しかしながら、特許文献1に記載のように、それ自体に気孔が形成された生石灰を粉体のまま化学蓄熱材として用いた場合、作動中、水和反応と脱水反応とが繰り返される。このため、この化学蓄熱材の粉体は、体積膨張、収縮の繰り返しによって他の粉体と擦れ合い、微粉化してしまい、蓄熱システムとしての反応性が低下する問題があった。また、特許文献2、3の構成では、カプセルの採用による熱伝導抵抗の増加や接触経路の複雑化によって、化学蓄熱材の発熱反応による熱を効率良く取り出すことができず、さらに蓄熱反応における熱を効率良く供給することができない問題があった。一方、特許文献4の構成は、複数の蒸発皿を用いることで蒸発器での冷媒の蒸発面積を確保することができるものの、熱交換媒体との熱交換面積が少なく、伝熱不足(律束)を起こす原因となる。
本発明は、上記事実を考慮して、化学蓄熱材層の耐久性を向上させることができると共に、化学蓄熱材層に対する伝熱経路を確保することができる蓄熱器、及び該蓄熱器の製造方法を得ることが目的である。
請求項1記載の発明に係る蓄熱器は、金属壁と、粘土鉱物及び低アルカリ性溶液の少なくとも一方を含んで前記金属壁の表面に形成された反応膜と、粉体化学蓄熱材を含んで構成され、前記反応膜に保持された化学蓄熱材層と、を備えている。
請求項1記載の蓄熱器は、例えば熱交換容器の周壁や隔壁等の金属壁に、粘土鉱物及び低アルカリ溶液の少なくとも一方を含む反応膜を介して、化学蓄熱材層が保持されている。粉体化学蓄熱材より成る化学蓄熱材層は、多孔構造を成しており、その内部(多孔)を反応物又は反応生成物が流通することで蓄熱、放熱反応を生じ、この熱は金属壁を介して授受される。本蓄熱器では、金属壁に対する付着強度が高い低アルカリ性溶液及び粉体化学蓄熱材の保持性が良好な粘土鉱物の少なくとも一方を含んで反応膜が構成されているので、上記の通り多孔構造を成す化学蓄熱材層を、金属壁に対しを良好に保持させることができる。これにより、金属壁と化学蓄熱材層との伝熱経路である界面の密着性が確保される(低熱抵抗とされる)と共に、金属壁に対する化学蓄熱材層の付着強度(機械的接合強度)が確保される。
このように、請求項1記載の蓄熱器では、化学蓄熱材層の耐久性を向上させることができると共に、化学蓄熱材層に対する伝熱経路を確保することができる。
請求項2記載の発明に係る蓄熱器は、請求項1記載の蓄熱器において、前記反応膜は、前記粘土鉱物の繊維を成膜化することで骨格構造を成している。
請求項2記載の蓄熱器では、粘土鉱物の繊維を成膜化して成る骨格構造内に、化学蓄熱材層を成す粉体化学蓄熱材の少なくとも一部が入り込んで固化されることで、反応膜に化学蓄熱材層が強固に保持される。粘土鉱物の繊維は、例えば混合されたバインダを介して成膜化されても良く、また例えば紙抄き法等によって自立膜として構成されても良い。
請求項3記載の発明に係る蓄熱器は、請求項2記載の蓄熱器において、前記骨格部は、低アルカリ性溶液を介して前記粘土鉱物を前記金属壁に保持させて構成されている。
請求項3記載の蓄熱器では、低アルカリ性溶液のアルカリに対し粘土鉱物が溶融、硬化する特性を利用して、粘土鉱物繊維より成る骨格構造が金属壁に対する付着強度が高い低アルカリ性溶液を介して、金属壁の表面に強固に付着されている。この骨格構造が化学蓄熱材を保持することで、上記した金属壁に対する化学蓄熱材層の界面密着性と付着強度とが一層良好に得られる。
請求項4記載の発明に係る蓄熱器は、請求項3記載の蓄熱器において、前記低アルカリ性溶液として、低融点ガラスが用いられている。
請求項4記載の蓄熱器では、低アルカリ性溶液として低融点ガラスが用いることで、ガラス本来の凝固性、及びアルカリ性による粘土鉱物の焼結性に基づいて、上記一層良好な金属壁に対する化学蓄熱材層の界面密着性と付着強度とが得られる。
請求項5記載の発明に係る蓄熱器は、請求項4記載の蓄熱器において、前記低融点ガラスとして、ホウケイ酸鉛系低融点ガラス、バナジウム系低融点ガラス、ビスマス系低融点ガラス、又はリン酸系低融点ガラスが用いられている。
請求項5記載の蓄熱器では、低融点ガラスとして、ホウケイ酸鉛系低融点ガラス、バナジウム系低融点ガラス、ビスマス系低融点ガラス、又はリン酸系低融点ガラスを用いることで、上記一層良好な金属壁に対する化学蓄熱材層の界面密着性と付着強度とが得られる。
請求項6記載の発明に係る蓄熱器は、請求項3記載の蓄熱器において、前記低アルカリ性溶液として、アルカリケイ酸水溶液が用いられている。
請求項6記載の蓄熱器では、低アルカリ性溶液としてアルカリケイ酸水溶液(水ガラス)が用いることで、アルカリ性による粘土鉱物の焼結性に基づいて、上記一層良好な金属壁に対する化学蓄熱材層の界面密着性と付着強度とが得られる。また、アルカリケイ酸水溶液は結晶化しないため、粘土鉱物に対する反応寄与量以上のアルカリケイ酸水溶液を金属壁と化学蓄熱材層との間に存在させておくことで、仮に部分的に金属壁から剥離されても再付着可能な自己修復性を反応膜に持たせることができる。
請求項7記載の発明に係る蓄熱器は、請求項6記載の蓄熱器において、前記アルカリケイ酸水溶液は、M2O/SiO2(Mは、Na、K、Li、又はNH4、SiO2に対するM2Oのモル比Xは、0.2≦X≦1.5)の組成式より成る化合物の水溶液である。
請求項7記載の蓄熱器では、上記構成の化合物の水溶液を用いることで、上記一層良好な金属壁に対する化学蓄熱材層の界面密着性と付着強度とが得られる。なお、X<0.2では上記化合物が水に対し難溶解となるため製造が困難となり、X>1.5では上記化合物が水に対し過度に溶けやすくなるため耐久性に劣る。
請求項8記載の発明に係る蓄熱器は、請求項2〜請求項7の何れか1項記載の蓄熱器において、前記化学蓄熱材層は、前記反応膜の骨格構造に前記粉体化学蓄熱材を分散保持させて形成された部分を含んで構成されている。
請求項8記載の蓄熱器では、反応膜の骨格構造内に化学蓄熱材層の少なくとも一部が形成されている。このため、化学蓄熱材層(放熱、吸熱部位)と金属壁とが近接され、これらの間の伝熱性が一層良好になる。また、反応膜の骨格構造に分散保持された粉体化学蓄熱材は、蓄熱、吸熱反応に伴う膨張、収縮が許容され、耐久性が高い。
