JP5159561B2 - エポキシ樹脂系組成物及びエポキシ樹脂系薄膜 - Google Patents

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Description

本発明は、発光素子の薄膜封止、液晶表示装置のような表示装置の表面コーティング等を形成するのに用いられるエポキシ樹脂系組成物、この組成物を硬化させてなるエポキシ樹脂系薄膜、この薄膜で封止された発光素子、エポキシ樹脂系薄膜の形成方法、及びエポキシ樹脂系薄膜の黄着色防止方法に関する。
近年、携帯電話、デジタルカメラ、ノート型パソコン等の携帯型電子機器の発展等に代表されるように、半導体素子(トランジスタ・電界効果トランジスタ(FET)、サイリスタ(SCR)、ダイオード(整流器))、光半導体(フォトカプラ・発光ダイオード(LED)・フォトインタラプタ等)等の電子部品は、高密度化、高集積化に伴って、小型化、薄型化の傾向にある。半導体素子を組み合わせた半導体パッケージに関しては、実装面積をとらずに高集積できる手法として、BGA(ボール・グリッド・アレー)、CSP(チップ・サイズ・パッケージ)、COG(チップ・オン・グラス)、COB(チップ・オン・ボード)、MCM(マルチ・チップ・モジュール)、LGA(ランド・グリッド・アレイ)等の手法が開発されている。また、LED光半導体に関しても面実装が可能なチップタイプが開発されている。
これらの半導体素子は、それ自身の発熱が大きいため、樹脂封止材としては、作業性、硬化物の電気的特性、機械的特性、接着性、耐水性、耐溶剤性だけでなく、耐熱性にも優れている必要があり、通常、液状エポキシ樹脂が使用される。
このような液状エポキシ樹脂の硬化剤としては、粘度が低いために作業性に優れ、かつ半導体素子等への濡れ性や密着性に優れるとともに、電気的特性、機械的特性、耐熱性に優れることから、液状の酸無水物が多用されており、用途に応じてその種類が適宜選択される。例えば、半導体パッケージのエポキシ樹脂封止材用の酸無水物硬化剤としては、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸等が使用される。
封止材は、通常、素子が基板上にベア・チップ実装されたのち、ディスペンサー方式や、常圧スクリーン印刷又は真空スクリーン印刷方式で薄膜状(例えば2mm以下)に塗布されたり、ポッティングされたり、半導体素子と基板の隙間に含浸されたりする。さらに、通常は、封止材を塗布したもの、ポッティングしたもの又は含浸したものを所定期間貯蔵した後に、空気循環式オーブン等の硬化炉にて加熱硬化が行われる。
しかし、従来の酸無水物硬化剤を用いた液状エポキシ樹脂系組成物を硬化させて薄膜とする場合、硬化直後の黄色着色や、硬化物のガラス転移温度(Tg)の低下や、クラック発生等の問題がある。中でも、無色透明性が要求される用途では、黄着色の防止が解決すべき技術課題である。そのため、酸無水物硬化剤を用いたエポキシ樹脂系薄膜を使用できる用途は黄着色の影響が少ない用途(赤色LED等)に限られており、黄着色が品質に影響を及ぼす用途(青色や白色LED等)への使用は困難であった。
これらの問題を解決するために、不純物の量を特定量以下にしたメチルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物、又はメチルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物とノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物の混合物を硬化剤とするエポキシ樹脂系組成物が提案されている(特許文献1)。しかし、このエポキシ樹脂系組成物は硬化促進剤がイミダゾール系のものを使用した場合、初期無色透明性(即ち、硬化直後のイエローインデックスの値が低く、無色透明であること)や耐熱黄変性(即ち、上記熱による黄着色を抑制する性質)の点で更に改善が求められている。
一方、DBU(1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデカ-7-エン)、DBN (1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ノナ-5-エン)等の環状のアミジン構造を有する化合物やアンモニウム塩系硬化促進剤は硬化性が良いことからLED用途等に広く使用されている。しかし、これらの硬化促進剤を用いたエポキシ樹脂硬化物は、薄膜の状態で硬化させた場合の初期無色透明性が悪化すると言う難点がある(後述の比較例5を参照)。
硬化剤として酸無水物、硬化促進剤として4級ホスホニウム塩を含む積層板用エポキシ樹脂組成物は硬化速度が速く成形性に優れることが開示されている(特許文献2)。しかし、同文献は、エポキシ樹脂組成物を硬化させて薄膜とする場合の硬化物の黄着色の課題を解決する手段については何ら示唆していない。事実、同文献で開示されている4級ホスホニウム塩として一般に入手可能なテトラブチルホスホニウムブロマイドを硬化促進剤として用いたエポキシ樹脂硬化物は、薄膜の状態で硬化させた場合の初期無色透明性が著しく悪化すると言う難点がある(後述の比較例4を参照)。
また、硬化剤として酸無水物を含み、硬化促進剤としてテトラブチルホスホニウムオクテートを含む液状エポキシ樹脂系組成物は、封止材として用いたときに透明性に優れることが開示されている(特許文献3)。しかし、エポキシ樹脂として脂環式エポキシ樹脂を使用した組成物の場合、その薄膜硬化物は初期無色透明性が著しく悪化すると言う難点がある(後述の比較例1参照)。
また、硬化剤として酸無水物を、硬化促進剤として4級ホスホニウムの有機酸塩を含む半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、硬化時の着色がなく、経時熱着色が少ないことが開示されている(特許文献4)。しかし同文献は、極めて広範な4級ホスホニウムの有機酸塩を開示しているものの、具体的に有機スルホン酸塩の記述はなく、また、エポキシ樹脂組成物を硬化させて薄膜とする場合の黄着色の課題及びその課題を解決する手段については何ら示唆していない。
上述の特許文献1〜4の実施例において用いられるエポキシ樹脂は、いずれもビスフェノールA型エポキシ樹脂である。
一方、チップタイプのLED、特に半導体素子自体が紫外線を放射する場合や屋外で紫外線に曝されることが多い用途の封止材料には、無色透明性や、高温及び高エネルギーの光照射条件下での経時着色の防止が要求されることから、エポキシ樹脂として、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートに代表される分子内に芳香環を持たない化合物が適用され、酸無水物としては、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸のような非芳香族系酸無水物が適用される。
