以下、図面を参照しつつ本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るブレーキ制御装置10の構成を示す図である。図1に示すブレーキ制御装置10は、車両用の電子制御式ブレーキシステム(ECB)を構成しており、運転者によるブレーキペダル12の操作量に基づいて車両の4輪のブレーキを最適に制御するものである。
ブレーキペダル12は、運転者による踏み込み操作に応じて作動油を送り出すマスタシリンダ14に接続されている。ブレーキペダル12には、その踏み込みストロークを検出するためのストロークセンサ46が設けられている。
マスタシリンダ14は、第1マスタ油圧室78と第2マスタ油圧室80の2つの油圧室を備えている。マスタシリンダ14の第2マスタ油圧室80は、第2出力ポート14bを介して運転者によるブレーキペダル12の踏力に応じたペダルストロークを創出するストロークシミュレータ24に接続されている。
マスタシリンダ14の第2マスタ油圧室80とストロークシミュレータ24とを接続する流路の中途には、シミュレータカット弁23が設けられている。シミュレータカット弁23は、通常時通電することにより開弁し、異常時等非通電時に閉弁する常閉型の電磁開閉弁である。また、マスタシリンダ14には、作動油を貯留するためのリザーバタンク26が接続されている。
マスタシリンダ14の第1マスタ油圧室78は、第1出力ポート14aを介して右前輪用のブレーキ油圧制御管18が接続されており、ブレーキ油圧制御管18は、右前輪に対して制動力を付与する右前輪用のホイールシリンダ20FRに接続されている。また、マスタシリンダ14の第2マスタ油圧室80は、第2出力ポート14bを介して左前輪用のブレーキ油圧制御管16が接続されており、ブレーキ油圧制御管16は、左前輪に対して制動力を付与する左前輪用のホイールシリンダ20FLに接続されている。
右前輪用のブレーキ油圧制御管18の中途には、右マスタカット弁22FRが設けられており、左前輪用のブレーキ油圧制御管16の中途には、左マスタカット弁22FLが設けられている。これらの右マスタカット弁22FRおよび左マスタカット弁22FLは、何れも、非通電時に開状態にあり、通電時に閉状態に切り換えられる常開型電磁弁である。
また、右前輪用のブレーキ油圧制御管18の中途には、右前輪側のマスタシリンダ圧を検出する右マスタ圧力センサ48FRが設けられており、左前輪用のブレーキ油圧制御管16の途中には、左前輪側のマスタシリンダ圧を計測する左マスタ圧力センサ48FLが設けられている。
ブレーキ制御装置10では、運転者によってブレーキペダル12が踏み込まれた際、ストロークセンサ46によりその踏み込み操作量が検出されるが、これらの右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLによって検出されるマスタシリンダ圧からもブレーキペダル12の踏み込み操作力(踏力)を求めることができる。このように、ストロークセンサ46の故障を想定して、マスタシリンダ圧を2つの圧力センサ48FRおよび48FLによって監視することは、フェイルセーフの観点からみて好ましい。なお、以下では適宜、右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLを総称して、マスタシリンダ圧センサ48という。
一方、リザーバタンク26には、油圧給排管28の一端が接続されており、この油圧給排管28の他端には、モータ32により駆動されるオイルポンプ34の吸込口が接続されている。オイルポンプ34の吐出口は、高圧管30に接続されており、この高圧管30には、アキュムレータ50とリリーフバルブ53とが接続されている。本実施の形態では、オイルポンプ34として、モータ32によってそれぞれ往復移動させられる2体以上のピストン(図示せず)を備えた往復動ポンプが採用される。また、アキュムレータ50としては、作動油の圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギに変換して蓄えるものが採用される。
