本実施形態について、適宜図面を参照しながら説明する。
なお、以下の説明における前後上下左右の方向は、車両の前後上下左右の方向に一致させた、図1に示す前後上下左右の方向を基準とする。
(全体構成)
図1に示す車両用ブレーキシステム10は、通常時用として、電気信号を伝達してブレーキを作動させるバイ・ワイヤ(By Wire)式のブレーキシステムと、フェイルセイフ時用として、油圧を伝達してブレーキを作動させる旧来の油圧式のブレーキシステムの双方を備えて構成される。なお、本実施形態においては右ハンドルの車両を例に説明しているが、左ハンドルの車両であっても、本実施形態を同様に適用できる。また、車両用ブレーキシステム10は、前輪駆動、後輪駆動、四輪駆動のいずれにも適用可能である。
このため、車両用ブレーキシステム10は、操作者のブレーキ操作が入力される入力装置14と、少なくとも前記ブレーキ操作に応じた電気信号に基づいてブレーキ液圧を発生させる電動ブレーキアクチュエータとしてのモータシリンダ装置16と、モータシリンダ装置16で発生したブレーキ液圧に基づいて車両の挙動の安定化を支援する車両挙動安定化装置としてのビークルスタビリティアシスト装置18(以下、VSA装置18という、VSA;登録商標)とを備えて構成されている。
なお、VSA装置18に代えて、ブレーキ時の車輪ロックを防ぐABS(アンチロック・ブレーキ・システム)機能のみを有するABS装置を接続してもよい。
これらの入力装置14、モータシリンダ装置16、及び、VSA装置18は、車両Vのダッシュボード2の前方に設けられたエンジンや走行用モータ等の構造物3が搭載される構造物搭載室Rに、配管チューブ22a〜22fを介して互いに分離して配置されている。このように分離して構成されることで、各装置(入力装置14、モータシリンダ装置16、VSA装置18)の汎用性を向上して異なる車種に適用しやすくなる。また、バイ・ワイヤ式のブレーキシステムとして、入力装置14とモータシリンダ装置16とは、図示しないハーネスによって図示しない制御手段と電気的に接続されている。
図2は、車両用ブレーキシステム10の概略構成図である。
液圧路について説明すると、図2中の連結点A1を基準として、入力装置14の接続ポート20aと連結点A1とが第1配管チューブ22aによって接続され、また、モータシリンダ装置16の出力ポート24aと連結点A1とが第2配管チューブ22bによって接続され、さらに、VSA装置18の導入ポート26aと連結点A1とが第3配管チューブ22cによって接続されている。
図2中の他の連結点A2を基準として、入力装置14の他の接続ポート20bと連結点A2とが第4配管チューブ22dによって接続され、また、モータシリンダ装置16の他の出力ポート24bと連結点A2とが第5配管チューブ22eによって接続され、さらに、VSA装置18の他の導入ポート26bと連結点A2とが第6配管チューブ22fによって接続されている。
VSA装置18には、複数の導出ポート28a〜28dが設けられる。第1導出ポート28aは、第7配管チューブ22gによって右側前輪に設けられたディスクブレーキ機構30aのホイールシリンダ32FRと接続される。第2導出ポート28bは、第8配管チューブ22hによって左側後輪に設けられたディスクブレーキ機構30bのホイールシリンダ32RLと接続される。第3導出ポート28cは、第9配管チューブ22iによって右側後輪に設けられたディスクブレーキ機構30cのホイールシリンダ32RRと接続される。第4導出ポート28dは、第10配管チューブ22jによって左側前輪に設けられたディスクブレーキ機構30dのホイールシリンダ32FLと接続される。
この場合、各導出ポート28a〜28dに接続される配管チューブ22g〜22jによってブレーキ液がディスクブレーキ機構30a〜30dの各ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに対して供給され、各ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL内の液圧が上昇することにより、各ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLが作動し、対応する車輪(右側前輪、左側後輪、右側後輪、左側前輪)に対して制動力が付与される。
なお、車両用ブレーキシステム10は、例えば、エンジン(内燃機関)のみによって駆動される自動車、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車等を含む各種車両に対して搭載可能に設けられる。
入力装置14は、運転者によるブレーキペダル12の操作によって液圧を発生可能なタンデム式のマスタシリンダ34と、前記マスタシリンダ34に付設された第1リザーバ36とを有する。このマスタシリンダ34のシリンダチューブ38内には、前記シリンダチューブ38の軸方向に沿って所定間隔離間する2つのピストン40a、40bが摺動自在に配設される。一方のピストン40aは、ブレーキペダル12に近接して配置され、プッシュロッド42を介してブレーキペダル12と連結される。また、他方のピストン40bは、一方のピストン40aよりもブレーキペダル12から離間して配置される。
