(1)波長可変半導体レーザを用いた、光周波数変調DWDMシステム
光通信の大容量化のためには、光波長多重方式(WDM方式)、特に、64波長や128波長を多重化する高密度光波長多重化方式(DWDM方式)が重要である。このような、DWDM方式において、上記直接変調方式による光周波数変調を実現しようとすると、多重化される波長数と同数のDFBレーザを用意する必要がある。
DFBレーザのレーザ発振波長(光周波数)は、略一定値に固定されている。光周波数変調は、この一定値を中心として極僅かにレーザ発振波長を変化させることによって実現される。このため、DFBレーザを用いて光周波数変調を実現しようとすると、多重化される波長(グリッド)全てで、その波長でレーザ発振するDFBレーザを用意しなければならなくなる。
しかし、DWDM方式における波長間隔は、例えば、0.4nm〜0.8nmと極めて狭い。このような狭い波長間隔で、レーザ発振波長が僅かずつ異なるDFBレーザを、多数用意することは容易ではない。
レーザ発振波長が所望の値になるように設計してDFBレーザを製造しても、完成したDFBレーザのレーザ発振波長は、上記波長間隔より広い範囲でばらつく。このため、DWDM方式に使用される全ての波長(グリッド)でDFBレーザを用意しようとすると、レーザ発振波長がグリッドに一致するように設計されたDFBレーザをグリッド毎に多数製造し、その中から波長が一致するDFBレーザを選別するという困難な作業が必要になる。
この問題を解決する方法としては、例えば、波長可変半導体レーザを複数用意し、夫々の波長を別々のグリッドに一致させた後、出力光を光周波数変調するという方法が考えられる。
波長可変半導体レーザの波長可変範囲は数nm〜10nmに及ぶので、波長可変範囲が互いに隣接する波長可変半導体レーザを複数用意することによって、例えば、Cバンド(1525〜1565nm)のような広波長帯域をカバーすることができる。更に、個々の波長可変半導体レーザのレーザ発振波長を、波長可変範囲内にあるグリッドに一致させることも容易である。
従って、波長可変範囲毎に、当該波長可変範囲内に存在するグリッドと同数の波長可変半導体レーザを用意するだけで、全てのグリッドに対して光源(半導体レーザ装置)を用意することができる。
すなわち、波長可変半導体レーザの波長は変更可能なので、DFBレーザのように多数の素子を製作し、その中からレーザ発振波長がグリッドに一致した素子を選別するという多大な無駄は生じない。
更に、このような波長可変半導体レーザをDWDMの光源として使用することによって、チャネルスイッチ等の多彩な機能の実現が可能になる。
但し、既存の波長可変半導体レーザを用いて光周波数変調を行おうとしても、光周波数変調速度が遅いという問題や、波長を変更する際にモードホップが起き易いとい問題がある。
波長可変半導体レーザには幾つかの種類があるが、単一の半導体基板上に形成される波長可変半導体レーザに限れば、その構造は、DFBレーザ(Distributed feedback Laser)又はDBRレーザ(Distributed Bragg Reflector Laser)を基本構造としている。これらの波長可変半導体レーザには、光共振器内に配置された光導波路の一部に、その光導波層(コア層)の屈折率を変化させるための手段が設けられている。この手段によって光導波層(コア層)の屈折率を変化させると、レーザ発振波長が変化する。
光導波層の屈折率変化に利用される原理は、2つの種類が存在する。この原理の違いによって、波長可変半導体レーザは、電流制御型と電圧制御型に分類することができる。
(2)電流制御型波長可変半導体レーザ
電流制御型波長可変半導体レーザは、光導波層(コア層)の一部(以下、波長制御層と呼ぶ)がレーザ発信波長に対して透明な半導体層で形成されており、この波長制御層に電流が注入されことによって、波長制御層にキャリアが蓄積されるように構成されている。蓄積されたキャリアは、プラズマ効果によって波長制御層の屈折率を低下させ、波長可変半導体レーザのレーザ発振波長を変化させる。
このような電流制御型波長可変半導体レーザで出力光の光周波数を変調するためには、波長制御層に注入する電流を変調すればよい。波長制御層に注入する電流量を変調すると、出力光の波長すなわち光周波数が変調される。
この時の変調速度すなわち変調帯域は、波長制御層に注入されたキャリアの寿命によって決定される。変調帯域は、波長制御層内のキャリア寿命が短いほど広くなる。ところで、波長制御層すなわち半導体光導波路のコア層におけるキャリア寿命は、短くても数ns程度である。従って、電流制御型波長可変半導体レーザによる光周波数変調の変調帯域は、高々数百MHzである。
図19は、代表的な電流制御型波長可変半導体レーザであるTDA−DFBレーザ素子2(Tunable Distributed Amplification-Distributed Feedback Laser)の、光の伝播方向に沿った断面の一例を説明する図である。図19には、TDA−DFBレーザ素子2の駆動電源(励起電源34及び波長制御電源35)も図示されている(非特許文献1)。
図19に示すように、TDA−DFBレーザ素子2は、n型のInP基板4と、回折格子6の形成されたn型のInPからなる下部クラッド層8と、光導波層(コア層)12と、p型InPからなる上部クラッド層14と、コンタクト層16、利得制御電極18と、波長制御電極20と、利得制御電極18と波長制御電極20の間に形成されたSiO2膜22によって構成されている。
また、n型のInP基板4の裏面には、n側電極(接地電極)24が形成されている。
そして、利得制御層(活性層)26をコア層とする複数の利得制御導波路30と、波長制御層28をコア層とする複数の波長制御導波路32が連結され、利得制御層(活性層)26と波長制御層28が交互に光学的に接続された光導波層12をコア層とする光導波路が構成されている。
ここで、利得制御層(活性層)26は、回折格子6のブラッグ波長(例えば、1.55μm)の近傍に利得のピークを有する、例えば、組成の異なるGaInAsPによって量子井戸層と障壁層が形成された多重量子井戸(以下、GaInAsP多重量子井戸と呼ぶ)によって構成されている。一方、波長制御層28は、この利得制御層26よりバンドギャップ波長が短い、例えば、GaInAsPバルク層によって構成されている。
また、利得導波路30上に形成された利得制御電極18には、利得導波層26に電流を注入して、利得を発生させる励起電源34が接続されている。一方、波長制御導波路32上に形成された波長制御電極20には、波長制御層28に電流を注入して、波長制御層28の屈折率を変化させる波長制御電源35が接続されている。
次に、TDA−DFBレーザ素子2の動作について説明する。
TDA−DFBレーザ素子2を動作させるためには、まず、励起電源34を駆動して、利得制御電極18を介して利得制御層(活性層)26に、閾値以上の電流(以下、このような電流を励起電流と呼ぶ)を注入する。
すると、利得制御層(活性層)26には利得が発生し、TDA−DFBレーザ素子2は、回折格子6の周期によって定まるブラッグ波長(又はその近傍)でレーザ発振する。
