図1は、本発明にかかる排気装置の故障診断方法および装置が適用されるエンジン1の全体構成を示す図である。本図に示されるエンジン1は、ガソリンを燃料とする火花点火式の直噴エンジンであり、そのエンジン本体1Aの各気筒には、燃焼用の空気を取り込むための吸気通路3と、燃焼によって生じた排気ガスを外部に排出するための排気通路9とがそれぞれ接続されている。なお、図1において符号11は、クランク軸10の回転数(つまりエンジン回転数)を検出するエンジン回転数センサ、符号12はエンジン用冷却水の水温を検出する水温センサである。
上記吸気通路3は、各気筒に共通の共通吸気通路13と、その下流側端部に設けられたサージタンク17と、そこから下流側に分岐して各気筒に接続される独立吸気通路19とを有している。なお、独立吸気通路19は、各気筒に対応して複数設けられており、例えば紙面に垂直な方向に並ぶように配置されている。
上記エンジン本体1Aには、各独立吸気通路19の出口(吸気ポート)を開閉するための吸気弁2が設けられており、この吸気弁2が開かれるのに応じて、上記独立吸気通路19から燃焼室4内に燃焼用の空気が吸入されるようになっている。そして、この燃焼室4内に吸入された空気中に、所定のタイミングで燃料噴射弁5から燃料(ガソリン)が直接噴射されることにより、混合気が形成されるようになっている。ただし、アクセル開度が0%でかつエンジン回転数が所定値以上であるとき(つまり減速時)には、燃費向上の観点から、燃料噴射弁5が閉じられることにより、燃料の供給がストップされるようになっている。なお上記燃料噴射弁5に供給される燃料は、図外の高圧燃料ポンプから所定の燃料供給通路を介して供給される。
上記燃焼室4内に形成された混合気は、ピストン6によって圧縮されるとともに、所定のタイミングで実行される点火プラグ7の点火に伴い燃焼する。なお、上記燃料噴射弁5は、おおむね点火プラグ7の火花発生部に向けて燃料を噴射するように配置されている。これにより、燃料ないし混合気が火花発生部の周囲で層状化され、混合気の着火性が高められるようになっている。このため、低負荷時には、空燃比を大幅にリーンにすることができ、燃費性能が高められる。
上記共通吸気通路13には、各気筒の燃焼室4に吸入される空気(燃焼用空気)の流れ方向上流側から順に、その空気に含まれるダスト等の異物を除去するエアクリーナ14と、その空気の流量を検出するエアフローセンサ15(例えばホットワイヤ式エアフローセンサ)と、燃焼室4への吸入空気量を調節するためのスロットルバルブ16とが設けられている。なお、当実施形態では、スロットルバルブ16についていわゆるドライブ・バイ・ワイヤー方式が採用されており、図外のアクセルペダルの開度に応じた所定の制御信号が後述するコントロールユニットCから出力され、この制御信号に基づき作動する電気式のアクチュエータ16aがスロットルバルブ16を開閉することにより、燃焼室4への吸入空気量が調節されるようになっている。
上記サージタンク17は、上記共通吸気通路13を通じて導入される燃焼用空気の脈動を低減してその流れを安定化させるためのものであり、このサージタンク17には、その内部の燃焼用空気の圧力、つまり吸気圧力を検出する吸気圧センサ18が設けられている。そして、上記サージタンク17に導入された燃焼用空気は、そこから分岐しつつ下流側に延びる上記独立吸気通路19を通じてエンジン本体1Aの各燃焼室4へと流入する。なお、各独立吸気通路19には、スワールを生成するために燃焼室4への空気の流入方向を調整する空気流動制御弁29が設けられている。
上記エンジン本体1Aには、上記排気通路9の入口(排気ポート)を開閉するための排気弁8が設けられており、この排気弁8が開かれるのに応じて、上記燃焼室4で生成された燃焼ガス(排気ガス)が排気通路9側に排出されるようになっている。
上記排気通路9には、排気ガスの流れ方向上流側から順に、第1酸素センサ20、第1触媒コンバータ21、第2酸素センサ22、第2触媒コンバータ23が設けられている。そして、上記排気通路9と、その途中部に設けられた上記酸素センサ20,22や触媒コンバータ21,23と、後述するEGR装置24等により、エンジン1の排気系としての排気装置27が構成されている。