この一方及び他方のピストン40a、40bの外周面には、環状段部を介して一対のピストンパッキン44a、44bがそれぞれ装着される。一対のピストンパッキン44a、44bの間には、それぞれ、後記するサプライポート46a、46bと連通する背室48a、48bが形成される。また、一方及び他方のピストン40a、40bとの間には、ばね部材50aが配設され、他方のピストン40bとシリンダチューブ38の側端部との間には、他のばね部材50bが配設される。
なお、ピストン40a、40bの外周面にピストンパッキン44a、44bを設ける代わりに、シリンダチューブ38の内周面にパッキンを配設してもよい。
マスタシリンダ34のシリンダチューブ38には、2つのサプライポート46a、46bと、2つのリリーフポート52a、52bと、2つの出力ポート54a、54bとが設けられる。この場合、各サプライポート46a(46b)及び各リリーフポート52a(52b)は、それぞれ合流して第1リザーバ36内の図示しないリザーバ室と連通するように設けられる。
また、マスタシリンダ34のシリンダチューブ38内には、運転者(操作者)がブレーキペダル12を踏み込む踏力に対応したブレーキ液圧を発生させる第1圧力室56a及び第2圧力室56bが設けられる。第1圧力室56aは、第1液圧路58aを介して接続ポート20aと連通するように設けられ、第2圧力室56bは、第2液圧路58bを介して他の接続ポート20bと連通するように設けられる。
マスタシリンダ34と接続ポート20aとの間であって、第1液圧路58aの上流側には圧力センサPmが配設されると共に、第1液圧路58aの下流側には、ノーマルオープンタイプ(常開型)のソレノイドバルブからなる第1遮断弁60aが設けられる。この圧力センサPmは、第1液圧路58a上において、第1遮断弁60aよりもマスタシリンダ34側の上流の液圧を検知するものである。
マスタシリンダ34と他の接続ポート20bとの間であって、第2液圧路58bの上流側には、ノーマルオープンタイプ(常開型)のソレノイドバルブからなる第2遮断弁60bが設けられると共に、第2液圧路58bの下流側には、圧力センサPpが設けられる。この圧力センサPpは、第2液圧路58b上において、第2遮断弁60bよりもホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL側の下流側の液圧を検知するものである。
この第1遮断弁60a及び第2遮断弁60bにおけるノーマルオープンとは、ノーマル位置(消磁(非通電)時の弁体の位置)が開位置の状態(常時開)となるように構成されたバルブをいう。なお、図2において、第1遮断弁60a及び第2遮断弁60bは励磁時の状態を示す(後記する第3遮断弁62も同様)。
マスタシリンダ34と第2遮断弁60bとの間の第2液圧路58bには、前記第2液圧路58bから分岐する分岐液圧路58cが設けられ、前記分岐液圧路58cには、ノーマルクローズタイプ(常閉型)のソレノイドバルブからなる第3遮断弁62と、ストロークシミュレータ64とが直列に接続される。この第3遮断弁62におけるノーマルクローズとは、ノーマル位置(消磁(非通電)時の弁体の位置)が閉位置の状態(常時閉)となるように構成されたバルブをいう。
このストロークシミュレータ64は、第1遮断弁60a及び第2遮断弁60bの遮断時に、ブレーキペダル12の操作に応じた反力とストロークとを生じさせる装置である。ストロークシミュレータ64は、前記のように分岐液圧路58c及び第2液圧路58bを介してマスタシリンダ34に接続されている。さらに、ストロークシミュレータ64には、分岐液圧路58cに連通する液圧室65が設けられ、前記液圧室65を介して、マスタシリンダ34の第2圧力室56bから導出されるブレーキ液(ブレーキフルード)が収容可能に設けられる。
また、ストロークシミュレータ64は、互いに直列に配置されたばね定数の高い第1リターンスプリング66aとばね定数の低い第2リターンスプリング66bと、前記第1及び第2リターンスプリング66a、66bによって付勢されるシミュレータピストン68とを備え、ブレーキペダル12の踏み込み前期時にペダル反力の増加勾配を低く設定し、踏み込み後期時にペダル反力を高く設定してブレーキペダル12のペダルフィーリングを既存のマスタシリンダと同等となるように設けられている。
液圧路は、大別すると、マスタシリンダ34の第1圧力室56aと複数のホイールシリンダ32FR、32RLとを接続する第1液圧系統70aと、マスタシリンダ34の第2圧力室56bと複数のホイールシリンダ32RR、32FLとを接続する第2液圧系統70bとから構成される。