次に、TDA−DFBレーザ素子2のレーザ発振波長を変化させる。そのためには、波長制御電源35を駆動して、波長制御電極20を介して波長制御層28に電流を注入する。電流が注入されると、波長制御層26には自由キャリアが蓄積し、プラズマ効果によってその屈折率が低下する。このため、波長制御光導波路32の等価屈折率が低下する。
その結果、回折格子6のブラック波長が全体として短波長側に移動(シフト)し、それに伴った、TDA−DFBレーザ素子2のレーザ発振波長も短波長側に移動する。
波長制御層28の屈折率変化は蓄積された自由キャリア濃度に比例するので、TDA−DFBレーザ素子2の波長のシフト量は、波長制御層28に注入する電流量によって制御することができる。
このように構成されたTDA−DFBレーザ素子2に於いてシフト可能な波長変化量は、5nm乃至10nmに及ぶ。しかも、波長をシフトしても、レーザ発振波長の跳び即ちモードホップが生じることない。すなわち、波長可変範囲全体に亘って、レーザ発振波長を連続的に変化させることができる。従って、例えば、波長可変範囲幅が5nmのTDA−DFBレーザ素子2を8種類用意することによって、Cバンド(1525〜1565nm)の幅40nmに相当する広い波長範囲をカバーすることができる。
最後に、TDA−DFBレーザ素子2の出力光を、光周波数変調した場合の動作について説明する。
TDA−DFBレーザ素子2を光周波数変調するためには、波長制御層28に注入する電流量を変調する。波長制御層28に注入する電流量が変調されると、波長制御層28の屈折率が変調される。その結果、回折格子6のブラック波長が変調され、出力光の波長すなわち光周波数が変調される。
この時の変調帯域は、波長制御層28に注入されたキャリアの寿命によって決定される。波長制御層28内のキャリア寿命は、短くても数ns程度である。従って、TDA−DFBレーザ素子の光周波数変調帯域(以下、光FM帯域と呼ぶ)は、高々数百MHzである。
TDA−DFBレーザ素子以外の電流制御型波長可変半導体レーザ素子でも、光周波数変調を行うためには、波長制御層に注入する電流量を変調することになる。従って、上記光FM帯域(1GHz以上)は、全ての電流制御型の波長可変半導体レーザ素子に共通する。
一方、高速光伝送には、1GHz以上の変調速度が要求される。
従って、TDA−DFBレーザ素子等の電流制御型の波長可変半導体レーザ素子によっては、光周波数変調によって、1GHz以上の高速光伝送を実現することができない。
(3)電圧制御型波長可変半導体レーザ
電圧制御型の波長可変半導体レーザは、光導波層(コア層)の一部(以下、波長制御層と呼ぶ)がレーザ発信波長に対して透明な半導体層で形成されており、この波長制御層に電圧が印加されることによって、その光吸収端が長波長側にシフトするように構成されている。波長制御層の光吸収端がシフトすると、屈折率も変化する(以下、電界効果と呼ぶ)。その結果、波長制御層の屈折率が変化し、波長可変半導体レーザのレーザ発振波長が変化する。
電圧制御型波長可変半導体レーザの出力光の光周波数を変調するためには、波長制御層に印加する電圧を変調すればよい。波長制御層に印加する電圧を変調すると、出力光の波長すなわち光周波数が変調される。
電界効果による屈折率変化は、極めて高速な物理現象である。従って、電圧制御型波長可変半導体レーザの変調帯域は、波長制御層に印加可能な電界の周波数帯域によって律せられる。
マイクロ波ストリップライン等の高周波部材を利用することにより、半導体レーザ装置に、1GHz以上の高周波を印加することは可能である。従って、電圧制御型波長可変半導体レーザの光FM帯域は、優に数GHzを超えることができる。
図20は、代表的な電圧制御型波長可変半導体レーザである多電極DBRレーザ素子37の、光の伝播方向に沿った断面を説明する図である(特許文献1)。
図20に示すように、多電極DBRレーザ素子37は、n型のGaAs基板36と、n型のAlGaAsからなる下部クラッド層38と、光導波路39と、GaAsからなる活性層40と、上部クラッド層42と、分布ブラッグ反射鏡44,44´(Distributed Bragg Reflector)と、活性層40に電流ILDを注入するための電極46と、ブラッグ波長を制御するための電極48と、位相調整部49に逆方向電界Ephaseを印加するための電極50と、アースに接続される電極52を備えている。
すなわち、分布ブラッグ反射鏡44,44´からなる反射鏡によって構成された光共振器の内部に、活性層40と位相調整部49が配置されている。
また、位相調整部49とその両隣の領域の間には、位相調整部49を他の領域から電気的に分離するための絶縁溝が形成されている。更に、この溝の底には、酸素イオンの注入によって高抵抗化された高抵抗領域54が形成されている。
次に、多電極DBRレーザ素子37の動作について説明する。
まず、活性層40に電流ILDを注入して、レーザ発振を起こさせる。この時、多電極DBRレーザ素子37は、分布ブラッグ反射鏡44,44´の反射率のピーク(すなわち、ブラッグ波長)又はその近傍の波長で、且つ一対の分布ブラッグ反射鏡44,44´によって構成される光共振器内をレーザ光が往復した時の位相変化(以下、単に位相変化と呼ぶ)が2πn(nは整数)になるような波長でレーザ発振する。
多電極DBRレーザ素子37のレーザ発振波長を変化させるためには、位相調整部49に逆方向電界Ephaseを印加する。逆方向電界Ephaseが印加されると、位相調整部49の屈折率は電界効果により変化する。その結果、上記光共振器の光学長が変化し、位相変化が2πn(nは整数)となる波長も変化するので、多電極DBRレーザ素子37のレーザ発振波長がシフトする。レーザ発振波長は、逆方向電界Ephaseに対して連続的に変化する。
但し、分布ブラッグ反射鏡44,44´の反射率ピークからのレーザ発振波長のズレが大きくなると、位相変化が2π(n+1)又は2π(n−1)を満たす波長の方が、位相変化が2πnを満たす波長より、分布ブラッグ反射鏡44,44´における損失が小さくなる。このような場合、位相変化が2πnとなる波長から、位相変化が2π(n+1)又は2π(n−1)となる波長に、レーザ発振波長が突然変化する所謂モードホップが起こる。
このようなモードホップを防止するため、多電極DBRレーザ素子37では、分布ブラッグ反射鏡44,44´に電流Ituneを注入して、分布ブラッグ反射鏡44,44´のブラッグ波長を適宜シフトさせている。すなわち、多電極DBRレーザ素子37では、電流Ituneを調整して、位相変化が2πnを満たす波長の近傍に、ブラック波長を常にシフトさせて、モードホップを防止している。
このような電圧制御型波長可変半導体レーザにおいて出力光の光周波数を変調するためには、電極50に印加する逆方向電界Ephaseを変調すればよい。逆方向電界Ephaseを変調すると、出力光の波長すなわち光周波数が変調される。
この時の変調速度すなわち変調帯域は、波長制御層に印加可能な電圧の周波数帯域によって律せられる。通常、半導体レーザ装置には、数GHz以上の高周波の印加が可能である。従って、電圧制御型波長可変半導体レーザの光FM帯域は、優に数GHzを超える。
