以上説明したように、本発明によれば、低バイアス電圧で駆動することができ、高効率かつ高速変調が可能な屈折率変調素子を実現することができる。さらに、レーザとの集積が簡単な屈折率制御構造を実現することができる。本発明をDBRレーザに適用することにより、低バイアス電圧駆動の周波数変調動作を実現することもできる。さらに、このDBRレーザを周波数変調光源として利用し、周波数変調光を光フィルタを用いてFM/AM変換することによって、低消費電力で、長距離伝送が可能な光送信器を実現することができる。
本発明の光制御装置は、次のような構成を採用した。電圧制御を用いて屈折率変調を行う半導体光制御装置において、pクラッド、nクラッド層に挟まれた単層、または複数層からなる屈折率制御層の少なくとも一部がドーピング層を持っている。屈折率制御層のドーピングはnドープまたはpドープが適用可能であり、特にnドープが効果的である。また、層構造は、バルク層、単層または多重量子井戸層を用いることができる。屈折率制御層を複数の層から形成し、nクラッド層側がnドープバルク層であり、pクラッド層側がnドープ多重量子井戸層である構成、または、pクラッド層側がpドープバルク層であり、nクラッド層側がpドープ多重量子井戸層である構成とすることもできる。
さらに、使用材料は閃亜鉛鉱結晶であり、素子のストライプの結晶方位が[110]に準ずる方向、または[1−10]に準ずる方向である構成とした。屈折率制御層の構成および動作の説明に加えて、屈折率制御層を電界制御して周波数変調を行う周波数変調DBRレーザに適用した例も示す。さらに、光フィルタと組み合わせてFM/AM変換を利用する構成も示す。以下、本発明に係る光信号処理装置に含まれる屈折率制御層(領域)の構造および動作について、図面とともに詳細に説明する。
[層構造例1]:図4は、本発明に係る構造例1の屈折率制御領域の構成を示す図である。ここで、屈折率制御領域100aは、屈折率制御領域を集積化したレーザなどの光源や、集積化して構成された光信号処理装置の一部を構成するものであることに留意されたい。
屈折率制御領域100aは、n型ドーピング濃度1×1018cm-3のInPクラッド層101上に、以下の各層を順次積層して構成されている。すなわち、n型クラッド層101上に、屈折率制御層107、p型クラッド層103、コンタクト層104が順に積層されている。屈折率制御層107は、従来技術がノンドープであったのに対し、Siドーピング濃度1×1018cm−3、バンドギャップ波長1.3μm、厚さ300nmのn型InGaAsPで構成される点に特徴がある。p型クラッド層103はドーピング濃度1×1018cm-3、高さ1.5μmのp型InPで、コンタクト層104はドーピング濃度1×1019cm-3、バンドギャップ1.5μmのInGaAsPで、それぞれ構成される。n型クラッド層101側の最下面にはn側電極105が、p型クラッド層103側の最上面にはp側電極106が形成されている。
以下、本構造のp型電極106およびn型電極105間にバイアス電圧を印加した場合の電気光学効果について、メサストライプの作製方向の場合に分けて説明する。まず、メサストライプの作製方向、すなわち光の伝搬方向が[110]方向である場合を考察する。
図5の(a)は、nドープを施した本構造の屈折率制御領域のエネルギーバンド図を示す図である。nドープを施された時、屈折率制御層107内にはドーピング濃度と同程度の電子が存在し、屈折率制御層107内のnクラッド層101側のバンドはほぼ平坦である。一方、pクラッド層103側には急峻なビルトイン電界が印加されている。
図5の(b)は、構造例1についてバイアス電圧を変化させたときの屈折率制御層近傍のポテンシャル分布を示す。本発明の場合、屈折率制御領層107のp型クラッド層103側の領域においては、電界の高い領域で駆動することになる。このため、バイアス電圧印加に伴う屈折率変化量は、式(3)における2次の項の効果、すなわちフランツケルディッシュ効果が支配的となり、低バイアス電圧においても屈折率変化を得ることが可能となる。
図6は、本発明の構造例1におけるバイアス電圧と電気光学効果に起因する屈折率変化量との関係を示す図である。横軸はバイアス電圧を示し、正の電圧が順バイアス、負の電圧が逆バイアスである。縦軸は、屈折率変化量Δneff/neffを示し、バイアス電圧0Vを基準(Vb=0)として式(3)により計算される。破線で示したドーピングを施さない従来技術の場合と比較して、屈折率変化量は大幅に増えている。また、屈折率制御層にドーピングを施すことにより、電気光学効果に加え、キャリアの効果による屈折率変化を得ることができる。
図7は、本発明の構造例1におけるバイアス電圧と屈折率制御層内のキャリア濃度との関係を示す図である。負のバイアス電圧を増加させることで屈折率制御層107内のキャリアが減少しており、ドーピングによって、バイアス電圧印加によるキャリア掃引の効果が顕著に生じていることがわかる。破線で比較して示したように、ドーピングを施さない従来技術の場合にも残留キャリアが存在するために同様の効果は生じているが、屈折率制御層へのドーピングによってキャリア掃引の効果を増大させていることは明らかである。バイアス電圧の変化に伴なうキャリア濃度変化は、プラズマ効果およびバンドギャップ縮小効果による屈折率変化を発生させる。
図8は、本発明の構造例1におけるバイアス電圧とプラズマ効果に起因する屈折率変化量との関係を示す図である。破線で示したドーピングを施さない従来技術の場合と比較して、大幅な屈折率変化量が増大していることは明らかである。したがって、[110]方向にメサストライプを作製した構造の素子においても大きな屈折率変化量を得ることができ、埋め込み構造を持つ光信号処理素子にも適用することができる。
図9は、電気光学効果とキャリア効果とを合わせた屈折率変化量のバイアス電圧依存性を示す図である。すなわち図9は、図6に示した電気光学効果に起因する屈折率変化量と、図8に示したプラズマ効果に起因する屈折率変化量とを加算して表したものである。本発明に係る構造例1では、従来技術と比較して大幅な屈折率変化量が増えているのがわかる。バイアス電圧が負である逆バイアス領域(<0)における屈折率変化量が増大していることに加え、順バイアス領域(>0)においてもバイアス電圧に応じて変化する有意な屈折率変化が得られている。
図9を参照すれば、屈折率制御層にドーピングを施したことによって、バイアス電圧に対する屈折率変化量の線形性が改善されていることもわかる。したがって、本構造例によれば、順バイアスから逆バイアスまでの間の広いバイアス電圧の範囲で変調素子を駆動させることができる。特に、0V付近に基準バイアス電圧を設定し、変調信号に対応したバイアス電圧を順バイアス領域および逆バイアス領域の境界近傍で駆動することによって、バイアス電圧の絶対値が抑制され、低電力駆動が実現できる。例えば、図9において、バイアス電圧の駆動範囲を−0.5〜+0.5Vとした場合、従来技術によればΔneff/neffはほとんど変化しない。一方で、本構造例1によれば、同じバイアス電圧の駆動範囲の場合、Δneff/neffは2×10−5変化する。従来技術において、同じ屈折率変化量を得るためには、例えばバイアス電圧の駆動範囲を−2〜−0.5Vとしなければならない。上述の屈折率変化量は、屈折率制御層へのドーピング濃度を変えることにより制御することができ、さらに増やすことができる。
