1、キャリアの製造方法
本発明の第1の実施形態であるキャリアの製造方法では、キャリア芯材の表面に樹脂被覆層が形成されたキャリアを製造する。本実施形態のキャリアの製造方法は、樹脂粒子付着工程S1と樹脂被覆層形成工程S2とを含む。
(1)樹脂粒子付着工程S1
樹脂粒子付着工程S1では、キャリア芯材の表面に樹脂粒子を機械的に付着させて樹脂粒子付着キャリアを得る。
図1は、樹脂粒子付着工程S1を経て得られる樹脂粒子付着キャリア100の構造を模式的に示す断面図である。樹脂粒子付着キャリア100は、キャリア芯材101と樹脂粒子102とを含む。樹脂粒子102はキャリア芯材101の表面に付着している。樹脂粒子付着キャリア100には、樹脂粒子102同士の間に粒界103が存在する。
樹脂粒子付着キャリア100は、キャリア芯材101と樹脂粒子102とを混合することによって得られる。混合する装置としては、図2に示す撹拌混合装置120を用いることができる。図2は、キャリア芯材101と樹脂粒子102とを撹拌する撹拌混合装置120の構成を模式的に示す正面図である。撹拌混合装置120は、撹拌槽122と、高速側ローター121と、低速側ローター123と、ノズル124と、排出バルブ125とを含む。
撹拌混合装置120では、まずキャリア芯材と樹脂粒子とを撹拌槽122に投入し、高速側ローター121を矢符126の方向に回転駆動させ、低速側ローター123を矢符127の方向に回転駆動させて、投入した材料同士の凝集を解砕するとともに、両材料を均一に混合する。
この時の高速側ローター121の回転数は、1000rpm以上2500rpm以下の範囲が好ましく、低速側ローター123の回転数は、5rpm以上15rpm以下の範囲が好ましい。また、キャリア芯材に対する樹脂粒子の投入の割合は、キャリア芯材100重量部に対して1重量部以上3重量部以下が好ましい。
次に、高速側ローター121の回転数および低速側ローター123の回転数を大きくして、撹拌槽122内部のキャリア芯材および樹脂粒子を撹拌する。この撹拌によって、キャリア芯材表面に樹脂粒子が付着し、キャリア芯材と、樹脂粒子と、樹脂粒子が付着したキャリア芯材とが接触および衝突を繰り返すことによって、樹脂粒子の温度が上昇し始める。この温度上昇によってキャリア芯材表面の樹脂材料が溶融され、表面に樹脂粒子が融着したキャリア芯材が得られる。
この時の高速側ローター121の回転数は、3500rpm以上6200rpm以下の範囲が好ましく、低速側ローター123の回転数は、25rpm以上30rpm以下の範囲が好ましい。
撹拌槽122内部の温度をモニタリングし、撹拌槽122内部の温度が一定温度に達してから前記ローターを一定時間回転させることによって、キャリア芯材表面で隣り合う樹脂粒子同士を融着させ、キャリア芯材表面に樹脂粒子を固定化する。これによって、樹脂粒子付着キャリアが得られる。
ここで、撹拌槽122内部の温度は、60℃以上90℃以下が好ましく、一定温度に達してから前記ローターを回転させる時間は、15分間以上30分間以下が好ましい。
上記のような撹拌・混合装置の具体例としては、スパルタンリューザー(株式会社ダルトン社製)、およびバーチカルグラニュレーター(株式会社パウレック社製)などが挙げられる。
以下、樹脂粒子付着キャリアの原料であるキャリア芯材および樹脂粒子について記載する。
(キャリア芯材)
キャリア芯材としては、この分野で常用されるものが使用でき、たとえば、鉄、銅、ニッケルおよびコバルトなどの磁性金属、ならびにフェライトおよびマグネタイトなどの磁性金属酸化物などが挙げられる。キャリア芯材(以下単に「芯材」とも記載する)が上記のような磁性体であると、磁気ブラシ現像法に用いる現像剤に好適なキャリアが得られる。これらの中でも、帯電性能および耐久性に優れるとともに、適した飽和磁化を有する樹脂被覆キャリアを実現することができるという観点から、フェライトが好適に用いられる。
適度な大きさのキャリアを得るため、キャリア芯材の体積平均粒子径は、30μm以上55μm以下が好ましい。
キャリア芯材の体積抵抗値は、1.0×107Ω/cm以上1.0×109Ω/cm以下が好ましい。芯材の体積抵抗率が低いと、現像スリーブにバイアス電圧を印加した場合にキャリアに電荷が注入され、感光体にキャリア粒子が付着し易くなる。またバイアス電圧のブレークダウンが起こり易くなる。キャリア芯材の体積抵抗値は、図3に示すような測定冶具9によって測定される。図3は、測定治具9の構成を模式的に示す概略図である。測定冶具9は、磁石6、アルミニウム製の電極7、基盤(アクリル樹脂板)8から構成される。電極7の間隔は1mmであり、大きさ10mm×40mmの平行平板電極を形成する。この電極間にキャリア芯材を200mg挿入し、次いで磁石6(表面磁束密度1500ガウス、対向する部分の磁石面積10mm×30mm)をN極とS極とが対向するように配置してキャリア芯材を電極間に保持する。この電極7に直流電圧1Vステップで800Vまで印加したときの電流値を計測してブリッジ抵抗値を算出し、その値をキャリア芯材の体積抵抗値とする。
(樹脂粒子)
樹脂粒子に含まれる樹脂としては、この分野で常用されるものを使用でき、たとえば、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、スチレン−アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリエステル、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、酢酸ビニル樹脂、セルロース樹脂、ポリオレフィンなどが挙げられる。これらの中でも、芯材と樹脂被覆層との密着性を向上させるための熱処理が容易であること、個々のキャリアのトナーへの帯電付与性にばらつきが少なくなること、耐摩耗性、耐熱性、機械的強度などが良好であることなどを考慮すると、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステルなどが好ましい。
シリコーン樹脂の具体例として、たとえば、シリコーンワニス(商品名:TSR115、TSR114、TSR102、TSR103、YR3061、TSR110、TSR116、TSR117、TSR108、TSR109、TSR180、TSR181、TSR187、TSR144、TSR165、信越化学株式会社製、KR271、KR272、KR275、KR280、KR282、KR267、KR269、KR211、KR212など、株式会社東芝製)、アルキッド変性シリコーンワニス(商品名:TSR184、TSR185など、株式会社東芝製)、エポキシ変性シリコーンワニス(商品名:TSR194、YS54など、株式会社東芝製)、ポリエステル変性シリコーンワニス(商品名:TSR187など、株式会社東芝製)、アクリル変性シリコーンワニス(商品名:TSR170、TSR171など、株式会社東芝製)、ウレタン変性シリコーンワニス(商品名:TSR175など、株式会社東芝製)、反応性シリコーン樹脂(商品名:KA1008、KBE1003、KBC1003、KBM303、KBM403、KBM503、KBM602、KBM603など、信越化学株式会社製)などが挙げられる。これらの合成樹脂は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。合成樹脂の使用量は特に制限されないけれども、好ましくは、樹脂被覆層の膜厚が0.1〜5μm程度になるように使用するのがよい。
樹脂被覆層の膜厚が0.1〜5μm程度になるようにするため、樹脂粒子の体積平均粒径は、0.2μm以上1μm以下が好ましい。また樹脂粒子に含まれる樹脂は、ガラス転移温度が70℃以上95℃以下が好ましく、軟化点が105℃以上200℃以下が好ましい。これらの温度が高すぎると、後述の樹脂被覆層形成工程S2において樹脂被覆層が充分に溶解しない。低すぎると、樹脂被覆層形成工程S2において樹脂被覆層が溶解しすぎて、凝集体が発生する恐れがある。
(2)樹脂被覆層形成工程S2
