JP5183960B2 - 等速自在継手用ブーツ - Google Patents

Description

本発明は、等速自在継手に装着されるブーツに関するものである。

自動車や各種産業機械における動力の伝達に用いられる等速自在継手には、継手内部への塵埃等の異物進入防止や継手内部に封入されたグリースの漏れ防止を目的とし、蛇腹状のブーツが装着される。

図４に、特許文献１に示されている等速自在継手に用いられているブーツ１０１を示す。このブーツ１０１は、等速自在継手の内側継手部材から延びた軸部材に装着される小径部１１０と、等速自在継手の外側継手部材の開口端部に装着される大径部１２０と、大径部と小径部との間に設けられた蛇腹部１３０とを備える。

特開平６−２８０８８８号公報

上記のような等速自在継手に用いられるブーツ１０１は、等速自在継手が作動角を取ったとき、あるいは摺動したときに、その動きに追従して変形する。このような変形が繰り返されることにより、ブーツに疲労亀裂が生じる恐れがある。また、等速自在継手に用いられるブーツは、等速自在継手の発熱や周辺部品の発熱による輻射熱の影響を受けるため、劣化が進みやすい環境にある。さらに、等速自在継手の内部に封入されたグリース等の潤滑剤と接触することにより、前記の輻射熱の影響と重なって、ブーツの劣化が進められることとなる。このようなブーツの劣化により疲労亀裂の発生が促進され、特に小径部１１０と蛇腹部１３０との境界部Ｐで疲労亀裂が生じることが多い。

そこで、本発明は、等速自在継手用ブーツの疲労強度、特に小径部と蛇腹部との境界部における疲労強度を向上させることを目的とする。

上記の目的を達成するために、本発明は、等速自在継手の外側継手部材の開口端部に装着される大径部と、等速自在継手の内側継手部材から延びた軸部材に装着される小径部と、大径部と小径部との間に設けられ、少なくとも一つの山部及び谷部を有する蛇腹部とを備えた等速自在継手用ブーツにおいて、蛇腹部の小径部側端部に、小径部と滑らかに連続し、且つ、外面がブーツの外部に曲率中心を有する円弧状に形成された接続部を設け、この接続部の外面の曲率半径が、蛇腹部の山部の外面の曲率半径よりも大きく設定され、且つ、接続部の任意の点における肉厚を接続部の大径部側端部における肉厚以上とし、蛇腹部に、隣り合う山部と谷部とを連結する斜辺部を設けると共に、最も小径部側の山部と接続部との間に直線状の立ち上がり部を設け、立ち上がり部の肉厚をｔ ₀ 、蛇腹部の最も小径部側の山部の肉厚をｔ ₁ 、その山部と隣り合う谷部とを連結する斜辺部の肉厚をｔ ₂ としたとき、１．０１ｔ ₁ ≦ｔ ₀ ≦１．２ｔ ₁ 、 １．０１ｔ ₂ ≦ｔ ₀ ≦１．２ｔ ₂ を同時に満たし、接続部の内面に、ブーツの内部に曲率中心を持つ円弧面を形成したことを特徴とする。

このように、本発明の等速自在継手用ブーツでは、蛇腹部の小径部側端部に設けた接続部の外面を、蛇腹部の山部の外面の曲率半径よりも大きい曲率半径を有する円弧状とする。これにより、接続部における応力集中が緩和され、接続部における疲労強度を高めることができる。また、接続部の任意の点における肉厚を、接続部の大径部側端部における肉厚以上とすることで、接続部の疲労強度をさらに高めることができる。

