〔発明が解決しようとする課題〕
一般に、電動式のパワーステアリング装置が発生可能な操舵補助力(アシストトルク)は、有限であると共に、操舵輪の転舵駆動速度が高いほど小さい。換言すれば電動式のパワーステアリング装置がそれに要求される操舵補助力を発生可能な操舵輪の転舵駆動速度の最大値は、操舵補助力が高いほど小さい。
そのため電源電圧が所定値よりも十分に高い状況であっても、操舵比可変装置によって出力部材が入力部材に対し大きく増速駆動されたり、運転者により非常に速い操舵操作が行われたりすることにより、操舵輪の転舵駆動速度が高くされると、所要の操舵補助力が発生しない所謂アシスト切れの状態になる虞れがある。即ち操舵輪の転舵駆動速度が高くなることにより、パワーステアリング装置に要求される操舵補助力が相対的にパワーステアリング装置により発生可能な操舵補助力よりも高くなる虞れがある。
尚アシスト切れの問題は操舵輪の転舵駆動速度の上昇による場合だけでなく、パワーステアリング装置に要求される操舵補助力が上昇する場合にも発生する。またアシスト切れの問題は電源電圧が所定値よりも十分に高い状況であっても発生する。従って上記特許文献1に記載された操舵制御装置に於いて、電源電圧の所定値を高く設定しても、上記操舵輪の転舵駆動速度の上昇に伴うアシスト切れの問題を解消することはできない。
またパワーステアリング装置として高い操舵補助力を発生可能なものを使用すれば、操舵輪の転舵駆動速度若しくは要求される操舵補助力が高くなってもアシスト切れの状態が生じる虞れを低減することができる。しかしその場合には高出力で大型のパワーステアリング装置が必要であり、また高電圧で大容量の電源も必要である。従って操舵制御装置の大型化や高コスト化が避けられず、また操舵制御装置の車両搭載性が低下する。
本発明の主要な目的は、操舵輪の転舵駆動速度若しくはパワーステアリング装置に要求される操舵補助力が高くなることにより、パワーステアリング装置に要求される操舵補助力が相対的にパワーステアリング装置により発生可能な操舵補助力よりも高くなる虞れがあるときには、操舵輪の転舵駆動速度が過大にならないよう操舵比可変装置の制御量を修正することにより、パワーステアリング装置により発生可能な操舵補助力がパワーステアリング装置に要求される操舵補助力よりも低くなってアシスト切れの状態になる虞れを低減することである。
〔課題を解決するための手段及び発明の効果〕
本発明によれば、操舵輪を転舵駆動するための操舵補助力を発生する電動式のパワーステアリング装置と、運転者の操舵操作により駆動される入力部材に対し相対的に出力部材を駆動することにより運転者の操舵操作量に対する操舵輪の舵角変更運動量の比である操舵比を変更する操舵比可変装置と、操舵比可変装置を制御する制御手段とを有し、運転者の操舵操作の伝達経路について見て操舵比可変装置はパワーステアリング装置よりも入力部材の側に配設された車両の操舵制御装置に於いて、パワーステアリング装置及び操舵比可変装置は共通の電源より供給される電気エネルギーを使用して作動し、制御手段はパワーステアリング装置が所要の操舵補助力を発生することが可能な操舵輪の転舵駆動速度のうちの最大値と操舵輪の実際の転舵駆動速度との差の大きさが小さい状況のときには、転舵駆動速度の差の大きさが大きい状況のときに比して、操舵比可変装置による入力部材に対する出力部材の相対駆動速度の大きさを小さくすることを特徴とする車両の操舵制御装置、又は操舵輪を転舵駆動するための操舵補助力を発生する電動式のパワーステアリング装置と、運転者の操舵操作により駆動される入力部材に対し相対的に出力部材を駆動することにより運転者の操舵操作量に対する操舵輪の舵角変更運動量の比である操舵比を変更する操舵比可変装置と、操舵比可変装置を制御する制御手段とを有し、運転者の操舵操作の伝達経路について見て操舵比可変装置はパワーステアリング装置よりも入力部材の側に配設された車両の操舵制御装置に於いて、パワーステアリング装置及び操舵比可変装置は共通の電源より供給される電気エネルギーを使用して作動し、制御手段はパワーステアリング装置が所要の操舵補助力を発生することが可能な操舵輪の転舵駆動速度のうちの最大値と操舵輪の実際の転舵駆動速度との差の大きさが小さい状況のときには転舵駆動速度の差の大きさが大きい状況のときに比して小さくなるよう相対駆動速度の第一の制限値を設定し、操舵輪が所要の転舵駆動速度にて転舵される際にパワーステアリング装置が発生することが可能な操舵補助力のうちの最大値とパワーステアリング装置の実際の操舵補助力との差の大きさが小さい状況のときには操舵補助力の差の大きさが大きい状況のときに比して小さくなるよう相対駆動速度の第二の制限値を設定し、第一及び第二の制限値のうちの小さい方の値を最終の制限値に設定し、操舵比可変装置による相対駆動速度の大きさが最終の制限値を越える状況のときには相対駆動速度の大きさを最終の制限値に制限するが、操舵比可変装置による相対駆動速度の大きさが最終の制限値以下である状況のときには相対駆動速度の大きさを制限しないことを特徴とする車両の操舵制御装置が提供される。
上記前者の構成によれば、パワーステアリング装置が所要の操舵補助力を発生することが可能な操舵輪の転舵駆動速度のうちの最大値と操舵輪の実際の転舵駆動速度との差の大きさが小さい状況のときには、転舵駆動速度の差の大きさが大きい状況のときに比して、操舵比可変装置による入力部材に対する出力部材の相対駆動速度の大きさが小さくされる。従って相対駆動速度の大きさが小さくされない場合に比して操舵輪の転舵駆動速度を確実に低くすることができ、これにより緊急回避操舵時の如く操舵輪の転舵駆動速度が高くなることに起因してパワーステアリング装置により発生可能な操舵補助力がパワーステアリング装置に要求される操舵補助力よりも低くなってアシスト切れの状態になる虞れを確実に低減することができる。
また上記前者の構成によれば、パワーステアリング装置が所要の操舵補助力を発生することが可能な操舵輪の転舵駆動速度のうちの最大値と操舵輪の実際の転舵駆動速度との差の大きさが大きい状況のときには、出力部材の相対駆動速度の大きさは小さくされない。従って操舵輪の転舵駆動速度が高くパワーステアリング装置に必要な電力が高くても、上記差の大きさが大きくアシスト切れの状態になる虞れがない状況に於いて、相対駆動速度の大きさが不必要に低下されること及びこれに起因して操舵比可変装置による操舵比が不必要に低下されることを確実に防止することができる。
また上記後者の構成によれば、パワーステアリング装置が所要の操舵補助力を発生することが可能な操舵輪の転舵駆動速度のうちの最大値と操舵輪の実際の転舵駆動速度との差の大きさが小さい状況のときには転舵駆動速度の差の大きさが大きい状況のときに比して小さくなるよう、また操舵輪が所要の転舵駆動速度にて転舵される際にパワーステアリング装置が発生することが可能な操舵補助力のうちの最大値とパワーステアリング装置の実際の操舵補助力との差の大きさが小さい状況のときには操舵補助力の差の大きさが大きい状況のときに比して小さくなるよう、最終の制限値が設定され、操舵比可変装置による相対駆動速度の大きさが最終の制限値を越える状況のときには相対駆動速度の大きさが最終の制限値に制限される。
従って操舵比可変装置による相対駆動速度の大きさが最終の制限値を越えることを確実に防止することができ、これにより緊急回避操舵時の如く操舵輪の転舵駆動速度が高くなること若しくは据え切り時の如くパワーステアリング装置に要求される操舵補助力が高くなることに起因してパワーステアリング装置により発生可能な操舵補助力がパワーステアリング装置に要求される操舵補助力よりも低くなってアシスト切れの状態になることを確実に防止することができる。
また上記後者の構成によれば、操舵比可変装置による相対駆動速度の大きさが最終の制限値以下である状況のときには相対駆動速度の大きさが制限されないので、操舵輪の転舵駆動速度が高くなること若しくはパワーステアリング装置に要求される操舵補助力が高くなることに起因してアシスト切れの状態になる虞れがない状況に於いて、相対駆動速度の大きさが不必要に制限されること及びこれに起因して操舵比可変装置による操舵比の制御が不必要に制限されることを確実に防止することができる。
また上記構成に於いて、制御手段は転舵駆動速度の差の大きさが小さいときには転舵駆動速度の差の大きさが大きいときに比して小さくなるよう相対駆動速度の制限値を設定し、操舵比可変装置による相対駆動速度の大きさが制限値を越えるときには相対駆動速度の大きさを制限値に制限するが、操舵比可変装置による相対駆動速度の大きさが制限値以下であるときには相対駆動速度の大きさを制限しないようになっていてよい。
この構成によれば、転舵駆動速度の差の大きさが小さいときには転舵駆動速度の差の大きさが大きいときに比して小さくなるよう相対駆動速度の制限値が設定され、操舵比可変装置による相対駆動速度の大きさが制限値を越えるときには相対駆動速度の大きさが制限値に制限される。従って操舵比可変装置による相対駆動速度の大きさが制限値を越えることを確実に防止することができ、これにより操舵輪の転舵駆動速度が高くなることに起因してパワーステアリング装置により発生可能な操舵補助力がパワーステアリング装置に要求される操舵補助力よりも低くなってアシスト切れの状態になることを確実に防止することができる。
また上記構成に於いて、制御手段は操舵輪が所要の転舵駆動速度にて転舵される際にパワーステアリング装置が発生することが可能な操舵補助力のうちの最大値とパワーステアリング装置の実際の操舵補助力との差の大きさが小さいときには、操舵補助力の差の大きさが大きいときに比して、操舵比可変装置による入力部材に対する出力部材の相対駆動速度の大きさを小さくするようになっていてよい。
この構成によれば、操舵輪が所要の転舵駆動速度にて転舵される際にパワーステアリング装置が発生することが可能な操舵補助力のうちの最大値とパワーステアリング装置の実際の操舵補助力との差の大きさが小さいときには、操舵補助力の差の大きさが大きいときに比して、操舵比可変装置による入力部材に対する出力部材の相対駆動速度の大きさが小さくされる。従って相対駆動速度の大きさが小さくされない場合に比して操舵輪の転舵駆動速度を確実に低くすることができ、これにより据え切り時の如くパワーステアリング装置に要求される操舵補助力が高くなることに起因してパワーステアリング装置により発生可能な操舵補助力がパワーステアリング装置に要求される操舵補助力よりも低くなってアシスト切れの状態になる虞れを確実に低減することができる。
また上記構成に於いて、制御手段は操舵補助力の差の大きさが小さいときには操舵補助力の差の大きさが大きいときに比して小さくなるよう相対駆動速度の制限値を設定し、操舵比可変装置による相対駆動速度の大きさが制限値を越えるときには相対駆動速度の大きさを制限値に制限するが、操舵比可変装置による相対駆動速度の大きさが制限値以下であるときには相対駆動速度の大きさを制限しないようになっていてよい。
この構成によれば、操舵補助力の差の大きさが小さいときには操舵補助力の差の大きさが大きいときに比して小さくなるよう相対駆動速度の制限値が設定され、操舵比可変装置による相対駆動速度の大きさが制限値を越えるときには相対駆動速度の大きさが制限値に制限される。従って操舵比可変装置による相対駆動速度の大きさが制限値を越えることを確実に防止することができ、これによりパワーステアリング装置に要求される操舵補助力が高くなることに起因してパワーステアリング装置により発生可能な操舵補助力がパワーステアリング装置に要求される操舵補助力よりも低くなってアシスト切れの状態になることを確実に防止することができる。
また上記構成に於いて、制御手段は前記電源が供給可能な電気エネルギーが低いときには電源が供給可能な電気エネルギーが高いときに比して相対駆動速度の大きさを小さくする度合を大きくするようになっていてよい。
一般に、操舵輪の任意の転舵駆動速度について見て、電動式のパワーステアリング装置が発生可能な操舵補助力の最大値は、電源が供給可能な電気エネルギーが低いときには電源が供給可能な電気エネルギーが高いときに比して小さい。従って電源が供給可能な電気エネルギーが低下することに起因してパワーステアリング装置により発生可能な操舵補助力がパワーステアリング装置に要求される操舵補助力よりも低くなる虞れがある。よって電源が供給可能な電気エネルギーが低下することに起因するアシスト切れの虞れをも低減するためには、電源が供給可能な電気エネルギーが低いときには電源が供給可能な電気エネルギーが高いときに比して、操舵輪の転舵駆動速度の大きさが低下するよう操舵比可変装置による相対駆動速度の大きさが低下されることが好ましい。
