埋込磁石型の同期電動機が広範に使用されている。そのような電動機は、例えば工作機械の主軸に直接組み込まれて主軸をダイレクトドライブする、ビルトインモータであり、比較的大きい内径および高速回転が要求される。
ビルトインモータの回転子は、一般に、焼嵌めなどの手法で、主軸の外径に固定される。従って、ビルトインモータの回転子の内径は、主軸の外径と略同じ程度であることが要求される。
ところで、工作機械の主軸には、加工されるべき被加工物の寸法精度および表面粗さ等に応じてマイクロメートルオーダの加工精度が要求される。例えば主軸の剛性が低い場合には主軸が振動し、その結果、被加工物の仕上がり寸法の精度や表面の粗さ、美しさに影響を及ぼす。このことは、主軸性能が低いということに繋がる。
主軸の剛性は、例えば主軸の直径に応じて定まる。一般に主軸は、その直径が大きいほど断面二次モーメントが大きくなり、その結果、主軸の剛性は高まる。このため、主軸の直径は、主軸の最高回転数が許す範囲で大きいのが好ましい。
前述したように、ビルトインモータの回転子は焼嵌めなどの手法によって主軸に直接組付けられている。従って、ビルトインモータの回転子にも、主軸の直径に対応した比較的大きい内径が要求される。
ここで、ビルトインモータの回転子としての中空の円筒を、その中心軸線回りに回転させることを考える。外径が同一の円筒の場合、内径が大きい円筒ほど円筒に発生する応力は大きくなる。そして、回転子が耐え得る最高回転数は、そのような応力の上昇に伴って低下する。埋込磁石型の同期電動機の回転子の場合も同様であり、内径が大きくなるほど各部に発生する最大応力は大きくなり、回転可能な最高回転数は低下することとなる。
従って、前述したように、埋込磁石型の同期電動機、特に工作機械の主軸に組込まれるビルトインモータ形式の電動機の回転子には、高速回転と大内径との両立が求められる。ところが、前述したように、大内径化すると、回転時に発生する応力が増大するので、回転可能な最高回転数を低下させる必要がある。つまり、高速回転化と大内径化とは、もともと、相反する技術要素である。
図17は従来技術における埋込磁石型同期電動機の、代表的な磁石スロット形状を表す横断方向断面図である。図17においては、鉄心110に、八つの磁石Mからなる八極が周方向に配置されている。図17に示されるように、磁石Mは、NSNS・・・と交互に磁極が現れるように周方向に配置される。図17においては、各極は、軸方向1列の磁石で構成されている。
また、図18は図17に示される電動機の1極を拡大して示す部分拡大図である。図18に示されるように、一般的には、一つの磁極に対応する磁石スロット300は一つである。そして、それぞれの磁極に対応する磁石Mは軸方向磁極が同じ向きに一列、即ち一つの磁石スロット300内に配置されている。
しかしながら、回転数が上がるにつれて、遠心力も高まり、磁石Mの両端における鉄心部分に対する強度的な負担が増加する。そして、回転により生じた応力が鉄心の許容値を超えると、鉄心110が破損する。このため、最高回転数を上げるには限界がある。
このことを避けるために、同極内の磁石スロットを複数に分割し、分割された磁石スロットの間の領域に鉄心を配置することが行われている。図19は従来技術における埋込磁石型同期電動機の、代表的な磁石スロット形状を表す他の断面図である。図19においては、分割された磁石スロット310、320に配置された二つの磁石M1、M2が一つの極を構成している。そして、磁石M1、M2がそれぞれ配置される磁石スロット310、320の間に鉄心部120が設けられている。この鉄心部120によって、図19においては、遠心力に対する強度を高められる。それゆえ、最高回転数がそれほど高くなくて、回転子の内径を大きくする必要がなくて、応力集中の程度が小さい場合には、図19に示される鉄心部120を設ければ十分である。
