本願発明は、耐薬品性、湿熱疲労性に優れたポリカーボネートとポリエステルとからなる熱可塑性樹脂組成物に関する。さらに詳しくは特定成分を特定量含有するポリエステルとポリカーボネートと使用することによる、耐薬品性、湿熱疲労性に優れた熱可塑性樹脂組成物に関する。
ポリカーボネートとポリエステル(以後、代表的なポリエステルであるポリエチレンテレフタレートにちなみポリエチレンテレフタレート類あるいは単にPET類と略称することがある。)とから成る熱可塑性樹脂組成物は、ポリカーボネートの本来有する耐衝撃性とポリエチレンテレフタレート類の有する耐薬品性とをあわせ有する材料として、自動車、OA分野等の分野に幅広く使用されている。
ポリエチレンテレフタレート類としてはエチレングリコール等の脂肪族グリコールとエステル結合形成性前駆体であるテレフタル酸より直接エステル化により製造する方法、あるいはテレフタル酸ジメチルエステルよりエステル交換法により製造する方法、あるいはテレフタル酸ジクロリドより界面重合法により製造する方法、さらには上記方法で製造された比較的低分子量のポリエチレンテレフタレート類を固体状態で、常圧下あるいは減圧下重縮合を行う固相重合法で製造する方法等が知られている。
またポリカーボネートに関してもジヒドロキシ化合物とカーボネート結合形成性前駆体であるホスゲンとを直接反応させる方法(界面重合法)、あるいはジフェニルカーボネート等の炭酸ジエステルを溶融状態でエステル交換させて重合する方法(溶融法)等が知られている。
これらの方法で製造されたポリエチレンテレフタレート類およびポリカーボネートからの熱可塑性樹脂組成物は両成分の優れた物性である耐薬品性、耐衝撃性、あるいは成形性等を併せ持つものと期待されている。
同時に、これら物性の一層の向上を図るため、従来多くの提案がなされている。
耐衝撃性に優れるポリカーボネートも溶融粘度安定性、湿熱疲労性、さらに耐薬品性に劣る欠点を有しているため、耐薬品性、湿熱疲労性に良好なポリエチレンテレフタレート類との組成物を製造することによりこれらの物性の向上を図っているが、脂肪族グリコールとしてエチレングリコールを使用するポリエチレンテレフタレートとの組成物においては、長時間、高温高湿度条件にさらされると、ポリエチレンテレフタレートの結晶化、ポリカーボネートの加水分解が進行するためかヒンジ特性が大幅に低下し、繰返し屈曲における耐湿熱疲労性が低下し、成形品が破壊する例がみられることがある。
このため機械的強度、耐薬品性、湿熱疲労性の要求される分野、例えば自動車用部品であるアウターハンドル、インナードアハンドル等や機械部品例えば電動工具カバー等への使用要求を満足する材料はいまだ得られてないのが現状である。
発明が解決しようとする課題
本願発明はポリカーボネートとポリアルキレンテレフタレート類とが本来有する耐衝撃性および耐薬品性等の特性を維持しつつ、溶融粘度安定性、湿熱疲労性等の優れた熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
本願発明者らは、斯かる樹脂組成物を鋭意検討した結果、特定成分を特定量含有するポリエステルと特定成分を特定量含有するポリカーボネートとの特定物性を有する熱可塑性樹脂組成物が優れた耐湿熱疲労性を有することを見出し本願発明に到達した。
課題を解決するための手段
すなわち本願発明は、主たる繰返し単位が式(1)で表されるポリカーボネート(A)の5〜95重量部に対し、主たる繰返し単位が式(2)で表されるポリエステル(P)を95〜5重量部の割合で含んでなり、溶融粘度安定性が2.5%以下である熱可塑性樹脂組成物を提案するものである。
(R
1、R
2,R
3、R
4はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、アラルキル基またはアリール基、Wはアルキリデン基、アルキレン基、シクロアルキリデン基、シクロアルキレン基、フェニル基置換アルキレン基、酸素原子、硫黄原子、スルホキシド基、またはスルホン基である。)
なお、上記において、「含んでなる熱可塑性樹脂組成物」とは、熱可塑性樹脂組成物が、上記の成分を含む材料をブレンドし、あるいは混練して造られることを意味する。
すなわち本願発明者等は、ポリエステルとしてポリエステル(P)を使用し、熱可塑性樹脂組成物の溶融粘度安定性を2.5%以下に制御することにより熱可塑性樹脂組成物の耐薬品性、耐湿熱疲労性および溶融安定性を向上させうること見出した。
すなわち本熱可塑性樹脂組成物の湿熱安定性を高めるためにはポリカーボネート(A)とポリエステル(P)とからなる熱可塑性樹脂組成物は、溶融粘度安定性を2.5%以下とすることが必要であり、さらに好ましくは、溶融粘度安定性が2%以下、さらに好ましくは1.5%、とくに好ましくは1.0%以下の範囲である。理想的にはこの値が0になる場合である。
(酸価の範囲)
本願発明のさらに好ましい実施態様において、ポリエステル(P)の酸価が10〜60当量/106gであることを特徴とする。
ポリエステル(P)末端構造としては、グリコール成分よりの脂肪族水酸基、カルボン酸成分よりのカルボキシル基、および該ポリエステル(P)がエステル交換法により製造された場合にはメチルエステル基があるが、本願発明においては、カルボキシ末端基の存在量に関し、ポリエステル(P)106g当り酸価が10〜60当量存在することが本願発明樹脂組成物の耐熱性、耐薬品性の向上に関し好ましい。さらに好ましくは20〜50当量、特に好ましくは25〜45当量の範囲が選択される。
該末端カルボキシ基が、熱可塑性樹脂組成物中においてポリエステル(P)成分とポリカーボネート(A)成分とのより緊密な相互作用を生み出し、耐湿熱老化性を向上さすのではないかと推定されている。
酸価が上記範囲を超えていると、熱可塑性樹脂組成物中に気泡が混入する等の好ましくない現象が起こることがあり避けなくてはならない。また逆に酸価が小さすぎると上記の効果が期待されない。
(分岐成分量)
本願発明の熱可塑性樹脂組成物においてポリエステル(P)成分とポリカーボネート(A)成分とのより緊密な相互作用を増大させるため、さらに好ましい実施態様として、ポリカーボネート(A)が式(3)−1〜3で表される分岐成分(D)をカーボネート結合1モルに対し0.01〜2.0モル%含有することを特徴とする。斯かる構造単位の存在により、本願発明組成物の機械的強度、例えば耐疲労性、耐衝撃性等の向上に好ましい効果が見られる。
ポリカーボネート(A)中のかかる構造成分の好ましい存在範囲は0.02〜1.5モル%であある。さらに好ましくは0.05〜1.0モル%の範囲、特に好ましくは0.05〜0.8モル%の範囲である。
本願発明において分岐成分(D)はより好ましい構造として(6)−1〜3で表される構造を有する。
(式中Ar1、Ar
3は3価の炭素数6〜50の芳香族基を、Ar,Ar
4は2価の炭素数6〜50の芳香族基を表す。)
ポリカーボネート(A)中に含有される(3)−1〜3で表される成分(D)とポリエステル(P)の末端カルボキシ基(C’)との存在モル比(D/C’)がD/C’=0.01〜15であることが好ましい。斯かる量比で(C’)、(D)成分が存在することにより、両者の作用が相乗的に働き、本願発明の目的を達成するために好適である。更に好適な範囲は0.02〜10、特に好ましい範囲として0.05〜5の範囲が選択される。
なお、本願発明において、ポリエステル(P)の酸価は(C)で表し、カルボキシ基は(C’)で表している。
本願発明において更に好ましくは、ポリエステル(P)がポリプロピレンテレフタレート、ポリプロピレン2,6−ナフタレートより選択されるポリエステルであることを特徴とする。
本願発明で言うポリカーボネート(A)は、式(4)であらわされるジヒドロキシ化合物とカーボネート結合形成性前駆体とを界面重合法または溶融法で反応させて製造された式(1)で表される主たる繰り返し単位を有するものが好ましい。
(R
1,R
2,R
3,R
4はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、アラルキル基またはアリール基であり、Wはアルキリデン基、アルキレン基、シクロアルキリデン基、シクロアルキレン基、フェニル基置換アルキレン基、酸素原子、硫黄原子、スルホキシド基、またはスルホン基である。)
本願発明で好ましく使用されるポリカーボネートは、ジヒドロキシ化合物、特に芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート結合形成性前駆体とを溶融重縮合法で反応させて得られるものである。なお、本願発明の効果は本願発明に係るポリカーボネート(A)が芳香族ポリカーボネートであり、あるいは、ジヒドロキシ化合物が芳香族ジヒドロキシ化合物であるとき特に大きい。本願明細書中で各種添加量をジヒドロキシ化合物に対する量として規定したが、この場合の量関係は、ジヒドロキシ化合物が芳香族ジヒドロキシ化合物である場合に特に適切なものである。
