以下に、本発明について、望ましい実施の形態とともに、詳細に説明する。
本発明における繊維とは細く長い形状を指し、その長さは、一般的に言われる長繊維(フィラメント)であっても短繊維(ステープル)であってもよい。短繊維の場合は用途に応じて所望の長さにすればよいが、紡績工程あるいは後述するような電気植毛加工などに用いられることを考慮すると長さ0.05〜150mmであることが好ましく、0.1〜120mmであることがより好ましい。また、特に電気植毛加工に用いられる場合は0.1〜10mmの長さであることがより好ましく、0.2〜5mmであることが特に好ましい。
また、本発明の繊維の太さ、すなわち、単繊維直径に関しては特に制限されるものではないが、後述するような様々な用途に採用が可能であるという点で単繊維直径は1000μm以下であることが好ましく、0.1〜200μmであることがより好ましく、0.5〜50μmであることが特に好ましい。特に繊維ブラシ用に用いられる場合で電子写真装置中の清掃装置あるいは帯電装置に組み込まれる用途に用いる場合には、清掃性能、あるいは帯電性能が優れるという点で該繊維直径は0.5〜30μmであることが特に好ましい。衣服の裏地や防塵衣など、あるいはその他各種衣類に用いられる場合には、0.5〜25μmであることが特に好ましい。衣料用途以外の、車両内装材、建造物の壁材などの内装材、カーペットや床材など敷物などの非衣料用途に用いられる場合には、0.5〜150μmであることが特に好ましい。ここで該単繊維直径は後述の実施例におけるM項の方法で求める。
ここで、単繊維直径については、光学顕微鏡で概ね100倍〜1000倍の範囲において、透過光を用いて繊維外径に焦点を合わせて測定することで定める。なおこの際、単繊維直径は少なくとも該測定を同一繊維において3cm以上の間隔をおいた任意の5点について観察、測定して得た平均値を単繊維直径とする。異形断面繊維における単繊維直径は、繊維軸に垂直な繊維横断面中において、中空部は無視して、一方の繊維外辺から他方の繊維外辺まで最も長い直線が引ける時のその直線の長さを単繊維直径とする。
また、繊維の断面形状についても特に制限されるものではない。繊維の断面形状が丸形であれば、均一な繊維物性および繊維断面内における等方的な導電性を有するため、好ましい。また、繊維をブラシローラーに用いる場合には、短繊維あるいは織物あるいは編物あるいは不織布の形状で組み込むが、例えば繊維の曲がる方向に異方性を持たせて剛性を高める、あるいは後述する電子写真装置においてはトナーとの良好な接触性を得てより優れた清掃性能を発現させるために、断面形状は偏平形、多角形、多葉形、中空形状、あるいは不定形などの繊維が好ましい。
本発明の繊維は、繊維中に、カーボンブラック(以下、CBと記載することもある。)を含有する、主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートからなるポリエステル樹脂組成物(以下、「CB含有PTT」と記載することもある。)を、少なくとも構成単位の一部として含んでいる。このCB含有PTTが本発明の繊維において主たる導電性を担う。繊維中の少なくとも一部分に該CB含有PTTを有することから、繊維自体の導電性はこのCB含有PTTの性状によって制御しうるため、所望の導電性能を付与することができ、非常に優れた導電性を有する繊維となる。
繊維中に、CB含有PTTを少なくとも構成単位の一部として含める方法の一つとしては、該CB含有PTTと、(1)CB含有PTT以外の繊維形成能を有するポリマ成分、(2)CBの濃度および/または主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートから構成されるポリエステルの組成が異なったCB含有PTT、の中から選ばれる少なくとも一種とをブレンド紡糸して繊維を形成することで達成できる。ここでブレンド紡糸するにはCB含有PTTとこれら(1)および/または(2)の少なくとも1種とをそれぞれ別々に溶融した後、吐出する以前の任意の段階で、配管中を通過するズリ変形で、好ましくは静止混練子を用いてブレンドしてもよく、あるいは溶融する以前の任意の段階でCB含有PTTと前述の(1)および/または(2)の少なくとも1種とをあらかじめブレンドした後に、一緒に溶融させてもよい。溶融した後は配管中を通過するズリ変形で、好ましくは静止混練子を用いてブレンドすればよい。
本発明の繊維は、繊維中に、CB含有PTTを少なくとも構成単位の一部として含むために、該CB含有PTTが繊維中の少なくとも一部に配列された複合紡糸されてなる繊維とすることができる。繊維の長手方向に導電性斑の小さい安定した導電性を発現しうるという点では、ブレンド紡糸してなる繊維も優れるが、複合繊維となす方がより優れるため好ましい。
上記複合繊維の構成については、CB含有PTTが繊維表面の少なくとも一部に露出していてもよく、あるいはCB含有PTTは繊維表面に露出していなくともよい。CB含有PTTが繊維表面の少なくとも一部に露出している場合には、該CB含有PTTに直接接触して高い導電性を発現することができるので、非常に好ましい。そして繊維表面において該CB含有PTTの露出箇所および/または露出面積は多いほど高い導電性を示すことから、CB含有PTTは1箇所のみならず2箇所以上の複数箇所で繊維表面に存在(露出)することが好ましく、繊維表面の半分以上の面積において該CB含有PTTが露出していることがより好ましい。特に、繊維表面における該CB含有PTTの面積が大きいほど繊維表面でのかつ繊維表層全体での導電性の均一性が高く優れるという点で、CB含有PTTで繊維表面が全て覆われた繊維であることが最も好ましい。なお、繊維軸方向に垂直な繊維横断面における(換言すると繊維中の)CB含有PTTの割合は、目的とする用途に応じて適宜設定すればよいものの、本発明で得られる繊維が特に優れた導電性能を保ちつつ狙いの繊維物性(例えば強度、残留伸度、初期引張弾性率、等)を達成しうるという点で、繊維中の該CB含有PTTの割合は、7体積%以上であることがより好ましく、さらに安定して生産可能であることを考慮すると10体積%以上であることが特に好ましい。また、該CB含有PTTの割合は多いほど前述の導電性能が優れる観点で好ましいものの、該割合の上限としては、高温耐熱性を具備しうる点で95体積%以下であることが好ましく、90体積%以下であることがより好ましく、さらに安定して生産可能であることを考慮すると80体積%以下であることが特に好ましい。なお繊維中の該CB含有PTTの割合は、単繊維断面におけるCB含有PTT部分の、単繊維断面積に対する面積比率から求めることができ、後述の実施例におけるN項の方法にて測定したものを採用する。
本発明のポリエステル繊維は、前述のように繊維表層が全てCB含有PTTで覆われている場合、繊維の構成としては、(3)繊維の内層部は繊維表層と同じ成分である、すなわち繊維がCB含有PTTのみからなる場合、あるいは(4)該内層部が本発明で言うCB含有PTT以外の繊維形成能を有するポリマからなる場合、すなわちCB含有PTTとCB含有PTT以外の成分との複合成分からなる複合繊維である場合、となる。(3)の場合には、繊維自身の繊維断面における導電性の斑がなく、均質な導電性能を有するため好ましい。また(4)の場合は、例えばCB含有PTT以外の成分はCB含有PTTを含まないことで、本発明の繊維の繊維物性、例えば強度や伸度を担う成分として配置してもよく、あるいは本発明の趣旨を損ねない範囲においてCB以外の導電剤等を含有した別の機能を担う層であってもよく、あるいは別の機能性成分を含有したものであってもよい。また該(4)の場合の複合繊維において、CB含有PTT以外の成分の、繊維軸方向に垂直な繊維横断面における芯あるいは島の形状としては、円あるいは楕円であってもよく、三角形や四角形、それ以上の多角形など、多種多様な形状であってもよい。三角形以上の多角形においては、通常、ポリマー自身の溶融時の挙動で角が丸みを帯びた形状となることがしばしばある。芯あるいは島が円であれば、前述の繊維横断面において、曲げに対して等方的な強度(剛性)を有するが、丸以外の形状、例えば楕円や三角形においては、曲げの剛性が曲げる方向において異なるという挙動を示すことがある。特に後述するような、例えば繊維ブラシなどに用いる場合には、芯あるいは島を丸以外の三角形や四角形、それ以上の多角形の形状とすることで繊維自身の剛性を高く制御できるため、特に清掃ブラシとして非常に高性能なものとなりうる。
一方、本発明の繊維は、繊維中においてCB含有PTTが繊維表面に露出していない構成を採用することもできる。例えばCB含有PTT層は、繊維表面に露出されていると、用いられる用途によっては過度の擦過にさらされる場合があり、削れなどが生じることもあるが、繊維表面に露出していない構成を採用することで、そのような擦過による削れが起こることがなくなる。また、CB含有PTTを繊維表面から一定の厚みを置いて繊維中に配置することで、安定した導電性能が発現させることが可能である。CB含有PTTが繊維表面に露出しない場合には、繊維中の該CB含有PTTは繊維形成能を有するポリマと複合繊維を形成している。このCB含有PTTは複合繊維断面中に1箇所配置されていてもよく、2箇所以上の複数箇所に配置されていてもよい。2箇所以上の複数箇所に配置される場合には、高々100箇所配置されることが好ましい。また、2箇所以上の複数箇所に配置される場合には、導電性の斑が小さくなるという点で、該CB含有PTTはそれぞれ繊維表面からの距離が等しくなるように配置されることが好ましい。
本発明の繊維は、主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートからなるポリエステル(以下、PTT系ポリエステルと略記することもある)を用いてなる。他の汎用的に用いられるポリエステル、例えばPET系ポリエステルやPBT系ポリエステルの場合は、通常、CBを高濃度(10重量%以上)含有させた場合には溶融紡糸中の糸切れが多発して全く引き取りができない。しかしPTT系ポリエステル成分は、CBを多量に含有させた場合であっても、溶融粘度が大きく変化することがなく、繊維を形成させるためのプロセス、例えば溶融紡糸においても通常のPTT系ポリエステルのみを溶融紡糸するのと何ら変わりなく同じように溶融紡糸できることを、本発明者らは見出したのである。これにより、従来はポリアミド系ポリマで可能であった高い導電性を有する導電性繊維の製造が、ポリエステル系ポリマであっても同じように高濃度のCBを含有させ、高い導電性を有する導電性繊維を形成することが可能となったのである。
主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートからなるポリエステルは、カルボン酸であるテレフタル酸とアルコールであるトリメチレングリコールのエステル化反応により形成される、主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートから構成されるポリマである。主たる繰り返し構造単位とは、トリメチレンテレフタレート単位が50モル%以上であることを意味する。そしてトリメチレンテレフタレートから構成される成分が80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましい。
該主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートからなるポリエステルには、本発明の趣旨、すなわち高濃度でCBを含有した場合の高い溶融紡糸性を損ねない範囲で他の成分が共重合されていてもよく、例えばジカルボン酸化合物を共重合せしめることができる。該ジカルボン酸化合物として例えば、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、といった芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができる。これらジカルボン酸化合物は1種を単独で用いてもよいし、発明の趣旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、ジオール化合物を共重合せしめることができ、該ジオール化合物として例えば、エチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ハイドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシビフェニル、ナフタレンジオール、アントラセンジオール、フェナントレンジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4´−ジヒドロキシジフェニルエーテル、ビスフェノールS、といった芳香族、脂肪族、脂環族ジオール化合物およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができる。これらジオール化合物についても、1種を単独で用いてもよいし、本発明の趣旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、共重合成分としては、1つの化合物に水酸基とカルボン酸を具有する化合物、すなわち、ヒドロキシカルボン酸を挙げることができる。