JP5192133B2 - カチオン性高分子分散剤を用いた熱可塑性樹脂水性分散液 - Google Patents

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Description

この発明は、カチオン性高分子分散剤を用いた熱可塑性樹脂水性分散液に関する。
ポリエチレンワックス、ロジン系誘導体、低密度ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体等の熱可塑性物質を、界面活性剤や保護コロイド剤等の分散剤を用いて水に分散させた水分散液、いわゆるエマルジョンを製造する方法は知られている。
例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体のエマルジョンは、エチレン・酢酸ビニル共重合体を先ず加熱溶融し、次いで、アニオン系あるいは/及びノニオン系の界面活性剤を添加撹拌し、その後、熱水を添加してホモミキサーにより乳化する事により得ることができる(特許文献1参照)。
また、石油樹脂のエマルジョンは、石油樹脂を溶融し、部分ケン化ポリビニルアルコールの水溶液を加圧ニーダー等により溶融混練し、温水を徐々に加えて転相乳化する方法が採用されている(特許文献2参照)。
さらに、アニオン性基を有するアクリル系共重合体の中和物、又はカチオン性基を有するアクリル系共重合体の中和物を高分子分散剤として用い、エチレン・酢酸ビニル共重合体や低密度ポリエチレン等の熱可塑性物質のエマルジョンを製造する方法が提案されている(特許文献3、特許文献4参照)。
特開昭57−61035号公報 特開昭54−20065号公報 特開昭58−127752号公報 特開昭58−118843号公報
しかしながら、前記のアニオン性基やカチオン性基を有するアクリル系共重合体の中和物を分散剤として用いて製造される樹脂水性分散液は、一般に基材へ塗布して使用されるが、作業性、生産性からアルコールなどの親水性有機溶媒と混合して使用される。しかし、アルコールなどの親水性有機溶媒を混合させて放置しておくと、粘度が上昇して基材へ塗布することが出来なくなったり、ロールコーターのような高剪断がかかる場合は、分散微粒子が凝集してクリーム状に変化して基材への塗布使用が不可能になったりする問題点があった。
そこで、この発明は、かかる問題点を解決し、アルコールなどの親水性有機溶媒を混合させて放置しても、粘度が保持され、かつ、ロールコーターのような高剪断がかかっても、エマルジョンが安定に保持されるような熱可塑性樹脂水性分散液を提供することを目的とする。
この発明は、アニオン系熱可塑性樹脂及びカチオン性高分子分散剤を用いることにより、安定な熱可塑性樹脂水性分散液を得ることができたというものである。すなわち、下記[2]成分に相当する熱可塑性樹脂を除く熱可塑性樹脂[1]、アニオン系熱可塑性樹脂[2]、及び下記の(A)成分及び(B)成分を含み、この(A)成分及び(B)成分を、(A)成分/(B)成分=10〜80/90〜20のモル比で混合した単量体を、共重合することにより得られる共重合体からなり、この共重合体の中和度が50〜85モル%であるカチオン性高分子分散剤[3]を含む熱可塑性樹脂水性分散液を用いることにより、上記課題を解決したのである。
(A)成分:下記式(1)で示される単量体。
Figure 0005192133
(上記式(1)中、R1は、水素原子又はメチル基を示し、R2は、炭素数1〜4のアルキレン基又はヒドロキシ置換アルキレン基を示し、R3及びR4は、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示すと共に、R3とR4は、同一であっても異なってもよく、Aは酸素原子又は、NH基を示す。)
(B)成分:
α,β−不飽和カルボン酸アルキルエステル。
所定の中和度を有する特定のカチオン性高分子分散剤[3]とアニオン系熱可塑性樹脂[2]とを併用するので、両者の間に適度な電荷的な結合が生じ、両者の親和性が高まる。このため、これを用いて得られる熱可塑性樹脂[1]のエマルジョンは安定性が向上し、水性分散液にアルコールなどの親水性有機溶媒を混合させて放置しても、分散状態を維持することができ、かつ、ロールコーターのような高剪断がかかっても、ブツやダマ等の凝集物の生成を抑えることができる。
以下、この発明について詳細に説明する。