溶融法で製造されたポリカーボネートのうちエステル交換触媒の存在下、とりわけエステル交換触媒としてア)含窒素塩基性化合物および/または含リン塩基性化合物および/またはイ)アルカリ金属化合物を含有するエステル交換触媒の存在下重縮合されたポリカーボネート樹脂が、本願発明の目的、すなわち成形加工時の安定性に関し、好ましく使用される。
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、具体的にはビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、4,4’−〔1,3−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)〕ビスフェノール、4,4’−〔1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)〕ビスフェノール、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンなどのビス(4−ヒドロキシアリール)アルカン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、4−[1−〔3−(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルシクロヘキシル〕−1−メチルエチル]−フェノ−ル、4,4’−〔1−メチル−4−(1−メチルエチル)−1,3−シクロヘキサンジイル〕ビスフェノール、2,2,2’,2’−テトラヒドロ−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビス−〔1H−インデン〕−6,6’−ジオールなどのビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルフェニルエーテルなどのジヒドロキシアリールエーテル、
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィドなどのジヒドロキシジアリールスルフィド類、
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシドなどのジヒドロキシジアリールスルホキシド、
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン、などのジヒドロキシジアリールスルホン、
4,4’−ジヒドロキシジフェニル−3,3’−イサチンなどのジヒドロキシジアリールイサチン類。3,6−ジヒドロキシ−9,9−ジメチルキサンテンなどのジヒドロキシジアリールキサンテン、
レゾルシン、ヒドロキノン、2−t−ブチルヒドロキノン、2−フェニルヒドロキノン、2−クミルヒドロキノン、4,4−ジヒドロキシジフェニルなどのジヒドロキシベンゼン等が例示される。
中でも2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンがモノマーとしての安定性、更にはそれに含まれる不純物の量が少ないものの入手が容易である点、等より好ましいものとしてあげられる。
本願発明においては、ガラス転移温度の制御、流動性の向上、屈折率のアップあるいは複屈折の低減、光学的性質の制御等を目的として、各種モノマーを必要に応じて、ポリカーボネート(A)中に一種あるいは2種以上を含有させることも可能である。
これらの具体例としては、たとえば脂肪族ジヒドロキシ化合物例えば、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,10−デカンジオール、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、ジエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、トリシクロデカンジメタノール等、あるいはジカルボン酸、たとえば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、あるいはオキシ酸例えばp−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、乳酸等が挙げられる。
カーボネート結合形成性前駆体としては、溶液法では、ホスゲンなどのハロゲン化カルボニル、ハロホーメート化合物が、溶融法では、芳香族炭酸エステルが、具体的には、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等が挙げられる。その他ジメチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネート等も所望により使用できる。これらの内ジフェニルカーボネートが反応性、得られる樹脂の着色に対する安定性、更にはコストの点よりも好ましい。
固相重合法で、上述の界面重合法または溶融法で製造された分子量の小さなポリカーボネートオリゴマーを結晶化させ、高温、(所望により減圧)下、固体状態で重合を進めたポリカーボネートも同様に好ましく使用することができる。
またポリカーボネート製造時、炭酸ジエステルとともにジカルボン酸、ジカルボン酸ジハライド、ジカルボン酸ジエステル等のジカルボン酸誘導体を併用して製造した、エステル結合を含有するポリ(エステルカーボネート)に対しても本願発明は有効に使用できる。
エステル結合形成性前駆体であるジカルボン酸誘導体としては、テレフタル酸、テレフタル酸ジクロリド、イソフタル酸ジクロリド、テレフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジフェニルなどの芳香族ジカルボン酸誘導体、コハク酸、ドデカンニ酸、ダイマー酸、アジピン酸ジクロリド、デカン二酸ジフェニル、ドデカンニ酸ジフェニル等の脂肪族ジカルボン酸誘導体類、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジクロリド、シクロプロパンジカルボン酸ジフェニル、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジフェニル等の脂環式ジカルボン酸誘導体類をあげることができる。
また式(4)であらわされる上記のジヒドロキシ化合物とともに、一分子中に3個以上の官能基を有する多官能化合物を併用することもできる。このような多官能化合物としてはフェノール性水酸基、カルボキシ基を有する化合物が好ましく使用される。
具体的にはたとえば、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、α,α’,α”−トリス(−ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリイソプロピルベンゼン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプタン−2、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、トリメリット酸、ピロメリット酸などがあげられる。
たとえばポリカーボネート(A)の溶融粘度をあげる目的で多官能化合物を併用するときは、ジヒドロキシ化合物に1モルに対して0.03モル以下、好ましくは0.00005〜0.02モル、さらに好ましくは0.0001〜0.01モルの範囲が選択される。
繰り返し単位が式(1)であらわされるポリカーボネート(A)を製造する方法において、前述した界面重合法では、触媒として3級アミン、4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩、含窒素複素環化合物およびその塩、イミノエーテルおよびその塩、アミド基を有する化合物などが使用される。
界面重合法では反応の際生じる塩酸などのハロゲン化水素の捕捉剤として多量のアルカリ金属化合物あるいはアルカリ土類金属化合物が使用されるので、製造後のポリマー中に、こうした不純物が残留しないように十分な洗浄、精製をすることが好ましい。
溶融法、固相重合法では触媒系については、アルカリ金属化合物を含有する触媒系が好ましく使用されるが、アルカリ金属としての使用量をジヒドロキシ化合物1モルに対し0.01×10-6〜2×10-6当量にすることが好ましい。上記範囲を逸脱すると、得られるポリカーボネートの諸物性に悪影響を及ぼす場合や、あるいはエステル交換反応が十分に進行せず高分子量のポリカーボネートが得られない場合がある等の問題があり、好ましくない場合が多い。
