本発明者は、従来公知のAgを主成分とするAg合金膜に、さらに窒素を添加することによって、Ag合金膜と基板との密着性およびAg合金膜の熱耐食性を向上させることができることを見出した。本発明はこれらの知見をもとになされたものである。
<第1の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態である反射電極は、銀(Ag)を主成分として、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)および金(Au)から選ばれる1種類以上の元素を添加成分として含むとともに、窒素を1.3at%以上5.5at%以下の含有率で含むAg合金膜を備えて構成される。本実施の形態では、反射電極は、Ag合金膜によって構成される。本発明の他の実施の形態では、反射電極は、Ag合金膜と他の導電膜とを含んで構成されてもよい。
ここで、「主成分」とは、最も原子含有率の高い成分のことをいう。また「at%」は、原子%(atomic percent)を意味する。たとえば、窒素の含有率が5at%であるとは、Ag合金膜を構成する原子の合計個数が100個であるとき、その100個の中に窒素原子が5個存在することを示している。
マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)および金(Au)から選ばれる1種類以上の元素(以下「添加元素」という場合がある)を添加成分として銀(Ag)に添加してAg合金膜を形成することによって、これらの添加元素が添加されていないAg膜に比べて、加熱による膜表面の酸化を抑制し、酸化による膜表面の曇化を防ぐことができる。これによって、加熱酸化による膜表面の反射率の低下を抑えることができる。前述の添加元素が添加されていないAg膜は、加熱によって膜表面が酸化し、酸化による膜表面の曇化が生じて、著しく反射率が低下してしまう。
本実施の形態では、Ag合金膜は、前述の添加元素のうち、Moを含むAg−Mo合金膜である。このように前述の添加元素の中でも、Moを用いることが好ましい。Moを添加することによって、Ag合金膜の加熱酸化による反射率の低下を最小限に抑えることができる。
Ag合金膜における前述の添加元素の含有率は、合計で、0.5at%以上6at%以下であることが好ましく、1at%以上5at%以下であることがより好ましい。Ag合金膜における添加元素の合計含有率を0.5at%以上6at%以下、特に1at%以上5at%以下にすることによって、加熱による膜表面の酸化をより確実に抑制し、膜表面の曇化をより確実に防ぐことができるので、膜表面の反射率の低下をより確実に抑制することができる。
図1は、本発明の第1の実施の形態におけるAg合金膜の反射率値のアニール温度依存性を示すグラフである。図1は、後述する実施例において、種々の含有率で窒素を添加してMo含有率1.5at%のAg合金膜を成膜したときの成膜直後、200℃でのアニール後、250℃でのアニール後、および300℃でのアニール後の各段階のAg合金膜の反射率値をプロットしたものである。図1では、窒素に代えて酸素を添加してMo含有率1.5at%のAg合金膜を成膜したときの結果を併せて示す。図1では、窒素含有率1.3at%の実施例1の反射率を記号「◇」で示し、窒素含有率2.5at%の実施例2の反射率を記号「△」で示し、窒素含有率3.5at%の実施例4の反射率を記号「□」で示し、窒素が添加されていない比較例5の反射率を記号「○」で示し、酸素含有率が1.2at%の比較例6の反射率を記号「×」で示す。
図2は、比較例におけるAg合金膜の反射率値のアニール温度依存性を示すグラフである。図2は、後述する比較例において、1.5at%の含有率でPd、Au、Cu、Moの各元素をAgに添加してAg合金膜を成膜したときの成膜直後、200℃でのアニール後、250℃でのアニール後、および300℃でのアニール後の各段階のAg合金膜の反射率値をプロットしたものである。図2では、添加元素が添加されない比較例1の反射率を記号「◇」で示し、Pdを添加した比較例2の反射率を記号「□」で示し、Auを添加した比較例3の反射率を記号「△」で示し、Cuを添加した比較例4の反射率を記号「×」で示し、Moを添加した比較例5の反射率を記号「○」で示す。
図3は、本発明の第1の実施の形態におけるAg合金膜の可視光領域での分光反射率を示すグラフである。図3は、後述する実施例において、種々の含有率で窒素を添加して成膜したMo含有率1.5at%のAg合金膜の標準白色板に対する反射率値をグラフ化したものである。図3では、窒素に代えて酸素を添加してMo含有率1.5at%のAg合金膜を成膜したときの結果を併せて示す。
図4は、本発明の第1の実施の形態におけるAg合金膜の反射率値の窒素組成比依存性を示すグラフである。図4は、後述する実施例において、種々の含有率で窒素を添加してMo含有率1.5at%のAg合金膜を成膜したときの窒素組成比、すなわち窒素含有率と、Ag合金膜の反射率との関係を示すグラフである。図4では、窒素に代えて酸素を添加したときの結果を併せて示す。図4では、酸素を添加した比較例の反射率を記号「□」で示し、窒素を添加した実施例の反射率を記号「○」で示す。
図1〜図3および後述する表1に示すように、前述の添加元素が添加されたAg合金膜に、窒素を添加することによって、前述の添加元素のみが添加され、窒素が添加されていないAg合金膜に比べて、加熱による反射率の低下をさらに抑制することができる。またアニール効果で反射率を向上させることができる。また前述の添加元素が添加されたAg合金膜に窒素以外の元素、たとえば酸素を添加する場合に比べて、金属元素以外の元素を添加することによる反射率の低下を抑制することができる。
図1〜図4に示すように、前述の添加元素を添加したAg合金膜に、酸素を添加した場合、加熱による反射率の低下を抑えることはできるが、酸素が添加されていないAg合金膜に比べて、成膜直後の反射率、すなわち加熱前の反射率が著しく低下するので、反射膜用途としては好ましくない。
