JP5230262B2 - 樹脂または低融点ガラス含浸エナメル部分を有する歯牙模型用の歯牙の製造方法 - Google Patents

樹脂または低融点ガラス含浸エナメル部分を有する歯牙模型用の歯牙の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、歯科医師を目指す学生が、口腔内作業を体験し、治療の練習をする顎歯模型用に用いる歯牙に関する。顎歯模型用歯牙とは、大学などで顎歯模型を用いて口腔内の治療行為をシミュレーションや治療の練習をするために用いられる歯牙である。本発明は、特に歯牙を切削して支台歯形成、窩洞形成等の形態付与を体験する為に用いる歯牙およびその製造方法に関する。
従来、歯科治療の練習において、天然歯の切削感を体験するために、人体や動物からの抜去歯を用いていた。しかしながら、抜去歯には衛生上の問題があり、衛生管理を十分に行なわないと感染の可能性があり、自由に練習を行うことができなかった。また、天然生体であるため腐敗の問題があり、保存にも十分な注意が必要であった。
そのため、天然歯牙を用いずに歯牙の切削感を体験する方法が求められていた。
現在では、口腔内治療練習用の顎歯模型用の歯牙は、エポキシ樹脂、メラミン樹脂で製造されることが多く、一般に普及している。
しかし、エポキシ樹脂、メラミン樹脂で作製された顎歯模型用歯牙は、天然歯形態をしているものの、天然歯とは切削感が異なることから、支台歯形成や窩洞形成の練習をしても、実際の口腔内での作業をした場合と比較して切削感および作業性が異なり、練習効果が得られなかった。
具体的には、天然歯はエナメル質および象牙質(デンチン質)からなり、エナメル質やデンチン質は樹脂よりも硬く、エポキシ樹脂やメラミン樹脂は軟らかいため、多く切削する傾向にあり、このような模型歯牙で治療練習をしても、硬い天然歯は思った様に切削できない傾向にあった。
さらに、デンチン質の歯冠部を覆うエナメル質とデンチン質とは硬さが異なっている。その結果、エナメル質からデンチン質へと切削を移行させたとき、デンチン質を強く削ってしまい、上手く形体を作れないことも発生する可能性がある。
もう少し、硬い材料を求められた結果、コンポジットタイプのものが市販されている。コンポジットタイプの歯牙であっても、デンチン部分とエナメル部分が同一の切削感であるから、天然歯とは切削感が異なることから、支台歯形成や窩洞形成の練習をしても、実際の口腔内での作業をした場合と比較して切削感および作業性が異なり、練習効果が得られなかった。分かりやすい表現では滑る感覚があり、天然歯とは大きく違う切削感である。
すなわち、顎歯模型用の歯牙のエナメル部分からデンチン部分への移行部において、天然歯と同様に切削感が変ることが求められており、当然にして、エナメル部分はエナメル質の切削感、デンチン部分はデンチン質の切削感を再現することが重要である。
実開平1−90068には、エナメル質層に金雲母結晶[NaMg(SiAlO10)F]およびリチア・アルミナ・シリカ系結晶(LiO・Al・2SiO、LiO・Al・4SiO)が同時に析出したビッカース硬さ350〜450に制御されたガラス・セラミックスから構成され、歯根層には、ポリオール(主剤)に白色・赤色および黄色の着色剤を加え、さらにイソシアネートプレポリマー(硬化剤)を混入してシリコーンゴム母型に真空下で注入して、常温で硬化させ事前に準備をし、エナメル質層と歯根層との間に介在し、両者を合着している象牙質認識層はオペーク色を呈した接着性レジンで形成されていることが示されている。
しかしながら、エナメル質層が金雲母結晶やリチア・アルミナ・シリカ系結晶にて構成されたものでは天然歯に比べ、切削感が硬すぎるため使用に耐える物ではなく、更に象牙質認識層は接着性レジンで形成され、切削感が柔らかすぎる為、使用に耐える物ではなかった。
また更に、接着層にて象牙質層を形成するとの記載がある。エナメル層部分と歯根層部分を形成して、接着することが示されている。厚みのある接着材層にて象牙質層として認識するものである。
特開平5−224591には、天然歯と極めて類似した切削性を有し、歯科教育切削実習用として好適な歯牙模型を提供することが示されている。
構成として歯牙模型は、歯冠部の少なくとも表面がヌープ硬度70以上を有し、歯根部の少なくとも表面がヌープ硬度10〜40を有するものである。主要構成成分として、無機物粉体と架橋型樹脂とを、重量比で20%対80%乃至70%対30%の割合で含有している。
本文中に「歯牙模型の作製法及び経済的な観点から如何なる硬度の素材、例えば金属、セラミクス、樹脂で形成されていてもよく、更には空洞であってもよい。」との記載があるが、エナメル部分とデンチン部分の切削性の違いを示せる歯牙模型ではなかった。
特開平5−216395には、天然歯と極めて類似した切削性を有し、歯科教育切削実習用として好適な歯牙模型及びその製造方法を提供することが紹介されている。歯牙模型の主要構成成分として、気孔率が40〜80%のヒドロキシアパタイト粉末と、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂とを、重量比で20%対80%乃至50%対50%の割合で含有しているものである。しかしながら、特にエナメル部分とデンチン部分の切削性の違いを示せる歯牙模型ではなかった。
特開平5−241498、特開平5−241499、特開平5−241500には、無機充填材の記載やハイドロキシアパタイト充填材の記載があるがいずれも樹脂を母材とするものであり、切削感の解決には至っていない。しかしながら、特にエナメル部分とデンチン部分の切削性の違いを示せる歯牙模型ではなかった。
