===開示の概要===
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
媒体を搬送方向に搬送する搬送動作と、複数の第1ノズルが前記搬送方向に並んだ第1ノズル列、及び、複数の第2ノズルが前記搬送方向に並んだ第2ノズル列を、移動方向に移動させつつ前記第1ノズル及び前記第2ノズルから液体を吐出して前記媒体にドットを形成するドット形成動作と、を交互に繰り返すことにより、前記移動方向に並ぶドットから構成されるドット列を前記搬送方向に複数形成する液体吐出方法であって、前記第1ノズル列に対応する第1補正値と、前記第2ノズル列に対応する第2補正値とが設定されており、前記第1ノズル列と前記第2ノズル列によりドット列を形成する際には、そのドット列における前記第1ノズル列の使用率及び前記第2ノズル列の使用率に応じて前記第1補正値及び前記第2補正値に基づく補正結果が重み付けされて、そのドット列を形成するために吐出される前記液体の量が補正されることを特徴とする液体吐出方法が明らかになる。このような液体吐出方法によれば、ノズル列の特性差が目立ちにくくなる。
なお、後述する実施形態において、第1ノズル列42Aが「第1ノズル列」に相当し、第2ノズル列42Bが「第2ノズル列」に相当する。また、後述する実施形態において、第1ノズル列42Aに対応する3種類の色むら補正値(小ドット・中ドット・大ドットの色むら補正値)が「第1補正値」に相当し、第2ノズル列42Bに対応する3種類の色むら補正値が「第2補正値」に相当する(図15参照)。また、後述する実施形態において、補正量テーブル(図21参照)に基づいて求められる出力階調値が「補正結果」に相当する。
前記媒体上の第1領域のドット列は、前記第2ノズル列により形成されたドットに対し前記第1ノズル列により形成されたドットが所定の割合になっており、前記媒体上の第2領域のドット列は、前記第2ノズル列を使用せずに前記第1ノズル列により形成され、前記第1領域と前記第2領域との間の第3領域には、前記第2ノズル列により形成されたドットに対し前記第1ノズル列により形成されたドットが前記所定の割合よりも高い割合になっているドット列が含まれることが望ましい。これにより、第1領域と第2領域との差が目立ちにくくなる。
なお、後述する実施形態において、通常領域が「第1領域」に相当し、上端領域又は下端領域が「第2領域」に相当し、移行領域が「第3領域」に相当する。
前記液体吐出方法は、第1搬送量にて前記媒体を搬送する前記搬送動作と、前記ドット形成動作と、を交互に繰り返す第1処理と、前記第1搬送量よりも短い第2搬送量にて前記媒体を搬送する前記搬送動作と、前記ドット形成動作と、を交互に繰り返す第2処理と
を有し、前記第1処理及び前記第2処理の間に、前記第1搬送量よりは短く前記第2搬送量よりは長い第3搬送量にて前記媒体を前記第1方向に搬送する前記搬送動作と、前記ドット形成動作と、を交互に繰り返す第3処理が行われることが望ましい。これにより、第1領域と第2領域との差が目立ちにくくなるように、第3領域を形成することができる。
なお、後述する実施形態において、通常処理が「第1処理」に相当し、上端処理又は下端処理が「第2処理」に相当し、移行処理が「第3処理」に相当する。
前記第1ノズル列の前記搬送方向上流側に前記第2ノズル列が設けられており、前記第1ノズル列の前記搬送方向上流側の一部の第1ノズルと、前記第2ノズル列の前記搬送方向下流側の一部の第2ノズルとが、前記搬送方向に関して同じ位置に設けられており、前記第1処理の前記ドット形成動作では、前記搬送方向の位置が同じ前記第1ノズル及び前記第2ノズルのうちのいずれか一方が前記液体を吐出し、前記第2処理の前記ドット形成動作では、前記搬送方向の位置が同じ前記第1ノズル及び前記第2ノズルがいずれも前記液体を吐出することが望ましい。これにより、第1領域と第2領域との差が目立ちにくくなるように、第3領域を形成することができる。
前記第1処理の前記ドット形成動作では、前記第1ノズル列が前記ドットを形成する前記移動方向の位置と、前記第2ノズル列が前記ドットを形成する前記移動方向の位置とが異なっており、前記第2処理の前記ドット形成動作では、前記第1ノズル列が前記ドットを形成する前記移動方向の位置と、前記第2ノズル列が前記ドットを形成する前記移動方向の位置が同じであることが望ましい。これにより、媒体上のどの領域においても隙間無くドットを形成することができる。
前記第1ノズル列が前記ドットを形成する前記移動方向の位置は、前記第1処理から、各前記ドット形成動作ごとに所定の順序で変更され、前記第2ノズル列が前記ドットを形成する前記移動方向の位置は、前記第1処理が開始される前の前記ドット形成動作から、前記所定の順序で変更されることが望ましい。これにより、第1処理と同様に形成されるドット列を増やすことができる。
媒体を搬送方向に搬送する搬送部と、複数のノズルが前記搬送方向に並んだ第1ノズル列と、複数のノズルが前記搬送方向に並んだ第2ノズル列と、前記搬送部により前記媒体を搬送方向に搬送する搬送動作と、前記第1ノズル列及び前記第2ノズル列を移動方向に移動させつつ前記ノズルから液体を吐出して前記媒体にドットを形成するドット形成動作と、を交互に繰り返させることにより、前記移動方向に並ぶドットから構成されるドット列を前記搬送方向に複数形成させるコントローラと、を備える液体吐出装置であって、前記第1ノズル列に対応する第1補正値と、前記第2ノズル列に対応する第2補正値とが設定されており、前記第1ノズル列と前記第2ノズル列によりドット列を形成する際には、そのドット列における前記第1ノズル列の使用率及び前記第2ノズル列の使用率に応じて前記第1補正値及び前記第2補正値に基づく補正結果が重み付けされて、そのドット列を形成するために吐出される前記液体の量が補正されることを特徴とする液体吐出装置も明らかになる。
媒体を搬送方向に搬送する搬送部と、複数のノズルが前記搬送方向に並んだ第1ノズル列と、複数のノズルが前記搬送方向に並んだ第2ノズル列と、前記搬送部により前記媒体を搬送方向に搬送する搬送動作と、前記第1ノズル列及び前記第2ノズル列を移動方向に移動させつつ前記ノズルから液体を吐出して前記媒体にドットを形成するドット形成動作と、を交互に繰り返させることにより、前記移動方向に並ぶドットから構成されるドット列を前記搬送方向に複数形成させるコントローラと、を備える液体吐出装置に、前記第1ノズル列に対応する第1補正値と、前記第2ノズル列に対応する第2補正値とを設定する機能と、前記第1ノズル列と前記第2ノズル列によりドット列を形成する際には、そのドット列における前記第1ノズル列の使用率及び前記第2ノズル列の使用率に応じて前記第1補正値及び前記第2補正値に基づく補正結果が重み付けされて、そのドット列を形成するために吐出される前記液体の量を補正する機能とを実現させることを特徴とするプログラムも明らかになる。
===プリンタの構成===
<インクジェットプリンタの構成について>
図1は、プリンタ1の全体構成のブロック図である。また、図2Aは、プリンタ1の全体構成の概略図である。また、図2Bは、プリンタ1の全体構成の横断面図である。以下、プリンタの基本的な構成について説明する。
プリンタ1は、搬送ユニット20、キャリッジユニット30、ヘッドユニット40、検出器群50、及びコントローラ60を有する。外部装置であるコンピュータ110から印刷データを受信したプリンタ1は、コントローラ60によって各ユニット(搬送ユニット20、キャリッジユニット30、ヘッドユニット40)を制御する。コントローラ60は、コンピュータ110から受信した印刷データに基づいて、各ユニットを制御し、紙に画像を印刷する。プリンタ1内の状況は検出器群50によって監視されており、検出器群50は、検出結果をコントローラ60に出力する。コントローラ60は、検出器群50から出力された検出結果に基づいて、各ユニットを制御する。
搬送ユニット20は、媒体(例えば、紙Sなど)を所定の方向(以下、搬送方向という)に搬送させるためのものである。この搬送ユニット20は、給紙ローラ21と、搬送モータ22(PFモータとも言う)と、搬送ローラ23と、プラテン24と、排紙ローラ25とを有する。給紙ローラ21は、紙挿入口に挿入された紙をプリンタ内に給紙するためのローラである。搬送ローラ23は、給紙ローラ21によって給紙された紙Sを印刷可能な領域まで搬送するローラであり、搬送モータ22によって駆動される。プラテン24は、印刷中の紙Sを支持する。排紙ローラ25は、紙Sをプリンタの外部に排出するローラであり、印刷可能な領域に対して搬送方向下流側に設けられている。
キャリッジユニット30は、ヘッドを所定の方向(以下、移動方向という)に移動(「走査」とも呼ばれる)させるためのものである。キャリッジユニット30は、キャリッジ31と、キャリッジモータ32(CRモータとも言う)とを有する。キャリッジ31は、移動方向に往復移動可能であり、キャリッジモータ32によって駆動される。また、キャリッジ31は、インクを収容するインクカートリッジを着脱可能に保持している。
ヘッドユニット40は、紙にインクを吐出するためのものである。ヘッドユニット40は、複数のノズルを有するヘッド41を備える。このヘッド41はキャリッジ31に設けられているため、キャリッジ31が移動方向に移動すると、ヘッド41も移動方向に移動する。そして、ヘッド41が移動方向に移動中にインクを断続的に吐出することによって、移動方向に沿ったドットライン(ラスタライン)が紙に形成される。