この発明にかかる熱可塑性樹脂水性分散液は、熱可塑性樹脂[1](下記[2]成分に相当する熱可塑性樹脂を除く。)、アニオン系熱可塑性樹脂[2]、及びカチオン性高分子分散剤[3]を含有する水性分散液であり、具体的には、アニオン系熱可塑性樹脂[2]と、カチオン性高分子分散剤[3]とによって、熱可塑性樹脂[1](上記[2]成分に相当する熱可塑性樹脂を除く。)を水に分散させてなる水性分散液である。
上記熱可塑性樹脂[1]は、水に分散される対象の樹脂であり、アニオン系熱可塑性樹脂[2]に相当しないものであれば、特に限定されない(以下、単に「熱可塑性樹脂[1]」と記載した場合、アニオン系熱可塑性樹脂[2]に相当する熱可塑性樹脂を除いたものを意味することとする。)。このような熱可塑性樹脂[1]の具体例としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル等のビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、エチレン−プロピレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム等のエラストマー樹脂、ロジン等が挙げられる。
上記アニオン系熱可塑性樹脂[2]とは、アニオン性基又はマイナス分極性基を含有する熱可塑性樹脂をいう。
上記アニオン性基含有熱可塑性樹脂としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等のアニオン性基を含有する熱可塑性樹脂があげられる。このようなアニオン性基含有熱可塑性樹脂としては、α,β−不飽和カルボン酸を含む単量体群を共重合させた共重合体や、カルボキシル基を残存させたポリエステル樹脂、あるいは、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂を無水マレイン酸等で変性した変性熱可塑性樹脂等があげられる。
上記α,β−不飽和カルボン酸の例としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、シトラコン酸、(無水)マレイン酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル等があげられる。
上記マイナス分極性基含有熱可塑性樹脂としては、電気陰性度の高いハロゲン原子が炭素原子と結合した場合のように、ハロゲン原子の誘起効果により、ハロゲン原子がマイナス分極するような塩素化ポリエチレン、臭素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、臭素化ポリプロピレン等が挙げられる。ハロゲンとしては、上記のように塩素、臭素が好ましい。また、酸素原子がマイナス分極するようなアミンオキサイド基を含有する熱可塑性樹脂であってもよい。この例としては、アミンオキサイド基を与える3級アミノ基を有する単量体(=前駆体)を他の単量体と共重合させ、次いで得られた共重合体の3級アミノ基をオキサイド化したものが挙げられる。3級アミノ基をアミンオキサイド基に転換するには、共重合体にオキサイド化剤(過酸化水素、過酸化アンモニウム、過酸化ナトリウム、過酢酸、メタクロロ安息香酸、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の過酸化物、オゾン等)を反応させたものを用いることができる。ただし、カルボニル基程度の分極率では、本願発明において使用されるマイナス分極性基の範疇としない。例えば、ポリ酢酸ビニル、エチレン酢酸ビニル共重合体等をあげることができる。
上記アニオン系熱可塑性樹脂[2]の軟化点又は融点は、200℃以下が好ましく、180℃以下がより好ましい。軟化点又は融点が200℃を越えると、不定形で粒子径の大きな水性分散液となり静置安定性が悪くなる傾向があった。また、塗料、コーティング剤や接着剤として使用する場合、高温処理を行わなくてはならないので経済的でない。一方、軟化点又は融点の下限は、20℃がよく、30℃が好ましい。20℃より低いと、エマルジョンの長期安定性は不十分になることがある。なお、軟化点は、JIS K−7206にある測定方法で測定できる。融点は、DSC等で測定可能である。
