本発明の第1の実施の形態を図1〜図12に基づいて説明する。
図1は、この実施の形態に係るクレーン10の全体構成を示す。このクレーン10は、クレーン本体に相当する旋回体12と、この旋回体12を旋回可能に支持する走行体14と、ブーム16及びジブ18を含む起伏部材と、ブーム起伏用部材であるマスト20とを備え、前記旋回体12の後部にはカウンタウエイト13が積載される。
図に示されるブーム16は、いわゆるラチス型であり、基端側部材16Aと、一または複数(図例では2個)の中間部材16B,16Cと、先端側部材16Dとで構成される。具体的に、前記基端側部材16Aは、前記旋回体12の前部に起伏方向に回動可能となるように連結される。前記中間部材16B,16Cは、その順に前記基端側部材16Aの先端側に着脱可能に継ぎ足される。前記先端側部材16Dは前記中間部材16Cの先端側に着脱可能に継ぎ足され、この先端側部材16Dの先端部に、後述のように前記ジブ18を回動させるためのリヤストラット21及びフロントストラット22が回動可能に連結される。
ただし、本発明ではブームの具体的な構造は限定されない。例えば、当該ブームは単一の部材で構成されたものでもよい。
前記ジブ18も、その具体的な構造は限定されないが、図例ではラチス型の構造を有する。そして、このジブ18の基端部は、前記先端側部材16Dの先端部に回動可能に連結されており、前記ジブ18の回動中心軸は、前記旋回体12に対する前記ブーム16の回動中心軸と平行な横軸になっている。この回動は、後述の張出し姿勢と内抱き姿勢の双方を実現可能にする。
前記マスト20は、基端及び回動端を有し、その基端が前記旋回体12に回動可能に連結される。この回動軸は、前記ブーム16の回動軸と平行でかつ当該ブーム16の回動軸のすぐ後方に位置している。すなわち、このマスト20は前記ブーム16の起伏方向と同
方向に回動可能である。一方、このマスト20の回動端は左右一対のブーム用ガイライン24を介して前記ブーム16の先端に連結される。この連結は、前記マスト20の回動と前記ブーム16の回動とを連携させる。
前記旋回体12上には左右一対のバックストップ23が設けられる。これらのバックストップ23は、前記ブーム16が図1に示される起立姿勢まで到達した時点で当該ブーム16の基端側部材16Aの左右両側部に当接し、この当接によって、前記ブーム16が強風等で後方に煽られるのを規制する。
前記リヤストラット21は、前記先端側部材16Dの先端からブーム起立側(図1では左側)に張り出す姿勢で保持される。この姿勢を保持する手段として、当該リヤストラット21と前記ブーム16との間に左右一対のバックストップ25及び左右一対のガイライン26が介在する。前記バックストップ25は、前記先端側部材16Dと前記リヤストラット21の中間部位との間に介在し、前記リヤストラット21を下から支える。前記ガイライン26は前記リヤストラット21の先端部と前記基端側部材16Aとを結ぶように張設され、その張力によって前記リヤストラット21の位置を規制する。
前記フロントストラット22は、前記ジブ18と連動して回動するようにこのジブ18と連結される。詳しくは、このフロントストラット22の先端部と前記ジブ18の先端部とを結ぶように左右一対のジブ用ガイライン28が張設される。従って、このフロントストラット22の回動駆動によって前記ジブ18も回動駆動される。
このクレーン10には、各種ウインチが搭載される。具体的には、前記ブーム16を起伏させるためのブーム起伏用ウインチ30と、前記ジブ18を起伏方向に回動させるためのジブ起伏用ウインチ32と、吊り荷の巻上げ及び巻下げを行うための主巻用ウインチ34及び補巻用ウインチ36とが搭載される。この実施の形態に係るクレーン10では、前記ブーム起伏ウインチ30が前記マスト20の基端近傍部位に据え付けられる。また、前記ジブ起伏用ウインチ32、前記主巻用ウインチ34、及び前記補巻用ウインチ36がいずれも前記ブーム16における基端側部材16Aに据え付けられる。これらのウインチ30,32,34,36は前記旋回体12に搭載されていてもよい。