本実施の形態のように、前述の添加元素が添加されたAg合金膜に、窒素を添加することによって、前述の添加元素が添加されたAg合金膜に窒素以外の元素、たとえば酸素が添加されているAg合金膜に比べて格段に反射率の低下を抑制することができる。
図5は、本発明の第1の実施の形態におけるAg合金膜の比抵抗値の窒素組成比依存性を示すグラフである。図5は、後述する実施例において、種々の含有率で窒素を添加してMo含有率1.5at%のAg合金膜を成膜したときの窒素組成比、すなわち窒素含有率と、Ag合金膜の比抵抗値との関係を示すグラフである。図5では、窒素に代えて酸素を添加したときの結果を併せて示す。図5では、酸素を添加した比較例の比抵抗を記号「□」で示し、窒素原子を添加した実施例の比抵抗を記号「○」で示す。
図6は、本発明の第1の実施の形態におけるAg合金膜の比抵抗値のアニール温度依存性を示すグラフである。図6は、後述する実施例において、種々の含有率で窒素を添加してMo含有率1.5at%のAg合金膜を成膜したときの成膜直後、200℃でのアニール後、250℃でのアニール後、および300℃でのアニール後の各段階のAg合金膜の比抵抗値をプロットしたものである。図6では、窒素に代えて酸素を添加してMo含有率1.5at%のAg合金膜を成膜したときの結果を併せて示す。図6では、窒素含有率1.3at%の実施例1の比抵抗を記号「◇」で示し、窒素含有率2.5at%の実施例2の比抵抗を記号「△」で示し、窒素含有率3.5at%の実施例4の比抵抗を記号「□」で示し、窒素含有率が5.5at%の実施例5の比抵抗を記号「▽」で示し、窒素が添加されていない比較例5の比抵抗を記号「○」で示す。
図5および図6に示すように、Ag合金膜における窒素の含有率を1.3at%以上5.5at%以下とすることによって、前記従来技術とは異なり、比抵抗値の増大および電気特性の劣化を防止することができる。また後述する表4に示すように、前記従来技術に比べて、Ag合金膜と基板との密着性を向上させることができるとともに、熱耐食性を向上させることができる。したがって本実施の形態におけるAg合金膜は、加熱プロセスを有するデバイスの反射膜および配線膜などとして好適に用いることができる。
Ag合金膜における窒素の含有率が1.3at%未満であると、窒素を添加することによる効果が充分に発揮されず、Ag合金膜と基板との密着性が充分に得られない。また熱耐食性が不充分になり、加熱による反射率の低下を抑制することができない。また比抵抗値の増大および電気特性の劣化を防止することができない。Ag合金膜における窒素の含有率が5.5at%を超えると、窒素の添加による反射率の低下が生じ、充分な反射率が得られない。また窒素の含有率が1.3at%未満または5.5at%を超えたAg合金膜では、後述する成膜工程において、スパッタリング時に用いるアルゴンガスと窒素ガスとの混合ガス中における窒素ガスを高精度に再現性良く制御することが難しく、歩留り良く成膜することが難しいという問題もある。したがってAg合金膜における窒素の含有率は、1.3at%以上5.5at%以下とした。
Ag合金膜における窒素の含有率は、2.5at%以上3.5at%以下であることがより好ましい。Ag合金膜における窒素の含有率を2.5at%以上3.5at%以下にすることによって、加熱によるAg合金膜の反射率の低下をより確実に抑制するとともに、アニール効果によってAg合金膜の反射率をさらに向上させることができる。また比抵抗値の増大および電気特性の劣化をより確実に防止することができる。
以上のように本実施の形態では、Agを主成分とするAg合金膜に、少なくとも窒素を添加してAg合金膜を形成するので、前記従来技術とは異なり、Ag合金膜と基板との密着性および熱耐食性を共に向上させることができる。したがって、本実施の形態のAg合金膜では、基板界面近傍のみ組成濃度を変化させるような密着力を補強する構造にする必要もない。すなわち、膜中で概略均一な組成を有するAg−Nx合金の単層膜で使用することが可能となるので、生産能力を低下させることがない。
また、このようにAg−Nx合金の単層膜で使用できることによって、たとえば、従来公知のリン酸と硝酸と酢酸系とを混合した薬液を用いて容易にエッチング加工することができるので、その断面構造にも庇形状またはくびれ形状を生じさせることがなくなる。したがって、パターン精度の低下およびパターン不良などの不良の発生を防止することができる。
また本実施の形態では、前記従来技術とは異なり、比抵抗値の増大および電気特性の劣化をも防止することができる。したがって本実施の形態のAg合金膜は、加熱プロセスを有するデバイスの反射膜および配線膜などとして好適に用いることができる。
さらに本実施の形態のAg合金膜は、前記従来技術に比べて、光反射特性の低下を抑制することができる。つまり本実施の形態では、比抵抗値および反射率値を大幅に低下させることなく、基板との密着性および熱耐食性を改善することができる。したがって本実施の形態のAg合金膜は、反射電極として機能する反射膜および配線膜などとして好適に用いることができる。
また窒素はAg合金膜中に添加されるので、窒素の含有率を容易に制御することができる。これによって、再現性良く、電気特性および光学特性の良好なAg合金膜を実現することができる。
このようなAg合金膜を備えて反射電極が構成されるので、密着性および熱耐食性に優れるとともに、安定な電気特性および良好な光反射特性を有する反射電極を実現することができる。
本実施の形態の反射電極であるAg合金膜は、Ag合金膜を形成するAg合金膜形成工程を備える反射電極の製造方法によって製造される。本実施の形態では、反射電極の製造方法は、Ag合金膜形成工程の後に、Ag合金膜形成工程で形成したAg合金膜を予め定める温度でアニールするアニール工程を備える。
