本発明は、相対的に電流が流れにくい高抵抗状態と相対的に電流が流れやすい低抵抗状態との間を切り替わることが可能な抵抗変化型素子、および、抵抗変化型素子の製造方法に関する。
不揮発性メモリの技術分野においては、ReRAM(resistive RAM)が注目を集めている。ReRAMは、抵抗変化型素子であり、一般に、一対の電極と、当該電極対間に印加される電圧に応じて高抵抗状態および低抵抗状態の間を選択的に切り替わることが可能な記録膜とを有する。ReRAMでは、記録膜の抵抗状態の選択的な切り替わりを利用して、情報の記録ないし書き換えが実行され得る。このようなReRAMないし抵抗変化型素子に関しては、例えば下記の特許文献1〜4に記載されている。
特開2004−273615号公報
特開2004−281913号公報
特開2005−123361号公報
特開2005−203463号公報
ReRAMは、電気的特性の観点からバイポーラ型とユニポーラ型に大別される。バイポーラ型のReRAMでは、記録膜を高抵抗状態から低抵抗状態へ変化させるための、電極対間の電圧印加方向と、記録膜を低抵抗状態から高抵抗状態へ変化させるための、電極対間の電圧印加方向とが異なる。すなわち、バイポーラ型のReRAMでは、2種類の抵抗状態変化ないし切り替わりにおいて、異なる極性の電圧が利用される。一方、ユニポーラ型のReRAMでは、記録膜を高抵抗状態から低抵抗状態へ変化させるための、電極対間の電圧印加方向と、記録膜を低抵抗状態から高抵抗状態へ変化させるための、電極対間の電圧印加方向とは同じである。すなわち、ユニポーラ型のReRAMでは、二種類の抵抗状態変化において、同じ極性の電圧が利用される。
バイポーラ型のReRAMは、一般に、ユニポーラ型ReRAMよりも高速に動作することができる。バイポーラ型ReRAMとしては、例えば、PrCaMnO3よりなる記録膜を具備する所定のReRAMや、Crが添加されたSrZrO3よりなる記録膜を具備する所定のReRAMが報告されている。
図7は、そのようなバイポーラ型ReRAMの一例である抵抗変化型素子Yの断面図である。抵抗変化型素子Yは、基板70と、一対の電極71,72と、記録膜たる酸化物層73とからなる積層構造を有する。酸化物層73は、電界の作用により酸素イオンを生じ得る酸化物材料(例えばPrCaMnO3)よりなる。電極72は、酸化物層73内で生じた酸素イオンを受容して部分的に酸化されやすい酸化性の金属よりなる。また、酸化物層73上に積層形成される酸化性の電極72は、その酸化物層73側に界面酸化層72aを含む。界面酸化層72aは、酸化物層73の構成酸素によって電極72の母材が酸化されて生じる部位であり、10nm程度の厚さを有する。本素子の作製においては、電極71、酸化物層73、および電極72の各々に対応する所定材料を基板70上に順次成膜した後、各材料膜に対してパターニングを施す。
図8の(a)および(b)に示すように、抵抗変化型素子Yの電極71,72を各々負極および正極として当該電極間に所定電圧を所定時間にわたり印加すると、酸化物層73と電極72との主に界面近傍では、電界作用により、酸素イオン74の発生および移動等が生ずる。具体的には、図8(a)に示すように酸化物層73にて酸素イオン74が発生し、図8(b)に示すように、当該酸素イオン74が酸化物層73から電極72の界面酸化層72aを越えて電極72内部へと移動して当該電極72を部分的に酸化する(酸化物層73に生じた酸素イオン74は電極72と酸化物層73との界面を越えて電極72へと移動しやすい)。電極72内に更なる酸化領域が形成されることにより、当該電極72の正味の抵抗値は上昇し、電極72は高抵抗状態に至る。これとともに、一定量の構成酸素を酸素イオン74として電極72へと放出する酸化物層73には、正電荷を伴う酸素空孔75が発生および蓄積して所定の内部電場が形成される。当該内部電場は、酸化物層73への又は酸化物層73内でのキャリア(正孔)移動の障害となる。そのため、当該内部電場の形成により、酸化物層73の抵抗値は上昇し、酸化物層73は高抵抗状態に至る。このようにして、抵抗変化型素子Yは高抵抗化される。
図8の(c)および(d)に示すように、高抵抗状態にある抵抗変化型素子Yの電極71,72を各々正極および負極として当該電極間に所定電圧を所定時間にわたり印加すると、酸化物層73と電極72との主に界面近傍では、電界作用により、酸素イオン74の発生および移動等が生ずる。具体的には、図8(c)に示すように電極72内にて酸素イオンが発生し、図8(d)に示すように、当該酸素イオン74が電極72の界面酸化層72aを越えて酸化物層73へと移動し、そして、当該酸素イオン74が酸化物層73内の正電荷欠陥(酸素空孔75)を電気的に中和して内部電場を減弱(理想的には消滅)させる。これにより、酸化物層73の抵抗値は低下し、酸化物層73は低抵抗状態に至る。これとともに、酸素イオン74を放出して酸化領域が減縮する電極72の正味の抵抗値は低下し、電極72も低抵抗状態に至る。このようにして、抵抗変化型素子Yは低抵抗化される。