図10は、バイアス電圧が−3Vの場合の、実効屈折率変化量のドーピング濃度依存性を示した図である。横軸は屈折率制御層107へのドーピング濃度を、縦軸は屈折率変化量をそれぞれ示す。屈折率制御層107と同種ドーパントを含むnクラッド層101のドーピング濃度が1×1018cm−3のとき、屈折率制御層107にわずかにドーピングしても実効屈折率変化量を増やす効果が得られる。図10からわかるように、実効屈折率変化量は、ドーピング濃度が1×1017cm−3(横軸目盛で0.1)まで増加すると急激に増加し、ドーピング濃度が2×1017cm−3まで増加するとさらに増加する。ドーピング濃度が3〜4×1017cm−3以上に増加すると、実効屈折率変化量はやがて飽和を始める。さらに、5×1017cm−3で、ほぼ最大値に達して飽和する。図5の(a)および(b)で説明した屈折率制御層107内に生じる電界は、n型クラッド層101のドーピング濃度と屈折率制御層107のドーピング濃度との比に依存する。これを考慮すると、屈折率制御層107内ドーピング濃度が、n型クラッド層101内ドーピング濃度の1/10以上のとき、十分な実効屈折率変化量を増やす効果が得られる。
屈折率制御層107のドーピング濃度がnクラッド層101のドーピング濃度より高くなると、電界は屈折率制御層およびp側クラッド層間のヘテロ界面付近の領域のみに生じるようになる。この領域の光閉じ込め量は小さいので、本発明の層構造による実効屈折率変化量を増やす効果は少ない。
以上より、本発明の層構造における実効屈折率変化量を増やす効果は、屈折率制御層のドーピング濃度が、nクラッド層のドーピング濃度の1/10以上1以下の範囲において有効である。
本構造においては、nドープに起因するキャリア吸収はドーピング濃度1×1018cm−3あたり1cm−1と極めて小さく、損失変動の小さい変調動作を実現できる。本構造による変調素子は電流注入動作でなく、キャリアのドリフトのみを利用しているため、40GHz級の高速な変調動作も可能である。尚、上述の説明では、屈折率制御層内にぴて均一なドーピングプロファイルの場合のみを示したが、傾斜型など不均一なドーピングプロファイルとしても同様の効果が得られる。
ここまで、本発明の構造例1について、メサストライプの作製方向、すなわち光の伝搬方向が[110]方向である場合を説明してきた。次に、光の伝搬方向が[1−10]方向である場合を考察する。尚、上述の各場合は、等価な方位を示す指数の場合も含むことに注意されたい。例えば、[110]方向は[−1−10]方向などを含み、[1−10]方向は[−110]方向などを含む。したがって、[110]方向およびこれと等価なすべての方向を含む概念として、[110]方向に準ずる方向とも呼ぶ。
メサストライプの作製方向、すなわち光の伝搬方向が[1−10]方向の場合は、[110]方向の場合と比較して、より大きな屈折率変化量を得ることができる。[1−10]方向の場合も、バイアス電圧を印加したときのバンド構造の変化とポテンシャル形状は図5の(a)、(b)にそれぞれ示したのと同様である。しかし、式(3)で示した電気光学効果において、ポッケルス係数Aが正符号となるためにポッケルス効果と2次の項の効果が強め合い、[110]方向の場合よりも大きな屈折率変化量が得られる。なお、キャリアによる屈折率変化量は異方性が小さいため、キャリアの効果は[110]方向と同等である。
図11は、[1−10]方向の場合の、実効屈折率変化量のバイアス電圧依存性を示す図である。図9に示した[110]方向の場合と対比させれば、より大きな屈折率変化が得られているのがわかる。
図12は、[1−10]方向およびバイアス電圧−3Vの場合の、実効屈折率変化量のドーピング濃度依存性を示した図である。図10に示した[110]方向の場合と同様に、ドーピングによる実効屈折率変化量を増やす効果が得られる。実効屈折率変化量は、ドーピング濃度が1×1017cm−3まで増加すると急激に増加を始め、ドーピング濃度が2×1017cm−3まで増加するとさらに増加する。ドーピング濃度が3〜4×1017cm−3以上に増加すると実効屈折率変化量は飽和を始める。屈折率制御層内に生じる電界が、クラッド層のドーピング濃度と屈折率制御層のドーピング濃度との比に依存することとnクラッド層101内のドーピング濃度が1×1018cm−3であることを考慮すれば、屈折率制御層のドーピング濃度が、nクラッド層内のドーピング濃度の1/10以上のときに実効屈折率変化量を増やす効果が得られる。
屈折率制御層107内のドーピング濃度がクラッド層内ドーピング濃度より高濃度になると、電界は屈折率制御層およびp側クラッド層間のヘテロ界面付近の領域のみに生じるようになる。この領域の光閉じ込め量は小さいので、本発明の層構造による実効屈折率変化量を増やす効果は少ない。
以上より、本発明の層構造において実効屈折率変化量を増やす効果は、屈折率制御層内ドーピング濃度がクラッド層内ドーピング濃度の1/10以上1以下の範囲において有効である。
[層構造例2]:図13は、本発明に係る構造例2の屈折率制御領域の構成を示す図である。層構造例1における屈折率制御層107に代わって、Siによるn型ドーピング濃度1×1017cm−3であって、遷移波長1.4μm、厚さ300nmの20層無歪InGaAsP/InP量子井戸層108を含む構成とした。構造例2の構成は、量子井戸層108を除いて、構造例1の構成と同一である。量子井戸層108の中の、1つの井戸層の厚さは6nm、1つの障壁層の厚さは10nmとした。
本構造例2においては、構造例1におけるフランツケルディッシュ効果がQCSE効果に置き換わり、このQCSE効果とキャリア効果とが組み合わせられることによって、実効屈折率変化量が大きく、高効率の屈折率変調が可能となる。特に、QCSE効果は励起子吸収に基づくために、吸収スペクトルの吸収端が急峻であるためバンド端に近い領域での使用が可能である。したがって、構造例2は、フランツ・ケルディッシュ効果を利用していた構造例1と比較して屈折率変化量が大きく、高効率の屈折率変調動作を実現することができる。n型ドーピングは、量子井戸層108のうちの井戸層および障壁層のいずれに対して施しても効果があるが、導波路損失の観点からは障壁層に対してドーピングを施すのがより好ましい。また、本構造例において、メサストライプの作製は[110]方向または[1−10]方向のいずれでも効果がある。しかしながら、層構造例1と同様に、メサストライプの作製は[1−10]方向の場合のほうがより大きな効果を得ることができる。