このような蛇腹部に、隣り合う山部と谷部とを連結する斜辺部を設けると共に、最も小径部側の山部と接続部との間に立ち上がり部を設けた場合、立ち上がり部は等速自在継手の折曲、摺動時に変形しやすいため、特に疲労強度を高めることが必要となるため、立ち上がり部の肉厚は他の部分よりも大きくすることが好ましい。具体的には、立ち上がり部の肉厚をｔ₀、蛇腹部の最も小径部側の山部の肉厚をｔ₁、その山部から大径部側へ延びた斜辺部の肉厚をｔ₂とするとき、１．０１ｔ₁≦ｔ₀、及び、１．０１ｔ₂≦ｔ₀を同時に満たすことが好ましい。一方、立ち上がり部の肉厚を大きくしすぎると、立ち上がり部の剛性が高くなりすぎ、蛇腹部の他の部位や小径部へ応力が集中して耐久性のバランスが崩れる恐れがある。従って、立ち上がり部の肉厚ｔ₀は、ｔ₀≦１．２ｔ₁、及び、ｔ₀≦１．２ｔ₂を同時に満たすことが好ましい。以上により、ブーツの変形による応力をバランスよく分散させることができるため、ブーツ全体の耐久性が高められる。

接続部の内面に、ブーツの内部に曲率中心を持つ円弧面を形成すると、接続部における応力集中がさらに分散され、ブーツの耐久性をより一層高めることができる。この接続部内面に形成した円弧面の曲率半径を、接続部の外面の曲率半径以上とすると、前記の効果を確実に得ることができる。

また、小径部のうち、軸部材に固定される固定部と接続部との間に筒状部を形成すると、この筒状部がブーツの変形を吸収する役割を果たし、ブーツの耐久性を高めることができる。この場合、筒状部の肉厚が薄すぎるとブーツの変形を吸収することができないため、筒状部の平均肉厚をその軸方向寸法よりも大きく設定し、筒状部にある程度の剛性を付与することが好ましい。

以上のように、本発明によると、等速自在継手用ブーツの疲労強度、特に小径部と蛇腹部との境界部における疲労強度を向上させることができる。

以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。

図１に、本発明に係るブーツ１を有する等速自在継手１００を示す。この等速自在継手１００は、いわゆるツェッパ型の固定式等速自在継手であり、外側継手部材２と、内側継手部材３と、外側継手部材２の内周に形成されたトラック溝２ａと内側継手部材３の外周に形成されたトラック溝３ａとの間に保持された複数のボール４と、ボール４を保持する保持器５と、内側継手部材３に連結され、外側継手部材の開口部から突出した軸部材６とを備える。

ブーツ１は、小径部１０と、大径部２０と、その間に設けられた蛇腹部３０とを備える。小径部１０は、外周にバンド溝１２を有すると共に、内周に環状の凸部１４を有する。大径部２０は、外周にバンド溝２２を有すると共に、内周に環状の凸部２４を有する。小径部１０の環状の凸部１４を軸部材６の外周に設けた環状溝６ａに嵌合させた状態で、小径部１０のバンド溝１２にバンド７を取付けて前記嵌合部を外周から締め付けることにより、小径部１０が軸部材６に固定される。また、大径部２０の環状の凸部２４を外側継手部材２の外周に設けた環状溝２ｂに嵌合させた状態で、大径部２０のバンド溝２２にバンド８を取付けて前記嵌合部を外周から締め付けることにより、大径部２０が外側継手部材２の外周に固定される。

ブーツ１は、等速自在継手１００が作動角を取りながら回転した場合、その挙動に追従することのできる柔軟性を有する必要がある。このため、ブーツ１は、熱可塑性エラストマー等の樹脂材料、あるいはクロロプレンゴム、シリコーンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、ウレタンゴム、アクリルエチレンゴム等のゴム材料で形成される。なお、これら以外の材料であっても、本特許請求の範囲に記載の意味および内容を満たすことで、所要の効果を得ることができる。

