好ましい。
本発明では、十分な機械的強度を保持しながら、曲げ加工性とばね限界値とが高レベルでバランスのとれた電気及び電子部品用Cu−Zr系銅合金板及びその製造方法を提供する。
以下、本発明の一実施形態について説明する。
[銅合金板の合金組成]
本発明の銅合金板は、質量%でZrを0.05〜0.2%を含有し、残部がCu及び不可避不純物である組成を有する。
Zr(ジルコニウム)は、銅との化合物を形成して母相中に析出し、その全体的な材料強度を向上させると共に耐熱性を向上させる効果を持つ合金元素である。Zrの含有量は、形成される析出粒子の量や大きさに影響を与えて、導電率と強度とのバランスを変化させるが、上記の範囲内の濃度で含有させることによって、導電率と強度とをともに高い次元でバランスさせた、良好な特性が実現されることとなる。
Zrの含有量が、0.05質量%未満であると、Cu−Zrの析出物が不足することにより、時効硬化が不十分になると共に耐応力緩和性も十分な特性を得ることが困難になる。0.2質量%を超えると、Cu−Zr析出物の形状が粗大になりやすくなり、強度向上の効果が得られず、曲げ加工性低下の重大な原因ともなる。
更に、本発明の銅合金板は、質量%でBを0.2〜400ppm、或いは、Coを0.001%〜0.3%含有しても良い。
これらの元素の添加により、結晶組織が均一で緻密になって安定する効果があり、適切な伸び(延性)を付与する。各元素の添加量が下限値未満では安定効果に欠しく、上限値を超えると、延性が著しく大きくなって引張強さの低下をきたす。
[銅合金板の合金組織]
本発明のCu−Zr系銅合金板は、合金組成中の後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて測定した隣接測定点間のミスオリエンテーションであるKAM(Kernel Average Misorientation)の平均値が1.5〜1.8°であり、曲げ加工性(後述のW曲げ試験で、割れが発生しない最小曲げ半径をR、板厚をtとしたときの、R/t)が0.1〜0.6であり、ばね限界値が420〜520N/mmであり、十分な機械的強度を保持しながら、曲げ加工性とばね限界値とが高レベルでバランスが取れている。
[EBSD法によるKAMの測定]
EBSD法によるKAMの測定は次のように実施した。
10mm×10mmの試料を機械研磨、バフ研磨後、日立ハイテクノロジーズ社製イオンミリング装置で加速電圧6kV、入射角10°、照射時間15分として表面を調整し、日立ハイテクノロジーズ社製SEM(型番「S−3400N」)と、TSL社製のEBSD測定・解析システムOIM(Orientation Imaging Micrograph)を用い、測定領域を六角形の領域(ピクセル)に区切り、区切られた各領域について、試料表面に入射させた電子線の反射電子から菊地パターンを得てピクセルの方位を測定した。測定した方位データを同システムの解析ソフト(ソフト名「OIM Analysis」)を用いて解析し、各種パラメータを算出した。観察条件は、加速電圧25kV、測定面積は300μm×300μmとし、隣接するピクセル間の距離(ステップサイズ)は0.5μmとした。隣接するピクセル間の方位差が5°以上を結晶粒界とみなした。
KAMは結晶粒内のあるピクセルと、結晶粒界を超えない範囲に存在する隣接ピクセルとの方位差の平均値を計算し、測定全面積を構成する全ピクセルにおける平均値として算出した。
KAMの平均値が1.5°未満では、ばね限界値が低下し、引張強度の低下をきたし、平均値が1.8°を超えると、曲げ加工性が低下し、ばね限界値も低下する。
[銅合金板製造方法]
本発明の銅合金板の製造方法は、本発明の合金組成、合金組織の銅合金母材に対して、930〜1030℃で熱間圧延を開始し、600℃以上の温度域から水冷による急冷処理にて溶体化処理を施した後に、冷間圧延を施し、次に320〜460℃にて2〜8時間の時効処理を施し、次に500〜750℃にて10〜40秒間の熱処理を施すことにより、熱処理後の銅合金板の表面のビッカース硬さを、時効処理後の銅合金板の表面のビッカース硬さより3〜20Hv低下させる方法である。
本発明の銅合金母材に対して、930〜1030℃で熱間圧延を開始し、600℃以上の温度域から水冷による急冷処理による溶体化処理を施し、好ましくは、製品板厚まで冷間圧延を施すことにより、Zrが過飽和状態に固溶し、各結晶粒層の厚さが均一化された銅合金板が製造される。
この冷間圧延後の銅合金板に、320〜460℃にて2〜8時間の時効処理を施し、過飽和状態で固溶していたZrを時効処理により徐々に析出させ、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて測定したKAMの平均値を1.5〜1.8°の範囲内に収める素地を作製する。
処理温度が320℃未満では、引張り強度に悪影響を及ぼし、460℃を超えると、曲げ加工性に悪影響を及ぼす。処理時間が2時間未満では効果はなく、8時間を超えると、再結晶化が起きるので好ましくない。
次に、この時効処理後の銅合金板に、500〜750℃にて10〜40秒間の熱処理を施すことにより、熱処理後の表面のビッカース硬さを、時効処理後の表面のビッカース硬さより3〜20Hv低下させ、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて測定したKAMの平均値を1.5〜1.8°の範囲内に収める。