特開2004−94049には、レーザー光線を利用した正確な形状計測を可能とする歯科実習用模型歯を提供する発明が記載されている。
明細書中には、「本発明の模型歯の歯冠部表面を構成する材料としては、一般的に公知のものを用いることが可能であり、例えば、セラミックス等の磁器あるいはアクリル、ポリスチレン、ポリカーボネート、アクリロニトリルスチレンブタジエン共重合体(ABS)、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル等の熱可塑性樹脂材料や、メラミン、ユリア、不飽和ポリエステル、フェノール、エポキシ等の熱硬化性樹脂材料、さらには、これらの主原料にガラス繊維、カーボン繊維、パルプ、合成樹脂繊維等の有機、無機の各種強化繊維、タルク、シリカ、マイカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ等の各種充填材、顔料や染料等の着色剤、あるいは耐候剤や帯電防止剤等の各種添加剤を添加したものを用いることが出来る。」との記載があるが、好ましい材質の記載がなく、切削感を解決するものでは無かった。
研究の結果、天然歯牙の切削感を出す為には無機系の材料の焼成体を用いることが必要であることが分かったが、無機系の材料の硬さを制御することは難しいためにこれらを制御しながら、エナメル部分およびデンチン部分を製造することは難しかった。
特に、エナメル部分およびデンチン部分を同一の無機系材料の焼成体で歯牙模型を作製した場合、エナメル部分とデンチン部分との切削感の違いを再現することが困難であった。
エナメル部分とデンチン部分との切削感の違いを再現するために、エナメル部分とデンチン部分とを別個に作製し、それぞれの部分の切削感を調整することが考えられる。
焼成体の切削感を調整する為には、焼成体の密度、粒形、焼成温度を合わす事が必要であるが、焼成時のエナメル部分とデンチン部分の収縮率や熱膨張係数などが異なり、割れ、剥がれ、ヒビ割れなどが生じ、更に、デンチン部分とエナメル部分の間に隙間ができることから、切削時にチッピングを起こすことがあり、隙間が天然歯牙の切削感と異なる感覚を伝え、使用に耐えるものではなかった。
特に、エナメル部分とデンチン部分とを、別々の焼成体として作製した場合、エナメル部分とデンチン部分との接着が必要となり、接着部分を含む界面領域において切削感が大きく変動する。すなわち、エナメル部分からデンチン部分に移行するときに違和感が生じ、天然歯牙と大きく掛け離れた歯牙模型となる。
また、通常天然歯牙を切削すると生体を切削する時の独特の粘り気のある切削感が得られる。
このような天然歯独特の粘り気のある切削感を表現する為には、数々の方法が試されてきたが、樹脂やコンポジット等々では十分な切削感を得ることができず、従来の顎歯模型用歯牙では注水しながらで有ってもこのような感覚を得られることは無かった。エナメル質であっても同様な現象から無機材料の切削感よりも粘性を感じる切削感覚が求められている。
すなわち、従来の歯牙模型は、切削性において満足できる状況にない。従って、天然歯と切削性において類似する歯牙模型の開発が望まれていることが示されているものの、十分な切削感を示すものではなかった。特に天然歯独特の粘り気を有する歯牙を求める要望があり、また、エナメル部分とデンチン部分の切削性の違いを示せる歯牙模型ではなかった。
しかしながら、現在、天然歯のエナメル質およびデンチン質の切削感を実現する歯牙模型の具体的な組成も、それらの製造方法についても研究報告されていない。
したがって、エナメル部分とデンチン部分とを同一の無機材料を用いて作製され、かつ、天然歯独特の粘り気のある切削感を表現し、さらに、エナメル部分とデンチン部分との切削感の違いを再現する歯牙模型が求められている。
今までの開発では天然歯独特の歯髄を再現する方法は開発されておらず、露髄体験等を歯科学生は体験することができなかった。露髄(歯髄の部分まで削ること)は、歯科治療において最も重要な技術であり、また、誤って露髄してしまった場合には、その後の処置方法などを同時に学ぶ必要がある。
天然歯牙の齲蝕が進むにつれて、治療方法もエナメル層、デンチン層、歯髄へと進み、抜髄等の根管治療の実習も重要な治療である。抜髄などを実施する場合においても、歯髄をリーマで取り除き、デンチン質壁面とリーマが擦れ合う感覚が全く異なる為に、根管充填などの練習ができなかった。
歯髄の治療として、根管治療練習用のものもあるが、ボックス状のアクリルに小さな穴があいており、それを用いて根管治療の練習(根管清掃、根管拡張など)を行なっている。しかし、顎への装着ができないことや、デンチンの硬さの違い等があり、十分な練習ができていない現状にある。
これらの体験を容易に行える顎歯模型用歯牙が望まれている。特に根管清掃時に、根尖孔まで完全に歯髄が取り除かれているか、手の感覚で覚えるものであり、初心者には難しい。したがって、天然歯における歯髄が再現された顎歯模型用歯牙を用いて練習することが必要である。
また、歯科治療で齲蝕除去は重要な処置であるが、齲蝕部分は通常のデンチン部分よりも更に軟かくなっていることから、齲蝕部分の切削は難しい。したがって、天然歯における齲蝕が再現された顎歯模型用歯牙を用いて練習することが必要である。また、齲蝕部分を正確に除去したことを確認する方法が求められていた。
実開平1−90068号公報 特開平5−224591号公報 特開平5−216395号公報 特開平5−241498号公報 特開平5−241499号公報 特開平5−241500号公報 特開2004−94049号公報