[層構造例3]:図14は、本発明に係る構造例3の屈折率制御領域の構成を示す図である。本構造例3においては、構造例1における1つの屈折率制御層107に代わって、2種類の層から構成される点で、構造例1と異なっている。すなわち、nクラッド層101側に、第1の層として、厚さ200nm、n型ドーピング濃度1×1017cm−3の1.3μm屈折率制御層109が形成されている。第1の層の上に、厚さ100nm、n型ドーピング濃度1×1017cm-3であって、遷移波長1.4μmの13層の無歪InGaAsP/InP量子井戸屈折率制御層110がさらに形成されている。量子井戸屈折率制御層110において、井戸層の厚さは6nm、障壁層の厚さは10nmとした。
このように、n型バルク屈折率制御層のp型クラッド層側、すなわち屈折率制御層内のドーピングと反対の極性のドーピングがされたクラッド層側に、量子井戸屈折率制御層を配置した構成とする。
図15は、本構造例3の屈折率制御領域におけるバンド構造を示す図である。本構造におけるバンド構造は、n電極側のn型バルク屈折率制御層がフラットとなり、p電極側のn型量子井戸屈折率制御層が急峻に傾いた構造となる。したがって、p電極側においては高電界が印加されるため、屈折率制御効率の高いQCSE効果を有効に利用することができる。また、n電極側では、実効的な印加電界は小さいが、バルク構造を使用することでキャリアの引き抜き速度が速くなり、キャリア効果を効率良く利用することが可能となる。
[層構造例4]:上述の構造例1から構造例3においては、ドーパントの種類としてn型ドーピングの場合を示したが、キャリアに対する屈折率変化の効果はp型ドーピングによっても生ずる。したがって、ドーパントの種類だけを変えて、同様の構造を採用することができる。具体的には、構造例1に準ずる構造として、屈折率制御層107にpドープバルク層を使用することができる。また、構造例2に準ずる構造として、屈折率制御層108にpドープ量子井戸層を使用することができる。
同様に、構造例3に準ずる構造としては、n電極側の第1の層である屈折率制御層109としてpドープ量子井戸屈折率制御層を設け、p電極側の第2の層である屈折率制御層110としてpドープバルク屈折率制御層を設ける。このように、p型バルク制御層のn型クラッド層側、すなわち屈折率制御層内のドーピングと反対の極性のドーピングがされたクラッド層側に、量子井戸屈折率制御層を配置した構成とする。
図16は、構造例4の一例として、構造例3においてpドーピングを使用した場合の屈折率制御領域のエネルギーバンド図を示す図である。p電極側の屈折率制御層では、実効的な印加電界は小さいが、バルク構造であるためにキャリアの引き抜き速度が速くなり、ホールによるキャリア効果を効率良く利用することが可能となる。p型ドーパントとしては、例えば、Znを使用することができる。
以上に述べた各構造例の動作原理の説明から明らかなように、本発明の屈折率制御領域の構成はこれらの実施例に限られない。例えば、多層からなる屈折率制御層の一部の層にドーピングを導入することによっても、同様に実効屈折率変化量を増やす効果が得られる。以下では、上述の層構造を組み込んだ光信号処理装置の具体的な例として、複数の素子適用例について説明する。
[素子適用例1]:図17は、本発明の屈折率制御領域を適用した半絶縁埋め込み構造を持つ周波数変調型DBRレーザの構造を示す図である。図17は、DBRレーザの導波路の光伝搬方向を含む面における断面図である。すなわち、図のy軸方向が光伝搬方向であり、メサストライプはy軸方向に、[110]方向に形成されている。DBRレーザは、後述のプロセスに従い、導波路およびメサ構造を形成しながら順次作製される。
本DBRレーザ400aは、y軸方向について4つの領域から構成される。すなわち、y軸方向で両端に配置された長さ600μmの分布ブラッグ反射ミラー領域(以下、DBR領域)111a、111b、一方のDBR領域111aに隣接し周波数変調を行う長さ200μmの屈折率制御領域112、および屈折率制御領域112に隣接し長さ200μmの活性層領域113から構成される。
z方向については、n型クラッド層101の上に各領域でn型ドーピングを持つ導波路層102が形成されている。すなわち、DBR領域111a、111bではDBR層102が、屈折率制御領域112では屈折率制御層102がそれぞれ積層されている。活性層領域113では発光波長1.55μmの10層多重量子井戸活性層(MQW活性層)114が積層されている。DBR領域111a、111bの導波路層102内には、それぞれ回折格子115が設けられている。さらに各領域において、p型クラッド層103、コンタクト層104が順次積層され、DBRレーザ素子400aの上下にはそれぞれp型電極106、n型電極105が設けられている。4つの各領域111a、112、113、111bを電気的に分離するために、領域境界付近のコンタクト層104は除去されている。
各領域のp型電極については、周波数変調を行う屈折率制御領域112に対して電圧制御装置(V)116が、DBR領域111a、111bに対しては発振波長制御電流装置(IR、IF)118、119が、活性層領域113に対しては活性層電流制御装置(ID)117がそれぞれ接続されている。
図18の(a)および(b)は、それぞれ本DBRレーザ400aの活性層領域の断面およびDBR領域もしくは屈折率制御領域の断面を示す図である。すなわち、(a)は図17における活性層領域113をx−z面で見た図である。(b)は、図17におけるDBR領域111a、111bまたは屈折率制御領域112をx−z面で見た図である。各領域において、導波路幅1.5μmのメサストライプが形成されている。導波路102の上部にはドーピング濃度1×1018cm−3のp−InPクラッド層103が形成されている。活性層ストライプおよびDBRストライプの両側は、それぞれ半絶縁性InPクラッド120で埋め込まれている。クラッド層120の上部には、メサストライプの上部を除いてSiO2絶縁膜121が形成され、素子の最上面にp側電極106が形成されている。
本DBRレーザは、以下の手順に従って作製される。まず、n型InP基板の全面に有機金属気相成長法を用いて、n型クラッド層101およびMQW活性層114を形成した。次に、プラズマCVDを使用して全面にSiO2膜を形成し、フォトリソグラフィおよびドライエッチングを用いてMQW活性層114領域上にSiO2マスクを形成した。その後、ウェットエッチングを使用して、不要なMQW活性層を除去した。引き続き、有機金属気相成長法を使用して、nドープInGaAsP屈折率制御層102およびDBR層102をバットジョイント成長させた。次に、電子ビーム露光法を使用してDBR領域に回折格子のレジストパターンを描画し、ウェットエッチングを用いて回折格子115を作製した。回折格子115を作製後、レジストおよびSiO2膜を除去し、有機金属気相成長法を使用して、pクラッド層103およびコンタクト層104を成長させた。その後、SiO2マスクを形成し、フォトリソグラフィおよびドライエッチングを使用して、SiO2の導波路パターンを形成した。