しかしながら、この形状では、さらなる高速化や、さらなる大内径化が必要になった場合に、鉄心部120の径方向内側周辺と、磁石M1、M2の端部周辺の鉄心110とにおける応力はさらに大きくなり、早々に限界に達する。
このような問題を解消するために、例えば特許文献1には、高速回転時の応力抑制を意識した埋込磁石型の永久磁石同期電動機の回転子の磁石スロットの形状が開示されている。特許文献1においては、同極磁石間の径方向に伸びる鉄心部(=以降、同極磁石スロット間鉄心部、と呼称する)とその近傍の形状について開示されている。特許文献1においては、この鉄心部により、応力集中を抑制して、最高回転数を高められる。
電動機が回転する際、磁石に対して径方向外側に位置する外側鉄心部分には、磁石の質量と該外側鉄心部分自体の質量とによって生じる遠心力によって荷重が発生する。そして、そのような荷重の大きさは回転数と共に増大する。
特許文献1に開示されたスロット形状では、同極磁石スロット間鉄心部が、遠心力により発生する径方向の荷重を分担する。従って、磁石両端外周部に発生する応力を低減させることができ、その結果、回転数を高めることが可能である。つまり、特許文献1に開示される手法は、回転数の高い電動機にとっては、一定の効果がある。
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の図面において同様の部材には同様の参照符号が付けられている。理解を容易にするために、これら図面は縮尺を適宜変更している。
図1は本発明に基づく回転子の鉄心の部分破断斜視図であり、図2は本発明の実施形態に係る回転子の鉄心の横断方向断面図である。これら図面に示されるように、本発明に基づく電動機の回転子10は、鉄心11と、鉄心11内に整列された複数の永久磁石M1、M2…から主に構成されている。磁石M1、M2の断面は細長長方形である。なお、図1においては、本発明の実施形態に係る部分についての図示を省略している。
図1に示される回転子10の極数は八であり、一つの極は、同極に並んだ2列の磁石M1、M2を含んでいる。鉄心11は、電磁鋼板の積層体で構成されており、積層された電磁鋼板は、接着やカシメ、溶接、軸方向に締め付けるタイボルト等の手法によって一体化されている。図1および図2から分かるように、回転子10の内径は、電動機の要求によりその外径に対して比較的大きい。
図3は、図2の回転子を拡大して示す部分拡大図である。図3に示されるように、磁石M1、M2は対応する形状の磁石スロット31、32内にそれぞれ配置されている。これら磁石M1、M2は、接着剤等により磁石スロット31、32内に固定される。図1を再び参照して分かるように、一つの磁石スロットには軸方向に三つの磁石が配置されている。以下、同極内における磁石スロット31、32をまとめて「同極磁石スロット30」と呼ぶ場合がある。
図3に示されるように、磁石スロット31、32の間には、鉄心部12が配置されている。この鉄心部12は、回転子10が回転する際に、磁石M1、M2よりも径方向外側にある外側鉄心部分11bにかかる遠心力を支え、構造的強度の観点で回転子10の高速化に寄与する。同極磁石スロット30間に通っていて、二つ磁石M1、M2を隔てる鉄心部12を、以下、「同極磁石スロット間鉄心部12」と呼ぶ場合がある。
さらに、回転方向は、図3に従い横方向と呼称し、また径方向は、磁石の厚さ方向と呼称する。また、図3における磁石の横方向の長さを磁石の幅と呼称し、磁石の径方向の長さを、磁石の厚さと呼称する。
図4(a)は同極磁石スロット間鉄心部を拡大して示す拡大図である。図4(a)に示されるように、磁石スロット31、32の辺(長辺)のうち、磁石厚さ方向で回転軸側の辺を磁石スロットの底辺31a、32a(径方向内側にある辺)と呼称する。そして、磁石スロット31、32の辺のうち、磁石厚さ方向で回転子の外周側の辺を磁石スロットの上辺31b、32b(径方向外側にある辺)と呼称する。また、内側鉄心部分11aに続く同極磁石スロット間鉄心部12の根元部分を同極磁石スロット間鉄心部12の内側根元12aと呼称し、外側鉄心部分11bに続く根元部分を同極磁石スロット間鉄心部12の外側根元12bと呼称する。
