ここで、好適には、前記切替油室に供給される所定の油圧とは、エンジンによって作動されるオイルポンプから出力される油圧を元圧として、ライン圧を調圧するプライマリレギュレータバルブから排出される排圧を元圧として、セカンダリレギュレータバルブによって調圧されるセカンダリ圧である。このようにすれば、セカンダリ圧は車両の急制動によって速やかに低下するため、スプール弁子をオン位置側に付勢する付勢力を急低下させることができ、ソレノイドバルブの信号圧が比較的高い状態であってもスプール弁子を速やかにオフ位置へ切り替えることができる。
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明が適用された車両用駆動装置10の構成を説明する骨子図である。この車両用駆動装置10は横置き型自動変速機であって、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に採用されるものであり、走行用の動力源としてエンジン12を備えている。内燃機関にて構成されているエンジン12の出力は、エンジン12のクランク軸、流体式伝動装置としてのトルクコンバータ14から前後進切換装置16、ベルト式の無段変速機(CVT)18、減速歯車装置20を介して差動歯車装置22に伝達され、左右の駆動輪24L、24Rへ分配される。
トルクコンバータ14は、エンジン12のクランク軸に連結されたポンプ翼車14p、およびトルクコンバータ14の出力側部材に相当するタービン軸34を介して前後進切換装置16に連結されたタービン翼車14t、ポンプ翼車14pとタービン翼車14tとの間に介挿されて一方向クラッチを介して非回転部材に連結されているステータ翼車14sを備えており、流体を介して動力伝達を行うようになっている。また、それ等のポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tの間にはロックアップクラッチ26が設けられており、車両用油圧制御装置70(図2参照)内のロックアップリレーバルブなどによって係合油室および解放油室に対する油圧供給が切り換えられることにより、係合または解放されるようになっており、完全係合させられることによってポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tは一体回転させられる。また、ポンプ翼車14pには、無段変速機18を変速制御したりベルト挟圧力を発生させたり、ロックアップクラッチ26を係合解放制御したり、或いは各部に潤滑油を供給したりするための油圧をエンジン12により回転駆動されることにより発生する機械式のオイルポンプ28が連結されている。
前後進切換装置16は、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1とダブルピニオン型の遊星歯車装置16pとを主体として構成されており、トルクコンバータ14のタービン軸34はサンギヤ16sに一体的に連結され、無段変速機18の入力軸36はキャリア16cに一体的に連結されている一方、キャリア16cとサンギヤ16sは前進用クラッチC1を介して選択的に連結され、リングギヤ16rは後進用ブレーキB1を介してハウジングに選択的に固定されるようになっている。前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1は断続装置に相当するもので、何れも油圧アクチュエータによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置である。
そして、前進用クラッチC1が係合させられるとともに後進用ブレーキB1が解放されると、前後進切換装置16は一体回転状態とされることによりタービン軸34が入力軸36に直結され、前進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、前進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、後進用ブレーキB1が係合させられるとともに前進用クラッチC1が解放されると、前後進切換装置16は後進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、入力軸36はタービン軸34に対して逆方向へ回転させられるようになり、後進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1が共に解放されると、前後進切換装置16は動力伝達を遮断するニュートラル状態(動力伝達遮断状態)になる。