本発明の目的は、天然歯の治療時と同様の感覚を体験することができる顎歯模型用の歯牙を提供することにある。特に、本発明は、エナメル部分およびデンチン部分を含む顎歯模型用の歯牙において、天然歯におけるエナメル質とデンチン質との切削感の違いが再現された顎歯模型用の歯牙を提供することにある。
本発明は、エナメル部分およびデンチン部分を含む治療練習用の顎歯模型用の歯牙であって、前記エナメル部分および前記デンチン部分が無機粉末の焼成体で形成され、前記焼成体を構成する無機粉末の粒子間に空隙が存在し、前記エナメル部分における前記空隙に、樹脂または低融点ガラスが含浸されている顎歯模型用歯牙を提供する。
本発明の顎歯模型用歯牙において、前記エナメル部分および前記デンチン部分を無機粉末の焼成体で一体的に形成することができる。得られた焼成体の一部分に樹脂または低融点ガラスを含浸させることによってエナメル部分が形成されている。
本発明の顎歯模型用歯牙において、前記樹脂として、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂または架橋剤を含んだ熱可塑性樹脂を用いることができ、前記低融点ガラスとして、200℃〜600℃で流動するガラスを用いることができる。
前記エナメル部分および前記デンチン部分が同一組成の焼成体で一体的に形成されているので、エナメル部分とデンチン部分との接着層が排除される。その結果、切削時にエナメル部分からデンチン部分への移行がスムーズである。
本発明の顎歯模型用歯牙には、例えば、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン、シリカ等の無機系材料の粉体を用いることができるが、これらに限定されるものではなく、各種の無機粉体およびそれらの混合物を用いることができる。
顎歯模型用歯牙は人体の中で最も硬い天然歯牙の代用物質で、通常の材料では切削時に軟らかく感じてしまうのに対し、本発明による顎歯模型用歯牙は、無機材料を用いて作製されているので、天然歯牙と同様な切削感を得ることができる。口腔内での400000回転/分という高速回転するダイヤモンド研削材(エアータービン使用)を用いた切削と同じような切削体験ができる。
本発明において、セラミック インジェクション モールド(CIM)技術を用いて無機粉末を射出成形して、所望の形状の射出体を形成し、得られた射出体を焼成することが好ましい。
高速回転する切削体と接触する為、歯牙と顎との適合性が重要であることから、成形において精密に成形できるCIM技術を用いることが好ましい。
更に、歯牙模型の歯冠の形状も重要であり、支台歯形成や窩洞形成の目標となり隆起部分や窩、咬頭などが正確に表現されていることが重要であり、CIM技術での成形が適している。
本発明の顎歯模型用歯牙において、デンチン部分の内部に歯髄部分を形成することができる。歯髄部分は、樹脂、シリコーンゴム、ワックスまたは水溶性材料で満たされている。
本発明顎歯模型用歯牙において、エナメル部分とデンチン部分の間またはその辺縁に疑似齲蝕部分を形成することができる。疑似齲蝕部分は、樹脂または無機粉末の焼成体で形成される。
本発明の顎歯模型用の歯牙は無機材料を用いて一体成型された焼成体であり、エナメル部分およびデンチン部分を含む。一体成型されているため、エナメル部分とデンチン部分と間に接着層が無く、接着材の軟質な感覚を味わうことなく切削時の移行がスムーズに違和感無くできる。
熱硬化性樹脂、架橋剤を含んだ熱可塑性樹脂または低融点ガラスを含浸させて、エナメル部分を形成するので、含浸させない場合と比べ、エナメル層に近い硬い切削感を得ることができる。
デンチン部分、エナメル部分双方とも天然歯と同じ様な切削感を得られ、エナメル部分からデンチン部分へ移行する切削感が天然歯に近いことから、模型であっても天然歯牙を削る練習が容易に行なえる。
本発明の顎歯模型用歯牙を用いて支台歯形成、窩洞形成をすることによって、一早く天然歯牙と同様な切削感を体験でき、形成体験が容易に行える。また、これらの形成技術を早く取得することができる。
さらに、本発明の歯牙には、歯髄部分または疑似齲蝕部分を形成することによって、根管治療または齲蝕治療の技術を体験することもできる。
本発明の顎歯模型用の歯牙1は、図1に示すように、少なくともエナメル部分11およびデンチン部分12を含む。
図2に示すように、エナメル部分11およびデンチン部分12は無機粉末の焼成体により一体的に形成され、この焼成体の所望の領域に、樹脂または低融点ガラスを含浸させることによって、エナメル部分11を形成する。
本発明の顎歯模型用の歯牙1を構成する無機粉末の焼成体2は、図3に示すように、無機粉末の粒子21が焼結することによって構成されている。さらに、粒子21の間には空隙22が存在する。
この空隙22に樹脂または低融点ガラス3を含浸させて、デンチン部分12よりも硬く、かつ、天然歯と同様の粘り気のある切削感が再現されたエナメル部分11を形成する。
次に、図4に示すように、無機粉末を射出成形して、所望の形状の射出体を形成し、得られた射出体を焼成することによって得られた焼成体(図4A)を樹脂または低融点ガラス3を満たした容器に浸漬することによって(図4B)、樹脂または低融点ガラス3をエナメル部分11とすべき所望の部分に含浸させる(図4C)。
真空容器内で、樹脂または低融点ガラス3を焼成体に含浸させることが好ましい。減圧下、焼成体2の空隙22内部の空気を排除することで、含浸を容易にすることができる。
本発明の顎歯模型用歯牙1において、デンチン部分12の内部に歯髄部分13を形成することができる(図5)。