次に、このパターンをマスクとして、ドライエッチングを使用して導波路ストライプを形成した。導波路ストライプを形成した後、有機金属気相成長法を使用して、半絶縁性FeドープInP層クラッド120をストライプ高さまで埋め込み成長させた。次に、導波路間分離のために、SiO2を形成後、フォトリソグラフィおよびドライエッチングを用いてSiO2マスクを形成し、ウェットエッチングによりコンタクト領域104を除去した。次に、ストライプ上のSiO2を除去した後で、プラズマCVDを使用してSiO2絶縁膜121を形成した。さらに、フォトリソグラフィおよびドライエッチングを用いて電極部分の窓を形成した。引き続き、リフトオフにより電極パターンを形成し、電子ビーム蒸着を使用してAu/Zn/Niのp電極106を形成した。その後、n電極105としてにTi/Pt/Au電極105を形成した。最後に、真空蒸着を使用して、DBRレーザ素子の両端の端面に、SiO2/TiO2の無反射コーティングを施した。
次に、本DBRレーザにおける変調動作について説明する。活性層電流制御装置117によって活性層領域114へ電流を注入し、レーザ発振を行う。発振波長制御電流装置118、119によってDBR領域111a、111bへ電流注入を行い、発振波長を調整する。電圧制御装置116から屈折率制御領域112へ、変調信号電圧を印加することによって変調動作が行なわれる。より具体的には、バイアス電圧Vbに対してピーク−ピーク振幅がVPPの変調信号が重畳された変調信号電圧が、屈折率制御領域112へ印加される。変調信号電圧に応じて屈折率制御領域112の実効屈折率が変化する結果、発振波長の縦モードが変化することによって周波数変調動作が実現される。
図19は、素子適用例1のDBRレーザ素子における周波数変調量と印加電圧との関係を示す図である。従来技術による屈折率制御領域を備えた場合の関係も破線で示してある。変調信号の電圧振幅変化VPPにより生じるDBR領域の屈折率変化をΔneffとすると、周波数変調量Δfは式(2)によって与えられる。本実施例におけるLp/La11は約0.3である。したがって、例えば10GHz(波長変化量では0.08nm)の周波数変調量を得ようとする場合であって、バイアス電圧Vbを0Vに設定したときは、変調信号に必要な電圧振幅変化VPPは0.75Vとなる。一方、従来技術の屈折率制御領域を用いた場合では、バイアス電圧Vbを0Vに設定しても、図19の破線で示した従来技術の特性の0V近傍における傾きが0であることからわかるように、ほとんど有効な周波数変調量を得ることができない。したがって、10GHzの周波数変調量を得るために、バイアス電圧Vbは−1.85Vまで増加させなければならない。
本発明の屈折率制御領域をDBRレーザに適応することによって、従来技術による構造のものと比較してバイアス電圧を大幅に抑えることができる。また、同じバイアス電圧であっても、変調信号の電圧振幅変化VPPを抑えることもできる。本発明によれば、0V以上の順バイアス領域においても有意な屈折率変化が得られる。したがって、バイアス電圧0Vを挟んで順バイアス領域から逆バイアス領域を動作点として変調を行うことができる。このとき、順方向バイアスに関しては、変調信号による瞬時電圧を順方向降伏電圧以下となるように動作点を設定すれば順方向電流が流れないため、高速な変調動作を保つことができる。
上述のように、0V近傍を中心として順バイアス領域から逆バイアス領域にかけての変調動作を行うことで、従来では不可能だった低駆動電力による変調動作が可能となる。また、バイアス電圧の変化に対する周波数変化の応答の線形性が改善されているため、順バイアス領域から逆バイアス領域までの広い電圧範囲において周波数変調量が安定した変調が可能となる。具体的には、バイアス電圧−周波数変化の応答特性の線形性が向上することで、変調信号の電気信号波形を劣化なく光変調信号波形に反映できる。通信システムにおいて、変調特性の非線型性に起因する波形劣化歪みを抑制することができる。
以上詳細に説明したように、本発明によれば、従来の[110]方向に作製されたメサストライプを用いた埋め込み構造であっても、低バイアス電圧駆動によって高効率の変調が得られ、光変調器を含む光信号処理装置の大幅な特性改善を実現することができる。尚、上では周波数変調の観点から説明を行ったが、周波数変化は発振波長変化と等価であり、本DBRレーザを超高速の波長切替動作を実現する波長可変光源としても適用できる。
[素子適用例2]:図20は、本発明の屈折率制御領域を適用したリッジ構造を持つ周波数変調型DBRレーザの構造を示す図である。図20は、DBRレーザの導波路の光伝搬方向を含む面における断面図である。すなわち、図のy軸方向が光伝搬方向であり、メサストライプはy軸方向に、[110]方向に形成されている。DBRレーザは、後述のプロセスに従い、導波路およびメサ構造のパターンを形成しながら順次作製される。
本DBRレーザ400bは、y軸方向について4つの領域から構成される。すなわち、y軸方向で両端に配置された長さ600μmの分布ブラッグ反射ミラー領域(以下、DBR領域)111a、111b、一方のDBR領域111aに隣接し周波数変調を行う長さ200μmの屈折率制御領域112、および屈折率制御領域112に隣接し長さ200μmの活性層領域113から構成される。
z方向については、4つの各領域において、n型クラッド層101の上にn型ドーピングを持つ導波路層102が形成されている。すなわち、DBR領域111a、111bではDBR層102が、屈折率制御領域112では屈折率制御層102がそれぞれ積層されている。活性層領域113でも、n型ドーピングを持つ導波路層102が積層され、さらにその上に発光波長1.55μmの10層多重量子井戸活性層(MQW活性層)114が積層される。DBR領域111a、111bの導波路層102内には、それぞれ回折格子115が設けられている。さらに各領域において、p型クラッド層103、コンタクト層104が順次積層され、DBRレーザ素子400bの上下にはそれぞれp型電極106、n型電極105が設けられている。4つの各領域111a、112、113、111bを電気的に分離するために、領域境界付近のコンタクト層104は除去されている。
各領域のp型電極については、周波数変調を行う屈折率制御領域112に対して電圧制御装置(V)116が、DBR領域111a、111bに対しては発振波長制御電流装置(IR、IF)118、119が、活性層領域113に対しては活性層電流制御装置(ID)117がそれぞれ接続されている。
図21の(a)および(b)は、それぞれ本DBRレーザ400bのDBR領域もしくは屈折率制御領域の断面および活性層領域の断面を示す図である。すなわち、(a)は、図20におけるDBR領域111a、111bまたは屈折率制御領域112をx−z面で見た図である。(b)は図20における活性層領域113をx−z面で見た図である。各領域において、導波路幅2μm、高さ1.5μmのメサストライプが形成されている。導波路102の上部にはドーピング濃度1×1018cm−3のp−InPクラッド層103が形成されている。活性層ストライプおよびDBRストライプの両側は、それぞれベンゾシクロブテン(BCB)122で埋め込まれており、その上部にはSiO2絶縁膜121が形成されている。素子の最上面にp側電極106が形成されている。
