本発明は、導電性に優れたポリエステル繊維およびそれからなるブラシ製品に関するものである。さらに詳しくは、温湿度が変化する際の導電性の安定性、繊維長手方向における導電性の変動が少ない優れた導電性を示し、さらには繊維長手方向および単糸間の太さ斑がないことから、均一性の高い導電特性であり、高次工程における汚れや削れ、断糸が少なく工程通過性に優れたものである。
OA機器用の導電性ブラシとして提案されている従来の導電繊維は、熱可塑性ポリマーにカーボンブラックを含有させたものを導電層としているが、カーボンブラックの含有量が多いほどポリマーの流動性が低下(変形し難くなる)するため、溶融紡糸での曳糸性も低下することが知られている。合成繊維として汎用的に用いられるポリエステル、例えば主たる繰り返し構造単位がエチレンテレフタレートから構成されるポリエステル成分にカーボンブラックを含有させた場合は、カーボンブラックを高濃度(20重量%以上)に含有させると曳糸性が極端に低下し、糸切れが多発して安定して引き取ることができない。そこで、曳糸性を補う目的で非導電層に繊維形成性ポリマーを配し、繊維表面の一部に導電層を露出させた複合繊維がいくつか提案されている。
例えば、カーボンブラックを25重量%含有させたポリエチレンテレフタレートを鞘成分とし、カーボンブラックを含有しないポリエチレンテレフタレートを芯成分とする芯鞘複合繊維が提案されている(特許文献1)。また、カーボンブラックを25重量%含有したポリブチレンテレフタレートを鞘成分とし、固有粘度0.68〜0.85であるポリエチレンテレフタレートを芯成分とする芯鞘複合繊維が提案されている(特許文献2)。
しかしながら、特許文献1及び特許文献2記載の導電繊維は、導電層のみからなる繊維よりは曳糸性が改善されるものの、糸切れの頻度は高く、生産性の低いものであった。
また、OA機器(複写機、プリンター等)に搭載されている感光体を清掃するためのブラシに従来の導電糸を用いた場合、導電性の斑と導電糸の太さ斑によって、トナー除去性が悪く、記録画質の不鮮明や、筋斑の発生いった問題があった。
さらには、ポリアミドは高濃度でカーボンブラックを含有させても流動性の低下がポリエステルほど顕著ではなく、比較的良好な曳糸性を示すため、数多くの導電繊維に用いられている。
例えば、導電性カーボンブラックを30重量部含有した12ナイロンを鞘成分とし、通常12ナイロンを芯成分とした導電性複合繊維に関する技術が提案されている(特許文献4参照)。しかし、この導電繊維は吸湿性を有するポリアミドを用いているため、温湿度変化に伴う導電性の変化が大きいという問題を有している。
いずれの技術においても、導電性能を高くするために導電層となる鞘成分の比率を高くしたり、導電成分を多く含有すると、曳糸性が低下するため、その抵抗率はせいぜい108Ω/cmであった。そのため、様々な環境下における安定した優れた導電性と繊維長手方向における導電斑の少ない導電繊維は提供されていなかった。
また、その後の高次工程における汚れや削れ、断糸が多発し、高次通過性が不良という問題もあった。
WO2002/075030号公報(実施例)
特開2004−225214号公報(特許請求の範囲)
特開平11−65227号公報(特許請求の範囲)
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解消し、高い導電性と環境適応性(導電特性の温・湿度依存性が小さい)を有するだけでなく、繊維長手方向における導電特性の変動が少ない導電性ポリエステル繊維を提供することにある。さらには、ブラシ加工し、清掃ブラシとしてレーザープリンターに組み込んだ際に、単糸間の太さ斑が少ないことから均一な導電性であるため、均一で鮮明な画像を得ることができる導電性ポリエステル繊維を提供することにある。
本発明は、優れた導電性とその安定性を有する繊維を得るために鋭意検討を重ね、その中で特定の材料の組成からなる繊維となし、かつ特定の物性となすことにより上記従来技術の欠点を解消でき、かつ従来技術では達成しえなかった更なるメリットをも付与しうることを見いだし、本発明に到達したものである。
すなわち本発明は、上記の課題を達成するため、以下の構成を採用する。
(1)カーボンブラックを含有し、固有粘度が1.0〜2.0であるテトラメチレンテレフタレートで構成されるポリエステルからなる導電層が繊維表面の少なくとも一部に用い、平均抵抗率が1.0×1012[Ω/cm]以下で、繊維長手方向10m当たりの抵抗率変動係数CVが0.1以下、繊維断面CVが0.1以下であることを特徴とする導電性ポリエステル繊維。
(2)カーボンブラックの導電指標が70〜250であり、ジブチルフタレート吸収量が40〜220[cm3/100g]であることを特徴とする(1)に記載の導電性ポリエステル。
導電指標(無次元)=√{(比表面積[m2/g])×(ジブチルフタレート吸収量[cm3/100g])}
(3)固有粘度が1.0〜2.0であるテトラメチレンテレフタレートで構成されるポリエステルからなる導電層のカーボンブラック含有量が15重量%以上50重量%以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載の導電性ポリエステル繊維。
(4)繊維断面における周長に対する導電層の露出長の比率が50%以上であることを特徴とする(1)〜(3)に記載の導電性ポリエステル繊維。
(5)カーボンブラックを含有し、固有粘度が1.0〜2.0であるテトラメチレンテレフタレートで構成されるポリエステルからなる導電層(A)を鞘成分とし、カーボンブラックを含有しないポリエステルからなる非導電層(B)を芯成分とした芯鞘複合構造を有する繊維であることを特徴とする(1)〜(4)に記載の導電性ポリエステル繊維。
(6)(1)〜(5)に記載の導電性ポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなるブラシ製品。
カーボンブラックを含有した、固有粘度が1.0〜2.0であるテトラメチレンテレフタレートで構成されるポリエステルからなる導電層を繊維表面に露出させることで、高い導電性と環境適応性(導電特性の温・湿度依存性が小さい)を有するだけでなく、繊維長手方向における導電特性の変動が少ない導電性ポリエステル繊維を提供することにある。さらには、ブラシ加工し、清掃ブラシとしてレーザープリンターに組み込んだ際に、単糸間の太さ斑が少ないことから均一な導電性であるため、均一で鮮明な画像を得ることができる導電性ポリエステル繊維を提供することにある。
本発明の繊維は、カーボンブラックを含有した固有粘度が1.0〜2.0であるテトラメチレンテレフタレート(以下、PBT−CB)からなる導電層を有しており、該導電層が繊維表面の少なくとも一部を形成している。従来のポリエチレンテレフタレート(以下、PET)やポリブチレンテレフタレート(以下、PBT)にカーボンブラックを高濃度に含有させた場合は、曳糸性が悪く、糸長手方向の導電斑が大きい導電糸しか得られなかった。それに対し、本発明の固有粘度が高いPBTを導電層のベースポリマーに用いることにより、曳糸性が飛躍的に向上し、糸長手方向の繊維径の均一性が高く、カーボンブラックの分散斑も小さくなることを本発明者らは見出したのである。
