JP5273431B2 - 新規なアクリル酸エステル化合物、その製造中間体、及びその製造方法 - Google Patents
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Description
このため、近年、電荷輸送性材料とバインダー樹脂を一体化させる取り組みが行われており、電荷輸送性構造体にラジカル重合性基を結合した電荷輸送性モノマー及びその重合体が種々提案されている。
例えば、二つ以上の連鎖重合性官能基を有する種々の電荷輸送性モノマーが提案されており、これらを電子写真感光体に応用することが提案されている。電荷輸送性モノマーの中でも特にアクリル酸エステル系化合物は架橋性が良好であり多数提案されている(例えば、特許文献1〜4参照)。このような電荷輸送性モノマーを用いることにより、耐析出性、耐摩耗性、耐傷性、感度、残留電位などが改善されると期待されている。
また、芳香族三級アミン骨格を有するアクリル酸エステル類及びその重合体、ならびに電子写真感光体を提案されている(例えば、特許文献5〜7参照)。このアクリル酸エステル類を用いることにより、電子写真感光体の感度と耐久性の向上が図れる。
このような電荷輸送性モノマーを用いてラジカル重合等により連鎖重合し、十分に架橋密度の高い3次元架橋膜を形成すれば、傷が付きにくく、硬度や耐熱性の高い膜が得られるので、各種有機半導体素子に用いた際に耐久性の向上を図ることができる。しかしながらその一方で、架橋密度を高めることによって、本来必要とされる電荷輸送性が低下し、十分な機能が得られないという問題がある。
すなわち、これまで提案されてきた多数の電荷輸送性モノマーは、摩耗や傷などに対する耐久性や耐熱性の要求に対応できる高架橋密度構造の形成と同時に、良好な電荷輸送特性の発現を両立して達成できるものはないと言ってもよく、両者を満足することのできる新規な化合物の開発が望まれていた。
本発明のアクリル酸エステル化合物は、下記一般式(1)で表されることを特徴とする。
また、本発明のアクリル酸エステル化合物は、下記一般式(2)で表されることを特徴とする。
例えば、以下の手順でヒドロキシ化合物を合成し、得られたヒドロキシ化合物とアクリル酸クロリドを反応させて本発明のアクリル化合物を容易に合成することができる。
下記反応式に示すようにメトキシ化合物を原料とし、これを従来知られている方法を用いて脱メチル化し、ヒドロキシ化合物を合成することができる(「脱メチル化によるヒドロキシ化合物の合成工程」)。
下記反応式に示すようにヒドロキシ化合物を製造中間体として用い、例えばアクリル酸エステル化合物を合成するには、従来知られているエステル化法を用いて同様に合成することができる(「アクリル化工程」)。
例えば、ヒドロキシ化合物Iとアクリル酸II−1とをp−トルエンスルフォン酸等のエステル化触媒と共に有機溶媒中で脱水しながら加熱撹拌することで合成することができる。また、ヒドロキシ化合物Iとアクリル酸ハライド(ハライドとしては、F、Cl、BrまたはIを挙げることができる。)の一例であるアクリル酸クロリド(II−3−1)とを、有機溶媒中アルカリ存在下で反応させることによって、容易に合成することができる。この反応時に用いられるアルカリとしては、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の無機アルカリ、またはその水溶液、トリエチルアミン、ピリジン等のアミン系塩基を使用することができる。反応に用いられる有機溶媒としては、トルエン等の炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、酢酸エチル等のエステル系溶媒、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、あるいはクロロホルム等のハロゲン系溶媒等が使用できる。具体的な合成例については後述する実施例に示す。