なお、ヘッド41には、第1ノズル群41A及び第2ノズル群41Bが設けられている。これら2個のノズル群の構成については、後述する。
検出器群50には、リニア式エンコーダ51、ロータリー式エンコーダ52、紙検出センサ53、および光学センサ54等が含まれる。リニア式エンコーダ51は、キャリッジ31の移動方向の位置を検出する。ロータリー式エンコーダ52は、搬送ローラ23の回転量を検出する。紙検出センサ53は、給紙中の紙の先端の位置を検出する。光学センサ54は、キャリッジ31に取付けられている発光部と受光部により、紙の有無を検出する。そして、光学センサ54は、キャリッジ31によって移動しながら紙の端部の位置を検出し、紙の幅を検出することができる。また、光学センサ54は、状況に応じて、紙の先端(搬送方向下流側の端部であり、上端ともいう)・後端(搬送方向上流側の端部であり、下端ともいう)も検出できる。
コントローラ60は、プリンタの制御を行うための制御ユニット(制御部)である。コントローラ60は、インターフェース部61と、CPU62と、メモリ63と、ユニット制御回路64とを有する。インターフェース部61は、外部装置であるコンピュータ110とプリンタ1との間でデータの送受信を行う。CPU62は、プリンタ全体の制御を行うための演算処理装置である。メモリ63は、CPU62のプログラムを格納する領域や作業領域等を確保するためのものであり、RAM、EEPROM等の記憶素子を有する。CPU62は、メモリ63に格納されているプログラムに従って、ユニット制御回路64を介して各ユニットを制御する。
更に、コントローラ60には駆動信号生成回路65が設けられている。駆動信号生成回路65は、第1駆動信号生成部65Aと第2駆動信号生成部65Bとを備えている。第1駆動信号生成部65Aは、第1ノズル群41Aのピエゾ素子を駆動するための第1駆動信号を生成する。第2駆動信号生成部65Bは、第2ノズル群41Bのピエゾ素子を駆動するための第2駆動信号を生成する。各駆動信号生成部は、奇数画素(後述)にドットを形成する場合には奇数画素用の駆動信号を生成し、偶数画素(後述)にドットを形成する場合には偶数画素用の駆動信号を生成する。各駆動信号生成部は互いに独立しており、例えば第1駆動信号生成部65Aが奇数画素用の駆動信号を生成しているときに、第2駆動信号生成部65Bは、奇数画素用の駆動信号を生成することもできるし、偶数画素用の駆動信号を生成することもできる。
印刷を行うとき、コントローラ60は、移動方向に移動中のヘッド41からインクを吐出させるドット形成動作と、搬送方向に紙を搬送する搬送動作とを交互に繰り返し、無数のドットから構成される画像を紙に印刷する。なお、ドット形成動作のことを「パス」と呼び、n回目のパスのことを「パスn」と呼ぶことがある。
===ヘッド41の構成===
<構成について>
図3は、ノズルの配列を示す説明図である。ヘッド41の下面には2個のノズル群(第1ノズル群41A及び第2ノズル群41B)が設けられている。各ノズル群には、8個のノズル列が設けられている。8個のノズル列は、それぞれ濃シアン(C)、濃マゼンタ(M)、イエロー(Y)、濃ブラック(K)、淡シアン(LC)、淡マゼンタ(LM)、淡ブラック(LK)、極淡ブラック(LLK)のインクを吐出する。
各ノズル列には、搬送方向に並ぶ180個のノズルが180dpiのノズルピッチで設けられている。また、各ノズル列のノズルには、搬送方向下流側のノズルほど若い番号が付されている。各ノズルには、各ノズルからインク滴を吐出させるための駆動素子としてピエゾ素子(不図示)が設けられている。
第1ノズル群41Aは、第2ノズル群41Bよりも搬送方向下流側に設けられている。また、4個のノズルの搬送方向の位置が重複するように、第1ノズル群41Aと第2ノズル群41Bが設けられている。例えば、第1ノズル群41Aのノズル♯177Aの搬送方向の位置は、第2ノズル群41Bのノズル♯1Bの搬送方向の位置と同じになっている。これにより、あるドット形成動作において、ある画素に対して第1ノズル群41Aのノズル♯177Aがドットを形成可能なとき、その画素に対して第2ノズル群41Bのノズル♯1Bでもドットを形成可能である。
===ドットの形成方法===
<ノズル列の表記方法について>
まず、ドットの形成方法を説明する前に、ノズル列及びノズルの表記方法について説明する。
図4は、仮想ノズル列42Xの説明図である。
図中の左側には、第1ノズル群41Aの濃ブラックのノズル列と、第2ノズル群41Bの濃ブラックのノズル列が記載されている。以下の説明では、第1ノズル群41Aの濃ブラックのノズル列を「第1ノズル列42A」と呼び、第2ノズル群41Bの濃ブラックのノズル列を「第2ノズル列42B」と呼ぶ。なお、説明の簡略化のため、各ノズル列のノズル数は15個とする。
第1ノズル列42Aの搬送方向上流側の4個のノズル(ノズル♯12A〜ノズル♯15A)と、第2ノズル列42Bの搬送方向下流側の4個のノズル(ノズル♯1B〜ノズル♯4B)は、搬送方向の位置が重複している。以下の説明では、各ノズル列のこれらの4個のノズルのことを、「重複ノズル」と呼ぶ。
第1ノズル列42Aの各ノズルは丸印で示されており、第2ノズル列42Bの各ノズルは三角印で示されている。また、インクを吐出しないノズル(つまりドットを形成しないノズル)にはバツ印が示されている。
ここでは、第1ノズル列42Aの重複ノズルのうち、ノズル♯12A及びノズル♯13Aからはインクを吐出し、ノズル♯14A及びノズル♯15Aからはインクを吐出しない。また、ここでは、第2ノズル列42Bの重複ノズルのうち、ノズル♯1B及びノズル♯2Bはインクを吐出せず、ノズル♯3B及びノズル♯4Bはインクを吐出する。
このような場合、図中の中央部に記載されたように、2個のノズル列を1個の仮想ノズル列42Xとして説明することができる。以下の説明では、2個のノズル列を別々に描く代わりに、1個の仮想ノズル列42Xを用いてドット形成の様子を説明する。
なお、図中の右側に示すように、この仮想ノズル列42Xは、丸印のノズルが奇数画素にドットを形成するときであっても、三角印のノズルは偶数画素にドットを形成することが可能である。もちろん、丸印のノズルが奇数画素にドットを形成するときに、三角印のノズルも奇数画素にドットを形成することも可能である。
<参考:通常処理>
図5は、通常処理の説明図である。通常処理は、紙の中央部を印刷するときに行われる処理(ドット形成動作及び搬送動作)である。コントローラ60は、各ユニットを制御することによって、以下に説明する通常処理を実現する。
図中には、各ドット形成動作時の紙に対する仮想ノズル列42Xの相対的な位置関係が示されている。図中では仮想ノズル列42Xが紙に対して移動しているように描かれているが、実際には紙の方が搬送方向に移動する。図に示すように、通常処理では、パスとパスとの間に行われる搬送動作において、9個のドット分の搬送量9Dにて紙が搬送される。
図中の領域A(紙上の領域)には、パス1〜パス6によりドットが形成される。図中の領域Bには、パス2〜パス7によりドットが形成される。
奇数番目のパスでは、各ノズルは、偶数番目(又は奇数番目)のラスタラインの位置になる。奇数番目のパスの後、9個のドット分の搬送量9Dにて紙が搬送された後に偶数番目のパスが行われるため、偶数番目のパスでは、各ノズルは、偶数番目(又は奇数番目)のラスタラインの位置になる。このように、各ノズルの位置は、パスごとに交互に、奇数番目又は偶数番目のラスタラインの位置になる。
図6Aは、図5の領域A及び領域Bにおけるドット形成の説明図である。
図中の左側には、各パスにおけるノズルの相対位置が示されている。黒く塗り潰されたノズルは、そのパスにおいて、2画素に1画素の割合でドットを形成する。例えば、パス2のノズル♯8Bは、2画素に1画素の割合でドットを形成する。斜線によるハッチングがなされたノズルは、4画素に1画素の割合でドットを形成する。例えば、パス4のノズル♯10Aは、4画素に1画素の割合でドットを形成する。
斜線によるハッチングがなされたノズルは、黒く塗り潰されたノズルと比べて半分のドットしか形成しない。この斜線によるハッチングがなされたノズルのことを、「POLノズル」と呼ぶことにする。
あるパスの第1ノズル列42Aの搬送方向上流側の4個のノズル(ノズル♯10A〜13A)と、そのパスから2回の搬送動作が行われた後の第1ノズル列42Aの搬送方向下流側の4個のノズル(ノズル♯1A〜4A)は、搬送方向の位置が重複する。このようなノズルが、POLノズルになる。例えば、パス4のノズル♯10A〜ノズル♯13Aと、パス6のノズル♯1A〜ノズル♯4Aは、搬送方向の位置が重複するため、POLノズルになる。
同様に、あるパスの第2ノズル列42Bの搬送方向上流側の4個のノズル(ノズル♯12B〜ノズル♯15B)と、そのパスから2回の搬送動作が行われた後の第2ノズル列42Bの搬送方向下流側の4個のノズル(ノズル♯3B〜ノズル♯6B)は、搬送方向の位置が重複する。このようなノズルが、POLノズルになる。例えば、パス2のノズル♯12B〜ノズル♯15Bと、パス4のノズル♯3B〜ノズル♯6Bは、搬送方向の位置が重複するため、POLノズルになる。