第1液圧系統70aは、入力装置14におけるマスタシリンダ34(シリンダチューブ38)の出力ポート54aと接続ポート20aとを接続する第1液圧路58aと、入力装置14の接続ポート20aとモータシリンダ装置16の出力ポート24aとを接続する配管チューブ22a、22bと、モータシリンダ装置16の出力ポート24aとVSA装置18の導入ポート26aとを接続する配管チューブ22b、22cと、VSA装置18の導出ポート28a、28bと各ホイールシリンダ32FR、32RLとをそれぞれ接続する配管チューブ22g、22hとによって構成される。
第2液圧系統70bは、入力装置14におけるマスタシリンダ34(シリンダチューブ38)の出力ポート54bと他の接続ポート20bとを接続する第2液圧路58bと、入力装置14の他の接続ポート20bとモータシリンダ装置16の出力ポート24bとを接続する配管チューブ22d、22eと、モータシリンダ装置16の出力ポート24bとVSA装置18の導入ポート26bとを接続する配管チューブ22e、22fと、VSA装置18の導出ポート28c、28dと各ホイールシリンダ32RR、32FLとをそれぞれ接続する配管チューブ22i、22jとを有する。
この結果、液圧路が第1液圧系統70aと第2液圧系統70bとによって構成されることにより、各ホイールシリンダ32FR、32RLと各ホイールシリンダ32RR、32FLとをそれぞれ独立して作動させ、相互に独立した制動力を発生させることができる。
モータシリンダ装置16は、電動モータ72及び駆動力伝達部73を備えたアクチュエータ機構74と、アクチュエータ機構74によって付勢されるシリンダ機構76とを有する。また、アクチュエータ機構74の駆動力伝達部73は、電動モータ72の回転駆動力を伝達するギヤ機構(減速機構)78と、この回転駆動力を直線方向駆動力に変換する、ボールねじ軸80a及びボール80bを含むボールねじ構造体80とを有している。
シリンダ機構76は、略円筒状のシリンダ本体82と、前記シリンダ本体82に付設された第2リザーバ84とを有する。第2リザーバ84は、入力装置14のマスタシリンダ34に付設された第1リザーバ36と配管チューブ86で接続され、第1リザーバ36内に貯留されたブレーキ液が配管チューブ86を介して第2リザーバ84内に供給されるように設けられる。
シリンダ本体82内には、前記シリンダ本体82の軸方向に沿って所定間隔離間する第1スレーブピストン88a及び第2スレーブピストン88bが摺動自在に配設される。第1スレーブピストン88aは、ボールねじ構造体80側に近接して配置され、ボールねじ軸80aの一端部に当接して前記ボールねじ軸80aと一体的に矢印X1又はX2方向に変位する。また、第2スレーブピストン88bは、第1スレーブピストン88aよりもボールねじ構造体80側から離間して配置される。
この第1及び第2スレーブピストン88a、88bの外周面には、環状段部を介して一対のスレーブピストンパッキン90a、90bがそれぞれ装着される。一対のスレーブピストンパッキン90a、90bの間には、それぞれ、後記するリザーバポート92a、92bとそれぞれ連通する第1背室94a及び第2背室94bが形成される。また、第1及び第2スレーブピストン88a、88bとの間には、第1リターンスプリング96aが配設され、第2スレーブピストン88bとシリンダ本体82の側端部と間には、第2リターンスプリング96bが配設される。
シリンダ機構76のシリンダ本体82には、2つのリザーバポート92a、92bと、2つの出力ポート24a、24bとが設けられる。この場合、リザーバポート92a(92b)は、第2リザーバ84内の図示しないリザーバ室と連通するように設けられる。
また、シリンダ本体82内には、出力ポート24aからホイールシリンダ32FR、32RL側へ出力されるブレーキ液圧を発生させる第1液圧室98aと、他の出力ポート24bからホイールシリンダ32RR、32FL側へ出力されるブレーキ液圧を発生させる第2液圧室98bが設けられる。
なお、第1スレーブピストン88aと第2スレーブピストン88bとの間には、第1スレーブピストン88aと第2スレーブピストン88bの最大距離と最小距離とを規制する規制手段100が設けられ、さらに、第2スレーブピストン88bには、前記第2スレーブピストン88bの摺動範囲を規制して、第1スレーブピストン88a側へのオーバーリターンを阻止するストッパピン102が設けられ、これによって、特に、マスタシリンダ34で発生したブレーキ液圧で制動するときのバックアップ時において、1系統の失陥時に他系統の失陥が防止される。
VSA装置18は、周知のものからなり、右側前輪及び左側後輪のディスクブレーキ機構30a、30b(ホイールシリンダ32FR、ホイールシリンダ32RL)に接続された第1液圧系統70aを制御する第1ブレーキ系110aと、右側後輪及び左側前輪のディスクブレーキ機構30c、30d(ホイールシリンダ32RR、ホイールシリンダ32FL)に接続された第2液圧系統70bを制御する第2ブレーキ系110bとを有する。なお、第1ブレーキ系110aは、左側前輪及び右側前輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統で、第2ブレーキ系110bは、左側後輪及び右側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統であってもよい。さらに、第1ブレーキ系110aは、車体片側の右側前輪及び右側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統からなり、第2ブレーキ系110bは、車体片側の左側前輪及び左側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統であってもよい。
