JP5273551B2 - 繊維状多孔質シリカ粒子の製造方法 - Google Patents
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これまでの多くの研究では、シリカ源としてアルコキシシラン等の有機シリカ、テンプレート剤には高価なイオン性界面活性剤を用いており、上記のような応用分野に利用するための量産化には向かないという理由から、アルカリ珪酸塩等の安価なシリカ源を出発原料とした研究が報告されている(非特許文献3)。
その理由は、細孔径の制御とともにマクロ形態を制御する効率的な方法を見いだすことが非常に難しい点にある。実際、例えば、非特許文献3においてはメソ構造の規則性と合成条件との関係が検討され、マクロ形態に関する記載はない。
また、繊維状粒子の成長を水あるいは弱アルカリ性水溶液中で50℃以上の高温ばかりでなく、常温付近、大気圧下で、積極的に促進させる反応条件については全く報告例がない。
さらに、特許文献3では、この繊維状シリカメソ多孔体のメソ孔径を拡張するため、同様な塩酸酸性溶液を用いる全反応系に、フッ化物を添加することにより、ミクロンサイズの繊維状形態を有し、且つ平均細孔径が8nm以上で均一な細孔径分布を持った繊維状多孔質シリカ粒子の合成に成功している。
また、特許文献4では、塩酸酸性溶液を用いる全反応系に、フッ化物を添加せず、繊維状形態を保持したまま細孔径の大きな繊維状多孔質シリカ粒子を作製する合成方法と、10nm以上の細孔径を有する新規な繊維状多孔質シリカ粒子を提案している。
したがって、上記したように、これまでに、珪酸アルカリ溶液をシリカ源とし、界面活性剤として非イオン界面活性剤を使用して、中性あるいはアルカリ性条件下で繊維状多孔質シリカ粒子を作製した報告例が全くのないのが現状であった。
すなわち、この出願によれば、以下の発明が提供される。
〈1〉酸性水溶液及び非イオン性界面活性剤の混合液に、アルカリ珪酸塩水溶液を30℃から45℃の温度条件下で攪拌しながら混合し、一定温度で所定時間以上攪拌し続けたら反応懸濁液の攪拌を停止して、反応生成物を溶液相から分離・洗浄して得られる湿潤状態の生成物もしくはその乾燥物を、中性もしくはアルカリ性の水溶液中において熟成後、溶液相から分離して得られた繊維状粒子前駆体中の非イオン性界面活性剤を除去することを特徴とする繊維状多孔質シリカ粒子の製造方法。
〈2〉酸性水溶液及び非イオン性界面活性剤の混合液に、アルカリ珪酸塩水溶液を30℃から45℃の温度条件下で攪拌しながら混合し、一定温度で所定時間以上攪拌し続けたら反応懸濁液の攪拌を停止して、反応生成物を溶液相から分離・洗浄して得られる湿潤状態の生成物もしくはその乾燥物を、攪拌温度と同一あるいは攪拌温度よりも低い反応温度で、水溶液中において熟成後、溶液相から分離して得られた繊維状粒子前駆体中の非イオン性界面活性剤を除去することを特徴とする繊維状多孔質シリカ粒子の製造方法。
〈3〉攪拌反応終了後、反応生成物を溶液相から分離・洗浄して得られる湿潤状態の生成物もしくはその乾燥物を熟成する際に、水あるいは水に混合して均質な水溶液を形成する固体あるいは液体状の水溶性化合物を添加することを特徴とする〈1〉又は〈2〉に記載の繊維状多孔質シリカ粒子の製造方法。
〈4〉非イオン性界面活性剤をアルカリ珪酸塩中のSiO21モル当たり0.002乃至0.25モルの量で用いることを特徴とする〈1〉〜〈3〉の何れかに記載の繊維状多孔質シリカ粒子の製造方法。
〈5〉酸をアルカリ珪酸塩中のSiO21モル当たり0.6乃至15モルの量で用いることを特徴とする〈1〉〜〈4〉の何れかに記載の繊維状多孔質シリカ粒子の製造方法。
〈6〉水をアルカリ珪酸塩中のSiO21モル当たり100乃至400モルの量で用いることを特徴とする〈1〉〜〈5〉の何れかに記載の繊維状多孔質シリカ粒子の製造方法。
〈7〉水溶液中で熟成する場合、水をアルカリ珪酸塩中のSiO21モル当たり40乃至200モルの量で用いることを特徴とする〈1〉〜〈6〉の何れかに記載の繊維状多孔質シリカ粒子の製造方法。
〈8〉水溶液中で熟成する際に、水溶性化合物をアルカリ珪酸塩中のSiO21モル当たり0.005乃至5モルの量で用いることを特徴とする〈1〉〜〈7〉の何れかに記載の繊維状多孔質シリカ粒子の製造方法。
また、本発明の製造方法によれば、攪拌反応終了後、ろ過・洗浄して得られた湿潤状態の生成物を常温常圧の水溶液中に保存し、この操作を繰り返し行って、湿潤状態の生成物を一定量蓄積し、大量の繊維状多孔質シリカ粒子前駆体を、1度に熟成工程を実施することが可能となり、より工業的に繊維状多孔質シリカ粒子を得ることができる。