アルカリ金属化合物としては、従来エステル交換触媒として公知のアルカリ金属の水酸化物、炭化水素化合物、炭酸塩、シアン酸塩、チオシアン酸塩、有機カルボン酸塩、水素化硼素塩、燐酸水素化物、ビスフェノール、フェノールの塩等が挙げられる。
具体例としては水酸化ナトリウム、炭酸リチウム酢酸カリウム、硝酸ルビジウム、亜硝酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、シアン酸ナトリウム、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、水素化硼素ナトリウム、水素化硼素リチウム、フェニル化硼素ナトリウム、安息香酸ナトリウム、リン酸水素ジカ4リウム、ビスフェノールAのジ゛ナトリウム塩、モノカリウム塩、ナトリウムカリウム塩、フェノールのナトリウム塩等が挙げられる。
また共触媒として含窒素塩基性化合物、および/または含リン塩基性化合物を併用するのが好ましい。
含窒素塩基性化合物の具体例としてはたとえば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド等のアルキル、アリール、アルキルアリール基などを有する第4級アンモニウムヒドロキシド類、
テトラメチルアンモニウムアセテート、テトラエチルアンモニウムフェノキシド、テトラブチルアンモニウム炭酸塩、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムエトキシドなどのアルキル、アリール、アルキルアリール基などを有する塩基性アンモニウム塩、トリエチルアミン、などの第三級アミン、あるいはテトラメチルアンモニウムボロヒドリド、テトラブチルアンモニウムボロヒドリド、テトラメチルアンモニウムテトラフェニルボレート等の塩基性塩などを挙げることができる。
また含リン塩基性化合物の具体例としてはたとえばテトラブチルホスホニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルホスホニウムヒドロキシド、ヘキサデシルトリメチルホスホニウムヒドロキシド等のアルキル、アリール、アルキルアリール基などを有する第4級ホスホニウムヒドロキシド、あるいはテトラブチルホスホニウムボロヒドリド、テトラブチルホスホニウムテトラフェニルボレート等の塩基性塩などを挙げることができる。
上記含窒素塩基性化合物および/または含リン塩基性化合物は、塩基性窒素原子あるいは塩基性リン原子が芳香族ジヒドロキシ化合物の1モルに対し、20×10-6〜1000×10-6当量となる割合で用いるのが好ましい。より好ましい使用割合は、同じ基準に対し30×10-6〜700×10-6当量となる割合である。特に好ましい割合は同じ基準に対し50×10-6〜500×10-6当量となる割合である。
(溶融粘度安定性)
本願発明で熱可塑性樹脂組成物の溶融粘度安定性とは、乾燥試料につき、レオメトリックス社のRAA型流動解析装置を用い、窒素気流下、剪断速度1rad/sec,280℃で測定した溶融粘度の変化の絶対値を30分間測定し、1分間当たりの変化率として求めたものである。本願発明樹脂組成物の短期、長期安定性が良好であるためには、この値が2.5%を超えてはならない。
本願発明樹脂組成物の溶融粘度安定性を2.5%以下にするためには、該熱可塑性樹脂組成物の一方の成分であるポリカーボネート(A)は溶融粘度安定性が1.0%以下のものである必要があり、さらに好ましくは溶融粘度安定性が0.5%以下であることが好ましい。
ポリカーボネートの溶融粘度安定性を0.5%以下にするためには、ポリカーボネート重縮合反応後、さらには所望により末端水酸基の末端封止反応終了後のポリカーボネートに対し溶融粘度安定剤(E)を特定量添加するのがよい。かかる溶融粘度安定性を有するポリカーボネートを使用することにより、本願発明の熱可塑性樹脂組成物も、溶融粘度安定性が2.5%以下のものとすることが可能となる。
溶融粘度安定性の劣った熱可塑性樹脂組成物においては、成形加工時の安定性不良に加えて、高湿条件化および成形品の長期使用時の機械的物性安定性不良の問題がある。とりわけ耐衝撃性の悪化、すなわち低下が著しく、実用性に耐えない場合が多く見られる。
本願発明で使用する溶融粘度安定剤としては、(E)−1;スルホン酸ホスホニウム塩、アンモニウム塩および/または(E)−2;スルホン酸、およびあるいはスルホン酸低級エステルがある。
上記式(E)−1で表わされる化合物の具体的な例としては、たとえば、ベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、デシルスルホン酸テトラメチルアンモニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルアンモニウム塩等が挙げられる。
(E)−2のスルホン酸、スルホン酸低級エステルとしてはp−トルエンスルホン酸のごとき芳香族スルホン酸、オクタデシルスルホン酸等の脂肪族スルホン酸、ベンゼンスルホン酸ブチル、ヘキサデシルスルホン酸エチル、デシルスルホン酸ブチル等が例示される。
好ましくはスルホン酸そのものより、エステル化合物が使用される。かかる溶融粘度安定剤は、ホスゲン法で製造されたポリカーボネートに対しても有効であるが、溶融重合法、あるいは固相重合法で製造したポリカーボネート中に残存する塩基性アルカリ金属化合物の活性を低減するのに有効である。
使用量に関しては、塩基性アルカリ金属化合物触媒のアルカリ金属元素の1化学当量あたり、(E)−1の化合物においては0.7〜50化学当量を、好ましくは0.8〜20化学当量を、さらに好ましくは0.9〜10化学当量を、(E)−2の化合物においては0.7〜20化学当量を、好ましくは0.8〜10化学当量を、さらに好ましくは0.9〜5化学当量を使用することにより、本願発明に係る熱可塑性樹脂組成物の溶融粘度安定性を2.5%以下に抑えることができる。また場合によっては0.5%以下に抑えることもできる。
(E)−2の溶融粘度安定剤を使用した場合、熔融粘度安定剤処理を施したポリカーボネートに対し減圧処理を加えるのが好ましい。かかる減圧処理をするに際し処理装置の形式は特に制限されるものではない。他方(E)−1の熔融粘度安定剤を使用した場合はかかる減圧処理を加える必要はない。減圧処理は、縦型槽型反応機、横型槽型反応機、あるいはベント付1軸、あるいは2軸押出し機において6.7〜8×103Pa、好ましくは1.3×104Pa以下の減圧下での減圧処理が好ましい。減圧処理は、槽型反応機においては5分〜3時間、2軸押出し機を使用した場合には5秒〜15分程度を要する。処理温度は240℃〜350℃で実施できる。また処理は押出し機にてペレタイズと同時に行うこともできる。かかる溶融粘度安定剤をあらかじめポリカーボネート中に高濃度にブレンドしたマスターバッチの形でポリカーボネート中に添加することもまた好ましい方法である。
かかる溶融粘度安定剤は、場合により溶融粘度安定剤を添加していないポリカーボネートとポリエステルとを溶融混合する時に同時に添加し、熱可塑性樹脂組成物の溶融粘度安定性を所定の範囲にすることも可能であり生産効率の観点から好ましい手法である。
上記の如き減圧処理を行うことによりポリカーボネート中に残存する原料モノマーが低減されるか、また完全に除去される利点がある。
本願発明においてポリカーボネート(A)の分子末端構造は、好ましくは実質的にアリールオキシ基とフェノール性水酸基とより成り、かつフェノール性末端基濃度が50モル%以下である。
アリールオキシ基としては炭素数1〜20の炭化水素基置換、あるいは無置換フェニルオキシ基が好ましく選択される。熱安定性の点から上記炭化水素基置換としては、第3級アルキル基、第3級アラルキル基、アリール基あるいは単に水素原子のものが好ましい。ベンジルタイプの水素原子を有するものは、耐活性放射線安定性の向上など所望の目的を有する場合などに使用可能であるが、熱老化、熱分解等に対する安定性の観点よりは避けたほうが良い。好ましいアリールオキシ基の具体例としては、フェノキシ基、4−t−ブチルフェニルオキシ基、4−t−アミルフェニルオキシ基、4−フェニルフェニルオキシ基、4−クミルフェニルオキシ基等である。
さらに望ましい実施態様に於いては、上記ポリカーボネート(A)のフェノール性末端基濃度が全末端基に対し、5〜50モル%さらに好ましくは5〜40モル%含有される。フェノール性末端基濃度を5モル%より減少させても更なる物性の向上は少ない。またフェノール性末端基濃度を50モル%を越えて導入した時は、本願発明の目的に好ましくないことが多いことは上記議論より自明である。
界面重合法では分子量調節剤として使用される単官能性化合物により末端水酸基は低い濃度に抑えられ、末端水酸基濃度は上記範囲内に入っているが、溶融重合法においては、化学反応論的に末端水酸基が50モル%程度のものが製造されやすいため、積極的に末端水酸基を減少させる必要がある。