アキュムレータ50は、オイルポンプ34によって例えば14〜22MPa程度にまで昇圧された作動油を蓄える。また、リリーフバルブ53の弁出口は、油圧給排管28に接続されており、アキュムレータ50における作動油の圧力が異常に高まって例えば25MPa程度になると、リリーフバルブ53が開弁し、高圧の作動油は油圧給排管28へと戻される。さらに、高圧管30には、アキュムレータ50の出口圧力、すなわち、アキュムレータ50における作動油の圧力を検出するアキュムレータ圧センサ51が設けられている。これらのモータ32、オイルポンプ34、アキュムレータ50等は、動力の供給により加圧された作動油をブレーキペダル12の操作から独立して送出し得る動力油圧源として機能する。
そして、高圧管30は、増圧弁40FR、40FL、40RR、40RLを介して右前輪用のホイールシリンダ20FR、左前輪用のホイールシリンダ20FL、右後輪用のホイールシリンダ20RRおよび左後輪用のホイールシリンダ20RLに接続されている。以下、適宜、ホイールシリンダ20FR〜20RLを総称して「ホイールシリンダ20」といい、適宜、増圧弁40FR〜40RLを総称して「増圧弁40」という。増圧弁40は、何れも、非通電時は閉じた状態にあり、必要に応じてホイールシリンダ20の増圧に利用される常閉型の電磁流量制御弁(リニア弁)である。なお、図示されない車両の各車輪に対しては、ディスクブレーキユニットが設けられており、各ディスクブレーキユニットは、ホイールシリンダ20の作用によってブレーキパッドをディスクに押し付けることで制動力を発生する。
また、右前輪用のホイールシリンダ20FRと左前輪用のホイールシリンダ20FLとは、それぞれ減圧弁42FRまたは42FLを介して油圧給排管28に接続されている。減圧弁42FRおよび42FLは、必要に応じてホイールシリンダ20FR,20FLの減圧に利用される常閉型の電磁流量制御弁(リニア弁)である。一方、右後輪用のホイールシリンダ20RRと左後輪用のホイールシリンダ20RLとは、常開型の電磁流量制御弁である減圧弁42RRまたは42RLを介して油圧給排管28に接続されている。以下、適宜、減圧弁42FR〜42RLを総称して「減圧弁42」という。
右前輪用、左前輪用、右後輪用および左後輪用のホイールシリンダ20FR〜20RL付近には、それぞれ対応するホイールシリンダ20に作用する作動油の圧力であるホイールシリンダ圧を検出するホイールシリンダ圧センサ44FR,44FL,44RRおよび44RLが設けられている。以下、適宜、ホイールシリンダ圧センサ44FR〜44RLを総称して「ホイールシリンダ圧センサ44」という。
上述の右マスタカット弁22FRおよび左マスタカット弁22FL、増圧弁40FR〜40RL、減圧弁42FR〜42RL、オイルポンプ34、アキュムレータ50等は、ブレーキ制御装置10の油圧アクチュエータ100を構成する。そして、かかる油圧アクチュエータ100は、電子制御ユニット(以下「ECU」という)200によって制御される。
ECU200は、ホイールシリンダ20FR〜20RLにおけるホイールシリンダ圧を制御する制御手段として機能する。ECU200は、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM、エンジン停止時にも記憶内容を保持できるバックアップRAM等の不揮発性メモリ、入出力インターフェース、各種センサ等から入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換して取り込むためのA/Dコンバータ、計時用のタイマ等を備えるものである。
ECU200には、上述の右マスタカット弁22FR、左マスタカット弁22FL、シミュレータカット弁23、増圧弁40FR〜40RL、減圧弁42FR〜42RL等の油圧アクチュエータ100を含む各種アクチュエータ類が電気的に接続されている。
また、ECU200には、制御に用いるための信号を出力する各種センサ・スイッチ類が電気的に接続されている。すなわち、ECU200には、ホイールシリンダ圧センサ44FR〜44RLから、ホイールシリンダ20FR〜20RLにおけるホイールシリンダ圧を示す信号が入力される。
また、ECU200には、ストロークセンサ46からブレーキペダル12のペダルストロークを示す信号が入力され、右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLからマスタシリンダ圧を示す信号が入力され、アキュムレータ圧センサ51からアキュムレータ圧を示す信号が入力される。