中間体:N,N−{4-(2,2-ジフェニルスチリル)ベンゼン}-N-(4-ヒドロキシ-4’-スチルベン)-アミンの合成
下記の合成例1から合成例2、合成例3を通して〔N,N−{4-(2,2-ジフェニルエチニル)ベンゼン}-N-(4-ヒドロキシ-4’-スチルベン)-アミンを合成する。
〔N,N−{4-(2,2-ジフェニルスチリル)ベンゼン}-N-(4−アルデヒド−ベンゼン)-アミンの合成〕
攪拌装置および温度計付の反応容器に、N,N−{4-(2,2-ジフェニルスチリル)ベンゼン}−ベンゼンアミン:15.64g、N−メチルホルムアニリド:7.731g、o−ジクロロベンゼン:200mlを入れ、氷水冷下に撹拌し、オキシ塩化リン:8.77gを滴下し、室温下に1時間、更に60℃下に4時間反応を行った。その後、塩化ナトリウム水溶液を加え、pHを10に調整した後、反応液を氷水に注ぎ込み、塩化メチレンで抽出した。有機層を水洗した後、分離し、硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(溶媒:トルエン)で精製し、目的の生成物を得た(収量16.36g、黄色粉末)。
この合成物質の質量分析(大気圧化学イオン化法によりイオン化してポジティブ(陽イオン化)で求めた単位電荷あたりの質量は、m/z=631であり、分子量+1(プロトン付加)の値に一致した。
〔N,N−{4-(2,2-ジフェニルスチリル)ベンゼン}-N-(4-メトキシ-4’-スチルベン)-アミンの合成〕
攪拌装置および温度計付の反応容器に、合成例1で得られたN,N−{4-(2,2-ジフェニルスチリル)ベンゼン}-N-(4−アルデヒド−ベンゼン)-アミン:8.13g、ジエチル(4−メトキシ−ベンゼン)ホスフォネート:3.664g、脱水ジメチルホルムアルデヒド:100mlを入れ、氷水冷下、アルゴンガス雰囲気下で撹拌し、ターシャリーブトキシカリウム:1.737g加え、室温下で1時間反応を行った。酢酸を加えた後、反応液を氷水に注ぎ込み、析出した目的の粗収物を濾別した(収量8.41g、黄色粉末)。
この合成物を前記同様に質量分析(大気圧化学イオン化法によりイオン化)してポジティブで求めた単位電荷あたりの質量は、m/z=735であり、分子量+1(プロトン付加)の値に一致した。
〔N,N−{4-(2,2-ジフェニルスチリル)ベンゼン}-N-(4-ヒドロキシ-4’-スチルベン)-アミンの合成〕
攪拌装置、温度計および冷却管付の反応容器に、合成例2で得られたN,N−{4-(2,2-ジフェニルスチリル)ベンゼン}-N-(4-メトキシ-4’-スチルベン)-アミン:8.22g、ナトリムエタンチオラート:3.14g、脱水ジメチルホルムアルデヒド:100mlを入れ、アルゴンガス雰囲気下、120℃で5時間反応を行った。得られた反応液を氷水に注ぎ込み、塩化メチレンで抽出した。有機層を水洗した後、分離し、硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(溶媒:トルエン)で精製し、目的の生成物(中間体〔N,N−{4-(2,2-ジフェニルスチリル)ベンゼン}-N-(4-ヒドロキシ-4’-スチルベン)-アミン〕)を得た(収量6.5g、黄色粉末)。
この生成物の質量分析(大気圧化学イオン化法によりイオン化)して、ネガティブで求めた単位電荷あたりの質量は、m/z=719であり、分子量−1(プロトン脱離)の値に一致した。
例示化合物No.1の合成
例示化合物No.1を下記合成例4により合成する。
(合成例4)
攪拌装置、温度計、冷却管および滴下漏斗付の反応容器に、中間体であるN,N−{4-(2,2-ジフェニルスチリル)ベンゼン}-N-(4-ヒドロキシ-4’-スチルベン)-アミン:3.6g、トリエチルアミン:1.113g、脱水テトラヒドロフラン:100mlを入れ、氷冷下で攪拌し、塩化アクリロイル:0.9051gを滴下した。その後、30分間室温で反応を行った。反応終了後、反応液を氷水へ注ぎ込み、塩化メチレンで抽出した。有機層を水洗した後、分離し、硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(溶媒:トルエン)で精製し、目的の生成物(例示化合物No.1)を得た(収量2.83g、黄色結晶、得られた生成物の赤外吸収スペクトルを図4に示す)。