上記第1および第2の酸素センサ20,22は、それぞれ、例えば空燃比等を算出するために排気ガス中の酸素濃度を検出するものであり、酸素濃度の変化を電圧値の変化として検出し、その電圧信号を後述するコントロールユニットCに出力するいわゆるリニア酸素センサとして構成されている(なお、一方または両方が、空気過剰率λ=1近傍で信号出力が逆転するいわゆるラムダ酸素センサであってもよい)。
上記第1触媒コンバータ21は、詳細な図示は省略するが、いわゆる1ベッドタイプの触媒コンバータであって、その内部にHC、COおよびNOxを浄化するための三元触媒が装填されている。また、第2触媒コンバータ23は、直列2ベッドタイプのものであって、その上流側のベッドにはNOx吸蔵触媒が装填され、下流側のベッドにはNOx浄化触媒が装填されている。
上記排気装置27には、排気通路9内の排気ガスの一部をEGRガスとして吸気通路3に還流させるEGR装置24が設けられている。具体的に、EGR装置24は、排気通路9とサージタンク17とを連通させるEGR通路25と、このEGR通路25の途中部に設けられ、その内部を通過するEGRガスの流量を制御するEGRバルブ26とを有している。このEGR装置24は、主として、燃焼ガス温度を低下させてNOx発生量を低減するとともに、低負荷時におけるポンピング損失を低減して燃費性能を高めるために設けられている。
ただし、当実施形態では、エンジン1がアイドル状態になると、燃焼室4での混合気の燃焼が不安定になるのを防止するため、EGRバルブ26が閉じられてEGRガスの還流がストップされる。また、エンジン1の高回転時または高負荷時にも、エンジン出力を高めるためにEGRバルブ26が閉じられる。さらには、スロットルバルブ16が全閉にされる減速時にも、EGRバルブ26が閉じられる。
次に、エンジン1の制御系について説明する。エンジン1には、周知のCPUや各種メモリ等からなるコントロールユニットCが設けられており、このコントロールユニットCによりエンジン1の動作が統括的に制御されるようになっている。
具体的に、コントロールユニットCには、エンジン回転数センサ11によって検出されるエンジン回転数(またはクランク角)、水温センサ12によって検出される冷却水の水温、エアフローセンサ15によって検出される燃焼用空気の流量、吸気圧センサ18によって検出される吸気圧力、第1および第2の酸素センサ20、22によって検出される排気ガスの酸素濃度(空燃比)、図外のスロットルセンサによって検出されるアクセルペダルの開度等の種々の制御情報が入力される。そして、コントロールユニットCは、これら各種制御情報に基づいて、燃料噴射弁5の燃料噴射量および噴射タイミングの制御、点火プラグ7の点火時期の制御、スロットルバルブ16の開度の制御、EGRバルブ26の開度の制御、空気流動制御弁29の開度の制御、吸気弁2の開閉タイミングの制御等の、種々の制御動作を実行するように構成されている。
また、コントロールユニットCは、その機能要素として、主制御部C1、酸素センサ診断部C2、EGR装置診断部C3を有している。このうち、酸素センサ診断部C2およびEGR装置診断部C3は、上記酸素センサ20,22およびEGR装置24が故障しているか否かを診断する処理を実行するものであり、上記主制御部C1は、上記酸素センサ診断部C2およびEGR装置診断部C3の診断動作のタイミング等を制御するものである。
次に、これら各部C1,C2,C3によって行われる制御動作の概要について、図2を参照しながら説明する。図2は、エンジン1の運転状態や制御用の各種信号の経時変化を示すタイムチャートである。