デンチン部分12の内部に歯髄部分13を形成するためには、エポキシ樹脂等の燃焼性材料を用いて所望する歯髄形状の型を成形する。この歯髄形状の型を金型に設置して、無機粉末で射出体を形成し、これを焼成することによって、歯髄形状の型を焼失させて、歯髄形状の空間を内部に有する歯牙1を得る。得られた歯髄形状の空間に、樹脂、シリコーンゴム、ワックスまたは水溶性材料を満たすことによって、歯髄部分13を形成する。
本発明の顎歯模型用の歯牙において、エナメル部分11とデンチン部分12の間またはその辺縁に疑似齲蝕部分14を形成することができる。図6に、顎歯模型用歯牙のエナメル部分11とデンチン部分12との移行部分に疑似齲蝕14を形成した概略図を示す。
また、図7のように、疑似齲蝕部分14をエナメル部分の咬合面からデンチン部分に貫通するように形成することができ、歯髄部分13とともに疑似齲蝕部分14を形成することもできる。
疑似齲蝕部分14は、無機粉末の焼成体、樹脂またはコンポジットで形成される。疑似齲蝕部分14を樹脂またはコンポジットで形成した場合、無機粉末の焼成体、樹脂またはコンポジットに着色剤、蛍光材またはX線造影材を添加して、齲蝕部分除去の程度を視覚により確認できるようにすることができる。
本発明の顎歯模型用の歯牙は、天然歯と同じように無機系顔料を用いることによって、白色、アイボリー色、乳白色、半透明色とすることができるため、よりリアルな切削体験をすることができる。好ましくは白色、アイボリー色、乳白色である。
本発明の顎歯模型用の歯牙において、顎分野やマネキン部分は適宜選択することができる。但し、選択にあたって適合性を確認する為の処置を施すことは重要である。例えば、顎歯模型の歯牙挿入口の大きさに適宜合わせることは重要である。
本発明の顎歯模型用の歯牙を形成するために用いることができる無機粉末として、アルミナ系、ジルコニア系、シリカ系、窒化アルミ、窒化ケイ素などのセラミックスまたはガラスが挙げられる。アルミナ系、ジルコニア系が好ましい。
アルミナ系、ジルコニア系とはアルミナまたはジルコニアが焼成体組成の60%〜100%、好ましくは80%〜100%、更に好ましくは95%〜100%であることである。特にアルミナの組成が50%〜100%、好ましくは70%〜100%、更に好ましくは90%〜100%であることである。
無機粉末として、アルミナ系のセラミックスを用いることが好ましい。
無機粉末の焼成体で歯牙を形成する場合、その硬さの調整には、粒度を粗くする、空隙を多くする、組成を変えるなどの方法、焼成温度を変える、係留時間を変える等々の方法がある。
無機粉末焼成体の平均粒子径は0.1〜10μmで作製が可能であり、1.0〜5.0μmに設定することが好ましい。
焼成温度に関しては組成によって異なるが、シリカ等のガラス成分が多い場合は焼成温度が800〜1200℃、アルミナの場合は1200〜1600℃の焼成温度、好ましくは1400〜1550℃の焼成温度となる。
本発明の顎歯模型用の歯牙は、アルミナ粉末の焼成体で形成することが好ましい。この場合、アルミナ粉末の一次粒子径は0.2〜5μmであることが好ましく、1300〜1600℃の焼成温度で焼成することが好ましい。
焼成温度は切削感と密接な関係があり、粒度や原材料によって、調整しなければならない。同様に焼成温度での係留時間も切削感と密接な関係があり、粒度や原材料によって、調整しなければならない。
本発明の顎歯模型用の歯牙を構成する焼成体のビッカース硬度が300〜1000であることが好ましく、300〜600であることがより好ましい。
なお、歯牙組成にアルミナ焼成体の切削感を損なわない程度にシリカを代表とする金属酸化物を添加することは妨げない。
本発明の顎歯模型用の歯牙の焼成体を得るための射出体の成形は、セラミックスの成形方法としてよく用いられるCIM技術を用いることが好ましい。
CIM技術とは、無機粉末を成型する技術であり、次の工程を含む。
(1)アルミナをバインダー(1000℃ぐらいまでに熱で分解するもの)で練和し、ペレットを作製する。
(2)一定の形状の射出成形用の金型を作製し、(1)で作製したペレットを射出成型する。
(3)成型後、バインダーを脱脂(温度を上げて、バインダー成分を分解すること)する。
(4)次に、その脱脂体を所定温度で焼成し、所望の焼成体を得る。
本発明に用いることができるバインダーとして、ステアリン酸、ポリビニルアルコール、熱可塑性樹脂、ワックスなどが挙げられ、ステアリン酸またはポリビニルアルコールを用いることが好ましい。
熱可塑性樹脂とは、熱を加えることにより成形できる程度の熱可塑性を得ることの出来る樹脂のことを指す。
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は、具体的にはアクリル系、スチレン系、オレフィン系、塩ビ系、ウレタン系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリアセタール系、不飽和ポリエステル系、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテルなどを含む。
また、ポリスルホン系、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトンなども適宜使用できる。特に、アクリル系、が好ましい。
ワックスとしては、天然ワックス、合成ワックス両方用いることができる。天然ワックスとは、動植物ワックス、鉱物ワックス、石油ワックス等が代表される。合成ワックスとは、配合ワックスやポリエチレンワックス等を用いることができる。好ましくはパラフィンワックスである。ワックス系には油脂も含まれる。油脂とは脂肪酸のグリセリンエステルである。水に溶けず、アルコールなどに溶ける。常温(37℃、大気圧)で固体の脂肪であることが好ましい。植物性の木蝋(もくろう)、動物性の牛脂・豚脂などがある。具体的にはラウリン酸、ミリスチル酸、パルミチン酸、ベヘニン酸、ステアリン酸、生体から抽出した油脂などを利用することができ、生体から抽出した油脂が好ましい。特に、豚由来、牛由来の脂肪が好ましい(代表として、ラード、ヘットなどがある)。