多電極DBRレーザ素子以外の電圧制御型の波長可変半導体レーザ素子でも、光周波数変調を行うためには、光共振器内に配置された光導波路の一部(例えば、位相調整部49)に印加する電界強度(電圧)を変調することになる。従って、上記光FM帯域(1GHz以上)は、全ての電圧制御型波長可変半導体レーザ素子に共通する。
すなわち、電圧制御型の波長可変半導体レーザ素子によれば、容易に数GHzの光周波数変調が可能になる。
電界効果による屈折率変化は、光の吸収端近傍では大きな値になる。しかし、光導波路を伝播する光の波長として好ましい、光吸収端から十分に離れた波長では、電界効果による屈折率変化は、プラズマ効果による屈折率変化の約十分の一にしかならない。
このため、数nmに及ぶ波長可変範囲を確保するためには、逆方向電界Ephaseを印加する領域すなわち位相調整部49を長くして、位相調整部49による位相変化を大きくする必要がある。この場合、多電極DBRレーザ37の共振器長は、必然的に長くなる。
しかし、共振器長が長くなると、共振器のモード間隔すなわち上記nが1だけ異なる波長の間隔が狭くなる。このためモードホップが起こりやすくなり、レーザ発振波長を制御することが困難になる。すなわち、電圧制御型波長可変半導体レーザは、モードホップを起こしやすいという問題を抱えている。
尚、上記問題を解決しようとして、位相調整部49の光吸収端をレーザ発振波長に近づけて、電界効果による屈折率変化を大きくしようとすると、レーザ共振器の損失が大きくなってしまう。その結果、発振閾値や発光効率等が劣化するので、位相調整部49の光吸収端をレーザ発振波長近傍に設定することは困難である。
(3)課 題
そこで、本発明の目的は、高速変調が可能で且つモードホップを起こしにくい、光周波数変調用の波長可変半導体レーザを提供することである。
(第1の発明)
上記の目的を達成するために、本発明の第1の側面は、光利得を発生する活性層を第1のコア層とする第1の光導波路と、複数の第2のコア層の屈折率を変化させることによってレーザ発振波長を変化させる、複数の第2の光導波路からなり、前記第1の光導波路と前記第2の光導波路が光学的に接続された主光導波路が、光共振器内に配置された半導体レーザ装置において、複数の前記第2のコア層が、注入される電流量が調整されることによって、前記レーザ発振波長を制御する第3のコア層と、印加される電圧が調整されることによって、前記レーザ発振波長を制御する第4のコア層からなることを特徴とする。
本発明の第1の側面によれば、高速変調が可能で且つモードホップを起こしにくい、光周波数変調用の波長可変半導体レーザを提供することができる。
(第2の発明)
本発明の第2の側面は、第1の側面において、前記主導波路を構成する第5のコア層が、複数の前記第1のコア層と複数の前記第3のコア層が、交互に光学的に接続された状態で、複数の前記第1又は前記第3のコア層の何れか一方の一部が、前記第4のコア層で置き換えられてなり、更に、前記第5のコア層に沿って、前記第5のコア層と光学的に結合した回折格子が設けられていることを特徴とする。
本発明の第2の側面によれば、モードホップを起しにくいDFB型の半導体レーザ装置によって、高速変調が可能で且つモードホップが極めて起こりにくい、光周波数変調用の波長可変半導体レーザを提供することができる。
(第3の発明)
本発明の第3の側面は、第2の側面において、前記第4のコア層からなる第4の光導波路を埋め込む半絶縁性半導体層と、前記第4のコア層に電界を印加するための第1の電極を、隣接する光導波路に形成された第2の電極から電気的に分離する電極分離領域を具備することを特徴とする。
本発明の第3の側面によれば、周波数変調電極への逆バイアス電圧の印加が容易になる。
(第4の発明)
本発明の第4の側面は、第1の側面において、前記光共振器が、両端に配置された分布ブラック反射鏡からなる一対の反射鏡を有し、前記分布ブラック反射鏡の回折格子に沿って設けられ、注入される電流量が調整されることによって、前記分布ブラック反射鏡の反射ピークの波長を制御する第5のコア層を具備した第3の光導波路が、前記主光導波路に光学的に接続されていることを特徴とする。
本発明の第4の側面によれば、共振器長の長尺化によりモードホップを起し易くなるDBR型の半導体レーザ装置によっても、高速変調が可能で且つモードホップを起こしにくい、光周波数変調用の波長可変半導体レーザを提供することができる。
(第5の発明)
本発明の第5の側面は、第4の側面において、前記第4のコア層からなる第4の光導波路を埋め込む半絶縁性半導体層と、前記第4のコア層に電界を印加するための第1の電極を、隣接する光導波路に形成された第2の電極から電気的に分離する電極分離領域を具備することを特徴とする。
本発明の第5の側面によれば、周波数変調電極への逆バイアス電圧の印加が容易になる。
本発明の光周波数変調用の波長可変半導体レーザでは、極めて高速の物理現象である電界効果を利用して光周波数を変調するので、1GHz以上の高速動作が可能である。
更に、本発明では、屈折率変化の大きなプラズマ効果を用いてレーザ発振波長を変化させるので、光周波数変調用の波長可変半導体レーザ(半導体レーザ装置)の共振器長を短くすることができる。従って、光共振器のモード間隔が広くなるので、長尺化によりモードホップを起し易いDBRレーザを基本構造とした場合であっても、モードホップを起しにくい光周波数変調用波長可変半導体レーザを実現することができる。
すなわち、本発明によれば、高速変調が可能で且つモードホップを起しにくい、光周波数変調用の波長可変半導体レーザを提供することができる。
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
(実施の形態1)
本実施の形態は、電流制御型の波長可変半導体レーザであって、特に、光周波数変調に適した波長可変半導体レーザ(半導体レーザ装置)に係るものである。
(1)構 成
まず、本実施の形態に係る半導体レーザ装置の構成について説明する。
図1は、本実施の形態に係る半導体レーザ装置56の、光の伝播方向に沿った断面を説明する図である。
図1に示すように、半導体レーザ装置56は、n型のInP基板58と、(λ/4シフト)回折格子60の形成されたn型のInPからなる下部クラッド層62と、光導波層(コア層)66と、厚さ1.5μmのp型InPからなる上部クラッド層68と、GaInAsPからなるコンタクト層70と、利得制御電極72と、波長制御電極74と、周波数変調電極76によって構成されている。ここで、n型のInP基板58の裏面には、接地電極96が形成されている。
ここで、光利得を発生する利得制御層(活性層)78をコア層とする複数の利得制御導波路80と、(注入される電流量が調整されることによって、レーザ発振波長を制御する)波長制御層82をコア層とする複数の波長制御導波路84が光学的に接続された状態で、利得制御導波路80の一部が、(印加される電圧が調整されることによって、レーザ発振波長を制御する)周波数変調層86をコア層とする周波数変調導波路88で置き換えられて、主光導波路90が構成されている。尚、利得制御導波路80の一部が周波数変調導波路88で置き換えられる位置は、半導体レーザ装置56の中央部(即ち、λ/4シフトを有する回折格子60の位相シフト付近)である。