特開2003−002951号公報 特開平11−158251号公報 特開平7−196774号公報 特開2005−263843号公報
本発明は、無色透明であり、かつ耐熱黄変性及び耐紫外線性に優れるエポキシ樹脂系薄膜、このような薄膜を形成できるエポキシ樹脂系組成物を提供することを主な課題とする。
本発明者らは、上記の課題を解決するために検討を重ねた結果、次の知見を得た。
(i)耐紫外線性に優れるエポキシ樹脂系薄膜を得るためエポキシ樹脂として脂環式エポキシ樹脂を選択し、酸無水物系硬化剤として非芳香族系の酸無水物を選択した。
(ii)脂環式エポキシ樹脂を従来の非芳香族系酸無水物系硬化剤と従来の硬化促進剤を用いて硬化すると、厚みのある成型物(例えば直径5mmの砲弾型LEDや厚膜)は着色の問題は認められなかったが、薄膜硬化物では着色する現象がみられた。
(iii) (a)脂環式エポキシ樹脂、(b)非芳香族系酸無水物系硬化剤、及び(c)特定の硬化促進剤を混合して得られたエポキシ樹脂系組成物を用いると無色透明薄膜が得られた。
(iv)得られた薄膜は、耐熱黄変性及び耐紫外線性に優れるものであった。
本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、下記のエポキシ樹脂系組成物、該組成物を硬化して得られる薄膜などを提供するものである。
項1. (a)脂環式エポキシ樹脂、(b)非芳香族系酸無水物系硬化剤、及び(c)下記一般式(1)
Figure 0005159561
[式中、R〜Rは、同一又は異なって、それぞれアルキル基、アルケニル基、アリール基又はアラルキル基を示す。]
で表されるホスホニウムカチオンと有機スルホン酸のアニオンとの塩からなる硬化促進剤を含有するエポキシ樹脂系組成物。
項2. 前記有機スルホン酸のアニオンが、下記一般式(2)
Figure 0005159561
[式中、Rは、炭素数1〜16の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を示す。]
で表される脂肪族スルホン酸アニオン、及び一般式(3)
Figure 0005159561
[式中、R〜R10は、同一又は異なって、それぞれ水素原子、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子を示す。]
で表される芳香族スルホン酸アニオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオンである請求項1に記載のエポキシ樹脂系組成物。
項3. 前記有機スルホン酸のアニオンが、一般式(2)で表される脂肪族スルホン酸アニオンである項1又は2に記載のエポキシ樹脂系組成物。
項4. 前記一般式(1)におけるR〜Rが、同一又は異なって、炭素数1〜16の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基である項1〜3のいずれかに記載のエポキシ樹脂系組成物。
項5. 前記一般式(1)におけるR〜Rが、全てn-ブチル基である項1〜4のいずれかに記載のエポキシ樹脂系組成物。
項6. 前記(a)脂環式エポキシ樹脂が、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートである項1〜5のいずれかに記載のエポキシ樹脂系組成物。
項7. 前記(b)非芳香族系酸無水物系硬化剤が、3−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物及び4−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種である項1〜6のいずれかに記載のエポキシ樹脂系組成物。
項8. 前記(b)非芳香族系酸無水物系硬化剤の含有量が、エポキシ樹脂系組成物中のエポキシ基と酸無水物基との当量比が0.6〜1.4となる量である項1〜7のいずれかに記載のエポキシ樹脂系組成物。
項9. 前記一般式(1)で表されるホスホニウムカチオンと有機スルホン酸のアニオンとの塩が、一般式(1)で表されるホスホニウムの水酸化物と有機スルホン酸との脱水反応により得られる塩である項1〜8のいずれかに記載のエポキシ樹脂系組成物。
項10. 前記項1〜9のいずれかに記載のエポキシ樹脂系組成物を基体上に塗布し、塗膜を硬化させて、厚さ1mm以下の薄膜を形成することを特徴とするエポキシ樹脂系薄膜の形成方法。
項11. 前記項10に記載の形成方法により形成される厚さ1mm以下のエポキシ樹脂系薄膜。
項12. 前記項1〜9のいずれかに記載のエポキシ樹脂系組成物を含むディスプレイ用コーティング材。
項13. 前記項1〜9のいずれかに記載のエポキシ樹脂系組成物を含む発光素子の封止材。
項14. エポキシ樹脂系組成物を硬化して得られるエポキシ樹脂系薄膜の黄着色を防止する方法であって、硬化促進剤として、(c)下記一般式(1)
Figure 0005159561
[式中、R〜Rは、同一又は異なって、アルキル基、アルケニル基、アリール基又はアラルキル基を示す。]
で表されるホスホニウムカチオンと有機スルホン酸のアニオンとの塩を用いることを特徴とする方法。
項15. (a)脂環式エポキシ樹脂、(b)非芳香族系酸無水物系硬化剤、及び(c)下記一般式(1)
Figure 0005159561
[式中、R〜Rは、同一又は異なって、アルキル基、アルケニル基、アリール基又はアラルキル基を示す。]
で表されるホスホニウムカチオンと有機スルホン酸のアニオンとの塩からなる硬化促進剤を配合して得られるエポキシ樹脂系組成物。
項16. (b)非芳香族系酸無水物系硬化剤及び(c)下記一般式(1)
Figure 0005159561
[式中、R〜Rは、同一又は異なって、それぞれアルキル基、アルケニル基、アリール基又はアラルキル基を示す。]
で表されるホスホニウムカチオンと有機スルホン酸のアニオンとの塩からなる硬化促進剤を含有する硬化剤組成物。
本発明の組成物は、脂環式エポキシ樹脂と非芳香族系酸無水物硬化剤と硬化促進剤とを含む組成物であって、硬化促進剤として上記一般式(1)で表されるホスホニウムカチオンと特定の有機スルホン酸のアニオンの塩を含む。これにより、この組成物を硬化させて得られる薄膜は、硬化直後の無色透明性に優れ、かつ熱や紫外線により黄変し難いものとなる。
発光素子の封止膜や表示装置の硬質コーティング膜には、発光素子、液晶バックライト、プラズマ発光などからもたらされる熱や光、用途によっては、太陽光線からくる紫外線によって黄変し難いことが求められる。本発明のエポキシ樹脂系組成物を硬化させてなる薄膜は、このような用途に好適に使用できる。