上記構成によれば、電源が供給可能な電気エネルギーが低いときには電源が供給可能な電気エネルギーが高いときに比して相対駆動速度の大きさを小さくする度合が大きくされる。従って電源が供給可能な電気エネルギーが低くパワーステアリング装置が発生可能な操舵補助力が小さいときには、電源が供給可能な電気エネルギーが高くパワーステアリング装置が発生可能な操舵補助力が大きいときに比して、相対駆動速度の大きさを確実に小さくすることできる。よって電源が供給可能な電気エネルギーの変動に拘らず確実にアシスト切れの虞れを低減することができる。
また上記構成に於いて、制御手段は操舵輪の舵角の大きさが大きいときには操舵輪の舵角の大きさが小さいときに比して相対駆動速度の大きさを小さくする度合を大きくするようになっていてよい。
一般に、操舵輪の舵角の大きさが大きいほど、操舵輪のセルフアライニングトルクに起因して電動パワーステアリング装置の負荷が高くなるので、電動パワーステアリング装置に要求されるアシストトルクが高くなり、電動パワーステアリング装置に必要とされる電力が高くなる。従って操舵輪の舵角の大きさが大きいほど、アシスト切れが生じ易くなる。
上記構成によれば、操舵輪の舵角の大きさが大きいときには操舵輪の舵角の大きさが小さいときに比して相対駆動速度の大きさを小さくする度合が大きくされるので、電動パワーステアリング装置に必要とされる電力が高いときには操舵輪の転舵速度を確実に低くすることができる。よってパワーステアリング装置が発生し得る操舵補助力を高くすることができ、これにより電動パワーステアリング装置に必要とされる電力が高くなる状況に於けるアシスト切れを効果的に防止することができる。
また上記構成に於いて、制御手段は路面の摩擦係数の情報を取得し、路面の摩擦係数が低いときには路面の摩擦係数が高いときに比して相対駆動速度の大きさを小さくする度合を小さくするようになっていてよい。
また一般に、操舵輪が転舵される際の電動パワーステアリング装置の負荷は路面の摩擦係数によって異なり、路面の摩擦係数が低いほど電動パワーステアリング装置の負荷が低くなるので、電動パワーステアリング装置に必要とされる電力も低くなる。
上記構成によれば、路面の摩擦係数が低いときには路面の摩擦係数が高いときに比して相対駆動速度の大きさを小さくする度合が小さくされるので、路面の摩擦係数が高い状況に於いて電動パワーステアリング装置の負荷が高くなる場合のアシスト切れを効果的に防止しつつ、路面の摩擦係数が低い状況に於いて操舵比可変装置による相対駆動速度の大きさが不必要に小さくされ操舵輪の転舵駆動速度が不必要に低くされることを効果的に防止することができる。
また上記構成に於いて、制御手段は車両の進行方向変更の緊急度が高いときには車両の進行方向変更の緊急度が低いときに比して相対駆動速度の大きさを小さくする度合を小さくすると共に、電源より供給される電気エネルギーを使用して作動する他の装置の出力を制限するようになっていてよい。
この構成によれば、車両の進行方向変更の緊急度が高いときには車両の進行方向変更の緊急度が低いときに比して相対駆動速度の大きさを小さくする度合が小さくされるので、相対駆動速度の低下を抑制して操舵輪を効率的に転舵し、これにより車輌の進行方向を効果的に変更することができる。また電源より供給される電気エネルギーを使用して作動する他の装置の出力が制限され、他の装置による電源の電気エネルギーの消費が低減されるので、電源よりパワーステアリング装置へ供給される電気エネルギーが不足する虞れを低減し、これによりアシスト切れの虞れを効果的に低減することができる。
また上記構成に於いて、制御手段は車速の情報を取得し、車速が低いときには車速が高いときに比して相対駆動速度の大きさを小さくするようになっていてよい。
一般に、低車速域に於いては操舵輪の転舵駆動に対する路面よりの反力が大きいので、パワーステアリング装置の操舵補助力の大きさは中高車速域に比して大きくなる。また据え切り等の操舵輪の転舵駆動角度の大きさが大きい操舵が行われるのは低車速域であるので、操舵比可変装置により制御される操舵比は低車速域に於いては増速の操舵比に制御される。よって低車速域に於いては中高車速域に比して、操舵比可変装置により操舵比が増速制御されること及びパワーステアリング装置の操舵補助力の大きさが大きくなることに起因してアシスト切れの状態になる虞れが高く、その虞れは車速が低いときには車速が高いときに比して高い。
上記構成によれば、車速の情報が取得され、車速が低いときには車速が高いときに比して相対駆動速度の大きさが小さくされるので、車速に応じて相対駆動速度の大きさが増減されない場合に比して、パワーステアリング装置の操舵補助力の大きさが比較的大きい状況に於いて操舵輪の転舵駆動速度が高くなることに起因してアシスト切れの状態になる虞れを効果的に低減することができる。
また上記構成に於いて、制御手段は電源が供給可能な電気エネルギーが低いときには電源が供給可能な電気エネルギーが高いときに比して制限値が小さくなるよう、電源が供給可能な電気エネルギーに応じて制限値を可変設定するようになっていてよい。
この構成によれば、電源が供給可能な電気エネルギーが低いときには電源が供給可能な電気エネルギーが高いときに比して制限値が小さくなるよう、電源が供給可能な電気エネルギーに応じて制限値が可変設定される。従って電源が供給可能な電気エネルギーが低くパワーステアリング装置が発生可能な操舵補助力が小さいときには、電源が供給可能な電気エネルギーが高くパワーステアリング装置が発生可能な操舵補助力が大きいときに比して、相対駆動速度の大きさを確実に小さくすることできる。よって電源が供給可能な電気エネルギーの変動に拘らず確実にアシスト切れを防止することができる。
また上記構成に於いて、制御手段は電源が供給可能な電気エネルギーが低いときには電源が供給可能な電気エネルギーが高いときに比して第一の制限値、第二の制限値、最終の制限値の少なくとも一つが小さくなるよう、電源が供給可能な電気エネルギーに応じて少なくとも一つの制限値を可変設定するようになっていてよい。
この構成によれば、電源が供給可能な電気エネルギーが低いときには電源が供給可能な電気エネルギーが高いときに比して第一の制限値、第二の制限値、最終の制限値の少なくとも一つが小さくなるよう、電源が供給可能な電気エネルギーに応じて少なくとも一つの制限値が可変設定される。従って電源が供給可能な電気エネルギーが低くパワーステアリング装置が発生可能な操舵補助力が小さいときには、電源が供給可能な電気エネルギーが高くパワーステアリング装置が発生可能な操舵補助力が大きいときに比して、相対駆動速度の大きさを確実に小さくすることできる。よって電源が供給可能な電気エネルギーの変動に拘らず確実にアシスト切れを防止することができる。
また上記構成に於いて、制御手段は車速の情報を取得し、車速が低いときには車速が高いときに比して制限値を小さくするようになっていてよい。
また上記構成に於いて、制御手段は車速の情報を取得し、車速が低いときには車速が高いときに比して第一の制限値、第二の制限値、最終の制限値の少なくとも一つを小さくするようになっていてよい。
これらの構成によれば、アシスト切れの状態になる虞れがない状況に於いて相対駆動速度の大きさが不必要に制限されること及びこれに起因して操舵比可変装置による操舵比の制御が不必要に制限されることを確実に防止しつつ、車速が低い状況に於いて操舵輪が比較的速い速度にて転舵駆動されることによりパワーステアリング装置に要求される操舵補助力の大きさが高くなることに起因してアシスト切れの状態になることを効果的に防止することができる。
また上記構成に於いて、制御手段は車速が第一の車速基準値以下であり且つ操舵速度の大きさが第一の操舵速度基準値以上であるときには、車速が第一の車速基準値よりも高いとき若しくは操舵速度の大きさが第一の操舵速度基準値よりも小さいときに比して相対駆動速度の大きさを小さくするようになっていてよい。
一般に、据え切り操舵時の如く車速が低い状況に於いて操舵輪が大きい角度範囲に亘り比較的速く転舵される場合には、パワーステアリング装置に要求される操舵補助力の大きさが大きい状況に於いて更に大きくなることに起因してアシスト切れの状態になる虞れが高くなる。従って車速が低く且つ操舵速度の大きさが大きいか否かの判定によりアシスト切れの虞れが高いか否かを判定することができる。
上記構成によれば、車速が第一の車速基準値以下であり且つ操舵速度の大きさが第一の操舵速度基準値以上であり、アシスト切れの虞れが高いときには、車速が第一の車速基準値よりも高く若しくは操舵速度の大きさが第一の操舵速度基準値よりも小さく、アシスト切れの虞れが低いときに比して操舵比可変装置による相対駆動速度の大きさが小さくされる。従ってアシスト切れの状態になる虞れがない状況に於いて相対駆動速度の大きさが不必要に小さくされること及びこれに起因して操舵比可変装置による操舵比の制御が不必要に低下されることを確実に防止しつつ、パワーステアリング装置に要求される操舵補助力の大きさが更に大きくなることに起因してアシスト切れの状態になる虞れを効果的に低減することができる。
また上記構成に於いて、制御手段は車速が第一の車速基準値以下であり且つ操舵速度の大きさが第一の操舵速度基準値以上であるときには、車速が第一の車速基準値よりも高いとき若しくは操舵速度の大きさが第一の操舵速度基準値よりも小さいときに比して小さくなるよう相対駆動速度の制限値を設定し、操舵比可変装置による相対駆動速度の大きさが制限値を越えるときには相対駆動速度の大きさを制限値に制限するが、操舵比可変装置による相対駆動速度の大きさが制限値以下であるときには相対駆動速度の大きさを制限しないようになっていてよい。
この構成によれば、アシスト切れの状態になる虞れがない状況に於いて相対駆動速度の大きさが不必要に制限されること及びこれに起因して操舵比可変装置による操舵比の制御が不必要に制限されることを確実に防止しつつ、パワーステアリング装置に要求される操舵補助力の大きさが更に大きくなることに起因してアシスト切れの状態になることを効果的に防止することができる。
また上記構成に於いて、制御手段は車速が第一の車速基準値よりも大きい第二の車速基準値以上であり且つ操舵速度の大きさが第一の操舵速度基準値よりも大きい第二の操舵速度基準値以上であるときには、車速が第二の車速基準値よりも低いとき若しくは操舵速度の大きさが第二の操舵速度基準値よりも小さいときに比して相対駆動速度の大きさを小さくするようになっていてよい。
一般に、障害物に衝突することを回避する緊急回避操舵時、特に緊急回避のための切り増し操舵後の切り戻し操舵時の如く、車速が高い状況に於いて操舵輪が非常に高い速度にて比較的大きい角度範囲に亘り転舵される場合には、パワーステアリング装置の操舵補助力の大きさは小さいが操舵輪の転舵駆動速度が非常に高くなることに起因してアシスト切れの状態になる虞れが高くなる。従って車速が高く且つ操舵速度の大きさが非常に大きいか否かの判定によりアシスト切れの虞れが高いか否かを判定することができる。
上記構成によれば、車速が第一の車速基準値よりも大きい第二の車速基準値以上であり且つ操舵速度の大きさが第一の操舵速度基準値よりも大きい第二の操舵速度基準値以上であり、アシスト切れの虞れが高いときには、車速が第二の車速基準値よりも低く若しくは操舵速度の大きさが第二の操舵速度基準値よりも小さく、アシスト切れの虞れが低いときに比して操舵比可変装置による相対駆動速度の大きさが小さくされる。従ってアシスト切れの状態になる虞れがない状況に於いて相対駆動速度の大きさが不必要に小さくされること及びこれに起因して操舵比可変装置による操舵比の制御が不必要に制限されることを確実に防止しつつ、パワーステアリング装置の操舵補助力の大きさは小さいが操舵輪の転舵駆動速度が非常に高くなることに起因してアシスト切れの状態になる虞れを効果的に低減することができる。
また上記構成に於いて、制御手段は車速が第一の車速基準値よりも大きい第二の車速基準値以上であり且つ操舵速度の大きさが第一の操舵速度基準値よりも大きい第二の操舵速度基準値以上であるときには、車速が第二の車速基準値よりも低いとき若しくは操舵速度の大きさが第二の操舵速度基準値よりも小さいときに比して小さくなるよう相対駆動速度の制限値を設定し、操舵比可変装置による相対駆動速度の大きさが制限値を越えるときには相対駆動速度の大きさを制限値に制限するが、操舵比可変装置による相対駆動速度の大きさが制限値以下であるときには相対駆動速度の大きさを制限しないようになっていてよい。