ここで、波長制御層82によって変化可能な波長幅は数nmである。一方、周波数変調層86によって変化可能な波長幅は、波長制御層82によって変化可能な波長幅より狭く、高々数GHzである。
すなわち、利得制御層(活性層)78と波長制御層82が交互に光学的に接続され、利得制御層(活性層)78の一部が周波数変調層86で置き換えられて光導波層66が構成され、この光導波層66をコア層として主光導波路90が構成されている。尚、周波数変調層86と置き換えられる層は、波長制御層82の一部であってもよい。
ここで、主光導波路90は回折格子60に光学的に結合しており、主導波路90を伝播する光は回折格子60によって摂動すなわち分布帰還を受ける。従って、回折格子60によって光共振器94が構成され、その共振器内に主導波路90が配置されている。
尚、回折格子60は、所謂λ/4シフト回折格子であり、略中央部で位相シフトしている。
利得制御層(活性層)78は、厚さ6nmの量子井戸層と厚さ10nmの障壁層からなるGaInAsP多重量子井戸(バンドギャップ波長;1.55μm)によって構成されている。
一方、波長制御導波路層82は、バンドギャップ波長が1.45μmのGaInAsPバルク層によって構成されている。
また、周波数変調層86は、厚さ10nmの量子井戸層と厚さ10nmの障壁層からなるGaInAsP多重量子井戸(バンドギャップ波長;1.45μm)によって構成されている(尚、周波数変調層86を形成する量子井戸層は、上記活性層の量子井戸層より、バンドギャップ波長が短波長のGaInAsPで形成されている。)。
利得制御導波路80、波長制御導波路層84、及び周波数変調導波路88の長さは共に30μmである。そして、波長制御導波路層84は、周期的に配置されており、その周期は60μmである。
ここで、周波数変調電極76は、上部クラッド68に形成された、深さ1μmの分離溝92によって、他の電極(波長制御電極74)から電気的に分離されている。
図2は、本実施の形態に係る半導体レーザ装置56の、光の伝播方向に垂直な断面を説明する図である。
上述した下部クラッド層62、光導波層(コア層)66、上部クラッド層68、及びコンタクト層70からなるメサ構造が、図2に示すように、例えば、FeドープInPからなる半絶縁性半導体層116によって埋め込まれている。ここで主光導波路90の幅98は、1.6μmである。
図3は、本実施の形態に係る半導体レーザ装置56を真上から見た構成を説明する平面図である。
利得制御電極72、波長制御電極74、及び周波数制御電極76は、図3に示しように、夫々櫛の歯状に形成されている。櫛の歯状の利得制御電極72を構成する夫々の歯は、利得制御導波路80上に形成された夫々のコンタクト層70に、電気的に接続されている。一方、櫛の歯状の波長制御電極74を構成する夫々の歯は、波長制御導波路84上に形成された夫々のコンタクト層70に電気的に接続されている。また、櫛の歯状の周波数変調電極76を構成する夫々の歯は、周波数変調導波路88上に形成された夫々のコンタクト層70に電気的に接続されている。
すなわち、本実施の形態に係る半導体レーザ装置56は、光利得を発生する複数の活性層78を第1のコア層とする複数の第1の光導波路(利得制御導波路80)と、複数の第2のコア層の屈折率を変化させることによってレーザ発振波長を変化させる、複数の第2の光導波路からなり、上記第1の光導波路(利得制御導波路80)と上記第2の光導波路が光学的に接続された主光導波路90が、光共振器94の内側に配置されている。
そして、複数の前記第2のコア層が、注入される電流量が調整されることによって、前記レーザ発振波長を制御する第3のコア層(波長制御層82)と、印加される電圧が調整されることによって、前記レーザ発振波長を制御する第4のコア層(周波数変調層86)から構成されている。
更に、上記主導波路90を構成する第5のコア層(光導波層66)が、複数の上記第1のコア層(活性層78)と複数の上記第3のコア層(波長制御層82)が、交互に光学的に接続された状態で、複数の上記第1のコア層(活性層78)の一部が、上記第4のコア層(周波数変調層86)で置き換えることによって構成されている。
そして、本実施の形態に係る半導体レーザ装置56には、上記第5のコア層(光導波層66)に沿って、上記第5のコア層(光導波層66)と光学的に結合した回折格子60が設けられている。
また、本実施の形態の半導体レーザ装置56は、上記第4のコア層(周波数変調層86)からなる第4の光導波路(周波数変調導波路88)を埋め込む半絶縁性半導体層116と、上記第4のコア層(周波数変調層86)に電界を印加するための第1の電極(周波数変調電極76)を、隣接する光導波路に形成された第2の電極(利得制御電極72)から電気的に分離する電極分離領域(例えば、分離溝92)を具備している。
従って、周波数変調電極76が他の電極から電気的に分離されるので、周波数変調電極76に逆バイアス電圧を印加することが容易になる。
(2)動 作
次に、半導体レーザ装置56の動作について説明する。
半導体レーザ装置56を動作させるためには、まず、利得制御電極72に接続された励起電源(図示せず)を駆動して、利得制御電極72を介して利得制御層(活性層)78に、閾値以上の電流(すなわち、励起電流)を注入する。同時に、周波数変調電極76に接続された周波数変調電源(図示せず)を駆動して、周波数変調電極76を介して、周波数変調層86に所定の逆バイアス電圧を印加する。
すると、利得制御層(活性層)78には利得が発生し、半導体レーザ装置56は、回折格子60の周期によって定まるブラッグ波長(又はその近傍)100でレーザ発振(単一モード発振)を開始する(図4参照)。
図4は、DWDMにおけるグリッド104(破線で表示)と、実施の形態1における半導体レーザ装置56のレーザ発振波長100(実線で表示)の関係を説明する図である。横軸は波長であり、縦軸はレーザ光の強度である。ここで、Cバンドにおけるグリッド104の間隔106は、例えば、0.40nm(50GHz)である。
次に、半導体レーザ装置56のレーザ発振波長100を変化させて、図4のように、DWDMの一の波長(グリッド)102に一致させる。
レーザ発振波長を変化させるためには、波長制御電極74に接続された波長制御電源(図示せず)を駆動して、波長制御電極74を介して波長制御層82に電流を注入する。電流が注入されると、波長制御層82には自由キャリアが蓄積し、プラズマ効果によってその屈折率が低下する。従って、波長制御光導波路84の等価屈折率が低下する。
その結果、回折格子60のブラック波長が短波長側に移動(シフト)し、半導体レーザ装置56のレーザ発振波長100も短波長側に移動する。
波長制御層82の屈折率変化はその自由キャリア濃度に比例するので、半導体レーザ装置56の波長のシフト量は、波長制御層82に注入する電流量を調整することによって制御することができる。
本実施の形態に係わる半導体レーザ装置56は、上述したTDA−DFBレーザを基本として構成されている。従って、波長シフト量の最大値は、TDA−DFBレーザと同じ、5nm乃至10nmに及ぶ。しかも、モードホップを伴わずに、波長がシフトする。すなわち、全波長可変範囲に亘って波長が連続的に変化する。