低抵抗状態にある抵抗変化型素子Yは、上述の高抵抗化過程を経ることにより、再び高抵抗状態に切り替えられ得る。このように、抵抗変化型素子Yは、高抵抗状態と低抵抗状態との間をバイポーラ型の動作で抵抗スイッチング可能である。当該抵抗スイッチングを利用して、抵抗変化型素子Yにて情報の記録ないし書き換えが実行される。
しかしながら、従来の抵抗変化型素子Yにおいては、抵抗の切り替わり(抵抗スイッチング)について、より高速な動作を実現しにくい。抵抗変化型素子Yにて抵抗スイッチングが生じるには、上述のように、高抵抗化の際〔図8(a)〜(b)〕にも低抵抗化の際〔図8(c)〜(d)〕にも、酸素イオン74が酸化物層73外の電極72の界面酸化層72aを越えて移動する必要があり、その酸素イオン移動距離は比較的長く(例えば10nm以上)、従って、酸化物層73外の界面酸化層72aを酸素イオン74が越えて移動するのに足りる充分な長時間にわたって電極71,72間に電圧を印加しなければならないからである。
加えて、抵抗変化型素子Yにおいては、抵抗スイッチングについて充分な繰返し性を達成することができない場合がある。具体的には、抵抗変化型素子Yにて抵抗スイッチングを多数回繰り返すと、高抵抗状態における素子の抵抗値と低抵抗状態における素子の抵抗値との差が過度に小さくなってしまい、抵抗変化型素子として適切に機能し得なくなる場合があるのである。抵抗変化型素子Yでは、高抵抗化の際に酸化物層73から電極72へと移動して当該電極72を部分的に酸化させた酸素イオン74の一部が、低抵抗化の際に電極72から酸化物層73へと戻らずに、電極72内に残留してしまうことが知られている。このような抵抗変化型素子Yにおいて抵抗スイッチングを繰り返すと、電極72内に酸素イオン74が徐々に蓄積される。そのため、抵抗スイッチングを多数回繰り返すと、低抵抗状態における電極72の抵抗値は、当初に比べて有意に上昇してしまい、高抵抗状態における電極72の抵抗値との差が有意に小さくなるのである。
本発明は、以上のような事情の下で考え出されたものであり、高速動作の実現および繰返し性の向上に適した抵抗変化型素子、および、そのような抵抗変化型素子の製造方法を提供することを目的とする。
本発明の第1の側面によると抵抗変化型素子が提供される。この抵抗変化型素子は、第1電極と、酸化性金属からなる第2電極と、第1および第2電極の間に位置し且つ酸素空孔が移動可能な酸化物層と、酸化物層および第2電極の間に介在する非酸化性物質層とを含む積層構造を有する。酸化物層は、非酸化性物質層との界面の側において当該非酸化性物質層に対向する領域に酸素空孔が偏在化移動することによって低抵抗状態から高抵抗状態に変化可能であり、且つ、前記の領域から酸素空孔が離反移動することによって高抵抗状態から低抵抗状態に変化可能である。非酸化性物質層は、少なくとも第2電極構成金属よりも酸化しにくい材料により構成されたものである。本素子の酸化物層における主キャリアは正孔である。このキャリアたる正孔は、第1および第2電極の間に印加される電圧に応じて、酸化物層内をいわゆるホッピング伝導によって移動可能である。酸化物層内におけるこのようなホッピング伝導においては、実質的に、酸化物層内に存在する酸素原子ないし酸素イオンが正孔の伝導経路を構成する。
このような構成を有する本抵抗変化型素子は、酸化物層が高抵抗状態にある高抵抗状態と、酸化物層が低抵抗状態にある低抵抗状態との間を、選択的に切り替わることができる。
高抵抗状態にある本抵抗変化型素子では、酸化物層における非酸化性物質層との界面の側において当該非酸化性物質層に対向する領域に酸素空孔が偏在している(即ち、酸化物層における非酸化性物質層との界面の近傍に、酸素空孔が偏在する界面空孔部が存在している)。本素子の電極間を電流が通流するためには、第1電極および非酸化性物質層の間の酸化物層内をそのキャリアたる正孔が間断なく移動可能でなければならないところ、酸化物層と非酸化性物質層との間の通路(正孔にとっての通路)をキャップするような態様で存在する界面空孔部は、この正孔移動を抑制ないし阻害する作用を有する。界面空孔部は、酸化物層内の他の部分よりも、正孔の伝導経路を実質的に構成する酸素原子または酸素イオンの存在密度が相当程度に小さいからである。また、界面空孔部には正電荷が蓄積しているので、正電荷キャリアである正孔は、酸化物層における非酸化性物質層との界面近傍に侵入しにくい。
このような高抵抗状態にある本抵抗変化型素子の第1および第2電極を各々負極および正極として当該電極間に所定電圧を所定時間にわたって印加して、電界作用により、酸化物層内に酸素イオンを発生させ且つ当該酸素イオンを第2電極ないし非酸化性物質層に向けて移動させると、これに相応して、酸化物層内の界面空孔部(非酸化性物質層との界面の近傍に存在)に偏在していた酸素空孔は第1電極に向かって移動する(即ち、酸素空孔は、酸化物層と非酸化性物質層の界面から離反する方向に移動する)。また、この酸素空孔移動と前記の酸素イオン移動とは相補的に生じるところ、酸素イオンと酸素空孔とが存在場所を交換する形で双方が移動すると捉えることができる。このような酸素空孔移動により、高抵抗状態において存在していた界面空孔部を実質的に消滅させることが可能である。界面空孔部が消滅すると、酸素原子または酸素イオンの存在密度が充分に高い伝導経路(正孔にとっての伝導経路)が、第1電極および非酸化性物質層を間断なく連結するように形成されることとなる。また、界面空孔部(正電荷蓄積部)が解消されることで、正電荷キャリアである正孔は、酸化物層における非酸化性物質層との界面近傍に流入しやすくなる。これらにより、酸化物層の抵抗値は低下し、当該酸化物層は低抵抗状態に至る。このようにして、酸化物層が高抵抗状態から低抵抗状態へと変化することにより、本抵抗変化型素子は高抵抗状態から低抵抗状態へと切り替わる(低抵抗化)。印加電圧を消滅させても、酸化物層は低抵抗状態を維持し、従って、本素子はその低抵抗状態を維持する。