これは、ポリエステルの中でもPBTの分子鎖のフレキシビリティーが極めて高く、カーボンブラックとの親和性が高いことが、ひとつの理由として挙げられる。ただ、例えば汎用繊維に用いられているPBTの固有粘度は1.0未満であり、この範囲の固有粘度のPBTにカーボンブラックを20〜30重量%添加すると、カーボンブラックのストラクチャーが高度に発達してポリマーの伸長粘度が増大し、それに伴い紡糸線上での紡糸張力も高くなるため粘性破断や脆性破壊が生じやすくなり、糸切れや繊維長手方向に太細が生じて導電特性の均一性が極端に低下する。それに対し、PBTの固有粘度をある一定以上高くすることで、過大な紡糸張力が負荷されても粘性破断や脆性破壊が起こりにくく、繊維長手方向にほとんど太細が生じないため、均一性の高い、導電特性を得られるのである。カーボンブラックを添加しない溶融紡糸では、一般には固有粘度を高くするとともに伸長粘度も増大するが、カーボンブラックを高濃度に添加した場合には、固有粘度を高くしても伸長粘度はほとんど上がらないという特異挙動を初めて見出したのである。そのため、本発明の繊維は伸長粘度を変えることなく、粘性破断や脆性破壊に対する耐久性のみが向上し、糸長手方向の太さ斑が無くなり、導電性の均一性が向上するのである。PBTの固有粘度は1.0〜2.0の範囲であることが必要であり、好ましくは1.25〜1.75である。固有粘度が2.0を越えると重合時間が長くなったり、固相重合を行い、固有粘度を上げるなどするため製造コストが高くなることや、糸特性の向上効果が小さくなることから、コストパフォーマンスが低下する。
該導電層に用いられるPBTは、カルボン酸であるテレフタル酸とアルコールであるテトラメチレングリコールのエステル化反応により形成されるポリマーであり、テトラメチレンテレフタレート単位が50モル%以上である。カーボンブラックとの親和性を持たせるために、該テトラメチレンテレフタレート単位は70モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましい。
該PBT−CBには、本発明の趣旨、すなわち高濃度でカーボンブラックを含有した場合の高い溶融紡糸性を損ねない範囲で他の成分が共重合されていてもよく、例えばジカルボン酸化合物を共重合せしめることができる。該ジカルボン酸化合物として例えば、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、エイコサン2酸、およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができ、これらジカルボン酸化合物のうち1種を単独で用いてもよいし、または発明の趣旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、ジオール化合物を共重合せしめることができ、該ジオール化合物として例えば、エチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができ、これらジオール化合物のうち1種を単独で用いてもよいし、または本発明の趣旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、本発明の繊維においては、繊維がカーボンブラックを含有するPBT、すなわち導電層からのみ構成される場合を除いて、該導電層以外の非導電層が配置されてなる場合、該非導電層は主たる成分として繊維形成能を有するポリマーからなる。なお、ここでいう「導電層」及び「非導電層」とは、別々に用意した「導電成分」(カーボンブラック含有ポリマー)と「非導電成分」(カーボンブラック非含有ポリマー。1成分に限定されず、2成分以上であってもよい)から構成される複合繊維において、複合界面を境界として、導電成分からなる部分を「導電層」、非導電成分からなる部分を「非導電層」と呼ぶ。該繊維形成能を有するポリマーとしては、例えば、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリイミド系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマーやその他ビニル基の付加重合により合成される、例えばポリアクリロニトリル系ポリマーなどのビニル系ポリマー、フッ素系ポリマー、セルロース系ポリマー、シリコーン系ポリマー、芳香族あるいは脂肪族ケトン系ポリマー、天然ゴムや合成ゴムなどのエラストマー、その他多種多様なエンジニアリングプラスチックなどを挙げることができる。より具体的には、例えば、ビニル基を有したモノマーが、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などの付加重合反応によりポリマーが生成する機構により合成されるポリオレフィン系ポリマーやその他のビニル系ポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、ポリシアン化ビニリデン、などが挙げられるが、これらは例えばポリエチレンのみ、あるいはポリプロピレンのみのように単独重合によるポリマーであってもよいし、あるいは複数のモノマー共存下に重合反応を行うことで形成される共重合ポリマーであってもよく、例えばスチレンとメチルメタクリレート存在下での重合を行うとポリ(スチレン−メタクリレート)という共重合したポリマーが生成するが、発明の趣旨を損ねない範囲において、このような共重合体であるポリマーであってもよい。
該導電層に用いられるカーボンブラックとして、ファーネス法により得られるファーネスブラック、ケッチェン法により得られるケッチェンブラック、アセチレンガスを原料とするアセチレンブラックなどがある。その他にはグラファイト、炭素繊維なども好適に用いられる。本発明の導電層には、導電性カーボンブラックであるファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラックを用いることがより好ましい。該導電性カーボンブラックの中でも、カーボンブラックの導電性能の基本的性質である粒子径(比表面積)、ストラクチャー、表面性状(粒子表面の化学的性質)の制御範囲が広いファーネスブラックが特に好ましい。該導電性カーボンブラックの導電性能は、比抵抗値として低いほど好ましく、5.0×103Ω・cm以下のものであることがより好ましく、1.0×10−6〜5.0×102Ω・cmであることがさらに好ましい。また、本発明の繊維に含有させた場合に、繊維の力学特性を損ねることなく、導電回路としてのストラクチャーを形成させるために、該導電性カーボンブラックの一次粒子の平均粒径を1〜200nmの範囲とすることが好ましく、5〜80nmの範囲がより好ましい。またストラクチャーの大きさの指標であるジブチルフタレート(DBP)吸収量が50〜180cm3/100gの範囲のものが好ましく、80〜175cm3/100gのものがより好ましい。該DBP吸収量が上記範囲とすることで、曳糸性が良好で高い導電性を得ることが出来る。また、我々の検討において、比表面積とDBP吸収量の積の平方根を取った値がカーボンブラックの導電性と関係することが分かり、この値が高いほど導電性があることが分かり、これを導電指標とした。この導電指標が60〜220の範囲であることが好ましい。該導電指標を上記範囲とすることで、導電層の流動性を維持したままより高い導電性を得ることが出来る。なお、導電指標は以下の式で求めることができる。
導電指標(無次元)=√{(比表面積[m2/g])×(DBP吸収量[cm3/100g])}
また本発明の繊維は、繊維表面での導電性を高くするために、該導電層が繊維表面の少なくとも一部を形成している。繊維表面に導電層を露出させることで、繊維表面で導電パスが形成され、低電圧でも電子の受け渡しが速やかに行われる。また、接触効率をより向上させるために、繊維横断面における周長に対する導電層の露出長の比率は、25%以上であることが好ましく、50%以上がより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。最も好ましくは100%(導電層で完全に被覆)である。