このような良好な波長制御特性を利用して、本実施の形態に係わる半導体レーザ装置56では、上記電流量を適宜調整して、所望の一の波長(グリッド102)にレーザ発振波長100を一致させる。
このような状態になった後、半導体レーザ装置56の出力光を光周波数変調する。光周波数変調ためには、周波数変調導波路88に印加している、上記所定の逆バイアス電圧に、変調信号を重畳する。すると、周波数変調層86には、上記所定の逆バイアス電圧に基づく電界E0に、上記変調信号に基づく電界ΔEが重畳された電界E0+ΔEが印加される。
その結果、周波数変調層86の屈折率が電界効果により変調され、出力光の波長すなわち光周波数が変調される。
図5は、周波数変調層86に印加される電界と、その屈折率変化を説明する図である。横軸は、周波数変調層86に印加される電界の強度である。一方、縦軸は、電界がゼロの場合を基準とした、周波数変調層86の屈折率の変化である。
電界の印加による屈折率変化(電界効果)は、図5に示すように、電界強度に対して略2次関数(すなわち、放物線的)になる。図5のように、予め印加しておいた電界E0に、微小電界ΔEを重畳することによって、屈折率を変調する。
この屈折率変化Δnによって、所定のグリッドに一致しているレーザ発振波長102は、僅かにシフトする。そのシフト量108は、グリッド間隔106より十分小さく、高々0.08nm(10GHz)程度である(図4参照)。尚、微小電界ΔEの符号を逆向きにすると、レーザ発振波長102は逆方向にシフトする。
電界効果による屈折率変化の応答速度は、極めて速い。従って、周波数変調層86の屈折率変化は、周波数変調層86に印加される変調信号の周波数帯域によって律速される。浮遊容量等を考慮しても、上記変調信号の帯域は、優に数GHzを超える。従って、本実施の形態に係わる半導体レーザ装置56によれば、数GHzを超える光周波数変調が可能である。
更に、本実施の形態に係わる半導体レーザ装置56では、上述したように、モードホップを伴わずに、広い波長範囲に亘ってレーザ発振波長を変化させることが可能である。
すなわち、本実施の形態によれば、高速変調が可能で且つモードホップを起こしにくい、光周波数変調用の波長可変半導体レーザを提供することができる。
以上の動作では、波長制御導波路84による波長可変機能は、グリッドからずれているレーザ発振波長を、グリッドに一致させるためだけに用いられている(図4参照)。しかし、波長制御導波路84における波長可変機能は、チャネルスイッチ等種々の動作に利用可能である。
尚、光の波長を変化させることと光周波数を変化させることに、本質的な相違はない。しかし、光の波長変化を表す単位としては、通常、nmが用いられることを考慮して、グリッド間で波長を変化させる動作に対しては、波長変化または波長制御等、波長を冠した用語を用いることとする。これは、グリッド間隔が、サブnm程度であることに基づく。
一方、上記光周波数変調のように、波長変化がグリッド間隔より狭い場合には、周波数変化または周波数制御等、周波数を冠した用語を用いることとする。
(3)製造方法
以下、図6乃至図10を参照して、半導体レーザ装置56の製造方法を説明する。
まず、通常のDFBレーザ素子を製造する場合と同様に、n型のInP基板58の上に、回折格子60が内部に形成された、n型のInPからなる下部クラッド層62を形成する。ここで、回折格子60はλ/4シフト回折格子である。但し、図6乃至図10に図示した回折格子60は、λ/4シフトが省略された状態で描かれている。
次に、下部クラッド層62の上に、量子井戸幅6nm、障壁層幅10nmのGaInAsP多重量子井戸層(以下、第1のMQW層と呼ぶ;バンドギャップ波長1.55μm)を成長する。この第1のMQW層106は、素子完成後は、利得制御層78となる(図6(a)参照)。
次に、以上のようして形成した半導体積層構造(図6(a))の上に、例えば、SiO2膜を形成する。
次に、利得制御層78(活性層)の形成が予定されている領域(及び、レーザ光の伝播が予定されている方向と垂直な方向に、この領域を伸展した領域)を残して、上記SiO2膜をエッチングして、利得制御層78の形成予定領域を覆うエッチングマスクを形成する。
このエッチングマスクを用いて、利得制御層78の形成が予定されている領域以外で、上記第1のMQW層106をウェットエッチングによって除去する(図6(b)参照)。
次に、第1のMQW層106を除去した領域に、上記SiO2膜を選択成長マスクとして、バンドギャップ波長1.45μmのGaInAsP層108を成長する(図6(c)参照)。このGaInAsP層108は、素子完成後は、波長制御層82となる。
次に、以上のようして形成した半導体積層構造(図6(c))の上に、例えば、SiO2膜を形成する。次に、周波数変調層86の形成が予定されている領域110(及び、レーザ光の伝播が予定されている方向と垂直な方向にこの領域を伸展した領域)が開口するように上記SiO2膜をエッチングして、エッチングマスクを形成する。
このエッチングマスクを用いて、周波数変調層86の形成予定領域110に成長した上記GaInAsP層108をウェットエッチングによって除去する(図7(a)参照)。
次に、GaInAsP層108を除去した領域に、上記SiO2膜を選択成長マスクとして、量子井戸幅10nm、障壁層幅10nmのGaInAsP多重量子井戸112(以下、第2のMQWと呼ぶ;バンドギャップ波長1.45μm)を選択成長する(図7(b)参照)。この第2のMQWは、素子完成後は、周波数変調層86となる。
次に、p型のInP層からなる上部クラッド層68及びp型のGaInAsP層からなるコンタクト層70を成長する。
図9は、以上のようにして形成した半導体積層構造を、レーザ光の伝播予定方向から見た断面図である(図8(b))。尚、図6乃至図8は、レーザ光の伝播予定方向に沿った、製造途中の半導体レーザ装置56の断面図である。
図9に示すように、ここまでの工程により、InP基板58の上に、下部クラッド層62と、第1のMQW106(利得制御層)と、GaInAsP層108(波長制御層)と、第2のMQW112(周波数変調層)と、上部クラッド層68と、コンタクト層70が積層されている。
図10は、レーザ光の伝播予定方向から見た、横方向埋め込み構造形成中の半導体レーザ装置56の断面図である。
横方向埋め込み構造は、以下のようにして形成される。
まず、図9に示す半導体積層構造に上に、SiO2膜からなりレーザ光の伝播予定に伸展するストライプ状のエッチングマスク114を形成する。このエッチングマスク114を用いて、上記半導体積層構造(図9)を、InP半導体基板58までドライエッチングによってエッチングして、メサ構造を形成する(図10(a)参照)。
次に、このメサ形状を、Feをドーピングした半絶縁性InP層116で埋め込む(図10(b)参照)。
以上の工程により、横方向埋め込み構造が完成する。
次に、横方向埋め込み構造が形成された半導体積層構造(図10(b))の上に、SiO2からなり、分離溝92の形成予定領域が開口したエッチングマスクを形成する。このエッチングマスクを用いて、コンタクト層70及び上部クラッド層68を、第1のMQW等からなる光導波層(コア層)66の近傍までドライエッチングして、分離溝92を形成する(図8(a)参照)。