樹脂被覆層形成工程S2では、樹脂粒子付着キャリアを過熱水蒸気雰囲気中で加熱処理してキャリア芯材表面に樹脂被覆層を形成する。過熱水蒸気とは、飽和温度以上に熱せられた水蒸気のことであり、空気より比熱が大きく、熱量が大きい。
図4は、樹脂被覆層形成工程S2を経て得られるキャリア110の構造を模式的に示す断面図である。キャリア110は、キャリア芯材101と、キャリア芯材101表面の樹脂被覆層104とを含む。キャリア110は、表面が滑らかで、図1に示す樹脂粒子付着キャリア100のように粒界103が存在しない。
このように粒界103が存在せず表面が滑らかなキャリア110とは異なり、加熱法で得られたキャリアのように粒界が存在するキャリアを現像に用いると以下のような問題がある。図5は、加熱法で得られたキャリア100aを現像に用いたときの状態を模式的に示す断面図である。樹脂粒子をキャリア芯材に機械的に付着させ、加熱法で樹脂被覆層104aを形成する従来の方法では、摩擦熱で樹脂粒子102aの一部が融着するだけで、隣り合う樹脂粒子同士の間に粒界103が存在するので、図4に示すように現像での撹拌時に樹脂粒子102aの一部が遊離し、遊離粒子105となる。この遊離粒子105は凝集体を形成し、流動性低下の原因となる。また、キャリア芯材101aに樹脂粒子102aを付着させるために充分に撹拌させる必要があり、樹脂被覆層104aの形成過程での撹拌によって樹脂粒子102aにストレスがかかるので、樹脂被覆層104aの耐性が低下する。
本実施形態のように樹脂粒子付着キャリア100を過熱水蒸気雰囲気中で加熱処理することによって、キャリア芯材101に付着している樹脂粒子102が瞬時に溶解し、その溶解した樹脂粒子が表面張力でキャリア芯材101を被覆するので、粒界103ができない。そのため現像での撹拌による樹脂被覆層の剥がれを抑制できる。また、樹脂被覆層104が厚くても樹脂被覆層104の内部と外部とで樹脂の溶解の程度が偏ることがないので、樹脂被覆層104内部に応力歪が生じにくく、経時における樹脂被覆層104の剥がれを抑制できる。本発明では、キャリア芯材101が表面に凹凸の多い形状でも、粒界103ができにくい。さらに樹脂粒子は本工程でキャリア芯材から遊離しない程度に付着させておけばよく、加熱法に比べてキャリア芯材と樹脂粒子との撹拌が弱くて済むので、樹脂粒子に機械的なストレスを与えることなく樹脂被覆層を形成することができ、樹脂被覆層が割れにくく、剥離しにくい。
したがって、キャリア芯材101の形状および樹脂被覆層104の厚さに関係なく、粒界103および樹脂被覆層104内外での樹脂の溶解度の偏りがなく、樹脂被覆層104によるキャリア芯材101の被覆率が高くて、撹拌時の耐性に優れる厚さの均一な樹脂被覆層104が形成されたキャリア110を製造することができる。なお、樹脂被覆層を厚くするには、たとえば粒子径の大きい樹脂粒子を用いる。
本工程における樹脂被覆層の形成には、樹脂粒子付着工程S1で用いた図2に示す装置を用いることができる。
具体的には、樹脂粒子付着工程S1で得られた樹脂粒子付着キャリアが撹拌され、高速側ローターおよび低速側ローターが回転駆動している撹拌混合装置120に、ノズル124から過熱水蒸気を供給する。それによって樹脂粒子付着キャリアが存在する該撹拌混合装置120の撹拌槽122内部を過熱水蒸気で満たすことができる。過熱水蒸気は、水蒸気発生装置で発生させた水蒸気をさらに過熱水蒸気発生装置によって過熱して得られる。この時、バルブ125は開放状態にし、撹拌槽122内部の圧力が高くならないように過熱水蒸気を大気中に放出する。この状態を一定時間保持する。その保持時間としては、5分間以上15分間以下が好ましい。
この時の高速側ローターの回転数は、3500rpm以上6200rpm以下が好ましく、低速側ローターの回転数は、25rpm以上30rpm以下が好ましい。
本実施形態において、過熱水蒸気雰囲気中の温度は150℃以上300℃以下が好ましい。過熱水蒸気雰囲気中の温度が150℃未満であると、キャリア芯材表面の樹脂粒子を充分に溶融させることができず、粒界面ができ、樹脂被覆層内外での樹脂の溶解度が偏る場合がある。過熱水蒸気雰囲気中の温度が300℃を超えると、キャリア芯材に付着した樹脂粒子が溶融しすぎてしまい、キャリア凝集が発生する。また、樹脂粒子が劣化して樹脂被覆層の耐性が低下するおそれがある。過熱水蒸気雰囲気中の温度が150℃以上300℃以下であることによって、キャリア凝集がなく、粒界面および樹脂被覆層内外での樹脂の溶解度の偏りのない均一な樹脂被覆層が形成されたキャリアを得ることができる。
過熱水蒸気は、ノズル124から供給されるときの流速が30m/分以上60m/分以下が好ましく、単位時間当たりの供給量は撹拌槽122の容積を4Lとした場合に、2L/分以上10L/分以下が好ましい。
次に、該撹拌混合装置120に付随するローター駆動用モータの電流値が増加した時点で、過熱水蒸気の供給を停止すると同時に別系統から常温の乾燥空気を撹拌槽122内部に供給し、撹拌槽122内部の温度が常温になるまで、低速側ローター123を回転させる。これによって、図4に示すキャリア芯材101表面に樹脂被覆層104が形成されたキャリア110が得られる。
上記のようにキャリア芯材と樹脂粒子とを装置中で撹拌させ、キャリア芯材に樹脂粒子が付着した時点でその装置中に過熱水蒸気を導入する方法でもキャリア芯材表面に樹脂被覆層が形成されたキャリアが得られるが、本実施形態では、樹脂被覆層形成工程S2で、過熱水蒸気雰囲気中に樹脂粒子付着キャリアを投入することが好ましい。キャリア芯材と樹脂粒子とを装置中で撹拌させ、キャリア芯材に樹脂粒子が付着した時点でその装置中に過熱水蒸気を導入する方法ではキャリア芯材に付着しなかった樹脂粒子が凝集して凝集体が生成される。過熱水蒸気雰囲気中に樹脂粒子付着キャリアを投入することによって、凝集体の生成を抑制でき、流動性の良好なキャリアを得ることができる。
上記の場合、樹脂粒子付着キャリアは、搬送用エアによって過熱水蒸気中に噴射することが好ましい。また過熱水蒸気雰囲気は、水蒸気発生装置で発生した水蒸気をさらに過熱水蒸気発生装置によって過熱して得られる過熱水蒸気中に、樹脂粒子付着キャリアを搬送用エアで噴射することによって作られることが好ましい。
過熱水蒸気雰囲気中に樹脂粒子付着キャリアを投入して樹脂被覆層を形成には、たとえば特開2008−129522号公報に開示の図6に示す装置を用いることができる。図6は、過熱水蒸気雰囲気中に樹脂粒子付着キャリアを投入して樹脂被覆層を形成する樹脂被覆層形成装置107の構成を模式的に示す断面図である。樹脂被覆層形成装置107は、キャリアホッパ50と樹脂粒子付着キャリア噴射ノズル10と過熱水蒸気噴射ノズル11と水蒸気発生装置20と過熱水蒸気発生装置30と冷却室60とキャリア捕集装置70とを含む。
本装置107を用いた樹脂被覆層の形成では、まず、樹脂粒子付着工程S1で得られた樹脂粒子付着キャリア100をキャリアホッパ50に入れる。当該製造装置には樹脂粒子付着キャリア100を常時一定量で供給する図示しない機構が具備される。樹脂粒子付着キャリア100は、流速5〜15m/分の搬送用エア15でキャリア噴射ノズル10の噴射口に搬送される。
本装置では、キャリア噴射ノズル10の外周を取り囲むように、過熱水蒸気噴射ノズル11が配設される。該過熱水蒸気噴射ノズル11からは、水蒸気を発生するボイラーからなる水蒸気発生装置20と該水蒸気発生装置20から得られた水蒸気を100℃以上に加熱する過熱水蒸気発生装置30とによって発生した150〜300℃の過熱水蒸気35が流速5〜15m/分で加熱領域45に向けて噴射される。
キャリア噴射ノズル10から噴射された樹脂粒子付着キャリア100は、該過熱水蒸気噴射ノズル11から噴射された過熱水蒸気35の雰囲気中に放出される。そして過熱水蒸気雰囲気中で樹脂被覆層内部まで瞬時に加熱され、主樹脂成分が溶融し、樹脂材が有する表面張力によって滑らかな表面に成形される。表面が滑らかになった樹脂粒子付着キャリア110は、冷却用エアが旋回流として流れている冷却室60に到達し、旋回流に搬送されながら、冷却され球形の形状を保持したまま、冷却室からキャリア捕集装置70へと搬送される。キャリア捕集装置70では、メッシュを用いており、メッシュでキャリア110が捕集され、空気のみが装置外に抜けるように構成される。このようにして図4に示すキャリアが得られる。