また本発明の繊維は、繊維表面での導電性を高くするためと、安定した導電性を確保するために、非導電層を導電層で完全に被覆する構造とすることが好ましい。そのためには、カーボンブラックを含有し、固有粘度が1.0〜2.0であるテトラメチレンテレフタレートで構成されるポリエステルからなる導電層(A)を鞘成分とし、カーボンブラックを含有しないポリエステルからなる非導電層(B)を芯成分とした芯鞘複合構造を有する繊維とすることが好ましい。
本発明の導電性ポリエステル繊維の導電性能は、平均抵抗率が1012Ω/cm以下であることが必要である。平均抵抗率は小さければ小さいほど導電性が高く、電気を流しやすいため、用途によっては高い導電性(低平均抵抗率)が要求される。本発明においては、PBTに最大限含有させることが可能なカーボンブラックの量が50重量%であることから、平均抵抗率の下限としては103Ω/cmである。該平均抵抗率の範囲とすることで、導電性ブラシとしての除電性能あるいは帯電防止が可能となる導電レベルを充分到達することができる。OA機器用の導電性ブラシに本発明の導電性ポリエステル繊維を用いる際には103〜1011Ω/cmの範囲の平均抵抗率であることが好ましく、装置の特性および導電ブラシの役割に応じて最適な平均抵抗率の導電繊維を用いればよい。
平均抵抗率は、カーボンブラックの種類(主として導電特性)、カーボンブラックの濃度、単繊維繊度、繊維横断面における導電層の露出長の比率、導電層の厚さなどで制御することが可能である。平均抵抗率を得るための導電層のカーボンブラック含有量は15重量%〜50重量%が好ましく、20重量%〜35重量%がより好ましい。15重量%以上とすることでカーボンストラクチャーの形成により導電性能が顕在化し、20重量%以上で急激に導電性能が向上する。また、導電層のカーボンブラック含有量を50重量%以下とすることで良好な曳糸性が得られる。なお、カーボンブラックによる導電性付与にあたっては、カーボンブラックの連鎖構造であるストラクチャー、特に2次凝集体であるアグロメレート・ストラクチャーによる連鎖構造の形成が肝要である。高い導電性を得るためには、該ストラクチャーを破壊せずにポリマー中に分散させ、長い繋がりを保持しつつ高密度に存在させなくてはならない。この手段として、延伸又は仮撚加工工程において、未延伸糸の自然延伸比近傍で延伸することで、ストラクチャーの破壊を抑制しつつ、繊維長手方向へストラクチャーを引き伸ばすことが可能となる。
また、熱処理温度を制御することによってもカーボンストラクチャーを制御することができる。熱処理温度を高くする、もしくは熱処理時間を長くすることにより、導電層におけるポリエステル成分の結晶化を促進させ、結晶部からのカーボンブラックの排除によりストラクチャーの局在化および高密度化が進み、導電性が向上する。熱処理方法は、延伸時のホットロールや熱板、仮撚での1stヒーター及び2ndヒーター、未延伸糸や延伸糸のパッケージを乾燥機にてエージングする方法、ブラシや布帛にしてから熱処理してもよい。
また、本発明の導電性ポリエステル繊維は、後述するような様々な用途で安定した導電性が確保されることが好ましいことから、繊維長手方向10m当たりの抵抗率変動係数CVが、0.1以下であり、0.07以下であることがより好ましい。該抵抗率変動係数CVは小さい値をとるほど、繊維長手方向の導電性の斑が小さいということになり、つまり安定した優れた導電性を有することを意味する。前述の導電性繊維の平均抵抗率が1.0×108[Ω/cm]未満である場合には、該抵抗率変動係数CVが0.04以下であることが特に好ましい。また該抵抗率変動係数CVは前述の通り小さい値をとるほど好ましく、下限は特に限定されるものではなく、繊維長手方向の導電性の斑が無い場合は、0.001以下の値もとりうる。
ここで、これまでの導電性ポリエステル繊維は、長手方向の導電斑が少ないことから単糸間での太さ斑に関してはあまり触れられていない。一般的に知られている繊維の太さ斑の指標であるU%の測定原理は、電極間に存在する繊維の誘電率の変化を測定してそれから算出される値をもって、太さ斑の指標としていた。しかし、導電性ポリエステル繊維は誘電率が一般のポリエステル繊維とはかけ離れているほか、導電斑によっても誘電率が変化することからU%の測定は困難であったため、導電性ポリエステル繊維の太さ斑はあまり測られていない。ただ、導電性ポリエステル繊維の性能が上がるにつれて、単糸間の太さ斑も無視できないものとなってきた。それは、導電性ポリエステル繊維の性能(長手方向の導電斑など)が上がっているにもかかわらず、画像評価において斑のあるものがあることが分かった。そこで我々は、鋭意検討を行った結果、単糸間における太さ斑が原因であることが分かった。そのため、繊維断面の繊維径の標準偏差を繊維径の平均で除した値(繊維断面CV)を0.1以下とする。繊維断面CVが0.1を超えると単糸間での導電性のバラツキが生じ、画像評価における斑が発生する。下限に関しては特に限定するべきものではないと考えるが、ゼロに近づけば近づくほど好ましい。
本発明の導電性ポリエステル繊維は、温湿度変化、具体的には例えば梅雨の時期のように湿った気候の場合であっても冬季のように低温で乾燥した気候であっても導電性繊維の性能は何ら変わらないことが好ましい。そこで該導電性繊維の、中温中湿度(23℃相対湿度55%)で平均抵抗率X[Ω/cm]と、低温低湿度(10℃相対湿度15%)での平均抵抗率Y[Ω/cm]との比Z(Z=Y/X)が、1≦Z≦5の範囲にあることが好ましく、1≦Z≦4の範囲にあることがより好ましく、1≦Z≦2の範囲にあることが特に好ましい。Y/Xは1に近い値をとるほど中温中湿度と低温低湿度との差が小さい、すなわち温度湿度依存性が小さく優れた繊維であるということになる。
本発明の導電性ポリエステル繊維は、様々な用途での瞬時の大きな応力に抵抗しうる、あるいは後述する電子写真装置に組み込まれるブラシローラー用に用いて、繊維の反発力で着色剤を掻き落とす際に、掻き落とし性が良好であるという点で、初期引張弾性率が10cN/dtex以上であることが好ましく、15cN/dtex以上であることが特に好ましい。そして高いほど好ましいものの、分子構造的な点から高々300cN/dtex以下のものが好適に製造される。
本発明の導電性ポリエステル繊維は、衣料用途や後述するブラシローラー用など様々な用途で形状あるいは特性を安定して満足するために、破断強度が1.0cN/dtex以上であることが好ましく、1.3cN/dtex以上であることがより好ましく、2.0cN/dtex以上であることがさらにより好ましい。通常、導電性の高い繊維を作製するべく導電性カーボンブラックを高濃度で含有せしめたポリエステル系樹脂のみからなる繊維は、そもそも従来のPET系ポリエステルを用いた場合には本質的に安定して繊維を得ることは困難であったし、仮に繊維を形成しえた場合であっても破断強度が低く(1.0cN/dtex未満)破断強度を高めることは困難であった。しかし本発明者らは、固有粘度が1.0〜2.0のPBTを用いた場合に、導電性カーボンブラックが高濃度で含有されていたとしても、破断強度の高い繊維が得られることを見出したのである。そして該破断強度に関しては高いほど好ましいものの、生産性を考慮すると10.0cN/dtex以下のものが好適に製造される。