すなわち末端水酸基濃度を上記範囲内にするには、以下記述する従来公知の1)あるいは2)の方法で達成しうる。
1)重合原料仕込みモル比制御法
重合反応仕込み時のDPC(ジフェニルカーボネート)/BPA(ビスフェノール−A)モル比を高める。たとえば重合反応装置の特徴を考え1.02から1.10の間に設定する。
2)末端封止法
重合反応終了時点において例えば、米国特許第5696222号明細書記載の方法に従い、上記文献中記載のサリチル酸エステル系化合物により末端水酸基を封止する。
サリチル酸エステル系化合物の使用量は封止反応前の末端水酸基の1化学当量当たり0.8〜10モル、より好ましくは0.8〜5モル、特に好ましくは0.9〜2モルの範囲である。かかる量比で添加することにより、末端水酸基の80%以上を好適に封止することができる。また本封止反応を行う時、上記特許記載の触媒を使用するのが好ましい。末端水酸基濃度の低減は、重合触媒を失活させる以前の段階において好ましく実施される。
サリチル酸エステル系化合物としては具体的には、2−メトキシカルボニルフェニル−フェニルカーボネート、2−メトキシカルボニルフェニル−クミルフェニルカーボネートのごとき2−メトキシカルボニルフェニルアリールカーボネート、(2−メトキシカルボニルフェニル)ベンゾエート、4−(O−エトキシカルボニルフェニル)オキシカルボニル安息香酸(2’−メトキシカルボニルフェニル)エステルのごとき芳香族カルボン酸の(2’−メトキシカルボニルフェニル)エステル、等が挙げられる。
本願発明で用いるポリエステル(P)は、アリーレンジカルボン酸またはそのエステル形成性前駆体と1,3−プロピレングリコールまたはそのエステル形成性誘導体とを主成分とする重縮合反応により得られる。
ここでいう芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、2,2−ビス(4−カルボキシフェニル)プロパン、2,5−アントラセンジカルボン酸、2,6−アントラセンジカルボン酸、4,4’−P−ターフェニレンジカルボン酸、2,5−ピリジンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が好適に用いられ、中でもテレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が好適に使用できる。
これら芳香族ジカルボン酸は二種以上を混合してもよい。なお少量であれば該ジカルボン酸とともにアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジ酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸等を1種以上混合使用することも可能である。
本願発明のポリエステル(P)のジオール成分は1,3−プロピレングリコールを主たる成分とする。
そのほか、以下例示するグリコール類を本願発明の目的に反しない限り、所望の目的のため使用することも可能である。
かかるグリコール類としては、エチレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ネオペンチレングリコール、ペンタメチレングリコール等の脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、などの脂環式ジオール、2,2−ビス(2−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン等の芳香環を保有するジオールおよびそれらの混合物等があげられる。
さらに本願発明の目的を損なわない範囲であれば、所望の目的を果たすため、分子量400〜6000の長鎖ジオール、すなわちポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどを使用することができる。
また本願発明のポリエステル(P)には本願発明の目的を損なわない範囲であれば、所望の目的を果たすため分岐剤を導入することにより分岐させることも可能である。分岐剤としては、例えばトリメシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が例示される。
具体的なポリエステル(P)としては、ポリ−1,3−プロピレンテレフタレート、ポリ−1,3−プロピレン2,6−ナフタレート、ポリ−1,3−プロピレン2,7−ナフタレート、ポリ−1,3−プロピレン4,4’−ジフェニルジカルボキシレート、ポリ−1,3−プロピレン−4,4’−ジフェニルメタンジカルボキシレート、ポリ−1,3−プロピレン1,2−ジフェノキシエタン−4,4’−ジカルボキシレート等が例示される。その他ポリ−1,3−プロピレンイソフタレート/テレフタレート等のような共重合ポリエステルおよびこれらの混合物が好ましく使用できる。
本願発明で使用するポリエステル(P)は従来公知のエステル交換触媒を使用して製造することができるが、なかでも好ましいエステル交換触媒としては、チタン、アンチモン、ゲルマニウム、スズを含有する化合物が好ましく使用される。中でも、チタン、アンチモン、およびゲルマニウムより選択される元素を含有する化合物が好ましく使用される。またこれらの組み合わせられた触媒、例えばマグネシウム化合物とチタン化合物のモル比が0.3〜6の複合触媒などが好ましい。
チタン系重合触媒としては、チタンの酸化合物、水酸化物、ハロゲン化物、アルコラート、フェノラート、カルボキシラート等が例示できる。更に具体的には、酸化チタン、水酸化チタン、四塩化チタン、テトラメトキシチタン、テトラブトキシチタン等が例示できる。
ポリエステルの重合に際しては、かかるエステル交換触媒は、アリーレンジカルボン酸1モル当り5×10-5〜5×10-3モル使用される。
かかるポリエステルは常法に従い、触媒の存在下、加熱しながらジカルボン酸成分と前記ジオール成分とを重縮合させ、生成する水または低級アルコール、1,3−プロピレングリコールなどのジオール成分を系外に排出することにより製造することができる。
また本願発明では、従来公知のポリエステル重縮合の前段階であるエステル交換反応において使用される、マンガン、亜鉛、カルシウム、マグネシウム等の化合物を併せて使用でき、およびエステル交換反応終了後にリン酸または亜リン酸の化合物等により、かかる触媒を失活させて重縮合することも可能である。
本願発明のポリエステル(P)はその酸価が10〜60当量/106g−ポリエステルであることが好ましいが、ポリエステル製造の途中ポリエステルをサンプリングしてその酸価を測定、必要に応じて前述したアリーレンジカルボン酸あるいはジオール類を添加することにより、この範囲の酸価を実現することができる。
(ポリエステル溶融粘度安定性)
本願発明のポリエステル(P)においては、前述した溶融粘度安定に関し、3%以下に抑えて置くことがポリカーボネート(A)との熱可塑性樹脂組成物の湿熱安定性を良好レベルに保つために好ましい。
ポリエステルの溶融粘度安定性を3%以下にするためにはポリカーボネートに対する溶融粘度安定剤が好適に使用できる。ポリエステル(P)の場合、前述した(E)−1,2に加えて燐酸、燐酸酸性エステル、あるいは燐酸酸性塩もまた好適に使用することができる。
かかる化合物としては具体的には、燐酸、亜燐酸、ピロリン酸、メタリン酸、あるいはフェニルホスホン酸およびこれらの酸性エステルであるリン酸ジメチル、リン酸2水素フェニル、燐酸2水素2,4−ジ−t−ブチルフェニル、亜燐酸モノフェニル、フェニルホスホン酸オクチル、燐酸2水素テトラブチルホスホニウム、燐酸2水素テトラメチルアンモニウム等が例示される。
これらの溶融粘度安定剤の添加量、添加法はポリカーボネートのそれに準じて好適に実施することができる。
またポリエステル(P)の分子量についてはo−クロロフェノールを溶媒として、25℃で測定した極限粘度粘度で0.6以上、好ましくは0.65〜1.6、さらに好ましくは0.7〜1.5である。
本ポリエステル(P)は空気中溶融させると着色しやすく、以下記述するフェノール系安定剤および/または亜燐酸エステル系安定剤を使用しポリエステルの酸化劣化を防ぐ方策も好ましい手段としてあげることができる。
またポリエステル(P)の末端基に関し、ビニル末端基の量を低い水準に抑えて置くこともポリエステル(P)とポリカーボネート(A)とからなる熱可塑性樹脂組成物の着色を抑えるために好ましい手段である。
すなわち末端ビニル基量はNMRで測定して、50当量/(ポリマー106g)以下のポリエステル(P)を使用することが好ましく、さらに好ましくは40当量/(ポリマー106g)以下、さらに好ましく20当量/(ポリマー106g)以下、理想的には0当量/(ポリマー106g)である。