2、キャリア
本発明の第2の実施形態であるキャリアは、本発明のキャリアの製造方法で製造される。本発明のキャリアの製造方法では、キャリア芯材の形状および樹脂被覆層の厚さに関係なく均一な樹脂被覆層を有するキャリアを得ることができるので、本発明のキャリアは、キャリア芯材が露出しにくく、遊離した樹脂粒子または剥離した樹脂被覆層の凝集体による流動性の低下を抑制することができるので、長期間使用しても帯電安定性に優れる。
キャリアの体積平均粒子径は35μm以上55μm以下であることが好ましい。体積平均粒子径が35μm以上55μm以下のキャリアを用いることによって、現像工程におけるキャリアのトナー搬送が安定化されるとともに、高精細な画像形成が可能となる。
樹脂被覆キャリアの形状は球形であることが好ましいけれども、非球形であっても本発明の効果が失われるものではない。
3、2成分現像剤
本発明の第3の実施形態である2成分現像剤は、本発明のキャリアとトナーとを含む。本発明のキャリアは長期間の使用にも優れた帯電安定性を有するので、帯電特性および現像性の良好な2成分現像剤が得られる。このような2成分現像剤を用いることによって、長期間にわたって高画質な画像を安定して形成することができる。
(1)トナー
トナーは、トナー粒子に外添剤が混合されてなる。トナー粒子の原料としては、結着樹脂、着色剤、離型剤および電荷制御剤などが挙げられる。
(結着樹脂)
結着樹脂としては、特に限定されるものではなく、ブラックトナー用またはカラートナー用の公知の結着樹脂を使用することができる。たとえば、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン、スチレン−アクリル酸エステル共重合樹脂などのスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂、ポリエチレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂などが挙げられる。また、原料モノマー混合物に離型剤を混合し、重合反応を行って得られる樹脂を用いてもよい。結着樹脂は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
結着樹脂としてポリエステル樹脂を用いる場合、ポリエステル樹脂を得るための芳香系のアルコール成分としては、たとえばビスフェノールA、ポリオキシエチレン−(2.2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン−(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2.2)−ポリオキシエチレン−(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(6)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2.2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2.4)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(3.3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンおよびこれらの誘導体などが挙げられる。
上記ポリエステル樹脂の多塩基酸成分としては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデセニルコハク酸、n−ドデシルコハク酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、オルソフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの二塩基酸類、トリメリット酸、トリメチン酸、ピロメリット酸などの三塩基以上の酸類およびこれらの無水物、低級アルキルエステル類が挙げられ、耐熱凝集性の点からテレフタル酸、もしくはその低級アルキルエステルが好ましい。
ここで上記ポリエステル樹脂の酸価は、5〜30mgKOH/gが好ましい。酸価が5mgKOH/g未満になると樹脂の帯電特性の低下を招いたり、電荷制御剤がポリエステル樹脂中に分散しにくくなったりする。これにより、帯電量の立ち上がりや連続使用による繰り返し現像の帯電量安定性に悪影響を及ぼすおそれがある。酸価が30mgKOH/gを超えると、酸価に起因する官能基による吸湿性が向上し、使用環境の変化による帯電量の変化、たとえば、高温高湿環境下における帯電量低下を招くおそれがある。よって、上記範囲が好ましい。なお、酸価の測定は、日本工業規格(JIS)K0070−1992に記載の電位差滴定法に準拠して行う。
結着樹脂のガラス転移温度(Tg)は、特に制限されず広い範囲から適宜選択できるが、得られるトナーの定着性および保存安定性などを考慮すると、40℃以上80℃以下であることが好ましい。40℃未満であると、保存安定性が不充分になるため画像作製装置内部でのトナーの熱凝集が起こりやすくなり、現像不良が発生するおそれがある。また高温オフセット現象が発生し始める温度(以後、「高温オフセット開始温度」と称する)が低下してしまう。「高温オフセット現象」とは、加熱ローラなどの定着部材で加熱および加圧してトナーを記録媒体に定着させる際に、トナーが過熱されることによってトナー粒子の凝集力がトナーと定着部材との接着力を下回ってトナー層が分断され、トナーの一部が定着部材に付着して取去られる現象のことである。また80℃を超えると、定着性が低下するため定着不良が発生するおそれがある。
結着樹脂の軟化温度(T1/2)は、特に制限されず広い範囲から適宜選択できるが、150℃以下であることが好ましく、さらには60℃以上120℃以下であることが好ましい。60℃未満であると、トナーの保存安定性が低下し、画像作製装置内部でトナーの熱凝集が起こりやすくなり、トナーを安定して像担持体に供給することができず、現像不良が発生するおそれがある。また画像作製装置の故障が誘発されるおそれもある。120℃を超えると、トナーを記録媒体に定着させる際に、トナーが溶融または軟化しにくくなるので、トナーの記録媒体への定着性が低下し、定着不良が発生するおそれがある。
結着樹脂の分子量は、特に制限されず、広い範囲から適宜選択できるが、重量平均分子量(Mw)で5,000以上500,000以下であることが好ましい。5,000未満であると、結着樹脂の機械的強度が低下し、得られるトナー粒子が現像装置内部での撹拌などによって粉砕されやすくなり、トナー粒子の形状が変化し、たとえば帯電性能にばらつきが生じるおそれがある。また500,000を超えると、溶融されにくくなるため、トナーの定着性が低下し、定着不良が発生するおそれがある。ここで、結着樹脂の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ(Gel Permeation chromatography;略称GPC)によって測定されるポリスチレン換算の値である。
(着色剤)
着色剤としては、所望の色に応じて種々の着色剤を用いることができ、たとえば、イエロートナー用着色剤、マゼンタトナー用着色剤、シアントナー用着色剤、ブラックトナー用着色剤などが挙げられる。