Ag合金膜形成工程では、Ag合金膜中に窒素が1.3at%以上5.5at%以下の含有率で含まれるように、窒素ガスを含むガスの雰囲気下でスパッタリングによってAg合金膜を形成する。具体的には、ターゲットとして、Agに添加元素が添加された合金ターゲット、本実施の形態ではAg−Mo合金ターゲットを用い、不活性ガスに窒素(N2)ガスを添加した混合ガスの雰囲気下でスパッタリングを行い、Ag合金膜を形成する。不活性ガスとしては、たとえばアルゴン(Ar)ガスなどの希ガスが用いられる。混合ガス中の窒素ガスの分圧を制御することによって、Ag合金膜中の窒素の含有率を調整することができる。具体的には、混合ガス中の窒素ガスの分圧を混合ガスの全圧の1.5%以上12%以下の範囲で適宜に選択することによって、窒素を1.3at%以上5.5at%以下の含有率で含むAg合金膜を形成することができる。このようにして形成されるAg合金膜の膜厚は、たとえば200nmである。
Ag合金膜形成工程でAg合金膜を形成した後、形成したAg合金膜を、アニール工程で予め定める温度(以下「アニール温度」という場合がある)でアニールすることによって、反射電極であるAg合金膜が製造される。アニール温度は、200℃以上300℃以下に選ばれる。
以上のように本実施の形態では、Ag合金膜形成工程において、窒素ガスを含むガスの雰囲気下でスパッタリングによってAg合金膜を形成するので、製造工程を増やすことなく、窒素を含むAg合金膜を成膜することができる。これによって、従来技術に比べて、製造コストを下げることができる。また窒素は、窒素ガスを含むガスの雰囲気下でスパッタリングすることによって、Ag合金膜中に添加されるので、窒素ガスの量を調整することによって、Ag合金膜中の窒素の含有率を容易に制御することができる。これによって、再現性良く、電気特性および光学特性の良好なAg合金膜を形成することができる。したがって、密着性および熱耐食性に優れるとともに、安定な電気特性および良好な光反射特性を有する反射電極を、安価に製造することができる。
また本実施の形態では、Ag合金膜形成工程の後に、アニール工程において、Ag合金膜形成工程で形成されたAg合金膜を、予め定める温度でアニールするので、電気特性を向上させ、低抵抗化することができる。これによって、密着性および熱耐食性に優れるとともに、安定な電気特性および良好な光反射特性を有する反射電極を、より確実に製造することができる。
以上に述べた本実施の形態では、Ag合金として、Moを添加したAg−Mo合金を用いて窒素を添加するようにしているが、Agに添加する添加元素はMoに限ることはなく、純Agをベースとして用いた場合でも、本実施の形態と同様の効果を得ることが可能である。
ただし、前述のMoならびに、図2および後述する表1に比較例として示すPd、Au、Cuの他にもマグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、白金(Pt)およびネオジム(Nd)から選ばれる1種類以上の元素を添加したAg合金の場合は、そのAg合金膜だけでも熱酸化耐性を向上させる特性を有するので、これらのAg合金をベースにして本発明の技術を実施した場合には、純Agをベースとした場合に比べて、本発明の前述の効果をさらに発揮することができるので好ましい。
<参考形態>
次に参考形態について説明する。本参考形態では、外光を反射させて画像表示を行う反射型液晶表示装置に用いられるアクティブマトリックス型の薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor;略称:TFT)基板の反射画素電極に本発明の技術を適用した例について説明する。
図7は、参考形態における反射型液晶表示装置用のアクティブマトリックス型TFT基板100の構成を示す平面図である。図8は、図7の切断面線A−A、B−BおよびC−Cから見た断面図である。
反射型液晶表示装置用のアクティブマトリックス型TFT基板(以下「液晶表示装置用TFT基板」という)100は、透明絶縁性基板1、ゲート電極2、ゲート配線3、ゲート端子部4、補助容量電極5、ゲート絶縁膜6、シリコン(Si)半導体膜7、オーミック低抵抗Si膜8、ソース電極9、ドレイン電極10、TFTチャネル部11、ソース配線12、ソース端子部13、層間絶縁膜14、画素ドレインコンタクトホール15、ゲート端子部コンタクトホール16、ソース端子部コンタクトホール17、反射画素電極18、ゲート端子パッド19およびソース端子パッド20を備えて構成される。
透明絶縁性基板1は、ガラスおよびプラスチックなどの透光性絶縁材料から成る。透明絶縁性基板1上には、メタル膜から成るゲート電極2、ゲート配線3、ゲート端子部4および補助容量電極5が少なくとも形成されている。ゲート配線3は、ゲート電極2と電気的に接続される。ゲート端子部4は、ゲート配線3と電気的に接続され、映像の走査信号が入力される。
また透明絶縁性基板1上には、ゲート電極2、ゲート配線3、ゲート端子部4および補助容量電極5を覆うようにして、たとえば窒化シリコン(SiN)から成るゲート絶縁膜6が形成されている。前記ゲート絶縁膜6を介して下層の前記ゲート電極2の近傍には、TFTの構成要素となるSi半導体膜7が形成される。Si半導体膜7上には、Siに不純物を添加したオーミック低抵抗Si膜8が形成される。
ソース電極9およびドレイン電極10は、オーミック低抵抗Si膜8と直接に電気的に接続され、メタル膜から成る。TFTチャネル部11は、ソース電極9とドレイン電極10とが分離され、さらにオーミック低抵抗Si膜8が除去されて構成された領域である。ソース配線12は、ゲート絶縁膜6上に形成され、前記ソース電極9と電気的に接続される。ソース端子部13は、ゲート絶縁膜6上に形成され、前記ソース配線12と電気的に接続されて外部から映像信号が入力される。
層間絶縁膜14は、たとえばSiNから成り、前記TFTチャネル部11を含む基板全体を覆うように形成される。層間絶縁膜14内には、層間絶縁膜14の膜厚方向に貫通して、下層のドレイン電極10にまで達する画素ドレインコンタクトホール15が形成されている。また層間絶縁膜14内には、層間絶縁膜14の膜厚方向に貫通して、下層のゲート端子部4にまで達するゲート端子部コンタクトホール16が形成されている。また層間絶縁膜14内には、層間絶縁膜14の膜厚方向に貫通して、下層のソース端子部13にまで達するソース端子部コンタクトホール17が形成されている。