CIM技術を用いて歯牙形態を射出成形し、脱脂、焼成の工程を経て得られた焼成体の歯牙を樹脂または溶融した低融点ガラスに浸漬し、所望の部分に樹脂またはガラスを含浸させてエナメル部分を形成する。減圧下で、樹脂または溶融ガラスを焼成体の歯牙に含浸させ、常圧に戻すことが好ましい。
本発明に用いる含浸させる樹脂は熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を用いることができる。
熱可塑性樹脂よりも熱硬化性樹脂の方が好ましい。熱硬化性樹脂とは、加工後は溶媒に溶けず再加熱しても軟化しない樹脂のことを指す。尿素樹脂・メラミン樹脂・フェノール樹脂、エポキシ樹脂などが代表的に使用でき、メラミン樹脂及びエポキシ樹脂が好ましい。最も好ましいのはエポキシ樹脂である。
化学重合性樹脂であることが好ましい。焼成体の空隙部分に樹脂が含浸し容易に硬化できるためである。
化学重合性樹脂とは、本来熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂に含まれる樹脂であっても、化学触媒を用いて、重合する樹脂のことである。特に架橋材を含み熱可塑性がないものが好ましい。
熱可塑性樹脂とは、熱を加えることにより成形できる程度の熱可塑性を得ることのできる樹脂のことを指す。
本発明のエナメル部分を形成するために用いることができる熱可塑性樹脂は、具体的にはアクリル系、スチレン系、オレフィン系、塩ビ系、ウレタン系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリアセタール系、飽和ポリエステル系、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテルなどを含む。特に、アクリル系、スチレン系、ウレタン系、ポリアミド系樹脂が好ましい。
これらの熱可塑性樹脂に架橋剤を混合することにより、熱硬化性樹脂の様に好ましい態様となる。即ち、切削時に発生する熱により溶解しないで、歯牙切削の練習をすることができる。
本発明のエナメル部分を形成するために用いることができるガラスは、特に限定されないが、200〜600℃の範囲で流動する低融点ガラスであることが好ましい。ガラスが流動を開始する温度が600℃以下であれば、無機粉体からなる焼成体が変形することがないため好ましい。
このような低融点ガラスとしては、アルミナシリケートガラスであることが好ましい。好ましいガラスの組成は、Alが5〜40%、SiOが20〜90%であり、また更に好ましくはAlが20〜35%、SiOが35〜70%であり、また更にAlが25〜33%、SiOが50〜65%であることが好ましい。
融点を下げる為に、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化リチウム、ランタノイドの酸化物の内1つ以上を1〜15%、更には3〜10%含有することが好ましい。特に、LaOを2〜10%加えることが好ましい。
他の配合成分としては、ホウ酸、リン酸、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化リチウム、石灰、マグネシヤ、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化鉛、チタニア、酸化亜鉛、ジルコニアと適宜加えることは好ましい。
副原料として、弁柄、三酸化コバルト、酸化ニッケル、重クロム酸カリ、酸化クロム、二酸化マンガン、過マンガン酸カリ、五酸化バナジウム、金属セレン、亜セレン酸ソーダ、酸化第二銅、硫酸銅、酸化第一銅、塩化金、硝酸銀、硫黄華、硫化ソーダ、蛍石、ケイフッ化ソーダ、アパタイトを加えることは好ましい。
ガラスに着色作用のある配合成分を添加することで、エナメル部分の視認性を高めるためにエナメル部分のみを容易に着色することができる。
本発明の顎歯模型用歯牙のデンチン部分にも、天然歯と同じ粘り気のある切削感を再現するために、エナメル部分を形成した後に、デンチン部分となる焼成体の部分の空隙に、水溶性材料、熱溶解性材料または有機系材料を含浸させることができる。
水溶性材料として、焼成体の空隙に含浸させることができる水溶性の高分子であれば特にこだわり無く使用することができる。多糖類、タンパク質の内少なくとも一つ以上であることが好ましい。好ましくはタンパク質である。
水溶性材料を含浸させた場合、注水や水を予め含浸させることにより効果を発揮する。
多糖類としてはデキストリン、グリコーゲン、セルロース、ペクチン、コンニャクマンナンとグルコマンナン、アルギン酸が好ましい。好ましくはセルロース、ペクチン、コンニャクマンナンとグルコマンナンである。ある程度の粘性が必要であるからである。
タンパク質としては約20種類の L-α-アミノ酸からなるポリペプチドを主体とする高分子化合物であればよい。組成の上から、アミノ酸だけからなる単純タンパク質と、核酸・リン酸・脂質・糖・金属などを含む複合タンパク質を用いることが好ましい。更に好ましいのはゼラチン、寒天系、コラーゲンとエラスチンである。また更に好ましくはゼラチン、寒天系である。水にどんどん溶けるのでなく、焼成体の空隙部分で形状を保つ必要があるからである。
熱溶解性材料として、ワックス系を用いる事ができる。