イエロートナー用着色剤としては、たとえば、カラーインデックスによって分類されるC.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー5、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー15、およびC.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー185などの有機系顔料、黄色酸化鉄および黄土などの無機系顔料、C.I.アシッドイエロー1などのニトロ系染料、C.I.ソルベントイエロー2、C.I.ソルベントイエロー6、C.I.ソルベントイエロー14、C.I.ソルベントイエロー15、C.I.ソルベントイエロー19、およびC.I.ソルベントイエロー21などの油溶性染料などが挙げられる。
マゼンタトナー用着色剤としては、たとえば、カラーインデックスによって分類されるC.I.ピグメントレッド49、C.I.ピグメントレッド57、C.I.ピグメントレッド81、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ソルベントレッド19、C.I.ソルベントレッド49、C.I.ソルベントレッド52、C.I.ベーシックレッド10、C.I.ディスパーズレッド15などが挙げられる。
シアントナー用着色剤としては、たとえば、カラーインデックスによって分類されるC.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ソルベントブルー55、C.I.ソルベントブルー70、C.I.ダイレクトブルー 25、C.I.ダイレクトブルー86などが挙げられる。
ブラックトナー用着色剤としては、たとえば、チャンネルブラック、ローラーブラック、ディスクブラック、ガスファーネスブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが挙げられる。これら各種カーボンブラックの中から、得ようとするトナーの設計特性に応じて、適切なカーボンブラックを適宜選択すればよい。
着色剤としては、これらの顔料以外にも、紅色顔料、緑色顔料などを使用してもよい。着色剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、同色系のものを2種以上用いることができ、異色系のものをそれぞれ1種または2種以上用いることもできる。
着色剤はマスターバッチの形態で使用されてもよい。着色剤のマスターバッチは、一般的なマスターバッチと同様にして製造できる。たとえば、合成樹脂の溶融物と着色剤とを混練して着色剤を合成樹脂中に均一に分散させた後、得られる溶融混練物を造粒することによって製造できる。合成樹脂には、トナーの結着樹脂と同種のものか、またはトナーの結着樹脂に対して良好な相溶性を有するものが使用される。このとき、合成樹脂と着色剤との使用割合は、特に制限されないが、好ましくは合成樹脂100重量部に対して、30〜100重量部である。また、マスターバッチは、粒径2〜3mm程度に造粒される。
着色剤の使用量は、特に制限されないが、好ましくは結着樹脂100重量部に対して5〜20重量部である。これはマスターバッチ量ではなく、マスターバッチに含まれる着色剤そのものの量である。着色剤をこの範囲で用いることによって、トナーの各種物性を損なうことなく、高い画像濃度を有し、画質品位の非常に良好な画像を形成することができる。
(離型剤)
離型剤は、トナーを記録媒体に定着させる際にトナーに離型性を付与するために添加される。したがって、離型剤を使用しない場合と比較して高温オフセット開始温度を高め、耐高温オフセット性を向上させることができる。またトナーを定着させる際の加熱によって離型剤を溶融させ、定着開始温度を低下させ、耐ホットオフセット性を向上させることができる。
離型剤としては、この分野で常用されるものが使用でき、たとえば、パラフィンワックスおよびその誘導体、マイクロクリスタリンワックスおよびその誘導体などの石油系ワックス、フィッシャートロプシュワックスおよびその誘導体、ポリオレフィンワックスおよびその誘導体、低分子量ポリプロピリンワックスおよびその誘導体、ポリオレフィン系重合体ワックス(低分子量ポリエチレンワックスなど)およびその誘導体などの炭化水素系合成ワックス、カルナバワックスおよびその誘導体、ライスワックスおよびその誘導体、キャンデリラワックスおよびその誘導体、木蝋などの植物系ワックス、蜜蝋、鯨蝋などの動物系ワックス、脂肪酸アミド、フェノール脂肪酸エステルなどの油脂系合成ワックス、長鎖カルボン酸およびその誘導体、長鎖アルコールおよびその誘導体、シリコーン系重合体、高級脂肪酸などが挙げられる。なお、誘導体には、酸化物、ビニル系モノマーとワックスとのブロック共重合物、ビニル系モノマーとワックスとのグラフト変性物などが含まれる。離型剤の使用量は特に制限されず広い範囲から適宜選択できるが、好ましくは、結着樹脂100重量部に対して0.2〜20重量部である。
(電荷制御剤)
電荷制御剤は、トナーの摩擦帯電性を制御することを目的として添加される。電荷制御剤としては、この分野で常用される負電荷制御用および正電荷制御用のものを使用できる。負電荷制御用の電荷制御剤としては、たとえば、オイルブラック、スピロンブラックなどの油溶性染料、含金属アゾ化合物、アゾ錯体染料、ナフテン酸金属塩、サリチル酸およびその誘導体の金属錯体および金属塩(金属はクロム、亜鉛、ジルコニウムなど)、ホウ素化合物、脂肪酸石鹸、長鎖アルキルカルボン酸塩、樹脂酸石鹸などが挙げられる。この中でもホウ素化合物は重金属を含まないものとして特に好ましい。
正電荷制御用の電荷制御剤としては、たとえば、ニグロシン染料、塩基性染料、四級アンモニウム塩、四級ホスホニウム塩、アミノピリン、ピリミジン化合物、多核ポリアミノ化合物、アミノシラン、ニグロシン染料およびその誘導体、トリフェニルメタン誘導体、グアニジン塩、アミジン塩などが挙げられる。電荷制御剤は、用途に応じて使い分ければよい。電荷制御剤は、1種を単独で使用してもよいし、必要に応じて2種以上を併用してもよい。電荷制御剤の使用量は、特に制限されず広い範囲から適宜選択できるが、好ましくは、結着樹脂100重量部に対して0.5〜3重量部である。
(トナーの製造方法)
トナー粒子の製造方法は特に制限されず、公知の製造方法により製造することができ、たとえば、溶融混練粉砕法によって製造できる。溶融混練粉砕法は、たとえば混合工程、溶融混練工程、粉砕工程および分級工程を含む。溶融混練粉砕法によれば、混合工程では、結着樹脂、着色剤、離型剤、電荷制御剤、その他の添加材などのそれぞれ所定量を乾式混合し混合物を得る。溶融混練工程では、混合物を溶融混練し、得られる溶融混練物を冷却して固化させ固化物を得る。粉砕工程では、固化物を機械的に粉砕する。分級工程では、粉砕工程にて得られた粉砕物から、分級機で過粉砕トナー粒子および粗大トナー粒子を除去する。これらの工程を経ることで、トナー粒子を作製できる。
乾式混合に用いられる混合機としては、たとえば、ヘンシェルミキサ(商品名、三井鉱山株式会社製)、スーパーミキサ(商品名、株式会社カワタ製)、メカノミル(商品名、岡田精工株式会社製)などのヘンシェルタイプの混合装置、オングミル(商品名、ホソカワミクロン株式会社製)、ハイブリダイゼーションシステム(商品名、株式会社奈良機械製作所製)、コスモシステム(商品名、川崎重工業株式会社製)などが挙げられる。
混練は、攪拌下に結着樹脂の溶融温度以上の温度(通常は80〜200℃程度、好ましくは100〜150℃程度)に加熱しながら行われる。混練機として、たとえば、二軸押し出し機、三本ロール、ラボブラストミルなどの一般的な混練機を使用できる。さらに具体的には、たとえば、TEM−100B(商品名、東芝機械株式会社製)、PCM−65/87(商品名、株式会社池貝製)などの1軸もしくは2軸の押出機、ニーデックス(商品名、三井鉱山株式会社製)などのオープンロール方式のものが挙げられる。これらの中でも、オープンロール方式のものが好ましい。溶融混練物を冷却して得られる固化物の粉砕には、カッターミル、フェザーミル、ジェットミルなどが挙げられる。たとえば、固化物をカッターミルで粗粉砕した後、ジェットミルで粉砕することによって、所望の体積平均粒子径を有するトナーが得られる。