本発明の導電性ポリエステル繊維は、沸騰水収縮率が0〜10%であることが好ましい。導電性ブラシとして用いる際、ブラシ加工過程や使用時の環境によっては高温にさらされる場合があり、加工前・後での寸法変化を極力小さくする必要がある。また、導電糸に寸法変化があると、繊維内部のカーボンストラクチャーも変化して導電性能が変わることが判っている。環境変化に対して優れた安定性を有する導電糸を提供するために、沸騰水収縮率は5%以下であることがより好ましい。収縮率を小さくするための手段としては、延伸や仮撚時の熱処理温度や延伸倍率、リラックス率等が挙げられる。
また、本発明では鞘部が導電層であり、芯部が非導電層である芯鞘複合構造を有する繊維にすることが好ましい。繊維表面全体に導電層を露出させることで、導電性ブラシとして用いた際に、印刷斑を抑制することが可能になる。本発明の導電層の主成分であるPBTの融点が225℃近傍であることから、良好な曳糸性が得られる温度範囲、すなわちPBTの融点に近い温度で溶融紡糸することが好ましい。そのため、芯部を形成する非導電成分は、融点が160〜240℃である繊維形成性ポリエステルであることが好ましく、200〜230℃であることがより好ましい。
ここで繊維形成性ポリエステルとは、例えばジカルボン酸化合物とジオール化合物のエステル結合から形成される重合体を挙げることができ、これらにかかるポリマーとしては、その主たる繰り返し構造単位がエチレンテレフタレート、トリメチレンテレフタレート、ブチレンテレフタレート、エチレンナフタレート、プロピレンナフタレート、テトラメチレンナフタレートあるいはシクロヘキサンジメタノールテレフタレート、であるポリエステル、あるいは芳香族ヒドロキシカルボン酸を主成分とする溶融液晶性を有する液晶ポリエステル、などが挙げられる。
そして、ジカルボン酸化合物とジオール化合物のエステル結合から形成されるポリエステル系ポリマーには、本発明の趣旨を損ねない範囲で他の成分が共重合されていてもよく、例えばジカルボン酸化合物を共重合せしめることができる。該ジカルボン酸化合物として例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、5ーナトリウムスルホイソフタル酸、およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができ、これらジカルボン酸化合物のうち1種を単独で用いてもよいし、または発明の趣旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、ポリエステル系ポリマーの共重合成分としては、ジオール化合物を共重合せしめることができ、該ジオール化合物として例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができ、これらジオール化合物のうち1種を単独で用いてもよいし、または発明の趣旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明の導電層の主成分がPBTであることから、該導電層との接着性を良好にするためには、非導電層となる芯部も繊維形成性ポリエステルであることが好ましい。その中でも、特に優れた接着性を有するポリエステルとして、ポリトリメチレンテレフタレート(以下、PTT)やPBTを主成分とするポリエステルや、イソフタル酸(以下、IPA)や2・2ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)プロパン(以下、BPA−EO)を共重合したポリエステル(以下、共重合PET)が好ましく用いられる。その中でも、共重合PETを芯部に用いる場合には、特にBPA−EOを共重合することで導電層との接着性を高めることができ好ましい。共重合比率としては、1〜15モル%が好ましく、2〜10モル%がより好ましい。また、前記BPA−EOと併せ、IPAを共重合することでより接着性が高められ、IPAの共重合比率としては、1〜15モル%が好ましく、2〜10モル%が最も好ましい。
なお、弾性回復性を高めるためにPTTやPBTを主体とする繊維形成性ポリエステルが好ましい。
芯鞘複合繊維の導電層の平均厚さは0.7μm以上であることが好ましい。導電層が0.7μm以上の厚さを有することで、高い導電性能を得ることが可能になる。さらに該導電層が厚いほど、厚さ変化による平均抵抗率変化が小さくなる傾向があり、安定した導電性能を有する導電性ポリエステル繊維を提供することができる。したがって、該導電層の平均厚さは、2μm以上であることがより好ましく、3μm以上であることがさらに好ましい。なお、該導電層の平均厚さの上限値は特に規定されないが、導電性能は導電層の平均厚さが15μmでほぼ頭打ちするため、それ以上厚くする必要は特にない。
芯鞘複合繊維の非導電層である芯部は、繊維横断面積の5〜85%を占有することが好ましい。該芯部は繊維の力学特性を高くするための補完的役割を担う。導電性ポリエステル繊維を用いて2次製品を製造する際の加工性を容易にし、生産性を高めるとともに、製品の耐久性を向上させるため、芯部の比率は少なくとも5%以上であることが好ましく、より好ましくは20%以上である。また、非導電層に剛直性の高いポリエチレンテレフタレートを用い、導電層と非導電層との比率を変えることで繊維の剛性を制御することも可能になる。一方、導電層である鞘部の比率は繊維の導電性能を担い、高い導電性を付与するために、鞘部の比率は少なくとも10%以上であることが好ましく、より好ましくは20%以上である。
本発明の導電性ポリエステル繊維は、長繊維(フィラメント)からなるマルチフィラメントであっても、短繊維(ステープル)からなる紡績糸であってもよい。短繊維の場合は用途に応じて所望の長さにすればよいが、紡績工程あるいは電気植毛加工などに用いる場合には、長さ0.05〜150mmであることが好ましく、0.1〜120mmであることがより好ましい。
また、本発明の繊維の太さ、すなわち、単繊維直径に関しては、後述するような様々な用途に採用が可能であるという点で単繊維直径は50μm以下であることが好ましく、5〜30μmであることがより好ましい。特にOA機器用の導電性ブラシに用いられる場合には、清掃性能、あるいは帯電性能が優れるという点で繊維直径は5〜25μmであることが特に好ましい。衣服の裏地や防塵衣など、あるいはその他各種衣類に用いられる場合では、5〜30μmであることが好ましい。また衣料用途以外の、車両内装材、建造物の壁材などの内装材、カーペットや床材など敷物などの非衣料用途に用いられる場合には、10〜50μmであることが好ましい。
OA機器用の導電性ブラシのみならず、多様な用途、例えば除電シートや糸状発熱体(布帛含む)、帯電防止素材としてストッキング、タイツ、防塵衣などの衣料、または屋内外、車両内に敷くカーペットやマット、床材などの様々な製品において展開可能であり、所望の導電性が付与できる。
本発明の導電性ポリエステル繊維からなる短繊維を少なくとも一部に用いてなる植毛体を、少なくとも一部に用いてなる繊維ブラシに形成して用いることができる。特に、棒状物体に直接植設された繊維ブラシローラーであることが好ましい。ここで用いられる短繊維は、棒状物体に植設される際に、気体により短繊維を吹き付けてもよく、あるいは電気植毛加工を行ってもよいが、棒状物体の表面に概ね直立したものが効率よく得られることから電気植毛加工により得られることが好ましい。このとき短繊維は、その50%以上が棒状物体の表面において10度から垂直(すなわち90度)の概ね直立状態に接着される。ここで、発明の趣旨を損ねない範囲で、用いる短繊維には本発明の導電性ポリエステル繊維からなる短繊維以外に、本発明の導電性ポリエステル繊維ではない他の繊維からなる短繊維を混用して植設してもよい。また本発明のポリエステル繊維からなる短繊維を少なくとも一部に用い、棒状物体に植設してなる前記ポリエステル繊維ブラシローラーの繊維ブラシローラー自体の比抵抗値は102〜1011Ω・cmであることが好ましい。