前記ブーム起伏用ウインチ30は、ブーム起伏用ロープ38の巻取り及び繰出しを行う。そして、この巻取り及び繰出しにより前記マスト20が回動するように前記ブーム起伏用ロープ38が配索される。具体的に、前記マスト20の回動端部及び前記旋回体12の後端部にはそれぞれ複数のシーブが幅方向に配列されたシーブブロック40,42が設けられ、前記ブーム起伏用ウインチ30から引き出された前記ブーム起伏用ロープ38が前記シーブブロック40,42間に掛け渡される。従って、前記ブーム起伏用ウインチ30が前記ブーム起伏用ロープ38の巻取りや繰出しを行うことにより、前記両シーブブロック40,42間の距離が変化し、これによって前記マスト20さらにはこれと連動する前記ブーム16が起伏方向に回動する。
前記ジブ起伏用ウインチ32は、ジブ起伏用ロープ44の巻取り及び繰出しを行う。そして、この巻取りや繰出しによって前記フロントストラット22が回動するように前記ジブ起伏用ロープ44が配索される。具体的には、前記リヤストラット21の長手方向中間部にはガイドシーブ46が設けられるとともに、このリヤストラット21の回動端部及び前記フロントストラット22の回動端部にそれぞれ複数のシーブが幅方向に配列されたシーブブロック47,48が設けられ、前記ジブ起伏用ウインチ32から引き出された前記ジブ起伏用ロープ44が前記ガイドシーブ46に掛けられ、かつ、前記シーブブロック47,48間に掛け渡される。従って、前記ジブ起伏用ウインチ32による前記ジブ起伏用ロープ44の巻取りや繰出しは、前記両シーブブロック47,48間の距離を変え、前記
フロントストラット22さらにはこれと連動する前記ジブ18を起伏方向に回動させる。
前記主巻用ウインチ34は、主巻ロープ50による吊り荷の巻上げ及び巻下げを行う。この主巻について、前記リヤストラット21の基端近傍部位、前記フロントストラット22の基端近傍部位、及び前記ジブ18の先端部にはそれぞれ主巻用ガイドシーブ52,53,54が回転可能に設けられ、さらに前記主巻用ガイドシーブ54に隣接する位置に複数の主巻用ポイントシーブ56が幅方向に配列された主巻用シーブブロックが設けられており、前記主巻用ウインチ34から引き出された前記主巻ロープ50が前記主巻用ガイドシーブ52,53,54に順に掛けられ、かつ、前記シーブブロックの主巻用ポイントシーブ56と、吊荷用の主フック57に設けられたシーブブロックのシーブ58との間に掛け渡される。従って、前記主巻用ウインチ34が前記主巻ロープ50の巻取りや繰出しを行うと、前記両シーブ56,58間の距離が変わって前記主フック57の巻上げ及び巻下げが行われる。
同様にして、前記補巻用ウインチ36は、補巻ロープ60による吊り荷の巻上げ及び巻下げを行う。この補巻については、前記主巻用ガイドシーブ52,53,54とそれぞれ同軸に補巻用ガイドシーブ62,63,64が回転可能に設けられ、前記補巻用ガイドシーブ64に隣接する位置に後述の図4に示すような補巻用ポイントシーブ66が回転可能に設けられている。前記補巻用ウインチ36から引き出された前記補巻ロープ60は、前記補巻用ガイドシーブ62,63,64に順に掛けられ、かつ、前記補巻用ポイントシーブ66から垂下される。従って、前記補巻用ウインチ36が前記補巻ロープ60の巻取りや繰出しを行うと、前記補巻ロープ60の末端に連結された図略の吊荷用の補フックが巻上げられ、または巻下げられる。
次に、このクレーン10の解体作業及びそのための構造について説明する。
このクレーン10は、解体された状態で輸送される。その解体作業には、前記旋回体12から前記ブーム16やマスト20を切離す作業が含まれる。この解体作業を安全に行うためには、前記ブーム16及びジブ18が地面上に横たわった姿勢にする必要がある。
このような姿勢に移行する際には、まず、図2に示すようにジブ18がブーム16の先端よりも外側(同図では右側)に張出した着地姿勢(第1の着地姿勢)で当該ジブ18の先端部が地面G上に降ろされる。そして、そのままジブ18の張出しを続けることにより当該ジブ18と前記ブーム16とが一直線上に延びる張出し姿勢(すなわち約180°まで全開する姿勢)に移行される。このような張出し姿勢は、安定性に優れ、またブーム16やジブ18への強度的負担も少ない姿勢である。