これにより、曲げ加工性とばね限界値とが高レベルでバランスを取れ、十分な機械的強度を保つことが可能となる。
処理温度と処理時間が50℃未満、或いは、10秒未満では、ビッカース硬さの低下が3Hv未満となり、処理温度と処理時間が750℃超える、或いは、40秒を超えると、ビッカース硬さの低下が20Hvを超える。
また、熱処理後は、Zrを過飽和状態に固溶し、緻密な結晶組織を得るためにも、水冷により急冷することが好ましい。
表1に示す組成の溶解・鋳造にて得られた銅合金母材を、表1に示す温度にて熱間圧延を開始し、600℃以上の温度域から40℃/秒の速度で急水冷して溶体化処理を施し、次に、面削、粗圧延、研磨を施して、所定厚さの銅合金板を作製した。
次に、これらの銅合金板を表1に示す圧延率にて冷間圧延を施し、板厚を製品厚の0.5mmとし、表1に示す温度及び時間にて時効処理及び熱処理を施し、50℃/秒の速度で急水冷を施して、実施例1〜10、比較例1〜5に示す銅合金薄板を作製した。
各試料の時効処理後及び熱処理後の表面のビッカース硬さ、KAMを測定した。その結果を表1に示す。
ビッカース硬さは、JIS−Z2244に基づいて測定した。
KAMの測定は、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて、次のように実施した。
10mm×10mmの試料を機械研磨、バフ研磨後、日立ハイテクノロジーズ社製イオンミリング装置で加速電圧6kV、入射角10°、照射時間15分として表面を調整し、日立ハイテクノロジーズ社製SEM(型番「S−3400N」)と、TSL社製のEBSD測定・解析システムOIM(Orientation Imaging Micrograph)を用い、測定領域を六角形の領域(ピクセル)に区切り、区切られた各領域について、試料表面に入射させた電子線の反射電子から菊地パターンを得てピクセルの方位を測定した。測定した方位データを同システムの解析ソフト(ソフト名「OIM Analysis」)を用いて解析し、各種パラメータを算出した。観察条件は、加速電圧25kV、測定面積は300μm×300μmとし、隣接するピクセル間の距離(ステップサイズ)は0.5μmとした。隣接するピクセル間の方位差が5°以上を結晶粒界とみなした。
KAMは結晶粒内のあるピクセルと、結晶粒界を超えない範囲に存在する隣接ピクセルとの方位差の平均値を計算し、測定全面積を構成する全ピクセルにおける平均値として算出した。
Figure 0005060625
次に、各銅合金薄板につき、引張強さ、導電率、曲げ加工性、ばね限界値を測定した。これらの結果を表2に示す。
引張り強度は、JIS5号試験片にて測定した。
導電率は、JIS H0505に基づいて測定した。
曲げ加工性は、JIS H3100に基づきW曲げ試験を行った。曲げ軸を圧延平行方向(Bad Way方向)に取って、試料表面に割れが発生しない最小曲げ半径R(単位:mm)を測定し、板厚t(単位:mm)との比率R/tの値で評価した。
ばね限界値は、JIS H3130に基づき、モーメント式試験により永久たわみ量を測定し、R.T.におけるKb0.1(永久たわみ量0.1mmに対応する固定端における表面最大応力値)を算出した。
Figure 0005060625
これらの結果より、本発明のCu−Zr系銅合金板は、十分な機械的強度を保持しながら曲げ加工性とばね限界値とが高レベルでバランスが取れており、電気及び電子部品への適用に特に適していることがわかる。
以上、本発明の実施形態の製造方法について説明したが、本発明はこの記載に限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。

Claims (3)

  1. 質量%でZrを0.05〜0.2%を含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる銅合金であって、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて測定したKAMの平均値が1.5〜1.8°であり、W曲げ試験で、割れが発生しない最小曲げ半径をR、板厚をtとすると、R/tが0.1〜0.6であり、ばね限界値が420〜520N/mmであることを特徴とする銅合金板。
  2. 質量%でBを0.2〜400ppm、或いは、Coを0.001%〜0.3%含有することを特徴とする請求項1に記載の銅合金板。
  3. 請求項1又は2に記載の銅合金板の製造方法であって、銅合金母材に対して、930〜1030℃で熱間圧延を開始し、600℃以上の温度域から水冷による急冷処理にて溶体化処理を施した後に、冷間圧延を施し、次に320〜460℃にて2〜8時間の時効処理を施し、次に500〜750℃にて10〜40秒間の熱処理を施すことにより、前記熱処理後の銅合金板の表面のビッカース硬さを、前記時効処理後の銅合金板の表面のビッカース硬さより3〜20Hv低下させることを特徴とする銅合金板の製造方法。
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