無段変速機18は、入力軸36に設けられた入力側部材である有効径が可変の駆動側プーリ(プライマリプーリ、プライマリシーブ)42と、出力軸44に設けられた出力側部材である有効径が可変の従動側プーリ(セカンダリプーリ、セカンダリシーブ)46と、それ等の可変プーリ42、46に巻き掛けられた伝動ベルト48とを備えており、可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる。
可変プーリ42および46は、入力軸36および出力軸44にそれぞれ固定された固定回転体42aおよび46aと、入力軸36および出力軸44に対して軸まわりの相対回転不能かつ軸方向の移動可能に設けられた可動回転体42bおよび46bと、それらの間のV溝幅を変更する推力を付与する油圧アクチュエータとしての駆動側油圧アクチュエータ(プライマリプーリ側油圧アクチュエータ)42cおよび従動側油圧アクチュエータ(セカンダリプーリ側油圧アクチュエータ)46cとを備えて構成されており、駆動側油圧アクチュエータ42cへの作動油の供給排出流量が車両用油圧制御装置70によって制御されることにより、両可変プーリ42、46のV溝幅が変化して伝動ベルト48の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γ(=入力軸回転速度Nin/出力軸回転速度Nout)が連続的に変化させられる。また、従動側油圧アクチュエータ46cの油圧であるベルト挟圧Pdが車両用油圧制御装置70によって調圧制御されることにより、伝動ベルト48が滑りを生じないように制御される。
図2および図3は、車両用駆動装置10においてベルト式無段変速機18の変速制御やロックアップクラッチ26のロックアップ制御を実行する車両用油圧制御装置70において、特に本発明の要部であるロックアップクラッチ26を制御する油圧制御装置の構成を示している。なお、図2は、後述するロックアップリレーバルブ72のスプール弁子120がロックアップクラッチ26の解放状態であるオフ位置に切り替えられている状態を示しており、図3はロックアップリレーバルブ72のスプール弁子120がロックアップクラッチ26の係合状態であるオン位置に切り替えられている状態を示している。
車両用油圧制御装置70は、ロックアップクラッチ26を係合状態および解放状態の何れか一方に切り替えるロックアップリレーバルブ72と、ロックアップクラッチ26が係合状態にある場合にロックアップクラッチ26の係合圧を制御するロックアップコントロールバルブ74と、ロックアップリレーバルブ72の切替制御およびロックアップコントロールバルブ74から出力される出力圧の制御を実施するリニアソレノイドバルブ76(ソレノイドバルブ)と、上記ロックリレーバルブ72、ロックアップコントロールバルブ74、およびリニアソレノイドバルブ76等に供給される油圧を発生させる油圧発生機構78とを、備えている。
油圧発生機構78は、オイルパン80に環流した作動油を吸引して圧送するために例えば図示しないエンジンや電動機によって駆動されるオイルポンプ82と、オイルポンプ82から圧送された作動油をライン圧PLに調圧するリリーフ式の第1調圧弁84(プライマリレギュレータバルブ)と、第1調圧弁84から調圧のために排出(リリーフ)された作動油をセカンダリ圧Psecに調圧するリリーフ式の第2調圧弁90(セカンダリレギュレータバルブ)と、ライン圧PLを元圧として予め設定されている所定のモジュレータ圧Pmを発生させる減圧弁である第3調圧弁92(モジュレータバルブ)とを、備えている。第1調圧弁84は、リニアソレノイドバルブ86から出力される制御圧PSLTに基づいて制御され、車両の走行状態に応じたライン圧PLを発生させる。なお、ライン圧PLは、例えばベルト式無段変速機18の変速制御を実施するための変速制御用油路回路94等に供給される。
ロックアップクラッチ26は、係合油路96を介して作動油が供給される係合油室98内の油圧Ponと解放油路100を介して作動油が供給される解放油室102内の油圧Poffとの差圧ΔP(Pon−Poff)によりフロントカバー104に摩擦係合させられる油圧式摩擦係合クラッチである。そして、トルクコンバータ14の運転条件としては、たとえば差圧ΔPが負とされてロックアップクラッチ26が解放状態である所謂ロックアップオフ、差圧ΔPが零以上とされてロックアップクラッチ26が半係合状態である所謂スリップ状態、および差圧ΔPが最大値とされてロックアップクラッチ26が完全に係合された状態である所謂ロックアップオンの3条件に大別される。
