JP5159153B2 - 回転電機の回転子及び回転電機 - Google Patents

Description

本発明は、磁極として永久磁石を備えた回転電機の回転子及び回転電機に関する。

一般に、電気自動車やハイブリット車などの車両用モータのように使用電圧が高いところで使用される回転電機には、トルクリプル、鉄損及び高調波の低減が求められている。そのため、回転子鉄心の外周部に外周溝部を形成した回転電機の回転子が考えられている（例えば、特許文献１参照）。

図６には、従来の回転子を構成する回転子鉄心１０１の外周部の一部が示されている。回転子鉄心１０１は、外径寸法がＤである円環状の多数の珪素鋼板を積層して構成されている。回転子鉄心１０１の外周部には、外周に向かうに従って対向距離が順次大となる一対の磁石挿入孔部１０２，１０２が複数対、周方向に一定の間隔を存して設けられている（図６では一対図示）。この場合、一対の磁石挿入孔部１０２，１０２は、外周側からみてハ字形になっている。

これらの磁石挿入孔部１０２には、磁極形成用の永久磁石１０３が夫々挿入固定され、これにより、磁石挿入孔部１０２の両端部に逃げ孔部１０４，１０５が形成される。ここで、逃げ孔部１０４は、一対の永久磁石１０３，１０３間（磁極）の中心部分、即ち、固定子鉄心（図示せず）側で生じる磁束の通り難い部分のｄ軸に近い側に位置し、逃げ孔部１０５は、外周側に位置する。又、近接する逃げ孔部１０４，１０４間にブリッジ部１０６が必然的に形成され、磁石挿入孔部１０２の逃げ孔部１０５の端部と回転子鉄心１０１の外周との間にチップ部１０７が必然的に形成される。尚、図示はしないが、ｄ軸と周方向に隣合うｄ軸との間にあって、固定子鉄心側で生じた磁束が通り易い部分をｑ軸とする。

逃げ孔部１０５から回転子鉄心１０１の外周部までの最短の長さ、即ち、チップ部１０７の厚さ寸法ｔ_１は、回転子の回転によって、永久磁石１０３による遠心力を受けても破損しない強度を有し、且つ、永久磁石１０３の端部の磁束漏洩が大きくならないように、予め設定されている。

ここで、回転子鉄心１０１の外周部には、永久磁石１０３に対応して深さ寸法がｔ_２である外周溝部１０８が形成されている。この外周溝部１０８の底部の範囲は、所定の角度（ｄ軸に対して電気角φ_１）を存する位置から、所定の角度（ｄ軸に対して電気角φ_２）を存する位置までである。電気角φ_１に溝があると、トルクリプル及び鉄損の低減が可能となり、電気角φ_２に溝があると、永久磁石１０３の磁束の立上がりが制限され、高調波の低減が可能となる。電気角φ_２は、例えば、ｄ軸より離れる方向側（ｑ軸側）に存するチップ部１０７近傍（ｑ軸に最も近い永久磁石１０３の短尺の端面１０３ａの延長線と回転子鉄心１０１の外周と交差する位置）と回転子鉄心１０１の中心とを結ぶ直線と、ｄ軸とのなす角である。
特開２００４−３２８９５６号公報

しかしながら、回転子鉄心１０１の外周部に外周溝部１０８を形成すると、外周溝部１０８の底部からチップ部１０７の外周（回転子の外周）までの連なり部分１０９は、段差の形状になり、回転子の回転によって永久磁石１０３による遠心力を受けると、この連なり部分１０９に応力が集中し易く、破損する虞がある。特に、回転電機を高速回転で使用する場合には、上記連なり部分１０９に、より大きな応力が集中し易くなる。
又、チップ部１０７の厚さ寸法ｔ_１を大きくすることも考えられるが、磁束漏洩が大きくなるため、好ましくない。