分級には、遠心力による分級または風力による分級によって過粉砕トナー粒子および粗大トナー粒子を除去できる公知の分級機を使用することができ、たとえば、旋回式風力分級機(ロータリー式風力分級機)などを使用することができる。
またトナー粒子は、たとえば、溶融混練物の固化物を粗粉砕し、得られる粗粉砕物を水性スラリー化し、得られる水性スラリーを高圧ホモジナイザで処理して微粒化し、得られる微粒を水性媒体中で加熱して凝集および溶融させることによっても製造できる。
溶融混練物の固化物の粗粉砕は、たとえば、ジェットミル、ハンドミルなどを用いて行われる。粗粉砕によって、粒子径100μm〜3mm程度の粒子径を有する粗粉を得る。粗粉を水に分散させて、水性スラリーを調製する。粗粉を水に分散させるに際しては、たとえば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどの分散剤の適量を水に溶解させておくことによって、粗粉が均一に分散した水性スラリーが得られる。この水性スラリーを高圧ホモジナイザで処理することによって、水性スラリー中の粗粉が微粒化され、体積平均粒子径0.4〜1.0μm程度の微粒を含む水性スラリーが得られる。この水性スラリーを加熱し、微粒を凝集させ、微粒同士を溶融させて結合することによって、所望の体積平均粒子径および平均円形度を有するトナーが得られる。体積平均粒子径および平均円形度は、たとえば、微粒の水性スラリーの加熱温度および加熱時間を適宜選択することによって、所望の値にすることができる。加熱温度は、結着樹脂の軟化点以上、結着樹脂の熱分解温度未満の温度範囲から適宜選択される。加熱時間が同じである場合には、通常は、加熱温度が高いほど、得られるトナーの体積平均粒子径は大きくなる。
高圧ホモジナイザとしては、市販品が知られる。高圧ホモジナイザの市販品としては、たとえば、マイクロフルイダイザー(商品名、マイクロフルディクス(Microfluidics)社製)、ナノマイザー(商品名、ナノマイザー社製)、アルティマイザー(商品名、株式会社スギノマシン製)などのチャンバ式高圧ホモジナイザ、高圧ホモジナイザ(商品名、ラニー(Rannie)社製)、高圧ホモジナイザ(商品名、三丸機械工業株式会社製)、高圧ホモゲナイザ(商品名、株式会社イズミフードマシナリ製)、NANO3000(商品名、株式会社美粒製)などが挙げられる。
以上のように作製されたトナー粒子には球形化処理が施されてもよく、球形化する手段としては衝撃式球形化装置や熱風式球形化装置が挙げられる。衝撃式球形化装置としては、市販されているものを使用することもでき、たとえば、ファカルティ(商品名、ホソカワミクロン株式会社製)、ハイブリダイゼーションシステム(商品名、株式会社奈良機械製作所製)などを用いることができる。または、熱風式球形化装置としては、市販されているものも使用することができ、たとえば、表面改質機メテオレインボー(商品名、日本ニューマチック工業株式会社製)などを用いることができる。
(外添剤)
このようにして得られたトナー粒子には、粉体流動性向上、摩擦帯電性向上、耐熱性向上、長期保存性改善、クリーニング特性改善および感光体表面磨耗特性制御などの機能を担う外添剤が外添される。外添剤としては、この分野で常用されるものを使用でき、たとえば、酸化ケイ素、酸化チタン、炭化ケイ素、酸化アルミニウム、チタン酸バリウムなどが挙げられる。これらの無機微粉末は、疎水化、帯電性コントロールなどの目的でシリコーンワニス、各種変性シリコーンワニス、シリコーンオイル、各種変性シリコーンオイル、シランカップリング剤、官能基を有するシランカップリング剤、その他の有機ケイ素化合物などの処理剤で処理されていることが好ましく、1種を単独で使用でき、または2種以上を併用できる。
外添剤は、平均一次粒子径が10nm〜500nmであることが好ましい。このような粒径の外添剤を用いることによって、トナーの流動性向上効果が一層発揮されやすくなる。ここで、外添剤の平均一次粒子径は、動的光散乱を利用する粒子径分布測定装置、たとえばDLS−800(商品名、株式会社大塚電子製)やコールターN4(商品名、コールターエレクトロニクス社製)によって測定可能であるが、疎水化処理後の粒子の二次凝集を解離することは困難であるため、走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron
Microscope)もしくは透過型電子顕微鏡(TEM;Transmission Electron Microscope)により得られる写真画像を画像解析することにより直接求めることが好ましい。
外添剤の添加量は、特に制限されないが、好ましくはトナー粒子100重量部に対して0.1〜3.0重量部である。外添剤の添加量をこのような範囲とすることによって、トナーに流動性を付与し、転写効率を高めることができる。外添剤の添加量が0.1重量部未満だと、トナーに充分な流動性を与えることができず、転写効率を高めることもできない。外添剤の添加量が3.0重量部を超えると、外添剤のキャリア表面へ堆積する速度が速くなり、攪拌試験前後のキャリアの体積抵抗値A,Bおよびキャリア芯材の体積抵抗値Cが上記式(1)を満たす場合でも、キャリアのトナーに対する帯電付与能力の低下を抑えにくくなる。
(2)キャリア
本発明のキャリアの製造方法で製造されたキャリアを含む本発明の2成分現像剤において、キャリアは樹脂被覆層中には電荷制御剤が含むことが好ましい。樹脂被覆層中に電荷制御剤のような電荷発生材料を含むことによって、樹脂被覆層内部からトナーに電荷が供給されるので、長期間にわたって安定してトナーを帯電させることのできる2成分現像剤が得られる。このような2成分現像剤を用いることによって、長期間にわたって高画質な画像をより安定して形成することができる。電荷制御剤は、トナーに含有される電荷制御剤と同極性のものであることがより好ましく、同一の材料であることがさらに好ましい。同一の材料であると長期間の使用による帯電性の劣化が少ない。
(電荷制御剤)
樹脂被覆層中に含ませる正電荷制御用の電荷制御剤としては、たとえば、ニグロシン染料、塩基性染料、四級アンモニウム塩、四級ホスホニウム塩、アミノピリン、ピリミジン化合物、多核ポリアミノ化合物、アミノシラン、ニグロシン染料およびその誘導体、トリフェニルメタン誘導体、グアニジン塩、アミジン塩などが挙げられる。負電荷制御用の電荷制御剤としては、オイルブラック、スピロンブラックなどの油溶性染料、含金属アゾ化合物、アゾ錯体染料、ナフテン酸金属塩、サリチル酸およびその誘導体の金属錯体および金属塩(金属はクロム、亜鉛、ジルコニウムなど)、ホウ素化合物、脂肪酸石鹸、長鎖アルキルカルボン酸塩、樹脂酸石鹸などが挙げられる。この中でもホウ素化合物は重金属を含まないものとして特に好ましい。電荷制御剤は1種を単独で使用してもよいし、必要に応じて2種以上を併用してもよい。電荷制御剤の使用量は、トナーに充分な電荷を付与でき、かつ樹脂被覆層の機械的強度などを著しく低下させることがない範囲から適宜選択されるが、好ましくは樹脂被覆層に含まれる樹脂100重量部に対して0.1〜20重量部である。
(導電性粒子)
樹脂被覆層中には電荷制御剤の他に導電性粒子を含んでいてもよい。樹脂被覆層に導電性粒子が含まれることによって、トナーの初期帯電量が不所望に大きくなることを防ぐことができるので、長期間にわたってトナーを安定して帯電させることができる。
導電性粒子としては、たとえば、導電性カーボンブラック、導電性酸化チタンおよび酸化スズなどの酸化物が用いられる。少ない添加量で導電性を発現させるには、カーボンブラックなどが好適であるが、カラートナーに対してはキャリアの樹脂被覆層からのカーボン脱離が懸念される場合がある。このときはアンチモンをドープさせた導電性酸化チタンなどを用いてもよい。
導電性粒子は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。導電性粒子の体積平均粒子径は特に制限されないけれども、好ましくは0.02〜2μm、さらに好ましくは0.02〜1μmである。なお、この体積平均粒子径はレーザー回折・散乱式の粒度測定装置(たとえば、株式会社堀場製作所製のLA−920)を用いて測定される値である。
