JP5327331B2 - 車両の電動パワーステアリング装置 - Google Patents
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Description
本発明は、操舵ハンドルの回動操作に対してアシスト力を付与する電動モータを備えた車両の電動パワーステアリング装置に関し、特に、運転者による操舵ハンドルの回動操作によって入力される操作力を検出する操作力検出手段に異常が発生した場合であっても適切なアシスト力の付与を継続する電動パワーステアリング装置に関する。
操作力検出手段によって検出し、この検出された操作力に基づいて電動モータを制御してアシスト力を付与する電動パワーステアリング装置は、操作力検出手段に異常が発生した場合に誤出力を防止する観点から、一般的に、アシスト力を速やかに減少させて電動モータの作動を停止させるフェールセーフ機構を備えている。しかし、車両が走行しているときに操作力検出手段に異常が発生してアシスト力の付与がなくなると、運転者が操舵ハンドルを回動操作するときの負担は大きくなる。したがって、操作力検出手段に異常が発生した場合であっても、電動パワーステアリング装置は、できる限り電動モータを作動させてアシスト力の付与を継続することが望まれている。
このため、近年、操作力検出手段に異常が発生した場合であっても、アシスト力を継続して付与できる電動パワーステアリング装置は盛んに研究され提案されている。例えば、特開2009−6985号公報には、路面からの反力を考慮して操舵補助力の発生を継続する電動パワーステアリング装置が示されている。この従来の電動パワーステアリング装置は、ステアリング系に入力される操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、この操舵トルク検出手段によって検出された操舵トルクに基づいて操舵補助トルク指令値を演算する第1のトルク指令値演算手段とを備えている。また、この従来の電動パワーステアリング装置は、路面からステアリング機構に伝達されるセルフアライニングトルクを推定するセルフアライニング推定手段と、この推定されたセルフアライニングトルクに基づいて操舵補助トルク指令値を演算する第2のトルク指令値演算手段とも備えている。ここで、セルフアライニング推定手段は、ステアリング機構の操舵角に基づいてセルフアライニングトルクを推定することができ、ステアリング機構の操舵角は、車両の前輪左右の車輪速に基づいて算出することができるようになっている。
この従来の電動パワーステアリング装置においては、操舵トルク検出手段の異常を検出するトルク検出部異常検出手段が操舵トルク検出手段の異常を検出すると、第1のトルク指令値演算手段に代えて第2のトルク指令値演算手段を用いる。そして、第2の指令値演算手段によって演算された操舵補助トルク指令値を用いて、操舵補助トルクの発生を継続するようになっている。
ここで、車輪速を用いた操舵角の検出に関して、例えば、特開2005−98827号公報には、車両の4輪それぞれに設けられた車輪回転速度センサから入力した前後左右2輪ずつの車輪回転速度の関係を比較することによって4輪のスリップを検知し、スリップしている車輪以外の車輪の車輪回転速度を用いて操舵角を推定する車両用操舵角推定装置が示されている。
また、例えば、特開2008−249719号公報には、車両の4輪それぞれに設けられた車輪回転速度センサから入力した前左右2輪の車輪回転速度の回転速度比と、後左右2輪の車輪回転速度の回転速度比と、右前後2輪の車輪回転速度の回転速度比と、左前後2輪の車輪回転速度の回転速度比とを求め、これら各回転速度比を比較することによって4輪のスリップを検知し、スリップしている車輪を除いて求められる前記各回転速度比を用いて操舵角を推定する車両用操舵角推定装置が示されている。
また、例えば、特開平11−78924号公報には、操舵トルクセンサが故障しても操舵補助力をステアリング系に安定して供給する電動パワーステアリング装置が示されている。この従来の電動パワーステアリング装置は、操舵トルクセンサと、トルク信号検出器および故障検出手段を有する操舵トルク検出器とから成る操舵トルク検出手段を2つ備えている。そして、この従来の電動パワーステアリング装置は、故障検出手段からの故障信号に基づいて一方の操舵トルク検出手段から他方の操舵トルク検出手段へ切り替えることにより、装置の作動を継続させ、正確な操舵トルクに基づいて操舵補助力をステアリング系に供給するようになっている。
このため、近年、操作力検出手段に異常が発生した場合であっても、アシスト力を継続して付与できる電動パワーステアリング装置は盛んに研究され提案されている。例えば、特開2009−6985号公報には、路面からの反力を考慮して操舵補助力の発生を継続する電動パワーステアリング装置が示されている。この従来の電動パワーステアリング装置は、ステアリング系に入力される操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、この操舵トルク検出手段によって検出された操舵トルクに基づいて操舵補助トルク指令値を演算する第1のトルク指令値演算手段とを備えている。また、この従来の電動パワーステアリング装置は、路面からステアリング機構に伝達されるセルフアライニングトルクを推定するセルフアライニング推定手段と、この推定されたセルフアライニングトルクに基づいて操舵補助トルク指令値を演算する第2のトルク指令値演算手段とも備えている。ここで、セルフアライニング推定手段は、ステアリング機構の操舵角に基づいてセルフアライニングトルクを推定することができ、ステアリング機構の操舵角は、車両の前輪左右の車輪速に基づいて算出することができるようになっている。
この従来の電動パワーステアリング装置においては、操舵トルク検出手段の異常を検出するトルク検出部異常検出手段が操舵トルク検出手段の異常を検出すると、第1のトルク指令値演算手段に代えて第2のトルク指令値演算手段を用いる。そして、第2の指令値演算手段によって演算された操舵補助トルク指令値を用いて、操舵補助トルクの発生を継続するようになっている。
ここで、車輪速を用いた操舵角の検出に関して、例えば、特開2005−98827号公報には、車両の4輪それぞれに設けられた車輪回転速度センサから入力した前後左右2輪ずつの車輪回転速度の関係を比較することによって4輪のスリップを検知し、スリップしている車輪以外の車輪の車輪回転速度を用いて操舵角を推定する車両用操舵角推定装置が示されている。
また、例えば、特開2008−249719号公報には、車両の4輪それぞれに設けられた車輪回転速度センサから入力した前左右2輪の車輪回転速度の回転速度比と、後左右2輪の車輪回転速度の回転速度比と、右前後2輪の車輪回転速度の回転速度比と、左前後2輪の車輪回転速度の回転速度比とを求め、これら各回転速度比を比較することによって4輪のスリップを検知し、スリップしている車輪を除いて求められる前記各回転速度比を用いて操舵角を推定する車両用操舵角推定装置が示されている。
また、例えば、特開平11−78924号公報には、操舵トルクセンサが故障しても操舵補助力をステアリング系に安定して供給する電動パワーステアリング装置が示されている。この従来の電動パワーステアリング装置は、操舵トルクセンサと、トルク信号検出器および故障検出手段を有する操舵トルク検出器とから成る操舵トルク検出手段を2つ備えている。そして、この従来の電動パワーステアリング装置は、故障検出手段からの故障信号に基づいて一方の操舵トルク検出手段から他方の操舵トルク検出手段へ切り替えることにより、装置の作動を継続させ、正確な操舵トルクに基づいて操舵補助力をステアリング系に供給するようになっている。
ところで、操作力検出手段に異常が発生した場合に継続してアシスト力を付与するためには、運転者が操舵ハンドルを介して入力する操作力に対する抵抗力すなわち路面から車輪を介して入力する反力を正確に検出または推定する必要がある。そして、正確に検出または推定した反力を用いてアシスト力を決定して付与する必要がある。
この点に関し、上記特開2009−6985号公報に示された電動パワーステアリング装置においては、反力として入力するセルフアライニングトルクを操舵角や路面摩擦係数に基づいて推定するようになっている。この場合、セルフアライニングトルクは路面摩擦係数に大きく依存して変化するものであるため、正確に路面摩擦係数を検出または推定する必要がある。このため、別途、車両にセンサを設ける必要がある。
また、セルフアライニングトルクを操舵角に基づいて推定する場合には、操舵角を精度よく検出または推定する必要がある。この場合、上記特開2009−6985号公報に示された電動パワーステアリング装置においては、前輪左右の車輪速を用いて算出するようになっている。しかしながら、前輪左右の車輪速を用いて操舵角を算出するには、各車輪の回転状態を考慮しなければ、正確な操舵角を算出することは不能である。
このことに関し、例えば、特開2005−98827号公報および特開2008−249719号公報に示された車両用操舵角推定装置を利用すれば、車輪の回転状態として車輪に発生したスリップを考慮することができ、正確な操舵角を算出することが可能となる。ところが、特開2005−98827号公報および特開2008−249719号公報に示された車両用操舵角推定装置では、図18に示すように、車両が旋回するときに前後左右輪間で成立する周知のアッカーマン・ジャント理論に基づいて、下記Eq.(1)およびEq.(2)により操舵角を推定する。具体的には、前輪側の左右輪の車輪速度ωfL,ωfRを用いた転舵輪の舵角としての操舵角θFrと、後輪側の左右輪の車輪速度ωrL,ωrRを用いた転舵輪の舵角としての操舵角θRrとを推定する。
ただし、前記Eq(1)、Eq(2)中のLは車両のホイールベースを表し、Wは車両のトレッド幅を表す。
ところで、アッカーマン・ジャントの理論を成立させるためには、図18において、車両旋回時における旋回内側転舵輪のアッカーマン角αRが旋回外側転舵輪のアッカーマン角αLよりも大きくなることが必要である。また、旋回内側転舵輪のアッカーマン角αRと旋回外側転舵輪のアッカーマン角αLとの比、所謂、アッカーマン率が維持されることも必要な条件である。
しかし、一般的に、転舵輪が最大舵角付近まで転舵されると、車両のサスペンションジオメトリ特性により、アッカーマン率が低下すると言われている。したがって、前輪側が転舵輪である場合、前記Eq.(1)により操舵角θFrを推定して計算した場合には、特に、最大舵角付近での推定精度が悪化することになる。また、一般的に、転舵されない後輪側は車両の旋回に伴って引きずられながら旋回円上を移動する。したがって、このような後輪側の挙動を考慮することなく前記Eq.(2)により操舵角θRrを推定して計算した場合には、推定精度が悪化することになる。そして、このように操舵角θFrおよび操舵角θRrの推定精度が悪化すると、操舵角θFrまたは操舵角θRrを用いて推定される反力(セルフアライニングトルク)の推定精度も悪化する。その結果、適切なアシスト力を付与することが難しくなる。
一方で、特開平11−78924号公報に示された電動パワーステアリング装置のように、操作力検出手段(操舵トルク検出手段)を複数備えて冗長系を構成すれば、適切なアシスト力を常に付与することが可能となる。しかし、この場合には、複数の操作力検出手段(操舵トルク検出手段)を車両に搭載する必要があり、搭載スペースの確保やコストの観点から好ましくない。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、操作力検出手段に異常が発生した場合であっても、簡略化した構成により適切なアシスト力を正確に決定し、このアシスト力を継続して付与する車両の電動パワーステアリング装置を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、運転者による操舵ハンドルの回動操作によって車両の転舵輪を転舵するために入力される操作力を検出する操作力検出手段と、運転者による前記操舵ハンドルの回動操作に対してアシスト力を付与する電動モータと、前記操作力検出手段によって検出された操作力に対応するアシスト力に基づいて前記電動モータの作動を制御する制御手段とを備えた車両の電動パワーステアリング装置において、前記制御手段が、車両の車速を検出する車速検出手段と、車両の前後左右輪にそれぞれ設けられて各輪の車輪速度を検出する車輪速度検出手段と、前記操作力検出手段の異常を判定する異常判定手段と、前記異常判定手段によって前記操作力検出手段の異常が判定されると、前記車輪速度検出手段によって検出された前記各輪の車輪速度のうち、前輪側の左右輪の車輪速度を用いて前記転舵輪の第1舵角を演算するとともに後輪側の左右輪の車輪速度を用いて前記転舵輪の第2舵角を演算し、これら第1舵角および第2舵角を用いて車両旋回時における前記転舵輪の舵角を推定する舵角推定手段と、前記転舵輪の舵角および車両の車速と予め定めた関係にあって前記車両の転舵輪を転舵する転舵機構に入力される軸力を、前記舵角推定手段によって推定された舵角および前記車速検出手段によって検出された車速を用いて推定する軸力推定手段と、車両の車速と予め定めた関係にあって運転者が前記操舵ハンドルを介して入力する目標操舵力を前記車速検出手段によって検出された車速を用いて決定し、この決定した目標操舵力と前記軸力推定手段によって推定された軸力とを用いて、運転者による前記操舵ハンドルの回動操作に対して付与するアシスト力を演算するアシスト力演算手段と、前記アシスト力演算手段によって演算されたアシスト力に基づいて前記電動モータの作動を制御する作動制御手段とを備えたことにある。
これによれば、異常判定手段によって操作力検出手段の異常が判定された場合、舵角推定手段は、前輪側の左右輪の車輪速度を用いて転舵輪の第1舵角を演算し、後輪側の左右輪の車輪速度を用いて転舵輪の第2舵角を演算することができる。そして、舵角推定手段は、この演算した第1舵角および第2舵角を用いて車両旋回時における転舵輪の舵角を推定することができる。これにより、例えば、上述したアッカーマン・ジャント理論に基づいて転舵輪の舵角を推定しても、前輪側(転舵輪側)におけるアッカーマン率の低下に伴う推定精度の悪化や後輪側における引きずり発生に伴う推定精度の悪化を抑制することができる。また、第1舵角および第2舵角を用いることにより、例えば、車輪速度検出手段によって検出される各輪の車輪速度のいずれかに異常が発生しても、転舵輪の舵角の推定に関し、この異常による影響を受けにくいロバストな冗長系を構成することができる。したがって、舵角推定手段は、精度よく、転舵輪の舵角を推定することができる。
ここで、舵角推定手段が精度よく転舵輪の舵角を推定することができるため、転舵輪の舵角を検出する舵角センサが不要となる。これにより、搭載スペースの確保が不要となるとともに、大幅なコストダウンが可能となる。また、例えば、本来舵角センサを搭載していない車両においても、操作力検出手段に異常が発生した場合に電動パワーステアリング装置を継続して作動させることができる。
また、軸力推定手段は、舵角推定手段によって精度よく推定された転舵輪の舵角を用いて、転舵機構に入力される軸力を精度よく推定することができる。また、アシスト力演算手段は、車速に基づいて決定される目標操舵力と軸力推定手段によって精度よく推定された軸力とを用いて、運転者による操舵ハンドルの回動操作に対して付与するアシスト力を演算することができる。そして、作動制御手段が演算されたアシスト力が付与されるように、電動モータの作動を制御することができる。
したがって、操作力検出手段に異常が発生した場合であっても、転舵輪の舵角および転舵機構に入力される軸力を正確に推定してアシスト力を決定し、運転者による操舵ハンドルの回動操作に対して適切なアシスト力の付与を継続することができる。これにより、運転者が操舵ハンドルを回動操作するときの負担を大幅に軽減することができる。
この場合、前記制御手段が、前記操舵ハンドルの回動操作速度を検出する操作速度検出手段を備え、前記舵角推定手段が、前記車輪速度検出手段によって検出された前記各輪の車輪速度を所定のカットオフ周波数によりローパスフィルタ処理するフィルタ処理手段を有しており、前記フィルタ処理手段は、前記操作速度検出手段によって検出された回動操作速度の増加に伴って前記カットオフ周波数を大きな周波数に変更し、前記検出された回動操作速度の減少に伴って前記カットオフ周波数を小さな周波数に変更して、前記車輪速度検出手段によって検出された各輪の車輪速度をローパスフィルタ処理するとよい。この場合、前記操作速度検出手段は、例えば、前記電動モータの回転作動における回転速度を検出し、この検出された電動モータの回転速度を用いて前記操舵ハンドルの回動操作速度を検出するとよい。
これらによれば、フィルタ処理部は、車輪速度検出手段によって検出された各輪の車輪速度をローパスフィルタ処理することができる。これにより、車輪速度検出手段から出力される各輪の車輪速度を表す信号のノイズ成分を除去することができ、舵角推定手段によって演算される第1舵角、第2舵角および転舵輪の舵角の演算精度をさらに向上させることができる。
また、フィルタ処理部は、操作速度検出手段によって検出された操舵ハンドルの回動操作速度に応じてローパスフィルタ処理に用いるカットオフ周波数を変更することができる。すなわち、フィルタ処理部は、検出された回動操作速度が増加、言い換えれば、運転者によって素早く操舵ハンドルが回動操作されているときにはカットオフ周波数を大きな周波数に変更し、検出された回動操作速度が減少、言い換えれば、運転者によってゆっくり操舵ハンドルが回動操作されているときにはカットオフ周波数を小さな周波数に変更することができる。
これにより、特に、回動操作速度が大きいときにローパスフィルタ処理に伴って発生する信号の位相遅れを効果的に防止することができる。したがって、舵角推定手段は第1舵角および第2舵角を遅れなく演算することができるとともに演算精度を向上させることができる。これにより、軸力推定部が速やかに軸力を推定することができ、アシスト力演算手段が速やかにアシスト力を演算することができる。その結果、運転者による操舵ハンドルの回動操作に対して遅れなく、すなわち、良好な追従性を確保してアシスト力を付与することができる。
さらに、例えば、操舵ハンドルの回動操作に同期して回転する電動モータの回転速度を用いて運転者による操舵ハンドルの回動操作速度を検出することにより、他のセンサを利用することなく簡略化した構成により、操舵ハンドルの回動操作速度を検出することができる。これにより、コストダウンが可能となる。
また、これらの場合、前記舵角推定手段は、車両の転舵輪の実際の舵角に対する検出舵角の比を表し、予め実験により設定される車両のオーバーオールギア比を用いて、前記転舵輪の第1舵角および第2舵角を演算することができる。
このように、車両のオーバーオールギア比を用いて第1舵角および第2舵角を演算することにより、例えば、サスペンションジオメトリ特性に起因した第1舵角および第2舵角の演算誤差を低減することができる。すなわち、車両のオーバーオールギア比を用いることによって、上述したアッカーマン・ジャント理論に基づいて転舵輪の舵角を推定しても、前輪側(転舵輪側)におけるアッカーマン率の低下や後輪側における引きずり発生に伴う推定精度の悪化をより抑制することができる。したがって、舵角推定手段は、精度よく、転舵輪の舵角を推定することができる。
また、これらの場合、前記舵角推定手段は、前記車輪速度検出手段によって検出された前記各輪の車輪速度のうち、前記前輪側の左右輪の車輪速度の差を用いて演算した前記転舵輪の第1舵角と、前記後輪側の左右輪の車輪速度の差を用いて演算した前記転舵輪の第2舵角とを平均して、車両旋回時における前記転舵輪の舵角を推定することもできる。
このように、舵角推定手段が第1舵角と第2舵角とを平均して転舵輪の舵角を推定することにより、例えば、上述したアッカーマン・ジャント理論に基づいて転舵輪の舵角を推定しても、前輪側(転舵輪側)におけるアッカーマン率の低下に伴う推定精度の悪化と後輪側における引きずり発生に伴う推定精度の悪化の影響を相殺することができる。したがって、舵角推定手段は、精度よく、転舵輪の舵角を推定することができる。
さらに、これらの場合、前記車速検出手段によって検出された車速が予め設定された車速以下であるときに、前記舵角推定手段は、前記演算した前記転舵輪の第1舵角と、前記演算した前記転舵輪の第2舵角とを、それぞれ、「0」に演算するとよい。
これによれば、車輪速度検出手段が各輪の車輪速度を正確に検出できない可能性のある低車速域においては、第1舵角および第2舵角を「0」として演算することができる。これにより、誤った転舵輪の舵角を推定することを防止することができ、運転者による操舵ハンドルの回動操作に対して、不適切なアシスト力が付与されることを防止することができる。
また、本発明の他の特徴は、前記制御手段が、前記操舵ハンドルの回動操作速度を検出する操作速度検出手段を備えており、前記軸力推定手段が、前記操舵ハンドルの回動操作速度および車両の車速と予め定めた関係にあって前記推定された軸力を補正する補正軸力を、前記操作速度検出手段によって検出された回動操作速度および前記車速検出手段によって検出された車速を用いて演算する補正軸力演算手段を備えたことにもある。
これによれば、補正軸力演算手段は、運転者による操舵ハンドルの回動操作速度および車速に基づいて、軸力推定手段によって推定された軸力を補正する補正軸力を演算することができる。すなわち、補正軸力を演算して軸力推定手段によって推定された軸力を補正することにより、運転者による操舵ハンドルの回動操作状態を反映して、推定された軸力に軸力差、言い換えれば、推定された軸力に対してヒステリシス特性を付与することができる。したがって、運転者による操舵ハンドルの回動操作状態に応じて適切な軸力を推定することができるため、操舵ハンドルを回動操作したときに運転者が違和感を覚えることを効果的に防止することができる。
ここで、運転者による操舵ハンドルの回動操作速度(回動操作状態)に基づいて演算される補正軸力としては、例えば、転舵輪が転舵するときに路面との間で発生する摩擦力に起因して転舵機構に入力される軸力を考慮して演算されるとよい。この場合、転舵輪と路面との間で発生する摩擦力は、運転者による操舵ハンドルの回動操作速度(回動操作状態)および車速に応じて、大きさおよび作用方向が異なるものとなる。
また、補正軸力の演算に関し、前記操舵ハンドルの回動操作速度、前記車両の車速および前記補正軸力の関係のうち、前記操舵ハンドルの回動操作速度と前記補正軸力との関係が、少なくとも、前記操舵ハンドルの回動操作速度が予め設定された第1の回動操作速度未満であるときに前記操舵ハンドルの回動操作速度の増加に伴って前記補正軸力が増加し、前記操舵ハンドルの回動操作速度が前記第1の回動操作速度よりも大きく予め設定された第2の回動操作速度以上であるときに前記操舵ハンドルの回動操作速度の増加に伴って前記補正軸力が減少するように予め定めた関係であり、前記補正軸力演算手段は、前記予め定めた関係に基づいて、前記補正軸力を前記操作速度検出手段によって検出された回動操作速度を用いて演算するとよい。
これによれば、補正軸力演算手段は、運転者による操舵ハンドルの回動操作速度が第1の回動操作速度未満まで大きくなる状況においては補正軸力を増加させる。これにより、運転者は、操舵ハンドルの回動操作に対して、適切なアシスト力、言い換えれば、転舵輪の転舵に伴って入力する軸力(摩擦力)に起因する適切な大きさの反力を知覚することができる。一方、補正軸力演算手段は、運転者による操舵ハンドルの回動操作速度が第2の回動操作速度以上に大きくなる状況においては補正軸力を減少させる。これにより、運転者は、操舵ハンドルを素早く回動操作したときであっても、アシスト力不足を知覚する、言い換えれば、転舵輪の転舵に伴って入力する軸力(摩擦力)に起因する過大な反力を知覚することがない。
また、これらの場合、前記操舵ハンドルの回動操作速度、前記車両の車速および前記補正軸力の関係のうち、前記車両の車速と前記補正軸力との関係が、少なくとも、前記車両の車速の増加に伴って前記補正軸力が予め設定された所定の大きさに向けて減少するように予め定めた関係であり、前記補正軸力演算手段は、前記予め定めた関係に基づいて、前記補正軸力を前記車速検出手段によって検出された車速を用いて演算するとよい。
これによれば、補正軸力演算手段は、車両の車速の増加に伴って補正軸力を減少させることができる。したがって、低車速域において大きく演算される補正軸力により、例えば、軸力推定手段によって推定された軸力が大きくなるように補正することができる。このため、操舵ハンドルの回動操作に対して大きなアシスト力を付与させることにより、運転者は適切なアシスト力(小さな軸力)を知覚することができる。一方、車速が増加すると補正軸力が小さく演算されるため、補正軸力による推定された軸力の増加量が小さくなる。このため、操舵ハンドルの回動操作に対して小さなアシスト力を付与させることにより、運転者はしっかりとした反力(大きな軸力)を知覚することができる。なお、車速の増加に応じて補正軸力が減少することは、車両の車速が増加することに伴って、例えば、転舵輪と路面との間に発生する摩擦力が減少することに対応する。
また、本発明の他の特徴は、前記アシスト力演算手段は、前記決定した目標操舵力の絶対値と前記軸力推定手段によって推定された軸力の絶対値とを比較し、前記推定された軸力の絶対値が前記目標操舵力の絶対値以下であるときに前記アシスト力を「0」に演算し、前記推定された軸力の絶対値が前記目標操舵力の絶対値よりも大きいときに前記推定された軸力から前記目標操舵力を減じて前記アシスト力を演算することにもある。
これによれば、アシスト演算手段は、運転者が操舵ハンドルを介して入力すべき目標操舵力の絶対値と推定された軸力の絶対値とを比較することができる。そして、アシスト演算手段は、推定された軸力の絶対値が目標操舵力の絶対値以下であるときにはアシスト力を「0」に演算することができる。また、アシスト演算手段は、推定された軸力の絶対値が目標操舵力の絶対値よりも大きいときには推定された軸力から目標操舵力を減してアシスト方向を加味したアシスト力を演算することができる。