本願発明の熱可塑性樹脂組成物におけるポリカーボネート(A)とポリエステル(P)との配合割合は、ポリカーボネート(A)とポリエステル(P)との総量を100重量部とした場合、ポリカーボネート(A)5〜95重量部、ポリエステル(P)95〜5重量部、好ましくポリカーボネート(A)20〜95重量部、ポリエステル(P)80〜5重量部、さらに好ましくはポリカーボネート(A)30〜95重量部、ポリエステル(P)70〜5重量部、特に好ましくはポリカーボネート(A)50〜95重量部、ポリエステル(P)50〜5重量部の範囲が選択される。
ポリカーボネート(A)の配合割合が5重量部未満、すなわちポリエステル(P)の配合割合が95重量部よりも多くなると耐衝撃性が不十分となり、ポリカーボネート(A)の配合割合が95重量部よりも多くなる、すなわちポリエステル(P)の配合割合が5重量部未満になると耐薬品性が不十分となり好ましくない。
さらに加えて、本願発明においては該熱可塑性樹脂組成物の湿熱疲労性を良好な水準に維持するため、溶融粘度安定性を2.5%以下に保つ必要がある。
すなわちポリエステル(P)は一般的にみてポリカーボネートに比較して、熔融粘度安定性が不良であることが多いため、組成物の熔融粘度安定性の観点からも、ポリエステル(P)の配合量が制限を受けることがある。
また、本願発明の熱可塑性樹脂組成物には耐衝撃性を更に向上させる目的でゴム状弾性体(F)を添加することが可能である。本願発明に使用可能なゴム状弾性体(F)とは、ガラス転移温度が10℃以下のゴム成分に、芳香族ビニル、シアン化ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、およびこれらと共重合可能なビニル化合物から選択されたモノマーの1種または2種以上が共重合されたグラフト共重合体を挙げることができる。一方架橋構造を有しない熱可塑性エラストマーとして知られている各種エラストマー、例えばポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー、スチレン−エチレンプロピレン−スチレンエラストマー、ポリエーテルアミドエラストマー等を使用することも可能である。
ここでいうガラス転移温度が10℃以下のゴム成分としては、ブタジエンゴム、ブタジエン−アクリル複合ゴム、アクリルゴム、アクリル−シリコン複合ゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレンゴム、ニトリルゴム、エチレン−アクリルゴム、シリコンゴム、エピクロロヒドリンゴム、フッ素ゴムおよびこれらの不飽和結合部分に水素が添加されたものを挙げることができる。
ゴム状弾性体(F)のうち、ガラス転移温度が10℃以下のゴム成分を含有するゴム状弾性体としては、特にブタジエンゴム、ブタジエン−アクリル複合ゴム、アクリルゴム、アクリル−シリコン複合ゴムを使用したゴム状弾性体が好ましい。ブタジエン−アクリル複合ゴムとは、ブタジエンゴムの成分と、アクリルゴムの成分とを共重合または分離できないよう相互に絡み合ったIPN構造をとるように重合したゴムであり、アクリル−シリコン複合ゴムとは、アクリルゴムの成分とシリコンゴムの成分とを分離できないよう相互に絡み合ったIPN構造とした、またはシリコンゴム中の官能基と共重合したものをいう。
芳香族ビニルとしては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、アルコキシスチレン、ハロゲン化スチレン等を挙げることができ、特にスチレンが好ましい。またアクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸オクチル等を挙げることができ、メタアクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸オクチル等を挙げることができ、メタクリル酸メチルが特に好ましい。
この、ガラス転移温度が10℃以下のゴム成分を含有するゴム状弾性体は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合のいずれの重合法で製造したものであってもよく、共重合の方式は一段グラフトであっても多段グラフトであっても差し支えない。また製造の際に副生するグラフト成分のみのコポリマーとの混合物であってもよい。かかるゴム状弾性体は市販されており容易に入手することが可能である。例えばガラス転移温度が10℃以下のゴム成分として、ブタジエンゴム、またはブタジエン−アクリル複合ゴムを主体とするものとしては、鐘淵化学工業(株)のカネエースBシリーズ、三菱レーヨン(株)のメタブレンCシリーズ、呉羽化学工業(株)のEXLシリーズ、HIAシリーズ、BTAシリーズ、KCAシリーズが挙げられ、ガラス転移温度が10℃以下のゴム成分としてアクリル−シリコン複合ゴムを主体とするものとしては三菱レーヨン(株)よりメタブレンS−2001あるいはRK−200という商品名で市販されているものが挙げられる。かかるゴム状弾性体(F)の配合量は、ポリカーボネート(A)とポリエステル(P)との総量を100重量部とした場合、1〜50重量部が好ましく、3〜40重量部であることが更に好ましい。
また、本願発明の熱可塑性樹脂組成物には、ポリカーボネート(A)とポリエステル(P)とのエステル交換反応を抑制するためや成形時等における分子量の低下や色相の悪化を防止するために熱安定剤を配合することができる。
かかる熱安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸およびこれらのエステル等が挙げられ、具体的には、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、ベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。なかでも、トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトおよびベンゼンホスホン酸ジメチルが好ましく使用される。
これらの熱安定剤は、単独でもしくは2種以上混合して用いてもよい。かかる熱安定剤の配合量は、、ポリカーボネート(A)とポリエステル(P)との総量を100重量部とした場合、0.0001〜1重量部が好ましく、0.0005〜0.5重量部がより好ましく、0.001〜0.1重量部が更に好ましい。
また、本願発明の熱可塑性樹脂組成物には、酸化防止の目的で通常知られた酸化防止剤を配合することもできる。かかる酸化防止剤としては、例えばペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、グリセロール−3−ステアリルチオプロピオネート、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスホネート−ジエチルエステル、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、3,9−ビス{1,1−ジメチル−2−[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等が挙げられる。これら酸化防止剤の配合量は、、ポリカーボネート(A)とポリエステル(P)との総量を100重量部とした場合、0.0001〜0.5重量部が好ましい。
更に、本願発明の熱可塑性樹脂組成物に本願発明の目的を損なわない範囲で、剛性などを改良するために無機充填材を配合することが可能である。かかる無機充填材としてはタルク、マイカ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、炭酸カルシウム、酸化チタン等の板状または粒状の無機充填材やガラス繊維、ガラスミルドファイバー、ワラストナイト、カーボン繊維、金属系導電性繊維等の繊維状充填材を挙げることができる。これら無機充填材の配合量は、ポリカーボネート(A)とポリエステル(P)との総量を100重量部とした場合、1〜100重量部が好ましく、3〜70重量部が更に好ましい。
また、本願発明で使用可能な無機充填材はシランカップリング剤等で表面処理されていてもよい。この表面処理により、ポリカーボネート(A)の分解が抑制されるなど本願発明の目的である湿熱疲労性をより良好なものとすることができる。ここでいうシランカップリング剤とは下記式(5)
[ここでYはアミノ基、エポキシ基、カルボキシ基、ビニル基、メルカプト基、ハロゲン原子等の本願発明に係る熱可塑性樹脂組成物中の成分と反応性または親和性を有する基Z
1、Z
2、Z
3,Z
4はそれぞれ単結合または炭素数1〜7のアルキレン基を表わし、そのアルキレン分子鎖中に、アミド結合、エステル結合、エーテル結合あるいはイミノ結合が介在してもよく、X