さらに、熱可塑性樹脂の熱可塑化温度としてメルトフローインデックス(JIS K−6760、荷重2.16kg、温度190℃)が用いられる。このメルトフローインデックスは、3g/10分以上が好ましく、5g/10分以上がより好ましく、10g/10分以上がさらに好ましい。3g/10分より小さいと、熱可塑性樹脂の可塑性が悪いため、水性分散液として製造することが困難となりやすい。一方、メルトフローインデックスの上限は、600g/10分が好ましく、500g/10分がより好ましく、400g/10分がさらに好ましい。600g/10分より大きいと、樹脂の分子量が低すぎて、塗布した後の塗膜の強度が十分でない可能性がある。
上記カチオン性高分子分散剤[3]は、下記の(A)成分及び(B)成分を含み、この(A)成分及び(B)成分を、下記の所定の割合で混合した単量体群を、共重合することにより得られる共重合体を、所定の中和度に中和した分散剤である。
上記(A)成分とは、下記式(1)で示される単量体をいう。
Figure 0005192133
上記式(1)中、R1は、水素原子又はメチル基を示し、R2は、炭素数1〜4のアルキレン基又はヒドロキシ置換アルキレン基を示し、R3及びR4は、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示すと共に、R3とR4は、同一であっても異なってもよく、Aは酸素原子又は、NH基を示す。)
なお、上記(A)成分の一部、すなわち、モル比で(1)/(2)=90/10〜50/50となる範囲で、下記式(2)で示される単量体により、(A)成分を置き換えてもよい。
Figure 0005192133
上記(A)成分の具体例としては、上記式(1)で示される単量体として、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノ−2−アミノエチル、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられ、単独で使用しても組み合わせて使用してもよい。また、上記式(2)で示される単量体として、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン等があげられる。
上記(B)成分としては、α,β−不飽和カルボン酸アルキルエステルがあげられる。このα,β−不飽和カルボン酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸アリルなどが挙げられ、単独で使用しても組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、メタクリル酸メチルあるいは、アルキル基の炭素数が6以上のメタクリル酸アルキルエテスル、例えば、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリル等を主成分とするものが好ましく、(B)成分中のこれらの割合が50重量%以上であるものが熱可塑性物質に対する親和性がよく、かつ分散剤としての親水性と親油性のバランスがとれ、乳化力の高い利点を有するので特に好ましい。
ところで、この発明にかかるカチオン性高分子分散剤[3]の溶融粘度を低下せしめ、得られる熱可塑性樹脂水性分散液の低温接着性、透明性を付与する効果を与えるために、上記(B)成分のアルキルエステル部分が、ポリアルキレングリコールエステルのような非イオン系官能基を有してもよい。その際、このポリアルキレングリコールエステル基重量が、上記(B)成分全体に対して20重量%を超えない方が好ましい。
このα,β−不飽和カルボン酸ポリアルキレングリコールエステルの具体例として、例えば、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール等が挙げられる。これらの中で、分散剤の耐水性、親油性−親水性のバランスのとりやすさの点から、ポリアルキレングリコール部分の分子量が250以上のメタクリル酸ポリプロピレングリコール、メタクリル酸ポリエチレングリコールポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールポリテトラメチレングリコールモノメタクリレートが好ましい。
ところで、上記カチオン性高分子分散剤[3]を構成する単量体群として、上記(A)成分及び(B)成分の単量体の他に、必要に応じて酢酸ビニル、スチレン、ビニルエーテル等の重合性単量体を使用することができる。
上記の(A)成分と(B)成分との単量体の混合比は、モル比(A)成分/(B)成分=10〜80/90〜20がよく、25〜60/75〜40が好ましい。(A)成分の含有量が10モル%より少ないと、得られる共重合体の中和物の親水性が弱くなる傾向があり、一方、80モル%より多いと、中和物の親水性が強すぎて安定なポリマー水性分散液を製造することが困難となる傾向がある。