これにより、推定された軸力の絶対値が目標操舵力の絶対値以下であるときには、運転者が操舵ハンドルを回動操作してもアシスト力は付与されない。言い換えれば、目標操舵力の絶対値がアシスト力を付与するときの不感帯の大きさとなる。一方、推定された軸力の絶対値が目標操舵力の絶対値よりも大きいときには、推定された軸力の絶対値が目標操舵力の絶対値(不感帯)を超えた分だけのアシスト力が付与されるため、運転者による操舵ハンドルの回動操作に対して最小限のアシストが可能となる。
また、この場合、前記アシスト力演算手段は、前記車速検出手段によって検出された車速が予め設定された所定の車速未満であるときに前記検出された車速の増加に伴って前記目標操舵力の絶対値を増加させて決定し、前記検出された車速が前記予め設定された所定の車速以上であるときに前記検出された車速の増加に伴って前記目標操舵力の絶対値を一定にして決定することができる。
これによれば、上述した不感帯の大きさに一致する目標操舵力の絶対値が低車速域では小さく決定される。このため、推定された軸力が小さい場合であってもアシスト力を付与することができる。したがって、低車速域においては、運転者は小さな操作力によって極めて容易に操舵ハンドルを回動操作することができて、車両の取り回し性を良好に確保することができる。
一方、所定の車速以上の中・高車速域では、目標操舵力の絶対値が一定の大きな値に決定される。このため、上述した不感帯の大きさが大きくなり、推定された軸力が小さい場合にはアシスト力が付与されない。したがって、中・高車速域においては、運転者は若干大きな操作力によって操舵ハンドルを回動操作する、言い換えれば、しっかりとした反力を知覚しながら操舵ハンドルを回動操作することができて、良好な走行安定性を確保することができる。
さらに、本発明の他の特徴は、前記舵角推定手段が、前記前後左右輪のいずれかに発生したスリップの状態に応じて増減する前記第1舵角と前記第2舵角との差分を表す舵角差を演算し、前記アシスト力演算手段が、前記舵角推定手段によって演算された舵角差の大きさに基づき、前記演算されたアシスト力を前記前後左右輪のいずれかに発生したスリップの状態に応じて補正するアシスト力補正手段を備えたことにもある。
これによれば、アシスト力補正手段は、舵角推定手段によって演算される第1舵角と第2舵角との舵角差に基づき、車輪の回転状態として前後左右輪のいずれかに発生したスリップの状態を判断することができる。すなわち、前後左右輪のいずれかにスリップが発生すると、前後左右輪の旋回中心は同一とならないため、その結果、舵角差が大きくなる。このため、舵角差が大きくなるに伴って、前後左右輪のいずれかにスリップ率の大きなスリップが発生していると判断することができる。
したがって、アシスト力補正手段は、演算された舵角差に基づき、言い換えれば、前後左右輪のいずれかに発生したスリップの状態に応じて、アシスト力の大きさを補正することができる。また、アシスト力補正手段は、演算された舵角差に基づいてスリップの発生を判断することができるため、他のセンサ(例えば、加速度センサやヨーレートセンサなど)を別途設ける必要がなく、コストダウンが可能となる。
この場合、前記アシスト力補正手段は、前記舵角推定手段によって演算された舵角差を用いて、前記前後左右輪のいずれかに発生したスリップの状態に応じて前記アシスト力演算手段によって演算されたアシスト力の大きさを補正するスリップゲインを決定するものであって、前記演算された舵角差が予め設定された第1の舵角差以上であるときに前記スリップゲインを減少させて決定し、前記演算された舵角差が前記第1の舵角差よりも大きく予め設定された第2の舵角差以上であるときに前記スリップゲインを「0」に決定するスリップゲイン決定手段と、前記演算されたアシスト力に対して前記スリップゲイン決定手段によって決定されたスリップゲインを乗算して補正されたアシスト力を演算する補正アシスト力演算手段とを備えることができる。
これによれば、スリップゲイン決定手段は、演算された舵角差に応じて、すなわち、前後左右輪のいずれかに発生したスリップの状態に応じて、スリップゲインを決定し、補正アシスト力演算手段は、アシスト力演算手段によって演算されたアシスト力とスリップゲインを乗算して補正されたアシスト力を演算することができる。したがって、アシスト力補正手段は、演算された舵角差(すなわち、スリップ状態)の増加に応じて減少するスリップゲインを用いて、アシスト力演算手段によって演算されたアシスト力を低減することができる。このため、例えば、過剰なアシスト力の付与やスリップ輪で生じるセルフステアを確実に防止することができる。また、スリップゲイン決定手段は、スリップゲインを舵角差(スリップ状態)の増加に合わせて緩やかに減少させることができる。これにより、例えば、前後左右輪のいずれかにスリップが発生したときには、アシスト力補正手段は、アシスト力が緩やかに低減するように補正することができるため、アシスト力が急変することを確実に防止することができる。
また、この場合、前記アシスト力補正手段が、前記舵角推定手段によって演算された舵角差が前記第2の舵角差未満となったとき、前記アシスト力演算手段によって演算されたアシスト力が「0」でなければ、前記スリップゲイン決定手段が前記演算された舵角差を用いて決定する前記スリップゲインが「0」よりも大きくなることを禁止して前記スリップゲインを「0」に維持し、前記演算されたアシスト力が「0」であれば、前記スリップゲイン決定手段が前記演算された舵角差を用いて決定する前記スリップゲインを復帰させて、前記スリップゲインが「0」よりも大きくなることを許容するスリップゲイン復帰判定手段を備えることができる。
これによれば、スリップゲイン復帰判定手段は、スリップゲインが「0」の状態から「0」よりも大きな値に変化する状況において、アシスト力演算手段によって演算されたアシスト力の大きさに基づいて、スリップゲインの値を変更させるか否かを判定することができる。ここで、舵角差が第2の舵角差以上(例えば、スリップ率が「1」となる完全スリップ状態)において、例えば、偶然に舵角差が第2の舵角差未満になると、スリップゲイン決定手段はスリップゲインを「0」よりも大きな値に決定する場合がある。このとき、スリップゲイン復帰判定手段が設けられない場合には、例えば、「0」よりも大きなアシスト力が演算されていると、補正されたアシスト力が付与されるため、過剰なアシスト力の付与やスリップ輪でセルフステアが発生する可能性がある。
このため、スリップゲイン復帰判定手段は、上記状況において、演算されたアシスト力が「0」であるときに限り、「0」に維持しているスリップゲインを、スリップゲイン決定手段が舵角差に応じて「0」よりも大きな値に決定したスリップゲインの復帰を許容する。これにより、アシスト力の付与が不要となるまでスリップゲインを「0」に維持することができるため、過剰なアシスト力の付与やスリップ輪でセルフステアの発生を確実に防止することができる。
この点に関し、上記特開2009−6985号公報に示された電動パワーステアリング装置においては、反力として入力するセルフアライニングトルクを操舵角や路面摩擦係数に基づいて推定するようになっている。この場合、セルフアライニングトルクは路面摩擦係数に大きく依存して変化するものであるため、正確に路面摩擦係数を検出または推定する必要がある。このため、別途、車両にセンサを設ける必要がある。
また、セルフアライニングトルクを操舵角に基づいて推定する場合には、操舵角を精度よく検出または推定する必要がある。この場合、上記特開2009−6985号公報に示された電動パワーステアリング装置においては、前輪左右の車輪速を用いて算出するようになっている。しかしながら、前輪左右の車輪速を用いて操舵角を算出するには、各車輪の回転状態を考慮しなければ、正確な操舵角を算出することは不能である。
このことに関し、例えば、特開2005−98827号公報および特開2008−249719号公報に示された車両用操舵角推定装置を利用すれば、車輪の回転状態として車輪に発生したスリップを考慮することができ、正確な操舵角を算出することが可能となる。ところが、特開2005−98827号公報および特開2008−249719号公報に示された車両用操舵角推定装置では、図18に示すように、車両が旋回するときに前後左右輪間で成立する周知のアッカーマン・ジャント理論に基づいて、下記Eq.(1)およびEq.(2)により操舵角を推定する。具体的には、前輪側の左右輪の車輪速度ωfL,ωfRを用いた転舵輪の舵角としての操舵角θFrと、後輪側の左右輪の車輪速度ωrL,ωrRを用いた転舵輪の舵角としての操舵角θRrとを推定する。
ただし、前記Eq(1)、Eq(2)中のLは車両のホイールベースを表し、Wは車両のトレッド幅を表す。
ところで、アッカーマン・ジャントの理論を成立させるためには、図18において、車両旋回時における旋回内側転舵輪のアッカーマン角αRが旋回外側転舵輪のアッカーマン角αLよりも大きくなることが必要である。また、旋回内側転舵輪のアッカーマン角αRと旋回外側転舵輪のアッカーマン角αLとの比、所謂、アッカーマン率が維持されることも必要な条件である。
しかし、一般的に、転舵輪が最大舵角付近まで転舵されると、車両のサスペンションジオメトリ特性により、アッカーマン率が低下すると言われている。したがって、前輪側が転舵輪である場合、前記Eq.(1)により操舵角θFrを推定して計算した場合には、特に、最大舵角付近での推定精度が悪化することになる。また、一般的に、転舵されない後輪側は車両の旋回に伴って引きずられながら旋回円上を移動する。したがって、このような後輪側の挙動を考慮することなく前記Eq.(2)により操舵角θRrを推定して計算した場合には、推定精度が悪化することになる。そして、このように操舵角θFrおよび操舵角θRrの推定精度が悪化すると、操舵角θFrまたは操舵角θRrを用いて推定される反力(セルフアライニングトルク)の推定精度も悪化する。その結果、適切なアシスト力を付与することが難しくなる。
一方で、特開平11−78924号公報に示された電動パワーステアリング装置のように、操作力検出手段(操舵トルク検出手段)を複数備えて冗長系を構成すれば、適切なアシスト力を常に付与することが可能となる。しかし、この場合には、複数の操作力検出手段(操舵トルク検出手段)を車両に搭載する必要があり、搭載スペースの確保やコストの観点から好ましくない。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、操作力検出手段に異常が発生した場合であっても、簡略化した構成により適切なアシスト力を正確に決定し、このアシスト力を継続して付与する車両の電動パワーステアリング装置を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、運転者による操舵ハンドルの回動操作によって車両の転舵輪を転舵するために入力される操作力を検出する操作力検出手段と、運転者による前記操舵ハンドルの回動操作に対してアシスト力を付与する電動モータと、前記操作力検出手段によって検出された操作力に対応するアシスト力に基づいて前記電動モータの作動を制御する制御手段とを備えた車両の電動パワーステアリング装置において、前記制御手段が、車両の車速を検出する車速検出手段と、車両の前後左右輪にそれぞれ設けられて各輪の車輪速度を検出する車輪速度検出手段と、前記操作力検出手段の異常を判定する異常判定手段と、前記異常判定手段によって前記操作力検出手段の異常が判定されると、前記車輪速度検出手段によって検出された前記各輪の車輪速度のうち、前輪側の左右輪の車輪速度を用いて前記転舵輪の第1舵角を演算するとともに後輪側の左右輪の車輪速度を用いて前記転舵輪の第2舵角を演算し、これら第1舵角および第2舵角を用いて車両旋回時における前記転舵輪の舵角を推定する舵角推定手段と、前記転舵輪の舵角および車両の車速と予め定めた関係にあって前記車両の転舵輪を転舵する転舵機構に入力される軸力を、前記舵角推定手段によって推定された舵角および前記車速検出手段によって検出された車速を用いて推定する軸力推定手段と、車両の車速と予め定めた関係にあって運転者が前記操舵ハンドルを介して入力する目標操舵力を前記車速検出手段によって検出された車速を用いて決定し、この決定した目標操舵力と前記軸力推定手段によって推定された軸力とを用いて、運転者による前記操舵ハンドルの回動操作に対して付与するアシスト力を演算するアシスト力演算手段と、前記アシスト力演算手段によって演算されたアシスト力に基づいて前記電動モータの作動を制御する作動制御手段とを備えたことにある。
これによれば、異常判定手段によって操作力検出手段の異常が判定された場合、舵角推定手段は、前輪側の左右輪の車輪速度を用いて転舵輪の第1舵角を演算し、後輪側の左右輪の車輪速度を用いて転舵輪の第2舵角を演算することができる。そして、舵角推定手段は、この演算した第1舵角および第2舵角を用いて車両旋回時における転舵輪の舵角を推定することができる。これにより、例えば、上述したアッカーマン・ジャント理論に基づいて転舵輪の舵角を推定しても、前輪側(転舵輪側)におけるアッカーマン率の低下に伴う推定精度の悪化や後輪側における引きずり発生に伴う推定精度の悪化を抑制することができる。また、第1舵角および第2舵角を用いることにより、例えば、車輪速度検出手段によって検出される各輪の車輪速度のいずれかに異常が発生しても、転舵輪の舵角の推定に関し、この異常による影響を受けにくいロバストな冗長系を構成することができる。したがって、舵角推定手段は、精度よく、転舵輪の舵角を推定することができる。
ここで、舵角推定手段が精度よく転舵輪の舵角を推定することができるため、転舵輪の舵角を検出する舵角センサが不要となる。これにより、搭載スペースの確保が不要となるとともに、大幅なコストダウンが可能となる。また、例えば、本来舵角センサを搭載していない車両においても、操作力検出手段に異常が発生した場合に電動パワーステアリング装置を継続して作動させることができる。
また、軸力推定手段は、舵角推定手段によって精度よく推定された転舵輪の舵角を用いて、転舵機構に入力される軸力を精度よく推定することができる。また、アシスト力演算手段は、車速に基づいて決定される目標操舵力と軸力推定手段によって精度よく推定された軸力とを用いて、運転者による操舵ハンドルの回動操作に対して付与するアシスト力を演算することができる。そして、作動制御手段が演算されたアシスト力が付与されるように、電動モータの作動を制御することができる。
したがって、操作力検出手段に異常が発生した場合であっても、転舵輪の舵角および転舵機構に入力される軸力を正確に推定してアシスト力を決定し、運転者による操舵ハンドルの回動操作に対して適切なアシスト力の付与を継続することができる。これにより、運転者が操舵ハンドルを回動操作するときの負担を大幅に軽減することができる。
この場合、前記制御手段が、前記操舵ハンドルの回動操作速度を検出する操作速度検出手段を備え、前記舵角推定手段が、前記車輪速度検出手段によって検出された前記各輪の車輪速度を所定のカットオフ周波数によりローパスフィルタ処理するフィルタ処理手段を有しており、前記フィルタ処理手段は、前記操作速度検出手段によって検出された回動操作速度の増加に伴って前記カットオフ周波数を大きな周波数に変更し、前記検出された回動操作速度の減少に伴って前記カットオフ周波数を小さな周波数に変更して、前記車輪速度検出手段によって検出された各輪の車輪速度をローパスフィルタ処理するとよい。この場合、前記操作速度検出手段は、例えば、前記電動モータの回転作動における回転速度を検出し、この検出された電動モータの回転速度を用いて前記操舵ハンドルの回動操作速度を検出するとよい。
これらによれば、フィルタ処理部は、車輪速度検出手段によって検出された各輪の車輪速度をローパスフィルタ処理することができる。これにより、車輪速度検出手段から出力される各輪の車輪速度を表す信号のノイズ成分を除去することができ、舵角推定手段によって演算される第1舵角、第2舵角および転舵輪の舵角の演算精度をさらに向上させることができる。
また、フィルタ処理部は、操作速度検出手段によって検出された操舵ハンドルの回動操作速度に応じてローパスフィルタ処理に用いるカットオフ周波数を変更することができる。すなわち、フィルタ処理部は、検出された回動操作速度が増加、言い換えれば、運転者によって素早く操舵ハンドルが回動操作されているときにはカットオフ周波数を大きな周波数に変更し、検出された回動操作速度が減少、言い換えれば、運転者によってゆっくり操舵ハンドルが回動操作されているときにはカットオフ周波数を小さな周波数に変更することができる。
これにより、特に、回動操作速度が大きいときにローパスフィルタ処理に伴って発生する信号の位相遅れを効果的に防止することができる。したがって、舵角推定手段は第1舵角および第2舵角を遅れなく演算することができるとともに演算精度を向上させることができる。これにより、軸力推定部が速やかに軸力を推定することができ、アシスト力演算手段が速やかにアシスト力を演算することができる。その結果、運転者による操舵ハンドルの回動操作に対して遅れなく、すなわち、良好な追従性を確保してアシスト力を付与することができる。
さらに、例えば、操舵ハンドルの回動操作に同期して回転する電動モータの回転速度を用いて運転者による操舵ハンドルの回動操作速度を検出することにより、他のセンサを利用することなく簡略化した構成により、操舵ハンドルの回動操作速度を検出することができる。これにより、コストダウンが可能となる。
また、これらの場合、前記舵角推定手段は、車両の転舵輪の実際の舵角に対する検出舵角の比を表し、予め実験により設定される車両のオーバーオールギア比を用いて、前記転舵輪の第1舵角および第2舵角を演算することができる。
このように、車両のオーバーオールギア比を用いて第1舵角および第2舵角を演算することにより、例えば、サスペンションジオメトリ特性に起因した第1舵角および第2舵角の演算誤差を低減することができる。すなわち、車両のオーバーオールギア比を用いることによって、上述したアッカーマン・ジャント理論に基づいて転舵輪の舵角を推定しても、前輪側(転舵輪側)におけるアッカーマン率の低下や後輪側における引きずり発生に伴う推定精度の悪化をより抑制することができる。したがって、舵角推定手段は、精度よく、転舵輪の舵角を推定することができる。
また、これらの場合、前記舵角推定手段は、前記車輪速度検出手段によって検出された前記各輪の車輪速度のうち、前記前輪側の左右輪の車輪速度の差を用いて演算した前記転舵輪の第1舵角と、前記後輪側の左右輪の車輪速度の差を用いて演算した前記転舵輪の第2舵角とを平均して、車両旋回時における前記転舵輪の舵角を推定することもできる。
このように、舵角推定手段が第1舵角と第2舵角とを平均して転舵輪の舵角を推定することにより、例えば、上述したアッカーマン・ジャント理論に基づいて転舵輪の舵角を推定しても、前輪側(転舵輪側)におけるアッカーマン率の低下に伴う推定精度の悪化と後輪側における引きずり発生に伴う推定精度の悪化の影響を相殺することができる。したがって、舵角推定手段は、精度よく、転舵輪の舵角を推定することができる。
さらに、これらの場合、前記車速検出手段によって検出された車速が予め設定された車速以下であるときに、前記舵角推定手段は、前記演算した前記転舵輪の第1舵角と、前記演算した前記転舵輪の第2舵角とを、それぞれ、「0」に演算するとよい。
これによれば、車輪速度検出手段が各輪の車輪速度を正確に検出できない可能性のある低車速域においては、第1舵角および第2舵角を「0」として演算することができる。これにより、誤った転舵輪の舵角を推定することを防止することができ、運転者による操舵ハンドルの回動操作に対して、不適切なアシスト力が付与されることを防止することができる。
また、本発明の他の特徴は、前記制御手段が、前記操舵ハンドルの回動操作速度を検出する操作速度検出手段を備えており、前記軸力推定手段が、前記操舵ハンドルの回動操作速度および車両の車速と予め定めた関係にあって前記推定された軸力を補正する補正軸力を、前記操作速度検出手段によって検出された回動操作速度および前記車速検出手段によって検出された車速を用いて演算する補正軸力演算手段を備えたことにもある。
これによれば、補正軸力演算手段は、運転者による操舵ハンドルの回動操作速度および車速に基づいて、軸力推定手段によって推定された軸力を補正する補正軸力を演算することができる。すなわち、補正軸力を演算して軸力推定手段によって推定された軸力を補正することにより、運転者による操舵ハンドルの回動操作状態を反映して、推定された軸力に軸力差、言い換えれば、推定された軸力に対してヒステリシス特性を付与することができる。したがって、運転者による操舵ハンドルの回動操作状態に応じて適切な軸力を推定することができるため、操舵ハンドルを回動操作したときに運転者が違和感を覚えることを効果的に防止することができる。
ここで、運転者による操舵ハンドルの回動操作速度(回動操作状態)に基づいて演算される補正軸力としては、例えば、転舵輪が転舵するときに路面との間で発生する摩擦力に起因して転舵機構に入力される軸力を考慮して演算されるとよい。この場合、転舵輪と路面との間で発生する摩擦力は、運転者による操舵ハンドルの回動操作速度(回動操作状態)および車速に応じて、大きさおよび作用方向が異なるものとなる。
また、補正軸力の演算に関し、前記操舵ハンドルの回動操作速度、前記車両の車速および前記補正軸力の関係のうち、前記操舵ハンドルの回動操作速度と前記補正軸力との関係が、少なくとも、前記操舵ハンドルの回動操作速度が予め設定された第1の回動操作速度未満であるときに前記操舵ハンドルの回動操作速度の増加に伴って前記補正軸力が増加し、前記操舵ハンドルの回動操作速度が前記第1の回動操作速度よりも大きく予め設定された第2の回動操作速度以上であるときに前記操舵ハンドルの回動操作速度の増加に伴って前記補正軸力が減少するように予め定めた関係であり、前記補正軸力演算手段は、前記予め定めた関係に基づいて、前記補正軸力を前記操作速度検出手段によって検出された回動操作速度を用いて演算するとよい。
これによれば、補正軸力演算手段は、運転者による操舵ハンドルの回動操作速度が第1の回動操作速度未満まで大きくなる状況においては補正軸力を増加させる。これにより、運転者は、操舵ハンドルの回動操作に対して、適切なアシスト力、言い換えれば、転舵輪の転舵に伴って入力する軸力(摩擦力)に起因する適切な大きさの反力を知覚することができる。一方、補正軸力演算手段は、運転者による操舵ハンドルの回動操作速度が第2の回動操作速度以上に大きくなる状況においては補正軸力を減少させる。これにより、運転者は、操舵ハンドルを素早く回動操作したときであっても、アシスト力不足を知覚する、言い換えれば、転舵輪の転舵に伴って入力する軸力(摩擦力)に起因する過大な反力を知覚することがない。
また、これらの場合、前記操舵ハンドルの回動操作速度、前記車両の車速および前記補正軸力の関係のうち、前記車両の車速と前記補正軸力との関係が、少なくとも、前記車両の車速の増加に伴って前記補正軸力が予め設定された所定の大きさに向けて減少するように予め定めた関係であり、前記補正軸力演算手段は、前記予め定めた関係に基づいて、前記補正軸力を前記車速検出手段によって検出された車速を用いて演算するとよい。
これによれば、補正軸力演算手段は、車両の車速の増加に伴って補正軸力を減少させることができる。したがって、低車速域において大きく演算される補正軸力により、例えば、軸力推定手段によって推定された軸力が大きくなるように補正することができる。このため、操舵ハンドルの回動操作に対して大きなアシスト力を付与させることにより、運転者は適切なアシスト力(小さな軸力)を知覚することができる。一方、車速が増加すると補正軸力が小さく演算されるため、補正軸力による推定された軸力の増加量が小さくなる。このため、操舵ハンドルの回動操作に対して小さなアシスト力を付与させることにより、運転者はしっかりとした反力(大きな軸力)を知覚することができる。なお、車速の増加に応じて補正軸力が減少することは、車両の車速が増加することに伴って、例えば、転舵輪と路面との間に発生する摩擦力が減少することに対応する。
また、本発明の他の特徴は、前記アシスト力演算手段は、前記決定した目標操舵力の絶対値と前記軸力推定手段によって推定された軸力の絶対値とを比較し、前記推定された軸力の絶対値が前記目標操舵力の絶対値以下であるときに前記アシスト力を「0」に演算し、前記推定された軸力の絶対値が前記目標操舵力の絶対値よりも大きいときに前記推定された軸力から前記目標操舵力を減じて前記アシスト力を演算することにもある。
これによれば、アシスト演算手段は、運転者が操舵ハンドルを介して入力すべき目標操舵力の絶対値と推定された軸力の絶対値とを比較することができる。そして、アシスト演算手段は、推定された軸力の絶対値が目標操舵力の絶対値以下であるときにはアシスト力を「0」に演算することができる。また、アシスト演算手段は、推定された軸力の絶対値が目標操舵力の絶対値よりも大きいときには推定された軸力から目標操舵力を減してアシスト方向を加味したアシスト力を演算することができる。
これにより、推定された軸力の絶対値が目標操舵力の絶対値以下であるときには、運転者が操舵ハンドルを回動操作してもアシスト力は付与されない。言い換えれば、目標操舵力の絶対値がアシスト力を付与するときの不感帯の大きさとなる。一方、推定された軸力の絶対値が目標操舵力の絶対値よりも大きいときには、推定された軸力の絶対値が目標操舵力の絶対値(不感帯)を超えた分だけのアシスト力が付与されるため、運転者による操舵ハンドルの回動操作に対して最小限のアシストが可能となる。
また、この場合、前記アシスト力演算手段は、前記車速検出手段によって検出された車速が予め設定された所定の車速未満であるときに前記検出された車速の増加に伴って前記目標操舵力の絶対値を増加させて決定し、前記検出された車速が前記予め設定された所定の車速以上であるときに前記検出された車速の増加に伴って前記目標操舵力の絶対値を一定にして決定することができる。
これによれば、上述した不感帯の大きさに一致する目標操舵力の絶対値が低車速域では小さく決定される。このため、推定された軸力が小さい場合であってもアシスト力を付与することができる。したがって、低車速域においては、運転者は小さな操作力によって極めて容易に操舵ハンドルを回動操作することができて、車両の取り回し性を良好に確保することができる。