しかし、解体作業のためのスペースが小さいために前記張出し姿勢をとることができない場合がある。その場合には、図3に示すような内抱き姿勢が採択される。この内抱き姿勢は、前記ジブ18の腹面(倒伏側の面)と前記ブーム16の腹面とが近接するように折り畳まれた姿勢であり、この姿勢は前記張出し姿勢よりも安定性に劣るがスペースを要しない姿勢である。
従って、前記張出し姿勢及び内抱き姿勢は、解体作業のためのスペースの大小によって適宜採択されることになるが、いずれの姿勢をとる場合にも、図2に示される第1の着地姿勢あるいはこれに類する着地姿勢から前記張出し姿勢や内抱き姿勢に移行するためには前記ジブ18の先端が地面G上を円滑に移動することが必要となる。そこで、この実施の形態では、前記ジブ18の先端に前記地面G上を転動可能な左右一対の車輪70が設けられる。そして、このクレーン10の特徴として、前記車輪70は、前記張出し姿勢、前記内抱き姿勢のいずれの姿勢に移行する際にも利用可能となるように、前記ジブ18の先端
に取付けられている。この車輪70の取付構造を図4〜図6を参照しながら説明する。
前記車輪70は、前記補巻用ポイントシーブ66よりも大きな直径を有し、かつ、この補巻用ポイントシーブ66と同軸の配置で共通の車輪支持部材72に回転可能に支持される。この車輪支持部材72は、前記ジブ18の回動中心軸と平行なピン74を中心として回動可能となるようにジブ18の先端に取付けられている。この車輪支持部材72の回動は、当該車輪支持部材72自身が図1に示すような吊り作業及び図2に示すような張出し姿勢への移行に好適な張出し用支持位置と図3に示すような内抱き姿勢への移行に好適な内抱き用支持位置とに切換わることを可能にする。
ここで、前記張出し用支持位置は、図2に示すような第1の着地姿勢でジブ18の先端よりも先に前記車輪70が地面Gに着地でき、かつ、この第1の着地姿勢から前記張出し姿勢に至るまで当該車輪70が前記地面G上を転動することが可能な位置である。これに対し、前記内抱き用支持位置は、前記第1の着地姿勢よりもブーム16がやや起立しかつ当該ブーム16に対してジブ18が回動してこのジブ18の先端が地面Gに近接する第2の着地姿勢から前記図3に示すような内抱き姿勢に至るまで前記車輪70が前記ジブ18よりも下側の位置で地面G上を転動することが可能な位置である。
なお、前記第1の着地姿勢と前記第2の着地姿勢とは同一であってもよい。すなわち、共通の着地姿勢から前記張出し姿勢及び前記内抱き姿勢のいずれにも移行することが可能なものでもよい。このような共通の着地姿勢としては、例えば、前記ブーム16の先端から前記ジブ18を略鉛直下向きに垂下させた姿勢が挙げられる。
前記車輪支持部材72は、左右一対の第1主材75と、これら第1主材75よりもジブ18の背面(起立側の面)の側に位置する左右一対の第2主材76とを有する。前記第1主材75同士及び前記第2主材76同士はそれぞれ補強材78を介して連結され、前記第1主材75と前記第2主材76とは補強板80を介して連結される。すなわち、全ての種材75,76は相互一体に運動するように一体化されている。
一方、前記ジブ18はその先端に左右一対の取付板19を有し、これらの取付板19に前記各第1主材75の後端部(図4では下端部)がそれぞれ前記ピン74を介して回動可能に連結されている。これらのピン74の位置は、前記取付板19のうち前記ジブ18の腹面(倒伏側の面)の側の位置(図4では右側の位置)に設定されている。
前記第1主材75と前記第2主材76は、これらの間隔が先端側に向かうに従って小さくなるV字状に配され、その先端側の端部がそれぞれ左右の軸支部82に連結されている。そして、これらの軸支部82に前記車輪70と前記補巻用ポイントシーブ66とが軸支される。