この第1ブレーキ系110a及び第2ブレーキ系110bは、それぞれ同一構造からなるため、第1ブレーキ系110aと第2ブレーキ系110bで対応するものには同一の参照符号を付していると共に、第1ブレーキ系110aの説明を中心にして、第2ブレーキ系110bの説明を括弧書きで適宜付記する。
第1ブレーキ系110a(第2ブレーキ系110b)は、ホイールシリンダ32FR、32RL(32RR、32FL)に対して、共通する第1共通液圧路112及び第2共通液圧路114を有する。VSA装置18は、導入ポート26aと第1共通液圧路112との間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなるレギュレータバルブ116と、前記レギュレータバルブ116と並列に配置され導入ポート26a側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から導入ポート26a側へのブレーキ液の流通を阻止する)第1チェックバルブ118と、第1共通液圧路112と第1導出ポート28aとの間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第1インバルブ120と、前記第1インバルブ120と並列に配置され第1導出ポート28a側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第1導出ポート28a側へのブレーキ液の流通を阻止する)第2チェックバルブ122と、第1共通液圧路112と第2導出ポート28bとの間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第2インバルブ124と、前記第2インバルブ124と並列に配置され第2導出ポート28b側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第2導出ポート28b側へのブレーキ液の流通を阻止する)第3チェックバルブ126とを備える。
さらに、VSA装置18は、第1導出ポート28aと第2共通液圧路114との間に配置されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第1アウトバルブ128と、第2導出ポート28bと第2共通液圧路114との間に配置されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第2アウトバルブ130と、第2共通液圧路114に接続されたリザーバ132と、第1共通液圧路112と第2共通液圧路114との間に配置されて第2共通液圧路114側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第2共通液圧路114側へのブレーキ液の流通を阻止する)第4チェックバルブ134と、前記第4チェックバルブ134と第1共通液圧路112との間に配置されて第2共通液圧路114側から第1共通液圧路112側へブレーキ液を供給するポンプ136と、前記ポンプ136の前後に設けられる吸入弁138及び吐出弁140と、前記ポンプ136を駆動するモータMと、第2共通液圧路114と導入ポート26aとの間に配置されるサクションバルブ142とを備える。
なお、第1ブレーキ系110aにおいて、導入ポート26aに近接する液圧路上には、モータシリンダ装置16の出力ポート24aから出力され、前記モータシリンダ装置16の第1液圧室98aで発生したブレーキ液圧を検知する圧力センサPhが設けられる。各圧力センサPm、Pp、Phで検出された検出信号は、図示しない制御手段に導入される。
本実施形態に係る車両用ブレーキシステム10は、基本的に以上のように構成されるものであり、次にその作用効果について説明する。
車両用ブレーキシステム10が正常に機能する正常時には、ノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第1遮断弁60a及び第2遮断弁60bが励磁で弁閉状態となり、ノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第3遮断弁62が励磁で弁開状態となる(図2参照)。従って、第1遮断弁60a及び第2遮断弁60bによって第1液圧系統70a及び第2液圧系統70bが遮断されているため、入力装置14のマスタシリンダ34で発生したブレーキ液圧がディスクブレーキ機構30a〜30dのホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに伝達されることはない。