繊維ブラシローラーの芯となる棒状物体の主たる材質は、用いられる用途あるいは目的に応じて適切なものを採用すればよく、金属、合成樹脂、天然樹脂、木材、鉱物などから単独で、もしくは複数種を組み合わせて選ばれるが、後述する電子写真装置に組み込む部材として用いる場合には、主として金属からなることが好ましい。さらに該棒状物体が金属である場合には、該金属の少なくとも一部もしくは必要とする部分の全面を中間層が覆い、その上に前記織物および/または編物および/または不織布が接着されるか、あるいは短繊維が接着して植設されることが好ましい。この中間層として用いられる素材は主としてクッション性を棒状物体に付与する、あるいはブラシ状の繊維の弾性・剛性のみでは達成し得ない場合に補助的に弾性・剛性を担うものであり、後述される例えば清掃装置におけるトナー除去性能を向上せしめる。
本発明の導電性ポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる前述の織物、編物あるいは不織布は、基盤と接合して布帛複合体とすることができる。この場合、織物であればパイル織りあるいは処理により織物表面に起毛や糸端があるもの、また編物であればパイル状の繊維起毛があるものもしくは起毛処理してパイルあるいは糸端が編物表面にあるものが後述するポリエステル繊維ブラシローラーにおいてより機能が高められる場合があり好ましい。
また、接着される基盤としては、該布帛複合体を組み込む装置や用いる接着剤に応じて適宜採用すればよいが、合成樹脂、天然樹脂、合成繊維、天然繊維、木材、鉱物あるいは金属からなるフィルム、シート、紙、板、あるいは他の布帛などが好適に採用でき、あるいは各種用途の部材そのものである金属加工体、合成もしくは天然樹脂加工体もしくは成形体の基盤に直接接着してもよい。ここで特に前記接着剤との親和性を高めるために、親水化処理してなる合成もしくは天然樹脂あるいは金属からなるシートが好ましい。そして該基盤が前記フィルム、シート、紙、板、布帛など表裏を形成している素材であれば用途あるいは目的に応じてその表面および裏面の両面に前述の織物、編物あるいは不織布を接着して布帛複合体となすことができる。該布帛複合体は、その使用方法あるいは用途として、別の基盤に貼り付けて用いてもよいし、あるいは例えば次に示す導電性を有するため導電性のポリエステル繊維ブラシとして用いることができる。
本発明のポリエステル繊維からなる前記織物および/または編物および/または不織布は、少なくとも一部に用いられるかあるいは全部に用いて、ポリエステル繊維ブラシを形成できる。特に形態が安定している点では織物を用いることが好ましい。ここで用いられる織物および/または編物および/または不織布は、棒状物体に接合してポリエステル繊維ブラシローラーを形成する際に、棒状物体の機能的に必要とされる長さ(すなわち巻き幅)分だけカットしたものを一周で巻き付け接合してもよく、あるいは棒状物体の長さの数分の一〜数十分の一の長さの幅にスリット状にカットしたものを棒状物体にスパイラル状に巻き付けて接合してもよい。接合する際にはあらかじめ凹凸を棒状物質に付けるなどして嵌合してもよいが、確実に接合するという点では接着剤を用いて接着することが好適である。
ここで用いられる接着剤は、用途あるいは目的に応じて適宜採用すればよく、アクリル系、エステル系あるいはウレタン系など種々のものを採用でき、また必要に応じてカーボンブラックや金属などの導電性制御剤あるいは鉄、ニッケル、コバルト、モリブデンなどの金属あるいはこれら金属の酸化物あるいはこれらの混合物などの磁性制御剤などが添加されていてもよい。さらに織物および/または編物および/または不織布は接着される以前の段階で接着面に102〜1010Ω・cmの比抵抗値を有する導電処理剤もしくは導電性シートあるいは導電性膜などの素材を張り合わせてもよい。
本発明の導電性ポリエステル繊維は、例えば、織物、編み物、不織布といった布帛とするほか、それらを用いた繊維ブラシ、衣料、敷物や、短繊維を用いた植毛体、あるいは電気を流すことが可能な配線物、などにおいて、少なくとも一部に用いてなるポリエステル繊維製品となすことができる
本発明の導電性ポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなるブラシ製品、あるいはブラシローラーは、用いている本発明の導電性ポリエステル繊維の導電性に由来して、例えば電子写真装置の中に組み込まれている清掃装置の部材として好適に用いられる。ここで該清掃装置に用いられるブラシ製品、あるいはブラシローラーの導電性繊維の平均抵抗率は、1.0×103[Ω/cm]以上1.0×108[Ω/cm]以下、または1.0×109[Ω/cm]以上1.0×1011[Ω/cm]以下の範囲のものが好適に、かつ清掃装置の機構に応じて用いられる。清掃装置の中で該ブラシローラーは回転しながら、必要であれば電気を印可されながら、不要物(例えば電子写真装置の中であれば転写されなかった残存着色剤など)を捕捉して除去するのであるが、本発明の導電性ポリエステル繊維を用いた場合には前述のとおり、温度および湿度変化がある場合にも安定した導電性能を有する繊維であることから、この除去性能が格段に優れるのである。また該ブラシローラーの清掃装置内での用いられ方としては前述のとおり、感光体にブラシローラーが直接接触して清掃する以外に、感光体を清掃する部材(前記のとおり、ブラシローラーの場合もあれば、あるいは従来技術であればブレード状の部材)を清掃するためのブラシローラーとして、すなわち清掃装置自体を清掃するもの、もしくは回収した不要トナーを別の場所に移送するためのブラシローラーとしても用いられる。また本発明の清掃装置にはブラシローラーを目的、効果、清掃の機構に応じて1本用いてもあるいは2本以上の複数本用いても良い。
本発明の導電性ポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなるブラシローラーは、本発明の導電性ポリエステル繊維の導電性に由来して、後述する電子写真装置の帯電装置に好適に組み込まれ使用される。該帯電装置に組み込まれるブラシローラーの導電性繊維の平均抵抗率は、1.0×106[Ω/cm]以上1.0×109[Ω/cm]以下の範囲のものが好適に用いられる。該ブラシローラーを用いてなる帯電装置の性能は、ブラシローラーの導電性能、すなわち導電性繊維の性能に依存するが、本来の目的である感光体を均一に帯電できることはもとより電子写真装置内の環境変化、すなわち電子写真装置が稼働中徐々に変化する温度や湿度の変化、あるいは季節による温度、湿度変化に対してブラシローラーの導電性は全く変化しないことが求められる。それに対して本発明の導電性ポリエステル繊維は、前述の環境変化に対して導電性は全く変化することがないため、感光体の帯電斑が起こりにくく、優れた帯電装置となる。加えて、該電子写真装置の感光体表面に、清掃が不十分なために残存したトナーがあった場合にも、該ブラシローラーはブラシ状であって、清掃ローラーを兼ねることができるため、印刷時の汚染がない、もしくは殆どないという点でも優れており、さらには電子写真装置を小型化する場合には、前記清掃装置および帯電装置を個別に設置することなく、清掃装置兼帯電装置として省スペース化を図ることも可能であるため、その点でも格段に優れている。また、該帯電装置中には、目的、機構に応じて前記ブラシローラーを1本あるいは2本以上の複数本用いても良い。