図中の右側には、各画素にドットを形成するノズルが示されている。例えば、1番目のラスタライン(ラスタ番号が1のラスタライン)は、ノズル♯8Bによって奇数画素に形成されたドットと、ノズル♯10A及びノズル♯1Aによって偶数画素に形成されたドットとにより構成される。なお、ここでは説明の簡略化のため、各ラスタラインは8個のドットだけで構成されている。
図中の左上には、各ノズル列によって形成されるドットの位置が示されている。例えば、パス1では、第1ノズル列42Aのノズル(ノズル♯1A〜ノズル♯13A)は奇数画素にドットを形成し、第2ノズル列42Bのノズル(ノズル♯3B〜ノズル♯15B)は偶数画素にドットを形成する。
各ラスタラインは、2個又は3個のノズルによって形成されたドットから構成される。言い換えると、各ラスタラインに対し、2個又は3個のノズルが対応付けられている。例えば、1番目のラスタラインには、パス2のノズル♯8B、パス4のノズル♯10A、パス6のノズル♯1Aが対応付けられている。また、各ラスタラインは、第1ノズル列42Aの少なくとも1個のノズルによって形成されたドットと、第2ノズル列42Bの少なくとも1個のノズルによって形成されたドットから構成される。言い換えると、各ラスタラインに対し、第1ノズル列42Aの少なくとも1個のノズルと、第2ノズル列42Bの少なくとも1個のノズルが対応付けられている。
あるラスタラインの奇数画素又は偶数画素に対してノズルが1個だけ対応付けられている場合、そのノズルは、2画素に1画素の割合でドットを形成する。例えば、1番目のラスタラインの奇数画素に対しては、ノズル♯8Bが1個だけ対応付けられている(他のノズルは対応付けられていない)。このため、ノズル♯8Bは、2画素に1画素の割合でドットを形成する。
一方、あるラスタラインの奇数画素又は偶数画素に対してノズルが2個対応付けられている場合、その2個のノズルは、それぞれ、4画素に1画素の割合でドットを形成する(POLノズルになる)。例えば、1番目のラスタラインの偶数画素に対しては、ノズル♯10A及びノズル♯1Aが対応付けられている。このため、ノズル♯10A及びノズル♯1Aは、それぞれ、4画素に1画素の割合でドットを形成する(POLノズルになる)。
通常処理では、あるパスにおいて、第1ノズル列42Aがドットを形成する位置(移動方向の位置)と、第2ノズル列42Bがドットを形成する位置が異なっている。具体的には、第1ノズル列42Aが奇数画素にドットを形成するときには、第2ノズル列42Bは偶数画素にドットを形成する。逆に、第1ノズル列42Aが偶数画素にドットを形成するときには、第2ノズル列42Bは奇数画素にドットを形成する。前述の第1駆動信号生成部65Aと第2駆動信号生成部65Bが互いに独立して駆動信号を生成できるので、このようなドット形成が可能になる。
また、通常処理では、あるパスと次のパスとを比較すると、各ノズル列がドットを形成する位置が異なっている。例えば、あるパスにおいて第1ノズル列42Aが奇数画素にドットを形成し第2ノズル列42Bが偶数画素にドットを形成する場合、次のパスにおいて、第1ノズル列42Aは偶数画素にドットを形成し、第2ノズル列42Bは奇数画素にドットを形成する。
このようにドットを形成することによって、一方のノズル列によって千鳥格子状にドットが形成され、その千鳥格子状のドットの間を埋めるように、他方のノズル列によって千鳥格子状にドットが形成される。図6Aの右側に注目すると、第1ノズル列42Aによって形成される丸印のドットは千鳥格子状になっており、第2ノズル列42Bによって形成される三角印のドットも千鳥格子状になっている。なお、ドットの形成順序からすると、第2ノズル列42Bによって千鳥格子状にドットが形成された後、その間を埋めるように、第1ノズル列42Aによってドットが形成されることになる。
通常処理でラスタラインが形成された場合、そのラスタラインでは、第1ノズル列42Aによって半分のドットが形成され、第2ノズル列42Bによって残りの半分のドットが形成される。言い換えると、これらのラスタラインを形成するときの各ノズル列の使用率は、第1ノズル列42Aが50%であり、第2ノズル列42Bも50%である。
領域Aにはパス1〜パス6によりドットが形成され、領域Bにはパス2〜パス7によりドットが形成されているので、領域Aと領域Bとの間でパスが1回分ずれている。パスが1回分ずれているため、各ラスタラインに対応付けられるノズルは各領域で共通しているものの、各ノズルが形成するドットの位置(移動方向の位置)が奇数画素か偶数画素かで異なっている。例えば、1番目のラスタラインに対し、パス2のノズル♯8Bは奇数画素にドットを形成するが、10番目のラスタラインに対し、パス3のノズル♯8Bは偶数画素にドットを形成する。
なお、ここでは図示しないが、領域Bよりも搬送方向上流側に位置する19〜27番目のラスタラインは、パス3〜パス8により、領域Aとほぼ同様にドットが形成される。例えば、19番目のラスタラインは、ノズル♯8B、ノズル♯10A、ノズル♯1Aが対応付けられており、ノズル♯8Bは19番目のラスタラインの奇数画素にドットを形成する。また、19〜27番目のラスタラインよりも搬送方向上流側に位置する28〜36番目のラスタラインは、パス4〜パス9により、領域Bとほぼ同様にドットが形成される。このように、通常処理が続けて行われると、領域Aと領域Bと同様なドット形成が繰り返し行われることになる。
図6Bは、図6Aを別の表記方法で表現したものである。
図中の左上の表記において、奇数を「1」で示し、偶数を「2」で示している。例えば、パス1では、第1ノズル列42Aのノズル(ノズル♯1A〜ノズル♯13A)は奇数画素にドットを形成し、第2ノズル列42Bのノズル(ノズル♯3B〜ノズル♯15B)は偶数画素にドットを形成することが示されている。
図中の右側の表記においても、奇数画素を「1」で示し、偶数画素を「2」で示している。そして、奇数画素に対応付けられたノズルが1個の場合には、奇数画素を示す「1」の下に、そのノズルを表す記号が示されている。例えば、1番目のラスタラインの奇数画素には、ノズル♯8Bが対応付けられていることが示されている。また、偶数画素に対応付けられたノズルが1個の場合には、偶数画素を示す「2」の下に、そのノズルを示す記号が示されている。例えば、8番目のラスタラインの偶数画素には、ノズル♯7Bが対応付けられていることが示されている。なお、言い換えると、奇数画素を示す「1」の下にノズルを表す記号が示されていれば、そのノズルは、2画素に1画素の割合でドットを形成することになる。同様に、偶数画素を示す「2」の下にノズルを表す記号が示されていれば、そのノズルは、2画素に1画素の割合でドットを形成することになる。
また、奇数画素又は偶数画素に対応付けられたノズルが2個の場合には、そのノズルはPOLノズルになるので、図中の「POL」との文字の下に、その2個のノズルの記号が示されている。例えば、1番目のラスタラインの偶数画素にはノズル♯10A及びノズル♯1Aが対応付けられており、これらのノズルはPOLノズルになるので、図中の右側の「POL」との文字の下に、ノズル♯10A及びノズル♯1Aを示す記号が記載されている。なお、言い換えると、「POL」との文字の下に2個のノズルを表す記号が示されていれば、その各ノズルは、4画素に1画素の割合でドットを形成することになる。
「POL」との文字の下に2個のノズルを表す記号が示されている場合、奇数画素を示す「1」の下、若しくは、偶数画素を示す「2」の下に、ノズルを表す記号が示されていない。仮に、奇数画素を示す「1」の下にノズルを表す記号が無い場合、POLノズルは、奇数画素にドットを形成することになる。例えば、9番目のラスタラインでは、POLノズルであるノズル♯12B及びノズル♯3Bは、奇数画素にドットを形成することになる。また、偶数画素を示す「2」の下にノズルを表す記号が無い場合、POLノズルは、偶数画素にドットを形成することになる。例えば、1番目のラスタラインでは、POLノズルであるノズル♯10A及びノズル♯1Aは、偶数画素にドットを形成することになる。
これまでの説明によって、図6Bの右側の記載を見れば、図6Aの右側に示すようにドットが形成されることは理解できるであろう。そこで、以下の説明では、図6Bの表記方法を用いて、ドットの形成の様子を説明することにする。また、図面のスペースの都合上、図6Bの右側の丸印や三角印の中の数字も省略することにする。
<第1ドット形成方法>
次に、紙の上端を印刷するための上端処理を行った後に通常処理を行うときのドット形成の様子を説明する。
図7は、第1ドット形成方法の説明図である。第1ドット形成方法では、パス1〜パス4において上端処理が行われ、パス5以降に通常処理が行われる。上端処理では、パスとパスとの間に行われる搬送動作において、1個のドット分の搬送量D(通常処理での搬送量よりも短い搬送量)にて紙が搬送される。
上端処理では、奇数番目のパスでは、各ノズルは、奇数番目のラスタラインの位置になる。奇数番目のパスの後、1個のドット分の搬送量にて紙が搬送されるため、偶数番目のパスでは、各ノズルは、偶数番目のラスタラインの位置になる。このように、上端処理においても、各ノズルの位置は、パスごとに交互に、奇数番目又は偶数番目のラスタラインの位置になる。