請求項9記載の発明に係る蓄熱器は、請求項2〜請求項8の何れか1項記載の蓄熱器において、記化学蓄熱材層は、前記反応膜を構成する粘土鉱物と同種の粘土鉱物と前記粉体化学蓄熱材とが混合されて構成され、前記反応膜に対する前記金属壁とは反対側で該反応膜に保持されている部分を含んで構成されている。
請求項9記載の蓄熱器では、反応膜における金属壁側とは反対側に化学蓄熱材層の少なくとも一部が位置している。化学蓄熱材層における少なくとも反応膜の外側に位置する部分は、該反応膜を構成する粘土鉱物と同種の粘土鉱物を含んで構成されており、これら粘土鉱物同士の結合(焼結等)によって、化学蓄熱材層が反応膜を介して金属壁に保持される。このように反応膜外に位置する部分を含む化学蓄熱材層は、その厚みの設定自由度が高い。
請求項10記載の発明に係る蓄熱器は、請求項1〜請求項9の何れか1項記載の蓄熱器において、前記粘土鉱物として、層リボン構造を有する粘土鉱物又はベントナイトが用いられている。
請求項10記載の蓄熱器では、粘土鉱物として層リボン構造を有する粘土鉱物(例えばセピオライト、パリゴルスカイト、カオリナイト等)又はベントナイトが用いられているため、粉体の化学蓄熱材を良好に組織化、構造化させることができる。層リボン構造を有する粘土鉱物の場合、その繊維質、可塑性によって粉体の化学蓄熱材を良好に組織化、構造化させることができ、ベントナイトの場合、その接着力によって粉体の化学蓄熱材を良好組織化、構造化させることができる。
請求項11記載の発明に係る蓄熱器は、請求項1〜請求項10の何れか1項記載の蓄熱器において、前記粉体化学蓄熱材として、脱水反応に伴い酸化され、水和反応に伴い水酸化される無機化合物であるアルカリ土類金属水酸化物が用いられている。
請求項11記載の蓄熱器では、粉体化学蓄熱材としてアルカリ土類金属水酸化物を用いるため、化学蓄熱材複合構造体の成形時に水酸化物の状態を出発原料とすることで、粉体化学蓄熱材を増粘又はスラリー化させるためのバインダとして水を用いることが可能になる。さらに比較的低温での焼成が可能になる。しかも、環境負荷の小さい材料を用いるため、製造、使用、リサイクルを含めた安全性の確保が容易になる。
請求項12記載の発明に係る蓄熱器の製造方法は、金属壁に低アルカリ性溶液及び粘土鉱物の少なくとも一方を含む反応膜を形成する反応膜形成工程と、粉体化学蓄熱材を前記金属壁に形成された前記反応膜に保持させて化学蓄熱材層を得る化学蓄熱材層形成工程と、を含む。
請求項12記載の蓄熱器の製造方法では、反応膜形成工程において金属壁の表面に反応膜を形成し、その後、化学蓄熱材層形成工程において、反応膜に粉体化学蓄熱材を保持させて、該反応膜を介して金属壁に保持された化学蓄熱材層を得る。このように製造された蓄熱器では、粉体化学蓄熱材より成る化学蓄熱材層は、多孔構造を成しており、その内部(多孔)を反応物又は反応生成物が流通することで蓄熱、放熱反応を生じ、この熱は金属壁を介して授受される。本蓄熱器では、金属壁に対する付着強度が高い低アルカリ性溶液及び粉体化学蓄熱材の保持性が良好な粘土鉱物の少なくとも一方を含んで反応膜が構成されているので、上記の通り多孔構造を成す化学蓄熱材層を、金属壁に対しを良好に保持させることができる。これにより、金属壁と化学蓄熱材層との伝熱経路である界面の密着性が確保される(低熱抵抗とされる)と共に、金属壁に対する化学蓄熱材層の付着強度(機械的接合強度)が確保され、化学蓄熱材層の劣化が抑制される。
このように、請求項12記載の蓄熱器の製造方法では、化学蓄熱材層の耐久性を向上させることができると共に、化学蓄熱材層に対する伝熱経路を確保することができる蓄熱器を製造することができる。
請求項13記載の発明に係る蓄熱器の製造方法は、請求項12記載の蓄熱器の製造方法において、前記反応膜形成工程では、前記金属壁の表面に前記低アルカリ性溶液を介して粘土鉱物を保持させることで、骨格構造の前記反応膜を形成する。
請求項13記載の蓄熱器の製造方法では、反応膜形成工程において、金属壁に対する付着強度が高い低アルカリ性溶液のアルカリに対し粘土鉱物が溶融、硬化する特性を利用して、粘土鉱物の繊維より成る骨格構造が低アルカリ性溶液を介して金属壁の表面に強固に付着させる。このため、化学蓄熱材層形成工程では、上記の骨格構造に粉体化学蓄熱材を保持させることができ、上記した金属壁に対する化学蓄熱材層の界面密着性と付着強度とが一層良好に得られる。
請求項14記載の発明に係る蓄熱器の製造方法は、請求項13の蓄熱器の製造方法において、前記化学蓄熱材層形成工程は、前記骨格構造の反応膜内にスラリー化した粉体化学蓄熱材を含浸させる含浸工程と、加熱により前記骨格構造を成す粘土鉱物を構造化させる加熱工程とを含む。
請求項14記載の蓄熱器の製造方法では、化学蓄熱材層形成工程の含浸工程で、反応膜形成工程で形成された粘土鉱物の繊維より成る骨格構造に、粉体化学蓄熱材のスラリーを含浸させ、加熱工程で粘土鉱物の繊維を構造化(焼結等)させる。これにより、反応膜の骨格構造内に粉体化学蓄熱材が分散保持された化学蓄熱材層が形成された蓄熱器を得ることができる。
請求項15記載の発明に係る蓄熱器の製造方法は、請求項13の蓄熱器の製造方法において、前記化学蓄熱材層形成工程は、前記粉体化学蓄熱材の成形体を前記反応膜に密着させる密着工程と、加熱により前記骨格構造を成す粘土鉱物を構造化させる加熱工程とを含む。
請求項15記載の蓄熱器の製造方法では、化学蓄熱材層形成工程の密着工程で、粉体化学蓄熱材を成形して成る成形体を反応膜すなわち粘土鉱物の骨格構造に密着させる。すると、成形体を成す粉体化学蓄熱材の一部が骨格構造内に入り込む。この状態から加熱工程で粘土鉱物の繊維を構造化(焼結等)させることで、化学蓄熱材の成形体が反応膜により強固に保持された蓄熱器を得ることができる。また、成形体を接合する方法であるため、化学蓄熱材層の厚みを制御しやすい。なお、粉体化学蓄熱材の成形体に粘土鉱物を混ぜておくことで、該粘土鉱物と反応膜の粘土鉱物との構造化(焼結等)による付着強度の向上が図られる。
請求項16記載の発明に係る蓄熱器の製造方法は、請求項13の蓄熱器の製造方法において、前記化学蓄熱材層形成工程は、前記骨格構造の反応膜内にスラリー化した粉体化学蓄熱材を含浸させる含浸工程と、前記粉体化学蓄熱材の成形体を前記反応膜に密着させる密着工程と、加熱により前記骨格構造を成す粘土鉱物を構造化させる加熱工程とを含む。