本発明の導電性ポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなるブラシローラーは、用いている本発明の導電性ポリエステル繊維の導電性に由来して、後述する電子写真装置に用いられうる除電装置に好適に組み込まれて用いられる。該除電装置に組み込まれるブラシローラーの導電性繊維の平均抵抗率は1.0×103[Ω/cm]以上1.0×1011[Ω/cm]以下の範囲のものが好適に用いられる。特に後述する電子写真装置に用いる際には、ブラシローラーの導電性繊維が安定かつ斑のない除電効果を発現し、通常、除電装置のあとに配設される前記清掃装置での清掃効果をより高めることが可能であるほか、該電子写真装置を小型化する場合には該ブラシローラーを用いることで除電装置兼清掃装置として組み込むことができ格段に優れている。
前記清掃装置および/または帯電装置および/または除電装置を用いてなる電子写真装置、具体的にはレーザービームモノクロプリンター、レーザービームカラープリンター、発光ダイオードを用いたモノクロあるいはカラープリンターモノクロ複写機、カラー複写機、モノクロまたはカラーファクシミリあるいは多機能型複合機、ワードプロセッサーなどを挙げることができるが、帯電した感光体にレーザーおよび/または発光ダイオードで潜像を描きトナーを用いて顕像化するメカニズムにより印刷を行う装置は、前述のとおり、本発明の導電性ポリエステル繊維を用いていることから、電子写真装置内の環境変化、特に温度や湿度変化によらず安定した清掃・帯電・除電性能を有し、得られた印刷物はモノクロの場合はもとより、複数種のトナーをかつ多量に用いるカラーの場合は特に美しいものとなるし、さらには電子写真装置の駆動速度をより高める、すなわち、単位時間あたりの印刷速度(枚数)を高めることが可能となる。また本発明の導電性ポリエステル繊維を用いてなる電子写真装置は、前述のとおり、さらなる小型化、省スペース化、省電力化を図ることができ、好ましい。
以下実施例により、本発明を具体的かつより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに制限されるものではない。なお実施例中の物性値は以下の方法によって測定した。
A.繊度[dtex]および単繊維繊度[dtex]の測定
マルチフィラメントを長さ100mカセ取りし、そのカセ取りした繊維の重量(g)を測定して得た値の100倍とし、同様に測定して得た3回の値の平均値を繊度とした。単繊維繊度は、前述の繊度をマルチフィラメントを構成する単繊維の本数で割った値を単繊維繊度[dtex]とした。
紡績糸の単糸繊度は、JISL1015:1999(化学繊維ステープル試験方法)8.5.1の正量繊度(B法)に示される条件で測定した。
B.繊維の残留伸度、破断強度、初期引張弾性率の測定
試料をオリエンテック(株)社製TENSILON UCT−100でJIS L1013:1999(化学繊維フィラメント糸試験方法)8.5.1に示される定速伸長形でつかみ間隔20cmの条件で測定した。なお、破断伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。また、初期引張弾性率は8.10に示されるとおりに測定した。
C.平均抵抗率P[Ω/cm]および抵抗率変動係数CVの測定
中温中湿度(23℃相対湿度55%)で測定すべき試料を少なくとも該雰囲気中に1時間保持した後、測定した。送糸ローラーと巻取ローラーからなる1対の鏡面ローラーで糸を走行させる際に、ローラー間に、東亜DKK(株)製絶縁抵抗計SM−8220に接続された2本の棒端子からなるプローブに走行糸が接するように設置した装置で、棒の太さφ2mm、棒端子間で接する糸の距離2.0cm、印可電圧100V、送糸速度1m/分、ローラー間の糸張力0.5cN/dtex、絶縁抵抗系でのサンプリングレート1秒で10mの長さ分、抵抗値を測定して、得られた抵抗値の平均[Ω]を棒端子間で接する糸の距離(2.0cm)で割った値を平均抵抗率P[Ω/cm]とした。また同時に得られた全ての抵抗値の標準偏差Qを算出したのち、PとQとの比から平均抵抗率変動係数CV(CV=Q/P)を算出した。
D.中温中湿度(23℃相対湿度55%)と低温低湿度(10℃相対湿度15%)との平均抵抗率の比(温湿度変化Z)
中温中湿度についてはC.項の測定方法を採用し、また低温低湿度においてもC.項と同様に測定して平均抵抗率を求め、それぞれ得た平均抵抗率X,Yの比Z(Z=Y/X)を求めた。
E.比抵抗値の測定方法
測定は前記中温中湿度で測定すべき試料を少なくとも該雰囲気中に1時間保持した後、測定した。測定物が長さ100mm以上の繊維状のものである場合には、繊維束を1000dtexの束にして50mmの長さに切断し(この時、繊維端面は斜めにカットする)、端面に導電性ペーストを塗布してから電極を取り付けて500Vで測定した。また測定物が長さ100mm未満の繊維状物あるいは粉体状のものである場合は、長さ10cm、幅2cm、深さ1cmの、両端面に電極を有する絶縁体の箱形容器に、10MPaの圧力で充填して密封したのち500Vで測定して、単位体積当たりの比抵抗値[Ω・cm]に換算して求めた。ガット状のものについては、1回の測定において、直径D(0.2〜0.3cmの範囲の直径のもの)で長さ12cmのガットについて、テスターを用いてテスターの2本の端子を任意の10cmの間隔でガットに押しつけ、その抵抗値R[Ω]を測定し、(比抵抗値)=R×(D/2)2×π/10の式から該ガットの比抵抗値を求めた。そして5本の異なるガットについて各々1回ずつ比抵抗値を測定し、5回の平均値をそのガットの比抵抗値とした。
F.溶融粘度の測定
(株)東洋精機社製キャピログラフ1Bを用い、窒素雰囲気下、バレル径9.55mm、キャピラリー長10mm,キャピラリー内径1mmで、剪断速度12.16[1/秒]で測定した。測定温度は各々のポリマーの溶融紡糸温度(特に断り書きのない限り、PET系ポリエステルであれば290℃、PBT系ポリエステルであれば260℃)で測定した。そして5回測定した値の平均値を溶融粘度の測定値とした。なお測定時間については、試料の劣化を防ぐため5回の測定を30分以内で完了した。溶融粘度差については前述の剪断速度を1216[1/秒]として測定した。
G.沸騰水収縮率
検尺機を用いて初荷重:(0.088×繊度(dtex))cNで、カセ長50cm、巻き数10回のカセを作り、規定の荷重を掛けた状態で試料長L1を測る。これを実質的に荷重フリーの状態で沸騰水中15分間処理し、1昼夜風乾した後、束の長さL2を測定して下式により沸騰水収縮率を算出した。なお、荷重は下式により求めたものを使用した。
沸騰水収縮率(%)=((L1−L2)/L1)×100
荷重(cN)=(繊度(dtex)/1.111)×0.1×0.9807×巻取回数×2
H.ガラス転移点(Tg)および融点(Tm)の測定
パーキンエルマー社製示差走査熱量分析装置(DSC−7)を用いて試料10mgで、昇温速度16℃/分で測定した。Tm、Tgの定義は、一旦昇温速度16℃/分で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、約(Tm1+20)℃の温度で5分間保持した後、室温まで急冷し、(急冷時間および室温保持時間を合わせて5分間保持)、再度16℃/分の昇温条件で測定した際に、段状の基線のずれとして観測される吸熱ピーク温度をTgとし、結晶の融解温度として観測される吸熱ピーク温度をTmとした。