ところで、前述の通常処理では、各ノズル列によってそれぞれ千鳥格子状にドットを形成するために、あるパスにおける第1ノズル列42Aのドット形成位置と、第2ノズル列42Bのドット形成位置とを異ならせていた。例えば、第1ノズル列42Aが奇数画素にドットを形成するときには、第2ノズル列42Bは偶数画素にドットを形成していた。
これに対し、上端処理では、あるパスにおける第1ノズル列42Aのドット形成位置と、第2ノズル列42Bのドット形成位置とが同じである。例えば、パス1において、第1ノズル列42A及び第2ノズル列42Bは、両方とも奇数画素にドットを形成する。
もし仮に、上端処理において、通常処理と同じようにあるパスにおける第1ノズル列42Aのドット形成位置と、第2ノズル列42Bのドット形成位置とを異ならせた場合、奇数画素又は偶数画素の一方にドットを形成できなくなるおそれがある。これは、同じノズル列に属する複数のノズルのドット形成位置はどれも同じであり、同じノズル列に属する複数のノズルのドット形成位置を異ならせることができないためである。この結果、例えば、27番目のラスタラインを形成するパス3のノズル♯3Bとパス5のノズル♯9Aの両方とも奇数画素にドットを形成することになってしまい、27番目のラスタラインの偶数画素にドットを形成できるノズルがなくなる。
また、前述の通常処理では、各ノズル列によってそれぞれ千鳥格子状にドットを形成するために、あるパスと次のパスとの間で各ノズル列のドット形成位置を異ならせていた。例えば、あるパスにおいて第1ノズル列42Aが奇数画素にドットを形成し第2ノズル列42Bが偶数画素にドットを形成する場合、次のパスにおいて、第1ノズル列42Aは偶数画素にドットを形成し、第2ノズル列42Bは奇数画素にドットを形成していた。
これに対し、上端処理では、各ノズル列のドット形成位置は、奇数画素(パス1)→偶数画素(パス2)→偶数画素(パス3)→奇数画素(パス4)の順に変更される。つまり、上端処理では、必ずしも、あるパスと次のパスとの間で各ノズル列のドット形成位置が異ならないことがある。例えば、パス2及びパス3では、ドット形成位置は同じ偶数画素である。
もし仮に、上端処理において、通常処理と同じように各ノズル列のドット形成位置が奇数画素(パス1)→偶数画素(パス2)→奇数画素(パス3)→偶数画素(パス4)の順に交互に変更された場合、奇数画素又は偶数画素の一方にドットを形成できなくなるおそれがある。例えば、1番目のラスタラインを形成するパス1のノズル♯2Aとパス3のノズル♯1Aの両方とも奇数画素にドットを形成することになってしまい、1番目のラスタラインの偶数画素にドットを形成できるノズルがなくなる。
通常処理と上端処理に上記の相違がある理由は、通常処理では、各ノズル列によってそれぞれ千鳥格子状にドットを形成していたのに対し、上端処理では、4回のパスのうちの前半2回のパスで千鳥格子状にドットが形成され、その千鳥格子状のドットの間を埋めるように、後半2回のパスで千鳥格子状にドットが形成されるためである。
なお、上端処理において、前半2回のパスでは、第2ノズル列42Bはほとんど使用されていない。パス2で使用される第2ノズル列42Bの2個のノズルは、いずれも移行領域(後述)で用いられているだけである。そして、上端処理のパス3以降から、第2ノズル列42Bは、通常処理と同様に、ドット形成位置をパスごとに交互に変更することを開始している。(パス3以降から、第2ノズル列42Bのドット形成位置は、偶数画素→奇数画素→偶数画素→奇数画素→・・・の順に変更される。)このため、パス3以降から(通常処理の前から)、第2ノズル列42Bは千鳥格子状のドットの形成を開始することになる。
このように、第2ノズル列42Bのドット形成位置は、パス3以降から通常処理と同様な順になる。一方、上端処理では、通常処理での搬送量よりも短い搬送量でしか、紙が搬送されていない。この結果、仮にパス3において第2ノズル列42Bの全てのノズルからインクを吐出してしまうと、重複した位置にドットが形成されてしまう。
そこで、パス3では搬送方向上流側の4個のノズル(ノズル♯12B〜♯15B)からはインクが吐出されないようにしている。これにより、インクを吐出するノズルのうちの最も搬送方向上流側のノズルの搬送方向の位置が、パス3以降から、搬送方向の位置が9個のドット分(通常処理での搬送量に相当)だけパスごとに変化するようになる。この結果、第2ノズル列42Bは、パス3以降から、通常処理と同様に、千鳥格子状のドットの形成を開始することができる。
上記のドット形成方法により、1〜25番目までのラスタライン(紙の上端側のラスタライン)は、第1ノズル列42Aだけで形成されることになる。言い換えると、1〜25番目までのラスタラインを形成するときのノズル列の使用率は、第1ノズル列42Aが100%であり、第2ノズル列42Bは0%である。以下の説明では、1〜25番目のラスタラインの領域を「上端領域」と呼ぶ。
30番目のラスタラインよりも搬送方向上流側のラスタラインを形成するときの各ノズル列の使用率は、第1ノズル列42Aが50%であり、第2ノズル列42Bも50%である。以下の説明では、30番目のラスタラインよりも搬送方向上流側の領域を「通常領域」と呼ぶ。
上端領域と通常領域の間には、移行領域が存在する。この移行領域には、例えば26番目のラスタラインのように、第1ノズル列42Aの使用率が75%であり、第2ノズル列42Bの使用率が25%であるような、上端領域と通常領域の中間的な性質をもつラスタラインが存在する。この第1ドット形成方法では、移行領域は4個のラスタライン(26〜29番目のラスタライン)から構成される。
<第2ドット形成方法>
次に、第2ドット形成方法について説明する。第2ドット形成方法は、前述の第1ドット形成方法と比べて、上端処理における重複ノズル(ノズル♯12A〜ノズル♯15A、ノズル♯1B〜ノズル♯4B)の用い方が異なる。
図8は、第2ドット形成方法の説明に用いる仮想ノズル列の説明図である。ここでは、搬送方向の位置が重複する2個のノズル(例えばノズル♯12Aとノズル♯1B)を1個の四角印のノズルとして示している。2個のノズル列をこのような1個の仮想ノズル列にして、説明を行うことにする。
なお、四角印のノズルがドットを形成するとき、半分の割合で第1ノズル列42Aのノズルが用いられ、残り半分の割合で第2ノズル列42Bのノズルが用いられる。例えば、図中の右側に表されるように、ある四角印のノズルが4個のドットを形成するとき、2個のドットは第1ノズル列42Aのノズルで形成され、残りの2個のドットは第2ノズル列42Bのノズルで形成される。
図9は、第2ドット形成方法の説明図である。仮想ノズル列の重複ノズルは、太線で示されている。第2ドット形成方法も、第1ドット形成方法と同様に、パス1〜パス4において上端処理が行われ、パス5以降に通常処理が行われる。
通常処理は、前述の第1ドット形成方法と同じである。通常処理の場合、既に説明した通り、搬送方向の位置が重複する2個のノズル(第1ノズル列42Aのノズルと第2ノズル列42Bのノズル)のいずれか一方しか用いられず、他方は用いられない。例えば、ノズル♯12Aとノズル♯1Bのうち、ノズル♯12Aしか用いられず、ノズル♯1Bは用いられない(図4参照)。
一方、上端処理では、前述の第1ドット形成方法と比べて、重複ノズルの用い方が異なる。図中のパス1〜パス4の仮想ノズル列において重複ノズルが四角印で示されており、四角印の重複ノズルに対応付けられる画素にドットを形成するとき、半分の割合で第1ノズル列42Aのノズルが用いられ、残り半分の割合で第2ノズル列42Bのノズルが用いられる。
例えば23番目のラスタラインでは、偶数画素に対して四角印のノズル(パス3)が対応付けられている。このため、偶数画素の半分の画素に対して第1ノズル列42Aのノズル♯12Aがドットを形成し、偶数画素の残りの半分の画素に対して第2ノズル列42Bのノズル♯1Bがドットを形成する。この結果、23番目のラスタラインでは、4画素に3画素の割合で第1ノズル列42Aのノズルがドットを形成し、4画素に1画素の割合で第2ノズル列42Bのノズルがドットを形成する。つまり、ノズル使用率は、第1ノズル列42Aが75%であり、第2ノズル列42Bが25%である。
また、例えば22番目のラスタラインでは、偶数画素に対して四角印のノズル(パス2)と丸印のノズル(パス6)がPOLノズルとして対応付けられている。このため、偶数画素の半分の画素に対して、四角印のノズルが対応付けられていることになる。つまり、4画素に1画素の割合で、四角印のノズルが対応付けられている。この結果、22番目のラスタラインでは、8画素に7画素の割合で第1ノズル列42Aのノズルがドットを形成し、8画素に1画素の割合で第2ノズル列42Bのノズルがドットを形成する。つまり、ノズル使用率は、第1ノズル列42Aが87.5%であり、第2ノズル列42Bが12.5%である。
上端処理の重複ノズルの用い方を通常処理の重複ノズルの用い方と異ならせることによって、第2ドット形成方法の移行領域は、第1ドット形成方法の移行領域よりも、ラスタラインの数が増える。この第2ドット形成方法では、移行領域は9個のラスタライン(22〜30番目のラスタライン)から構成される。
<第3ドット形成方法>