樹脂被覆層中における導電性粒子の含有量は特に制限されないけれども、好ましくは樹脂被覆層に含まれる樹脂100重量部に対して30重量部以下であり、より好ましくは1重量部以上30重量部以下である。導電性粒子の含有量が樹脂被覆層に含まれる樹脂100重量部に対して30重量部を超えると、樹脂被覆層から導電性粒子が欠落しやすく、カラー画像に影響を及ぼすことが懸念される。また樹脂被覆層の機械的強度および芯材に対する密着性が不充分となり、樹脂被覆層が剥離して、芯材が露出するおそれがある。樹脂被覆層が剥離して芯材が露出すると、初期のキャリアと比べて、帯電性能が変化してしまい、トナーを安定して帯電させることができなくなるおそれがある。導電性粒子の含有量を樹脂被覆層に含まれる樹脂100重量部に対して30重量部以下にすることによって、樹脂被覆層からの導電性粒子の欠落を防いで、カラー画像への影響を抑えることができる。また樹脂被覆層の機械的強度および芯材に対する密着性を向上させることができるので、長期的かつ安定的にトナーを帯電させることのできるキャリアが実現される。したがって高画質の画像をより安定的に形成することのできる現像剤が実現される。
導電性粒子の含有量が樹脂被覆層に含まれる樹脂100重量部に対して1重量部未満であると、導電性粒子の添加効果が見られず、トナーに充分な電荷を付与することができないおそれがある。導電性粒子の含有量を樹脂被覆層に含まれる樹脂100重量部に対して1重量部以上とすることによって、導電性粒子の添加効果をより確実に発現させ、トナーに充分な電荷を付与することができる。
(3)2成分現像剤
トナーとキャリアとの混合割合は特に制限されないが、A4サイズの画像で1分間に40枚以上印刷可能な高速画像形成装置に用いることを考慮すると、トナーの体積平均粒子径に対するキャリアの体積平均粒子径の比率が5以上であり、カバレッジθ2が50〜75%程度のものを用いることが好ましい。これによって、トナーの帯電性が充分良好な状態で安定的に維持され、高速画像形成装置においても高画質画像を安定的に、かつ長期的に形成できる好適な現像剤として使用できる。なお、カバレッジθ2とはキャリアの総表面積(全キャリアの表面積の総和)に対するトナーの総投影面積(全トナー粒子の投影面積の総和)の割合((トナーの総投影面積/キャリアの総表面積)×100)である。
カバレッジθ2の値は、現像剤中のトナー濃度で調整することができる。現像剤中のトナー濃度が低い場合(カバレッジθ2が50%より小さい場合)はトナー帯電量が上昇する傾向にあり、トナー濃度が高い場合(カバレッジθ2が75%より大きい場合)にはトナー帯電量が減少する傾向にある。そのため、この現象を利用し帯電量をある程度調節することが可能である。しかしながら、実機に搭載して現像剤を使用する場合、トナー濃度を下げていくと、キャリアと感光体との接触面積の増加からキャリア付着が問題となって現れる。またトナー濃度を上げていくと、帯電量の低下とともにトナー飛散が深刻になってくる。
カバレッジθ2とトナー濃度との関係としては、具体的には、トナーの体積平均粒子径が6.5μmであり、キャリアの体積平均粒子径が40μmである場合に、カバレッジθ2を50〜75%にすると、現像剤中で樹脂被覆キャリア100重量部に対してトナーが6.9〜10.4重量部程度含まれることが好ましい。このような現像剤で高速現像すると、トナー消費量とトナーの消費に応じて現像装置の現像槽に供給されるトナー供給量とがそれぞれ最大になり、それでも需給バランスが損なわれることがない。
現像剤中でキャリア100重量部に対してトナーが6.9〜10.4重量部程度よりも多くなると、帯電量がより低くなる傾向があり所望の現像特性が得られないばかりか、トナー供給量よりもトナー消費量の方が多くなり、トナーに充分な電荷を付与できなくなり、画質の劣化を招く。反対に、キャリアの量が少ない場合は帯電量が高くなる傾向があり、キャリアからトナーが電界によって分離しにくくなり、結果として画質の劣化を招く。
トナーの総投影面積は、本実施形態では、以下のように算出する。トナーの比重を1.0とし、コールターカウンタ(商品名:コールターカウンタ・マルチサイザーII、ベックマン・コールター社製)で得られた体積平均粒子径を基に算出する。すなわち、混合するトナー重量中のトナー個数を算出し、トナー個数×トナー面積(円と仮定して算出)をトナー総投影面積とする。同様に、キャリアの表面積の総和は、キャリア比重を4.7とし、マイクロトラック(商品名:マイクロトラックMT3000、日機装株式会社製)よって得られた粒子径を基に、混合するキャリア重量から総表面積を算出する。
4、現像装置
本発明の第4の実施形態である現像装置20は、本発明の2成分現像剤を用いて、像担持体に形成される静電潜像を現像して可視像を形成する。図7は、本実施形態の現像装置20の構成を示す概略図である。本発明の現像剤は、長期の使用においてトナー帯電量を安定化させることができるので、本発明の現像剤を用いることによって、長期間にわたって像担持体に高画質なトナー像を安定して形成する現像装置を実現することができる。
図7に示すように、現像装置20は、現像剤を格納する現像ユニット10、および現像剤を像担持体である感光体15に搬送する現像剤担持体(現像剤搬送担持体)13を備える。
現像ユニット10の内部に予め投入された本実施形態のキャリアとトナーとから成る本実施形態の現像剤(2成分現像剤)が、撹拌スクリュー12によって撹拌されて帯電される。そして、現像剤は、内部に磁界発生手段であるマグネットローラを配設した現像剤担持体13に搬送されることで、現像剤担持体13表面に保持される。現像剤担持体13表面に保持された現像剤は、現像剤規制部材14によって一定層厚に規制され、現像剤担持体13と感光体15との近接領域に形成される現像領域に搬送され、現像剤担持体13に交流バイアス電圧を印加して形成される振動電界下に、感光体15上の静電荷像を反転現像法で顕像化する。
また、可視像形成によるトナー消費は、図示しないトナー濃度センサによって、現像剤重量に対するトナー重量の比率であるトナー濃度の変化として検知され、消費された分は、予め定められた規定トナー濃度に達したことを図示しないトナー濃度センサが検知するまでトナーホッパー16から補給され、現像ユニット10内部の現像剤におけるトナー濃度は略一定に保たれる。また、本実施形態において、現像剤担持体13と現像剤規制部材14とのギャップ、および現像領域における現像剤担持体13と感光体15とのギャップは、たとえば、0.4mmに設定されていてもよい。もちろん、これは単なる例示でありこの数値に限定されることはない。
5、画像形成装置
本発明の画像形成装置21は、上記現像装置20を備える。現像装置20以外の他の構成は、公知の電子写真方式の画像形成装置の構成を用いることができる。図8は、本発明の第5の実施形態である画像形成装置21の構成を示す概略図である。画像形成装置21は、可視像形成ユニット31と、定着手段28と、クリーニング手段29,30とを含む。可視像形成ユニット31の部材は、カラー画像情報に含まれるブラック(k)、シアン(c)、マゼンタ(m)およびイエロー(y)の各色の画像情報に対応するために、それぞれ4つずつ設けられる。ここでは、各色に応じて4つずつ設けられる各部材は、各色を表すアルファベットを参照符号の末尾に付して区別し、総称する場合は参照符号のみで表す。可視像形成ユニット31は、像担持体15と、帯電手段22と、露光手段23と、現像装置20と、転写手段24,26とを含む。