ロックアップリレーバルブ72は、ロックアップクラッチ26を係合状態および解放状態の一方に切り換えるためものであり、解放油室102と連通する第1解放ポート106および第2解放ポート108、係合油室98と連通する係合ポート110、セカンダリ圧Psecが供給される第1入力ポート112および第2入力ポート114(本発明の供給ポートに相当)、ロックアップクラッチ26の解放時に係合油室98と連通されると共に、係合時に第2調圧弁90の調圧のために排出(リリーフ)された作動油が出力される油路115と連通される潤滑ポート116、ロックアップクラッチ26の係合時に解放油室102と連通する迂回ポート118、ロックアップリレーバルブ72の油路をロックアップクラッチ26を係合状態とするオン位置または解放状態とするオフ位置に切り替えるためのスプール弁子120、そのスプール弁子120に図2に示すオフ位置側に向かう方向の推力を付与するスプリング122、およびスプール弁子120の端部にリニアソレノイドバルブ76からの信号圧PSLU作用させてスプール弁子120を図3に示すオン位置側へ向かう推力を付与するためにその信号圧PSLUを受け入れる油室124を備えている。なお、潤滑ポート116は、図示しない潤滑油路に接続され、潤滑ポート116から排出される作動油は前後進切換装置16、ベルト式無段変速機18、減速歯車装置20、差動歯車装置22等を構成する各機械要素の潤滑油として供給される。
また、ロックアップリレーバルブ72は、排出用のドレンポート128と、受圧面積の異なる切替油室129と連通される閉じられた系である切替ポート126とを、備えている。切替ポート126は、スプール弁子120がオフ位置側に位置された状態(図2)では切替油室129を介してドレンポート128と連通される一方、スプール弁子120がオン位置側に位置された状態(図3)では切替油室129を介して第2入力ポート114と連通される。ここで、切替ポート126と連通される切替油室129は、受圧面積の異なるランドによって仕切られることで受圧面積差を有している。そして、切替油室129内に第2入力ポート114からセカンダリ圧Psecが供給されると、その作動油の油圧および切替油室129の受圧面積差に基づいてスプール弁子120をオン位置側に付勢させる推力が付与される。例えば、スプール弁子120がオフ位置側に切り替えられて切替ポート126とドレンポート128とが連通される場合、ドレンポート128から切替油室129の作動油が排出されるため、スプール弁子120には推力が発生しない。一方、切替ポート126と第2入力ポート114とが切替油室129を介して連通されると、第2入力ポート114から切替油室129に供給されるセカンダリ圧Psecとその切替油室129の受圧面積差(受圧面積差ΔA)に基づいて、スプール弁子120をオン位置側に付勢させる推力が発生する。
具体的には、切替ポート126内に形成される切替油室129は、断面直径がφAのランド120aと、断面直径がφBのランド120bとで仕切られることで構成されている。またランド120aの断面直径φAは、ランド120bの断面直径φBよりも大きく形成されていることから、受圧面積はランド120aの方が大きくなる。したがって、所定の受圧面積差ΔAが形成されているため、切替ポート126と第2入力ポート114とが連通されると、切替油室129に第2入力ポート114からセカンダリ圧Psecが供給されるので、上記受圧面積差ΔAとセカンダリ圧Psecとの積で表される推力が付与され、その推力によってスプール弁子120がオン位置側に向かう方向に付勢される。
ロックアップコントロールバルブ74は、そのバルブの状態を切り換えるスプール弁子130と、そのスプール弁子130をスリップ位置側(SLIP)へ向かう推力を付与するスプリング132と、スプール弁子130をスリップ位置側へ向かって付勢するためにトルクコンバータ14の係合油室98内の油圧Ponを受け入れる油室134と、スプール弁子130を完全係合位置側(ON)へ付勢するためにトルクコンバータ14の解放油室102内の油圧Poffを受け入れる油室136と、スプール弁子130をオン位置側に向かって付勢するためにリニアソレノイドバルブ76から出力される信号圧PSLUを受け入れる油室138と、第2調圧弁90によって調圧されたセカンダリ圧Psecが供給される入力ポート140と、スプール弁子130がスリップ位置側に位置された際に入力ポート140と連通する制御ポート142とを、備えている。なお、図2および図3において、中心線より左側がスリップ位置側(SLIP)にスプール弁子130が位置された状態を示しており、中心線より右側が完全係合位置側(ON)にスプール弁子130が位置された状態を示している。