本DBRレーザは、以下の手順に従って作製される。まず、n型InP基板101上に、有機金属気相成長法を使用して、n型ドープ屈折率制御層102、厚さ10nmのInPエッチストップ層およびMQW活性層114までを形成した。次に、プラズマCVDを使用して全面にSiO2膜を形成し、フォトリソグラフィおよびドライエッチングを用いてMQW活性層114領域上にSiO2マスクを形成させた。その後、ウェットエッチングを使用して不要なMQW層を除去した。次に、電子ビーム露光法を用いてDBR領域に回折格子のレジストパターンを描画し、ウェットエッチングを用いて回折格子115を作製した。回折格子115を作製後、レジストおよびSiO2膜を除去して、有機金属気相成長法を使用して全面にp−InPクラッド層103およびコンタクト層104をこの順に成長させた。
続いて全面にSiO2を形成し、フォトリソグラフィおよびドライエッチングを用いてSiO2の導波路パターンを形成した。次に、このパターンをマスクとしてドライエッチングおよびウェットエッチングを使用して導波路部分を除いてp−InPクラッド領域103、コンタクト領域104を除去し、導波路ストライプを形成した。次に、導波路間分離のために、SiO2を形成後、フォトリソグラフィおよびドライエッチングを用いてSiO2マスクを形成し、ウエットエッチングにより電極間のコンタクト領域104を除去した。
次に、スピンコート法および熱処理工程を使用して、導波路ストライプをBCB122によって埋め込んだ。さらに、ストライプ上のSiO2を除去した後で、プラズマCVDを使用してSiO2絶縁膜121を形成した。その後、フォトリソグラフィおよびドライエッチングを用いて電極部分の窓を形成した。引き続き、リフトオフにより電極パターンを形成し、電子ビーム蒸着を使用してAu/Zn/Niからなるp電極106を形成した。その後、n電極105としてTi/Pt/Au電極105を形成した。最後に、真空蒸着を使用してDBRレーザ素子の両端の端面にSiO2/TiO2の無反射コーティングを施した。
次に、本DBRレーザにおける変調動作について説明する。活性層電流制御装置117によって活性層領域114へ電流を注入し、レーザ発振を行う。発振波長制御電流装置118、119によってDBR領域111a、111bへ電流注入を行い、発振波長を調整する。電圧制御装置116から屈折率制御領域112へ変調信号電圧を印加することによって変調動作が行なわれる。より具体的には、バイアス電圧Vbに対してピーク−ピーク振幅がVPPの変調信号が重畳された変調信号電圧が、屈折率制御領域へ印加される。変調信号電圧に応じて屈折率制御領域の実効屈折率が変化する結果、発振波長の縦モードが変化することによって周波数変調動作を実現できる。
本DBRレーザにおいても、素子適用例1と同様に、低バイアス電圧駆動によって高効率の変調が得られ、光変調器を含む光信号処理装置の大幅な特性改善を実現することができる。本素子適用例においては、導波路および活性層を一括して成長させた基板を用いることによって、導波路領域の再成長が不要となる。1回の再成長工程によって素子を作製できるため、作製コストの点で有利である。また、nドーピングを施すことで、活性層領域113における電気抵抗を減らす点でも効果がある。
また、リッジ構造を採用することによって、次の利点が得られる。前述のように、埋め込み構造においては、埋め込み成長時の平坦な成長面を実現するため、ストライプ方向の作製は[110]方向に制限される。しかし、リッジ構造では、埋め込み成長に関する問題点を考慮する必要がないため、ストライプを[1−10]方向にも作製することができる。ストライプを[1−10]方向に作製した場合、前述したようにバイアス電圧印加時の電気光学効果による屈折率変化と、ドーピングによる屈折率変化とが同一方向となり、屈折率変化量の増加の効果をさらに増すことができる。したがって、屈折率変化量の増加は、[1−10]方向の方が[110]方向よりも高い。従って、導波路形成のためにリッジ構造を採用し、さらにストライプを[1−10]方向に作製することで、周波数変調量が大きく、低消費電力で周波数変調が可能なレーザを実現できる。
[素子適用例3]:上述の2つの素子適用例では、DBR領域とは別個の屈折率制御領域を設けて、この屈折率制領域を位相変調領域として機能させる構成を説明した。しかしながら、発振波長の制御を行なうDBR領域を位相変調領域として機能させることもできる。すなわち、本発明はDBR領域を屈折率変調領域として機能させる周波数変調レーザにも適用できる。この場合、素子適用例1、2における屈折率制御領域は、発振波長の制御のために利用することができる。以下の素子適用例では、DBRレーザの素子構造上の観点から、素子適用例1、2と同一の構成部分は、同一の名称で説明するが、機能上は異なる目的に使用されることに注意されたい。以下、素子適用例1、2と対比させながら説明する。
図22は、本発明の屈折率制御層構造を適用した半絶縁埋め込み構造を持つ周波数変調型DBRレーザの構成を示す図である。図22は、DBRレーザの導波路の光伝搬方向を含む面における断面図である。すなわち、図のy軸方向が光伝搬方向であり、メサストライプはy軸方向に、[110]方向に形成されている。DBRレーザは、後述のプロセスに従い、導波路およびメサ構造のパターンを形成しながら順次作製される。
本DBRレーザ400cは、y軸方向について見ると3つの領域から構成される。すなわち、y軸方向については、長さ400μmの分布ブラッグ反射ミラー領域(DBR領域)111、DBR領域111に隣接し長さ200μmの屈折率制御領域112、および屈折率制御領域112に隣接し長さ200μmの活性層領域113から構成される。本DBRレーザは、DBR領域が1つだけで構成される点で、2つのDBR領域111a、111bからなる素子適用例1のDBRレーザと相違している。
z方向については、n型クラッド層101の上に各領域でn型ドーピングを持つ導波路層が形成されている。すなわち、DBR領域111ではDBR層102が、屈折率制御領域112では屈折率制御層102がそれぞれ積層されている。活性層領域113では発光波長1.55μmの10層多重量子井戸活性層(MQW活性層)114が積層されている。DBR領域111の導波路層102内には、回折格子115が設けられている。さらに各領域において、p型クラッド層103、コンタクト層104が順次積層され、DBRレーザ素子400cの上下にはそれぞれp型電極106、n型電極105が設けられている。3つの各領域111、112、113を電気的に分離するために、領域境界付近のコンタクト層104は除去されている。