ブーツ１の詳細を図２に示す。蛇腹部３０は、少なくとも一つの山部及び谷部を有し、本実施形態では、３つの山部と３つの谷部とを軸方向で交互に有する。図２では、最も小径部１０側の山部を第１の山部３１ａとし、この第１の山部３１ａから大径部２０側へ向けて順に、第１の谷部３２ａ、第２の山部３１ｂ、第２の谷部３２ｂ、第３の山部３１ｃ、及び第３の谷部３２ｃとする。これらの山部３１ａ〜３１ｃ及び谷部３２ａ〜３２ｃのうち、隣り合う山部と谷部との間には、それぞれ斜辺部３３が設けられる。蛇腹部３０の小径部１０側端部には、小径部１０と滑らかに連続する接続部３５が設けられ、この接続部３５と第１の山部３１ａとの間には、直線状の立ち上がり部３４が設けられる。

図３に、ブーツ１の小径部１０側端部周辺の拡大図を示す。接続部３５の外面３５ａは、ブーツ１の外部側に曲率中心を有する円弧状に形成され、その曲率半径Ｒａは、各山部３１ａ〜３１ｃの外面の曲率半径Ｒ１、Ｒ２、及びＲ３（図３にはＲ１のみ示す）の何れよりも大きくなるように設定される（Ｒａ＞Ｒ１、Ｒａ＞Ｒ２、Ｒａ＞Ｒ３）。接続部３５の内面には、ブーツ１の内部側に曲率中心を有する円弧面が形成され、この円弧面の曲率半径Ｒｂは、接続部３５の外面３５ａの曲率半径Ｒａ以上となるように設定される（Ｒｂ≧Ｒａ）。これにより、接続部３５における応力集中が緩和され、この部分の疲労強度を高めることができる。また、接続部３５のうち、立ち上がり部３４側部分は肉厚一定に形成され、内面に円弧面３５ｂを有する部分は、小径部１０側へ向けて肉厚を徐々に増して形成される。すなわち、接続部３５の任意の点における肉厚が、接続部３５の大径部２０側端部における肉厚以上に設定される。これにより、接続部３５における疲労強度をさらに高めることができる。

立ち上がり部３４は、その肉厚ｔ₀が、第１の山部３１ａの肉厚ｔ₁、及び、第１の山部３１ａから大径部２０側へ延びた斜辺部３３の肉厚ｔ₂との間に、１．０１ｔ₁≦ｔ₀≦１．２ｔ₁、１．０１ｔ₂≦ｔ₀≦１．２ｔ₂の関係を同時に満たすように形成される。これにより、ブーツ１の変形による応力をバランスよく分散させることができ、ブーツ１全体の耐久性が高められる。

小径部１０のうち軸部材６に固定される固定部１６と、蛇腹部３０の接続部３５との間には、筒状部１８が設けられる。筒状部１８の軸方向寸法ｔ_aは、０ｍｍより大きく、好ましくは１ｍｍ以上に設定され、且つ、５ｍｍ以下、好ましくは４ｍｍ以下に設定される。また、筒状部１８の肉厚ｔ_bは、筒状部１８の軸方向寸法ｔ_aよりも大きく設定される（ｔ_b＞ｔ_a）。これにより、筒状部１８にある程度の剛性が付与され、ブーツ１の変形を吸収する役割を果たすことができる。

本発明は、以上の実施形態に限られない。例えば、以上の実施形態では、本発明に係るブーツがツェッパ型の等速自在継手に用いられる場合を示しているが、これに限らず、例えば、アンダーカットフリー型等の固定式等速自在継手や、ダブルオフセット型、トリポード型、あるいはクロスグルーブ型等の摺動式等速自在継手に使用することができる。また、ブーツの小径部または大径部の内周に設けた環状の凸部および軸部材の外周に設けた環状溝や外側継手部材の外周に設けた環状溝の形状は、あくまで例示であり、特許請求の範囲に記載の意味および内容の範囲内において、任意の変更が可能である。