例えば、白色発光ダイオードはクリアな白色光を持続させるために封止材が無色透明で経時的に黄変しないことが必要であるが、従来のエポキシ樹脂系組成物を用いて薄膜封止すると、硬化直後に黄着色し易いため薄膜封止材として不適切であった。本発明の組成物を封止材として用いれば、無色透明性であり、耐熱性及び耐紫外線性に優れた薄膜で封止した白色発光ダイオードが実現し得る。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のエポキシ樹脂系組成物は、基本的には、(a)脂環式エポキシ樹脂、(b)非芳香族系酸無水物系硬化剤、及び(c)上記一般式(1)で表されるホスホニウムカチオンと有機スルホン酸のアニオンとの塩からなる硬化促進剤を含む組成物である。
(a)脂環式エポキシ樹脂
脂環式エポキシ樹脂としては、分子内に2以上のエポキシ基を有し、かつ、エポキシシクロヘキシル基やエポキシノルボルニル基に代表される脂環式エポキシ基を有する化合物を使用できる。例えば、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、アジピン酸ジ(3,4−エポキシ−6―メチルシクロヘシルメチル)、ヘキサヒドロフタル酸ジ(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)、ヘキサヒドロイソフタル酸ジ(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)、ヘキサヒドロテレフタル酸ジ(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)、ヘキサヒドロフタル酸ジ(3,4−エポキシシクロペンチルメチル)、ビニルシクロヘキセンジエポキサイド、1,2:8,9−ジエポキシリモネンのような脂環式エポキシ樹脂が挙げられる。
これらの中でも、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートを用いることにより、低粘度で作業性の良好なエポキシ樹脂系組成物が得られ、その硬化物は耐熱性に優れるとともに、紫外線による経時着色を防止できる。
脂環式エポキシ樹脂は単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。
また、本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲で、他のエポキシ樹脂、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物のジグリシジルエーテル、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物のジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールADジグリシジルエーテル、ナフタレンジオールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、水素化ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、水素化ビスフェノールFのジグリシジルエーテルのようなグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステルのようなグリシジルエステル型エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート等を併用できる。
上記の他のエポキシ樹脂の含有量は、脂環式エポキシ樹脂と他のエポキシ樹脂を合わせたエポキシ樹脂中、30重量%以下、さらに15重量%以下にすることが好ましい。
なお、本明細書において「エポキシ樹脂」とは、脂環式エポキシ樹脂のみを用いる場合には脂環式エポキシ樹脂を意味し、脂環式エポキシ樹脂と他のエポキシ樹脂を使用する場合は、脂環式エポキシ樹脂と他のエポキシ樹脂とを合わせた樹脂を意味する。
(b)非芳香族系酸無水物系硬化剤
酸無水物系硬化剤としては、非芳香族系酸無水物系化合物を制限なく使用することができる。非芳香族系酸無水物系化合物として例えば、ヘキサヒドロフタル酸無水物、3−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、4−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、1−メチルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物、5−メチルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物、ノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物、1−メチルナジック酸無水物、5−メチルナジック酸無水物、ナジック酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、3−メチルテトラヒドロフタル酸無水物、4−メチルテトラヒドロフタル酸無水物、及びドデセニルコハク酸無水物等が挙げられる。
中でも、化合物中に二重結合を持たず、揮発し難い酸無水物である、ヘキサヒドロフタル酸無水物、3−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、4−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、1−メチルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物、5−メチルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物、ノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物が好ましく、3−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物及び4−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。二重結合を有さず、揮発し難い化合物を用いることにより、初期無色透明性、耐熱黄変性、耐紫外線性に一層優れたエポキシ樹脂系組成物が得られる。
非芳香族系酸無水物系硬化剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
非芳香族系酸無水物系硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂中のエポキシ基に対する非芳香族系酸無水物系硬化剤中の酸無水物基の当量比が0.6〜1.4程度となる量が好ましく、0.7〜1.2程度となる量がより好ましい。上記範囲であれば、無色透明性、耐熱黄変性に優れる硬化物が得られる。上記範囲であれば、硬化反応が十分に進行する。
(c)硬化促進剤
本発明のエポキシ樹脂系組成物で使用する(c)硬化促進剤は、
(c-1) 一般式(1)
Figure 0005159561