請求項16記載の蓄熱器の製造方法では、化学蓄熱材層形成工程の含浸工程で、反応膜形成工程で形成された粘土鉱物の繊維より成る骨格構造に、粉体化学蓄熱材のスラリーを含浸させ、さらに密着工程で、粉体化学蓄熱材を成形して成る成形体を反応膜すなわち粘土鉱物の骨格構造に密着させる。すると、成形体を成す粉体化学蓄熱材の一部が骨格構造内に入り込む。この状態から加熱工程で粘土鉱物の繊維を構造化(焼結等)させることで、化学蓄熱材の成形体が反応膜により強固に保持された蓄熱器を得ることができる。
これにより、本蓄熱器の製造方法では、反応膜の内外に化学蓄熱材層を形成することができる。このため、化学蓄熱材層の厚みの制御性が良好で、また金属壁に化学蓄熱材層を近接配置することによる伝熱性能向上を図ることができる。なお、粉体化学蓄熱材の成形体に粘土鉱物を混ぜておくことで、該粘土鉱物と反応膜の粘土鉱物との構造化(焼結等)による付着強度の向上が図られる。
請求項17記載の発明に係る蓄熱器の製造方法は、請求項14〜請求項16の何れか1項記載の蓄熱器の製造方法において、前記反応膜形成工程では、前記低アルカリ性溶液として低融点ガラスを用い、化学蓄熱材層形成工程では、前記粉体化学蓄熱材として水和反応系化学蓄熱材を用い、かつ400℃以上でかつ500℃以下の温度で前記加熱工程を行う。
請求項17記載の蓄熱器の製造方法では、低アルカリ性溶液として低融点ガラスが用いることで、ガラス本来の凝固性、及びアルカリ性による粘土鉱物の焼結性に基づいて、上記一層良好な金属壁に対する化学蓄熱材層の界面密着性と付着強度とが得られる。また、加熱温度を400〜500℃とすることで、粘土鉱物の構造化、化学蓄熱材の脱水、及び粉体化学蓄熱材のへのマイクロクラック生成に伴う比表面積の増加を同時に処理するができる。
請求項18記載の発明に係る蓄熱器の製造方法は、請求項14〜請求項16の何れか1項記載の蓄熱器の製造方法において、前記反応膜形成工程では、前記低アルカリ性溶液としてアルカリケイ酸水溶液を用い、化学蓄熱材層形成工程では、前記粉体化学蓄熱材として水和反応系化学蓄熱材を用い、かつ前記加熱工程を行う前、60℃〜120℃の温度で加熱することで前記アルカリケイ酸水溶液中の水分を除去するための乾燥工程をさらに行う。
請求項18記載の蓄熱器の製造方法では、低アルカリ性溶液としてアルカリケイ酸水溶液(水ガラス)が用いることで、アルカリ性による粘土鉱物の焼結性に基づいて、上記一層良好な金属壁に対する化学蓄熱材層の界面密着性と付着強度とが得られる。また、アルカリケイ酸水溶液は結晶化しないため、粘土鉱物に対する反応寄与量以上のアルカリケイ酸水溶液を金属壁と化学蓄熱材層との間に存在させておくことで、仮に部分的に金属壁から剥離されても再付着可能な自己修復性を反応膜に持たせることができる。
さらに、加熱工程を行う前に乾燥工程でアルカリケイ酸水溶液中の水分が除去される。このため、乾燥工程の温度域(120℃よりも高い範囲)でアルカリケイ酸水溶液、粘土鉱物、化学蓄熱材中の成分が水に溶解されやすい状態となっても、該成分が水に溶解することがなく、該成分が水の流動に伴い偏在する等に不具合が防止又は効果的に抑制される。
以上説明したように本発明に係る蓄熱器は、化学蓄熱材層の耐久性を向上させることができると共に、化学蓄熱材層に対する伝熱経路を確保することができるという優れた効果を奏する。
また、本発明に係る蓄熱器の製造方法は、化学蓄熱材層の耐久性を向上させることができると共に、化学蓄熱材層に対する伝熱経路を確保することができる蓄熱器を製造することができるという優れた効果を奏する。
本発明の第1の実施形態に係る蓄熱器としての熱交換型蓄熱放熱装置10、及びその製造方法について、図1〜図4に基づいて説明する。
図3には、熱交換型蓄熱放熱装置10の概略構成が模式的な斜視図にて示されている。この図に示される如く、熱交換型蓄熱放熱装置10は、容器としての熱交換器本体18と、該熱交換器本体18に設けられた化学蓄熱材複合構造体としての化学蓄熱材層11とを備えている。熱交換器本体18は、シェル(外壁)20と、シェル20内を複数の空間に区画する壁体としての隔壁22とを有する。
これにより、熱交換器本体18の内部は、化学蓄熱材層11が配設される化学蓄熱材室としての蓄熱材収容部24と、該化学蓄熱材層11との間で熱交換を行う熱交換媒体としての流体が流通する流体流路26とが、隔壁22を挟んで交互に配置されている。
蓄熱材収容部24、流体流路26は、それぞれ隔壁22が長辺とされる扁平矩形状の開口端を有する角柱状空間とされている。この実施形態では、熱交換器本体18は、蓄熱材収容部24、流体流路26が断面の扁平方向に隣接され、かつ該隣接方向の両端に流体流路26が配置される構成とされている。したがって、各蓄熱材収容部24は、それぞれ流体流路26に挟まれて配置されている。
また、この実施形態では、熱交換器本体18は、例えばステンレス鋼やアルミニウム(アルミニウム合金を含む)等の金属材料にて構成されている。そして、熱交換型蓄熱放熱装置10では、熱交換器本体18を構成する隔壁22における蓄熱材収容部24を向く面に化学蓄熱材層11が密着されている。したがって、熱交換器本体18の隔壁22が本発明における金属壁に相当する。
なお、この実施形態では、図3に示される如く、化学蓄熱材層11は、蓄熱材収容部24の内周面に沿って略矩形筒状を成しており、その内部に水蒸気流路28が形成されている。すなわち、この実施形態では、矩形筒状を成す化学蓄熱材層11の平面視で短辺部分は、シェル20の内面に密着されており、該隔壁22(の一部)も本発明における金属壁に相当する。なお、化学蓄熱材層11は、蓄熱材収容部24内で対向する一対の隔壁22にそれぞれ平坦状に(分離して)一対形成され、該一対の化学蓄熱材層11間の空間を水蒸気流路28としても良い。
化学蓄熱材層11は、図1に模式的に示される如く、粉体化学蓄熱材12を後述する反応膜30によって隔壁22に保持させることで形成されている。粉体化学蓄熱材12は、無機化合物としてのアルカリ土類金属水酸化物である水酸化カルシウム(Ca(OH)2)とされており、脱水に伴って蓄熱(吸熱)し、水和(水酸化カルシウムへの復原)に伴って放熱(発熱)する構成とされている。すなわち、多数の粉体化学蓄熱材12は、以下に示す反応で蓄熱、放熱を可逆的に繰り返し得る構成とされている
Ca(OH)2 ⇔ CaO + H2O
この式に蓄熱量、発熱量Qを併せて示すと、