また、上記カチオン性高分子分散剤[3]を構成する単量体群に含まれる上記の(A)成分及び(B)成分の合計量は、70モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましい。70モル%より少ないと、分散安定性が低下することがある。
次に、上記カチオン性高分子分散剤[3]を構成する共重合体の重合方法について説明する。
まず、上記カチオン性高分子分散剤[3]を構成する共重合体を構成する(A)成分及び(B)成分を含む各単量体を上記の条件の混合比で混合し、単量体混合液を得る。次いで、親水性溶媒の存在下、重合開始剤を加え、所定温度で所定時間、重合反応させることにより、目的の共重合体を製造することができる。
上記親水性溶媒としては、エタノール、イソプロパノール、セロソルブ等があげられる。また、上記重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、t−ブチルパーオキシイソブチレート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキセン、t−ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられる。
上記の方法で製造される共重合体の重量平均分子量は、1,000以上がよく、2,000以上が好ましく、3,000以上がより好ましい。1,000より小さいと、分散安定性が不十分となる傾向がある。一方、上記共重合体の重量平均分子量の上限は、1,000,000がよく、500,000が好ましく、200,000がより好ましい。1,000,000より大きいと、分散剤を溶解した際の溶解粘度が過度に高くなり、取り扱い性が悪化する傾向がある。
上記重合温度としては、0〜180℃がよく、40〜120℃が好ましい。また、上記重合時間としては、0.5〜20時間がよく、2〜10時間が好ましい。
上記の重合方法で得られる共重合体は、中和剤によって中和されてカチオン化されるが、その中和度は、50モル%以上であることが必要で、60モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましい。中和度が50モル%未満だと、共重合体の水に対する溶解性が悪くなり、得られるカチオン性高分子分散剤[3]の親水性が低下するため、分散効果が不十分となる傾向がある。このため、得られる熱可塑性樹脂水性分散液の粒子径が大きくなり、樹脂層と水層の分離が起こりやすくなり、好ましくない。
一方、中和度の上限は、85モル%が必要であり、80モル%が好ましい。85モル%を超えると、得られるカチオン性高分子分散剤[3]のカチオン性が低下するため、アニオン系熱可塑性樹脂[2]のアニオン性基又はマイナス分極性基との親和性が不十分となり、カチオン性高分子分散剤[3]とアニオン系熱可塑性樹脂[2]との親和安定性が低下する傾向がある。このため、カチオン性高分子分散剤[3]とアニオン系熱可塑性樹脂[2]を用いて熱可塑性樹脂[1]を水中に分散させた分散液にアルコール等の親水性有機溶媒を混合させて放置しておくと、粘度が上昇したり、高剪断がかかるような条件下では、分散粒子が凝集してクリーム状に変化するおそれがある。
上記中和剤としては、塩基性化合物が用いられ、この塩基化合物の例としては、アンモニア、アルキルアミン類、アルカノールアミン類、モルホリンなどが挙げられる。上記アルキルアミン類としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン等が挙げられ、また、アルカノールアミン類としては、2−アミノ−2−メチルプロパノール等が挙げられる。中でも、アンモニア、炭素数1〜4の低級アルキルアミン等の低沸点化合物がより好ましい。これらを用いると、得られた水性分散液が乾燥して皮膜を形成する際、これら塩基性化合物が分散剤から遊離し易いため、皮膜中に取り込まれた分散剤の疎水性が増加し、皮膜の耐水性が向上する傾向がある。
上記共重合体の中和反応は、共重合体と塩基性化合物とを、20〜100℃で0.1〜3時間反応させることにより行われる。
ところで、上記の中和度を達成する方法としては、上記の共重合後に中和反応を行う場合の他、予め、(A)成分を上記塩基性化合物で中和しておき、これと(B)成分とを共重合させる方法も採用することができる。