しかも、本発明の製造方法は、熟成温度を広範囲に調整できることから、3から10nmの広範囲で均一細孔径を有する繊維状多孔質シリカ粒子を作製するための普遍的な方法であり、ミクロンサイズの長さを有する繊維状多孔質シリカ粒子を、水あるいは弱アルカリ水溶液中での熟成によって製造できる画期的な工業的製造方法といえる。
前記したように、従来、メソポーラス材料合成においては、中性からアルカリ性領域で合成した場合には、所望の繊維状多孔質シリカ粒子を得ることができないため、繊維状多孔質シリカ粒子を合成するには、強酸性下において、ケイ酸源をトリブロック共重合体の存在下で、反応溶液を一定時間攪拌し、続いて熟成することが必須とされていた。
したがって、充分な繊維状形態には成長していないロッド状前駆体が、水あるいは弱アルカリ水溶液中において、長い繊維状形態粒子に成長すること、しかも好ましくは熟成温度を攪拌温度よりも低温でも長い繊維状形態粒子に成長することは新たな知見であり、この現象を積極的に利用した繊維状多孔質シリカ粒子の合成手法は、従来報告例のない新規な製造方法である。
本発明は、以上のとおり、従来の攪拌及び熟成工程を見直すことにより、全く新しい、従来では予期することのできない知見を踏まえて、これまで発明者等が報告したと同様なミクロンサイズの繊維状多孔質シリカ粒子の製造方法を完成させたものである。
図1は、本発明の製造方法の特徴である、強酸性下の攪拌によって生成する不完全な連鎖状態にあるロッド状粒子が、中性もしくは弱アルカリ性の水溶液中での熟成によって繊維状粒子に成長する過程を明示するSEM像である。
この図から、強酸性下において、35℃では2時間攪拌を行った場合、反応中間物質中にはロッド状粒子の生成が認められ、ロッド状粒子間の連鎖は極めて遅く、不完全な状態であること分かる(図1a)。即ち、大部分はロッド状粒子のままか、あるいは少数のロッド状粒子が連鎖した短いロープ状粒子として認められる。この反応中間物質を37℃の水中に浸し、熟成するとロッド状粒子の連鎖が誘起される(図1b)。さらに、長時間熟成を継続することによって、より長い繊維状粒子が形成される(図2)。
このことは、30〜45℃の温度範囲で、ある一定時間以上攪拌して形成されるロッド状有機無機ナノ複合体は、溶液相において自発的に連鎖するように仕組まれた界面状態にあり、このことが本発明の繊維状多孔質粒子の形成に不可欠のことと考えられる。この仕組みは水あるいは水に混合して均質な水溶液を形成する固体あるいは液体状の水溶性化合物、例えば金属イオン等の共存、さらには溶液相の温度を高くすることでさらに促進されることになる。なお、攪拌反応後、ろ過・洗浄して得られた湿潤状態の生成物はあまりにも長時間あるいは高温で乾燥させることは好ましくなく、空気等気相中に一時的に保存する場合には、熟成工程での繊維状粒子の成長を抑制しない時間内の風乾程度にしておくことが好ましい。このことは、ろ過・洗浄後の生成物はできるだけ湿潤状態に保つことが望ましいことを示している。
アルカリ珪酸塩は強酸性水溶液下でシリカ溶存種がプラスに帯電し[I+]、一方、強酸に溶解した非イオン性界面活性剤[N0]においても、界面活性剤表面の親水基部分がプロトン[H+]に覆われることでプラスの電荷を帯び、プラスに帯電したシリカ、界面活性剤の両表面間に陰イオン[X-]が介在することで、電気的に安定なメソ構造体[N0H+][X-I+]を形成すると推定される。更に、溶液中にはアルカリ珪酸塩と酸との反応により発生したアルカリイオン(M+)が存在し、このイオンにより表面が帯電したシリカ間同士の電荷は相殺されるため、ゲル化が進行しシリカ骨格中に非イオン性界面活性剤を包含した有機無機メソ構造体が生成する。この有機無機メソ構造体がロッド状構造体として生成し易い非イオン性界面活性剤[N0]を選択し、繊維状粒子の基本構造単位であるロッド状構造体が連鎖することを決定づける条件下で一定時間攪拌することによって、攪拌反応後はロッド状構造体が不完全な連鎖体であっても、そのまま攪拌を継続することで繊維状粒子の成長が決定づけられた条件であれば、中性もしくは弱アルカリ性の水溶液中で熟成することによって最終的にミクロンオーダーの繊維状形態を有する粒子に成長すると推定される。すなわち、ロッド状構造体が連鎖して成長することで繊維状多孔質粒子前駆体が形成され、有機成分を焼成或は溶媒抽出等の処理により除去することで得られる生成物は、ミクロンオーダーの繊維状を呈すると同時に、1次元チャンネルが六方晶系に規則配列したメソ孔を併せ持ち、2つの異なるスケールで秩序構造を有していることになる。