具体的に、図2中では、燃料カットの実行状態を示す燃料カット信号xzfc、酸素センサ20,22の検出値のモニタリング時間を示すディレイカウンタ信号ccutc、酸素センサ20,22の検出電圧値を示す酸素センサ電圧信号rox、EGR装置24に対するモニタリングの実行状態を示すEGRモニタ実行信号xegrex、そのモニタリングの完了を示すEGRモニタ完了信号xegrcp、EGRバルブ26の開度を示すバルブ開度信号pt、吸気圧センサ18の検出値に基づく吸気圧力の実測値を示す実測値信号mapb、上記EGRモニタ実行信号xegrexがONになってからEGRバルブ26が全閉状態に維持されている時間をカウントする閉時間信号cegrof、EGRバルブ26が開かれた時点からの経過時間をカウントする開時間信号cegron、上記吸気圧力の実測値mapbを積算した値を示す検出積算値信号dltmapsm、この検出積算値信号dltmapsmのうちEGRバルブ26が閉のときの検出値の平均を示すOFF時吸気圧平均値信号dltmapfdc、EGRバルブ26が開のときの検出値の平均を示すON時吸気圧平均値信号dltmapodc、これら2つの吸気圧の差を示す差圧平均値信号dltmapadcが示されている。なお、酸素センサ20,22の検出値を示す酸素センサ電圧信号roxは、各酸素センサ20,22に対応して本来2種類存在するが、両者の電圧信号は概ね同様の波形となるため、図中では1種類の波形のみを代表して示している。
まず、EGR装置診断部C3によって行われるEGR装置24の故障診断の概要について説明する。この故障診断は、EGRバルブ26が全閉となる運転状態にあるときに、このEGRバルブ26を一時的に所定の故障判定用開度まで開いてEGRガスを吸気通路3に還流させ、それによって生じる吸気圧力の変化を検出することで行う。具体的に、EGR装置診断部C3は、EGRバルブ26を開く前(バルブ全閉時)に吸気圧センサ18によって検出される燃焼用空気の圧力(吸気圧力)と、EGRバルブ26を開いたときに同じく吸気圧センサ18によって検出される吸気圧力とを比較し、その差圧が所定の閾値以上であればEGR装置は正常であると判定し、閾値未満であればEGR装置は異常であると判定する。
すなわち、図2中のEGRバルブ開度信号ptに示すように、全閉状態にあるEGRバルブ26が時点t4において一時的に開かれると、吸気通路3に所定量のEGRガスが供給され、その分だけ吸気圧センサ18による検出圧力値(吸気圧実測値mapb)が高くなる。したがって、EGRバルブ26が正常であれば、当該バルブ26が指定通りの開度まで開いてEGRガスの還流が起きることにより、その還流量に応じた吸気圧力差(差圧平均値dltmapadcにおけるΔP)が生じることになる。
これに対し、例えばEGRガス中の固体成分ないしは粘着成分等がEGRバルブ26の可動部に付着するなどして、EGRバルブ26が閉塞しまたは正常に開弁しない場合は、EGRガスの還流量が正常時よりも減少するので、上記吸気圧力差ΔPは小さくなる。そこで、EGR装置診断部C3は、この吸気圧力差ΔPの大小を調べることにより(つまり吸気圧力差ΔPの大きさを所定の閾値ΔPtと比較することにより)、上記EGRバルブ26が正常に作動したか否かを判定し、その結果、上記EGRバルブ26を含んだEGR装置24の正常・異常を診断する。
ところで、上記EGR装置24の故障診断は、EGRバルブ26の全閉時に行われるため、この故障診断を行い得るタイミングとしては、上述したように、アイドル時、高回転時もしくは高負荷時、減速時の3つのタイミングがあり得る。しかしながら、アイドル時にEGRガスを還流させると混合気の燃焼安定性が損なわれ、また、高回転時もしくは高負荷時にEGRガスを還流させるとエンジンの出力トルクの変動ないしはサージングが発生する。このため、上記EGR装置診断部C3は、このような事態を回避すべく、より不具合の少ない減速時にEGR装置24の故障診断を実行する。
以上のように、当実施形態では、減速時にEGRバルブ26を一時的に開放し、そのときの吸気圧力の変化に基づいてEGR装置24の故障を診断するEGR装置診断手段が、上記コントロールユニットCのEGR装置診断部C3によって構成されている。
次に、上記酸素センサ診断部C2によって行われる酸素センサ20,22の故障診断の概要について説明する。この故障診断は、上記EGR装置24の故障診断を行う場合と同じく、減速時に行われる。すなわち、減速時には、燃料の供給をストップする燃料カットが実行されるため、その燃料カットにより生じる排気ガス中の酸素濃度の変化を正常に検出することができるか否かにより、酸素センサ20,22の故障の有無を判定する。