本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、トルクリプル、鉄損及び高調波の低減ができ、且つ、回転子が回転しても、回転子鉄心の外周溝部の底部からチップ部の外周までの連なり部分に応力が集中し難い回転電機の回転子及び回転電機を提供することである。

本発明の回転電機の回転子は、回転子鉄心と、この回転子鉄心の外周部に周方向に一定の間隔を存して設けられた複数の磁石挿入孔部と、これらの磁石挿入孔部に夫々挿入固定された磁極形成用の永久磁石と、前記磁石挿入孔部の端部に前記回転子鉄心の外周との間にチップ部を形成するように設けられ、前記永久磁石の端部の磁束漏洩を制限するための逃げ孔部と、前記回転子鉄心の外周部に設けられ、前記磁極の中心に対して所定の角度を存する位置からチップ部近傍の位置までの所定の範囲を有する外周溝部と、前記回転子鉄心の外周部に前記外周溝部に連なるように設けられ、前記チップ部の外周をなすチップ溝部とを具備し、前記チップ溝部の底部の外径寸法は、前記外周溝部の底部の外径寸法より大に設定されていることを特徴としている（請求項１の発明）。

又、本発明の回転電機は、固定子鉄心と、この固定子鉄心に着装されたコイルと、請求項１記載の回転子とを具備したことを特徴としている（請求項２の発明）。

本発明によれば、回転子鉄心の外周部に、外周溝部に連なり、且つ、チップ部の外周をなすチップ溝部を設けたので、外周溝部でトルクリプル、鉄損及び高調波の低減が可能となると共に、外周溝部の底部からチップ部の外周までにかけての連なり部分の段差が小さくなるので、回転子の回転よって永久磁石による遠心力を受けても、この連なり部分での応力の集中を生じ難くすることができる。

以下、本発明の第１の実施形態を、図１及び図２を参照して説明する。
図２に本実施形態に係る回転電機１の固定子２及び固定子２の内周側に位置する回転子３の概略構成を示す。
固定子２は、固定子鉄心４に、複数相、例えば三相コイルたるＵ相コイル５、Ｖ相コイル６、Ｗ相コイル７が着装されて構成される。

固定子鉄心４は、複数枚の鋼板が積層されて一体的に結着されて形成された円環形状をなしている。そして、固定子鉄心４の内周面には、各相のコイル５，６，７を配設させるためのスロット８が複数個所、例えば４８箇所に形成されている。
回転子３は、外径寸法がＤである円環状の多数の珪素鋼板を積層してなる回転子鉄心１１と、回転子鉄心１１の内部に設けたれた回転軸１２を有している。

図１には、回転子鉄心１１の外周部の一部が示されている。
回転子鉄心１１の外周部には、外周に向かうに従って対向距離が順次大となる一対の磁石挿入孔部１３，１３が複数対、例えば八対、周方向に一定の間隔を存して設けられている（図１では一対図示）。この場合、一対の磁石挿入孔部１３，１３は、外周側からみてハ字形になっている。

これらの磁石挿入孔部１３には、磁極形成用の永久磁石１４が夫々挿入固定され、これにより、磁石挿入孔部１３の両端部に逃げ孔部１５，１６が形成される。ここで、逃げ孔部１５は、一対の永久磁石１４，１４間（磁極）の中心部分、即ち、固定子鉄心４側で生じた磁束が通り難い部分のｄ軸に近い側に位置し、逃げ孔部１６は、外周側に位置する。この場合、近接する逃げ孔部１５，１５間にブリッジ部１７が必然的に形成され、逃げ孔部１６と回転子鉄心１１の外周との間にチップ部１８が必然的に形成される。尚、ｄ軸と周方向に隣合うｄ軸との間にあって、固定子鉄心４側で生じる磁束の通り易い部分をｑ軸（図２参照）とする。

逃げ孔部１６から回転子鉄心１１の外周部までの最短の長さ、即ち、チップ部１８の厚さ寸法ｔ_１は、回転子３の回転によって永久磁石１４による遠心力を受けても破損しない強度を有し、且つ、永久磁石１４の端部の磁束漏洩が大きくならないように設定されている。