反射電極である反射画素電極18は、Ag合金膜から成り、画素ドレインコンタクトホール15を介してドレイン電極10と電気的に接続される。反射画素電極18を構成するAg合金膜は、第1の実施の形態の反射電極を構成するAg合金膜と同様の構成を有し、具体的には、Agを主成分として、Mg、Ti、Cr、Cu、Mo、Pd、PtおよびAuから選ばれる1種類以上の元素である添加元素を添加成分として含むとともに、窒素を1.3at%以上5.5at%以下の含有率で含む。さらに具体的に述べると、本参考形態の反射画素電極18は、膜組成がAg−1.5at%Mo−3.0at%NであるAgMo−N合金膜によって構成される。ゲート端子パッド19は、ゲート端子部コンタクトホール16を介してゲート端子部4と電気的に接続される。ソース端子パッド20は、ソース端子部コンタクトホール17を介してソース端子部13と電気的に接続される。本参考形態のゲート端子パッド19およびソース端子パッド20は、反射画素電極18と同様の膜組成のAgMo−N合金膜によって構成される。
以上のように構成された液晶表示装置用TFT基板100と、カラー表示用のカラーフィルターおよび対向電極などを具備した図示外の対向基板とを、予め定める間隙すなわちセルギャップを介して貼り合わせ、この中に液晶を注入および封止することによって、本参考形態の反射型液晶表示装置が製造される。
本参考形態によれば、反射電極である反射画素電極18は、第1の実施の形態の反射電極と同様に、前述の添加元素を含み、窒素を1.3at%以上5.5at%以下の含有率で含むAg合金膜から成る。このAg合金膜は、前述のように比抵抗値が低く、また高い光反射率を有する。このように電気的および光学的に良好な特性を有するAg合金膜を反射画素電極18として用いることによって、電気的および光学的に良好な特性を有する反射型液晶表示装置を製造することができる。またまたAg合金膜は、前述のように基板との密着性に優れるので、膜の剥離もなく、単層膜で構成できる。したがって、生産効率を高め、高い表示品質と信頼性とを有する反射型液晶表示装置を効率よく製造することが可能となる。
また反射画素電極18を構成するAg合金膜は、前記画素ドレインコンタクトホール15、ゲート端子部コンタクトホール16およびソース端子部コンタクトホール17を含む層間絶縁膜14上に成膜された後、アニールされる。このアニールによって、基板全体の膜応力が緩和されるので、TFT特性を向上させることができる。
<第2の実施の形態>
次に本発明の第2の実施の形態について説明する。本実施の形態では、有機EL(Electro Luminescence)素子から発光した光を反射させて画像表示を行う有機電界発光型表示装置に用いられるTFT基板の画素反射膜を兼ねるアノードに本発明の技術を適用した例について説明する。
図9は、本発明の第2の実施の形態における有機電界発光型表示装置200の構成を示す断面図である。有機電界発光型表示装置(以下「EL表示装置」という)200は、EL表示装置用のアクティブマトリックス型TFT基板(以下「EL表示装置用TFT基板」という)201および対向基板50を備えて構成される。
EL表示装置用TFT基板201は、絶縁性基板31、SiN膜32、二酸化シリコン(SiO2)膜33、ポリシリコン(p−Si膜)34、ゲート絶縁膜35、ゲート電極36、第1層間絶縁膜37、ソース電極38、ドレイン電極39、第1コンタクトホール40、第2コンタクトホール41、第2層間絶縁膜42、平坦化膜43、アノード44、第3コンタクトホール45、分離膜46、電界発光層47、カソード48および封止層49を備えて構成される。
絶縁性基板31は、ガラスおよびプラスチックなどの透光性絶縁材料から成る。絶縁性基板31上には、透過性絶縁膜であるSiN膜32が形成されている。SiN膜32上には、透過性絶縁膜であるSiO2膜33が形成されている。SiO2膜33上には、チャネル領域34a、ソース領域34bおよびドレイン領域34cを有するp−Si膜34が形成されている。
ゲート絶縁膜35は、SiO2膜33およびp−Si膜34を覆うようにして形成されている。ゲート絶縁膜35の上層には、ゲート電極36と、SiO2などから成る第1層間絶縁膜37とが形成されている。第1層間絶縁膜37上には、ソース電極38およびドレイン電極39が形成されている。ソース電極38は、第1コンタクトホール40を介してソース領域34bと電気的に接続されている。ドレイン電極39は、第2コンタクトホール41を介してドレイン領域34cと電気的に接続されている。
第1層間絶縁膜37上には、SiNおよびSiO2などから成る第2層間絶縁膜42が形成されている。また第2層間絶縁膜42は、前記ソース電極38とドレイン電極39の一部とを覆うようにして形成されている。第2層間絶縁膜42上には、表面を平坦化するために有機樹脂から成る平坦化膜43が形成されている。
平坦化膜43上には、第1アノード44aおよび第2アノード44bを有するアノード44が形成される。具体的に述べると、平坦化膜43上には、第1アノード44aが形成される。第1アノード44aは、窒素を含み電気的導電性および高い光反射特性を有するAg合金膜によって実現される。第1アノード44aは、反射電極に相当する。第1アノード44a上には、第2アノード44bが形成される。第2アノード44bは、透光性の導電酸化膜であるアモルファスITO(Indium Tin Oxide;酸化インジウムIn2O3+酸化すずSnO2)酸化膜によって実現される。アノード44は、平坦化膜43に形成されている第3コンタクトホール45を介して下層のドレイン電極39と電気的に接続されている。
アノード44は、有機EL層へのホール注入効率を上げるために、仕事関数値の高い導電性材料が好ましい。第2アノード44bとして用いたアモルファスITO酸化膜は、仕事関数値が4.7eV前後であって比較的高く、アノード44として好適に用いられる。