その後、接地電極(n型電極)96、利得制御電極72、波長制御電極74、周波数変調電極76を、パターニング、金属蒸着、及びメッキ等により形成する(図8(b)参照)。
最後に、へき開によって半導体レーザ装置56となるチップを切り出し、両端面に無反射コーティングを施すと、半導体レーザ装置56が完成する。
本実施の形態では半導体基板をInPとしているが、GaAsなど他の半導体基板を用いて半導体レーザ装置を形成しても、本実施の形態と同様の効果が得られる。
また、本実施の形態ではバルク半導体によって波長制御層及び反射波長制御層を形成しているが、波長制御層を量子井戸で形成してもよい。
また、本実施の形態では、周波数変調導波路を量子井戸構造で形成しているが、バルク半導体で形成してもよい。このようにすると、光損失は減り、レーザとしての特性(閾値等)は向上する。但し、この場合、屈折率変化量が小さくなるため、周波数変調効率は低下する。
また、本実施の形態においては、電極分離構造としては分離溝を採用しているが、他の分離構造、例えば、電極間隔を広げ、或いは、電極間へのイオン打ち込みによって高抵抗層を形成してもよい。このようにすると、電極分離構造の形成が容易になる。
但し、電極間隔を広げることは、共振器内の無効領域の割合を大きくすることになり、種々のレーザ特性を犠牲にすることになる。また、イオン打ち込みによる高抵抗層形成には、信頼性に難点がある。
(実施の形態2)
本実施の形態は、電圧制御型の波長可変半導体レーザであって、特に、光周波数変調に適した波長可変半導体レーザ(半導体レーザ装置)に係るものである。
(1)構 成
まず、本実施の形態に係る半導体レーザ装置の構成について説明する。
図11は、本実施の形態に係る半導体レーザ装置118の、光の伝播方向に沿った断面を説明する図である。
図11に示すように、半導体レーザ装置118は、n型のInP基板58と、両端の内部に回折格子60,60´が形成されたn型のInPからなる下部クラッド層62と、光導波層(コア層)66と、厚さ1.5μmのp型InPからなる上部クラッド層68と、GaInAsPからなるコンタクト層70と、反射波長制御電極120,120´と、利得制御電極72と、波長制御電極74と、周波数変調電極76によって構成されている。ここで、n型のInP基板58の裏面には、接地電極96が形成されている。
ここで、光利得を発生する利得制御層(活性層)78をコア層とする利得制御導波路80と、(注入される電流量が調整されることによって、レーザ発振波長を制御する)波長制御層82をコア層とする波長制御導波路84と、(印加される電圧が調整されることによって、レーザ発振波長を制御する)周波数変調層86をコア層とする周波数変調導波路88が光学的に接続されて主光導波路90が構成されている。
ここで、波長制御層82によって変化可能な波長幅は数nmである。一方、周波数変調層86によって変化する波長幅は、波長制御層82によって変化する波長幅より狭く、高々数GHzである。
すなわち、利得制御層(活性層)78と、波長制御層82と、周波数変調層86が光学的に接続されて光導波層66が構成され、この光導波層66をコア層として主光導波路90が構成されている。
一方、回折格子60,60´に沿って形成された反射波長制御層122,122´をコア層とする光導波路(反射波長制御導波路126,126´)によって、分布ブラック反射鏡124,124´が構成されている。ここで、回折格子60,60´は、反射波長制御層122,122´からなるコア層に光学的に結合して摂動を与え、反射波長制御層122からなるコア層を伝播する光を、回折格子60,60´の周期で決まるブラック波長及びその近傍で強く反射する。
そして、反射波長制御層122,122´からなる上記コア層は、上記主光導波路のコア層に光学的に接続されている。すなわち、上記分布ブラック反射鏡124,124´からなる一対の反射鏡によって光共振器94が構成され、この光共振器94の内側に、主光導波路90が配置されている。
利得制御層(活性層)78は、厚さ6nmの量子井戸層と厚さ10nmの障壁層からなるGaInAsP多重量子井戸(バンドギャップ波長;1.55μm)によって構成されている。
一方、波長制御導波路層82は、バンドギャップ波長が1.45μmのGaInAsPバルク層によって構成されている。
また、周波数変調層86は、厚さ10nmの量子井戸層と厚さ10nmの障壁層からなるGaInAsP多重量子井戸(バンドギャップ波長;1.45μm)によって構成されている(但し、周波数変調層86を形成する量子井戸層は、活性層を形成する量子井戸よりバンドギャップ波長が短波長のGaInAsPで形成されている。)。
更に、反射波長制御層122,122´は、バンドギャップ波長が1.45μmのGaInAsPバルク層によって構成されている。
ここで、利得制御導波路80、波長制御導波路層84、周波数変調導波路88、及び分布ブラック反射鏡の長さは、夫々、450μm、150μm、150μm、500μmである。
また、周波数変調電極76は、上部クラッド68に形成された、深さ1μmの分離溝92によって、他の電極(波長制御電極74及び反射波長制御電極120´)から電気的に分離されている。
図12は、本実施の形態に係る半導体レーザ装置118の、光の伝播方向に垂直な断面を説明する図である。
図12に示すように、上述した下部クラッド層62、光導波層(コア層)66、上部クラッド層68、及びコンタクト層70からなるリッジ構造が、例えば、FeドープInPからなる半絶縁性半導体層116に埋め込まれている。ここで主光導波路90の幅98は、1.6μmである。
図13は、本実施の形態に係る半導体レーザ装置118を真上から見た構成を説明する平面図である。
図13に示すように、一対の反射波長制御電極120, 120´の間に、利得制御電極72、波長制御電極74、及び周波数制御電極76が配置されている。夫々の電極は、コンタクト層70に電気的に接続されている。
すなわち、本実施の形態に係る半導体レーザ装置118は、光利得を発生する活性層78を第1のコア層とする第1の光導波路(利得制御導波路80)と、複数の第2のコア層の屈折率を変化させることによってレーザ発振波長を変化させる、複数の第2の光導波路からなり、上記第1の光導波路(利得制御導波路80)と上記第2の光導波路が光学的に接続された主光導波路90が、光共振器94の内側に配置されている。
そして、複数の上記第2のコア層が、注入される電流量が調整されることによって、上記レーザ発振波長を制御する第3のコア層(波長制御層82)と、印加される電圧が調整されることによって、前記レーザ発振波長を制御する第4のコア層(周波数変調層86)から構成されている。
更に、本実施の形態に係る半導体レーザ装置118は、上記光共振器94が、両端に配置された分布ブラック反射鏡124,124´からなる一対の反射鏡を有している。そして、上記分布ブラック反射鏡の回折格子60,60´に沿って設けられ、注入される電流量が調整されることによって、上記分布ブラック反射鏡124,124´の反射ピークの波長を制御する反射波長制御層120,120´からなるコア層を具備した第3の光導波路(反射波長制御導波路126,126´)が、上記主光導波路90に光学的に接続されている。