一方、所定の車速以上の中・高車速域では、目標操舵力の絶対値が一定の大きな値に決定される。このため、上述した不感帯の大きさが大きくなり、推定された軸力が小さい場合にはアシスト力が付与されない。したがって、中・高車速域においては、運転者は若干大きな操作力によって操舵ハンドルを回動操作する、言い換えれば、しっかりとした反力を知覚しながら操舵ハンドルを回動操作することができて、良好な走行安定性を確保することができる。
さらに、本発明の他の特徴は、前記舵角推定手段が、前記前後左右輪のいずれかに発生したスリップの状態に応じて増減する前記第1舵角と前記第2舵角との差分を表す舵角差を演算し、前記アシスト力演算手段が、前記舵角推定手段によって演算された舵角差の大きさに基づき、前記演算されたアシスト力を前記前後左右輪のいずれかに発生したスリップの状態に応じて補正するアシスト力補正手段を備えたことにもある。
これによれば、アシスト力補正手段は、舵角推定手段によって演算される第1舵角と第2舵角との舵角差に基づき、車輪の回転状態として前後左右輪のいずれかに発生したスリップの状態を判断することができる。すなわち、前後左右輪のいずれかにスリップが発生すると、前後左右輪の旋回中心は同一とならないため、その結果、舵角差が大きくなる。このため、舵角差が大きくなるに伴って、前後左右輪のいずれかにスリップ率の大きなスリップが発生していると判断することができる。
したがって、アシスト力補正手段は、演算された舵角差に基づき、言い換えれば、前後左右輪のいずれかに発生したスリップの状態に応じて、アシスト力の大きさを補正することができる。また、アシスト力補正手段は、演算された舵角差に基づいてスリップの発生を判断することができるため、他のセンサ(例えば、加速度センサやヨーレートセンサなど)を別途設ける必要がなく、コストダウンが可能となる。
この場合、前記アシスト力補正手段は、前記舵角推定手段によって演算された舵角差を用いて、前記前後左右輪のいずれかに発生したスリップの状態に応じて前記アシスト力演算手段によって演算されたアシスト力の大きさを補正するスリップゲインを決定するものであって、前記演算された舵角差が予め設定された第1の舵角差以上であるときに前記スリップゲインを減少させて決定し、前記演算された舵角差が前記第1の舵角差よりも大きく予め設定された第2の舵角差以上であるときに前記スリップゲインを「0」に決定するスリップゲイン決定手段と、前記演算されたアシスト力に対して前記スリップゲイン決定手段によって決定されたスリップゲインを乗算して補正されたアシスト力を演算する補正アシスト力演算手段とを備えることができる。
これによれば、スリップゲイン決定手段は、演算された舵角差に応じて、すなわち、前後左右輪のいずれかに発生したスリップの状態に応じて、スリップゲインを決定し、補正アシスト力演算手段は、アシスト力演算手段によって演算されたアシスト力とスリップゲインを乗算して補正されたアシスト力を演算することができる。したがって、アシスト力補正手段は、演算された舵角差(すなわち、スリップ状態)の増加に応じて減少するスリップゲインを用いて、アシスト力演算手段によって演算されたアシスト力を低減することができる。このため、例えば、過剰なアシスト力の付与やスリップ輪で生じるセルフステアを確実に防止することができる。また、スリップゲイン決定手段は、スリップゲインを舵角差(スリップ状態)の増加に合わせて緩やかに減少させることができる。これにより、例えば、前後左右輪のいずれかにスリップが発生したときには、アシスト力補正手段は、アシスト力が緩やかに低減するように補正することができるため、アシスト力が急変することを確実に防止することができる。
また、この場合、前記アシスト力補正手段が、前記舵角推定手段によって演算された舵角差が前記第2の舵角差未満となったとき、前記アシスト力演算手段によって演算されたアシスト力が「0」でなければ、前記スリップゲイン決定手段が前記演算された舵角差を用いて決定する前記スリップゲインが「0」よりも大きくなることを禁止して前記スリップゲインを「0」に維持し、前記演算されたアシスト力が「0」であれば、前記スリップゲイン決定手段が前記演算された舵角差を用いて決定する前記スリップゲインを復帰させて、前記スリップゲインが「0」よりも大きくなることを許容するスリップゲイン復帰判定手段を備えることができる。
これによれば、スリップゲイン復帰判定手段は、スリップゲインが「0」の状態から「0」よりも大きな値に変化する状況において、アシスト力演算手段によって演算されたアシスト力の大きさに基づいて、スリップゲインの値を変更させるか否かを判定することができる。ここで、舵角差が第2の舵角差以上(例えば、スリップ率が「1」となる完全スリップ状態)において、例えば、偶然に舵角差が第2の舵角差未満になると、スリップゲイン決定手段はスリップゲインを「0」よりも大きな値に決定する場合がある。このとき、スリップゲイン復帰判定手段が設けられない場合には、例えば、「0」よりも大きなアシスト力が演算されていると、補正されたアシスト力が付与されるため、過剰なアシスト力の付与やスリップ輪でセルフステアが発生する可能性がある。
このため、スリップゲイン復帰判定手段は、上記状況において、演算されたアシスト力が「0」であるときに限り、「0」に維持しているスリップゲインを、スリップゲイン決定手段が舵角差に応じて「0」よりも大きな値に決定したスリップゲインの復帰を許容する。これにより、アシスト力の付与が不要となるまでスリップゲインを「0」に維持することができるため、過剰なアシスト力の付与やスリップ輪でセルフステアの発生を確実に防止することができる。
図1は、本発明の実施形態に係る車両の電動パワーステアリング装置を示す概略図である。
図2は、図1の電子制御ユニットによって実行される制御処理を表すブロック図である。
図3は、図2の舵角推定部によって実行される制御処理を表すブロック図である。
図4は、操舵速度(モータ回転角速度)とカットオフ周波数との関係を示すグラフである。
図5A,Bは、アッカーマン・ジャント理論に基づいて推定される推定舵角と実験により検出された実舵角との関係を前輪側および後輪側について示した図である。
図6は、図2の軸力推定部によって実行される制御処理を表すブロック図である。
図7は、舵角推定部によって推定された推定舵角、車速および基本軸力の関係を示すグラフである。
図8は、転舵輪が転舵するときの力学的関係を説明するための図である。
図9は、車速と車速ゲインとの関係を示すグラフである。
図10は、操舵速度(モータ回転角速度)と摩擦補正軸力(ヒス幅)との関係を示すグラフである。
図11は、舵角推定部によって推定された推定舵角と推定軸力との関係を示すグラフである。
図12は、図2のアシストトルク演算部によって実行される制御処理を表すブロック図である。
図13は、車速と目標操舵トルクとの関係を示すグラフである。
図14は、軸力推定部によって推定された推定軸力とアシストトルクとの関係を示すグラフである。
図15は、舵角推定部によって推定された推定舵角差とスリップゲインとの関係を示すグラフである。
図16は、図12のスリップゲイン復帰判定部によって実行されるスリップゲイン復帰判定プログラムを示すフローチャートである。
図17は、スリップゲインおよび補正アシストトルク変化を説明するためのタイムチャートである。
図18は、周知のアッカーマン・ジャント理論に基づく転舵輪の舵角の推定を説明するための図である。
図2は、図1の電子制御ユニットによって実行される制御処理を表すブロック図である。
図3は、図2の舵角推定部によって実行される制御処理を表すブロック図である。
図4は、操舵速度(モータ回転角速度)とカットオフ周波数との関係を示すグラフである。
図5A,Bは、アッカーマン・ジャント理論に基づいて推定される推定舵角と実験により検出された実舵角との関係を前輪側および後輪側について示した図である。
図6は、図2の軸力推定部によって実行される制御処理を表すブロック図である。
図7は、舵角推定部によって推定された推定舵角、車速および基本軸力の関係を示すグラフである。
図8は、転舵輪が転舵するときの力学的関係を説明するための図である。
図9は、車速と車速ゲインとの関係を示すグラフである。
図10は、操舵速度(モータ回転角速度)と摩擦補正軸力(ヒス幅)との関係を示すグラフである。
図11は、舵角推定部によって推定された推定舵角と推定軸力との関係を示すグラフである。
図12は、図2のアシストトルク演算部によって実行される制御処理を表すブロック図である。
図13は、車速と目標操舵トルクとの関係を示すグラフである。
図14は、軸力推定部によって推定された推定軸力とアシストトルクとの関係を示すグラフである。
図15は、舵角推定部によって推定された推定舵角差とスリップゲインとの関係を示すグラフである。
図16は、図12のスリップゲイン復帰判定部によって実行されるスリップゲイン復帰判定プログラムを示すフローチャートである。
図17は、スリップゲインおよび補正アシストトルク変化を説明するためのタイムチャートである。
図18は、周知のアッカーマン・ジャント理論に基づく転舵輪の舵角の推定を説明するための図である。
以下、本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置について図面を用いて説明する。図1は、本実施形態として車両に搭載された電動パワーステアリング装置を概略的に示している。
この電動パワーステアリング装置は、転舵輪としての左右前輪WfL,WfRを転舵させるために、運転者によって回動操作される操舵ハンドル11を備えている。操舵ハンドル11は操舵軸12の上端に固定されており、操舵軸12の下端は転舵機構としての転舵ギアユニット20に接続されている。
転舵ギアユニット20は、例えば、ラックアンドピニオン機構を採用したギアユニットであり、操舵軸12の下端に一体的に組み付けられたピニオンギア21の回転がラックバー22に伝達されるようになっている。ラックバー22は、その両端がタイロッド23およびナックル24を介して左右前輪WfL,WfRに接続されている。また、転舵ギアユニット20には、運転者が操舵ハンドル11の回動操作によって左右前輪WfL,WfRを転舵するために入力する操作力としての操舵トルクTを軽減するアシスト力(以下、このアシスト力をアシストトルクTaという)を発生する電動モータ25が設けられている。この電動モータ25は、発生したアシストトルクTaをラックバー22に対して伝達可能に組み付けられている。なお、電動モータ25については、アシストトルクTaを発生可能であれば、ブラシレスモータやブラシモータなど、如何なる構造の電動モータを採用可能であるが、以下の説明においては、電動モータ25がブラシレスモータであるとして説明する。
この構成により、操舵ハンドル11から操舵軸12に入力された操舵トルクTがピニオンギア21を介してラックバー22に伝達されるとともに、電動モータ25が発生したアシストトルクTaがラックバー22に伝達される。ラックバー22は、このように伝達される操舵トルクTおよびアシストトルクTaによって軸線方向に変位する。そして、このラックバー22の変位に伴ってタイロッド23およびナックル24を介して接続された左右前輪WfL,WfRが左右に転舵されるようになっている。
次に、電動モータ25の作動を制御する制御手段としての電気制御装置30について説明する。電気制御装置30は、車輪速度検出手段としての車輪速センサ31a〜31d、操作力検出手段としての操舵トルクセンサ32、操作速度検出手段としてのモータ回転角センサ33および車速検出手段としての車速センサ34を備えている。車輪速センサ31a〜31dは、図1に示すように、それぞれ、車両の左右前輪WfL,WfRおよび左右後輪WrL,WrRの近傍に設けられていて、各車輪WfL,WfR,WrL,WrRの回転速度を検出して車輪速度ωfL,ωfR,ωrL,ωrRを表す信号を出力する。なお、車輪速度ωfL,ωfR,ωrL,ωrRについては、車両が前進しているときの値を正の値で表わし、車両が後進しているときの値を負の値で表わす。
操舵トルクセンサ32は、操舵軸12に組み付けられていて、操舵軸12に入力されたトルクを検出して操舵トルクTを表す信号を出力する。なお、操舵トルクTについては、操舵軸12を右方向に回転させるときの値を正の値で表わし、操舵軸12を左方向に回転させるときの値を負の値で表わす。モータ回転角センサ33は、電動モータ25に組み付けられていて、電動モータ25の回転角(電気角)を検出してモータ回転角Θを表す信号を出力する。なお、モータ回転角Θについては、ラックバー22を右方向に変位させるときの値を正の値で表わし、ラックバー22を左方向に変位させるときの値を負の値で表わす。車速センサ34は、車両の車速を検出して車速Vを表す信号を出力する。
車輪速センサ31a〜31d、操舵トルクセンサ32、モータ回転角センサ33および車速センサ34は、電子制御ユニット35に接続されている。電子制御ユニット35は、CPU、ROM、RAMなどからなるマイクロコンピュータを主要構成部品とするものであり、各種プログラムの実行により電動モータ25の作動を制御してアシストトルクTaを発生させる。このため、電子制御ユニット35の出力側には、電動モータ25を駆動するための駆動回路36が接続されている。駆動回路36内には、電動モータ25に流れる駆動電流を検出するための電流検出器36aが設けられている。電流検出器36aによって検出された駆動電流は、電動モータ25の駆動を制御するために、電子制御ユニット35にフィードバックされている。
このように構成された電動パワーステアリング装置においては、電子制御ユニット35が主に操舵トルクセンサ32によって検出された操舵トルクTの大きさに応じてアシストトルクTaを決定する。以下、操舵トルクセンサ32が操舵トルクTを正常に検出している場合に実行される通常制御について説明する。なお、この通常制御は、従来からよく知られた制御と同様であり、本発明に直接関係しないため、以下に簡単に説明しておく。
電子制御ユニット35は、操舵トルクセンサ32によって検出された操舵トルクTを表す信号および車速センサ34によって検出された車速Vを表す信号を入力する。電子制御ユニット35は、入力した操舵トルクTを表す信号をハイパスフィルタ処理して操舵トルクTを表す信号に含まれる外乱成分(低周波成分)を除去するとともに、運転者による操舵ハンドル11の回動操作と検出された操舵トルクTとの間に発生する位相差(位相遅れ)を補償する。そして、電子制御ユニット35は、この補償した操舵トルクTと車速Vとに基づいて、通常制御時におけるアシストトルクTaを決定する。
また、電子制御ユニット35は、電動モータ25の回転作動に伴う慣性によって操舵ハンドル11の回動操作方向に発生する振動を抑制するダンピング制御および操舵ハンドル11を中立位置まで戻す戻し制御を実行する。すなわち、電子制御ユニット35は、モータ回転角センサ33によって検出されたモータ回転角Θを時間微分してモータ回転角速度Θ’を計算し、このモータ回転角速度Θ’の変化に基づいて操舵ハンドル11に発生している回動操作方向への振動を抑制するトルクを付与してダンピング制御を実行する。また、電子制御ユニット35は、モータ回転角Θの変化に基づいて、左右前輪WfL,WfRの転舵方向が中立位置方向に変化した場合には、操舵ハンドル11を中立位置まで戻すトルクを付与して戻し制御を実行する。
このように、通常制御時におけるアシストトルクTaとダンピング制御および戻し制御によるトルクとを決定すると、電子制御ユニット35は、これら各トルクを合算し、駆動回路36を駆動制御して合算したトルクに対応する駆動電流を電動モータ25に供給する。これにより、通常制御時においては、運転者は、操舵ハンドル11を極めて容易に回動操作できるとともに、不快な操舵ハンドル11の振動や戻し操作時に発生する違和感を知覚することなく、快適に操舵ハンドル11を回動操作することができる。
このように、通常制御においては、電子制御ユニット35は、操舵トルクセンサ32によって検出された操舵トルクTを用いて、言い換えれば、検出された操舵トルクTをフィードバックしてアシストトルクTaを決定する。このため、操舵トルクセンサ32に異常が発生した場合には、運転者による操舵ハンドル11の回動操作に対し、電動モータ25を駆動制御して適切なアシストトルクTaを付与することができなくなる。そこで、電子制御ユニット35は、操舵トルクセンサ32に異常が発生した場合には、上述したフィードバック制御としての通常制御からフィードフォワード制御としてのバックアップ制御に切り替える。そして、電子制御ユニット35は、バックアップ制御によって電動モータ25を駆動させて適切なアシストトルクTaの付与を継続する。以下、このバックアップ制御を詳細に説明する。
バックアップ制御に切り替えるにあたり、電子制御ユニット35は、通常制御時において、操舵トルクセンサ32に異常が発生しているか否かを判定する。この判定を具体的に例示して説明すると、電子制御ユニット35は、操舵トルクセンサ32から操舵トルクTを表す信号が入力できているか否かを判定する。すなわち、電子制御ユニット35は、操舵トルクセンサ32との通信に利用する信号線が、例えば、断線などにより通信不能になっており、操舵トルクセンサ32から信号を入力できないときに、操舵トルクセンサ32に異常が発生したと判定する。
また、電子制御ユニット35は、操舵トルクセンサ32から入力した信号によって表される操舵トルクTの値が予め設定されている操舵トルクセンサ32の検出上限値または検出下限値に一致した状態で一定時間以上継続しているか否かを判定する。すなわち、電子制御ユニット35は、操舵トルクTの値が検出上限値または検出下限値と一致した状態で一定時間以上継続しているときに操舵トルクセンサ32に異常が発生したと判定する。
また、電子制御ユニット35は、モータ回転角センサ33から入力した信号によって表されるモータ回転角Θの値が「0」ではない値であるときに、操舵トルクセンサ32から入力した信号によって表される操舵トルクTの値が「0」であるか否かを判定する。すなわち、電子制御ユニット35は、モータ回転角Θの値が「0」ではないとき、すなわち、少なくとも電動モータ25の駆動によって操舵軸12にアシストトルクTaが付与されているときに、検出される操舵トルクTの値が「0」であれば、操舵トルクセンサ32に異常が発生したと判定する。
そして、電子制御ユニット35は、上述した異常判定処理により操舵トルクセンサ32に異常が発生していると判定すると、通常制御からバックアップ制御に切り替える。
電子制御ユニット35は、バックアップ制御を実行するために、図2に示すように、舵角推定手段としての舵角推定部40、軸力推定手段としての軸力推定部50およびアシスト力演算手段としてのアシストトルク演算部60を備えている。以下、順に、各部40〜60を詳細に説明する。
舵角推定部40は、図3に示すように、車輪速センサ31a〜31dから出力された車輪速度ωfL,ωfR,ωrL,ωrRを表す信号をローパスフィルタ処理するフィルタ処理手段としてのローパスフィルタ処理部41(以下、単にLPF処理部41という)を備えている。LPF処理部41は、下記式Eq.(3)に示す伝達関数H(s)によって表されるローパスフィルタを用いて、車輪速センサ31a〜31dから入力した車輪速度ωfL,ωfR,ωrL,ωrRを表す信号の高周波ノイズ成分(具体的には、路面外乱によって付加される高周波ノイズ成分)をフィルタ処理して除去する。
ただし、前記Eq.(3)中のsはラプラス演算子を表す。また、前記Eq.(3)中におけるT(|Θ’|)は運転者による操舵ハンドル11の回動操作速度(以下、操舵速度という)の関数として定義されるカットオフ周波数を表す。
ここで、カットオフ周波数T(|Θ’|)について説明しておく。一般的に、ローパスフィルタは、入力信号の入力周波数が増大するほど、計算負荷が大きくなって出力信号のゲインが低下するとともに位相遅れが大きくなる特性を有する。このような特性を有するローパスフィルタを用いて、車輪速度ωfL,ωfR,ωrL,ωrRを表す信号をフィルタ処理した場合、特に、運転者が操舵ハンドル11を素早く回動操作したときに大きな位相遅れが生じやすくなる。そして、大きな位相遅れが生じると、後述するように推定演算される推定舵角θcの誤差が大きくなることが懸念される。
すなわち、操舵速度が大きくなるほど、車輪速度ωfL,ωfR,ωrL,ωrRを表す信号の入力周波数が大きくなり、発生する位相遅れによって推定舵角θcの誤差が大きくなる。その結果、運転者が大きな操舵速度により操舵ハンドル11を回動操作すると、後述するようにバックアップ制御によって付与されるアシストトルクTa(より詳しくは、補正アシストトルクTad)が遅れるようになる。
これにより、運転者による操舵ハンドル11の回動操作初期の段階では電動モータ25によるアシストトルクTa(補正アシストトルクTad)が不足して操舵トルクTが大きくなる。そして、その後に遅れて付与されるアシストトルクTa(補正アシストトルクTad)によって、操舵トルクTが急減する状況が発生する。したがって、運転者は、バックアップ制御が実行されているときに、大きな操舵速度によって操舵ハンドル11を回動操作すると、操舵トルクTの変動に伴う違和感を覚えるとともに、操舵ハンドル11の良好な操作性が得られない可能性がある。
そこで、LPF処理部41は、操舵速度の大きさに応じて変化するカットオフ周波数T(|Θ’|)を用いて、ローパスフィルタ処理を実行する。具体的に説明すると、LPF処理部41は、まず、モータ回転角センサ33から入力したした信号によって表されるモータ回転角Θを時間微分してモータ回転角速度Θ’を演算する。ここで、操舵ハンドル11(より詳しくは、操舵軸12)と電動モータ25とは、ピニオンギア21およびラックバー22を介して機械的に接続されており、同期して回転する。このため、モータ回転角速度Θ’は、運転者による操舵ハンドル11(操舵軸12)の回動操作速度すなわち操舵速度に対応するものとなる。したがって、本実施形態においては、操舵速度に対応するモータ回転角速度Θ’を用いてカットオフ周波数T(|Θ’|)を決定する。
具体的にカットオフ周波数T(|Θ’|)の決定を説明すると、LPF処理部41は、図4に示すカットオフ周波数決定マップを参照して、前記計算したモータ回転角速度Θ’の絶対値に対応するカットオフ周波数T(|Θ’|)を決定する。ここで、カットオフ周波数T(|Θ’|)は、図4に示したように、モータ回転角速度Θ’の絶対値が予め設定された所定の回転角速度Θ’0未満であるときには、予め設定された下限側のカットオフ周波数T0に決定される。これにより、モータ回転角速度Θ’の絶対値が所定の回転角速度Θ’0未満であるときには、運転者による操舵ハンドル11の操舵速度に依存することなくカットオフ周波数T(|Θ’|)が一定(下限側のカットオフ周波数T0)となる不感帯領域となる。
また、モータ回転角速度Θ’の絶対値が回転角速度Θ’0以上であり、かつ、予め設定された所定の回転角速度Θ’1未満であるときには、カットオフ周波数T(|Θ’|)は下限側のカットオフ周波数T0から予め設定された上限側のカットオフ周波数T1まで変化する値に決定される。さらに、モータ回転角速度Θ’の絶対値が回転角速度Θ’1以上であるときには、カットオフ周波数T(|Θ’|)は上限側のカットオフ周波数T1に決定される。
ところで、モータ回転角速度Θ’の絶対値が所定の回転角速度Θ’0未満であるときに不感帯領域を設けることにより、車輪速度ωfL,ωfR,ωrL,ωrRを表す信号に対して適切なローパスフィルタ処理を施すことができる。具体的に説明すると、一般的に、モータ回転角センサ33から出力されるモータ回転角Θを表す信号にもノイズが付加されており、また、検出されるモータ回転角Θも変動する。このため、小さな操舵速度(モータ回転角速度Θ’)で操舵ハンドル11を回動操作したときに、例えば、不感帯領域を設けない場合には、モータ回転角速度Θ’のノイズや変動に対してカットオフ周波数T(|Θ’|)が変化しやすくなり、車輪速度ωfL,ωfR,ωrL,ωrRを表す信号の高周波ノイズを適切に除去できない場合がある。その結果、運転者による操舵速度(モータ回転角速度Θ’)に対して、アシストトルクTa(補正アシストトルクTad)を付与するアシスト特性が敏感になりすぎる場合がある。
このため、モータ回転角速度Θ’の絶対値が所定の回転角速度Θ’0未満であるときにカットオフ周波数T(|Θ’|)を下限側のカットオフ周波数T0とする不感帯領域を設けて、車輪速度ωfL,ωfR,ωrL,ωrRを表す信号の高周波ノイズを適切に除去する。これにより、運転者が操舵ハンドル11を保舵したり微小な操舵速度で回動操作したときのアシスト特性が敏感になりすぎることを防止することができる。
一方、モータ回転角速度Θ’の絶対値が回転角速度Θ’1以上であるときにカットオフ周波数T(|Θ’|)を上限側のカットオフ周波数T1に決定することにより、車輪速度ωfL,ωfR,ωrL,ωrRを表す信号に対して適切なローパスフィルタ処理を施すことができる。具体的に説明すると、車両が轍などを走行する際には、車輪速度ωfL,ωfR,ωrL,ωrRを表す信号に大きなノイズが付加されるとともに、路面外力により操舵ハンドル11が回動して大きな操舵速度(モータ回転角速度Θ’)になる場合がある。この場合、上限側のカットオフ周波数T1を設定しない場合には、大きな操舵速度(モータ回転角速度Θ’)に対応してカットオフ周波数T(|Θ’|)が大きくなりすぎ、車輪速度ωfL,ωfR,ωrL,ωrRを表す信号の高周波ノイズを適切に除去できない場合がある。その結果、付与されるアシストトルクTa(補正アシストトルクTad)の変動が大きくなって制御系が発散する可能性がある。
このため、モータ回転角速度Θ’の絶対値が回転角速度Θ’1以上であるときにカットオフ周波数T(|Θ’|)を上限側のカットオフ周波数T1に決定することにより、大きな操舵速度(モータ回転角速度Θ’)で操舵ハンドル11が回動する場合であっても、車輪速度ωfL,ωfR,ωrL,ωrRを表す信号の高周波ノイズを適切に除去することができる。これにより、付与されるアシストトルクTa(補正アシストトルクTad)の変動を小さく抑えることができる。
なお、上述したカットオフ周波数決定マップを参照することに代えて、モータ回転角速度Θ’が所定の回転角速度Θ’0未満まではカットオフ周波数T0となり、モータ回転角速度Θ’の絶対値が回転角速度Θ’0以上であり、かつ、予め設定された所定の回転角速度Θ’1未満であるときには、カットオフ周波数T(|Θ’|)は下限側のカットオフ周波数T0から予め設定された上限側のカットオフ周波数T1まで変化し、モータ回転角速度Θ’の絶対値が所定の回転角速度Θ’1以上でカットオフ周波数T1となるように、モータ回転角速度Θ’の絶対値に対するカットオフ周波数T(|Θ’|)を関数として定義しておく。そして、この定義した関数を用いてカットオフ周波数T(|Θ’|)を決定するようにしてもよい。