該ヒドロキシカルボン酸としては、例えば乳酸、3−ヒドロキシプロピオネート、3−ヒドロキシブチレート、3−ヒドロキシブチレートバリレート、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸、ヒドロキシアントラセンカルボン酸、ヒドロキシフェナントレンカルボン酸、(ヒドロキシフェニル)ビニルカルボン酸といった芳香族、脂肪族、脂環族ヒドロキシカルボン酸化合物およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができる。これらヒドロキシカルボン酸についても、1種を単独で用いてもよいし、本発明の趣旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、本発明の繊維においては、繊維がCB含有PTTのみからなる場合を除いて、該CB含有PTT以外の層が配置されてなる場合、該CB含有PTT以外の層は主たる成分として繊維形成能を有するポリマからなる。該繊維形成能を有するポリマとしては、例えば、ポリエステル系ポリマ、ポリアミド系ポリマ、ポリイミド系ポリマ、ポリオレフィン系ポリマやその他ビニル基の付加重合により合成される(例えばポリアクリロニトリル系ポリマなどの)ビニル系ポリマ、フッ素系ポリマ、セルロース系ポリマ、シリコーン系ポリマ、芳香族あるいは脂肪族ケトン系ポリマ、天然ゴムや合成ゴムなどのエラストマー、その他多種多様なエンジニアリングプラスチックなどを挙げることができる。より具体的には、例えば、ビニル基を有したモノマーが、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などの付加重合反応によりポリマが生成する機構により合成されるポリオレフィン系ポリマや、その他のビニル系ポリマとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、ポリシアン化ビニリデン、などが挙げられる。これらは例えばポリエチレンのみ、あるいはポリプロピレンのみのように単独重合によるポリマであってもよいし、複数のモノマー共存下に重合反応を行うことで形成される共重合ポリマであってもよく、例えばスチレンとメチルメタクリレート存在下での重合を行うとポリ(スチレン−メタクリレート)という共重合したポリマが生成するが、本発明の趣旨を損ねない範囲において、このような共重合体であるポリマであってもよい。
また、上記繊維形成能を有するポリマとしては、例えば、カルボン酸あるいはカルボン酸クロリドと、アミンの反応により形成されるポリアミド系ポリマを挙げることができる。具体的にはナイロン6、ナイロン7、ナイロン9、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6,6、ナイロン4,6、ナイロン6,9、ナイロン6,12、ナイロン5,7およびナイロン5,6などが挙げられる。その他、本発明の趣旨を損ねない範囲で他の芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸と芳香族、脂肪族、脂環族ジアミン成分からなるポリアミド系ポリマであってもよく、芳香族、脂肪族、脂環族などの1つの化合物がカルボン酸とアミノ基の両方を有するアミノカルボン酸化合物が単独で用いられていてもよく、あるいは第3、第4の共重合成分が共重合されているポリアミド系ポリマであってもよい。
また、上記繊維形成能を有するポリマとしては、例えば、カルボン酸とアルコールのエステル化反応により形成されるポリエステル系ポリマを挙げることができる。具体的には、本発明で用いられるポリエステル系ポリマとしては、例えばジカルボン酸化合物とジオール化合物のエステル結合から形成される重合体を挙げることができる。かかるポリマとしては、その主たる繰り返し構造単位がエチレンテレフタレート、トリメチレンテレフタレート、テトラメチレンテレフタレート、エチレンナフタレート、プロピレンナフタレート、テトラメチレンナフタレートあるいはシクロヘキサンジメタノールテレフタレート、であるポリエステル、あるいは芳香族ヒドロキシカルボン酸を主成分とする溶融液晶性を有する液晶ポリエステル、などが挙げられる。
そして、特に制限されるものではないものの、ジカルボン酸化合物とジオール化合物のエステル結合から形成されるポリエステル系ポリマには、本発明の趣旨を損ねない範囲で他の成分が共重合されていてもよく、例えばジカルボン酸化合物を共重合せしめることができる。該ジカルボン酸化合物として例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、といった芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができる。これらジカルボン酸化合物は、1種を単独で用いてもよいし、本発明の趣旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、ポリエステル系ポリマの共重合成分としては、ジオール化合物を共重合せしめることができる。該ジオール化合物として例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ハイドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシビフェニル、ナフタレンジオール、アントラセンジオール、フェナントレンジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4´−ジヒドロキシジフェニルエーテル、ビスフェノールS、といった芳香族、脂肪族、脂環族ジオール化合物およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができる。これらジオール化合物は、1種を単独で用いてもよいし、本発明の趣旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、ポリエステル系ポリマの共重合成分としては、1つの化合物に水酸基とカルボン酸を具有する化合物、すなわち、ヒドロキシカルボン酸を挙げることができる。該ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、乳酸、3−ヒドロキシプロピオネート、3−ヒドロキシブチレート、3−ヒドロキシブチレートバリレート、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸、ヒドロキシアントラセンカルボン酸、ヒドロキシフェナントレンカルボン酸、(ヒドロキシフェニル)ビニルカルボン酸といった芳香族、脂肪族、脂環族ヒドロキシカルボン酸化合物およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができる。これらヒドロキシカルボン酸は、1種を単独で用いてもよいし、本発明の趣旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、ポリエステル系ポリマとしては、芳香族、脂肪族、脂環族などの1つの化合物がカルボン酸と水酸基の両方を有するヒドロキシカルボン酸化合物を主たる繰り返し単位とする重合体であってもよい。該ヒドロキシカルボン酸からなる重合体としては、例えば乳酸、3−ヒドロキシプロピオネート、3−ヒドロキシブチレート、3−ヒドロキシブチレートバリレート、といったヒドロキシカルボン酸を主たる繰り返し構造単位とするポリエステルを挙げることができる。その他にも、これらヒドロキシカルボン酸としては、本発明の趣旨を損ねない範囲で芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸、あるいは芳香族、脂肪族、脂環族ジオール成分が用いられていてもよく、あるいは複数種のヒドロキシカルボン酸が共重合されていてもよい。
その他に、上記繊維形成能を有するポリマとしては、アルコールと炭酸誘導体のエステル交換反応により形成されるポリカーボネート系ポリマ、カルボン酸無水物とジアミンの環化重縮合により形成されるポリイミド系ポリマ、ジカルボン酸エステルとジアミンの反応により形成されるポリベンゾイミダゾール系ポリマが挙げられる。その他にも、ポリスルホン系ポリマ、ポリエーテル系ポリマ、ポリフェニレンスルフィド系ポリマ、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマ、ポリエーテルケトンケトン系ポリマ、脂肪族ポリケトンなどのポリマの他、セルロース系ポリマや、キチン、キトサンおよびそれらの誘導体など、天然高分子由来のポリマなども挙げられる。
これら繊維形成能を有するポリマとして、CB含有PTTとの界面接着性が良好で剥離が生じ難いという点で、ポリエステル系ポリマが好ましく、その主たる繰り返し構造単位としては例えばエチレンテレフタレート、トリメチレンテレフタレート、テトラメチレンテレフタレート、エチレンナフタレート、トリメチレンナフタレート、テトラメチレンナフタレートおよびポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレート、乳酸などが挙げられる。そして主たる繰り返し構造単位が該CB含有PTTと同じトリメチレンテレフタレートから構成されるポリトリメチレンテレフタレートは、界面接着性が特に良好であり特に好ましい。また、得られた繊維の弾性率あるいは強度が高く、様々な用途で用いられうるという点では、エチレンテレフタレート、エチレンナフタレート、トリメチレンナフタレート、テトラメチレンナフタレートを主たる繰り返し構造単位とするポリエステルが特に好ましい。
そして、本発明の繊維においては、上記の中から選ばれる繊維形成能を有するポリマを1種類単独で用いてもよく、本発明の趣旨を損ねない範囲において複数種併用してもよい。
本発明における主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートから構成されるポリエステルに含有されるカーボンブラックは、好ましいものとして、例えば、ファーネス法により得られるカーボンブラック(以下、ファーネスブラックと呼ぶ。)、ケッチェン法により得られるカーボンブラック(以下、ケッチェンブラックと呼ぶ。)、アセチレンガスを原料とするカーボンブラック(以下、アセチレンブラックと呼ぶ。)、その他グラファイト、炭素繊維などが好適に用いられ、中でもファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラックが好ましい。これらカーボンブラックは導電性を有する必要があり、該カーボンブラックが有する導電性は、比抵抗値として5000[Ω・cm]以下であることが重要である。特に好ましい比抵抗値の範囲は、1.0×10-6〜500[Ω・cm]である。ここで比抵抗値は、後述の実施例におけるE項の方法にて測定して求める。また、本発明の繊維に含有せしめた場合に繊維物性を損ねないことが好ましく、また凝集しないことが好ましいことから、導電性カーボンブラックの粒子の大きさは、平均粒径で1〜500nmの範囲のものが好ましく、5〜400nmの範囲のものがより好ましい。ここで平均粒径は、後述の実施例におけるJ項の方法で求める。そして、主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートから構成されるポリエステルにおけるCBの含有量は、従来のPET系ポリエステルやPBT系ポリエステルよりも高濃度でCBを含有した場合であっても繊維として高い形成能を有すること、および導電性を有した場合の繊維の強度や伸度などの物性が安定していることなどから、15重量%以上50重量%以下であることが好ましく、16重量%以上40重量%以下であることがより好ましく、16重量%以上35重量%以下であることが特に好ましい。ここでCBの含有量は、後述の実施例におけるL項の方法にて測定したものを採用する。