低抵抗状態にある本抵抗変化型素子の第1および第2電極を各々正極および負極として当該電極間に所定電圧を所定時間にわたり印加して、電界作用により、酸化物層内に酸素イオンを発生させ且つ当該酸素イオンを第1電極に向けて移動させると、これに相応して、酸化物層における非酸化性物質層との界面の側において当該非酸化性物質層に対向する領域に酸素空孔が偏在化するように移動する。このような酸素空孔移動により、酸化物層における非酸化性物質層との界面近傍に、界面空孔部を形成することが可能である。界面空孔部が形成されると、酸化物層における非酸化性物質層との界面近傍での正孔移動が抑制ないし阻害される。これにより、酸化物層の抵抗値は上昇し、当該酸化物層は高抵抗状態に至る。このようにして、酸化物層が低抵抗状態から高抵抗状態へと変化することにより、本抵抗変化型素子は低抵抗状態から高抵抗状態へと切り替わる(高抵抗化)。印加電圧を消滅させても、酸化物層は高抵抗状態を維持し、従って、本素子はその高抵抗状態を維持する。また、このような高抵抗状態にある本素子については、上述の低抵抗化過程を経ることにより、再び低抵抗状態に切り替えることが可能である。
本抵抗変化型素子では、高抵抗状態から低抵抗状態へ変化させるための、電極対間の電圧印加方向と、低抵抗状態から高抵抗状態へ変化させるための、電極対間の電圧印加方向とは異なる。すなわち、本素子は、相対的に電流が流れにくい高抵抗状態と相対的に電流が流れやすい低抵抗状態との間を、バイポーラ型の動作で抵抗スイッチング可能なのである。このような抵抗スイッチングを利用して情報の記録ないし書き換えを実行することが可能であるので、本素子は、抵抗変化型の不揮発性記憶素子として用いることが可能である。また、本素子は、回路内の所定箇所にて抵抗を選択的に変化させるためのスイッチング素子としても、用いることが可能である。
本抵抗変化型素子は、上述の従来の抵抗変化型素子Yよりも、抵抗の切り替えに要する電圧印加時間を短縮するのに適する。従来の抵抗変化型素子Yにて抵抗スイッチングが生じるには、図8を参照して上述したように、高抵抗化の際にも低抵抗化の際にも、酸素イオン74が酸化物層73外の電極72の界面酸化層72aを越えて移動する必要があり、その酸素イオン移動距離は比較的長い。そのため、抵抗変化型素子Yにおいて抵抗スイッチングを生じさせるためには、酸化物層73外の界面酸化層72aを酸素イオン74が越えて移動するのに足りる充分な長時間にわたって、電極71,72間に電圧を印加しなければならない。これに対し、本抵抗変化型素子にて抵抗スイッチングが生じるためには、酸素イオンが酸化物層外をも移動する必要はなく、抵抗スイッチングを生ずるのに要する酸素空孔ないし酸素イオンの移動距離は比較的短い。そのため、抵抗スイッチングのための電圧印加時間については、従来の抵抗変化型素子Yよりも本抵抗変化型素子の方が短縮しやすい。このような本抵抗変化型素子は、高速動作を実現するのに適する。
加えて、本抵抗変化型素子においては、従来の抵抗変化型素子Yよりも、抵抗スイッチングの繰返し性を向上しやすい。上述のように、従来の抵抗変化型素子Yでは、高抵抗化の際、酸化物層73に生じた酸素イオン74が電極72と酸化物層73との界面を越えて電極72まで移動しやすく、そして、酸化物層73から電極72へと移動して当該電極72を部分的に酸化させた酸素イオン74の一部が、低抵抗化の際に電極72から酸化物層73へと戻らずに、電極72内に残留してしまうことが知られている。このような抵抗変化型素子Yにおいて抵抗スイッチングを繰り返すと、電極72内に酸素イオン74が徐々に蓄積されるため、低抵抗状態における電極72の抵抗値は、当初に比べて有意に上昇してしまい、高抵抗状態における電極72の抵抗値との差が有意に小さくなる(その結果、抵抗スイッチング素子として機能し得なくなる場合がある)。これに対し、本抵抗変化型素子では、抵抗スイッチングに際しての酸素空孔ないし酸素イオンの移動は単一の酸化物層内で生じれば足りるので、両抵抗状態間での当該移動の可逆性が相当程度に高い。そのため、従来の抵抗変化型素子Yよりも本抵抗変化型素子の方が、抵抗スイッチングについて優れた繰返し性を実現しやすい。このような本抵抗変化型素子は、抵抗スイッチングの繰返し性を向上するのに適する。
以上のように、本抵抗変化型素子は、高速動作を実現するのに適し、且つ、繰返し性を向上するのにも適するのである。