これらの実験結果は、従来の特許文献(特許文献2及び4)に示したと同様、本繊維状多孔質シリカ粒子は、基本構造単位であるロッド状粒子の連続体であり、個々のロッド状粒子中には粒子内を貫通する1次元メソチャンネルがハニカム状に規則配列していることに対応している。
そして、既に指摘したとおり、本発明の製造方法によって、広い範囲の均一細孔径を有し、且つミクロンオーダーの繊維状の形状を呈する繊維状多孔質シリカ粒子を作製することが可能である。
すなわち、本発明においては、走査型顕微鏡観察による長軸の長さが5乃至2000μmの範囲にあり、アスペクト比が3乃至150であって、3〜10nmの広い範囲の均一細孔径を持つ、ミクロンサイズの多孔質シリカ粒子が提供される。
強酸性下における攪拌と、引き続いて行う水溶液中での熟成反応に基づく、本発明の製造法においては、生成物のマクロ形態は攪拌並びに熟成工程の温度と時間、並びに金属塩等水溶性化合物の種類と添加量により制御できる。また、メソ構造の規則性、さらにはメソ孔の大きさ等細孔特性は、攪拌条件にも影響を受けるが、特に熟成温度、水溶性化合物の種類とその添加量等熟成条件によって制御できる。
熟成前の反応溶液の攪拌混合時間は、反応温度にも依存するが、30分以上であることが望ましく、短すぎると繊維状に成長させることが難しいと同時に、最終的に得られる繊維状多孔質シリカ粒子の生成量が減少することになる。また、攪拌時間は2時間を越えても繊維状多孔質シリカ粒子の形成には影響はほとんどないが、攪拌工程を短縮する観点から150分以内で十分である。さらに、熟成時間の制御によって、細孔径がコントロールできることも本発明の製造方法の大きな特徴である。また、金属塩等の添加は、低温で熟成する場合には、アスペクト比が大きく良質な長い繊維状多孔質シリカ粒子を作製するには特に効果的である。
本発明で使用される、シリカ原料、非イオン性界面活性剤、酸及び金属元素を含む化合物について更に説明する。
本発明で使用されるシリカ原料としては、アルカリ珪酸塩を使用すること6較的廉価であるナトリウム珪酸塩が好ましい。ナトリウム珪酸塩としてはNa2O・mSiO2式中、mは1乃至5の数、特に1.5乃至4.5の数である組成を有するナトリウム珪酸塩水溶液を使用することが好ましい。
本発明で使用される、トリブロック共重合体の重合比、平均分子量並びに疎水基の重量割合が重要であり、その平均分子量は約4800以上で、疎水基の重量割合が、重量65%以上であることが望ましく、特にPEO20PPO70PEO20が(商品名Pluronic 123)最適である。
尚、実施例で行った各試験方法は次の方法により行った。
(1)形態と粒子サイズ:日本電子株式会社製走査型電子顕微鏡JSM5300を使用し、加速電圧10kV、WD10mmで観察した。さらに、日立製電界放射型走査電子顕微鏡S−4700Fを使用して形態観察を行うと共にアスペクト比を求めた。
(2)比表面積・細孔径分布:日本ベル製BELSORP28を使用し、液体窒素温度で測定した窒素吸着等温線からBET比表面積を求め、細孔径分布はBJH法により解析した。さらに、t−プロットから、メソ孔とマイクロ孔に起因する全細孔容積と、マイクロ孔容積を算出した。
(3)X線回折:リガク製ロータフレックスRU−300を使用し、CuKα線源、加速電圧40kV、80mAで測定した。
本実施例は熟成温度を、攪拌温度より高い温度に設定している。水を加えて希釈した市販のJIS3号珪酸ナトリウム(SiO2:23.6%、Na2O:7.59%)を、2Nの塩酸に溶解したトリブロック共重合体Pluronic P123 (PEO20PPO70PEO20)溶液に攪拌しながら添加した。両原料溶液は予め所定温度35℃あるいは38℃に調整して混合し、両原料溶液を混合してから1〜2時間後に攪拌を停止した。反応懸濁液をろ別し、洗浄して得られた湿潤状態の反応生成物を、そのまま純水中、あるいは金属塩等を添加した水溶液中で、37℃以上で一定時間熟成した後、ろ過・洗浄し、生成物を乾燥させ、最終的に600℃の電気炉中で1時間焼成を行うことで有機成分を除去し繊維状多孔質シリカ粒子を作製した。攪拌時の混合溶液のモル比はSiO2:Pluronic P123:Na2O:HCl:H2O=1:0.017:0.312:5.88:202である。尚、H2Oには全ての原料由来の水が含まれている。熟成はSiO21モルに対して、水は80〜85モルの範囲とし、金属塩化物は0.08〜1.6モル、NaOHは0.0015モル、NH4OHは0.015モルを使用している。