リニアソレノイドバルブ76は、図示しない電子制御装置からの指令に基づいて、ロックアップクラッチ26の係合時にそのロックアップクラッチ26の係合圧を制御するための信号圧PSLUを出力する。リニアソレノイドバルブ76は、第3調圧弁92で発生させられるモジュレータ圧Pmを元圧とし、それを減圧して信号圧PSLUを発生させる。また、リニアソレノイドバルブ76は、信号圧PSLUをロックアップリレーバルブ72の切替信号圧としてロックアップリレーバルブ72の油室124に作用させる。そして、油室124に信号圧PSLUが所定の切替圧以上となると、ロックアップリレーバルブ72のスプール弁子120は、オフ位置側(図2)からスプリング122のオフ位置側への付勢力に抗してオン位置側(図3)に移動させられる。このとき、第1入力ポート112に供給されたセカンダリ圧Psecが係合ポート110から係合油路96を通って係合油室98に供給される。この係合油室98に供給されるセカンダリ圧Psecが油圧Ponとなる。同時に、解放油室102は、解放油路100を通って第1解放ポート106から迂回ポート118を経てロックアップコントロールバルブ74の制御ポート142に連通される。そして、係合油室98内の油圧Ponと解放油室102内の油圧Poffとの差圧ΔP(=Pon−Poff)が信号圧PSLUの増加に伴って大きくなるようにロックアップコントールバルブ74によって調節されてロックアップクラッチ26の作動状態がスリップ状態乃至ロックアップオン(完全ロックアップ状態)の範囲で調整される。
具体的には、ロックアップリレーバルブ72のスプール弁子120がオン位置側に切り替えられているとき、すなわち信号圧PSLUが前記所定の切替圧より高くされてロックアップクラッチ26が係合状態に切り替えられているとき、ロックアップコントロールバルブ74において、信号圧PSLUの出力が低く、スプリング132の付勢力によってスプール弁子130がスリップ位置(SLIP)側とされると、入力ポート140に供給されたセカンダリ圧Psecが制御ポート142から迂回ポート118を経て、第1解放ポート106から解放油路100を通り解放油室102に供給される。この状態において、差圧ΔP(=Pon−Poff)が前記切替圧から最大値までの範囲の信号圧PSLUの大きさに応じてリニアソレノイドバルブ76によって制御されて制御ポート142が、入力ポート140ないしドレンポート144と連通することで、解放油室102が制御され、ロックアップクラッチ26のスリップ状態が制御される。
また、ロックアップリレーバルブ72のスプール弁子120がオン位置側に切り替えられているとき、ロックアップコントロールバルブ74において、スプール弁子130を完全係合位置(ON)へ移動させる最大値の信号圧PSLUが油室138へ供給されると、入力ポート140は遮断されるため、解放油室102へセカンダリ圧Psecが供給されず、解放油室102の作動油はドレンポート144から排出される。これにより、差圧ΔP(=Pon−Poff)が最大とされてロックアップクラッチ26が完全係合状態となる。
一方、ロックアップリレーバルブ72において、油室124に供給される信号圧PSLUが前記所定の切替圧よりも低くされてスプリング122の付勢力によってスプール弁子120がオフ位置側(図2)へ移動されると、第1入力ポート112に供給されたセカンダリ圧Psecが第2解放ポート108から解放油路100を通って解放油室102へ供給される。そして、作動油は、係合油室98を経て係合油路96を通り、係合ポート110へ供給されて潤滑ポート116から図示しない潤滑油路に供給される。これにより、ロックアップクラッチ26がロックアップオフとされる。
上記のように1本のリニアソレノイドバルブ76は、ロックアップリレーバルブ72の切替制御とロックアップコントロールバルブ74によるロックアップクラッチ26の係合圧(差圧ΔP)の制御とを共に実施する。これにより、それぞれの制御を別個のソレノイドバルブで実施する場合に比べて生産コストが低下すると共に、装置の小型化が可能となる。
しかしながら、上記のような構成の場合には以下のような問題が発生する。例えば、ロックアップクラッチ26が係合された状態で走行中、ブレーキペダルの踏込による急制動(急停止)が実行されると、エンジンが駆動輪と機械的に連結されているため、駆動輪の回転低下に伴ってエンジン回転速度が低下することとなる。したがって、ロックアップクラッチ26を速やかに解放する必要が生じる。これより、ロックアップクラッチ26の急解放に際してロックアップリレーバルブ72のスプール弁子120をオフ位置側へ切り替えることとなるが、リニアソレノイドバルブ76の油圧応答性は比較的遅く、リニアソレノイドバルブ76の信号圧PSLUがスプール弁子120がオフ位置側へ切り替えられる油圧値すなわち前記切替圧よりも低下するまでに時間がかかってロックアップリレーバルブ72の切替が遅れ、それに伴ってエンジン回転速度が落ち込み、ドライバビリティが低下する可能性があった。