本発明の第2の側面によると抵抗変化型素子製造方法が提供される。この方法は、積層構造形成工程および酸化工程を含む。積層構造形成工程では、第1電極と、酸化性金属からなる第2電極と、当該第1および第2電極の間に位置する酸化物層と、当該酸化物層および第2電極の間に介在する非酸化性物質層と、を含む積層構造を形成する。酸化工程では、酸化物層内の酸素の一部を酸素イオンの形態で熱拡散によって第2電極に至らしめて当該第2電極における酸化物層側の端面を部分的に酸化させる。当該酸化工程では、好ましくは、真空中において、少なくとも酸化物層を加熱する。このような酸化工程において非酸化性物質層を越えて第2電極に至る酸素ないし酸素イオンは、実質的に、酸化物層における非酸化性物質層との界面の近傍に存在していた酸素に由来するところ、当該酸化工程を経ると、酸化物層における非酸化性物質層との界面の近傍には、周囲に比べて酸素空孔密度の高い(即ち、酸素空孔が偏在する)界面空孔部が生じる。このような本方法によると、第1の側面に係る抵抗変化型素子を適切に製造することが可能である。
本発明の第1および第2の側面において、好ましくは、第2電極は、酸化物層側の端面に部分酸化部を有する。この部分酸化部の厚さは例えば10nm以下である。本発明の第2の側面の方法では、このような部分酸化部が生じる程度に酸化工程を行うのが好ましい。また、好ましくは、第2電極は、Ti、Ta、Al、Fe、CoおよびNiからなる群より選択される金属を含んでなる。
好ましくは、非酸化性物質層は、Pt、Au、Ag、RuおよびPdからなる群より選択される金属を含んでなる。好ましくは、非酸化性物質層は、第1電極よりも薄い。好ましくは、非酸化性物質層の厚さは10nm以下である。
好ましくは、酸化物層は、酸素イオン伝導体、ペロブスカイト構造型酸化物、または蛍石構造型酸化物である。主キャリアとして正孔が移動可能な酸化物層としては、これらからなるものが好ましい。
好ましくは、第1電極は、少なくとも第2電極よりも酸化しにくい非酸化性導電材料からなる。より好ましくは、第1電極は、PtもしくはAuを含む金属またはSrRuO3からなる。
好ましくは、第1電極を正極とし且つ第2電極を負極として当該第1および第2電極の間に電圧を印加することによって高抵抗状態を達成可能であり、第1電極を負極とし且つ第2電極を正極として当該第1および第2電極の間に電圧を印加することによって低抵抗状態を達成可能である。
図1は、本発明に係る抵抗変化型素子Xの断面図である。抵抗変化型素子Xは、基板Sと、一対の電極1,2と、酸化物層3と、非酸化性物質層4とからなる積層構造を有し、相対的に電流が流れにくい高抵抗状態と相対的に電流が流れやすい低抵抗状態との間を切り替わることが可能に構成されている。
基板Sは、例えばシリコン基板や酸化物基板である。シリコン基板の表面には、熱酸化膜が形成されていてもよい。酸化物基板としては、例えば、MgO基板、SrTiO3基板、Al2O3基板、石英基板、およびガラス基板が挙げられる。
電極1は、酸化しにくい非酸化性の導電材料よりなる。非酸化性導電材料としては、例えば、PtまたはAuを含む金属、SrRuO3、SnO2、およびIn2O3−SnO2が挙げられる。電極1の厚さは、例えば30〜100nmである。
電極2は、酸化しやすい酸化性の金属を母材として構成されたものであり、酸化物層3ないし非酸化性物質層4の側の端面に部分酸化部2aを有する。電極2は、Ti、Ta、Al、Fe、CoおよびNiからなる群より選択される金属を含んでなる。部分酸化部2aの厚さは例えば10nm以下である。このような電極2の厚さは、例えば50〜100nmである。
酸化物層3は、所定の酸素欠損を伴って酸素空孔ないし酸素イオンが移動可能に構成され、低抵抗状態および高抵抗状態の間を選択的に切り替わり得る部位である。具体的には、酸化物層3は、非酸化性物質層4との界面の側において当該非酸化性物質層4に対向する領域に酸素空孔が偏在化移動することによって低抵抗状態から高抵抗状態に変化可能であり、且つ、前記の領域から酸素空孔が離反移動することによって高抵抗状態から低抵抗状態に変化可能である。高抵抗状態においては、酸化物層3における非酸化性物質層4との界面近傍に界面空孔部3aが形成される。
このような酸化物層3は、酸素イオン伝導体よりなり、例えば蛍石構造型酸化物、ペロブスカイト構造型酸化物、パイロクロア構造型酸化物、タングステンブロンズ構造型酸化物、またはブラウンミラライト構造型酸化物よりなる。蛍石構造型酸化物としては、ZrO2およびY2O3などを採用することができる。ペロブスカイト構造型酸化物としては、PrMnO3およびSrTiO3などを採用することができる。パイロクロア構造型酸化物としては、Nd2MO2O7などを採用することができる。タングステンブロンズ構造型酸化物としては、CuWO3などを採用することができる。ブラウンミラライト構造型酸化物としては、Sr2Fe2O5などを採用することができる。これら材料には、必要に応じて、Caなどのアルカリ土類元素が添加される。