分離膜46は、アノード44の一部を画素表示領域として開口するとともに、画素表示領域以外のアノード44と平坦化膜43とを覆う。分離膜46は、隣接する図示外の画素間を分離するために、画素表示領域の周囲に額縁のように土手状に、つまり画素表示領域の周囲においてテーパー状に形成されている。前記画素表示領域の第2アノード44b上には、画像を表示するための有機EL材料から成る電界発光層47が形成されている。電界発光層47は、アノード44の直上に、図示外のホール輸送層、有機EL層および電子輸送層を含む層がこの順に積層されて、少なくとも3層以上で構成される。
カソード48は、分離膜46および電界発光層47を覆うようにして形成される。カソード48は、ITOなどの透光性の導電膜で形成され、アノード44に印加される信号電位との電位差によって電界発光層47に電流を流して発光させる。封止層49は、カソード48上に形成される。封止層49は、電界発光層47を水分および不純物から遮断するために形成される。
以上のように構成されたEL表示装置用TFT基板201の封止層49上には、絶縁性基板31と対向するように対向基板50が形成され、本実施の形態におけるEL表示装置200が製造される。
図9に示すEL表示装置200においては、ソース電極38から伝送される画像表示用電気信号が、ドレイン電極39を介してアノード44に印加され、カソード48との間の電圧差によって電界発光層47に電流が流れて、電界発光層47を構成する有機EL層が発光する。有機EL層から発せられた光は、下層の第1アノード44aであるAg合金膜の表面で反射して、対向基板50側に反射光として画像が表示される。
本実施の形態では、アノード44を構成する第1アノード44aとして、Agに少なくとも窒素を添加したAg−N系合金膜を適用した。
本実施の形態によれば、反射電極である第1アノード44aは、第1の実施の形態の反射電極と同様に、前述の添加元素を含み、窒素を1.3at%以上5.5at%以下の含有率で含むAg合金膜から成る。このAg合金膜は、前述のように比抵抗値が低く、また高い光反射率を有する。このように電気的および光学的に良好な特性を有するAg合金膜を第1アノード44aとして用いることによって、電気的および光学的に良好な特性を有するEL表示装置200を製造することができる。またAg合金膜は、前述のように基板との密着性に優れるので、膜の剥離もなく、単層膜で構成できる。したがって、生産効率を高め、高い表示品質と信頼性とを有するEL表示装置200を効率よく製造することが可能となる。
また本実施の形態では、Ag膜に窒素原子を添加することによって、Ag膜の柱状結晶成長を抑制して微結晶化させることができるので、表面の平坦性に優れた第1アノード44aを形成することができる。
また本実施の形態によれば、電気的および光学的に良好な特性を有するAg合金膜を第1アノード44aとして用いることで酸化耐性が向上するので、この第1アノード44aの表面にITO膜から成る第2アノード44bを形成した場合でも酸化曇化による反射率の低下を防止することができ、また局所的なAgの酸化反応を防止することができる。これによって、EL表示装置200の表示不良を防止することができる。さらに、第1アノード44aと第2アノード44bとの界面における電気的な接触抵抗を低く抑えることができるので、アノード44から電界発光層47に流れる電流の注入効率を高めることができる。したがって、明るくかつ高い表示品質を有するEL表示装置200を実現することが可能となる。
前述の各実施の形態は、本発明の例示に過ぎず、本発明の範囲内において構成を変更することができる。前述の参考形態および第2の実施の形態では、本発明のAg合金膜を、反射型液晶表示装置の反射画素電極18、およびEL表示装置200のアノード44にそれぞれ適用した場合について説明したが、適用するデバイスはこれらに限定されることなく、その他にも、たとえば光磁気ディスクおよび光ディスクなど、高い反射率および耐食性が要求される反射膜の用途としても好適に実施可能である。
(製造例)
Ag−1.5at%Mo組成の合金ターゲットを用い、不活性ガスであるアルゴン(Ar)ガスに窒素(N2)ガスを分圧比で1.5%以上12%以下まで振り分けて添加した混合ガスの雰囲気下でスパッタリングし、Ag−Mo−N合金膜を200nmの膜厚に成膜作製した。作製したサンプルの組成を、誘導結合プラズマ(Induced Coupled Plasma;略称:ICP)発光分析法およびX線光電子分光(X-ray Photoelectron Spectroscopy;略称:XPS)法で分析したところ、いずれのサンプルでもモリブデン組成比は1.5at%Moであった。窒素組成比は、混合ガスの窒素(N2)ガス分圧比に対応して、1.3at%以上5.5at%以下の間で変化していた。また窒素原子は、膜中にほぼ均一の濃度で存在していた。
以上の結果から、1.3at%以上5.5at%以下の範囲の含有率で窒素を含むAg合金膜は、スパッタリングのときの混合ガス中のN2ガスの分圧を制御することによって、比較的容易にかつ高精度に再現性良く制御できることがわかった。
なお、前述のN2ガス分圧比と膜の窒素組成比との関係は、使用するスパッタリング装置とその仕様、ならびにプロセス条件で任意に決められるものであり、前記の数値に限定されるものではない。
(実施例)
以下の実施例では、特に言及しない限り、前述の製造例と同様にして、種々の添加元素を含む合金ターゲットを用いて、窒素含有率を変化させてAg合金膜を形成した。また比較例では、ターゲットおよび雰囲気ガスを変更すること以外は、前述の製造例と同様にして、Ag膜およびAg合金膜を形成した。
また以下の試験例では、以下の実施例1〜4および比較例1〜6の各膜について評価を行なった。実施例1は、膜組成がモリブデン含有率1.5at%、窒素含有率1.3at%、残部がAgである「Ag−1.5at%Mo−1.3at%N」のAg−Mo−N合金膜である。また実施例2〜4の膜組成はそれぞれ、「Ag−1.5Mo−2.5at%N」、「Ag−1.5at%Mo−3.0at%N」、「Ag−1.5at%Mo−3.5at%N」である。比較例1〜6の膜組成はそれぞれ、「Ag」、「Ag−1.5at%Pd」、「Ag−1.5at%Au」、「Ag−1.5at%Cu」、「Ag−1.5at%Mo」、「Ag−1.5at%Mo−1.2at%O」である。