熱溶解性材料を含浸させた場合、切削時に発生する摩擦熱で溶解することにより効果を発揮する。ワックス系としては水を利用しなくとも、多糖類やタンパク質と同じ様な効果を示すものであり、注水設備が無いところでも簡単に歯牙研削練習を行なうことができる。
ワックス系の組成としては、天然ワックス、合成ワックス両方用いることができる。天然ワックスとは、動植物ワックス、鉱物ワックス、石油ワックス等が代表される。合成ワックスとは、配合ワックスやポリエチレンワックス等を用いることができる。好ましくはパラフィンワックスである。ワックス系には油脂も含まれる。油脂とは脂肪酸のグリセリンエステルである。水に溶けず、アルコールなどに溶ける。常温(37℃、大気圧)で固体の脂肪であることが好ましい。植物性の木蝋(もくろう)、動物性の牛脂・豚脂などがある。具体的にはラウリン酸、ミリスチル酸、パルミチン酸、ベヘニン酸、ステアリン酸、生体から抽出した油脂などを利用することができ、生体から抽出した油脂が好ましい。特に、豚由来、牛由来の脂肪が好ましい(代表として、ラード、ヘットなどがある)。
含浸時に界面活性剤を混合することで、含浸を手助けすることができる。即ち、焼成体の空隙部分にこれらの水溶性材料または熱溶解性材料を含浸させるためには界面活性剤の助剤は重要な役目をする。
界面活性剤は水溶性材料として用いることもできる。
界面活性剤は陰イオン系、非イオン系、陽イオン系、両性イオン系など適宜用いることができる。好ましくは陰イオン系、非イオン系である。
陰イオン系としては、脂肪酸塩(セッケン) C11H23COONa、アルファスルホ脂肪酸エステル塩(α-SFE) C10H21-CH(SO33Na)COOCH3、アルキルベンゼンスルホン酸塩(ABS) C12H25-(C6H4)SO3Na、アルキル硫酸塩(AS)[高級アルコール系] C12H25-OSO3Na、アルキルエーテル硫酸エステル塩(AES) C12H25-O(CH2CH2O)3SO3Na、アルキル硫酸トリエタノールアミン C12H25-OSO3 -+NH(CH2CH2OH)3等が用いられる。
非イオン系としては、脂肪酸ジエタノールアミド C11H23-CON(CH2CH2OH)2、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(AE) C12H25-O(CH2CH2O)8H、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(APE) C9H19-(C6H4)O(CH2CH2O)8H等が用いられる。
陽イオン系としてはアルキルトリメチルアンモニウム塩 C12H25-N+(CH3)3・Cl-、ジアルキルジメチルアンモニウムクロリド C12H25-N+(C8H17)(CH3)2・Cl-、アルキルピリジニウムクロリド C12H25-(N+C5H5)・Cl-等が用いられる。
両性イオン系としては、アルキルカルボキシベタイン[ベタイン系] C12H25-N+(CH3)2・CH2COO-等が用いられる。
水溶性材料または熱溶解性材料を含浸する方法を以下に示す。
含浸させる水溶性材料または熱溶解性材料をビーカーに入れ、適当な温度になるように加温して、粘度を下げる。適度の界面活性剤を入れる。粘度が下がった所で、セラミック焼成体を投入し、真空デシケータ中に設置する。真空デシケータ中の空気を抜いていき、セラミック焼成体中の空気を外へ出していく、減圧が進むにつれて、焼成体表面に空気に泡が出てきて内部の空気が抜けた事が分かる。様子を見て、空気が出たところでデシケータに空気を静かに戻すことで含浸する。
有機系材料として、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂、架橋剤を含んだ樹脂のうち少なくとも一つ以上である事が好ましい。更に、エポキシ樹脂が好ましい。
本発明の顎歯模型用の歯牙において、擬似齲蝕や擬似歯髄を形成する方法を以下に示す。
燃焼性の熱硬化性樹脂材料で齲蝕部位や歯髄部分を作製し、金型で歯牙を作製する際にこの燃焼性の熱硬化性樹脂材料で作製された齲蝕部位や歯髄部分を覆う様にCIM材料を射出成型し、その後焼成にて齲蝕部位や歯髄部分を中空とする。
中空となった齲蝕部位や歯髄部分に樹脂やシリコーンゴムなどを流し込むことで、擬似齲蝕や擬似歯髄とする。
齲蝕形状は咬合面の窩の部分やエナメルデンチン移行部分に作製する。窩の部分などで作製する場合、エナメルは大きく侵されていないが、デンチン部分は大きく侵されていることが多くある。こういった袋状の齲蝕部位を再現する方法は確立していなかった。
また、歯髄形状においても、同様に根尖孔の様に小さい孔のみが外部に空いていて、内部で大きく歯髄部分を有する袋状の歯髄部位を再現する方法は確立していなかった。
歯牙のエナメル部分に樹脂を含浸させる時に、同時に齲蝕部分や歯髄部分に樹脂を含浸させても良い。歯牙のエナメル部分に樹脂を含浸させる前に、齲蝕部分や歯髄部分に樹脂を含浸させ、事前に重合硬化させることで、齲蝕側の無機粉末焼成体や歯髄側の無機粉末焼成体に樹脂が含浸することを防ぎ、切削感がより天然歯牙に近づいて好ましい。
齲蝕部分や歯髄部分に用いる材料は、弾性樹脂、発泡樹脂、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂、架橋剤を含んだ樹脂、水溶性材料、熱溶解性材料などから自由に選ぶことができる。
齲蝕部分に用いる好ましい樹脂は、発泡樹脂、熱硬化性樹脂である。更に好ましくは熱硬化性樹脂または架橋剤を含んだ樹脂が好ましい。更に、エポキシ樹脂が好ましい。
歯髄に用いる好ましい樹脂は、弾性樹脂、発泡樹脂、熱硬化性樹脂である。