さて、回転子鉄心１１の外周部には、永久磁石１４に対応して深さ寸法がｔ_２の底部を有し、その底部が回転子鉄心１１と同心円をなす外周溝部２１が形成されている。この外周溝部２１の底部の範囲は、所定の角度（ｄ軸に対して電気角φ_１）を存する位置から、所定の角度（ｄ軸に対して電気角φ_２）を存する位置まで、即ち、ｄ軸より離れる方向側（ｑ軸側）に存するチップ部１８近傍までの範囲である。電気角φ_１に溝があると、トルクリプル及び鉄損の低減が可能となり、電気角φ_２に溝があると、永久磁石１０３の磁束の立上がりが制限され、高調波の低減が可能となる（例えば、特許文献１参照）。この場合、電気角φ_２は、例えば、ｄ軸より離れる方向側（ｑ軸側）に存するチップ部１８近傍（ｑ軸に最も近い永久磁石１４の短尺の端面１４ａの延長線と回転子鉄心１１の外周と交差する位置）と回転子鉄心１１の中心とを結ぶ直線と、ｄ軸とのなす角である。

そして、回転子鉄心１１の外周部において、外周溝部２１に連なるようにチップ溝部２２が設けられている。チップ溝部２２は、深さ寸法がｔ_３の底部を有し、チップ部１８の外周をなすように、逃げ孔部１６の周方向の長さに対応した長さ分だけ周方向に延びている。このチップ溝部２２の底部は、回転子鉄心１１と同心円をなしている。
ここで、チップ溝部２２の深さ寸法ｔ_３は、外周溝部２１の深さ寸法ｔ_２と同じであり（ｔ_２＝ｔ_３）、外周溝部２１とチップ溝部２２との連なり部分２３では、段差が無い形状になる。

次に、回転子３の作用及び効果について説明する。
上記構成の回転子３には、磁束の通り難い部分のｄ軸と、磁束の通り易い部分のｑ軸とが形成される（所謂磁気的凹凸が形成される）ので、これらｄ軸及びｑ軸と、固定子２との空隙部分で、固定子２に着装されたコイル５，６，７に電流を流すことにより蓄えられる磁気エネルギーが異なり、この磁気エネルギーの変化によりトルクが発生する。又、回転子３の回転子鉄心１１には、永久磁石１４が設けられているので、永久磁石１４と固定子２の磁極との間の磁気吸引力及び磁気反発力によってもトルクは発生する。これにより、回転子３が回転するようになる。

このような本実施形態によれば、チップ部１８が形成されることにより、回転子３の回転によって永久磁石１４による遠心力を受けても破損しない強度を有し、且つ、永久磁石１４の端部の磁束漏洩を制限することができる。又、外周溝部２１を形成することにより、トルクリプル、鉄損及び高調波の低減が可能となる。

そして、回転子鉄心１１の外周部に、外周溝部２１に連なり、且つ、チップ部１８の外周をなすチップ溝部２２を設け、このチップ溝部２２の深さ寸法ｔ_３を、外周溝部２１の深さ寸法ｔ_２と同じにしたので、外周溝部２１の底部からチップ部１８の外周（チップ溝部２２）にかけての連なり部分２３は、段差の形状をなさず、回転子３の回転によって永久磁石１４による遠心力を受けても、この連なり部分２３に応力が集中し難くなる。