本発明において主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートから構成されるポリエステルにCBを含有せしめる方法としては、主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートから構成されるポリエステル(PTT系ポリエステル)に添加物を添加する任意の方法が採用できる。具体的には、(A)不活性気体の雰囲気下、PTT系ポリエステルを溶融したのち、CBを添加し、エクストルーダや静止混練子のような混練機により常圧もしくは減圧下で混練する方法、(B)不活性気体の雰囲気下、PTT系ポリエステルとCBとをあらかじめ所定の割合でドライブレンドしたのち、好ましくはPTT系ポリエステルが粉体もしくは粒体となされたものとCBとをドライブレンドしたのち溶融し、エクストルーダや静止混練子のような混練機により常圧もしくは減圧下で混練する方法、(C)通常のPTT系ポリエステルの重合反応において、重合反応が停止する以前の任意の段階で導電性カーボンブラックを含有せしめて混練する方法、などが挙げられる。簡便に混練が達成できかつ導電性カーボンブラックとPTT系ポリエステル成分とがより微細に混練されることから、好ましくは(A)あるいは(B)の方法が採用される。特にエクストルーダに関しては、1軸あるいは2軸以上の多軸エクストルーダを好適に用いることができるものの、PTT系ポリエステル成分とCBとを混練した際に導電性カーボンブラックが微細混練するという点で、2軸以上の多軸エクストルーダを採用することが好ましい。そしてエクストルーダの軸の長さ(l)および軸の太さ(w)の比l/wについては、混練性向上の点でl/wは10以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましく、30以上であることがさらにより好ましい。また、該l/wは大きい値をとるほどより混練にかかる時間が長くなり混練性が向上して好ましいものの、過度にl/wが大きいと滞留時間が長くなりすぎて、PTT系ポリエステルが劣化することもあり得るので、該l/wは100以下であることが好ましい。またCBの添加は、前述の通りエクストルーダに供給する以前の段階でドライブレンドしておいてもよく、エクストルーダに配設したサイドフィーダーを用いて溶融PTT系ポリエステルとエクストルーダ中にて混合してもよい。また特に静止混練子に関しては、例えば溶融したPTT系ポリエステルの流路を2つあるいはそれ以上の複数に分割して再度合一するという作業(この分割から合一までの作業1回を1段とする)がなされる静置型の混練素子であれば特に制限されるものではないものの、より混練性が優れるという点で、該静止混練子の段数は5段以上であることが好ましく、10段以上であることがより好ましい。また、流路の必要長さにも依るものの過度に長い場合には工程に組み込めない場合もあることから、上限としては50段以下であることが好ましい。
本発明の繊維にとって好ましい、主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートから構成されるポリエステル、あるいは前述した繊維形成能を有するポリマとして、通常、合成繊維に供する粘度のポリマを使用することができる。例えば、ポリエステル系ポリマについては、PET系ポリエステルであれば、固有粘度(IV)が0.4〜1.5であることが好ましく、0.5〜1.3であることがより好ましい。また、主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートから構成されるポリエステル(PTT系ポリエステル)であれば、固有粘度(IV)が0.7〜2.0であることが好ましく、0.8〜1.8であることがより好ましい。あるいは、PBT系ポリエステルであれば、固有粘度(IV)が0.6〜1.5であることが好ましく、0.7〜1.4であることがより好ましい。またポリアミド系ポリマは、例えばナイロン6であれば極限粘度[η]が1.9〜3.0であることが好ましく、2.1〜2.8であることがより好ましい。なお、これら固有粘度(IV)あるいは極限粘度[η]は、後述の実施例におけるK項の方法により求められる。
また、本発明の主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートから構成されるポリエステルの溶融粘度は、添加するCBの添加量や繊維の構成により適宜設定すればよいが、CBを含有した状態での該ポリエステルの溶融粘度については、溶融紡糸温度にて、剪断速度が12.16[1/秒]の剪断粘度が10〜100,000[Pa・秒]のポリマが通常用いられ、好ましくは50〜10,000[Pa・秒]である。ここで該溶融粘度は、後述の実施例におけるF項の方法にて測定したものを採用する。
本発明の繊維は、使用時の環境によっては高温に曝される場合もあることから、耐熱性に優れるという点で、160℃大気中で15分間保持した際の収縮率(乾熱収縮率)が20%以下であることが好ましく、10%以下であることが特に好ましい。この収縮率は低いほど好ましく、0%までのものが好適に用いられる。ここで該収縮率は、後述の実施例におけるG項の方法にて測定したものを採用する。
本発明の繊維は、衣料用途や後述するブラシローラー用など様々な用途での使用時の変形が小さいという点で、残留伸度が5〜100%であることが好ましく、30〜50%であることが特に好ましい。ここで該残留伸度は、後述の実施例におけるB項の方法にて測定したものを採用する。
本発明の繊維は、様々な用途に応じて適宜繊維としての物性を制御すればよいものの、それら様々な用途に広く適用できる点で、15〜80cN/dtexの初期引張弾性率を持つことが好ましく、また、この範囲で安定して製造可能である。そして特定の用途によっては更に好ましいとされる初期引張弾性率があり、例えば後述するような電子写真装置の中に組み込まれている清掃装置の部材としてトナーなどの着色剤を掻き落とすために用いられるような場合には、概して剛性(初期引張弾性率と高い相関がある)の高い繊維が好まれ、掻き落とし性が良好であるという点で、初期引張弾性率が45〜80cN/dtexであることがさらに好ましく、50〜80cN/dtexであることが特に好ましい。ここで該初期引張弾性率を電子写真装置の中に組み込まれている清掃装置の部材として用いられるのに好ましいとされる45cN/dtex以上となすには、CBを含有する主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートから構成されるポリエステル(CB含有PTT)を少なくとも構成単位の一部として含む繊維として構成する際に、より高い初期引張弾性率を達成しうるという点で、CB含有PTT以外の繊維形成能を有するポリマとして、例えばエチレンテレフタレートを主たる繰り返し構造単位とするPET系ポリエステルやエチレンナフタレートを主たる繰り返し構造単位とするPEN系ポリエステルを用いて繊維となすことが好ましい。また、後述するような電子写真装置の中に組み込まれている帯電装置の部材で感光体に電荷を付与する部材として用いられる場合、あるいは清掃装置の部材において電圧を印加して静電気的にトナーなどの着色剤を吸い寄せて除去する部材として用いられるような場合には、概して剛性(初期引張弾性率と高い相関がある)の低い繊維が好まれ、初期引張弾性率が15〜45cN/dtexであることが好ましく、15〜40cN/dtexであることがより好ましく、15〜35cN/dtexであることが特に好ましい。この場合、初期引張弾性率は低いほど好ましい。ここで該初期引張弾性率を45cN/dtex以下となすには、CB含有PTT自体が該初期引張弾性率が低いためそのまま用いても設計が可能であるし、より低い初期引張弾性率を達成しうるという点で、トリメチレンテレフタレートを主たる繰り返し構造単位とするPTT系ポリエステルや、テトラメチレンテレフタレートを主たる繰り返し構造単位とするPBT系ポリエステルなどを用いて繊維となすことが好ましい。なおここで該初期引張弾性率は、後述の実施例におけるB項の方法にて測定したものを採用する。
本発明の繊維は、衣料用途や後述するブラシローラー用など様々な用途で形状あるいは特性を安定して満足するために、破断強度が1.0cN/dtex以上であることが好ましく、1.3cN/dtex以上であることがより好ましく、2.0cN/dtex以上であることがさらに好ましい。通常、導電性の高い繊維を作製するべくCBを高濃度で含有せしめたポリエステル系樹脂のみからなる繊維については、そもそも従来のPET系ポリエステルやPBT系ポリエステルを用いた場合には本質的に安定して繊維を得ることは困難であったし、仮に繊維を形成しえた場合であっても破断強度が非常に低く(1.0cN/dtex未満)どのような手段を採っても破断強度を高めることは困難であった。しかし本発明者らは、ポリエステルとして主たる繰り返し単位がトリメチレンテレフタレートから構成されるポリエステル成分を用いた場合に、CBが高濃度で含有されていたとしても、特異的に破断強度の高い繊維が得られることを見出したのである。そして該破断強度に関しては高いほど好ましいものの、生産性を考慮すると10.0cN/dtex以下のものが好適に製造される。ここで該破断強度は、後述の実施例におけるB項の方法にて測定したものを採用する。
本発明のポリエステル繊維においては、平均抵抗率が1.0×1012[Ω/cm]以下である。該平均抵抗率の範囲においては、後述するような多様な繊維製品、例えば衣料、アクチュエーターや発熱体などの配線物、繊維ブラシあるいはそれからなる繊維ブラシローラー、あるいはこれらを組み込んでなる様々な製品などにおいて所望の導電性が付与される。平均抵抗率は、小さければ小さいほど導電性が高い、すなわち電気を流しやすいため、用途によっては低い平均抵抗率を持つ必要があるものの、該CB含有PTTに最大限含有せしめることが可能な導電剤の量から鑑みると、平均抵抗率の下限としては1.0×100[Ω/cm]である。特に、後述するような電子写真装置に組み込むブラシローラーに本発明の繊維を用いる際には、1.0×103〜1.0×1012[Ω/cm]の範囲の平均抵抗率であることが好ましく、ブラシローラーの用いられる部材や装置の特性に応じて後述するような範囲の平均抵抗率の導電性繊維が採用される。また、発熱体などの配線物においても、織物や編物となした後に所望の形状とするが、目的とする、流す電圧あるいは電流値に応じて適宜設定すればよいものの、1.0×101〜1.0×107[Ω/cm]の範囲の平均抵抗率であることが好ましい。ここで該平均抵抗率Pは、後述の実施例におけるC項の方法にて測定したものを採用する。
また、本発明の繊維は、後述するような様々な用途で安定した導電性が確保されることが好ましいことから、平均抵抗率Pと抵抗率の標準偏差Qとの比R(R=Q/P)が、0.5以下であることが好ましく、0.4以下であることがより好ましく、0.3以下であることが特に好ましい。該比Rは小さい値をとるほど、繊維長手方向の導電性の斑が小さいということになり、つまり安定かつ優れた導電性を有することを意味する。前述の導電性繊維の平均抵抗率が1.0×108[Ω/cm]未満である場合には、該比Rが0.2以下であることが特に好ましい。また、該比Rは前述の通り小さい値をとるほど好ましく、0.001までの値を通常とりうるし、全く繊維長手方向の導電性の斑が無い場合は、0.001以下の値もとりうる。ここで該比Rは、後述の実施例におけるC項の方法にて測定したものを採用する。
さらに本発明の繊維は、温湿度変化、具体的には例えば梅雨の時期のように湿った気候の場合であっても冬季のように低温で乾燥した気候であっても導電性繊維の性能は何ら変わらないことが好ましい。そこで該導電性繊維の、中温中湿度(23℃湿度55%)での平均抵抗率X[Ω/cm]と、低温低湿度(10℃湿度15%)での平均抵抗率Y[Ω/cm]との比Z(Z=Y/X)が、1〜5の範囲にあることが好ましく、1〜4の範囲にあることがより好ましく、1〜2の範囲にあることが特に好ましい。Y/Xは1に近い値をとるほど中温中湿度と低温低湿度との差が小さい、すなわち温度湿度依存性が小さく優れた繊維であるということになる。特筆すべきは、従来ポリアミド系繊維へのCBの含有によっては得られなかった温湿度変化における導電性の安定性と、PETやPBTなど従来のポリエステルでは不可能であった高濃度カーボンブラック含有との両方を可能にすることが、本発明のようにPTT系ポリエステルを用いることで初めて達成できたことである。なおここで該平均抵抗率の比は、後述の実施例におけるD項の方法にて測定したものを採用する。
本発明の繊維は、特に短繊維となして電気植毛加工を行う際に、より効率的に加工が行えるという点で、比抵抗値が106〜109[Ω・cm]であることが好ましく、107〜108[Ω・cm]であることがより好ましい。そしてこれら好ましいとされる比抵抗値の値を有する短繊維とせしめるために導電調製剤等で処理することが好ましい。該導電調製剤としては、例えばシリカ系粒子が混合された水系溶剤あるいは有機系溶剤を挙げることができ、その際のシリカ系粒子の粒径としては、通常1nm〜200μmの大きさの粒子が用いられ、3nm〜100μmの大きさの粒径が好ましい。ここで該比抵抗値は、後述の実施例におけるE項の方法にて測定したものを採用する。
本発明の繊維は、本発明の趣旨を損ねない範囲で艶消剤、難燃剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤、末端基封止剤等の添加剤を少量保持してもよい。またこれら添加剤は、本発明の繊維が前述の通り複合繊維である場合には、該CB含有PTTおよび/または該CB含有PTT以外の繊維形成能を有するポリマのいずれに保持されていてもよい。
さらに本発明において、本発明の趣旨を損ねない範囲において、繊維形成能を有するポリマがCBおよび/または他の導電剤を含有していてもよい。ここで趣旨を損ねないためには、繊維形成能を有するポリマが、CBおよび/または他の導電剤を含みつつも主として導電性を担う成分としては機能しないために、該繊維形成能を有するポリマ部分のみの比抵抗値が、本発明のCB含有PTT部分の比抵抗値よりも大きい、ということが重要になる。
以下、本発明の繊維の好ましい製造方法を例示する。
本発明の繊維は、溶融紡糸、乾式紡糸、湿式紡糸、あるいは乾湿式紡糸などの溶液紡糸など、種々の合成繊維の紡糸方法を採用して製造できる。しかし、繊維中に配設された主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートから構成されるポリエステルにCBを高濃度で含有せしめることが容易かつ可能であり、また繊維形状を精密に制御可能であることから、溶融紡糸により製造されることが好ましい。そしてCB含有PTTを前述の繊維形成能を有するポリマとブレンドして溶融紡糸するか、もしくは該CB含有PTTと繊維形成能を有するポリマとを複合紡糸するか、あるいはCB含有PTTを単独で溶融紡糸することで繊維を得る。