[式中、R〜Rは、同一又は異なって、それぞれアルキル基、アルケニル基、アリール基又はアラルキル基を示す。]
で表されるホスホニウムカチオンと、
(c-2) 有機スルホン酸のアニオン
との塩である。
上記(c-2)有機スルホン酸のアニオンとして好ましくは、一般式(2)
Figure 0005159561
[式中、Rは、炭素数1〜16の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を示す。]
で表される脂肪族スルホン酸アニオン、及び一般式(3)
Figure 0005159561
[式中、R〜R10は、同一又は異なって、それぞれ水素原子、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子を示す。]
で表される芳香族スルホン酸アニオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオンが挙げられる。
本発明のエポキシ樹脂系組成物は、(c)硬化促進剤として上記(c-1)と(c-2)からなる塩を含むため、高温で硬化させて薄膜を形成する場合でも、この組成物の硬化物は硬化直後の無色透明性に優れ、かつ耐熱黄変性及び耐紫外線性に優れる。
一般式(1)において、R〜Rは、同一又は異なって、アルキル基、アルケニル基、アリール基又はアラルキル基を示す。
〜Rで示されるアルキル基としては、炭素数1〜16の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。好ましくは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、sec−ペンチル、t−ペンチル、ネオペンチル、n−ヘキシル、イソヘキシル、sec−ヘキシル、t−ヘキシル、ネオヘキシル等の炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、より好ましくはn-ブチル基である。
〜Rで示されるアルケニル基としては、炭素数2〜16の直鎖状又は分岐鎖状のアルケニル基が挙げられる。好ましくは、ビニル、アリル、クロチル等の炭素数2〜6の直鎖状又は分岐鎖状のアルケニル基である。
〜Rで示されるアリール基としては、炭素数6〜30のアリール基が挙げられる。具体的なアリール基としてはフェニル、トルイル、キシリル、ナフチル、アンスリル、フェナンスリル等の1〜3環のアリール基が例示される。
〜Rで示されるアラルキル基としては、炭素数7〜20のアラルキル基が挙げられる。具体的なアラルキル基としてベンジル、フェネチル等が例示される。
一般式(1)で表されるホスホニウムカチオンとして、とりわけR〜Rの全てがブチル基(特にn−ブチル基)であるテトラブチルホスホニウムカチオン(特にテトラn−ブチルホスホニウムカチオン)が好適である。
上記一般式(2)において、Rは炭素数1〜16の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を示す。好ましくは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、sec−ペンチル、t−ペンチル、ネオペンチル、n−ヘキシル、イソヘキシル、sec−ヘキシル、t−ヘキシル、ネオヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル等の炭素数1〜12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、より好ましくはメチル基である。
一般式(2)で表される有機スルホン酸のアニオンとして、下記に例示する有機スルホン酸のアニオンが挙げられる。例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1−プロパンスルホン酸、2−プロパンスルホン酸、1−ブタンスルホン酸、1−ペンタンスルホン酸、1−ヘキサンスルホン酸、1−オクタンスルホン酸、1−デカンスルホン酸、1−ドデカンスルホン酸等の有機スルホン酸のアニオンが例示される。このうち、メタンスルホン酸のアニオンが好適である。
一般式(3)において、R〜R10は、同一又は異なって、それぞれ水素原子、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子を示す。
〜R10で示される炭素数1〜16の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、sec−ペンチル、t−ペンチル、ネオペンチル、n−ヘキシル、イソヘキシル、sec−ヘキシル、t−ヘキシル、ネオヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル等の炭素数1〜12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、より好ましくはメチル基である。
〜R10で示されるアルコキシ基としては、例えばメトキシ、エトキシ、プロポキシ等の炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシ基が挙げられ、好ましくはメトキシ又はエトキシ基である。
〜R10で示されるハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、好ましくは塩素原子である。
一般式(3)で表される有機スルホン酸のアニオンとして、例えば、ベンゼンスルホン酸、モノアルキルベンゼンスルホン酸、ジアルキルベンゼンスルホン酸、モノアルコキシベンゼンスルホン酸、モノハロベンゼンスルホン酸等から選ばれるスルホン酸のアニオンが挙げられる。
モノアルキルベンゼンスルホン酸としては、2−、3−又は4−モノ(炭素数1〜12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル)ベンゼンスルホン酸が挙げられ、具体的にはp−トルエンスルホン酸、4−エチルベンゼンスルホン酸、3−(直鎖状又は分岐鎖状オクチル)ベンゼンスルホン酸、4−(直鎖状又は分岐鎖状オクチル)ベンゼンスルホン酸、3−(直鎖状又は分岐鎖状ドデシル)ベンゼンスルホン酸、4−(直鎖状又は分岐鎖状ドデシル)ベンゼンスルホン酸等が例示される。
ジアルキルベンゼンスルホン酸としては、ジ(炭素数1〜12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル)ベンゼンスルホン酸が挙げられ、具体的には2,4−ジメチルベンゼンスルホン酸、2,5−ジメチルベンゼンスルホン酸等が例示される。
モノアルコキシベンゼンスルホン酸としては、モノ(炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシ)ベンゼンスルホン酸が挙げられ、具体的には4−メトキシベンゼンスルホン酸、4−エトキシベンゼンスルホン酸等が例示される。