各領域のp型電極については、DBR領域111に対して周波数変調を行うための電圧制御装置(V)116が、屈折率制御領域112に対しては波長調整を行うための発振波長制御電流装置(IP)118が、活性層領域113に対しては活性層電流制御装置(ID)117がそれぞれ接続されている点に注目されたい。各領域を駆動する電源種類の点で、素子適用例1の構成と相違している。
各領域の断面構造は、素子適用例1と同一である。図18の(a)および(b)は、それぞれ本DBRレーザ400cの活性層領域の断面およびDBR領域もしくは屈折率制御領域の断面を示す図である。すなわち、(a)は図22における活性層領域113をx−z面で見た図である。(b)は、図22におけるDBR領域111または屈折率制御領域112をx−z面で見た図である。各領域において、導波路幅1.5μmのメサストライプが形成されている。導波路102の上部にはドーピング濃度1×1018cm−3のp−InPクラッド層103が形成されている。活性層ストライプおよびDBRストライプの両側は、それぞれ半絶縁性InPクラッド120で埋め込まれている。クラッド層120の上部には、メサストライプの上部を除いてSiO2絶縁膜121が形成され、素子の最上面にp側電極106が形成されている。
本DBRレーザは、以下の手順に従って作製される。まず、n型InP基板上全面に有機金属気相成長法を使用してn型クラッド層101およびMQW活性層114が形成される。次に、プラズマCVDを使用して全面にSiO2膜を形成し、フォトリソグラフィおよびドライエッチングを用いてMQW活性層114領域上にSiO2マスクを形成した。その後、ウェットエッチングを使用して、不要なMQW活性層を除去した。引き続き、有機金属気相成長法を使用してnドープInGaAsP屈折率制御層102およびDBR層102をバットジョイント成長させた。次に、電子ビーム露光法を使用してDBR領域に回折格子のレジストパターンを描画し、ウェットエッチングを用いて回折格子115を作製した。回折格子115を作製した後、レジストとSiO2膜を除去し、有機金属気相成長法を使用してp−クラッド層103およびコンタクト層104を成長させた。続いて、SiO2を形成し、フォトリソグラフィおよびドライエッチングを使用してSiO2の導波路パターンを形成した。
次に、このパターンをマスクとしてドライエッチングを使用して、導波路ストライプを形成した。引き続き、有機金属気相成長法を使用して半絶縁性FeドープInP層クラッド120をストライプ高さまで埋め込み成長させた。次に、導波路間分離のために、SiO2を形成後、フォトリソグラフィおよびドライエッチングを用いてSiO2マスクを形成し、ウエットエッチングによりコンタクト領域104を除去した。次に、ストライプ上のSiO2を除去した後で、プラズマCVDを使用してSiO2絶縁膜121を形成した。さらに、フォトリソグラフィおよびドライエッチングを用いて電極部分の窓を形成した。引き続き、リフトオフにより電極パターンを形成し、電子ビーム蒸着を使用してAu/Zn/Niのp電極106を形成した。その後、n電極としてTi/Pt/Au電極105を形成した。最後に、真空蒸着を用いてDBRレーザ素子のDBR領域側の端面にSiO2/TiO2の無反射コーティングを施した。
本構成においても、低バイアス電圧に対して高効率な周波数変調動作が可能である。活性層電流制御装置117により活性層領域113へ電流を注入し、レーザ発振を行う。発振波長制御電流装置118により屈折率制御領域112に電流注入を行い、発振波長を調整する。変調動作は、電圧制御装置116によりDBR領域111に変調信号電圧を加えることによって行なわれる。より具体的には、バイアス電圧Vbに対してピーク−ピーク振幅が電圧振幅VPPの変調信号が重畳された電圧変調信号がDBR領域111へ印加される。
本構成のDBRレーザの発振周波数(発振波長)は、次に説明するメカニズムによって変化する。DBRレーザの発振波長は、DBRのブラッグ波長を中心とする反射スペクトルとの位相整合条件により決定される。DBRに屈折率変化が生じると、DBRのブラッグ波長で決まる中心波長および共振器の縦モード波長が変化する。このとき、DBR領域に印加される電圧振幅VPPにより生じる屈折率変化量をΔneffとする。ブラッグ反射波長(周波数)のずれΔfBは、DBR領域の屈折率をn、ブラッグ波長に対応する周波数をfBとして、次式で表される。
また、縦モード波長のずれΔfmは、全共振器長をLa11、DBR領域の実効長をLDBR、縦モード周波数をfmとすると次式で表される。
モード跳びを起こさずに変調動作させる場合、縦モード波長のずれ(変化)が実際の周波数変調量に寄与する。すなわち、実際の変調周波数量は式(6)で示されるようにΔfmにより決定される。式(6)は、式(2)のLPがLDBRに置き換えられたものである。したがって、大きな周波数変調量を得るためには、式(2)と同様に実効屈折率の変化量Δneff/neffを大きくすることが重要となる。
以上詳細に説明したように、本発明によれば、従来技術の[110]方向に作製されたメサストライプを用いた埋め込み構造を用いても、低電圧駆動によって高効率の変調が得られ、光変調器を含む光信号処理装置の大幅な特性改善を実現することができる。尚、上では周波数変調の観点から説明を行ったが、周波数変化は発振波長変化と等価であり、本DBRレーザを超高速の波長切替動作を実現する波長可変光源としても適用できる。また、本構成においては、発振波長の調整の機能のために屈折率制御領域112を設けているが、上述した変調原理より、屈折率制御領域112がない構成の場合でも、変調動作を実現できることに留意すべきである。
[素子適用例4]:図23は、本発明の屈折率制御層構造を適用した半絶縁埋め込み構造を持つ周波数変調型DBRレーザの別の構成を示す図である。図23は、DBRレーザの導波路の光伝搬方向を含む面における断面図である。すなわち、図のy軸方向が光伝搬方向であり、メサストライプはy軸方向に、[110]方向に形成されている。DBRレーザは、後述のプロセスに従い、導波路およびメサ構造のパターンを形成しながら順次作製される。
本DBRレーザ400dは、y軸方向について3つの領域から構成される。すなわち、y軸方向について、長さ400μmの分布ブラッグ反射ミラー領域(DBR領域)111、DBR領域111に隣接し長さ200μmの屈折率制御領域112、および屈折率制御領域112に隣接し長さ200μmの活性層領域113から構成される。本DBRレーザは、1つのDBR領域だけで構成される点で、2つのDBR領域111a、111bから構成される素子適用例2のDBRレーザと相違している。