溶融吐出された繊維は、繊維を形成するポリマ成分(CB含有PTTもしくは繊維形成能を有するポリマ)のうち低い方のガラス転移温度(Tg)以下の温度に冷却され、処理剤を付着させないかもしくは処理剤を付着せしめた後、100〜10000m/分の引取速度で、好ましくは4000m/分以下、より好ましくは3000m/分以下、更により好ましくは2500m/分以下の引取速度で引き取る。また生産性を考慮すると、100m/分以上、好ましくは500m/分以上の引取速度で引き取る。本発明で用いる主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートから構成されるポリエステルは、過度に高い引取速度で引き取った場合に、工程安定性に劣る場合もあることから、最も好ましい引取速度は500〜2500m/分の範囲である。
ここで、口金孔から吐出される繊維一束の本数(糸条の繊維本数)は、目的とする使用方法あるいは用途に応じて適宜選択すればよく、1本のモノフィラメントの状態であっても、3000本以下の複数糸条からなるマルチフィラメントでもよい。しかし諸物性の安定した繊維が得られ、各種用途に好適に採用されるという点で、2〜500本が好ましく、3〜400本が特に好ましい。また、付着せしめる処理剤は、繊維の用途に応じて適宜用いることができ、含水系あるいは非含水系の処理剤がここに採用されうるものの、本発明の繊維を用いてなる電子写真装置の感光体が劣化することを防止するためには、感光体を劣化せしめるような化合物が含有されていないことが好ましい。
前述のように繊維を引き取った後巻き取ることなくもしくは一旦巻き取った後、繊維を構成するポリマ成分(CB含有PTTもしくは繊維形成能を有するポリマ)のうち、低い方のガラス転移温度(Tg)+100℃以下の温度に加熱して、好ましくはガラス転移温度が低い方のガラス転移温度Tg−20℃〜ガラス転移温度が高い方のTg+80℃の温度範囲に加熱して、延伸糸の残留伸度が5〜60%となる倍率で、好ましくは延伸糸の残留伸度が30〜50%となる倍率で、すなわち1.1〜3.0倍の範囲の延伸倍率で、1段目の延伸を施す。ここで一旦延伸したのち(すなわち1段目の延伸を終えた後)、さらに1倍以上2倍以下の倍率で2段目の延伸を施してもよい。
延伸したのち、繊維は最終延伸温度以上融点(Tm)以下の温度で熱処理することが好ましい。延伸後に高温で熱処理を施すことで、より耐熱性が高く、かつ、前述の平均抵抗率Pと抵抗率の標準偏差Qとの比R(R=Q/P)が低く繊維の長手方向の導電性の斑が小さい優れた繊維となすことができるのである。ここで該Tg,Tmは、後述の実施例におけるH項の方法にて測定したものを採用する。
さらに、上記熱処理の前または熱処理のあとで、0.9倍以上1.0倍未満の倍率で繊維をごくわずかに収縮させてリラックス処理を施すことが好ましい。これによっても前述の平均抵抗率Pと抵抗率の標準偏差Qとの比R(R=Q/P)が低く、繊維の長手方向の導電性の斑が小さい優れた繊維となすことができる。
上記延伸方法あるいは延伸後の熱処理方法としては、加熱されたピン状物、ローラー状物、プレート状物などの接触式ヒーターや加熱した液体を用いた接触式バス、あるいは加熱気体、加熱蒸気、電磁波などを用いた非接触式加熱媒体などを採用することが可能である。これらのうち、加熱されたピン状物、ローラー状物、プレート状物などの接触式ヒーターや加熱した液体を用いた接触式バスなどは装置が簡便で加熱効率が高いことから好ましく、加熱されたローラー状物が特に好ましい。
本発明の繊維は、織物あるいは編物として使用でき、さらには様々な衣料用途に用いる場合には仮撚り加工を施してもよい。仮撚り加工において繊維は、延伸糸あるいは未延伸糸を加熱することなくもしくは加熱されたピン状物、ローラー状物、プレート状物、あるいは非接触型のヒーターなどにより加熱した後、ディスク状物あるいはベルト状物によって仮撚り加工される。延伸仮撚り加工された繊維は、そのままもしくは特に制限されるものではないものの熱セットされた後に巻き取られることが好ましい。また本発明の繊維には、上記仮撚り加工の代わりに、撚糸加工を施してもよい。
本発明のポリエステル繊維は、例えば、織物、編み物、不織布といった通常の繊維製品とするほか、それらを用いた繊維ブラシ、衣料、敷物や、短繊維を用いた植毛体、あるいは電気を流すことが可能な配線物、などにおいて、少なくとも一部に用いてなるポリエステル繊維製品となすことができる。具体的には以下に詳述する。
本発明のポリエステル繊維は、用いられうる用途にあるいは形状に即して、少なくとも一部にあるいは全部に用いられた織物となすことができる。ここで例えば1重織物としては、ブロード、ボイル、ローン、ギンガム、トロピカル、タフタ、シャンタン、デシンなどの平織、デニム、サージ、ギャバジンなどの綾織、サテン、ドスキンなどの朱子織、バスケット、パナマ、マット、ホップサック、オックスフォードなどのななこ織、グログラン、オットマン、ヘアコードなどの畝織、フランス綾、ヘリンボーン、ブロークンツイルなどの急斜文、緩斜文、山形斜文、破れ斜文、飛び斜文、曲り斜文、飾斜文や、不規則朱子、重ね朱子、拡げ朱子、昼夜朱子や、蜂巣織、ハック織、梨地織、ナイアガラなどが挙げられる。また2枚の織物を合わせて1枚の織物となした2重織物としては、ピケ、フクレ織などの経2重織、ベッドフォードコードなどの緯2重織、風通織、袋織などの経緯2重織などが挙げられる。またパイル織物としては別珍やコールテンなどの緯パイル織や、タオル、ビロード、ベルベットなどの経パイル織などが挙げられる。その他に紗織や絽織などのからみ織物、ドビー織やジャガード織などの紋織物などを挙げることができる。特に後述の繊維ブラシ用織物に用いられるものとしては経パイル織からなるパイル織物が好ましい。そして該織物を作製するために用いられる本発明のポリエステル繊維の形態は、生糸、撚糸、仮撚り加工糸など、また長繊維(フィラメント)、あるいは短繊維(ステープル)など、いずれの形態も使用可能であり、特に制限はない。
また、本発明のポリエステル繊維は、用いられうる用途にあるいは形状に即して、少なくとも一部にあるいは全部に用いられた編物となすことができる。ここで編物としては、天竺やシングルなどの平編、ゴム編やフライスなどのリブ編、リンクスなどのパール編の他、鹿の子、梨地、アコーディオン編、スモールパターン、レース編、裏毛編、片畦編、両畦編、リップル、ミラノリブ、ダブルピケ、等の緯編、あるいはトリコット、ラッセル、ミラニーズなどの経編などを挙げることができ、特に後述の繊維ブラシ用編物に用いられるものとしては、裏毛編やあるいはパイル状繊維を編物表面に突出させるための起毛処理を施した編物が好ましい。そして該編物を作製するために用いられる本発明のポリエステル繊維の形態は生糸、撚糸、仮撚り加工糸など、また長繊維(フィラメント)、あるいは短繊維(ステープル)など、いずれの形態も使用可能であり、特に制限はない。
また、本発明のポリエステル繊維は、用いられうる用途にあるいは形状に即して、少なくとも一部にあるいは全部に用いられた不織布となすことができる。ここで不織布としては、ケミカルボンド法、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、ウォータージェットパンチ(スパンレース)法、スティッチボンド法、フェルト法などの接合あるいは接着方法により形成されたものを挙げることができる。不織布を作成するために用いられる本発明のポリエステル繊維の形態は生糸、撚糸、仮撚り加工糸など、また長繊維(フィラメント)、あるいは短繊維(ステープル)など、いずれの形態も使用可能であり、特に制限はない。
本発明のポリエステル繊維が少なくとも一部に用いられてなる前述の織物あるいは編物は、常法による精練、染色、熱セット等の加工を受けてもよい。あるいは前述の不織布であれば、前述の精練、染色、熱セット等の他、艶付けプレス、エンボスプレス、コンパクト加工、柔軟加工、ヒートセッティングなどの物理的処理加工や、ボンディング加工、ラミネート加工、コーティング加工、防汚加工、撥水加工、帯電防止加工、防炎加工、防虫加工、衛生加工、泡樹脂加工などの化学的処理加工や、その他にマイクロ波応用や、超音波応用、遠赤外線応用、紫外線応用、低温プラズマ応用などの応用処理がなされていてもよい。
また、本発明のポリエステル繊維が少なくとも一部に用いられてなる前述の織物、編物、あるいは不織布としては、本発明のポリエステル繊維と、本発明とは異なる合成繊維、半合成繊維、天然繊維など、例えばセルロース繊維、ウール、絹、ストレッチ繊維、アセテート繊維から選ばれた少なくとも1種類の繊維とを用いたものであってもよい。具体的に例を挙げると、セルロース繊維としては、綿、麻等の天然繊維、あるいは銅アンモニアレーヨン、レーヨン、ポリノジック等が挙げられ、これらセルロース繊維と混用する本発明のポリエステル繊維の含有率については特に制限はないが、セルロース繊維の風合い、吸湿性、吸水性、制電性などを生かし、かつ本発明の繊維の導電性を生かすために、0.1〜50重量%が好ましい。また該混用に用いられるウール、絹は既存のものがそのまま使用でき、これらウール、あるいは絹と混用する本発明のポリエステル繊維の含有率については、ウールの風合い、暖かみ、かさ高さ、また、絹の風合い、きしみ音を生かし、かつ本発明のポリエステル繊維の導電性を生かすために、0.1〜50重量%が好ましい。また混用に用いられるストレッチ繊維は、特に限定されるものではなく、乾式紡糸または溶融紡糸されたポリウレタン繊維、他にもポリトリメチレンテレフタレート繊維や、ポリテトラメチレンテレフタレート繊維、あるいはポリテトラメチレングリコール共重合ポリテトラメチレンテレフタレート繊維に代表されるポリエステル系のストレッチ繊維等が挙げられ、これらストレッチ繊維を用いる混用布帛において、本発明のポリエステル繊維の含有率は0.1〜50重量%程度が好ましい。また混用に用いられるアセテート繊維は特に制限されるものではなく、ジアセテート繊維でもトリアセテート繊維でもよく、これらアセテート繊維と混用する本発明の繊維の含有率については、アセテート繊維の風合い、鮮明性、光沢を生かし、かつ本発明のポリエステル繊維の導電性を生かすために、0.1〜50重量%が好ましい。
これら各種の混用した織物、編物、あるいは不織布について、本発明のポリエステル繊維の形態、混用方法については特に制限されるものではなく、公知の方法を用いることができる。例えば、混用方法としては経糸または緯糸に用いる交織織物、リバーシブル織物等の織物、トリコット、ラッセル等の編物などが挙げられ、その他交撚、合糸、交絡を施してもよい。
本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部にあるいは全部に用いた織物、編物あるいは不織布は、前述の混用したものも含め、染色されていてもよい。特に工程については製編、製織後あるいは不織布の場合はウェブを形成し前述の接合あるいは接着方法により形成されたあと、常法により精練、プレセット、染色、ファイナルセットの過程をとることが好ましい。また、本発明のポリエステル繊維が前述のCB含有PTTはもとより該CB含有PTT以外の繊維形成能を有するポリマもポリエステル系ポリマであってかつ繊維表面の一部を形成している場合は、必要に応じて、精練後、染色前に常法によりアルカリ減量処理されていてもよい。なお精練は40〜98℃の温度範囲で行うことが好ましい。特にストレッチ繊維との混用の場合には、布帛をリラックスさせながら精練することが弾性を向上させるのでより好ましい。染色前後の熱セットは一方あるいは両方共省略することも可能であるが、織物、編物あるいは不織布の形態安定性、染色性を向上させるためには両方行うことが好ましい。熱セットの温度としては、120〜190℃、好ましくは140〜180℃であり、熱セット時間としては10秒〜5分、好ましくは、20秒〜3分である。
本発明のポリエステル繊維は導電性に優れることから繊維そのものとしても非常に有用で、繊維の一形態としては前述の通り0.05〜150mmの長さの短繊維として用いられる。該短繊維はフィラメントを1つの糸条単独であるいは複数の糸条を束ねたトウになして切断されてなるものであり、特に0.1〜10mmの長さの短繊維としたものは、例えば電気植毛加工や吹きつけ加工などの多種多様な方法によって、基盤に植設されてなる植毛体とすることができる。電気植毛体において、該植毛加工により植設された繊維は、その50%以上が基盤に対し10度から垂直(すなわち90度)の概ね直立状態に植設される。ここで、本発明の趣旨を損ねない範囲で、該植毛体となす場合に用いる短繊維には、本発明のポリエステル繊維からなる短繊維以外に、本発明のポリエステル繊維ではない他の繊維からなる短繊維を混用して植設してもよい。また該植毛体は、基盤に短繊維を接着して植設してもよく、接着する場合には例えばアクリル系、ウレタン系、またはエステル系の接着剤を用いて接着されることが好ましい。ここで接着剤の層の厚さは1〜500μmであることが好ましく、単層あるいは必要に応じて、複数種の接着剤を混合してもしくは複数層に分けて用いてもよい。また植設される基盤としては特に制限されるものではなく、前記植毛体を組み込む装置や用いる接着剤に応じて適宜採用すればよいが、合成樹脂、天然樹脂、合成繊維、天然繊維、木材、鉱物あるいは金属からなるフィルム、シート、紙、板、布帛などが好適に採用でき、あるいは各種用途の部材そのものである金属加工体、合成もしくは天然樹脂加工体もしくは成形体の基盤に直接植毛してもよい。ここで特に前記接着剤との親和性を高めるために、親水化処理してなる合成もしくは天然樹脂あるいは金属からなるシートが好ましい。そして該基盤が前記フィルム、シート、紙、板、布帛など表裏を形成している素材であれば用途あるいは目的に応じてその表面および裏面の両面に植設することができる。該植毛体は、その使用方法あるいは用途として、別の基盤に貼り付けて用いてもよいし、あるいは例えば次に示す導電性を有するため導電性の繊維ブラシローラーとして用いることができる。