このように、カットオフ周波数T(|Θ’|)を操舵速度すなわちモータ回転角速度Θ’の絶対値に応じて変更して決定することにより、運転者による操舵速度(モータ回転角速度Θ’)の増大に伴ってカットオフ周波数T(|Θ’|)を大きな値に設定することができる。これにより、車輪速度ωfL,ωfR,ωrL,ωrRを表す信号の入力周波数が増大した場合であっても、ローパスフィルタ処理に伴って発生する位相遅れを小さくすることができる。そして、位相遅れを小さくすることができることによって、運転者による操舵ハンドル11の回動操作に対して遅れを小さくしてアシストトルクTaを付与することができる。このため、運転者は、操舵トルクTの変動に伴う違和感を覚えることがなく、また、良好な操舵ハンドル11の操作性を得ることができる。
このようにカットオフ周波数T(|Θ’|)を決定すると、LPF処理部41は、車輪速センサ31a〜31dから入力した車輪速度ωfL,ωfR,ωrL,ωrRを表す信号に対して、ローパスフィルタ処理を実行する。そして、LPF処理部41は、フィルタ処理して高周波ノイズ成分を除去した車輪速度ωfL_LPF,ωfR_LPFを表す信号をFr推定舵角演算部42に供給するとともに、高周波ノイズ成分を除去した車輪速度ωrL_LPF,ωrR_LPFを表す信号をRr推定舵角演算部43に供給する。
Fr推定舵角演算部42は、LPF処理部41から供給された信号によって表される車輪速度ωfL_LPF,ωfR_LPFを用いて、第1の舵角としての前輪側推定舵角θFrを推定して計算する。すなわち、Fr推定舵角演算部42は、下記Eq.(4)に従って、前輪側推定舵角θFrを計算する。
ただし、前記Eq.(4)中の右辺第2項は、上述したアッカーマン・ジャント理論に基づくEq.(1)と実質的に同一である。また、前記Eq.(4)中のGRは、車両のサスペンションジオメトリ特性に基づいて、実験により予め設定される車両のオーバーオールギア比(車輪の実際の舵角に対する検出舵角の比)を表す定数である。
ここで、前輪側推定舵角θFrの計算において、車両のオーバーオールギア比GRを考慮することにより、推定計算の精度を向上させることができる。このことを以下に説明する。
上述したように、アッカーマン・ジャントの理論によれば、図18に示したように、車両が旋回するときに、車両の4輪WfL,WfR,WrL,WrRがそれぞれ旋回中心を同一として旋回半径の異なる同心円を描くように進むことによって、車両をスムーズに旋回させることができて良好な操舵特性を得ることができる。そして、アッカーマン・ジャントの理論を成立させるために、転舵輪である左右前輪WfL,WfRにおいては、車両旋回時における旋回内側転舵輪(図18の右輪WfR)のアッカーマン角αRが旋回外側転舵輪(図18の右輪WfL)のアッカーマン角αLよりも大きくなることが必要な条件である。さらには、旋回内側転舵輪(図18の右輪WfR)のアッカーマン角αRと旋回外側転舵輪(図18の右輪WfL)のアッカーマン角αLとのアッカーマン率が維持されることも必要な条件である。
ところが、図5Aに概略的な実験結果を示すように、転舵輪である左右前輪WfL,WfRが最大舵角付近まで転舵すると、車両のサスペンションジオメトリ特性に起因してアッカーマン率が低下し、線形性が維持できなくなる。すなわち、転舵輪である左右前輪WfL,WfRを最大舵角付近まで転舵させた場合には、アッカーマン・ジャント理論が成立しなくなる。したがって、アッカーマン・ジャント理論に基づいて、例えば、前記Eq.(1)に従って前輪側推定舵角θFrを推定して計算した場合には、特に、最大舵角付近での推定精度が低下することになる。
これに対して、Fr推定舵角演算部42は、車両のサスペンションジオメトリ特性に基づいて設定される車両のオーバーオールギア比GRを用いた前記Eq.(4)により、前輪側推定舵角θFrを推定して計算する。これにより、特に、左右前輪WfL,WfRを最大舵角付近まで転舵させた場合における旋回内側転舵輪(図18の右輪WfR)のアッカーマン角αRと旋回外側転舵輪(図18の右輪WfL)のアッカーマン角αLの変化は、オーバーオールギア比GRによって補正(補完)することができるため、前輪側推定舵角θFrの推定計算におけるアッカーマン率の低下の影響を抑制することができる。したがって、Fr推定舵角演算部42が前記Eq.(4)によって前輪側推定舵角θFrを推定して計算することにより、推定計算の精度を向上させることができる。
Rr推定舵角演算部43は、LPF処理部41から供給された信号によって表される車輪速度ωrL_LPF,ωrR_LPFを用いて、第2の舵角としての後輪側推定舵角θRrを推定して計算する。すなわち、Rr推定舵角演算部43は、下記Eq.(5)に従って、後輪側推定舵角θRrを計算する。
ただし、前記Eq.(5)中の右辺第2項は、上述したアッカーマン・ジャント理論に基づくEq.(2)と実質的に同一である。また、前記Eq.(5)中のGRも、前記Eq.(4)と同様に、車両のオーバーオールギア比を表す定数である。
ここで、後輪側推定舵角θRrの計算においても、車両のオーバーオールギア比GRを考慮することにより、推定計算の精度を向上させることができる。このことを以下に説明する。
本実施形態においては、左右後輪WrL,WrRは転舵しない。このため、転舵輪である左右前輪WfL,WfRが転舵されて車両が旋回するときには、左右後輪WrL,WrRはアッカーマン・ジャントの理論における旋回中心を同一とする同心円の接線方向に進もうとする。
すなわち、左右後輪WrL,WrRは転舵しないため、車両の旋回に伴って引きずられながら同心円上を進むことになる。この場合、図5Bに概略的な実験結果を示すように、左右後輪WrL,WrRの車輪速度ωrL_LPF,ωrR_LPFを用いて左右前輪WfL,WfRの舵角を計算した場合には、アッカーマン率は変化することなく常に線形性を保つことができるものの、引きずりの発生に伴って同心円からのずれに対応するヒステリシス幅が大きくなる。また、例えば、左右後輪WrL,WrRが駆動輪である場合には、駆動力の伝達によっても同心円からのずれが発生しやすくヒステリシス幅が大きくなる。したがって、アッカーマン・ジャント理論に基づいて、例えば、前記Eq.(2)に従って後輪側推定舵角θRrを推定して計算した場合には、線形性を良好に保つことができるものの、ヒステリシス幅が大きいために推定精度が低下することになる。
これに対して、Rr推定舵角演算部43は、車両のオーバーオールギア比GRを用いた前記Eq.(5)により、後輪側推定舵角θRrを推定して計算する。これにより、同心円からのずれに対応するヒステリシス幅が小さくなるように補正(補完)することができる。したがって、Rr推定舵角演算部43が前記Eq.(5)によって後輪側推定舵角θRrを推定して計算することにより、推定計算の精度を向上させることができる。
ここで、上述したように、Fr推定舵角演算部42およびRr推定舵角演算部43は、車輪速度ωfL_LPF,ωfR_LPFおよび車輪速度ωrL_LPF,ωrR_LPFを用いて、前輪側推定舵角θFrおよび後輪側推定舵角θRrを推定して計算する。すなわち、車両が走行しており、左右前輪WfL,WfRおよび左右後輪WrL,WrRが車両進行方向に回転しているときに、前輪側推定舵角θFrおよび後輪側推定舵角θRrを推定して計算することができる。
このため、例えば、車両が停止しており、車輪速センサ31a〜31dが車輪速度ωfL_LPF,ωfR_LPFおよび車輪速度ωrL_LPF,ωrR_LPFを検出できない状況において、左右前輪WfL,WfRが転舵された場合(所謂、据え切りされた場合)には、前輪側推定舵角θFrおよび後輪側推定舵角θRrを推定して計算することが不能となる。また、車両が停止状態から走行を開始して車輪速センサ31a〜31dが車輪速度ωfL_LPF,ωfR_LPFおよび車輪速度ωrL_LPF,ωrR_LPFを検出できるようになった直後において、前輪側推定舵角θFrおよび後輪側推定舵角θRrを計算する場合には、誤差の大きな前輪側推定舵角θFrおよび後輪側推定舵角θRrを推定して計算する可能性がある。
したがって、Fr推定舵角演算部42およびRr推定舵角演算部43は、それぞれ、車速センサ34によって検出された車速Vを表す信号を入力し、この入力した信号によって表される車速Vの大きさが車輪速センサ31a〜31dの検出可能車速以下となった場合には、前輪側推定舵角θFrおよび後輪側推定舵角θRrを「0」とする。また、Fr推定舵角演算部42およびRr推定舵角演算部43は、車速Vの大きさが車輪速センサ31a〜31dの検出可能車速以下となった後、ふたたび、車速Vの大きさが車輪速センサ31a〜31dの検出可能車速よりも大きくなった場合には、所定の時間が経過するまでは前輪側推定舵角θFrおよび後輪側推定舵角θRrを「0」とする。
これにより、例えば、車両が停止することによって、一旦、前輪側推定舵角θFrおよび後輪側推定舵角θRrが不明となる状況から前輪側推定舵角θFrおよび後輪側推定舵角θRrを推定して計算することが可能となる状況に移行する場合であっても、誤差の大きな前輪側推定舵角θFrおよび後輪側推定舵角θRrを推定して計算することを防止することができる。したがって、これによっても、前輪側推定舵角θFrおよび後輪側推定舵角θRrを推定して計算するときの精度を向上させることができる。
このように、Fr推定舵角演算部42およびRr推定舵角演算部43は、前輪側推定舵角θFrおよび後輪側推定舵角θRrを推定して計算すると、この計算した前輪側推定舵角θFrおよび後輪側推定舵角θRrを制御舵角演算部44に供給する。
制御舵角演算部44においては、Fr推定舵角演算部42によって計算された前輪側推定舵角θFrを入力するとともに、Rr推定舵角演算部43によって計算された後輪側推定舵角θRrを入力する。そして、制御舵角演算部44は、下記Eq.(6)に従って、前輪側推定舵角θFrと後輪側推定舵角θRrとを平均して推定舵角θcを計算する。
このように、前輪側推定舵角θFrと後輪側推定舵角θRrとを用いて推定舵角θcを計算することにより、車輪速度ωfL_LPF,ωfR_LPFおよび車輪速度ωrL_LPF,ωrR_LPFのいずれかが異常であっても、この異常の影響を受けにくいロバストな冗長系を形成することができる。また、前記Eq.(6)により前輪側推定舵角θFrと後輪側推定舵角θRrとを平均して推定舵角θcを計算することにより、上述したサスペンションジオメトリ特性に起因する推定計算の精度の低下をさらに防止することができる。したがって、推定舵角θcを推定して計算するときの精度を向上させることができる。
また、制御舵角演算部44は、下記Eq.(7)に従って、前輪側推定舵角θFrと後輪側推定舵角θRrとの差を計算して推定舵角差Δθを計算する。
Δθ=θFr−θRr …Eq.(7)
このように、制御舵角演算部44が推定舵角θcおよび推定舵角差Δθを計算すると、舵角推定部40は、推定舵角θcおよびモータ回転角速度Θ’を軸力推定部50に供給するとともに、推定舵角差Δθをアシストトルク演算部60(より具体的には、後述するアシストトルク補正部63)に供給する。
軸力推定部50においては、図6に示すように、基本軸力演算部51が舵角推定部40から供給された推定舵角θcおよび車速センサ34によって検出された車速Vを用いて、転舵された左右前輪WfL,WfRからナックル24およびタイロッド23を介してラックバー22に作用する基本軸力Fbを計算する。このため、基本軸力演算部51は、制御舵角演算部44から供給された推定舵角θcの符号すなわち中立位置を基準とした左右前輪WfL,WfRの転舵方向を決定する舵角符号演算部52と、推定舵角θcの大きさ(絶対値)を用いて左右前輪WfL,WfRの転舵に伴いラックバー22に入力される基本軸力Fbの大きさ(絶対値)を決定する基本軸力決定部53とを備えている。
基本軸力決定部53は、図7に示す基本軸力マップを参照して、制御舵角演算部44から入力した推定舵角θcに対応する基本軸力Fbを決定する。ここで、基本軸力マップは、推定舵角θcの絶対値の増大に伴って基本軸力Fbが増大する関係を表すとともに、車速センサ34によって検出された車速Vの増大に伴って基本軸力Fbが増大し、車速Vの減少に伴って基本軸力Fbが減少する関係を表すものである。なお、基本軸力マップを参照することに代えて、推定舵角θcおよび車速Vに応じて変化する基本軸力Fbを定義した関数を用いて基本軸力Fbを計算するようにしてもよい。
このため、基本軸力決定部53は、入力した車速Vに基づいて基本軸力マップを決定し、この決定した基本軸力マップを用いて制御舵角演算部44から入力した推定舵角θcの絶対値に対応する基本軸力Fbの大きさ(絶対値)を決定する。そして、基本軸力演算部51は、舵角符号演算部52によって決定された推定舵角θcの符号(左右前輪WfL,WfRの中立位置を基準とした転舵方向に対応)と、基本軸力決定部53によって決定された基本軸力Fb(絶対値)とを乗算することにより、左右前輪WfL,WfRの転舵方向を考慮した基本軸力Fbを計算する。
ところで、基本軸力Fbは、左右前輪WfL,WfRの転舵方向および推定舵角θc(絶対値)に対応して決定される。言い換えると、基本軸力Fbは、運転者による操舵ハンドル11の回動操作として左右前輪WfL,WfRの舵角(絶対値)を大きくする切り込み操作および左右前輪WfL,WfRの舵角(絶対値)を小さくする切り戻し操作を考慮することなく決定される。このように、推定舵角θc(絶対値)に対応して決定される基本軸力Fbのみを用いて後に詳述するアシスト演算部60がアシストトルクTaを計算すると、運転者は、操舵ハンドル11の切り込み操作と切り戻し操作とで知覚するトルク変動に対して違和感を覚える場合がある。このことを、以下に説明する。
今、左右前輪WfL,WfRが中立位置を基準として、例えば、車両の前後方向に対して右方向にある推定舵角θc1まで転舵されている状況を想定し、運転者が操舵ハンドル11を切り込み操作する場合と、操舵ハンドル11を切り戻し操作する場合とを考える。この場合、運転者が切り込み操作または切り戻し操作する直前においては、基本軸力決定部53は、基本軸力マップを参照して、例えば、推定舵角θc1(絶対値)に対応する基本軸力Fb1(絶対値)を決定している。
そして、運転者が操舵ハンドル11を切り込み操作すると、左右前輪WfL,WfRは推定舵角θc1よりも絶対値の大きな推定舵角θc2まで転舵される。その結果、基本軸力決定部53は、推定舵角θc2(絶対値)に対応して基本軸力Fb1よりも絶対値の大きな基本軸力Fb2(絶対値)を決定する。一方、運転者が操舵ハンドル11を切り戻し操作すると、左右前輪WfL,WfRは推定舵角θc1よりも絶対値の小さな推定舵角θc3まで転舵される。その結果、基本軸力決定部53は、推定舵角θc3(絶対値)に対応して基本軸力Fb1よりも絶対値の小さな基本軸力Fb3(絶対値)を決定する。
すなわち、推定舵角θc1まで転舵されている左右前輪WfL,WfRを切り込み操作によって推定舵角θc2まで転舵させる場合と、切り戻し操作によって推定舵角θc3まで転舵させる場合とでは、決定される基本軸力Fb2,Fb3は、基本軸力Fb1を基準として基本軸力マップのマップ線上に沿って変化するのみである。言い換えれば、例示的に上述した状況においては、基本軸力決定部53によって決定される基本軸力Fb2,Fb3は基本軸力Fb1を基準に変化するものであり、運転者による操舵ハンドル11の切り込み操作および切り戻し操作に応じて基本軸力Fb1が変化する、すなわち、切り込み操作および切り戻し操作間で軸力差が生じるものではない。
このため、アシストトルク演算部60が基本軸力Fbのみを用いてアシストトルクTaを計算すると、軸力差が生じないために、運転者は、操舵ハンドル11を切り込み操作する時点で、アシストトルクTaが不足した大きな操舵トルクTによって操舵ハンドル11を回動操作することになる。これにより、運転者は、操舵ハンドル11を切り込み操作する際のトルク変動(すなわち、操舵トルクTの大きさ)に対して違和感を覚える。一方、運転者が操舵ハンドル11を切り戻し操作する時点では、付与されるアシストトルクTaが、所謂、逆アシストとして作用するため、操舵ハンドル11が中立位置方向に戻りにくくなる。これにより、運転者は、操舵ハンドル11を切り戻し操作する際のトルク変動(すなわち、操舵トルクTの大きさ)に対して違和感を覚える。
このように、軸力差が生じない基本軸力Fbのみを用いた場合には、運転者は、操舵ハンドル11の切り込み操作と切り戻し操作とで知覚するトルク変動に対して違和感を覚える場合がある。言い換えれば、運転者による操舵ハンドル11の切り込み操作または切り戻し操作に応じて、推定舵角θcの変化に対する基本軸力Fbの変化がヒステリシス特性を有することにより、上述した運転者の覚える違和感を抑制することができる。
このため、軸力推定部50は、補正軸力演算手段としての操舵感応軸力補正部54を備えている。この操舵感応軸力補正部54は、運転者による操舵ハンドル11の切り込み操作と切り戻し操作とで運転者が知覚するトルク変動に関する違和感を低減するために、基本軸力Fbを補正する補正軸力Faを計算する。すなわち、補正軸力Faは、運転者による操舵ハンドル11の切り込み操作および切り戻し操作に応じて、推定舵角θcの変化に対する基本軸力Fbの変化にヒステリシス特性を付与するものである。以下、この補正軸力Faについて、図8を用いて具体的に説明する。
まず、補正軸力Faを説明するにあたり、転舵輪である左右前輪WfL,WfRが転舵されるときの力学的関係を考える。左右前輪WfL,WfRは、図8にて、例えば、左前輪WfLを代表して示すように、左前輪WfL(右前輪WfR)を構成するタイヤと路面とが接地面により接触している。そして、左前輪WfL(右前輪WfR)が運転者による操舵ハンドル11の回動操作に伴って転舵されるときには、一般的に、接地面における摩擦(以下、接地面摩擦という)、タイヤの剛性およびタイヤ慣性が発生し、これらの接地面摩擦、タイヤ剛性およびタイヤ慣性に起因する力がナックルアーム24およびタイロッド23を介してラックバー22に入力される。
このため、今、アシストトルクTaが付与されて左前輪WfL(右前輪WfR)が転舵される際の力学的関係をモデル化して考えてみる。このモデルにおいては、図8に示すように、アシストトルクTaの伝達によってナックルアーム24(すなわち、操舵ハンドル11を含むステアリング系)が回転角θhだけ回転した場合、タイヤの慣性モーメントをJw、タイヤの弾性係数をKt、タイヤの路面に対する撓み角θt、タイヤ接地面における粘性摩擦係数をCrとすれば、下記Eq.(8)が成立する。
Jw×θh”+Cr×θt’+Kt×(θh−θt)−Ta=0 …Eq.(8)
ここで、前記Eq.(8)において、左辺第1項(Jw×θh”)はタイヤの慣性に関する項であって、θh”は回転角θhの2階微分値(すなわち、回転角加速度)である。そして、前記Eq.(8)の左辺第1項(Jw×θh”)で表わされるタイヤの慣性に関する項は、運転者による操舵ハンドル11の切り込み操作または切り戻し操作に応じて左前輪WfL(右前輪WfR)が転舵するときには、これらの転舵状態に関わらず、常に作用するものである。
また、前記Eq.(8)において、左辺第3項(Kt×(θh−θt))はタイヤの剛性に関する項である。そして、左辺第3項(Kt×(θh−θt))と左辺第4項(−Ta)とは、左右前輪WfL,WfRの舵角依存性を有するものであるため、基本軸力演算部51によって計算される基本軸力Fbに相当するものとなる。
ところで、前記Eq.(8)において、左辺第2項(Cr×θt’)はタイヤと路面との摩擦力を表す項であって、θt’は撓み角θtの微分値(すなわち、撓み角速度、言い換えれば、タイヤの舵角速度)である。このため、前記Eq.(8)の左辺第2項(Cr×θt’)は、左前輪WfL(右前輪WfR)が舵角速度θt’すなわちモータ回転角速度Θ’で転舵する際に発生する摩擦力であり、運転者による操舵ハンドル11の切り込み操作および切り戻し操作に応じて変化するものである。したがって、運転者による操舵ハンドル11の切り込み操作および切り戻し操作に応じて、推定舵角θcの変化に対する基本軸力Fbの変化にヒステリシス特性を付与するには、補正軸力Faを前記摩擦力に基づいて決定すればよい。
ここで、粘性摩擦係数Crは、左前輪WfL(右前輪WfR)を転舵させる際におけるタイヤの接地面積の大きさによって変化する。すなわち、粘性摩擦係数Crは、タイヤと路面との間の静止摩擦係数μと垂直抗力N(V)との積で表されるものであり、垂直抗力N(V)は車速Vの関数として表される。なお、タイヤの接地面積の大きさは、車両の車速Vに依存して変化するものであり、車速Vが小さいときに接地面積が大きくなり、車速Vが大きいときに接地面積が小さくなる。このため、垂直抗力N(V)は車速Vが小さいときに大きくなり、車速Vが大きいときに小さくなる。これにより、粘性摩擦係数Crは、車速Vに依存して変化し、車速Vが小さいときに大きくなり、車速Vが大きいときに小さくなる。
したがって、左前輪WfL(右前輪WfR)が舵角速度θt’すなわちモータ回転角速度Θ’で転舵する際に発生する摩擦力は、車速Vの大きさに応じて変化する粘性摩擦係数Crと運転者による操舵ハンドル11の操舵速度すなわちモータ回転角速度Θ’との積と考えることができる。
このように、左右前輪WfL,WfRの転舵状態(具体的には、切り込み操作または切り戻し操作)に応じて作用する摩擦力に基づいて補正軸力Faを決定するために、操舵感応軸力補正部54は、図6に示すように、車速ゲイン決定部55、ヒス幅決定部56および舵角推定部40のLPF処理部41から供給されたモータ回転角速度Θ’の符号すなわち運転者による操舵ハンドル11の切り込み操作または切り戻し操作を決定する操舵方向演算部57を備えている。
車速ゲイン決定部55は、上述したように、車速Vに応じて変化する接地面積の大きさ、すなわち、上述した前記Eq.(8)における粘性摩擦係数Crの変化に関連する車速ゲインKvを決定するものである。具体的には、車速ゲイン決定部55は、車速センサ34によって検出された車速Vを表す信号を入力する。そして、車速ゲイン決定部55は、同信号によって表される車速Vに応じた車速ゲインKvを、図9に示す車速ゲインマップを参照して決定する。ここで、車速ゲインマップは、検出された車速Vの増加に対して、車速ゲインKvが減少する関係を表すものである。なお、車速ゲインマップを参照することに代えて車速Vに応じて変化する車速ゲインKvを定義した関数を用いて基本軸力Fbを計算するようにしてもよい。
ヒス幅決定部56は、推定舵角θcの変化に対する基本軸力Fbの変化に付与するヒステリシス特性を決定するヒステリシス幅(以下、単にヒス幅という)を決定するものであり、図10に示すヒス幅決定マップを参照して、ヒス幅に対応する摩擦補正軸力Fhを決定する。ここで、ヒス幅決定マップは、舵角推定部40のLPF処理部41によって計算されたモータ回転角速度Θ’の絶対値が予め設定された所定の回転角速度Θ’2未満であるときには摩擦補正軸力Fhが増大する(すなわちヒス幅が大きくなる)関係を表すとともに、モータ回転角速度Θ’の絶対値が所定の回転角速度Θ’2よりも大きな所定の回転角速度Θ’3以上であるときには摩擦補正軸力Fhが減少する(すなわちヒス幅が小さくなる)関係を表すものである。このため、ヒス幅決定部56は、ヒス幅決定マップを用いて前記LPF処理部41から入力したモータ回転角速度Θ’の絶対値に対応するヒス幅すなわち摩擦補正軸力Fhの大きさ(絶対値)を決定する。
なお、上述したヒス幅決定マップを参照することに代えて、モータ回転角速度Θ’が所定の回転角速度Θ’2未満までは摩擦補正軸力Fhが増大し、モータ回転角速度Θ’が回転角速度Θ’3以上であるときに摩擦補正軸力Fhが減少するように、モータ回転角速度Θ’に対する摩擦補正軸力Fhを関数として定義しておく。そして、この定義した関数を用いて摩擦補正軸力Fhを決定するようにしてもよい。
そして、操舵感応軸力補正部54は、車速ゲイン決定部55によって決定された車速ゲインKvとヒス幅決定部56によって決定された摩擦補正軸力Fh(絶対値)とを乗算することによって補正軸力Fa(絶対値)を決定する。さらに、操舵感応軸力補正部54は、補正軸力Fa(絶対値)に対して操舵方向演算部57によって決定されたモータ回転角速度Θ’の符号(運転者による操舵ハンドル11の回動操作方向に対応)を乗算することにより、左右前輪WfL,WfRの転舵状態を考慮した補正軸力Faを計算する。
このように、基本軸力演算部51によって基本軸力Fbが計算され、操舵感応軸力補正部54によって補正軸力Faが計算されると、軸力推定部50は、これら基本軸力Fbと補正軸力Faとを合算することによって推定軸力Fcを計算する。ここで、このように計算される推定軸力Fcは、図11に示すように、推定舵角θcの変化に応じて変化する基本軸力Fbに対して、補正軸力Faによって表されるヒス幅(軸力差)を加えて決定されるものとなる。この場合、補正軸力Faは、上述したように、モータ回転角速度Θ’すなわち操舵速度の大きさおよび車速Vに応じて変化する。このため、この補正軸力Faを加味して推定軸力Fcを計算することによって、運転者による操舵ハンドル11の回動操作状態をも考慮したより正確な推定軸力Fcを推定して計算することができる。そして、軸力推定部50は、計算した推定軸力Fcをアシスト演算部60に供給する。
アシスト演算部60においては、図12に示すように、目標操舵トルク決定部61、アシストトルク決定部62およびアシスト力補正手段としてのアシストトルク補正部63を備えている。
目標操舵トルク決定部61は、運転者が操舵ハンドル11を介して入力する目標操舵トルクThを決定するものである。具体的に説明すると、目標操舵トルク決定部61は、車両が低速で走行しているときには運転者が操舵ハンドル11に入力する操舵トルクTが小さくなるように、また、車両が中・高速で走行しているときには運転者が操舵ハンドル11に入力する操舵トルクTが比較的大きくなるように、目標操舵トルクThを決定する。