モノハロベンゼンスルホン酸としては、4−クロロベンゼンスルホン酸等が例示される。
上記のうち、ベンゼンスルホン酸のアニオン、p−トルエンスルホン酸のアニオン、4−クロロベンゼンスルホン酸のアニオン、n−ドデシルベンゼンスルホン酸、分岐鎖状ドデシルベンゼンスルホン酸のアニオンが好適である。
一般式(2)及び/又は(3)で表される有機スルホン酸のアニオンとして、特に好ましくはメタンスルホン酸のアニオンである。
上記の塩は、通常は、(c-1)ホスホニウムカチオン1モルと、(c-2)有機スルホン酸のアニオン1モルとからなる塩、即ち両者のモル比が1:1の塩が主成分である。該塩は、典型的には、次のような構造をしている。
Figure 0005159561
[式中、Xは上記(c-2)の有機スルホン酸のアニオンを示し、R〜Rは前記に同じ。]
好ましい塩としては、テトラn-ブチルホスホニウムカチオンとメタンスルホン酸アニオンとの塩、テトラn-ブチルホスホニウムカチオンとベンゼンスルホン酸アニオンとの塩、テトラn-ブチルホスホニウムカチオンとp−トルエンスルホン酸アニオンとの塩、テトラn-ブチルホスホニウムカチオンと4−ハロ(特にクロロ)ベンゼンスルホン酸アニオンとの塩、テトラn-ブチルホスホニウムカチオンとn−ドデシルベンゼンスルホン酸アニオンとの塩等が挙げられる。特に、硬化促進成分の配合量が少なく、かつ薄膜硬化時の優れた初期透明性の観点より、テトラn-ブチルホスホニウムカチオンとメタンスルホン酸アニオンとの塩が好ましい。
エポキシ樹脂系組成物中における、(c-1)ホスホニウムカチオン及び(c-2)有機スルホン酸のアニオンとの塩の含有量は、エポキシ樹脂100重量部に対して、一般に0.1〜5重量部程度であり、0.5〜2重量部程度が好ましい。上記範囲であれば、十分な硬化速度が得られ、硬化直後の黄着色を起こさず、且つ耐熱黄変性に優れる硬化物が得られる。
上記の(c-1)ホスホニウムカチオンと(c-2)有機スルホン酸のアニオンとの塩は公知であるか、又は、公知の方法、例えば、特開昭63−190893号公報に記載の方法に準じて当業者が容易に製造できる。
例えば、一般式(1)で表されるホスホニウムカチオンの水酸化物と、有機スルホン酸(特に、一般式(2)及び/又は一般式(3)で表される有機スルホン酸)を混合することにより塩を製造することができる。
より具体的な塩の製造例として、一般式(1)で表されるホスホニウムカチオンにおいてR〜Rがアルキルの場合について説明する。テトラアルキルホスホニウムハライドの溶液(溶媒は、水、メタノール等)を、イオン交換することによりテトラアルキルホスホニウムヒドロキシドの溶液(溶媒は、水、メタノール等)とし、該溶液中で、そのテトラアルキルホスホニウムヒドロキシド1モルに対して、一般式(2)及び/又は(3)で表される有機スルホン酸を0.7〜2モル、より好ましくは1.0〜1.3モル用いて中和することにより塩を製造することができる。
得られた塩を含む反応混合物から、適当な方法、例えば、減圧蒸留等により溶媒を除去して、目的の塩を分離する。なお、上記テトラアルキルホスホニウムヒドロキシドは市販されているものを使用してもよい。
その他の成分
本発明のエポキシ樹脂系組成物には、エポキシ樹脂系組成物に添加される公知の添加剤が含まれていてもよい。このような公知の添加剤として、例えば、フェノール系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤のような酸化防止剤;ベンゾフェノン系紫外線吸収剤のような紫外線吸収剤;ヒンダードアミン系光安定剤のような光安定剤;炭化水素系滑剤、高級脂肪酸系滑剤のような離型剤などが挙げられる。また、オキセタン化合物、アクリルオリゴマー等のエポキシ樹脂以外の樹脂を含むこともできる。
上記の添加剤、樹脂などの付加的成分を使用する場合、それらの含有量は、本発明の効果を損なわない範囲とすればよく、例えば、エポキシ樹脂と硬化剤と硬化促進剤との合計100重量部に対して10重量部以下の範囲であれば含まれていてもよい。
エポキシ樹脂系組成物
本発明のエポキシ樹脂系組成物は、前記各成分及び配合割合ものが挙げられる。特に好ましい組成物として、(a)3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートを含む脂環式エポキシ樹脂、(b)3−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物及び4−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種の非芳香族系酸無水物系硬化剤、及び(c)テトラn-ブチルホスホニウムのメタンスルホン酸塩を含む硬化促進剤を含有するエポキシ樹脂系組成物であって、該(b)非芳香族系酸無水物系硬化剤の含有量が、該(a)脂環式エポキシ樹脂中のエポキシ基に対する該(b)非芳香族系酸無水物系硬化剤中の酸無水物基の当量比が0.7〜1.2となる量であるエポキシ樹脂系組成物が挙げられる。
本発明のエポキシ樹脂系組成物は、前記各成分を前記配合割合で混合することにより調製できる。
エポキシ樹脂、非芳香族系酸無水物系硬化剤、及び硬化促進剤の各成分は1度に(同時に)添加してもよく、又は複数回に分けて少しずつ添加しても良い。酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、離型剤などのその他の成分、及びエポキシ樹脂以外の樹脂は、非芳香族系酸無水物系硬化剤と硬化促進剤との混合時、エポキシ樹脂の添加前、エポキシ樹脂の添加時、又はその後など任意の時期に添加して混合することができる。
エポキシ樹脂系組成物の好ましい調製方法として、予め非芳香族系酸無水物系硬化剤と硬化促進剤とを温度20〜80℃程度で撹拌混合して硬化剤組成物(硬化剤液)を調製し、得られた硬化剤組成物(硬化剤液)に対してエポキシ樹脂を加えて温度20℃〜80℃程度で均一に攪拌、混合する方法を挙げることができる。該硬化剤組成物としては、保存安定性の観点から均質(各成分が溶解して外観が透明)であることが好ましい。
上記の本発明のエポキシ樹脂系組成物は、比較的高温で硬化させる場合にも、硬化直後の無色透明性が良好で、耐熱黄変性、耐紫外線性に優れる硬化物が得られる。従って、比較的高温で硬化させる必要がある薄膜形成に特に適したものとなる。
エポキシ樹脂系薄膜
上記本発明のエポキシ樹脂系組成物を、例えば、基体上に塗布し、塗膜を硬化させることにより、薄膜、特に、厚さ1mm以下の薄膜を形成することができる。薄膜の厚さは、好ましくは0.4mm以下である。また薄膜の厚さの下限値は通常0.01mm程度である。
基体としては、特に限定されないが、例えばガラス、セラミック、アルミニウム、CCL(銅張積層板)、耐熱性高分子フィルム等が挙げられる。