z方向については、3つの各領域において、n型クラッド層101の上にn型ドーピングを持つ導波路層102が形成されている。すなわち、DBR領域111ではDBR層102が、屈折率制御領域112では屈折率制御層102がそれぞれ積層されている。活性層領域113でも、n型ドーピングを持つ導波路層102が積層され、さらにその上に発光波長1.55μmの10層多重量子井戸活性層(MQW活性層)114が積層される。DBR領域111のDBR層102内には、それぞれ回折格子115が設けられている。さらに各領域において、p型クラッド層103、コンタクト層104が順次積層される。DBRレーザ素子400dの上下にはそれぞれp型電極106およびn型電極105が設けられている。3つの各領域111、112、113を電気的に分離するために、領域境界付近のコンタクト層104は除去されている。
各領域のp型電極については、DBR領域111に対して周波数変調を行うための電圧制御装置(V)116が、屈折率制御領域112に対しては波長調整を行うための発振波長制御電流装置(IP)118が、活性層領域113に対しては活性層電流制御装置(ID)117がそれぞれ接続されている点に注目されたい。各領域を駆動する電源種類の点で、素子適用例2の構成と相違している。
各領域の断面構造は、素子適用例2と同一である。図21の(a)および(b)は、それぞれ本DBRレーザ400dのDBR領域もしくは屈折率制御領域の断面および活性層領域の断面を示す図である。すなわち、(a)は、図23におけるDBR領域111または屈折率制御領域112をx−z面で見た図である。(b)は図23における活性層領域113をx−z面で見た図である。各領域において、導波路幅2μm、高さ1.5μmのメサストライプが形成されている。導波路102の上部にはドーピング濃度1×1018cm−3のp−InPクラッド層103が形成されている。活性層ストライプおよびDBRストライプの両側は、それぞれベンゾシクロブテン(BCB)122で埋め込まれており、その上部にはSiO2絶縁膜121が形成されている。素子の最上面にp側電極106が形成されている。
本DBRレーザは、以下の手順に従って作製される。まず、n型InP基板101上に、有機金属気相成長法を使用して、n型ドープ屈折率制御層102、厚さ10nmのInPエッチストップ層およびMQW活性層114までを形成した。次に、プラズマCVDを使用して全面にSiO2膜を形成し、フォトリソグラフィおよびドライエッチングを用いてMQW活性層114領域上にSiO2マスクを形成した。その後、ウェットエッチングを使用して、不要なMQW活性層を除去した。次に、電子ビーム露光法を用いてDBR領域に回折格子のレジストパターンを描画し、ウェットエッチングを使用して回折格子115を作製した。回折格子115を作製した後、レジストおよびSiO2膜を除去して、有機金属気相成長法を使用して全面にp−InPクラッド層103およびコンタクト層104をこの順に成長させた。
続いて全面にSiO2を形成し、フォトリソグラフィおよびドライエッチングを用いてSiO2の導波路パターンを形成した。次に、このパターンをマスクとしてドライエッチングおよびウェットエッチングを使用して導波路部分を除いたp−InPクラッド領域103を除去し、導波路ストライプを形成した。次に、導波路間分離のために、SiO2を形成後、フォトリソグラフィおよびドライエッチングを用いてSiO2マスクを形成し、ウエットエッチングにより電極間のコンタクト領域104を除去した。
次に、スピンコート法および熱処理工程を使用して、導波路ストライプをBCB122によって埋め込んだ。次に、ストライプ上のSiO2を除去した後で、プラズマCVDを使用してSiO2絶縁膜121を形成した。その後、フォトリソグラフィおよびドライエッチングを用いて電極部分の窓を形成した。引き続き、リフトオフにより電極パターンを形成し、電子ビーム蒸着を使用してAu/Zn/Niからなるp電極106を形成した。その後、n電極105としてTi/Pt/Au電極105を形成した。最後に、真空蒸着を使用してDBRレーザ素子のDBR領域側の端面にSiO2/TiO2の無反射コーティングを施した。
本構成においても、低いバイアス電圧に対して高効率な周波数変調動作が可能である。活性層電流制御装置117により活性層領域113へ電流を注入し、レーザ発振を行う。発振波長制御電流装置118により屈折率制御領域112に電流注入を行い、発振波長を調整する。変調動作は、電圧制御装置116によりDBR領域111に変調信号電圧を加えることによって行なわれる。より具体的には、バイアス電圧Vbに対してピーク−ピーク振幅が電圧振幅VPPの変調信号が重畳された電圧変調信号がDBR領域111へ印加される。
素子構成例3と同様に、従来技術の[110]方向に作製されたメサストライプを用いた埋め込み構造を用いても、低バイアス電圧駆動によって高効率の変調が得られ、光変調器を含む光信号処理装置の大幅な特性改善を実現することができる。尚、これまでは周波数変調の観点から説明を行ったが、周波数変化は発振波長変化と等価であり、本DBRレーザを超高速の波長切替動作を実現する波長可変光源にも適用できる。また、本構成においては、発振波長の調整の機能のために屈折率制御領域112を設けているが、上述の変調原理より、屈折率制御領域112がない構成の場合でも、変調動作を実現できることに留意すべきである。
[その他の素子適用例]:上述の素子適用例1−4の各実施例においては、両側または一方にDBR反射鏡を備えたDBRレーザの共振器内部に周波数変調を行う屈折率制御領域を設けた構造を示した。本発明の屈折率制御層を持った変調素子の適用例は上述の構造に限られない。素子適用例1、2では、前後のDBR反射鏡を備えた4電極のDBRレーザ構造を示したが、機能セクション数は4つに限られず、異なるセクション数の構造でも構わない。例えば、モード抑制および波長の微調機能を備えるために、屈折率制御領域を複数備えても良い。また、素子適用例3、4のように、素子の片側だけにDBR構造を設けた構造でも良い。
半導体光増幅器(SOA)領域を本発明の屈折率制御層を含む変調素子の前後に集積しても構わない。また、上述の実施例の素子構造として、半絶縁埋め込み構造およびリッジ型構造を例示的に示したが、pn埋め込み構造、ハイメサ構造等、その他の導波路構造にも適用できるのは言うまでもない。使用材料としてInGaAsPを用いた例を示したが、InAlGaAs、GaInNAsなどの材料にも適用できる。
また、本発明はDBR構造を含む発振器に限られず、共振器内に周波数および波長を制御する屈折率制御領域を持つ全ての構造に適用可能である。例えば、DBR反射鏡の代わりに、超周期回折格子型DBR(SSG−DBR)、サンプル型回折格子型DBR(SG−DBR)、リング共振器、アレイ導波路回折格子(AWG)など、波長選択性を持つ共振器であればどのようなタイプも使用できる。さらに、上述の各実施例では、活性層、反射鏡および屈折率制御領域がモノリシック集積された素子構成の例を示したが、反射鏡を外部に設けた外部共振器型の素子構成にも適用できる。
さらに、上述の本発明の素子適用例では、高速変調が可能な周波数変調光源への適用例について示したが、適用例は周波数変調レーザに限られない。マッハ・ツェンダ型変調器など、バイアス電圧の印加とともに大きな屈折率変化量を必要とする多くの光制御素子および光信号処理装置に適用できることは言うまでもない。