具体的に、上記酸素センサ診断部C2は、減速時に燃料カットが実行されてから所定期間の間(図2の時点t1からt4までの間)、上記酸素センサ20,22から入力される検出信号(当実施形態では電圧値)をモニタリングしてその波形の勾配を算出することにより、上記排気通路9を通る排気ガス中の酸素濃度の変化を特定し、その変化率(電圧変化率)が所定の閾値以上であるか否かに基づいて、上記酸素センサ20,22の故障の有無をそれぞれ診断するように構成されている。
すなわち、減速時に燃料カットが実行されると、燃焼に用いられる酸素の消費量がゼロになり、排気ガス中に含まれる酸素の濃度が急激に上昇するため、上記酸素センサ20,22が正常であれば、その検出値(電圧値)は所定値以上の変化率(勾配)をもって変化する。なお、当実施形態における酸素センサ20,22は、酸素濃度が濃くなるほど電圧値が低くなるように構成されている。このため、図2に示すように、燃料カット後の酸素センサ20,22の検出値(酸素センサ電圧信号rox)は、燃料カットが実行されてから所定のタイムラグの後に急激に低下することになる(図中のA部)。そこで、上記酸素センサ診断部C2は、燃料カットが実行される時点t1から、モニタリング用ディレイカウンタccutcによるカウントが終了する(カウント値がゼロになる)時点t4までの間、上記酸素センサ20,22の検出値をモニタリングすることにより、上記A部における電圧変化率を算出し、その絶対値が所定の閾値以上であるか否かに基づいて、上記酸素センサ20,22の故障の有無を判定する。
以上のように、当実施形態では、減速時に燃料カットが実行されたときに、酸素センサ20,22の検出値の変化に基づきその故障を診断する酸素センサ診断手段が、上記コントロールユニットCの酸素センサ診断部C2によって構成されている。
ところで、当実施形態において、上記酸素センサ診断部C2による酸素センサ20,22の故障診断と、上記EGR装置診断部C3によるEGR装置24の故障診断とは、ともに減速時に行われる。しかしながら、減速時にこれら2つの故障診断を略同時に開始してしまうと、上記酸素センサ診断部C2による診断期間中に、上記EGR装置診断部C3により一時的に開放されるEGRバルブ26の開度変化が起きることにより、このEGRバルブ26の開度変化による外乱が酸素センサ20,22の検出値に影響し、その故障の有無を適正に判断できなくなるおそれがある。
すなわち、EGRバルブ26が一時的に開放されて吸気通路3と排気通路9とが連通すると、排気通路9内の排気ガスが吸気通路3側の負圧の影響で逆流する等により、燃料カット後に燃焼室4から排出される酸素濃度の濃い空気が酸素センサ20,22の設置部まで速やかに到達しなくなり、その結果として酸素センサ20,22の検出値の変化が緩やかになる。したがって、上記酸素センサ診断部C2により酸素センサ20,22の検出値がモニタリングされている期間中(つまり燃料カットの実行直後からディレイカウンタccutcのカウントが終わるまでの期間中;t1〜t4)に、上記EGRバルブ26が開放されてしまうと、上記酸素センサ20,22の検出値の変化が通常よりも緩やかになることにより、当該センサ20,22が誤って故障と診断されるおそれがある。
そこで、上記コントロールユニットCの主制御部C1は、上記酸素センサ診断部C2が酸素センサ20,22の検出値をモニタリングしている期間(t1〜t4)の間、EGRバルブ26を開放する旨の制御信号が上記EGR装置診断部C3から出されるのを禁止することにより、上記EGRバルブ26の開放期間(t4〜t6)が上記モニタリング期間(t1〜t4)からずれるように制御する。すなわち、当実施形態では、上記EGR装置診断部C3がEGRバルブ26を一時的に開放させる期間(t4〜t6)と、上記酸素センサ診断部C2による故障診断の期間(t1〜t4)とが重複しないように、上記酸素センサ診断部C2およびEGR装置診断部C3の動作タイミングを設定することにより、上記酸素センサ診断部C2による診断期間中(t1〜t4)に、上記EGR装置診断部C3により開閉されるEGRバルブ26の開度変化が起きないように制御する制御手段が、上記コントロールユニットCの主制御部C1によって構成されている。