このため、目標操舵トルク決定部61は、車速センサ34によって検出された車速Vを入力する。そして、目標操舵トルク決定部61は、図13に示す目標操舵トルク決定マップを参照して、入力した車速Vに対応する目標操舵トルクThを決定する。ここで、目標操舵トルク決定マップは、入力した車速Vが「0」から予め設定された所定の車速V0未満までは目標操舵トルクThが一様に増加し、入力した車速Vが所定の車速V0以上では目標操舵トルクThが一定となる特性を有する。なお、このような特性を有する目標操舵トルク決定マップを参照することに代えて、目標操舵トルクThが所定の車速V0未満までは一様に増加し所定の車速V0以上で一定となるように、車速Vに対する目標操舵トルクThを関数として定義しておき、この定義した関数を用いて目標操舵トルクThを決定するようにしてもよい。そして、目標操舵トルク決定部61は、決定した目標操舵トルクThをアシストトルク決定部62に供給する。
アシストトルク決定部62は、軸力推定部50によって計算された推定軸力Fcに抗して運転者が目標操舵トルクThにより操舵ハンドル11を回動操作できるように、アシストトルクTaを決定するものである。具体的に説明すると、アシストトルク決定部62は、軸力推定部60から供給された推定軸力Fc(絶対値)と目標操舵トルク決定部61から供給された目標操舵トルクTh(絶対値)とを比較する。すなわち、アシストトルク決定部62は、推定軸力Fc(絶対値)が目標操舵トルクTh(絶対値)未満であるときには、図14に示すように、アシストトルクTaを「0」に決定する。一方、推定軸力Fc(絶対値)が目標操舵トルクTh(絶対値)よりも大きいときには、図14に示すように、下記Eq.(9)に従って推定軸力Fcから目標操舵トルクThを減じることによってアシストトルクTaを計算する。
Ta=Fc−Th …Eq.(9)
このように、推定軸力Fcが小さい場合には、運転者による操舵ハンドル11の回動操作量が小さいため、アシストトルクTaが「0」に決定される。これにより、アシストトルクTaが「0」に決定される領域においては、運転者が操舵ハンドル11を回動操作してもアシストトルクTaが付与されない、所謂、不感帯となる。そして、この不感帯を超えるように運転者が操舵ハンドル11を回動操作したとき、すなわち、推定軸Fcが目標操舵トルクThよりも大きくなったときには、最小限のアシストトルクTaが付与されるようになる。
また、上述したように、目標操舵トルクThは、車速Vが所定の車速V0未満では小さく、所定の車速V0以上で大きな一定値に決定される。このため、車速Vが所定の車速V0未満となる低速域においては、目標操舵トルクThが小さく設定されるため、その結果、不感帯が小さく設定される。したがって、運転者による操舵ハンドル11の回動操作に対して速やかにアシストトルクTa(補正アシストトルクTad)が付与されるようになる。すなわち、低速域で車両が走行している場合には、運転者は、極めて容易に操舵ハンドル11を回動操作することができ、良好な車両の取り回しが可能となる。
一方、目標操舵トルクThは、車速Vが所定の車速V0以上となる中・高速域においては、大きな一定値として決定されるため、その結果、不感帯が大きく設定される。したがって、運転者による操舵ハンドル11の回動操作に対して緩やかにアシストトルクTa(補正アシストトルクTad)が付与されるようになる。すなわち、中・高速域で車両が走行している場合には、運転者は、操舵ハンドル11を介してしっかりとした反力を知覚しながら回動操作することができ、安定した回動操作によって車両の挙動を安定させることが可能となる。
アシストトルク補正部63は、左右前輪WfL,WfRおよび左右後輪WrL,WrRのうちの少なくとも一輪にスリップが発生している場合に、アシストトルク決定部62によって決定されたアシストトルクTaを補正して補正アシストトルクTadを計算するものである。具体的に、アシストトルク補正部63は、左右前輪WfL,WfRおよび左右後輪WrL,WrRのうちの少なくとも一輪にスリップが発生している状況において、アシストトルクTaを付与した場合に発生する可能性のある過剰なアシスト(以下、過アシストという)や左右前輪WfL,WfRのセルフステアを防止するために、アシストトルク決定部62によって決定されたアシストトルクTaを補正する。このため、アシストトルク補正部63は、図12に示すように、スリップゲイン決定手段としてのスリップゲイン決定部64とスリップゲイン復帰判定手段としてのスリップゲイン復帰判定部65とを備えている。
スリップゲイン決定部64は、アシストトルクTaを補正するためのスリップゲインKsを決定する。具体的に説明すると、スリップゲイン決定部64は、推定舵角演算部40の制御舵角演算部44によって計算された推定舵角差Δθを入力する。すなわち、左右前輪WfL,WfRおよび左右後輪WrL,WrRのうちの少なくとも一輪にスリップが発生している場合には、上述した図18に示す左右前輪WfL,WfRの旋回中心と左右後輪WrL,WrRの旋回中心とが異なるため、推定舵角差Δθが大きくなる。このため、スリップゲイン決定部64は、図15に示すスリップゲイン決定マップを参照し、この推定舵角差Δθの絶対値に対応するスリップゲインKsを決定する。
具体的に、スリップゲイン決定部64は、制御舵角演算部44から入力した推定舵角差Δθの絶対値が予め設定された所定の舵角差Δθ0未満であるときには、左右前輪WfL,WfRおよび左右後輪WrL,WrRのうちの少なくとも一輪にスリップ率の極めて小さいスリップが発生していると判定する。これにより、スリップゲイン決定部64は、スリップゲインKsを上限値(具体的には、「1」)に決定する。なお、以下の説明においては、スリップゲインKsが上限値である「1」に設定されるときをグリップ状態という。
また、スリップゲイン決定部64は、入力した推定舵角差Δθの絶対値が所定の舵角差Δθ0以上であり、かつ、予め設定された所定の舵角差Δθ1未満であるときには、左右前輪WfL,WfRおよび左右後輪WrL,WrRのうちの少なくとも一輪にスリップ率の比較的大きなスリップが発生していると判定する。これにより、スリップゲイン決定部64は、入力した推定舵角差Δθの絶対値の増加または減少に応じて、スリップゲインKsを上限値から下限値(具体的には、「0」)または下限値から上限値まで一様に減少させて決定する。なお、以下の説明においては、スリップゲインKsが「1」から「0」に向けて減少するように設定されるときをスリップ開始状態といい、スリップゲインKsが「0」から「1」に向けて増加するように設定されるときをスリップ復帰状態という。
さらに、スリップゲイン決定部64は、入力した推定舵角差Δθの絶対値が所定の舵角差Δθ1以上であるときには、左右前輪WfL,WfRおよび左右後輪WrL,WrRのうちの少なくとも一輪にスリップ率が「1」となる完全なスリップが発生していると判定する。これにより、スリップゲイン決定部64は、スリップゲインKsを下限値(具体的には、「0」)に決定する。なお、以下の説明においては、スリップゲインKsが上限値である「0」に設定されるときを完全スリップ状態という。ここで、スリップゲイン決定マップを参照することに代えて推定舵角差Δθの絶対値に応じて変化するスリップゲインKsを定義した関数を用いてスリップゲインKsを計算するようにしてもよい。
このように、スリップゲイン決定部64は、推定舵角差Δθの絶対値に応じてスリップゲインKsを決定することができる。そして、後述するように、スリップゲインKsを用いてアシストトルクTaを補正した補正アシストトルクTadを計算することにより、左右前輪WfL,WfRおよび左右後輪WrL,WrRのうちの少なくとも一輪にスリップが発生した場合であっても、適切なアシストトルクTa(補正アシストトルクTad)を付与することができる。
スリップゲイン復帰判定部65は、左右前輪WfL,WfRおよび左右後輪WrL,WrRのうちの少なくとも一輪(以下、単に車輪という)の回転状態が完全スリップ状態からスリップ復帰状態に移行しているか否かを判定ことにより、スリップゲイン決定部64によって決定されたスリップゲインKsを出力する(復帰させる)か否かを決定するものである。具体的に、スリップゲイン復帰判定部65は、アシストトルク決定部62によって決定されたアシストトルクTaを入力するとともに、スリップゲイン決定部64からスリップゲインKsを入力する。
そして、スリップゲイン復帰判定部65は、図16に示すスリップゲイン復帰判定プログラムを実行することにより、車輪の回転状態が完全スリップ状態からスリップ復帰状態に移行しているか否かを判定する。さらに、スリップゲイン復帰判定部65は、スリップゲイン復帰判定プログラムを実行することにより、車輪の回転状態、具体的には、完全スリップ状態、スリップ復帰状態、スリップ復帰状態またはグリップ状態に応じて、スリップゲインKsを出力する(復帰させる)か否かを表す最終スリップゲインKsdを決定する。以下、このスリップゲイン復帰判定部65による状態移行判定および最終スリップゲインKsdの決定を詳細に説明する。
スリップゲイン復帰判定部65は、ステップS10にてプログラムの実行を開始し、続くステップS11にて車輪の回転状態が完全スリップ状態からスリップ復帰状態に移行しているか否かを判定する。具体的に説明すると、スリップゲイン復帰判定部65は、前回のプログラム実行時に入力したスリップゲインKsが「0」であり、かつ、今回のプログラム実行時に入力したスリップゲインKsが「0」でなければ、車輪の回転状態が完全スリップ状態からスリップ復帰状態に移行している。このため、スリップゲイン復帰判定部65は、ステップS11にて「Yes」と判定してステップS12に進む。
すなわち、この場合には、前回のプログラム実行時にスリップゲイン決定部64から入力したスリップゲインKsが「0」、言い換えれば、推定舵角差Δθが所定の舵角差Δθ1以上であり、車輪の回転状態が完全スリップ状態となっていた。これに対して、今回のプログラム実行時においては、スリップゲイン決定部64から入力したスリップゲインKsが「0」ではない、言い換えれば、推定舵角差Δθが所定の舵角差Δθ1未満であり、車輪の回転状態がスリップ復帰状態(またはグリップ状態)となっている。
一方、前回のプログラム実行時に入力したスリップゲインKsが「0」ではなく、または、今回のプログラム実行時に入力したスリップゲインKsが「0」であれば、車輪の回転状態が完全スリップ状態ではない、または、車輪の回転状態が完全スリップ状態である。このため、スリップゲイン復帰判定部65は、ステップS11にて、「No」と判定してステップS15に進む。すなわち、この場合には、前回のプログラム実行時において、スリップゲイン決定部64から入力したスリップゲインKsが「0」ではない、言い換えれば、推定舵角差Δθが所定の舵角差Δθ1未満であり、車輪の回転状態がグリップ状態、スリップ開始状態またはスリップ復帰状態である。あるいは、今回のプログラム実行時において、スリップゲイン決定部64から入力したスリップゲインKsが「0」、言い換えれば、推定舵角差Δθが所定の舵角差Δθ1以上であり、車輪の回転状態が完全スリップ状態である。
ステップS12においては、スリップゲイン復帰判定部65は、アシストトルク演算部60のアシストトルク決定部62から入力したアシストトルクTaが「0」であるか否かを判定する。すなわち、上述したように、アシストトルク演算部62によって推定軸力Fcが目標操舵トルクTh以下である、言い換えれば、転舵輪である左右前輪WfL,WfRの推定舵角θcが小さいためにアシストトルクTaが「0」に決定されている場合には、スリップゲイン復帰判定部65は「Yes」と判定してステップS13に進む。
ステップS13においては、スリップゲイン復帰判定部65は、最終スリップゲインKsdをスリップゲイン決定部64によって決定されたスリップゲインKsに設定し、スリップゲインKsの出力(復帰)を許容する。すなわち、この場合には、アシストトルクTaが「0」であり、最終的にアシストトルクTaを補正する最終スリップゲインKsdをスリップゲインKsに設定して復帰を許容しても、運転者が操舵ハンドル11に入力する操舵トルクTに対して何らトルクを付与しない。このため、運転者が違和感を覚えることがない。
一方、アシストトルク演算部60のアシストトルク決定部62から入力したアシストトルクTaが「0」でなければ、すなわち、推定軸力Fcが目標操舵トルクTh以上である、言い換えれば、転舵輪である左右前輪WfL,WfRの推定舵角θcが大きいためにアシストトルクTaが「0」よりも大きく決定されている場合には、スリップゲイン復帰判定部65はステップS13にて「No」と判定して、繰り返しステップS14を実行する。
ステップS14においては、スリップゲイン復帰判定部65は、スリップゲイン決定部64によって決定されたスリップゲインKsの出力(復帰)を禁止し、最終スリップゲインKsdを「0」に設定する。すなわち、この場合には、車輪が完全スリップ状態からスリップ復帰状態に移行している状態であるものの、アシストトルク決定部62によって「0」よりも大きなアシストトルクTaが決定されている状態である。
このため、例えば、最終スリップゲインKsdをスリップゲイン決定部64によって決定されたスリップゲインKsに設定すると、急激な補正アシストトルクTadの付与に伴う左右前輪WfL,WfRの転舵(過アシストまたはセルフステア)が発生する可能性が高く、また、運転者が操舵ハンドル11を介して付与された補正アシストトルクTadを知覚して違和感を覚える可能性がある。したがって、スリップゲイン復帰判定部65は、最終スリップゲインKsdを「0」に設定(維持)して、急激な補正アシストトルクTadが付与されないようにする。
また、前記ステップS11にて「No」と判定すると、スリップゲイン復帰判定部65は、ステップS15に進み、最終スリップゲインKsdをスリップゲインKsに設定する。すなわち、この場合には、上述したように、車輪の回転状態が完全スリップ状態からスリップ復帰状態に移行していない。したがって、この場合には、スリップゲイン復帰判定部65は、最終スリップゲインKsdをスリップゲインKsに設定し、スリップゲインKsの出力(復帰)を許容する。
そして、前記ステップS13,または、ステップS15のステップ処理を実行すると、スリップゲイン復帰判定部65は、ステップS16にて、スリップゲイン復帰判定プログラムの実行を一旦終了する。
このようして、スリップゲイン復帰判定部65が最終スリップゲインKsdを設定すると、アシストトルク補正部63は、アシストトルク決定部62から供給されたアシストトルクTaに対して最終スリップゲインKsdを乗算して、最終的に補正された補正アシストトルクTadを計算する。
ここで、上述した最終スリップゲインKsdの決定および補正アシストトルクTadの計算を時間の経過に伴って図示すると、図17のように示すことができる。具体的に、説明すると、まず、(a.)グリップ状態においては、左右前輪WfL,WfRおよび左右後輪WrL,WrRのうちの少なくとも一輪にスリップ率の極めて小さいスリップが発生している状態である。したがって、この(a.)グリップ状態においては、スリップゲイン復帰判定部65は、スリップゲイン復帰判定プログラムの前記ステップS11,S15のステップ処理を実行することにより、最終スリップゲインKsdをスリップゲインKsに設定する。したがって、この場合には、補正アシストトルクTadすなわちスリップゲインKsが「1」であるためにアシストトルクTaが付与されるフルアシスト状態となる。
この(a.)グリップ状態から、(b.)スリップ開始状態に移行すると、左右前輪WfL,WfRおよび左右後輪WrL,WrRのうちの少なくとも一輪にスリップ率の比較的大きなスリップが発生している状態である。このため、スリップゲイン復帰判定部65は、スリップゲイン復帰判定プログラムの前記ステップS11,S15のステップ処理を実行することにより、最終スリップゲインKsdをスリップゲインKsに設定する。これにより、最終スリップゲインKsdは、スリップゲインKsの減少に伴って下限値「0」に向けて減少する。したがって、補正アシストトルクTadは、「0」に向けて漸減する状態となる。
そして、(b.)スリップ開始状態から(c.)完全スリップ状態に移行すると、左右前輪WfL,WfRおよび左右後輪WrL,WrRのうちの少なくとも一輪にスリップ率が「1」の完全スリップが発生している状態である。このため、スリップゲイン復帰判定部65は、スリップゲイン復帰判定プログラムの前記ステップS11,S15のステップ処理を実行することにより、最終スリップゲインKsdをスリップゲインKsに設定する。したがって、この場合には、スリップゲインKsが「0」であるために補正アシストトルクTadが「0」となり、何らトルクが付与されないアシストゼロ状態となる。
この(c.)完全スリップ状態から(d.)スリップ復帰状態に移行すると、一点鎖線で示すように、スリップゲイン決定部64は推定舵角差Δθの減少に伴ってスリップゲインKsの値を下限値「0」から上限値「1」に向けて増加させて決定する。これに伴い、スリップゲイン復帰判定部65は、スリップゲイン復帰判定プログラムの前記ステップS11にて、車輪の回転状態が完全スリップ状態からスリップ復帰状態に移行しているか否か、すなわち、スリップゲイン復帰判定を開始する。
また、この状況において、アシストトルク決定部62によって決定されるアシストトルクTaが「0」でなければ、スリップゲイン復帰判定部65は、スリップゲイン決定部64によって決定されたスリップゲインKsの出力(復帰)を禁止し、最終スリップゲインKsdを「0」に設定する(ステップS11、ステップS12およびステップS14に相当)。これにより、太実線で示すように、補正アシストトルクTadは付与されずにアシストゼロが維持される。そして、(d.)スリップ復帰状態から(e.)グリップ状態に移行して、スリップゲインKsが「1」に設定されていても、アシストトルク決定部62によって決定されるアシストトルクTaが「0」でなければ、スリップゲイン復帰判定部65は、引き続き、最終スリップゲインKsdを「0」に設定する(ステップS11、ステップS12およびステップS14に相当)。このため、補正アシストトルクTadは付与されずにアシストゼロが維持される。
さらに、(e.)グリップ状態に移行し、時間の経過に伴ってアシストトルク決定部62によって決定されるアシストトルクTaが「0」となれば、スリップゲイン復帰判定部65は、最終スリップゲインKsdをスリップゲインKsに設定する(ステップS11、ステップS12およびステップS13に相当)。したがって、(e.)グリップ状態に移行してから、一旦アシストトルクTaが「0」となることによってアシスト復帰条件が成立し、その後、「0」よりも大きなアシストトルクTaが計算されると、スリップゲインKsが「1」に設定されているため、補正アシストトルクTadとしてアシストトルクTaが付与されるフルアシスト状態となる。
このように、補正アシストトルクTadを計算すると、電子制御ユニット35は、駆動回路36を介して、電動モータ25に補正アシストトルクTadに対応する駆動電流を供給する。これにより、電動モータ25は、ラックバー22を介して補正アシストトルクTad(またはアシストトルクTa)に対応するトルクを伝達することができる。したがって、運転者は目標操舵トルクThにより操舵ハンドル11を回動操作することができ、良好な操舵感覚を得ることができる。
以上の説明からも理解できるように、本実施形態によれば、操舵トルクセンサ32に異常が発生すると、舵角推定部40が車輪速センサ31a〜31dから出力された左右前輪WfL,WfRおよび左右後輪WrL,WrRの車輪速度ωfL,ωfR,ωrL,ωrRを表す信号をローパスフィルタ処理し、前輪側推定舵角θFrおよび後輪側推定舵角θRrを計算することができる。そして、舵角推定部40は、前輪側推定舵角θFrと後輪側推定舵角θRrとを平均することによって精度の高い推定舵角θcを計算するとともに、前輪側推定舵角θFrと後輪側推定舵角θRrとの差を計算して精度の高い推定舵角差Δθを計算することができる。
また、軸力推定部50は、舵角推定部40によって計算された精度の高い推定舵角θcと車速Vとを用いて基本軸力Fbを計算するとともに、運転者による操舵ハンドル11の切り込み操作または切り戻し操作に応じて基本軸力Fbにヒステリシス特性を付与する補正軸力Faを計算することができる。そして、軸力推定部50は、基本軸力Fbと補正軸力Faを合算することにより、精度の高い推定軸力Fcを計算することができる。
さらに、アシスト演算部60は、車速Vに応じて変化する目標操舵トルクThと、軸力推定部50によって計算された精度の高い推定軸力Fcとを比較し、推定軸力Fcから目標操舵トルクThを減ずることにより、アシストトルクTaを計算することができる。また、アシスト演算部60は、左右前輪WfL,WfRおよび左右後輪WrL,WrRの回転状態(すなわちスリップの発生の有無)に応じてアシストトルクTaを補正して補正アシストトルクTadを計算することもできる。
そして、電子制御ユニット35は、駆動回路36を駆動制御して、電動モータ25に補正アシストトルクTad(アシストトルクTa)を出力させる。これにより、運転者による操舵ハンドル11の回動操作に対して補正アシストトルクTad(アシストトルクTa)を付与することができる。
このように、本実施形態に係る車両の電動パワーステアリング装置においては、操舵トルクセンサ32に異常が発生した場合であっても、左右前輪WfL,WfRの推定舵角θcおよび転舵ギアユニット20のラックバー22に入力される推定軸力Fcを正確に推定することができる。これにより、操舵トルクセンサ32に異常が発生した場合であっても、例えば、操舵トルクセンサ32を冗長系として構成することなく、簡略化した構成により適切な補正アシストトルクTad(アシストトルクTa)を正確に決定することができ、運転者による操舵ハンドル11の回動操作に対して適切な補正アシストトルクTad(アシストトルクTa)の付与を継続することができる。したがって、運転者が操舵ハンドルを回動操作するときの負担を大幅に軽減することができる。
本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
例えば、上記実施形態においては、軸力推定部50が操舵感応軸力補正部54を備えるように実施した。しかしながら、操舵トルクセンサ32の異常を的確に運転者に対して報知する観点から、操舵感応軸力補正部54を省略して実施することも可能である。このように、操舵感応軸力補正部54を省略した場合には、軸力推定部50の基本軸力演算部51によって決定される基本軸力Fbのみに基づいて推定軸力Fcが推定される。このため、上述したように、運転者は、操舵ハンドル11の回動操作においてトルク変動を知覚して違和感を覚える。言い換えれば、運転者がこの違和感を覚えることにより、電動パワーステアリング装置の作動に異常が発生していることを効果的に報知することができる。なお、この場合であっても、操舵トルクセンサ32に異常が発生した状況下で、アシストトルクTaを継続して付与することができる。
また、上記実施形態においては、アシストトルク演算部60がアシストトルク補正部63を備えるように実施した。しかしながら、例えば、車両に搭載された他の装置によって左右前輪WfL,WfRおよび左右後輪WrL,WrRに発生するスリップが抑制される場合には、アシストトルク補正部63を省略して実施することも可能である。このように、アシストトルク補正部63を省略した場合であっても、アシストトルク演算部60のアシストトルク決定部62が適切な大きさのアシストトルクTaを決定することができ、左右前輪WfL,WfRおよび左右後輪WrL,WrRに発生するスリップが抑制されれば、アシストトルクTaを付与しても過アシストやセルフステアの発生が防止できる。したがって、この場合においても、操舵トルクセンサ32に異常が発生した状況下で、アシストトルクTaを継続して付与することができる。
また、上記実施形態においては、舵角推定部40のLPF処理部41が、操舵速度(具体的には、モータ回転角速度Θ’)の大きさに応じて変化するカットオフ周波数T(|Θ’|)を用いて、車輪速度ωfL,ωfR,ωrL,ωrRを表す信号に対して適切なローパスフィルタ処理を施すように実施した。この場合、操舵速度(具体的には、モータ回転角速度Θ’)の大きさに応じて変化するカットオフ周波数T(|Θ’|)を用いることに代えて、カットオフ周波数を固定してローパスフィルタ処理を施すことも可能である。この場合、固定するカットオフ周波数として、例えば、上記実施形態における下限側のカットオフ周波数T0と上限側のカットオフ周波数T1の間の周波数を設定することにより、位相遅れの抑制や高周波ノイズの除去性能が上記実施形態に比して若干劣るものの、構成を簡略化して安価なローパスフィルタ処理部を構成することができる。したがって、上記実施形態と同様の効果が期待できるとともに、操舵トルクセンサ32に異常が発生した状況下で、アシストトルクTaを継続して付与することができる。
また、上記実施形態においては、電動モータ25として、周知のブラシレスモータを採用し、モータ回転角センサ33が電動モータ25の回転角Θを検出するように実施した。この場合、電動モータ25として、周知のブラシモータを採用した場合には、例えば、ブラシモータから駆動回路36に出力される逆起電力を検出するように構成しておき、この逆起電力の大きさから電動モータ25の回転角Θを検出して実施することも可能である。この場合であっても、上記実施形態と同様にモータ回転角Θを用いることができるため、上記実施形態と同様に、操舵トルクセンサ32に異常が発生した状況下で、アシストトルクTaを継続して付与することができる。
さらに、上記実施形態においては、電動モータ25を転舵ギアユニット20に組み付け、電動モータ25がラックバー22に対してアシストトルクTa(補正アシストトルクTad)に対応するトルクを伝達するラックアシストタイプを採用して実施した。この場合、電動モータ25が、例えば、操舵軸12に対してトルクを伝達するコラムアシストタイプを採用したり、図示省略のピニオンシャフトに対してトルクを伝達するピニオンアシストタイプを採用して実施可能であることはいうまでもない。このように、コラムアシストタイプやピニオンアシストタイプを採用して実施した場合であっても、操舵トルクセンサ32に異常が発生した状況下で、アシストトルクTaを継続して付与することができる。