I.導電性カーボンブラックの平均粒径の確認
繊維または樹脂をエポキシ樹脂中に包埋したブロックに酸化ルテニウム溶液を用いて染色を施し、ウルトラミクロトームにて切削して60nm〜100nmの厚さの超薄切片を作製し、透過型電子顕微鏡(TEM)観察装置(日立製作所製 H−7100FA型)にて、加速電圧75kVで、倍率2万〜10万倍の任意の倍率で観察を行い、得られた写真を白黒にデジタル化した。該写真をコンピュータソフトウェアの三谷商事社製WinROOF(バージョン5.0)において黒で見える導電性カーボンブラックを画像解析することによって平均粒径について確認した。平均粒径については写真上に存在する全ての導電性カーボンブラックの面積をそれぞれ計算し、該面積値から略円形と判断して計算した導電性カーボンブラックの直径の平均値によって算出した。
J.固有粘度(IV)
ポリエステル系ポリマーの場合は、試料をオルソクロロフェノール溶液に溶解し、オストワルド粘度計を用いて25℃で測定した(固有粘度(IV))。
K.工程通過性
汚れと削れは工程内にあるセラミックスガイドを目視で観察し、以下に示す基準で3段階評価した。また、毛羽に関しては工程通過後の糸条を目視で観察し、以下に示す基準で3段階評価した。
(1)汚れ ○:無し、△:少々有り、×:汚れ多
(2)削れ ○:無し、△:少々有り、×:削れカス多
(3)毛羽 ○:無し、△:少々有り、×:断糸
L.紡糸性
総巻取量40kgにおいての紡糸性を、以下に示す基準で3段階評価した。
○:1回以下、△:2〜4回、×:5回以上
M.画像評価方法
導電性ポリエステル繊維を後述する実施例1に示すとおりにブラシ加工し、清掃装置に組み込んで配設したモノクロレーザープリンターにて、長時間連続印刷を行った。2万枚印刷後の画像評価を以下に示す基準で3段階評価した。
○:鮮明で均一な画像、△:少々異常放電跡有り、×:画像が不鮮明、スジ斑多
N.単繊維直径の測定
FEI Company社製 走査型電子顕微鏡(SEM) STRATA DB235を用いて、加速電圧2kVで、白金−パラジウム蒸着(蒸着膜圧:25〜50オングストローム)処理を行った後、繊維外径が全て視野に入る倍率(単繊維直径が25μm〜50μmであれば5千倍、15μm〜25μmであれば1万倍、5μm〜15μmであれば2万倍)で確認した。なおこの際、単繊維直径は少なくとも該測定を同一繊維において3cm以上の間隔をおいた任意の5点について観察、測定して得た平均値を単繊維直径とする。
O.導電層の平均厚さ、芯鞘複合比率、繊維横断面における周長に対する導電層の露出長の比率
繊維をエポキシ樹脂中に包埋したブロックを作製し、ミクロトームにて繊維軸方向に垂直な繊維横断面方向に切削して薄切片をつくる。これを光学顕微鏡200倍で透過光にて観察・撮影し、得られた繊維横断面写真を、前述の三谷商事株式会社製WinROOFにて画像解析することで、導電層の厚さを求めた。なお、導電層の平均厚さは任意の5点について計測し、その平均値を求めた。また、芯鞘複合比率は導電層と非導電層の面積から比率を算出した。繊維横断面における周長に対する導電層の露出長の比率は、繊維横断面における周長と導電層の露出長を計測して比率を算出した。なお、導電層の露出長の比率は、任意の5つの繊維断面について計測し、その平均値を求めた。
P.CB含有PBT中における導電性カーボンブラックの含有量
前述O.項で求めたCB含有PBTの割合から、CB含有PBT中における導電剤の含有量を算出した。溶媒に溶けないもしくは溶けにくい場合は、1Nの水酸化ナトリウム水溶液30℃で24時間撹拌して、遠心分離したのち、導電剤の量を秤量して求めた。
Q.CBのDBP吸収量の測定
JIS K6217−4:2001の「DBP吸収量の求め方」に準じ、アブソープトメータを用いて測定した。
R.CBの比表面積の測定
JIS K6217−2:2001の「比表面積の求め方−窒素吸着法−単点法」に準じて、自動比表面積測定装置を用いて測定した。
S.繊維断面CV
繊維断面CVを算出する繊維のフィラメント24本をエポキシ樹脂中に包埋したブロックを、ミクロトームにて繊維軸方向に垂直な繊維横断面方向に切削して薄切片をつくり、光学顕微鏡200倍で透過光で観察・撮影したのち、得られた繊維横断面写真について、前述三谷商事株式会社製WinROOFにおいて円相当径を画像解析することによって求めて、平均値、標準偏差を求め、以下の計算式にて繊維断面CVを算出した。
(繊度断面CV)=(標準偏差)/(平均値)
実施例1
固有粘度(IV)1.25、溶融粘度400(Pa・秒)(測定温度260℃、12.16(1/秒))、融点(Tm)224℃のPBTを150℃、10時間真空乾燥した後、窒素雰囲気下で粉粒体とし、導電性カーボンブラックとしてキャボット・スペシャルティ・ケミカルズ・インク社製ファーネスブラック(タイプVULCAN XC72、比抵抗0.45(Ω・cm)、平均粒径31nm、比表面積254m2/g、DBP吸収量174cm3/100g、以下「FCB1」と記載)を窒素雰囲気下で粉体同士を混合した。続いて東芝機械(株)製2軸エクストルーダTEM35B(軸径D:37mm、L/D:38.9)にて軸回転数:300rpm、混練温度:250℃、吐出量:15kg/hr、ベント:約2Torrにて溶融混練した。ここで、FCB1の濃度は混練終了後に得られるPBT/FCB1混練物に対して25重量%となるように調製した。混練した後、吐出されたガット状の樹脂組成物を15℃の水道水で冷却したのちカッターで切断して導電層用のペレット(以下、「PBT−CB」と記載)を得た。該ペレットの溶融粘度を測定したところ、1160(Pa・秒)(測定温度260℃、12.16(1/秒))であった。
上記PBT−CB(融点225℃)を鞘成分とし、イソフタル酸を7モル%、2,2ビス(4−2(ヒドロキシエトキシ)フェニル)プロパンを4モル%共重合したポリエチレンテレフタレート(融点228℃)を芯成分として、2軸エクストルーダ(軸長L/軸径D=35)を2台備えたエクストルーダ型複合溶融紡糸機を用いて、それぞれ別々に溶融し、紡糸温度265℃で芯鞘複合紡糸用口金(吐出孔直径0.5mm/孔深度1.0mm)を用い、芯鞘複合比(芯/鞘:体積%)80/20で吐出した。この時の芯成分と鞘成分の溶融粘度差は0.06であった。吐出後の糸条は冷却チムニーによって0.5m/sの冷却風で冷却・固化され、口金下2mの位置で給油装置にて集束させながら油剤を付与し、交絡ノズルにて流体として圧縮空気を用い作動圧0.1MPaで予備交絡を施し、周速度1500m/分の第1ゴデットロール(GD)、および第2GDにて引き取り、285dtex、48フィラメントの芯鞘複合構造の未延伸糸を2kg巻いたチーズパッケージとした。なお、巻取機の周速度は1482m/分とした。また、油剤としては平滑剤として重量平均分子量2000のポリエーテルを70重量%、重量平均分子量6000のポリエーテルを8重量%、エーテルエステルを12重量%、ポリエーテル変性シリコーンを2重量%、オレイルザルコシン酸を3重量%、その他添加剤(制電剤、抗酸化剤、防錆剤)を5重量%調整し、さらにこの油剤を濃度15重量%になるように水系エマルジョンとして調整し、純油分として繊維に約1.5重量%付着させた。紡糸性は良好であり、未延伸糸40kgのサンプリングで糸切れは発生しなかった。得られた未延伸糸の断面は図1に示すとおりであった。