次に、本発明の第２の実施形態の回転子を、図３を参照して説明する。尚、上記第１の実施形態と同様な一部分には同符号を付し、その詳細な説明は省略する。
図３には、本発明の第２の実施形態の回転子を構成する回転子鉄心３１の一部が示されている。外径寸法がＤである回転子鉄心３１の外周部に第１の実施形態と同様の、チップ部３２、外周溝部３３及びチップ溝部３４が形成されている。ここで、チップ溝部３４の深さ寸法ｔ_４は、外周溝部３３の深さ寸法ｔ_２よりも小さく設定されている。又、外周溝部３３は、回転子鉄心３１の中心を挟んで対称の位置にある。即ち、回転子鉄心３１のチップ溝部３４の底部の外径寸法（Ｄ−２×ｔ_４）は、外周溝部３３の底部の外径寸法（Ｄ−２×ｔ_２）より大に設定されている。尚、チップ部３２の厚さ寸法ｔ_１及び外周溝部３３の深さ寸法ｔ_２は第１の実施形態と同じ寸法であり、磁石挿入孔部１３の位置は、第１の実施形態の位置よりもｔ_３−ｔ_４の長さ分だけ、外周側に位置している。

この構成により、外周溝部３３からチップ溝部３４にかけての連なり部分３５は、従来の連なり部分１０９（図６参照）よりも小さい段差の形状になる。従って、回転子鉄心３１の外周部の連なり部分３５にかかる応力の集中を、従来の回転子鉄心１０１の外周部の連なり部分１０９にかかる応力の集中よりも、低減することができる。

次に、本発明の第３の実施形態の回転子を、図４を参照して説明する。尚、上記第１及び第２の実施形態と同様な一部分には同符号を付し、その詳細な説明は省略する。
図４には、本発明の第３の実施形態の回転子を構成する回転子鉄心４１の一部が示されている。外径寸法がＤである回転子鉄心４１の外周部には、第１の実施形態と同様に、チップ部４２、外周溝部４３及びチップ溝部４４が形成されている。ここで、チップ溝部４４の深さ寸法ｔ_５は、外周溝部４３の深さ寸法ｔ_２よりも大きく設定されている。又、外周溝部４３は、回転子鉄心４１の中心を挟んで対称の位置にある。即ち、チップ溝部４４の底部の外径寸法（Ｄ−２×ｔ_５）は、外周溝部４３の底部の外径寸法（Ｄ−２×ｔ_２）より小に設定されている。尚、チップ部４２の厚さ寸法ｔ_１及び外周溝部４３の深さ寸法ｔ_２は第１の実施形態と同じ寸法であり、磁石挿入孔部１３の位置は、第１の実施形態の位置よりもｔ_５−ｔ_３の長さ分だけ、内周側に位置している。

第３の実施形態の回転子においても、外周溝部４３からチップ溝部４４にかけての連なり部分４５は、従来の連なり部分１０９よりも小さい段差となり、第２の実施形態の回転子と同様の作用効果を奏する。

次に、本発明の第４の実施形態の回転子を、図５を参照して説明する。尚、上記第１の実施形態と同様な一部分には同符号を付し、その詳細な説明は省略する。
第４の実施形態は、回転子の外径寸法がＤである回転子鉄心５１の外周部に設けられる磁石挿入孔部５２及び永久磁石５３の形状及び配置が、上記第１の実施形態と異なる。即ち、本実施形態の磁石挿入孔部５２は、回転子鉄心５１のｄ軸に対応する箇所、本実施形態では８箇所に形成されている。この磁石挿入孔部５２には、永久磁石５３が挿入固定されている。この場合、永久磁石５３の長尺方向の辺の一方が回転子鉄心５１の外周と近接するように対向配置され、永久磁石５３の長尺方向の辺の中心がｄ軸と一致して配置されている。又、永久磁石５３の両端面５３ａ，５３ａの延長線と回転子鉄心５１の外周の交点部分が電気角φ_２になるように、永久磁石５３の大きさが設定されている。尚、図示はしないが、ｄ軸と周方向に隣合うｄ軸との間にあって、固定子鉄心４側で生じた磁束の通り易い部分をｑ軸とする。