この電動パワーステアリング装置は、転舵輪としての左右前輪WfL,WfRを転舵させるために、運転者によって回動操作される操舵ハンドル11を備えている。操舵ハンドル11は操舵軸12の上端に固定されており、操舵軸12の下端は転舵機構としての転舵ギアユニット20に接続されている。
転舵ギアユニット20は、例えば、ラックアンドピニオン機構を採用したギアユニットであり、操舵軸12の下端に一体的に組み付けられたピニオンギア21の回転がラックバー22に伝達されるようになっている。ラックバー22は、その両端がタイロッド23およびナックル24を介して左右前輪WfL,WfRに接続されている。また、転舵ギアユニット20には、運転者が操舵ハンドル11の回動操作によって左右前輪WfL,WfRを転舵するために入力する操作力としての操舵トルクTを軽減するアシスト力(以下、このアシスト力をアシストトルクTaという)を発生する電動モータ25が設けられている。この電動モータ25は、発生したアシストトルクTaをラックバー22に対して伝達可能に組み付けられている。なお、電動モータ25については、アシストトルクTaを発生可能であれば、ブラシレスモータやブラシモータなど、如何なる構造の電動モータを採用可能であるが、以下の説明においては、電動モータ25がブラシレスモータであるとして説明する。
この構成により、操舵ハンドル11から操舵軸12に入力された操舵トルクTがピニオンギア21を介してラックバー22に伝達されるとともに、電動モータ25が発生したアシストトルクTaがラックバー22に伝達される。ラックバー22は、このように伝達される操舵トルクTおよびアシストトルクTaによって軸線方向に変位する。そして、このラックバー22の変位に伴ってタイロッド23およびナックル24を介して接続された左右前輪WfL,WfRが左右に転舵されるようになっている。
次に、電動モータ25の作動を制御する制御手段としての電気制御装置30について説明する。電気制御装置30は、車輪速度検出手段としての車輪速センサ31a〜31d、操作力検出手段としての操舵トルクセンサ32、操作速度検出手段としてのモータ回転角センサ33および車速検出手段としての車速センサ34を備えている。車輪速センサ31a〜31dは、図1に示すように、それぞれ、車両の左右前輪WfL,WfRおよび左右後輪WrL,WrRの近傍に設けられていて、各車輪WfL,WfR,WrL,WrRの回転速度を検出して車輪速度ωfL,ωfR,ωrL,ωrRを表す信号を出力する。なお、車輪速度ωfL,ωfR,ωrL,ωrRについては、車両が前進しているときの値を正の値で表わし、車両が後進しているときの値を負の値で表わす。
操舵トルクセンサ32は、操舵軸12に組み付けられていて、操舵軸12に入力されたトルクを検出して操舵トルクTを表す信号を出力する。なお、操舵トルクTについては、操舵軸12を右方向に回転させるときの値を正の値で表わし、操舵軸12を左方向に回転させるときの値を負の値で表わす。モータ回転角センサ33は、電動モータ25に組み付けられていて、電動モータ25の回転角(電気角)を検出してモータ回転角Θを表す信号を出力する。なお、モータ回転角Θについては、ラックバー22を右方向に変位させるときの値を正の値で表わし、ラックバー22を左方向に変位させるときの値を負の値で表わす。車速センサ34は、車両の車速を検出して車速Vを表す信号を出力する。
車輪速センサ31a〜31d、操舵トルクセンサ32、モータ回転角センサ33および車速センサ34は、電子制御ユニット35に接続されている。電子制御ユニット35は、CPU、ROM、RAMなどからなるマイクロコンピュータを主要構成部品とするものであり、各種プログラムの実行により電動モータ25の作動を制御してアシストトルクTaを発生させる。このため、電子制御ユニット35の出力側には、電動モータ25を駆動するための駆動回路36が接続されている。駆動回路36内には、電動モータ25に流れる駆動電流を検出するための電流検出器36aが設けられている。電流検出器36aによって検出された駆動電流は、電動モータ25の駆動を制御するために、電子制御ユニット35にフィードバックされている。
このように構成された電動パワーステアリング装置においては、電子制御ユニット35が主に操舵トルクセンサ32によって検出された操舵トルクTの大きさに応じてアシストトルクTaを決定する。以下、操舵トルクセンサ32が操舵トルクTを正常に検出している場合に実行される通常制御について説明する。なお、この通常制御は、従来からよく知られた制御と同様であり、本発明に直接関係しないため、以下に簡単に説明しておく。
電子制御ユニット35は、操舵トルクセンサ32によって検出された操舵トルクTを表す信号および車速センサ34によって検出された車速Vを表す信号を入力する。電子制御ユニット35は、入力した操舵トルクTを表す信号をハイパスフィルタ処理して操舵トルクTを表す信号に含まれる外乱成分(低周波成分)を除去するとともに、運転者による操舵ハンドル11の回動操作と検出された操舵トルクTとの間に発生する位相差(位相遅れ)を補償する。そして、電子制御ユニット35は、この補償した操舵トルクTと車速Vとに基づいて、通常制御時におけるアシストトルクTaを決定する。
また、電子制御ユニット35は、電動モータ25の回転作動に伴う慣性によって操舵ハンドル11の回動操作方向に発生する振動を抑制するダンピング制御および操舵ハンドル11を中立位置まで戻す戻し制御を実行する。すなわち、電子制御ユニット35は、モータ回転角センサ33によって検出されたモータ回転角Θを時間微分してモータ回転角速度Θ’を計算し、このモータ回転角速度Θ’の変化に基づいて操舵ハンドル11に発生している回動操作方向への振動を抑制するトルクを付与してダンピング制御を実行する。また、電子制御ユニット35は、モータ回転角Θの変化に基づいて、左右前輪WfL,WfRの転舵方向が中立位置方向に変化した場合には、操舵ハンドル11を中立位置まで戻すトルクを付与して戻し制御を実行する。
このように、通常制御時におけるアシストトルクTaとダンピング制御および戻し制御によるトルクとを決定すると、電子制御ユニット35は、これら各トルクを合算し、駆動回路36を駆動制御して合算したトルクに対応する駆動電流を電動モータ25に供給する。これにより、通常制御時においては、運転者は、操舵ハンドル11を極めて容易に回動操作できるとともに、不快な操舵ハンドル11の振動や戻し操作時に発生する違和感を知覚することなく、快適に操舵ハンドル11を回動操作することができる。
このように、通常制御においては、電子制御ユニット35は、操舵トルクセンサ32によって検出された操舵トルクTを用いて、言い換えれば、検出された操舵トルクTをフィードバックしてアシストトルクTaを決定する。このため、操舵トルクセンサ32に異常が発生した場合には、運転者による操舵ハンドル11の回動操作に対し、電動モータ25を駆動制御して適切なアシストトルクTaを付与することができなくなる。そこで、電子制御ユニット35は、操舵トルクセンサ32に異常が発生した場合には、上述したフィードバック制御としての通常制御からフィードフォワード制御としてのバックアップ制御に切り替える。そして、電子制御ユニット35は、バックアップ制御によって電動モータ25を駆動させて適切なアシストトルクTaの付与を継続する。以下、このバックアップ制御を詳細に説明する。
バックアップ制御に切り替えるにあたり、電子制御ユニット35は、通常制御時において、操舵トルクセンサ32に異常が発生しているか否かを判定する。この判定を具体的に例示して説明すると、電子制御ユニット35は、操舵トルクセンサ32から操舵トルクTを表す信号が入力できているか否かを判定する。すなわち、電子制御ユニット35は、操舵トルクセンサ32との通信に利用する信号線が、例えば、断線などにより通信不能になっており、操舵トルクセンサ32から信号を入力できないときに、操舵トルクセンサ32に異常が発生したと判定する。
また、電子制御ユニット35は、操舵トルクセンサ32から入力した信号によって表される操舵トルクTの値が予め設定されている操舵トルクセンサ32の検出上限値または検出下限値に一致した状態で一定時間以上継続しているか否かを判定する。すなわち、電子制御ユニット35は、操舵トルクTの値が検出上限値または検出下限値と一致した状態で一定時間以上継続しているときに操舵トルクセンサ32に異常が発生したと判定する。
また、電子制御ユニット35は、モータ回転角センサ33から入力した信号によって表されるモータ回転角Θの値が「0」ではない値であるときに、操舵トルクセンサ32から入力した信号によって表される操舵トルクTの値が「0」であるか否かを判定する。すなわち、電子制御ユニット35は、モータ回転角Θの値が「0」ではないとき、すなわち、少なくとも電動モータ25の駆動によって操舵軸12にアシストトルクTaが付与されているときに、検出される操舵トルクTの値が「0」であれば、操舵トルクセンサ32に異常が発生したと判定する。
そして、電子制御ユニット35は、上述した異常判定処理により操舵トルクセンサ32に異常が発生していると判定すると、通常制御からバックアップ制御に切り替える。
電子制御ユニット35は、バックアップ制御を実行するために、図2に示すように、舵角推定手段としての舵角推定部40、軸力推定手段としての軸力推定部50およびアシスト力演算手段としてのアシストトルク演算部60を備えている。以下、順に、各部40〜60を詳細に説明する。
舵角推定部40は、図3に示すように、車輪速センサ31a〜31dから出力された車輪速度ωfL,ωfR,ωrL,ωrRを表す信号をローパスフィルタ処理するフィルタ処理手段としてのローパスフィルタ処理部41(以下、単にLPF処理部41という)を備えている。LPF処理部41は、下記式Eq.(3)に示す伝達関数H(s)によって表されるローパスフィルタを用いて、車輪速センサ31a〜31dから入力した車輪速度ωfL,ωfR,ωrL,ωrRを表す信号の高周波ノイズ成分(具体的には、路面外乱によって付加される高周波ノイズ成分)をフィルタ処理して除去する。
ただし、前記Eq.(3)中のsはラプラス演算子を表す。また、前記Eq.(3)中におけるT(|Θ’|)は運転者による操舵ハンドル11の回動操作速度(以下、操舵速度という)の関数として定義されるカットオフ周波数を表す。
ここで、カットオフ周波数T(|Θ’|)について説明しておく。一般的に、ローパスフィルタは、入力信号の入力周波数が増大するほど、計算負荷が大きくなって出力信号のゲインが低下するとともに位相遅れが大きくなる特性を有する。このような特性を有するローパスフィルタを用いて、車輪速度ωfL,ωfR,ωrL,ωrRを表す信号をフィルタ処理した場合、特に、運転者が操舵ハンドル11を素早く回動操作したときに大きな位相遅れが生じやすくなる。そして、大きな位相遅れが生じると、後述するように推定演算される推定舵角θcの誤差が大きくなることが懸念される。
すなわち、操舵速度が大きくなるほど、車輪速度ωfL,ωfR,ωrL,ωrRを表す信号の入力周波数が大きくなり、発生する位相遅れによって推定舵角θcの誤差が大きくなる。その結果、運転者が大きな操舵速度により操舵ハンドル11を回動操作すると、後述するようにバックアップ制御によって付与されるアシストトルクTa(より詳しくは、補正アシストトルクTad)が遅れるようになる。
これにより、運転者による操舵ハンドル11の回動操作初期の段階では電動モータ25によるアシストトルクTa(補正アシストトルクTad)が不足して操舵トルクTが大きくなる。そして、その後に遅れて付与されるアシストトルクTa(補正アシストトルクTad)によって、操舵トルクTが急減する状況が発生する。したがって、運転者は、バックアップ制御が実行されているときに、大きな操舵速度によって操舵ハンドル11を回動操作すると、操舵トルクTの変動に伴う違和感を覚えるとともに、操舵ハンドル11の良好な操作性が得られない可能性がある。
そこで、LPF処理部41は、操舵速度の大きさに応じて変化するカットオフ周波数T(|Θ’|)を用いて、ローパスフィルタ処理を実行する。具体的に説明すると、LPF処理部41は、まず、モータ回転角センサ33から入力したした信号によって表されるモータ回転角Θを時間微分してモータ回転角速度Θ’を演算する。ここで、操舵ハンドル11(より詳しくは、操舵軸12)と電動モータ25とは、ピニオンギア21およびラックバー22を介して機械的に接続されており、同期して回転する。このため、モータ回転角速度Θ’は、運転者による操舵ハンドル11(操舵軸12)の回動操作速度すなわち操舵速度に対応するものとなる。したがって、本実施形態においては、操舵速度に対応するモータ回転角速度Θ’を用いてカットオフ周波数T(|Θ’|)を決定する。
具体的にカットオフ周波数T(|Θ’|)の決定を説明すると、LPF処理部41は、図4に示すカットオフ周波数決定マップを参照して、前記計算したモータ回転角速度Θ’の絶対値に対応するカットオフ周波数T(|Θ’|)を決定する。ここで、カットオフ周波数T(|Θ’|)は、図4に示したように、モータ回転角速度Θ’の絶対値が予め設定された所定の回転角速度Θ’0未満であるときには、予め設定された下限側のカットオフ周波数T0に決定される。これにより、モータ回転角速度Θ’の絶対値が所定の回転角速度Θ’0未満であるときには、運転者による操舵ハンドル11の操舵速度に依存することなくカットオフ周波数T(|Θ’|)が一定(下限側のカットオフ周波数T0)となる不感帯領域となる。
また、モータ回転角速度Θ’の絶対値が回転角速度Θ’0以上であり、かつ、予め設定された所定の回転角速度Θ’1未満であるときには、カットオフ周波数T(|Θ’|)は下限側のカットオフ周波数T0から予め設定された上限側のカットオフ周波数T1まで変化する値に決定される。さらに、モータ回転角速度Θ’の絶対値が回転角速度Θ’1以上であるときには、カットオフ周波数T(|Θ’|)は上限側のカットオフ周波数T1に決定される。
ところで、モータ回転角速度Θ’の絶対値が所定の回転角速度Θ’0未満であるときに不感帯領域を設けることにより、車輪速度ωfL,ωfR,ωrL,ωrRを表す信号に対して適切なローパスフィルタ処理を施すことができる。具体的に説明すると、一般的に、モータ回転角センサ33から出力されるモータ回転角Θを表す信号にもノイズが付加されており、また、検出されるモータ回転角Θも変動する。このため、小さな操舵速度(モータ回転角速度Θ’)で操舵ハンドル11を回動操作したときに、例えば、不感帯領域を設けない場合には、モータ回転角速度Θ’のノイズや変動に対してカットオフ周波数T(|Θ’|)が変化しやすくなり、車輪速度ωfL,ωfR,ωrL,ωrRを表す信号の高周波ノイズを適切に除去できない場合がある。その結果、運転者による操舵速度(モータ回転角速度Θ’)に対して、アシストトルクTa(補正アシストトルクTad)を付与するアシスト特性が敏感になりすぎる場合がある。
このため、モータ回転角速度Θ’の絶対値が所定の回転角速度Θ’0未満であるときにカットオフ周波数T(|Θ’|)を下限側のカットオフ周波数T0とする不感帯領域を設けて、車輪速度ωfL,ωfR,ωrL,ωrRを表す信号の高周波ノイズを適切に除去する。これにより、運転者が操舵ハンドル11を保舵したり微小な操舵速度で回動操作したときのアシスト特性が敏感になりすぎることを防止することができる。
一方、モータ回転角速度Θ’の絶対値が回転角速度Θ’1以上であるときにカットオフ周波数T(|Θ’|)を上限側のカットオフ周波数T1に決定することにより、車輪速度ωfL,ωfR,ωrL,ωrRを表す信号に対して適切なローパスフィルタ処理を施すことができる。具体的に説明すると、車両が轍などを走行する際には、車輪速度ωfL,ωfR,ωrL,ωrRを表す信号に大きなノイズが付加されるとともに、路面外力により操舵ハンドル11が回動して大きな操舵速度(モータ回転角速度Θ’)になる場合がある。この場合、上限側のカットオフ周波数T1を設定しない場合には、大きな操舵速度(モータ回転角速度Θ’)に対応してカットオフ周波数T(|Θ’|)が大きくなりすぎ、車輪速度ωfL,ωfR,ωrL,ωrRを表す信号の高周波ノイズを適切に除去できない場合がある。その結果、付与されるアシストトルクTa(補正アシストトルクTad)の変動が大きくなって制御系が発散する可能性がある。
このため、モータ回転角速度Θ’の絶対値が回転角速度Θ’1以上であるときにカットオフ周波数T(|Θ’|)を上限側のカットオフ周波数T1に決定することにより、大きな操舵速度(モータ回転角速度Θ’)で操舵ハンドル11が回動する場合であっても、車輪速度ωfL,ωfR,ωrL,ωrRを表す信号の高周波ノイズを適切に除去することができる。これにより、付与されるアシストトルクTa(補正アシストトルクTad)の変動を小さく抑えることができる。
なお、上述したカットオフ周波数決定マップを参照することに代えて、モータ回転角速度Θ’が所定の回転角速度Θ’0未満まではカットオフ周波数T0となり、モータ回転角速度Θ’の絶対値が回転角速度Θ’0以上であり、かつ、予め設定された所定の回転角速度Θ’1未満であるときには、カットオフ周波数T(|Θ’|)は下限側のカットオフ周波数T0から予め設定された上限側のカットオフ周波数T1まで変化し、モータ回転角速度Θ’の絶対値が所定の回転角速度Θ’1以上でカットオフ周波数T1となるように、モータ回転角速度Θ’の絶対値に対するカットオフ周波数T(|Θ’|)を関数として定義しておく。そして、この定義した関数を用いてカットオフ周波数T(|Θ’|)を決定するようにしてもよい。
このように、カットオフ周波数T(|Θ’|)を操舵速度すなわちモータ回転角速度Θ’の絶対値に応じて変更して決定することにより、運転者による操舵速度(モータ回転角速度Θ’)の増大に伴ってカットオフ周波数T(|Θ’|)を大きな値に設定することができる。これにより、車輪速度ωfL,ωfR,ωrL,ωrRを表す信号の入力周波数が増大した場合であっても、ローパスフィルタ処理に伴って発生する位相遅れを小さくすることができる。そして、位相遅れを小さくすることができることによって、運転者による操舵ハンドル11の回動操作に対して遅れを小さくしてアシストトルクTaを付与することができる。このため、運転者は、操舵トルクTの変動に伴う違和感を覚えることがなく、また、良好な操舵ハンドル11の操作性を得ることができる。
このようにカットオフ周波数T(|Θ’|)を決定すると、LPF処理部41は、車輪速センサ31a〜31dから入力した車輪速度ωfL,ωfR,ωrL,ωrRを表す信号に対して、ローパスフィルタ処理を実行する。そして、LPF処理部41は、フィルタ処理して高周波ノイズ成分を除去した車輪速度ωfL_LPF,ωfR_LPFを表す信号をFr推定舵角演算部42に供給するとともに、高周波ノイズ成分を除去した車輪速度ωrL_LPF,ωrR_LPFを表す信号をRr推定舵角演算部43に供給する。
Fr推定舵角演算部42は、LPF処理部41から供給された信号によって表される車輪速度ωfL_LPF,ωfR_LPFを用いて、第1の舵角としての前輪側推定舵角θFrを推定して計算する。すなわち、Fr推定舵角演算部42は、下記Eq.(4)に従って、前輪側推定舵角θFrを計算する。
ただし、前記Eq.(4)中の右辺第2項は、上述したアッカーマン・ジャント理論に基づくEq.(1)と実質的に同一である。また、前記Eq.(4)中のGRは、車両のサスペンションジオメトリ特性に基づいて、実験により予め設定される車両のオーバーオールギア比(車輪の実際の舵角に対する検出舵角の比)を表す定数である。
ここで、前輪側推定舵角θFrの計算において、車両のオーバーオールギア比GRを考慮することにより、推定計算の精度を向上させることができる。このことを以下に説明する。
上述したように、アッカーマン・ジャントの理論によれば、図18に示したように、車両が旋回するときに、車両の4輪WfL,WfR,WrL,WrRがそれぞれ旋回中心を同一として旋回半径の異なる同心円を描くように進むことによって、車両をスムーズに旋回させることができて良好な操舵特性を得ることができる。そして、アッカーマン・ジャントの理論を成立させるために、転舵輪である左右前輪WfL,WfRにおいては、車両旋回時における旋回内側転舵輪(図18の右輪WfR)のアッカーマン角αRが旋回外側転舵輪(図18の右輪WfL)のアッカーマン角αLよりも大きくなることが必要な条件である。さらには、旋回内側転舵輪(図18の右輪WfR)のアッカーマン角αRと旋回外側転舵輪(図18の右輪WfL)のアッカーマン角αLとのアッカーマン率が維持されることも必要な条件である。
ところが、図5Aに概略的な実験結果を示すように、転舵輪である左右前輪WfL,WfRが最大舵角付近まで転舵すると、車両のサスペンションジオメトリ特性に起因してアッカーマン率が低下し、線形性が維持できなくなる。すなわち、転舵輪である左右前輪WfL,WfRを最大舵角付近まで転舵させた場合には、アッカーマン・ジャント理論が成立しなくなる。したがって、アッカーマン・ジャント理論に基づいて、例えば、前記Eq.(1)に従って前輪側推定舵角θFrを推定して計算した場合には、特に、最大舵角付近での推定精度が低下することになる。
これに対して、Fr推定舵角演算部42は、車両のサスペンションジオメトリ特性に基づいて設定される車両のオーバーオールギア比GRを用いた前記Eq.(4)により、前輪側推定舵角θFrを推定して計算する。これにより、特に、左右前輪WfL,WfRを最大舵角付近まで転舵させた場合における旋回内側転舵輪(図18の右輪WfR)のアッカーマン角αRと旋回外側転舵輪(図18の右輪WfL)のアッカーマン角αLの変化は、オーバーオールギア比GRによって補正(補完)することができるため、前輪側推定舵角θFrの推定計算におけるアッカーマン率の低下の影響を抑制することができる。したがって、Fr推定舵角演算部42が前記Eq.(4)によって前輪側推定舵角θFrを推定して計算することにより、推定計算の精度を向上させることができる。
Rr推定舵角演算部43は、LPF処理部41から供給された信号によって表される車輪速度ωrL_LPF,ωrR_LPFを用いて、第2の舵角としての後輪側推定舵角θRrを推定して計算する。すなわち、Rr推定舵角演算部43は、下記Eq.(5)に従って、後輪側推定舵角θRrを計算する。
ただし、前記Eq.(5)中の右辺第2項は、上述したアッカーマン・ジャント理論に基づくEq.(2)と実質的に同一である。また、前記Eq.(5)中のGRも、前記Eq.(4)と同様に、車両のオーバーオールギア比を表す定数である。
ここで、後輪側推定舵角θRrの計算においても、車両のオーバーオールギア比GRを考慮することにより、推定計算の精度を向上させることができる。このことを以下に説明する。
本実施形態においては、左右後輪WrL,WrRは転舵しない。このため、転舵輪である左右前輪WfL,WfRが転舵されて車両が旋回するときには、左右後輪WrL,WrRはアッカーマン・ジャントの理論における旋回中心を同一とする同心円の接線方向に進もうとする。
すなわち、左右後輪WrL,WrRは転舵しないため、車両の旋回に伴って引きずられながら同心円上を進むことになる。この場合、図5Bに概略的な実験結果を示すように、左右後輪WrL,WrRの車輪速度ωrL_LPF,ωrR_LPFを用いて左右前輪WfL,WfRの舵角を計算した場合には、アッカーマン率は変化することなく常に線形性を保つことができるものの、引きずりの発生に伴って同心円からのずれに対応するヒステリシス幅が大きくなる。また、例えば、左右後輪WrL,WrRが駆動輪である場合には、駆動力の伝達によっても同心円からのずれが発生しやすくヒステリシス幅が大きくなる。したがって、アッカーマン・ジャント理論に基づいて、例えば、前記Eq.(2)に従って後輪側推定舵角θRrを推定して計算した場合には、線形性を良好に保つことができるものの、ヒステリシス幅が大きいために推定精度が低下することになる。
これに対して、Rr推定舵角演算部43は、車両のオーバーオールギア比GRを用いた前記Eq.(5)により、後輪側推定舵角θRrを推定して計算する。これにより、同心円からのずれに対応するヒステリシス幅が小さくなるように補正(補完)することができる。したがって、Rr推定舵角演算部43が前記Eq.(5)によって後輪側推定舵角θRrを推定して計算することにより、推定計算の精度を向上させることができる。
ここで、上述したように、Fr推定舵角演算部42およびRr推定舵角演算部43は、車輪速度ωfL_LPF,ωfR_LPFおよび車輪速度ωrL_LPF,ωrR_LPFを用いて、前輪側推定舵角θFrおよび後輪側推定舵角θRrを推定して計算する。すなわち、車両が走行しており、左右前輪WfL,WfRおよび左右後輪WrL,WrRが車両進行方向に回転しているときに、前輪側推定舵角θFrおよび後輪側推定舵角θRrを推定して計算することができる。
このため、例えば、車両が停止しており、車輪速センサ31a〜31dが車輪速度ωfL_LPF,ωfR_LPFおよび車輪速度ωrL_LPF,ωrR_LPFを検出できない状況において、左右前輪WfL,WfRが転舵された場合(所謂、据え切りされた場合)には、前輪側推定舵角θFrおよび後輪側推定舵角θRrを推定して計算することが不能となる。また、車両が停止状態から走行を開始して車輪速センサ31a〜31dが車輪速度ωfL_LPF,ωfR_LPFおよび車輪速度ωrL_LPF,ωrR_LPFを検出できるようになった直後において、前輪側推定舵角θFrおよび後輪側推定舵角θRrを計算する場合には、誤差の大きな前輪側推定舵角θFrおよび後輪側推定舵角θRrを推定して計算する可能性がある。
したがって、Fr推定舵角演算部42およびRr推定舵角演算部43は、それぞれ、車速センサ34によって検出された車速Vを表す信号を入力し、この入力した信号によって表される車速Vの大きさが車輪速センサ31a〜31dの検出可能車速以下となった場合には、前輪側推定舵角θFrおよび後輪側推定舵角θRrを「0」とする。また、Fr推定舵角演算部42およびRr推定舵角演算部43は、車速Vの大きさが車輪速センサ31a〜31dの検出可能車速以下となった後、ふたたび、車速Vの大きさが車輪速センサ31a〜31dの検出可能車速よりも大きくなった場合には、所定の時間が経過するまでは前輪側推定舵角θFrおよび後輪側推定舵角θRrを「0」とする。