この構成によれば、アシスト切れの状態になる虞れがない状況に於いて相対駆動速度の大きさが不必要に制限されること及びこれに起因して操舵比可変装置による操舵比の制御が不必要に制限されることを確実に防止しつつ、パワーステアリング装置の操舵補助力の大きさは小さいが操舵輪の転舵駆動速度が非常に高くなることに起因してアシスト切れの状態になることを効果的に防止することができる。
また上記構成に於いて、パワーステアリング装置は発生可能な操舵補助力の最大値が操舵輪の転舵駆動速度の大きさが大きいほど小さい出力特性を有するようになっていてよい。
また上記構成に於いて、操舵比可変装置は運転者の操舵操作により駆動される入力軸に対し相対的に出力軸を回転駆動することにより操舵比を変更するようになっていてよい。
また上記構成に於いて、制御手段は少なくとも車速に基づいて目標ステアリングギヤ比を演算し、目標ステアリングギヤ比に基づいて出力軸の目標回転角を演算し、出力軸の回転角が目標回転角になるよう入力軸に対し相対的に出力軸を回転駆動するようになっていてよい。
また上記構成に於いて、制御手段は転舵駆動速度の差の大きさが小さいときには、転舵駆動速度の差の大きさが大きいときに比して、入力軸に対する出力軸の相対回転速度の大きさを小さくするようになっていてよい。
また上記構成に於いて、制御手段は電源が供給可能な電気エネルギーが低いときには電源が供給可能な電気エネルギーが高いときに比して転舵駆動速度の差の大きさが小さくなるよう、電源が供給可能な電気エネルギーに応じて転舵駆動速度の差の大きさを修正するようになっていてよい。
また上記構成に於いて、制御手段は操舵比可変装置による操舵比の変更が行われないと仮定した場合に於ける入力部材の駆動速度に基づいて操舵輪の実際の転舵駆動速度を推定するようになっていてよい。
また上記構成に於いて、制御手段は操舵補助力とその操舵補助力を発生可能な操舵輪の転舵駆動速度範囲の最大値との関係を記憶する手段を有し、パワーステアリング装置が発生する操舵補助力に基づいて上記関係より操舵輪の転舵駆動速度範囲の最大値を演算するようになっていてよい。
また上記構成に於いて、制御手段は電源が供給可能な電気エネルギーが低いときには電源が供給可能な電気エネルギーが高いときに比して上記操舵輪の転舵駆動速度範囲の最大値が小さくなるよう、電源が供給可能な電気エネルギーに応じて上記関係を修正するようになっていてよい。
また上記構成に於いて、制御手段は操舵補助力の差の大きさが小さいときには、操舵補助力の差の大きさが大きいときに比して、入力軸に対する出力軸の相対回転速度の大きさを小さくするようになっていてよい。
また上記構成に於いて、制御手段は電源が供給可能な電気エネルギーが低いときには電源が供給可能な電気エネルギーが高いときに比して操舵補助力の差の大きさが小さくなるよう、電源が供給可能な電気エネルギーに応じて操舵補助力の差の大きさを修正するようになっていてよい。
また上記構成に於いて、制御手段は操舵輪の転舵駆動速度とその転舵駆動速度にてパワーステアリング装置が発生可能な操舵補助力の最大値との関係を記憶する手段を有し、操舵輪の転舵駆動速度に基づいて前記関係よりパワーステアリング装置が発生可能な操舵補助力の最大値を演算するようになっていてよい。
また上記構成に於いて、制御手段は電源が供給可能な電気エネルギーが低いときには電源が供給可能な電気エネルギーが高いときに比して上記操舵輪の転舵駆動速度範囲の最大値が小さくなるよう、電源が供給可能な電気エネルギーに応じて上記関係を修正するようになっていてよい。
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を幾つかの好ましい実施例について詳細に説明する。
第一の実施例
図1は本発明による車両の操舵制御装置の第一の実施例を示す概略構成図である。
図1に於いて、10は車両12の操舵制御装置を全体的に示しており、操舵制御装置10はラック・アンド・ピニオン型の電動式のパワーステアリング装置14及び操舵比可変(VGRS)装置16を含んでいる。パワーステアリング装置14及び操舵比可変装置16はそれぞれ電動パワーステアリング(EPS)制御装置18及び操舵比制御装置20により制御される。
尚図1には詳細に示されていないが、電動パワーステアリング制御装置18及び操舵比制御装置20はそれぞれCPUとROMとRAMと入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続されたマイクロコンピュータ及び駆動回路よりなっていてよい。また電動パワーステアリング制御装置18及び操舵比制御装置20は必要に応じて相互に情報の授受を行う。
また図1に於いて、22FL及び22FRはそれぞれ車両12の左右の前輪を示し、22RL及び22RRはそれぞれ車両の左右の後輪を示している。操舵輪である左右の前輪22FL及び22FRは運転者によるステアリングホイール24の操作に応答してパワーステアリング装置14が駆動されることによりラックバー26及びタイロッド28L及び28Rを介して転舵駆動される。
図示の実施例に於いては、パワーステアリング装置14はラック同軸型の電動式のパワーステアリング装置であり、電動機32と、電動機32の回転トルクをラックバー26の往復動方向の力に変換する例えばボールねじ式の変換機構34とを有する。パワーステアリング装置14はハウジング36に対し相対的にラックバー26を駆動する補助操舵力を発生することにより、運転者の操舵負担を軽減する補助操舵トルクを発生する。パワーステアリング装置14は図2に示されている如く発生可能な操舵補助トルクの最大値が操舵輪である左右前輪の転舵駆動速度の大きさが大きいほど小さい出力特性を有する。
尚発生可能な操舵補助トルクの最大値と操舵輪の転舵駆動速度との関係はパワーステアリング装置によって異なり、パワーステアリング装置へ電力を供給する電源の構成によっても異なる。また本発明の操舵制御装置に於けるパワーステアリング装置は、電動式に作動すると共に、上記出力特性を有するものである限り、当技術分野に於いて公知の任意の構成のものであってよい。
ステアリングホイール24はアッパステアリングシャフト38、操舵比可変装置16、ロアステアリングシャフト40、ユニバーサルジョイント42を介してパワーステアリング装置14のピニオンシャフト44に駆動接続されている。図示の実施例に於いては、操舵比可変装置16はハウジング46Aの側にてアッパステアリングシャフト38の下端に連結され、回転子46Bの側にてロアステアリングシャフト40の上端に連結された操舵比可変転舵駆動用の電動機46を含んでいる。
かくして操舵比可変装置16はアッパステアリングシャフト38に対し相対的にロアステアリングシャフト40を回転駆動することにより、ステアリングホイール24の回転角度に対する操舵輪である左右の前輪22FL及び22FRの舵角の比、即ち操舵比(ステアリングギヤ比の逆数)を変化させるステアリングギヤ比可変装置として機能すると共に、必要に応じて運転者の操舵に関係なく左右の前輪22FL及び22FRをステアリングホイール24に対し相対的に補助転舵駆動する自動転舵装置としても機能する。
尚電動機46が回転しない状況に於いては、ロアステアリングシャフト40はアッパステアリングシャフト38に対し相対的に回転せず、アッパステアリングシャフト38及びロアステアリングシャフト40はあたかも一つのステアリングシャフトの如く回転する。また図1には示されていないが、操舵比可変装置16はロック装置を有し、ロック装置は操舵比可変装置16が正常に作動可能であるときには非作動状態に維持され、操舵比可変装置16が正常に作動できないときには作動状態にもたらされ、これによりアッパステアリングシャフト38に対し相対的にロアステアリングシャフト40が回転することを阻止する。
図示の実施例に於いては、アッパステアリングシャフト38には該アッパステアリングシャフトの回転角度を操舵角θとして検出する操舵角センサ50及び操舵トルクTsを検出するトルクセンサ52が設けられている。操舵比可変装置16にはハウジング46A及び回転子46Bの相対回転角度を検出することによりアッパステアリングシャフト38に対するロアステアリングシャフト40の相対回転角度θreを検出する回転角度センサ54が設けられている。操舵角センサ50及び回転角度センサ54の出力は操舵比制御装置20へ供給される。尚回転角度センサ54はロアステアリングシャフト40の回転角度θaを検出するセンサに置き換えられ、相対回転角度θreは操舵角の差θa−θとして求められてもよい。
また操舵比制御装置20にはエンジン制御装置56よりエンジン回転数Neを示す信号、電源制御装置58より電源60の電圧Vb及び電源60のバッテリの劣化度Dbを示す信号が入力される。更に操舵比制御装置20には電動パワーステアリング制御装置18よりパワーステアリング装置14の電動機32へ供給される電流(アシスト電流)Ipsを示す信号が入力される。劣化度Dbは電源のバッテリの経時変化等により充電容量が低下するほど高くなる値である限り、当技術分野に於いて公知の任意の要領にて演算される値であってよい。
一方電動パワーステアリング制御装置18にはトルクセンサ52により検出された操舵トルクTsを示す信号が入力されると共に、車速センサ62により検出された車速Vを示す信号が入力される。車速Vを示す信号は電動パワーステアリング制御装置18より操舵比制御装置20へ出力される。
電源60はパワーステアリング装置14及び操舵比可変装置16に共通の電源であり、図には示されていないエンジンにより駆動されるオルタネータにより発電された電気により充電される。電動パワーステアリング制御装置18は電源60より自らの駆動回路を経てパワーステアリング装置14の電動機32へ供給される駆動電流の電流値を制御することにより、後述の如く補助操舵力を制御する。操舵比制御装置20は電源60より自らの駆動回路を経て操舵比可変装置16の電動機46へ供給される駆動電流の電圧値を制御することにより、後述の如く操舵比を制御する。
電動パワーステアリング制御装置18は操舵トルクTsに基づいて図3に示されたグラフに対応するマップより基本目標アシストトルクTabを演算し、車速Vに基づいて図4に示されたグラフに対応するマップより車速係数Kvを演算し、車速係数Kvと基本目標アシストトルクTabとの積として目標アシストトルクTatを演算し、アシストトルクTaが目標アシストトルクTatになるようパワーステアリング装置14の電動機32を制御する。尚パワーステアリング装置14の制御自体は本発明の要旨をなすものではなく、車速Vが低いときには車速Vが高いときに比して補助操舵力の大きさが大きくなるよう制御される限り、当技術分野に於いて公知の任意の要領にて制御されてよい。
操舵比制御装置20は車速Vに基づいて操舵比可変装置16の目標ステアリンクギヤ比Rgtを演算する。この場合目標ステアリンクギヤ比Rgtは車速Vが低い領域に於いては標準値Rgoよりも大きい値になり、逆に車速Vが高い領域に於いては標準値Rgoよりも小さい値になるよう演算される。従って車速Vが低い領域に於いては操舵比可変装置16の速度比が増速の速度比になり、逆に車速Vが高い領域に於いては操舵比可変装置16の速度比が減速の速度比になる。
また操舵比制御装置20は操舵角θ及び目標ステアリンクギヤ比Rgtに基づいてアッパステアリングシャフト38に対するロアステアリングシャフト40の目標相対角度θptを演算する。更に操舵比制御装置20は操舵角θ及び相対回転角度θreに基づいてアッパステアリングシャフト38に対するロアステアリングシャフト40の実際の相対角度θpaを演算し、目標相対角度θptと実際の相対角度θpaとの偏差が0になるよう操舵比可変装置16の電動機46を制御する。
特に第一の実施例に於いては、操舵比制御装置20はパワーステアリング装置14のアシストトルクTaに基づいて図2のグラフに対応するマップよりロアステアリングシャフト40の最大許容回転速度(限界回転速度)θpdmaxを演算し、ロアステアリングシャフト40の最大許容回転速度θpdmaxとロアステアリングシャフト40の実際の回転速度θpdとの偏差θpdmax−θpdを回転速度マージン(回転速度余裕量)Mpdとして演算する。そして操舵比制御装置20は回転速度マージンMpdが小さいほど小さくなるようロアステアリングシャフト40の単位時間当りの角度変化制限値Δθplimを演算し、ロアステアリングシャフト40の目標相対角度θptと実際の相対角度θpaとの偏差に基づく単位時間当りの目標角度変化量Δθptを演算する。