Ca(OH)2 + Q → CaO + H2O
CaO + H2O → Ca(OH)2 + Q
となる。
この実施形態では、粉体化学蓄熱材12として、平均粒子径は略8〜10μm(レーザー回析式測定法、島津製作所製SALD−2000Aによる)のものが用いられている。また、
反応膜30は、低アルカリ性溶液である低融点ガラス32と、粘土鉱物であるセピオライト34とを主成分として構成されている。セピオライト34は、層リボン構造の粘土鉱物、より具体的には輝石に似た単鎖が複数本結合して四面体リボンを形成している粘土鉱物の1つとして把握される。セピオライト34は、例えば、Mg8Si12O30(OH)4(OH2)4・8H2Oの化学式で表すことができる含水マグネシウム珪酸塩であり、それ自体が多孔質でありかつ比表面積が大きい繊維状を成している。なお、この実施形態では、上記化学式で表されるものの変種についてもセピオライト34に含まれるものとしている。
また、この実施形態に係るセピオライト34としては、水に懸濁した場合の繊維径が粉体化学蓄熱材12の平均粒子径Dよりも小さい繊維状を成すものが用いられている。具体的には、セピオライト34は、その線径(繊維径)が1μm以下、その長さ(繊維長)が200μm以下のものを用いることが望ましい。この実施形態では、線径が略0.01μmで長さが略数十μmのトルコ産のセピオライトを用いている。なお、トルコ産のセピオライトに代えて、例えば線径が略0.1μmで長さが略100μmのスペイン産のセピオライトを用いることもできる。
以上説明したセピオライト34は、繊維が構造化されて多孔質の骨格構造を形成するようになっている。一方、低融点ガラス32は、金属に対する付着強度が高く、かつ、そのアルカリ性によってセピオライト34と反応し、該セピオライト34を溶融、硬化させる性質を有する。すなわち、低融点ガラス32は、金属製の隔壁22及び無機物であるセピオライト34の何れに対しても高い付着強度を発揮し得る構成とされている。この実施形態では、低融点ガラス32として、ホウケイ酸鉛系低融点ガラス、バナジウム系低融点ガラス、ビスマス系低融点ガラス、又はリン酸系低融点ガラスが採用される。
図2(C)に示される如く、反応膜30は、セピオライト34の繊維より成る可塑性の骨格構造部36が低融点ガラス32を介して隔壁22に保持されることで形成されているものと把握することができる。なお、反応膜30の骨格構造部36は、セピオライト34にバインダを混合して成膜化されたものであっても良く、セピオライト34の繊維を紙抄き法等により構造化して(絡ませて)成る自立膜として形成されたものであっても良い。
そして、図1に示される如く、熱交換型蓄熱放熱装置10では、化学蓄熱材層11は、反応膜30の骨格構造部36に粉体化学蓄熱材12を分散保持させることで、隔壁22の表面に一体的に形成(保持)されている。すなわち、化学蓄熱材層11は、多孔質を成すセピオライト34の骨格中に多数の粉体化学蓄熱材12が分散保持された構造として把握される。
これにより、化学蓄熱材層11は、多数の粉体化学蓄熱材12間に細孔38が形成された多孔質構造体としての構造が、セピオライト34の繊維より成る反応膜30の骨格構造部36によって保持(補強)された構成とされている。この実施形態では、化学蓄熱材層11すなわち骨格構造部36の厚みは、数mm程度とされている。
以下、熱交換型蓄熱放熱装置10の製造方法について、図4に基づいて説明する。
図4には、熱交換型蓄熱放熱装置10の製造方法が模式的に示されている。熱交換型蓄熱放熱装置10を製造するにあたっては、先ず、図4に示される材料準備工程である工程Aで、原料である水酸化物(Ca(OH)2)の状態の粉体化学蓄熱材12及びバインダである水Wを用意する。次いで、混合工程である工程Bで、粉体化学蓄熱材12、水Wを混合攪拌容器40内で混合し、さらに攪拌工程である工程Cで、撹拌機42にて撹拌(混練)する。これにより、スラリ(増粘)化されたスラリーSが得られる。
一方、上記した工程A〜工程Cとは独立して(時間の前後なく)、熱交換器本体18における蓄熱材収容部24内を向く隔壁22表面に反応膜30を形成する反応膜形成工程を行う。具体的には、図4に示す工程Dで、流体流路26にマスクを施した熱交換器本体18の内表面(図2(A)に示す隔壁22、シェル20)に低融点ガラス32を薄く塗布(浸漬等による塗布でも良い)する。これにより、図2(B)に示される如く、熱交換器本体18の内表面である隔壁22、シェル20には、反応膜30を構成する低融点ガラス32の薄膜が形成される。
次いで、図4に示す工程Eで、低融点ガラス32が塗布された熱交換器本体18の内表面にセピオライト34を配置する。セピオライト34は、例えば、バインダとの混合により増粘化された混練物として熱交換器本体18の内表面に所定厚さで塗布しても良く、自立膜とされたものを貼付(低融点ガラス32にプレス)しても良い。また、自立膜としての骨格構造部36に低融点ガラス32を塗布、塗り込み等して、工程Dと工程Eとをまとめて行うようにしても良い。
さらに、図4に示す工程Fで、内表面にセピオライト34が配置された熱交換器本体18を焼成炉44にて焼成する。この工程Fにおける焼成温度は略300℃とされる。これにより蓄熱材収容部24の内表面には、図2(C)に示される如く、金属壁に強固に付着される低融点ガラス32のアルカリとの反応で溶融、硬化されたセピオライト34が成す骨格構造部36を含む反応膜30が形成される。なお、300℃での焼成は、セピオライト34を構造化(焼結)させることはなく、仮焼成として捉えることができる。
そして、工程Cで得たスラリーSを用いて、焼成炉44から取り出した熱交換器本体18に化学蓄熱材層11を形成する化学蓄熱材層形成工程を行う。具体的には、含浸肯定である工程Gで、流体流路26がマスクされた熱交換器本体18を容器46内のスラリーSに浸漬(ウォッシュコート)し、反応膜30の骨格構造部36内に粉体化学蓄熱材12のスラリーSを含浸(充填)させる。次いで、加熱工程としての焼成工程である工程Hで、反応膜30にスラリーSが含浸された熱交換器本体18を焼成炉44にて焼成する。この工程Hにおける焼成温度は略450℃とされる。