次に、第3ドット形成方法について説明する。第3ドット形成方法では、上端処理と通常処理との間に移行処理がある点で、前述の第1ドット形成方法とは異なる(第2ドット形成方法とも異なる)。但し、第3ドット形成方法の重複ノズルの用い方は、前述の第1ドット形成方法と同様である。
図10は、第3ドット形成方法の説明図である。第3ドット形成方法では、パス1〜パス4において上端処理が行われ、パス5〜パス8において移行処理が行われ、パス9移行に通常処理が行われる。インクを吐出しないノズルが一部異なっているが、第3ドット形成方法の上端処理と通常処理は、前述の第1ドット形成方法と同じである。
移行処理の搬送動作では、3個のドット分の搬送量3Dにて紙が搬送される。この搬送量3Dは、上端処理の搬送量Dよりも長く、通常処理の搬送量9Dよりも短い。つまり、第3ドット形成方法では、上端処理から通常処理になるまでの間、徐々に搬送量が増えていくことになる。
移行処理では、上端処理と同様に、あるパスにおける第1ノズル列42Aのドット形成位置と、第2ノズル列42Bのドット形成位置とが同じである。例えば、パス5において、第1ノズル列42A及び第2ノズル列42Bは、両方とも奇数画素にドットを形成する。
また、移行処理では、上端処理と同様に、各ノズル列のドット形成位置が、奇数画素(パス5)→偶数画素(パス6)→偶数画素(パス7)→奇数画素(パス8)の順に変更される。つまり、移行処理では、必ずしも、あるパスと次のパスとの間で各ノズル列のドット形成位置が異ならないことがある。例えば、パス6及びパス7では、ドット形成位置は同じ偶数画素である。さらに、上端処理の最後のパスのドット形成位置と、移行処理の最初のパスのドット形成位置も、同じ奇数画素である。
また、移行処理のパス7以降から、第2ノズル列42Bは、通常処理と同様に、ドット形成位置をパスごとに交互に変更することを開始している(パス7以降から、第2ノズル列42Bのドット形成位置は、偶数画素→奇数画素→偶数画素→奇数画素→・・・の順に変更される。)このため、パス7以降から(通常処理の前から)、第2ノズル列42Bは千鳥格子状のドットの形成を開始することになる。
このように、第2ノズル列42Bのドット形成位置は、パス7以降から通常処理と同様な順になる。一方、移行処理では、通常処理での搬送量よりも短い搬送量でしか、紙が搬送されていない。この結果、仮にパス7において第2ノズル列42Bの全てのノズルからインクを吐出してしまうと、重複した位置にドットが形成されてしまう。
そこで、パス7では搬送方向上流側の4個のノズル(ノズル♯12B〜♯15B)からはインクが吐出されないようにしている。これにより、インクを吐出するノズルのうちの最も搬送方向上流側のノズルの搬送方向の位置が、パス7以降から、搬送方向の位置が9個のドット分(通常処理での搬送量に相当)だけパスごとに変化するようになる。この結果、第2ノズル列42Bは、パス3以降から、通常処理と同様に、千鳥格子状のドットの形成を開始することができる。
上記のような移行処理を行うことによって、第3ドット形成方法の移行領域は、第1ドット形成方法の移行領域よりも、ラスタラインの数が増える。この第3ドット形成方法では、移行領域は19個のラスタライン(28〜46番目のラスタライン)から構成される。
<第4ドット形成方法>
次に、第4ドット形成方法について説明する。第4ドット形成方法では、前述の第3ドット形成方法と同様に、移行処理を行っている。但し、第4ドット形成方法は、前述の第3ドット形成方法と比べて、上端処理及び移行処理における重複ノズル(ノズル♯12A〜ノズル♯15A、ノズル♯1B〜ノズル♯4B)の用い方が異なる。なお、第4ドット形成方法の重複ノズルの用い方は、前述の第2ドット形成方法と共通している。
図11は、第4ドット形成方法の説明図である。仮想ノズル列の重複ノズルは、太線で示されている。
上端処理では、前述の第3ドット形成方法と比べて、重複ノズルの用い方が異なる。図中のパス1〜パス4の仮想ノズル列において重複ノズルが四角印で示されており、四角印のノズルに対応付けられる画素にドットを形成するとき、半分の割合で第1ノズル列42Aのノズルが用いられ、残り半分の割合で第2ノズル列42Bのノズルが用いられる。
例えば30番目のラスタラインでは、偶数画素に対して四角印のノズル(パス6)が対応付けられている。このため、偶数画素の半分の画素に対して第1ノズル列42Aのノズル♯12Aがドットを形成し、偶数画素の残りの半分の画素に対して第2ノズル列42Bのノズル♯1Bがドットを形成する。この結果、30番目のラスタラインでは、4画素に3画素の割合で第1ノズル列42Aのノズルがドットを形成し、4画素に1画素の割合で第2ノズル列42Bのノズルがドットを形成する。つまり、ノズル使用率は、第1ノズル列42Aが75%であり、第2ノズル列42Bが25%である。
また、例えば24番目のラスタラインでは、奇数画素に対して四角印のノズル(パス4)と丸印のノズル(パス8)がPOLノズルとして対応付けられている。このため、奇数画素の半分の画素に対して、四角印のノズルが対応付けられていることになる。つまり、4画素に1画素の割合で、四角印のノズルが対応付けられている。この結果、24番目のラスタラインでは、8画素に7画素の割合で第1ノズル列42Aのノズルがドットを形成し、8画素に1画素の割合で第2ノズル列42Bのノズルがドットを形成する。つまり、ノズル使用率は、第1ノズル列42Aが87.5%であり、第2ノズル列42Bが12.5%である。
上端処理及び移行処理の重複ノズルの用い方を通常処理の重複ノズルの用い方と異ならせることによって、第4ドット形成方法の移行領域は、第3ドット形成方法の移行領域よりも、ラスタラインの数が増える。この第4ドット形成方法では、移行領域は23個のラスタライン(24〜46番目のラスタライン)から構成される。
<比較(1)>
まず、移行領域のラスタラインの数を比較する。
図12A〜図12Dは、ノズル使用率のグラフである。図12A(左上)は、第1ドット形成方法のノズル使用率のグラフである。図12B(左下)は、第2ドット形成方法のノズル使用率のグラフである。図12C(右上)は、第3ドット形成方法のノズル使用率のグラフである。図12D(左下)は、第4ドット形成方法のノズル使用率のグラフである。
グラフの横軸は、ラスタ番号である。グラフの縦軸は、第1ノズル列42Aの使用率である。いずれのドット形成方法においても、上端領域では第1ノズル列42Aの使用率は100%であり、通常領域では第1ノズル列42Aの使用率は50%になる。なお、グラフ中の点は、2個のラスタラインにおける使用率の平均値である。
第1ドット形成方法(図12A)と第2ドット形成方法(図12B)とを比較すると、第2ドット形成方法の方が、移行領域のラスタラインの数が多い。また、第3ドット形成方法(図12C)と第4ドット形成方法(図12D)とを比較すると、第4ドット形成方法の方が、移行領域のラスタラインの数が多い。このように、上端処理や移行処理における重複ノズルの用い方を、通常処理における重複ノズルの用い方と異ならせることによって、移行領域のラスタラインの数を増やすことができる。言い換えると、通常処理では用いられないノズル(ノズル♯14A、ノズル♯15A、ノズル♯1B、ノズル♯2B)を上端処理や移行処理のときに用いることによって、移行領域のラスタラインの数を増やすことができる。
第1ドット形成方法(図12A)と第3ドット形成方法(図12C)とを比較すると、第3ドット形成方法の方が、移行領域のラスタラインの数が多い。また、第2ドット形成方法(図12B)と第4ドット形成方法(図12D)とを比較すると、第4ドット形成方法の方が、移行領域のラスタラインの数が多い。このように、上端処理と通常処理との間に移行処理を行うことによって、移行領域のラスタラインの数を増やすことができる。
移行領域のラスタラインの数が増えると、画質が向上すると考えられる。以下、この理由を説明する。
上端領域では、第1ノズル列42Aのみによってラスタラインが形成される。このため、上端領域では、第1ノズル列42Aの特性を強く反映した画質になる。例えば、製造誤差によって第1ノズル列42Aから吐出されるインク量が多い場合、上端領域は濃い画像になる。一方、通常領域では、第1ノズル列42Aと第2ノズル列42Bの両方の特性を反映した画質になる。例えば、製造誤差によって第1ノズル列42Aから吐出されるインク量が多くても、第2ノズル列42Bから吐出されるインク量が少なければ、通常領域の画像は上端領域の画像よりも濃くならないで済む。このように、上端領域の画質と通常領域の画質は、異なる画質になる。
移行領域のラスタラインの数が少ない場合、2つの領域が近接するため、上端領域の画質と通常領域の画質との差が目立ちやすくなる。一方、移行領域には上端領域と通常領域の中間的な性質をもつラスタライン(例えば第1ノズル列42Aの使用率が75%のラスタライン)が存在するので、移行領域のラスタラインの数が多い場合、上端領域の画質と通常領域の画質との差が目立ちにくくなる。
以上説明した通り、移行領域のラスタラインの数が増えると、画質が向上すると考えられる。このため、第2ドット形成方法は、第1ドット形成方法よりも画質が良い。また、第4ドット形成方法は、第3ドット形成方法よりも画質が良い。また、第3ドット形成方法は、第1ドット形成方法よりも画質が良い。また、第4ドット形成方法は、第2ドット形成方法よりも画質が良い。
<比較(2)>