更に操舵比制御装置20は目標角度変化量Δθptの大きさが角度変化制限値Δθplimを越えるときには、目標角度変化量Δθptの大きさが角度変化制限値Δθplimになるよう目標角度θptを修正するが、目標角度変化量Δθptの大きさが角度変化制限値Δθplim以下であるときには目標角度θptを修正しない。即ち操舵比制御装置20は目標角度変化量Δθptの大きさが角度変化制限値Δθplimを越えないよう、必要に応じて目標角度θptを修正する。
また第一の実施例に於いては、操舵比制御装置20はエンジン回転数Ne、電源60の電圧Vb、及び電源60のバッテリの劣化度Dbに基づいて補正係数Kb(0よりも大きく1よりも小さい値)を演算する。この場合補正係数Kbは、エンジン回転数Neに基づいて推定されるオルタネータによる発電が行われていない可能性が高いほど小さくなる。また補正係数Kbは、電源60の電圧Vb及び電源60のバッテリの劣化度Dbに基づいて推定される供給可能な電気エネルギーが低いほど小さくなる。そして操舵比制御装置20はロアステアリングシャフト40の最大許容回転速度θpdmaxに補正係数Kbを乗算することにより、最大許容回転速度θpdmaxを補正係数Kbにて補正する。
図5は第一の実施例による操舵制御装置10の操舵比制御装置20の機能ブロック図であり、図6は図5に示された回転速度マージン演算部を詳細に示す機能ブロック図であり、図7は図5に示された目標相対角度演算部、角度変化制限値演算部及び最終目標角度演算部を詳細に示す機能ブロック図であり、図8は図5に示された最終目標角度演算部の目標角度制限部により達成される目標角度制限ルーチンを示すフローチャートである。尚図5乃至図7に示された機能ブロック図による制御及び図8に示されたフローチャートによる制御は、図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。
図5に示されている如く、操舵比制御装置20は目標相対角度演算部70と、目標相対角度変化量演算部72と、回転速度マージン演算部74と、角度変化制限値演算部76と、最終目標相対角度演算部78とを有している。
後に詳細に説明する如く、目標相対角度演算部70は操舵角θ及び車速Vに基づいてアッパステアリングシャフト38に対するロアステアリングシャフト40の目標相対角度θptを演算し、目標相対角度変化量演算部72は目標相対角度θptと実際の相対角度θpaとの偏差としてロアステアリングシャフト40の目標相対角度変化量Δθptを演算する。回転速度マージン演算部74はアシスト電流Ips、操舵角θの時間微分値である操舵角速度θd等に基づいて回転速度マージンMpdを演算する。
角度変化制限値演算部76は回転速度マージンMpdに基づいてアッパステアリングシャフト38に対するロアステアリングシャフト40の単位時間当りの角度変化制限値Δθplimを演算する。更に最終目標相対角度演算部78はアッパステアリングシャフト38に対するロアステアリングシャフト40の目標相対角度θpt、ロアステアリングシャフト40の目標相対角度変化量Δθpt、角度変化制限値Δθplimに基づいてロアステアリングシャフト40の最終の目標相対角度θptを演算する。
図6に示されている如く、回転速度マージン演算部74は乗算器80を有し、乗算器80はアシスト電流Ipsにトルク定数Kpsを乗算することにより、パワーステアリング装置14のアシストトルクTaを演算する。アシストトルクTaは最大許容回転速度演算部82へ入力され、最大許容回転速度演算部82はアシストトルクTaに基づいてマップ84よりロアステアリングシャフト40の最大許容回転速度θpdmaxを演算する。尚マップ84はアシストトルクTaと最大許容回転速度θpdmaxとの関係を記憶するものであり、図2に対応している。
また図6に示されている如く、回転速度マージン演算部74は補正係数演算部86、88、90を有している。補正係数演算部86はエンジン回転数Neと補正係数K1との関係を記憶するマップ92を有し、エンジン回転数Neが低いときにはエンジン回転数Neが高いときに比して小さくなるよう、エンジン回転数Neに基づいてマップ92より補正係数K1を演算する。
補正係数演算部88は電源60の電圧Vbと補正係数K2との関係を記憶するマップ94を有し、電圧Vbが低いときには電圧Vbが高いときに比して小さくなるよう、電圧Vbに基づいてマップ94より補正係数K2を演算する。補正係数演算部90は電源60のバッテリの劣化度Dbと補正係数K3との関係を記憶するマップ96を有し、劣化度Dbが高いときには劣化度Dbが低いときに比して小さくなるよう、劣化度Dbに基づいてマップ96より補正係数K3を演算する。
尚補正係数K1及びK3は0よりも大きく且つ1以下の値であり、補正係数K2は0以上
且つ1以下の値である。また補正係数K1は図には示されていないオルタネータによる発電の状況を補償するための補正係数であり、補正係数K2及びK3は電源60のバッテリの電気エネルギー供給能力についての補償を行うための補正係数である。
補正係数K1〜K3は掛け算器98により互いに掛け算され、これによりエンジン回転数Ne、電源60の電圧Vb、及び電源60のバッテリの劣化度Dbに基づく補正係数Kb、即ち電源60が供給可能な電気エネルギーについての補償を行うための補正係数が演算される。補正係数Kbは掛け算器100によって最大許容回転速度演算部82により演算された最大許容回転速度θpdmaxに掛け算され、これにより補正後の最大許容回転速度θpdmaxaが演算される。
更に回転速度マージン演算部74は加算器106を有し、加算器106によって補正後の最大許容回転速度θpdmaxaよりロアステアリングシャフト40の前回の相対回転速度θpd(n-1)が減算され、これによりロアステアリングシャフト40の回転速度の増大余裕度を示す回転速度マージンMpdが演算される。
図7に示されている如く、目標相対角度演算部70は車速Vに基づいてマップ108より目標ステアリングギヤ比Rgtを演算する。尚マップ108は、車速Vが低い領域に於いては目標ステアリンクギヤ比Rgtが標準値Rgoよりも大きい値になり、逆に車速Vが高い領域に於いては目標ステアリンクギヤ比Rgtが標準値Rgoよりも小さい値になるよう、車速Vと目標ステアリングギヤ比Rgtとの関係を記憶するものである。目標ステアリングギヤ比Rgtは掛け算器110によって操舵角θと掛け算され、これによりロアステアリングシャフト40の目標相対角度θptが演算される。
目標相対角度θptは最終目標相対角度演算部78へ供給されると共に、目標相対角度変化量演算部72の前回値記憶部112へ供給される。前回値記憶部112は次回に備えて目標相対角度θptを記憶する。また前回値記憶部112に記憶されている前回の目標相対角度θpt(n-1)が読み出され、加算器114によって今回の目標相対角度θpt(n)より前回の目標相対角度θpt(n-1)が減算され、これによりロアステアリングシャフト40の目標角度変化量Δθptが演算される。
角度変化制限値演算部76は回転速度マージンMpdとアッパステアリングシャフト38に対するロアステアリングシャフト40の単位時間当りの角度変化制限値Δθplimとの関係を記憶するマップ116を有している。そして角度変化制限値演算部76は回転速度マージンMpdが大きいほど角度変化制限値Δθplimが大きくなるよう、回転速度マージンMpdに基づいて角度変化制限値Δθplimを演算する。
最終目標相対角度演算部78は図8に示されたフローチャートに従ってアッパステアリングシャフト38に対するロアステアリングシャフト40の最終の目標相対角度θpt(n)を演算する。
まずステップ810に於いては例えば目標角度変化量Δθptが正の値である場合にアッパステアリングシャフト38に対し相対的にロアステアリングシャフト40を車両の左旋回方向へ回転させるものとして、目標角度変化量Δθptが0以上であるか否かの判別が行われる。そして否定判別が行われたときにはステップ850へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ820へ進む。
ステップ820に於いては目標角度変化量Δθptが角度変化制限値Δθplimよりも大きいか否かの判別、即ち左右前輪の転舵駆動速度の大きさが過大になってアシスト切れが生じる虞れがあるか否かの判別が行われる。そして否定判別が行われたときにはステップ830に於いて最終の目標相対角度θpt(n)が目標相対角度θptに設定され、肯定判別が行われたときにはステップ840に於いて最終の目標相対角度θpt(n)が前回の目標相対角度θpt(n-1)に角度変化制限値Δθplimが加算された値に設定される。
ステップ850に於いては目標角度変化量Δθptが角度変化制限値Δθplimの符号反転値−Δθplimよりも小さいか否かの判別、即ち左右前輪の転舵駆動速度の大きさが過大になってアシスト切れが生じる虞れがあるか否かの判別が行われる。そして否定判別が行われたときにはステップ860に於いて最終の目標相対角度θpt(n)が目標相対角度θptに設定され、肯定判別が行われたときにはステップ870に於いて最終の目標相対角度θpt(n)が前回の目標相対角度θpt(n-1)より角度変化制限値Δθplimが減算された値に設定される。
かくして最終目標相対角度演算部78は目標角度変化量Δθptの大きさが角度変化制限値Δθplimを越えるときには、目標角度変化量Δθptの大きさが角度変化制限値Δθplimに低減されるよう目標相対角度θptを修正するが、目標角度変化量Δθptの大きさが角度変化制限値Δθplimを越えていないときには、目標相対角度θptを修正しない。
以上の説明より解る如く、第一の実施例によれば、パワーステアリング装置14のアシストトルクTa等に基づいてロアステアリングシャフト40の最大許容回転速度θpdmaxが演算され、ロアステアリングシャフト40の最大許容回転速度θpdmaxとロアステアリングシャフト40の実際の回転速度θpdとの偏差θpdmax−θpdが回転速度マージンMpdとして演算される。そして回転速度マージンMpdが小さいほど小さくなるようロアステアリングシャフト40の単位時間当りの角度変化制限値Δθplimが演算され、ロアステアリングシャフト40の目標相対角度θptと実際の相対角度θpaとの偏差に基づく単位時間当りの目標角度変化量Δθptが演算される。
更に目標角度変化量Δθptの大きさが角度変化制限値Δθplimを越えないよう、必要に応じて目標相対角度θptが修正され、アッパステアリングシャフト38に対するロアステアリングシャフト40の実際の相対角度θpaが目標角度変化量Δθptになるよう操舵比可変装置16の電動機46が制御される。
従ってロアステアリングシャフト40の実際の回転速度θpdの大きさがロアステアリングシャフト40の最大許容回転速度θpdmaxを越えること、及びこれに起因してパワーステアリング装置14が所要のアシストトルクを発生することができなくなることを確実に防止することができる。よって緊急回避操舵の如き中高車速での急激な操舵操作が行われる場合にも、アシスト切れの状態になることを確実に防止することができる。
例えばロアステアリングシャフト40の回転速度θpdの大きさ及びパワーステアリング装置14のアシストトルクTaが図26に於いて点Poにて示された値(それぞれθpdo、Tao)である状況に於いて、緊急回避操舵の如く運転者により非常に急激な操舵操作が行われる場合について考える。
急激な操舵操作によりロアステアリングシャフト40の回転速度θpdの大きさが急激に上昇し、最大値を示す線Lを越える値θpd1へ変化し、これに伴ってパワーステアリング装置14に要求されるアシストトルクTaの大きさがTaoよりTa1へ変化するとする。即ちロアステアリングシャフト40の回転速度θpdの大きさ及びパワーステアリング装置14のアシストトルクTaを示す点が図26に於いて点P1にて示された位置へ変化するとする。またロアステアリングシャフト40の回転速度θpdがθpd1であるときにパワーステアリング装置14が発生可能なアシストトルクTaの最大値はTa1maxであるとする。