再び図3を参照すると、磁石M1、M2の横方向両側には空間がある。異極間鉄心部13の空間は、磁束の漏れを抑えるために形成されている。異極間鉄心部13の空間は、磁気回路的な特性と、回転時の構造的な強度とのバランスを考慮して、設計される。
電動機の最高回転数を決める要因の一つが回転子10の構造的な強度である。通常は、異極間鉄心部13の近傍、或いは同極磁石スロット間鉄心部12の近傍に最大応力が発生し、最大応力の値が電動機の回転数の上限を抑えることになる。
本願明細書においては、これらのうち特に、同極磁石スロット間鉄心部12近傍についての応力を緩和することを目的としている。このため、異極間鉄心部13近傍の応力については、構造的に十分小さくなるように設計してあるものとする。
図4(a)を再び参照すると、磁石スロット31、32は、磁石スロット31、32の底辺31a、32aから同極磁石スロット間鉄心部12の外縁部まで延びる湾曲部分41、42をそれぞれ含んでいる。これら湾曲部分41、42は互いに左右対称の形状であるので、以下においては、簡潔にする目的で、湾曲部分41およびその関連部分についてのみ説明する。
図4(a)においては、湾曲部分41は、底辺31a近傍(接続点41a)においてはその曲率が小さく(曲率半径が大きく)、同極磁石スロット間鉄心部12近傍(接続点41b)においてはその曲率が大きく(曲率半径が小さく)なるように形成されている。
図5から図8は本発明の実施例をそれぞれ示す図である。これら図面に於いて、各部の直線、曲線、および半径の異なる各円弧は互いに滑らかに繋がっていることが好ましく、特に、互いに接する関係になっていることが好ましい。本願明細書において「互いに接する」とは、接続点における接線が、両者の共通接線になっているということを意味する。また、図5から図8においては簡潔にする目的で、磁石M1、M2の図示を省略している。
従って、例えば、半径の異なる円弧同士が繋がる場合、両者は互いに接する関係が好ましく、即ち接続点での接線は両者の共通接線であることが好ましい。その結果、二つの円弧の中心は、何れも、該共通接線に対して垂直で且つ該接続点を通る直線上に存在することになる。さらに言い換えると、接続点と一方の円弧の中心とを結ぶ直線上に、他方の円弧の中心も存在する関係になることになる。
また、直線および円弧の場合は、接続点での円弧の半径が該直線と直交するという関係が好ましい。
また、楕円の一部などその他一般的な曲線と円弧とが繋がる場合も、両者の接点に於ける接線が同一であることが好ましい。
また、直線と楕円の一部などその他一般的な曲線とが繋がる場合には、当該直線が、その接点に於ける、該曲線に対する接線そのものになっていることが好ましい。
図5は本発明の第一の実施例を示す図である。図5においては、大きさの異なる二つの円弧が湾曲部分41を形成している。二つの円弧から湾曲部分41を形成した場合には、湾曲部分41の形状がシンプルになり、前述した効果も大きく、実用性が高くなる。また、特に好ましい接続状態として、二つの円弧同士、円弧と磁石スロット31の底辺31a、円弧と同極磁石スロット間鉄心部12の外縁部とは、互いに接する関係になっている。
図5から分かるように、磁石スロット31の底辺31aは、R2.8(半径2.8mm、以下同様)の第一円弧の接線になっている。次いでR2.8の第一円弧は、R0.8の第二円弧と接している。即ち、第一円弧および第二円弧の接続点を通るR2.8の半径線上に、R0.8の第二円弧の中心が存在している。また、図5においては、R0.8の第二円弧に接続する同極磁石スロット間鉄心部12の外縁部は直線であり、この直線はR0.8の第二円弧の接線になっている。