この450℃の焼成温度は、セピオライト34の焼結温度である350℃〜400℃よりも高く、かつ水酸化カルシウムの脱水温度(脱水温度は、雰囲気水蒸気圧力により異なるが、略400℃〜450℃)以上であるため、セピオライト34の構造化と粉体化学蓄熱材12の脱水とが同時に進行する。これにより、化学蓄熱材層11は、繊維の焼結によって構造化された骨格構造部36に脱水状態の粉体化学蓄熱材12が分散保持される。また、450℃の焼成温度は、粉体化学蓄熱材12にマイクロクラックが形成される温度範囲(400℃〜500℃)内の温度であり、化学蓄熱材層11を構成する粉体化学蓄熱材12は、工程Hを経ることでマイクロクラックが形成される。すなわち、熱交換型蓄熱放熱装置10では、粉体化学蓄熱材12の比表面積が増大されている。
以上により、図1に示される如く、熱交換型蓄熱放熱装置10は、反応膜30の骨格構造部36内に多数の粉体化学蓄熱材12が分散保持された化学蓄熱材層11が熱交換器本体18における蓄熱材収容部24の内表面に形成され、その製造が完了される。
次に、第1の実施形態に係る熱交換型蓄熱放熱装置10の作用を説明する。
熱交換型蓄熱放熱装置10の化学蓄熱材層11に蓄熱する際には、流体流路26に熱源からの熱媒を流通させる。すると、熱媒からの熱によって化学蓄熱材層11が脱水反応を生じ、この熱が化学蓄熱材層11に蓄熱される。この際、化学蓄熱材層11から脱水された水蒸気は、細孔38、水蒸気流路28を通じて放出される。
一方、熱交換型蓄熱放熱装置10に蓄熱された熱を放熱する際には、熱交換型蓄熱放熱装置10は、図示しない蒸発器等からの水蒸気が水蒸気流路28を通じて熱交換型蓄熱放熱装置10内の化学蓄熱材層11内の細孔38に供給される。これにより、化学蓄熱材層11を構成する粉体化学蓄熱材12は、水和反応を生じつつ放熱する。この熱は、流体流路26を流通する熱輸送媒体によって加熱対象に輸送され、加熱対象の加熱に供される。
このように、熱交換型蓄熱放熱装置10では、粉体化学蓄熱材12が反応膜30の骨格構造部36に分散保持された化学蓄熱材層11の多孔性(細孔38)を利用して、粉体化学蓄熱材12に対する水蒸気の供給、放出経路の確保と、化学蓄熱材層11全体としての構造化とが両立されている。
そして、熱交換型蓄熱放熱装置10では、低融点ガラス32とセピオライト34とを主成分とする反応膜30を介して、化学蓄熱材層11が熱交換壁である隔壁22に保持されている。すなわち、熱交換型蓄熱放熱装置10では、金属及び無機物(セピオライト34)を強固に結合させる低融点ガラス32の性質と、骨格構造部36を成して粉体化学蓄熱材12を強固に保持するセピオライト34の性質とを利用して、化学蓄熱材層11と隔壁22とは高い熱的密着度、機械的付着強度で付着(結合)されている。
特に、低アルカリ性溶液としての低融点ガラス32は、ガラス本来の凝固性(金属表面への良好な付着性)と、アルカリ性によりセピオライト34を硬化(焼結化)させる性質とから、一層高い反応膜30の成膜強度を得ることができる。これにより、例えば、反応膜30は、琺瑯製品の如き表面処理膜と同等程度の強度を得ることができる。
このため、熱交換型蓄熱放熱装置10では、化学蓄熱材層11と流体流路26の流体との隔壁22を介した熱伝導率が高い。したがって、熱源からの熱回収効率、化学蓄熱材層11の発熱の利用効率が共に高くなる。
また、化学蓄熱材層11を構成する粉体化学蓄熱材12は、水和(放熱)、脱水(蓄熱)に伴って、体積膨張、収縮を繰り返し、化学蓄熱材層11は線膨張係数が異なる熱交換器本体18に対して相対的に体積膨張、収縮を繰り返すこととなる。ここで、本実施形態に係る熱交換型蓄熱放熱装置10では、上記の通り粉体化学蓄熱材12が可塑性の骨格構造部36内で分散保持されている。このため、各粉体化学蓄熱材12の膨張収縮が許容されながら骨格構造部36によって分散保持された構造が維持される。これにより、化学蓄熱材層11の体積膨張、収縮に伴い該化学蓄熱材層11の一部が粉体化することが防止又は効果的に抑制される。
以上説明したように、第1の実施形態に係る熱交換型蓄熱放熱装置10では、化学蓄熱材層11の粉体化を抑制して耐久性を向上させることができると共に、化学蓄熱材複合構造体に対する伝熱経路を確保することができる。また、熱交換型蓄熱放熱装置10では、水蒸気流路28に面する化学蓄熱材層11の内表面を通じて粉体化学蓄熱材12(細孔38)に対し水蒸気を良好に供給、放出することができる。
また、熱交換型蓄熱放熱装置10では、骨格構造部36内に粉体化学蓄熱材12が分散保持されて化学蓄熱材層11が形成されているため、隔壁22と粉体化学蓄熱材12とが近接して配置されることとなり、これによっても隔壁22(流体流路26の流体)と粉体化学蓄熱材12との間の熱抵抗の低減に寄与する。
また特に、粘土鉱物としてセピオライト34が採用されているため、繊維の構造化によって、上記の通り水蒸気の供給、放出経路である細孔38を確保しつつ粉体化学蓄熱材12を分散保持することができる。これにより、上記した粉体化学蓄熱材12の粉体化抑制にも寄与する。さらに、骨格構造部36中に余剰の水蒸気を吸着して低温時に蓄熱材収容部24内が液水化を防止又は固化的に抑制することができ、水分と粉体化学蓄熱材12との反応によるシンタリングの抑制に寄与する。
さらに、化学蓄熱材層11では、粉体化学蓄熱材12として無機化合物である水酸化カルシウムを用いているため、蓄熱、放熱反応(水和、脱水)に対する材料安定性が高い。特に、水酸化カルシウムは、例えば水酸化マグネシウム等に対しても可逆性が高い(ほぼ100%の水和、脱水反応率を有する)ため、長期間に亘り安定した蓄熱効果を得ることができる。また、水酸化カルシウムは、水酸化マグネシウム等に対して不純物に対する感度が低いので、この点でも長期安定運転に寄与する。また特に、粉体化学蓄熱材12としてアルカリ土類金属化合物である水酸化カルシウムを用いているため、換言すれば、環境負荷の小さい材料を用いるため、化学蓄熱材層11の製造、使用、リサイクルを含めた安全性の確保が容易になる。