1、X
2、X
3はそれぞれアルコキシ基好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基またはハロゲン原子]で表わされるシラン化合物であり、具体的には、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランおよびγ−クロロプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
また、本願発明の熱可塑性樹脂組成物には溶融成形時の金型からの離型性をより向上させるために、本願発明の目的を損なわない範囲で離型剤を配合することも可能である。かかる離型剤としては、オレフィン系ワックス、カルボキシ基および/またはカルボン酸無水物基を含有するオレフィン系ワックス、シリコーンオイル、オルガノポリシロキサン、一価または多価アルコールの高級脂肪酸エステル、パラフィンワックス、蜜蝋等が挙げられる。かかる離型剤の配合量は、、ポリカーボネート(A)とポリエステル(P)との総量を100重量部とした場合、0.01〜5重量部が好ましい。
オレフィン系ワックスとしては、特にポリエチレンワックスおよび/または1−アルケン重合体の使用が好ましくきわめて良好な離型効果が得られる。ポリエチレンワックスとしては現在一般に広く知られているものが使用でき、エチレンを高温高圧下で重合したもの、ポリエチレンを熱分解したもの、ポリエチレン重合物より低分子量成分を分離精製したもの等が挙げられる。また分子量、分岐度等は特に制限されるものではないが、分子量としては数平均分子量で1,000以上が好ましい。
1−アルケン重合体としては炭素数5〜40の1−アルケンを重合したものが使用できる。1−アルケン重合体の分子量としては数平均分子量で1,000以上が好ましい。
カルボキシ基および/またはカルボン酸無水物基を含有するオレフィン系ワックスとは、オレフィン系ワックスを後処理により、カルボキシ基および/またはカルボン酸無水物基を含有させた化合物、好ましくはマレイン酸および/または無水マレイン酸で後処理により変性したものが挙げられる。更にエチレンおよび/または1−アルケンを重合または共重合する際にかかるモノマー類と共重合可能なカルボキシ基および/またはカルボン酸無水物基を含有する化合物、好ましくはマレイン酸および/または無水マレイン酸を共重合したものも挙げられ、かかる共重合をしたものはカルボキシ基および/またはカルボン酸無水物基が高濃度かつ安定して含まれるので好ましい。このカルボキシ基やカルボン酸無水物基は、このオレフィン系ワックスのどの部分に結合してもよく、またその濃度は特に限定されないが、オレフィン系ワックス1g当り0.1〜6meq/gの範囲が好ましい。なお、本願明細書においてeqとは当量を意味する。
かかるカルボキシ基および/またはカルボン酸無水物基を含有するオレフィン系ワックスは、市販品としては例えばダイヤカルナ−PA30[三菱化学(株)の商品名]、ハイワックス酸処理タイプの2203A、1105A[三井石油化学(株)の商品名]等が挙げられ、これら単独でまたは二種以上の混合物として用いられる。
本願発明において無機充填材を配合する場合には、カルボキシル基および/またはカルボン酸無水物基を含有するオレフィン系ワックスを添加することは、溶融成形時の金型からの離型性をより向上させるためだけではなく、無機充填材配合による衝撃強度低下を抑制する効果も発現し好ましく使用できるものである。
高級脂肪酸エステルとしては、炭素原子数1〜20の一価または多価アルコールと炭素原子数10〜30の飽和脂肪酸との部分エステルまたは全エステルであるのが好ましい。かかる一価または多価アルコールと飽和脂肪酸との部分エステルまたは全エステルとしては、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸ジグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ステアリン酸モノソルビテート、ベヘニン酸モノグリセリド、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトラペラルゴネート、プロピレングリコールモノステアレート、ステアリルステアレート、パルミチルパルミテート、ブチルステアレート、メチルラウレート、イソプロピルパルミテート、ビフェニルビフェネ−ト、ソルビタンモノステアレート、2−エチルヘキシルステアレート等が挙げられる。
なかでも、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ペンタエリスリトールテトラステアレートが好ましく用いられる。
本願発明の熱可塑性樹脂組成物には、本願発明の目的を損なわない範囲で、光安定剤を配合することができる。
かかる光安定剤としては、例えば2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス(4−クミル−6−ベンゾトリアゾールフェニル)、2,2’−p−フェニレンビス(1,3−ベンゾオキサジン−4−オン)等が挙げられる。かかる光安定剤の配合量は、ポリカーボネート(A)とポリエステル(P)との総量を100重量部とした場合、0.01〜2重量部が好ましい。
本願発明の熱可塑性樹脂組成物には、本願発明の目的を損なわない範囲で、帯電防止剤を配合することができる。かかる帯電防止剤としては、例えばポリエーテルエステルアミド、グリセリンモノステアレート、ドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ホスホニウム塩、アルキルスルホン酸ナトリウム塩、無水マレイン酸モノグリセライド、無水マレイン酸ジグリセライド等が挙げられる。
本願発明の熱可塑性樹脂組成物には、本願発明の目的が損なわれない量の難燃剤を配合することができる。難燃剤としては、ハロゲン化ビスフェノールAのポリカーボネート型難燃剤、有機塩系難燃剤、芳香族リン酸エステル系難燃剤、あるいは、ハロゲン化芳香族リン酸エステル型難燃剤等があげられ、それらの一種以上を配合することができる。
具体的にハロゲン化ビスフェノールAのポリカーボネート型難燃剤は、テトラクロロビスフェノールAのポリカーボネート型難燃剤、テトラクロロビスフェノールAとビスフェノールAとの共重合ポリカーボネート型難燃剤、テトラブロモビスフェノールAのポリカーボネート型難燃剤、テトラブロモビスフェノールAとビスフェノールAとの共重合ポリカーボネート型難燃剤等である。
具体的に有機塩系難燃剤は、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、2,4,5−トリクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム、2,4,5−トリクロロベンゼンスルホン酸カリウム、ビス(2,6−ジブロモ−4−クミルフェニル)リン酸カリウム、ビス(4−クミルフェニル)リン酸ナトリウム、ビス(p−トルエンスルホン)イミドカリウム、ビス(ジフェニルリン酸)イミドカリウム、ビス(2,4,6−トリブロモフェニル)リン酸カリウム、ビス(2,4−ジブロモフェニル)リン酸カリウム、ビス(4−ブロモフェニル)リン酸カリウム、ジフェニルリン酸カリウム、ジフェニルリン酸ナトリウム、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム、ラウリル硫酸ナトリウムあるいはカリウム、ヘキサデシル硫酸ナトリウムあるいはカリウム等である。
具体的にハロゲン化芳香族リン酸エステル型難燃剤は、トリス(2,4,6−トリブロモフェニル)ホスフェート、トリス(2,4−ジブロモフェニル)ホスフェート、トリス(4−ブロモフェニル)ホスフェート等である。
具体的に芳香族リン酸エステル系難燃剤は、トリフェニルホスフェート、トリス(2,6−キシリル)ホスフェート、テトラキス(2,6−キシリル)レゾルシンジホスフェート、テトラキス(2,6−キシリル)ヒドロキノンジホスフェート、テトラキス(2,6−キシリル)−4,4’−ビフェノールジホスフェート、テトラフェニルレゾルシンジホスフェート、テトラフェニルヒドロキノンジホスフェート、テトラフェニル−4,4’−ビフェノールジホスフェート、芳香環源がレゾルシンとフェノールでありフェノール性OH基を含まない芳香族ポリホスフェート、芳香環源がレゾルシンとフェノールでありフェノール性OH基を含む芳香族ポリホスフェート、芳香環源がヒドロキノンとフェノールでありフェノール性OH基を含まない芳香族ポリホスフェート、同様のフェノール性OH基を含む芳香族ポリホスフェート、芳香環源がビスフェノールAとフェノールである芳香族ポリホスフェート、芳香環源がテトラブロモビスフェノールAとフェノールである芳香族ポリホスフェート、芳香環源がレゾルシンと2,6−キシレノールである芳香族ポリホスフェート、芳香環源がヒドロキノンと2,6−キシレノールである芳香族ポリホスフェート、芳香環源がビスフェノールAと2,6−キシレノールである芳香族ポリホスフェート、芳香環源がテトラブロモビスフェノールAと2,6−キシレノールである芳香族ポリホスフェート等である。なお、上記の内、「芳香環源がビスフェノールAとフェノールである芳香族ポリホスフェート」以降の化合物については、「芳香族ポリホスフェート」は、フェノール性OH基を含む芳香族ポリホスフェートと含まない芳香族ポリホスフェートの両方を意味するものとする。