具体的には、本発明のポリエステル繊維からなる前記短繊維を少なくとも一部に用いてなる植毛体を、少なくとも一部に用いてなる繊維ブラシとして形成し用いることができる。特に、棒状物体に直接植設された繊維ブラシローラーであることが好ましい。ここで用いられる短繊維は、棒状物体に植設される際に、気体により短繊維を吹き付けてもよく、電気植毛加工を行ってもよいが、棒状物体の表面に概ね直立したものが効率よく得られることから電気植毛加工により得られることが好ましい。このとき短繊維は、その50%以上が棒状物体の表面において10度から垂直(すなわち90度)の概ね直立状態に接着される。ここで、本発明の趣旨を損ねない範囲で、用いる短繊維には本発明のポリエステル繊維からなる短繊維以外に、本発明のポリエステル繊維ではない他の繊維からなる短繊維を混用して植設してもよい。また接着して植設する際の接着剤は特に制限されるものではなく、例えばアクリル系、ウレタン系、またはエステル系の接着剤が用途あるいは目的に応じて種々選択されて用いられ、ここで接着剤の層の厚さは1〜500μmであることが好ましく、単層あるいは必要に応じて、複数種の接着剤を混合してもしくは複数層に分けて用いてもよい。また本発明のポリエステル繊維からなる短繊維を少なくとも一部に用い、棒状物体に植設してなる前記ポリエステル繊維ブラシローラーの繊維ブラシローラー自体の比抵抗値は102〜1011Ω・cmであることが好ましい。
前述の棒状物体の芯となる主たる材質は、用いられる用途あるいは目的に応じて適切なものを採用すればよく、金属、合成樹脂、天然樹脂、木材、鉱物などから単独で、もしくは複数種を組み合わせて選ばれるが、後述する電子写真装置に組み込む部材として用いる場合には、主として金属からなることが好ましい。さらに該棒状物体が金属である場合には、該金属の少なくとも一部もしくは必要とする部分の全面を中間層が覆い、その上に前記織物および/または編物および/または不織布が接着されるか、あるいは短繊維が接着して植設されることが好ましい。この中間層として用いられる素材は主としてクッション性を棒状物体に付与する、あるいはブラシ状の繊維の弾性・剛性のみでは達成し得ない場合に補助的に弾性・剛性を担うものであり、後述される例えば清掃装置におけるトナー除去性能、あるいは現像装置におけるトナー付与性能を格段に向上せしめる。そして特に制限されるものではないものの、該中間層には例えばウレタン系素材、エラストマー素材、ゴム素材あるいはエチレン−ビニルアルコール系素材などが好適に用いられる。そして該中間層の厚みは0.05〜10mmであることが好ましく、さらに必要に応じて前述の導電性制御剤あるいは磁性制御剤が添加されていてもよい。
本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる前述の織物、編物あるいは不織布は、基盤と接合して布帛複合体とすることができる。この場合、織物であればパイル織りあるいは処理により織物表面に起毛や糸端があるもの、また編物であればパイル状の繊維起毛があるものもしくは起毛処理してパイルあるいは糸端が編物表面にあるものが後述するポリエステル繊維ブラシローラーにおいてより機能が高められる場合があり好ましい。接合する際に接着して形成させる場合には例えばアクリル系、ウレタン系、またはエステル系の接着剤を用いて接着されることが好ましい。ここで接着剤の層の厚さは1〜500μmであることが好ましく、単層あるいは必要に応じて、複数種の接着剤を混合してもしくは複数層に分けて用いてもよい。
また、接着される基盤としては特に制限されるものではなく、該布帛複合体を組み込む装置や用いる接着剤に応じて適宜採用すればよいが、合成樹脂、天然樹脂、合成繊維、天然繊維、木材、鉱物あるいは金属からなるフィルム、シート、紙、板、あるいは他の布帛などが好適に採用でき、あるいは各種用途の部材そのものである金属加工体、合成もしくは天然樹脂加工体もしくは成形体の基盤に直接接着してもよい。ここで特に前記接着剤との親和性を高めるために、親水化処理してなる合成もしくは天然樹脂あるいは金属からなるシートが好ましい。そして該基盤が前記フィルム、シート、紙、板、布帛など表裏を形成している素材であれば用途あるいは目的に応じてその表面および裏面の両面に前述の織物、編物あるいは不織布を接着して布帛複合体となすことができる。該布帛複合体は、その使用方法あるいは用途として、別の基盤に貼り付けて用いてもよいし、あるいは例えば次に示す導電性を有するため導電性のポリエステル繊維ブラシとして用いることができる。
本発明のポリエステル繊維からなる前記織物および/または編物および/または不織布は、少なくとも一部に用いられるかあるいは全部に用いて、ポリエステル繊維ブラシを形成できる。特に形態が安定している点では織物を用いることが好ましい。ここで用いられる織物および/または編物および/または不織布は、棒状物体に接合してポリエステル繊維ブラシローラーを形成する際に、棒状物体の機能的に必要とされる長さ(すなわち巻き幅)分だけカットしたものを一周で巻き付け接合してもよく、あるいは棒状物体の長さの数分の一〜数十分の一の長さの幅にスリット状にカットしたものを棒状物体にスパイラル状に巻き付けて接合してもよい。接合する際にはあらかじめ凹凸を棒状物質に付けるなどして嵌合してもよいが、確実に接合するという点では接着剤を用いて接着することが好適である。
ここで用いられる接着剤は、用途あるいは目的に応じて適宜採用すれば良く、アクリル系、エステル系あるいはウレタン系など種々のものを採用でき、また必要に応じてCBや金属などの導電性制御剤あるいは鉄、ニッケル、コバルト、モリブデンなどの金属あるいはこれら金属の酸化物あるいはこれらの混合物などの磁性制御剤などが添加されていてもよい。ここで接着剤の層の厚さは1〜500μmであることが好ましく、単層あるいは必要に応じて、複数種の接着剤を混合してもしくは複数層に分けて用いてもよい。さらに前記織物および/または編物および/または不織布は接着される以前の段階で接着面に102〜1010Ω・cmの比抵抗を有する導電処理剤もしくは導電性シートあるいは導電性膜などの素材を貼り合わせてもよい。
本発明のポリエステル繊維は、安定した導電性を有しかつ所望の抵抗率に制御することが可能であることから、一定の電圧を印加した際に微弱な電流を流すことが可能であり、様々な配線物を形成させることができる。これを利用して、例えばその一例として、微弱な電流で信号を送られて制御・駆動されるアクチュエーターを形成することができる。このときに繊維の長さについては、長繊維(フィラメント)であっても前述のような短繊維であってもよい。該アクチュエーターは具体的に、例えば人間の筋肉と同じで微弱な電流を信号として伝達し、駆動することができるため、本発明の繊維はこのアクチュエーターの電気信号回路に用いることができる。
また、配線物の一例として、本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部あるいは全部に用いてなる発熱体として用い、形成することもできる。このときに繊維の長さについては、長繊維(フィラメント)であっても前述のような短繊維であってもよい。発熱体となした場合に、本発明の繊維は導電性に優れ、しかも必要とする平均抵抗率[Ω/cm]に設計することが可能であるため、印加電圧、ターゲットとする温度、などに応じた発熱体としうる。一定の電圧をかけることで、本発明のポリエステル繊維は抵抗体として機能し発熱する。発熱体を設計する際には、例えばごく少量の温度上昇でよい場合には本発明のポリエステル繊維を数本ごとにタテ糸および/またはヨコ糸として用いることが好ましい。または暖めるべき場所が面状である必要が生じる時には、本発明のポリエステル繊維を経糸あるいは緯糸に用いるときに、より本数を増やせば面状で温度が上がりやすくなり、極限的には、経糸および緯糸の全てに本発明の繊維を用いて織物を形成すればよい。なお織物ではなく編物であってもよい。発熱体としては100Vの電圧を繊維の両端あるいは織物の両端に印加した場合に、少なくとも0.1℃/分の昇温速度で昇温されるものが、良好な発熱体として用いられうる。
本発明のポリエステル繊維は、少なくとも一部あるいは全部に用いてなる衣料となすことができる。このときに繊維の長さについては、長繊維(フィラメント)であっても前述のような短繊維であってもよい。衣料となした場合に例えば導電性に優れることで冬季あるいは乾燥時の静電気発生を抑制することができるなど、より快適な着心地となるし、あるいは埃を寄せ付けにくいことから手術衣あるいは半導体製造時の作業衣など防塵衣料を形成しうる。その際には、本発明の繊維を数本ごとにタテ糸および/またはヨコ糸として用いることが好ましい。また副次的な効果として本発明のポリエステル繊維にはCBが多量に含有されていることで繊維の熱伝導性が向上し、着衣時に瞬時に熱を奪う接触冷感素材やあるいは冬季に寒い外部から暖かい室内に入った時すぐに体が温まる温感素材などとして利用できる。
本発明のポリエステル繊維は、少なくとも一部あるいは全部に用いてなる敷物となすことができる。敷物としては、例えば、屋内外、車両内に敷くカーペットやマット、床材などを挙げることができる。このときに繊維の長さについては、長繊維(フィラメント)であっても前述のような短繊維であってもよい。敷物となした場合に例えば導電性に優れることで歩行時の静電気発生を抑制することができるなど、より快適なものとなるし、あるいは埃を寄せ付けにくいことから防塵性も優れ、汚れにくい。敷物を形成させる際には、本発明の繊維を数本ごとにタテ糸および/またはヨコ糸として用いることが好ましい。また副次的な効果として本発明のポリエステル繊維は導電性に優れることで、前述の発熱体としての態様も組み合わせて、冬季あるいは寒冷地での暖房素材として利用できる。
本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる前記織物および/または編物および/または不織布を少なくとも一部に用いてなるポリエステル繊維ブラシローラー、あるいは前記短繊維を少なくとも一部に用いた植毛体を少なくとも一部に用いてなるポリエステル繊維ブラシローラーは、用いている本発明のポリエステル繊維の導電性に由来して、例えば電子写真装置の中に組み込まれている清掃装置の部材として好適に用いられる。ここで該清掃装置に用いられるブラシローラーの導電性繊維の平均抵抗率Pは、1.0×105[Ω/cm]以上1.0×1012[Ω/cm]以下、特に1.0×109[Ω/cm]以上1.0×1012[Ω/cm]以下の範囲のものが好適に、かつ清掃装置の機構に応じて用いられる。清掃装置の中で該ブラシローラーは回転しながら、必要であれば電気を印加されながら、不要物(例えば電子写真装置の中であれば転写されなかった残存着色剤(トナー)など)を捕捉して除去するのであるが、本発明のポリエステル繊維を用いた場合には前述のとおり、温度および湿度変化がある場合にも安定した導電性能を有する繊維であることから、この除去性能が格段に優れるのである。また該ポリエステル繊維ブラシローラーの清掃装置内での用いられ方としては前述のとおり、感光体にポリエステル繊維ブラシローラーが直接接触して清掃する以外に、感光体を清掃する部材(前記のとおり、ポリエステル繊維ブラシローラーの場合もあれば、あるいは従来技術であればブレード状の部材)を清掃するためのブラシローラーとして、すなわち清掃装置自体を清掃するもの、もしくは回収した不要着色剤(トナー)を別の場所に移送するためのポリエステル繊維ブラシローラーとしても用いられる。また前述の清掃装置には本発明のポリエステル繊維ブラシローラーを目的、効果、清掃の機構に応じて1本用いてもあるいは2本以上の複数本用いてもよい。