さらにここで、熱交換型蓄熱放熱装置10では、水酸化物である水酸化カルシウムの粉体を用いて化学蓄熱材層11を製造するため、撹拌工程で粉体化学蓄熱材12をスラリー化するためのバインダとして水を用いることができる。これにより、簡単かつ安価な方法で化学蓄熱材層11を得ることができる。例えば、酸化カルシウムを出発物質とした場合には、該酸化カルシウムは水に反応するために水(水を含む液体)をバインダとして用いることができない。また例えば、炭酸カルシウムを出発原料として粉体化学蓄熱材12(水酸化カルシウム)を得る場合には、脱炭酸工程で950℃〜1000℃程度の高温焼成が要求される。これに対して熱交換型蓄熱放熱装置10では、上記の通り水酸化カルシウムを出発原料として化学蓄熱材層11が製造されるため、水をバインダとして粉体化学蓄熱材12を撹拌することで増粘効果が得られ、成形性が向上する。
またさらに、熱交換型蓄熱放熱装置10の製造方法では、工程Hにおいて450℃の焼成温度で焼成を行うため、粉体化学蓄熱材12の組織化、構造化と比表面積の増大とを同時に果たすことができる。そして、粉体化学蓄熱材12の比表面積が増大されるので、蓄熱、放熱反応における反応速度が向上する。
次に、本発明の他の実施形態について説明する。なお、上記第1の実施形態又は前出の構成と基本的に同一の部品、部分については、上記第1の実施形態又は前出の構成同一の符号を付して説明を省略し、また図示を省略する場合がある。
(第2の実施形態)
図5には、本発明の第2の実施形態に係る熱交換型蓄熱放熱装置50の要部が図1に対応する断面図にて示されている。この図に示される如く、熱交換型蓄熱放熱装置50は、反応膜30の骨格構造部36内に形成された化学蓄熱材層11に代えて、主に反応膜30の外側に形成された化学蓄熱材層52を備えて構成されている点で、第1の実施形態に係る熱交換型蓄熱放熱装置10とは異なる。
具体的には、熱交換型蓄熱放熱装置50は、粉体化学蓄熱材12を所定形状に形成して成る成形体として構成された化学蓄熱材複合物成形体54が、反応膜30を介して隔壁22(隔壁22)に固定的に保持されることで、化学蓄熱材層52が形成された構成とされている。図5に示される如く、化学蓄熱材複合物成形体54は、多数の粉体化学蓄熱材12が組織化、構造化されたものであって、これら多数の粉体化学蓄熱材12間には細孔38が形成されている。
また、この実施形態に係る化学蓄熱材複合物成形体54では、多数の粉体化学蓄熱材12に絡まるように粘土鉱物であるセピオライト34が多数の粉体化学蓄熱材12間に介在している。換言すれば、化学蓄熱材複合物成形体54は、多孔質を成すセピオライト34の骨格中に多数の粉体化学蓄熱材12が分散保持された構造として把握される。これにより、化学蓄熱材複合物成形体54では、多数の粉体化学蓄熱材12間に細孔38が形成された多孔質構造体としての構造がセピオライト34によって保持(補強)されるようになっている。この実施形態では、粉体化学蓄熱材12に対するセピオライト34の混合比は、例えば略5〜10質量%程度とされている。
この実施形態では、化学蓄熱材複合物成形体54は、熱交換器本体18における蓄熱材収容部24の内周面(隔壁22、シェル20)に沿った略矩形筒状を成しており、その内部が水蒸気流路28とされている。化学蓄熱材複合物成形体54の壁厚は、数mm程度とされている。なお、平板状に形成された一対の化学蓄熱材複合物成形体54を対向する隔壁22に固着させる構成としても良い。
そして、熱交換型蓄熱放熱装置50では、上記した通り化学蓄熱材複合物成形体54が反応膜30を介して隔壁22に保持されて、化学蓄熱材層52が形成されている。反応膜30は、その骨格構造部36を構成するセピオライト34が、化学蓄熱材複合物成形体54を構成する同種の粘土鉱物であるセピオライト34と焼結されることで、化学蓄熱材複合物成形体54を固定的に保持する構成とされている。したがって、熱交換型蓄熱放熱装置50では、化学蓄熱材複合物成形体54は、その粉体化学蓄熱材12、セピオライト34の一部を骨格構造部36(多孔部)内に入り込ませて反応膜30に保持されている。
換言すれば、熱交換型蓄熱放熱装置50では、骨格構造部36内における隔壁22側の一部には粉体化学蓄熱材12が存在しにくい(密度が低くなりやすい)。このため、熱交換型蓄熱放熱装置50における骨格構造部36の厚みは、数百μm程度とされており、熱交換型蓄熱放熱装置10において化学蓄熱材層11が形成される骨格構造部36の厚み(数mm程度)に対し十分に薄く構成されている。
以下、熱交換型蓄熱放熱装置50の製造方法について、図7に基づいて説明する。
図7には、熱交換型蓄熱放熱装置50の製造方法が模式的に示されている。熱交換型蓄熱放熱装置10を製造するにあたっては、先ず、図7に工程A〜工程Dで示される成形体成形工程にて化学蓄熱材複合物成形体54を成形(製造)する。具体的には、先ず、工程Aに示される如く、原料である粉体化学蓄熱材12、セピオライト34を用意する。
次いで、混合工程である工程Bで、それぞれ乾粉状態の粉体化学蓄熱材12とセピオライト34とを、混合容器56に容れて均一に混合する。次いで、混練工程である工程Cで、粉体化学蓄熱材12とセピオライト34との混合物を混練機58に入れ、バインダとしての水を徐々に加えながら練り込み(混練し)増粘化させる。これにより、粉体化学蓄熱材12とセピオライト34との混練物Mが生成される。この混練物Mは、全体として粘土状態を示す。
次いで、成形工程である工程Dで、混練物Mを押し出し型60に移し、押し出し成形する。これにより、上記混練物Mは、押し出し型60の形状に応じた所定形状、すなわち熱交換器本体18の蓄熱材収容部24に対応した略扁平矩形筒状に形成される。以上により、化学蓄熱材複合物成形体54が成形される。この段階で化学蓄熱材複合物成形体54は、セピオライト34が未焼結であり、必要に応じて、セピオライト34が焼結されない温度範囲(例えば150℃程度)の温度で乾燥される。
一方、上記した工程A〜工程Dとは独立して(時間の前後なく)、熱交換器本体18における蓄熱材収容部24内を向く隔壁22表面に反応膜30を形成する反応膜形成工程を行う。図7に示す工程E〜工程Gを含む反応膜形成工程は、形成する反応膜30の膜厚を除き熱交換型蓄熱放熱装置10の製造方法(図4)における工程D〜工程Fと共通するので、説明を省略する。