このとき、マスタシリンダ34の第2圧力室56bで発生したブレーキ液圧は、分岐液圧路58c及び弁開状態にある第3遮断弁62を経由してストロークシミュレータ64の液圧室65に伝達される。この液圧室65に供給されたブレーキ液圧によってシミュレータピストン68がリターンスプリング66a、66bのばね力に抗して変位することにより、ブレーキペダル12のストロークが許容されると共に、擬似的なペダル反力を発生させてブレーキペダル12に付与される。この結果、運転者にとって違和感のないブレーキフィーリングが得られる。
このようなシステム状態において、図示しない制御手段は、運転者によるブレーキペダル12の踏み込みを検出すると、モータシリンダ装置16の電動モータ72を駆動させてアクチュエータ機構74を付勢し、第1リターンスプリング96a及び第2リターンスプリング96bのばね力に抗して第1スレーブピストン88a及び第2スレーブピストン88bを図2中の矢印X1方向に向かって変位させる。この第1スレーブピストン88a及び第2スレーブピストン88bの変位によって第1液圧室98a及び第2液圧室98b内のブレーキ液圧がバランスするように加圧されて所望のブレーキ液圧が発生する。
このモータシリンダ装置16における第1液圧室98a及び第2液圧室98bのブレーキ液圧は、VSA装置18の弁開状態にある第1、第2インバルブ120、124を介してディスクブレーキ機構30a〜30dのホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに伝達され、前記ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLが作動することにより各車輪に所望の制動力が付与される。
換言すると、本実施形態に係る車両用ブレーキシステム10では、電動ブレーキアクチュエータ(動力液圧源)として機能するモータシリンダ装置16やバイ・ワイヤ制御する図示しないECU等の制御手段が作動可能な正常時において、運転者がブレーキペダル12を踏むことでブレーキ液圧を発生するマスタシリンダ34と各車輪を制動するディスクブレーキ機構30a〜30d(ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)との連通を第1遮断弁60a及び第2遮断弁60bで遮断した状態で、モータシリンダ装置16が発生するブレーキ液圧でディスクブレーキ機構30a〜30dを作動させるという、いわゆるブレーキ・バイ・ワイヤ方式のブレーキシステムがアクティブになる。このため、本実施形態では、例えば、電気自動車等のように、旧来から用いられていた内燃機関による負圧が存在しない車両に好適に適用することができる。
一方、モータシリンダ装置16等が作動不能となる異常時では、第1遮断弁60a及び第2遮断弁60bをそれぞれ弁開状態とし、且つ、第3遮断弁62を弁閉状態としてマスタシリンダ34で発生するブレーキ液圧をディスクブレーキ機構30a〜30d(ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)に伝達して、前記ディスクブレーキ機構30a〜30d(ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)を作動させるという、いわゆる旧来の油圧式のブレーキシステムがアクティブになる。
(入力装置14)
次に、図3を参照しながら入力装置14の構成をより具体的に説明する。図3(a)は入力装置14の概略斜視図、(b)は上方からの平面図であり、図2に示す部材と同じものについては、図3においても同じ符号で表すものとし、その詳細な説明は省略する。
図3(a)及び(b)に示すように、入力装置14を構成するマスタシリンダ34は、車両V(図1参照)の前後方向に延在すると共に、ストロークシミュレータ64は、このマスタシリンダ34と一体となるように並設されている。更に具体的には、本実施形態でのストロークシミュレータ64は、マスタシリンダ34の右側(車幅方向の外側)で横並びに配置されている。そして、本実施形態でのマスタシリンダ34及びストロークシミュレータ64は、これらをその後端側で支持するスタッドプレート304と共に、金属の一体成型体で形成されている。
このようなマスタシリンダ34及びストロークシミュレータ64の上方には、細長の外形を有する第1リザーバ36(リザーバタンク)が、マスタシリンダ34とストロークシミュレータ64との間で車両前後方向に延在するように配置されている。この第1リザーバ36とマスタシリンダ34とは、図3(b)に示すリリーフポート52a、52b及び図示しないサプライポート46a、46b(図2参照)に臨むように形成された接続口を介して、図2に示す第1及び第2圧力室56a、56b、並びに背室48a、48bに連通するようになっている。なお、図3(a)中、符号36aは、第1リザーバ36と、図2に示す第2リザーバ84とを連通させる配管チューブ86の基端が接続されるコネクタである。このコネクタ36aは、入力装置14の前方に突出する管状部材で形成されている。