次に、以上のような主制御部C1、酸素センサ診断部C2、およびEGR装置診断部C3を含んだコントロールユニットCによる制御動作の具体的内容を、図3のフローチャートに基づき説明する。エンジン1が始動してこのフローチャートがスタートすると、コントロールユニットCは、まず、酸素センサ20,22の故障診断の回数を示す酸素センサ診断回数Nをゼロにリセット(N=0)する処理を実行する(ステップS1)。そして、次のステップS3において、現在の運転状態が減速中でかつ燃料カット(F/C)中であるか否かを判定する。具体的に、コントロールユニットCは、図外のアクセルペダルの開度が0%であること、および、エンジン1の回転数が所定回転数(例えば1000rpm)以上であることの2つの条件が成立したときに減速中であると判定し、さらに、燃料噴射弁5からのガソリンの噴射量がゼロ(つまり燃料噴射弁5の開度が0%)であるときに燃料カット中であると判定する。
上記ステップS3でYESと判定されて減速中かつ燃料カット中であることが確認された場合、コントロールユニットCは、酸素センサ20,22の故障診断回数Nがあらかじめ定められた所定回数Ntより小さいか否かを判定し(ステップS5)、ここでYESと判定されてN<Ntであることが確認された場合には、次のステップS7に移行して、酸素センサ20,22の故障を診断する酸素センサ診断処理を実行する。一方、上記ステップS5でNOと判定されて故障診断回数Nが上記所定回数Ntに達していることが確認された場合には、上記酸素センサ診断処理(ステップS7)を実行せずにステップS11までジャンプして、EGR装置24の故障を診断するEGR装置診断処理を実行する。
以上のように、これまでのフローによると、少なくともエンジン1の始動直後においては、上記ステップS7およびS11の2つの診断処理のうち、酸素センサ20,22の故障を診断する酸素センサ診断処理(S7)から先に開始され、EGR装置24の故障を診断するEGR装置診断処理(S11)はその後で開始される。一方、その後酸素センサ診断処理(S7)がNt回実行されると(ステップS5でNO)、上記2つの診断処理の優先度が入れ替えられ、EGR装置診断処理(S11)から優先的に実行されるようになっている。
ただし、図3のフローチャートでは、EGR装置診断処理(S11)が優先される後者の状態になると、もう一方の酸素センサ診断処理(S7)は省略され、酸素センサ20,22の故障診断は実行されない。すなわち、酸素センサ20,22の故障診断を行うには、燃料カット後の比較的短い期間で変化するセンサ出力値の変化をモニタリングする必要があるため、先にEGR装置24の診断を行ってしまうと、酸素センサ20,22の故障診断を後で行うのは時間的に難しいと考えられる。そこで、当実施形態では、上記酸素センサ診断処理(S7)が所定回数(Nt回)実行された場合、その時点で既に何度も診断されている上記酸素センサ20,22の故障診断を無理に実行することなく、もう一方のEGR装置24の診断処理(EGR装置診断処理)のみを優先的に実行するようにしている。
なお、上記のようにEGR装置診断処理(S11)が優先される状態になったときのタイムチャートを図6に示している。このタイムチャートによると、燃料カットの実行時点t1でEGR装置24に対するモニタリングが開始され、その分、図2のタイムチャートの場合よりも早い時点からEGRバルブ26の開閉動作等が行われていることが分かる(なお、図6では、図2中のt3〜t6に対応する時点をt3’〜t6’としている)。また、図6では酸素センサ20,22をモニタリングするためのディレイカウンタccutcが働いておらず、酸素センサ20,22の故障診断が行われていないことが分かる。
次に、上記ステップS7で実行される酸素センサ診断処理の具体的手順について、図4のサブルーチンを用いて説明する。このサブルーチンがスタートすると、コントロールユニットCは、まず、図2の時点t1(燃料カットの実行直後)から酸素センサ20,22のモニタリングを開始し(ステップS21)、次のステップS23でYESと判定されて所定のモニタ所要時間が経過するまで(つまり図2中のディレイカウンタccutcのカウント値がゼロになる時点t4まで)モニタリングを継続することにより、上記酸素センサ20,22の検出電圧の変化を調べる。そして、モニタリングが終了すると、その電圧値の波形(図2中の信号rox)に基づいて、電圧値が急激に変化している箇所(A部)の電圧変化率の絶対値Gaを算出する処理を実行する(ステップS25)。