さらに、図示しないが、ECU200には、各車輪ごとに設置された車輪速センサから各車輪の車輪速度を示す信号が入力され、ヨーレートセンサからヨーレートを示す信号が入力され、操舵角センサからステアリングホイールの操舵角を示す信号が入力されたりしている。
このように構成されるブレーキ制御装置10では、運転者によってブレーキペダル12が踏み込まれると、ECU200により、ブレーキペダル12の踏み込み量を表すペダルストロークとマスタシリンダ圧とから車両の目標減速度が算出され、算出された目標減速度に応じて各車輪のホイールシリンダ圧の目標値である目標油圧が求められる。そして、ECU200により増圧弁40および減圧弁42の開度が制御され、各車輪のホイールシリンダ圧が目標油圧になるよう制御される。
一方、このとき右マスタカット弁22FR及び左マスタカット弁22FLは閉状態とされ、シミュレータカット弁23は開状態とされる。よって、運転者によるブレーキペダル12の踏込によりマスタシリンダ14から送出された作動油は、シミュレータカット弁23を通ってストロークシミュレータ24に流入する。
また、アキュムレータ圧が予め設定された制御範囲の下限値未満であるときには、ECU200によりオイルポンプ34が駆動されてアキュムレータ圧が昇圧され、アキュムレータ圧がその制御範囲に入ればオイルポンプ34の駆動が停止される。
図2は、マスタシリンダ14の構成を説明するための図である。本実施の形態において、マスタシリンダ14は、ストロークシミュレータ24と一体に構成されている。
マスタシリンダ14は、マスタシリンダボディ60に形成されたマスタシリンダ孔61内に、第1ピストン62および第2ピストン64が摺動自在に収容されている。このように2つのピストンがマスタシリンダ孔61に挿入されることにより、第1ピストン62と第2ピストン64との間に第1マスタ油圧室78が形成され、第2ピストン64とマスタシリンダ孔61の底部との間に第2マスタ油圧室80が形成されている。この第2マスタ油圧室80には、ストロークシミュレータ24が連通するように配設されている。
マスタシリンダ孔61は、前方が閉鎖された円柱状の孔である。第1ピストン62が配設される位置近傍のマスタシリンダ孔61の内周面には、第1環状溝部81および第2環状溝部82が形成されている。後方に位置する第1環状溝部81には、第1カップリング71が収容され、前方に位置する第2環状溝部82には、第2カップリング72が収容されている。なお、本明細書において、「前方」とは、ブレーキペダルが踏み込まれたときに、第1ピストン62が移動する方向であり、「後方」とは、ブレーキペダルの踏み込みが解除されて所定の初期位置の戻るときに、第1ピストン62が移動する方向である。
第1カップリング71および第2カップリング72は、ゴムなどの弾性材料により形成された断面カップ状のシール部材である。第1カップリング71および第2カップリング72は、カップの内側面が前方を向くように設けられており、第1カップリング71と第2カップリング72の間に、第1大気圧室75が形成されている。
また、第2ピストン64が配設される位置近傍のマスタシリンダ孔61の内周面には、第3環状溝部83および第4環状溝部84が形成されている。後方に位置する第3環状溝部83には、第3カップリング73が収容され、前方に位置する第4環状溝部84には、第4カップリング74が収容されている。
第3カップリング73は、カップの内側面が後方を向くように設けられており、第4カップリング74は、カップの内側面が前方を向くように設けられている。第3カップリング73と第4カップリング74の間には、第2大気圧室76が形成されている。
さらに、マスタシリンダ孔61の内周面には、第1大気圧室75とリザーバタンク(図示せず)とを連通する第1入力ポート85、および第2大気圧室76とリザーバタンクとを連通する第2入力ポート86が形成されている。
第1ピストン62は、後方の端部に、第1ピストン62とブレーキペダル(図示せず)とを連結するピストンロッド70が設けられている。また、第1ピストン62の前方の端部には、前方に開口する第1筒状部89が形成されている。この第1筒状部89の側面には、第1筒状部89の内外を連通する第1リリーフポート87が形成されている。また第2ピストン64にも、前方の端部に、前方に開口する第2筒状部90が形成されている。この第2筒状部90の側面には、第2筒状部90の内外を連通する第2リリーフポート88が形成されている。