図6は本発明の第二の実施例を示す図である。図6においては、同極磁石スロット間鉄心部12の外縁部が曲線である。磁石スロット31の底辺31aにR2.8の第一円弧が接し、次いでこの第一円弧にR0.8の第二円弧が接し、さらに第二円弧にR5の円弧が接し、この円弧が同極磁石スロット間鉄心部12の外縁部を形成している。
図7は本発明の第三の実施例を示す図である。図7においては、底辺31aから同極磁石スロット間鉄心部12の外縁部まで曲率が順に増大していく他の湾曲部分41が示されている。図7に示される湾曲部分41は、長軸が3.2mm、短軸が1.8mmの楕円の1/4部分に対応している。図7から分かるように、磁石スロット31の底辺31aと、同極磁石スロット間鉄心部12の直線状の外縁部とは、この楕円の1/4部分の接線になっている。
図7に示される実施例の曲率の変化を接線の傾きで見ていくと、磁石スロット31の底辺31aに対する接続点では接線の傾きは0°である。次いで、同極磁石スロット間鉄心部12の外縁部に向かうに従い、接線の傾きは単調に増加する。そして、同極磁石スロット間鉄心部12の外縁部に対する接続点では接線の傾きは、90°である。
なお、図7に示される実施例では、同極磁石スロット間鉄心部12の外縁部における接線の傾きは、90°であるが、90°以外の角度であってもよい。また、同極磁石スロット間鉄心部12の外縁部が直線でない場合であっても、本発明の範囲に含まれるものとする。
図8は、本発明の第四の実施例を示す図である。図8においては、湾曲部分41は、磁石スロット31の底辺31aに接するR3の第一円弧と、同極磁石スロット間鉄心部12の外縁部に接するR0.6の第二円弧と、これら第一円弧および第二円弧の共通接線をなす直線部分45とを含んでいる。
ところで、従来技術においては、磁石M1、M2は同極磁石スロット間鉄心部120に直接突き当たるか、或いは、図14に示されるように、同極磁石スロット間鉄心部120に設けられた磁石位置決め突起510,520によって位置決めされていた。
ところが、本発明においては、磁石スロット31、32の底辺31a、32aの壁面は、同極磁石スロット間鉄心部12に向かって、非常に緩い湾曲部分41、42を形成している。回転子10の製造時に磁石M1、M2を磁石スロット31、32にそれぞれ挿入する場合には、磁石M1、M2が非常に緩い湾曲部分41、42に乗上げ、磁石M1、M2がわずかながら底辺31a、32aから浮く可能性がある。そのような状況は回転子10の性能上、好ましいものではない。言い換えれば、湾曲部分41、42の部分を、磁石M1、M2を位置決めするために使用するのは適切でない。また、回転子10の性能上、磁石M1、M2は適切な精度でもって位置決めされる必要がある。このため、磁石M1、M2を位置決めするための特別の形状を配設する必要がある。
図4(a)等を再び参照して分かるように、本発明においては、磁石スロット31、32の上辺31b、32bに、底辺31a、32aに向かって延びる凸部51、52がそれぞれ形成されている。これら凸部51、52は湾曲部分41の接続点41aに対応した位置において上辺31b、32bに配置されている。凸部51、52は磁石M1、M2を位置決めするのに使用される。なお、図4において、磁石スロット31、32と磁石M1、M2との間の隙間は作業上必要な最小限の隙間であり、通常0.01mm程度乃至0.3mm程度の範囲である。この隙間は、磁気特性上、小さいほど好ましい。
位置決め用の凸部510,520が同極磁石スロット間鉄心部12に設けられる従来技術の場合(図示しない)には、凸部510,520近傍で、応力の緩和が妨げられる。これに対し、図4(a)等に示されるように、凸部51、52を磁石スロット31、32の上辺31b、32bに設ける場合には、凸部51、52に磁石スロット31、32内の磁石M1、M2をそれぞれ突き当てることにより、磁石を確実に位置決めできる。回転子の内径を大きくした場合であっても、径方向外側にある磁石スロット31、32の上辺31b、32b近傍における応力変化は、径方向内側にある磁石スロット31、32の底辺31a、32a近傍における応力変化よりも小さい。従って、凸部51、52を径方向外側にある上辺31b、32bに設けても、凸部51、52の近傍には応力集中は生じない。従って、本発明では、磁石M1、M2を安定して位置決めできる。