そして得られたマルチフィラメントについて延伸を行うに際し、送糸ローラーの送糸速度341m/分、第1ローラーは80℃で送糸速度341m/分、第2ローラーは140℃で送糸速度800m/分、第3ローラーは室温で送糸速度792m/分(1%リラックス)として繊維に延伸、熱処理を施し、リラックス状態下で交絡ノズルにて流体として圧縮空気を用い作動圧0.3MPaで本交絡を施した後、冷ローラーで糸をポリエステルのTg以下に冷却した後に巻き取った。延伸中に断糸やローラーへの単糸巻き付きの問題は発生せず、巻き上がったボビン表面上の毛羽も無く、延伸性は優れていた。糸物性について表1に示す。
また、得られた延伸糸の強度は3.6cN/dtexであり、残留伸度41%、初期引張抵抗度56cN/dtex、沸騰水収縮率4.1%、平均抵抗率105.6Ω/cm、平均抵抗率変動係数CV0.02、繊維断面CV0.03、導電層の露出長比率100%、導電層の平均厚さは0.8μmであった。
得られた延伸糸を用いて、織り密度140,000本/(2.54×2.54)cm2[平方インチ]、パイル長さ6mmのパイル織物を作製して、パイルを起毛させて、更に1cm幅のスリット状にしたものをSUS304からなる金属棒状物体に巻き付けて、ブラシローラーを得た。得られたブラシローラーを清掃装置に組み込んで配設したモノクロレーザープリンターにて、長時間連続印刷(1分間あたり10枚印刷・排出)を行い、プリンター中の湿度変化と共に印刷性を確認したところ、印刷開始1000枚程度でプリンター中の相対湿度は初期の65%から33%まで低下し、さらに10000枚程度印刷した時点では27%まで低下したものの、印刷枚数が20000枚を越えた時点であっても印刷の鮮明性、トナー清掃性などは優れていた。
また、ブラシローラー製作時の工程通過性は良好で、セラミックスガイド等での汚れ、削れは無く、毛羽の発生、断糸ない製品の品位も良好であった。
繊維特性、評価結果等を表1に示す。
実施例2〜3および比較例1,2
実施例1において、表1のとおり導電性カーボンブラックの含有量(実施例2〜3、比較例1〜2)、を変更した以外は、実施例1と同様に紡糸・延伸・評価を行った。
導電性カーボンブラックの含有量が45重量%では紡糸時の糸切れが増えたが、問題のない範囲であり、16重量%では画像評価で少々の極微細な斑が認められたが問題のない範囲であった。また、55重量%となると、製糸を行うことが困難であり、10重量%となると、画像評価でスジや斑が多く、使用に耐えがたいものとなった。
実施例4〜8
実施例1において、表1のとおり導電性カーボンブラックの種類を変更した以外は、実施例1と同様に紡糸・延伸・評価を行った。実施例4のカーボンブラックは電気化学工業株式会社製デンカブラック(粒状)(以下「ACB1」と記載)、実施例5では、電気化学工業株式会社製デンカブラック特殊プレス品HS−100(以下「ACB2」と記載)、実施例6では、電気化学工業株式会社製デンカブラック特殊プレス品HS−200(以下「ACB3」と記載)、実施例7では、デグサ社製「“Printex” L SQ」(以下「FCB2」と記載)、実施例8では、コロンビヤンカーボン社製ファーネスブラックRaven1190Ultra(以下「FCB3」と記載)とした。
導電性カーボンブラックの種類をACB1、ACB2、ACB3、FCB2、FCB3いずれに変更しても平均抵抗率や平均抵抗率変動係数、繊維断面CVも優れた値を示し、工程通過性も良好で画像評価においても何ら問題がなかった。
実施例9、10および比較例3
実施例1において、表1のとおりに鞘成分の固有粘度(実施例9:IV1.10のPBT、実施例10:固有粘度1.75のPBT、比較例3:固有粘度0.89のPBT)とし、実施例1と同様に紡糸・延伸・評価を行った。
鞘成分のPBT固有粘度が実施例9〜10のポリマーを使用するにあたって、高い導電性を示し、繊維長手方向で安定した平均抵抗率を示し、且つ繊維断面CVが0.1以下であり太細の少ない繊維となっており、何ら問題となるものではなかった。
しかし、比較例3のように鞘成分のPBT固有粘度を0.89とすると、繊維長手方向の平均抵抗率の斑が大きくなり、繊維断面CVが0.1よりも大きくなり太細のある繊維となっており、画像評価においてスジや斑が多く、使用に耐えがたいものとなった。
比較例4
実施例1で用いたPBT−CBを芯成分ポリマーとし、鞘成分ポリマーとしてCB非含有PBTとした以外は、実施例1と同様に紡糸・延伸・評価を行った。導電性を担っているPBT−CBを芯成分としたことにより、抵抗率が高くなったことにより、画像評価においてスジや斑が多く、使用に耐えがたいものとなった。
実施例11〜実施例13
実施例1において、表1のとおりに芯成分ポリマーの種類(実施例11:通常用いられるIV0.67のPET、実施例8:東レ株式会社製PBT(タイプ1200S)、実施例9:PTT)とし、実施例7の紡糸温度を285℃とした以外は、実施例1と同様に紡糸・延伸・評価を行った。
芯成分ポリマー種を実施例7〜9のポリマーを使用するにあたって、高い導電性を示し、繊維長手方向で安定した平均抵抗率を示し、且つ繊維断面CVが0.1以下であり太細の少ない繊維となっており、何ら問題となるものではなかった。
実施例14、15および比較例5
実施例1において、表2のとおりに導電性成分の比率を変更した以外は、実施例1と同様に紡糸・延伸・評価を行った。
導電性成分比率が10体積%、50体積%では何ら問題がなかった。しかし、5体積%では、平均抵抗率が高く、繊維長手方向の平均抵抗率の斑が大きくなり、画像評価においてスジや斑が多く、使用に耐えがたいものとなった。
比較例6
実施例1において、表2のとおりに鞘成分ポリマー種(IV0.67のPET)とした以外は、実施例1と同様に紡糸・延伸・評価を行った。
紡糸時の糸切れが多く製糸困難であった。
実施例16
繊維横断面における導電層の露出長比率を25%として、部分露出型用複合口金を用いて実施例1と同様な繊度となるように吐出量を調整し、それ以外は実施例1と同様に紡糸・延伸・評価を行った。得られた繊維の横断面は図1(b)に示すとおりであった。
実施例17
繊維横断面における導電層の露出長比率を55%として、部分露出型用複合口金を用いて実施例1と同様な繊度となるように吐出量を調整し、それ以外は実施例1と同様に紡糸・延伸・評価を行った。得られた繊維の横断面は図1(c)に示すとおりであった。
実施例16、17は実施例1よりは繊維長手方向の斑が少し大きくなり、画像評価において多少スジや斑が見られたが、何ら問題となるものではなかった。
実施例18
実施例1において、芯成分を用いずに鞘成分のみとし、単成分用口金を用いて実施例1と同様な繊度となるように吐出量を調整し、それ以外は実施例1と同様に紡糸・延伸・評価を行った。得られた繊維の横断面は図1(d)に示すとおりであった。実施例1よりは繊維断面CVが少し大きくなり、画像評価において多少スジや斑が見られたが、何ら問題となるものではなかった。
実施例19
実施例1において、導電成分のPBT−CBに用いるPBTにエイコサン2酸を20モル%共重合した共重合PBT1を用いた以外は実施例1と同様に紡糸・延伸・評価を行った。
実施例20
実施例1において、導電成分のPBT−CBに用いるPBTにセバシン酸を20モル%共重合した共重合PBT2を用いた以外は実施例1と同様に紡糸・延伸・評価を行った。
実施例19、20は、導電成分に共重合PBTを使用するにあたって、高い導電性を示し、繊維長手方向で安定した平均抵抗率を示し、且つ繊維断面CVが0.1以下であり太細の少ない繊維となっており、何ら問題となるものではなかった。
本発明の導電性ポリエステル繊維の好ましい繊維横断面図である。
本発明以外の繊維横断面図である。
符号の説明
1:導電性成分
2:非導電性成分