この生成物の質量分析(大気圧化学イオン化法によりイオン化)を前記同様にして行った結果、ポジティブで求めた単位電荷あたりの質量は、m/z=775であり、分子量+1(プロトン付加)の値に一致した。
中間体:N,N−{4-(2,2-ジフェニルスチリル)ベンゼン}-N-(4-ヒドロキシ-4’-エチルベンゼン)-アミンの合成
この中間体を下記合成例5により合成する。
攪拌装置、温度計および冷却管付の反応容器に、N,N−{4-(2,2-ジフェニルスチリル)ベンゼン}-N-(4-メトキシ-4’-スチルベン)-アミン:6.5g、脱水塩化メチレン:100mlを入れ、氷冷下で撹拌し、1Mの三臭化ホウ素の塩化メチレン溶液:10mlを滴下し、更に同温度で3時間反応を行なった。反応液を氷水に注ぎ込み、塩化メチレンで抽出した。有機層を水洗した後、分離し、硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(溶媒:トルエン)で精製し、目的の生成物(中間体:N,N−{4-(2,2-ジフェニルスチリル)ベンゼン}-N-(4-ヒドロキシ-4’-エチルベンゼン)-アミン)を得た(収量7.46g、黄色アモルファス、生成物の赤外吸収スペクトルを図5に示す)。
この合成物質の質量分析(大気圧化学イオン化法によりイオン化)を前記同様にして行った結果、ネガティブで求めた単位電荷あたりの質量は、m/z=721であり、分子量−1(プロトン脱離)の値に一致した。
例示化合物3の合成:
例示化合物3を下記合成例6により合成する。
(合成例6)
攪拌装置、温度計、冷却管および滴下漏斗付の反応容器に、合成例5で得られたN,N−{4-(2,2-ジフェニルスチリル)ベンゼン}-N-(4-ヒドロキシ-4’-エチルベンゼン)-アミン:4.33g、トリエチルアミン:1.335g、脱水テトラヒドロフラン:100mlを入れ、氷冷下で攪拌し、塩化アクリロイル:1.086gを滴下した。30分間室温で反応を行い、反応終了後、反応液を氷水へ注ぎ込み、塩化メチレンで抽出した。硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮後、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:トルエン)により精製し、目的の生成物を得た(収量3.85g、黄色アモルファス、生成物の赤外吸収スペクトルを図6に示す)。
この生成物の質量分析(大気圧化学イオン化法によりイオン化)を前記同様にして行った結果、ポジティブで求めた単位電荷あたりの質量は、m/z=777であり、分子量+1(プロトン付加)の値に一致した。
<硬化膜からの溶出量>
上記合成例で合成した例示化合物1〜4(前記した化合物No.1〜No.4の化合物)及び下記比較用の化合物(I)〜(VII)を用いて以下の塗工液(A)〜塗工液(K)を調製し、これら塗工液11種をアルミ板上にブレード塗工して指触乾燥後、下記条件にて紫外線を照射し、それぞれ厚さ5μmの硬化膜を作製した。得られた硬化膜をテトラヒドロフランに7日間浸漬し、硬化膜からの膜成分の溶出量を測定した。評価結果を下記表3に示す。
以下、「部」は、全て「重量部」を表す。
例示化合物1(化合物No.1): 10部
トリメチロールプロパントリアクリレート: 10部
重合開始剤(1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン): 1部
テトラヒドロフラン: 84部
塗工液Aにおいて用いた例示化合物1に代えて、例示化合物3(化合物No.3)を使用した以外は塗工液Aと同様の組成により塗工液Bを調製した。