本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる前記織物および/または編物および/または不織布を少なくとも一部に用いてなるポリエステル繊維ブラシローラー、あるいは前記短繊維を少なくとも一部に用いた植毛体を少なくとも一部に用いてなるポリエステル繊維ブラシローラーは、用いている本発明のポリエステル繊維の導電性に由来して、後述する電子写真装置に用いられうる帯電装置に好適に組み込まれて用いられる。該帯電装置に組み込まれるブラシローラーの導電性繊維の平均抵抗率Pは、1.0×106[Ω/cm]以上1.0×1011[Ω/cm]以下の範囲のものが好適に用いられる。該ブラシローラーを用いてなる帯電装置の性能は、ブラシローラーの導電性能、すなわち導電性繊維の性能に依存するが、本来の目的である感光体を均一に帯電できることはもとより電子写真装置内の環境変化、すなわち電子写真装置が稼働中徐々に変化する温度や湿度の変化、あるいは季節による温度、湿度変化に対してブラシローラーの導電性は全く変化しないことが求められる。それに対して本発明のポリエステル繊維は、前述の環境変化に対して導電性は全く変化することがないため、感光体の帯電斑が起こりにくく、非常に優れた帯電装置となる。加えて、該電子写真装置の感光体表面に、清掃が不十分なために残存したトナーがあった場合にも、該ブラシローラーはブラシ状であって、清掃ローラーを兼ねることができるため、現像あるいは印刷時の汚染がない、もしくは殆どないという点でも優れている。さらには電子写真装置を小型化する場合には、前記清掃装置および帯電装置を個別に設置することなく、清掃装置兼帯電装置として省スペース化を図ることも可能であるため、その点でも格段に優れている。また、前述の帯電装置中には、目的、機構に応じて前記ブラシローラーを1本あるいは2本以上の複数本用いてもよい。
本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる前記織物および/または編物および/または不織布を少なくとも一部に用いてなるポリエステル繊維ブラシローラー、あるいは前記短繊維を少なくとも一部に用いた植毛体を少なくとも一部に用いてなるポリエステル繊維ブラシローラーは、用いている本発明のポリエステル繊維の導電性に由来して、現像装置に好適に組み込まれて用いられる。現像装置は後述の電子写真装置においては、前記帯電装置により一様に帯電された感光体表面にレーザーによって描かれた潜像を顕像化するものであるが、前述のような電子写真装置内の環境変化に対してもブラシローラーの抵抗率変化がないことから、顕像化するためのトナーが均一に感光体に供給され顕像化し、得られた現像物あるいは印刷物は汚染あるいは印刷斑のない、もしくは殆どない非常に美しいものとなるため格段に優れている。
本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる前記織物および/または編物および/または不織布を少なくとも一部に用いてなるポリエステル繊維ブラシローラー、あるいは前記短繊維を少なくとも一部に用いた植毛体を少なくとも一部に用いてなるポリエステル繊維ブラシローラーは、用いている本発明のポリエステル繊維の導電性に由来して、後述する電子写真装置に用いられうる除電装置に好適に組み込まれて用いられる。該除電装置に組み込まれるポリエステル繊維ブラシローラーの導電性繊維の平均抵抗率Pは1.0×103[Ω/cm]以上1.0×1012[Ω/cm]以下の範囲のものが好適に用いられる。特に後述する電子写真装置に用いる際には、ブラシローラーの導電性繊維が安定かつ斑のない除電効果を発現し、通常、除電装置のあとに配設される前記清掃装置での清掃効果をより高めることが可能であるほか、該電子写真装置を小型化する場合には該ブラシローラーを用いることで除電装置兼清掃装置として組み込むことができ格段に優れている。
本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる繊維製品を組み込んだ、前記清掃装置および/または帯電装置および/または現像装置および/または除電装置を用いてなる電子写真装置として、具体的にはレーザービームモノクロプリンター、レーザービームカラープリンター、発光ダイオードを用いたモノクロあるいはカラープリンターモノクロ複写機、カラー複写機、モノクロまたはカラーファクシミリあるいは多機能型複合機、ワードプロセッサーなどを挙げることができる。帯電した感光体にレーザーおよび/または発光ダイオードで潜像を描きトナーを用いて顕像化するメカニズムにより現像あるいは印刷を行う装置は、前述のとおり、本発明のポリエステル繊維を用いていることから、電子写真装置内の環境変化、特に温度や湿度変化によらず安定した清掃・帯電・現像・除電性能を有し、得られた印刷あるいは現像物はモノクロの場合はもとより、複数種のトナーをかつ多量に用いるカラーの場合は特に非常に美しいものとなるし、さらには電子写真装置の駆動速度をより高める、すなわち、単位時間あたりの印刷あるいは現像速度(枚数)を高めることが可能となる。また本発明の繊維を用いてなる本発明の電子写真装置は、前述のとおり、さらなる小型化、省スペース化、省電力化を図ることができ、非常に好ましい。
本発明におけるポリエステル樹脂組成物は、前述しているとおり、少なくともその構成成分が、主たる繰り返し単位がトリメチレンテレフタレートから構成されるポリエステル成分と、CBとを含んでなる、比抵抗が1.0×104[Ω・cm]以下である導電性を有するポリエステル樹脂組成物である。主たる繰り返し単位がトリメチレンテレフタレートから構成されるポリエステル成分であることにより、高濃度でCBを含有していても前述のとおり、繊維を形成することはもとより、該樹脂組成物からなる例えばフィルムやシート、あるいは射出成形物などの各種成形物となした場合にも、従来のPET系ポリエステルやPBT系ポリエステルなどのポリエステルとは異なり、流動特性、特に500[1/秒]以上の高い剪断速度で加工される場合での加工安定性に非常に優れるのである。該流動特性に優れることから、本発明におけるポリエステル樹脂組成物からは安定した形状の成形物が得られる。さらに得られた繊維やフィルム、あるいはその他成形品については、高い導電性および導電性の安定性が維持されつつも樹脂自体のもろさも大きく改善され、割れや削れといった欠点の発生率が非常に小さく成形品としての力学物性に優れており、導電性あるいは帯電防止を必要とする用途に好適に用いられるものとなる。なお、該比抵抗の範囲は1.0×104[Ω・cm]以下であれば導電性に優れるため好適に用いられるものの、より低い比抵抗であることが好ましく、1.0×103[Ω・cm]以下であることがより好ましく、5.0×102[Ω・cm]以下であることが特に好ましい。また該比抵抗値は低い値ほど導電性に優れるため好ましいが、CBを含有したポリエステル樹脂組成物として1.0×10-3[Ω・cm]以上の値をとる。
該ポリエステル樹脂組成物におけるCBの含有量は、優れた導電性を得る点から15重量%以上50重量%以下であることが好ましく、導電性と流動特性がより優れることから16重量%以上40重量%以下であることがより好ましく、非常に導電性に優れ、かつ各種成形品が好適に作りうることから16重量%以上35重量%以下が特に好ましい。ここで該CBの含有量は、後述の実施例におけるL項の方法にて測定したものを採用する。
そして前述のとおり、該ポリエステル樹脂組成物は流動特性に非常に優れる。その流動特性を評価するには後述の実施例におけるF項の測定方法にて高剪断速度1216[1/秒]にて溶融粘度を測定すればよい。測定温度で1216[1/秒]で測定した場合に、全くCBが含有されていないポリマの溶融粘度(η0%1k[Pa・秒])とCBが含有されているポリマ(例えばX重量%の導電性カーボンブラックの添加量であれば(ηX%1k[Pa・秒])とのそれぞれの溶融粘度の比(ηX%1k/η0%1k)を算出し、該溶融粘度の比が1≦ηX%1k/η0%1k≦1.5である導電性のポリエステル樹脂組成物であることが好ましく、1≦ηX%1k/η0%1k≦1.3であることがより好ましく、1≦ηX%1k/η0%1k≦1.2であることが特に好ましい。
以下実施例により、本発明を具体的かつより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに制限されるものではない。なお実施例中の物性値は以下の方法によって測定した。
A.繊度[dtex]および単糸繊度[dtex]の測定
繊維(マルチフィラメント)を長さ100m分カセ取りし、そのカセ取りした繊維の重量(g)を測定して得た値に100を掛ける。同様に測定して得た3回の平均値をその繊維の繊度とした。単糸繊度については、前述の繊度をフィラメントを構成する単繊維の本数で割った値を単糸繊度[dtex]とした。
B.繊維の初期引張弾性率、残留伸度、破断強度の測定
オリエンテック社製テンシロン引張試験機(TENSIRON UCT−100)を用い、未延伸糸であれば初期試料長50mm、引張速度400mm/分で、延伸糸であれば初期試料長200mm、引張速度200mm/分で初期引張弾性率(延伸糸のみ)、強度および残留伸度を測定し、5回測定した平均値をそれぞれの測定値とした。初期引張弾性率は、チャート紙にチャート速度100cm/分、応力フルレンジ500gとして記録して、引張初期の曲線の傾きから求めた。
C.平均抵抗率P[Ω/cm]および平均抵抗率Pと抵抗率の標準偏差Qとの比R(R=Q/P)の測定
中温中湿度(23℃湿度55%)で測定すべき試料を少なくとも該雰囲気中に1時間保持した後、測定した。送糸ローラーと巻取ローラーからなる1対の鏡面ローラーで糸を走行させる際に、ローラー間に、東亜DKK製絶縁抵抗計SM−8220に接続された2本の棒端子からなるプローブに走行糸が接するように設置した装置で、棒の太さφ2mm、棒端子間で接する糸の距離2.0cm、印加電圧100V、送糸速度60cm/分、ローラー間の糸張力が0.05〜0.1cN/dtexの範囲となるようにして(この範囲であれば測定値に差はない)、絶縁抵抗計でのサンプリングレート0.2秒で120cmの長さ分、抵抗値を測定して、得られた値の平均[Ω]を棒端子間で接する糸の距離(2.0cm)で割った値を平均抵抗率P[Ω/cm]とした。また同時に得られた全ての抵抗値の標準偏差Qを算出したのち、PとQとの比R(R=Q/P)を算出した。
D.中温中湿度(23℃湿度55%)での平均抵抗率Xと低温低湿度(10℃湿度15%)での平均抵抗率Yとの平均抵抗率の比Z(Z=Y/X)(温湿度変化Z)
中温中湿度についてはC.項の測定方法を採用し、また低温低湿度においてもC.項と同様に測定して平均抵抗率を求め、それぞれ得た平均抵抗率X,Yの比Z(Z=Y/X)を求めた。
E.比抵抗値の測定方法
測定は前記中温中湿度で測定すべき試料を少なくとも該雰囲気中に1時間保持した後、測定した。測定物が長さ100mm以上の繊維状のものである場合には、繊維束を1000dtexの束にして50mmの長さに切断し(この時、繊維端面は斜めにカットする)、端面に導電性ペーストを塗布してから電極を取り付けて500Vで測定した。また測定物が長さ100mm未満の繊維状物あるいは粉体状のものである場合は、長さ10cm、幅2cm、深さ1cmの、両端面に電極を有する絶縁体の箱形容器に、10MPaの圧力で充填して密封したのち測定して、単位体積当たりの比抵抗値[Ω・cm]に換算して求めた。ガット状のものについては、1回の測定において、直径D(0.2〜0.3cmの範囲の直径のもの)で長さ12cmのガットについて、テスターを用いてテスターの2本の端子を任意の10cmの間隔でガットに押しつけ、その抵抗値R[Ω]を測定し、(比抵抗値)=R×(D/2)2×π/10の式から該ガットの比抵抗値を求めた。そして5本の異なるガットについて各々1回ずつ比抵抗値を測定し、5回の平均値をそのガットの比抵抗値とした。
F.溶融粘度の測定
(株)東洋精機社製キャピログラフ1Bを用い、窒素雰囲気下、バレル径9.55mm、ノズル長10mm,ノズル内径1mmで、ポリマー押出ピストン速度1mm/分(剪断速度12.16[1/秒])あるいは100mm/分(剪断速度1216[1/秒])で、サンプル充填直後から10分経過したのち測定した。5回測定した値の平均値を各剪断速度での溶融粘度とした。
G.160℃大気中で15分間の収縮率(乾熱収縮率)の算出
延伸糸1mの輪を5本枷取りした束にクリップを1つ留め、束の長さL1を測る(この時、約500mmの長さ)。次に160℃の大気中にゆっくりと下ろして15分間静置し、15分後に取り出して1時間以上風乾する。風乾したのち再度束の長さL2を測定する。収縮率(%)を下式で算出する。
乾熱収縮率(%)={(L1−L2)÷L1}×100
H.ガラス転移点(Tg)および融点(Tm)の測定
パーキンエルマー社製示差走査熱量分析装置(DSC−2)を用い、試料10mgで、昇温速度16℃/分にて測定した。Tm、Tgの定義は、一旦昇温速度16℃/分で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、約(Tm1+20)℃の温度で5分間保持した後、室温まで急冷し、(急冷時間および室温保持時間を合わせて5分間保持)、再度16℃/分の昇温条件で測定した際に、段状の基線のずれとして観測される吸熱ピーク温度をTgとし、結晶の融解温度として観測される吸熱ピーク温度をTmとした。
I.短繊維の繊維長の測定
長さ20mm以上の短繊維は0.1g/dtexの荷重をかけてノギスを用いて、また20mm未満の短繊維はNIPPON KOGAKU K.K製SHADOW GRAPH Model6を用いて20倍で、短繊維50本の長さを測定し、その平均値を繊維長とした。
J.カーボンブラック(CB)の平均粒径の確認