本発明のエポキシ樹脂系組成物を基体上に塗布する方法としては、従来公知の方法が特に制限されることなく採用でき、例えば、スクリーン印刷やダイコーター、コンマコーター、ロールコーター、バーコーター、グラビアコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、エアーナイフコーター、リバースコーター、ディップスクイズコーター等公知の方法が例示できる。
例えば、面実装型LED封止材のような薄膜は、スクリーン印刷やディスペンサー方式などの方法により塗布し、上記方法にて硬化させることにより得ることができる。
また、例えば表面コーティング材を形成する場合は、上記本発明のエポキシ樹脂系組成物を基体に上記方法で塗布した後、上記方法で硬化させることにより得ることができる。こうして得られる表面コーティング材の厚さも、通常、0.01〜1mm程度、特に0.01〜0.4mm程度とすることが望ましい。
塗膜の硬化方法は特に限定されず、公知の方法を採用できる。硬化には、空気循環式オーブン、密閉式硬化炉、連続硬化が可能なトンネル炉などの従来公知の硬化装置を使用することができる。加熱は、熱風循環、赤外線加熱、高周波加熱などの従来公知の方法で行うことができる。
硬化温度及び硬化時間は、80〜250℃程度で30秒〜15時間程度とすることができる。硬化物の内部応力を低減したい場合は、80℃〜130℃程度で0.5時間〜5時間程度の条件で前硬化した後、130〜180℃程度で0.1時間〜15時間程度の条件で後硬化することが好ましい。短時間硬化を目的とする場合は150〜250℃程度で30秒〜30分間程度の条件で硬化することが好ましい。
特に、0.01〜1mm程度、特に0.01〜0.4mm程度の薄膜を形成する場合の硬化温度及び硬化時間は、100℃〜130℃程度で0.5〜2時間程度の条件で前硬化した後、130℃〜180℃程度で0.5〜5時間程度の条件で後硬化することが好ましい。
なお、本発明のエポキシ樹脂系組成物は、薄膜硬化物の他、厚膜硬化物を形成するための材料として用いることもできる。例えば、本発明の組成物を封止材として使用する場合は、注型法、ポッティング法などの公知の方法で封止することができる。例えば砲弾型LED封止材のような厚みのある成型物は、上記エポキシ樹脂系組成物を砲弾型枠に流し込み、上記方法にて硬化させることにより得ることができる。
本発明のエポキシ樹脂系組成物を硬化させて得られる上記薄膜硬化物は、硬化直後の無色透明性と耐光(紫外線)性に優れ、耐熱黄変性に優れる。この薄膜硬化物は、例えば150℃の高温で5日間熱履歴を与えた後でも黄変色が極めて軽微である(後述の実施例参照)。
このため、特に面実装タイプの絶縁封止材料として最適であり、BGA(ボール・グリッド・アレー)、CSP(チップ・サイズ・パッケージ)、COG(チップ・オン・グラス)、COB(チップ・オン・ボード)、MCM(マルチ・チップ・モジュール)又はLGA(ランド・グリッド・アレイ)等の面実装タイプの半導体装置の封止材料、チップタイプのLEDのような発光素子又は光半導体等の封止材料等の絶縁材料を始めとして、工業的に広い分野において使用することができる。
特に、発光素子の封止材は、発光素子自身からの発熱や紫外線により黄変し難いことが重要であるため、本発明の組成物は発光素子の薄膜封止材として好適に使用できる。
本発明のエポキシ樹脂系組成物を硬化させてなる上記エポキシ樹脂系薄膜で封止された発光素子は、長期使用しても初期の色調が維持される。特に、本発明の薄膜で封止された白色発光素子は、長期使用によっても封止剤の無色透明性が維持され白色光の輝度が維持される有用なものである。
また、この薄膜は、無色透明性、耐熱黄変性、耐紫外線性に優れることから、各種ガラス基板、自動車部品、液晶表示装置やプラズマディスプレイのような表示装置等の透明ハードコーティング材料としても好適に使用できる。特に、液晶表示装置はバックライトの高熱や太陽光等の紫外線によって黄変し難いことが重要であるため、本発明の組成物は液晶表示装置のコーティング材として好適に使用できる。このように、本発明の薄膜は、ディスプレイ用のコーティング材としても有用である。
以下、実施例及び試験例を参照して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、本願実施例及び比較例における樹脂組成物中の硬化促進剤の配合量は、樹脂組成物のゲル化時間が45分程度となるように硬化促進剤の配合量を調節することにより硬化反応性を一定にして、以下の物性評価を実施した。ゲル化時間の測定方法は下記に示す。
評価方法
<ゲル化時間>
JIS C−2105の試験管法に準じ、温度100℃におけるゲル化時間を測定した。
<薄膜硬化物の外観>
厚さ2mmのガラス平板上に被験試料である液状エポキシ樹脂系組成物約25mgを滴下して、空気循環式オーブンにて120℃で1時間硬化し、直径約10mmの硬化物(平均厚さ約0.3mm)を得た。
硬化物の透明性(濁りの有無)、更に硬化物の周縁部(厚さ0.1mm以下)の色相(黄着色の有無)を目視にて観察した。その結果を表1、2に示す。
エポキシ樹脂組成物の硬化物は、厚さが薄くなるほど黄着色を生じやすい。この薄膜硬化物の特に厚さが薄い周縁部の黄着色の有無を観察することにより、エポキシ樹脂組成物の薄膜硬化時の無色透明性を評価できる。
<イエローインデックス(YI)>
本明細書におけるイエローインデックス(以下、「YI」という)は硬化物の黄色度を示し、値が大きくなるにつれ黄色度が増す。本発明においてYIは、ASTM D1925に準拠し、分光測色計(ミノルタ社製、CM−3500d)を用いて反射率を測定し算出した値である。
<耐熱黄変性の評価>
被験試料である実施例及び比較例で得られた液状エポキシ樹脂系組成物を、アルミ箔を敷いた直径68mmの金属製の皿に硬化後の厚みが0.4mmとなるように流し込み、空気循環式オーブンにて120℃で1時間、更に150℃で3時間硬化した。この時、被験試料の硬化前後の質量減少量から揮発による酸無水物の減少率を見積もると、全ての試料で約10%であった。
上記で得られた各硬化物を更に150℃で5日間熱処理した後の硬化物のYIを表1,2に示す(表中には「150℃/5日間エージング後のYI」と表記する。)。この値が小さいほど耐熱黄変性に優れると評価する。
<耐紫外線性の評価>
被験試料である実施例で得られた液状エポキシ樹脂系組成物を、アルミ箔を敷いた直径68mmの金属製の皿に硬化後の厚みが0.4mmとなるように流し込み、空気循環式オーブンにて120℃で1時間、更に150℃で3時間硬化した。この時、被験試料の硬化前後の質量減少量から揮発による酸無水物の減少率を見積もると、全ての試料で約10%であった。
上記で得られた各硬化物を更にウエザオメータ(アトラス社製、Ci35)を使用してキセノンバーナ3.2kW(波長350nm)、ブラックパネル温度55〜65℃の装置運転条件下、1400時間、紫外線を照射した後の硬化物のYIを表1に示す(表中には「紫外線照射1400時間後のYI」と表記する。)。この値が小さいほど耐紫外線性に優れると評価する。