第一の実施例の制御が行われない従来の操舵制御装置の場合には、パワーステアリング装置14に要求されるアシストトルクTa1の大きさが最大値Ta1maxよりも大きくなるので、パワーステアリング装置14はそれに要求されるアシストトルクTa1を発生することができず、アシスト切れが発生する。
これに対し第一の実施例によれば、運転者により緊急回避操舵の如き非常に急激な操舵操作が開始され、ロアステアリングシャフト40の回転速度θpdが上昇すると、回転速度マージンMpdが小さくなる。従ってアッパステアリングシャフト38に対するロアステアリングシャフト40の単位時間当りの角度変化制限値Δθplimが小さくなり、アッパステアリングシャフト38に対するロアステアリングシャフト40の単位時間当りの目標角度変化量Δθptの大きさが角度変化制限値Δθplimによって制限されるので、ロアステアリングシャフト40の回転速度θpdの大きさ及びパワーステアリング装置14に要求されるアシストトルクTaの大きさが最大値を示す線Lを越えないよう、回転速度θpdの上昇が抑制される。
かくして回転速度θpdの上昇が抑制されることにより、ロアステアリングシャフト40の回転速度θpdの大きさ及びパワーステアリング装置14のアシストトルクTaは図26に於いて最大値を示す線Lよりも原点側の点P2(Ta2,θpd2)へ変化する。従ってパワーステアリング装置14が発生するアシストトルクはそれに要求されるアシストトルクTa1よりも低くなるが、非常に急激な操舵操作が行われる場合に於けるアシスト切れを確実に防止することができる。
第二の実施例
図9は第一の実施例の修正例として構成された本発明による車両の操舵制御装置の第二の実施例に於ける角度変化制限値演算部を示す機能ブロック図である。尚この第二の実施例の図9の機能ブロック図による制御以外の制御は上述の第一の実施例の場合と同様に達成される。
この第二の実施例に於いては、角度変化制限値演算部76は第一の実施例のマップ116に対応するマップ117を備えた基本角度変化制限値演算ブロック118を有する。基本角度変化制限値演算ブロック118は回転速度マージンMpdに基づいてマップ117より基本角度変化制限値Δθplimbを演算する。また角度変化制限値演算部76は車速Vと補正係数K4との関係を記憶するマップ120を備えた補正係数演算ブロック121を有する。補正係数演算ブロック121は車速Vが低いときには車速Vが高いときに比して小さくなるよう、車速Vに基づいてマップ120より補正係数K4を演算する。補正係数K4は掛け算器122により基本角度変化制限値Δθplimbと掛け算される。
また角度変化制限値演算部76は補正係数設定部124を有し、補正係数設定部124は運転者の操舵操作が速いときには運転者の操舵操作が遅いときに比して小さくなるよう、図10に示されたフローチャートに従って補正係数K5を設定する。補正係数K5は乗算器126により掛け算器122の演算結果K4・Δθplimbと掛け算され、これによりK4K5Δθplimbの値が角度変化制限値Δθplimとして最終目標相対角度演算部78へ供給される。
次に図10に示されたフローチャートを参照して補正係数設定部124に於ける補正係数K5の設定ルーチンについて説明する。
まずステップ1010に於いては例えば操舵角速度θdの絶対値が速い操舵判定の基準値θda以上であるか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときにはステップ1020に於いて速い操舵を示すフラグFsがオンに設定されると共に復帰カウンタCrが0にリセットされる。これに対し否定判別が行われたときにはステップ1030に於いて復帰カウンタCrが1インクリメントされた後ステップ1040へ進む。
ステップ1040に於いては復帰カウンタCrが車両の安定を確保するための判定基準値Cra(正の定数)を越えているか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときにはステップ1050に於いてフラグFsがオフに設定されるが、否定判別が行われたときにはフラグFsが変更されることなくステップ1060へ進む。
ステップ1060に於いてはフラグFsがオンであるか否かの判別、即ち速い操舵操作が行われているか否かの判別が行われる。そして否定判別が行われたときにはステップ1070に於いて補正係数K5が標準値である1に設定されるが、肯定判別が行われたときにはステップ1080に於いて補正係数K5が予め設定された定数A(0よりも大きく1よりも小さい)に設定される。
かくして第二の実施例によれば、上述の第一の実施例の場合と同様、緊急回避操舵の如き中高車速での急激な操舵操作が行われる場合にも、アシスト切れの状態になることを確実に防止することができる。
特に第二の実施例によれば、車速Vが低いときには車速Vが高いときに比して小さくなるよう、車速Vに基づいて補正係数K4が演算され、補正係数K4が角度変化制限値Δθplimと乗算されることにより角度変化制限値Δθplimが修正される。従って車速が低下することによりラックバー26の軸力が増加する状況を早めに判定し、角度変化制限値Δθplimを早めに小さくすることができる。
また運転者の操舵操作が速いときには運転者の操舵操作が遅いときに比して小さくなるよう、補正係数K5が可変設定され、補正係数K5が角度変化制限値Δθplimと乗算されることにより角度変化制限値Δθplimが修正される。従って運転者により速い操舵操作が行われる状況を早めに判定し、角度変化制限値Δθplimを早めに小さくすることができる。
第三の実施例
図11は第一の実施例の修正例として構成された本発明による車両の操舵制御装置の第三の実施例に於ける角度変化制限値演算部を示す機能ブロック図である。尚この第三の実施例の図11の機能ブロック図による制御以外の制御は上述の第一の実施例の場合と同様に達成される。
この第三の実施例に於いては、角度変化制限値演算部76は第二の実施例の場合と同様の基本角度変化制限値演算ブロック118を有し、基本角度変化制限値演算ブロック118は回転速度マージンMpdに基づいてマップ117より基本角度変化制限値Δθplimbを演算する。また角度変化制限値演算部76は補正係数設定部128を有し、補正係数設定部128は運転者により据え切りの如き低車速での大舵角の操舵操作や緊急回避操舵の如き中高車速での急激な操舵操作が行われているときにはこれらの操舵操作が行われていないときに比して小さくなるよう、図12及び13に示されたフローチャートに従って補正係数K6を設定する。補正係数K6は掛け算器130により基本角度変化制限値Δθplimbと掛け算され、これによりK6・Δθplimbの値が角度変化制限値Δθplimとして最終目標相対角度演算部78へ供給される。
次に図12及び13に示されたフローチャートを参照して補正係数K6の設定ルーチンについて説明する。
まずステップ1210に於いては車速Vが第一の基準値V1(正の定数)以下であり且つ操舵角速度θdの絶対値が第一の基準値θd1(正の定数)以上であるか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときにはステップ1220に於いて低速での大舵角の操舵操作を示すフラグF1がオンに設定されると共に復帰カウンタC1が0にリセットされる。これに対し否定判別が行われたときにはステップ1230に於いて復帰カウンタC1が1インクリメントされた後ステップ1240へ進む。
ステップ1240に於いては復帰カウンタC1がアシスト切れを確実に防止するための判定基準値C1a(正の定数)を越えているか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときにはステップ1250に於いてフラグF1がオフに設定されるが、否定判別が行われたときにはフラグF1が変更されることなくステップ1260へ進む。
ステップ1260に於いてはフラグF1がオンであるか否かの判別、即ち低速での大舵角の操舵操作に起因するアシスト切れの防止が必要な状況であるか否かの判別が行われる。そして否定判別が行われたときにはステップ1270に於いて補正係数K6が標準値である1に設定されるが、肯定判別が行われたときにはステップ1280に於いて補正係数K6が予め設定された定数K6a(0よりも大きく1よりも小さい)に設定される。
またステップ1310に於いては車速Vが第二の基準値V2(第一の基準値V1よりも大きい正の定数)以上であり且つ操舵角速度θdの絶対値が第二の基準値θd2(第一の基準値θd1よりも大きい正の定数)以上であるか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときにはステップ1320に於いて中高速での急激な操舵操作を示すフラグF2がオンに設定されると共に復帰カウンタC2が0にリセットされる。これに対し否定判別が行われたときにはステップ1330に於いて復帰カウンタC2が1インクリメントされた後ステップ1340へ進む。
ステップ1340に於いては復帰カウンタC2がアシスト切れを確実に防止するための判定基準値C2a(正の定数)を越えているか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときにはステップ1350に於いてフラグF2がオフに設定されるが、否定判別が行われたときにはフラグF2が変更されることなくステップ1360へ進む。
ステップ1360に於いてはフラグF2がオンであるか否かの判別、即ち中高速での急激な操舵操作に起因するアシスト切れの防止が必要な状況であるか否かの判別が行われる。そして否定判別が行われたときにはステップ1370に於いて補正係数K6が標準値である1に設定されるが、肯定判別が行われたときにはステップ1380に於いて補正係数K6が予め設定された定数K6b(0よりも大きく1よりも小さい)に設定される。
尚定数K6a及びK6bはそれぞれ低速での大舵角の操舵操作に起因するアシスト切れ及び中高速での急激な操舵操作に起因するアシスト切れを効果的に防止し得るよう、パワーステアリング装置14及び操舵比可変装置16の仕様に応じて例えば実験的に設定されてよく、互いに同一の値であってもよい。
かくして第三の実施例によれば、運転者により据え切りの如き低車速での大舵角の操舵操作や緊急回避操舵の如き中高車速での急激な操舵操作が行われているときにはこれらの操舵操作が行われていないときに比して小さくなるよう、運転者の運転操作に応じて補正係数K6が可変設定される。そして補正係数K6が角度変化制限値Δθplimと乗算されることにより角度変化制限値Δθplimが修正される。従って運転者により据え切りの如き低車速での大舵角の操舵操作や緊急回避操舵の如き中高車速での急激な操舵操作が行われる状況を確実に判定し、これらの操舵操作に起因してアシスト切れが生じることを確実に防止することができる。
第四の実施例
図14は本発明による車両の操舵制御装置の第四の実施例に於ける操舵比制御装置20の機能ブロック図であり、図15は図14に示されたトルクマージン演算部を詳細に示す機能ブロック図であり、図16は図14に示された目標相対角度演算部、角度変化制限値演算部及び最終目標角度演算部を詳細に示す機能ブロック図である。尚図14乃至図16に示された機能ブロック図による制御も、図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。
図14に示されている如く、この第四の実施例に於いては、第一の実施例に於ける回転速度マージン演算部74に代わるトルクマージン演算部140が、アシスト電流Ips、操舵角θの時間微分値である操舵角速度θd等に基づいてアシストトルクの増大余裕度を示すトルクマージンMatを演算する。またこの第四の実施例に於いては、第一の実施例に於ける角度変化制限値演算部76に代わる角度変化制限値演算部148が、トルクマージンMatに基づいてアッパステアリングシャフト38に対するロアステアリングシャフト40の単位時間当りの角度変化制限値Δθplimを演算する。尚この第四の実施例の目標相対角度演算部70、目標相対角度変化量演算部72、最終目標相対角度演算部78による制御は上述の第一の実施例の場合と同様に達成されるので、これらの制御の説明は省略する。