これらの難燃剤の中で、ハロゲン化ビスフェノールAのポリカーボネート型難燃剤として、テトラブロモビスフェノールAのポリカーボネート型難燃剤、テトラブロモビスフェノールAとビスフェノールAとの共重合ポリカーボネートが好ましく、更にテトラブロモビスフェノールAのポリカーボネート型難燃剤が好ましい。有機塩系難燃剤としてはジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、2,4,5−トリクロロベンゼンスルホン酸ナトリウムが好ましい。芳香族リン酸エステル系難燃剤としては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、レゾルシノールビス(ジキシレニルホスフェート)、ビス(2,3ジブロモプロピル)ホスフェート、トリス(2,3ジブロモプロピル)ホスフェートが好ましい。これらの中でも、オゾン層破壊しない芳香族リン酸エステル系難燃剤であるトリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、レゾルシノールビス(ジキシレニルホスフェート)が最も好ましい。
本願発明の熱可塑性樹脂組成物には、他の樹脂を本願発明の目的が損なわれない範囲であれば配合することもできる。
かかる他の樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリメタクリレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂が挙げられる。
本願発明の熱可塑性樹脂組成物を製造するには、任意の方法が採用される。例えばタンブラー、V型ブレンダー、スーパーミキサー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、押出機等で混合する方法が適宜用いられる。こうして得られる熱可塑性樹脂組成物は、そのまま、または溶融押出機で一旦ペレット状にしてから、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法等の通常知られている方法で成形物にすることができる。なお、本願発明の熱可塑性樹脂組成物の混和性を高めて安定した離型性や各物性を得るためには、溶融押出において二軸押出機を使用するのが好ましい。更に無機充填材を配合する場合には直接押出機ホッパー口あるいは押出機途中から投入する方法、ポリカーボネート樹脂やポリエステル樹脂と予め混合する方法、一部のポリカーボネート樹脂やポリエステル樹脂と予め混合してマスターを作成し投入する方法、かかるマスターを押出機途中から投入する方法のいずれの方法も取ることができる。
かくして得られた本願発明の熱可塑性樹脂組成物は、パソコン、ワープロ、ファクス、コピー機、プリンター等のOA機器のハウジングおよびシャーシ、CD−ROMのトレー、シャーシー、ターンテーブル、ピックアップシャーシ、各種ギア等のOA内部部品、テレビ、ビデオ、電気洗濯機、電気乾燥機、電気掃除機等の家庭電器製品のハウジングや部品、電気鋸、電動ドリル等の電動工具、望遠鏡鏡筒、顕微鏡鏡筒、カメラボディ、カメラハウジング、カメラ鏡筒等の光学機器部品、ドアーハンドル、ピラー、バンパー、計器パネル等の自動車用部品に有用である。特に機械的強度、耐薬品性、湿熱疲労性などが要求される自動車部品(アウタードアハンドル、インナードアハンドルなど)や機械部品(電動工具カバーなど)に有用である。
以下に実施例をあげて更に説明する。実施例中の「部」または「%」は、別途の意味を有さず、あるいは特に断らない限り、重量部または重量%を示し、また評価項目および組成物中の各成分の記号は下記の内容を意味する。
(I)評価項目
1)酸価、すなわち末端カルボキシ基の定量
ポリエステル試料約1gを精秤し、精製ベンジルアルコール100mLに溶解し、窒素気流下、200℃で速やかに溶解し、室温に冷却し、精製クロロフォルム100mLを加え、フェノールレッドを指示薬とし、0.1N水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液で滴定した。
なお、本実施例では末端カルボキシ基以外に実質的に酸価に影響を与える因子が存在しなかったため、同一の定量法によったが、そうでない場合は、場合に応じて別々に定量する必要があることはいうまでもない。
2)分岐構造の定量
ポリカーボネート試料0.1gを精秤し、テトラヒドロフランの5mLに溶解し、5N水酸化ナトリウムメタノール溶液の1mLを添加し、室温で2時間撹拌し、加水分解した。ついで濃塩酸0.6mLを加え、逆相液体クロマトグラフィーにより定量した。
使用条件は下記の通りである。
UV検出器;波長300nm、
カラム;Inertsil ODS−3(ジーエルサイエンス社製)
溶離液;メタノール/1%燐酸水溶液の混合溶離液
分析条件;カラム温度25℃、メタノール/1%燐酸水溶液混合比率20/80から開始、100/0までのグラジエント条件下、式(3)−1から3の構造単位を加水分解した構造の標準物質で検量線を作成し、定量した。
3)溶融粘度安定性
120℃で10Pa以下の高真空条件下、5時間乾燥処理した試料につき、レオメトリックス社のRAA型流動解析装置を用い、窒素気流下、剪断速度1rad/sec,270℃で測定した溶融粘度の変化の絶対値を30分間測定し、1分間当たりの変化率を求めた。本願発明に係る熱可塑性樹脂組成物の短期、長期安定性が良好であるためには、この値が2.5%を超えてはならない。
4)湿熱疲労性
いわゆるC型の測定用サンプルを用いて、80℃、90%RHの雰囲気で、正弦波で振動数1Hz、最大荷重2kgの条件で、疲労試験機[(株)島津製作所製 島津サーボパルサー EHF−EC5型]を用いて、測定用サンプルが破断するまでの回数を測定した。
ポリ−1,3−プロピレンテレフタレートとの熱可塑性樹脂組成物において本湿熱疲労性が2×1000回以上であれば湿熱疲労性合格と判定、2.5×1000回以上であれば良好を3×1000回以上であれば優秀な耐湿熱性を有するものと判断した。
湿熱疲労性を評価するために使用した、いわゆるC型サンプルの正面図を図1に示す。なおサンプルの厚みは3mmである。符号6で示される孔の部分に試験機の治具を通し、符号7で示される垂直方向に所定の荷重をかけて試験を行う。
5)耐薬品性
ASTM D638にて使用する引張り試験片に1%歪みを付加し、30℃のエッソレギュラーガソリンに3分間浸漬した後、引張り強度を測定し保持率を算出した。保持率は下記式により計算した。
保持率(%)=(処理サンプルの強度/未処理サンプルの強度)×100
保持率75%以上で良好な耐薬品性を有するものと判定した。
(II)組成物中の各成分の記号とその製法
次の記号を使用した。
なお、PPT−1〜3は次のようにして、直接エステル化法により作製した。
すなわち、常法に従い、1.3−プロピレングリコールの1300重量部と、テレフタル酸2000重量部をオートクレーブに仕込み、内温を180℃に設定した。内温120℃に達した時点で、テトラブチルチタネート2.0重量部とモノヒドロキシ錫オキシド2.0重量部との触媒を添加し、重合を実施した。場合により極限粘度約0.7〜0.8の時点において、PPT−2、3においては、所定の酸価と成るようにテレフタル酸、10重量部を添加し、所定の極限粘度に成るまで重合を継続した。更にこの時点において、PPT−3においては、安定剤としてベンゼンスルホン酸ホスホニウムBSPの5重量部を添加し、最終的に以下の物性のポリプロピレンテレフタレートを製造した。下記の各記号に続く説明は物性についてのものである。
PPT−1
極限粘度;0.9、酸価;35eq./ton、溶融粘度安定性;1.3
PPT−2
極限粘度;0.9、酸価;80eq./ton、溶融粘度安定性;2.0
PPT−3
極限粘度;0.9、酸価;80eq./ton、溶融粘度安定性;1.7
PPT−4は次のようにして、エステル交換法により作製した。