次に、移行領域での使用率の状態を比較する。
第3ドット形成方法(図12C)と第4ドット形成方法(図12D)の移行領域での使用率の変化を比較すると、第4ドット形成方法の方が徐々に変化している。言い換えると、第4ドット形成方法では、移行領域のラスタラインのうち、上端領域に近いラスタラインにおける第1ノズル列42Aの使用率ほど100%に近い値になり、通常領域に近いラスタラインにおける第1ノズル列42Aの使用率ほど50%に近い値になる。これに対し、第3ドット形成方法では、このような傾向はほとんどない。なお、移行領域が狭いために把握しにくいが、第1ドット形成方法(図12A)と第2ドット形成方法(図12B)の移行領域での使用率の変化を比較すると、第2ドット形成方法の方が徐々に変化する。このように、上端処理や移行処理における重複ノズルの用い方を、通常処理における重複ノズルの用い方と異ならせることによって、移行領域での使用率を徐々に変化させることができる。
第2ドット形成方法(図12B)と第4ドット形成方法(図12D)の移行領域での使用率の変化を比較すると、第4ドット形成方法の方が徐々に変化している。なお、移行領域が狭いために把握しにくいが、第1ドット形成方法と第3ドット形成方法の移行領域での使用率の変化を比較すると、第3ドット形成方法の方が徐々に変化する。このように、上端処理と通常処理との間に移行処理を行うことによって、移行領域での使用率を徐々に変化させることができる。
移行領域において第1ノズル列42Aの使用率が徐々に変化する場合、移行領域の画質が、上端領域に近い画質から通常領域に近い画質へと徐々に変化することになる。この結果、上端領域の画質と通常領域の画質との差が目立ちにくくなり、印刷画像全体の画質が良くなる。このため、第4ドット形成方法は、第3ドット形成方法よりも画質が良い。また、第2ドット形成方法は、第1ドット形成方法よりも画質が良い。また、第4ドット形成方法は、第2ドット形成方法よりも画質が良い。また、第3ドット形成方法は、第1ドット形成方法よりも画質が良い。
<実際の使用率>
上記の図12A〜図12Dは、各ノズル列のノズル数が15個の場合の使用率のグラフであるが、実際のノズル列のノズル数は180個である。
図13は、ノズル数が180個のノズル列を用いて第4ドット形成方法を行ったときの第1ノズル列42Aの使用率のグラフである。このように、ノズル数が増えると、移行領域での使用率が徐々に変化する様子が明確になる。
なお、プリンタドライバは、図に示された使用率のデータを使用率テーブルとして予め備えている。また、ドット形成方法が異なればラスタ番号が同じであっても使用率が異なるので、プリンタドライバは、ドット形成方法ごとにそれぞれ使用率テーブルを備えている。
この使用率テーブルは、色むら補正の際に用いられることになる。
===色むら補正===
ノズル列の製造誤差などの影響のため、各ノズル列から吐出されるインク量は均一ではない。このため、基準量よりも多い量のインクを吐出するノズル列は濃く印刷してしまい、基準量よりも少ない量のインクを吐出するノズル列は淡く印刷してしまい、印刷された画像に色むらが生じるおそれがある。
そこで、以下の色むら補正処理によって、印刷される画像の色むらを抑制している。以下、色むら補正処理の手順について説明する。
<色むら補正値取得処理>
図14は、プリンタの製造工場内において行われる色むら補正値の取得処理の説明図である。プリンタの製造工場には、補正値取得用のコンピュータと測色器が用意されている。測色器は、予めコンピュータに接続されている。工場でプリンタが製造されると、そのプリンタは補正値取得用のコンピュータに接続される。図中のコンピュータ内に描かれた各モジュールは、ソフトウェア及びハードウェアによって実現される。
まず、コンピュータの印刷モジュールが、テストパターン印刷用データに基づいて、印刷データを生成し、プリンタに送信する。この印刷モジュールは、いわゆるプリンタドライバと同等のものである。テストパターン印刷用のデータは、コンピュータのメモリに予め格納されている。
次に、印刷データを受信したプリンタはテストパターンを印刷し、測定者は、印刷されたテストパターンを測色器によって測色する。テストパターンには多数のパッチパターンが形成されており、制御モジュールは、測色器から各パッチパターンの測色結果を取得する。
次に、補正値計算モジュールが、測色結果と予め記憶された基準色データとを比較して、色むら補正値を計算する。
最後に、書込モジュールが、プリンタのメモリに色むら補正値を書き込む。プリンタは、色むら補正値をメモリに格納した状態で、工場から出荷される。
図15は、色むら補正値の説明図である。第1ノズル列群及び第2ノズル列群のそれぞれに、色むら補正値がそれぞれ用意されている。また、各ノズル列群のノズル列ごとに(インク色ごとに)、3種類(小ドット、中ドット、大ドット)の色むら補正値が用意されている。
補正値が「100」の場合、基準量と同じインク量がノズルから吐出されることを意味する。例えば、第2ノズル列群のシアンのノズル列は、小ドットを吐出するとき、基準量と同じインク量を吐出する。
補正値が100以上の場合、基準量よりも多いインク量がノズルから吐出されることを意味する。例えば、第1ノズル列群のシアンのノズル列は、小ドットを吐出するとき、基準量よりも多いインク量を吐出する。このため、このノズル列がドットを形成すると、濃い画像になる。
補正値が100以下の場合、基準量よりも少ないインク量がノズルから吐出されることを意味する。例えば、第1ノズル列群のシアンのノズル列は、大ドットを吐出するとき、基準量よりも少ないインク量を吐出する。このため、このノズル列がドットを形成すると、淡い画像になる。
なお、上記の説明ではテストパターンを測色することによって色むら補正値を取得しているが、これに限られるものではない。例えば、吐出されたインク滴のインク量を直接計測することによって、図15と同様の色むら補正値を取得しても良い。
<印刷時の処理>
図16は、ユーザの下での印刷処理時のブロック図である。図17は、プリンタドライバが行う処理のフロー図である。プログラムであるプリンタドライバは、コンピュータのハードウェア(CPUやメモリ等)と協働して、図16の各モジュールや図17の各処理を実現する。
まず、プリンタドライバは、プリンタのメモリから色むら補正値(図15参照)を取得する(S101)。プリンタドライバは、取得した色むら補正値をコンピュータ側のメモリに記憶する。
次に、プリンタドライバは、解像度変換処理を行う(S102)。解像度変換処理は、アプリケーションから出力された画像データ(テキストデータ、イメージデータなど)を、紙に印刷する解像度(印刷解像度)の画像データに変換する処理である。例えば、印刷解像度が1440×720dpiに指定されている場合、アプリケーションから受け取ったベクター形式の画像データを1440×720dpiの解像度の画像データに変換する。解像度変換処理後の画像データの各画素データは、RGB色空間の256階調の階調値を示すデータである。
なお、解像度変換後の画像データの示す画像は、マトリクス状に配置された画素から構成されている。各画素はRGB色空間の256階調の階調値を有している。解像度変換後の画素データは、対応する画素の階調値を示すものである。マトリクス状に配置された画素のうちの横方向に並ぶ一列分の画素に対応する画素データのことを、以下の説明では「ラスタデータ」と呼ぶことがある。なお、ラスタデータの対応する画素の並ぶ方向は、画像を印刷するときのノズル列の移動方向と対応している。
次に、プリンタドライバは、色変換処理を行う(S103)。色変換処理は、RGB色空間のデータを、プリンタのインクの色に対応した色空間のデータに変換する処理である。色変換処理後の画素データは、C・M・Y・K・LC・LM・LK・LLKの8次元の色空間により表される256階調の階調値を示すデータである。
次に、プリンタドライバは、ラスタデータを抽出する(S104)。詳しく言うと、ある色(例えばシアン)の画像データの中から、横方向に並ぶ一列分の画素に対応する画素データを抽出する。
次に、プリンタドライバは、抽出したラスタデータに対し、色むら補正処理を行う(S105)。この色むら補正処理については、後述する。
次に、プリンタドライバは、ハーフトーン処理を行う(S106)。ハーフトーン処理は、256階調の画素データを、プリンタが形成可能な階調数である4階調の画素データに変換する処理である。ハーフトーン処理後の4階調の画素データは、対応する画素に形成するドットの大きさを示すデータとなる。具体的には、大ドット・中ドット・小ドット・ドット無しのいずれかを示すデータになる。
なお、プリンタドライバは、ハーフトーン処理の際にドット生成率テーブルを用いる。このドット生成率テーブルは、256階調のそれぞれの階調値に対し、ドットの生成される確率(ドット生成率)を示すデータテーブルである。例えば、後述するドット生成率テーブルのように階調値20に対して、小ドットの生成率40%、中ドット・大ドットの生成率0%が対応付けられている場合(図19A)、ある画素データの256階調の階調値が20であれば、ハーフトーン処理の結果、その画素データは、40%の確率で小ドットを示す画素データ(4階調)に変換され、60%の確率でドット無しを示す画素データ(4階調)に変換される。