具体的に、前記各軸支部82にはこれを前記ジブ18の回動中心軸と平行な方向に貫通する状態で円筒状のボス83が固定され、このボス83に支軸84が挿通されて固定されている。そして、この支軸84に前記車輪70と前記補巻用ポイントシーブ66の双方が回転可能に取付けられている。前記補巻用ポイントシーブ66は、前記両軸支部82同士の間の領域内で前記支軸84にシーブ用軸受86を介して取付けられ、前記車輪70は前記支軸84の両端部に取付けられている。これらの車輪70は、円板状の内壁70aと、この内壁70aの周縁部に接合された円筒状の周壁70bとを有し、この周壁70bの外周面が転動面を構成するとともに、前記内壁70aが車輪用軸受88を介して前記支軸84の両端部に回転可能に取付けられている。
前記ジブ18の先端には、前記車輪支持部材72に加えて回動リンク(回動部材)90
が取付けられる。そして、この回動リンク90を利用して、前記車輪支持部材72が前記張出し用支持位置と前記内抱き用支持位置とに選択的に固定される。
前記回動リンク90は、互いに平行に延びる左右一対の主材92と、これらの主材92同士を連結する副材94とを有する。ジブ18の幅方向について前記各主材92の位置は前記車輪支持部材72の各第2主材76の位置に対応している。そして、各主材92の長手方向の一方の端部(基端部)が、前記取付板19の先端の背面側部位(図4では左側部位)に、前記ピン74と平行なピン96を介して当該ピン96を中心に回動可能に連結されている。これに対し、前記各主材92の他方の端部(先端部)は、連結材である連結ピン100が挿通可能な回動側連結部98となっている。また、前記ジブ18の先端において前記ピン96に対しジブ腹面側に隣接する位置にも、前記ピン96が挿通可能なジブ側連結部102が設けられている。
一方、前記車輪支持部材72の第2主材76の基端部(ジブ18の先端に近い側の端部)すなわち、その回動中心軸である前記ピン74から外れた部位にも、それぞれ前記連結ピン100が挿通可能な車輪側連結部104が設けられている。この車輪側連結部104は、当該車輪側連結部104と前記回動側連結部98とに前記連結ピン100が挿通されることによって当該回動側連結部98に連結される一方、当該車輪側連結部104と前記ジブ側連結部102とに前記連結ピン100が挿通されることによって当該ジブ側連結部102に連結される。そして、前記車輪側連結部104が前記回動側連結部98に連結されることによって前記車輪支持部材72が図4、図7等に示される前記張出し用支持位置に固定される一方、前記車輪側連結部104が前記ジブ側連結部102に連結されることによって前記車輪支持部材72が図11に示される前記内抱き用支持位置に固定されるように、前記各連結部98,102,104の位置が設定されている。
さらに、前記車輪支持部材72には、保持部110が設けられている。この保持部110は、前記車輪支持部材72の位置として内抱き用支持位置が選択されて前記車輪側連結部104が前記ジブ側連結部102に連結されたときに当該車輪側連結部104から切り離された前記回動リンク90を保持するためのものである。
この保持部110は、前記回動リンク90が前記車輪70や地面Gと接触するのを阻止するように(すなわち前記車輪70の転動に影響を与えない位置に保持するように)前記回動リンク90の保持を行うものであり、左右一対の支持板112と、連結管114と、ストッパピン116とを有する。
前記各支持板112は、前記各ボス83からその径方向に沿って前記第1主材76と略直交する向きでかつ背面側に張り出し、これら支持板112の端部同士が前記連結管114を介して連結される。前記ストッパピン116は、前記各支持板112の側面から両外側に突出し、その突出量は、当該ストッパピン116の先端部が前記回動リンク90の各主材92と重なるのに十分な量に設定されている。
このストッパピン116の位置は、図7〜図11に示すように前記ジブ18の先端が下に向けられて当該ジブ18の先端から前記回動リンク90が垂下する姿勢で前記車輪70の地面G上の転動を伴いながら前記車輪支持部材72が前記張出し用支持位置(図7)から前記内抱き用支持位置(図11)まで回動する際、前記垂下した姿勢の回動リンク90の各主材92の下端部が前記ストッパピン116と前記支軸84との間の保持位置に入り込むような位置に設定されている。