第1ピストン62と第2ピストン64の間には、リテーナ91を介して第1スプリング66が設けられており、第2ピストン64とマスタシリンダ孔61の底部との間には、第2スプリング68が設けられている。
ストロークシミュレータ24は、上述したように、運転者によるブレーキペダルの踏力に応じたペダルストロークを創出する。ストロークシミュレータ24は、ストロークシミュレータボディ160に形成されたストロークシミュレータ孔161内に、ピストン162がカップリング172を介して摺動自在に収容されている。本実施の形態において、ストロークシミュレータボディ160は、マスタシリンダボディ60と一体に形成されている。
ストロークシミュレータ24は、ピストン162により、ストロークシミュレータボディ160内にシミュレータ油圧室178およびシミュレータ大気圧室180が形成されている。シミュレータ大気圧室180には、第1シミュレータスプリング166および第2シミュレータスプリング167が、ピストン162をシミュレータ油圧室178側に付勢するように設けられている。ストロークシミュレータ24のシミュレータ油圧室178は、ブレーキ油圧制御管16を介して、マスタシリンダ14の第2マスタ油圧室80に連通されている。また、ストロークシミュレータ24のシミュレータ大気圧室180は、図示しない出力ポートを介してリザーバタンクに連通されている。なお、図2では、マスタシリンダ14とストロークシミュレータ24の間に設けられるシミュレータカット弁、第1マスタ油圧室78に連通する第1出力ポート等の図示を省略している。
図3は、第4カップリング74周辺の拡大図である。ブレーキペダルが踏み込まれておらず、第2ピストン64が初期位置にあるとき、図3に示すように第4カップリング74の後端部は第2リリーフポート88の後端部よりも前方に位置している。すなわち、第2リリーフポート88の開口部は、第4カップリング74の内周面によって覆われておらず、第2マスタ油圧室80は、第2大気圧室76と連通している。ここで、第4カップリング74の後端部から第2リリーフポート88の後端部までの間隔を、ポートアイドルDpiと呼ぶ。
ブレーキペダルが踏み込まれて第2ピストン64が前方に移動し、ポートアイドルDpiが閉じると、第2リリーフポート88の開口が第4カップリング74の内周面によって覆われ、第2マスタ油圧室80と第2大気圧室76との連通が遮断される。その結果、第2マスタ油圧室80に正圧が発生し、上述したようにホイールシリンダ圧の目標油圧が設定され、該目標油圧を目標値として各車輪の増圧弁40、減圧弁42が制御される。また、発生した正圧によりストロークシミュレータ24のピストン162が第1シミュレータスプリング166および第2シミュレータスプリング167の付勢力に抗して押動され、第1シミュレータスプリング166および第2シミュレータスプリング167により、ペダル反力が創出される。
マスタシリンダ14において、第4環状溝部84の溝幅は、第4カップリング74の幅よりも若干大きく形成されている。従って図3に示すように、第4環状溝部84に第4カップリング74を収容した状態において、第4環状溝部84の側面と第4カップリング74との間には隙間92が形成される。
また、マスタシリンダ14においては、第4カップリング74の内周面は第2ピストン64の第2筒状部90の外周面90aと接触しており、第4カップリング74の外周面は第4環状溝部84の底面84aと接触している。そして、第2ピストン64が移動した際に働く摩擦力は、第4カップリング74の外周面と第4環状溝部84の底面84aとの接触部93よりも、第4カップリング74の内周面と第2ピストン64の第2筒状部90の外周面90aとの接触部94の方が大きくなるように形成されている。
従って、第2ピストン64が移動すると、第4カップリング74は、第2ピストン64の第2筒状部90に引き摺られて第4環状溝部84内を動く。この第4カップリング74の移動により、隙間92は、第4環状溝部84内における第4カップリング74の位置に応じて、前方側、後方側、または前方側および後方側の両方に形成される。