次に、プリンタドライバは、全ての画素データのハーフトーン処理が終了したか否かを判断する(S107)。例えば、シアンの別のラスタデータがある場合にはNOと判断され、別の色のラスタデータがある場合にもNOと判断される。
次に、プリンタドライバは、ラスタライズ処理を行う(S108)。ラスタライズ処理は、画像データの中から、各パスのドット形成対象となる画素の画素データを抽出し、パスごとに画素データを並べ替える処理である。例えば、図11の第4ドット形成方法の場合であれば、パス1のドット形成対象となる画素の画素データとして、1、3、5、7番目のラスタラインの奇数画素の画素データが抽出されることになる。
最後に、プリンタドライバは、ラスタライズ処理された画素データにコマンドデータを付加して印刷データを生成し、印刷データをプリンタに送信する(S109)。プリンタは、印刷データ中のコマンドデータに従って各ユニットを制御し、印刷データ中の画素データに従って各ノズルからインクを吐出することによって、紙上の画素にドットが形成され画像が印刷される。
<色むら補正処理>
図18は、色むら補正処理のフロー図である。
まずプリンタドライバは、該当する色の色むら補正値を取得する(S105−1)。例えばシアンの画像データのラスタデータに対して色むら補正処理を行うときには、シアンの色むら補正値を取得する。このとき、プリンタドライバは、第1ノズル列42Aに対応する色むら補正値、及び、第2ノズル列42Bに対応する色むら補正値の両方とも取得する。
次に、ノズル列ごとに補正量テーブルを作成する(S105−2)。
ここで、補正量テーブルの説明を行う前に、図19A〜図19Cを用いて吐出されるインク量の説明を行う。
図19Aは、ハーフトーン処理に用いられるドット生成率テーブルである。図中の横軸は256階調の階調値を示している。縦軸はドット生成率を示している。図に示すように、例えば階調値20に対して、小ドットの生成率40%、中ドット・大ドットの生成率0%が対応付けられている。
図19Bは、基準量でインクが吐出される場合の階調値とインク量との関係のグラフである。図中の横軸は256階調の階調値を示している。縦軸は、階調値256のときに吐出されるインク量を1としたときのインク量を示している。図に示すように、基準量でインクが吐出される場合、階調値に比例するインク量が吐出されることになる。
図19Cは、基準量とは異なる量のインクが吐出される場合の階調値とインク量との関係のグラフである。グラフ中の細線は図19Bのグラフと同じであり、太線が、基準量とは異なる量のインクが吐出される場合の階調値とインク量との関係のグラフである。ここでは、小ドットの色むら補正値が110、中ドットの色むら補正値が108、大ドットの色むら補正値が96となるノズル列からインクが吐出される場合のグラフを示している。図に示すように、小ドット及び中ドットが主に吐出される低い階調値では、吐出されるインク量は、基準量よりも多くなる。一方、大ドットが主に吐出される高い階調値では、吐出されるインク量が、基準量よりも少なくなる。
図19Cに示すような階調値とインク量との関係は、ドット生成率テーブルと色むら補正値とに基づいて算出することが可能である。そこで、プリンタドライバは、S105−2の処理の際に、まず、ドット生成率テーブルと、S105−1で取得した色むら補正値とに基づいて、図19Cに示すような階調値とインク量との関係を示すインク量テーブルを算出する。
図20は、インク量テーブルの示す意味の説明図である。図中の点線のグラフは、図19Bのインク量のグラフ、すなわち、基準量でインクが吐出される場合のインク量テーブルのグラフである。図中の実線のグラフは、基準量とは異なる量のインクが吐出される場合のインク量テーブルのグラフである。実線のグラフのうち、細線のグラフは第1ノズル列42Aのインク量テーブルのグラフであり、太線のグラフは第2ノズル列42Bのインク量テーブルのグラフである。
画素データの示す階調値が120の場合、階調値を補正せずにインクを吐出しようとすると、第1ノズル列42Aからは基準量よりも多いインク量が吐出され、第2ノズル列42Bからは基準量よりも少ないインク量が吐出されることになる。一方、第1ノズル列42Aのインク量テーブルにおいて階調値120の基準量に対応する階調値が100であったとすると、階調値100に従って第1ノズル列42Aからインクを吐出しようとすれば、第1ノズル列42Aから階調値120の基準量にてインクを吐出することができると考えられる。また、第2ノズル列42Bのインク量テーブルにおいて階調値120の基準量に対応する階調値が150であったとすると、階調値150に従って第2ノズル列42Bからインクを吐出しようとすれば、第2ノズル列42Bから階調値120の基準量にてインクを吐出することができると考えられる。
そこで、プリンタドライバは、第1ノズル列42Aの補正量テーブルにおいて、階調値120に対して階調値100を対応付ける。言い換えると、入力された階調値(入力階調値)が120のときに階調値100を出力するような補正量テーブルを作成する。他の入力階調値に対しても、インク量テーブルに基づく出力階調値を対応付けることによって、プリンタドライバは第1ノズル列42Aの補正量テーブルを作成する。
このような補正量テーブルを、プリンタドライバはノズル列ごとに作成する。本実施形態では、第1ノズル列42Aの補正量テーブルと、第2ノズル列42Bの補正量テーブルが作成される。なお、上記の説明からも明らかな通り、第1ノズル列42Aの補正量テーブルは、第1ノズル列42Aの色むら補正値とドット生成率テーブルとに基づいて作成され、第2ノズル列42Bの補正量テーブルは、第2ノズル列42Bの色むら補正値とドット生成率テーブルとに基づいて作成される。
図21は、補正量テーブルの説明図である。このように入力階調値と出力階調値とを対応付けた補正量テーブルが、ノズル列ごとに作成される。
なお、ある色のラスタデータに対する色むら補正処理の際に、作成した補正量テーブルをメモリに記憶しておき、同じ色の別のラスタデータに対する色むら補正処理の際にその補正量テーブルを再度利用しても良い。つまり、既に補正量テーブルが作成されている場合には、プリンタドライバは、補正量テーブルを作成する処理(S105−2)を省略しても良い。
補正量テーブルを作成した後、プリンタドライバは、使用率テーブル(図13参照)に基づいて、S104で抽出されたラスタデータに対応するラスタ番号の使用率のデータを取得する(S105−3)。仮に、ラスタデータに対応するラスタラインが上端領域に属していれば、第1ノズル列42Aの使用率は1になり(100%になり)、第2ノズル列42Bの使用率は0になる(0%になる)。また、ラスタデータに対応するラスタラインが通常領域に属していれば、第1ノズル列42Aの使用率は0.5になり(50%になり)、第2ノズル列42Bの使用率も0.5になる(50%になる)。ラスタ番号と使用率との関係は、ドット形成方法が決まれば一義的に決まるものである。
なお、本実施形態によれば、上端領域と通常領域との間に移行領域があり、この移行領域には、第1ノズル列42Aの使用率が0.5から1の間になるラスタラインが存在する。例えば第1ノズル列42Aの使用率が0.75(75%)となるようなラスタラインが移行領域に存在する。
次に、プリンタドライバは、ラスタデータの各画素データの階調値を、補正量テーブルと使用率データとに基づいて補正する(S105−4)。例えば、画素データの階調値が120であって、第1ノズル列42Aの使用率が1の場合、補正後の階調値は100になる。また、画素データの階調値が120であって、第1ノズル列42Aの使用率が0.5の場合、補正後の階調値は125(=100×0.5+150×0.5)になる。また、画素データの階調値が120であって、第1ノズル列42Aの使用率が0.75の場合、補正後の階調値は112.5(=100×0.75+150×0.25)になる。このように、プリンタドライバは、画素データの階調値(例えば120)を入力階調値として各ノズル列の補正量テーブルに基づいてそれぞれの出力階調値(例えば、100と150)を求め、それぞれの使用率(例えば、0.75と0.25)で重み付けをした出力階調値を加算することによって、補正後の階調値(例えば、112.5)を算出する。
プリンタドライバは、ラスタデータの全画素データの階調値を補正すれば、色むら補正処理を終了する。
<色むら補正処理の効果>
ここでは、図20に示すように第1ノズル列42Aからは基準量よりも多いインク量が吐出され、第2ノズル列42Bからは基準量よりも少ないインク量が吐出されるものとして、色むら補正処理の効果の例を説明する。
上端領域では、既に説明した通り、第1ノズル列42Aだけでラスタラインが形成される。このため、仮に色むら補正処理を行わなければ、上端領域は、第1ノズル列42Aの特性をそのまま反映した画質になるため、濃い画像になる。一方、色むら補正処理が行われると(S105)、上端領域に属する画素データの階調値(256階調)は、低い階調値に補正される。低い階調値(256階調)に補正された画素データがハーフトーン処理(S106)されると、その画素データに対応する画素に吐出されるインク量の期待値が少なくなる。但し、第1ノズル列42Aは基準量よりも多いインク量を吐出するため、補正後の画素データ(256階調)をハーフトーン処理した画素データ(4階調)に従ってドットが形成されれば、元の画素データ(256階調)の示す階調値の濃度で画像を上端領域に印刷することができる。