(試験例1)
本試験例では、Ag膜ならびにAg合金膜について、成膜後に、大気中において、種々のアニール温度で30分間保持するアニール処理を実施し、膜表面の反射率値とアニール温度との関係を評価した。
図1は、本発明の実施例におけるAg合金膜および比較例におけるAg合金膜の反射率値のアニール温度依存性を示すグラフである。図1の横軸は、アニール温度を示し、縦軸は波長550nmにおける反射率(%)を示している。図1では、実施例1の反射率を記号「◇」で示し、実施例2の反射率を記号「△」で示し、実施例4の反射率を記号「□」で示し、比較例5の反射率を記号「○」で示し、比較例6の反射率を記号「×」で示す。
図2は、比較例におけるAg合金膜の反射率値のアニール温度依存性を示すグラフである。図2の横軸は、アニール温度を示し、縦軸は波長550nmにおける反射率(%)を示している。図2では、比較例1の反射率を記号「◇」で示し、比較例2の反射率を記号「□」で示し、比較例3の反射率を記号「△」で示し、比較例4の反射率を記号「×」で示し、比較例5の反射率を記号「○」で示す。
表1に、各アニール温度でアニール処理を実施した後の膜の反射率を示す。
図1,2および表1に示す結果から明らかなように、第1の実施の形態で述べた添加元素が添加されていない比較例1のAg膜は、加熱による膜表面の酸化によって曇化が生じて、著しく反射率が低下してしまう。具体的に述べると、比較例1において、Ag膜の成膜直後の反射率値は98%であるが、200℃でのアニール後の反射率が85%、250℃でのアニール後の反射率が70%、300℃でのアニール後の反射率が63.5%となっており、加熱するに従って反射率が低下している。
他方、適当な添加元素を選び、その添加元素をAgに添加したAg合金膜では、表1に示すように、比較例2〜4における成膜直後の反射率はそれぞれ94.5%、95.1%、94.5%であり、成膜直後において添加元素の添加による反射率値のわずかな低下はあるけれども、比較例2〜4のAg合金膜における250℃でのアニール後の反射率はそれぞれ89%、89.5%および82%であり、比較例1のAg膜に比べると、加熱酸化による反射率の低下が抑えられていることが判る。
このことから、Pd、Au、Cu、Moを含む添加元素は、加熱酸化による反射率低下の防止に大きな効果を示すことが判る。これらの添加元素を含むAg合金のうちから、一例として銀−モリブデン(Ag−Mo)合金膜を選び、さらに窒素を添加した銀−モリブデン−窒素(Ag−Mo−N)合金膜の結果が、実施例1〜4である。
1.3at%の含有率で窒素を添加した実施例1においては、窒素を添加しないAg−1.5at%Moの比較例5よりも、反射率の低下が抑えられる改善効果が認められた。さらに、2.5at%以上3.5at%以下の含有率で窒素を添加した実施例2,4においては、加熱によるアニーリング効果によって反射率値はむしろ向上するという効果が得られた。
比較例6は、Ag−1.5at%Moに、ArガスとO2ガスとの混合ガスを用いたスパッタリング法で酸素を添加したAg−Mo−O合金膜である。比較例6では、加熱による反射率の低下を抑える効果は認められるが、成膜直後における膜の反射率が著しく低下、具体的には70%〜75%に低下することが判る。したがって、Ag合金膜に酸素を添加したAg−O合金膜は、反射膜用途としては好ましくないことが判る。
(試験例2)
本試験例では、窒素含有率が異なる各種のAg−Mo−N合金膜について、250℃で30分間アニール処理した後の可視光領域における分光反射率を測定した。ここで、「可視光領域」とは、波長が350nm以上850nm以下の領域をいう。本試験例では、Ag膜、および窒素に代えて酸素を添加したAg−Mo−O合金膜についても同様にして分光反射率を測定した。
図3は、本発明の第1の実施の形態であるAg合金膜の可視光領域における分光反射率を示すグラフである。さらに述べると、図3は、250℃で30分加熱処理した後の波長が350nm以上850nm以下の可視光領域におけるAg−Mo−N合金膜の分光反射率値を示すグラフである。図3の横軸は波長(nm)を示し、縦軸は反射率(%)を示している。図3には、膜組成が「Ag−1.5at%Mo−1.3at%N」、「Ag−1.5at%Mo−2.5at%N」、「Ag−1.5at%Mo−3.0at%N」および「Ag−1.5at%Mo−3.5at%N」である実施例1〜4ならびに膜組成が「Ag−1.5at%Mo」、「Ag−1.5at%Mo−1.2at%O」および「Al−0.1at%Cu」である比較例5〜7の各膜についての測定結果を示している。
図3に示すグラフから、実施例1〜4では、窒素を添加していないAg−Mo合金膜である比較例5に比べて、可視光の波長領域にわたって反射率値が向上していることが判る。
このことから、前述の添加元素を添加するとともに、窒素を添加したAg合金膜は、窒素を添加していないAg合金膜に比べて、可視光の波長領域における分光反射率を向上することができることが判る。
以上の実施例において、窒素の添加によってAg合金膜の加熱処理後の反射率値を維持または向上することができる理由は完全には明らかではないが、窒素と結合したAgNxは、酸素と結合したAgOxよりも反射率値の低下が少ないこと、窒素と選択的に結合したAgは、AgNx化合物としてAg粒界に析出してバリア層として働き、Ag結晶粒の酸化による劣化を防止すること、さらに加熱によるAg結晶粒の粒成長を抑制して膜表面のラフネスを低減し平坦性を向上させ、さらに均一良く維持させるなどの効果によるものと考えられる。
(試験例3)
本試験例では、Ag合金膜中の窒素組成比、すなわち窒素含有率を変化させて、各窒素含有率のAg合金膜について、反射率を測定し、窒素含有率と反射率との関係を評価した。本試験例では、窒素に代えて酸素を添加したAg−Mo−O合金膜についても同様にして評価した。