さらに、この実施の形態に係る車輪支持部材72には、前記主材92の下端部を前記保持位置に案内するための左右一対の案内板118が設けられている。これらの案内板11
8は、前記第2主材76の背面上から前記ボス83にわたって延びる案内面を有し、この案内面上を前記主材92の下端部が滑動する。その詳細については後述する。
次に、このジブ付クレーン10における前記車輪支持部材72の位置切換、及びその位置切換を利用した解体作業について説明する。
図1に示すような通常の吊り作業時には、ブーム16の先端部から外側にジブ18が張り出される(すなわちブーム16に対してジブ18が起立する)姿勢が取られる。このとき、前記車輪支持部材72の位置としては図4に示すような張出し用支持位置が採択され、この位置に車輪支持部材72が固定される。この固定は、前記車輪支持部材72の車輪側連結部104と回動リンク90の回動側連結部98との連結により行われ、この連結は、前記回動リンク90の主材92と前記車輪支持部材72の第2主材76とが一直線状に配置された状態で前記両連結部104,98に共通のピン100が挿通されることにより行われる。なお、このピン100を中心とする前記主材92と前記第2主材76との相対的な回動は、前記第2主材76側に設けられた支持板119が前記主材92の回動側連結部98の側面に当接することで防がれる。
この張出し用支持位置は、前記車輪70及び補巻用ポイントシーブ66が前記ジブ18の先端にある主巻用ポイントシーブ56よりもさらにジブ18の腹面側に張り出す位置であって、この主巻用ポイントシーブ56から垂下する主巻ロープ50及び主フック57と、前記車輪支持部材72に支持される補巻用ポイントシーブ66から垂下する補巻ロープ60及び図略の補フックとが干渉しない位置である。従って、この位置が採択されることにより、前記主巻ロープ50や前記補巻ロープ60を用いた吊り荷の巻上げ及び巻下げが支障なく行われる。
一方、前記クレーン10の解体を行う場合には、まず、前記作業時の姿勢(第1の着地姿勢に相当する姿勢)のままブーム16を倒してジブ18を地面G上に降ろす操作が行われる。このとき、前記車輪支持部材72は前記張出し用支持位置に固定されているので、図2及び図7に示されるように、前記ジブ18のどの部位よりも先に車輪70が着地する。
この着地後、解体用の姿勢として、ブーム16とジブ18が一直線状に並ぶ姿勢、すなわち、前記ブーム16に対してジブ18が略180°開く張出し姿勢を採択する場合には、前記図2及び図7に示す状態からそのままブーム16に対するジブ18の張出し(起立方向の回動)とブーム16の倒伏とを並行させればよい。このとき、前記地面G上に着地している車輪70がそのまま当該地面G上を転動するため、前記ジブ18の張出しは安定した状態で円滑に進められる。
一方、作業スペースが小さくて前記張出し姿勢をとることができない場合には、前記図3に示されるような内抱き姿勢が採択される。この内抱き姿勢は、前記ジブ18の腹面すなわち倒伏側の面が、前記ブーム16の腹面すなわち倒伏側の面に近接するように折り畳まれる姿勢であり、前記張出し姿勢に比して安定性は劣るが、限られた作業スペース内で形成し得る利点がある。
この内抱き姿勢へ移行するためには、前記ブーム16及び前記ジブ18の回動とともに、前記車輪支持部材72の位置を切換えることが必要である。具体的には、例えば次の操作を順に行うことにより達成される。
1)回動側連結部98及び車輪側連結部104から連結ピン100を引抜いて両連結部98,104を切り離す。
2)ジブ18の先端を僅かに持ち上げて車輪70を地面Gから浮かせる。この操作は、図8に示すように前記車輪70及び車輪支持部材72をピン74から垂下させるとともに、回動リンク90もピン96から垂下させる。これらの垂下により、前記回動側連結部98は車輪支持部材72の車輪側連結部104からその背面側(図8では右側)に大きく離間する。