像担持体である感光体15は、表面に静電荷像を形成し得る感光層を有するローラ状部材である。帯電手段である帯電装置22は、感光体15表面を所定電位に帯電させる。露光手段であるレーザー光照射手段23は、表面が帯電状態にある感光体15に画像情報に応じた信号光を照射して感光体15の表面に静電荷像(静電潜像)を形成する。転写手段は、1次転写装置24と2次転写装置26とを含み、1次転写装置24は、現像装置20からトナー3が供給されて現像された感光体15表面のトナー像を、中間転写体である中間転写ベルト25に転写する。2次転写装置26は、中間転写ベルト25に転写されたトナー像を記録媒体27に転写する。定着手段である定着装置28は、記録媒体27表面のトナー像を記録媒体27に定着させる。クリーニング手段は、感光体用クリーニング装置29と転写用クリーニング装置30とを含み、感光体用クリーニング装置29は、トナー像の記録媒体27への転写後に感光体15表面に残留するトナー3および紙粉などを除去する。転写用クリーニング装置30は、上記中間転写ベルトに付着した余分なトナー3などを除去する。
静電荷像を現像する際には、感光体15上の静電荷像を反転現像法で顕像化する現像工程がトナーの色毎に実行され、中間転写ベルト25に色の異なる複数のトナー像を重ね合わせて多色トナー像が形成される。本実施形態では、中間転写ベルト25を用いた中間転写方式を採用しているが、感光体15から直接記録媒体にトナー像を転写する構成が用いられてもよい。
本実施形態の画像形成装置21によれば、前述のように感光体15にかぶりのないトナー像を形成可能な本発明の現像装置20を備えて画像形成装置21が実現される。このような画像形成装置21で画像を形成することによって、長期間にわたってかぶりのない高画質画像を安定して形成することができる。
以下に本発明に係る実施例および比較例について記載する。本発明は、その要旨を超えない限り、本実施例に限定されるものではない。
〔測定方法〕
<樹脂被覆層の厚さ>
キャリア芯材表面の樹脂被覆層の厚さは、キャリアを乳鉢にて破砕後、走査型電子顕微鏡(製品名:VE−9800、株式会社キーエンス製)を用いて、加速電圧5KV、倍率10,000倍にてその破砕したキャリアの断面を観察し、樹脂被覆層の任意の10点の厚さの平均値を算出することによって求めた。
<キャリア芯材の体積平均粒径>
トリトンX−100(非イオン性界面活性剤(化学式:C34H62O11))の0.1%純水溶液10mL中に測定試料であるキャリア芯材を約1〜5mg添加し、超音波分散機にて1分間分散させた。この分散液のうち約2〜5mLを、マイクロトラックMT3000(日機装株式会社)の所定箇所に加えた後、1分間撹拌し、散乱光強度が安定したことを確認してからキャリア芯材の体積平均粒径を測定した。
〔実施例1〕
(樹脂粒子付着工程S1)
キャリア芯材として、平均粒径が40μmの球状フェライト粒子を用いた。キャリア芯材表面を被覆する樹脂材料としては、平均粒子径が0.4μmのスチレン・アクリル共重合体からなる樹脂粒子(総研化学社製)を用いた。キャリア芯材100重量部に対して樹脂粒子3重量部を計量した後に、図2に示すような撹拌混合装置のスパルタンリューザー(株式会社ダルトン社製)へキャリア芯材と樹脂粒子とを合わせて4kg投入した。スパルタンリューザーの高速側ローターの回転数を2500rpm、低速側ローターの回転数を15rpmとして10分間回転駆動させ、投入した材料同士の凝集を解砕するとともに、両材料を均一に混合した。
混合したキャリア芯材と樹脂粒子とをスパルタンリューザーの撹拌槽内部に残したまま、スパルタンリューザーの高速側ローターの回転数を5020rpm、低速側ローターの回転数を30rpmに再設定し、撹拌槽内部のキャリア芯材および樹脂粒子を混合撹拌した。この時、撹拌されることでキャリア芯材表面に樹脂粒子が付着し、またキャリア芯材および樹脂粒子が接触および衝突を繰り返すことによって、スパルタンリューザー内のキャリア芯材温度が上昇し、キャリア芯材表面の樹脂材料が溶融され、表面に樹脂粒子が融着したキャリア芯材を得た。
スパルタンリューザー内の混合槽内部の温度をモニタリングし、槽内温度が80℃に達してから30分間駆動させることによって、キャリア芯材表面に融着させた樹脂粒子をキャリア芯材表面に固定化し、樹脂粒子付着キャリアを得た。
(樹脂被覆層形成工程S2)
樹脂粒子付着工程S1で得られた樹脂粒子付着キャリアを過熱水蒸気雰囲気中で加熱溶融させることでキャリア芯材表面に樹脂被覆層を形成し、実施例1のキャリアを得た。
具体的には、高速側ローターの回転数が5020rpm、低速側ローターの回転数が30rpmの状態のスパルタンリューザーに付属しているノズルに、水蒸気を発生するボイラーからなる水蒸気発生装置から得られた水蒸気を100℃以上に加熱する過熱水蒸気発生装置によって発生した200℃の過熱水蒸気を流速30m/分で供給した。それによって樹脂粒子付着キャリアが存在する撹拌槽内部の雰囲気を過熱水蒸気で満たした。また、バルブを開放状態にし、撹拌混合装置の撹拌槽内部の圧力が高くならないように過熱水蒸気を大気中に放出した。
該撹拌混合装置に付随するローター駆動用モータの電流値が増加した時点で、過熱水蒸気の供給を停止すると同時に別系統から常温の乾燥空気を撹拌槽内部に供給した。そして撹拌槽内部の温度が常温になるまで、低速側ローターを回転数30rpmで回転させ冷却することによって実施例1のキャリアを得た。得られたキャリアは、樹脂被覆層の厚みが均一で表面が滑らかであった。樹脂被覆層の厚みは0.29μmであった。
〔実施例2〕
スパルタンリューザーの代わりに、図6に示すキャリア樹脂被覆層形成装置を用いたこと以外は実施例1と同様にして実施例2のキャリアを得た。
具体的には、樹脂粒子付着工程S1で得られた樹脂粒子付着キャリアをキャリアホッパ50に投入し、該樹脂粒子付着キャリアを搬送用エアによって過熱水蒸気雰囲気中に搬送した。水蒸気発生装置から生成された水蒸気は、過熱水蒸気発生装置によって100℃以上に加熱され、200℃の過熱水蒸気として加熱領域に到達した。また該樹脂粒子付着キャリアは、キャリア噴射ノズルにて加熱領域に吐出された。該加熱領域において、該樹脂粒子付着キャリア表面に過熱水蒸気が付着し、該樹脂粒子付着キャリア表面の樹脂粒子が溶融した。その後、冷却室で50℃以下までキャリアを冷却し、キャリア捕集装置で捕集した。
電子顕微鏡VE9800(キーエンス社製)を用いて、実施例2のキャリア表面を観測したところ、キャリア芯材の露出が少なく、表面を被覆している樹脂が薄い層で付着していた。樹脂被覆層の厚みを測定したところ、平均で0.24μmであった。
〔実施例3〕
過熱水蒸気の温度を200℃から150℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例3のキャリアを得た。
〔実施例4〕
過熱水蒸気の温度を200℃から250℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例4のキャリアを得た。
〔実施例5〕
過熱水蒸気の温度を200℃から300℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例5のキャリアを得た。
〔実施例6〕
過熱水蒸気の温度を200℃から125℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例6のキャリアを得た。
〔実施例7〕
過熱水蒸気の温度を200℃から325℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例7のキャリアを得た。
〔実施例8〕
キャリア芯材表面を被覆する樹脂材料として、基材となるスチレン・アクリル共重合体からなる樹脂粒子中に電荷制御剤を含有させたものを用いたこと以外は実施例2と同様にして、実施例8のキャリアを得た。
スチレン・アクリル共重合体からなる樹脂粒子中に電荷制御剤を含有分散させる方法としては、転相乳化法を用いた。基材となるスチレン・アクリル共重合体からなる樹脂粒子をトルエンなどの有機溶剤に溶解してスチレン・アクリル樹脂溶液を作製し、その溶液中に電荷制御剤を投入した。ホモジナイザを用いてスチレン・アクリル樹脂溶液中に投入した電荷制御剤を均一に分散させた後、転相乳化法によって電荷制御剤を含有してなる平均粒子径が0.2μmのスチレン・アクリル共重合体からなる樹脂粒子を作製した。電荷制御剤としては、電子供与性の官能基を有するシランカップリング剤を用いた。また電荷制御剤の含有量は、スチレン・アクリル共重合体からなる樹脂100重量部に対して5重量部とした。