繊維または樹脂をエポキシ樹脂中に包埋したブロックに酸化ルテニウム溶液を用いて染色を施し、ウルトラミクロトームにて切削して60〜100nmの厚さの超薄切片を作製し、透過型電子顕微鏡(TEM)観察装置(日立製作所社製、H−7100FA型)にて、加速電圧75kVで、倍率2万〜10万倍の任意の倍率で観察を行い、得られた写真を白黒にデジタル化した。該写真をコンピュータソフトウェアの三谷商事社製WinROOF(バージョン2.3)において黒で見えるCBを画像解析することによって平均粒径について確認した。平均粒径については写真上に存在する全てのCBの面積をそれぞれ計算し、該面積値から略円形と判断して計算したCBの直径の平均値によって算出した。
K.固有粘度(IV)、極限粘度[η]の測定
ポリエステル系ポリマの場合は、試料をオルソクロロフェノール溶液に溶解し、オストワルド粘度計を用いて25℃で測定した。ポリアミド系ポリマの場合は、試料を蟻酸に溶解し、ポリエステル系ポリマと同様の方法で測定した。
L.導電剤のポリエステル中における含有量
導電剤を含有する樹脂組成物のみからなる繊維で導電剤の含有量を求める場合は、(株)日立ハイテクノロジーズ社の分光光度計U−3010を用いて、あらかじめ導電剤の濃度が判っている、異なる濃度の溶液(ポリエステルを溶解する溶媒;例えばポリ乳酸であればクロロホルム、PET系ポリエステル、PTT系ポリエステル、PBT系ポリエステルであれば、ヘキサフルオロイソプロパノール)5種類を用いて検量線を作成した後、導電剤を含有した樹脂組成物中での導電剤の含有量を求めた。複合繊維である場合は、後述N.項で求めた導電剤を含有する樹脂組成物の割合から、導電剤の含有量を算出した。溶媒に溶けないもしくは溶けにくいポリエステルの場合は、1Nの水酸化ナトリウム水溶液30℃で24時間撹拌して、遠心分離したのち、導電剤の量を秤量して求めた。
M.単繊維直径の測定
FEI Company社製 走査型電子顕微鏡(SEM) STRATA DB235を用いて、加速電圧2kVで、白金−パラジウム蒸着(蒸着膜圧:25〜50オングストローム)処理を行った後、繊維外径が全て視野に入る倍率(単繊維直径が25〜50μmであれば5千倍、15〜25μmであれば1万倍、5〜15μmであれば2万倍)で確認した。なおこの際、単繊維直径は少なくとも該測定を同一繊維において3cm以上の間隔をおいた任意の5点について観察、測定して得た平均値を単繊維直径とする。
N.繊維中での、カーボンブラックを含有する主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートから構成されるポリエステル(CB含有PTT)の割合の算出
割合を算出する繊維のフィラメントをエポキシ樹脂中に包埋したブロックを、ミクロトームにて繊維軸方向に垂直な繊維横断面方向に切削して薄切片をつくり、光学顕微鏡200倍で透過光で観察・撮影したのち、得られた繊維横断面写真について、前述三谷商事株式会社製WinROOFにおいてCB含有PTT部分と、ほかの成分との面積を画像解析することによってそれぞれ求めて割合を算出した。
比較例1(ポリエチレンテレフタレートの製法、CBを添加したポリエチレンテレフタレート成分の調製、繊維の製造)
テレフタル酸166重量部とエチレングリコール75重量部からの通常のエステル化反応によって得た低重合体に、着色防止剤としてリン酸85%水溶液を0.03重量部、重縮合触媒として三酸化アンチモンを0.06重量部、調色剤として酢酸コバルト4水塩を0.06重量部添加して重縮合反応を行い、通常用いられるIV0.67、溶融粘度181[Pa・秒](測定温度290℃、12.16[1/秒])、融点(Tm)256℃のポリエチレンテレフタレート(以下PET)のペレットを得た。
このPETペレットを150℃10時間真空乾燥した後、窒素雰囲気下で粉粒体とした後、2軸エクストルーダ(軸長L/軸径D=45)を用いて溶融混練する前に、窒素雰囲気下でCBとしてキャボット・スペシャルティ・ケミカルズ・インク社製ファーネスブラック(タイプVULCAN XC72、比抵抗0.45[Ω・cm]、平均粒径31nm、以下FCB)を粉体同士で混ぜ合わせた後、溶融して該2軸エクストルーダで混練した。ここでFCBは混練終了後に得られるPETとFCBとの樹脂組成物においてFCBが16重量%となるように調製し、また280℃で混練した。混練した後、吐出されたガット状の樹脂組成物を15℃の水道水で冷却したのちカッターで切断し、溶融粘度1341[Pa・秒](測定温度290℃、12.16[1/秒])のPETとFCBとの樹脂組成物(以下PET−FCB)のペレットを得た。ペレットにしなかった樹脂組成物のガットについて(平均)比抵抗値を測定したところ102.31[Ω・cm]であった。
このPET−FCBを用いて2軸エクストルーダ(軸長L/軸径D=35)を備えたエクストルーダ型溶融紡糸機で、紡糸温度290℃で孔径が0.3mm、孔数が24個の丸形の孔形状の口金および濾層の目の細かさが20μのフィルタを設置して溶融紡糸を行い、実効成分として糸に対して1重量%の付着量となるよう水系処理剤(実効成分20重量%濃度)を付着せしめた後、1000m/分の引取速度で引き取る溶融紡糸を試みた。しかし1000m/分の引取速度では断糸が激しく全く引き取りができなかったため200m/分の引取速度としたがそれでも断糸が激しく、結果として紡糸性は非常に悪いもので巻き取り糸は得られなかった。
実施例1(ポリトリメチレンテレフタレートの製法およびCBを添加したポリトリメチレンテレフタレート成分の調製、繊維の製造)
テレフタル酸ジメチル130部(6.7モル部)、1,3−プロパンジオール114部(15モル部)、酢酸カルシウム1水和塩0.24部(0.014モル部)、酢酸リチウム2水和塩0.1部(0.01モル部)を仕込んでメタノールを留去しながらエステル交換反応を行うことにより得た低重合体に、トリメチルホスフェート0.065部とチタンテトラブトキシド0.134部を添加して、1,3−プロパンジオールを留去しながら、重縮合反応を行い、チップ状のプレポリマーを得た。得られたプレポリマーを、さらに220℃、窒素気流下で固相重合を行い、IV1.15、溶融粘度493[Pa・秒](測定温度260℃、12.16[1/秒])、融点(Tm)229℃のポリトリメチレンテレフタレート(以下PTT)ペレットを得た。
このPTTペレットを150℃10時間真空乾燥した後、比較例1と同様の混練において、250℃で混練した以外は同じ装置で同じFCB種、FCB添加量(16重量%)など同様のものを採用して、溶融粘度1238[Pa・秒](測定温度260℃、12.16[1/秒])のPTTとFCBとの樹脂組成物(以下PTT−FCB)のペレットを得た。ペレットにしなかった樹脂組成物のガットについて(平均)比抵抗値を測定したところ102.21[Ω・cm]であった。
このPTT−FCBを用いて比較例1で用いた同じエクストルーダ型溶融紡糸機で、紡糸温度260℃とした以外は同様の条件で紡糸実験を行ったところ、1000m/分の引取速度で全く問題なく総繊度350dtex、フィラメント数24本の未延伸糸を巻き取って得た。紡糸性に全く問題はなく5時間の連続紡糸においても全く断糸は見られなかった。
そして得られたマルチフィラメントについて延伸を行うに際し、送糸ローラーの送糸速度320m/分、第1ローラーは60℃で送糸速度320m/分、第2ローラーは110℃で送糸速度800m/分、第3ローラーは室温で送糸速度792m/分(1%リラックス)として繊維に延伸、リラックスおよび熱処理を施した後、冷ローラーで糸をポリエステルのTg以下に冷却した後に巻き取った。延伸中にローラーへの単糸巻き付き等の問題は全く発生せず延伸性は優れていた。糸物性について表1に示す。
実施例2〜7および比較例2,3
実施例1において、表1の通りにカーボンブラック量(実施例2〜5,比較例2,3)、カーボンブラック種(実施例7、ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製ケッチェンブラックEC、比抵抗値0.2[Ω・cm]、平均粒径31nm、以後KCB)、繊維の太さ(繊維直径;実施例6、14μm)を変更した以外は、実施例1と同様の製糸条件にて、紡糸工程においては同一吐出量(単位時間あたりに同一の容積量[cc/分])となるようにして、また延伸条件に関しては、実施例3〜5については第1ローラー温度を80℃とした以外は実施例1と同様にして繊維を得た。CBの種類や繊維直径が変わっても製糸性は問題なかった(実施例6,7)。またCBの含有量が増大するにつれ、得られる繊維の物性は、導電性は向上するものの、その他の物性は低下する傾向にあり、過度の高濃度(比較例2)では溶融紡糸する前の樹脂組成物の比抵抗値は非常に低く、高い導電性能を有していたものの溶融紡糸で引き取りができなくなった。糸物性について表1に示す。
<イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(以下、PET/I)の製造>
比較例1において、テレフタル酸166重量部の代わりに、テレフタル酸150重量部およびイソフタル酸16重量部を併用した以外は比較例1と同様の方法によりIV0.65、溶融粘度119[Pa・秒](測定温度290℃、融点(Tm)222℃、12.16[1/秒])のPET/Iのペレットを得た。このPET/Iペレットを溶融紡糸に用いる場合には130℃で24時間真空乾燥して用いた。
実施例8〜10
2軸エクストルーダ(軸長L/軸径D=35)を2台備えたエクストルーダ型複合溶融紡糸機で、鞘成分が実施例2で用いたFCBを18重量%含有するPTT(以下PTT−FCB2)を用いて(実施例8,10)または実施例3で用いたFCBを25重量%含有するPTT(以下PTT−FCB3)を用いて、また芯成分が表2に示す各種繊維形成能を有するポリマ(実施例8,9:PET/I,実施例10:東レ株式会社製ポリテトラメチレンテレフタレート(タイプ1100S、融点(Tm)225℃、以後PBTと称する、)からなる芯鞘型の複合繊維を得る複合紡糸を、紡糸温度は実施例10が260℃、実施例8,9が275℃でそれぞれ溶融紡糸を行った以外は、実施例1と同様の方法で溶融紡糸を行い得た繊維を巻き取って得た。得られた繊維を更に延伸するに際し、実施例8,9については第1ローラーを85℃で、第2ローラーを130℃とした以外は実施例1と同様の延伸条件で、また実施例10については実施例1と同じ条件で延伸を行って、表2に示す繊維を得た。実施例1〜6と同様に、導電性および糸物性の優れた繊維が得られた。
実施例11〜13
実施例8〜10と同様に2軸エクストルーダ(軸長L/軸径D=35)を2台備えたエクストルーダ型複合溶融紡糸機で溶融紡糸を行うに際し、芯成分が実施例3で用いたPTT−FCB3を用いて(実施例11)、または実施例7で用いたKCBを25重量%含有するPTT(以下PTT−KCB2)を用いて(実施例12)、または実施例5で用いたFCBを50重量%含有するPTT(以下PTT−FCB4)を用いて(実施例13)、また鞘成分が表2に示す各種繊維形成能を有するポリマ(実施例11:PTT,実施例12,13:PET/I)からなる芯鞘型の複合繊維を得る複合紡糸を、紡糸温度は実施例11が260℃、実施例12,13が275℃でそれぞれ溶融紡糸を行った以外は、実施例1と同様の方法で溶融紡糸を行い得た繊維を巻き取って得た。得られた繊維を更に延伸するに際し、実施例11については実施例1と同じ条件で延伸を行って、また実施例12および13については第1ローラーを85℃で、第2ローラーを130℃とした以外は実施例1と同様の延伸条件で、表2に示す繊維を得た。実施例12では実施例6と同程度の単繊維直径の繊維を、また実施例13では太い単繊維直径の繊維をそれぞれ得た。実施例1〜10と同様に、繊維表層を繊維形成能を有するポリマで覆った場合であっても、高濃度でCBを含有するPTTによって、得られた繊維は高い導電性および優れた糸物性を有する繊維が得られた。
参考例14
実施例8と同様の複合紡糸を行う際に、図1に示すPTT−FCB2を繊維表層に4箇所持つように配設し、繊維形成能を有するポリマとしてPETを用いて紡糸温度285℃で複合紡糸を行った以外は実施例8と同様の溶融紡糸を行い、また実施例9と同様の延伸条件で延伸を行い、表2に記載の物性を有する繊維を得た。得られた繊維の導電性斑(標準偏差)は実施例8〜10と比較して若干大きくなるものの良好な導電性を有する繊維を得た。
実施例15
実施例1と同様の溶融紡糸を行う際に、PTT−FCB3:PET/I=30:70の体積割合となるようにあらかじめペレットの状態でドライブレンドしたものを用いてエクストルーダ型溶融紡糸機で275℃の溶融紡糸条件以外は実施例1と同様の条件で溶融紡糸を行って未延伸糸を得た。該未延伸糸は実施例9と同様の延伸条件で表2に記載の物性を有する繊維を得た。得られた繊維は良好な導電性を有していた。
実施例16
実施例1,3,7,9,12,15、および参考例14において得られた繊維を用いて、それぞれ平均繊維長が0.5,1.0,2.0mmの長さの短繊維に切断したのち、日産化学工業株式会社製コロイダルシリカ「スノーテックスOS(登録商標)」で処理したのち、東レ株式会社製ポリエステルフィルム「ルミラー(登録商標)QT33(厚さ100μm)」に大日本インキ化学工業株式会社製アクリル酸エステル系接着剤DICNAL K−1500(K−1500の100重量%に対し、増粘剤としてDICNAL VS−20を2重量%使用;以下「接着剤A」と称することがある)を約100μmの厚さでフィルムの片面に塗布し、接着剤を塗布したフィルムの片面に電気植毛加工を施し、植毛体を作製した。植毛性(植毛の成功の度合い)については、ほぼ直立している(2重丸)、寝ている繊維が少し見られる(○)、半数程度繊維が寝ている(△)、直立しているものが少ない(×)と視覚的に判断して評価したところ、いずれも2重丸と優れていた。