なお、接続口36aと第2リザーバ84(図2参照)とは直接配管チューブ86で接続されてもよいが、車両の搭載レイアウトに応じて、接続口36aと第2リザーバ84との間に別体タンクを設けることもできる。別体タンクを設ける場合、接続口36aは当該別体タンクと接続されることとなる。
また、図3(a)及び(b)に示すように、入力装置14の車両前側には、マスタシリンダ34から連通し、第1配管チューブ22aの基端が接続される第1接続ポート20aと、マスタシリンダ34から連通し、第4配管チューブ22dの基端が接続される第2接続ポート20bとが設けられている。
また、図3(a)及び(b)に示すように、入力装置14の右側及び左側には、後に詳しく説明するエア抜き用のブリーダ301、及びバルブユニット300が一体に設けられている。
また、図3(a)及び(b)に示すように、入力装置14の後側においては、マスタシリンダ34の後端部が連結部34aを介してブレーキ操作子12と接続されるようになっている。
次に、入力装置14の内部構造について更に詳しく説明する。
図4(a)に示すように、ストロークシミュレータ64の液圧室65に連通するポート65aは、マスタシリンダ34の第2圧力室56bに連通するポート54bと接続されている。つまり、図2に示すように、第1圧力室56aよりも前側に配置される第2圧力室56bの、前端寄りに形成されるポート54bに対して、ストロークシミュレータ64のポート65aは接続されている。
また、図4(a)に示すように、入力装置14においては、マスタシリンダ34及びストロークシミュレータ64のそれぞれのポート54b、65a同士は、前後方向の位置が互いに略一致するように、言い換えればそれらの前端位置が略一致するように形成されている。
そして、これらのポート54b、65a同士は、前記したように、第2液圧路58b(図2参照)及び分岐液圧路58c(図2参照)を介して接続されている。そして、ポート54bと65aとの間には、第3遮断弁62が設けられている。なお、図4(a)に示す第3遮断弁62は弁開状態のものを示している。
なお、図4(a)中、符号40a及び符号40bは、それぞれマスタシリンダ34の上記したピストンであり、符号66a及び符号66bは、それぞれストロークシミュレータ64の上記したリターンスプリングであり、符号68は、上記したシミュレータピストンである。
この入力装置14においては、図4(b)に示すように、マスタシリンダ34のポート54b及びストロークシミュレータ64のポート65aは、マスタシリンダ34及びストロークシミュレータ64のそれぞれの上部に形成されている。
そして、マスタシリンダ34及びストロークシミュレータ64のそれぞれのポート54b、65a同士を接続する第2液圧路58b及び分岐液圧路58cは、マスタシリンダ34及びストロークシミュレータ64からそれぞれの側方に向かって延びるように形成されている。具体的には、本実施形態での分岐液圧路58cは、ストロークシミュレータ64から左側に配置されるマスタシリンダ34の上方を通過するように延びて、後述するバルブユニット300に備えられた第3遮断弁62(ストロークシミュレータ遮断弁)を介した後に更に延びて、バルブユニット300との隣接面にまで至っている。第3遮断弁62は、上記のようにノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる弁であり、液圧路58cを閉塞するように設けられている。
また、本実施形態での第2液圧路58bは、マスタシリンダ34の第2圧力室56bに接続され、マスタシリンダ34から左側に配置されるバルブユニット300側に向かって分岐液圧路58cと並んで延びる途中で上方に屈曲し、第3遮断弁62とバルブユニット300との間の区間で延びる分岐液圧路58cと合流した後、図2に示す第2遮断弁60bを介して図3(a)に示す第2接続ポート20bまで延びている。
より具体的には、図2に示す第2遮断弁60bを経由した後の第2液圧路58bは、図4(b)に示すように、マスタシリンダ34の左下隅でマスタシリンダ34に沿うように前方向(図3(a)の前方向)に延びて、図3(a)に示す第2接続ポート20bに至ることとなる。
このような入力装置14においては、上記した第2液圧路58b及び分岐液圧路58cに加えて、図2に示すように分岐液圧路58cに設けられる第3遮断弁62、マスタシリンダ34の出力ポート54aと第1接続ポート20aとを接続する第1液圧路58a、及びこの第1液圧路58aに設けられる第1遮断弁60a(マスタシリンダ遮断弁)、並びに第2液圧路58bに設けられる第2遮断弁60b(マスタシリンダ遮断弁)が配置されることとなる。
図4(b)に示すように、エア抜き用のブリーダ301は、ストロークシミュレータ64のポート65aに接続される分岐液圧路58cから分岐して、このポート65aの真上に延びて、ストロークシミュレータ64の外側に臨む通路の開口を塞ぐように配置されたプラグで構成されている。