また、本実施の形態の半導体レーザ装置118は、上記第4のコア層(周波数変調層86)からなる第4の光導波路(周波数変調導波路88)を埋め込む半絶縁性半導体層116と、上記第4のコア層(周波数変調層86)に電界を印加するための第1の電極(周波数変調電極76)を、隣接する光導波路に形成された第2の電極(利得制御電極72、反射波長制御電極120´)から電気的に分離する電極分離領域(例えば、分離溝92)を具備している。
従って、周波数変調電極76が他の電極から電気的に分離されるので、周波数変調電極76に逆バイアス電圧を印加することが容易になる。
(2)動 作
次に、半導体レーザ装置118の動作について説明する。
半導体レーザ装置118を動作させるためには、まず、利得制御電極72に接続された励起電源(図示せず)を駆動して、利得制御電極72を介して利得制御層(活性層)78に、閾値以上の電流(以下、励起電流と呼ぶ)を注入する。同時に、周波数変調電極76に接続された周波数変調電源(図示せず)を駆動して、周波数変調電極76を介して、周波数変調層86に所定の逆バイアス電圧を印加する。
すると、利得制御層(活性層)78には利得が発生し、半導体レーザ装置118は、分布ブラッグ反射鏡124,124´の反射率のピーク(すなわち、ブラッグ波長)又はその近傍の波長であって、且つ一対の分布ブラッグ反射鏡124,124´によって構成される光共振器内を往復した時の位相変化(以下、単に位相変化と呼ぶ)が2πn(nは整数)になるような波長でレーザ発振(単一モードレーザ発振)する。
次に、例えば、図4のように、半導体レーザ装置118のレーザ発振波長100を変化させて、DWDMの一の波長102(グリッド)に一致させる。尚、図4は、実施の形態1における半導体レーザ装置56の動作を説明するために用いた図であるが、本実施の形態の説明にもそのまま用いることができる。
すなわち、図4は、DWDMにおけるグリッド104と、本実施の形態における半導体レーザ装置118のレーザ発振波長100の関係を説明する図である。横軸は波長であり、縦軸はレーザ光の強度である。図4には、DWDMのグリッド104が破線で示されている。一方、半導体レーザ装置118のレーザ発振波長100は実線で示されている。ここで、Cバンドにおけるグリッド104の間隔106は、例えば、0.40nm(50GHz)である。
レーザ発振波長を変化させるためには、波長制御電極74に接続された波長制御電源(図示せず)を駆動して、波長制御電極74を介して波長制御層82に電流を注入する。電流が注入されると、波長制御層82には自由キャリアが蓄積し、プラズマ効果によってその屈折率が低下する。従って、波長制御光導波路84の等価屈折率が低下する。その結果、光共振器94の光学長が変化する。このため、レーザ光が光共振器94の内部を一往復した際の位相変化が2πn(nは整数)となる波長が変化し、半導体レーザ装置118のレーザ発振波長が変化する。
波長制御層82の屈折率変化は蓄積された自由キャリアの濃度に比例するので、半導体レーザ装置118のレーザ発振波長のシフト量は、波長制御層82に注入する電流量を調整することによって制御することができる。この時の波長変化は、連続的である。
但し、分布ブラッグ反射鏡126,126´の反射率ピークからのレーザ発振波長のズレが大きくなると、位相変化が2π(n+1)又は2π(n−1)を満たす波長の方が、位相変化が2πnを満たす波長より、分布ブラッグ反射鏡124,124´における反射損失が小さくなる。従って、位相変化が2πnとなる波長から、位相変化が2π(n+1)又は2π(n−1)となる波長に、レーザ発振波長が突然変化する所謂モードホップが起こる。
そこで、本実施の形態における半導体レーザ装置118では、反射波長制御電極120,120´に接続された反射波長制御電源(図示せず)を駆動し、反射波長制御電極120,120´を介して、反射波長制御層122,122´に適宜電流を注入して、このようなモードホップを防止する。この電流注入によって、分布ブラッグ反射鏡124,124´のブラッグ波長が、位相変化が2πnを満たす波長の近傍に移動するので、2πnを満たす波長でレーザ発振が継続される。
このような状態になった後、半導体レーザ装置118の出力光を光周波数変調する。光周波数変調ためには、周波数変調導波路88に印加している、上記所定の逆バイアス電圧に、変調信号を重畳する。すると、周波数変調層86には、上記所定の逆バイアス電圧に基づく電界E0に、上記変調信号に基づく電界ΔEが重畳された電界E0+ΔEが印加される。
その結果、周波数変調層86の屈折率が変調され、光共振器94の光学長が変調される。このため、位相変化が2πnとなる波長すなわち光周波数が変調される。
周波数変調層86に印加される電界とその屈折率変化の関係は、実施の形態1における半導体レーザ装置56の周波数変調層における電界と屈折率変化の関係と同じである。すなわち、図5に図示された、周波数変調層における印加電界とその屈折率変化の関係は、本実施の形態にも共通する。
図5の横軸は、周波数変調層86に印加される電界の強度である。一方、図5の縦軸は、電界がゼロの場合を基準とした、周波数変調層86の屈折率の変化である。
電界の印加による屈折率変化(電界効果)は、図5に示すように、電界強度に対して略2次関数(すなわち、放物線的変化)になる。図5のように、予め印加していた電界E0に、微小電界ΔEを重畳することによって、屈折率を変調する(図5参照)。
この屈折率変化によって、所定のグリッドに一致しているレーザ発振波長102は、僅かにシフトする。そのシフト量108は、グリッド間隔104より十分小さく、高々0.08nm(10GHz)程度である(図4参照)。尚、微小電界ΔEの符号を変化させると、レーザ発振波長102は、逆方向にシフトする。
電界効果による屈折率変化の応答速度は、極めて速い。従って、周波数変調層86の屈折率変化は、周波数変調層86に印加される変調信号の周波数帯域によって律速される。浮遊容量等を考慮しても、変調信号の帯域は、優に数GHzを超える。従って、本実施の形態に係わる半導体レーザ装置118では、数GHzを超える高速周波数変調が可能である。
本実施の形態の半導体レーザ装置118では、図20に示した多電極DBRレーザ37とは異なり、屈折率変化の大きなプラズマ効果を利用して波長制御を行うので、波長制御導波路74は短くてもよい。
一方、光周波数変調には、高速ではあるが屈折率変化が小さい電界効果を利用する。しかし、光周波数変調に必要な波長変化は極僅かなので、周波数変調導波路76の長さも短くてよい。
従って、本実施の形態の半導体レーザ装置118は、電圧制御によって光周波数変調を行うにも拘わらず、光共振器94が長尺化することはない。このため、本実施の形態の半導体レーザ装置118では、共振器モード間隔が過度に狭くなることがないので、モードホップが起こりにくい。