本実施例は熟成温度を、攪拌温度と同一あるいはより低い温度に設定している。水を加えて希釈した市販のJIS3号珪酸ナトリウム(SiO2:23.6%、Na2O:7.59%)を、2Nの塩酸に溶解したトリブロック共重合体Pluronic P123 (PEO20PPO70PEO20)溶液に攪拌しながら添加した。両原料溶液は予め所定温度30℃あるいは38℃に調整して混合し、両原料溶液を混合してから2時間後に攪拌を停止した。反応懸濁液をろ別し、洗浄して得られた湿潤状態の反応生成物を、そのまま純水中、あるいは金属塩等を添加した水溶液中で、30℃で一定時間熟成した後、ろ過・洗浄し、生成物を乾燥させ、最終的に600℃の電気炉中で1時間焼成を行うことで有機成分を除去し繊維状多孔質シリカ粒子を作製した。攪拌時の混合溶液のモル比はSiO2:Pluronic P123:Na2O:HCl:H2O=1:0.017:0.312:5.88:202である。尚、H2Oには全ての原料由来の水が含まれている。熟成はSiO21モルに対して、水は80〜85モルの範囲とし、金属塩化物は0.08〜1.6モル、NaOHは0.015モルを使用している。
Claims (8)
- 酸性水溶液及び非イオン性界面活性剤の混合液に、アルカリ珪酸塩水溶液を30℃から45℃の温度条件下で攪拌しながら混合し、一定温度で所定時間以上攪拌し続けたら反応懸濁液の攪拌を停止して、反応生成物を溶液相から分離・洗浄して得られる湿潤状態の生成物もしくはその乾燥物を、中性もしくは弱アルカリ性の水溶液中において熟成後、溶液相から分離して得られた繊維状粒子前駆体中の非イオン性界面活性剤を除去することを特徴とする繊維状多孔質シリカ粒子の製造方法。
- 酸性水溶液及び非イオン性界面活性剤の混合液に、アルカリ珪酸塩水溶液を30℃から45℃の温度条件下で攪拌しながら混合し、一定温度で所定時間以上攪拌し続けたら反応懸濁液の攪拌を停止して、反応生成物を溶液相から分離・洗浄して得られる湿潤状態の生成物もしくはその乾燥物を、攪拌温度と同一あるいは攪拌温度よりも低い反応温度で、水溶液中において熟成後、溶液相から分離して得られた繊維状粒子前駆体中の非イオン性界面活性剤を除去することを特徴とする繊維状多孔質シリカ粒子の製造方法。
- 攪拌反応終了後、反応生成物を溶液相から分離・洗浄して得られる湿潤状態の生成物もしくはその乾燥物を熟成する際に、水あるいは水に混合して均質な水溶液を形成する固体あるいは液体状の水溶性化合物を添加することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の繊維状多孔質シリカ粒子の製造方法。
- 非イオン性界面活性剤をアルカリ珪酸塩中のSiO21モル当たり0.002乃至0.25モルの量で用いることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の繊維状多孔質シリカ粒子の製造方法。
- 酸をアルカリ珪酸塩中のSiO21モル当たり0.6乃至15モルの量で用いることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の繊維状多孔質シリカ粒子の製造方法。
- 水をアルカリ珪酸塩中のSiO21モル当たり100乃至400モルの量で用いることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の繊維状多孔質シリカ粒子の製造方法。
- 水溶液中で熟成する際に、水をアルカリ珪酸塩中のSiO21モル当たり40乃至200モルの量で用いることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の繊維状多孔質シリカ粒子の製造方法。
- 水溶液中で熟成する場合、水溶性化合物をアルカリ珪酸塩中のSiO21モル当たり0.005乃至5モルの量で用いることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の繊維状多孔質シリカ粒子の製造方法。
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