図4は、ブレーキのエア抜き時における作動油の流れを説明するための図である。図4において、矢印は、作動油の流れを表している。ブレーキのエア抜き時には、第4カップリング74の前方側および後方側の両方に隙間92が形成されるように、第4カップリング74が位置している。また、第4カップリング74のアウターリップ部74aが内側に折れ曲がり、第4環状溝部84の底面と第4カップリング74の外周面との間に隙間が形成されている。このようにして形成された第4カップリング74周辺の隙間を通って作動油をリザーバタンクから吸い込むことにより、ブレーキのエア抜きを行うことができる。このように、エア抜き時における作動油の吸い込み性を確保するためには、第4環状溝部84の側面と第4カップリング74との間に隙間92を形成する必要がある。
しかしながら、第4環状溝部84の側面と第4カップリング74との間に隙間92を設けた場合、ブレーキペダルの踏み込みと戻しのときに、第4環状溝部84内を第4カップリング74が前後に微少摺動する。これが原因でブレーキペダルを踏み込んだときと戻すときとでマスタシリンダ14の吐出油量の収支が合わず、ブレーキペダルが戻りきる直前にマスタシリンダ14内が負圧になる現象が生じる。
図5(a)〜(h)は、マスタシリンダ14内が負圧になる現象を説明するための図である。まず、図5(a)〜(d)を参照して、ブレーキペダルを踏み込んだときの現象を説明する。
図5(a)は、ブレーキペダルが踏み込まれておらず、第2ピストン64が初期位置あるときの様子を示している。このとき、第2マスタ油圧室80は第2リリーフポート88を介して第2大気圧室76と連通しているため、第2マスタ油圧室80内は大気圧となっている。
図5(b)は、ブレーキペダルが踏み込まれることにより第2リリーフポート88が前方に移動すると共に、第2ピストン64に引き摺られて第4カップリング74が前方に移動した様子を示している。このとき、第2マスタ油圧室80は依然として第2リリーフポート88を介して第2大気圧室76と連通しているため、第2マスタ油圧室80内は大気圧である。
図5(c)は、第2リリーフポート88の開口が第4カップリング74の内周面で覆われるまで、すなわちポートアイドルが閉じるまで第2リリーフポート88が前進したときの様子を示している。ポートアイドルが閉じるまでは、第2マスタ油圧室80内の油圧は大気圧である。
図5(d)は、ポートアイドルが閉じた後、さらに第2リリーフポート88が前進したときの様子を示している。このとき、第2マスタ油圧室80と第2大気圧室76の連通は遮断されているため、第2マスタ油圧室80内に正圧が生じ、作動油がマスタシリンダ14から吐出される。また、第2マスタ油圧室80内が正圧となることにより、第4カップリング74が後方への力を受け、後方に移動している。
次に、図5(e)〜(h)を参照して、ブレーキペダルを戻しているときの現象を説明する。
図5(e)は、ブレーキペダルを戻し始めたときの様子を示している。ブレーキペダルを戻すと、第2スプリングの付勢力により第2ピストン64が後方へ移動する。このとき、マスタシリンダ14に作動油が戻り始め、第2マスタ油圧室80内の正圧は徐々に減少する。
図5(f)は、ブレーキペダルを戻している途中の様子を示している。このとき、第4カップリング74が後方に移動しているため、ポートアイドルが開くときの位置まで第2リリーフポート88が移動するより前にマスタシリンダ14の吐出油量の収支が一致し、第2マスタ油圧室80内が大気圧になっている。
図5(g)は、ブレーキペダルが初期位置に戻りきる直前の様子を示している。このとき、第2リリーフポート88は、ポートアイドルが開くときの位置まで後退している。第2マスタ油圧室80内が大気圧となっている図5(f)の段階よりもさらに第2ピストン64が後退していることから、第2マスタ油圧室80には負圧が発生している。
図5(h)は、ブレーキペダルが初期位置に戻ったときの様子を示している。このとき、第2マスタ油圧室80は第2リリーフポート88を介して第2大気圧室76と連通しているため、第2マスタ油圧室80内は大気圧となっている。