図4(a)等において凸部51、52と上辺31b、32bとの間の領域のコーナRは、磁石M1、M2の角部に対応するか、またはより小さいのが望ましい。凸部近傍の寸法を示す図である図9においては、R0.3の円弧が上辺31bと凸部51との間に示されている。
また、図4(a)等においては、凸部51、52の根元および凸部51、52と同極磁石スロット間鉄心部12の外縁部との間の接続部も、異なる寸法の互いに接する複数の円弧を含むのが好ましい。図9においては、凸部51、52から同極磁石スロット間鉄心部12の外縁部に向かって順番に、R0.2の第一円弧、R0.8の第二円弧、R0.4の第三円弧が示されている。無用な応力集中を避ける為、凸部51、52と同極磁石スロット間鉄心部12の外縁部との間は、互いに接する幾何関係で接続されることが望ましい。但し、この部分の応力は内側鉄心部分11aの応力よりも小さいので、とり得る形状の自由度は大きいことに留意されたい。
図4(b)は同極磁石スロット間鉄心部を拡大して示す他の拡大図である。図4(b)においては、磁石スロット31、32の上辺31b、32bに、底辺31a、32aに向かって延びる段部53、54がそれぞれ形成されている。これら段部53、54は湾曲部分41の接続点41aに対応した位置において上辺31b、32bに配置されている。図4(b)から分かるように、磁石M1、M2の端部はこれら段部53、54にそれぞれ突き当たっており、段部53、54は磁石M1、M2を位置決めするのに使用される。
図10は本発明の他の実施例を示す図である。図10は図7の変更例であり、同極磁石スロット間鉄心部12の外縁部が直線ではなく、R4の円弧になっている。図10から分かるように、このR4の円弧は、前述した楕円との接続点において楕円に接する外接円の一部をなしている。楕円は、磁石スロット31の底辺31aに接し、同極磁石スロット間鉄心部12の外縁部に向かうにつれて、その曲率が増加している。図示される楕円は、長軸3.2mm、短軸1.8mmである。
図11は本発明のさらに他の実施例を示す図である。図11は図7の変形例であり、同極磁石スロット間鉄心部12の外縁部が直線ではなく、R4の円弧になっている。このR4の円弧は、楕円の長軸の最大径部分で該楕円と交差している。前述したように楕円は、磁石スロット31の底辺31aに接し、同極磁石スロット間鉄心部12に向かうにつれて、その曲率が増加している。図示される楕円は、長軸2.8mm、短軸1.8mmである。図11においてはそのような楕円の1/4部分のみが示されている。
図11に示される実施例においては、応力集中の起き易い磁石スロット31の底辺31a側の接続部分で、磁石スロット31の底辺31aと楕円とが「接する」関係になっている。これに対し、同極磁石スロット間鉄心部12の外縁部と楕円とは、応力に幾分余裕があるため、「接する」関係になっていない。図11に示される実施例のように、同極磁石スロット間鉄心部12の外縁部と湾曲部分41とを交点を残して接続してもよい。
次いで、これらの実施例について有限要素解析を用い、その効果を比較する。図12は従来技術の形状における応力分布を示す有限要素解析結果を示す図である。その形状の寸法については図14に示す。また、図13は本発明の形状における応力分布を示す有限要素解析結果を示す図である。図13に示される形状の寸法は図5に示される通りである。これら図12および図13においては、色が濃い部分ほど、応力が大きいことを表している。また、解析条件については表1に示す。