これに対して、本実施例では上述したように、ロックアップリレーバルブ72がオフ位置側にある場合にはドレンポート128に連通されると共に、ロックアップリレーバルブ72がオン位置側にある場合には第2入力ポート114と連通される切替ポート126が設けられている。図2に示すように、ロックアップリレーバルブ72がオフ位置側にある場合には、切替ポート126は切替油室129を介してドレンポート128と連通されるため、切替油室129の作動油はドレンポート128から排出される。したがって、切替ポート126内に形成されている受圧面積差を有する切替油室129には油圧が供給されないので、スプール弁子120に上記切替油室129による推力は発生しない。下式(1)は、ロックアップリレーバルブ72のスプール弁子120がオフ位置側にある状態でのスプール弁子120に働く力の関係を示している。ここで、A(φB)は、図3に示すランド120bの受圧面積を示しており、PSLUは、リニアソレノイドバルブ76の信号圧であり、Woff->onは、ロックアップリレーバルブ72のスプール弁子120がオフ位置側にある状態でのスプリング122の付勢力を示している。下式(1)より、信号圧PSLUが低圧(或いは出力されない)であると、スプリング122の付勢力の方が大きくなってスプール弁子120がオフ位置側に移動させられる。
A(φB)×PSLU≦Woff->on ・・・・(1)
一方、図3に示すように、ロックアップリレーバルブ72がオン位置側にある場合には、切替ポート126は切替油室129を介して第2入力ポート114と連通されるため、切替ポート126と連通される切替油室129内にセカンダリ圧Psecが供給される。したがって、切替油室129に形成されている受圧面積差ΔAにセカンダリ圧Psecが作用することにより、スプール弁子120をオン位置側へ付勢する推力が付与される。下式(2)は、ロックアップリレーバルブ72がオン位置側にある状態でのスプール弁子120に働く力の関係を示している。ここで、A(φA−φB)は、切替油室129内の受圧面積差すなわち、ランド120aの受圧面積A(φA)とランド120bの受圧面積A(φB)との面積差を示しており、Psecがセカンダリ圧を示しており、Won->offがロックアップリレーバルブ72のスプール弁子120がオン位置側にある状態でのスプリング122の付勢力を示している。下式(2)より、スプール弁子120がオン位置側にある場合、信号圧PSLUおよびセカンダリ圧Psecがスプール弁子120に作用することで、スプリング122の付勢力に抗ってスプール弁子120がオン位置側に移動させられることとなる。
A(φB)×PSLU+A(φA−φB)×Psec≧Won->off ・・・・(2)
上記のように、ロックアップリレーバルブ72のスプール弁子120がオン位置側にある場合にのみセカンダリ圧Psecが作用するように構成されることで、車両の急制動(急停止)が実施された場合であってもロックアップクラッチ26が速やかに解放されてエンジン回転速度の落ち込みが防止される。上記理由を以下に説明する。
図4は、ロックアップクラッチ26が係合された状態で走行中に運転者のブレーキ操作によって急制動(急停止)が実施された際の状態を示すタイムチャートであって、上記切替油室129に供給されているセカンダリ圧Psecの変化を説明するための図である。t1時点において、運転者によるブレーキ操作が実施されると、駆動輪の回転速度低下に引きずられるように実線で示すエンジン回転速度Neおよび破線で示すタービン回転速度Ntが急低下させられる。なお、ロックアップクラッチ26の係合時(完全係合時)において、エンジン回転速度Neとタービン回転速度Ntとは一体的に回転するため等しくなる。そして、ロックアップクラッチ26の解放が開始されるに伴い、ロックアップクラッチ26がスリップすることで、エンジン回転速度Ntとタービン回転速度Ntとの間に回転速度差が発生する。なお、図4において、一時的にタービン回転速度Ntがエンジン回転速度Neよりも高くなるのは、タービン回転速度Ntが駆動輪側からの逆駆動力によって回転させられるためである。また、実線で示す係合油室90の油圧Pon(係合油圧Pon)および一点鎖線で示す解放油室102の油圧Poff(解放油圧Poff)も上記急制動に伴って低下する。そして、t2時点において、係合油圧Ponと解放油室Poffの大きさが逆になり、ロックアップクラッチ26が完全解放されることとなる。