次いで、コントロールユニットCは、上記ステップS25で算出した電圧変化率Gaが、あらかじめ定められた閾値Gat以上であるか否かを判定することにより、上記酸素センサ20,22の故障の有無を判定する処理を実行する(ステップS27)。そして、ここでYESと判定されてGa≧Gatであることが確認された場合、つまり、酸素センサ20,22の検出電圧の変化率が燃料カット後の酸素濃度の増大に見合った適正な値であることが確認された場合には、酸素センサ20,22が正常であると判定し、その故障の有無を示す酸素センサ故障フラグF1に「0」を入力(F1=0)する処理を実行する(ステップS29)。一方、これとは逆にステップS27でNOと判定されてGa<Gatであることが確認された場合には、酸素センサ20,22は故障していると判定し、上記酸素センサ故障フラグF1に「1」を入力(F1=1)する処理を実行する(ステップS31)。
なお、ここでは2つの酸素センサ20,22の故障診断についてまとめて記載したが、その処理は酸素センサ20,22ごとに個別に行われる。すなわち、酸素センサ20,22ごとに個別に電圧変化率Gaが算出され、その大小に基づいて、各センサに対応した故障フラグF1にそれぞれ「0」または「1」が入力される。
以上のような処理を経て酸素センサ診断処理(ステップS7)が終了すると、コントロールユニットCは、図3のステップS9に移行して、酸素センサ20,22に対する故障診断回数Nをインクリメント(N=N+1)する処理を実行した後に(ステップS9)、次のステップS11において、EGR装置24の故障を診断するEGR装置診断処理を実行する。
なお、図3のフローチャートでは、酸素センサ診断処理(ステップS7)の後にEGR装置診断処理(ステップS11)が実行される手順になっているが、図2のタイムチャートにおいて、酸素センサ20,22に対するモニタリング期間(t1〜t4)と、EGR装置24に対するモニタリング期間(t2〜t6)とが一部重複していることからも分かるように、上記2つの診断処理(S7,S11)は、部分的に並行して実行することが可能である。要は、EGRバルブ26の開放期間(t4〜t6)と、酸素センサ20,22の診断期間(t1〜t4)との重複さえ避けるようにすれば、上記2つの診断処理の開始時期は適宜設定可能である。
次に、上記ステップS11で実行されるEGR装置診断処理の具体的手順について、図5のサブルーチンを用いて説明する。このサブルーチンがスタートすると、コントロールユニットCは、まず、吸気圧センサ18の検出値に基づいて、EGRバルブ26が全閉のときの吸気圧力P1を取得する処理を実行する(ステップS41)。具体的には、EGR装置24に対するモニタリングの開始時点(図2の時点t2)より所定時間遅れた時点t3から、EGRバルブ26が開かれる時点t4までの間、上記吸気圧センサ18の実測値を積算してその平均をとることにより、上記バルブ閉時の吸気圧力P1を算出する。
次いで、コントロールユニットCは、図2の時点t4において、EGRバルブ26を所定の故障判定用開度まで開く処理を実行した後に(ステップS43)、そのバルブ開放状態における吸気圧センサ18の検出値に基づいて、EGRバルブ26が開かれたときの吸気圧力P2を取得する処理を実行する(ステップS45)。具体的には、EGRバルブ26を開いた時点t4より所定時間遅れた時点t5から、EGRモニタの完了時点t6までの間、上記吸気圧センサ18の実測値を積算してその平均をとることにより、上記バルブ開時の吸気圧力P2を算出する。なお、上記ステップS41,S45で吸気圧力P1,P2を所得する際に、実測値の積算を、時点t2またはt4より所定時間遅れた時点t3またはt5から開始するのは、吸気圧力が安定するのを待つためである。