図15に示されている如く、トルクマージン演算部140は掛け算器142を有し、掛け算器142は目標相対角度演算部70により演算される目標ステアリンクギヤ比Rgtの逆数1/Rgtと操舵速度θdとを掛け算することにより、操舵比可変装置16の目標相対回転速度θd/Rgtを演算する。目標相対回転速度θd/Rgtは加算器143により操舵速度θdと加算され、これによりロアステアリングシャフト40の回転速度θpdが演算される。回転速度θpdは最大許容アシストトルク演算部144へ入力され、最大許容アシストトルク演算部144は回転速度θpdに基づいてマップ146よりパワーステアリング装置14の最大許容アシストトルクTamaxを演算する。尚マップ146はロアステアリングシャフト40の回転速度θpdと最大許容アシストトルクTamaxとの関係を記憶するものであり、図2に対応している。
また図15に示されている如く、最大許容アシストトルクTamaxは掛け算器101によって補正係数Kbと掛け算され、これにより補正後の最大許容アシストトルクTamaxaが演算される。また乗算器80がアシスト電流Ipsにトルク定数Kpsを乗算することにより、パワーステアリング装置14の実際のアシストトルクTaを演算する。更に加算器107によって補正後の最大許容アシストトルクTamaxaより実際のアシストトルクTaが減算され、これによりパワーステアリング装置14のアシストトルクの増大余裕度を示すトルクマージンMatが演算される。
また図16に示されている如く、第一の実施例に於ける角度変化制限値演算部76に対応する角度変化制限値演算部148は、トルクマージンMatとアッパステアリングシャフト38に対するロアステアリングシャフト40の単位時間当りの角度変化制限値Δθplimとの関係を記憶するマップ150を有している。そして角度変化制限値演算部148はトルクマージンMatが大きいほど角度変化制限値Δθplimが大きくなるよう、トルクマージンMatに基づいて角度変化制限値Δθplimを演算する。
以上の説明より解る如く、第四の実施例によれば、ロアステアリングシャフト40の回転速度θpd等に基づいてパワーステアリング装置14の最大許容アシストトルクTamaxが演算され、パワーステアリング装置14の最大許容アシストトルクTamaxとパワーステアリング装置14の実際のアシストトルクTaとの偏差Tamax−TaがトルクマージンMatとして演算される。そしてトルクマージンMatが小さいほど小さくなるようロアステアリングシャフト40の単位時間当りの角度変化制限値Δθplimが演算され、ロアステアリングシャフト40の目標相対角度θptと実際の相対角度θpaとの偏差に基づく単位時間当りの目標角度変化量Δθptが演算される。
そして第一乃至第三の実施例の場合と同様、目標角度変化量Δθptの大きさが角度変化制限値Δθplimを越えないよう、必要に応じて目標相対角度θptが修正され、アッパステアリングシャフト38に対するロアステアリングシャフト40の実際の相対角度θpaが目標角度変化量Δθptになるよう操舵比可変装置16の電動機46が制御される。
従ってロアステアリングシャフト40の実際の回転速度θpdの大きさがロアステアリングシャフト40の最大許容回転速度θpdmaxを越えること、及びこれに起因してパワーステアリング装置14が所要のアシストトルクを発生することができなくなることを確実に防止することができる。よって据え切り操舵の如き低車速での大舵角の操舵操作が行われる場合にも、アシスト切れの状態になることを確実に防止することができる。
例えばロアステアリングシャフト40の回転速度θpdの大きさ及びパワーステアリング装置14のアシストトルクTaが図27に於いて点Poにて示された値(それぞれθpdo、Tao)である状況に於いて、高摩擦係数の路面にて高積載状態での据え切りの如く運転者により操舵反力が非常に高くなる操舵操作が行われる場合について考える。
操舵反力が非常に高くなる操舵操作によりパワーステアリング装置14に要求されるアシストトルクTaの大きさが急激に上昇し、最大値を示す線Lを越える値Ta1へ変化し、これに伴ってロアステアリングシャフト40の回転速度θpdの大きさがθpdoよりθpd1へ変化するとする。即ちロアステアリングシャフト40の回転速度θpdの大きさ及びパワーステアリング装置14のアシストトルクTaを示す点が図27に於いて点P1にて示され位置へ変化するとする。またパワーステアリング装置14に要求されるアシストトルクTaの大きさがTa1であるときにパワーステアリング装置14がアシストトルクを発生することができるロアステアリングシャフト40の回転速度θpdの大きさの最大値はθpd1maxであるとする。
第四の実施例の制御が行われない従来の操舵制御装置の場合には、パワーステアリング装置14に要求されるアシストトルクTa1の大きさが最大値Ta1maxよりも大きくなるので、パワーステアリング装置14はそれに要求されるアシストトルクTa1を発生することができず、アシスト切れが発生する。
これに対し第四の実施例によれば、運転者により操舵反力が非常に高くなる操舵操作が開始され、パワーステアリング装置14に要求されるアシストトルクTaの大きさが大きくなると、トルクマージンMatが小さくなる。従ってアッパステアリングシャフト38に対するロアステアリングシャフト40の単位時間当りの角度変化制限値Δθplimが小さくなり、アッパステアリングシャフト38に対するロアステアリングシャフト40の単位時間当りの目標角度変化量Δθptの大きさが角度変化制限値Δθplimによって制限されるので、ロアステアリングシャフト40の回転速度θpdの大きさ及びパワーステアリング装置14に要求されるアシストトルクTaの大きさが最大値を示す線Lを越えないよう、回転速度θpdの上昇が抑制される。
かくして回転速度θpdの上昇が抑制されることにより、ロアステアリングシャフト40の回転速度θpdの大きさ及びパワーステアリング装置14のアシストトルクTaは図27に於いて最大値を示す線Lよりも原点側の点P2(Ta2,θpd2)へ変化する。従ってパワーステアリング装置14が発生するアシストトルクはそれに要求されるアシストトルクTa1よりも低くなるが、操舵反力が非常に高くなる操舵操作が行われる場合に於けるアシスト切れを確実に防止することができる。
第五の実施例
図17は第四の実施例の修正例として構成された本発明による車両の操舵制御装置の第五の実施例に於ける角度変化制限値演算部を示す機能ブロック図である。尚この第五の実施例の図17の機能ブロック図による制御以外の制御は上述の第四の実施例の場合と同様に達成される。
この第五の実施例に於いては、図17に示されている如く、角度変化制限値演算部148は第四の実施例のマップ150に対応するマップ151を備えた基本角度変化制限値演算ブロック149を有する。基本角度変化制限値演算ブロック149はトルクマージンMatに基づいてマップ151より基本角度変化制限値Δθplimcを演算する。また角度変化制限値演算部148は、上述の第二の実施例の場合と同様の補正係数演算ブロック121を有し、補正係数演算ブロック121は車速Vが低いときには車速Vが高いときに比して小さくなるよう、車速Vに基づいてマップ120より補正係数K4を演算する。補正係数K4は掛け算器123により基本角度変化制限値Δθplimcと掛け算される。
また角度変化制限値演算部148は、上述の第二の実施例の場合と同様に、運転者の操舵操作が速いときには運転者の操舵操作が遅いときに比して小さくなるよう、補正係数設定部124により図10に示されたフローチャートに従って補正係数K5を設定する。補正係数K5は乗算器127により掛け算器123の演算結果K4・Δθplimcと掛け算され、これによりK4K5Δθplimcの値が角度変化制限値Δθplimとして最終目標相対角度演算部78へ供給される。
かくして第五の実施例によれば、上述の第四の実施例の場合と同様、据え切り操舵の如き低車速での大舵角の操舵操作が行われる場合にも、アシスト切れの状態になることを確実に防止することができる。また第五の実施例によれば、上述の第二の実施例の場合と同様、車速が低下することによりラックバー26の軸力が増加する状況を早めに判定し、角度変化制限値Δθplimを早めに小さくすることができると共に、運転者により速い操舵操作が行われる状況を早めに判定し、角度変化制限値Δθplimを早めに小さくすることができる。
第六の実施例
図18は第四の実施例の修正例として構成された本発明による車両の操舵制御装置の第六の実施例に於ける角度変化制限値演算部を示す機能ブロック図である。尚この第六の実施例の図18の機能ブロック図による制御以外の制御は上述の第四の実施例の場合と同様に達成される。
この第六の実施例に於いては、角度変化制限値演算部148は第五の実施例の場合と同様の基本角度変化制限値演算ブロック149を有する。基本角度変化制限値演算ブロック149はトルクマージンMatに基づいてマップ151より基本角度変化制限値Δθplimcを演算する。また角度変化制限値演算部148は上述の第三の実施例の場合と同様に補正係数設定部128を有し、補正係数設定部128は運転者により据え切りの如き低車速での大舵角の操舵操作や緊急回避操舵の如き中高車速での急激な操舵操作が行われているときにはこれらの操舵操作が行われていないときに比して小さくなるよう、図12及び13に示されたフローチャートに従って補正係数K6を設定する。補正係数K6は掛け算器131により角度変化制限値Δθplimcと掛け算され、これによりK6・Δθplimcの値が角度変化制限値Δθplimとして最終目標相対角度演算部78へ供給される。
かくして第六の実施例によれば、上述の第三の実施例の場合と同様、運転者により据え切りの如き低車速での大舵角の操舵操作や緊急回避操舵の如き中高車速での急激な操舵操作が行われているときにはこれらの操舵操作が行われていないときに比して小さくなるよう、運転者の運転操作に応じて補正係数K6が可変設定される。そして補正係数K6が角度変化制限値Δθplimと乗算されることにより角度変化制限値Δθplimが修正される。従って運転者により据え切りの如き低車速での大舵角の操舵操作や緊急回避操舵の如き中高車速での急激な操舵操作が行われる状況を確実に判定し、これらの操舵操作に起因してアシスト切れが生じることを確実に防止することができる。
第七の実施例
図19は本発明による車両の操舵制御装置の第七の実施例に於ける操舵比制御装置20の要部の機能ブロック図であり、図20は図19に示された角度変化制限値演算部を詳細に示す機能ブロック図である。尚図19及び図20に示された機能ブロック図による制御も、図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。
図19に示されている如く、この第七の実施例に於いては、上述の第一乃至第三の実施例の場合と同様に回転速度マージン演算部74によって回転速度マージンMpdが演算されると共に、上述の第四乃至第六の実施例の場合と同様にトルクマージン演算部140によってトルクマージンMatが演算される。
また図19に示されている如く、この実施例の角度変化制限値演算部152は第一の実施例の角度変化制限値演算部76と同様の第一の角度変化制限値演算部76と、第四の実施例の角度変化制限値演算部148と同様の第二の角度変化制限値演算部148と、最小値選択部154とを有している。
第一の角度変化制限値演算部76は第一の実施例の角度変化制限値演算部76と同様の要領にて回転速度マージンMpdに基づいて第一の角度変化制限値Δθplim1を演算する。同様に第二の角度変化制限値演算部148は第四の実施例の角度変化制限値演算部148と同様の要領にてトルクマージンMatに基づいて第二の角度変化制限値Δθplim2を演算する。
第一の角度変化制限値Δθplim1及び第二の角度変化制限値Δθplim2は最小値選択部154へ入力され、最小値選択部154は第一の角度変化制限値Δθplim1及び第二の角度変化制限値Δθplim2のうちの小さい方の値を選択し、その値を角度変化制限値Δθplimとして最終目標相対角度演算部78へ出力する。
図20に示されている如く、第一の角度変化制限値演算部76は回転速度マージンMpdとアッパステアリングシャフト38に対するロアステアリングシャフト40の単位時間当りの第一の角度変化制限値Δθplim1との関係を記憶するマップ116を有している。そして第一の角度変化制限値演算部76は回転速度マージンMpdが大きいほど第一の角度変化制限値Δθplim1が大きくなるよう、回転速度マージンMpdに基づいて第一の角度変化制限値Δθplim1を演算する。