図4は、本発明の第1の実施の形態におけるAg合金膜の反射率値の窒素組成比依存性を示すグラフである。さらに述べると、図4は、250℃で30分加熱処理した後の波長が550nmにおけるAg−Mo−N合金膜の反射率値を示すグラフである。図4の横軸は、窒素原子または酸素原子の組成比(at%)を示し、縦軸は反射率(%)を示している。図4では、酸素原子を添加した比較例の反射率を記号「□」で示し、窒素原子を添加した実施例の反射率を記号「○」で示す。表2に、各含有率における反射率値を示す。
図4および表2に示すように、窒素を添加することによって、反射率値は向上していくが、組成比が3.5at%以上5.5at%以下の間で低下する傾向に転じる。しかし、組成比が5.5at%における反射率は85%であり、酸素を添加した場合と比べて比較的良好な反射率特性を保持している。
図3に比較例7として示したAl合金膜の波長が550nmにおける反射率値、具体的には約90%を基準に取ると、ベースとなるAg合金膜の反射率初期値によって多少の変動はあるが、Ag合金に添加する窒素の組成比、すなわち含有率を概略5at%以下、具体的には5.5at%以下とすることで、Al合金膜に対するAg合金膜の高反射率特性、具体的には反射率が90%以上となる特性を維持することができ、好ましい結果が得られることが判る。窒素原子の組成比を2.5at%以上3.5at%以下とすると、95%以上の反射率が得られ、さらに好ましい結果が得られることが判る。
以上の結果から、添加元素を添加したAg合金膜にさらに窒素原子を添加することによって反射率が向上することが判る。この反射率の向上効果は、窒素の含有率が3.5at%以上5.5at%以下の範囲で低下する傾向に転じるが、酸素を添加した場合に比べて、比較的良好な反射率特性を保持することができることが判る。
またAg合金膜に添加する窒素の含有率を5.5at%以下にすることによって、アルミニウム合金膜に比較して高い反射率を有するという、Ag合金膜の高反射率特性を維持することができることが判る。また窒素の含有率を2.5at%以上3.5at%以下にすることによって、95%以上の反射率を得ることができることが判る。
(試験例4)
本試験例では、Ag合金膜中の窒素組成比、すなわち窒素含有率を変化させて、各窒素含有率のAg合金膜について、比抵抗値を測定し、窒素含有率と比抵抗との関係を評価した。本試験例では、窒素に代えて酸素を添加したAg−Mo−O合金膜についても同様にして評価した。
図5は、本発明の第1の実施の形態であるAg合金膜の比抵抗値の窒素組成比依存性を示すグラフである。さらに述べると、図5は、Ag−Mo−N合金膜について、成膜直後の電気的比抵抗値の窒素組成比依存性を示すグラフである。図5の横軸は、窒素または酸素の組成比(at%)を示し、縦軸は比抵抗(μΩ・cm)を示している。図5では、酸素を添加した比較例の反射率を記号「□」で示し、窒素を添加した実施例の反射率を記号「○」で示す。表3に、各含有率における比抵抗値を示す。
図5および表3に示す結果から、Ag合金膜に窒素を添加することによって、窒素が添加されていないAg合金膜に比べて、比抵抗値を低減させることができることが判る。また、酸素を添加しても比抵抗値が低減することが確認された。
(試験例5)
本試験例では、Ag膜ならびにAg合金膜について、成膜後に、大気中において、種々のアニール温度で30分間保持するアニール処理を実施し、比抵抗値とアニール温度との関係を評価した。
図6は、本発明の実施例におけるAg合金膜および比較例におけるAg合金膜の比抵抗値のアニール温度依存性を示すグラフである。図6の横軸は、アニール温度を示し、縦軸は比抵抗(μΩ・cm)を示している。図6では、実施例1,2,4,5の比抵抗値をそれぞれ記号「◇」、「△」、「□」および「▽」で示し、比較例5の比抵抗値を記号「○」で示す。
図6に示すように、実施例1,2,4,5では、加熱後でも比抵抗値は増大せず、むしろアニーリング効果によって、比抵抗値をわずかに低減させることができることが判る。これは、熱耐食性の向上によって、表面酸化による電気特性の劣化が抑えられるためであると考えられる。
(試験例6)
次にAg−Mo−N合金膜について、ガラス基板との密着性を調べた結果について説明する。まず、表面が平滑な透明性ガラス基板に、ArガスとN2ガスとの混合ガスを用いたスパッタリング法によって、Ag−1.5Mo−N合金膜を200nmの膜厚で成膜した。得られた膜表面に、約18mm×18mmの大きさのセロハンテープ(ニチバン株式会社製)を貼り、それを引き剥がすという実験を5回試行し、膜の剥離が認められなかった場合を良好「○」と判定し、一度でも膜の剥離が認められた場合を不良「×」と判定した。表4に評価結果を示す。
表4に示すように、添加元素が添加されない比較例1のAg膜では、いずれの試行においても膜が剥離した。添加元素としてMoを添加した比較例5のAg−1.5at%Mo膜では、改善傾向が見られたものの、膜が剥離する場合が認められた。
他方、Ag−1.5at%Moに、1.3at%以上5.5at%以下の含有率で窒素を添加した実施例1〜5の膜では、剥離は認められなかった。また、1.2at%の含有率で酸素を添加した比較例6の場合でも膜の剥離は認められず、密着性の向上が認められた。
0.6at%の含有率で窒素を添加した膜については、テープ引き剥がし試験において膜の剥離は認められなかったが、ガラス基板を切断する際のスクライブ作業で、切断(破断)面にわずかな膜の剥離が認められた。実施例1〜5の膜では、ガラススクライブにおいても膜の剥離は確認されなかった。
以上の結果から、窒素を添加することによって膜の密着性を向上させる効果は得られることが判る。また充分な密着性向上の効果を得るためには、窒素の添加量は少なくとも概略1at%以上、具体的には1.3at%以上の含有率とすることが好ましいことが判る。
(試験例7)