故に、本実施の形態に係わる半導体レーザ装置118によれば、反射波長制御層122,1122´に注入する電流を適宜調整することにより、モードホップを伴わずに、広い波長範囲に亘ってレーザ発振波長を変化させることができる。
すなわち、本実施の形態によれば、高速変調が可能で且つモードホップを起こしにくい、光周波数変調用の波長可変半導体レーザを提供することができる。
また、本実施の形態の半導体レーザ装置118では、レーザ発振波長の変化は、波長制御導波路84に注入する電流量によって制御する。従って、レーザ発振波長を変化させるために、周波数変調層86に印加する電界のバイアス点(E0)を変更する必要がない。従って、本実施の形態の半導体レーザ装置118によれば、図20に示す多電極DBRレーザに比べ、光周波数変調の制御が容易になる。
図20に示す多電極DBRレーザ37では、レーザ発振波長を変更するためには、バイアス点(E0)を変更しなければならないので、電界変化に対する屈折率変化の割合(図5に示す放物線の傾き)も変化してしまう。このため、図20に示す多電極DBRレーザで光周波数変調を行おうとすると、バイアス点(E0)に応じて変調電界の大きさ(ΔE)を適宜調整しなければならなくなるので、制御が複雑になる。
以上の動作では、波長制御導波路82による波長可変機能は、グリッドからずれている、レーザ発振波長を、グリッド104に一致させるためだけに用いられている(図4参照)。しかし、波長制御導波路82による波長可変機能は、チャネルスイッチ等種々の動作に利用可能である。
(3)製造方法
以下、図14乃至図17を参照して、半導体レーザ装置118の製造方法を説明する。
まず、通常のDBRレーザ素子を製造する場合と同様に、n型のInP基板58の上に、半導体レーザ装置118の形成予定領域の両端においてその内部に回折格子60,60´が形成されたn型のInPからなる下部クラッド層62を形成する。
次に、下部クラッド層62の上に、量子井戸幅6nm、障壁層幅10nmのGaInAsP多重量子井戸層(以下、第1のMQW層と呼ぶ;バンドギャップ波長1.55μm)を成長する。この第1のMQW層106は、素子完成後は、利得制御層78となる(図14(a)参照)。
次に、以上のようして形成した半導体積層構造(図14(a))の上に、例えば、SiO2膜を形成する。
次に、利得制御層78(活性層)の形成が予定されている領域(及び、レーザ光の伝播が予定されている方向と垂直な方向に、この領域を伸展した領域)を残し、上記SiO2膜をエッチングして、利得制御層78の形成予定領域を覆うエッチングマスクを形成する。
このエッチングマスクを用いて、利得制御層78の形成が予定されている領域を除き、上記第1のMQW層106をウェットエッチングによって除去する(図14(b)参照)。
次に、第1のMQW層106を除去した領域に、上記SiO2膜を選択成長マスクとして、バンドギャップ波長1.45μmのGaInAsP層108を成長する(図14(c)参照)。このGaInAsP層108は、装置完成後は、波長制御層82及び反射波長制御層122,122´となる。
次に、以上のようして形成した半導体積層構造(図14(c))の上に、例えば、SiO2膜を形成する。
次に、周波数変調層86の形成が予定されている領域110(及び、レーザ光の伝播が予定されている方向と垂直な方向に、この領域を伸展した領域)が、開口するように上記SiO2膜をエッチングして、エッチングマスクを形成する。
このエッチングマスクを用いて、周波数変調層86の形成予定領域110に成長した上記GaInAsP層108をウェットエッチングによって除去する(図15(a)参照)。
次に、GaInAsP層108を除去した領域に、上記SiO2膜を選択成長マスクとして、量子井戸幅10nm、障壁層幅10nmのGaInAsP多重量子井戸112(以下、第2のMQWと呼ぶ;バンドギャップ波長1.45μm)を選択成長する(図15(b)参照)。この第2のMQWは、素子完成後は、周波数変調層86となる。
次に、p型のInP層からなる上部クラッド層68及びp型のGaInAsP層からなるコンタクト層70を成長する(図15(c)参照)。
図17は、以上のようにして形成した半導体積層構造(図15(c)参照)を、レーザ光の伝播予定方向から見た断面図である。尚、図14乃至図16は、レーザ光の伝播予定方向に沿った、製造途中の半導体レーザ装置118の断面図である。
図17に示すように、ここまでの工程により、InP基板58の上に、下部クラッド層62と、第1のMQW106(利得制御層)と、GaInAsP層108(波長制御層及び反射波長制御層)と、第2のMQW112(周波数変調層)と、上部クラッド層68と、コンタクト層70が積層されている。
図18は、レーザ光の伝播予定方向から見た、横方向埋め込み構造形成中の半導体レーザ装置118の断面図である。
横方向埋め込み構造は、以下のようにして形成される。
まず、図17に示す半導体積層構造に上に、SiO2膜からなりレーザ光の伝播予定に伸展するストライプ状のエッチングマスクを形成する。このエッチングマスク114を用いて、上記半導体積層構造(図17参照)を、InP半導体基板58までドライエッチングによって除去して、メサ構造を形成する(図18(a)参照)。
次に、このメサ形状を、Feをドーピングした半絶縁性InP層116で埋め込む(図18(b)参照)。
以上の工程により、横方向埋め込み構造が完成する。
次に、横方向埋め込み構造が形成された図18(b)の半導体積層構造の上に、SiO2からなり、分離溝92の形成予定領域が開口したエッチングマスクを形成する。このエッチングマスクを用いて、コンタクト層70及び上部クラッド層68を、第1のMQW等からなる光導波層(コア層)66の近傍までドライエッチングして、分離溝92を形成する(図16(a)参照)。
その後、接地電極96、利得制御電極72、波長制御電極74、周波数変調電極76、及び反射波長制御電極120, 120´を、パターニング、金属蒸着、及びメッキ等の工程により形成する(図16(b)参照)。
最後に、へき開によって半導体レーザ装置118となるチップを切り出し、両端面に無反射コーティングを施すと、半導体レーザ装置118が完成する。
本実施の形態では半導体基板をInPとしているが、GaAsなど他の半導体基板を用いて半導体レーザ装置を形成しても、本実施の形態と同様の効果が得られる。
また、本実施の形態ではバルク半導体によって波長制御層及び反射波長制御層を形成しているが、波長制御層を量子井戸で形成してもよい。
また、本実施の形態では、周波数変調導波路を量子井戸構造で形成しているが、バルク半導体で形成してもよい。このようにすると、光損失は減り、レーザとしての特性(閾値等)は向上する。但し、この場合、屈折率変化量が小さくなるため、周波数変調効率は低下する。
また、本実施の形態においては、電極分離構造としては分離溝を採用しているが、他の分離構造、例えば、電極間隔を広げ、或いは、電極間へのイオン打ち込みによって高抵抗層を形成してもよい。このようにすると、電極分離構造の形成が容易になる。
但し、電極間隔を広げることは、共振器内の無効領域の割合を大きくすることになり、種々のレーザ特性を犠牲にすることになる。また、イオン打ち込みによる高抵抗層形成には、信頼性に難点がある。