齲蝕部分や歯髄部分に用いることができる水溶性材料および熱溶解性材料や含浸させる方法は、上記と同様である。
本発明の顎歯模型用歯牙のセラミックス焼成体中の齲蝕部分や歯髄部分のシリコーンゴムは、何ら制限無く使用できる。特に歯髄部分への適用は好ましい。他にも利用できるゴム材料として、クロロスルホン化ポリエチレンゴム:ハイパロンゴム、フッ素ゴム、イソブテンイソプレンゴム:ブチルゴム、天然ゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム:ハイカー、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム:ネオプレン等が例示される。ゴム高度(デュロメータ(JIS K 6253))10〜70、好ましくは20〜50である。
本発明の顎歯模型用歯牙のセラミックス焼成体中の齲蝕部分や歯髄部分のワックスは、動物由来のワックス(蜜蝋、鯨蝋、セラック蝋、その他)、植物由来のワックス(カルナバ蝋、木蝋、米糠蝋(ライスワックス)、キャンデリラワックス)、石油由来のワックス(パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス)、鉱物由来のワックス(モンタンワックス、オゾケライト)、合成ワックス(フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス、油脂系合成ワック(エステル、ケトン類、アミド)、水素化ワックス)などを用いることができる。特に歯髄部分への適用は好ましい。好ましくは、石油由来のワックスであり、特にパラフィンワックスが好ましい。
本発明の顎歯模型用歯牙のセラミックス焼成体中の齲蝕部分や歯髄部分の水溶性材料は、多糖類、タンパク系の内少なくとも一つ以上を含むものである。水溶性材料は注水や水を予め含浸させることにより効果を発揮する事ができる。好ましくはタンパク質である。
水溶性材料として親水性ポリマーも好ましい。例えば、天然由来の半合成のカルボキシメチルセルロース(CMC),メチルセルロース(MC)等のセルロース誘導体から,ポリビニルアルコール(PVA),ポリアクリル酸系ポリマー,ポリアクリルアミド(PAM),ポリエチレンオキシド(PEO)等の合成系の水溶性高分子を利用することができる。
燃焼性材料とは、歯髄形状に形作れ、歯牙を形成するときの射出圧や温度にて変形せずに、歯牙の焼成時に燃焼して歯髄空間を作り出せるものであれば良い。具体的には樹脂であり、特に好ましくは熱硬化性樹脂である。具体的には尿素樹脂・メラミン樹脂・フェノール樹脂、エポキシ樹脂などや、アクリル系、スチレン系樹脂を架橋して用いても良い。
燃焼性材料を用いて、齲蝕部分や歯髄部分に成形した燃焼性材料歯髄を成形する焼成性歯髄作製工程とは、歯牙の歯髄形状を形成する為に歯牙の焼成時に、燃焼する材料にて事前に齲蝕部分や歯髄部分を形成する工程である。
無機材料で作製される歯牙は焼成工程を経る為、焼成時に燃焼材料で空間を儲け、後に歯髄に適した材料で埋めることで歯牙を完成させる。その為の歯髄形状作製工程である。
歯牙金型中の所定の位置に燃焼性材料で作製された齲蝕部分や歯髄部分を設置する金型設置工程とは、燃焼性材料で作製された齲蝕部分や歯髄部分を金型に設置する工程である。事前に成形しておいた燃焼性材料で作製された齲蝕部分や歯髄部分を金型中に設置しても良いし、連続的にその場で成形した燃焼性材料で作製された齲蝕部分や歯髄部分を歯牙形状の金型に入れなおしてもどちらでも良い。
無機粉末とバインダーからなるペレットを歯牙金型中に射出し射出歯牙を得る射出工程とは、燃焼性材料で作製された齲蝕部分や歯髄部分を設置した歯牙金型に加熱混合した歯牙組成の無機粉末とバインダーからなるペレットを射出する工程である。本工程では燃焼性材料で作製された齲蝕部分や歯髄部分が細い為に、注意して射出しなければならない。
射出歯牙を脱脂後焼成して焼成歯牙を得る焼成工程とは、射出工程で得られた射出歯牙を焼成する工程である。焼成工程での焼成温度は、ガラス分が多い場合、800〜1200℃であり、アルミナの場合、1200〜1600℃、好ましくは1400〜1550℃である。このときに、燃焼性材料で作成された齲蝕部分や歯髄部分は燃焼して、空間部分を形成する。
焼成された齲蝕部分や歯髄部分に、樹脂、シリコーンゴム、ワックス、水溶性材料等にて満たす歯髄作製工程とは、この焼成された歯髄の空間部分に樹脂、シリコーンゴム、ワックス、水溶性材料にて擬似歯髄を設ける工程である。作製方法は、注射器のようなもので充填する方法や、擬似歯髄材料中に浸漬し、真空容器に入れ、真空にすることで焼成体の歯髄部分に満たす方法もある。
次に本発明の顎歯模型用歯牙作製方法について以下で説明する。
(歯牙の焼成体作製)
焼成体1:
歯牙形体の形状を射出成形できる金型を作製した。歯牙の原料としてのCIM用アルミナペレット(Alが100%、平均粒径5.0μm、ステアリン酸30%)1kgを用いて、歯牙形体の金型に射出成形し、射出体1を得た。
作製された歯牙の形をした射出体を、脱脂、焼成(1500℃、係留時間10分)として焼成体1を得た。
焼成体2:
歯牙形体の形状を射出成形できる金型を作製した。歯牙の原料としてのCIM用アルミナペレット(Alが100%、平均粒径1.0μm、ステアリン酸30%)1kgを用いて、歯牙形体の金型に射出成形し、射出体2を得た。
作製された歯牙の形をした射出体を、脱脂、焼成(1500℃、係留時間10分)として焼成体2を得た。
(樹脂の含浸)