この磁石挿入孔部５２に永久磁石５３が挿入固定されると、永久磁石５３の両端部に逃げ孔部５４，５４が形成され、回転子鉄心５１の外周部において、逃げ孔部５４と回転子鉄心５２の外周との間にチップ部５５が必然的に形成される。又、回転子鉄心５１の外周部には、電気角φ_１を存する位置から電気角φ_２までの範囲の底部を有する外周溝部５６が形成され、この外周溝部５６に連なるようにチップ部５５の外周にチップ溝部５７が形成されている。これにより、外周溝部５６からチップ溝部５７にかけての連なり部分５８には、段差が形状されなくなる。尚、チップ部５５の厚さ寸法ｔ_１、外周溝部５６の深さ寸法ｔ_２及びチップ溝部５７の深さ寸法ｔ_３は、第１の実施形態と同じである。

上記構成の回転子（回転子鉄心５１）には、上述したように、永久磁石５３の長尺方向の辺の中心を通ようにｄ軸が形成され、又、周方向に隣合うｄ軸間にｑ軸が形成される（所謂磁気的凹凸が形成される）ので、第１の実施形態と同様に、トルクが発生する。又、回転子鉄心５１には、永久磁石５３が設けられているので、永久磁石５３と固定子２（図２参照）の磁極との間の磁気吸引力及び磁気反発力によってもトルクは発生する。
又、外周溝部５６に連なるようにチップ溝部５７を形成したので、第４の実施形態の回転子においても、第１の実施形態の回転子と同様の効果を奏する。

尚、本発明は上記し且つ図面に示す実施形態に限定されず、次のような変形、拡張が可能である。
第４の実施形態の回転電機の回転子のチップ溝部の外径寸法を、第２の実施形態のチップ溝部の深さ寸法と同様にして、外周溝部の底部の外径寸法より大に設定しても良い。或いは、第３の実施形態のチップ溝部の深さ寸法と同様にして、外周溝部の底部の外径寸法より小に設定しても良い。
又、本発明の回転電機の回転子及び回転電機は、三相コイルに適用して説明したが、三相コイル以外の複数相のコイルにも適用できる。更に、上記した構成部品の寸法等についても、適宜変更することができる。

本発明の第１の実施形態を示す回転子の回転子鉄心の拡大図 回転電機の全体構成を概略的に示す側面図 本発明の第２の実施形態を示す図１相当図 本発明の第３の実施形態を示す図１相当図 本発明の第４の実施形態を示す図１相当図 従来の回転子の回転子鉄心を示す図１相当図

符号の説明

図面中、１は回転電機、３は回転子、４は固定子鉄心、５はＵ相コイル、６はＶ相コイル、７はＷ相コイル、１１，３１，４１，５１は回転子鉄心、１３，５２は磁石挿入孔部、１４，５３は永久磁石、１５，１６，５４は逃げ孔部、１８，３２，４２，５５はチップ部、２１，３３，４３，５６は外周溝部、２２，３４，４４，５７はチップ溝部を示す。

Claims (2)

1. 回転子鉄心と、
   この回転子鉄心の外周部に周方向に一定の間隔を存して設けられた複数の磁石挿入孔部と、
   これらの磁石挿入孔部に夫々挿入固定された磁極形成用の永久磁石と、
   前記磁石挿入孔部の端部に前記回転子鉄心の外周との間にチップ部を形成するように設けられ、前記永久磁石の端部の磁束漏洩を制限するための逃げ孔部と、
   前記回転子鉄心の外周部に設けられ、前記磁極の中心に対して所定の角度を存する位置からチップ部近傍の位置までの所定の範囲を有する外周溝部と、
   前記回転子鉄心の外周部に前記外周溝部に連なるように設けられ、前記チップ部の外周をなすチップ溝部とを具備し、
   前記チップ溝部の底部の外径寸法は、前記外周溝部の底部の外径寸法より大に設定されていることを特徴とする回転電機の回転子。
2. 固定子鉄心と、
   この固定子鉄心に着装されたコイルと、
   請求項１記載の回転子とを具備したことを特徴とする回転電機。

Images