これにより、例えば、車両が停止することによって、一旦、前輪側推定舵角θFrおよび後輪側推定舵角θRrが不明となる状況から前輪側推定舵角θFrおよび後輪側推定舵角θRrを推定して計算することが可能となる状況に移行する場合であっても、誤差の大きな前輪側推定舵角θFrおよび後輪側推定舵角θRrを推定して計算することを防止することができる。したがって、これによっても、前輪側推定舵角θFrおよび後輪側推定舵角θRrを推定して計算するときの精度を向上させることができる。
このように、Fr推定舵角演算部42およびRr推定舵角演算部43は、前輪側推定舵角θFrおよび後輪側推定舵角θRrを推定して計算すると、この計算した前輪側推定舵角θFrおよび後輪側推定舵角θRrを制御舵角演算部44に供給する。
制御舵角演算部44においては、Fr推定舵角演算部42によって計算された前輪側推定舵角θFrを入力するとともに、Rr推定舵角演算部43によって計算された後輪側推定舵角θRrを入力する。そして、制御舵角演算部44は、下記Eq.(6)に従って、前輪側推定舵角θFrと後輪側推定舵角θRrとを平均して推定舵角θcを計算する。
このように、前輪側推定舵角θFrと後輪側推定舵角θRrとを用いて推定舵角θcを計算することにより、車輪速度ωfL_LPF,ωfR_LPFおよび車輪速度ωrL_LPF,ωrR_LPFのいずれかが異常であっても、この異常の影響を受けにくいロバストな冗長系を形成することができる。また、前記Eq.(6)により前輪側推定舵角θFrと後輪側推定舵角θRrとを平均して推定舵角θcを計算することにより、上述したサスペンションジオメトリ特性に起因する推定計算の精度の低下をさらに防止することができる。したがって、推定舵角θcを推定して計算するときの精度を向上させることができる。
また、制御舵角演算部44は、下記Eq.(7)に従って、前輪側推定舵角θFrと後輪側推定舵角θRrとの差を計算して推定舵角差Δθを計算する。
Δθ=θFr−θRr …Eq.(7)
このように、制御舵角演算部44が推定舵角θcおよび推定舵角差Δθを計算すると、舵角推定部40は、推定舵角θcおよびモータ回転角速度Θ’を軸力推定部50に供給するとともに、推定舵角差Δθをアシストトルク演算部60(より具体的には、後述するアシストトルク補正部63)に供給する。
軸力推定部50においては、図6に示すように、基本軸力演算部51が舵角推定部40から供給された推定舵角θcおよび車速センサ34によって検出された車速Vを用いて、転舵された左右前輪WfL,WfRからナックル24およびタイロッド23を介してラックバー22に作用する基本軸力Fbを計算する。このため、基本軸力演算部51は、制御舵角演算部44から供給された推定舵角θcの符号すなわち中立位置を基準とした左右前輪WfL,WfRの転舵方向を決定する舵角符号演算部52と、推定舵角θcの大きさ(絶対値)を用いて左右前輪WfL,WfRの転舵に伴いラックバー22に入力される基本軸力Fbの大きさ(絶対値)を決定する基本軸力決定部53とを備えている。
基本軸力決定部53は、図7に示す基本軸力マップを参照して、制御舵角演算部44から入力した推定舵角θcに対応する基本軸力Fbを決定する。ここで、基本軸力マップは、推定舵角θcの絶対値の増大に伴って基本軸力Fbが増大する関係を表すとともに、車速センサ34によって検出された車速Vの増大に伴って基本軸力Fbが増大し、車速Vの減少に伴って基本軸力Fbが減少する関係を表すものである。なお、基本軸力マップを参照することに代えて、推定舵角θcおよび車速Vに応じて変化する基本軸力Fbを定義した関数を用いて基本軸力Fbを計算するようにしてもよい。
このため、基本軸力決定部53は、入力した車速Vに基づいて基本軸力マップを決定し、この決定した基本軸力マップを用いて制御舵角演算部44から入力した推定舵角θcの絶対値に対応する基本軸力Fbの大きさ(絶対値)を決定する。そして、基本軸力演算部51は、舵角符号演算部52によって決定された推定舵角θcの符号(左右前輪WfL,WfRの中立位置を基準とした転舵方向に対応)と、基本軸力決定部53によって決定された基本軸力Fb(絶対値)とを乗算することにより、左右前輪WfL,WfRの転舵方向を考慮した基本軸力Fbを計算する。
ところで、基本軸力Fbは、左右前輪WfL,WfRの転舵方向および推定舵角θc(絶対値)に対応して決定される。言い換えると、基本軸力Fbは、運転者による操舵ハンドル11の回動操作として左右前輪WfL,WfRの舵角(絶対値)を大きくする切り込み操作および左右前輪WfL,WfRの舵角(絶対値)を小さくする切り戻し操作を考慮することなく決定される。このように、推定舵角θc(絶対値)に対応して決定される基本軸力Fbのみを用いて後に詳述するアシスト演算部60がアシストトルクTaを計算すると、運転者は、操舵ハンドル11の切り込み操作と切り戻し操作とで知覚するトルク変動に対して違和感を覚える場合がある。このことを、以下に説明する。
今、左右前輪WfL,WfRが中立位置を基準として、例えば、車両の前後方向に対して右方向にある推定舵角θc1まで転舵されている状況を想定し、運転者が操舵ハンドル11を切り込み操作する場合と、操舵ハンドル11を切り戻し操作する場合とを考える。この場合、運転者が切り込み操作または切り戻し操作する直前においては、基本軸力決定部53は、基本軸力マップを参照して、例えば、推定舵角θc1(絶対値)に対応する基本軸力Fb1(絶対値)を決定している。
そして、運転者が操舵ハンドル11を切り込み操作すると、左右前輪WfL,WfRは推定舵角θc1よりも絶対値の大きな推定舵角θc2まで転舵される。その結果、基本軸力決定部53は、推定舵角θc2(絶対値)に対応して基本軸力Fb1よりも絶対値の大きな基本軸力Fb2(絶対値)を決定する。一方、運転者が操舵ハンドル11を切り戻し操作すると、左右前輪WfL,WfRは推定舵角θc1よりも絶対値の小さな推定舵角θc3まで転舵される。その結果、基本軸力決定部53は、推定舵角θc3(絶対値)に対応して基本軸力Fb1よりも絶対値の小さな基本軸力Fb3(絶対値)を決定する。
すなわち、推定舵角θc1まで転舵されている左右前輪WfL,WfRを切り込み操作によって推定舵角θc2まで転舵させる場合と、切り戻し操作によって推定舵角θc3まで転舵させる場合とでは、決定される基本軸力Fb2,Fb3は、基本軸力Fb1を基準として基本軸力マップのマップ線上に沿って変化するのみである。言い換えれば、例示的に上述した状況においては、基本軸力決定部53によって決定される基本軸力Fb2,Fb3は基本軸力Fb1を基準に変化するものであり、運転者による操舵ハンドル11の切り込み操作および切り戻し操作に応じて基本軸力Fb1が変化する、すなわち、切り込み操作および切り戻し操作間で軸力差が生じるものではない。
このため、アシストトルク演算部60が基本軸力Fbのみを用いてアシストトルクTaを計算すると、軸力差が生じないために、運転者は、操舵ハンドル11を切り込み操作する時点で、アシストトルクTaが不足した大きな操舵トルクTによって操舵ハンドル11を回動操作することになる。これにより、運転者は、操舵ハンドル11を切り込み操作する際のトルク変動(すなわち、操舵トルクTの大きさ)に対して違和感を覚える。一方、運転者が操舵ハンドル11を切り戻し操作する時点では、付与されるアシストトルクTaが、所謂、逆アシストとして作用するため、操舵ハンドル11が中立位置方向に戻りにくくなる。これにより、運転者は、操舵ハンドル11を切り戻し操作する際のトルク変動(すなわち、操舵トルクTの大きさ)に対して違和感を覚える。
このように、軸力差が生じない基本軸力Fbのみを用いた場合には、運転者は、操舵ハンドル11の切り込み操作と切り戻し操作とで知覚するトルク変動に対して違和感を覚える場合がある。言い換えれば、運転者による操舵ハンドル11の切り込み操作または切り戻し操作に応じて、推定舵角θcの変化に対する基本軸力Fbの変化がヒステリシス特性を有することにより、上述した運転者の覚える違和感を抑制することができる。
このため、軸力推定部50は、補正軸力演算手段としての操舵感応軸力補正部54を備えている。この操舵感応軸力補正部54は、運転者による操舵ハンドル11の切り込み操作と切り戻し操作とで運転者が知覚するトルク変動に関する違和感を低減するために、基本軸力Fbを補正する補正軸力Faを計算する。すなわち、補正軸力Faは、運転者による操舵ハンドル11の切り込み操作および切り戻し操作に応じて、推定舵角θcの変化に対する基本軸力Fbの変化にヒステリシス特性を付与するものである。以下、この補正軸力Faについて、図8を用いて具体的に説明する。
まず、補正軸力Faを説明するにあたり、転舵輪である左右前輪WfL,WfRが転舵されるときの力学的関係を考える。左右前輪WfL,WfRは、図8にて、例えば、左前輪WfLを代表して示すように、左前輪WfL(右前輪WfR)を構成するタイヤと路面とが接地面により接触している。そして、左前輪WfL(右前輪WfR)が運転者による操舵ハンドル11の回動操作に伴って転舵されるときには、一般的に、接地面における摩擦(以下、接地面摩擦という)、タイヤの剛性およびタイヤ慣性が発生し、これらの接地面摩擦、タイヤ剛性およびタイヤ慣性に起因する力がナックルアーム24およびタイロッド23を介してラックバー22に入力される。
このため、今、アシストトルクTaが付与されて左前輪WfL(右前輪WfR)が転舵される際の力学的関係をモデル化して考えてみる。このモデルにおいては、図8に示すように、アシストトルクTaの伝達によってナックルアーム24(すなわち、操舵ハンドル11を含むステアリング系)が回転角θhだけ回転した場合、タイヤの慣性モーメントをJw、タイヤの弾性係数をKt、タイヤの路面に対する撓み角θt、タイヤ接地面における粘性摩擦係数をCrとすれば、下記Eq.(8)が成立する。
Jw×θh”+Cr×θt’+Kt×(θh−θt)−Ta=0 …Eq.(8)
ここで、前記Eq.(8)において、左辺第1項(Jw×θh”)はタイヤの慣性に関する項であって、θh”は回転角θhの2階微分値(すなわち、回転角加速度)である。そして、前記Eq.(8)の左辺第1項(Jw×θh”)で表わされるタイヤの慣性に関する項は、運転者による操舵ハンドル11の切り込み操作または切り戻し操作に応じて左前輪WfL(右前輪WfR)が転舵するときには、これらの転舵状態に関わらず、常に作用するものである。
また、前記Eq.(8)において、左辺第3項(Kt×(θh−θt))はタイヤの剛性に関する項である。そして、左辺第3項(Kt×(θh−θt))と左辺第4項(−Ta)とは、左右前輪WfL,WfRの舵角依存性を有するものであるため、基本軸力演算部51によって計算される基本軸力Fbに相当するものとなる。
ところで、前記Eq.(8)において、左辺第2項(Cr×θt’)はタイヤと路面との摩擦力を表す項であって、θt’は撓み角θtの微分値(すなわち、撓み角速度、言い換えれば、タイヤの舵角速度)である。このため、前記Eq.(8)の左辺第2項(Cr×θt’)は、左前輪WfL(右前輪WfR)が舵角速度θt’すなわちモータ回転角速度Θ’で転舵する際に発生する摩擦力であり、運転者による操舵ハンドル11の切り込み操作および切り戻し操作に応じて変化するものである。したがって、運転者による操舵ハンドル11の切り込み操作および切り戻し操作に応じて、推定舵角θcの変化に対する基本軸力Fbの変化にヒステリシス特性を付与するには、補正軸力Faを前記摩擦力に基づいて決定すればよい。
ここで、粘性摩擦係数Crは、左前輪WfL(右前輪WfR)を転舵させる際におけるタイヤの接地面積の大きさによって変化する。すなわち、粘性摩擦係数Crは、タイヤと路面との間の静止摩擦係数μと垂直抗力N(V)との積で表されるものであり、垂直抗力N(V)は車速Vの関数として表される。なお、タイヤの接地面積の大きさは、車両の車速Vに依存して変化するものであり、車速Vが小さいときに接地面積が大きくなり、車速Vが大きいときに接地面積が小さくなる。このため、垂直抗力N(V)は車速Vが小さいときに大きくなり、車速Vが大きいときに小さくなる。これにより、粘性摩擦係数Crは、車速Vに依存して変化し、車速Vが小さいときに大きくなり、車速Vが大きいときに小さくなる。
したがって、左前輪WfL(右前輪WfR)が舵角速度θt’すなわちモータ回転角速度Θ’で転舵する際に発生する摩擦力は、車速Vの大きさに応じて変化する粘性摩擦係数Crと運転者による操舵ハンドル11の操舵速度すなわちモータ回転角速度Θ’との積と考えることができる。
このように、左右前輪WfL,WfRの転舵状態(具体的には、切り込み操作または切り戻し操作)に応じて作用する摩擦力に基づいて補正軸力Faを決定するために、操舵感応軸力補正部54は、図6に示すように、車速ゲイン決定部55、ヒス幅決定部56および舵角推定部40のLPF処理部41から供給されたモータ回転角速度Θ’の符号すなわち運転者による操舵ハンドル11の切り込み操作または切り戻し操作を決定する操舵方向演算部57を備えている。
車速ゲイン決定部55は、上述したように、車速Vに応じて変化する接地面積の大きさ、すなわち、上述した前記Eq.(8)における粘性摩擦係数Crの変化に関連する車速ゲインKvを決定するものである。具体的には、車速ゲイン決定部55は、車速センサ34によって検出された車速Vを表す信号を入力する。そして、車速ゲイン決定部55は、同信号によって表される車速Vに応じた車速ゲインKvを、図9に示す車速ゲインマップを参照して決定する。ここで、車速ゲインマップは、検出された車速Vの増加に対して、車速ゲインKvが減少する関係を表すものである。なお、車速ゲインマップを参照することに代えて車速Vに応じて変化する車速ゲインKvを定義した関数を用いて基本軸力Fbを計算するようにしてもよい。
ヒス幅決定部56は、推定舵角θcの変化に対する基本軸力Fbの変化に付与するヒステリシス特性を決定するヒステリシス幅(以下、単にヒス幅という)を決定するものであり、図10に示すヒス幅決定マップを参照して、ヒス幅に対応する摩擦補正軸力Fhを決定する。ここで、ヒス幅決定マップは、舵角推定部40のLPF処理部41によって計算されたモータ回転角速度Θ’の絶対値が予め設定された所定の回転角速度Θ’2未満であるときには摩擦補正軸力Fhが増大する(すなわちヒス幅が大きくなる)関係を表すとともに、モータ回転角速度Θ’の絶対値が所定の回転角速度Θ’2よりも大きな所定の回転角速度Θ’3以上であるときには摩擦補正軸力Fhが減少する(すなわちヒス幅が小さくなる)関係を表すものである。このため、ヒス幅決定部56は、ヒス幅決定マップを用いて前記LPF処理部41から入力したモータ回転角速度Θ’の絶対値に対応するヒス幅すなわち摩擦補正軸力Fhの大きさ(絶対値)を決定する。
なお、上述したヒス幅決定マップを参照することに代えて、モータ回転角速度Θ’が所定の回転角速度Θ’2未満までは摩擦補正軸力Fhが増大し、モータ回転角速度Θ’が回転角速度Θ’3以上であるときに摩擦補正軸力Fhが減少するように、モータ回転角速度Θ’に対する摩擦補正軸力Fhを関数として定義しておく。そして、この定義した関数を用いて摩擦補正軸力Fhを決定するようにしてもよい。
そして、操舵感応軸力補正部54は、車速ゲイン決定部55によって決定された車速ゲインKvとヒス幅決定部56によって決定された摩擦補正軸力Fh(絶対値)とを乗算することによって補正軸力Fa(絶対値)を決定する。さらに、操舵感応軸力補正部54は、補正軸力Fa(絶対値)に対して操舵方向演算部57によって決定されたモータ回転角速度Θ’の符号(運転者による操舵ハンドル11の回動操作方向に対応)を乗算することにより、左右前輪WfL,WfRの転舵状態を考慮した補正軸力Faを計算する。
このように、基本軸力演算部51によって基本軸力Fbが計算され、操舵感応軸力補正部54によって補正軸力Faが計算されると、軸力推定部50は、これら基本軸力Fbと補正軸力Faとを合算することによって推定軸力Fcを計算する。ここで、このように計算される推定軸力Fcは、図11に示すように、推定舵角θcの変化に応じて変化する基本軸力Fbに対して、補正軸力Faによって表されるヒス幅(軸力差)を加えて決定されるものとなる。この場合、補正軸力Faは、上述したように、モータ回転角速度Θ’すなわち操舵速度の大きさおよび車速Vに応じて変化する。このため、この補正軸力Faを加味して推定軸力Fcを計算することによって、運転者による操舵ハンドル11の回動操作状態をも考慮したより正確な推定軸力Fcを推定して計算することができる。そして、軸力推定部50は、計算した推定軸力Fcをアシスト演算部60に供給する。
アシスト演算部60においては、図12に示すように、目標操舵トルク決定部61、アシストトルク決定部62およびアシスト力補正手段としてのアシストトルク補正部63を備えている。
目標操舵トルク決定部61は、運転者が操舵ハンドル11を介して入力する目標操舵トルクThを決定するものである。具体的に説明すると、目標操舵トルク決定部61は、車両が低速で走行しているときには運転者が操舵ハンドル11に入力する操舵トルクTが小さくなるように、また、車両が中・高速で走行しているときには運転者が操舵ハンドル11に入力する操舵トルクTが比較的大きくなるように、目標操舵トルクThを決定する。
このため、目標操舵トルク決定部61は、車速センサ34によって検出された車速Vを入力する。そして、目標操舵トルク決定部61は、図13に示す目標操舵トルク決定マップを参照して、入力した車速Vに対応する目標操舵トルクThを決定する。ここで、目標操舵トルク決定マップは、入力した車速Vが「0」から予め設定された所定の車速V0未満までは目標操舵トルクThが一様に増加し、入力した車速Vが所定の車速V0以上では目標操舵トルクThが一定となる特性を有する。なお、このような特性を有する目標操舵トルク決定マップを参照することに代えて、目標操舵トルクThが所定の車速V0未満までは一様に増加し所定の車速V0以上で一定となるように、車速Vに対する目標操舵トルクThを関数として定義しておき、この定義した関数を用いて目標操舵トルクThを決定するようにしてもよい。そして、目標操舵トルク決定部61は、決定した目標操舵トルクThをアシストトルク決定部62に供給する。
アシストトルク決定部62は、軸力推定部50によって計算された推定軸力Fcに抗して運転者が目標操舵トルクThにより操舵ハンドル11を回動操作できるように、アシストトルクTaを決定するものである。具体的に説明すると、アシストトルク決定部62は、軸力推定部60から供給された推定軸力Fc(絶対値)と目標操舵トルク決定部61から供給された目標操舵トルクTh(絶対値)とを比較する。すなわち、アシストトルク決定部62は、推定軸力Fc(絶対値)が目標操舵トルクTh(絶対値)未満であるときには、図14に示すように、アシストトルクTaを「0」に決定する。一方、推定軸力Fc(絶対値)が目標操舵トルクTh(絶対値)よりも大きいときには、図14に示すように、下記Eq.(9)に従って推定軸力Fcから目標操舵トルクThを減じることによってアシストトルクTaを計算する。
Ta=Fc−Th …Eq.(9)
このように、推定軸力Fcが小さい場合には、運転者による操舵ハンドル11の回動操作量が小さいため、アシストトルクTaが「0」に決定される。これにより、アシストトルクTaが「0」に決定される領域においては、運転者が操舵ハンドル11を回動操作してもアシストトルクTaが付与されない、所謂、不感帯となる。そして、この不感帯を超えるように運転者が操舵ハンドル11を回動操作したとき、すなわち、推定軸Fcが目標操舵トルクThよりも大きくなったときには、最小限のアシストトルクTaが付与されるようになる。
また、上述したように、目標操舵トルクThは、車速Vが所定の車速V0未満では小さく、所定の車速V0以上で大きな一定値に決定される。このため、車速Vが所定の車速V0未満となる低速域においては、目標操舵トルクThが小さく設定されるため、その結果、不感帯が小さく設定される。したがって、運転者による操舵ハンドル11の回動操作に対して速やかにアシストトルクTa(補正アシストトルクTad)が付与されるようになる。すなわち、低速域で車両が走行している場合には、運転者は、極めて容易に操舵ハンドル11を回動操作することができ、良好な車両の取り回しが可能となる。
一方、目標操舵トルクThは、車速Vが所定の車速V0以上となる中・高速域においては、大きな一定値として決定されるため、その結果、不感帯が大きく設定される。したがって、運転者による操舵ハンドル11の回動操作に対して緩やかにアシストトルクTa(補正アシストトルクTad)が付与されるようになる。すなわち、中・高速域で車両が走行している場合には、運転者は、操舵ハンドル11を介してしっかりとした反力を知覚しながら回動操作することができ、安定した回動操作によって車両の挙動を安定させることが可能となる。
アシストトルク補正部63は、左右前輪WfL,WfRおよび左右後輪WrL,WrRのうちの少なくとも一輪にスリップが発生している場合に、アシストトルク決定部62によって決定されたアシストトルクTaを補正して補正アシストトルクTadを計算するものである。具体的に、アシストトルク補正部63は、左右前輪WfL,WfRおよび左右後輪WrL,WrRのうちの少なくとも一輪にスリップが発生している状況において、アシストトルクTaを付与した場合に発生する可能性のある過剰なアシスト(以下、過アシストという)や左右前輪WfL,WfRのセルフステアを防止するために、アシストトルク決定部62によって決定されたアシストトルクTaを補正する。このため、アシストトルク補正部63は、図12に示すように、スリップゲイン決定手段としてのスリップゲイン決定部64とスリップゲイン復帰判定手段としてのスリップゲイン復帰判定部65とを備えている。
スリップゲイン決定部64は、アシストトルクTaを補正するためのスリップゲインKsを決定する。具体的に説明すると、スリップゲイン決定部64は、推定舵角演算部40の制御舵角演算部44によって計算された推定舵角差Δθを入力する。すなわち、左右前輪WfL,WfRおよび左右後輪WrL,WrRのうちの少なくとも一輪にスリップが発生している場合には、上述した図18に示す左右前輪WfL,WfRの旋回中心と左右後輪WrL,WrRの旋回中心とが異なるため、推定舵角差Δθが大きくなる。このため、スリップゲイン決定部64は、図15に示すスリップゲイン決定マップを参照し、この推定舵角差Δθの絶対値に対応するスリップゲインKsを決定する。
具体的に、スリップゲイン決定部64は、制御舵角演算部44から入力した推定舵角差Δθの絶対値が予め設定された所定の舵角差Δθ0未満であるときには、左右前輪WfL,WfRおよび左右後輪WrL,WrRのうちの少なくとも一輪にスリップ率の極めて小さいスリップが発生していると判定する。これにより、スリップゲイン決定部64は、スリップゲインKsを上限値(具体的には、「1」)に決定する。なお、以下の説明においては、スリップゲインKsが上限値である「1」に設定されるときをグリップ状態という。
また、スリップゲイン決定部64は、入力した推定舵角差Δθの絶対値が所定の舵角差Δθ0以上であり、かつ、予め設定された所定の舵角差Δθ1未満であるときには、左右前輪WfL,WfRおよび左右後輪WrL,WrRのうちの少なくとも一輪にスリップ率の比較的大きなスリップが発生していると判定する。これにより、スリップゲイン決定部64は、入力した推定舵角差Δθの絶対値の増加または減少に応じて、スリップゲインKsを上限値から下限値(具体的には、「0」)または下限値から上限値まで一様に減少させて決定する。なお、以下の説明においては、スリップゲインKsが「1」から「0」に向けて減少するように設定されるときをスリップ開始状態といい、スリップゲインKsが「0」から「1」に向けて増加するように設定されるときをスリップ復帰状態という。
さらに、スリップゲイン決定部64は、入力した推定舵角差Δθの絶対値が所定の舵角差Δθ1以上であるときには、左右前輪WfL,WfRおよび左右後輪WrL,WrRのうちの少なくとも一輪にスリップ率が「1」となる完全なスリップが発生していると判定する。これにより、スリップゲイン決定部64は、スリップゲインKsを下限値(具体的には、「0」)に決定する。なお、以下の説明においては、スリップゲインKsが上限値である「0」に設定されるときを完全スリップ状態という。ここで、スリップゲイン決定マップを参照することに代えて推定舵角差Δθの絶対値に応じて変化するスリップゲインKsを定義した関数を用いてスリップゲインKsを計算するようにしてもよい。
このように、スリップゲイン決定部64は、推定舵角差Δθの絶対値に応じてスリップゲインKsを決定することができる。そして、後述するように、スリップゲインKsを用いてアシストトルクTaを補正した補正アシストトルクTadを計算することにより、左右前輪WfL,WfRおよび左右後輪WrL,WrRのうちの少なくとも一輪にスリップが発生した場合であっても、適切なアシストトルクTa(補正アシストトルクTad)を付与することができる。
スリップゲイン復帰判定部65は、左右前輪WfL,WfRおよび左右後輪WrL,WrRのうちの少なくとも一輪(以下、単に車輪という)の回転状態が完全スリップ状態からスリップ復帰状態に移行しているか否かを判定ことにより、スリップゲイン決定部64によって決定されたスリップゲインKsを出力する(復帰させる)か否かを決定するものである。具体的に、スリップゲイン復帰判定部65は、アシストトルク決定部62によって決定されたアシストトルクTaを入力するとともに、スリップゲイン決定部64からスリップゲインKsを入力する。
そして、スリップゲイン復帰判定部65は、図16に示すスリップゲイン復帰判定プログラムを実行することにより、車輪の回転状態が完全スリップ状態からスリップ復帰状態に移行しているか否かを判定する。さらに、スリップゲイン復帰判定部65は、スリップゲイン復帰判定プログラムを実行することにより、車輪の回転状態、具体的には、完全スリップ状態、スリップ復帰状態、スリップ復帰状態またはグリップ状態に応じて、スリップゲインKsを出力する(復帰させる)か否かを表す最終スリップゲインKsdを決定する。以下、このスリップゲイン復帰判定部65による状態移行判定および最終スリップゲインKsdの決定を詳細に説明する。