次いで、挿入工程である工程Hで、工程Dで成形された化学蓄熱材複合物成形体54を、熱交換器本体18における内周面に反応膜30が形成された蓄熱材収容部24内に圧挿する。この際、焼成前の柔軟な化学蓄熱材複合物成形体54は、熱交換器本体18の反応膜30(蓄熱材収容部24内面)になじみながら該蓄熱材収容部24内に挿入される。図6に示される如く、この工程Hは、化学蓄熱材複合物成形体54が反応膜30にプレスされる工程とほぼ同等のものと把握しても良く、本発明における密着工程に相当する。これにより、化学蓄熱材複合物成形体54を構成する粉体化学蓄熱材12、セピオライト34の一部が骨格構造部36に入り込み、該骨格構造部36を構成するセピオライト34に絡みつく。すなわち、化学蓄熱材複合物成形体54が反応膜30に密着される。
次いで、加熱工程としての焼成工程である工程Iで、反応膜30に化学蓄熱材複合物成形体54が密着された状態の熱交換器本体18を焼成炉44にて焼成する。この工程Iにおける焼成温度は略450℃とされる。この焼成によって、反応膜30を構成するセピオライト34と、化学蓄熱材複合物成形体54を構成するセピオライト34とは、それぞれ焼結により構造化され、かつ上記の通りこれらが絡まった部分も焼結により結合されて構造化される。
以上により、図5に示される如く、熱交換型蓄熱放熱装置10は、多数の粉体化学蓄熱材12がセピオライト34の骨格構造に分散保持されて構成された化学蓄熱材複合物成形体54が、反応膜30の骨格構造部36を介して熱交換器本体18における蓄熱材収容部24の内表面に形成され、換言すれば、蓄熱材収容部24の内表面に化学蓄熱材層52が形成され、その製造が完了される。
そして、以上説明した熱交換型蓄熱放熱装置50は、熱交換器本体18における蓄熱材収容部24の内表面に、反応膜30を介して、内部に細孔38を有する多孔構造を粉体化学蓄熱材12が構成した化学蓄熱材層を有する点で、熱交換型蓄熱放熱装置10と共通する。したがって、第2の実施形態に係る熱交換型蓄熱放熱装置50によっても、基本的に第1の実施形態に係る熱交換型蓄熱放熱装置10と同様の作用によって同様の効果を奏する。
また、熱交換型蓄熱放熱装置50では、反応膜30を介して化学蓄熱材複合物成形体54を蓄熱材収容部24の内表面に貼り付けることで化学蓄熱材層52が形成されるため、骨格構造部36内に化学蓄熱材層11が形成される熱交換型蓄熱放熱装置10に対し、化学蓄熱材層52の厚みの設定自由度が高い。すなわち、熱交換型蓄熱放熱装置50では、より厚肉の化学蓄熱材層を得やすい。
(第3の実施形態)
図8には、本発明の第3の実施形態に係る熱交換型蓄熱放熱装置70の要部が図1に対応する断面図にて示されている。この図に示される如く、熱交換型蓄熱放熱装置70は、反応膜30の骨格構造部36内に形成された化学蓄熱材層11と、反応膜30の外側に形成された化学蓄熱材層52とを含む化学蓄熱材層72を備えて構成されている点で、第1の実施形態に係る熱交換型蓄熱放熱装置10とは異なる。
具体的には、熱交換型蓄熱放熱装置70は、反応膜30の骨格構造部36内に粉体化学蓄熱材12が分散保持されて化学蓄熱材層11が形成されると共に、骨格構造部36を介して化学蓄熱材複合物成形体54が保持されて化学蓄熱材層52が形成されることで、化学蓄熱材層72が構成されている。化学蓄熱材層52を含む本実施形態では、骨格構造部36すなわち化学蓄熱材層11の厚みは数百μm程度とされ、化学蓄熱材層52の厚み(数mm程度)に対し十分に薄く構成されている。
以下、熱交換型蓄熱放熱装置70の製造方法について、図10(図10−1、図10-2)に基づいて説明する。
図7には、熱交換型蓄熱放熱装置70の製造方法が模式的に示されている。熱交換型蓄熱放熱装置10を製造するにあたっては、先ず、図10−1に示される工程A〜工程Hで、蓄熱材収容部24の内周面に反応膜30を介して化学蓄熱材層11が形成された熱交換器本体18を製造する。この工程A〜Hは、形成する化学蓄熱材層11の厚み(骨格構造部36の膜厚)を除き、熱交換型蓄熱放熱装置10の製造方法(図4)における工程A〜工程Hと共通するので、説明を省略する。次いで、図10−2に示される成形体成形工程すなわち工程I〜工程Lにて、化学蓄熱材複合物成形体54を成形(製造)する。この工程I〜工程L熱交換型蓄熱放熱装置50の製造方法(図7)における工程A〜工程Dと共通するので、説明を省略する。
次いで、挿入工程である工程Mで、工程Lで成形された化学蓄熱材複合物成形体54を、工程Hを経た熱交換器本体18における内周面に反応膜30が形成された蓄熱材収容部24内に圧挿する。この際、焼成前の柔軟な化学蓄熱材複合物成形体54は、熱交換器本体18の反応膜30(蓄熱材収容部24内面)になじみながら該蓄熱材収容部24内に挿入される。図9に示される如く、この工程Mは、化学蓄熱材複合物成形体54が化学蓄熱材層11(反応膜30)にプレスされる工程とほぼ同等のものと把握しても良く、本発明における密着工程に相当する。これにより、化学蓄熱材複合物成形体54を構成する粉体化学蓄熱材12、セピオライト34の一部が骨格構造部36に入り込み、該骨格構造部36を構成するセピオライト34に絡みつく。すなわち、化学蓄熱材複合物成形体54が反応膜30に密着される。
次いで、加熱工程としての焼成工程である工程Nで、骨格構造部36内に化学蓄熱材層11が形成されると共に該反応膜30の骨格構造部36に化学蓄熱材複合物成形体54が密着された状態の熱交換器本体18を焼成炉44にて焼成する。この工程Nにおける焼成温度は略450℃とされる。この焼成によって、この焼成によって、反応膜30を構成するセピオライト34と、化学蓄熱材複合物成形体54を構成するセピオライト34とは、それぞれ焼結により構造化され、かつ上記の通りこれらが絡まった部分も焼結により結合されて構造化される。
以上により、図8に示される如く、熱交換型蓄熱放熱装置10は、化学蓄熱材層11と化学蓄熱材層52との2層構造の化学蓄熱材層72が、反応膜30の骨格構造部36を介して熱交換器本体18における蓄熱材収容部24の内表面に形成され、その製造が完了される。
そして、以上説明した熱交換型蓄熱放熱装置70は、熱交換器本体18における蓄熱材収容部24の内表面に、反応膜30を介して、内部に細孔38を有する多孔構造を粉体化学蓄熱材12が構成した化学蓄熱材層を有する点で、熱交換型蓄熱放熱装置10と共通する。したがって、第3の実施形態に係る熱交換型蓄熱放熱装置70によっても、基本的に第1の実施形態に係る熱交換型蓄熱放熱装置10と同様の作用によって同様の効果を奏する。