非酸化性物質層4は、酸化されにくく且つ酸素イオンが通過可能な非酸化性物質よりなり、例えば、Pt、Au、Ag、RuおよびPdからなる群より選択される金属を含んでなる。本実施形態では、非酸化性物質層4は電極1よりも薄く、非酸化性物質層4の厚さは10nm以下である。
図2は、抵抗変化型素子Xの製造方法の一例を表す。抵抗変化型素子Xの製造においては、まず、図2(a)に示すように、スパッタリング法により、材料膜1’、材料膜3’、材料膜4’、および材料膜2’を、順次、基板S上に積層形成する。材料膜1’は、電極1に関して上述した材料よりなる。材料膜3’は、上述の酸化物層3を構成するための材料よりなる。材料膜4’は、非酸化性物質層4に関して上述した材料よりなる。材料膜2’は、上述の電極2を構成するための材料よりなる。
次に、図2(b)に示すように、材料膜1’〜4’の各々に対してパターニングを施す。これにより、基板S上に、上述の電極1、酸化物層3’’、上述の非酸化性物質層4、および電極2’’が形成される。
この後、好ましくは真空中(所定の真空度下)にて少なくとも酸化物層3’’を加熱して、図2(c)に示すように、酸化物層3’’内の酸素の一部を酸素イオン5の形態で熱拡散によって非酸化性物質層4を越えて電極2’’に至らしめて当該電極2’’における酸化物層3’’側の端面を部分的に酸化させる。酸素イオン5を放出した酸化物層3’’における非酸化性物質層4側の端面には、酸素空孔6が偏在することとなる。本工程を経ることにより、内部に部分酸化部2aを有する上述の電極2が形成されるとともに、内部に界面空孔部3aを有する上述の酸化物層3が形成される。例えば以上のようにして、抵抗変化型素子Xを製造することができる。
図3は、抵抗変化型素子Xの動作原理を表す。図4は、抵抗変化型素子Xにおける電流−電圧特性の一例を示すグラフである。図4のグラフの横軸は、抵抗変化型素子Xの電極1,2間に印加される電圧を示し、縦軸は、抵抗変化型素子Xを通過する電流を示す。また、図4のグラフでは、電極1,2を各々負極および正極として抵抗変化型素子Xに印加される電圧を正電圧として表し、電極1,2を各々正極および負極として抵抗変化型素子Xに印加される電圧を負電圧として表す。更に、図4のグラフでは、電極2から電極1へと流れる電流を正電流として表し、電極1から電極2へと流れる電流を負電流として表す。
製造された抵抗変化型素子Xの初期の状態においては、図3(a)に示すように、酸化物層3における非酸化性物質層4側に局所的に酸素空孔6が偏在して界面空孔部3aが形成されている。抵抗変化型素子Xの電極1,2間を電流が通流するためには、電極1および非酸化性物質層4の間の酸化物層3内をそのキャリアたる正孔が間断なく移動可能でなければならないところ、酸化物層3と非酸化性物質層4との間の通路(正孔にとっての通路)をキャップするような態様で存在する界面空孔部3aは、この正孔移動を抑制ないし阻害する作用を有する。界面空孔部3aは、酸化物層3内の他の部分よりも、正孔の伝導経路を実質的に構成する酸素原子または酸素イオンの存在密度が相当程度に小さいからである。したがって、初期状態の抵抗変化型素子Xは、高抵抗状態にある。
高抵抗状態にある抵抗変化型素子Xの電極1,2を各々負極および正極として、当該電極1,2間の印加電圧を0Vから次第に増大させると、まず、例えば図4の矢印D1で示すように、抵抗変化型素子Xを通過する電流は、相対的に小さな変化率で次第に増大する。
印加電圧が増大して所定の電圧V1以上に至ると、電極1,2間の電界作用により、例えば図3(b)に示すように酸化物層3内に酸素イオン5を発生させることができ、続いて、例えば図3(c)に示すように当該酸素イオン5を非酸化性物質層4に向けて移動させることができる。これに相応して、酸化物層3内の界面空孔部3aに偏在していた酸素空孔6は電極1に向かって移動する(即ち、酸素空孔6は、酸化物層3と非酸化性物質層4の界面から離反する方向に移動する)。この酸素空孔移動と前記の酸素イオン移動とは相補的に生じるところ、酸素イオン5と酸素空孔6とが存在場所を交換する形で双方が移動すると捉えることができる。このような酸素空孔移動により、界面空孔部3aを実質的に消滅させることが可能である。界面空孔部3aが消滅すると、酸素原子または酸素イオンの存在密度が充分に高い伝導経路(正孔にとっての伝導経路)が、電極1および非酸化性物質層4を間断なく連結するように形成されることとなる。これにより、酸化物層3の抵抗値は低下し、酸化物層3は低抵抗状態に至る。このようにして、酸化物層3が高抵抗状態から低抵抗状態へと変化することにより、例えば図4の矢印D2で示される電流値上昇に顕れているように、抵抗変化型素子Xは高抵抗状態から低抵抗状態へと切り替わる(低抵抗化)。低抵抗状態にある抵抗変化型素子Xの抵抗値は例えば10〜100kΩである。この低抵抗化過程における上述のV1は、抵抗変化型素子Xが高抵抗状態から低抵抗状態へと切り替わるために要する最小電圧であり、例えば2.5〜3.5Vである。
抵抗変化型素子Xが低抵抗化された後、電極1,2を各々負極および正極としたまま、印加電圧をV1以下に減少させても、酸化物層3は低抵抗状態を維持し、従って、抵抗変化型素子Xも低抵抗状態を維持する。この電圧減少過程では、例えば図4の矢印D3で示すように、抵抗変化型素子Xを通過する電流は、相対的に大きな変化率で次第に減少する。