塗工液Aにおいて用いた例示化合物1に代えて、比較化合物として下記化合物(I)を使用した以外は塗工液Aと同様の組成で塗工液Cを調製した。
塗工液Aにおいて用いた例示化合物1に代えて、比較化合物として下記化合物(II)を使用した以外は塗工液Aと同様の組成で塗工液Dを調製した。
塗工液Aにおいて用いた例示化合物1の代りに、比較化合物として下記化合物(III)を使用した以外は全て塗工液Aと同様の組成で塗工液Eを調製した。
塗工液Aにおいて用いた例示化合物1の代りに、比較化合物として下記化合物(IV)を使用した以外は全て塗工液Aと同様の組成で塗工液Fを調製した。
塗工液Aにおいて用いた例示化合物1の代りに、比較化合物として下記化合物(V)を使用した以外は全て塗工液Aと同様の組成で塗工液Gを調製した。
塗工液Aにおいて用いた例示化合物1の代りに、比較化合物として下記化合物(VI)を使用した以外は全て塗工液Aと同様の組成で塗工液Hを調製した。
塗工液Aにおいて用いた例示化合物1の代りに、比較化合物として下記化合物(VII)を使用した以外は全て塗工液Aと同様の組成で塗工液Iを調製した。
ランプ:メタルハライドランプ 160W/cm2
照射距離:120mm
照射強度:500mW/cm2
照射時間:60秒
<電荷輸送性評価>
アルミ板上に下記組成の下引き層用塗工液、電荷発生層用塗工液、および電荷輸送層用塗工液を順次、塗布、乾燥することにより、0.3μmの下引き層、0.3μmの電荷発生層、および20μmの電荷輸送層をそれぞれ形成して9種類の感光体(1)〜(9)を作製した。なお、9種類の感光体における電荷輸送層用塗工液の組成分として、それぞれ前記合成例において合成した本発明の例示化合物1、2及び上記硬化性評価において用いた化合物(I)〜(VII)の各アクリル化合物を用いた。
ポリアミド樹脂(CM−8000:東レ社製): 2部
メタノール: 49部
ブタノール: 49部
下記構造式(VIII)のビスアゾ顔料: 2.5部
ポリビニルブチラール(XYHL:UCC社製): 0.5部
シクロヘキサノン: 200部
メチルエチルケトン: 80部
ビスフェノールZポリカーボネート(パンライトTS−2050、帝人化成社製):
10部
電荷輸送性化合物(表4に示すアクリル酸エステル化合物): 10部
テトラヒドロフラン: 80部
1%シリコーンオイルのテトラヒドロフラン溶液(商品名KF−50 100CS、信越化学工業社製): 0.2部
すなわち、暗所で−6kVのコロナ放電により−800Vに帯電せしめた後、タングステンランプ光を感光体表面での照度が4.5luxになるように照射して、電位が1/2になるまでの時間(秒)を求め、半減露光量E1/2 (lux・sec)を算出した。また、露光30秒後の残留電位(−V)を求めた。なお、半減露光量が小さいほど感度が良く、残留電位が小さいほど電荷のトラップが少ないことを表す。
評価結果を下記表4に示す。
すなわち上の評価例1(硬化膜からの溶出量)及び評価例2(電荷輸送性評価)から、連鎖反応により機械的耐久性や耐熱性に対応できる高密度な架橋構造の形成と共に、良好な電荷輸送特性の発現を両立することができるのは本発明のアクリル酸エステル化合物を用いたものであり、従来公知の電荷輸送性化合物の場合にはいずれも両立させることができない。
したがって、本発明のアクリル酸エステル化合物は前記各種有機半導体デバイスを提供するための材料として極めて有効である。また本発明の上記各アクリル酸エステル化合物の中間体として、前記化合物(3)、(4)で表されるヒドロキシ化合物を用いれば、所定のアクリル酸エステル化合物の分子中に電荷輸送機能(ホール輸送性)を持つ構造単位を容易に導入することができる。すなわち、ヒドロキシ化合物とアクリル酸クロリドを反応させることにより目的の化合物を容易に合成することができる。
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