また、熱交換型蓄熱放熱装置70では、反応膜30を介して化学蓄熱材複合物成形体54を蓄熱材収容部24の内表面に貼り付けることで形成された化学蓄熱材層52を含むため、骨格構造部36内に形成された化学蓄熱材層11のみ有する熱交換型蓄熱放熱装置10に対し、化学蓄熱材層72の厚みの設定自由度が高い。すなわち、熱交換型蓄熱放熱装置70では、より厚肉の化学蓄熱材層を得やすい。
さらに、熱交換型蓄熱放熱装置70では、骨格構造部36内に化学蓄熱材層11が形成されているため、該化学蓄熱材層11を有しない熱交換型蓄熱放熱装置50と比較して、粉体化学蓄熱材12が隔壁22に近接して配置され隔壁22(流体流路26の流体)と粉体化学蓄熱材12との間の熱抵抗の低減に寄与する。
(材料の変形例)
なお、上記第1〜第3の実施形態では、低アルカリ性溶液として低融点ガラス32を用いたれを示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、低アルカリ性溶液としてアルカリケイ酸水溶液(水ガラス)を用いた構成としても良い。以下、この変形例について説明する。
アルカリケイ酸水溶液としては、M2O/SiO2(Mは、Na、K、Li、又はNH4、SiO2に対するM2Oのモル比Xは、0.2≦X≦1.5)の組成式より成る化合物の水溶液とすることができる。なお、0.2≦X≦1.5とするのは、X<0.2とすると水にアルカリケイ酸成分が難溶解になるために熱交換器本体18への塗布(例えば図4の工程D)が困難となり、X>1.5とすると、アルカリケイ酸成分が水に対し過度に溶け易く成るために焼成後における粉体化学蓄熱材12から脱水された水分に再溶解されてしまい、化学蓄熱材層の保持力が低下してしまうためである。
また、アルカリケイ酸水溶液を用いる場合、基本的に上記した図4、図7、図10に示す製造方法と同じ製造方法で、熱交換型蓄熱放熱装置10、50、70を製造することができるが、異なる点を補足する。アルカリケイ酸水溶液を用いる場合、反応膜30を焼成炉44にて300℃で焼成する前に、乾燥工程でアルカリケイ酸水溶液中の水分を除去する。乾燥温度は、アルカリケイ酸成分がセピオライト34を構成する成分との化学反応によって水への溶解性が高い状態となる温度範囲(130℃以上)よりも低い、60℃〜120℃の範囲から選択される。
この乾燥工程を経ることで、焼成工程で300℃として水への溶解性が高い状態となっても、溶解すべき水が存在しないので、該成分が水の流動によって偏在する等の不具合が解消される。また、アルカリケイ酸成分は、上記乾燥工程の後に130℃〜800℃の熱処理を受けることで、セピオライト34や粉体化学蓄熱材12のカルシウムと反応し、水に再溶解し難い状態となる。この熱処理(300℃での焼成、例えば図4の工程Hによる450℃での焼成)を経ることで、上記したX>1.5の場合でも水への再溶解の問題が抑制され、耐久性が向上する。
そして、低アルカリ性溶液としてアルカリケイ酸水溶液を用いた構成では、その金属表面への良好な付着性と、アルカリ性によりセピオライト34を硬化(焼結化)させる性質とから、反応膜30の高い成膜強度を得ることができる。したがって、低融点ガラス32を用いた構成と比較して隔壁22への付着強度では若干劣るものの、化学蓄熱材層11、化学蓄熱材複合物成形体54の保持能力が同等の反応膜30を構成することができる。また、アルカリケイ酸水溶液は、低融点ガラス32とは異なり結晶化されることがないため、隔壁22との界面に反応寄与量以上のアルカリケイ酸水溶液を存在させておくことで、仮に隔壁22から部分的に剥がれた場合でも、自立再生すること(自己補修、自動補修)が期待される。
また、粘土鉱物として層リボン構造を有する粘土鉱物としてのセピオライトを用いた例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、層リボン構造を有する粘土鉱物であるパリゴルスカイト(アタパルジャイト)を用いても良く、層リボン構造を有する粘土鉱物には属しないベントナイトを用いても良い。なお、ベントナイトについて補足すると、ベントナイトは、層リボン構造を有する粘土鉱物と比較して接着力が強い粘土鉱物であり、強固な多孔質構造体を得ることができ、また、例えば金属壁への接合強度を向上することに寄与する。このベントナイトを用いた反応膜30や化学蓄熱材複合物成形体54においても、多数の粉体化学蓄熱材12間に細孔38が形成された多孔質構造体を成す。一方、層リボン構造を有する粘土鉱物は、ベントナイトと比較してシンタリング(緻密化)が少ないメリットがある。特に、セピオライトは、上記の通り粉体化学蓄熱材12の脱水温度(マイクロクラックが生成される温度)と近い温度で焼結され、該温度ではシンタリングによる比表面積の減少が少ない(マイクロクラックによる比表面積の増加が上回る)メリットがある。化学蓄熱材複合物成形体11の製造に用いる粘土鉱物は、これらのメリットを考慮して用途等に応じて決めれば良い。
さらに、上記した実施形態では、粉体化学蓄熱材12として水和系化学蓄熱材である水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を用いた例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、アルカリ土類金属の無機化合物である水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)を粉体化学蓄熱材12として用いても良い。同様に、アルカリ土類金属の無機化合物であるBa(OH)2やBa(OH)2・H2Oを粉体化学蓄熱材12として用いても良く、アルカリ土類金属以外の無機化合物であるLiOH・H2O、Al2O3・3H2O等を粉体化学蓄熱材12として用いても良い。
またさらに、上記した各実施形態では、熱交換器本体18における蓄熱材収容部24と流体流路26との開口方向が同じ対向流又は並行流型の構成を例示しているが、例えば、直交流型の熱交換器本体18を用いて熱交換型蓄熱放熱装置10、50、60を構成しても良い。
また、上記した各実施形態では、本発明が蓄熱器としての熱交換型蓄熱放熱装置10、50、70に適用された例を示したが、本発明はこれに限定されず、金属壁の表面に化学蓄熱材層11を形成して成る各種形態の蓄熱器に適用可能である。したがって例えば、容器の外周面の一部が蓄熱の熱源又は放熱による加熱対象に直接的に接触される蓄熱器に本発明を適用しても良い。