上記カチオン性高分子分散剤[3]及びアニオン系熱可塑性樹脂[2]を用いることにより、熱可塑性樹脂[1]を水に分散させることができ、安定な熱可塑性樹脂水性分散液を得ることができる。
熱可塑性樹脂水性分散液の製造方法としては、上記カチオン性高分子分散剤[3]を水に溶解又は分散させ、ここに溶融した上記アニオン系熱可塑性樹脂[2]、分散すべき熱可塑性樹脂[1]を添加し、ホモミキサー等により均一に攪拌する方法があげられる。
上記カチオン性高分子分散剤[3]を用いて熱可塑性樹脂を水中に分散させる場合におけるカチオン性高分子分散剤[3]の使用量は、水に対する濃度として、3〜40重量%が好ましい。3重量%より少ないと、分散粒子径が大きくなり、分散安定性が悪化する傾向がある。一方、40重量%より多いと、使用量の増加に見合う効果の増大が得られないため、経済的でない。
また、上記カチオン性高分子分散剤[3]の使用量は、上記熱可塑性樹脂[1]とアニオン系熱可塑性樹脂[2]の合計量100重量部に対して、固形分換算で、2重量部以上が好ましく、3重量以上がより好ましい。2重量部未満では、安定した水性分散液を製造することが困難となるおそれがある。一方、使用量の上限は、30重量部がよく、15重量部が好ましい、30重量部を越えると、上記カチオン性高分子分散剤[3]によって形成される皮膜の機械的強度が実用に耐えないし、また、皮膜の紙、アルミニウム箔、フィルム等の基材に対する密着性が低下するおそれがある。
上記の均一に攪拌する方法として、ホモミキサーが用いられるが、このホモミキサーとしては、ロールミル、ニーダー、押出機、インクロール、及びバンバリーミキサーから選ばれる混練機をあげることができる。これらの中でも、スクリューを2本以上ケーシング内に有する多軸押出機を用いることが特に好ましい。
上記多軸押出機を用いた均一撹拌方法の例を次に示す。まず、溶融した熱可塑性樹脂[1]及びアニオン系熱可塑性樹脂[2]、又はこれらと、上記カチオン性高分子分散剤[3]を含有する水とを混合し、これを上記多軸押出機のホッパー、あるいは中途供給口より連続的に供給し、これを加熱溶融混練する。さらにこの多軸押出機の圧縮ゾーン、計量ゾーン及び脱気ゾーンに設けた少なくとも1個の供給口より、上記カチオン性高分子分散剤[3]を含有する水を加圧供給し、さらにスクリューで混練する。これにより、この発明にかかる熱可塑性樹脂水性分散液を、ダイから連続的に押出製造することができる。
この方法では、上記カチオン性高分子分散剤[3]を含有する水を複数回供給するが、使用される水の使用量の合計は、得られる熱可塑性樹脂水性分散液の固形分濃度が、20〜65重量%、好ましくは35〜60重量%となるように用いるのが好ましい。20重量%未満だと、分散液を塗布した後の乾燥時に多くの熱量が必要となる傾向がある。一方、65重量%を超えて濃度が高いと、分散液の安定性が低下して、凝集物が発生し易くなる傾向がある。
この発明にかかる熱可塑性樹脂水性分散液を製造する際、上記アニオン系熱可塑性樹脂及びカチオン性高分子分散剤以外に、消泡剤、粘度調整剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、酸化防止剤等を配合してもよい。
このようにして製造された熱可塑性樹脂水性分散液中のアニオン系熱可塑性樹脂[2]粒子の平均粒子径は、10μm以下がよく、5μm以下が好ましい。10μmより大きいと、分散液の安定性が低下する傾向がある。一方、平均粒子径の下限は、一般的に0.1μm程度である。過度に微細な粒子の調製は、困難を伴うことが多い。
また、上記熱可塑性樹脂水性分散液中のアニオン系熱可塑性樹脂[2]粒子は、粒径が3μm以下のものが10重量%以上含まれるのがよく、20重量%以上含まれるものが好ましい。
さらに、上記熱可塑性樹脂水性分散液の25℃における粘度は、10mPa・s以上がよく、50mPa・s以上が好ましい。10mPa・sより小さいと、塗布時に均一な皮膜を形成し難い傾向がある。一方、粘度の上限は、100,000mPa・sがよく、50,000mPa・sが好ましく、20,000mPa・sがより好ましい。100,000mPa・sより大きいと、塗布時の取り扱い性が悪化することがある。
この発明にかかる熱可塑性樹脂水性分散液は、用いられるアニオン系熱可塑性樹脂の種類にもよるが、塗料、粘着剤、インクのバインダー、接着剤、粘着剤、エマルジョンの改質剤として利用することができる。