このブリーダ301は、マスタシリンダ34及びストロークシミュレータ64内にブレーキ液を充填する際に、マスタシリンダ34、ストロークシミュレータ64、液圧路等に残存する空気を抜くためのものである。また、例えばマスタシリンダ34の前方の上方や下方等、マスタシリンダ34やストロークシミュレータ64等内のエアが集まる部位や液圧路構成上エアが溜まる部位にブリーダ301が設けられてもよい。
本実施形態に係る入力装置14及びこれを備える車両用ブレーキシステム10は、基本的に以上のように構成されるものであり、次にその作用効果について説明する。
車両用ブレーキシステム10が正常に機能する正常時には、ノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第1遮断弁60a及び第2遮断弁60bが励磁で弁閉状態となり、ノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第3遮断弁62が励磁で弁開状態となる。従って、第1遮断弁60a及び第2遮断弁60bによって第1液圧系統70a及び第2液圧系統70bが遮断されているため、入力装置14のマスタシリンダ34で発生したブレーキ液圧がディスクブレーキ機構30a〜30dのホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに伝達されることはない。
このとき、マスタシリンダ34の第2圧力室56bで発生したブレーキ液圧は、分岐液圧路58c及び弁開状態にある第3遮断弁62を経由してストロークシミュレータ64の液圧室65に伝達される。この液圧室65に供給されたブレーキ液圧によってシミュレータピストン68がリターンスプリング66a、66bのばね力に抗して変位することにより、ブレーキペダル12のストロークが許容されると共に、擬似的なペダル反力を発生させてブレーキペダル12に付与される。この結果、運転者にとって違和感のないブレーキフィーリングが得られる。
このようなシステム状態において、図示しない制御手段は、運転者によるブレーキペダル12の踏み込みを検出すると、モータシリンダ装置16の電動モータ72を駆動させてアクチュエータ機構74を付勢し、第1リターンスプリング96a及び第2リターンスプリング96bのばね力に抗して第1スレーブピストン88a及び第2スレーブピストン88bを図2中の矢印X1方向に向かって変位させる。この第1スレーブピストン88a及び第2スレーブピストン88bの変位によって第1液圧室98a及び第2液圧室98b内のブレーキ液が加圧されて所望のブレーキ液圧が発生する。
このモータシリンダ装置16における第1液圧室98a及び第2液圧室98bのブレーキ液圧は、VSA装置18の弁開状態にある第1、第2インバルブ120、124を介してディスクブレーキ機構30a〜30dのホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに伝達され、前記ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLが作動することにより各車輪に所望の制動力が付与される。
換言すると、本実施形態に係る車両用ブレーキシステム10では、動力液圧源として機能するモータシリンダ装置16やバイ・ワイヤ制御する図示しないECU等が作動可能な正常時において、運転者がブレーキペダル12を踏むことでブレーキ液圧を発生するマスタシリンダ34と各車輪を制動するディスクブレーキ機構30a〜30d(ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)との連通を第1遮断弁60a及び第2遮断弁60bで遮断した状態で、モータシリンダ装置16が発生するブレーキ液圧でディスクブレーキ機構30a〜30dを作動させるという、いわゆるブレーキ・バイ・ワイヤ方式のブレーキシステムがアクティブになる。このため、本実施形態では、例えば、電気自動車等のように、旧来から用いられていた負圧式ブレーキブースタ等が存在しない車両Vに好適に適用することができる。
一方、モータシリンダ装置16等が作動不能となる異常時では、第1遮断弁60a及び第2遮断弁60bをそれぞれ弁開状態としマスタシリンダ34で発生するブレーキ液圧をディスクブレーキ機構30a〜30d(ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)に伝達して、前記ディスクブレーキ機構30a〜30d(ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)を作動させるという、いわゆる旧来の油圧式のブレーキシステムがアクティブになる。
そして、入力装置14においては車両の左側から右側方向へ、バルブユニット300、マスタシリンダ34及びストロークシミュレータ64がこの順番で並設されている。また、マスタシリンダ34に設けられたリリーフポート52a、52b(図参照)を臨む接続口を介して、第1リザーバ36がマスタシリンダ34に接続されている。