ここで、セカンダリ圧Psecは、ロックアップオンの状態(t2時点以前)では係合油圧Ponに対応しており、ロックアップオフの状態(t2時点以降)では解放油圧Poffに対応する。すなわち、「○」を付した線がセカンダリ圧Psecに対応する。上記は、ロックアップクラッチ26の切り替わるt2時点において、セカンダリ圧Psecの供給先が係合油室98(Pon)から解放油室102(Poff)に切り替えられるためである。図4に示すように、セカンダリ圧Psecも車両の急制動に伴って急低下している。上記セカンダリ圧Psecの急低下は、急制動が実施されるとエンジン回転速度Neが急低下することからエンジンの駆動に伴って作動されるオイルポンプ82の出力が低下すること、急制動に伴ってベルト式無段変速機18の変速制御が開始されてその変速制御に多くの油圧が使用されること、リニアソレノイドバルブ86から出力される制御圧PSLTに基づくセカンダリ圧Psecの低下指令等に起因している。上記より、セカンダリ圧Psecは、運転者による急制動(急停止)に伴って低下する。
上述したように、セカンダリ圧Psecは車両の急制動に応じて急低下するため、急制動時において、スプール弁子120をオン位置側に付勢する推力が急激に低下する。すなわち、式(2)において、セカンダリ圧Psecが急低下するに伴い、左辺第2項(=A(φA−φB)×Psec)に基づく推力が低下し、結果としてスプール弁子120のオン位置側への付勢力が低下する。そして、式(2)の左辺の推力が右辺のスプリング122の付勢力Won->offを下回ると、ロックアップリレーバルブ72が速やかにオフ位置側切り替えられることとなる。したがって、車両の急制動時において、セカンダリ圧Psecの低下に伴ってロックアップリレーバルブ72が速やかにオフ位置側に切り替えられることとなる。なお、スプリング122の弾性力や切替油室129の受圧面積等は、上記のようにロックアップリレーバルブ72が作動されるように、予め実験や計算等によって最適な値に設定される。
図5は、ロックアップリレーバルブ72が上記のように構成された場合において、ロックアップリレーバルブ72のスプール弁子120がオン位置側からオフ位置側に切り替えられる領域の変化の一例を示している。図5において、横軸がリニアソレノイドバルブ76の信号圧PSLUを示しており、縦軸がセカンダリ圧Psecを示している。図に示すように、セカンダリ圧Psecが低下するに従って、実線で示すロックアップリレーバルブ72のスプール弁子120がオン位置からオフ位置に切り替えられる際の境界となるON−OFF切替線が大きくなる。言い換えれば、セカンダリ圧Psecが低下するに従って、スプール弁子120がオン位置からオフ位置に切り替えられる際の信号圧PSLUが大きくなる。これより、ロックアップリレーバルブ72のスプール弁子120がオフ位置に切り替えられる領域(L/U OFF領域)が拡大され、セカンダリ圧Psecの低下に従って、信号圧PSLUが高い値であってもロックアップリレーバルブ72のスプール弁子120がオフ位置に切り替えられることとなる。
例えば、図5の一例では、破線で示すように、セカンダリ圧Psecが400kPa付近になると仮定すると、信号圧PSLUが90kPa程度でロックアップリレーバルブ72がオフ位置に切り替えられる。ここで、一点鎖線が従来のON−OFF切替線を示している。従来においては、スプリング122による付勢力と信号圧PSLUに基づく付勢力とでON−OFF切替線が一義的に決定されるため、セカンダリ圧Psecの変化に拘わらず一定となる。具体的には、従来においては、セカンダリ圧Psecの値に拘わらず、信号圧PSLUが65kPa程度の大きさでオフ位置に切り替えられる。これより、セカンダリ圧Psecが400kPa付近において、従来では信号圧PSLUが65kPa程度で切り替えられるのに対して、本実施例では信号圧PSLUが90kPa程度で切り替えられることになる。このように、車両の急制動時において、ロックアップクラッチ26を解放するリニアソレノイドバルブ76の信号圧PSLUの低下が遅くても、セカンダリ圧Psecの低下に従って、ロックアップリレーバルブ72のスプール弁子120がオフ位置に切り替えられることとなる。