本発明の有効性を確認するために、以下のような疲労試験を行った。まず、ブーツの形状が異なる３種類の等速自在継手を用意した。具体的には、図１に示す等速自在継手１００において、ブーツ１（図３参照）の立ち上がり部の肉厚ｔ₀、第１の山部３１ａの肉厚ｔ₁、及び第１の山部３１ａから大径部２０側へ延びた斜辺部３３の肉厚ｔ₂とが、以下の関係である３種類のものを用意した。
（実施品）１．０１ｔ₁≦ｔ₀≦１．２ｔ₁、且つ、１．０１ｔ₂≦ｔ₀≦１．２ｔ₂
（比較品１）ｔ₀＞１．２ｔ₁、且つ、ｔ₀＞１．２ｔ₂
（比較品２）１．０１ｔ₁＞ｔ₀、且つ、１．０１ｔ₂＞ｔ₀

これらの等速自在継手を用いて、継手の作動角２０°、回転数６００ｍｉｎ^−１、試験温度２５℃の条件で疲労試験を行い、所要運転時間後の亀裂発生状況を確認した。その結果、比較品１のブーツには小径部バンド溝に亀裂が発生し、比較品２のブーツには小径立ち上がり部に亀裂が発生したが、本発明の実施品のブーツには亀裂は生じなかった。以上より、立ち上がり部の肉厚ｔ₀を本発明で規定する範囲内とすることにより亀裂の発生が抑えられ、ブーツの疲労強度を向上させることができることが確認できた。

等速自在継手の断面図である。 ブーツの断面図である。 ブーツの部分拡大断面図である。 従来のブーツの断面図である。

符号の説明

１ ブーツ
２ 外側継手部材
３ 内側継手部材
４ ボール
５ 保持器
６ 軸部材
１０ 小径部
１６ 固定部
１８ 筒状部
２０ 大径部
３０ 蛇腹部
３１ａ 第１の山部
３１ｂ 第２の山部
３１ｃ 第３の山部
３２ａ 第１の谷部
３２ｂ 第２の谷部
３２ｃ 第３の谷部
３３ 斜辺部
３４ 立ち上がり部
３５ 接続部
３５ａ 外面
３５ｂ 円弧面

Claims (3)

1. 等速自在継手の外側継手部材の開口端部に装着される大径部と、等速自在継手の内側継手部材から延びた軸部材に装着される小径部と、大径部と小径部との間に設けられ、少なくとも一つの山部及び谷部を有する蛇腹部とを備えた等速自在継手用ブーツにおいて、
   蛇腹部の小径部側端部に、小径部と滑らかに連続し、且つ、外面がブーツの外部に曲率中心を有する円弧状に形成された接続部を設け、この接続部の外面の曲率半径が、蛇腹部の山部の外面の曲率半径よりも大きく設定され、且つ、接続部の任意の点における肉厚を接続部の大径部側端部における肉厚以上とし、
   蛇腹部に、隣り合う山部と谷部とを連結する斜辺部を設けると共に、最も小径部側の山部と接続部との間に直線状の立ち上がり部を設け、立ち上がり部の肉厚をｔ ₀ 、蛇腹部の最も小径部側の山部の肉厚をｔ ₁ 、その山部と隣り合う谷部とを連結する斜辺部の肉厚をｔ ₂ としたとき、
   １．０１ｔ ₁ ≦ｔ ₀ ≦１．２ｔ ₁
   １．０１ｔ ₂ ≦ｔ ₀ ≦１．２ｔ ₂
   を同時に満たし、
   接続部の内面に、ブーツの内部に曲率中心を持つ円弧面を形成したことを特徴とする等速自在継手用ブーツ。
2. 接続部の内面に形成した円弧面の曲率半径を、接続部の外面の曲率半径以上としたことを特徴とする請求項１記載の等速自在継手用ブーツ。
3. 小径部のうち、軸部材に固定される固定部の蛇腹部側に筒状部を設け、この筒状部の平均肉厚をその軸方向寸法よりも大きくしたことを特徴とする請求項１又は２記載の等速自在継手用ブーツ。

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