スリップゲイン復帰判定部65は、ステップS10にてプログラムの実行を開始し、続くステップS11にて車輪の回転状態が完全スリップ状態からスリップ復帰状態に移行しているか否かを判定する。具体的に説明すると、スリップゲイン復帰判定部65は、前回のプログラム実行時に入力したスリップゲインKsが「0」であり、かつ、今回のプログラム実行時に入力したスリップゲインKsが「0」でなければ、車輪の回転状態が完全スリップ状態からスリップ復帰状態に移行している。このため、スリップゲイン復帰判定部65は、ステップS11にて「Yes」と判定してステップS12に進む。
すなわち、この場合には、前回のプログラム実行時にスリップゲイン決定部64から入力したスリップゲインKsが「0」、言い換えれば、推定舵角差Δθが所定の舵角差Δθ1以上であり、車輪の回転状態が完全スリップ状態となっていた。これに対して、今回のプログラム実行時においては、スリップゲイン決定部64から入力したスリップゲインKsが「0」ではない、言い換えれば、推定舵角差Δθが所定の舵角差Δθ1未満であり、車輪の回転状態がスリップ復帰状態(またはグリップ状態)となっている。
一方、前回のプログラム実行時に入力したスリップゲインKsが「0」ではなく、または、今回のプログラム実行時に入力したスリップゲインKsが「0」であれば、車輪の回転状態が完全スリップ状態ではない、または、車輪の回転状態が完全スリップ状態である。このため、スリップゲイン復帰判定部65は、ステップS11にて、「No」と判定してステップS15に進む。すなわち、この場合には、前回のプログラム実行時において、スリップゲイン決定部64から入力したスリップゲインKsが「0」ではない、言い換えれば、推定舵角差Δθが所定の舵角差Δθ1未満であり、車輪の回転状態がグリップ状態、スリップ開始状態またはスリップ復帰状態である。あるいは、今回のプログラム実行時において、スリップゲイン決定部64から入力したスリップゲインKsが「0」、言い換えれば、推定舵角差Δθが所定の舵角差Δθ1以上であり、車輪の回転状態が完全スリップ状態である。
ステップS12においては、スリップゲイン復帰判定部65は、アシストトルク演算部60のアシストトルク決定部62から入力したアシストトルクTaが「0」であるか否かを判定する。すなわち、上述したように、アシストトルク演算部62によって推定軸力Fcが目標操舵トルクTh以下である、言い換えれば、転舵輪である左右前輪WfL,WfRの推定舵角θcが小さいためにアシストトルクTaが「0」に決定されている場合には、スリップゲイン復帰判定部65は「Yes」と判定してステップS13に進む。
ステップS13においては、スリップゲイン復帰判定部65は、最終スリップゲインKsdをスリップゲイン決定部64によって決定されたスリップゲインKsに設定し、スリップゲインKsの出力(復帰)を許容する。すなわち、この場合には、アシストトルクTaが「0」であり、最終的にアシストトルクTaを補正する最終スリップゲインKsdをスリップゲインKsに設定して復帰を許容しても、運転者が操舵ハンドル11に入力する操舵トルクTに対して何らトルクを付与しない。このため、運転者が違和感を覚えることがない。
一方、アシストトルク演算部60のアシストトルク決定部62から入力したアシストトルクTaが「0」でなければ、すなわち、推定軸力Fcが目標操舵トルクTh以上である、言い換えれば、転舵輪である左右前輪WfL,WfRの推定舵角θcが大きいためにアシストトルクTaが「0」よりも大きく決定されている場合には、スリップゲイン復帰判定部65はステップS13にて「No」と判定して、繰り返しステップS14を実行する。
ステップS14においては、スリップゲイン復帰判定部65は、スリップゲイン決定部64によって決定されたスリップゲインKsの出力(復帰)を禁止し、最終スリップゲインKsdを「0」に設定する。すなわち、この場合には、車輪が完全スリップ状態からスリップ復帰状態に移行している状態であるものの、アシストトルク決定部62によって「0」よりも大きなアシストトルクTaが決定されている状態である。
このため、例えば、最終スリップゲインKsdをスリップゲイン決定部64によって決定されたスリップゲインKsに設定すると、急激な補正アシストトルクTadの付与に伴う左右前輪WfL,WfRの転舵(過アシストまたはセルフステア)が発生する可能性が高く、また、運転者が操舵ハンドル11を介して付与された補正アシストトルクTadを知覚して違和感を覚える可能性がある。したがって、スリップゲイン復帰判定部65は、最終スリップゲインKsdを「0」に設定(維持)して、急激な補正アシストトルクTadが付与されないようにする。
また、前記ステップS11にて「No」と判定すると、スリップゲイン復帰判定部65は、ステップS15に進み、最終スリップゲインKsdをスリップゲインKsに設定する。すなわち、この場合には、上述したように、車輪の回転状態が完全スリップ状態からスリップ復帰状態に移行していない。したがって、この場合には、スリップゲイン復帰判定部65は、最終スリップゲインKsdをスリップゲインKsに設定し、スリップゲインKsの出力(復帰)を許容する。
そして、前記ステップS13,または、ステップS15のステップ処理を実行すると、スリップゲイン復帰判定部65は、ステップS16にて、スリップゲイン復帰判定プログラムの実行を一旦終了する。
このようして、スリップゲイン復帰判定部65が最終スリップゲインKsdを設定すると、アシストトルク補正部63は、アシストトルク決定部62から供給されたアシストトルクTaに対して最終スリップゲインKsdを乗算して、最終的に補正された補正アシストトルクTadを計算する。
ここで、上述した最終スリップゲインKsdの決定および補正アシストトルクTadの計算を時間の経過に伴って図示すると、図17のように示すことができる。具体的に、説明すると、まず、(a.)グリップ状態においては、左右前輪WfL,WfRおよび左右後輪WrL,WrRのうちの少なくとも一輪にスリップ率の極めて小さいスリップが発生している状態である。したがって、この(a.)グリップ状態においては、スリップゲイン復帰判定部65は、スリップゲイン復帰判定プログラムの前記ステップS11,S15のステップ処理を実行することにより、最終スリップゲインKsdをスリップゲインKsに設定する。したがって、この場合には、補正アシストトルクTadすなわちスリップゲインKsが「1」であるためにアシストトルクTaが付与されるフルアシスト状態となる。
この(a.)グリップ状態から、(b.)スリップ開始状態に移行すると、左右前輪WfL,WfRおよび左右後輪WrL,WrRのうちの少なくとも一輪にスリップ率の比較的大きなスリップが発生している状態である。このため、スリップゲイン復帰判定部65は、スリップゲイン復帰判定プログラムの前記ステップS11,S15のステップ処理を実行することにより、最終スリップゲインKsdをスリップゲインKsに設定する。これにより、最終スリップゲインKsdは、スリップゲインKsの減少に伴って下限値「0」に向けて減少する。したがって、補正アシストトルクTadは、「0」に向けて漸減する状態となる。
そして、(b.)スリップ開始状態から(c.)完全スリップ状態に移行すると、左右前輪WfL,WfRおよび左右後輪WrL,WrRのうちの少なくとも一輪にスリップ率が「1」の完全スリップが発生している状態である。このため、スリップゲイン復帰判定部65は、スリップゲイン復帰判定プログラムの前記ステップS11,S15のステップ処理を実行することにより、最終スリップゲインKsdをスリップゲインKsに設定する。したがって、この場合には、スリップゲインKsが「0」であるために補正アシストトルクTadが「0」となり、何らトルクが付与されないアシストゼロ状態となる。
この(c.)完全スリップ状態から(d.)スリップ復帰状態に移行すると、一点鎖線で示すように、スリップゲイン決定部64は推定舵角差Δθの減少に伴ってスリップゲインKsの値を下限値「0」から上限値「1」に向けて増加させて決定する。これに伴い、スリップゲイン復帰判定部65は、スリップゲイン復帰判定プログラムの前記ステップS11にて、車輪の回転状態が完全スリップ状態からスリップ復帰状態に移行しているか否か、すなわち、スリップゲイン復帰判定を開始する。
また、この状況において、アシストトルク決定部62によって決定されるアシストトルクTaが「0」でなければ、スリップゲイン復帰判定部65は、スリップゲイン決定部64によって決定されたスリップゲインKsの出力(復帰)を禁止し、最終スリップゲインKsdを「0」に設定する(ステップS11、ステップS12およびステップS14に相当)。これにより、太実線で示すように、補正アシストトルクTadは付与されずにアシストゼロが維持される。そして、(d.)スリップ復帰状態から(e.)グリップ状態に移行して、スリップゲインKsが「1」に設定されていても、アシストトルク決定部62によって決定されるアシストトルクTaが「0」でなければ、スリップゲイン復帰判定部65は、引き続き、最終スリップゲインKsdを「0」に設定する(ステップS11、ステップS12およびステップS14に相当)。このため、補正アシストトルクTadは付与されずにアシストゼロが維持される。
さらに、(e.)グリップ状態に移行し、時間の経過に伴ってアシストトルク決定部62によって決定されるアシストトルクTaが「0」となれば、スリップゲイン復帰判定部65は、最終スリップゲインKsdをスリップゲインKsに設定する(ステップS11、ステップS12およびステップS13に相当)。したがって、(e.)グリップ状態に移行してから、一旦アシストトルクTaが「0」となることによってアシスト復帰条件が成立し、その後、「0」よりも大きなアシストトルクTaが計算されると、スリップゲインKsが「1」に設定されているため、補正アシストトルクTadとしてアシストトルクTaが付与されるフルアシスト状態となる。
このように、補正アシストトルクTadを計算すると、電子制御ユニット35は、駆動回路36を介して、電動モータ25に補正アシストトルクTadに対応する駆動電流を供給する。これにより、電動モータ25は、ラックバー22を介して補正アシストトルクTad(またはアシストトルクTa)に対応するトルクを伝達することができる。したがって、運転者は目標操舵トルクThにより操舵ハンドル11を回動操作することができ、良好な操舵感覚を得ることができる。
以上の説明からも理解できるように、本実施形態によれば、操舵トルクセンサ32に異常が発生すると、舵角推定部40が車輪速センサ31a〜31dから出力された左右前輪WfL,WfRおよび左右後輪WrL,WrRの車輪速度ωfL,ωfR,ωrL,ωrRを表す信号をローパスフィルタ処理し、前輪側推定舵角θFrおよび後輪側推定舵角θRrを計算することができる。そして、舵角推定部40は、前輪側推定舵角θFrと後輪側推定舵角θRrとを平均することによって精度の高い推定舵角θcを計算するとともに、前輪側推定舵角θFrと後輪側推定舵角θRrとの差を計算して精度の高い推定舵角差Δθを計算することができる。
また、軸力推定部50は、舵角推定部40によって計算された精度の高い推定舵角θcと車速Vとを用いて基本軸力Fbを計算するとともに、運転者による操舵ハンドル11の切り込み操作または切り戻し操作に応じて基本軸力Fbにヒステリシス特性を付与する補正軸力Faを計算することができる。そして、軸力推定部50は、基本軸力Fbと補正軸力Faを合算することにより、精度の高い推定軸力Fcを計算することができる。
さらに、アシスト演算部60は、車速Vに応じて変化する目標操舵トルクThと、軸力推定部50によって計算された精度の高い推定軸力Fcとを比較し、推定軸力Fcから目標操舵トルクThを減ずることにより、アシストトルクTaを計算することができる。また、アシスト演算部60は、左右前輪WfL,WfRおよび左右後輪WrL,WrRの回転状態(すなわちスリップの発生の有無)に応じてアシストトルクTaを補正して補正アシストトルクTadを計算することもできる。
そして、電子制御ユニット35は、駆動回路36を駆動制御して、電動モータ25に補正アシストトルクTad(アシストトルクTa)を出力させる。これにより、運転者による操舵ハンドル11の回動操作に対して補正アシストトルクTad(アシストトルクTa)を付与することができる。
このように、本実施形態に係る車両の電動パワーステアリング装置においては、操舵トルクセンサ32に異常が発生した場合であっても、左右前輪WfL,WfRの推定舵角θcおよび転舵ギアユニット20のラックバー22に入力される推定軸力Fcを正確に推定することができる。これにより、操舵トルクセンサ32に異常が発生した場合であっても、例えば、操舵トルクセンサ32を冗長系として構成することなく、簡略化した構成により適切な補正アシストトルクTad(アシストトルクTa)を正確に決定することができ、運転者による操舵ハンドル11の回動操作に対して適切な補正アシストトルクTad(アシストトルクTa)の付与を継続することができる。したがって、運転者が操舵ハンドルを回動操作するときの負担を大幅に軽減することができる。
本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
例えば、上記実施形態においては、軸力推定部50が操舵感応軸力補正部54を備えるように実施した。しかしながら、操舵トルクセンサ32の異常を的確に運転者に対して報知する観点から、操舵感応軸力補正部54を省略して実施することも可能である。このように、操舵感応軸力補正部54を省略した場合には、軸力推定部50の基本軸力演算部51によって決定される基本軸力Fbのみに基づいて推定軸力Fcが推定される。このため、上述したように、運転者は、操舵ハンドル11の回動操作においてトルク変動を知覚して違和感を覚える。言い換えれば、運転者がこの違和感を覚えることにより、電動パワーステアリング装置の作動に異常が発生していることを効果的に報知することができる。なお、この場合であっても、操舵トルクセンサ32に異常が発生した状況下で、アシストトルクTaを継続して付与することができる。
また、上記実施形態においては、アシストトルク演算部60がアシストトルク補正部63を備えるように実施した。しかしながら、例えば、車両に搭載された他の装置によって左右前輪WfL,WfRおよび左右後輪WrL,WrRに発生するスリップが抑制される場合には、アシストトルク補正部63を省略して実施することも可能である。このように、アシストトルク補正部63を省略した場合であっても、アシストトルク演算部60のアシストトルク決定部62が適切な大きさのアシストトルクTaを決定することができ、左右前輪WfL,WfRおよび左右後輪WrL,WrRに発生するスリップが抑制されれば、アシストトルクTaを付与しても過アシストやセルフステアの発生が防止できる。したがって、この場合においても、操舵トルクセンサ32に異常が発生した状況下で、アシストトルクTaを継続して付与することができる。
また、上記実施形態においては、舵角推定部40のLPF処理部41が、操舵速度(具体的には、モータ回転角速度Θ’)の大きさに応じて変化するカットオフ周波数T(|Θ’|)を用いて、車輪速度ωfL,ωfR,ωrL,ωrRを表す信号に対して適切なローパスフィルタ処理を施すように実施した。この場合、操舵速度(具体的には、モータ回転角速度Θ’)の大きさに応じて変化するカットオフ周波数T(|Θ’|)を用いることに代えて、カットオフ周波数を固定してローパスフィルタ処理を施すことも可能である。この場合、固定するカットオフ周波数として、例えば、上記実施形態における下限側のカットオフ周波数T0と上限側のカットオフ周波数T1の間の周波数を設定することにより、位相遅れの抑制や高周波ノイズの除去性能が上記実施形態に比して若干劣るものの、構成を簡略化して安価なローパスフィルタ処理部を構成することができる。したがって、上記実施形態と同様の効果が期待できるとともに、操舵トルクセンサ32に異常が発生した状況下で、アシストトルクTaを継続して付与することができる。
また、上記実施形態においては、電動モータ25として、周知のブラシレスモータを採用し、モータ回転角センサ33が電動モータ25の回転角Θを検出するように実施した。この場合、電動モータ25として、周知のブラシモータを採用した場合には、例えば、ブラシモータから駆動回路36に出力される逆起電力を検出するように構成しておき、この逆起電力の大きさから電動モータ25の回転角Θを検出して実施することも可能である。この場合であっても、上記実施形態と同様にモータ回転角Θを用いることができるため、上記実施形態と同様に、操舵トルクセンサ32に異常が発生した状況下で、アシストトルクTaを継続して付与することができる。
さらに、上記実施形態においては、電動モータ25を転舵ギアユニット20に組み付け、電動モータ25がラックバー22に対してアシストトルクTa(補正アシストトルクTad)に対応するトルクを伝達するラックアシストタイプを採用して実施した。この場合、電動モータ25が、例えば、操舵軸12に対してトルクを伝達するコラムアシストタイプを採用したり、図示省略のピニオンシャフトに対してトルクを伝達するピニオンアシストタイプを採用して実施可能であることはいうまでもない。このように、コラムアシストタイプやピニオンアシストタイプを採用して実施した場合であっても、操舵トルクセンサ32に異常が発生した状況下で、アシストトルクTaを継続して付与することができる。
Claims (13)
- 運転者による操舵ハンドルの回動操作によって車両の転舵輪を転舵するために入力される操作力を検出する操作力検出手段と、運転者による前記操舵ハンドルの回動操作に対してアシスト力を付与する電動モータと、前記操作力検出手段によって検出された操作力に対応するアシスト力に基づいて前記電動モータの作動を制御する制御手段とを備えた車両の電動パワーステアリング装置において、
前記制御手段が、
車両の車速を検出する車速検出手段と、
車両の前後左右輪にそれぞれ設けられて各輪の車輪速度を検出する車輪速度検出手段と、
前記操作力検出手段の異常を判定する異常判定手段と、
前記異常判定手段によって前記操作力検出手段の異常が判定されると、前記車輪速度検出手段によって検出された前記各輪の車輪速度のうち、前輪側の左右輪の車輪速度を用いて前記転舵輪の第1舵角を演算するとともに後輪側の左右輪の車輪速度を用いて前記転舵輪の第2舵角を演算し、これら第1舵角および第2舵角を用いて車両旋回時における前記転舵輪の舵角を推定する舵角推定手段と、
前記転舵輪の舵角および車両の車速と予め定めた関係にあって前記車両の転舵輪を転舵する転舵機構に入力される軸力を、前記舵角推定手段によって推定された舵角および前記車速検出手段によって検出された車速を用いて推定する軸力推定手段と、
車両の車速と予め定めた関係にあって運転者が前記操舵ハンドルを介して入力する目標操舵力を前記車速検出手段によって検出された車速を用いて決定し、この決定した目標操舵力と前記軸力推定手段によって推定された軸力とを用いて、運転者による前記操舵ハンドルの回動操作に対して付与するアシスト力を演算するアシスト力演算手段と、
前記アシスト力演算手段によって演算されたアシスト力に基づいて前記電動モータの作動を制御する作動制御手段と、
前記操舵ハンドルの回動操作速度を検出する操作速度検出手段とを備え、
前記舵角推定手段が、
前記車輪速度検出手段によって検出された前記各輪の車輪速度を所定のカットオフ周波数によりローパスフィルタ処理するフィルタ処理手段を有しており、
前記フィルタ処理手段は、
前記操作速度検出手段によって検出された回動操作速度の増加に伴って前記カットオフ周波数を大きな周波数に変更し、前記検出された回動操作速度の減少に伴って前記カットオフ周波数を小さな周波数に変更して、前記車輪速度検出手段によって検出された各輪の車輪速度をローパスフィルタ処理することを特徴とする車両の電動パワーステアリング装置。 - 請求項1に記載した車両の電動パワーステアリング装置において、
前記操作速度検出手段は、
前記電動モータの回転作動における回転速度を検出し、この検出された電動モータの回転速度を用いて前記操舵ハンドルの回動操作速度を検出することを特徴とする車両の電動パワーステアリング装置。 - 請求項1または請求項3に記載した車両の電動パワーステアリング装置において、
前記舵角推定手段は、
車両の転舵輪の実際の舵角に対する検出舵角の比を表し、予め実験により設定される車両のオーバーオールギア比を用いて、前記転舵輪の第1舵角および第2舵角を演算することを特徴とする車両の電動パワーステアリング装置。 - 請求項1、請求項3及び請求項4のうちのいずれか一つに記載した車両の電動パワーステアリング装置において、
前記舵角推定手段は、
前記車輪速度検出手段によって検出された前記各輪の車輪速度のうち、前記前輪側の左右輪の車輪速度の差を用いて演算した前記転舵輪の第1舵角と、前記後輪側の左右輪の車輪速度の差を用いて演算した前記転舵輪の第2舵角とを平均して、車両旋回時における前記転舵輪の舵角を推定することを特徴とする車両の電動パワーステアリング装置。 - 請求項1、請求項3、請求項4及び請求項5のうちのいずれか一つに記載した車両の電動パワーステアリング装置において、
前記車速検出手段によって検出された車速が予め設定された車速以下であるときに、前記舵角推定手段は、前記演算した前記転舵輪の第1舵角と、前記演算した前記転舵輪の第2舵角とを、それぞれ、「0」に演算することを特徴とする車両の電動パワーステアリング装置。 - 請求項1に記載した車両の電動パワーステアリング装置において、
前記軸力推定手段が、
前記操舵ハンドルの回動操作速度および車両の車速と予め定めた関係にあって前記推定された軸力を補正する補正軸力を、前記操作速度検出手段によって検出された回動操作速度および前記車速検出手段によって検出された車速を用いて演算する補正軸力演算手段を備えたことを特徴とする車両の電動パワーステアリング装置。 - 請求項7に記載した車両の電動パワーステアリング装置において、
前記操舵ハンドルの回動操作速度、前記車両の車速および前記補正軸力の関係のうち、前記操舵ハンドルの回動操作速度と前記補正軸力との関係が、少なくとも、前記操舵ハンドルの回動操作速度が予め設定された第1の回動操作速度未満であるときに前記操舵ハンドルの回動操作速度の増加に伴って前記補正軸力が増加し、前記操舵ハンドルの回動操作速度が前記第1の回動操作速度よりも大きく予め設定された第2の回動操作速度以上であるときに前記操舵ハンドルの回動操作速度の増加に伴って前記補正軸力が減少するように予め定めた関係であり、
前記補正軸力演算手段は、前記予め定めた関係に基づいて、前記補正軸力を前記操作速度検出手段によって検出された回動操作速度を用いて演算することを特徴とする車両の電動パワーステアリング装置。 - 請求項7または請求項8に記載した車両の電動パワーステアリング装置において、
前記操舵ハンドルの回動操作速度、前記車両の車速および前記補正軸力の関係のうち、前記車両の車速と前記補正軸力との関係が、少なくとも、前記車両の車速の増加に伴って前記補正軸力が予め設定された所定の大きさに向けて減少するように予め定めた関係であり、
前記補正軸力演算手段は、前記予め定めた関係に基づいて、前記補正軸力を前記車速検出手段によって検出された車速を用いて演算することを特徴とする車両の電動パワーステアリング装置。 - 請求項1に記載した車両の電動パワーステアリング装置において、
前記アシスト力演算手段は、
前記決定した目標操舵力の絶対値と前記軸力推定手段によって推定された軸力の絶対値とを比較し、前記推定された軸力の絶対値が前記目標操舵力の絶対値以下であるときに前記アシスト力を「0」に演算し、前記推定された軸力の絶対値が前記目標操舵力の絶対値よりも大きいときに前記推定された軸力から前記目標操舵力を減じて前記アシスト力を演算することを特徴とする車両の電動パワーステアリング装置。 - 請求項10に記載した車両の電動パワーステアリング装置において、
前記アシスト力演算手段は、
前記車速検出手段によって検出された車速が予め設定された所定の車速未満であるときに前記検出された車速の増加に伴って前記目標操舵力の絶対値を増加させて決定し、前記検出された車速が前記予め設定された所定の車速以上であるときに前記検出された車速の増加に伴って前記目標操舵力の絶対値を一定にして決定することを特徴とする電動パワーステアリング装置。 - 請求項1に記載した車両の電動パワーステアリング装置において、
前記舵角推定手段が、前記前後左右輪のいずれかに発生したスリップの状態に応じて増減する前記第1舵角と前記第2舵角との差分を表す舵角差を演算し、
前記アシスト力演算手段が、
前記舵角推定手段によって演算された舵角差の大きさに基づき、前記演算されたアシスト力を前記前後左右輪のいずれかに発生したスリップの状態に応じて補正するアシスト力補正手段を備えたことを特徴とする車両の電動パワーステアリング装置。 - 請求項12に記載した車両の電動パワーステアリング装置において、
前記アシスト力補正手段が、
前記舵角推定手段によって演算された舵角差を用いて、前記前後左右輪のいずれかに発生したスリップの状態に応じて前記アシスト力演算手段によって演算されたアシスト力の大きさを補正するスリップゲインを決定するものであって、前記演算された舵角差が予め設定された第1の舵角差以上であるときに前記スリップゲインを減少させて決定し、前記演算された舵角差が前記第1の舵角差よりも大きく予め設定された第2の舵角差以上であるときに前記スリップゲインを「0」に決定するスリップゲイン決定手段と、
前記演算されたアシスト力に対して前記スリップゲイン決定手段によって決定されたスリップゲインを乗算して補正されたアシスト力を演算する補正アシスト力演算手段とを備えたことを特徴とする車両の電動パワーステアリング装置。 - 請求項13に記載した車両の電動パワーステアリング装置において、
前記アシスト力補正手段が、
前記舵角推定手段によって演算された舵角差が前記第2の舵角差未満となったとき、
前記アシスト力演算手段によって演算されたアシスト力が「0」でなければ、前記スリップゲイン決定手段が前記演算された舵角差を用いて決定する前記スリップゲインが「0」よりも大きくなることを禁止して前記スリップゲインを「0」に維持し、
前記演算されたアシスト力が「0」であれば、前記スリップゲイン決定手段が前記演算された舵角差を用いて決定する前記スリップゲインを復帰させて、前記スリップゲインが「0」よりも大きくなることを許容するスリップゲイン復帰判定手段を備えたことを特徴とする車両の電動パワーステアリング装置。
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