以下、実施例を用いて、この発明をより具体的に説明する。まず、評価方法及び使用した原材料について説明する。
<評価方法>
[粘性変化試験]
250mlのポリ瓶に、測定対象の水性分散液100g、及びイソプロピルアルコール20gを添加して、2.5cmのマグネチックスターラーで10分間攪拌した。その後、25℃の恒温室に放置して、1日毎にポリ瓶を傾けて粘性の変化を観察した。その結果を、下記の基準で評価した。
○…7日経過したが、変化は見られなかった
×1…1日目で増粘した
×2…2日目で増粘した
[機械乳化安定性試験]
250mlのポリ瓶に、測定対象の水性分散液100g、及びイソプロピルアルコール20gを添加して、2.5cmのマグネチックスターラーで10分間攪拌した。その後、25℃の恒温槽に3時間放置して、サンプル温度を25℃に設定し、ホモジナイザー((株)日音医理科器械製作所製)のジェネレーターをサンプル液内に漬し、2000rpmの回転数で10分間処理を実施した。処理後のサンプルの外観を観察した。その結果を、下記の基準で評価した。
○…変化は見られなかった
×…クリーム状になった
<原材料>
[(A)成分]
・N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート…三洋化成工業(株)社製、以下、「DMMA」と略する。
[(B)成分]
・ブチルメタクリレート…三菱レーヨン(株)社製、以下、「BMA」と略する。
・ラウリルメタクリレート…三菱レーヨン(株)社製、以下、「LMA」と略する。
・エチルアクリレート…三菱化学(株)社製、以下、「EA」と略する。
・プロピレングリコールメタクリレート…日本油脂(株)社製:ブレンマーPP−1000、プロピレングリコール単位の繰り返し単位数=5〜6、以下、「PP」と略する。
[熱可塑性樹脂[1]]
・エチレン・酢酸ビニル共重合体…三井・デュポンポリケミカル(株)製:EV220、酢酸ビニル含有量28重量%、融点74℃、190℃におけるメルトフローインデックス(MFI)が150g/10分、以下、「EVA」と略する。
[アニオン系熱可塑性樹脂[2]]
(アニオン性基を有する樹脂)
・エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸三元共重合体…アルケマ社製:ボンダインHX8210、以下、「HX8210」と略する。
(マイナス分極性基を有する樹脂)
・塩素化ポリプロピレン…東洋化成工業(株)製:ハードレン13LP、塩素含量:26重量%、以下、「ClPP」と略する。
[その他]
・イソプロパノール…(株)トクヤマ製:トクソーIPA(登録商標)、以下、「IPA」と略する。
(実施例1)
[分散剤の製造]
DMMA62.9g(0.40モル)、BMA71.0g(0.50モル)、LMA25.4g(0.10モル)、及びIPA200gを攪拌機、還流冷却管、温度計、滴下ロートを装着した500mlの4ツ口フラスコ内に仕込み、窒素ガス置換後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.6gを開始剤とし、80℃にて4時間重合した。
次いで、酢酸19.2g(0.32モル)で中和した後、IPAを留去しながら水を添加して置換し、最終的に固形分35%の粘稠なアクリル系共重合体の部分中和物である分散剤の水溶液を得た(収率97%)。
[水性分散液の製造]
EVAを80重量部/時間、及び塩素化ポリプロピレンを20重量部/時間の割合で、同方向回転噛合型二軸スクリュー押出機((株)池貝社製:PCM45φ、三条ネジ浅溝型、L/D=30)のホッパーより連続的に供給した。
また、同押出機のベント部に設けた供給口より、上記分散剤の水溶液を26.8重量部/時間(固形分としては8重量部/時間)の割合で、ギヤーポンプ(吐出圧力3Kg/cm2G)で加圧して連続的に供給しながら、加熱温度(シリンダー温度、以下同じ)110℃で連続的に押出し(スクリューの回転数200rpm)、乳白色の水性分散液を得た。
この水性分散液の平均粒径を顕微鏡から求めたところ、約0.9μmであった。
また、この水性分散液100部にIPA20重量部を添加して、攪拌後、粘性変化試験及び機械安定性試験を実施した。結果を表1に示す。
(実施例2〜5、比較例1〜2)
表1に示す条件に従い、それ以外は実施例1と同様にして、分散剤を製造し、水性分散液を製造した。その結果を表1に示す。