また、図4(a)に示すように本実施形態においては、マスタシリンダ34が備えるポート位置とストロークシミュレータ64が備えるポート位置との前後方向の位置が一致するように設けている。マスタシリンダ34及びストロークシミュレータ64をこのように配置することで、これらの間に設けられる流路を短くすることができ、入力装置14をより小型化することができる。さらには、より素早いブレーキ操作が可能になる。
次に、図5を参照しながら、バルブユニット300について説明する。図5は、バルブユニット300の車両前後方向における断面の概略図である。
図5に示すように、バルブユニット300には、樹脂製の筐体内に、図2に示す第1液圧センサPm及び第2液圧センサPp、並びにこれらからの圧力検出信号を処理する電子回路基板(図示しない)等が配設されている。なお、第1液圧センサPm及び第2液圧センサPpは、第1液圧路58a及び第2液圧路58bのそれぞれに連通するように設けられた図示しないモニタ孔に臨むように配置されることで、上記のそれぞれの液圧を検出するようになっている。ちなみに、上記モニタ孔は、バブルユニット300側から第1液圧路58a及び第2液圧路58bに向かって貫かれる孔で形成されることとなる。
また、バルブユニット300には、その内部に第1遮断弁60a(マスタシリンダ遮断弁)、第2遮断弁60b(マスタシリンダ遮断弁)及び第3遮断弁62(ストロークシミュレータ遮断弁)が備えられている。第1遮断弁60a及び第2遮断弁60bは、上記のようにノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる弁であり、図2に示すようにそれぞれ液圧路58a及び58bの途中に設けられている。また、第3遮断弁62は、上記のように、ノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる弁であり、液圧路58cを閉塞するように設けられている。
第1遮断弁60a、第2遮断弁60b及び第3遮断弁62、並びに、第1液圧センサPm及び第2液圧センサPpについての接続関係を、図5における太実線で概略的に示す。
図5に示すように、第1接続ポート20aと第1圧力室56aとは、第1遮断弁60aを介して接続されている。また、第1圧力室56aと第1遮断弁60aとの間には第1液圧センサPmが設けられ、図5においては図示していないが、第1遮断弁60aから伸びる液圧路と第1液圧センサPmから伸びる液圧路とが合流し、第1圧力室56aに接続されている。
一方で、第2接続ポート20bは、第2遮断弁60bを介して第2圧力室56bと接続されている。また、第2接続ポート20bと第2遮断弁60bとの間には、第2液圧センサPpが設けられている。そして、第2遮断弁60bと第2圧力室56bとの間で液圧路は分岐し、第3遮断弁62を介して、図5では図示していないストロークシミュレータ64と接続されている。
上記のように、入力装置14においては、ストロークシミュレータ64とマスタシリンダ34とバルブユニット300とが、この順序で車両の車幅方向に一体に並設されている。入力装置14がこのような構成を有することで、少なくともマスタシリンダ34とストロークシミュレータ64との間の流路を短くすることができ、入力装置14を小型化することができる。その結果、ガソリン自動車に比べて構造物搭載室内の搭載スペースが限られる電気自動車やハイブリッド自動車等においても本実施形態に係る入力装置14を搭載することができるようになる。
(まとめ)
以上、具体的な実施形態を挙げて本実施形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。
例えば、本実施形態においては、マスタシリンダ34及びストロークシミュレータ64を平行となるように並設して設けているが、これらが一体となっていれば必ずしも平行に設ける必要は無い。さらに、これらが必ずしも同一面内に設けられる必要も無い。
また、本実施形態においては、第1リザーバ36(リザーバタンク)の位置をマスタシリンダ34及びストロークシミュレータ64の上方において、マスタシリンダ34とストロークシミュレータ64との間に設ける構成としているが、第1リザーバ36の位置はこの位置に限定されるものではなく、例えばマスタシリンダ34とバルブユニット300との間に設ける構成としてもよい。
また、バルブユニット300内での各遮断弁及び各液圧センサの位置も図5に示されるものに限定されるものではなく、各液圧路の位置に応じてバルブユニット300内で適宜配置すればよい。
また、マスタシリンダ34やストロークシミュレータ64、モータシリンダ装置16等の具体的な構成も特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限りに任意に決定できる。その他の構成についても、本発明の効果を著しく損なわない限り任意に変更することができることは言うまでもない。