得られた焼成体1および2の歯冠部を以下の各材料中に浸漬し、真空容器に入れ、減圧した。10分間放置後、常圧に戻すことによって、各材料を含浸させて、エナメル部分を形成した(実施例1〜6)。含浸深さは、アルミナペレットに含まれるアルミナ粉末の粒度や含浸樹脂材料により異なるが、0.5〜5.0mmであった。
歯牙はそれぞれ30個作製し、歯牙の切削感を確認した。
(試験を行なった樹脂)
エポキシ樹脂(低粘度エポキシレジン Z-2/H-07):触媒を添加したエポキシ樹脂を用いた。常圧に戻した後、72時間放置後、ダイヤモンドバーで切削感を確認した。
アクリル樹脂(クラレ製、MMAモノマー):化学重合触媒を添加したアクリル樹脂を用いた。常圧に戻した後、72時間放置後、ダイヤモンドバーで切削感を確認した。
メラミン樹脂(RTVシリコーン樹脂 M8017:旭化成):触媒を添加したシリコーン樹脂を用いた。常圧に戻した後、72時間放置後、ダイヤモンドバーで切削感を確認した。
比較例として、何も含浸させていない焼成体1および2を用いた(比較例1〜2)。
Figure 0005230262
評価基準
(切削感)
A:デンチン部分およびエナメル部分の切削感が十分に表現できていた。
B:デンチン部分およびエナメル部分の切削感が十分に表現できていなかった。
(デンチン−エナメル移行感)
A:デンチン部分とエナメル部分との間の移行の際に、切削感の違いが十分に表現出来ていた。
B:デンチン部分とエナメル部分との間の移行の際に、切削感の違いが十分に表現出来ていなかった。
C:デンチン部分とエナメル部分との間の移行の際に、切削感の違いが全く表現出来ていなかった。
実施例1〜6は比較例1および2と比べて粘りが感じられ天然歯牙と同様な切削感が得られた。切削時におけるセラミックス独特の粉砕感がほとんど無く、生体歯牙を削る感覚に近かった。
減圧量や減圧時間、浸漬時間を制御して樹脂の含浸深さを調整することにより、天然歯と同様に、切削感の異なるエナメル部分とデンチン部分とを有する歯牙を作成することができた。
デンチンとエナメルを別で作製した場合は、デンチンとエナメル間でチッピングするため、容易に歯牙切削の練習をすることが容易に出来なかった。
(ガラスの含浸)
得られた焼成体1および2の歯冠部に以下の各材料で作成した泥沼を築盛し、下記温度で焼成することによって、各材料を含浸させて、エナメル部分を形成した(実施例7〜10)。含浸深さは、アルミナペレットに含まれるアルミナ粉末の粒度や含浸ガラス材料により異なるが、0.5〜5.0mmであった。
歯牙はそれぞれ30個作製し、歯牙の切削感を確認した。
(試験を行なったガラス)
PbO-SiO2-B2O3:焼成温度550℃
アルミナシリケートガラス:焼成温度950℃
Figure 0005230262
評価基準
(切削感)
A:デンチン部分およびエナメル部分の切削感が十分に表現できていた。
B:デンチン部分およびエナメル部分の切削感が十分に表現できていなかった。
(デンチン−エナメル移行感)
A:デンチン部分とエナメル部分との間の移行の際に、切削感の違いが十分に表現出来ていた。
B:デンチン部分とエナメル部分との間の移行の際に、切削感の違いが十分に表現出来ていなかった。
C:デンチン部分とエナメル部分との間の移行の際に、切削感の違いが全く表現出来ていなかった。
実施例7〜8は粘りが感じられ天然歯牙と同様な切削感が得られた。切削時におけるセラミックス独特の粉砕感がほとんど無く、生体歯牙を削る感覚に近かった。
ガラスの種類やガラス築盛後の焼成時間を制御して低融点ガラスの含浸深さを調整することにより、天然歯と同様に、切削感の異なるエナメル部分とデンチン部分とを有する歯牙を作成することができた。
歯科医師を育てる大学において、天然歯牙を切削する練習用歯牙として用いることができる。
本発明の顎歯模型用歯牙の断面図。 エナメル部分を形成する前の歯模型用歯牙の断面図。 無機粉末焼成体の拡大図。 本発明の顎歯模型用歯牙の作製方法を示す概略図。 歯髄部分を含む本発明の顎歯模型用歯牙の断面図。 疑似齲蝕部分を含む本発明の顎歯模型用歯牙の断面図。 歯髄部分および疑似齲蝕部分を含む本発明の顎歯模型用歯牙の断面図。
符号の説明
1・・・歯牙形状の焼成体、
11・・・樹脂が含浸したエナメル部分、
12・・・樹脂が含浸していないデンチン部分、
13・・・歯髄部分、
14・・・擬似齲蝕部分、
2・・・無機粉末の焼成体、
21・・・無機粉末の粒子、
22・・・空隙、
3・・・樹脂または溶融したガラス。

Claims (1)

  1. エナメル部分およびデンチン部分を含む治療練習用の顎歯模型用の歯牙の製造方法であって、
    無機焼成体の粉末をバインダーで練和し、ペレットを作製する工程、
    一定の形状の射出成形用の金型を用いて、前記ペレットを射出成型して、エナメル部分およびデンチン部分を含む所望の形状の射出体を一体的に形成する工程、
    射出体を熱処理して、バインダーを脱脂する工程、
    脱脂された射出体を所定温度で焼成し、所望の形状の焼成体を形成する工程、および
    前記焼成体の一部分に樹脂または低融点ガラスを含浸させて、エナメル部分を形成する工程
    を含み、前記射出体を一体的に成形する工程において、前記射出体の内部に、燃焼性材料を用いて歯髄形状に成形した燃焼性歯髄型を設置し、前記焼成体を形成する工程において、前記燃焼性歯髄型を焼失させることによって、前記焼成体のデンチン部分に歯髄形状の空間を形成し、さらに、前記歯髄形状の空間に、樹脂、シリコーンゴム、ワックスまたは水溶性材料を注入する工程を含むことを特徴とする顎歯模型用の歯牙の製造方法。
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