[変調光源への適用例]:本発明の屈折率制御層を含む変調素子を適用した周波数変調光源を利用した光信号伝送方式の具体例を以下に示す。
図24は、本発明の屈折率制御層を含む周波数変調光源を使用した光変調信号伝送方式の構成を示す図である。光変調信号生成装置201は、情報信号源からのNRZ信号により光信号を周波数変調する光源202と、光源202の出力側に接続され周波数変調信号を強度変調信号へ変換する機能を持つ周波数フィルタ203とを含む。光変調信号生成装置201から出力された光信号は、光ファイバ204を伝播した後に、光受信装置205によって受信される。本発明の屈折率制御層を含む変調素子を、光変調信号生成装置201の周波数変調光源202に適用する。具体的には、素子適用例1から素子適用例4までのDBRレーザなどを周波数変調光源に適用できる。
図25は、本光変調信号生成装置で使用される周波数フィルタの構成を示す図である。周波数フィルタ203は、2つのエタロンフィルタ301a、301bを直列に接続した構成である。エタロンフィルタ301a、301bは、共振器302aの入力端および出力端にミラー303a、303bを、共振器302bの入力端および出力端にミラー303c、303dをそれぞれ設けている。周波数フィルタ203のFSR(Free Spectral Range)は、100GHzである。
図26は、周波数フィルタの透過スペクトル特性および位相特性を示す図である。図26の(a)は、透過スペクトル特性を示し、(b)は位相特性を示している。(a)および(b)を参照すれば、透過率の最大ピーク付近では、透過率の変化すなわち強度変化とともに位相変化が生じていることがわかる。尚、本実施例において使用する周波数フィルタは、FM/AM変換機能を持つ周波数フィルタであれば良い。具体的には、複合共振エタロン、アレイ導波路格子、ラティス型フィルタ、マッハ・ツェンダ干渉計、リング共振器フィルタ、ファイバブラッググレーティングなどがある。周波数フィルタがFM/AM変換機能に加えて分散特性を有している場合、周波数フィルタの分散特性を光ファイバの分散の値と逆符号に設定することによって、分散補償機能を併せ持つこともできる。ここで、周波数フィルタのFM/AM変換機能について説明する。
図26の(a)は、光変調信号生成装置202を伝送速度20Gbpsで動作させた場合の動作周波数および周波数フィルタの透過周波数の設定条件を説明している。搬送周波数を、193.4THz(1.55μm)とする。周波数フィルタの透過率ピーク周波数は、NRZ信号の「1」に対して5GHz高周波数側となるように設定する。また、NRZ信号の「0」に対応する光信号の周波数は、NRZ信号「1」に対して10GHz低周波数側となるように設定する。図26の(a)の横軸上に矢印で表示された「0」および「1」に対応する周波数の関係に注目されたい。
図26の(a)の透過率特性から分かるように、NRZ信号の「1」に対応する光信号の透過率(概ね−5dB)は、NRZ信号の「0」に対応する光信号の透過率(概ね−20dB)よりも高くなっている。すなわち、NRZ信号の「1」に対応する光信号の透過率と、NRZ信号の「0」に対応する光信号の透過率との間には、15dBの差異がある。このため、周波数変調信号がこの周波数フィルタ203を通過することによって、入力の周波数変調信号に応じた強度変調信号を出力させることができる。
図26で説明した設定条件のように、伝送するビットレートの半分の値を周波数変調の変調幅の値に設定する条件は、MSK(Minimum Shift Keying)と呼ばれている。MSKの場合、隣接パルス間の位相差はπとなる。このため、MSK条件には、光信号が光ファイバを伝播する際に分散のために生じるパルス信号の重なりを抑える効果がある。また、周波数変調の変調幅の値が、光信号で伝送するビットレートの1/4から3/4の間に設定されていれば、「1−0−1」と信号が推移する際の隣接パルス間の位相差は逆符号となる。この設定条件は、光ファイバ伝播後のパルスの分散に伴う信号の重なりを抑える効果を持つ。
既に説明したように、本発明の素子適用例1を用いた場合、図26で説明したMSK条件を満たす駆動条件において、周波数変調量10GHzを得るために必要な変調電圧は0.75Vである。一方、従来技術を用いた構造においては変調電圧は1.85V必要となり、本発明の屈折率制御層を採用することによって、駆動バイアス電圧を大幅に減らすことができる。
図27および図28は、それぞれ周波数フィルタを通過する前後における変調光信号の波形を示す図である。図27は、信号源202から20GbpsのNRZ周波数変調信号を生成し、周波数フィルタ203を透過させた際の、透過前後の光信号の強度成分の時間変化を示す図である。強度成分を信号列「1」「0」とともに示している。図28は、透過前後の光信号の周波数成分の時間変化を示す図である。周波数成分を信号列「1」「0」とともに示している。縦軸は、搬送派周波数からの周波数ずれを示す。
光源202から周波数フィルタ203への入力光信号は、強度変調成分を持たず、周波数変調成分のみを持つ。この入力光信号は、周波数フィルタ203を透過することによって、FM/AM変換機能によりNRZの強度変調信号に変換される。また、入力光信号の周波数成分は、フィルタ透過前では、信号列に同期した周波数成分を持っている。一方、フィルタ透過後では、周波数変調成分が0GHz付近にある時間(期間)が増えており、大きな周波数変動が生じるのは信号が「0」の場合だけであることがわかる。すなわち、光信号が大きな振幅で存在する時間においては、周波数変動が抑制されているために実質的に周波数変動がなく、光ファイバの分散に起因する伝送特性の劣化を抑えることができる。次に、具体的な伝送特性を説明する。
図29は、光変調信号生成装置から出力された光信号のアイ開口を示す図である。光変調信号生成装置201で生成した光変調信号を、分散値16.3ps/nm/kmを持つ光ファイバ204を経由して、50kmの区間伝送させた場合のアイ開口を示している。図29の(a)は、光変調信号生成装置201から出力された光信号のアイ開口を示し、(b)は、光受信装置205で受信した光信号のアイ開口を示す。50kmの区間を光ファイバを伝播させた後でも、十分に明瞭なアイ開口が得られている。このように、本発明の屈折率制御層を周波数変調光源に適用することで、低バイアス電圧・低消費電力で動作し、かつ高速、長距離伝送が可能な変調光源を実現することができる。
以上詳細に説明したように、本発明によれば、低バイアス電圧で駆動することができ、高効率かつ高速変調が可能な屈折率変調素子を実現することができる。レーザとの集積が容易な屈折率制御構造を実現することもできる。また、本発明をDBRレーザに適用することによって、低電圧駆動の周波数変調動作を実現することもできる。さらに、このDBRレーザを周波数変調光源として利用し、周波数変調光を光フィルタを用いてFM/AM変換することによって、低消費電力で、長距離伝送が可能な光送信器を実現することができる。