製造例1
テトラn-ブチルホスホニウムヒドロキシドの40重量%水溶液100重量部に、メタンスルホン酸(関東化学(株)製試薬)14重量部を加えて中和した。中和後、得られた反応混合物を、減圧蒸留法を用いて脱水することにより硬化促進剤、即ち、テトラn-ブチルホスホニウムカチオンとメタンスルホン酸のアニオンとの塩51重量部を得た。
製造例2
テトラn-ブチルホスホニウムヒドロキシドの40重量%水溶液100重量部に、ベンゼンスルホン酸(東京化成工業(株)製試薬)23重量部を加えて中和した。中和後、得られた反応混合物を、減圧蒸留法を用いて脱水することにより硬化促進剤、即ち、テトラn-ブチルホスホニウムカチオンとベンゼンスルホン酸のアニオンとの塩61重量部を得た。
製造例3
テトラn-ブチルホスホニウムヒドロキシドの40重量%水溶液100重量部に、p−トルエンスルホン酸・1水和物(関東化学(株)製試薬)25重量部を加えて中和した。中和後、得られた反応混合物を、減圧蒸留法を用いて脱水することにより硬化促進剤、即ち、テトラn-ブチルホスホニウムカチオンとp−トルエンスルホン酸のアニオンとの塩57重量部を得た。
製造例4
テトラn-ブチルホスホニウムヒドロキシドの40重量%水溶液100重量部に、4−クロロベンゼンスルホン酸・n水和物(東京化成工業(株)製試薬)28重量部を加えて中和した。中和後、得られた反応混合物を、減圧蒸留法を用いて脱水することにより硬化促進剤、即ち、テトラn-ブチルホスホニウムカチオンと4−クロロベンゼンスルホン酸のアニオンとの塩60重量部を得た。
製造例5
テトラn-ブチルホスホニウムヒドロキシドの40重量%水溶液100重量部にメタノール120重量部を加え、n−ドデシルベンゼンスルホン酸(純度90%、関東化学(株)製)52重量部を加えて中和した。中和後、得られた反応混合物を、減圧蒸留法を用いてメタノール水を除去することにより硬化促進剤、即ち、テトラn-ブチルホスホニウムカチオンとn−ドデシルベンゼンスルホン酸のアニオンとの塩85重量部を得た。
実施例1
硬化剤として4−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物(新日本理化(株)製;リカシッドMH-T)(酸無水物当量168)128重量部(エポキシ樹脂中のエポキシ基に対して硬化剤中の酸無水物基の当量比が1.0となる量)に、製造例1で得た硬化促進剤、即ち、テトラn-ブチルホスホニウムカチオンとメタンスルホン酸のアニオンとの塩(以下「TBP・メタンスルホン酸塩」と略記する)を1.6重量部添加し、60℃で30分間加熱・攪拌し溶解した後、室温まで冷却し常温で透明液状の硬化剤液を得た。これに脂環式エポキシ樹脂の3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(ダイセル化学工業(株)製、セロキサイド2021P、エポキシ当量130)100重量部を加え、さらに充分混合して真空脱泡後、常温で液状のエポキシ樹脂系組成物を得た。
実施例2
硬化促進剤のTBP・メタンスルホン酸塩に代えて、製造例2で得たテトラn-ブチルホスホニウムカチオンのベンゼンスルホン酸のアニオンとの塩(以下「TBP・ベンゼンスルホン酸塩」と略記する)を使用した以外は、実施例1と同様にして硬化剤液及びエポキシ樹脂系組成物を得た。
実施例3
硬化促進剤のTBP・メタンスルホン酸塩に代えて、製造例3で得たテトラn-ブチルホスホニウムカチオンのp−トルエンスルホン酸のアニオンとの塩(以下「TBP・トルエンスルホン酸塩」と略記する)を使用した以外は、実施例1と同様にして硬化剤液及びエポキシ樹脂系組成物を得た。
実施例4
硬化促進剤のTBP・メタンスルホン酸塩に代えて、製造例4で得たテトラn-ブチルホスホニウムカチオンの4−クロロベンゼンスルホン酸のアニオンとの塩(以下「TBP・クロロベンゼンスルホン酸塩」と略記する)を使用した以外は、実施例1と同様にして硬化剤液及びエポキシ樹脂系組成物を得た。
実施例5
硬化促進剤のTBP・メタンスルホン酸塩に代えて、製造例5で得たテトラn-ブチルホスホニウムカチオンのn−ドデシルベンゼンスルホン酸のアニオンとの塩(以下「TBP・ドデシルベンゼンスルホン酸塩」と略記する)を使用し4−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物(新日本理化(株)製;リカシッドMH-T)の量を126重量部とした以外は、実施例1と同様にして硬化剤液及びエポキシ樹脂系組成物を得た。
比較例1
硬化促進剤のTBP・メタンスルホン酸塩に代えて、テトラn-ブチルホスホニウムオクタン酸塩(以下「TBP・オクタン酸塩」と略記する)を使用した以外は、実施例1と同様にして硬化剤液及びエポキシ樹脂系組成物を得た。
比較例2
硬化促進剤のTBP・メタンスルホン酸塩に代えて、テトラn-ブチルホスホニウムの酢酸塩(以下「TBP・酢酸塩」と略記する)を使用した以外は、実施例1と同様にして硬化剤液及びエポキシ樹脂系組成物を得た。
比較例3
硬化促進剤のTBP・メタンスルホン酸塩に代えて、テトラn-ブチルホスホニウムとビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸/メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸(=1/4)混合物との塩(以下「TBP・HNA塩」と略記する)を使用した以外は、実施例1と同様にして硬化剤液及びエポキシ樹脂系組成物を得た。
比較例4
硬化促進剤のTBP・メタンスルホン酸塩に代えて、テトラn-ブチルホスホニウムブロマイド(以下「TBP・ブロマイド」と略記する)を使用した以外は、実施例1と同様にして硬化剤液及びエポキシ樹脂系組成物を得た。
比較例5
硬化促進剤のTBP・メタンスルホン酸塩に代えて、1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7・オクチル酸塩(U−CAT SA102,サンアプロ社製)を使用し4−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物(新日本理化(株)製;リカシッドMH-T)の量を126重量部とした以外は、実施例1と同様にして硬化剤液及びエポキシ樹脂系組成物を得た。
なお、表1及び2において、1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7・オクチル酸塩を「DBU・オクチル酸塩」と略記する。
各実施例、比較例の結果を表1及び2に示す。
Figure 0005159561
Figure 0005159561
上記表1及び2の結果から、次のことがわかる。
実施例1〜5では硬化促進成分としてTBPの有機スルホン酸塩を使用しており、「薄膜硬化物の外観」は硬化直後の黄着色が観察されず無色透明であった。