図6は、車両急制動時において、ロックアップクラッチ26が従来に比べて速やかに解放されることを説明するためのタイムチャートである。t1時点において、車両の急制動時が実施されると、それと同時にロックアップクラッチ26を解放するため、すなわちロックアップリレーバルブ72のスプール弁子120をオフ位置側に切り替えるため、リニアソレノイドバルブ76の信号圧PSLUを急低下させる信号が出力される。なお、実線が信号圧PSLUの指示圧であり、破線がその指示圧に追従する実際の信号圧PSLU(実SLU圧)を示している。図に示すように、実線で示す指示圧に対して、破線で示す実際の信号圧PSLUはその応答性から必ず遅れて出力される。そして、実際の信号圧PSLU(以下の説明において、信号圧PSLUは実際の信号圧PSLUに対応する)が低下し、信号圧PSLUが油圧P1となるt2時点において、ロックアップリレーバルブ72のスプール弁子120のオフ位置側への切替が実行される。したがって、t2時点において、実線で示す差圧ΔP(=Pon-Poff)が急低下することとなる。なお、従来では、信号圧PSLUが油圧P1となっても切り替えられず、さらに低圧である油圧P2で切り替えられる。したがって、従来では、一点鎖線で示すように、t3時点において差圧ΔPが低下する。すなわち、ロックアップリレーバルブ72が切り替わる時間が従来のt3時点からt2時点に短縮化される。また、これに従い、本実施例でのロックアップクラッチ26が完全に解放される時間をt4時点とすると、従来ではt5時点となりロックアップクラッチ26が完全に解放される時間も同様に短縮化されることとなる。
上述のように、本実施例によれば、ロックアップリレーバルブ72のスプール弁子120がオフ位置側にある場合には、切替油室129を介して切替ポート126とドレンポート128とが連通される一方、ロックアップリレーバルブ72のスプール弁子120がオン位置側にある場合には、切替油室129を介して切替ポート126と第2入力ポート114とが連通されることによってスプール弁子120をオン位置側に付勢させる推力が付与される。このようにすれば、ロックアップクラッチ26の係合中に車両が急制動(急停止)させられた場合において、ロックアップリレーバルブ72が速やかにオフ位置に切り替えられてロックアップクラッチ26が解放状態とされるので、エンジン回転速度の落ち込みを抑制して、ドライバビリティの低下を抑制することができる。
具体的には、ロックアップクラッチ26が係合状態にある場合、ロックアップリレーバルブ72のスプール弁子120がオン位置側に付勢された状態となる。すなわち、スプール弁子120は、リニアソレノイドバルブ76の信号圧PSLUに基づく付勢力と切替油室129に供給されるセカンダリ圧Psecに基づく付勢力とによって、オン位置側に付勢させられている。ここで、車両が急制動(急停止)させられると、ロックアップクラッチ26を解放するため、ロックアップリレーバルブ72のスプール弁子120を速やかにオフ位置に切り替える必要が生じるが、リニアソレノイドバルブ76の信号圧PSLUは応答性が悪いため、ロックアップクラッチ26の解放が遅れてエンジン回転速度が落ち込む可能性が生じる。これに対して、切替油室129には車両の走行状態に応じて速やかに変化するセカンダリ圧Psecが供給されているため、車両の急制動に応じてその油圧が低下することで、切替油室129に供給されるセカンダリ圧Psecによるスプール弁子120のオン位置側への付勢力が急低下する。したがって、リニアソレノイドバルブ76の信号圧PSLUが比較的高い状態にあっても切替油室129による付勢力の急低下に伴って、ロックアップリレーバルブ72のスプール弁子120がオフ位置側に切り替えられる。これより、リニアソレノイドバルブ76の信号圧PSLUの応答遅れに拘わらず、ロックアップクラッチ26が解放されるので、エンジン回転速度の落ち込みを抑制してドライバビリティの低下を抑制することができる。
また、本実施例によれば、切替油室129に供給される所定の油圧として、エンジンによって作動されるオイルポンプ82から出力される油圧を元圧として、ライン圧を調圧する第1調圧弁84(プライマリレギュレータバルブ)から排出される排圧を元圧として、第2調圧弁90(セカンダリレギュレータバルブ)によって調圧されるセカンダリ圧Psecである。このようにすれば、セカンダリ圧Psecは車両の急制動によって速やかに低下するため、スプール弁子120をオン位置側に付勢する付勢力を急低下させることができ、リニアソレノイドバルブ76の信号圧PSLUが比較的高い状態であってもスプール弁子120を速やかにオフ位置へ切り替えることができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例では、車両用油圧制御装置70はベルト式無段変速機18に適用されているが、ベルト式無段変速機18に限定されず、有段式自動変速機等の他の変速機に適用されても構わない。
また、前述の実施例では、受圧面積を有する切替ポート126内にセカンダリ圧Psecが供給される構造であっったが、セカンダリ圧に限定されず、例えばライン圧PLであっても構わない。すなわち車両の走行状態に応じて速やかに変化する油圧であれば、他の油圧が供給されても構わない。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。