図12においては、下側が回転軸側である。図12から分かるように、同極磁石スロット間鉄心部の外縁部においては、特に回転軸側の、磁石スロット310、320の底辺に接続する近傍で、応力が高くなっている。前述したように、この傾向は鉄心の内径が大きくなるほど顕著である。特に、図12において曲率半径の小さい磁石スロットの底辺近傍では、その応力値はより急激に大きくなる。つまり、図12の解析結果から、先行技術例の形状では、応力が集中する箇所の円弧の半径が小さく、応力集中が十分に抑制されていないことが分かる。その結果、狭い範囲に応力が集中し、応力値が高くなっている。
図13においては、同極磁石スロット間鉄心部12の外縁部と磁石スロット31、32の底辺31a、31bとの間の湾曲部分41、42において応力が高くなっていることが分かる。特に、磁石スロット31、32の底辺31a、32aから湾曲部分41、42に進入した直後で、応力が高くなっている。しかし、表1に示されるように、図13に示される応力の極値は233MPaであるのに対し、図12に示される応力の極値は350MPaである。つまり、本発明の形状の方が、応力をより抑える効果がある。
例えば疲労限度が300MPaの材料から鉄心を作成して図12に示される形状の回転子を解析回転数12000回転/分での使用に供すると、そのうちに、鉄心が破損する可能性がある。この場合には、回転数を低下させる必要がある。これに対し、同様な材料から鉄心を作成して図13に示される形状の回転子10を解析回転数12000回転/分で回転させた場合であっても、鉄心は強度的に余裕がある。つまり、本発明の形状であれば、回転数をさらに高めることも可能である。
言い換えれば、本発明の構成によって、同極磁石スロット間鉄心部12の外縁部において磁石スロット31、32の底辺31a、31b近傍での応力を抑えられる。その結果、従来よりもさらなる高速化が可能となり、大内径化を同時に達成した、埋込磁石型の同期電動機の回転子10を得ることが可能となる。
図12および図13の有限要素解析結果において、磁石スロットの上辺で且つ同極磁石スロット間鉄心部12近傍における応力値は、図12および図13何れの形状においても小さい。このため、図13のように、磁石スロット31、32の上辺31b、32bに磁石位置決め用の凸部51、52を設けた場合であっても、特に凸部51、52の周辺に応力値が大きくなるような部分は見られない。またそもそも、磁石スロット31、32の上辺31b、32b近傍における応力値は、底辺31a、32a近傍における応力値よりも小さい。以上のことから、凸部51、52を、磁石スロット31、32の上辺31b、32bに設けたとしても、強度的に問題となるような影響は、無いことが分かる。
言い換えれば、図13のように、磁石スロット31、32の上辺31b、32bに磁石位置決め用の凸部51、52を設けることは、磁石の確実な位置決めと、回転子10の最高回転数の向上、とを両立させる効果があり、有利である。
図12および図13に示される同極内の磁石スロット同士の成す角度は概ね180°である。大内径が要求される回転子10においては、この角度は180°が最も好ましく、少なくとも、180°±10°程度であるのが、強度的に好ましい。
各々の磁石列の回転方向両側面にある非鉄心部は、非磁性であることが必要な条件であり、通常は空洞であるが、必ずしも空洞でなくてもよい。また、磁石の固定方法によっては、非鉄心部の空洞が樹脂や接着剤で満たされていても良い。
図から分かるように、本発明においては、同極磁石スロット間鉄心部12から磁石M1、M2がわずかながら離間することになる。従って、従来技術の構造よりも磁石M1、M2の重心が僅かに互いに離間するように移動する。このため、同極磁石スロット間鉄心部12にかかる荷重はわずかながら小さくなる。しかしながら、その影響は小さく、本発明による効果に影響するものではない。