低抵抗状態にある抵抗変化型素子Xの電極1,2を各々正極および負極として、当該電極1,2間の印加電圧を0Vから次第に増大させると、まず、例えば図4の矢印D4で示すように、抵抗変化型素子Xを通過する電流は、相対的に大きな変化率で次第に増大する。
印加電圧が増大して所定のV2以上に至ると、電極1,2間の電界作用により、例えば図3(d)に示すように酸化物層3内に酸素イオン5を発生させることができ、続いて、図3(e)に示すように当該酸素イオン5を電極1に向けて移動させることができる。これに相応して、酸化物層3内の酸素空孔6も移動する。具体的には、酸化物層3における非酸化性物質層4との界面の側において当該非酸化性物質層4に対向する領域に酸素空孔6が偏在化するように移動する。このような酸素空孔移動により、酸化物層3における非酸化性物質層4との界面近傍に、界面空孔部3aを再形成することが可能である。界面空孔部3aが形成されると、酸化物層3における非酸化性物質層4との界面近傍での正孔移動が抑制ないし阻害される。これにより、酸化物層3の抵抗値は上昇し、酸化物層3は高抵抗状態に至る。このようにして、酸化物層3が低抵抗状態から高抵抗状態へと変化することにより、例えば図4の矢印D5で示される電流値変化に顕れているように、抵抗変化型素子Xは低抵抗状態から高抵抗状態へと切り替わる(高抵抗化)。高抵抗状態にある抵抗変化型素子Xの抵抗値は例えば300〜400kΩである。この高抵抗化過程における上述のV2は、抵抗変化型素子Xが低抵抗状態から高抵抗状態へと切り替わるために要する最小電圧であり、例えば2.5〜3Vである。
この後、電極1,2を各々正極および負極としたまま、印加電圧をV2以下に減少させても、酸化物層3は高抵抗状態を維持し、従って、抵抗変化型素子Xも高抵抗状態を維持する。この電圧減少過程では、例えば図4の矢印D6で示すように、抵抗変化型素子Xを通過する電流は、相対的に小さな変化率で次第に減少する。
抵抗変化型素子Xでは、高抵抗状態から低抵抗状態へ変化させるための、電極1,2間の電圧印加方向と、低抵抗状態から高抵抗状態へ変化させるための、電極1,2間の電圧印加方向とは異なる。すなわち、抵抗変化型素子Xは、相対的に電流が流れにくい高抵抗状態と相対的に電流が流れやすい低抵抗状態との間を、バイポーラ型の動作で抵抗スイッチング可能なのである。このような抵抗スイッチングを利用して、情報の記録ないし書き換えを実行することが可能であるので、抵抗変化型素子Xは、抵抗変化型の不揮発性記憶素子として用いることが可能である。また、本素子は、回路内の所定箇所にて抵抗を選択的に変化させるためのスイッチング素子としても用いることが可能である。
抵抗変化型素子Xは、上述の従来の抵抗変化型素子Yよりも、抵抗の切り替えに要する電圧印加時間を短縮するのに適する。従来の抵抗変化型素子Yにて抵抗スイッチングが生じるには、図8を参照して上述したように、高抵抗化の際にも低抵抗化の際にも、酸素イオン74が酸化物層73外の電極72の界面酸化層72aを越えて移動する必要があり、その酸素イオン移動距離は比較的長い。そのため、抵抗変化型素子Yにおいて抵抗スイッチングを生じさせるためには、酸化物層73外の界面酸化層72aを酸素イオン74が越えて移動するのに足りる充分な長時間にわたって、電極71,72間に電圧を印加しなければならない。これに対し、本発明に係る抵抗変化型素子Xにて抵抗スイッチングが生じるためには、酸素イオン5が酸化物層3外をも移動する必要はなく、抵抗スイッチングを生ずるのに要する酸素空孔6ないし酸素イオン5の移動距離は比較的短い。そのため、抵抗スイッチングのための電圧印加時間については、従来の抵抗変化型素子Yよりも本発明の抵抗変化型素子Xの方が短縮しやすい。このような抵抗変化型素子Xは、高速動作を実現するのに適する。
加えて、抵抗変化型素子Xにおいては、従来の抵抗変化型素子Yよりも、抵抗スイッチングの繰返し性を向上しやすい。上述のように、従来の抵抗変化型素子Yでは、高抵抗化の際に酸化物層73から電極72へと移動して当該電極72を部分的に酸化させた酸素イオン74の一部が、低抵抗化の際に電極72から酸化物層73へと戻らずに、電極72内に残留してしまうことが知られている。このような抵抗変化型素子Yにおいて抵抗スイッチングを繰り返すと、電極72内に酸素イオン74が徐々に蓄積されるため、低抵抗状態における電極72の抵抗値は、当初に比べて有意に上昇してしまい、高抵抗状態における電極72の抵抗値との差が有意に小さくなる(その結果、抵抗スイッチング素子として機能し得なくなる場合がある)。これに対し、本発明の抵抗変化型素子Xでは、抵抗スイッチングに際しての酸素空孔6ないし酸素イオン5の移動は単一の酸化物層3内で生じれば足りるので、両抵抗状態間での当該移動の可逆性が相当程度に高い。そのため、従来の抵抗変化型素子Yよりも本発明の抵抗変化型素子Xの方が、抵抗スイッチングについて優れた繰返し性を実現しやすい。このような抵抗変化型素子Xは、抵抗スイッチングの繰返し性を向上するのに適する。