本試験例では、前述の図7に示す反射型液晶表示装置用のアクティブマトリックス型TFT基板100における反射画素電極18、ゲート端子パッド19およびソース端子パッド20の形成の実施例を示す。
ここでは、Agに1.5at%のMoを添加したAgMo合金ターゲットを用いたDCマグネトロンスパッタリング法を用いた。スパッタリング条件は、Arガスに分圧比で5.0%のN2ガスを添加した混合ガスを用いて圧力が0.6Paになるように調整し、成膜パワー密度が6W/cm2で、膜厚が約200nmのAgMo−N膜を成膜した。このとき、膜組成は「Ag−1.5at%Mo−3.0at%N」であり、成膜直後の比抵抗値は5.5μΩ・cm、波長550nmにおける反射率値が95%と良好な特性であった。
次に、フォトリソグラフィプロセスによってフォトレジストパターンを形成した後に、リン酸+硝酸+酢酸系から成る薬液を用いて、AgMo−N膜をエッチングし、フォトレジストパターンを除去して反射画素電極18、ゲート端子パッド19およびソース端子パッド20のパターンを形成した。次いで、大気中で300℃の温度で30分保持するアニール処理をして、アクティブマトリックス型TFT基板100を完成させた。
前記アニール処理後のAgMo−N膜は、比抵抗値が4.0μΩ・cm、反射率値が96%であり、反射画素電極18として電気的および光学的に良好な特性を有していた。また、得られたアクティブマトリックス型TFT基板100では、膜の剥離もなかった。
以上の結果から、本発明によれば、高い表示品質と信頼性とを有するアクティブマトリックス型TFT基板100が得られることが判った。
(試験例8)
本試験例では、前述の図9に示すEL表示装置200におけるEL表示装置用TFT基板201の形成の実施例を示す。
ここでは、Agに1.5at%のMoを添加したAgMo合金ターゲットを用いたDCマグネトロンスパッタリング法を用いて、第1アノード膜44aを形成した。スパッタリング条件は、Arガスに分圧比で7.5%のN2ガスを添加した混合ガスを用いて圧力が0.6Paになるように調整し、成膜パワー密度が6W/cm2で、膜厚が約200nmのAgMo−N膜を成膜した。このときの膜組成は、「Ag−1.5at%Mo−3.5at%N」であり、成膜直後の比抵抗値は4.5μΩ・cmで、波長550nmにおける反射率値が95%と良好な特性であった。また得られた第1アノード膜44aは、表面ラフネスRaが1nm以下であり、表面の平坦性に優れるものであった。
続けて、このAgMo−N膜上に、第2アノード44bとしてアモルファスITO膜を成膜した。ここでは酸化インジウムIn2O3と酸化すずSnO2とをそれぞれ90:10の重量比率で配合したITOターゲットを用いたDCマグネトロンスパッタリング法を利用して、Arガスに分圧比で1%のO2ガスと、さらに分圧比で1%のH2Oガスを添加した混合ガスを用いて、圧力が0.6Paになるように調整し、成膜パワー密度が3W/cm2で、膜厚が約5nmのアモルファスITO膜を成膜した。このようにして形成した第2アノード膜44bは、表面ラフネスRaが1nm以下であり、極めて平坦性の高いものであった。
次に、フォトリソグラフィプロセスでフォトレジストパターンを形成した後に、リン酸+硝酸+酢酸系から成る薬液を用いて、第2アノード44bのアモルファスITO膜と第1アノード44aのAgMo−N膜とを同時に一括エッチングし、フォトレジストパターンを除去して、平坦性に優れるアノード44のパターンを形成した。
次いで、大気中で300℃の温度で30分保持するアニール処理をして、EL表示装置用TFT基板201を完成させた。前記アニール処理後のAgMo−N膜は、比抵抗値が4.0μΩ・cm、反射率値が96%であり、画素反射膜を兼ねる第1アノード44aとして電気的および光学的に良好な特性を有していた。また、得られたEL表示装置用TFT基板201では、膜の剥離もなかった。
以上の結果から、本発明によれば、高い表示品質と信頼性とを有するEL表示装置用TFT基板201が得られることが判った。
またEL表示装置200では、発光素子である有機EL層を平坦性良く形成することが、均一な発光をもたらし、かつ高い表示品質を得る上で重要であり、その下層のアノード44を平坦性良く形成することが重要である。
前述のように本試験例では、表面ラフネスRaが1nm以下であり、表面の平坦性に優れた第1アノード膜44aを形成することができた。これは、Ag合金膜に窒素を添加することによって、Ag合金膜の柱状結晶成長を抑制して微結晶化させることができたためであると考えられる。
また本試験例では、前述のように極めて平坦性の高い第2アノード膜44bを形成することができた。これは、前述のように第1アノード膜44aが平坦性に優れた表面を有することと、スパッタリングガスにH2Oガスを添加して、ITOをアモルファス相として成膜することによって、結晶粒界による表面凹凸を防止することができたことが要因であると考えられる。
また従来のAg膜またはAg合金膜の上部に、ITOなどの導電酸化物を直接形成する場合、Oを含むスパッタリングプラズマの影響を受けてAg合金膜の表面が一様に酸化したり、局所的にITO界面でAgの酸化反応が発生するために、アノードが全体的に曇化して表示画像が暗くなる不具合、または部分的に黒点化するダークスポットと呼ばれる表示不良を引き起こすことがある。
しかし、本試験例で得られたEL表示装置用TFT基板201を用いて製造したEL表示装置200では、前述のダークスポットと呼ばれる表示不良は生じていなかった。これは、Ag合金膜に窒素を添加することで酸化耐性が向上し、表面にITO膜を形成した場合でも酸化曇化による反射率の低下を防止することができ、また局所的なAgの酸化反応を防止することができたためであると考えられる。
2,36 ゲート電極、5 補助容量電極、9,38 ソース電極、10,39 ドレイン電極、18 反射画素電極、19 ゲート端子パッド、20 ソース端子パッド、44 アノード、47 電界発光層、48 カソード、100 液晶表示装置用TFT基板、200 EL表示装置、201 EL表示装置用TFT基板。