ところで、図4(a)を参照すると、凸部51、52の縦断面は矩形であり、凸部51、52は磁石スロット31、32の上辺31b、32bに、底辺31a、32aに向かって単に延びているにすぎない。このような単純な形状では、磁束の一部が磁石M1、M2を局所的に短絡させる可能性がある。そのような場合には、局所的に大きな減磁界を生じることになる。このことを防ぐためには、磁石M1、M2の厚さを増やせばよいものの、磁石M1、M2の厚さを増やすと、高速回転させるのが困難になり、また回転子10を大内径にするのも難しい。
このため、他の実施形態において同極磁石スロット間鉄心部を拡大して示す拡大図である図15(a)および図15(b)に示される構成を採用するのが好ましい。これら図面においては、凸部51、52の先端から凸部51、52の突出方向に更に部分的に突出する部分凸部61、62が凸部51、52のそれぞれに設けられている。
図15(a)においては部分凸部61、62の縦断面は矩形であり、図15(b)においては部分凸部61、62の縦断面は略三角形状である。このため、図15(b)における部分凸部61、62は、磁石M1、M2の厚さ方向に対して傾斜する傾斜辺63、64をそれぞれ含んでいる。これら傾斜辺63、64を備える場合には、縦断面が矩形の部分凸部61、62を作成する場合に比較して、部分凸部61、62をより容易に作成できるのが分かるであろう。
図15(a)および図15(b)から分かるように、これら部分凸部61、62は、磁石M1、M2に隣接しない凸部51、52の一辺に沿って延びている。このため、凸部51、52は磁石M1、M2に隣接しているものの、部分凸部61、62は、磁石M1、M2から比較的離間されている。
部分凸部61、62がこのような形状であるので、磁石M1、M2を局所的に短絡する磁束は低減される。このため、局所的な減磁界の大きさも緩和される。さらに、図4(a)および図4(b)を参照して説明したように、回転子10の高速回転と大内径化を両立することも可能となる。
次いで、これらの実施例について有限要素解析を用い、その効果を比較する。 図16(a)は、図4(a)の形状における磁界分布を示す有限要素解析結果を示す図であり、図16(b)は、図16(a)に示される結果内、磁石部分のみを表したものである。同様に、図16(c)は、図15(a)の形状における磁界分布を示す有限要素解析結果を示す図であり、図16(d)は、図16(c)に示される結果の内、磁石部分のみを表したものである。
図16(a)および図16(c)と、図16(b)および図16(d)とにおいては、それぞれ磁界のレンジは比較のために合わせて表示している。これらの結果は、色が濃い部分ほど減磁界が大きいことを表している。
図16(a)では、磁石M1、M2と凸部51、52の底辺の交点にて、最も大きな磁界が生じている。一方、図16(c)では、部分凸部61、62に最も大きな磁界が生じている。すなわち、図16(c)では、図16(a)に比べて、最も大きな磁界が生じている位置が、磁石M1、M2から離間する。
この結果、磁石部分を短絡する磁束が低減され、図16(d)では、図16(b)に比べて、その減磁界が低減されている。本解析では、磁石M1、M2に生じる減磁界が、図16(b)では、1073kA/mだったのに対して図16(d)では、908kA/mまで低減されている。
すなわち、図4(a)の形状に対して本実施例である図15(a)の構成を採用すると、同一の減磁性能を実現する場合には磁石をより薄くできる。従って、さらなる高速化や大内径化を実現できる可能性があるので有利である。
また、本発明に基づく回転子10は電動機に搭載される。そして、そのような電動機は工作機械の主軸を駆動するのに使用されるのが好ましい。この場合には、主軸の直径を細くすることなく、即ち主軸の剛性を低下させることなしに、工作機械の主軸をより高速で回転させられる。つまり、本発明の回転子10を備えた電動機を採用することにより、より高速回転および大内径化が可能で、加工精度の高い工作機械を提供できるのが分かるであろう。