3)ジブ18の先端を降ろして前記車輪70を再着地させる。この再着地の際、図9に示すように車輪70の回転中心軸(支軸84)が車輪支持部材72の回動中心軸(ピン74)よりもジブ18の背面側に位置するように、当該車輪支持部材72を鉛直軸に対して傾かせておく。この傾斜状態は、前記車輪支持部材72の重心の設定によって自動的に生じさせることも可能である。
4)前記ジブ18の先端をさらに少しずつ下げて車輪支持部材72の傾きを増加させる(図10)。そして、この車輪支持部材72の車輪側連結部104とジブ側連結部102とが合致する位置で両連結部104,102に前記連結ピン100を通すことにより両連結部104,102同士を連結する(図11)。これにより、車輪支持部材72は、前記車輪70が前記ジブ18の先端よりもその背面側(図11では右側)に張り出す内抱き用支持位置に固定される。このときのブーム16及びジブ18の姿勢が第2の着地姿勢であり、前記車輪側連結部104と切り離されて自由端部となった回動リンク90の各主材92の下端部は、前記車輪支持部材72に設けられた案内板118の案内面上を摺動しながら前記支軸84と前記ストッパピン116との間に滑り込み、この位置(保持位置)にて保持される。
5)前記車輪70の地面G上での転動を伴いながら、前記ブーム16に対する前記ジブ18の倒伏方向の回動(折畳み方向の回動)と前記ブーム16の倒伏方向の回動とを適宜並行させることにより、前記第2の着地姿勢から最終的に図3及び図12に示すような内抱き姿勢へと移行する。このとき、前記内抱き用支持位置にある車輪支持部材72に支持された車輪70はジブ18の先端よりもその背面側に張り出しているので、当該車輪70は当該ジブ18のどの部位よりも下側となる位置を保つ。従って、この車輪70の地面G上での転動は、前記ジブ18の移動中もこのジブ18が地面Gに接触するのを阻止し続ける。また、前記ストッパピン116を含む保持部110が前記回動リンク90を保持するために、この回動リンク90が地面G上に垂れ下がったり前記車輪70に接触したりすることが防がれる。このことは、前記車輪70の正常な転動を助ける。
以上のように、このジブ付クレーン10では、車輪70の付け替えをしなくても車輪支持部材72の回動によって前記車輪70の位置切換ができる。さらに、前記車輪支持部材72の車輪側連結部104を回動リンク90の回動側連結部98とジブ18側のジブ側連結部102に選択的に連結することで、前記車輪支持部材72を張出し用支持位置、内抱き用支持位置のいずれにも固定することが可能である。しかも、前記車輪側連結部104が前記ジブ側連結部102に連結されて当該車輪側連結部104から前記回動リンク90が切離されているときは、この回動リンク90の主材92の端部を保持部110が保持することにより当該回動リンク90が前記車輪70の転動に支障を与えることが防がれる。
特に、この実施の形態では、前記図7〜図11に示されるように前記ジブ18の先端が下に向けられて当該ジブ18の先端から前記回動リンク90が垂下する姿勢で前記車輪70の地面上の転動を伴いながら前記車輪支持部材72が前記張出し用支持位置から前記内抱き用支持位置まで回動する際に、その垂下した姿勢の回動リンク90の主材92の下端部が自動的に前記保持部110に受け入れられる(すなわちストッパピン116と支軸84との間に滑り込む)ため、当該回動リンク90の保持のための特別な作業が要らない。
このことは、作業効率をさらに高める。
ただし、本発明に係る保持部は図示のものに限定されない。例えば、回動リンク90が手動でセットされるものでもよいし、ジブ18の先端側に設けられたものでもよい。
次に、本発明の第2の実施の形態を図13−図17を参照しながら説明する。この実施の形態に係るクレーンの車輪支持部材は、第1リンク138と第2リンク140とを有する。
前記第1リンク138は前記第1の実施の形態に係る車輪支持部材72と同等の構造、すなわち、左右一対の第1主材75及び第2主材76並びに軸支部82を有する構造を有し、ピン74を中心として回動可能となるようにジブ18の連結板19に連結されている。