同様に第二の角度変化制限値演算部148はトルクマージンMatとアッパステアリングシャフト38に対するロアステアリングシャフト40の単位時間当りの第二の角度変化制限値Δθplim2との関係を記憶するマップ150を有している。そして第二の角度変化制限値演算部148はトルクマージンMatが大きいほど第二の角度変化制限値Δθplim2が大きくなるよう、トルクマージンMatに基づいて第二の角度変化制限値Δθplim2を演算する。
かくして第七の実施例によれば、上述の第一の実施例の場合と同様に回転速度マージンMpdに基づいて第一の角度変化制限値Δθplim1が演算され、上述の第四の実施例の場合と同様にトルクマージンMatに基づいて第二の角度変化制限値Δθplim2が演算される。そして第一の角度変化制限値Δθplim1及び第二の角度変化制限値Δθplim2のうちの小さい方の値が角度変化制限値Δθplimとされる。
そして目標角度変化量Δθptの大きさが角度変化制限値Δθplimを越えないよう、必要に応じて目標相対角度θptが修正され、アッパステアリングシャフト38に対するロアステアリングシャフト40の実際の相対角度θpaが目標角度変化量Δθptになるよう操舵比可変装置16の電動機46が制御される。
従って第七の実施例によれば、上述の第一の実施例の場合と同様、緊急回避操舵の如き中高車速での急激な操舵操作が行われる場合にも、アシスト切れの状態になることを確実に防止することができると共に、上述の第四の実施例の場合と同様、運転者により据え切りの如き低車速での大舵角の操舵操作が行われる場合にも、アシスト切れの状態になることを確実に防止することができる。
第八の実施例
図21は第七の実施例の修正例として構成された本発明による車両の操舵制御装置の第八の実施例に於ける角度変化制限値演算部を示す機能ブロック図である。尚この第八の実施例の図21の機能ブロック図による制御以外の制御は上述の第七の実施例の場合と同様に達成される。
図21に示されている如く、この第八の実施例に於いては、第一の角度変化制限値演算部76は第二の実施例の角度変化制限値演算部76と同様の要領にて回転速度マージンMpdに基づいて第一の角度変化制限値Δθplim1を演算する。また第二の角度変化制限値演算部148は第五の実施例の角度変化制限値演算部148と同様の要領にてトルクマージンMatに基づいて第二の角度変化制限値Δθplim2を演算する。
従って第八の実施例によれば、上述の第七の実施例の場合と同様、緊急回避操舵の如き中高車速での急激な操舵操作が行われる場合や運転者により据え切りの如き低車速での大舵角の操舵操作が行われる場合にも、アシスト切れの状態になることを確実に防止することができる。
また第八の実施例によれば、上述の第二及び第五の実施例の場合と同様、車速が低下することによりラックバー26の軸力が増加する状況を早めに判定し、角度変化制限値Δθplimを早めに小さくすることができると共に、運転者により速い操舵操作が行われる状況を早めに判定し、角度変化制限値Δθplimを早めに小さくすることができる。
第九の実施例
図22は第七の実施例の修正例として構成された本発明による車両の操舵制御装置の第九の実施例に於ける角度変化制限値演算部を示す機能ブロック図である。尚この第九の実施例の図22の機能ブロック図による制御以外の制御は上述の第七の実施例の場合と同様に達成される。
図22に示されている如く、この第九の実施例に於いては、第一の角度変化制限値演算部76は第三の実施例の角度変化制限値演算部76と同様の要領にて回転速度マージンMpdに基づいて第一の角度変化制限値Δθplim1を演算する。また第二の角度変化制限値演算部148は第六の実施例の角度変化制限値演算部148と同様の要領にてトルクマージンMatに基づいて第二の角度変化制限値Δθplim2を演算する。
従って第九の実施例によれば、運転者により据え切りの如き低車速での大舵角の操舵操作や緊急回避操舵の如き中高車速での急激な操舵操作が行われる状況を確実に判定することができ、これにより緊急回避操舵の如き中高車速での急激な操舵操作が行われる場合や運転者により据え切りの如き低車速での大舵角の操舵操作が行われる場合にも、アシスト切れの状態になることを上述の第七の実施例の場合よりも一層確実に防止することができる。
第十の実施例
図23は第一の実施例の修正例として構成された本発明による車両の操舵制御装置の第十の実施例に於ける角度変化制限値演算部を示す機能ブロック図である。尚この第十の実施例の図23の機能ブロック図による制御以外の制御は上述の第一の実施例の場合と同様に達成される。
この第十の実施例に於いては、角度変化制限値演算部76は第二の実施例の場合と同様の基本角度変化制限値演算ブロック118を有し、基本角度変化制限値演算ブロック118は回転速度マージンMpdに基づいてマップ117より基本角度変化制限値Δθplimbを演算する。また角度変化制限値演算部76は操舵角θの絶対値と車速Vと補正係数K7との関係を記憶するマップ158を備えた補正係数演算ブロック160を有する。補正係数演算ブロック160は操舵角θの絶対値が大きいときには操舵角θの絶対値が小さいときに比して小さくなると共に、車速Vが低いときには車速Vが高いときに比して小さくなるよう、操舵角θの絶対値及び車速Vに基づいてマップ158より補正係数K7を0以上で1以下の値として演算する。補正係数K7は掛け算器162により基本角度変化制限値Δθplimbと掛け算される。
また角度変化制限値演算部76は路面の摩擦係数μと補正係数K8との関係を記憶するマップ164を備えた補正係数演算ブロック166を有する。補正係数演算ブロック166は路面の摩擦係数μが低いときには路面の摩擦係数μが高いときに比して補正係数K8が大きくなるよう、路面の摩擦係数μに基づいてマップ164より補正係数K8を0以上で1以下の値として演算する。補正係数K8は乗算器168により掛け算器162の演算結果K7・Δθplimbと掛け算され、これによりK7K8Δθplimbの値が調停器170へ供給される。
尚路面の摩擦係数μの求め方は本発明の要旨をなすものではないので、路面の摩擦係数μはアンチスキッド制御、トラクション制御、車輌の運動制御等に於いて一般的に採用されている任意の方法により検出又は推定された値であってよい。
この第十の実施例が適用される車両には図示されていないプリクラッシュセーフティシステムが搭載されている。プリクラッシュセーフティシステムは車両の前方に障害物が検出されると、車速を制御すると共に操舵比可変装置16によって左右前輪22FL及び22FRを転舵することにより車両の進行方向を変更し、これにより障害物に対する衝突の虞れを低減する。
調停器170には障害物に対する衝突の虞れが高く操舵比可変装置16の作動による車両の進行方向変更の緊急度Escを示す信号がプリクラッシュセーフティシステムより入力される。車両の前方に障害物が検出されない通常走行時の如く車両の進行方向変更の緊急度Escが基準値Esc0以下であるときには、調停器170は掛け算器168より入力される値K7K8Δθplimbを角度変化制限値Δθplimとして最終目標相対角度演算部78へ供給する。これに対し車両の進行方向変更の緊急度Escが基準値Esc0を越えるときには、調停器170は基本角度変化制限値演算ブロック118より入力される基本角度変化制限値Δθplimbを角度変化制限値Δθplimとして最終目標相対角度演算部78へ供給する。
また調停器170は、基本角度変化制限値Δθplimbを角度変化制限値Δθplimとして最終目標相対角度演算部78へ供給する場合には、電源60より供給される電力を使用して作動するオーディオ装置の如き他の装置172に対し、その出力を低減し又はその作動を一時的に停止するための電力消費低減指令信号を出力する。
かくして第十の実施例によれば、上述の第一の実施例の場合と同様、緊急回避操舵の如き中高車速での急激な操舵操作が行われる場合に於けるアシスト切れを確実に防止することができると共に、以下の理由により操舵トルクが高くなる状況に於けるアシスト切れを効果的に防止することができる。
一般に、操舵角θの絶対値が大きく車速Vが低いほど、左右前輪22FL及び22FRのセルフアライニングトルクに起因して電動パワーステアリング装置14のラックバー26の軸力が高くなるので、操舵トルクTsが高くなる。そのため電動パワーステアリング装置14に要求されるアシストトルクが高くなり、電動パワーステアリング装置14に必要とされる電力が高くなる。従って操舵角θの絶対値が大きく車速Vが低いほど、アシスト切れが生じ易くなる。
第十の実施例によれば、操舵角θの絶対値が大きく車速Vが低いほど、補正係数K7が小さい値に演算され、これにより角度変化制限値Δθplimが小さい値に演算される。従って電動パワーステアリング装置14に必要とされる電力が高くなるほど目標角度変化量Δθptの大きさが小さくなり、これにより操舵比可変装置16によるロアステアリングシャフト40の相対回転速度の大きさが小さくなって左右前輪の転舵駆動速度が低くなる。よってパワーステアリング装置14が発生し得るアシストトルクを高くすることができ、これにより操舵トルクが高くなる状況に於けるアシスト切れを効果的に防止することができる。
また一般に、左右前輪22FL及び22FRが操舵される際の電動パワーステアリング装置14のラックバー26の軸力は路面の摩擦係数μによって異なり、路面の摩擦係数μが低いほどラックバー26の軸力が低くなるので、操舵トルクTsも低くなる。
第十の実施例によれば、路面の摩擦係数μが低いほど、補正係数K8が大きい値に演算され、これにより角度変化制限値Δθplimが大きい値に演算される。従って路面の摩擦係数μが高い状況に於いて操舵トルクが高くなる場合のアシスト切れを効果的に防止しつつ、路面の摩擦係数μが低い状況に於いて操舵比可変装置16によるロアステアリングシャフト40の相対回転速度の大きさが不必要に小さくされ左右前輪の転舵駆動速度が不必要に低くされることを効果的に防止することができる。尚この作用効果は後述の第十一及び第十二の実施例に於いても同様に得られる。
また第十の実施例によれば、操舵比可変装置16の作動による車両の進行方向変更の緊急度Escが基準値Esc0を越えるときには、基本角度変化制限値演算ブロック118により演算される基本角度変化制限値Δθplimbが角度変化制限値Δθplimとされると共に、電源60より供給される電力を使用して作動する他の装置172に対し電力消費低減指令信号が出力される。
従って操舵比可変装置16の作動により車両の進行方向を変更する必要性が高い状況に於いて、左右前輪の転舵駆動速度が低く制限されることを防止し、操舵比可変装置16の作動による車両の進行方向の変更を効果的に行わせることができ、また電源60より電力ができるだけ電動パワーステアリング装置14へ供給される状況を確保することにより、アシスト切れをできるだけ防止することができる。尚この作用効果も後述の第十一及び第十二の実施例に於いても同様に得られる。
第十一の実施例
図24は第四の実施例の修正例として構成された本発明による車両の操舵制御装置の第十一の実施例に於ける角度変化制限値演算部を示す機能ブロック図である。尚この第十一の実施例の図24の機能ブロック図による制御以外の制御は上述の第四の実施例の場合と同様に達成される。
この第十一の実施例に於いては、角度変化制限値演算部148は第五の実施例の場合と同様の基本角度変化制限値演算ブロック149を有する。また角度変化制限値演算部148は第十の実施例の場合と同様の補正係数演算ブロック160及び166を有する。補正係数演算ブロック160により演算された補正係数K7は掛け算器163により基本角度変化制限値Δθplimcと掛け算される。補正係数演算ブロック166により演算された補正係数K8は乗算器169により掛け算器163の演算結果K7・Δθplimbと掛け算され、これによりK7K8Δθplimcの値が調停器174へ供給される。調停器174は第十の実施例の調停器170と同様に作動する。
従って第十一の実施例によれば、上述の第四の実施例の場合と同様、据え切り操舵の如き低車速での大舵角の操舵操作が行われる場合にも、アシスト切れの状態になることを確実に防止することができる。また第十一の実施例によれば、上述の第二の実施例の場合と同様、車速が低下することによりラックバー26の軸力が増加する状況を早めに判定し、角度変化制限値Δθplimを早めに小さくすることができると共に、運転者により速い操舵操作が行われる状況を早めに判定し、角度変化制限値Δθplimを早めに小さくすることができる。