〔実施例9〕
実施例8で用いた電荷制御剤の代わりにLR−147(日本カーリット株式会社製)を用いたこと以外は実施例8と同様にして、実施例9のキャリアを得た。
〔比較例1〕
樹脂被覆層形成工程S2において、過熱水蒸気の代わりに200℃まで加熱した乾燥空気を用いたこと以外は実施例1と同様にして比較例1のキャリアを得た。
〔2成分現像剤の製造〕
実施例1〜9および比較例1で得られたキャリアに対してトナーの被覆率が62.5%となるようにトナーとキャリアとをPE(ポリエチレン)製のボトル(容量:500cc)に入れ、ロールミルにて1時間混合した後、1日放置することによって2成分現像剤を製造した。
トナーとしては下記のようにして製造したものを用いた。
〔トナーの製造〕
まず、下記(ア)〜(エ)に示す各材料をヘンシェルミキサにて前混合した後、二軸押出混練機にて溶融混練した。この混練物をカッテングミルで粗粉砕した後、ジェットミルにて微粉砕し、気流式分級機で分級することによって平均粒径が6.5μmのトナー母体粒子を作製した。
(ア)結着樹脂…ポリエステル樹脂(酸価:21mgKOH/g、芳香族系アルコール成分:PO−BPAおよびEP−BPA、酸成分:フマル酸と無水メリット酸)
87.5重量%
(イ)顔料…ナフトール 5重量%
(ウ)ワックス…無極性パラフィンワックス(DSCピーク78℃, Mw8.32×102) 6重量%
(エ)電荷制御剤…商品名:LR−147(日本カーリット株式会社製)
1.5重量%
上記作製したトナー母体粒子97.8重量%に、iッブチルトリメトキシシランで疎水化処理した体積平均粒径が100nmのシリカ1.2重量%と、HMDSで疎水化処理した体積平均粒径が12nmのシリカ微粒子1.0重量%とを加え、ヘンシルミキサで混合して外添処理を行うことによってトナーを作製した。ここで用いた(エ)電荷制御剤であるLR−147は、物質名が「Boro bis (1.1-diphenyl-1-oxo-acetyl) potassium Salt
」であり、化学式はC28H20BKO6で表される。上記無極性パラフィンワックスMwは周知のとおり重量平均分子量を示す。
〔評価〕
上記のようにして作製した2成分現像剤を用い、実施例および比較例のキャリアの帯電安定性および流動安定性を以下の方法によって評価した。また、実施例および比較例のキャリアの樹脂被覆層の被覆状態を以下のようにキャリアの抵抗値を測定することによって評価した。
(帯電安定性)
帯電安定性は、トナーの初期状態における目標設定帯電量(30μC/g)と実施例および比較例のトナーの初期の帯電量との差、および出力画像を50K枚印刷した後における初期のトナー帯電量からの帯電量変動率を用いて、経時劣化の影響を求めることで評価した。複写機(商品名:MX−4500N、シャープ株式会社製)から取り出した図7に示すような現像ユニットに配設されている現像スリーブ表面の2成分現像剤を採取し、吸引式帯電量測定装置(TREK社:210H−2A Q/M Meter)を用いて帯電量を測定した。
帯電安定性の評価基準は以下の通りである。
◎:初期のトナー帯電量が30μC/g±10%以内であり、かつ経時におけるトナー帯電量変動率が±15%以下である。
○:初期のトナー帯電量が30μC/g±15%以内であり、かつ経時におけるトナー帯電量変動率が±20%以内である。
△:初期のトナー帯電量が30μC/g±15%以内であり、かつ経時におけるトナー帯電量変動率が±20%を超えて±25%以下である。
×:初期のトナー帯電量が30μC/g±15%を超える、または経時におけるトナー帯電量変動率が±25%を超える。
本評価においては、トナーの初期状態における目標帯電量を30μC/gとしている。この帯電量値は、従来機種のプロセスで画質が最良になる値から求めたものであり、目標帯電量30μC/gは、トナー現像量およびトナーの転写性を確保するために必要な比電荷量である。
なお、帯電量が20μC/gであっても初期のトナー帯電量としては問題ないが、50K印字後の経時において帯電量変化が生じた場合には、帯電量不足によってトナーかぶりが発生するおそれがある。このために、本評価では、30μC/gを目標帯電量とした。
(抵抗値安定性)
抵抗値安定性は、50K枚印字後(経時)における実施例および比較例のキャリアの電気抵抗値(体積抵抗値)で評価した。実施例および比較例のキャリアの電気抵抗値は、常温・常湿環境下において、ブリッジ抵抗測定治具(対向する電極間の距離1mm、測定電極エリア面積が40×16mm2)を用いて測定した。
具体的には、実施例および比較例のキャリアを測定サンプルとして電子天秤等で0.2mg取り分けた。この測定サンプルを、ブリッジ抵抗測定治具の対向する電極間の間に挿入し、該電極の裏側から磁石を用いて、対向電極間にキャリアのブリッジを形成させた。このとき、ブリッジ間のキャリアを均すために、5〜6回程度タッピングした。ブリッジ間のキャリアを均一に均した後、1.5×103(V/cm)の電界強度が生じる電圧を印加したときの電流値を、デジタルエレクトロンメータ(アドバンテスト社:R8340)を用いて測定し、実施例および比較例の電気抵抗値(キャリア抵抗値)を算出した。
抵抗値安定性の評価基準は以下の通りである。
◎:非常に良好。目標抵抗値を満足し、経時において抵抗値変化が±10%以下である。
○:良好。目標抵抗値を満足し、経時において抵抗値変化が+10%を超え、+20%以下である。
△:可。目標抵抗値を満足し、経時において抵抗値変化が−10%を超え、−25%以下である。
×:不可。抵抗値変化が+20%を超える、または抵抗値変化が−25%を超える。
(凝集度)
実施例および比較例のキャリア100gを呼び寸法74μmのメッシュにそれぞれ投入した。該メッシュに対して超音波加振を3分間施し、該メッシュに残ったキャリアの残量とキャリアの投入量との質量比率を用いてキャリアの凝集度を評価した。
凝集度の評価基準は以下の通りである。
◎:非常に良好。凝集度が5%未満である。
○:良好。凝集度が5%以上10%未満である。
△:可。凝集度が10%以上20%未満である。
×:不可。凝集度が20%以上である。
帯電安定性、抵抗安定性および凝集度の評価結果を表1に示す。
実施例1〜9の結果から、本発明の製造方法で作製すると、トナーへの帯電安定性および抵抗安定性の高いキャリアが得られることがわかる。しかしながら、過熱水蒸気温度が150℃未満である実施例6は、キャリア芯材に樹脂粒子が充分には融着せず、樹脂被覆層表面には、樹脂粒子の界面が少し存在していた。また、樹脂粒子を介して、キャリア粒子が凝集し、凝集度が比較的低下した。また過熱水蒸気温度が300℃より高い実施例7は、他の実施例よりキャリア芯材表面の露出が比較的増え、初期における抵抗値が他の実施例より比較的低い。したがって、キャリア芯材表面に付着している樹脂粒子を加熱溶融し再被膜化するには、過熱水蒸気の温度を150℃以上300℃以下に設定することがより好ましく、こうすることによって安定した2成分現像剤を得ることができることがわかった。
実施例2は、隣接していた樹脂粒子の界面の数が融着によって減少し、樹脂被覆層が連続性を有するキャリアを得ることができるので、搬送用エアによってキャリア捕集装置にて収集されるまでには充分に冷却されており、樹脂融着によるキャリア粒子の凝集が殆どなく、凝集度評価も良好であった。
実施例1と実施例8との比較から、樹脂被覆層に電荷制御剤を含むことによって、帯電安定性が向上することがわかった。
実施例8と実施例9との比較から、樹脂被覆層にトナーの電荷制御剤と同一材料の電荷制御剤を含むことによって、帯電安定性がさらに向上することがわかった。
実施例1〜9において、50K枚印字後にも良好な画像が得られ、初期と比べて画像の劣化はみられなかった。
比較例1のキャリアは、キャリア粒子同士の凝集が多数存在し、帯電安定性および抵抗安定性がともに低下した。