以上のように、抵抗変化型素子Xは、高速動作を実現するのに適し、且つ、繰返し性を向上するのにも適するのである。
〔実施例〕
図5(a)に示す積層構成を有するサンプル素子を、上述の抵抗変化型素子Xの実施例として作製した。本実施例のサンプル素子は、MgO単結晶基板である基板Sと、Ptよりなる電極1と、PrCaMnO3よりなり所定の酸素欠損を伴う含む酸化物層3と、Ptよりなる非酸化性物質層4と、TiOよりなる部分酸化部2aを含んでTi母材により構成される電極2とからなる積層構造を有する。
本実施例のサンプル素子の製造においては、まず、スパッタリング装置を使用して行うスパッタリング法により、MgO単結晶基板の(100)面上にPtを100nmの厚さで成膜した(材料膜1’の形成)。本スパッタリングでは、スパッタガスとしてArガス(0.5Pa)を用い、Ptターゲットを用い、DC放電とし、投入電力を1.0kWとし、温度条件を室温とした。
次に、スパッタリング法により、当該Pt膜上にPrCaMnO3を200nmの厚さで成膜した(材料膜3’の形成)。本スパッタリングでは、スパッタガスとしてArとO2の混合ガス(0.5Pa,酸素濃度15vol%)を用い、PrCaMnO3ターゲットを用い、RF放電とし、投入電力を1.0kWとし、温度条件を400℃とした。
次に、スパッタリング法により、当該PrCaMnO3膜上にPtを3nmの厚さで成膜した(材料膜4’の形成)。本スパッタリングでは、スパッタガスとしてArガス(0.5Pa)を用い、Ptターゲットを用い、DC放電とし、投入電力を1.0kWとし、温度条件を室温とした。
次に、スパッタリング法により、Pt膜上にTiを100nmの厚さで成膜した(材料膜2’の形成)。本スパッタリングでは、スパッタガスとしてArガス(0.5Pa)を用い、Tiターゲットを用い、DC放電とし、投入電力を1.0kWとし、温度条件を室温とした。
次に、上記の各材料膜1’,2’,3’,4’に対してパターニングを施し、図2(b)に示すように、電極1としてのPt層、酸化物層3’’としてのPrCaMnO3層、非酸化性物質層4としてのPt層、および、電極2’’としてのTi層からなる積層構造を形成した。
この後、真空中にて、基板Sを介して上記の積層構造を加熱して、図2(c)に示すように、PrCaMnO3層(酸化物層3’’)内の酸素の一部を酸素イオン5の形態で熱拡散によってTi層(電極2’’)に至らしめて、当該電極2’’における酸化物層3’’側の端面を部分的に酸化させた。これにより、TiOよりなる部分酸化部2aを含んでTi母材により構成される電極2が形成されるとともに、内部に界面空孔部3aを有する酸化物層3が形成された。以上のようにして、抵抗変化型素子Xの実施例としてのサンプル素子を製造した。
本実施例のサンプル素子について、抵抗値の変化を調べた。具体的には、サンプル素子における電極1,2間の抵抗値を測定しつつ、当該サンプル素子に対し、第1条件(低抵抗化条件)での電圧印加およびその後の第2条件(高抵抗化条件)での電圧印加を、複数回繰り返した。第1条件では、電極1は負極であり、電極2は正極であり、当該電極対間の印加電圧は、パルス強度3.0Vでパルス幅100nsecのパルス電圧である。第2条件では、電極1は正極であり、電極2は負極であり、当該電極対間の印加電圧は、パルス強度2.7Vでパルス幅50nsecのパルス電圧である。
この抵抗値変化調査において順次測定されたサンプル素子の抵抗値から抽出した一部の抵抗値を、図5(b)のグラフに示す。このグラフにおいて、横軸は抵抗スイッチング繰返し回数(サイクル)を表し、縦軸は抵抗値(kΩ)を表し、○プロットは高抵抗状態において測定された抵抗値を表し、△プロットは低抵抗状態において測定された抵抗値を表す。抵抗スイッチング繰返し回数の単位である「サイクル」とは、低抵抗化および高抵抗化のための計2回の電圧印加を1サイクルとするものである。
〔比較例〕
図6(a)に示す積層構成を有するサンプル素子を、従来の抵抗変化型素子Yたる比較例として作製した。本実施例のサンプル素子は、MgO単結晶基板である基板70と、Ptよりなる電極71と、PrCaMnO3よりなり所定の酸素欠損を伴う含む酸化物層73と、TiOよりなる界面酸化層72aを含んでTi母材により構成される電極72とからなる積層構造を有する。本サンプル素子の作製においては、電極71、酸化物層73、および電極72の各々に対応する所定材料を基板70上に順次成膜した後、各材料膜に対してパターニングを施した。
本比較例のサンプル素子について、抵抗値の変化を調べた。具体的には、サンプル素子における電極71,72間の抵抗値を測定しつつ、当該サンプル素子に対し、第1条件(高抵抗化条件)での電圧印加およびその後の第2条件(低抵抗化条件)での電圧印加を、複数回繰り返した。第1条件では、電極71は負極であり、電極72は正極であり、当該電極対間の印加電圧は、パルス強度4.0Vでパルス幅1μsecのパルス電圧である。第2条件では、電極1は正極であり、電極2は負極であり、当該電極対間の印加電圧は、パルス強度4.5Vでパルス幅3μsecのパルス電圧である。