更に第十一の実施例によれば、上述の第十の実施例の場合と同様、プリクラッシュセーフティシステムによる自動操舵が行われる際の操舵トルクが高く、パワーステアリング装置14に要求されるアシストトルクが高い状況に於けるアシスト切れを効果的に防止することができる。
第十二の実施例
図25は第七の実施例の修正例として構成された本発明による車両の操舵制御装置の第十二の実施例に於ける角度変化制限値演算部を示す機能ブロック図である。尚この第十二の実施例の図25の機能ブロック図による制御以外の制御は上述の第七の実施例の場合と同様に達成される。
図25に示されている如く、この第十二の実施例に於いては、第一の角度変化制限値演算部76は第十の実施例の角度変化制限値演算部76と同様の基本角度変化制限値演算ブロック118、掛け算器162及び168、調停器170を有している。第二の角度変化制限値演算部148は第十一の実施例の角度変化制限値演算部148と同様の基本角度変化制限値演算ブロック149、掛け算器163及び169、調停器174を有している。また第一の角度変化制限値演算部76及び第二の角度変化制限値演算部148は互いに共通の演算ブロックとして補正係数演算ブロック160及び166を有している。
この第十二の実施例に於ける調停器170は第十の実施例の場合と同様基本角度変化制限値Δθplimbと値K7K8Δθplimbとの調停を行い、調停結果の値を第一の角度変化制限値Δθplim1として最小値選択部154へ供給する。また調停器174は第十一の実施例の場合と同様基本角度変化制限値Δθplimcと値K7K8Δθplimcとの調停を行い、調停結果の値を第二の角度変化制限値Δθplim2として最小値選択部154へ供給する。しかし調停器170及び174は電力消費低減指令信号を出力しない。
この第十二の実施例に於いても、最小値選択部154は第一の角度変化制限値Δθplim1及び第二の角度変化制限値Δθplim2のうちの小さい方の値を選択し、その値を角度変化制限値Δθplimとして最終目標相対角度演算部78へ出力する。そして最小値選択部154は電源60より供給される電力を使用して作動する他の装置172に対し必要に応じて電力消費低減指令信号を出力する。
即ち最小値選択部154は第一の角度変化制限値Δθplim1が基本角度変化制限値Δθplimbであり且つ第二の角度変化制限値Δθplim2よりも小さい場合に、換言すれば基本角度変化制限値Δθplimbを角度変化制限値Δθplimとする場合に、電力消費低減指令信号を出力する。或いは最小値選択部154は第二の角度変化制限値Δθplim2が基本角度変化制限値Δθplimcであり且つ第一の角度変化制限値Δθplim1よりも小さい場合に、換言すれば基本角度変化制限値Δθplimcを角度変化制限値Δθplimとする場合に、電力消費低減指令信号を出力する。
従って第十二の実施例によれば、上述の第一の実施例の場合と同様、緊急回避操舵の如き中高車速での急激な操舵操作が行われる場合にも、アシスト切れの状態になることを確実に防止することができ、上述の第四の実施例の場合と同様、運転者により据え切りの如き低車速での大舵角の操舵操作が行われる場合にも、アシスト切れの状態になることを確実に防止することができ、更には上述の第十の実施例の場合と同様、プリクラッシュセーフティシステムによる自動操舵が行われる際の操舵トルクが高く、パワーステアリング装置14に要求されるアシストトルクが高い状況に於けるアシスト切れを効果的に防止することができる。
また以上の説明より明らかである如く、上述の第一乃至第十二の実施例によれば、回転速度マージンMpd又はトルクマージンMatが小さいほど小さくなるようロアステアリングシャフト40の単位時間当りの角度変化制限値Δθplimが演算され、目標角度変化量Δθptの大きさが角度変化制限値Δθplimを越えないよう、必要に応じて目標相対角度θptが修正される。
従ってアシスト切れの虞れがないときには目標相対角度θptが不必要に修正されることを防止することができ、これにより操舵比の制御をできるだけ適正に行うことができると共に、アシスト切れの虞れがあるときには目標相対角度θptが修正されない場合に比して確実にロアステアリングシャフト40の回転速度の大きさを小さくし、左右前輪の転舵駆動速度が高いことに起因してパワーステアリング装置14が所要のアシストトルクを発生し得なくなることを確実に防止することができる。
また上述の各実施例によれば、パワーステアリング装置14が大型で高出力のものでなくてもアシスト切れを防止することができるので、運転者により低車速での大舵角の操舵操作や中高車速での急激な操舵操作が行われる際のアシスト切れを防止すべく、パワーステアリング装置を大型で高出力のものにする必要がなく、これによりパワーステアリング装置及び操舵比可変装置を備えた操舵制御装置を小型で低廉なものにすることができる。
また上述の各実施例によれば、電源60はパワーステアリング装置14及び操舵比可変装置16に共通の電源であり、パワーステアリング装置及び操舵比可変装置の何れも電源より供給される駆動電流を使用して作動する。上述の如く緊急回避操舵の如き中高車速での急激な操舵操作が行われる場合や運転者により据え切りの如き低車速での大舵角の操舵操作が行われる場合には、操舵比可変装置16の制御量が低減され、これにより消費される電力が低減される。従って電源60が供給可能な電力が低下することに起因してパワーステアリング装置14若しくは操舵比可変装置16が適正に作動し得なくなる虞れを確実に低減することができる。
以上に於いては本発明を特定の実施例について詳細に説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施例が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
例えば上述の各実施例に於いては、ロアステアリングシャフト40の最大許容回転速度θpdmaxはアシストトルクTaに基づいて図2のグラフに対応するマップ84より演算され、またパワーステアリング装置14の最大許容アシストトルクTamaxは回転速度θpdに基づいて図2のグラフに対応するマップ146より演算されるようになっている。しかし最大許容回転速度θpdmaxや最大許容アシストトルクTamaxは図28に於いて最大値を示す線Lよりも原点側にある破線L′にて示されている如く、実際の最大許容回転速度や最大許容アシストトルクよりも余裕のある値として演算されてもよい。
同様に、角度変化制限値Δθplim、Δθplimb、Δθplimcは回転速度マージンMpd又はトルクマージンMatが大きいほど角度変化制限値Δθplimが大きくなるよう、回転速度マージンMpd又はトルクマージンMatに基づいてマップ116等より演算されるようになっているが、これらのマップは図29に示されたグラフに対応するマップに置き換えられ、角度変化制限値Δθplim等は回転速度マージンMpd又はトルクマージンMatが小さいときには0になるよう演算されてもよい。
また上述の各実施例に於いては、補正係数演算部86〜90により電源60の電気エネルギー供給能力についての補正係数K2及びK3が演算され、補正係数K1〜K3の乗算値として演算される補正係数Kbが最大許容回転速度θpdmaxに掛け算され、これにより補正後の最大許容回転速度θpdmaxaが演算され、また補正係数Kbが最大許容アシストトルクTamaxに掛け算され、これにより補正後の最大許容アシストトルクTamaxaが演算されるようになっている。
しかし図30に示されている如く補正係数Kbが小さいほど最大許容回転速度θpdmaxaが小さくなるよう、補正係数Kbに応じてマップ84が変更されるよう修正されてもよい。同様に図31に示されている如く補正係数Kbが小さいほど最大許容アシストトルクTamaxaが小さくなるよう、補正係数Kbに応じてマップ146が変更されるよう修正されてもよい。また回転速度マージンMpdやトルクマージンMatが補正係数Kbにて補正されてもよい。
また上述の各実施例に於いては、補正係数K4〜K6は基本角度変化制限値Δθplimb、Δθplimcに乗算されるようになっているが、これらの補正係数が回転速度マージンMpdやトルクマージンMatに乗算され、その補正後の回転速度マージンMpdやトルクマージンMatに基づいて角度変化制限値Δθplimが演算されるよう修正されてもよい。
また上述の各実施例に於いては、電源60はパワーステアリング装置14及び操舵比可変装置16に共通の電源であり、パワーステアリング装置及び操舵比可変装置の何れも電源60より供給される駆動電流を使用して作動するようになっている。しかし本発明はパワーステアリング装置及び操舵比可変装置に対し互いに異なる電源より駆動電流が供給される車両に適用されてもよい。
また上述の各実施例に於いては、パワーステアリング装置14のアシストトルクTaはアシスト電流Ipsにトルク定数Kpsを乗算することにより演算されるようになっているが、アシストトルクTaは当技術分野に於いて公知の任意に要領にて演算されてよい。
また上述の第四乃至第九の実施例、第十一の実施例、第十二の実施例に於いては、ロアステアリングシャフト40の回転速度θpdは操舵速度θdと、目標ステアリンクギヤ比Rgtの逆数1/Rgtと操舵速度θdとの積との和として演算されるようになっているが、回転速度θpdは当技術分野に於いて公知の任意に要領にて演算されてよい。また回転速度θpdはパワーステアリング装置14の電動機32に回転速度に基づいて推定されてもよく、ロアステアリングシャフト40に回転速度センサが設けられている場合にはその検出値であってよい。
また上述の第十の実施例の構成が第二の実施例に適用されてもよい。即ち乗算器126により演算される値K4K5Δθplimbに対しそれぞれ乗算器162及び168により補正係数K7及びK8が掛け算され、調停器170が基本角度変化制限値Δθplimbと値K4K5K7K8Δθplimbとを調停するよう構成されてもよい。
同様に上述の第十の実施例の構成が第三の実施例に適用されてもよい。即ち乗算器130により演算される値K6Δθplimbに対しそれぞれ乗算器162及び168により補正係数K7及びK8が掛け算され、調停器170が基本角度変化制限値Δθplimbと値K6K7K8Δθplimbとを調停するよう構成されてもよい。
また上述の第十一の実施例の構成が第四の実施例に適用されてもよい。即ち乗算器127により演算される値K4K5Δθplimcに対しそれぞれ乗算器163及び169により補正係数K7及びK8が掛け算され、調停器174が基本角度変化制限値Δθplimcと値K4K5K7K8Δθplimcとを調停するよう構成されてもよい。
同様に上述の第十一の実施例の構成が第五の実施例に適用されてもよい。即ち乗算器131により演算される値K6Δθplimcに対しそれぞれ乗算器163及び169により補正係数K7及びK8が掛け算され、調停器174が基本角度変化制限値Δθplimcと値K6K7K8Δθplimcとを調停するよう構成されてもよい。
また上述の第十二の実施例の構成が第八の実施例に適用されてもよい。即ち乗算器126により演算される値K4K5Δθplimbに対しそれぞれ乗算器162及び168により補正係数K7及びK8が掛け算され、調停器170が基本角度変化制限値Δθplimbと値K4K5K7K8Δθplimbとを調停するよう構成されてもよい。また乗算器127により演算される値K4K5Δθplimcに対しそれぞれ乗算器163及び169により補正係数K7及びK8が掛け算され、調停器174が基本角度変化制限値Δθplimcと値K4K5K7K8Δθplimcとを調停するよう構成されてもよい。
同様に上述の第十二の実施例の構成が第九の実施例に適用されてもよい。即ち乗算器130により演算される値K6Δθplimbに対しそれぞれ乗算器162及び168により補正係数K7及びK8が掛け算され、調停器170が基本角度変化制限値Δθplimbと値K6K7K8Δθplimbとを調停するよう構成されてもよい。また乗算器131により演算される値K6Δθplimcに対しそれぞれ乗算器163及び169により補正係数K7及びK8が掛け算され、調停器174が基本角度変化制限値Δθplimcと値K6K7K8Δθplimcとを調停するよう構成されてもよい。