以上のようにしてEGRバルブ26の全閉時および開放時の吸気圧力P1,P2が取得されると、コントロールユニットCは、次のステップS47に移行して、上記両吸気圧力P1,P2の差圧ΔP(=P2−P1)を算出する処理を実行するとともに、その差圧ΔPが、あらかじめ定められた閾値ΔPt以上であるか否かを判定することにより、EGR装置24の故障の有無を判定する処理を実行する(ステップS49)。そして、ここでYESと判定されてΔP≧ΔPtであることが確認された場合、つまり、吸気圧力差ΔPがEGRバルブ26の開度変化に見合った適正な値であることが確認された場合には、このEGRバルブ26を含むEGR装置24が正常であると判定し、その故障の有無を示すEGR装置故障フラグF2に「0」を入力(F2=0)する処理を実行する(ステップS51)。一方、これとは逆にステップS49でNOと判定されてΔP<ΔPtであることが確認された場合には、EGR装置24は故障していると判定し、上記EGR装置故障フラグF2に「1」を入力(F2=1)する処理を実行する(ステップS31)。
以上のような処理を経てEGR装置診断処理(ステップS11)が終了すると、コントロールユニットCは、図3のステップS13に移行して、上記酸素センサ20,22およびEGR装置24の故障診断結果を、上記各故障フラグF1,F2の値に基づき所定の記憶媒体等に記憶させる処理を実行する。なお、ここで記憶された故障診断結果は、例えば車両の整備時等にその異常の有無を確認するための診断データとして利用される。
その後、コントロールユニットCは、エンジン1が停止しているか否かを判定し(ステップS15)、ここでNOと判定されてエンジン1が稼働中であることが確認された場合に、上記ステップS3(減速中かつ燃料カット中かを判定するステップ)に戻り、その後の処理を上記と同様に繰り返すことにより、エンジン1が継続運転されている間、上記酸素センサ20,22およびEGR装置24の故障を繰り返し診断する。
以上説明したように、上記実施形態では、エンジン1の排気通路9を通る排気ガス中の酸素濃度を検出する酸素センサ20,22と、上記排気通路9と吸気通路3とをEGRバルブ26の開閉に応じて連通させるEGR装置24とを備えたエンジン1の排気装置27が故障しているか否かを診断するために、減速時に燃料カットが実行されたときに、上記酸素センサ20,22の検出値の変化に基づきその故障を診断する酸素センサ診断処理(ステップS7)と、減速時にEGRバルブ26を一時的に開放し、そのときの吸気圧力の変化に基づいて上記EGR装置24の故障を診断するEGR装置診断処理(ステップS11)とを行うようにした。そして、上記酸素センサ診断処理における診断期間中(図2中の時点t1〜t4)に、上記EGR装置診断処理時のEGRバルブ26の開度変化が起きないように、上記2つの診断処理の実行タイミングを設定した。このような構成によれば、EGR装置24の故障診断と酸素センサ20,22の故障診断とを互いに影響し合わない適正なタイミングで行うことができ、排気装置27に対する故障診断の精度を効果的に向上させることができるという利点がある。
すなわち、上記実施形態では、酸素センサ20,22の故障診断期間中に、EGR装置24の故障診断のために一時的に開放されるEGRバルブ26の開度変化が起きないように、両者の故障診断をタイミングをずらして実行するようにしたため、EGRバルブ26の開度が変化することによる圧力変動が上記酸素センサ20,22の検出値に影響してその故障診断の精度が悪化するのを効果的に防止でき、エンジン1の排気装置27に対する故障診断の精度を向上させてその信頼性をより高めることができる。
また、上記実施形態では、図3のフローチャートに示したように、少なくともエンジン1の始動直後は、上記2つの診断処理のうち酸素センサ診断処理(ステップS7)から先に実行することにより、酸素センサ20,22の故障を優先的に診断するようにしたため、燃料カット後の比較的短い時間で診断する必要のある上記酸素センサ20,22の故障を確実に診断できるという利点がある。