以上、図5(a)〜(h)を参照して説明したように、第4環状溝部84の側面と第4カップリング74との間に隙間を設けた場合、ブレーキペダルが初期位置に戻りきる直前に第2マスタ油圧室80内が負圧になる現象が生じる。なお、上記においては第2マスタ油圧室80内に負圧が発生する現象について説明したが、第1マスタ油圧室78内においても同様に負圧が発生する。つまり、マスタシリンダ14圧が負圧となる。マスタシリンダ圧が負圧になると、ブレーキペダルの戻り速度が低下するため、ブレーキペダルが戻りきる直前のペダルフィーリングに違和感が生じてしまう虞がある。そこで、本実施の形態に係るブレーキ制御装置10においては、負圧発生抑制制御を行う。
図6は、負圧発生抑制制御を説明するためのフローチャートである。図6に示したフローチャートによる制御は、所定の時間毎に繰返し実行される。
まず、ECU200は、ストロークセンサ46により検出されたペダルストローク情報に基づいて、ブレーキペダル12が戻されているか否か判定する(S10)。ブレーキペダル12が戻されていない場合(S10のN)、制御フローを終了する。
ブレーキペダル12が戻されている場合(S10のY)、ECU200は、右マスタ圧力センサ48FRおよび/または左マスタ圧力センサ48FLによって検出されたマスタシリンダ圧が、所定の閾値Pth以下であるか否か判定する(S12)。この閾値Pthは、マスタシリンダ圧が負圧になるのを確実に防止するために、大気圧よりも若干高い値、例えば大気圧よりも0.1〜0.3Pa程度高い値に設定することが好ましい。マスタシリンダ圧が閾値Pthより大きい場合(S12のN)、制御フローを終了する。
マスタシリンダ圧が閾値Pth以下である場合(S12のY)、ECU200は、ストロークセンサ46により検出されたペダルストローク情報に基づいて、ペダルストロークが所定の閾値Sth以下であるか否か判定する(S14)。この閾値Sthは、ブレーキペダル12が戻りきる直前のストローク量、すなわちゼロよりも若干大きいストローク量に設定される。本実施の形態では、このようにペダルストロークを確認することにより、ブレーキペダル12が戻りきる直前であるか否か確実に判断するようにしている。ペダルストロークが閾値Sthより大きい場合(S14のN)、制御フローを終了する。
ペダルストロークが閾値Sth以下である場合(S14のY)、ECU200は、減圧弁42を開弁する(S16)。さらに続いてECU200は、ブレーキペダル12が踏み込まれてから閉状態とされていた右マスタカット弁22FRおよび左マスタカット弁22FLを開弁する(S18)。これにより、マスタシリンダ14の第1マスタ油圧室78、第2マスタ油圧室80が油圧給排管28を介してリザーバタンク26と連通されるので、マスタシリンダ14内の油圧が開放される。すなわち、マスタシリンダ圧が大気圧となり、負圧の発生が抑制される。
以上のように、本実施の形態に係る負圧発生抑制制御によれば、ブレーキペダル12が戻りきる直前に減圧弁42、右マスタカット弁22FR、左マスタカット弁22FLを開弁することにより、マスタシリンダ14内の油圧が開放されるため、ブレーキペダル12が戻される際に発生する負圧を解消できる。
電子制御式ブレーキシステムでは、マスタシリンダ14にブースタ機構が設けられていないため、バキュームブースタ・ブレーキに比べてマスタシリンダ14の第1スプリング66、第2スプリング68の反力が小さく設定されている。そのため、通常の電子制御式ブレーキシステムでは、負圧によるブレーキペダル12の戻り速度の低下が大きく、運転者がペダルフィーリングに違和感を感じやすい。しかしながら、本実施の形態に係るブレーキ制御装置10によれば、負圧の発生が抑制されるため、ブレーキペダル12の戻り速度の低下を防止でき、ペダルフィーリングを向上できる。
本実施の形態では、減圧弁42、右マスタカット弁22FR、左マスタカット弁22FLを開弁するタイミングを制御するだけでよいため、既存のブレーキ制御装置に新たな構成要素を追加したり、構成要素を変更する必要はない。従って、安価にペダルフィーリングを向上したブレーキ制御装置10を実現できる。
以上、実施の形態をもとに本発明を説明した。これらの実施形態は例示であり、各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
上述の実施の形態では、本発明を電子制御式ブレーキシステムに適用した場合について説明したが、本発明は、ブレーキペダルが戻される際にマスタシリンダ内の油圧を開放する開放手段を設けることにより、例えばバキュームブースタ・ブレーキなどにも適用可能である。