前記第2リンク140は、その一方の端部に連結ピン100が挿入可能な孔をもつ第2連結部147を有し、他方の端部にピン101が挿入可能な第1連結部146を有する。前記連結ピン100は、前記第2主材76の端部に設けられた車輪側連結部104の孔、さらには、ジブ18側の連結板19に設けられたジブ側連結部102の孔にも挿脱可能に挿入可能であり、前記第2連結部147と前記車輪側連結部104とに挿入されることによって、前記第2リンク140と前記第1リンク138とを当該ピン100周りに回動可能に連結する。一方、前記連結ピン101は、前記連結板19において前記ジブ側連結部102に隣接する位置に設けられたもう一つのジブ側連結部103の孔にも挿脱可能に挿入可能である。
前記第1リンク138は、前記ピン74回りの回動により、図13に示される張出し用支持位置と図17に示される内抱き用支持位置とに切換可能であるとともに、それぞれの位置に固定可能である。具体的には、図13に示されるように、前記第2連結部147と前記車輪側連結部104とが重なった状態でこれらに前記連結ピン100が挿入され、かつ、前記ジブ側連結部103と前記第1連結部146とが重なる状態でこれらに前記連結ピン101が挿入されることにより、前記第1リンク138が張出し用支持位置に固定される。その一方、図17に示されるように、前記ジブ側連結部102に前記車輪側連結部104及び第2連結部147が重なった状態でこれらに前記連結ピン100が挿入されることにより、前記第1リンク138が内抱き用支持位置に固定される。
前記第2リンク140は、これを厚み方向に貫通する被案内溝144を有する。この被案内溝144は、前記第2連結部147と前記第1連結部146とを結ぶ直線と平行な直線状をなす。一方、前記連結板19には前記被案内溝144内に嵌り込む案内ピン142が突設され、この案内ピン142は、前記ジブ側連結部103と前記第1連結部146とが切離された状態で前記第1リンク138が回動するのに伴い前記第2リンク140が特定の移動軌跡を描くように、この第2リンク140を案内する。この移動軌跡は、当該第2リンク140とジブ18及びジブ18に取付けられた部材(例えばガイドシーブ54,64)との干渉を回避し得る軌跡である。
この第2の実施の形態では、前記第1の実施の形態と同様にして、例えば次のような手順で第1リンク138が図13に示す張出し用支持位置から図17に示す内抱き用支持位置に切換えられる。
1)図13に示す状態でジブ側連結部103及び第1連結部146から連結ピン101を引抜いて両連結部103,146を切り離す。
2)図14に示すように、ジブ18の先端を僅かに持ち上げて車輪70を地面Gから浮かせることにより、前記車輪70及び第1リンク138をピン74から垂下させる。この垂下により、第1リンク138はジブ背面側(図14では右側)に若干傾き、前記ジブ側連結部103は前記第1連結部146から僅かに離れる。
3)ジブ18の先端を降ろして前記車輪70を再着地させる。この再着地の際、前記車輪70はジブ背面側に僅かに転動する(図15)。
4)前記ジブ18の先端をさらに少しずつ下げて前記第1リンク138の傾きを増加させる(図16)。そして、この第1リンク138の車輪側連結部104及び第2リンク140の第2連結部147が連結板19のジブ側連結部102と合致する位置でこのジブ側連結部102にも前記連結ピン100を通すことにより、前記各連結部102,104,145を同軸位置で連結する(図17)。これにより、第1リンク138は前記車輪70が前記ジブ18の先端よりもその背面側(図17では右側)に張り出す内抱き用支持位置に固定され、ブーム16及びジブ18は第2の着地姿勢をとる。この内抱き用支持位置に至るまでの際、前記第2リンク140は、案内ピン142の案内を受けて、ジブ18およびこのジブ18に取付けられた部材との干渉を避けるような軌跡を描きながら前記連結ピン100を中心に回動する。