また実施例2,6,8,10,11,13において得られた繊維それぞれを用いて撚糸加工を施したのち、パイル織物、シングルトリコット編物を各々作成した後起毛処理したものをそれぞれ作成し、前記同様接着剤Aを用いて前述のポリエステルフィルムに接着して、それぞれ布帛複合体を作製した。前述同様起毛性は全て優れていた。
実施例17
実施例3,4,5,9,13で作製した繊維を経糸および緯糸に用いて織り密度150本/インチで織物を作製し、長さ20cm、幅5cmとなるように両端に電極を設けた長さ20cmの布帛物体を配線物と見なし、その両電極に100Vの電圧をかけたところ、それぞれ1.2℃/分,3.8℃/分,4.9℃/分,0.8℃/分,3.2℃/分の昇温速度で温度が上昇する発熱体となった。
実施例18
実施例1,2,3,6,7,8,9,10,11,12,13,15において得られた繊維を用いて平均繊維長が2mmの短繊維を作製して、実施例16の接着剤Aを用いて、SUS304からなる金属棒状物体AおよびSUS304からなる導電性カーボンブラックを5%添加したウレタン製中間層(厚さ1.5mmで金属棒端部2cmを残して覆った物)を設けた金属棒状物体Bにそれぞれ電気植毛加工を施して(金属棒状物体Bには中間層部分のみに施して)、未接着短繊維を各々棒状物体から掃きとった後、ブラシローラーを得た(A1,A2,A3,A6,A7,A8,A9,A10,A11,A12,A13,A15,B1,B2,B3,B6,B7,B8,B9,B10,B11,B12,B13,B15)。また実施例1,2,3,6,7,8,9,10,11,12,13,15を用いて実施例16と同様に撚糸加工したものを用いてパイル織物を作製して、パイルを起毛させて、更に該起毛したパイル織物を1cm幅のスリット状にしたものを前述の金属棒状物体Aに巻き付けて、ブラシローラー(C1,C2,C3,C6,C7,C8,C9,C10,C11,C12,C13,C15)を得た。
実施例19
実施例18において得られたブラシローラーのうち、C1,C2,C6,C7,C8,C10,C11,C12,C13は清掃装置にそれぞれ組み込んで配設したモノクロレーザープリンターを長時間連続印刷(1分間あたり10枚印刷・排出)を行い、プリンター中の湿度変化と共に印刷性を確認したところ、印刷開始1000枚程度でプリンター中の湿度は初期の65%から31%まで低下し、さらに10000枚程度印刷した時点では25%まで低下したものの、印刷枚数が20000枚を越えた時点であっても印刷の鮮明性、トナー清掃性などは優れていた。またブラシローラーのうちC3,C9,C15については帯電装置にそれぞれ組み込んで同様に検討したところ、やはり印刷枚数が30000枚を越えた時点であっても印刷の鮮明性は優れていた。
実施例20
実施例1〜13、15、および参考例14において得られたそれぞれの繊維を用いて、1つは緯糸のみに用いて平織りした物からYシャツを作製した(衣料A1〜A15)。もう1つは経糸および緯糸全てに実施例1〜13、15、および参考例14において得られた繊維を用いてYシャツを作製した(衣料B1〜B15)。無作為に選んだ男性10名のモニター着衣テストを行ったところ衣料A1〜A15および衣料B1〜B15全てにおいて、全員が「着衣すると冷たく感じる(接触冷感がある)」と回答し、衣料A3〜A5、衣料B3〜B5の6つについては、全員が「着衣すると非常に冷たく感じる(接触冷感を強く感じる)」と回答した。
実施例21
比較例3および実施例1,3,9,13,15、および参考例14で得た繊維を用いて、これら繊維が10重量%含まれるナイロン6から主として形成されるカーペット(大きさ1m×1m)を作製し、その上で導電加工等を施していない合成皮革からなる革靴を履いて23℃湿度55%の雰囲気下で足踏みを100回行った後、カーペットの上に乗ったまま金属製のドアノブに触れる実験を行ったところ、比較例3のみ静電気発生による放電が発生したものの、実施例1,3,9,13,15、および参考例14で得た繊維の場合は、静電気の放電は起こらなかった。
以上の如く、本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる織物は、前述のとおり、非常に優れた導電性を有する繊維を用いることから、織物全体に該繊維を用いる場合はもとより、織物の一部に該繊維を用いた場合であっても優れた導電性能あるいは電気を逃がすことのできる性能(換言すれば静電性能)を有する織物となるため、各種資材用途、例えば幕やカーテン、人体の静電気が発生しやすい自動車、鉄道、航空機など乗り物のシート、壁材や敷物、布団、毛布、敷布などの寝具などに用いることができ、優れた性能を発揮できる。
また、本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる編物は、前述の織物と同様に導電性能あるいは静電性能を有する編物となるため各種資材用途、例えば建物の壁材や絨毯などの敷物、自動車、鉄道航空機などの乗り物のシート、壁材、敷物乗り物用シートあるいはその敷物、布団、毛布、敷布などの寝具などに用いることができ、優れた性能を発揮できる。
また、本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる不織布は、前述の織物や編物と同様に導電性あるいは静電性能を有する不織布となるため、前述の織物や編物の用途と同様の資材として用いることができるほかに、厚みが必要な、例えば隔壁材や梱包物、クッションなど静電気の発生を嫌う装置、部屋の周辺部材用資材として広く用いることができ、優れた性能を発揮できる。
また、本発明のポリエステル繊維からなる短繊維や、織物、特にパイル織物や編物あるいは不織布の更に別の用途としては、これらを用い、基盤に植設することで、植毛体あるいは布帛複合体となすことができる。これら植毛体あるいは布帛複合体は、導電性あるいは制電性に優れることから手触りの優れるものとして様々な内装材となりうる。
また、本発明のポリエステル繊維あるいは該導電性繊維からなる短繊維は導電性に優れることから配線物を形成することができ、例えば各種動作をする例えば微弱な電気で反応しうる人工筋肉のようなアクチュエーターの回路の一部として用いることができる。あるいは配線物から発熱体を形成することができ、これは、導電性に優れかつ導電性斑の小さな本発明のポリエステル繊維を用いていることから、所望の導電性能に制御したものを用いるだけで、発熱効率の良い発熱体が得られ優れている。また、該発熱体を使用するであろう主に冬季においては低温低湿度であるが、本発明のポリエステル繊維は、温湿度依存性がないもしくは非常に小さいことから、冬季においても安定した導電性能を発揮し、非常に優れた発熱体となる。
また、本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる衣料は、導電性に優れた繊維を用いることから、着衣時の静電気発生を抑制し、体外に逃がすことができる。従って、特に静電気の発生を嫌う半導体産業の作業着やあるいは静電気が発生し難いことから埃を寄せ付けないため防塵衣として用いた場合に有用である。また、CBが熱伝導性に優れるため、体外に熱を放散することができる接触冷感衣類や、あるいは逆に冷えた身体にすぐに体外からの熱を取り込みうる接触温感衣類などとして有用である。例えばこれらの機能が必要とされるスポーツ衣料(ゴルフウェア、ゲートボール、野球、テニス、サッカー卓球、バレーボール、バスケットボール、ラグビー、アメリカンフットボール、ホッケー、陸上競技、トライアスロン、スピードスケート、アイスホッケーなどのユニフォーム)や幼児、婦人、年輩者の衣料、その他にもアウトドア衣料(靴、カバン、サポーター、靴下、登山着)などに好適に用いることができる。
また、本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる前記織物および/または前記編物および/または前記不織布を少なくとも一部に用いて接着してなるポリエステル繊維ブラシローラーは、導電性を有する繊維を少なくとも一部に用いることから電気的作用を利用することで効率的に不要物を除去あるいは必要とされる物質を付与する機能を有するため、優れた性能を発揮できる。
また、本発明のポリエステル繊維からなる短繊維を用いてなるポリエステル繊維ブラシローラーは、導電性を有する繊維を少なくとも一部に用いることから、前述と同様に電気的作用を利用することで効率的に不要物を除去あるいは必要とされる物質を付与する機能を有する点で優れている。また、短繊維の繊維長を制御することでブラシローラーの繊維植設密度あるいは繊維ブラシローラーの前記除去性能あるいは付与性能を目的に応じて容易に制御できる点でも優れている。特に植設される棒状物体が主として金属からなる場合は、本発明のポリエステル繊維の導電性を制御することで繊維ブラシローラー自体の導電性(比抵抗値)を制御可能であるし、さらには棒状物体が金属および金属の少なくとも一部を覆う中間層とからなる場合には中間層の材質や厚さなどを制御することでクッション性を付与しうる。従って繊維ブラシローラー自体の前記除去性能あるいは付与性能を格段に向上せしめることができ、優れた性能を発揮できる。
また、本発明の前記ポリエステル繊維ブラシローラーを用いてなる清掃装置は、該ブラシローラー自体が回転することで不要物を除去し清掃する場合には非常に除去性能に優れる。例えば後述の電子写真装置などではトナーなどを電気的に除去しうる際に電子写真装置内の環境変化、特に湿度変化などがあった場合にも該ブラシローラーの導電性能が変動することがないため、常に安定した除去性能を有しており優れている。また本発明の前記ブラシローラーは該清掃装置に於いて、対象となる物質、例えば後述の電子写真装置においては感光体に直接接触して清掃を行うほかにも、清掃活動を行う部材自身から不要物を除去して清掃装置自体を清掃するための部材としても有用であり、結果的に高性能な清掃装置となる。
また、本発明の前記ポリエステル繊維ブラシローラーを用いてなる帯電装置は、該ブラシローラー自体の導電性(比抵抗値)を制御することで用いられるもので、例えば電子写真装置などで感光体を一様に帯電させるブラシローラーとして用いられる際に感光体を均一に帯電できるため優れている。また、電子写真装置内の環境変化例えば電子写真装置の稼働中あるいは季節変化による湿度変化に対しても該ブラシローラー自体の比抵抗値は変化しないもしくは非常に変化が小さいため、感光体の帯電斑が発現しにくい点でも優れている。また該電子写真装置の前記感光体に清掃が不十分なために残存した着色剤(トナー)があった場合に、該ブラシローラーは清掃ローラーとしての機能を兼ねることができるため、現像あるいは印刷時の汚染がない、もしくは殆どなく優れている。加えて、電子写真装置を小型化する場合には前記清掃装置および該帯電装置を個別に設置せずに、兼用、すなわち清掃装置兼帯電装置として該ブラシローラーのみで適用しうるため、非常に優れた性能を発揮できる。
また、本発明の前記ポリエステル繊維ブラシローラーを用いてなる現像装置は、前述の帯電装置での効果と同様にブラシローラー自体の導電性を駆使して用いられるもので、例えば電子写真装置等で感光体に描かれた静電潜像にトナーを付着させる際に、前述のような湿度変化などの環境変化の際のブラシローラー自体の比抵抗値斑がない、もしくは殆どない。従って、トナーが均一に感光体に供給されて顕像化し、得られた現像物あるいは印刷物は、汚染のない、もしくは殆どない非常に美しいものとなり、優れた性能を発揮できる。
また、本発明の前記ポリエステル繊維ブラシローラーを用いてなる除電装置は、繊維中に含有される導電性カーボンブラックの含有量を制御して該ブラシローラーの導電性(比抵抗値)を小さくすることで、非常に優れた除電性能を有するブラシローラーとなるため有用である。特に電子写真装置に用いる際には、無数の毛(繊維)からなるブラシローラーが安定かつ均一な除電効果を有していることから除電装置のあとに配設される前記清掃装置での清掃効果をより高めることが可能である。また、該電子写真装置を小型化する場合には該ブラシローラーを用いることで除電装置兼清掃装置として組み込むことができ、非常に優れている。
さらに、本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる前記清掃装置および/または帯電装置および/または現像装置および/または除電装置を用いてなる電子写真装置、具体的にはレーザービームプリンター、複写機、ファクシミリ、多機能型複合機、あるいはワードプロセッサーなどの帯電した感光体にレーザーで潜像を描きトナーを用いて顕像化するメカニズムにより現像あるいは印刷を行う装置は、前述の通り電子写真装置内の環境変化によらず安定した清掃・帯電・現像・除電性能を有していることから、得られた印刷あるいは現像物は非常に美しいものとなる。また、前記繊維ブラシローラーの繊維長あるいは含有する導電性カーボンブラックの含有量などを最適化することで、より安定した清掃・耐電・現像・除電性能を有するため、電子写真装置の駆動速度をより高める、すなわち単位時間あたりの印刷あるいは現像速度(枚数)を高めることが可能となり、非常に好ましい。