この抵抗値変化調査において順次測定されたサンプル素子の抵抗値から抽出した一部の抵抗値を、図6(b)のグラフに示す。このグラフにおいて、横軸は抵抗スイッチング繰返し回数(サイクル)を表し、縦軸は抵抗値(kΩ)を表し、○プロットは高抵抗状態において測定された抵抗値を表し、△プロットは低抵抗状態において測定された抵抗値を表す。
〔評価〕
高抵抗化のために電圧印加すべき時間(パルス幅)についても、低抵抗化のために電圧印加すべき時間(パルス幅)についても、上述のように、実施例のサンプル素子は比較例のサンプル素子よりも相当程度に短い。このことから、実施例のサンプル素子は、比較例のサンプル素子よりも、高速動作の実現に適することが理解できよう。また、図5(b)のグラフに表れているように、実施例のサンプル素子は抵抗状態の切り替わりを示した。当該抵抗スイッチングでは、高抵抗状態と低抵抗状態の間の抵抗値差が大きく、且つ、抵抗スイッチングを数多く繰り返しても抵抗値差に減少は見られなかった。一方、図6(b)のグラフに表れているように、比較例のサンプル素子も抵抗状態の切り替わりを示したが、当該抵抗スイッチングを数多く繰り返すと、両抵抗値が共に上昇し且つ抵抗値差が次第に小さくなった。これらから、実施例のサンプル素子は、比較例のサンプル素子よりも、抵抗スイッチングの繰返し性に優れることが理解できよう。
以上のまとめとして、本発明の構成およびそのバリエーションを以下に付記として列挙する。
(付記1)第1電極と、
酸化性金属からなる第2電極と、
前記第1および第2電極の間に位置し且つ酸素空孔が移動可能な酸化物層と、
前記酸化物層および前記第2電極の間に介在する非酸化性物質層と、を含む積層構造を有し、
前記酸化物層は、前記非酸化性物質層との界面の側において当該非酸化性物質層に対向する領域に酸素空孔が偏在化移動することによって低抵抗状態から高抵抗状態に変化可能であり、且つ、前記領域から酸素空孔が離反移動することによって高抵抗状態から低抵抗状態に変化可能である、抵抗変化型素子。
(付記2)前記第2電極は、前記酸化物層側の端面に部分酸化部を有する、付記1に記載の抵抗変化型素子。
(付記3)前記部分酸化部の厚さは10nm以下である、付記2に記載の抵抗変化型素子。
(付記4)前記第2電極は、Ti、Ta、Al、Fe、CoおよびNiからなる群より選択される金属を含んでなる、付記1から3のいずれか一つに記載の抵抗変化型素子。
(付記5)前記非酸化性物質層は、Pt、Au、Ag、RuおよびPdからなる群より選択される金属を含んでなる、付記1から4のいずれか一つに記載の抵抗変化型素子。
(付記6)前記非酸化性物質層は前記第1電極よりも薄い、付記1から5のいずれか一つに記載の抵抗変化型素子。
(付記7)前記非酸化性物質層の厚さは10nm以下である、付記1から6のいずれか一つに記載の抵抗変化型素子。
(付記8)前記酸化物層は、酸素イオン伝導体からなる、付記1から7のいずれか一つに記載の抵抗変化型素子。
(付記9)前記酸化物層は、ペロブスカイト構造型酸化物または蛍石構造型酸化物からなる、付記1から8のいずれか一つに記載の抵抗変化型素子。
(付記10)前記第1電極は非酸化性導電材料からなる、付記1から9のいずれか一つに記載の抵抗変化型素子。
(付記11)前記第1電極は、PtもしくはAuを含む金属またはSrRuO3からなる、付記1から10のいずれか一つに記載の抵抗変化型素子。
(付記12)前記第1電極を正極とし且つ第2電極を負極として当該第1および第2電極の間に電圧を印加することによって前記高抵抗状態を達成可能であり、前記第1電極を負極とし且つ第2電極を正極として当該第1および第2電極の間に電圧を印加することによって前記低抵抗状態を達成可能である、付記1から11のいずれか一つに記載の抵抗変化型素子。
(付記13)第1電極と、酸化性金属からなる第2電極と、当該第1および第2電極の間に位置する酸化物層と、当該酸化物層および前記第2電極の間に介在する非酸化性物質層と、を含む積層構造を形成する工程と、
前記酸化物層内の酸素の一部を熱拡散によって前記第2電極に至らしめて当該第2電極における前記酸化物層側の端面を部分的に酸化させる酸化工程と、を含む、抵抗変化型素子製造方法。
(付記14)前記酸化工程では、真空中において、少なくとも前記酸化物層を加熱する、付記12に記載の抵抗変化型素子製造方法。
本発明に係る抵抗変化型素子の断面図である。
図1に示す抵抗変化型素子の製造方法を表す。
図1に示す抵抗変化型素子の動作原理を表す。
図1に示す抵抗変化型素子における電流−電圧特性の一例を示すグラフである。
(a)は実施例における積層構成を表し、(b)は実施例における抵抗値測定の結果を表すグラフである。
(a)は比較例における積層構成を表し、(b)は比較例における抵抗値測定の結果を表すグラフである。
従来の抵抗変化型素子の一例の断面図である。
図7に示す抵抗変化型素子の動作原理を表す。
符号の説明
X,Y 抵抗変化型素子
S,70 基板
1,2,71,72 電極
2a 部分酸化部
3,53 酸化物層
3a 界面空孔部
4 非酸化性物質層
5 酸素イオン
6 酸素空孔