従って、この第2の実施の形態に係るジブ付クレーン10においても、車輪70の付け替えをせずにその位置切換を行うことができるとともに、連結ピン100,102を用いて第1リンク138を張出し用支持位置、内抱き用支持位置のいずれにも固定することができる。特に、内抱き用支持位置の固定については、前記第1リンク138と前記第2リンク140とを連結する連結ピン100を有効に利用することができる。
本発明の第3の実施の形態を図18−図20に示す。
この第3の実施の形態に係る車輪支持部材は、第1リンク121と第2リンク150とを具備する。前記第1リンク121は、ジブ18の先端に設けられた連結板19にピン123を介して回動可能に連結される端部と、車輪70の支軸124に回動可能に連結される端部とを有する。この第2リンク150は、前記ピン123を中心とする前記第1リンク121の回動を許容するように伸縮し、かつ、前記第1リンク121を前記張出し用支持位置及び前記内抱き用支持位置にそれぞれ位置させる伸縮状態でその伸縮が固定可能な構造を有している。
具体的に、前記第2リンク150は、いわゆるテレスコープ型の伸縮構造を有している。詳しくは、この第2リンク150は3つの筒状のリンク部材151,152,153により構成され、リンク部材151はその内側にリンク部材152が挿入可能な内径を有し、リンク部材152はその内側にリンク部材153が挿入可能な内径を有している。前記リンク部材151の一端は支軸124に回動可能に連結され、他端に前記リンク部材152が摺動可能に挿入される。前記リンク部材153の一端はジブ18側の連結板19にピン158を介して回動可能に連結される一方、他端は前記リンク部材152内に摺動可能に挿入されている。
前記第2リンク150全体は、前記リンク151,152,153同士の摺動を伴いながら伸縮する。この第2リンク150は、前記第1リンク121が図18に示す張出し用支持位置にあるときに最も伸張し、前記第1リンク121が図20に示す内抱き用支持位置にあるときに最も収縮する。そして、その最伸縮状態及び最収縮状態でそれぞれその伸縮が固定可能な構造を有している。
具体的に、前記リンク部材151,152,153のそれぞれの両端部のうちジブ側の端部(図18−図20では上端部)にはピン挿入孔154,155,156がそれぞれ穿設され、前記各リンク部材152,153の車輪側の端部(図18−図20では下端部)にもピン挿入孔157,158がそれぞれ穿設されている。前記ピン挿入孔154と前記ピン挿入孔157、及び前記ピン挿入孔155と前記ピン挿入孔158は、それぞれ、図18に示すように前記第2リンク150が最も伸張した状態で互いに合致する位置にあり、この最伸張状態で前記ピン挿入孔154,157に固定ピン161が、前記ピン挿入孔155,158に固定ピン162がそれぞれ挿入されることにより、同状態に第2リンク150が固定される。その一方、前記ピン挿入孔154,155,156は、図20に示すように前記第2リンク150が最も収縮した状態で互いに合致する位置にあり、この最収縮状態で前記ピン挿入孔154−156に共通の固定ピン160が挿入されることにより、同状態に第2リンク150が固定される。
この第3の実施の形態に係るクレーンでは、前記第1リンク121が前記第2リンク150の伸縮を伴いながらピン123を中心に回動することにより、図18に示される張出し用支持位置と図20に示される内抱き用支持位置とに切換えられる。しかも、前記第2リンク150の伸縮は図18に示される最伸張状態で固定ピン161,162により固定可能であり、この固定が前記第1リンク121を同図の張出し用支持位置に固定する。同様に、前記第2リンク150の伸縮は図20に示される最収縮状態でも固定ピン160により固定可能であり、この固定が前記第1リンク121を同図の張出し用支持位置に固定する。
以上説明した各実施形態では、その車輪支持部材にそれぞれ前記車輪70に加えて前記補巻用ポイントシーブ66が取付けられ、前記のように前記車輪70及び前記補巻用ポイントシーブ66が共通の軸(図例では支軸84または支軸124)に回転可能に支持されているので、構造の簡素化及び配置のコンパクト化が実現される。