一方比較例1〜5において、「薄膜硬化物の外観」の項目では比較例の硬化物は、硬化直後の黄着色が観察された。
ガラス板上に滴下した組成物の周縁部(厚さ0.1mm以下)における「薄膜硬化物の外観」は、硬化物のYIを分光測色計で機械的に測定するだけでは判別しがたいエポキシ樹脂薄膜硬化物の色相の優劣を判断する一つの指標であるといえる。
「薄膜硬化物の外観」の観察から、本願発明の実施例で示されるエポキシ樹脂組成物は、従来の硬化促進剤を使用した場合(比較例)に比べて、特に薄い薄膜硬化時に色相が良好であることが判る。
「150℃/5日間エージング後のYI」については、実施例の組成物から得られる硬化物は、比較例のものと比べて数値が低く、耐熱黄変性が良好であるという結果を得た。また、表1の「紫外線照射1400時間後のYI」より、実施例の組成物から得られる硬化物はいずれも耐紫外線性が良好であった。
以上のことから実施例で示される本発明の樹脂組成物は、薄膜硬化直後の黄着色を防止でき、かつ耐熱黄変性及び耐紫外線性が良好な硬化物を与えることが判る。
本発明のエポキシ樹脂系組成物を硬化させてなる薄膜は、硬化直後の無色透明性に優れ、耐紫外線性が良好であり、高温で熱履歴を与えた後でも黄変の程度が軽微である。このような優れた性能を併せ持つため、工業上の広い分野で使用することができる。特に面実装タイプの絶縁封止材料として最適であり、BGA(ボール・グリッド・アレー)、CSP(チップ・サイズ・パッケージ)、COG(チップ・オン・グラス)、COB(チップ・オン・ボード)、MCM(マルチ・チップ・モジュール)又はLGA(ランド・グリッド・アレイ)等の面実装タイプの半導体装置の封止材料、チップタイプのLED又は光半導体等の発光素子の封止材料等の絶縁材料として好適に使用できる。
また、その硬化薄膜は、各種ガラス基板、自動車部品、表示装置等の透明ハードコーティング材料としても好適に使用できる。

Claims (16)

  1. (a)脂環式エポキシ樹脂、(b)非芳香族系酸無水物系硬化剤、及び(c)下記一般式(1)
    Figure 0005159561
    [式中、R〜Rは、同一又は異なって、それぞれアルキル基、アルケニル基、アリール基又はアラルキル基を示す。]
    で表されるホスホニウムカチオンと有機スルホン酸のアニオンとの塩からなる硬化促進剤を含有するエポキシ樹脂系組成物。
  2. 前記有機スルホン酸のアニオンが、下記一般式(2)
    Figure 0005159561
    [式中、Rは、炭素数1〜16の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を示す。]
    で表される脂肪族スルホン酸アニオン、及び一般式(3)
    Figure 0005159561
    [式中、R〜R10は、同一又は異なって、それぞれ水素原子、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子を示す。]
    で表される芳香族スルホン酸アニオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオンである請求項1に記載のエポキシ樹脂系組成物。
  3. 前記有機スルホン酸のアニオンが、一般式(2)で表される脂肪族スルホン酸アニオンである請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂系組成物。
  4. 前記一般式(1)におけるR〜Rが、同一又は異なって、炭素数1〜16の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基である請求項1〜3のいずれかに記載のエポキシ樹脂系組成物。
  5. 前記一般式(1)におけるR〜Rが、全てn-ブチル基である請求項1〜4のいずれかに記載のエポキシ樹脂系組成物。
  6. 前記(a)脂環式エポキシ樹脂が、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートである請求項1〜5のいずれかに記載のエポキシ樹脂系組成物。
  7. 前記(b)非芳香族系酸無水物系硬化剤が、3−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物及び4−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜6のいずれかに記載のエポキシ樹脂系組成物。
  8. 前記(b)非芳香族系酸無水物系硬化剤の含有量が、エポキシ樹脂系組成物中のエポキシ基と酸無水物基との当量比が0.6〜1.4となる量である請求項1〜7のいずれかに記載のエポキシ樹脂系組成物。
  9. 前記一般式(1)で表されるホスホニウムカチオンと有機スルホン酸のアニオンとの塩が、一般式(1)で表されるホスホニウムの水酸化物と有機スルホン酸との脱水反応により得られる塩である請求項1〜8のいずれかに記載のエポキシ樹脂系組成物。
  10. 前記請求項1〜9のいずれかに記載のエポキシ樹脂系組成物を基体上に塗布し、塗膜を硬化させて、厚さ1mm以下の薄膜を形成することを特徴とするエポキシ樹脂系薄膜の形成方法。
  11. 前記請求項10に記載の形成方法により形成される厚さ1mm以下のエポキシ樹脂系薄膜。
  12. 前記請求項1〜9のいずれかに記載のエポキシ樹脂系組成物を含むディスプレイ用コーティング材。
  13. 前記請求項1〜9のいずれかに記載のエポキシ樹脂系組成物を含む発光素子の封止材。
  14. 脂環式エポキシ樹脂系組成物を硬化して得られるエポキシ樹脂系薄膜の黄着色を防止する方法であって、硬化促進剤として、(c)下記一般式(1)
    Figure 0005159561
    [式中、R〜Rは、同一又は異なって、アルキル基、アルケニル基、アリール基又はアラルキル基を示す。]
    で表されるホスホニウムカチオンと有機スルホン酸のアニオンとの塩を用いることを特徴とする方法。
  15. (a)脂環式エポキシ樹脂、(b)非芳香族系酸無水物系硬化剤、及び(c)下記一般式(1)
    Figure 0005159561
    [式中、R〜Rは、同一又は異なって、アルキル基、アルケニル基、アリール基又はアラルキル基を示す。]
    で表されるホスホニウムカチオンと有機スルホン酸のアニオンとの塩からなる硬化促進剤を配合して得られるエポキシ樹脂系組成物。
  16. (b)非芳香族系酸無水物系硬化剤及び(c)下記一般式(1)
    Figure 0005159561
    [式中、R〜Rは、同一又は異なって、それぞれアルキル基、アルケニル基、アリール基又はアラルキル基を示す。]
    で表されるホスホニウムカチオンと有機スルホン酸のアニオンとの塩からなる硬化促進剤を含有する、脂環式エポキシ樹脂用硬化剤組成物。
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