Figure 0005192133

Claims (10)

  1. 下記の[1]〜[3]の各成分を含む水性分散液であり、
    上記の[3]の使用量が、上記の[1]及び[2]の合計量100重量部に対して、固形分換算で2重量部以上15重量部以下である熱可塑性樹脂水性分散液。
    [1]下記[2]成分に相当する熱可塑性樹脂を除く熱可塑性樹脂。
    [2]アニオン系熱可塑性樹脂。
    [3]カチオン性高分子分散剤。
    上記[3]成分は、下記の(A)成分及び(B)成分を含み、この(A)成分及び(B)成分を、(A)成分/(B)成分=10〜80/90〜20のモル比で混合した単量体を、共重合することにより得られる共重合体からなり、この共重合体の中和度が50〜85モル%である。
    (A)成分:下記式(1)で示される単量体。
    Figure 0005192133

    (上記式(1)中、Rは、水素原子又はメチル基を示し、Rは、炭素数1〜4のアルキレン基又はヒドロキシ置換アルキレン基を示し、R及びRは、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示すと共に、RとRは、同一であっても異なってもよく、Aは酸素原子又は、NH基を示す。)
    (B)成分:
    α,β−不飽和カルボン酸アルキルエステル。
  2. 上記[2]成分の軟化点又は融点が200℃以下、20℃以上である請求項1に記載の熱可塑性樹脂水性分散液。
  3. 荷重2.16kg、温度190℃の条件下で、JIS K−6760に従って測定した上記[2]成分のメルトフローインデックスが3g/10分以上、600g/10分以下である請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂水性分散液。
  4. 上記[2]成分が、α、β−不飽和カルボン酸を含む単量体を共重合させた共重合体、カルボキシル基を残存させたポリエステル樹脂、又はポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂のいずれかを無水マレイン酸で変性した変性熱可塑性樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種のアニオン性基含有熱可塑性樹脂である請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂水性分散液。
  5. 上記[2]成分が、塩素化ポリエチレン、臭素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、臭素化ポリプロピレン及びアミンオキサイド基含有樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種のマイナス分極性基含有熱可塑性樹脂である請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂水性分散液。
  6. 上記[1]成分が、ポリオレフィン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリエステル樹脂及びエラストマー樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂である請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂水性分散液。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂水性分散液に親水性有機溶媒を混合してなる混合分散液。
  8. 請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂水性分散液を製造する方法であって、
    前記の[2]成分及び[3]成分を用いて、前記の[1]成分を水に分散させる熱可塑性樹脂水性分散液の製造方法
  9. ロールミル、ニーダー、押出機、インクロール、及びバンバリーミキサーから選ばれる混練機を用いる請求項に記載の熱可塑性樹脂水性分散液の製造方法。
  10. 請求項又はに記載の製造方法で製造される熱可塑性樹脂水性分散液に親水性有機溶媒を混合する混合分散液の製造方法。
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