通常領域では、既に説明した通り、第1ノズル列42Aが50%であり、第2ノズル列42Bも50%である。そして、色むら補正処理が行われると、画素データの階調値が(256階調)が120の場合には、補正後の階調値は125(=100×0.5+150×0.5)になる。つまり、第1ノズル列42Aからは基準量よりも多いインク量が吐出されるにも関わらず、色むら補正処理の結果、第1ノズル列42Aがドットを形成する画素に吐出されるインク量の期待値が高くなってしまう。例えば、図11の48番目のラスタライン(通常領域のラスタライン)では第1ノズル列42Aが偶数画素にドットを形成しており、このラスタラインの偶数画素には、色むら補正しない場合よりも更に多いインク量が吐出されることになってしまう。一方、第2ノズル列42Bからは基準量よりも少ないインク量が吐出されるにも関わらず、色むら補正処理の結果、第2ノズル列42Bがドットを形成する画素に吐出されるインク量の期待値は低くなる。例えば、図11の48番目のラスタライン(通常領域のラスタライン)では第2ノズル列42Bが奇数画素にドットを形成しており、このラスタラインの奇数画素には、色むら補正しない場合よりも更に少ないインク量が吐出されることになる。
このように、通常領域の各画素を微視的に見ると、色むら補正処理の結果、吐出されるインク量に偏りが生じている。但し、印刷された画像をユーザが見るとき、ユーザは、個々のドットは視認できず、ドット密度に応じた画像の濃度(巨視的な濃度)を視認できるだけである。このため、個々の画素に吐出されたインク量が補正されたか否かよりも、巨視的な濃度が補正されたか否かが重要である。
そして、複数の画素から構成されるラスタライン全体を巨視的に見れば、色むら補正処理の結果、吐出されるインク量は、元の画素データ(256階調)の示す階調値に応じたインク量になっている。つまり、色むら補正処理の結果、たとえ個々の画素に吐出されたインク量に偏りが生じていても、ラスタライン全体に吐出されたインク量が補正されているので、元の画素データの示す階調値の濃度で画像を印刷することができる。
移行領域に属する画素データも、通常領域の場合と同様に、ノズル列の使用率を考慮して階調値が補正される。この結果、移行領域においても、色むら補正処理の結果、吐出されるインク量は、元の画素データ(256階調)の示す階調値に応じたインク量になる。
ところで、上記の色むら補正処理を行った場合、色むらは改善されるものの、色むらを完全に補正できるわけではない(理論的には色むらを補正できても、実際の装置を用いた実験では色むらを完全に補正することはできない)。つまり、補正前の画素データ(256階調)の示す階調値の濃度と、実際に印刷された画像の濃度が、完全に一致していない。
図22Aは、色むらを完全に補正できない場合の比較例の説明図である。図22Bは、色むらを完全に補正できない場合の本実施形態の説明図である。図中の横軸はラスタ番号であり、図中の横軸は濃度である。比較例では、本実施形態とは異なるドット形成方法が行われており、移行領域がない。
図22A及び図22Bのいずれにおいても、色むら補正処理が行われた結果、上端領域の濃度と、通常領域の濃度との差が小さくなっている。このため、色むら補正処理によって、上端領域の画質と通常領域の画質との差が目立ちにくくなる。
但し、比較例では移行領域がないため、濃度の差は改善されてはいるが、上端領域と通常領域とのつなぎ目において急減に濃度が変化してしまう。このように急激に濃度が変化してしまうと、上端領域の画質と通常領域の画質との差が視認されやすくなってしまう。
一方、本実施形態では、移行領域が形成されており、移行領域には上端領域と通常領域の中間的な性質をもつラスタライン(例えば第1ノズル列42Aの使用率が75%のラスタライン)が存在する。更に、上端処理や移行処理における重複ノズルの用い方を、通常処理における重複ノズルの用い方と異ならせることによって、移行領域での使用率を徐々に変化させることができる。この結果、移行領域のラスタラインのうち、上端領域に近いラスタラインにおける第1ノズル列42Aの使用率ほど100%に近い値になり、通常領域に近いラスタラインにおける第1ノズル列42Aの使用率ほど50%に近い値になる。このような移行領域を形成する印刷時に前述の色むら補正処理が行われると、図22Bのような濃度分布になる。
図22Bに示すように、移行領域での濃度では、上端領域の濃度と通常領域の濃度の中間的な濃度となる。また、移行領域では、上端領域に近いほど上端領域の濃度に近い濃度になり、通常領域に近いほど通常領域の濃度に近い濃度になり、徐々に濃度が変化する。
このように、本実施形態によれば、たとえ色むら補正処理によって色むらを完全に補正できないときにも、急激に濃度が変化する箇所がなくなるので、濃度の変化が視認し難くなる。この結果、印刷された画像の画質が向上する。
図23は、実際のノズル列(ノズル数が180個のノズル列)を用いて印刷を行ったときの移行領域付近の各ラスタラインの濃度のグラフである。
図中の細線は、色むら補正処理を行わない場合の濃度のグラフである。この図から分かる通り、第1ノズル列42Aからは基準量よりも少ないインク量が吐出され、第2ノズル列42Bからは基準量よりも多いインク量が吐出されるものと思われる。この結果、上端領域と通常領域との濃度差が大きい。また、移行領域では、ノズル列の使用率が徐々に変化するのに伴って、各ラスタラインの濃度も徐々に変化している。
図中の太線は、色むら補正処理を行った場合の濃度のグラフである。色むら補正処理によって、各ラスタラインに吐出されるインク量が補正され、上端領域の濃度が濃くなり、通常領域の濃度が淡くなり、上端領域の濃度と通常領域の濃度との差が小さくなっている。
なお、上端領域の濃度と通常領域の濃度との差は小さくなったものの、完全には一致していない。但し、移行領域での濃度が中間的な濃度になっているため、急激に濃度が変化する箇所が無くなり、濃度の変化が視認し難くなっている。
===別の実施形態===
図24は、別のドット形成方法の説明図である。ここでは、通常処理を行った後に、紙の下端を印刷するための下端処理を行うときのドット形成の様子が示されている。この図を見れば下端側で行われるドット形成方法は理解できるので、詳しい説明は省略する。
このように、前述の上端側で行ったドット形成方法とほぼ同様のドット形成方法を、下端側でも行っても良い。これにより、上端側で得られる効果と同様の効果を下端側でも得ることができる。
===その他の実施の形態===
上記の実施形態は、主としてプリンタについて記載されているが、その中には、印刷装置、記録装置、液体の吐出装置、印刷方法、記録方法、液体の吐出方法、印刷システム、記録システム、コンピュータシステム、プログラム、プログラムを記憶した記憶媒体、表示画面、画面表示方法、印刷物の製造方法、等の開示が含まれていることは言うまでもない。
また、一実施形態としてのプリンタ等を説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは言うまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
<プリンタについて>
前述の実施形態では、プリンタが説明されていたが、これに限られるものではない。例えば、カラーフィルタ製造装置、染色装置、微細加工装置、半導体製造装置、表面加工装置、三次元造形機、液体気化装置、有機EL製造装置(特に高分子EL製造装置)、ディスプレイ製造装置、成膜装置、DNAチップ製造装置などのインクジェット技術を応用した各種の液体吐出装置に、本実施形態と同様の技術を適用しても良い。また、これらの方法や製造方法も応用範囲の範疇である。このような分野に本技術を適用しても、液体を対象物に向かって直接的に吐出(直描)することができるという特徴があるので、従来と比較して省材料、省工程、コストダウンを図ることができる。
<インクについて>
前述の実施形態は、プリンタの実施形態だったので、染料インク又は顔料インクをノズルから吐出していた。しかし、ノズルから吐出する液体は、このようなインクに限られるものではない。例えば、金属材料、有機材料(特に高分子材料)、磁性材料、導電性材料、配線材料、成膜材料、電子インク、加工液、遺伝子溶液などを含む液体(水も含む)をノズルから吐出しても良い。このような液体を対象物に向かって直接的に吐出すれば、省材料、省工程、コストダウンを図ることができる。
<ノズルについて>
前述の実施形態では、圧電素子を用いてインクを吐出していた。しかし、液体を吐出する方式は、これに限られるものではない。例えば、熱によりノズル内に泡を発生させる方式など、他の方式を用いてもよい。
<ノズル列の数について>
上記の実施形態では、ノズル群(ノズル列)の数は2個であるが、3個以上であっても良い。仮にノズル群の数が3個以上であっても、上端処理や通常処理を行えば、1個のノズル群だけでドットが形成される上端領域や、複数個のノズル群でドットが形成される通常領域が存在する。そして、ノズル群の数が3個以上の場合においても、上記の実施形態と同様の処理を行えば、上端領域と通常領域の画質の差が目立ちにくくなる。