テレフタル酸ジメチル1412重量部、1,3−プロパンジオールの830重量部に、テトラブチルチタネート0.247重量部重量部を加え、150−220℃で3時間エステル交換反応を行った。エステル交換終了時、酢酸マグネシウム4水塩の0.466重量部を1.3−プロパンジールジオールに溶解して添加し、引き続きテトラブチルチタネートの0.494重量部を加え重縮合反応を行った。MgとTi金属元素のモル比は1.0とした。重縮合反応は常圧〜1Torrまで徐々に減圧し、同時に255℃まで昇温し、以後1Torr、255℃で所定の重合度になるまで重合を実施した−。重合後255℃においてベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩を3.6重量部添加した。下記の各記号に続く説明は物性についてのものである。
PPT−4
極限粘度;0.71、酸価;10eq./ton、溶融粘度安定性;0.8
PC−1
このポリカーボネートの製造は以下のように行った。
撹拌装置、精留塔および減圧装置を備えた反応槽に、原料として精製BPAを137重量部、および精製DPCを133重量部、重合触媒としてビスフェノールA2ナトリウム塩塩4.1×10-5重量部、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド5×10-3重量部を仕込んで窒素雰囲気下180℃で溶融した。
撹拌下、反応槽内を13.33kPa(100mmHg)に減圧し、生成するフェノールを溜去しながら20分間反応させた。次に200℃に昇温した後、徐々に減圧し、フェノールを溜去しながら4.000kPa(30mmHg)で20分間反応させた。さらに徐々に昇温し、220℃で20分間、240℃で20分間、260℃で20分間反応させ、その後、260℃で徐々に減圧し、2.666kPa(20mmHg)で10分間、1.333kPa(10mmHg)で5分間反応を続行し、最終的に260℃/66.7Pa(0.5mmHg)で粘度平均分子量が25000になるまで反応せしめた。
このポリカーボネート100重量部当り、トリス(2,4−t−ブチルフェニルホスファイト)の0.003重量部、トリメチルホスフェートの0.05重量部を加え、押出し機にて280℃で押出し、芳香族ポリカーボネート樹脂ペレットを得た。
最終的に、粘度平均分子量が25000、末端OH基濃度が43(eq/ton−ポリカーボネート)、分岐成分含有量が0.3モル(%/カーボネート結合)、溶融粘度安定性が1.1のポリカーボネートを得た。
PC−2
PC−1と同様にして重合反応を継続し、粘度平均分子量25000になるまで重合反応を継続し、得られたポリカーボネートにドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩(以下DBSPと略称)の3.6×10-4重量部を添加した。
ついでポリカーボネート100重量部当り、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリチルジフォスファイトを0.003重量部、燐酸を0.0005重量部の割合で混ぜ、押出し機にて280℃で押出しポリカーボネートペレットを得た。
最終的に得られたポリカーボネートの粘度平均分子量はいずれも25000、分岐成分含有量は0.3(モル%/カーボネート結合)、末端水酸基濃度は43(eq/ton−ポリカーボネート)、溶融粘度安定性は0であった。
PC−3
触媒としてビスフェノールA2ナトリウム塩4.1×10-5重量部に代えて、ビスフェノールA2カリウム塩9.1×10-4重量部を使用した以外はPC−2と同様にして重合を行った。得られたポリカーボネートにDBSPの7.0×10-3重量部を添加し、ポリカーボネートペレットを得た。
最終的に粘度平均分子量が25000、分岐成分含有量が1.2モル%、末端水酸基濃度が38(eq/ton−ポリカーボネート)、溶融粘度安定性が0.1のポリカーボネートを得た。
PC−4
温度計、撹拌機、還流冷却器付き反応器にイオン交換水3022部、48%カセイソーダ水溶液251.6部を入れ、ハイドロサルファイト0.8部、ビスフェノールA267.8部を溶解し、次いで48%カセイソーダ水溶液136.5部を追加して後、塩化メチレン1762.6部を加え、撹拌下15〜20℃でホスゲン150部を60分を要して吹き込んだ。ホスゲン吹込み終了後、p−tert−ブチルフェノール5.28部を塩化メチレン40部に溶解して添加し、48%カセイソーダ水溶液48.6部を加えて乳化後、トリエチルアミン0.3部を添加して28〜33℃で約1時間撹拌して反応を終了した。反応終了後、生成物を塩化メチレンで希釈して水洗した後塩酸酸性にして水洗し、水相の導電率がイオン交換水とほとんど同じになったところで塩化メチレンを蒸発して無色のポリマー407.7部を得た(収率98%)。このポリマーの粘度平均分子量は24000、末端水酸基濃度は10(eq/ton−ポリカーボネート)であった。
この芳香族ポリカーボネート樹脂にトリスノニルフェニルホスファイトを0.003重量%、トリメチルホスフェートを0.05重量%加え、押出し機にて280℃で押出し、最終的に粘度平均分子量が24000、分岐成分含有量が0.01(モル%/カーボネート結合)以下、末端水酸濃度が10(eq/ton−ポリカーボネート)、熔融粘度安定性が0.1の芳香族ポリカーボネート樹脂ペレットを得た。
ゴム状弾性体(F)については次の通りである。
E−1
ブタジエン−アルキルアクリレート−アルキルメタアクリレート共重合体(EXL−2602;呉羽化学工業(株)製)である。
E−2
ポリオルガノシロキサン成分およびポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分が相互侵入網目構造を有している複合ゴム(S−2001;三菱レーヨン(株)製)である。
無機充填材については次の通りである。
G
ガラス繊維(チョップドストランドECS−03T−511;日本電気硝子(株)製、ウレタン集束処理、繊維径13μm)である。
T
タルク(P−3;日本タルク(株)製)である。
WAX
カルボキシル基および/またはカルボン酸無水物基を含有するオレフィン系ワックス(α−オレフィンと無水マレイン酸との共重合によるオレフィン系ワックス:ダイヤカルナ−PA30;三菱化成(株)製(無水マレイン酸含有量=10wt%))である。
[実施例1〜9、比較例1〜3]
上記ポリカーボネートおよびポリエステルの合計量を100重量部とした時、表1記載の各成分およびリン系安定剤(ペンタエリスリチルビス(オクタデシルフォスファイト):旭電化工業(株)製PEP−8)0.1重量部を、また実施例3,4において各々さらにDBSPを1*10-3重量部と、BSPを1.4*10-1重量部、タンブラーを使用して均一に混合した後、30mmφベント行き二軸押出機(神戸製鋼(株)製KTX−30)により、シリンダー温度260℃、10mmHgの真空度で脱揮しながらペレット化し、得られたペレットを120℃で5時間乾燥後、射出成形機(住友重機械工業(株)製SG150U型)を使用して、シリンダー温度260℃、金型温度70℃の条件で測定用の成形片を作成した。
それぞれの比較で明らかな如く本願発明のポリカーボネート(A)とポリエステル(P)からなる熱可塑性樹脂組成物は、比較例のポリカーボネート、ポリエステルを用いたものに比較して湿熱疲労性が特に優れており、耐薬品性も優れていることがわかる。
なお、上記の検討から、本願発明の一つの態様である、式(1)で表される繰返し単位の5〜95重量部に対し、式(2)で表される繰返し単位を95〜5重量部の割合で含んでなる熱可塑性樹脂組成物において、当該熱可塑性樹脂組成物の溶融粘度安定性が2.5%以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物が優れた性質を有することが理解できる。
(R
1、R
2,R
3、R
4はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、アラルキル基またはアリール基、Wはアルキリデン基、アルキレン基、シクロアルキリデン基、シクロアルキレン基、フェニル基置換アルキレン基、酸素原子、硫黄原子、スルホキシド基、またはスルホン基である。)
発明の効果
本願発明により、ポリカーボネートとポリエステルとが本来有する耐薬品性などの特性を生かし、湿熱疲労性に優れた熱可塑性樹脂組成物を提供することが可能である。
湿熱疲労性を評価するために使用した、いわゆるC型サンプルの正面図である。
1 C型形状の二重円の中心
2 二重円の内側円の半径(20mm)
3 二重円の外側円の半径(30mm)
4 治具装着用孔の位置を示す中心角(60°)
5 サンプル端面の間隙(13mm)
6 治具装着用孔(直径4mmの円であり、サンプル幅の中央に位置する)
7 疲労試験時におけるサンプルに課される荷重の方向