すなわち、減速時に燃料カットが実行されると、燃焼に用いられる酸素の消費量がゼロになり、排気ガス中の酸素濃度が比較的速やかに上昇するため、このときの酸素センサ20,22の検出値の変化に基づいて同センサの故障を診断する上記酸素センサ診断処理は、燃料カット後の比較的短い時間の間に実行する必要がある。このため、上記構成のように、少なくともエンジン1の始動直後において上記酸素センサ診断処理を優先的に実行する(つまりEGR装置診断処理よりも先に開始する)ようにすれば、上記のように時間的制約のある酸素センサ20,22の故障診断を確実に実行ことができる。
ただし、上記酸素センサ診断処理を常に優先的に実行すると、その後に行われるEGR装置診断処理でEGR装置24の故障を診断する回数が相対的に少なくなってしまうおそれがある。すなわち、EGR装置診断処理ではEGRバルブ26を一時的に開放する必要があるが、このEGRバルブ26の開放動作は、上記酸素センサ20,22の診断期間(図2の時点t1〜t4)が終了してからでないと行うことができないため、減速状態(アクセル開度が0%でかつエンジン回転数が所定値以上である状態)の継続時間が短く、燃料カットがわずかな時間しか実行されなかった場合には、上記EGRバルブ26を一時的に開放するための時間が足りず、EGR装置24の故障診断が行えなくなる。このため、EGR装置診断処理を常に酸素センサ診断処理の後に行うと、EGR装置24の故障診断回数が、酸素センサ20,22の故障診断回数よりも少なくなり、エンジン1の運転時間が長くなるにつれ、その回数の差が徐々に拡大していくと考えられる。
このような問題に対し、上記実施形態では、酸素センサ診断処理(ステップS7)が所定回数(Nt回)実行されると、次からは先ずEGR装置診断処理(ステップS11)から実行して酸素センサ診断処理は省略することにより、これら2つの診断処理の優先度を入れ替えるようにしたため、酸素センサ20,22の故障ばかりが多く診断されてEGR装置24の故障診断回数が極端に少なくなるといった事態を有効に回避でき、エンジン1の継続運転中に、酸素センサ20,22およびEGR装置24の故障をそれぞれ適正な頻度で確実に診断できるという利点がある。
また、上記のように酸素センサ20,22およびEGR装置24に対する故障診断の頻度をそれぞれ適正に保つことは、法的規制を遵守する上でも有効である。例えば、車載コンピュータが行う自己故障診断(On-board diagnostics)に関する法的規制として、OBDIIと称される規制が存在するが、このOBDIIでは、例えば排気ガスに関するセンサー類やEGRシステム等の故障を診断する際の実行比率を一定値以上にすべき旨が定められている。したがって、酸素センサ20,22およびEGR装置24の故障診断の優先度を途中で入れ替えることで両者の実行頻度をそれぞれ適正に維持するようにした上記実施形態の構成は、上記のような法的規制を確実に遵守できるという点で有利である。
なお、上記実施形態では、酸素センサ診断処理(ステップS7)が所定回数実行されると、もう一方のEGR装置診断処理(ステップS11)を優先的に実行(酸素センサ診断処理は省略)するようにし、その状態をエンジン停止まで継続するようにしたが、上記のように優先度を入れ替えた後に、EGR装置診断処理が所定回数実行されると、再び元の状態、つまり酸素センサ診断処理から先に開始される状態に復帰させるようにしてもよい。このようにすれば、エンジン1の継続運転時間にかかわらず、上記2つの診断処理の頻度に大きさ差が生じるのを確実に回避できるという利点がある。
また、上記実施形態では、酸素センサ診断処理(ステップS7)が所定回数実行されると、もう一方のEGR装置診断処理(ステップS11)のみを実行して上記酸素センサ診断処理は省略するようにしたが、例えばEGR装置24の故障診断に要する時間を図2の例よりもかなり短縮できるような場合には、上記EGR装置診断処理の実行後に、さらに酸素診断処理を実行することも可能である。
また、上記実施形態では、減速時に閉鎖されるEGRバルブ26を一時的に開放し、そのときの圧力変化に基づいてEGR装置24の故障を診断するようにしたが、車両の種類や運転状況によっては、減速時にEGRバルブ26が開放される場合もあり得るため、このような場合には、EGRバルブ26を一時的に閉鎖してそのときに生じる圧力変化に基づき故障診断を行うようにすればよい。